勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

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    ロシア軍は、武器・弾薬・兵士の「戦闘三点セット」が底をつくという「軍事大国」らしからぬ異常事態に落込んでいる。ウクライナ側は、こういう苦衷をすべて把握しており、ロシア軍を追詰める展望を明らかにする余裕を見せている。それによると、年内にヘルソン州を奪回し、来年夏までに戦闘を終わらせる計画を立てている。

     

    だが、ロシア軍にもメンツがある。ヘルソン州が簡単に奪回されると、クリミア半島への水源確保などに支障を来たすことから、ドニプロ川西岸に塹壕を掘るなどして抵抗を続ける構えを見せているという。

     


    米『CNN』(10月21日付)は、「
    ロシア軍、南部反攻の阻止に注力 ウクライナ軍参謀本部」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ軍参謀本部のオレクシー・フロモウ氏は21日までに、ロシア軍の最優先任務は南部前線を維持することだとの見解を示した。

     

    (1)「フロモウ氏によると、ロシアは南部ヘルソンに向かうウクライナ軍を押しとどめるため、塹壕を掘ったり追加のリソースを投入したりする策を講じている。ロシア軍は部分的動員の第1波の助けを借りつつ、ドニプロ川西岸に展開する兵士を増やすことで南部前線を維持する計画だという。水路の要衝であるドニプロ川では最近、両岸で戦闘が発生している。フロモウ氏はまた、ヘルソン州に40個を超えるロシア軍の大隊戦術群が展開していることも示唆した。1個大隊戦術群は通常、約1000人の人員で構成される」

     

    ドニプロ川西岸に展開するロシア軍は、これまで2万5000人程度とされたが、新たな情報では、40個を超える大隊(約4万人)という大部隊を結集している模様。ロシアが、残存兵力をかき集めて投入している感じだ。ただ、ドニプロ川西岸のロシア軍はウクライナ軍による高機動砲「ハイマース」による攻撃で、兵站線が潰され孤立させられている。すでに、ロシア軍総司令官は撤退を示唆するほど苦戦を強いられているほどだ。

     


    (2)「プーチン政権にとって、ヘルソンやザポリージャ、ミコライウといった南部方面は、クリミア半島につながる陸上回廊や半島への水供給を維持する観点から戦略的価値がある。ミコライウ州やオデーサ州の制圧に向けた橋頭堡(ほ)を将来的に築き、ウクライナの海洋国家としての地位を奪う意味でも南部は戦略的価値が高いという」

     

    ウクライナは、西側諸国の武器支援によってロシア軍を追詰めている。ただ、ロシア軍も簡単に撤退できない事情がある。ヘルソン州の持つ象徴的意味合いだ。ヘルソン州からの撤退は、ウクライナ侵攻が敗北したというイメージになる。ロシア軍も引くに引けない苦しい立場であろう。それでも、ウクライナ側は最終的な勝利を確信している。

     

    『CNN』(10月20日付)は、「来夏までにウクライナ勝利、ロシアの敗北必至 国防省情報総局長」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ総局長(少将)は20日までに、ウクライナは今年末までに「重要な勝利」を収め、戦争は来年の夏までに「終わるであろう」との予測を示した。

     

    (3)「情報総局が公表した発言内容で、ロシアの敗北は不可避であって止められないとし、ロシアの破壊につながるだろうとも主張。ウクライナが握るとする重要な勝利については「まもなくわかるだろう」とした。この勝利に、ロシアが占領するウクライナ南部のヘルソン市が含まれることを期待するとも述べた。ウクライナ軍はここ数週間、同市などで大きな戦果を得ている。総局長は「来年春の終わりには戦争は終わるであろうし、夏までには全てが終わるであろう」とも占った」

     

