勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済ニュース時報

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    欧州のEV(電気自動車)販売に、「死の谷」が来たと恐れられている。新製品をいち早く買ってくれる「アーリーアダプター」は、経済的にゆとりのある層で、新製品が登場するとすぐに買い求める人たちだ。これによって、新製品は爆発的な売行きをみせるが、大衆購買層は新製品には慎重である。 

    こうして、新製品の「一次ブーム」は終わる。この小休止が、「キャズム」(深い溝)と言われる現象である。数年の「小休止」を経て、本格的な普及期を迎える。EVでは、トヨタの全固体電池が現在のEVに使われているリチウムイオン電池に代わって、EVの主動力源になるのだ。 

    『ロイター』(11月15日付)は、「欧州EV市場は『死の谷』へ、性能・価格で新モデル待ちに」と題する記事を掲載した。 

    何年にもわたって成長が加速してきた欧州の電気自動車(EV)市場は、需要に急ブレーキがかかる局面に突入しつつあるようだ。消費者は2~3年後に、より性能が良く安価なモデルが登場するのを待つ態勢に入っている。

     

    (1)「今年1~9月の欧州における完全電動車の販売は、前年同期比で47%増えた。しかし、テスラやフォルクスワーゲン(VW)、メルセデス・ベンツなどの各メーカーは喜ぶどころか、いずれも浮かない表情を見せる。彼らが警戒しているのは、高金利や熱気に欠ける市場が顧客を遠ざけている現状だ。実際、VWの受注高は昨年の半分ほどに過ぎない。ドイツやイタリアの販売店、または国際的なデータ分析企業4社による調査によると、需要の鈍化は経済的な不確実性だけでは説明できないという。そこには、消費者が今のEVは自分たちが求めている安全性や走行距離、価格の条件を果たして満たしているか疑問を持っているという問題がある」 

    欧州での1~9月のEV販売台数は、前年比47%と急増している、だが、新たな受注が9月以降に急減している。 

    (2)「バイエルン州の販売店を運営するトーマス・ニーダーマイヤー氏は、「多くの人は今(EVを)買ってすぐに価値がなくなるよりも、技術が進歩し、次のモデルが出てくる3年後まで様子見することを念頭に置いている」と指摘した。オートトレーダーの話では、英国のEV新車販売価格はまだ、内燃エンジン車に比べて平均で33%も高い。また、EVを初めて購入する層をターゲットにした手頃な価格の新たなモデルの大半が登場するのは早くても2025年以降である。「環境のために正しいことをしたいが、自分の生活が少しばかり苦しくなるような非常に高額な投資を仕向けられている気分になる。私たちは恐らく、まずはハイブリッド車を買うことになる」とEV待機組は明かす」 

    EVへの不信感の強い消費者は、HV(ハイブリッド車)で様子を見るとしている。これは、トヨタの戦略にピタリ合っている。

     

    (3)「新製品をいち早く買ってくれる「アーリーアダプター」や法人の大口購入を背景に急激に伸びてきたEV販売だが、手頃な価格帯のモデルがないままでは、いずれ行き詰まるとの警鐘は、ずっと前から鳴らされていたそして、9月に入ってからのさえない販売や、複数の消費者センチメント調査結果、メーカーと販売店からの厳しい発言を踏まえると、いよいよ欧州のEV市場が低成長時代に移行した可能性がうかがえるEVへの移行が欧州勢よりさらに遅れている米国メーカーも、窮地に置かれている。フォードとゼネラル・モーターズ(GM)は最近、需要の弱まりや全米自動車労働組合(UAW)との新協約合意に伴う労働コスト増大を理由に、比較的安いEVモデルの投入を延期し、投資規模を縮小すると表明した」 

    EV新車販売価格はまだ、内燃エンジン車に比べて平均で33%も高いという。さらに、現在のリチウムイオン電池が過渡期の製品であることが知れ渡ってきた。本格的な全固体電池の登場が、明らかになっている現在あえてEVを買う必要性が薄れるのだ。

     

