勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済ニュース時報

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    本欄では、世界の半導体市況の下落から世界経済の落込みを取り上げているが、いよいよその影響ははっきり確認できるようになってきた。この数十年間、半導体売上高の3カ月移動平均は世界経済のパフォーマンスとはっきりと高い相関関係を示している。現在は世界的なリセッション(景気後退)懸念により、半導体メーカーは投資計画の縮小を急いでいるところだ。

     

    世界の半導体売上高は4カ月連続で伸びが鈍化した。利上げと地政学的リスク増大で世界経済が圧迫されていることを示す新たな証拠となった。米半導体工業会(SIA)のデータによると、6月の半導体売上高は前年同月比13.3%増と、5月の18%増から鈍化した。4カ月連続は米中貿易摩擦が激化した2018年以来最長とされている。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月24日付)は、「
    世界経済に広がる警戒感、成長の落ち込み鮮明に」と題する記事を掲載した。

     

    欧米や日本の経済活動が収縮していることが、8月の最新データで鮮明になった。物価上昇で消費者需要がしぼみ、ウクライナの戦争でサプライチェーン(供給網)の混乱が続く中、世界の経済成長が急速に鈍化している様子が浮き彫りになっている。

     

    (1)「米国では8月の企業活動が大きく落ち込んだ。サービス業がけん引する形で幅広い分野で縮小し、製造業も鈍化した。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になったことがS&Pグローバルの調査で示された。S&Pグローバルが発表した8月の米総合購買担当者指数(PMI)速報値は45.0と、7月の47.7から低下した。低下は2カ月連続で、新型コロナウイルス流行初期の2020年5月以来の低水準となった。この指数は50を下回ると活動の縮小、上回ると拡大を示す。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのシニアエコノミスト、シアン・ジョーンズ氏は「サービス業の新規受注が再び縮小の領域に落ち込み、製造業の新規受注も同様に需要不振だった。民間部門全体に暗い影が差している」と指摘した。」

     

    米国のPMIは、7月、8月と連続で50を割込んでいる。2020年5月以来の低水準である。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になってきたからだ。

     


    (2)「欧州では2カ月連続で活動が縮小。暖房シーズンを前に、ロシアがすでに減らしている天然ガスの供給量を維持するかどうか見通せない中、エネルギー価格が一段と上昇している。S&Pグローバルが発表した8月のユーロ圏総合PMIは49.2と、7月の49.9から低下し、1年半ぶりの低水準になった。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下。一方、サービス業は50をわずかに上回った。新規受注は製造業・サービス業ともに減少し、先行きの落ち込みが示唆された。工場の売れ残り在庫は増加した。S&Pグローバルのエコノミスト、アンドリュー・ハーカー氏は「過剰在庫があるということは、製造業の生産が早期に改善する見込みがほぼないことを示唆している」と指摘した」

     

    欧州の総合PMIも、米国と同様に7月、8月と連続50を下回った。景況観の悪化を告げている。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下している。

     

    (3)「国別のPMIでは、ドイツが2020年6月以来の大幅な落ち込みとなった。フランスは、新型コロナウイルス流行が始まって以来初めて活動が縮小した。ただ、ドイツの製造業PMIは引き続き50を下回ったものの、7月からは回復した。ユーロ圏経済はロシアによるウクライナ侵攻で打撃を受けている。エネルギーと食料の価格高騰で家計の購買力が低下し、企業も逆風にさらされている。欧州大陸ではほぼ80年ぶりとなる大規模軍事衝突が長引いていることで、家計と企業の景況感も悪化している」

     

    欧州の国別PMIでは、主要国のドイツとフランスが50を下回っている。ただ、ドイツは7月から50を回復した。ロシアのウクライナ侵攻の影響が強く出ている。

     


    (4)「ただ今のところ、インフレ率の上昇がユーロ圏のコロナ禍からの回復を損なっている様子は見られない。米国に比べると回復ペースは遅いものの、これはおそらく行動制限の解除が米国より遅かったことが一因だ。2021年の大半を通じてなんらかの制限を維持していた域内地域が活動を再開し、4~6月期の経済成長を押し上げた。一方、米国は2四半期連続でマイナス成長に沈んだ。夏季の観光業がコロナ前の水準に戻りつつあるため、ユーロ圏の7~9月期の経済成長は緩やかに拡大する可能性がある。ただS&Pグローバルの調査では、8月に観光・レジャー業は活動が縮小した」