    下線のように、ロシア軍の敗北を見通す「強気」観測を披露するに及んでいる。これは、戦局に対する絶対的な自信をのぞかせている証拠であろう。西側諸国50ヶ国の軍事支援を受けて、「負けるはずがない」という不敗の自信を見せていると言えよう。ロシア軍の士気の低さと武器弾薬の欠乏が、その最大の拠り所であろう。

     


    (4)「ウクライナが1991年時点での国境線を取り戻す意向も表明。2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ・クリミア半島と親ロシア派勢力が占領した東部のドネツク、ルハンスク両州の奪回を意味するとした。また、ロシアはウクライナで核兵器の投入はしないだろうとの見方も表明。理論的には使うことができるだろうが、そうなればロシア連邦の崩壊への道のりを速めるだけとなると指摘。「彼らはこのことを十分に理解しているし、我々が望むほど愚かではない」とも説いた」

     

    ウクライナ軍が、1991年の国境線を取り戻すとは、クリミア半島まで奪回する意思を示している。こういう最終局面で、ロシア軍は核を使う懸念も残っている。ただ、ロシアが核を使えば、ロシアとプーチン氏の国際的な立場が消える懸念もつきまとっている。核を使って、「最終勝者」になれる保証がないのだ。

     


    (5)「また、「ロシア大統領府の指導者たちは、ウクライナ戦争の主要な目標について一致しており、それは敗北を喫しないことだ」と強調。「ハト派」もいれば「タカ派」もいるが、共に情勢が非常に悪化していることは認識しているとし、現状から抜け出すための方途についての意見が若干異なっているだけだと説明した。その上で、「一部の者は戦争をやめ、ある種の平和的な解決方法を模索すべきと明確に理解している」とし、「(侵攻を)続けなかったり、敗れたりしたら、ロシアは存在しなくなると判断している者もいる」と続けた」

     

    ロシア国内では、「ハト派」と「タカ派」が対立しているという。世上、プーチン氏がすべてを決めているとされるが、核だけは別格な感じである。西側は、軍部自身に対して「核投下への報復」を通告済である。仮に、プーチン氏が投下を命じても、軍部が拒否するという事態も想定の一つに入れている感じだ。

     

    (6)「ロシア大統領府内の現在の判断について、「もはや勝利の問題ではなく、敗北しないことが問題になっている」と分析。ウクライナが勝利すれば、「非常に深刻な政治的なプロセスが、現在のロシア連邦の組織の変化と組み合わせた形で始まるだろう」とも締めくくった」

     

    ウクライナ軍の勝利は、ロシア連邦の解体をもたらす。また、核使用の際もロシア連邦は解体の憂き目に遭おう。いずれに転んでも、ロシアには過酷な運命が待っている感じだ。 

     

     

     

     

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    ロシア軍に目立つ厭戦気分

    戦術核投下の可能性あるか

    目先の利益に迷った習近平

    NATOが突付けた新冷戦

     

    ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻後の作戦がことごとく失敗している。3日間で、ウクライナ首都キーウを陥落させる計画は、ウクライナ軍の猛反撃によって画餅に帰した。これまで、数ヶ月を経て獲得したウクライナ北東部の要衝の地は、たった数日のウクライナ軍の攻撃で奪回されるなど、劣勢は明らかである。

     

    この作戦結果は、ウクライナとロシアの武器性能の違いによるものだ。ウクライナ軍は、欧米の支援で新鋭武器を供与されている。中でも、米国が供与した機動性ミサイル「ハイマース」が威力を発揮している。車両に据え付けられた発射装置で、227ミリのGPS誘導ロケット弾の射程は77キロ先まで届く。ハイマースは、ロケット発射後すぐに移動できるので、ロシア軍から場所を特定されないメリットがある。まさに、「忍者」のような行動が可能である。

     


    ロシア軍には、ウクライナ軍のハイマースに匹敵する兵器がないのだ。それゆえ、ウクライナ軍は自由自在にロシア軍司令部や兵站線を攻撃できるという逆転した立場になった。このため、ロシア軍の最前線部隊では、武器・弾薬・食糧の供給が減少しており、士気は極めて低いとされている。