    (4)「欧州に話を戻すと、9月販売の減速に関してJATOダイナミクスのフェリペ・ムニョス氏は、もっと安価なEVが存在しない間は、需要は鈍いままにとどまると主張する。消費者動向調査会社ラングストンの調査からは、ドイツにおいてEV需要の規模は過去1年間ずっと変わらなかったことが分かる。ラングストンのベン・デュシャルム氏は、販売が伸びているのは、需要拡大の兆候ではなく、単に供給制約でEV生産に苦戦していたメーカーが、受注残に対応できるようになっただけかもしれないとの見方を示した」 

    欧州のEVは一見、順調に需要が伸びているようだが、半導体供給が増えてEV生産が回復した結果にすぎない。手持ち受注残が切れれば、EV生産も下火になる。現在は、その時期になっている。 

    (5)「販売店向けサービスを手がけるコックス・オートモーティブのフィリップ・ノザード氏は、今のところEVのリセール価値が低いことも、買い手控えにつながっていると分析する。企業や多くの消費者は、数年後にどれだけの価格で売却できるかに基づいて新車を選ぶからだ。ノザード氏は、2024~27年の欧州EV市場は「死の谷」が続き、この間は低いリセール価値、高水準の供給、低調な需要という組み合わせになると見込んでいる」 

    現在のEVは、中古としてのリセール価格が低いという。これは、自動車ユーザーにとって由々しき問題である。日本の自動車人気が高いのは、リセール価格が新車に比べて相対的に高いからだ。EVもこのリセール価格が問題になっている。結局、2024~27年の欧州EV市場が「死の谷」になる懸念が高い。

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    韓国のEV(電気自動車)販売が減少し、代わってHV(ハイブリッド車)が人気を集めており、「納車待ち」状態になっている。この傾向は、欧米でも定着している。世界的に、EVの小休止とHV見直しブームが始まっている。EVは、リチウムイオン電池を動力とするが、火災発生・長い給電時間・短い走行距離という難点を抱えている。この問題の解決には、全固体電池の実用化を待つほかない。 

    こうした一連の動きは、トヨタが予測したとおりとなった。トヨタは、リチウムイオン電池の限界と全固体電池の優秀性を主張し、商品戦略もこれに従ってきた。HVを初めて世界へ送りだしたトヨタが、全固体電池でも27年から先陣を切って、本格的なEV時代を切り開く。日本にとっては、心強い動きとなろう。

     

    『中央日報』(10月30日付)は、「売れ行き振るわない電気自動車、納車まで1年待ちのハイブリッドカー」と題する記事を掲載した。 

    (1)「韓国の電気自動車市場がマイナス成長に転じた。1~9月に韓国で販売された電気自動車は11万5007台で前年同期の11万7235台と比較して2228台減った。電気自動車発売が続いた2021年以降で韓国の電気自動車販売台数がマイナスに転じたのは今年7-9月期が初めてだ。韓国の電気自動車販売台数は5月の1万1648台から昨年の販売台数を超えることができず鈍化し始めた」 

    韓国のEV販売は、1~9月で初めて前年同期比1.9%減になった。すでに、5月から前年比で減少が始まっていた。
    (2)「電気自動車の穴はハイブリッドが埋めた。1-9月に韓国で売れたハイブリッドカーは26万1309台で前年同期の19万356台と比較すると37.3%増加した。ハイブリッド人気は出庫待ち期間にも現れる。ヒョンデの10月の納期表によると、「アバンテ・ハイブリッド」は12カ月以上待たなくては納車されない。「サンタフェ・ハイブリッド」は納車待ちが10カ月、「ソナタ・ハイブリッド」は7カ月以上必要という。これに対し電気自動車の大部分は納車待ちが1カ月前後と短い。「アイオニック5」は新車出庫まで4週間、と「アイオニック6」は3週間待てば良い。ジェネシスの電動化モデル「G80」は出庫待ち期間が1カ月にすぎない」 

    HVの1~9月販売台数は、前年同期比で37.3%増と勢いがついている。ヒョンデの10月の納期表によると、「アバンテ・ハイブリッド」は12カ月以上待たなくては納車されないほどの人気が出ている。

     

    (3)「ハイブリッドの好調は世界市場でも明確だ。エコカー政策が強力な欧州市場が代表的だ。欧州では電気自動車成長は急だが絶対的な販売台数ではハイブリッドが電気自動車を大きく上回る。欧州自動車工業協会(ACEA)によると、1-9月の欧州のハイブリッドカー販売台数は199万8921台だ。ここにプラグインハイブリッドカーの販売台数59万7376台を加えると欧州だけで259万6297台のハイブリッドカーが売れた」 

