勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時報

    a0005_000022_m
       

    苦境に喘ぐドイツ経済は、象徴でもあるVW(フォルクスワーゲン)の大幅人員整理と工場閉鎖問題が、労使の痛み分けに終った。3工場閉鎖を取り止めるが、2工場の稼働を停止する。人員整理は2030年までに3万5000人にとどめる。こうして、VWの再建見通しは、曖昧なままに終った。再度の経営再建問題が、浮上するという悲観的な見方も出ている。

    『日本経済新聞 電子版』(12月21日付)は、「VW労使痛み分けの合意、3万5000人削減も収益回復疑問」と題する記事を掲載した。

    VWは、国内の工場閉鎖を見送ると発表した。同時に2030年までに独国内の従業員3万5000人の削減も決めた。5日間で70時間を超える異例の交渉をへて、労使で"痛み分け"となったものの、曖昧な取り決めが多く、結論の先送りともいえる合意内容だった。

    (1)「12月20日午後6時半、VWと労働組合は300キロメートル離れた別々の場所で記者会見を開いた。合意では、VW経営陣が求めた独国内の3工場閉鎖が見送られた。代わりに2025年末に独東部ドレスデンの電気自動車(EV)組み立て工場、27年半ばに独北西部オスナブリュックのエンジン車工場の稼働停止が盛り込まれた。両工場は停止後に車生産とは別の用途で活用する。売却も検討するが「工場閉鎖」には当たらないとの位置づけだ。独北部ウォルフスブルクの本社工場は27年以降、4つの組み立てラインを2つに縮小する。こうした生産体制の見直しを通じ、独国内だけで年73万台の生産能力を削減し、欧州でのEV需要の低迷に対応する」

    生産体制の見直しを通じ、独国内だけで年73万台の生産能力を削減し、欧州でのEV需要の低迷に対応する。EV組み立て工場とエンジン車工場は、稼働停止へ踏み切る。事実上の「工場閉鎖」になるが、別用途で活用するという。

    (2)「VW経営陣は、独国内で働く従業員の月給を一律10%削減するリストラ案を公表していた。合意では代わりに30年まで賃上げ分の給与支払いを停止するほか、賞与、利益分配金や休日手当など月給以外の報酬についても支給額を大幅に引き下げることが盛り込まれた。VWは年15億ユーロ(約2400億円)の人件費を削減できると試算する。より不透明なのが人員削減に関する見解の相違だ。VW経営陣は20日、「30年までに社会的に受け入れられる方法で従業員3万5000人を削減する」との中期方針を明らかにした」

    独国内で働く従業員の月給は、一律10%削減する代わりに、30年まで賃上げ分の給与支払いを停止する。ほかに、賞与、利益分配金や休日手当など月給以外の報酬について、支給額を大幅に引き下げるという。

    (3)「これに対し、独最大の産業別労組IGメタルの交渉責任者、トルステン・グレーガー氏は「合意には強制的な人員削減が盛り込まれていない」と強調したうえで、3万5000人の削減について「過剰生産能力の解消とともに自然減となる人数」と説明するにとどめた。VWは9月、国内6工場の従業員12万人超と結んでいた29年までの雇用保障協定を破棄していた。工場閉鎖に伴う人員削減を可能にする狙いがあったが、労使は今回、報酬減を盛り込んだ30年までの新たな協定締結で合意した」

    強制的な人員削減を行わない代わりに自然減で、3万5000人を削減するとしている。これから数年間、自動車不況を前提にしている点に注目すべきであろう。

    (4)「VWが、同社初となる工場閉鎖に踏み切れなかった背景に、独特な企業統治がある。VWの場合、20人で構成するVW監査役会メンバーのうち9人を労組出身者が占めている。さらに、VWが本社を置く独北部ニーダーザクセン州は議決権ベースで20%のVW株を持ち、監査役会にもヴァイル州首相らが名を連ねる。ドイツのショルツ首相は、VWの工場閉鎖について「正しいやり方ではない」と批判的だった。ショルツ氏とヴァイル氏が属するドイツ社会民主党(SPD)も同様の見解だ。州政府と労組でVW監査役会の過半数を占め、経営に関わる重要事項を拒否できる状況にあった」