     

    米国GDPは、今年上期は2期連続のマイナス成長に落込んでいる。景気の定義から言えば「リセッション」だが、そういう声が聞かれないのも不思議と言えば不思議だ。いかに強気の経済観が支配的であるかを物語っている。

     


    (5)「こうしたことを踏まえると、ユーロ圏経済はすでに縮小している可能性がある。エネルギー価格の高騰が一段と家計を圧迫するため、10~12月期はマイナス成長が避けられないとの見方もある。縮小がどれくらい続き、どれほど深刻になるかは、家計への打撃の大きさと、エネルギー配給制が必要になって工場生産が減少するかどうかにかかっている」

     

    ユーロ経済圏が、縮小過程に入っていることを予想させている。10~12月期には、マイナス成長になるとの見方が強くなっている。

     

    (6)「バークレイズ銀行のエコノミストはユーロ圏の域内総生産(GDP)について、7~9月期に拡大した後、10~12月期と2023年1~3月期にはマイナス成長になると予想している。ただ顧客向けメモでは、天然ガスの確保を巡る不透明感を踏まえると、緩やかなリセッション(景気後退)という予想は「楽観的すぎるように見えつつある」と指摘した。S&Pグローバルによると、日本とオーストラリアでも、年初に新たなコロナ流行が発生して以来、企業活動が縮小した。低調な欧州と並んで、世界経済の成長鈍化を物語っている」

     

    バークレイズ銀行のエコノミストは、ユーロ圏で今年10~12月期と来年1~3月期のマイナス成長を予測している。欧米の景気の足取りは、次第にフラフラしていることが明らかになっている。警戒しておくべきだろう。

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    中国は、米中対立の緩衝地帯として欧州に期待を賭けてきた。ドイツには、親中・親ロのメルケル前首相が存在したので、欧州との関係をつなぎとめられると考えてきた節がある。そのメルケル氏は、昨年末で政界を引退している。もはや、中国と欧州を結ぶ「吊り橋」はないも同然になっている。中国には、その認識が希薄である。

     

    『日本経済新聞』(6月4日付)は、「中国と欧州『断絶避ける道筋』」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米クレアモント・マッケナ大学教授ミンシン・ペイ氏である。

     

    中国の対米戦略の重要な柱は欧州の中立を維持することだった。欧州と中国はしばしば衝突しても互いを存亡に関わる脅威とはみなしていない。両者の関係に障害はあるにせよ、欧州で中国との「デカップリング(分離)」を口にする向きはほとんどいなかった。

     


    (1)「欧州連合(EU)と中国との安定した関係は、壊れつつある。中国による新疆ウイグル自治区の少数民族の扱いや香港の自治終了を巡る対立により、中国とEUの関係はかつてないほど悪化した。ロシアのウクライナ侵攻がこれにとどめを刺した。2月末にプーチン大統領が装甲車の車列をウクライナに送り込んだことで、米国が率いる反中連合に欧州が組み込まれないという中国の願望は打ち砕かれた」

     

    このパラグラフは、中国政府が新疆ウイグル族弾圧という「人類への犯罪」を犯している認識が希薄である。5月中旬に漏出した大量の極秘資料で、ウイグル族弾圧が習氏の指示であることが明らかにされている。欧州は、人権尊重(民主主義)の発祥地である。中国政府を許すと見るのは、余りにも楽観的と言わざるを得ない。

     


    (2)「この戦争は、欧米の絆を揺るぎないものにした。そして、中ロの連携が欧州と中国の関係に修復不可能な打撃を与えている今、中国が直面する課題はEUとの完全な断絶をどのように回避するかだ。習近平国家主席にとっての救いは、損害を最小限にとどめるために行動するチャンスがわずかに残されていることだ」

     

