勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

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    米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日の記者会見で、「ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう」と指摘した。その上で「ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある」と述べ、攻勢に出ているウクライナにとっては交渉の好機だとの考えを示した。

     

    ミリー氏は、「冬将軍」の到来で、勢いに乗るウクライナ軍も思うに任せた作戦が不可能になろう、と推測している。この冬将軍は、ウクライナ軍とロシア軍へ「平等」な重荷となるが、ウクライナ軍のほうが有利な戦いをするだろうという専門家の意見を紹介したい。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(11月17日付)は、「冬将軍はウクライナに味方する」―専門家」と題する記事を掲載した。

     

    ヨーロッパは本格的な冬を迎えつつある。厳寒期のウクライナでは、ロシア、ウクライナ両軍が苦戦を迫られることになる。寒さ以上に凍結が兵士たちを苦しめるだろう。気温低下と日照時間の短縮は、ロシア軍にとっても障害となる。日照時間が短くなると負傷兵を救出できる時間が短くなる、氷点下で兵器の不具合が起きやすくなることなど、厳冬の到来はロシア・ウクライナ両軍を手こずらせるだろう。英国防省は11月14日朝、ツイッターの公式アカウントに厳寒期に両軍が直面する問題を詳述した情報機関のリポートを掲載した。以下はその要旨。

     

    (1)「冬を迎えることで戦闘の条件は変化する。日照時間、気温、天候の変化で、前線の兵士たちはこの季節特有の困難な状況に直面することになる。ロシア参謀本部は冬の気象状況を考慮に入れてあらゆる決定を下すことになるだろう」と、リポートは述べている。夏の間は1日15、16時間だった欧州大陸の日照時間は、平均9時間足らずになる。それにより、両軍とも支配地域拡大のための攻撃から、前線を守るための防衛へと、戦略をシフトさせることになると、リポートは指摘している」

     

    欧州の冬の日照時間は短い。昼間の戦闘が中心になろうから、両軍ともに戦略の知恵を絞った攻撃を展開するはずだ。冬季の睡眠ではない。

     

    (2)「米シンクタンク・戦略国際問題研究所の上級顧問、マーク・カンチアンは極寒期にも戦闘は続くとみている。「そもそもこの戦争が勃発したのはまだ寒さが続く2月24日だ。それに第2次大戦ではソ連軍は冬の間も日常的に攻勢に打って出ていた」と、本誌宛のメールでカンチアンは指摘した。「寒い時期には、戦闘が集落の周辺に集中する傾向がある。そのほうが兵士たちは暖をとりやすいからだ。また短い日照時間に戦闘が集中することにもなる。今は暗視ゴーグルがあるから、夜間の作戦行動も可能だが、両軍とも兵士の訓練レベルはさほど高くない。夜間の作戦遂行には高度なスキルが求められる」。リポートによれば、暗視装置は「貴重な装備品」であり、両軍とも夜間の攻撃を仕掛けることには及び腰だという」

     

    ロシア軍がヘルソン市を撤退したのは、「冬将軍」到来を考えれば賢明な策である。兵站で大きな打撃を被ったロシア軍が、「丸裸」状態でウクライナ軍と対峙するのは自殺行為であるからだ。

     

    (3)「12月以降の数カ月、ウクライナでは平均気温が0度近くか氷点下まで下がる日々が続く。戦闘での負傷に加え、凍傷、低体温症なども兵士たちを苦しめるだろう。「しかも、重傷を負った兵士を救出できる時間帯がざっと半分に減り、救出中に敵に遭遇する危険性も高まる」と、リポートは述べている。気温低下で兵器の不具合も増える。部隊が戦闘を終えて拠点に戻ると、兵器は比較的暖かいシェルターに収められる」

     

    ウクライナ軍は、NATOからの支援で防寒具も完備している。一方のロシア軍は不足しているという。むしろ、ウクライナ軍が冬将軍を利用した形で、ロシア軍へ圧迫を加えるという見方を取り上げたい。

     

    「次の激戦地になるとみられるのは、東部ドンバス地方のドネツク州付近、特にバフムト、アウディーイウカの周辺と、南部の戦略的要衝メリトポリとマリウポリへとつながる一帯だ。ドネツクでは、すでに集中的な砲撃や近接戦闘で両軍が激しくぶつかり合っている」。『フィナンシャル・タイムズ』(11月16日付)は、次の攻防戦をこのように推測してみせるのだ。

