勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時評

    a0001_000268_m
       

    ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするのだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られるというソロバン勘定である。

     

    1~5月の経常黒字は、前年同期比81.6%減の228億ドルであった。輸出とエネルギー収入の減少が重石になったもの。2023年の経常黒字は、ロシア中銀は660億ドル、経済省は866億ドルと予測している。いずれも、22年の2270億ドルから大幅な減少だ。ウクライナ侵攻で膨大な軍事費が掛る一方で、経常黒字は大幅な減少だ。こういう「懐事情」もあって、西側企業の資産を接収して売却益を狙う、姑息なことをはじめる。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月15日付)は、「ロシア、『言うことを聞かない』西側企業の資産を接収へ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は欧米からの制裁への報復手段を探るなか、「言うことを聞かない」西側企業の資産を差し押さえる権限を導入し、企業の撤退を難しくしようとしている。この件に詳しい関係者によると、ロシア政府は先週、西側企業の資産を大幅に安い価格で接収できるようにする具体的な法令を整備するようひそかに命じた。企業の全面国有化というさらに厳格な手段も検討しているという。

     

    (1)「フィナンシャル・タイムズ(FT)が確認した機密扱いの大統領令は、西側企業の資産を「大幅な割引価格」で優先的に購入する権限を国に与えようとするものだ。国はその後、資産を売却すれば利益を得られることになる。ペスコフ大統領補佐官はFTに対し、欧米の投資家と企業が従業員への給与の支払いを完全に停止したり、多額の損失を出しながら撤退を決めたりする企業もあると述べた。「自らの務めを果たさない企業は当然、言うことを聞かない企業の分類に入る。そうした企業とはさよならする。残った資産をどうするかは、我々が決めることだ」とペスコフ氏は語った」

     

    ロシアは、捨て鉢になっている。ここで気になるのは、中国の台湾侵攻の際に西側企業へこういう乱暴な行為をするであろうという連想である。中ロの一体化を考えると、あり得ないことではあるまい。

     

    (2)「西側企業のロシア撤退に関わった複数の人物は、ロシア政府は今回の行動で「パンドラの箱」を開けたことになり、国内経済に対する国の支配が強まるのは避けられないとみる。ロシア資産を売却中の企業の幹部は「国有化は必然だろう。時間の問題にすぎない。国は資金が必要だろうから」と述べた。国有化される前に「すり抜ける」つもりだというこの企業幹部は、ロシア政府は輸出収入で財政を支える手段をあれこれ模索しているため、最も影響を受けるのは1次産品を扱う企業だと考えている。逆に「経営が難しい」テック企業は影響を受けにくいだろうと話した

     

    テック企業のように扱いの難しい企業は、国有化を免れるであろう。だが、1次産品を扱う企業の接収は、業態が単純ゆえに接収対象にされやすいという。

     

    (3)「ロシアが2022年に本格的にウクライナに侵攻して以降、プーチン政権は西側企業の国有化について大統領令はこの2社のみが対象だった。ロシア政府はこの権限を数千もの西側企業に行使するか否かを決めるにあたっては、欧米が凍結しているロシア中央銀行の3000億ユーロ(約46兆円)規模の資産の行方を注視している。ロシアの経済政策当局者は、国内経済の幅広い業種で西側企業が果たしてきた重要な役割が失われることを危惧している」

     

    ロシア中銀は、凍結されているロシアの外貨準備高3000億ユーロが今後、どのように処理されるかを見ているという。EUでは、ウクライナの復興資金に充てるという説が有力だ。

     

    (4)「政府はエネルギー輸出収入が落ち込み軍事費が急増するなかで、新しい歳入源をみつけようと躍起にもなっている。ロシアの財政赤字は年初から420億ドル(約5兆9000億円)まで拡大した。22年12月に発表された現行法制では、西側企業は資産をロシア企業に売却するときは50%以上値引きすることや、取引価格の5〜10%を「自主的に」政府に寄付することが義務付けられている。中銀は、外国資本の流出でルーブルが下落し、国内投資家の活動が制限されるのではないかと懸念している。もっともシルアノフ財務相は歳入拡大の手段として、欧米企業の撤退を支持していると関係者らは話す」

     