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対して「反対意思」を示さずにいる。逆に、NATO(北大西洋条約機構)や米国を非難している。中国が、自らの意思で欧州との関係を切っているようなものである。新疆ウイグル族弾圧の真相暴露も加わり、中国には欧州との関係を繋ぎ止められるチャンスは消えたのだ。

     


    (3)「EUの目先の優先課題はウクライナ戦争の終結であり、対中関係をさらに悪化させる一歩を踏み出す可能性は低い。そうすれば中国がさらにロシア寄りの姿勢を強めることになるからだ。つまり、ロシアとウクライナの戦争が膠着状態に陥りつつある今、中国と欧州は戦争の段階的縮小に動くという共通点を見いだせるかもしれない。停戦と和平交渉が進めば第2次大戦以降の欧州で最悪の人道的惨事を終結させられる。中国がロシアへの影響力を利用して外交的解決を図ることができれば、欧州からの好意も得られる」

     

    中国の最大目標は、世界覇権を握ることだ。それには、ロシアを必要とする。欧州は、こういう中国の覇権戦略において「助っ人」になる訳でない。こういう道筋を考えれば、中国がロシアより欧州を選ぶことなどあり得ない話だ。中国が、ウクライナ侵攻で仲裁役に立つ可能性があるだろうか。余りにもロシア側へ偏り過ぎている。

     

    (4)「欧州は、米国よりはるかに経済のグローバル化が進んでいる。したがって、欧州にとって中国との分断は、米国よりも高くつく。この点も中国には有利に働くかもしれない。欧州企業が完全に中国との絆を断ち切るのは、各国政府から直接の政治的圧力を受けた場合だけだろう。新型コロナウイルスに対する中国のゼロコロナ政策はEUとの貿易を混乱させている。習氏はコストがかさむこの政策を大幅に緩和することで、欧州企業が撤退するような事態を避けられる」

     

    欧州は、「価値外交」に目覚めている。ドイツは、新疆ウイグル族問題で、中国への投資を禁じる方向を模索している。こうして、対中投資は対米投資へ向かうという観測が出てきた。ウイグル族問題を軽く見ては間違うだろう。ドイツは、ナチスのユダヤ人虐殺で永遠の十字架を背負っている国だ。ウイグル族弾圧は、「第二のナチス犯罪」である。率先して「脱中国」をしなければならない立場である。

     


    (5)「外交面では、人権問題への欧州の批判に対して威嚇するような態度をみせることを中国は控えた方がいい。この問題での欧州の控えめな制裁に対する非生産的な報復もやめるべきだろう。このように中国は欧州との関係悪化を短期的に和らげることはできる。しかし習氏は米中の間でEUが中立を保つのは無理かもしれないとも認識する必要がある。ウクライナ戦争で欧米の同盟関係が活性化したことで、米国が中国封じ込めに欧州の同盟国を巻き込むことは容易になった」

     

    秘密文章流出で、ウイグル族弾圧の真相が暴露された以上、ドイツ政府は中国に対して敢然と立ち向かわなければならぬ立場である。

     


    (6)「中国の指導者たちは、欧州との関係修復を断念したくなるかもしれない。しかし、中国を巡る欧州と米国の立場には、安全保障と気候変動の分野ではかなりの隔たりがある。欧州が中国に抱くイメージはかなり悪いが、米国よりは好意的であることを世論調査は示している。最も重要なのは、トランプ前米大統領や彼の直系が米国の次期大統領になれば、欧州の指導者の多くは米国を支持しなくなるかもしれない。中国は、欧州の中立を期待できないにせよ、関係の完全な崩壊を防ぐことはできる」

     

    ここで取り上げられている世論調査結果は、昨年に実施されたものであろう。現在、行なったとすれば異なる結果が出ているはずだ。次期米大統領に、トランプ再選を期待するとは噴飯物。語るに落ちたと言うほかない。

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    習近平氏の「唯我独尊」ぶりは、中国国内でも持て余しているだろうが、欧米企業にとっては抜き差しならぬ「嫌悪感」となってきた。余りにもかけ離れた価値観に拘泥しているからだ。外資企業は、中国国内での投資拡大に慎重であるだけでなく、撤退すら検討し始めている。