     

    (4)「急激な温度の変化で、機械の内部に結露が生じ、兵器が再び野外に持ち出されたときに、それが凍結して、動かなくなることがあると、米軍の情報サイト、ミリタリー・ドットコムと米陸軍の報道資料は述べている。こうした冬特有の問題は両軍を悩ませるが、うまく対処すれば戦況を有利に持ち込める可能性もある。「ウクライナ軍が有利になるだろう。補給がまずまず機能しており、アメリカはじめNATOが寒冷地仕様の装備を提供しているからだ」と、カンチアンは言う。「ロシア軍は冬の実戦経験を豊富に積んでいるが、兵站が脆弱な状況では、培われたスキルや戦法を生かしきれない」。アメリカ・カトリック大学の歴史学部長で、冷戦史と米ロ関係の専門家であるマイケル・キメジ教授も冬への備えではウクライナに分があるとみている。」

     

    ウクライナ軍が有利という読みだ。地元だけに、国民からの圧倒的な支援を受けられる。ロシア軍は占領地での「冬将軍」襲来である。この差は大きいのだ。

     

     

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    ロシアのプーチン大統領は14日、ロシアにはウクライナを破滅させる意図はなく、大部分の標的をすでに攻撃したため、ウクライナに対する新たな「大規模攻撃」の必要はもはやないと述べた。

     

    この裏には、NATO(北大西洋条約機構)が、最新鋭防空システムをウクライナへ提供すると発表したことで、無差別攻撃しても無駄と判断したのであろう。今回の防空兵器提供は、新たに英国、カナダ、フランス、オランダが公約した。米国もこれまでに、同様の約束をしている。ドイツからはすでに、ハイテク防空システムがウクライナに運び込まれている。ウクライナのゼレンスキー大統領は数カ月前から、「空の盾」を作るとして、防空システムの提供を同盟国に求めていた。これで、念願が叶う。

     


    英国『BBC』(10月15日付)は、「プーチン氏『ウクライナへの大規模攻撃は当面行わず』大半の標的は攻撃済みと」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻してから8カ月近くが経過したいま、ウクライナ軍は前進し、ロシア軍はもっぱら撤退を余儀なくされている。

     

    (1)「プーチン氏は、カザフスタンの首都アスタナで開かれたアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)への出席後、ロシア軍が設定したウクライナ国内の29の目標のうち22の目標を直近の攻撃で破壊し、残りの7目標についても「到達しつつある」と記者団に述べた。「大規模な攻撃は必要ない。我々にはいま、ほかの任務がある」と述べた」

     


    ロシア軍は、設定したウクライナ国内の29の目標のうち、22の目標を直近の攻撃で破壊したと発言。無差別攻撃でないと言いたい口ぶりだ。だが、民間人が殺傷されている以上、無差別攻撃の汚名は免れまい。

     

    プーチン氏は、綿密な攻撃計画が終わったと言いたげである。だが、NATOは結束して最新鋭防空システムをウクライナへ提供することで、今後の無差別攻撃が無駄になることが分かったのだ。早手回しに、無差別攻撃を切り上げざるを得なくなったに違いない。

     

    (2)「ロシアは10日、ウクライナ各地の都市に対する攻撃を開始した。プーチン氏は攻撃について、ロシアと2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島を結ぶ重要な橋で爆発があったことへの報復だとしている。ウクライナは橋の爆発への関与を認めていない」

     

    ロシア政府は14日、先週の爆発で損傷したクリミア橋について、来年7月までに修復を完了させるよう関連企業に命じた。クリミア橋爆発については、多くの疑問が寄せられている。事件後4日で、犯人や潜入ルートを発表している当り、「偽情報」の臭いが漂っているのだ。

     


    (3)「ロシアによるウクライナ各地への砲撃で、これまでに少なくとも19人が死亡し、負傷者は100人を超えている。電力施設などインフラも被害を受けた。侵攻開始以来、キーウ中心部が標的となるのは初めて。ところがプーチン氏は、ロシアにはウクライナを破滅させる意図はないと述べた」

     

    プーチン氏は、ロシアにはウクライナを破滅させる意図はないと述べた。この裏には、国際社会での孤立がある。国連総会で、ロシアのウクライナ4州の併合は、143ヶ国の反対投票があった。無効であり認めないとしている。ロシアにとって、逆風が吹いている。これで、ロシアの「核投下」という事態になったら、完全に孤立させられるであろう。