    ロシア政府内部では、欧米企業の接収について異論もある。だが、膨らむ財政赤字の穴を埋めるべく、財源づくりで接収案以外にないのも事実。貧すれば鈍する、だ。

    a0960_008527_m
       

    中国の習近平国家主席は最近、外交問題に関心を高めている。サウジアラビアとイランの和解で登場した。専門家によれば、中国は最後のまとめ役になったに過ぎないとされるが、習氏にとっては名誉この上ない話だ。この余勢を駆って、ロシアのウクライナ侵攻を止めるのは習近平だけという見方が出てきた。ロシアは、物心両面で中国への依存を深めている。プーチン・ロシア大統領は、習氏へ絶大な信頼を寄せている様子がうかがえる。この信頼関係を生かして、習氏がプーチン氏へウクライナ侵攻の「止め役」になるというのだ。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(5月1日付)は、「中国、和平の仲介なるか」と題する記事を掲載した。筆者は、ギデオン・ラックマン氏である。チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターだ。

     

    中国の習近平国家主席は4月26日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話協議した。中国の外交努力については懸念すべき明白な理由が複数ある。習氏はロシアのプーチン大統領を「親愛なる友人」だと繰り返し強調している。中国政府が2月に公表したウクライナ和平案は漠然としており、ロシア軍の撤退を一切、求めていない。とはいえ、中国がこの残虐な戦争を終わらせるうえで重要な役割を担い得るとの見方を退けるのは間違いだろう。

     

    (1)「中国政府が和平実現に関与するとなれば、それはウクライナ、ロシア、米国、欧州、そして中国政府にとって、それぞれに異なる理由から歓迎すべきものとなるかもしれない。ウクライナ政府は、習氏のみがプーチン氏に影響力を及ぼせる存在だとみている。もちろん、それは習氏が自らの影響力を行使すると決めた場合だ。一方、ロシアは西側諸国による制裁を前に、自国経済を維持するのに中国に依存している

     

    ウクライナ政府は、中国がロシアへ最も大きな影響力を発揮できると読んでいる。ロシア経済が、中国依存度を深めているのも理由だろう。

     

    (2)「バイデン米政権は、中国が実際にロシアに強い圧力をかけられる見込みは極めて低いとみており、一部の政府高官らは中国が逆にロシアに武器を提供する方向へと舵(かじ)を切る可能性を依然、懸念している。しかし、ウクライナ政府の中国への期待は大きい。彼らは、3月の中ロ首脳会談から習氏とプーチン氏は緊張関係にあることを示す兆候を捉えたとしており、筆者には、だからこそ習氏は予定より早く訪ロを切り上げたのだとまで語った(注:筆者は4月26日の習氏とゼレンスキー氏の電話会談前にウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問していた)

     

    ウクライナは、冷静に中国とロシアの力関係の変化を読んでいる。

     

    (3)「習氏が、プーチン氏にしびれを切らしつつあるかもしれないとすれば、その理由は何か。中国とロシアがともに米国の覇権に敵対心を抱いているのは間違いない。ロシアが短期間でウクライナを制圧できていれば、中国としても好都合だったかもしれない。ところがウクライナ戦争で米国主導の同盟関係は弱体化するどころか、米欧およびアジアの民主主義諸国はこれまで以上に結束を強めている。今や長引く戦争は中国にとって戦略上、負担となっている。中国は何十年もかけて欧州での影響力拡大に力を入れてきた。だが2022年2月に中国がロシアとの「無制限」の協力関係を表明して以降、多くの欧州諸国は中国が脅威だとの確信を強めている

     

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻で欧州の中国警戒論という巻き添えを食っている。これは、中国にとっては思わざる事態である。ウクライナ侵攻が長引くほど、中国に負担になることから、ロシアへ圧力を掛けざるを得ないという見方が生まれている。

     

    (4)「バイデン政権は内部で協議を重ね、中国の和平外交を直ちに無視するのではなく、これを米国の望む形で利用できるか試してみることに決めた。米政府は、自分たちが「和平に反対するのか」とみられる危険を認識している。だが、中国の動きを見守ることにした理由はそれだけではない。米国もウクライナ戦争を終結させる方法をみつけようとますます必死だ。ウクライナ戦争が長期化するほど莫大な資金を軍事・経済支援としてウクライナに提供する西側の団結を維持するのが難しくなると理解しているからだ。より現実的な展開は、ウクライナが和平交渉に先立ち、いかに戦場で優位に立つかだろう」

