勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

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    ロシアのウクライナ侵攻は、間もなく2年目を迎える。ウクライナ戦線は、膠着状態を続けている。ロシア経済は、戦時経済によって軍備の生産は増強されているが、国民生活は卵不足が表面化するなど軋みをみせている。ロシアは、いつまで侵略戦争を続けられるか、余裕を失ってきた。

     

    『ロイター』(2月12日付)は、「ロシア経済、人口流出と技術不足で『難局』にーIMF専務理事」と題する記事を掲載した。

     

    IMF(国際通貨基金)のゲオルギエワ専務理事は12日、ロシア経済について、経済成長は大規模な軍事費に支えられているものの、人口の流出と技術不足を受け、厳しい局面を迎えるとの見方を示した。

     

    (1)「ロシア経済は2022年に1.2%のマイナス成長に陥った後、23年は3.6%のプラス成長に回復。IMFは今年の成長率が2.6%になると予想している。ゲオルギエワ専務理事はCNBCに対し、ロシア経済の今年の成長率見通しについて、戦争経済に投資していることの表れだと指摘。軍事生産が増える一方で、消費が減退しているとし、「旧ソ連時代のように高生産・低消費の構造になっている」と述べた。その上で「人口の流出に加え、(西側諸国の)制裁措置で技術へのアクセスが限定されているため、ロシア経済は極めて厳しい状況に直面する」と語った」

     

    プーチン・ロシア大統領は最近、「休戦」を話題にするようになっている。ロシア大統領選を前にした「リップサービス」とは言えない、苦しいロシアの台所事情を抱えているのだ。戦争経済の結果、軍事生産が増える一方で、消費が減退している。「旧ソ連時代のように高生産・低消費の構造になっている」のは、戦時経済のもたらす大きな矛盾である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月22日付)は、「ロシア中銀、インフレ抑制で政策金利16%に 鶏卵高騰も」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア中央銀行がインフレ対応で政策金利の引き上げを続けている。2023年12月15日に開いた金融政策決定会合で政策金利を1%引き上げて年16%にすることを決めた。利上げは5会合連続。欧米の制裁などで鶏卵など生活に身近なもので価格上昇の動きが目立っている。

     

    (2)「プーチン大統領が12月14日にモスクワで開催した国民との直接対話で、ロシア国内で生鮮食品の「卵」が23年に入り4割高騰していることへの質問が上がった。プーチン氏は「政府の仕事の失敗だ。対応を進めており、状況は間違いなく改善するだろう」と政府の対応の遅れを釈明した。ロシアメディアなどによると、欧米の対ロ制裁に伴って飼料の調達コストが上昇していることが価格上昇につながった。生鮮食品に限らず、ロシア国内では足元でインフレ基調が再燃している」

     

    生鮮食品の「卵」が、23年に入り4割も高騰している。飼料の輸入コストが高騰している結果だ。卵だけでなく、生鮮食品全般が値上がりしてインフレ基調に転じている。政策金利が、16%と目玉の飛び出るほど高い理由だ。

     

    (3)「ロシア中銀によると、23年12月のインフレ率は7.%だった。中銀は23年の年間インフレ率を7.0〜7.%と予想していた。ロシア中銀のナビウリナ総裁は12月15日の声明で、物価上昇への対応のため「(政策金利の)高い水準が長期間続くことが必要だ」と述べた。現状の金利水準を当面の間継続し、目標とするインフレ率4%に徐々に引き下げる考えとみられる。ロシア中銀は12月の声明で、特に製造業で労働力不足が深刻になっており、供給面での制約につながっていると指摘した。ウクライナで続ける「特別軍事作戦」が影響しているようだ。ロシア軍は兵士を志願した「契約軍人」を増やしており、死傷者が拡大しているとされるウクライナとの戦闘地域への兵士の増員を進めているもよう」

     

    インフレ率を4%まで切り下げるべく、政策金利を16%まで引上げている。この状態は、長期間にわたり続けられる見通しだ。IMF専務理事の指摘の通り、「高生産・低消費」という戦時経済の特徴が現れっている。

     

     

     

     

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    ウクライナ軍が、南部ヘルソン州でドニプロ川西岸からロシア軍が占拠している東岸へ渡河し、拠点を設営したとの情報が登場した。渡河作戦は、最も危険な作戦とされており、犠牲を伴うものである。ウクライナ軍が、その危険を冒してまで東岸で拠点づくりに成功したとすれば、ロシア軍の守備兵力が相当、落ちていることを示すものだ。

     