     

    中国国内では、大真面目になって「ゼロコロナ政策」に従っている。その理由は、防疫設備が不完全であり、「ウイズコロナ」になれば、100万人単位の死亡者が出るというのである。それだけ、国内の医療防疫体制整備を怠り、軍事費へ厖大な資金をつぎ込んできたことを物語っている。「ゼロコロナ」は、中国の抱える問題点の集中的表現である。世界覇権を狙えるような実力は、もともと端からないのだ。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(5月21日付)は、「企業の中国進出、曲がり角 西側と軍事対立の観測も」と題する記事を掲載した。

     

    外国企業による中国への直接投資は今、崖っぷちから転落しそうだ。在中国の欧州連合(EU)商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は様々な事態が予測不能になってしまったことで、欧州企業各社は中国への投資に「待った」をかけていると言う。

     

    (1)「在中国の欧州連合商工会議所が、今月発表した会員企業約1800社を対象とした意識調査の結果によると、「中国で執行中または計画中の投資の中止を検討していると回答した会員企業は過去最高の23%に上った。さらに77%が将来の投資先としての中国の魅力度は低下したと回答した」。ブトケ氏はこの点を説明したうえで「会員企業の多くは、中国への投資はしばらく様子をみてから判断する状況にあるということだ」と話す」

     


    在中国の欧州連合商工会議所の調査によれば、調査対象の23%は「執行中または計画中の投資の中止を検討中」。77%は、「将来の投資先としての中国の魅力度は低下した」と回答した。つまり、全企業が中国市場を見限り始めている。これは、重大な事実である。

     

    (2)「中国に対する悲観論は米企業の間にも広がっている。在中国米商工会議所のマイケル・ハート会頭はこう警告する。外国人の幹部が自社の中国事業を視察するために入国しようとする際に生じる負担、つまり予期せぬ国際線の欠航や、ビザを得るための複雑なプロセス、入国後の長期の隔離期間が原因で、「今後2~4年」は中国への投資が「大幅に低下」する恐れがある、と」

     

    在中国米商工会議所も、「今後2~4年は中国への投資が大幅に低下する恐れ」と指摘している。これも、中国には痛手である。

     

    (3)「上海を含む中国各地で何週間も自宅に閉じ込められている多くの海外企業の駐在員とその家族は、その間に味わってきた絶望と苦悩から、できるだけ早く中国から出国したいと考えているという。在中国ドイツ商工会議所が今月発表した調査では、中国に赴任中の社員の3割近くが中国を離れる予定だと回答した。こうしたことが積み重なれば、世界経済の在り方が今後、根本的に変わる可能性がある。売り上げの拡大を狙う多国籍企業はこれまで何十年も中国を海外の生産拠点として、あるいは世界最大の新興市場として最も重視してきた」

     

    在中国ドイツ商工会議所が今月発表した調査では、「中国赴任中の社員3割近くが、帰国予定だと回答」している。これまで多国籍企業は、中国市場を世界最大として重視してきた。現在、その期待はすでに消え失せている。

     


    (4)
    国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計では2020年に、外国企業による新規直接投資先として中国が米国を抜きトップになった。だが、ここへ来て中国への投資は拡大するどころか、減少に転じそうだ。海外直接投資に関するデータを提供するフィナンシャル・タイムズ(FT)のfDiマーケットによると、外国企業が現地法人を設立して工場や販路を一から作る「グリーンフィールド投資」の四半期ごとの総額(計画を含む)は今年13月期、03年に統計を取り始めて以来、過去最低を記録した」

     

    外国企業が、中国で現地法人を設立して工場や販路を一から作る「グリーンフィールド投資」の四半期ごとの総額(計画を含む)は、今年13月期に03年に統計を取り始めて以来、最低を記録した。これが、一時的な現象か。あるいは今後の停滞の初期か。注目される。

     


