勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済ニュース時報

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    化石燃料による温室効果ガス排出の引き起こした気候変動が、北半球全域で夏の熱波の激しさと期間を増幅させている。地球のかなりの部分は、もうすぐ人の住めない場所になりかねないとの懸念が警告されている。

     

    異常高温が、ギリシャのほか、スペイン、ポルトガル、イタリア、ブルガリア、ルーマニアなど欧州の南部や南東部の国々を襲っている。気温上昇と降雨減少で山火事が増え、砂漠化しやすくなっている。今後、温室効果ガス排出で地球温暖化が進む限り、こうした傾向は続くと予測される事態になった。

     

    英『BBC』(7月18日付)は、「なぜ今年の夏はこんなに暑いのか、世界各地で最高気温を更新」と題する解説記事を掲載した。

     

    英国では、6月の気温が観測史上最高を記録しただけでなく、文字通り破られた。今年6月の気温は、1940年の最高記録からさらに0.9度高かった。この差は非常に大きい。北アフリカや中東、アジアも同様に、これまでにない暑さに襲われている。ヨーロッパ中期予報センターが、今年の6月は史上最高に暑い月だったと見方を発表したのも、当然のように思える。

     

    (1)「英国気象庁と英エクセター大学の気象科学者、リチャード・ベッツ教授は、これらの記録は気候モデルの予測に則したものだと話す。「世界の気温が高いのは意外でもなんでもない」と、ベッツ教授は話した。「ずっと前から分かっていたことを、あらためて確認しているだけだ。大気中の温室効果ガスを増やすのを止めない限り、極端な現象は増え続けるだろう」。暑さについて考える時、私たちは日常で経験している大気の温度を考えがちだ。しかし、地表面の熱の大半は大気ではなく、海に蓄積されている。今年の春から夏にかけて、海水温も記録を更新している。たとえば北大西洋では現在、水面の温度が観測史上最も高くなっている。この海の熱波は特に英国周辺で顕著になっており、例年の水温から5度近くも上昇している場所もあるという

     

    なぜ、水温が5度も高くなっているのか。これは、大西洋の広範囲にわたって循環する海流に異変が起っている結果である。こういう研究成果が出てきたのだ。大西洋循環システムは、事実上、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。

     

    この大西洋循環システムが弱まり、運び届ける水量と熱量が減少していることが、異常気象の原因として問題になっている。最近、頻繁に映像に捉えられている高緯度の海上で溶けた氷床は、淡水となって海中に落ち込んでいる。これが、問題の出発点だ。

     

    海水は、真水と違い(温度が低いほど、また塩分が高いほど密度が高くなるため)、水温が低く塩分濃度が高い地点(北大西洋と南極海)において深層への沈み込みが起こる。ところが現在、温かく溶けた氷床は真水に近いので、密度が低いため海底に沈む力が弱まっているのだ。これらが、大西洋循環システムの流れを損ねている可能性があると指摘されている。異常気象の原因と見られる。


    (2)「英ブリストル大学のダニエラ・シュミット教授(地球学)は、「北大西洋でのこうした異常な気温は前例がない」と話した。一方、太平洋の熱帯地域では、エルニーニョ現象が発達してきている。エルニーニョ現象とは、南米沖で暖かい海水が海面まで上昇し、海全体に広がることで引き起こされる繰り返し起こる気象パターンを指す。大西洋と太平洋で共に熱波が起きているなら、今年4月と5月の海面水温が、英気象庁での1850年の観測開始以来最も高くなったことも、意外ではないのかもしれない」

     

    不幸なことに現在、太平洋の熱帯地域ではエルニーニョ現象が発達している。こうして、大西洋と太平洋で同時に熱波が起きている。世界の海面水温が、4~5月に1850年以来の最高温度になった。

     

    (3)「海が通常より暖かくなると、大気も暖かくなると、英エクセター大学のティム・レントン教授(気候変動専門)は話す。レントン教授によると、温室効果ガスによって閉じ込められた余分な熱は海面を温める。この熱は深海に向かって下向きに混合される傾向があるが、ちょうどエルニーニョ現象のように、海流によって再び水面に戻されることもある。「このようなことが起きると、熱の多くが大気中に放出され、気温が上昇していく」とレントン教授は説明した。この例外的な暑さを異常だと思うのは簡単だが、絶望的なことに、気候変動の結果、記録を更新するような高気温が普通になっているのが真実だ」

     