     

    今回のウクライナ北東部の奪回作戦で、ロシア軍はウクライナ軍の攻勢にたじろぎ、3旅団(約1万の兵士)分に相当する武器弾薬を遺棄して逃走した。ロシア兵は、自転車や私服姿で遁走したとも報じられている。第二次世界大戦で、旧ソ連軍は「赤軍」として勇名を馳せた。現在は、そのイメージとかけ離れた軟弱な敗退情景を見せたのである。

     

    ロシア軍に目立つ厭戦気分

    米英軍の予想によれば、ロシア軍はすでに7~8万の兵士が死傷しているという。戦場離脱(脱走兵)や休暇後に部隊に戻らない兵士も多いという。兵士の補充では、囚人まで駆り出されている。また、ロシア軍は下級将校の不足を埋めるため一部の士官学校の卒業時期の前倒しを実施していると報じられている。最近のウクライナ戦況悪化を受け、予備役士官が軍務契約への署名を拒んでいるのも原因とされる。

     


    要するに、ロシア軍全体で「厭戦気分」が漂っていることに注目すべきだ。帝政ロシア時代には、5大反乱を経て1917年のロシア革命にいたった。こういう歴史を持つロシアだけに、ウクライナ侵攻という「兄弟戦争」の矛楯に兵士も国民も気付くことになろう。

     

    プーチン氏は、これからどう対応するかだ。プーチン氏の性格は二つの特色を持つと言う。自分の誤りを絶対に認めないこと。一度決めたことは、Uターンしないこととされている。となれば、今回のウクライナ侵攻に出口がないことになろう。

     

    プーチン氏と中国国家主席習氏が9月15日、ウズベキスタンのサマルカンドで対面会談した。ロシアがウクライナを侵攻して以降、両首脳が会うのは初めて。プーチン氏は、中国がウクライナ侵攻をめぐって「懸念」を抱いていることに理解を示したと発表された。これは、中国が会談前にウクライナ侵攻に対して「懸念」を伝えたことを意味する。

     

    インドのモディ首相も、プーチン氏とサマルカンドで対面会談した。その際、モディ氏が「今は戦争の時ではない」と述べ、約7カ月に及ぶウクライナ侵攻について公に批判した。『ロイター』によれば、プーチン氏はモディ氏の発言に対し、口をすぼめ、モディ氏に視線を向けた後下を向いたという。そして、「ウクライナ紛争に関するインドの立場や懸念は理解している」とした上で、「われわれは可能な限り早期の停戦に向け全力を尽くしている」と言明した。ウクライナが交渉を拒否したとも述べた。

     

    前記の習氏やモディ氏が、プーチン氏に対して「停戦ないし休戦」を求めていることは明らかである。ロシアの同盟国である中央アジアのカザフスタンのカジェゲリディン元首相がプーチン政権を批判し、ソ連崩壊を繰り返すことになると警告した。元首相は、ドイツメディアのインタビューに答え、ロシアのウクライナ侵攻を巡るロシア側の主張を「理解できない要求」だと批判した。ロシア国内で、中央政府に対する地方の不満が高まっており、ロシアが連邦制を維持できず政治的に分裂する可能性があると指摘した

     

    ロシアの同盟国にさえ、プーチン批判が出てきたことは、プーチン氏の選択を一層狭めことになった。プーチン氏は、EU(欧州連合)へロシア産の原油や天然ガス供給を絶てば、EUが音を上げてロシアへ妥協を申入れるという読みがある。だが、ロシア産エネルギーへ大きく依存するドイツが、すでに天然ガスの85%を備蓄したと発表しているほど。ドイツでは与党内に、ウクライナへ最新型戦車を送れという議論が高まっている。プーチン氏は、ウクライナ軍の戦況好転が、EUの結束を高めていることを見落としているのだ。

     