    (5)「米調査会社ロジウム・グループのデータも同様の傾向を示している。EU企業による中国への海外からの直接投資(FDI)額は、長期にわたり計画されてきたある1件の企業買収によって押し上げられているものの、新規のグリーンフィールド投資総額はここ数年で最低の水準に落ち込んでいる。ロジウムのアナリスト、マーク・ウィツキ氏は「花は盛りを過ぎた」とした上で、中国政府が発表する公式のFDIデータには、多国籍企業の中国での収益も投資とみなすなど実態がかさ上げされていると指摘する

     

    下線のような、FDI(対内直接投資)データでは、「嵩上げした」と見られる記事が現れている。「1~4月には、中国全土の実行ベース外資導入額が前年同期比20.5%増の4786億1000万元に達した。中国の外資導入構造は最適化が続き、中国市場は海外資本に対して力強く大きな魅力を持っている」(『人民網』5月27日付)

     

    現実には、大幅な資本流出が起こっており、今年の純流出は3000億ドルとの予測も発表されているのだ。上記のような、1~4月にFDIで20.5%増は、眉唾モノである。

     


    (6)「米中貿易戦争の摩擦を理由に、生産拠点を中国からベトナムやマレーシアなど東南アジアの国や地域、中南米、東欧に移す多国籍企業も急増している。加えてロシアを非難しない中国を前に、各社の間では中国もいずれ西側諸国と軍事的に対立しかねないという懸念が生じている。中国に進出している企業は、「EUと中国の関係が悪化した場合のリスクをどう軽減するかを真剣に考えざるを得ない状況」に追い込まれていると指摘する」

     

    中国の地政学的リスクを計算する企業が増えている。米中対立それ自体が、中国リスクを高める結果になっている。中国が、台湾侵攻を声高に言い出せば、そのリスクが一段と高まるに違いない。

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    習近平氏が国家主席に就任以来、中国の行動は世界の価値観と逆行している。ゼロコロナ政策も、その一つである。欧米の有効なワクチンを導入せず、国産の効かないワクチンに固執した結果が、前代未聞の完全な都市封鎖である。こういう非常識国家で、これ以上のビジネス継続は困難。こういう在中の欧州企業は、23%が撤退を検討し始めている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(5月5日付)は、「中国の欧州企業、厳しいコロナ規制に23%が撤退検討」と題する記事を掲載した。

     

    中国に進出する欧州企業トップらは、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込める中国政府の「ゼロコロナ」政策が対中投資のネックになっていると警鐘を鳴らした。実際、厳しいロックダウン(都市封鎖)により、国内のサービス業の業況は2年ぶりの水準に落ち込んでいる。

     


    (1)「在中国欧州連合(EU)商工会議所が5日発表した緊急調査によると、中国から別の地域に投資を振り向けることを検討している欧州企業は4月下旬時点で年初の2倍に増えた。同会議所のイエルク・ブトケ会頭の説明では、中国からの撤退を検討している企業は回答した372社の約23%と過去10年で最も高い割合だ。約78%は厳しいコロナ対策のせいで中国の投資先としての魅力が薄れていると答えた。ブトケ氏は「世界はコロナとの共生を学んでおり、ゼロ・トレランス(不寛容)はうまくいかない。中国は戦略を変えるべきだ。変えないなら我々は行動で示す、と中国政府に伝えようとしている」と語った」

     

    中国のゼロコロナは、西欧的な価値観に従えば理解不能な「人権無視」である。欧州では、中国がロシアのウクライナ侵攻に声援を送るのを理解できずにいる。それと同様に、ゼロコロナも理解不能である。欧州企業は、こういう中国でビジネスを継続することが不可能と考えるのであろう。「郷に入れば郷に従え」にも限界があるのだ。

     


    (2)「調査が発表される直前には、米アップルや独フォルクスワーゲンをはじめ数十社が中国のロックダウンにより、部品などの供給に支障が出る恐れがあると相次ぎ警告を発した。企業はゼロコロナ政策の脱却に向けた工程表を求めているとブトケ氏は言う。「中国市場は予測可能性を失った。それが中国の強みであり、政策は常に合理的だった。今はまるでもぐらたたきのようだ」

     

    中国が、世界のサプライチェーンを担っている以上、ゼロコロナは実施不可能な筈である。中国には、そういうグローバルという認識が存在しない独り善がりな国である。

     