    温室効果ガスによって閉じ込められた熱は、海面を温めているのでこれが、大気中に放出されて気温が上昇する。大西洋循環システムが弱まっていることは、海水をかき混ぜる力が弱くなって海面を冷やす力が衰えるのだ。こういう流れができてしまった以上、簡単に「炎熱」から逃れられなくなっている現実を知って、温室効果ガスを早急に減らすことが前提になった。

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    ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするのだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られるというソロバン勘定である。

     

    1~5月の経常黒字は、前年同期比81.6%減の228億ドルであった。輸出とエネルギー収入の減少が重石になったもの。2023年の経常黒字は、ロシア中銀は660億ドル、経済省は866億ドルと予測している。いずれも、22年の2270億ドルから大幅な減少だ。ウクライナ侵攻で膨大な軍事費が掛る一方で、経常黒字は大幅な減少だ。こういう「懐事情」もあって、西側企業の資産を接収して売却益を狙う、姑息なことをはじめる。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月15日付)は、「ロシア、『言うことを聞かない』西側企業の資産を接収へ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は欧米からの制裁への報復手段を探るなか、「言うことを聞かない」西側企業の資産を差し押さえる権限を導入し、企業の撤退を難しくしようとしている。この件に詳しい関係者によると、ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。

     

    (1)「フィナンシャル・タイムズ(FT)が確認した機密扱いの大統領令は、西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするものだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られることになる。ペスコフ大統領補佐官はFTに対し、欧米の投資家と企業が従業員への給与の支払いを完全に停止したり、多額の損失を出しながら撤退を決めたりする企業もあると述べた。「自らの務めを果たさない企業は当然、言うことを聞かない企業の分類に入る。そうした企業とはさよならする。残った資産をどうするかは、我々が決めることだ」とペスコフ氏は語った」

     

    ロシアは、捨て鉢になっている。ここで気になるのは、中国の台湾侵攻の際に西側企業へこういう乱暴な行為をするであろうという連想である。中ロの一体化を考えると、あり得ないことではあるまい。

     

    (2)「西側企業のロシア撤退に関わった複数の人物は、ロシア政府は今回の行動で「パンドラの箱」を開けたことになり、国内経済に対する国の支配が強まるのは避けられないとみる。ロシア資産を売却中の企業の幹部は「国有化は必然だろう。時間の問題にすぎない。国は資金が必要だろうから」と述べた。国有化される前に「すり抜ける」つもりだというこの企業幹部は、ロシア政府は輸出収入で財政を支える手段をあれこれ模索しているため、最も影響を受けるのは1次産品を扱う企業だと考えている。逆に「経営が難しい」テック企業は影響を受けにくいだろうと話した

     

    テック企業のように扱いの難しい企業は、国有化を免れるであろう。だが、1次産品を扱う企業の接収は、業態が単純ゆえに接収対象にされやすいという。

     

    (3)「ロシアが2022年に本格的にウクライナに侵攻して以降、プーチン政権は西側企業の国有化について大統領令はこの2社のみが対象だった。ロシア政府はこの権限を数千もの西側企業に行使するか否かを決めるにあたっては、欧米が凍結しているロシア中央銀行の3000億ユーロ(約46兆円)規模の資産の行方を注視している。ロシアの経済政策当局者は、国内経済の幅広い業種で西側企業が果たしてきた重要な役割が失われることを危惧している」

     

    ロシア中銀は、凍結されているロシアの外貨準備高3000億ユーロが今後、どのように処理されるかを見ているという。EUでは、ウクライナの復興資金に充てるという説が有力だ。

     

    (4)「政府はエネルギー輸出収入が落ち込み軍事費が急増するなかで、新しい歳入源をみつけようと躍起にもなっている。ロシアの財政赤字は年初から420億ドル(約5兆9000億円)まで拡大した。22年12月に発表された現行法制では、西側企業は資産をロシア企業に売却するときは50%以上値引きすることや、取引価格の5〜10%を「自主的に」政府に寄付することが義務付けられている。中銀は、外国資本の流出でルーブルが下落し、国内投資家の活動が制限されるのではないかと懸念している。もっともシルアノフ財務相は歳入拡大の手段として、欧米企業の撤退を支持していると関係者らは話す」

     

    ロシア政府内部では、欧米企業の接収について異論もある。だが、膨らむ財政赤字の穴を埋めるべく、財源づくりで接収案以外にないのも事実。貧すれば鈍する、だ。

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    本欄では、世界の半導体市況の下落から世界経済の落込みを取り上げているが、いよいよその影響ははっきり確認できるようになってきた。この数十年間、半導体売上高の3カ月移動平均は世界経済のパフォーマンスとはっきりと高い相関関係を示している。現在は世界的なリセッション(景気後退)懸念により、半導体メーカーは投資計画の縮小を急いでいるところだ。