    英国『BBC』(4月25日付)は、「ウクライナ軍、ドニプロ川東岸に拠点か 南部のロシア掌握地域」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ軍が南部ヘルソン州のドニプロ川東岸に拠点を確保したとする報告が出ている。これまでロシアが掌握していた地域であり、事実であれば、ウクライナ軍の今後の攻勢において重要な意味をもちうる。

     

    (1)「米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が23日に公表した報告によると、ロシアの軍事ブロガーが同日、「(ウクライナ軍の)前進を確認するのに十分な、位置情報を伴う映像と文字報告」を投稿した。その投稿からは、ウクライナ軍がドニプロ川東岸のオレシキーの北西部で活動していることがうかがえるという。ISWは、ウクライナ軍の前進の規模や意図を分析できるだけの情報はないとした」

     

    ロシアの軍事ブロガーは、意外にも正確にロシア軍の最新情報を伝えているという。そのブロガー情報では、ウクライナ軍がドニプロ川東岸のオレシキーの北西部で活動しているとしている。ISWも、この情報を確認していない。ただ、こういう情報が出てきたのは、ロシア軍の防衛線に盲点があることを示唆している。

     

    (2)「BBCウクライナ語は軍関係者の話として、ヘルソン市付近で「ドニプロを渡る特定の動き」があったと伝えている。ウクライナ軍はこうした動きが事実か明らかにしていない。ロシアは否定している。ロシアは現在、ヘルソン州のドニプロ川の東に位置する地域を全面掌握している。ドニプロ川は川幅が広く、天然の障壁の役割を果たしている。州都ヘルソンはドニプロ川の西岸にあり、昨年11月にウクライナ軍が解放した

     

    下線部分では、ウクライナ軍関係者が、ヘルソン市付近でドニプロ川を渡る動きがあったとしている。ロシア軍に警戒網をかいくぐったのかも知れない。ウクライナ軍は、この情報について肯定も否定もしていない。隠密作戦を匂わせている。

     

    (3)「もし今回の報告が正しければ、ウクライナがロシア軍を押し返すうえで重要な意味をもちうる。将来的には、2014年にロシアが併合したクリミア半島に続くロシアの陸路を断つ可能性もある。クライナ軍はしばらく前から、大規模な反攻に向けて準備中だと表明している。ただ、反攻の時期や場所は明らかにしていない。ロシアの軍事ブロガー「WarGonzo」は24日、ウクライナ軍がドニプロ川の新旧水路の間にある島を「足場にしようとしている」と伝えた。ただ、軍事専門家らは、ドニプロ川東岸の橋付近で軍が行動するのは困難を伴うとしている。用水路などの障害物が縦横に走っているからだという。空軍力ではロシアが大きく優位に立っており、そのこともウクライナ軍の前進を複雑にするとみられている」

     

    作戦は、常識を覆した意表を突くものだ。定石通りの戦術を使うとは限らない。昨秋、ウクライナ東部でウクライナ軍が「奇襲作戦」を成功させたのは、ロシア軍の裏をかいた作戦の結果だ。

     

    (4)「ウクライナ軍南部司令部のナタリヤ・フメニュク報道官は、ウクライナ軍がドニプロ川東岸に拠点を構えたとの情報を肯定も否定もしなかった。同報道官は、ウクライナのテレビ局に、「困難な作業が続いている」と説明。軍事作戦には「情報面での沈黙」が必要であり、「私たちの軍が十分に安全になるまでそれは続く」と強調した。一方、ロシアによってヘルソン州トップに据えられたウラジミール・サルド氏は23日、ドニプロ川東岸の「オレシキーの付近にもそれ以外の場所にも拠点はなかった」と述べた」

     

    ウクライナ軍は、ドニプロ川東岸に弾薬を秘匿したのかも知れない。仮に、こういう作戦が成功するほど、東岸の防衛線の目は荒っぽいものかも知れない。「ネズミ一匹」通さないほどに綿密な防衛線では、渡河自体が不可能になろう。

     

    ウクライナ軍の反攻作戦開始は、天候次第としている。ウクライナの5月の気象予報はどうなっているのか調べてみた。ウクライナ南部の5月の気象予報をまとめると、以下のようになる。

    平均気温:約15~20度

    最高気温:約25度以上

    最低気温:約10度以下

    降水量:少ない

    天候:晴れや曇りが多いが、雷雨や強風に注意

     

    ウクライナ東部の5月の気象予報は、次のようになっている。

    平均気温:約15~20度

    最高気温:約25度

    最低気温:約5度

    降水量:約40mm

    天候:晴れや曇りが多いが、雷雨や強風に注意

     

