本欄では、世界の半導体市況の下落から世界経済の落込みを取り上げているが、いよいよその影響ははっきり確認できるようになってきた。この数十年間、半導体売上高の3カ月移動平均は世界経済のパフォーマンスとはっきりと高い相関関係を示している。現在は世界的なリセッション(景気後退)懸念により、半導体メーカーは投資計画の縮小を急いでいるところだ。
世界の半導体売上高は4カ月連続で伸びが鈍化した。利上げと地政学的リスク増大で世界経済が圧迫されていることを示す新たな証拠となった。米半導体工業会(SIA)のデータによると、6月の半導体売上高は前年同月比13.3%増と、5月の18%増から鈍化した。4カ月連続は米中貿易摩擦が激化した2018年以来最長とされている。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月24日付)は、「世界経済に広がる警戒感、成長の落ち込み鮮明に」と題する記事を掲載した。
欧米や日本の経済活動が収縮していることが、8月の最新データで鮮明になった。物価上昇で消費者需要がしぼみ、ウクライナの戦争でサプライチェーン(供給網)の混乱が続く中、世界の経済成長が急速に鈍化している様子が浮き彫りになっている。
(1)「米国では8月の企業活動が大きく落ち込んだ。サービス業がけん引する形で幅広い分野で縮小し、製造業も鈍化した。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になったことがS&Pグローバルの調査で示された。S&Pグローバルが発表した8月の米総合購買担当者指数(PMI)速報値は45.0と、7月の47.7から低下した。低下は2カ月連続で、新型コロナウイルス流行初期の2020年5月以来の低水準となった。この指数は50を下回ると活動の縮小、上回ると拡大を示す。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのシニアエコノミスト、シアン・ジョーンズ氏は「サービス業の新規受注が再び縮小の領域に落ち込み、製造業の新規受注も同様に需要不振だった。民間部門全体に暗い影が差している」と指摘した。」
米国のPMIは、7月、8月と連続で50を割込んでいる。2020年5月以来の低水準である。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になってきたからだ。
(2)「欧州では2カ月連続で活動が縮小。暖房シーズンを前に、ロシアがすでに減らしている天然ガスの供給量を維持するかどうか見通せない中、エネルギー価格が一段と上昇している。S&Pグローバルが発表した8月のユーロ圏総合PMIは49.2と、7月の49.9から低下し、1年半ぶりの低水準になった。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下。一方、サービス業は50をわずかに上回った。新規受注は製造業・サービス業ともに減少し、先行きの落ち込みが示唆された。工場の売れ残り在庫は増加した。S&Pグローバルのエコノミスト、アンドリュー・ハーカー氏は「過剰在庫があるということは、製造業の生産が早期に改善する見込みがほぼないことを示唆している」と指摘した」
欧州の総合PMIも、米国と同様に7月、8月と連続50を下回った。景況観の悪化を告げている。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下している。
(3)「国別のPMIでは、ドイツが2020年6月以来の大幅な落ち込みとなった。フランスは、新型コロナウイルス流行が始まって以来初めて活動が縮小した。ただ、ドイツの製造業PMIは引き続き50を下回ったものの、7月からは回復した。ユーロ圏経済はロシアによるウクライナ侵攻で打撃を受けている。エネルギーと食料の価格高騰で家計の購買力が低下し、企業も逆風にさらされている。欧州大陸ではほぼ80年ぶりとなる大規模軍事衝突が長引いていることで、家計と企業の景況感も悪化している」
欧州の国別PMIでは、主要国のドイツとフランスが50を下回っている。ただ、ドイツは7月から50を回復した。ロシアのウクライナ侵攻の影響が強く出ている。
(4)「ただ今のところ、インフレ率の上昇がユーロ圏のコロナ禍からの回復を損なっている様子は見られない。米国に比べると回復ペースは遅いものの、これはおそらく行動制限の解除が米国より遅かったことが一因だ。2021年の大半を通じてなんらかの制限を維持していた域内地域が活動を再開し、4~6月期の経済成長を押し上げた。一方、米国は2四半期連続でマイナス成長に沈んだ。夏季の観光業がコロナ前の水準に戻りつつあるため、ユーロ圏の7~9月期の経済成長は緩やかに拡大する可能性がある。ただS&Pグローバルの調査では、8月に観光・レジャー業は活動が縮小した」
米国GDPは、今年上期は2期連続のマイナス成長に落込んでいる。景気の定義から言えば「リセッション」だが、そういう声が聞かれないのも不思議と言えば不思議だ。いかに強気の経済観が支配的であるかを物語っている。
(5)「こうしたことを踏まえると、ユーロ圏経済はすでに縮小している可能性がある。エネルギー価格の高騰が一段と家計を圧迫するため、10~12月期はマイナス成長が避けられないとの見方もある。縮小がどれくらい続き、どれほど深刻になるかは、家計への打撃の大きさと、エネルギー配給制が必要になって工場生産が減少するかどうかにかかっている」
ユーロ経済圏が、縮小過程に入っていることを予想させている。10~12月期には、マイナス成長になるとの見方が強くなっている。
(6)「バークレイズ銀行のエコノミストはユーロ圏の域内総生産(GDP)について、7~9月期に拡大した後、10~12月期と2023年1~3月期にはマイナス成長になると予想している。ただ顧客向けメモでは、天然ガスの確保を巡る不透明感を踏まえると、緩やかなリセッション(景気後退)という予想は「楽観的すぎるように見えつつある」と指摘した。S&Pグローバルによると、日本とオーストラリアでも、年初に新たなコロナ流行が発生して以来、企業活動が縮小した。低調な欧州と並んで、世界経済の成長鈍化を物語っている」
バークレイズ銀行のエコノミストは、ユーロ圏で今年10~12月期と来年1~3月期のマイナス成長を予測している。欧米の景気の足取りは、次第にフラフラしていることが明らかになっている。警戒しておくべきだろう。