     


    (4)「ただ、(ウクライナ)侵攻を後悔しているわけでもないとした。「今日起きていることは、控えめに言っても気持ちのいいものではない」とプーチン氏は述べた。「しかし、それでもやはり(ロシアが攻撃しなければ)我々は同じ状況にあっただろうし、我々にとって条件はさらに悪くなっていただろう。だから我々はあらゆることを適切なタイミングで正しく行っている」と述べた」

     

    随分と身勝手な理屈である。中国が、台湾侵攻する際にも、習氏はこういう台詞を言うのであろう。「台湾は、中国本土と一体であり、それを実現するだけ」と、民主主義への圧殺をこともなげに言い放つ姿が想像できるのだ。

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    9月16日の上海協力機構(SCO)会議で、プーチン氏と習氏との会談を映像で見ると異様な雰囲気を感じさせるものだった。殺気立ったプーチン氏と、困惑する習氏の表情が対照的であったのだ。習氏は、SCOの夕食会に出席せず北京へ帰ったのである。

     

    中ロ枢軸と言われる両国の関係は今や、今年2月4日に見せた「限りない友情」という華やかなムードを醸していないのだ。中国は、ロシアに対して不信感を持ち始めたようである。インドのモディ氏は、プーチン氏へ「今は戦争をしているときでない」と明確に批判する事態となった。プーチン氏は、中印から揃って「ウクライナ侵攻」への批判を受ける側に立たされている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ 電子版』(9月19日付)は、「モディ氏と習氏 プーチン氏と距離を置く発言」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、中国とインドがプーチン大統領に対して懸念を表明したことで、この戦争に対する世界の見方が変りつつあるとの観測が欧米当局者の間で広がっている。ウクライナ侵攻後、非西側諸国との間で結束を高めようとしているプーチン氏にとって国際的影響力の低下は打撃となる。

     

    (1)「ある欧州高官は、こうした中国やインドの発言を「不快感を純粋、明確に示唆している」と受け止めており、インドと中国が今後、ロシア及び西側諸国への対応を変える可能性があると語った。ある大臣は、発言をロシアに対する「実質的な批判」と理解しているとフィナンシャル・タイムズ紙に対し語った。「特にモディ氏の発言だ。彼は今の事態に不満を持っていると思う」と述べた。モディ氏はプーチン氏に「今は戦争の時ではない」と苦言を呈した。プーチン氏は同氏に「現状が一刻も早く終わるよう全力を尽くす」と約束し、インド側から「これまで継続的に表明されてきた懸念」に言及した。その前には、プーチン氏は公の発言で、習氏が戦争を「懸念」していることを認めた」

     

    習氏とモディ氏によるプーチン氏への発言は今後、プーチン氏の行動へ一定の影響を与えることが考えられる。とくに、ロシアがウクライナで戦略核を使用した場合、ロシアは「仲間内」から外される恐れも出るだろう。その意味で、レッドラインを越させない効果はあるように思う。

     


    (2)「こうして、中ロ主導の地域協力組織「上海協力機構(SCO)」の会議における首脳同氏のやり取りは、対ロシア制裁に加わっていない2大経済大国がウクライナ侵攻に対する懸念を最も公の形で表明する場となった。米国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は16日、今回の発言はプーチン氏が「国際社会からさらに孤立している」ことを明確に示したと述べた。「これまでプーチン氏に対する反感を声高に表明していなかった国々も、同氏がウクライナでやっていることに疑問を抱き始めている」 中国とインドが明らかに懸念を表明したことは、プーチン氏が目指している「非西側諸国間の結束」に対する障害となり得る

     

    下線のように中国とインドが、ウクライナ侵攻へ懸念を示したことは、「非西側諸国間の結束」にひび割れを起こす要因となろう。ロシアへ逆風が吹いていることは明らかである。

     

    (3)「中国は国際市場で割安になったロシアの1次産品を安値で購入している。だが、制裁でロシアの防衛や技術分野で不足が生じても、中国企業は米国からの二次的制裁のリスクを恐れ、それを穴埋めすることには慎重な姿勢を取っている。モスクワに駐在する別の西側の外交官は「ロシアは中国にもっと期待していたはずだ」という。「中国企業は、積極的に行動しないように指示されているか、あるいは取引に高官の許可が必要になっているかのいずれかだ」と指摘する」

     