     

    米国にとっても、ウクライナ侵攻が長引くことは経済的な負担を増やす。だから、ウクライナ軍が決定的勝利を収めるか、優位に立つかによって和平交渉が必要としている。

     

    (5)「これまでも西側同盟の中では、ウクライナに和平交渉に応じるよう圧力をかけるかどうか散々議論されてきた。だが、さほど話題になっていないものの、おそらくもっと重要なのは、誰がロシアに対し、ウクライナの領土から撤退し、国家としてのウクライナの崩壊を狙うような様々な活動を阻止するよう意味ある譲歩を強要できるのかという問題だ。唯一これをできるのは中国だ。プーチン氏と公の場で温かい握手を交わしつつ、裏でプーチン氏の腕をひねりあげることができるのは習氏だけだ。習氏は、どこかの段階でそうすることが中国の利益になると判断するかもしれない」

     

    西側にとって、プーチン氏に圧力を掛け、ウクライナに意味ある譲歩を引き出させる人物は誰か。こういう視点になると、習氏が候補者になるというのだ。ただ、習氏はその場合に重大な決断を迫られる。台湾侵攻を封印することになるからだ。ウクライナ侵攻を止める一方で台湾侵攻をするのは、国際世論を納得させられないからだ。

    a0001_001078_m
       

    米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日の記者会見で、「ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう」と指摘した。その上で「ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある」と述べ、攻勢に出ているウクライナにとっては交渉の好機だとの考えを示した。

     

    ミリー氏は、「冬将軍」の到来で、勢いに乗るウクライナ軍も思うに任せた作戦が不可能になろう、と推測している。この冬将軍は、ウクライナ軍とロシア軍へ「平等」な重荷となるが、ウクライナ軍のほうが有利な戦いをするだろうという専門家の意見を紹介したい。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(11月17日付)は、「冬将軍はウクライナに味方する」―専門家」と題する記事を掲載した。

     

    ヨーロッパは本格的な冬を迎えつつある。厳寒期のウクライナでは、ロシア、ウクライナ両軍が苦戦を迫られることになる。寒さ以上に凍結が兵士たちを苦しめるだろう。気温低下と日照時間の短縮は、ロシア軍にとっても障害となる。日照時間が短くなると負傷兵を救出できる時間が短くなる、氷点下で兵器の不具合が起きやすくなることなど、厳冬の到来はロシア・ウクライナ両軍を手こずらせるだろう。英国防省は11月14日朝、ツイッターの公式アカウントに厳寒期に両軍が直面する問題を詳述した情報機関のリポートを掲載した。以下はその要旨。

     

    (1)「冬を迎えることで戦闘の条件は変化する。日照時間、気温、天候の変化で、前線の兵士たちはこの季節特有の困難な状況に直面することになる。ロシア参謀本部は冬の気象状況を考慮に入れてあらゆる決定を下すことになるだろう」と、リポートは述べている。夏の間は1日15、16時間だった欧州大陸の日照時間は、平均9時間足らずになる。それにより、両軍とも支配地域拡大のための攻撃から、前線を守るための防衛へと、戦略をシフトさせることになると、リポートは指摘している」

     

    欧州の冬の日照時間は短い。昼間の戦闘が中心になろうから、両軍ともに戦略の知恵を絞った攻撃を展開するはずだ。冬季の睡眠ではない。

     

    (2)「米シンクタンク・戦略国際問題研究所の上級顧問、マーク・カンチアンは極寒期にも戦闘は続くとみている。「そもそもこの戦争が勃発したのはまだ寒さが続く2月24日だ。それに第2次大戦ではソ連軍は冬の間も日常的に攻勢に打って出ていた」と、本誌宛のメールでカンチアンは指摘した。「寒い時期には、戦闘が集落の周辺に集中する傾向がある。そのほうが兵士たちは暖をとりやすいからだ。また短い日照時間に戦闘が集中することにもなる。今は暗視ゴーグルがあるから、夜間の作戦行動も可能だが、両軍とも兵士の訓練レベルはさほど高くない。夜間の作戦遂行には高度なスキルが求められる」。リポートによれば、暗視装置は「貴重な装備品」であり、両軍とも夜間の攻撃を仕掛けることには及び腰だという」