     

    世界の半導体売上高は4カ月連続で伸びが鈍化した。利上げと地政学的リスク増大で世界経済が圧迫されていることを示す新たな証拠となった。米半導体工業会(SIA)のデータによると、6月の半導体売上高は前年同月比13.3%増と、5月の18%増から鈍化した。4カ月連続は米中貿易摩擦が激化した2018年以来最長とされている。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月24日付)は、「
    世界経済に広がる警戒感、成長の落ち込み鮮明に」と題する記事を掲載した。

     

    欧米や日本の経済活動が収縮していることが、8月の最新データで鮮明になった。物価上昇で消費者需要がしぼみ、ウクライナの戦争でサプライチェーン(供給網)の混乱が続く中、世界の経済成長が急速に鈍化している様子が浮き彫りになっている。

     

    (1)「米国では8月の企業活動が大きく落ち込んだ。サービス業がけん引する形で幅広い分野で縮小し、製造業も鈍化した。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になったことがS&Pグローバルの調査で示された。S&Pグローバルが発表した8月の米総合購買担当者指数(PMI)速報値は45.0と、7月の47.7から低下した。低下は2カ月連続で、新型コロナウイルス流行初期の2020年5月以来の低水準となった。この指数は50を下回ると活動の縮小、上回ると拡大を示す。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスのシニアエコノミスト、シアン・ジョーンズ氏は「サービス業の新規受注が再び縮小の領域に落ち込み、製造業の新規受注も同様に需要不振だった。民間部門全体に暗い影が差している」と指摘した。」

     

    米国のPMIは、7月、8月と連続で50を割込んでいる。2020年5月以来の低水準である。高インフレや原料不足、輸送遅延、金利上昇などが企業活動の重荷になってきたからだ。

     


    (2)「欧州では2カ月連続で活動が縮小。暖房シーズンを前に、ロシアがすでに減らしている天然ガスの供給量を維持するかどうか見通せない中、エネルギー価格が一段と上昇している。S&Pグローバルが発表した8月のユーロ圏総合PMIは49.2と、7月の49.9から低下し、1年半ぶりの低水準になった。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下。一方、サービス業は50をわずかに上回った。新規受注は製造業・サービス業ともに減少し、先行きの落ち込みが示唆された。工場の売れ残り在庫は増加した。S&Pグローバルのエコノミスト、アンドリュー・ハーカー氏は「過剰在庫があるということは、製造業の生産が早期に改善する見込みがほぼないことを示唆している」と指摘した」

     

    欧州の総合PMIも、米国と同様に7月、8月と連続50を下回った。景況観の悪化を告げている。製造業部門の生産指数は3ヵ月連続で低下している。

     

    (3)「国別のPMIでは、ドイツが2020年6月以来の大幅な落ち込みとなった。フランスは、新型コロナウイルス流行が始まって以来初めて活動が縮小した。ただ、ドイツの製造業PMIは引き続き50を下回ったものの、7月からは回復した。ユーロ圏経済はロシアによるウクライナ侵攻で打撃を受けている。エネルギーと食料の価格高騰で家計の購買力が低下し、企業も逆風にさらされている。欧州大陸ではほぼ80年ぶりとなる大規模軍事衝突が長引いていることで、家計と企業の景況感も悪化している」

     

    欧州の国別PMIでは、主要国のドイツとフランスが50を下回っている。ただ、ドイツは7月から50を回復した。ロシアのウクライナ侵攻の影響が強く出ている。

     


    (4)「ただ今のところ、インフレ率の上昇がユーロ圏のコロナ禍からの回復を損なっている様子は見られない。米国に比べると回復ペースは遅いものの、これはおそらく行動制限の解除が米国より遅かったことが一因だ。2021年の大半を通じてなんらかの制限を維持していた域内地域が活動を再開し、4~6月期の経済成長を押し上げた。一方、米国は2四半期連続でマイナス成長に沈んだ。夏季の観光業がコロナ前の水準に戻りつつあるため、ユーロ圏の7~9月期の経済成長は緩やかに拡大する可能性がある。ただS&Pグローバルの調査では、8月に観光・レジャー業は活動が縮小した」

     

    米国GDPは、今年上期は2期連続のマイナス成長に落込んでいる。景気の定義から言えば「リセッション」だが、そういう声が聞かれないのも不思議と言えば不思議だ。いかに強気の経済観が支配的であるかを物語っている。

