ウクライナ軍が、南部ヘルソン州でドニプロ川西岸からロシア軍が占拠している東岸へ渡河し、拠点を設営したとの情報が登場した。渡河作戦は、最も危険な作戦とされており、犠牲を伴うものである。ウクライナ軍が、その危険を冒してまで東岸で拠点づくりに成功したとすれば、ロシア軍の守備兵力が相当、落ちていることを示すものだ。
英国『BBC』(4月25日付)は、「ウクライナ軍、ドニプロ川東岸に拠点か 南部のロシア掌握地域」と題する記事を掲載した。
ウクライナ軍が南部ヘルソン州のドニプロ川東岸に拠点を確保したとする報告が出ている。これまでロシアが掌握していた地域であり、事実であれば、ウクライナ軍の今後の攻勢において重要な意味をもちうる。
(1)「米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が23日に公表した報告によると、ロシアの軍事ブロガーが同日、「(ウクライナ軍の)前進を確認するのに十分な、位置情報を伴う映像と文字報告」を投稿した。その投稿からは、ウクライナ軍がドニプロ川東岸のオレシキーの北西部で活動していることがうかがえるという。ISWは、ウクライナ軍の前進の規模や意図を分析できるだけの情報はないとした」
ロシアの軍事ブロガーは、意外にも正確にロシア軍の最新情報を伝えているという。そのブロガー情報では、ウクライナ軍がドニプロ川東岸のオレシキーの北西部で活動しているとしている。ISWも、この情報を確認していない。ただ、こういう情報が出てきたのは、ロシア軍の防衛線に盲点があることを示唆している。
(2)「BBCウクライナ語は軍関係者の話として、ヘルソン市付近で「ドニプロを渡る特定の動き」があったと伝えている。ウクライナ軍はこうした動きが事実か明らかにしていない。ロシアは否定している。ロシアは現在、ヘルソン州のドニプロ川の東に位置する地域を全面掌握している。ドニプロ川は川幅が広く、天然の障壁の役割を果たしている。州都ヘルソンはドニプロ川の西岸にあり、昨年11月にウクライナ軍が解放した」
下線部分では、ウクライナ軍関係者が、ヘルソン市付近でドニプロ川を渡る動きがあったとしている。ロシア軍に警戒網をかいくぐったのかも知れない。ウクライナ軍は、この情報について肯定も否定もしていない。隠密作戦を匂わせている。
(3)「もし今回の報告が正しければ、ウクライナがロシア軍を押し返すうえで重要な意味をもちうる。将来的には、2014年にロシアが併合したクリミア半島に続くロシアの陸路を断つ可能性もある。クライナ軍はしばらく前から、大規模な反攻に向けて準備中だと表明している。ただ、反攻の時期や場所は明らかにしていない。ロシアの軍事ブロガー「WarGonzo」は24日、ウクライナ軍がドニプロ川の新旧水路の間にある島を「足場にしようとしている」と伝えた。ただ、軍事専門家らは、ドニプロ川東岸の橋付近で軍が行動するのは困難を伴うとしている。用水路などの障害物が縦横に走っているからだという。空軍力ではロシアが大きく優位に立っており、そのこともウクライナ軍の前進を複雑にするとみられている」
作戦は、常識を覆した意表を突くものだ。定石通りの戦術を使うとは限らない。昨秋、ウクライナ東部でウクライナ軍が「奇襲作戦」を成功させたのは、ロシア軍の裏をかいた作戦の結果だ。
(4)「ウクライナ軍南部司令部のナタリヤ・フメニュク報道官は、ウクライナ軍がドニプロ川東岸に拠点を構えたとの情報を肯定も否定もしなかった。同報道官は、ウクライナのテレビ局に、「困難な作業が続いている」と説明。軍事作戦には「情報面での沈黙」が必要であり、「私たちの軍が十分に安全になるまでそれは続く」と強調した。一方、ロシアによってヘルソン州トップに据えられたウラジミール・サルド氏は23日、ドニプロ川東岸の「オレシキーの付近にもそれ以外の場所にも拠点はなかった」と述べた」
ウクライナ軍は、ドニプロ川東岸に弾薬を秘匿したのかも知れない。仮に、こういう作戦が成功するほど、東岸の防衛線の目は荒っぽいものかも知れない。「ネズミ一匹」通さないほどに綿密な防衛線では、渡河自体が不可能になろう。
ウクライナ軍の反攻作戦開始は、天候次第としている。ウクライナの5月の気象予報はどうなっているのか調べてみた。ウクライナ南部の5月の気象予報をまとめると、以下のようになる。
平均気温:約15~20度
最高気温:約25度以上
最低気温:約10度以下
降水量:少ない
天候:晴れや曇りが多いが、雷雨や強風に注意
ウクライナ東部の5月の気象予報は、次のようになっている。
平均気温:約15~20度
最高気温:約25度
最低気温:約5度
降水量:約40mm
天候:晴れや曇りが多いが、雷雨や強風に注意
南部と東部を比べると、南部が降水量は少なく、やや有利ということが分る。ウクライナ軍は、この程度の違いを無視して行くのであろう。