    南部と東部を比べると、南部が降水量は少なく、やや有利ということが分る。ウクライナ軍は、この程度の違いを無視して行くのであろう。

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    ロシアのプーチン大統領が12月22日、国家評議会の会合に出席後、モスクワで記者団の取材に「我々の目標は軍事紛争を拡大させることではなく、逆に戦争を終結させることにある」と発言した。プーチン氏が、ウクライナでの紛争を「戦争」と表現したことに対し、波紋が広がっている。プーチン氏は、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と位置づける情報発信を行なっており、こうした方針から公の場で逸脱するのは侵攻開始後10カ月で初となる。

     

    『中央日報』(12月24日付)は、「プーチン露大統領、ウクライナ戦争を初めて『戦争』と規定」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争を初めて「戦争」と規定した。ロシアはプーチン大統領の主導で開戦以降ウクライナ戦争を「特別軍事作戦」と表現し、「戦争」と呼ぶ人たちを処罰してきた。ところがプーチン大統領本人が公式的に「戦争」という言葉を使用し、ロシア内で「ダブルスタンダード」という非難が続いていると、『ワシントンポスト』(WP)が22日(現地時間)報じた。

     

    (1)「プーチン大統領は22日の記者会見で「我々の目標は軍事的衝突を続けることでなく、できるだけ早期に『戦争』を終わらせることだ」と述べた。プーチン大統領は2月24日、「ウクライナ内に特別軍事作戦を遂行する」として開戦を知らせて以降、ウクライナ戦争を「特別軍事作戦」と表現してきたが、この日初めて「戦争」という言葉を使用したのだ。

    WPは、プーチン大統領をはじめとするロシア政府が「特別軍事作戦」という用語を使用したのは今回の戦争が少数の専門軍人に限られた「作戦」という点を強調しようとしたためだ、と分析した。ここには戦争に対するロシア市民の懸念を緩和しようという目的がある」

     

    ロシアが、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼んでいるのは、短期に終了することとウクライナを懲罰するという意味が込められている。現在は、目算外れに陥り「国難」に遭遇している。

     

    (2)「さらに、政府の表現方針に反対する人たちを処罰し、口をふさいだ。ロシア議会は3月、ロシア軍運用に関する虚偽情報を流布する場合は最大15年の懲役刑とする刑法改正案を通過させた。プーチン大統領がこの改正案に署名して発効した改正案を通じて、ロシアでウクライナ戦争を「戦争」と呼ぶことは事実上不法になった。WPによると、刑法改正案が採択された後、「戦争」だと反論した多くのロシア人と独立メディアなどが処罰を受けた」。

     

    ロシアは、ウクライナ侵攻を「戦争」と呼ぶことを法律で禁じている。違反すれば、懲役刑という厳しい処罰だ。プーチン氏は、自らこの法律に違反したことになる。

     

    (3)「10月までウクライナ戦争に関連してロシア政府を批判したり「戦争」に言及して虚偽情報流布などの容疑で起訴されたケースは5000件を超える。うち、最高15年の懲役刑を言い渡された人も100人以上だ。実際、ロシア野党圏のイリヤ・ヤシン氏は9日、ウクライナでのロシア軍による民間人虐殺を批判した容疑で懲役8年6月を言い渡された。7月にはモスクワ中部クラスノセルスキー区の議員アレクセイ・コリノフ氏が、議員会議で戦争犠牲者を追悼するために黙祷したという理由などで懲役7年刑となった」

     

    「戦争」と発言して起訴されたケースは、5000件を超える。最高15年の懲役刑を言い渡された人が、100人以上もいるのだ。こういう厳しい法律がある以上、プーチン氏を「無罪放免」とは行くまい。さて、どうなるか。

     

    (4)「ロシア内部でもプーチン大統領の発言をめぐり「ダブルスタンダード」という声が高まっている。ロシア野党圏の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の同僚ゲオルギー・アルブロフ氏はこの日、ツイッターで「コリノフ氏はロシアのウクライナ侵攻を戦争と表現して懲役7年刑を言い渡された」とし、「コリノフ氏を釈放するか、プーチンを7年間監獄に閉じ込めるべきだ」と批判した。サンクトペテルブルクの市会議員ニキータ・ユペレフ氏もツイッターで「数千人が戦争だと表現し、フェイクニュースを広めた容疑で起訴された。同じ理由でロシア検察総長にプーチン大統領を起訴するよう要請する訴状を送った」と伝えた」