    欧州でもHV人気が定着して、EVを上回っている。 

    (4)「れに対し、1-9月の欧州の電気自動車販売台数は111万2192台でハイブリッド モデルの半分に満たなかった。勢いに乗るハイブリッドカーはガソリン車にまで追いつきそうだ。1-9月に欧州で売れたガソリン車は287万8365台だったが欧州のハイブリッドカーの年間成長率が28%水準であることを考慮すれば今後1~2年間でガソリン車の販売台数を超えるものとみられる。サムスン証券のイム・ウニョン氏は「電気自動車需要が振るわないという認識が拡散しハイブリッドカーに対する関心が急増している。ハイブリッドに対する消費者の関心は米国と韓国市場で高いとみられる」と話した」 

    欧州のEV販売は、1~9月でHVの半分にも満たない状態である。HVが、ガソリン車を上回る勢いである。かつて、欧州でのHV販売は苦境に陥っていたが、見事に勢いを取り戻している。

     

    (5)「ハイブリッドカーが善戦し市場を先導する日本の自動車メーカーの株価は上がっている。2月に1800円水準にとどまっていたトヨタの株価は9月には2800円を超えた。トヨタ自動車の豊田章男会長は25日にジャパンモビリティショーで記者らと会い、人々がようやく電気自動車の現実を見ているとして最近の電気自動車沈滞に対する意見を表明した。彼は普段から「電気自動車が炭素排出量を減らす唯一の方法ではない。ハイブリッドカーを大量に販売すれば短期的な効果を出すことができ、こうした選択肢を制約してはならない」と話した」 

    トヨタの豊田会長が社長を辞任した理由は、EV出遅れが問題化されたことである。豊田氏は、リチウムイオン電池の欠陥を指摘し、全固体電池こそ本命であり、それまでの繋ぎはHVの役割という信念を持って経営に当たってきた。これが、世界の環境運動家から敵視され、「豊田辞任」運動まで起こされていた。それだけに、豊田氏はHV復活と全固体電池実用化へメドをつけて一矢報いた気持ちであろう。世の中の動きは、ここ半年でガラリと変わったのだ。

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    化石燃料による温室効果ガス排出の引き起こした気候変動が、北半球全域で夏の熱波の激しさと期間を増幅させている。地球のかなりの部分は、もうすぐ人の住めない場所になりかねないとの懸念が警告されている。

     

    異常高温が、ギリシャのほか、スペイン、ポルトガル、イタリア、ブルガリア、ルーマニアなど欧州の南部や南東部の国々を襲っている。気温上昇と降雨減少で山火事が増え、砂漠化しやすくなっている。今後、温室効果ガス排出で地球温暖化が進む限り、こうした傾向は続くと予測される事態になった。

     

    英『BBC』(7月18日付)は、「なぜ今年の夏はこんなに暑いのか、世界各地で最高気温を更新」と題する解説記事を掲載した。

     

    英国では、6月の気温が観測史上最高を記録しただけでなく、文字通り破られた。今年6月の気温は、1940年の最高記録からさらに0.9度高かった。この差は非常に大きい。北アフリカや中東、アジアも同様に、これまでにない暑さに襲われている。ヨーロッパ中期予報センターが、今年の6月は史上最高に暑い月だったと見方を発表したのも、当然のように思える。

     

    (1)「英国気象庁と英エクセター大学の気象科学者、リチャード・ベッツ教授は、これらの記録は気候モデルの予測に則したものだと話す。「世界の気温が高いのは意外でもなんでもない」と、ベッツ教授は話した。「ずっと前から分かっていたことを、あらためて確認しているだけだ。大気中の温室効果ガスを増やすのを止めない限り、極端な現象は増え続けるだろう」。暑さについて考える時、私たちは日常で経験している大気の温度を考えがちだ。しかし、地表面の熱の大半は大気ではなく、海に蓄積されている。今年の春から夏にかけて、海水温も記録を更新している。たとえば北大西洋では現在、水面の温度が観測史上最も高くなっている。この海の熱波は特に英国周辺で顕著になっており、例年の水温から5度近くも上昇している場所もあるという

     

