ドル建てロシア国債の元利金支払問題は、4月初めから紛議の種になってきた。世界の大手金融機関でつくるクレジットデリバティブ決定委員会は6月1日、ロシア国債が「支払い不履行」に陥ったとの判断を示して、デフォルト扱いとなった。
ロシアは、ドルを保有しているものの西側諸国による経済制裁で、ドルを支払えないとの理由でルーブル払いを主張した。だが、米財務省は5月下旬まで特別措置によって、米銀に対してドル建てロシア国債の元利払いを認めていた。ロシアは、これを無視してルーブル払いに固執したものの、最後にドル払いに切り変えた。ただ、ロシアはこの間の支払い遅延分の利息を払わなかったことで、最終的に「デフォルト」と判定されることになった。これによりロシアは今後、海外で一切の国債発行が不可能になる。
ロシア国債は、ルーブル建てで1998年の財政危機時に、デフォルトへ陥ったことがある。外貨建てでデフォルトとなれば、ロシア革命直後に債務不払いを宣言した1918年以来1世紀ぶりだ。デフォルトは、対外的には「禁治産者」扱いになる。
『日本経済新聞 電子版』(6月2日付)は、「ロシア国債、早まった異例の『不履行』 孤立を象徴」と題する記事を掲載した。
世界の大手金融機関でつくるクレジットデリバティブ決定委員会は1日、ロシア国債が「支払い不履行」に陥ったとの判断を示した。猶予期間中に遅れて償還されたドル建て債について、約1カ月分の延滞利息が上乗せして払われなかったとして保有者が判断を求めていた。当該国債はデフォルト(債務不履行)として処理されるとみられ、7月にも想定されていた「Xデー」は異例な形で早まった。
(1)「決定委員会は銀行や資産運用会社などが参加する民間の集まりだ。信用リスクをやり取りするクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で、関連する債務にデフォルトの事象が起きたかなどを決める役割がある。問題になったのは4月4日に満期を迎えた国債だった。ロシア側は米国の銀行にあるドルで元本と利息を払おうとしたが、米政府が認めなかったため金融機関が手続きを拒んだ。ロシア財務省は代わりにルーブルで払うといったん宣言した。30日の猶予期間が切れる間際の5月上旬に結局ドルで返され、デフォルトは回避されたとみられていた」
このパラグラフの説明は正しくない。私が冒頭で行なったコメントが正しい。ロシアが、ルーブルで元利金を支払うと言ったことが発端である。米財務省は、5月下旬まで米国の金融機関にロシア国債の元利金支払い業務を認めていたからだ。
(2)「これに対し一部の保有者が、当初の期日を過ぎた猶予中の利息およそ190万ドル(約2億4000万円)が支払われておらず、デフォルトにあたるとして審査を求めた。決定委員会は「支払い不履行のクレジットイベント(信用事由)が発生したか」について検討した。詳しい討議内容や理由は明らかにしていないが、公表文によると参加した13社のうち米シティバンクを除く12社が「発生した」に投票した。信用事由と判断されたことで、当該債を対象とするCDSの取引で保険の売り手から買い手に補償が発生する。その清算に向けた手続きが今後始まるとみられる」
下線のように、ロシア財務省は支払い猶予期間中の利息を支払わなかったことが、デフォルト原因にされた。いずれにしても、米国財務省は現在、米金融機関に対してロシア国債の元利金支払い業務を禁止している。ロシア国債がデフォルトになるのは、時間の問題であった。
(3)「ロシア当局からの元利金の受け取りを認める米政府の特例は5月下旬で失効し、今後の利払いがデフォルトになるのは時間の問題と考えられていた。ロシア国債は既に不履行を織り込んだ価格で取引されている。参照するCDSも取引規模は比較的小さいうえ投資家の対応が進んでおり、金融市場への影響はほぼないとみられている。1日のルーブル相場にも目立った反応はなかった」
ロシア財務省は、ロシア国債保有者の銀行口座へ直接、元利金を支払うことを検討している。デフォルトになっても、最後まで責任を果たす姿勢を見せている。
(4)「今回の「不履行」は2つの点で特異といえる。債務者のロシア政府は支払う意思があると繰り返し強調し、豊富な外貨準備を抱えて能力にも問題はなかったが、欧米の制裁で手続きが阻まれた。曲折を経て猶予期間中に元利金が支払われたものの、その間の延滞利息をめぐって不履行かどうかが争われたのも異例だ」
西側諸国は、ロシア国債を早くデフォルトに追い込み、国際金融市場からの追出しを狙っていた。それが、経済制裁の趣旨に合うというのが理由である。
(5)「ロシアは国際金融市場からすでに事実上締め出され、外部からの新たな資金調達は不可能になっている。デフォルトに陥っても当面の状況が変わるわけではないが、みずほ銀行欧州資金部の本多秀俊氏は「5~10年、場合によっては一世代にわたり西側の金融から切り離される可能性がある」と話す。国際市場への復帰がさらに遠のく、ロシアの金融孤立を象徴するイベントとなる」
西側諸国は、海外資本市場でロシア国債の発行をさせない。そういう強い意志を持っている。今後、半永久的な発行阻止を狙っているようだ。