    VWは、ドイツ独特の監査役会が存在する。労使などが、対等な立場で参加しているので、会社側だけの意向で解雇や工場閉鎖をできないシステムである。経済苦境期には、迅速な対応ができない悩みを抱えている。

    (5)「16日にドイツ連邦議会の不信任を受け、ショルツ氏は議会の解散を要請。25年2月に解散総選挙が行われる予定だ。総選挙で第1党になる可能性が高い最大野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、VW経営への州政府の関与に批判的な立場をとっている。労組と州政府の蜜月関係が、終わるとみられている」

    来年2月の総選挙では、ショルツ政権の敗北見通しが強い。次期政権が保守派になれば、労組と州政府の蜜月関係が終わり労組に厳しい状況となろう。

    a0005_000022_m
       

    ドイツ自動車産業は、総崩れ状況に遭遇している。その象徴が、VW(フォルクスワーゲン)である。工場閉鎖を巡って労組と厳しい交渉の渦中にある。ドイツ最大の産業が、自動車だけに労組も簡単に引き下がれないジレンマに立たされている。

    VWが経営不振に陥った最大要因は、EV(電気自動車)の販売不振にある。これからの自動車は、全てEVへ移行すると読み違えたことが経営基盤を揺るがしている。もう一つ、「時給1万円」という高賃金負担が経営を圧迫している。日本のほぼ3倍という高賃金である。VWは、この危機をどう乗切るのか。

    『日本経済新聞 電子版』(12月19日付)は、「独VW、危機招いた『時給1万円』 頼みのポルシェも失速」と題する記事を掲載した。

    (1)「独フォルクスワーゲン(VW)の業績が悪化している。2024年7〜9月期の連結純利益は12億ユーロ(約2000億円)と前年同期比で69%減った。売上高純利益率は1.5%に落ち込んだ。原因の一つには高い人件費がある。現地の自動車産業の時給相当のコストは日本の3倍近い「約1万円」という。回復への道のりは険しく、PBR(株価純資産倍率)は0.2倍台と、経営不振にあえぐ日産自動車と同水準にある」

    VWは、7~9月期の営業利益率が1.5%と危機ラインの5%を大きく割込んだ。これまで、7%台を維持してきた同社にとって、急落状況に陥っている。PBRは、0.2倍と「倒産企業並み」である。実は、日産自動車もこのレベルにある。

    (2)「VWの最高財務責任者(CFO)アルノ・アントリッツ氏は、「大幅なコスト削減と効率化は急務」と7〜9月期の決算発表で危機感をにじませた。収益力の低下を受け、経営陣はドイツの3工場の閉鎖や数万人規模の人員削減、賃金カットを労働組合に提示した。労組側は反発し、時限ストライキを含む争議が進行している」

    VWは、創業以来の3工場閉鎖と数万人規模の人員削減、賃金カットを労組に提示した。このくらいの「荒技」を使わないと生き延びられない事態だ。

    (3)「VWの業績不振は複数の要因が重なる。まずは世界販売の苦戦だ。7〜9月は217万台と前年同期比で7%減った。現地勢が台頭する中国に限らず、主力の欧州でも景気減速の影響などで7%減少した。稼ぎ頭の高級車「ポルシェ」や「アウディ」も振るわない。VWは中国事業を除くブランド別の業績を開示している。もともとVWブランドの乗用車は営業利益の1割程度で、傘下のポルシェやアウディなどが車販売の利益の大半を占めていた。そこに両ブランドの「共倒れ」が重なった」

    EV戦略の失敗が、大きな負担になった。EV専用工場まで建設したが、未稼働という結果だ。高級車の落込みも、収益を圧迫している。

    (4)「アウディは競争力が低下した上、ベルギーの工場閉鎖に伴う費用もかさみ、営業利益が前年同期比で91%減った。ポルシェもモデル切り替えの過渡期で販売が減り同45%減だった。追い打ちをかけるのが人件費だ。ドイツ自動車工業会(VDA)によると、23年の現地の車産業における1時間あたりの平均労働コストは、物価高の影響もあり23年時点で62ユーロ強まで上昇した。直近レートで換算すると約1万円にのぼる。同コストは正社員や社会保険料なども含めた従業員の「時給」に相当する。同じ前提でみた米国(44ユーロ)より4割高で、日本(24ユーロ)と比べると2.6倍になる」