    なぜ、水温が5度も高くなっているのか。これは、大西洋の広範囲にわたって循環する海流に異変が起っている結果である。こういう研究成果が出てきたのだ。大西洋循環システムは、事実上、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。

     

    この大西洋循環システムが弱まり、運び届ける水量と熱量が減少していることが、異常気象の原因として問題になっている。最近、頻繁に映像に捉えられている高緯度の海上で溶けた氷床は、淡水となって海中に落ち込んでいる。これが、問題の出発点だ。

     

    海水は、真水と違い(温度が低いほど、また塩分が高いほど密度が高くなるため)、水温が低く塩分濃度が高い地点(北大西洋と南極海)において深層への沈み込みが起こる。ところが現在、温かく溶けた氷床は真水に近いので、密度が低いため海底に沈む力が弱まっているのだ。これらが、大西洋循環システムの流れを損ねている可能性があると指摘されている。異常気象の原因と見られる。


    (2)「英ブリストル大学のダニエラ・シュミット教授(地球学)は、「北大西洋でのこうした異常な気温は前例がない」と話した。一方、太平洋の熱帯地域では、エルニーニョ現象が発達してきている。エルニーニョ現象とは、南米沖で暖かい海水が海面まで上昇し、海全体に広がることで引き起こされる繰り返し起こる気象パターンを指す。大西洋と太平洋で共に熱波が起きているなら、今年4月と5月の海面水温が、英気象庁での1850年の観測開始以来最も高くなったことも、意外ではないのかもしれない」

     

    不幸なことに現在、太平洋の熱帯地域ではエルニーニョ現象が発達している。こうして、大西洋と太平洋で同時に熱波が起きている。世界の海面水温が、4~5月に1850年以来の最高温度になった。

     

    (3)「海が通常より暖かくなると、大気も暖かくなると、英エクセター大学のティム・レントン教授(気候変動専門)は話す。レントン教授によると、温室効果ガスによって閉じ込められた余分な熱は海面を温める。この熱は深海に向かって下向きに混合される傾向があるが、ちょうどエルニーニョ現象のように、海流によって再び水面に戻されることもある。「このようなことが起きると、熱の多くが大気中に放出され、気温が上昇していく」とレントン教授は説明した。この例外的な暑さを異常だと思うのは簡単だが、絶望的なことに、気候変動の結果、記録を更新するような高気温が普通になっているのが真実だ」

     

    温室効果ガスによって閉じ込められた熱は、海面を温めているのでこれが、大気中に放出されて気温が上昇する。大西洋循環システムが弱まっていることは、海水をかき混ぜる力が弱くなって海面を冷やす力が衰えるのだ。こういう流れができてしまった以上、簡単に「炎熱」から逃れられなくなっている現実を知って、温室効果ガスを早急に減らすことが前提になった。

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    ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするのだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られるというソロバン勘定である。

     

    1~5月の経常黒字は、前年同期比81.6%減の228億ドルであった。輸出とエネルギー収入の減少が重石になったもの。2023年の経常黒字は、ロシア中銀は660億ドル、経済省は866億ドルと予測している。いずれも、22年の2270億ドルから大幅な減少だ。ウクライナ侵攻で膨大な軍事費が掛る一方で、経常黒字は大幅な減少だ。こういう「懐事情」もあって、西側企業の資産を接収して売却益を狙う、姑息なことをはじめる。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月15日付)は、「ロシア、『言うことを聞かない』西側企業の資産を接収へ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は欧米からの制裁への報復手段を探るなか、「言うことを聞かない」西側企業の資産を差し押さえる権限を導入し、企業の撤退を難しくしようとしている。この件に詳しい関係者によると、ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。

     

    (1)「フィナンシャル・タイムズ(FT)が確認した機密扱いの大統領令は、西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするものだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られることになる。ペスコフ大統領補佐官はFTに対し、欧米の投資家と企業が従業員への給与の支払いを完全に停止したり、多額の損失を出しながら撤退を決めたりする企業もあると述べた。「自らの務めを果たさない企業は当然、言うことを聞かない企業の分類に入る。そうした企業とはさよならする。残った資産をどうするかは、我々が決めることだ」とペスコフ氏は語った」

     

    ロシアは、捨て鉢になっている。ここで気になるのは、中国の台湾侵攻の際に西側企業へこういう乱暴な行為をするであろうという連想である。中ロの一体化を考えると、あり得ないことではあるまい。

