勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       

    常人では考えられない策を打ち出すのが、ロシア大統領のプーチン氏である。兄弟国を平然と侵略するところに、その異常な性格が見て取れる。現在のウクライナ戦争は皮肉にも、ロシア軍に不利な展開である。

     

    プーチン氏が、形勢逆転を狙い2024年の大統領選で勝利を収めるには何をするか。プーチン氏の「方程式」では、手段を問わない勝利への道を模索することであろう。ここに、大量破壊兵器の使用という悪魔の囁きが出てくるのだ。

     


    『ブルームバーグ』(3月29日付)は、「プーチン氏の狂気、戦術核使用も辞さず-NATO元司令官」と題するコラムを掲載した。筆者は、NATO元欧州連合軍最高司令官、ジェームズ・スタブリディス氏である。

     

    ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻で用いる軍事的手法について、興味深い二項対立があると、われわれは最近数週間で気付いた。極超音速ミサイルやサイバー攻撃、精密誘導兵器といった最新兵器に手を伸ばす一方、大都市を包囲して破壊するぞと脅す古くからの戦い方をプーチン氏は命じている。

     

    (1)「ロシア軍が包囲した南東部のマリウポリを守る英雄的人々に対し、プーチン大統領は「降伏すれば、家や伴侶、子供たちに危害を加えない」との呼び掛けを事実上行った。ウクライナの人たちは予想通りきっぱり拒否したが、砲撃の音がとどろき巡航ミサイルが飛び、戦争犯罪が日に日に増している。核戦力の「特別態勢」への移行を命じ、「有名な黒いスーツケースと赤いボタンについてご存じだろう」とペスコフ大統領報道官が不気味な発言をしたことを含め、核兵器を巡るプーチン大統領のあからさまな威嚇が、恐らく最も懸念される」

     

    核兵器をちらつかせて威嚇する。これが、「ロシア帝国」再来を目指すプーチン一派の本質である。トルストイもチャイコフスキーも赤面する発言だ。手段を選ばないプーチン氏が目指す「大国」ロシアは、死臭漂う忌むべき国家への転落が間違いない。

     

    (2)「プーチン氏にも子供がいて、祖国を深く愛している。大破局レベルまで事態をエスカレートさせることを望んでいないに違いない。欧米からの核報復を回避したい思惑もあり、あるいは民間人がほぼ避難した後に都市を粉々に破壊する目的で、比較的低出力の戦術核兵器を使うような危険を冒すだろうか。そこまでするかもしれない。だが実際に行えば、歴史に残る戦争犯罪人の殿堂の筆頭に名前が掲げられよう。脅しは今後も続くとしても、そもそもプーチン氏が越えたくない一線なのではないかとは思う」

     

    プーチン氏も本心では、歴史に残る戦争犯罪人の汚名を帰せられたくないだろう。プーチン氏はもちろん、ロシアも歴史の中に沈むからだ。

     


    (3)「ロシアは、化学兵器を使用する可能性の方が高いだろう。プーチン大統領は、ウクライナがひそかに保有していると同国を不当に非難した際にそれを予見させた。北大西洋条約機構(NATO)は脅威を深刻に受け止め、ストルテンベルグ事務総長は「生物・化学兵器、放射性物質、核の脅威に対しウクライナを守る装備品」などについて「追加支援供与の合意を期待する」と語った。生物・化学兵器の攻撃は住民を恐怖に陥れるだろう。ウクライナ政府の首を取る電撃作戦「プランA」が失敗した今、それがプーチン氏の「プランB」戦略の主要目標だ。減り続ける巡航ミサイルや爆弾を温存する効果も期待できる。神経ガスの煙より速く都市を空にする手段はそうあるまい」

     

    プーチン氏は、化学兵器を使う可能性のほうが高いという。ウクライナが使用したように見せかけて使うのだ。すでに、その下準備は進んでいる。ウクライナが、化学兵器をつくっていると「ウソ話」を広めているからだ。

     


    (4)「
    プーチン大統領が大量破壊兵器を使用すれば、ポーランドからウクライナへの武器の供給ラインを確保しておくため、少なくとも西部上空の飛行禁止区域設定というNATOが避けてきた対応が恐らく必要になるだろう。ウクライナ全土での抵抗活動の開始に備え、ゼレンスキー政権が西部のリビウに移らざるをえない事態も想定される。化学兵器による攻撃が実際あれば、リビウ防衛のためNATOが地上軍派遣を求められる状況にもなりかねない」

     

    ロシアの化学兵器使用に対して、NATOはどう対応するか。「ウクライナ西部上空に飛行禁止区域を設定する」のは当然である。NATOは、ウクライナへ地上軍を派遣してリビウ防衛に全力を挙げ、ウクライナ政権を守らなければならない。

     


    (4)「ロシアが実戦使用を発表したもう一つの最新兵器が、極超音速ミサイル(「キンジャール」)だ。同ミサイル発射の重要性はウクライナを打ち負かすことでなく、欧米へのメッセージに大いに関係している。核兵器を保有しているだけでなく、それを防ぎようのないプラットフォームを使って配備できるという米国およびNATOへの警告だ。NATOはプーチン氏のシグナルを真剣に受け止めるべきだが、過剰反応すべきでない。欧米側には、必要ならサイバー戦争や通常兵器の攻撃、海上対応といった段階的に拡大できる他の多くの選択肢が存在する

     

    下線のように、NATOはサイバー戦争・通常兵器の攻撃・海上対応と戦線を拡大して、ロシア軍と前面対決する。この段階では、確実に「第三次世界大戦」へと広がる。ロシア経済は破綻するはずだ。