    アウディやポルシェが、揃って販売不振である。欧州景気の停滞が足を引っ張っている。これら高級車が、高賃金であることでVW全体の賃金水準を押上げたのであろう。

    (5)「ドイツの賃金は、24年も上昇傾向が続いているため、直近の時給コストはさらに上がっている可能性がある。最低賃金も12ユーロ(約1900円)と日本のおよそ2倍だ。欧州連合(EU)統計局によると、23年のドイツの時給コストは全産業平均で41ユーロのため、VWを含む車産業は中でも高給だ。VDAのアレクサンダー・フリッツ氏は「競争力の高い労働者の関心を引く存在であり続けるため、ドイツの自動車メーカーは魅力的な報酬を提供する必要がある」と指摘する。現地労組の力は、歴史的に日本より強い点も高い賃金につながっているとみられる」

    ドイツの時給コストは23年、全産業平均で41ユーロ(約6600円)である。自動車産業は、これよりも高い62ユーロ(約1万円)賃金水準にある。

    (6)「さらに同じドイツ勢の中でも、23年のVWの売上高人件費率は15%と、メルセデス・ベンツグループの11%やBMWの9%を大きく上回る。大衆車が主体のVWは高級車が中心の両社に比べ薄利多売の事業モデルのため、人件費率が高まりやすい。現地ではロシアのウクライナ侵略により、燃料費も高騰する」

    VWの賃金水準は、他の自動車企業よりも飛び抜けて高い。VWの売上高人件費率は23年、15%になっている。メルセデス・ベンツグループの11%やBMWの9%を大きく上回る。やはり、VWは「大手術」が避けられないのだろう。




    a0960_008570_m

       

    中国は、押し寄せる内需不振をカバーすべく輸出戦略で血眼になっている。EV(電気自動車)は、欧州が高関税で壁を高くしているので、HV(ハイブリッド車)でこの壁を乗り越える戦略を立てている。HVは、トヨタが無料で技術を公開した経緯があるので、技術蓄積が進んでいるのだ。

    『ロイター』(12月7日付)は、「中国メーカーが欧州向けハイブリッド車輸出拡大 EV関税回避狙う」と題する記事を掲載した。

    中国自動車メーカーは欧州向けのハイブリッド車輸出を拡大しつつあり、今後より多くの車種を投入する計画だ。欧州連合(EU)が発動した中国製電気自動車(EV)に対する高関税による影響を、最小限にとどめる狙いがある。

    (1)「EUの輸入関税対象にハイブリッド車は含まれず、BYD(比亜迪)といった中国メーカーはこのハイブリッド車を通じて欧州市場での事業拡張路線を維持できる、と複数のアナリストが解説した。カウンターポイント・リサーチのアナリスト、ムルトゥサ・アリ氏は、EUが中国から輸入されるEVに課す関税を回避する手段として、中国のOEM(相手先ブランドによる生産)がプラグインハイブリッド車(PHEV)にシフトしていることが輸出の伸びをけん引していると指摘。中国の欧州向けハイブリッド車輸出は今年が20%、来年はもっと増えると予想している」

    中国のHVは、欧州のEV高関税対象には含まれていない。それだけに、格好の「EV代替」になっている。

    (2)「最大45.3%の税率が適用されるEUの中国製EV関税は、10月終盤に発効した。ただEUの反補助金調査は昨年10月に始まっており、一部の中国メーカーは国内の景気減速に伴う販売鈍化という事情も踏まえ、既に欧州戦略をハイブリッド車輸出に転換していることがデータから分かる。通常のエンジン車と完全電動車の中間的性格を持つハイブリッド車は、価格の手頃さから消費者の間で人気が高まってきている。中国乗用車協会(CPCA)によると、7―9月の欧州向けハイブリッド車輸出は6万5800台と前年同期の3倍以上に増加し、昨年から今年それまでにかけての販売減少の流れが逆転しつつある」

