欧州のEV(電気自動車)販売に、「死の谷」が来たと恐れられている。新製品をいち早く買ってくれる「アーリーアダプター」は、経済的にゆとりのある層で、新製品が登場するとすぐに買い求める人たちだ。これによって、新製品は爆発的な売行きをみせるが、大衆購買層は新製品には慎重である。
こうして、新製品の「一次ブーム」は終わる。この小休止が、「キャズム」(深い溝)と言われる現象である。数年の「小休止」を経て、本格的な普及期を迎える。EVでは、トヨタの全固体電池が現在のEVに使われているリチウムイオン電池に代わって、EVの主動力源になるのだ。
『ロイター』(11月15日付)は、「欧州EV市場は『死の谷』へ、性能・価格で新モデル待ちに」と題する記事を掲載した。
何年にもわたって成長が加速してきた欧州の電気自動車(EV)市場は、需要に急ブレーキがかかる局面に突入しつつあるようだ。消費者は2~3年後に、より性能が良く安価なモデルが登場するのを待つ態勢に入っている。
(1)「今年1~9月の欧州における完全電動車の販売は、前年同期比で47%増えた。しかし、テスラやフォルクスワーゲン(VW)、メルセデス・ベンツなどの各メーカーは喜ぶどころか、いずれも浮かない表情を見せる。彼らが警戒しているのは、高金利や熱気に欠ける市場が顧客を遠ざけている現状だ。実際、VWの受注高は昨年の半分ほどに過ぎない。ドイツやイタリアの販売店、または国際的なデータ分析企業4社による調査によると、需要の鈍化は経済的な不確実性だけでは説明できないという。そこには、消費者が今のEVは自分たちが求めている安全性や走行距離、価格の条件を果たして満たしているか疑問を持っているという問題がある」
欧州での1~9月のEV販売台数は、前年比47%と急増している、だが、新たな受注が9月以降に急減している。
(2)「バイエルン州の販売店を運営するトーマス・ニーダーマイヤー氏は、「多くの人は今(EVを)買ってすぐに価値がなくなるよりも、技術が進歩し、次のモデルが出てくる3年後まで様子見することを念頭に置いている」と指摘した。オートトレーダーの話では、英国のEV新車販売価格はまだ、内燃エンジン車に比べて平均で33%も高い。また、EVを初めて購入する層をターゲットにした手頃な価格の新たなモデルの大半が登場するのは早くても2025年以降である。「環境のために正しいことをしたいが、自分の生活が少しばかり苦しくなるような非常に高額な投資を仕向けられている気分になる。私たちは恐らく、まずはハイブリッド車を買うことになる」とEV待機組は明かす」
EVへの不信感の強い消費者は、HV(ハイブリッド車)で様子を見るとしている。これは、トヨタの戦略にピタリ合っている。
(3)「新製品をいち早く買ってくれる「アーリーアダプター」や法人の大口購入を背景に急激に伸びてきたEV販売だが、手頃な価格帯のモデルがないままでは、いずれ行き詰まるとの警鐘は、ずっと前から鳴らされていた。そして、9月に入ってからのさえない販売や、複数の消費者センチメント調査結果、メーカーと販売店からの厳しい発言を踏まえると、いよいよ欧州のEV市場が低成長時代に移行した可能性がうかがえる。EVへの移行が欧州勢よりさらに遅れている米国メーカーも、窮地に置かれている。フォードとゼネラル・モーターズ(GM)は最近、需要の弱まりや全米自動車労働組合(UAW)との新協約合意に伴う労働コスト増大を理由に、比較的安いEVモデルの投入を延期し、投資規模を縮小すると表明した」
EV新車販売価格はまだ、内燃エンジン車に比べて平均で33%も高いという。さらに、現在のリチウムイオン電池が過渡期の製品であることが知れ渡ってきた。本格的な全固体電池の登場が、明らかになっている現在あえてEVを買う必要性が薄れるのだ。
(4)「欧州に話を戻すと、9月販売の減速に関してJATOダイナミクスのフェリペ・ムニョス氏は、もっと安価なEVが存在しない間は、需要は鈍いままにとどまると主張する。消費者動向調査会社ラングストンの調査からは、ドイツにおいてEV需要の規模は過去1年間ずっと変わらなかったことが分かる。ラングストンのベン・デュシャルム氏は、販売が伸びているのは、需要拡大の兆候ではなく、単に供給制約でEV生産に苦戦していたメーカーが、受注残に対応できるようになっただけかもしれないとの見方を示した」
欧州のEVは一見、順調に需要が伸びているようだが、半導体供給が増えてEV生産が回復した結果にすぎない。手持ち受注残が切れれば、EV生産も下火になる。現在は、その時期になっている。
(5)「販売店向けサービスを手がけるコックス・オートモーティブのフィリップ・ノザード氏は、今のところEVのリセール価値が低いことも、買い手控えにつながっていると分析する。企業や多くの消費者は、数年後にどれだけの価格で売却できるかに基づいて新車を選ぶからだ。ノザード氏は、2024~27年の欧州EV市場は「死の谷」が続き、この間は低いリセール価値、高水準の供給、低調な需要という組み合わせになると見込んでいる」
現在のEVは、中古としてのリセール価格が低いという。これは、自動車ユーザーにとって由々しき問題である。日本の自動車人気が高いのは、リセール価格が新車に比べて相対的に高いからだ。EVもこのリセール価格が問題になっている。結局、2024~27年の欧州EV市場が「死の谷」になる懸念が高い。