    中国は、ファーウェイがイラン制裁への「二次制裁」で副会長がカナダで逮捕(その後保釈)された一件が身に応えている。ロシアでも「二次制裁」はあり得るからだ。現に、米国はそれを強く警告している。

     


    (4)「ニューデリーのシンクタンク、政策研究センター(CPR)上級研究員のスシャント・シン氏は「モディ氏の発言は、同氏が意図した通り、プーチン氏を支持してはいないというメッセージを西側諸国に伝える役割を果たした」と語った。モディ氏はウクライナの主権や領土に関する「議論の割れる問題」には触れず、食糧安全保障や燃料・肥料の供給といった戦争の影響に関する点に絞って発言した、とシン氏はいう」

     

    モディ氏は、西側諸国へプーチン支持でないことをアピールした。モディ氏は、米国へ「クアッド」(日米豪印)で接近しているからだ。インドの武器国産化問題で、米国から支援を受ける約束を受け取っている。その「領収書」代わりの発言とも読めるのだ。

     


    (5)「西側諸国の高官は、モディ氏らが懸念を表明したことは、プーチン氏の主張に対する挑戦と受け止めている。戦争による経済的打撃が悪化したのは、西側の対ロシア制裁が原因だと主張するプーチン氏の持論に異議を表明したという見方だ。欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表は18日、仏週刊紙『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』への寄稿文で、ウクライナ軍による占領地の奪回は、ロシア軍の弱さと士気の低さを如実に示した、とした。最近の出来事を見れば、「ウクライナ軍はまだ戦争に勝利こそしていないが、ロシア軍が負けつつあるのは間違いない」と主張した。ボレル氏は、まだ戦争は続く、とした上で、和平のプロセスについて考える時期が来ているとした」

     

    中国やインドが、ロシアへ苦言を呈するようになったのは、ロシア軍の劣勢とも深く絡んでいる。ロシア軍の無様な戦い方を見ると、とても「軍事大国」と呼べない幼稚さを見せつけているのだ。プーチン氏もロシアも苦境に立たされてきた。

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    ドル建てロシア国債の元利金支払問題は、4月初めから紛議の種になってきた。世界の大手金融機関でつくるクレジットデリバティブ決定委員会は6月1日、ロシア国債が「支払い不履行」に陥ったとの判断を示して、デフォルト扱いとなった。

     

    ロシアは、ドルを保有しているものの西側諸国による経済制裁で、ドルを支払えないとの理由でルーブル払いを主張した。だが、米財務省は5月下旬まで特別措置によって、米銀に対してドル建てロシア国債の元利払いを認めていた。ロシアは、これを無視してルーブル払いに固執したものの、最後にドル払いに切り変えた。ただ、ロシアはこの間の支払い遅延分の利息を払わなかったことで、最終的に「デフォルト」と判定されることになった。これによりロシアは今後、海外で一切の国債発行が不可能になる。

     


    ロシア国債は、ルーブル建てで1998年の財政危機時に、デフォルトへ陥ったことがある。外貨建てでデフォルトとなれば、ロシア革命直後に債務不払いを宣言した1918年以来1世紀ぶりだ。デフォルトは、対外的には「禁治産者」扱いになる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月2日付)は、「ロシア国債、早まった異例の『不履行』 孤立を象徴」と題する記事を掲載した。

     

    世界の大手金融機関でつくるクレジットデリバティブ決定委員会は1日、ロシア国債が「支払い不履行」に陥ったとの判断を示した。猶予期間中に遅れて償還されたドル建て債について、約1カ月分の延滞利息が上乗せして払われなかったとして保有者が判断を求めていた。当該国債はデフォルト(債務不履行)として処理されるとみられ、7月にも想定されていた「Xデー」は異例な形で早まった。

     

    (1)「決定委員会は銀行や資産運用会社などが参加する民間の集まりだ。信用リスクをやり取りするクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)で、関連する債務にデフォルトの事象が起きたかなどを決める役割がある。問題になったのは44日に満期を迎えた国債だった。ロシア側は米国の銀行にあるドルで元本と利息を払おうとしたが、米政府が認めなかったため金融機関が手続きを拒んだ。ロシア財務省は代わりにルーブルで払うといったん宣言した。30日の猶予期間が切れる間際の5月上旬に結局ドルで返され、デフォルトは回避されたとみられていた」

     