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    ロシア陣営で「新G8」

    今来年でGDP大幅減

    これから10年雌伏期

    同盟の価値を再認識へ

     

    ロシアのプーチン大統領は6月17日、「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」で欧米諸国を痛烈に批判する演説を行い、「一極世界の時代」の終わりを宣言した。西側諸国による経済制裁にも関わらず、原油価格の高騰によって貿易黒字はむしろ増加。プーチン氏が意気軒昂である裏には、こういう事情がある。

     

    一方、西側諸国は自ら科した経済制裁によって原油価格が高騰して、消費者物価が危険ラインを突破している。ロシア外務省広報官が、「西側は自分で自分の足を撃っている」と嘲笑しているほど。プーチン氏が、「一極世界の時代」の終わりと言いたい理由はここにある。

     


    プーチン氏は、すでに戦勝気分である。
    自身について、公然と皇帝ピョートル1世になぞらえているのだ。ピョートル1世は17世紀末~18世紀のロシア皇帝で、ロシア近代化のほかに大国化を推進した。大北方戦争でスウェーデンと長年にわたり領土戦争を繰り広げた皇帝である。プーチン氏は、皇帝ピョートル1世の「再来」として振る舞うつもりだ。

     

    こういう歴史錯誤は、なぜ起こっているのか。

     

    ロシアは、ビザンティン帝国から正教を受容したので、ローマ・カトリック世界とは異なる道を歩むことになった。欧州のような、近代ヨーロッパ文化を誕生させたルネサンスも宗教改革も経験しなかったのだ。この歴史が、ピョートル1世を生み領土拡大が「善」とする国家観を生み出し、プーチン氏にまで引継がれている背景であろう。

     


    ロシア陣営で
    「新G8」

    ロシア下院のヴォロディン議長は6月11日、ロシアに対し友好的な国による「新G8」を提唱した。「アメリカが対ロ制裁などによって新G8結成のための条件を自ら作り出した」とした。その新G8候補国は、「中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、イラン」などだ。そして、「新G8」のGDPは、購買力平価によれば現在の「G7」を凌ぐとしている。購買力平価という、雲を掴むようなデータを持出して、ロシア側陣営の勝利を宣言しているのだ。

     

    ロシアが、ここまで西側諸国へ対抗心をむき出しにしている裏には、ロシア国内を鼓舞する狙いもあろう。客観的に見て、「新G8」がロシアの要請によってまとまるメリットはない。逆に、西側諸国から不利益を被るリスクの方が高まるだけである。そんな不利な取引になることに加わる国はあるまい。

     


    ロシアが、「新G8」などを言い出している裏には、原油や天然エネルギーの価格が高騰して、「売り手市場」になっていることもあろう。確かに、今年の貿易黒字は昨年を大幅に上回る見込みである。以下は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月17日付)から引用した。

     

    ロシアの貿易黒字は、今年1月~5月に昨年同期に対して、約3倍増の1100億ドル(約14兆5600円)に達した。このまま行けば、今年は過去最高の経常黒字となる見通しだ。ロシアは、この潤沢な資金を緊急時に備えるためではなく、落込む国内経済の下支えに使っている。国際金融協会(IIF)は今月取りまとめた報告書の中で、「ロシアの構造的な経常黒字はバッファーの迅速な構築につながり、制裁の効果が時間と共に低下するのは必至だ」と指摘した。


    IIFの試算によると、資源価格が高止まりし、ロシアがこれまで通り石油・ガス輸出を続けるならば、ロシアは今年、3000億ドル以上のエネルギー販売代価を受け取る可能性がある。これは西側の制裁で凍結されたロシアの外貨準備の額にほぼ匹敵する。

     

    以上の報道から得られる示唆は、厖大な貿易黒字を落込むロシア経済の下支えに使えることだ。これが、経済制裁の効果を目立たなくさせている理由である。問題は、この資源高状況がいつまで続くかである。

     