     

    (5)「ロシアのウクライナ侵攻から1カ月余りが経過し、都市を破壊し、住民を恐怖に陥れる古くからの戦略をプーチン大統領は主に用いている。しかしその背後からは、サイバー攻撃と極超音速ミサイル、恐らくは化学兵器、戦術核さえ含む最新鋭兵器が不気味に迫る。米国と同盟国はそのどれにも、また全てに対応する計画を今準備しなければならない」

     

    仮に、「第三次世界大戦」になれば、プーチン氏の政治生命はそこで終わるはずだ。ロシア経済が破綻し、戦線が拡大する過程では,ロシア国民も目が覚めて、プーチン支持を取り止めるであろう。

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    2月24日未明に始まったロシアの、ウクライナ侵攻作戦はロシア軍優位の下で進んでいる。ソ連軍は、首都キエフまで至近距離に迫っている。ロシアの陸上兵力は、全体で約85万人に対し、ウクライナ兵力は4分の1以下の約20万人に過ぎない。ウクライナの劣勢は明らかだ。ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、これ以上の犠牲を出さないためにもプーチン氏との交渉を希望すると語った。

     

    ウクライナ大統領府のポドリャク顧問は25日、ロイターに対しウクライナは平和を望んでおり、北大西洋条約機構(NATO)に関して中立な立場などについてロシアと対話する用意があると述べた。

     


    一方、中国の習近平国家主席は25日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナ危機について、ロシアがウクライナと対話を通じて解決を目指すことを支持すると述べた。プーチン大統領は、ウクライナとハイレベル協議を開催する意向があると述べたもの。中国国営テレビが伝えた。

     

    こうして、ロシアのウクライナ侵攻2日目で双方が、交渉のテーブルに着く可能性が出て来た。これ以上の犠牲者を出さないためにも、早急な「対話」実現が待たれる。プーチン氏は、最終的にウクライナへ何を要求するのか。

     


    『毎日新聞 電子版』(2月25日付)は、「ロシアの狙いは『斬首作戦』か、徹底抗戦のウクライナ 支援求める」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナに侵攻したロシアは3方向から進撃し、一部部隊がウクライナの首都キエフに侵攻を始めた。作戦の狙いはどこにあるのか。ロシア軍によるウクライナへの侵攻が始まった24日、米国防総省高官は、ロシアのプーチン大統領の目的について「ウクライナの現政権を排除し、独自の統治方法を導入することだ」と分析。キエフを制圧し、政権トップをすげかえる「斬首作戦」を進めているとの見方を示した。

     

    (1)「プーチン氏は24日の演説で、作戦の目的を「ウクライナの非武装化」と説明。ペスコフ露大統領報道官も同日、「これはウクライナが最近、外国のおかげで増強してきた軍事的な潜在力を中和することだ」と記者団に語り、「この目的は達成されるだろう」と述べた。さらにプーチン氏はウクライナ政権の「脱ナチズム化」にも言及。2014年の親露派政権崩壊後にウクライナに成立した政権を「ナチスト」と呼んでおり、ゼレンスキー政権を武力で崩壊させることを狙っているとみられる」

     


    ロシアは、ウクライナに傀儡政権をつくる目的である。選挙で選ばれた政権でなければ正統性を持ち得ない。そういう常識も分らないのであれば、ウクライナ問題は簡単に片付かないであろう。ロシアにとって、新たな難題を抱え込むことになる。

     

    (2)「米国防総省も、ロシア軍の最終目標をキエフの制圧とみている。キエフはベラルーシとの国境から約100キロしか離れておらず、24日にはキエフ郊外の空港周辺にロシア軍の空挺(くうてい)部隊が到着。25日も激しい戦闘を続け、キエフへの侵攻を始めた。一方、ウクライナ軍は各地で激しい抵抗を繰り広げている。ザルジヌイ総司令官は24日、「ロシア軍の電撃戦は失敗した」と侵攻を食い止めていることを強調。ゼレンスキー大統領も初日の戦況を「膠着(こうちゃく)状態」と表現した」

     

    ロシア軍は、キエフまで20キロと迫っている。ウクライナが、交渉のテーブルに着く気持ちに傾いたと見られる。

     


    (3)「ただ、ウクライナ軍がどこまでロシア軍の進撃を食い止められるかは未知数だ。ウクライナは近年、米欧から軍事援助を受けてきたが、供与された武器は歩兵の携帯型の対戦車砲や対空ミサイルなどが中心。近代化され、航空戦力も豊富なロシア軍が戦力で勝っているのは明らかだ。ゼレンスキー氏は25日、「我々は孤独の中で国を守っている。強力な戦力を持つ世界(の国々)は遠くから見守っているだけだ」と国際社会に制裁にとどまらない支援を呼びかけた。一方で「我々は自分たちの土地で自らの正義のために戦っている。我々の意志をくじくことはできない」と述べ、徹底抗戦する意志も改めて表明した」

     

    ゼレンスキー氏は、徹底抗戦の姿勢を見せながらも「交渉」という余地も残している。

     


    (4)「米政府高官は、「第二次世界大戦以来、このような形の国家対国家の戦争を見たことがない。我々の予想している展開になれば、多くの血が流れる。今後、欧州の安全保障に長期間の重大な影響を与えるだろう」と語った」

     

    キエフの市街戦になれば、ロシア軍は長期間の戦いと相当の犠牲者を覚悟しなければならない。ウクライナが、交渉の意思がある以上、ロシアがそれに応じるのは「渡りに船」である。

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