    このパラグラフの説明は正しくない。私が冒頭で行なったコメントが正しい。ロシアが、ルーブルで元利金を支払うと言ったことが発端である。米財務省は、5月下旬まで米国の金融機関にロシア国債の元利金支払い業務を認めていたからだ。

     

    (2)「これに対し一部の保有者が、当初の期日を過ぎた猶予中の利息およそ190万ドル(約2億4000万円)が支払われておらず、デフォルトにあたるとして審査を求めた。決定委員会は「支払い不履行のクレジットイベント(信用事由)が発生したか」について検討した。詳しい討議内容や理由は明らかにしていないが、公表文によると参加した13社のうち米シティバンクを除く12社が「発生した」に投票した。信用事由と判断されたことで、当該債を対象とするCDSの取引で保険の売り手から買い手に補償が発生する。その清算に向けた手続きが今後始まるとみられる」

     

    下線のように、ロシア財務省は支払い猶予期間中の利息を支払わなかったことが、デフォルト原因にされた。いずれにしても、米国財務省は現在、米金融機関に対してロシア国債の元利金支払い業務を禁止している。ロシア国債がデフォルトになるのは、時間の問題であった。

     


    (3)「ロシア当局からの元利金の受け取りを認める米政府の特例は5月下旬で失効し、今後の利払いがデフォルトになるのは時間の問題と考えられていた。ロシア国債は既に不履行を織り込んだ価格で取引されている。参照するCDSも取引規模は比較的小さいうえ投資家の対応が進んでおり、金融市場への影響はほぼないとみられている。1日のルーブル相場にも目立った反応はなかった」

     

    ロシア財務省は、ロシア国債保有者の銀行口座へ直接、元利金を支払うことを検討している。デフォルトになっても、最後まで責任を果たす姿勢を見せている。

     

    (4)「今回の「不履行」は2つの点で特異といえる。債務者のロシア政府は支払う意思があると繰り返し強調し、豊富な外貨準備を抱えて能力にも問題はなかったが、欧米の制裁で手続きが阻まれた。曲折を経て猶予期間中に元利金が支払われたものの、その間の延滞利息をめぐって不履行かどうかが争われたのも異例だ」

     

    西側諸国は、ロシア国債を早くデフォルトに追い込み、国際金融市場からの追出しを狙っていた。それが、経済制裁の趣旨に合うというのが理由である。

     


    (5)「ロシアは国際金融市場からすでに事実上締め出され、外部からの新たな資金調達は不可能になっている。デフォルトに陥っても当面の状況が変わるわけではないが、みずほ銀行欧州資金部の本多秀俊氏は「5~10年、場合によっては一世代にわたり西側の金融から切り離される可能性がある」と話す。国際市場への復帰がさらに遠のく、ロシアの金融孤立を象徴するイベントとなる」

     

    西側諸国は、海外資本市場でロシア国債の発行をさせない。そういう強い意志を持っている。今後、半永久的な発行阻止を狙っているようだ。

     

    テイカカズラ
       

    ドイツは、これまで「親ロ政策」を基調としてきた。ショルツ首相も、その流れを引継いだが、先のプーチン大統領との会談で完全に認識を変えたという。会談中、延々とロシアの主張を繰返し、シュルツ氏の発言に耳を貸さなかったのだ。

     

    その上のウクライナ侵攻である。シュルツ氏は、「プーチンは、ロシア帝国を築きたがっている」とし、「プーチンのような戦争をあおる者と一線を引くために、われわれが力を奮い立たせることができるかどうか」が、現在直面している主要な問題だと、珍しく感情をあらわにして語ったという。

     


    ドイツが、プーチンのロシアへ強い警戒心を強めた結果、防衛費の増額・ロシア産エネルギー依存度への引下げなど、「脱ロシア」を鮮明にしている。第二次世界大戦後のドイツ外交が大きな転換点を迎えた。プーチン氏は、友人・ドイツを失ったのである。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月28日付)は、「ドイツの支えを失ったロシア」と題する社説を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対して行った血塗られた攻撃は多くの人々を驚かせたが、最もはっきりと目を覚ますことになったのは恐らくドイツだろう。ロシアのウクライナ侵攻は、ドイツの国防・外交政策にとって神の啓示のような変化をもたらした。

     