    ロシア産原油や天然ガスの最大需要先であるEUが、今年年末までに原油の9割を輸入削減する。天然ガスも、EUはアフリカからの輸入を増やす交渉が軌道に乗っている。こう見ると、ロシアが現在享受している「価格高騰」メリットに永続性がないことは明らか。これからは、経済制裁効果を軽減してきたバッファーが消える。ロシア経済へ、ストレートで悪影響が出る局面を迎えるであろう。

     


    今来年でGDP大幅減

    IIFの予測によれば、ロシア経済が今年はマイナス15%、2023年も3%のマイナス成長になるとしている。これによって約15年分の経済成長が消し飛ぶと見ているのだ。このような悲観的なシナリオが出てくる背景を探ってみたい。

     

    ロシアが今後、経験させられるのは「産業化の逆行」である。すなわち、より前の段階の古い技術を生かした経済成長になることだ。新しい技術は、西側諸国からの提供がストップする。技術脆弱国のロシアにとって、致命的な痛手になる。プーチン氏を初め、ロシアの政治家にはその深刻さが全く分かっていないのだろう。(つづく)

     

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    コロナで失速する経済

    住宅不振も大きな重荷

    ロシア支援リスク回避

    G7と密接な経済構造

     

    中国国家主席の習近平氏にとって、毎日が鬱陶しい気持ちであろう。「内憂外患」状態に陥っているからだ。今年は、習氏が国家主席3期目を目指す重要な時期である。できるだけ波風が立たないように「安定」を旨としてきた。それが、図らずも「不安定」そのものになってきたのである。

     

    「ゼロコロナ」では徹底的な防疫体制を敷いてきたが、ついに経済都市の上海がコロナ蔓延で機能しない状況に追い込まれている。政府が掲げた今年の経済成長目標は、5.5%前後である。だが、深圳や上海を襲ったコロナ感染で、ロックダウン(都市封鎖)を行なっている。中国を代表する経済都市でのロックダウンは、経済に大きな爪痕を残す。経済予測機関は、今年のGDPは4%成長へ低下すると見るなど、予測値を相次ぎ引下げている。

     


    2月4日に交わした中ロ共同声明は、「限りない友情」を謳い上げた。これも災いの原因になっている。その後、ロシアが起したウクライナ侵略戦争によって、中国まで西側諸国から疑惑の目で見られる事態になっているからだ。ロシアは、この共同宣言に基づき中国へ武器弾薬供与を求めたと報じられている。要請品目は、トラック・ミサイルなど多様だ。

     

    欧米は、中国へも強い警戒心を向けている。中国が支援した場合、相当の経済制裁を行なうと宣言したほど。こうなると、中国は国内経済に大きな落込み予想が強まっている。その上に新たな経済制裁が加われば、今秋の党大会で習氏が国家主席3期目を勝ち取る見込みは低下する。

     


    習氏のソロバン勘定に立てば、ロシア支援のカードを切りたくても切れない状況になっている。ロシアは、第二次世界大戦における対独勝利記念日の5月9日に、ウクライナ戦争の「勝利宣言」するとも報じられている。ロシアが、矛を収めようという気持ちになったのは、中国支援が見込めないことも影響しているのかも知れない。

     

    コロナで失速する経済

    中国経済は、新型コロナウイルス感染発症国である。2020年1月である。以来、「ゼロコロナ」策によって徹底的なロックダウンを行なってきた。これによって、新たな感染者を増やさずにきたが、逆に「ウイズコロナ」と異なって感染免疫度が希薄という事態を生んできた。ここへ感染力の猛烈に強い「オミクロン株」が登場したのだ。免疫度が低く、有効なワクチンを持たない中国は、二重のハンディキャップによって現在、経済活動面に大きな影響が出ている。

     