     


    (5)「こうしたことを踏まえると、ユーロ圏経済はすでに縮小している可能性がある。エネルギー価格の高騰が一段と家計を圧迫するため、10~12月期はマイナス成長が避けられないとの見方もある。縮小がどれくらい続き、どれほど深刻になるかは、家計への打撃の大きさと、エネルギー配給制が必要になって工場生産が減少するかどうかにかかっている」

     

    ユーロ経済圏が、縮小過程に入っていることを予想させている。10~12月期には、マイナス成長になるとの見方が強くなっている。

     

    (6)「バークレイズ銀行のエコノミストはユーロ圏の域内総生産(GDP)について、7~9月期に拡大した後、10~12月期と2023年1~3月期にはマイナス成長になると予想している。ただ顧客向けメモでは、天然ガスの確保を巡る不透明感を踏まえると、緩やかなリセッション(景気後退)という予想は「楽観的すぎるように見えつつある」と指摘した。S&Pグローバルによると、日本とオーストラリアでも、年初に新たなコロナ流行が発生して以来、企業活動が縮小した。低調な欧州と並んで、世界経済の成長鈍化を物語っている」

     

    バークレイズ銀行のエコノミストは、ユーロ圏で今年10~12月期と来年1~3月期のマイナス成長を予測している。欧米の景気の足取りは、次第にフラフラしていることが明らかになっている。警戒しておくべきだろう。

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    中国は、米中対立の緩衝地帯として欧州に期待を賭けてきた。ドイツには、親中・親ロのメルケル前首相が存在したので、欧州との関係をつなぎとめられると考えてきた節がある。そのメルケル氏は、昨年末で政界を引退している。もはや、中国と欧州を結ぶ「吊り橋」はないも同然になっている。中国には、その認識が希薄である。

     

    『日本経済新聞』(6月4日付)は、「中国と欧州『断絶避ける道筋』」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米クレアモント・マッケナ大学教授ミンシン・ペイ氏である。

     

    中国の対米戦略の重要な柱は欧州の中立を維持することだった。欧州と中国はしばしば衝突しても互いを存亡に関わる脅威とはみなしていない。両者の関係に障害はあるにせよ、欧州で中国との「デカップリング(分離)」を口にする向きはほとんどいなかった。

     


    (1)「欧州連合(EU)と中国との安定した関係は、壊れつつある。中国による新疆ウイグル自治区の少数民族の扱いや香港の自治終了を巡る対立により、中国とEUの関係はかつてないほど悪化した。ロシアのウクライナ侵攻がこれにとどめを刺した。2月末にプーチン大統領が装甲車の車列をウクライナに送り込んだことで、米国が率いる反中連合に欧州が組み込まれないという中国の願望は打ち砕かれた」

     

    このパラグラフは、中国政府が新疆ウイグル族弾圧という「人類への犯罪」を犯している認識が希薄である。5月中旬に漏出した大量の極秘資料で、ウイグル族弾圧が習氏の指示であることが明らかにされている。欧州は、人権尊重(民主主義)の発祥地である。中国政府を許すと見るのは、余りにも楽観的と言わざるを得ない。

     


    (2)「この戦争は、欧米の絆を揺るぎないものにした。そして、中ロの連携が欧州と中国の関係に修復不可能な打撃を与えている今、中国が直面する課題はEUとの完全な断絶をどのように回避するかだ。習近平国家主席にとっての救いは、損害を最小限にとどめるために行動するチャンスがわずかに残されていることだ」

     

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対して「反対意思」を示さずにいる。逆に、NATO(北大西洋条約機構)や米国を非難している。中国が、自らの意思で欧州との関係を切っているようなものである。新疆ウイグル族弾圧の真相暴露も加わり、中国には欧州との関係を繋ぎ止められるチャンスは消えたのだ。

     


    (3)「EUの目先の優先課題はウクライナ戦争の終結であり、対中関係をさらに悪化させる一歩を踏み出す可能性は低い。そうすれば中国がさらにロシア寄りの姿勢を強めることになるからだ。つまり、ロシアとウクライナの戦争が膠着状態に陥りつつある今、中国と欧州は戦争の段階的縮小に動くという共通点を見いだせるかもしれない。停戦と和平交渉が進めば第2次大戦以降の欧州で最悪の人道的惨事を終結させられる。中国がロシアへの影響力を利用して外交的解決を図ることができれば、欧州からの好意も得られる」