    (1)「ドイツのオラフ・ショルツ首相は2月26日、1000基の対戦車兵器、500基の地対空ミサイル「スティンガー」をウクライナに「できる限り早急に」送ることを明らかにした。これは、致死的な兵器を他国に供給しないという第2次世界大戦後の独政府の政策を反転させる対応だ。ドイツはまた、国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの一部銀行を排除する制裁措置について、数週間にわたった反対姿勢を覆して容認することに同意した。SWIFTからの排除に消極的だった態度を最初に変えたのはイタリアとフランスであり、それが最後に残った消極派の主要国ドイツを動かす役目を果たした」

     

    ドイツは、ウクライナへ武器を供与する。これまでのルールを変えたもので、「プーチン戦争」でウクライナが勝利を得るように後押しする。

     


    (2)「ドイツのこの決定は、ショルツ首相が2月27日に議会で行った演説につながった。この中でショルツ氏は、ドイツの安全保障・国防政策にとって1945年以降で最も劇的な見直しを発表した。独政府は、何十年も続いてきたロシア政府との協商関係から離れ、北大西洋条約機構(NATO)に完全に軸足を移そうとしている。ショルツ氏は、全てのNATO加盟国の目標とされている、国内総生産(GDP)の2%への国防支出増額を約束したほか、その前払い金として、今年の国防予算に1000億ユーロ(約13兆円)を追加する方針を示した。F-35戦闘機やイスラエル製ドローンなどといった実際の兵器に使われる」

     

    ドイツ政府は、防衛の軸足を完全にNATOへ置くことを表明した。これまでは、在独米軍に依存する「人任せ防衛」であった。それを改め、ロシアの脅威に対抗する気構えを見せている。

     

    (3)「ショルツ氏はまた、エネルギー政策を安全保障と結びつけ、同国がもはやエネルギーを国内経済や気候変動のみの問題として扱えなくなったと警告した。ドイツ政府は再レル生可能エネルギーへの投資を増やすが、戦略的な石炭や天然ガスの備蓄についても投資を行う。政府は2カ所の液化天然ガス(LNG)基地を早期に建設して、ロシア以外からの輸入ができるようにする」

     

    ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア産天然ガスへの依存度を引き下げ、エネルギー政策を大きく転換する。このため、石炭火力発電所と原子力発電所の運用期限を延長する。エネルギーのロシア依存度を下げなければ、いつ「ロシア・リスク」に見舞われるかも知れないからだ。ロシア依存のエネルギー政策を転換する。

     


    (4)「ショルツ氏によると、ドイツは今後、ロシアとの間で外交のための外交を行わない方針だ。これは恐らく最大の変化になる。そのためには、政府がNATOにおけるドイツの役割を見直す必要があるからだ。ドイツは長年、自らのことを米国とロシアの架け橋となる存在だと認識してきた。それは、東西冷戦の前線というポジションから生じる不安と、第2次世界大戦の東部戦線でドイツが行った戦争犯罪に対する罪悪感が影響して生じた態度だ」

     

    ショルツ氏は、ドイツの主張がプーチン氏に対する警戒であり、ロシア国民に対するものではないと強調して、過去の歴史に対するドイツの反省を示している。ドイツが、過去に犯した戦争への責任を忘れないが、ロシアとの間で外交のための外交を行わない方針を明確にしている。

     

    これは、日本についても言えることだ。韓国は、日本の軍備増強に対して「戦争責任」を持出して批判する。だが、中国の軍備増強の前に「丸腰」はあり得ない。ドイツの歴史的転換は、日本に対してもそのまま当てはまる。

     

    (5)「ドイツ人が「転換点」と呼ぶこの変化について、与党3党および野党キリスト教民主同盟(CDU)の指導者は、いずれもショルツ氏の政策革命を支持している。市民は、プーチン氏の野心を阻止しないままでいれば、欧州がどんな代償を支払うことになるかをウクライナ情勢で目の当たりにした。そしてショルツ氏の演説の中で最も政治的に重要な転換の1つは、彼が防衛・エネルギー安全保障とその他の対応は、単に同盟国からの圧力に応じてではなく、自国の利益のために行う必要があると説明した点である」

     

    欧州のプーチン氏とアジアの習近平氏が、ともに領土拡大を狙っている。こういう危険な状況下で、国家の安全保障をいかに守ってゆくか。日本も防衛・エネルギー安全保障の再構築を迫られている。ドイツは、「外交のための外交」を捨てると宣言した。単なる友好増進でなく、それを裏付けるシステムの確立が不可欠である。

     

     

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