     

    (2)「西側企業のロシア撤退に関わった複数の人物は、ロシア政府は今回の行動で「パンドラの箱」を開けたことになり、国内経済に対する国の支配が強まるのは避けられないとみる。ロシア資産を売却中の企業の幹部は「国有化は必然だろう。時間の問題にすぎない。国は資金が必要だろうから」と述べた。国有化される前に「すり抜ける」つもりだというこの企業幹部は、ロシア政府は輸出収入で財政を支える手段をあれこれ模索しているため、最も影響を受けるのは1次産品を扱う企業だと考えている。逆に「経営が難しい」テック企業は影響を受けにくいだろうと話した

     

    テック企業のように扱いの難しい企業は、国有化を免れるであろう。だが、1次産品を扱う企業の接収は、業態が単純ゆえに接収対象にされやすいという。

     

    (3)「ロシアが2022年に本格的にウクライナに侵攻して以降、プーチン政権は西側企業の国有化について大統領令はこの2社のみが対象だった。ロシア政府はこの権限を数千もの西側企業に行使するか否かを決めるにあたっては、欧米が凍結しているロシア中央銀行の3000億ユーロ(約46兆円)規模の資産の行方を注視している。ロシアの経済政策当局者は、国内経済の幅広い業種で西側企業が果たしてきた重要な役割が失われることを危惧している」

     

    ロシア中銀は、凍結されているロシアの外貨準備高3000億ユーロが今後、どのように処理されるかを見ているという。EUでは、ウクライナの復興資金に充てるという説が有力だ。

     

    (4)「政府はエネルギー輸出収入が落ち込み軍事費が急増するなかで、新しい歳入源をみつけようと躍起にもなっている。ロシアの財政赤字は年初から420億ドル(約5兆9000億円)まで拡大した。22年12月に発表された現行法制では、西側企業は資産をロシア企業に売却するときは50%以上値引きすることや、取引価格の5〜10%を「自主的に」政府に寄付することが義務付けられている。中銀は、外国資本の流出でルーブルが下落し、国内投資家の活動が制限されるのではないかと懸念している。もっともシルアノフ財務相は歳入拡大の手段として、欧米企業の撤退を支持していると関係者らは話す」

     

    ロシア政府内部では、欧米企業の接収について異論もある。だが、膨らむ財政赤字の穴を埋めるべく、財源づくりで接収案以外にないのも事実。貧すれば鈍する、だ。

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    本欄では、世界の半導体市況の下落から世界経済の落込みを取り上げているが、いよいよその影響ははっきり確認できるようになってきた。この数十年間、半導体売上高の3カ月移動平均は世界経済のパフォーマンスとはっきりと高い相関関係を示している。現在は世界的なリセッション(景気後退)懸念により、半導体メーカーは投資計画の縮小を急いでいるところだ。

     

    世界の半導体売上高は4カ月連続で伸びが鈍化した。利上げと地政学的リスク増大で世界経済が圧迫されていることを示す新たな証拠となった。米半導体工業会(SIA)のデータによると、6月の半導体売上高は前年同月比13.3%増と、5月の18%増から鈍化した。4カ月連続は米中貿易摩擦が激化した2018年以来最長とされている。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月24日付)は、「
    世界経済に広がる警戒感、成長の落ち込み鮮明に」と題する記事を掲載した。

     

    欧米や日本の経済活動が収縮していることが、8月の最新データで鮮明になった。物価上昇で消費者需要がしぼみ、ウクライナの戦争でサプライチェーン(供給網)の混乱が続く中、世界の経済成長が急速に鈍化している様子が浮き彫りになっている。

     

    (1)「米国では8月の企業活動が大きく落ち込んだ。サービス業がけん引する形で幅広い分野で縮小し、製造業も鈍化した。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になったことがS&Pグローバルの調査で示された。S&Pグローバルが発表した8月の米総合購買担当者指数(PMI)速報値は45.0と、7月の47.7から低下した。低下は2カ月連続で、新型コロナウイルス流行初期の2020年5月以来の低水準となった。この指数は50を下回ると活動の縮小、上回ると拡大を示す。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのシニアエコノミスト、シアン・ジョーンズ氏は「サービス業の新規受注が再び縮小の領域に落ち込み、製造業の新規受注も同様に需要不振だった。民間部門全体に暗い影が差している」と指摘した。」