     

    中国の最大目標は、世界覇権を握ることだ。それには、ロシアを必要とする。欧州は、こういう中国の覇権戦略において「助っ人」になる訳でない。こういう道筋を考えれば、中国がロシアより欧州を選ぶことなどあり得ない話だ。中国が、ウクライナ侵攻で仲裁役に立つ可能性があるだろうか。余りにもロシア側へ偏り過ぎている。

     

    (4)「欧州は、米国よりはるかに経済のグローバル化が進んでいる。したがって、欧州にとって中国との分断は、米国よりも高くつく。この点も中国には有利に働くかもしれない。欧州企業が完全に中国との絆を断ち切るのは、各国政府から直接の政治的圧力を受けた場合だけだろう。新型コロナウイルスに対する中国のゼロコロナ政策はEUとの貿易を混乱させている。習氏はコストがかさむこの政策を大幅に緩和することで、欧州企業が撤退するような事態を避けられる」

     

    欧州は、「価値外交」に目覚めている。ドイツは、新疆ウイグル族問題で、中国への投資を禁じる方向を模索している。こうして、対中投資は対米投資へ向かうという観測が出てきた。ウイグル族問題を軽く見ては間違うだろう。ドイツは、ナチスのユダヤ人虐殺で永遠の十字架を背負っている国だ。ウイグル族弾圧は、「第二のナチス犯罪」である。率先して「脱中国」をしなければならない立場である。

     


    (5)「外交面では、人権問題への欧州の批判に対して威嚇するような態度をみせることを中国は控えた方がいい。この問題での欧州の控えめな制裁に対する非生産的な報復もやめるべきだろう。このように中国は欧州との関係悪化を短期的に和らげることはできる。しかし習氏は米中の間でEUが中立を保つのは無理かもしれないとも認識する必要がある。ウクライナ戦争で欧米の同盟関係が活性化したことで、米国が中国封じ込めに欧州の同盟国を巻き込むことは容易になった」

     

    秘密文章流出で、ウイグル族弾圧の真相が暴露された以上、ドイツ政府は中国に対して敢然と立ち向かわなければならぬ立場である。

     


    (6)「中国の指導者たちは、欧州との関係修復を断念したくなるかもしれない。しかし、中国を巡る欧州と米国の立場には、安全保障と気候変動の分野ではかなりの隔たりがある。欧州が中国に抱くイメージはかなり悪いが、米国よりは好意的であることを世論調査は示している。最も重要なのは、トランプ前米大統領や彼の直系が米国の次期大統領になれば、欧州の指導者の多くは米国を支持しなくなるかもしれない。中国は、欧州の中立を期待できないにせよ、関係の完全な崩壊を防ぐことはできる」

     

    ここで取り上げられている世論調査結果は、昨年に実施されたものであろう。現在、行なったとすれば異なる結果が出ているはずだ。次期米大統領に、トランプ再選を期待するとは噴飯物。語るに落ちたと言うほかない。

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    習近平氏の「唯我独尊」ぶりは、中国国内でも持て余しているだろうが、欧米企業にとっては抜き差しならぬ「嫌悪感」となってきた。余りにもかけ離れた価値観に拘泥しているからだ。外資企業は、中国国内での投資拡大に慎重であるだけでなく、撤退すら検討し始めている。

     

    中国国内では、大真面目になって「ゼロコロナ政策」に従っている。その理由は、防疫設備が不完全であり、「ウイズコロナ」になれば、100万人単位の死亡者が出るというのである。それだけ、国内の医療防疫体制整備を怠り、軍事費へ厖大な資金をつぎ込んできたことを物語っている。「ゼロコロナ」は、中国の抱える問題点の集中的表現である。世界覇権を狙えるような実力は、もともと端からないのだ。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(5月21日付)は、「企業の中国進出、曲がり角 西側と軍事対立の観測も」と題する記事を掲載した。

     

    外国企業による中国への直接投資は今、崖っぷちから転落しそうだ。在中国の欧州連合(EU)商工会議所のイエルク・ブトケ会頭は様々な事態が予測不能になってしまったことで、欧州企業各社は中国への投資に「待った」をかけていると言う。

     

    (1)「在中国の欧州連合商工会議所が、今月発表した会員企業約1800社を対象とした意識調査の結果によると、「中国で執行中または計画中の投資の中止を検討していると回答した会員企業は過去最高の23%に上った。さらに77%が将来の投資先としての中国の魅力度は低下したと回答した」。ブトケ氏はこの点を説明したうえで「会員企業の多くは、中国への投資はしばらく様子をみてから判断する状況にあるということだ」と話す」