    プーチン氏の「戦争」発言は結局、最高権力者ゆえにウヤムヤになるであろうが、後から問題になる一件である。プーチン氏が落ち目になったとき、この法律が適用されることになりかねないのだ。歴史とは、こういうことが後に大問題になる例があるから要注意である。

    あじさいのたまご
       


    ロシアのショイグ国防相は28日、プーチン大統領と会い、9月21日に発令された部分動員令にもとづき予備兵30万人の招集を完了したと報告した。このうち、8万2000人がすでに戦地へ派遣され、21万8000人は訓練を急いでいる。

     

    南部のヘルソン市では、学生のような顔をした新兵が多数派遣されていると、現地から報じている。代わって、これまでの軍隊が姿を消しているという。精鋭部隊を撤退させ、「弾よけ」に予備兵を送り込んでいる模様だ。

     

    『ロイター』(10月29日付)は、「ロシア、30万人の部分動員終了 ウクライナ『すぐに補充必要に』」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのショイグ国防相は23日、9月に発表した30万人の「部分動員」が終了したと述べた。国営テレビで放送されたプーチン大統領との会談で、動員された新兵8万2000人が紛争地域に派遣され、そのうち4万1000人が部隊に配属されたことを明らかにした。21万8000人は訓練中という。

     

    (1)「ショイグ国防相は「これ以上の措置は予定されていない」とし、今後はロシア国内の数百万人の予備兵を動員するのではなく、原則として志願兵や職業軍人を派遣するとした。動員を巡っては、対象年齢の男性が数万人規模で国外に逃れる事態を引き起こしたほか、反動員デモで2000人以上が逮捕された。プーチン大統領はショイグ国防相に対し、動員に関する問題は「不可避」とし、軍の増強には「修正」が必要と述べた。また、兵士らの「任務への献身、愛国心、そして我が国を守るという固い決意に感謝したい」とした」

     

    ショイグ国防相は、これ以上の予備役動員は予定していないとした。これは、国内の生産活動に影響が出るという問題が起こっているからだ。


    ロシア中銀は、次のように指摘している。「部分動員令は、向こう数カ月は消費者需要とインフレを抑制する要因になると想定する。その後は、供給制約要因に加わり物価押し上げに働くと予想する」と述べた。『ロイター』(10月28日付)が報じた。動員令は事実上、無差別な徴兵である。これにより、企業の生産活動に大きな影響が出ている。「供給制約要因に加わり物価押し上げに働く」と予見できる状態になっている。こういう影響を考慮して、国防相は「今後、原則として志願兵や職業軍人を派遣するとした」と言わざるを得なくなっている。国内の部隊を派遣するという意味だろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月29日付)は、「ロシア、動員兵8万人超を投入 各地で戦闘激化の懸念」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアが28日、軍事侵攻を続けるウクライナに新たに動員した8万人を超す兵士を投入したと明らかにし、同国軍との戦闘が激化する可能性が高まってきた。東部ドネツク州では攻防が激しさを増し、南部ヘルソン州にも動員された兵士が配備された。南部クリミア半島のロシア黒海艦隊の本拠地への攻撃も伝えられ、緊張が高まっている。

     

    (2)「プーチン氏はロシアの最大の目標として、東部ドネツク、ルガンスク両州の「解放」を掲げる。特に苦戦が続くドネツク州の戦線に、動員した兵士を集中的に投入するとみられる。ウクライナ軍参謀本部は29日、28日に州都ドネツク北方のマイオルシク地区で攻撃を試みたロシア軍を撃退し、約300人を死亡させたと発表した。ロシアは、ウクライナ軍が占領地の奪回を急ぐ南部ヘルソン州にも、動員した兵士を投入している。ウクライナ軍参謀本部は28日、「ドニエプル川の右岸(西岸)地域で敵の部隊が強化されている」と分析し、新たに動員された1000人以上の兵士が配備されたと指摘した」

     

    動員兵の前線派遣が始まっている。短期の訓練で前線投入は極めて危険である。精鋭部隊を後退させ、動員兵を「弾よけ」に使っている感じだ。装備も不足している状態で、これからの「冬将軍」に耐えられるか疑問だ。満足な軍装でないと言われている。

     

    (3)「タス通信によると、ロシアが占領し、黒海艦隊の本拠地があるウクライナ南部クリミア半島のセバストポリで29日早朝、無人機による攻撃があった。飛行型と海洋航行型の両方の無人機16機により攻撃を受け、撃退したという。セバストポリ市の行政幹部は29日、渡し船など民間船舶の航行が禁止されたと明らかにした。セバストポリ市幹部は29日、記者団に「(軍事侵攻開始以来で)無人機による過去最大の攻撃があった」と語り、ウクライナの攻撃だと主張した」