     

    米国のPMIは、7月、8月と連続で50を割込んでいる。2020年5月以来の低水準である。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になってきたからだ。

     


    (2)「欧州では2カ月連続で活動が縮小。暖房シーズンを前に、ロシアがすでに減らしている天然ガスの供給量を維持するかどうか見通せない中、エネルギー価格が一段と上昇している。S&Pグローバルが発表した8月のユーロ圏総合PMIは49.2と、7月の49.9から低下し、1年半ぶりの低水準になった。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下。一方、サービス業は50をわずかに上回った。新規受注は製造業・サービス業ともに減少し、先行きの落ち込みが示唆された。工場の売れ残り在庫は増加した。S&Pグローバルのエコノミスト、アンドリュー・ハーカー氏は「過剰在庫があるということは、製造業の生産が早期に改善する見込みがほぼないことを示唆している」と指摘した」

     

    欧州の総合PMIも、米国と同様に7月、8月と連続50を下回った。景況観の悪化を告げている。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下している。

     

    (3)「国別のPMIでは、ドイツが2020年6月以来の大幅な落ち込みとなった。フランスは、新型コロナウイルス流行が始まって以来初めて活動が縮小した。ただ、ドイツの製造業PMIは引き続き50を下回ったものの、7月からは回復した。ユーロ圏経済はロシアによるウクライナ侵攻で打撃を受けている。エネルギーと食料の価格高騰で家計の購買力が低下し、企業も逆風にさらされている。欧州大陸ではほぼ80年ぶりとなる大規模軍事衝突が長引いていることで、家計と企業の景況感も悪化している」

     

    欧州の国別PMIでは、主要国のドイツとフランスが50を下回っている。ただ、ドイツは7月から50を回復した。ロシアのウクライナ侵攻の影響が強く出ている。

     


    (4)「ただ今のところ、インフレ率の上昇がユーロ圏のコロナ禍からの回復を損なっている様子は見られない。米国に比べると回復ペースは遅いものの、これはおそらく行動制限の解除が米国より遅かったことが一因だ。2021年の大半を通じてなんらかの制限を維持していた域内地域が活動を再開し、4~6月期の経済成長を押し上げた。一方、米国は2四半期連続でマイナス成長に沈んだ。夏季の観光業がコロナ前の水準に戻りつつあるため、ユーロ圏の7~9月期の経済成長は緩やかに拡大する可能性がある。ただS&Pグローバルの調査では、8月に観光・レジャー業は活動が縮小した」

     

    米国GDPは、今年上期は2期連続のマイナス成長に落込んでいる。景気の定義から言えば「リセッション」だが、そういう声が聞かれないのも不思議と言えば不思議だ。いかに強気の経済観が支配的であるかを物語っている。

     


    (5)「こうしたことを踏まえると、ユーロ圏経済はすでに縮小している可能性がある。エネルギー価格の高騰が一段と家計を圧迫するため、10~12月期はマイナス成長が避けられないとの見方もある。縮小がどれくらい続き、どれほど深刻になるかは、家計への打撃の大きさと、エネルギー配給制が必要になって工場生産が減少するかどうかにかかっている」

     

    ユーロ経済圏が、縮小過程に入っていることを予想させている。10~12月期には、マイナス成長になるとの見方が強くなっている。

     

    (6)「バークレイズ銀行のエコノミストはユーロ圏の域内総生産(GDP)について、7~9月期に拡大した後、10~12月期と2023年1~3月期にはマイナス成長になると予想している。ただ顧客向けメモでは、天然ガスの確保を巡る不透明感を踏まえると、緩やかなリセッション(景気後退)という予想は「楽観的すぎるように見えつつある」と指摘した。S&Pグローバルによると、日本とオーストラリアでも、年初に新たなコロナ流行が発生して以来、企業活動が縮小した。低調な欧州と並んで、世界経済の成長鈍化を物語っている」

     

    バークレイズ銀行のエコノミストは、ユーロ圏で今年10~12月期と来年1~3月期のマイナス成長を予測している。欧米の景気の足取りは、次第にフラフラしていることが明らかになっている。警戒しておくべきだろう。

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