    上海市(人口2200万人)のロックダウンは、市を流れる黄浦江にほぼ沿って市内を2地区に分けて行なっている。東部地区は3月28日から4月1日まで、西部地区は4月1日から5日まで実施する予定となっていた。だが、感染急拡大で西部地区の一部区域は3月30日、予定を繰り上げてロックダウンを実施する事態になった。封鎖期間中は、全市民にPCR検査を行う。

     

    上海市の一人当たり名目GDPは約2万3000ドル(2020年:上海市発表)である。中国全体の一人当たり名目GDPの2倍超である。この富裕都市が、ロックダウンされるので経済的影響は小さいはずがない。そのマイナス影響については、いくつかの試算が出ている。

     

    香港中文大学の宋錚教授は、中国国内を走行するトラック約200万台の位置情報を使ってロックダウンの影響を計算した。トラックの移動が、地域の経済活動と高い相関関係にあることに注目したもの。上海の厳格な封鎖措置だけでも、中国の実質GDPを4%縮小させる可能性があると予測している。中国の4大都市(北京・上海・広州・深圳)で一斉に厳格な封鎖措置が講じられれば、中国の実質GDPは封鎖期間中に12%も縮小するという。

     

    実は、深圳市が3月20日に1週間のロックダウンを解除したばかりである。深圳市の感染状況は依然として厳しいものの、感染拡大に歯止めがかかり、「全般に制御可能」だと判断された結果の解除である。従来の「ゼロコロナ」対策では、あり得ない中途半端な解除である。これは、習氏がゼロコロナ政策を見直したことによる。「ウイズコロナ」によって、経済・社会的影響を最小限に抑える方針を示したからだ。

     


    習氏は、コロナ感染拡大によるGDP引下げ事態を深刻に捉えている。今秋の党大会で、自身の3選に響くからだ。世界のエコノミストは、
    ロックダウンが一段と広がれば、景気がさらに落ち込むと警戒している。予測機関 ナティクシスは、コロナ対策が1~3月(第1四半期)の中国経済成長率を1.8ポイント押し下げると予測。UBSグループは、中国全土での対策長期化で今年のGDP伸び率が4%に向かって低下し、政府目標の5.5%前後を大きく下回る可能性があるとみている。以上は、『ブルームバーグ』(3月31日付)が報じた。(つづく)

     

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    3月16日がクーポン支払い日であったロシアのドル建て国債は、18日にドルで支払われたことを確認した。これで当面、最悪のデフォルトは回避されたが、安心するのは早い。ロシア政府のドル調達力に大きな制約が掛かっている以上、先行き不透明である。むろん、新規ドル建て国債の発行など、夢想すらできない状況だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「ロシア、ひとまずデフォルト回避 月末の元本償還焦点に」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア政府は16日が期日だったドル建て国債の利払いを完了し、デフォルト(債務不履行)をひとまず回避した。デフォルトとなり、長期にわたって国際資本市場に復帰できなくなるリスクを重くみたとみられる。もっとも、国債の元利金の返済は続き、払い続けられるかなお予断を許さない。制裁が続く以上、外貨の獲得能力は低下し、信用力の回復も難しい

     

    (1)「ロイター通信によると、16日が期限の国債の利払いを複数の債券投資家が受け取った。ロシア財務省もドル建て国債2本の利息計1億1700万ドル(約140億円)を支払ったとしている。英紙『フィナンシャル・タイムズ』によるとJPモルガンは送金前に米財務省に違反にならないか承認を取った。米国はロシア政府との取引を金融機関に禁じている。ただ、米財務省の外国資産管理局(OFAC)は米市民に対し、ロシアの財務省や中央銀行、政府系ファンドから債券の元利金を受け取ることを5月25日まで限定で認めており、この特例が使われたもよう」

     

    3月16日まで、ロシア政府がドルでクーポンをドルで支払うのか関心を呼んできた。だがようやく、ドルでの支払いが確認された。今後も、経済制裁が続く以上、不安はつきまとう。

     