     

    ロシア軍がヘルソン市を撤退したのは、「冬将軍」到来を考えれば賢明な策である。兵站で大きな打撃を被ったロシア軍が、「丸裸」状態でウクライナ軍と対峙するのは自殺行為であるからだ。

     

    (3)「12月以降の数カ月、ウクライナでは平均気温が0度近くか氷点下まで下がる日々が続く。戦闘での負傷に加え、凍傷、低体温症なども兵士たちを苦しめるだろう。「しかも、重傷を負った兵士を救出できる時間帯がざっと半分に減り、救出中に敵に遭遇する危険性も高まる」と、リポートは述べている。気温低下で兵器の不具合も増える。部隊が戦闘を終えて拠点に戻ると、兵器は比較的暖かいシェルターに収められる」

     

    ウクライナ軍は、NATOからの支援で防寒具も完備している。一方のロシア軍は不足しているという。むしろ、ウクライナ軍が冬将軍を利用した形で、ロシア軍へ圧迫を加えるという見方を取り上げたい。

     

    「次の激戦地になるとみられるのは、東部ドンバス地方のドネツク州付近、特にバフムト、アウディーイウカの周辺と、南部の戦略的要衝メリトポリとマリウポリへとつながる一帯だ。ドネツクでは、すでに集中的な砲撃や近接戦闘で両軍が激しくぶつかり合っている」。『フィナンシャル・タイムズ』(11月16日付)は、次の攻防戦をこのように推測してみせるのだ。

     

    (4)「急激な温度の変化で、機械の内部に結露が生じ、兵器が再び野外に持ち出されたときに、それが凍結して、動かなくなることがあると、米軍の情報サイト、ミリタリー・ドットコムと米陸軍の報道資料は述べている。こうした冬特有の問題は両軍を悩ませるが、うまく対処すれば戦況を有利に持ち込める可能性もある。「ウクライナ軍が有利になるだろう。補給がまずまず機能しており、アメリカはじめNATOが寒冷地仕様の装備を提供しているからだ」と、カンチアンは言う。「ロシア軍は冬の実戦経験を豊富に積んでいるが、兵站が脆弱な状況では、培われたスキルや戦法を生かしきれない」。アメリカ・カトリック大学の歴史学部長で、冷戦史と米ロ関係の専門家であるマイケル・キメジ教授も冬への備えではウクライナに分があるとみている。」

     

    ウクライナ軍が有利という読みだ。地元だけに、国民からの圧倒的な支援を受けられる。ロシア軍は占領地での「冬将軍」襲来である。この差は大きいのだ。

     

     

    a0960_008779_m
       


    ロシアのプーチン大統領は14日、ロシアにはウクライナを破滅させる意図はなく、大部分の標的をすでに攻撃したため、ウクライナに対する新たな「大規模攻撃」の必要はもはやないと述べた。

     

    この裏には、NATO(北大西洋条約機構)が、最新鋭防空システムをウクライナへ提供すると発表したことで、無差別攻撃しても無駄と判断したのであろう。今回の防空兵器提供は、新たに英国、カナダ、フランス、オランダが公約した。米国もこれまでに、同様の約束をしている。ドイツからはすでに、ハイテク防空システムがウクライナに運び込まれている。ウクライナのゼレンスキー大統領は数カ月前から、「空の盾」を作るとして、防空システムの提供を同盟国に求めていた。これで、念願が叶う。

     


    英国『BBC』(10月15日付)は、「プーチン氏『ウクライナへの大規模攻撃は当面行わず』大半の標的は攻撃済みと」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻してから8カ月近くが経過したいま、ウクライナ軍は前進し、ロシア軍はもっぱら撤退を余儀なくされている。

     

    (1)「プーチン氏は、カザフスタンの首都アスタナで開かれたアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)への出席後、ロシア軍が設定したウクライナ国内の29の目標のうち22の目標を直近の攻撃で破壊し、残りの7目標についても「到達しつつある」と記者団に述べた。「大規模な攻撃は必要ない。我々にはいま、ほかの任務がある」と述べた」