    (3)「同氏によると、ロシアのウクライナ侵攻に対し中国が「高みの見物」を決めているのも企業心理を悪化させている。調査では回答企業の7%が戦争を理由に中国からの投資の引き揚げを検討していると答えた」

     

    中国による、ロシアのウクライナ侵攻支持を理由にして、調査企業の7%が中国からの投資撤退を検討している。中国が、地政学的リスクを抱えているからだ。ウクライナ侵攻が、欧州企業から見て、それだけ深刻な事態を意味する。中国株が、外資に売られている理由も同じである。

     


    (4)「
    ロックダウンの経済活動への影響は、5日に発表された中国の4月の財新非製造業購買担当者景気指数(PMI)にも表れている。新規受注や生産などの前月比の増減を企業に尋ねて算出するものだ。4月は36.2と、3月の42から急低下した。約2年ぶりの低水準で、2005年の調査開始以来、2番目に大きい落ち込み幅だった。財新智庫のシニアエコノミスト、王喆氏は「現在の感染拡大はサービス業界に大きな打撃を与えている」と話す。需要も供給も「激減した」という」

     

    ロックダウンが、中国の非製造業の景況感(PMI)を悪化させている。4月は36.2と、3月の42から急低下している。5月も同様の状況が続くのであろう。

     

    (5)「習近平政権のゼロコロナ政策で数百万人が数週間にわたり自宅隔離を強いられ、国内移動を制限されている。米国のスターバックスやエスティ・ローダー、アップル、コカ・コーラなど多国籍企業数社は中国の厳しい行動制限により、世界最大の消費市場である中国で売り上げが立たなくなると訴えた。400社を対象にした財新の調査では、都市間移動の規制で輸送・原材料コストがかさむ中、企業は需要動向が見通せず値下げを余儀なくされている。コロナ感染者の流入を恐れ、地方当局は通常なら商品が自由に流通する都市間の交通網に厳しい規制をかけている。調査対象企業の中には、需要の急減やコスト上昇を理由に従業員を解雇したと答えたところもある」

     

    下線部の多国籍企業は悲鳴を上げている。中国市場は、規模も大きいのでロックダウンによる影響が大きい。サービス業には、製造業と違って撤退という選択肢はない。

     


    (6)「
    エコノミストらは、今回のロックダウンはIT(情報技術)企業や自動車メーカーが集中する上海市内やその周辺に集中しているため、2年前に湖北省武漢市から広がった第1波よりもさらに大きな混乱をもたらすと警告している。上海の感染者数はこの2週間で減少し、米テスラなど操業を再開したメーカーもある。中国の金融ハブである上海の感染状況は多少改善したものの、国内各地の企業は絶え間なく変わる当局の感染対策に対応しなければならない状況が続いている。(浙江省)杭州市や武漢などでは、住民は公共交通機関や公共施設を利用したり外食したりするために48時間ごとにPCR検査を受けなければならない

     

    48時間ごとのPCR検査を受けさせられるのは苦痛そのものだ。有効なワクチンがあれば、こういう無駄な検査をしなくても済む筈である。 

     

     

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    ロシアへの経済制裁効果が、なかなか現れないと指摘されている。だが、ロシアではすでに原油需要の低下によって、貯蔵スペース不足に直面する事態になっている。この状況が続けば、永久に施設を閉鎖する恐れも出ているという。西側諸国による一致した経済制裁で、先ず原油輸入を禁止ないし抑制している効果が現れてきた。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月14日付)は、「ロシア産原油のだぶつき、成長エンジンを直撃」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアでは行き場を失った原油がエネルギー供給網を逆流し、産油量の落ち込みが鮮明になってきた。ウクライナとの戦闘が激化する中で、ロシア経済の屋台骨に深刻な影響をもたらしつつある。製油所では、国内外の需要の落ち込みを受けて精製量を減らすか、閉鎖に追い込まれたところも出ている。パイプラインやタンク内の貯蔵スペースは減少の一途をたどっており、油井でも生産を縮小している。とはいえ、損失は今のところ限定的で、エネルギー業界は依然としてロシア政府に巨額の収入をもたらしている。ただ、向こう数カ月には、原油を採掘してから供給先に届けるまでに問題が生じる可能性が高い、とトレーダーやアナリストは指摘している。

