化石燃料による温室効果ガス排出の引き起こした気候変動が、北半球全域で夏の熱波の激しさと期間を増幅させている。地球のかなりの部分は、もうすぐ人の住めない場所になりかねないとの懸念が警告されている。
異常高温が、ギリシャのほか、スペイン、ポルトガル、イタリア、ブルガリア、ルーマニアなど欧州の南部や南東部の国々を襲っている。気温上昇と降雨減少で山火事が増え、砂漠化しやすくなっている。今後、温室効果ガス排出で地球温暖化が進む限り、こうした傾向は続くと予測される事態になった。
英『BBC』(7月18日付)は、「なぜ今年の夏はこんなに暑いのか、世界各地で最高気温を更新」と題する解説記事を掲載した。
英国では、6月の気温が観測史上最高を記録しただけでなく、文字通り破られた。今年6月の気温は、1940年の最高記録からさらに0.9度高かった。この差は非常に大きい。北アフリカや中東、アジアも同様に、これまでにない暑さに襲われている。ヨーロッパ中期予報センターが、今年の6月は史上最高に暑い月だったと見方を発表したのも、当然のように思える。
(1)「英国気象庁と英エクセター大学の気象科学者、リチャード・ベッツ教授は、これらの記録は気候モデルの予測に則したものだと話す。「世界の気温が高いのは意外でもなんでもない」と、ベッツ教授は話した。「ずっと前から分かっていたことを、あらためて確認しているだけだ。大気中の温室効果ガスを増やすのを止めない限り、極端な現象は増え続けるだろう」。暑さについて考える時、私たちは日常で経験している大気の温度を考えがちだ。しかし、地表面の熱の大半は大気ではなく、海に蓄積されている。今年の春から夏にかけて、海水温も記録を更新している。たとえば北大西洋では現在、水面の温度が観測史上最も高くなっている。この海の熱波は特に英国周辺で顕著になっており、例年の水温から5度近くも上昇している場所もあるという」
なぜ、水温が5度も高くなっているのか。これは、大西洋の広範囲にわたって循環する海流に異変が起っている結果である。こういう研究成果が出てきたのだ。大西洋循環システムは、事実上、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。
この大西洋循環システムが弱まり、運び届ける水量と熱量が減少していることが、異常気象の原因として問題になっている。最近、頻繁に映像に捉えられている高緯度の海上で溶けた氷床は、淡水となって海中に落ち込んでいる。これが、問題の出発点だ。
海水は、真水と違い(温度が低いほど、また塩分が高いほど密度が高くなるため)、水温が低く塩分濃度が高い地点(北大西洋と南極海)において深層への沈み込みが起こる。ところが現在、温かく溶けた氷床は真水に近いので、密度が低いため海底に沈む力が弱まっているのだ。これらが、大西洋循環システムの流れを損ねている可能性があると指摘されている。異常気象の原因と見られる。
(2)「英ブリストル大学のダニエラ・シュミット教授(地球学)は、「北大西洋でのこうした異常な気温は前例がない」と話した。一方、太平洋の熱帯地域では、エルニーニョ現象が発達してきている。エルニーニョ現象とは、南米沖で暖かい海水が海面まで上昇し、海全体に広がることで引き起こされる繰り返し起こる気象パターンを指す。大西洋と太平洋で共に熱波が起きているなら、今年4月と5月の海面水温が、英気象庁での1850年の観測開始以来最も高くなったことも、意外ではないのかもしれない」
不幸なことに現在、太平洋の熱帯地域ではエルニーニョ現象が発達している。こうして、大西洋と太平洋で同時に熱波が起きている。世界の海面水温が、4~5月に1850年以来の最高温度になった。
(3)「海が通常より暖かくなると、大気も暖かくなると、英エクセター大学のティム・レントン教授(気候変動専門)は話す。レントン教授によると、温室効果ガスによって閉じ込められた余分な熱は海面を温める。この熱は深海に向かって下向きに混合される傾向があるが、ちょうどエルニーニョ現象のように、海流によって再び水面に戻されることもある。「このようなことが起きると、熱の多くが大気中に放出され、気温が上昇していく」とレントン教授は説明した。この例外的な暑さを異常だと思うのは簡単だが、絶望的なことに、気候変動の結果、記録を更新するような高気温が普通になっているのが真実だ」
温室効果ガスによって閉じ込められた熱は、海面を温めているのでこれが、大気中に放出されて気温が上昇する。大西洋循環システムが弱まっていることは、海水をかき混ぜる力が弱くなって海面を冷やす力が衰えるのだ。こういう流れができてしまった以上、簡単に「炎熱」から逃れられなくなっている現実を知って、温室効果ガスを早急に減らすことが前提になった。