    中国派、7~9月の欧州向けハイブリッド車輸出が、前年同期の3倍以上に増加しており、輸出の本命に成長しそうである。

    (3)「7―9月に中国から欧州に輸出された全自動車のうち、PHEVと従来のハイブリッド車の比率は18%と1―3月の9%から2倍に上昇。対照的にこの間のEVの比率は62%から58%に低下した。こうした傾向はさらに強まりそうだ。複数のアナリストは、昨年日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となった中国は、国内の過剰供給問題を解消するため輸出攻勢をかけている、と話す。米国とカナダが中国製EVに100%の関税を課している状況にあって、欧州は中国メーカーにとって最も明確な販路にもなっている」

    中国は、HVでEV輸出規制の穴をカバーする方針である。欧州市場は、中国メーカーにとって最も期待できる販路になってきた。

    (4)「大手中国メーカーは、今のところ地元勢と日本勢が牛耳る欧州のPHEV市場の構図を覆す可能性がある。BYDは欧州向け初のPHEVとなる「シールU DM-i」を投入し、独フォルクスワーゲン(VW)やトヨタ自動車に対抗する構え。シールU DM-iは3万5900ユーロ(3万7700ドル)からと、VWで最も売れ筋のPHEV「ティグアン」の価格を下回り、トヨタの「C-HR」より10%安い。中国メディアの報道では、BYDはハンガリーの工場でEVとハイブリッド車を生産することも検討中だ」

    欧州HV市場は、地元メーカーと日本メーカーが支配している。中国製が、これに割って入る勢いである。トヨタよりも10%も安く売り込んでいる。

    (5)「今年の欧州におけるハイブリッド車の需要拡大は、中国での過剰生産に悩む日本メーカーにとっても追い風だ。中国の1―9月販売が29%落ち込んだホンダは、中国から欧州に従来のハイブリッド車2種類とPHEV1種類を輸出している。中国から欧州へのハイブリッド車輸出増加は、欧州市場での価格競争を激化させかねないが、複数の専門家は中国メーカーがEUの追加的な関税発動を警戒してより慎重に振る舞う公算が大きいと予想する」

    中国は、EVで高関税をかけられたので、HVでその二の舞にならぬように慎重に振る舞うとみている。派手な値引き競争をすると、再び締め出されるリスクに気付いてきたのであろう。

    a0960_005041_m
       

    ドイツ経済が、再び「欧州の病人」呼ばわりされる事態を迎えている。主因は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰と、中国経済の不振の影響をフルに受けている。個人消費が不振でもあり、「構造不況」のリスクを抱えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月10日付)は、「ドイツ『2年連続でマイナス成長へ』欧州の病人、再び」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ政府は9日公表した秋の経済見通しで、2024年の実質成長率をマイナス0.2%と4月時点のプラス0.%から下方修正した。マイナス成長は2年連続になる。個人消費の戻りが鈍く、設備投資や生産も冷え込む。ロシアの安価なエネルギーと中国市場の拡大に頼った成長が限界を迎え、構造的な経済不振の様相が強まってきた。

     

    (1)「2年連続のマイナス成長に陥れば、02〜03年以来である。1990年に東西ドイツが統一してからは2度目になる。当時は2000年代にかけて景気低迷が長引き「欧州の病人」と呼ばれた時期にあたる。構造改革の遅れから統一に伴う好景気が一過性に終わり、次第に失業率が高まっていった。今回の景気下振れの主な要因は個人消費の不発だ。ウクライナ危機後の急激なインフレが落ち着き、賃上げに伴って景気持ち直しをけん引するとみられていた。24年はほぼ横ばいで伸び悩む見通しだ。新型コロナウイルス禍前の購買力を取り戻すのは25年となる恐れがある」

     

    ドイツの対GDP比の名目個人消費は、51.05%(2022年)で日本の55.46%(同)を下回っている。ドイツ社会は節約ムードが強く、日本人がみても驚くほどの節約ぶりである。不況下では一層、「節約魂」が発揮されているに違いない。