     


    (1)「国際エネルギー機関(IEA)は13日、ロシアでは5月以降、日量およそ300万バレルの生産が滞るとの予想を示した。これにより産油量は日量900万バレル弱と、アナリストの予想以上に落ち込む見通しだ。ロシアの産油量がどこまで打撃を受けるかは、アジアで新規顧客を確保できるかどうかにかかっている。米国の顧客は完全に避けており、欧州でも代替の調達先を探る動きが広がっている。IEAでは、ロシア産原油の長年の買い手が離れていったことで、中国が急いでその分を輸入している兆候はまだ見られないとしている」

     

    ロシアは、5月以降の原油生産が日量300万バレル減少して、日量900万バレル弱に落込む見通しである。これはIEAの予測であり、アナリストの予想を上回る落込みである。この落込みをアジアでどこまでカバーできるかだ。

     

    (2)「産油量が持続的に落ち込めば、西側の経済制裁で深刻な景気後退に向かっているとみられる厳しい局面で、ロシア経済のけん引役が大きく損なわれることになる。DNBマーケッツの上級石油アナリスト、ヘルジ・アンドレ・マーティンセン氏は「潜在的な生産能力の一部が恒久的に失われる恐れがある」と話す。ロシアの石油・天然ガス業界がこの危機を乗り越えることができるかどうかは、政府の運命を左右することになりそうだ。2021年のロシア予算で、歳入の45%は石油・ガス業界によるものだった(IEA調べ)。国際金融協会(IIF)では、ロシアは3月の原油輸出代金として121億ドル(約1兆5200億円)を受け取ると試算している」

     

    急激な需要減で生産量を落とせば、潜在的な生産能力の一部が恒久的に失われる恐れがあるという。宝の持腐れに直面するのだ。2021年のロシア予算で、歳入の45%は石油・ガス業界による利益である。原油生産量が5月以降、25%以上も減れば、歳入への影響が出て当然である。

     


    (3)「トレーダーによると、ロシアの精製業界はウクライナへの侵攻開始直後から問題に直面した。欧州の買い手が代替の調達先の確保に動き、輸出が急減したためだ。その後の3月初旬には、米国がロシア産石油の輸入禁止に踏み切った。ロシアでは十分な買い手がつかなったことで、ディーゼルやガソリンなど石油製品の貯蔵スペースが枯渇し始めた。そのため、精製業者の稼働率は低下。4月8日までの1週間に製油所の生産量は日量約170万バレル減った。S&Pグローバル・コモディティー・インサイツの石油分析責任者、リチャード・ジョスウィック氏が分析した。これは稼働率が下がる春季メンテナンス期間の通常レベルをさらに7割下回る水準だという」

     

    石油精製業界にも,影響が出ている。4月8日までの1週間に、製油所の生産量は日量約170万バレル減っている。それでも、石油製品の貯蔵スペースが枯渇し始めている。だぶついているのだ。

     


    (4)「
    ロシアの製油業界が衰退すれば、石油市場への影響は大きい。ロシアはウクライナに侵攻するまで、米国、サウジアラビアに次いで世界第3位の石油生産国だった。また世界最大の輸出国でもあり、日量500万バレルの原油とコンデンセート(注:熱水 ナフサの成分に似ている)に加え、ディーゼルなど日量290万バレルの石油精製品を海外に供給していた。ロシア国営パイプライン会社トランスネフチでは、製油所への原油供給が落ち込んでいるため、パイプライン内の原油貯蔵スペースがひっ迫しているもようだ。トレーダーやアナリストが明らかにした」

     

    ロシアは、世界3位の原油生産国である。また、世界最大の輸出国でもあり、日量500万バレルの原油を輸出してきた。それだけ、国内需要が少ないことを意味する。西側諸国が輸入を禁止ないし抑制すると、途端に大きな影響が出る体質である。

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