     


    ロシア軍は、設定したウクライナ国内の29の目標のうち、22の目標を直近の攻撃で破壊したと発言。無差別攻撃でないと言いたい口ぶりだ。だが、民間人が殺傷されている以上、無差別攻撃の汚名は免れまい。

     

    プーチン氏は、綿密な攻撃計画が終わったと言いたげである。だが、NATOは結束して最新鋭防空システムをウクライナへ提供することで、今後の無差別攻撃が無駄になることが分かったのだ。早手回しに、無差別攻撃を切り上げざるを得なくなったに違いない。

     

    (2)「ロシアは10日、ウクライナ各地の都市に対する攻撃を開始した。プーチン氏は攻撃について、ロシアと2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島を結ぶ重要な橋で爆発があったことへの報復だとしている。ウクライナは橋の爆発への関与を認めていない」

     

    ロシア政府は14日、先週の爆発で損傷したクリミア橋について、来年7月までに修復を完了させるよう関連企業に命じた。クリミア橋爆発については、多くの疑問が寄せられている。事件後4日で、犯人や潜入ルートを発表している当り、「偽情報」の臭いが漂っているのだ。

     


    (3)「ロシアによるウクライナ各地への砲撃で、これまでに少なくとも19人が死亡し、負傷者は100人を超えている。電力施設などインフラも被害を受けた。侵攻開始以来、キーウ中心部が標的となるのは初めて。ところがプーチン氏は、ロシアにはウクライナを破滅させる意図はないと述べた」

     

    プーチン氏は、ロシアにはウクライナを破滅させる意図はないと述べた。この裏には、国際社会での孤立がある。国連総会で、ロシアのウクライナ4州の併合は、143ヶ国の反対投票があった。無効であり認めないとしている。ロシアにとって、逆風が吹いている。これで、ロシアの「核投下」という事態になったら、完全に孤立させられるであろう。

     


    (4)「ただ、(ウクライナ)侵攻を後悔しているわけでもないとした。「今日起きていることは、控えめに言っても気持ちのいいものではない」とプーチン氏は述べた。「しかし、それでもやはり(ロシアが攻撃しなければ)我々は同じ状況にあっただろうし、我々にとって条件はさらに悪くなっていただろう。だから我々はあらゆることを適切なタイミングで正しく行っている」と述べた」

     

    随分と身勝手な理屈である。中国が、台湾侵攻する際にも、習氏はこういう台詞を言うのであろう。「台湾は、中国本土と一体であり、それを実現するだけ」と、民主主義への圧殺をこともなげに言い放つ姿が想像できるのだ。

    a1320_000159_m
       

    9月16日の上海協力機構(SCO)会議で、プーチン氏と習氏との会談を映像で見ると異様な雰囲気を感じさせるものだった。殺気立ったプーチン氏と、困惑する習氏の表情が対照的であったのだ。習氏は、SCOの夕食会に出席せず北京へ帰ったのである。

     

    中ロ枢軸と言われる両国の関係は今や、今年2月4日に見せた「限りない友情」という華やかなムードを醸していないのだ。中国は、ロシアに対して不信感を持ち始めたようである。インドのモディ氏は、プーチン氏へ「今は戦争をしているときでない」と明確に批判する事態となった。プーチン氏は、中印から揃って「ウクライナ侵攻」への批判を受ける側に立たされている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ 電子版』(9月19日付)は、「モディ氏と習氏 プーチン氏と距離を置く発言」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、中国とインドがプーチン大統領に対して懸念を表明したことで、この戦争に対する世界の見方が変りつつあるとの観測が欧米当局者の間で広がっている。ウクライナ侵攻後、非西側諸国との間で結束を高めようとしているプーチン氏にとって国際的影響力の低下は打撃となる。

     