    (2)「ロシアは、欧米の経済制裁で中央銀行の資産が凍結され、約6300億ドルの外貨準備を自由に引き出せない。今回の利払いに外貨準備を使ったかは確認されていない。大和総研ロンドンリサーチセンターの菅野泰夫シニアエコノミストは「現金や海外の銀行への預金で1500億ドル程度を保有しているとみられ、それを使ったのではないか」と推測する。国債の元利払いは続き、次の焦点は多額の元本償還だ。米モルガン・スタンレーによると元本と利息を合わせて3月31日に4億4700万ドル、4月4日に21億2900万ドルの支払いが控える」

     

    ロシア中銀は、内外でかき集めれば1500億ドル程度が使用できる状態という。経済制裁がいつまでも続くか分らない現在、この手持ちドルは虎の子である。大事に使わなければならない。

     


    (3)「ロシアは、14年のクリミア併合後に発行したドル建て国債に、ルーブルを含む他通貨でも元利金を返済できる条項を盛り込んだ。経済制裁でドルでの支払いが困難になる場面を想定した設計とみられる。このタイプの利払いが目先は21、28日に予定されており、返済通貨が注目される。今年の利払い総額は50億ドル弱と決して多くはないが、最終的にデフォルトを回避できるかには不透明感が強い。米財務省の特例は期限である5月25日以降の取り扱いは未定だ」

     

    ロシア国債の元利金支払いが、ドル建てで認められる期限は、5月25日までとされている。それ以降について、ドルでの受領が禁じられれば、ロシア国債は「デフォルト」扱いになるのか。この辺りの事情が不明だ。

     


    (4)「利払い実施を受けて、市場では「ロシアに支払いの意思があることがわかった」との声が広がった。リフィニティブによると今回、利払いの対象となった2023年9月償還債は額面1ドルあたりの価格が一時14セント程度まで売られていた。今週はシルアノフ財務相がドルで払う意思を表明したことなどから買い戻しが入り、利払いが伝わった17日は55セントまで上昇した。ただ、利払いを続けられても新規に外貨建て国債を発行する信用力を取り戻すのは難しい。ウクライナ侵攻後、多くの海外投資家は損失覚悟で保有国債を売却している。長期にわたって購入対象としないとみられ、ロシア政府の外貨調達のルートの一つは縮小する」

     

    ロシアへの経済制裁が続いている以上、新規外貨建国債発行は難しい。米国では、ロシア国債や政府機関債の取引を禁止している。となると、当然新規発行は不可能になる。海外での資金調達の道を封じられたのだ。

     


    (5)「米格付け会社S&Pグローバルは17日、ロシアの長期債務格付けを「トリプルCマイナス」から「ダブルC」に1段階引き下げた。デフォルトにあたる「D」まであと2ノッチに迫った。支払期日をにらみながら市場の緊張は続く。プーチン大統領は「非友好国」向けの債務を自国通貨ルーブルで返すことを一時的に認める大統領令に5日署名した。契約と異なる通貨で支払えばデフォルトに認定されるため注目されていた。ロシアは自国通貨建てでは1998年にデフォルトに陥った。対外債務でデフォルトとなればボリシェビキ革命時の1918年以来になる」

     

    スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は17日、ロシアの国家信用格付けを従来「CCC-」から「CC」に1段階低くした。3日、「BB+」から「CCC-」に一気に8段階降格し、それから2週経過してさらに追加で下げた格好だ。CCは「制限的デフォルト」等級である。

     

    S&Pは、ロシアが投資家に期日に利子を支払ったものの「技術的困難」(注:米財務省の特例期限は5月25日まで)もあり、デフォルトの危険が大きい点を理由に上げた。S&P側は、「今後数週間、ロシアの外貨表示国債利払いは同じような技術的困難を強いられるだろう」と伝えた。ロシア国債のクーポン支払いですら、経済制裁でロシア国債の取り扱い禁止条項に該当するからだ。


     

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