     


    在中国の欧州連合商工会議所の調査によれば、調査対象の23%は「執行中または計画中の投資の中止を検討中」。77%は、「将来の投資先としての中国の魅力度は低下した」と回答した。つまり、全企業が中国市場を見限り始めている。これは、重大な事実である。

     

    (2)「中国に対する悲観論は米企業の間にも広がっている。在中国米商工会議所のマイケル・ハート会頭はこう警告する。外国人の幹部が自社の中国事業を視察するために入国しようとする際に生じる負担、つまり予期せぬ国際線の欠航や、ビザを得るための複雑なプロセス、入国後の長期の隔離期間が原因で、「今後2~4年」は中国への投資が「大幅に低下」する恐れがある、と」

     

    在中国米商工会議所も、「今後2~4年は中国への投資が大幅に低下する恐れ」と指摘している。これも、中国には痛手である。

     

    (3)「上海を含む中国各地で何週間も自宅に閉じ込められている多くの海外企業の駐在員とその家族は、その間に味わってきた絶望と苦悩から、できるだけ早く中国から出国したいと考えているという。在中国ドイツ商工会議所が今月発表した調査では、中国に赴任中の社員の3割近くが中国を離れる予定だと回答した。こうしたことが積み重なれば、世界経済の在り方が今後、根本的に変わる可能性がある。売り上げの拡大を狙う多国籍企業はこれまで何十年も中国を海外の生産拠点として、あるいは世界最大の新興市場として最も重視してきた」

     

    在中国ドイツ商工会議所が今月発表した調査では、「中国赴任中の社員3割近くが、帰国予定だと回答」している。これまで多国籍企業は、中国市場を世界最大として重視してきた。現在、その期待はすでに消え失せている。

     


    (4)
    国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計では2020年に、外国企業による新規直接投資先として中国が米国を抜きトップになった。だが、ここへ来て中国への投資は拡大するどころか、減少に転じそうだ。海外直接投資に関するデータを提供するフィナンシャル・タイムズ(FT)のfDiマーケットによると、外国企業が現地法人を設立して工場や販路を一から作る「グリーンフィールド投資」の四半期ごとの総額(計画を含む)は今年13月期、03年に統計を取り始めて以来、過去最低を記録した」

     

    外国企業が、中国で現地法人を設立して工場や販路を一から作る「グリーンフィールド投資」の四半期ごとの総額(計画を含む)は、今年13月期に03年に統計を取り始めて以来、最低を記録した。これが、一時的な現象か。あるいは今後の停滞の初期か。注目される。

     


    (5)「米調査会社ロジウム・グループのデータも同様の傾向を示している。EU企業による中国への海外からの直接投資(FDI)額は、長期にわたり計画されてきたある1件の企業買収によって押し上げられているものの、新規のグリーンフィールド投資総額はここ数年で最低の水準に落ち込んでいる。ロジウムのアナリスト、マーク・ウィツキ氏は「花は盛りを過ぎた」とした上で、中国政府が発表する公式のFDIデータには、多国籍企業の中国での収益も投資とみなすなど実態がかさ上げされていると指摘する

     

    下線のような、FDI(対内直接投資)データでは、「嵩上げした」と見られる記事が現れている。「1~4月には、中国全土の実行ベース外資導入額が前年同期比20.5%増の4786億1000万元に達した。中国の外資導入構造は最適化が続き、中国市場は海外資本に対して力強く大きな魅力を持っている」(『人民網』5月27日付)

     

    現実には、大幅な資本流出が起こっており、今年の純流出は3000億ドルとの予測も発表されているのだ。上記のような、1~4月にFDIで20.5%増は、眉唾モノである。

     


    (6)「米中貿易戦争の摩擦を理由に、生産拠点を中国からベトナムやマレーシアなど東南アジアの国や地域、中南米、東欧に移す多国籍企業も急増している。加えてロシアを非難しない中国を前に、各社の間では中国もいずれ西側諸国と軍事的に対立しかねないという懸念が生じている。中国に進出している企業は、「EUと中国の関係が悪化した場合のリスクをどう軽減するかを真剣に考えざるを得ない状況」に追い込まれていると指摘する」

     

    中国の地政学的リスクを計算する企業が増えている。米中対立それ自体が、中国リスクを高める結果になっている。中国が、台湾侵攻を声高に言い出せば、そのリスクが一段と高まるに違いない。

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