    (1)「ある欧州高官は、こうした中国やインドの発言を「不快感を純粋、明確に示唆している」と受け止めており、インドと中国が今後、ロシア及び西側諸国への対応を変える可能性があると語った。ある大臣は、発言をロシアに対する「実質的な批判」と理解しているとフィナンシャル・タイムズ紙に対し語った。「特にモディ氏の発言だ。彼は今の事態に不満を持っていると思う」と述べた。モディ氏はプーチン氏に「今は戦争の時ではない」と苦言を呈した。プーチン氏は同氏に「現状が一刻も早く終わるよう全力を尽くす」と約束し、インド側から「これまで継続的に表明されてきた懸念」に言及した。その前には、プーチン氏は公の発言で、習氏が戦争を「懸念」していることを認めた」

     

    習氏とモディ氏によるプーチン氏への発言は今後、プーチン氏の行動へ一定の影響を与えることが考えられる。とくに、ロシアがウクライナで戦略核を使用した場合、ロシアは「仲間内」から外される恐れも出るだろう。その意味で、レッドラインを越させない効果はあるように思う。

     


    (2)「こうして、中ロ主導の地域協力組織「上海協力機構(SCO)」の会議における首脳同氏のやり取りは、対ロシア制裁に加わっていない2大経済大国がウクライナ侵攻に対する懸念を最も公の形で表明する場となった。米国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は16日、今回の発言はプーチン氏が「国際社会からさらに孤立している」ことを明確に示したと述べた。「これまでプーチン氏に対する反感を声高に表明していなかった国々も、同氏がウクライナでやっていることに疑問を抱き始めている」 中国とインドが明らかに懸念を表明したことは、プーチン氏が目指している「非西側諸国間の結束」に対する障害となり得る

     

    下線のように中国とインドが、ウクライナ侵攻へ懸念を示したことは、「非西側諸国間の結束」にひび割れを起こす要因となろう。ロシアへ逆風が吹いていることは明らかである。

     

    (3)「中国は国際市場で割安になったロシアの1次産品を安値で購入している。だが、制裁でロシアの防衛や技術分野で不足が生じても、中国企業は米国からの二次的制裁のリスクを恐れ、それを穴埋めすることには慎重な姿勢を取っている。モスクワに駐在する別の西側の外交官は「ロシアは中国にもっと期待していたはずだ」という。「中国企業は、積極的に行動しないように指示されているか、あるいは取引に高官の許可が必要になっているかのいずれかだ」と指摘する」

     

    中国は、ファーウェイがイラン制裁への「二次制裁」で副会長がカナダで逮捕(その後保釈)された一件が身に応えている。ロシアでも「二次制裁」はあり得るからだ。現に、米国はそれを強く警告している。

     


    (4)「ニューデリーのシンクタンク、政策研究センター(CPR)上級研究員のスシャント・シン氏は「モディ氏の発言は、同氏が意図した通り、プーチン氏を支持してはいないというメッセージを西側諸国に伝える役割を果たした」と語った。モディ氏はウクライナの主権や領土に関する「議論の割れる問題」には触れず、食糧安全保障や燃料・肥料の供給といった戦争の影響に関する点に絞って発言した、とシン氏はいう」

     

    モディ氏は、西側諸国へプーチン支持でないことをアピールした。モディ氏は、米国へ「クアッド」(日米豪印)で接近しているからだ。インドの武器国産化問題で、米国から支援を受ける約束を受け取っている。その「領収書」代わりの発言とも読めるのだ。

     


    (5)「西側諸国の高官は、モディ氏らが懸念を表明したことは、プーチン氏の主張に対する挑戦と受け止めている。戦争による経済的打撃が悪化したのは、西側の対ロシア制裁が原因だと主張するプーチン氏の持論に異議を表明したという見方だ。欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表は18日、仏週刊紙『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』への寄稿文で、ウクライナ軍による占領地の奪回は、ロシア軍の弱さと士気の低さを如実に示した、とした。最近の出来事を見れば、「ウクライナ軍はまだ戦争に勝利こそしていないが、ロシア軍が負けつつあるのは間違いない」と主張した。ボレル氏は、まだ戦争は続く、とした上で、和平のプロセスについて考える時期が来ているとした」

     

    中国やインドが、ロシアへ苦言を呈するようになったのは、ロシア軍の劣勢とも深く絡んでいる。ロシア軍の無様な戦い方を見ると、とても「軍事大国」と呼べない幼稚さを見せつけているのだ。プーチン氏もロシアも苦境に立たされてきた。

    このページのトップヘ