     

    ウクライナ軍はすでに、クリミア半島まで無人機を飛ばしてけん制している。セバストポリ市は黒海に面したクリミア半島南西部に位置する軍港都市である。ウクライナ本土から見れば、最も遠い地点である。ここまで、無人機を飛ばしているのは、いつでも攻撃体制に移れるという示唆であり、現地を不安がらせる効果を狙っているのであろう。「余裕の攻撃」と言って良さそうだ。

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    ロシア占領下のヘルソン州西岸では10月18日夜から、ウクライナ軍による爆撃を避けるために直ちに避難するよう促すメッセージが、住民の携帯電話に送信されていた。同時に、ドニプロ川を渡る交通手段が19日午前7時から利用可能になるとも伝えていた。ウクライナ軍は、ロシア軍が19日から軍事行動を停止したと発表した。具体的に、撤退を開始した模様である。

     

    ロシア軍は、ドニプロ川西岸に約2万5000~4万人のロシア精鋭部隊を投入。塹壕を掘るなど、長期の抵抗戦を行なう構えを見せてきた。それが、武器・弾薬・食糧の深刻な不足に悩まされ、ついに撤退に追込まれた。これで、ウクライナ軍のヘルソン奪回作戦は、大きく前進することになった。

     


    『共同通信』(10月22日付)は、「ロシア軍、ヘルソン州西部から撤退開始か 米研究所」と題する記事を掲載した。

     

    米シンクタンク、戦争研究所は21日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部ヘルソン州の戦況について、ロシア軍が州西部から撤退を開始したとの分析を発表した。また州都ヘルソンなどからの撤退を覆い隠すためにロシア軍はドニエプル川にあるカホフカ水力発電所のダムを爆破するようだと指摘した。

     

    (1)「英国防省は21日、ヘルソン州を流れるドニエプル川に架かり、ウクライナ軍が7月下旬に攻撃したアントノフ大橋の近くにロシア軍が簡易橋を設置したとの分析を発表した。簡易橋は、川の西岸に位置する州都ヘルソンなどから東岸に撤退する経路として活用する可能性がある。ウクライナ軍は21日、ヘルソン州の88集落を奪還し、ドニエプル川西岸の都市ベリスラフでは、ロシアの占領当局の活動が19日から停止したと発表した」

     

    ヘルソン州を流れるドニエプル川は、最も狭い川幅で約1キロメートルもあるという。ここへ、ロシア軍が簡易橋を設置し撤退するものと見られるという。ただ、仮橋のために重量のある武器の撤退は困難と見られ、現地に放置されると予測されている。要するに、ロシア軍は「身体一つ」で撤退という屈辱を強いられている。

     


    (2)「ロシア側はウクライナ軍の攻撃を理由に15日、ヘルソン州の住民に退避を勧告。ウクライナのゼレンスキー大統領はカホフカ水力発電所のダムをロシアが自作自演で破壊しようとしていると批判している。ダム破壊による被害をロシアが撤退の口実にするとの観測もある」

     

    ロシア軍は、撤退という無様な姿をカムフラージュすべく、カホフカ水力発電所のダムを破壊する危険性が浮上している。ロシア軍の陰謀作戦で、ウクライナ軍が発電所を破壊したと言い逃れする準備を始めたという。ロシア軍特異のウソ情報を広める「偽旗戦術」を練り始めているのだ。

     


    ウクライナは、年末までにヘルソン州全体の奪還作戦を終了させたいとしている。すでに始まった平原の「泥沼化」によって進軍が抑えられるので、幹線道路を使った作戦を展開すると見られる。「ハイマース」によるロシア軍の兵站線潰しが、ロシア軍の戦意を大きく引き下げている。

     

    ロシアのテレビ局は19日、住民多数がドニプロ川西岸に集まる様子を放映。ボートに乗るための列が映されたものの、全体の人数などは明らかではない。一方、ウクライナ当局は、多数の人が実際に避難しているかどうかについて疑問を抱いており、群衆が川岸に集まっている画像は大部分が見せかけだと示唆した。

     

    ロシアに追放されたヘルソン州トップの側近のセルヒイ・クラン氏は、見せかけの「住民退去劇」で、ロシア軍のドニプロ川西岸からの完全撤退という、より大きな動きを覆い隠そうとしている可能性があると述べた。ロシア軍が、19日からドニエプル川西岸の都市ベリスラフで、活動を停止したことを勘案すると、「住民退去劇」はどこまで本当かは不明であろう。

     

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