ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするのだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られるというソロバン勘定である。
1~5月の経常黒字は、前年同期比81.6%減の228億ドルであった。輸出とエネルギー収入の減少が重石になったもの。2023年の経常黒字は、ロシア中銀は660億ドル、経済省は866億ドルと予測している。いずれも、22年の2270億ドルから大幅な減少だ。ウクライナ侵攻で膨大な軍事費が掛る一方で、経常黒字は大幅な減少だ。こういう「懐事情」もあって、西側企業の資産を接収して売却益を狙う、姑息なことをはじめる。
『フィナンシャル・タイムズ』(6月15日付)は、「ロシア、『言うことを聞かない』西側企業の資産を接収へ」と題する記事を掲載した。
ロシアのプーチン大統領は欧米からの制裁への報復手段を探るなか、「言うことを聞かない」西側企業の資産を差し押さえる権限を導入し、企業の撤退を難しくしようとしている。この件に詳しい関係者によると、ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。
(1)「フィナンシャル・タイムズ(FT)が確認した機密扱いの大統領令は、西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするものだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られることになる。ペスコフ大統領補佐官はFTに対し、欧米の投資家と企業が従業員への給与の支払いを完全に停止したり、多額の損失を出しながら撤退を決めたりする企業もあると述べた。「自らの務めを果たさない企業は当然、言うことを聞かない企業の分類に入る。そうした企業とはさよならする。残った資産をどうするかは、我々が決めることだ」とペスコフ氏は語った」
ロシアは、捨て鉢になっている。ここで気になるのは、中国の台湾侵攻の際に西側企業へこういう乱暴な行為をするであろうという連想である。中ロの一体化を考えると、あり得ないことではあるまい。
(2)「西側企業のロシア撤退に関わった複数の人物は、ロシア政府は今回の行動で「パンドラの箱」を開けたことになり、国内経済に対する国の支配が強まるのは避けられないとみる。ロシア資産を売却中の企業の幹部は「国有化は必然だろう。時間の問題にすぎない。国は資金が必要だろうから」と述べた。国有化される前に「すり抜ける」つもりだというこの企業幹部は、ロシア政府は輸出収入で財政を支える手段をあれこれ模索しているため、最も影響を受けるのは1次産品を扱う企業だと考えている。逆に「経営が難しい」テック企業は影響を受けにくいだろうと話した」
テック企業のように扱いの難しい企業は、国有化を免れるであろう。だが、1次産品を扱う企業の接収は、業態が単純ゆえに接収対象にされやすいという。
(3)「ロシアが2022年に本格的にウクライナに侵攻して以降、プーチン政権は西側企業の国有化について大統領令はこの2社のみが対象だった。ロシア政府はこの権限を数千もの西側企業に行使するか否かを決めるにあたっては、欧米が凍結しているロシア中央銀行の3000億ユーロ(約46兆円)規模の資産の行方を注視している。ロシアの経済政策当局者は、国内経済の幅広い業種で西側企業が果たしてきた重要な役割が失われることを危惧している」
ロシア中銀は、凍結されているロシアの外貨準備高3000億ユーロが今後、どのように処理されるかを見ているという。EUでは、ウクライナの復興資金に充てるという説が有力だ。
(4)「政府はエネルギー輸出収入が落ち込み軍事費が急増するなかで、新しい歳入源をみつけようと躍起にもなっている。ロシアの財政赤字は年初から420億ドル(約5兆9000億円)まで拡大した。22年12月に発表された現行法制では、西側企業は資産をロシア企業に売却するときは50%以上値引きすることや、取引価格の5〜10%を「自主的に」政府に寄付することが義務付けられている。中銀は、外国資本の流出でルーブルが下落し、国内投資家の活動が制限されるのではないかと懸念している。もっともシルアノフ財務相は歳入拡大の手段として、欧米企業の撤退を支持していると関係者らは話す」
ロシア政府内部では、欧米企業の接収について異論もある。だが、膨らむ財政赤字の穴を埋めるべく、財源づくりで接収案以外にないのも事実。貧すれば鈍する、だ。