     

    (2)「ドイツ経済の屋台骨である製造業の不振も長引く。企業の景況感を示す製造業の購買担当者景気指数(PMI)は9月に40.6と1年ぶりの低水準となった。生産や新規受注がそろって落ち込み、人員削減の動きも出ている。設備投資を控える企業も多く、24年の成長率見通しを押し下げた。問題は、景気回復が遅れ続ける構造不況に陥るリスクだ。ウクライナ侵略によりロシアからの安価なガスの調達が途絶えた。主な貿易相手国である中国も内需が振るわず、11月の米大統領選では共和党のトランプ前大統領が輸入関税の強化に言及する。ドイツの輸出先である米中で火種を抱える」

     

    ドイツは、これまでロシアへ依存しすぎた。ドイツは、帝政ロシア時代から深い繋がりがあり「親類付き合い」をしてきた仲である。こういう深い縁は、簡単に薄められないのであろう。ドイツは、中国へも経済的にシフトしすぎている。かつての「東独」を抱えているから、共産主義への親近感が強いのだ。これが今、ドイツ経済に大きなブレーキとなっている。

     

    (3)「独Ifo経済研究所など主要シンクタンクは、「中国からの高品質な工業製品に押されて、競争力が低下している」と警鐘を鳴らす。独産業界は海外投資を優先させるなど産業空洞化への懸念も高まっており、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は製造コストが割高なドイツ国内工場の閉鎖を検討中だ。先行きを巡って、ドイツ政府は強気な見方を堅持した。25年の成長率は1.%、26年は1.%と1%台まで回復する想定を置いた。賃上げの継続による個人消費の持ち直しや欧州中央銀行(ECB)の利下げを追い風に、景気が底入れに向かうと期待する

     

    来年は、プラス成長が期待されている。ECBの利下げ効果の波及によって一応、住宅建設復活もありプラス成長が期待されている。

     

    (4)「ただ、景気回復が軌道に乗るかは不透明だ。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会も個人消費の回復を見込んできたが、景気不安が強まるなか実際にお金が回るかは見通せない。レジャー需要の持ち直しで恩恵を受けるのは旅行先として人気が高い南欧などに偏りがちだ。長引く景気不安はショルツ政権への批判に直結する。9月に旧東ドイツ地域であった州議会選挙では、移民流入と並んで景気低迷への不満から極右政党に票が流れた。景気対策を打とうにも連立政権の内部で足並みがそろわず、景気浮揚の道筋を描けないでいる」

     

    25年景気の問題点は、個人消費の回復がどこまで進むかである。財政赤字は、対GDP比で3%枠がはめられているので、財政出動にも限界がある。

    (5)「ドイツは、欧州最大の経済大国でユーロ圏20カ国の域内総生産(GDP)のおよそ3割を占める。ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッツシャー所長は、「独政府が示した25年の成長率は経済調査機関の見通しと比べて0.3ポイント高い」と指摘。「不確実性はなお大きく、投資と消費の回復が遅れる可能性が高い」として下方修正が入るリスクに言及した」

     

    ドイツ経済研究所は、25年もマイナス成長の危険性を指摘している。投資と消費の回復遅れが原因である。

     

     

     

    a0070_000030_m
       


    円高支援の材料が、欧米で同時に生まれてきた。円売り投機筋にとっては、追い詰められる状況だ。欧米が、9月に同時利下げする可能性が高まったことは、円高へ強力な支援材料になる。円高により輸入物価抑制で実質消費が高まれば、日本経済の浮揚へ向けて大きな力になる。 

    8月のユーロ圏の消費者物価指数は、前年同月比2.%上昇で2021年7月以来、およそ3年ぶり低水準になった。この結果、9月の追加利下げが確実である。現在の政策金利は3.75%である。0.25%の利下げになれば、3.50%が新金利だ。一方、米国FRB(連邦準備制度理事会)は9月、利下げすることが決定的になっている。労働需給の緩和が、失業率を上昇させており利下げの理由である。利下げ幅は0.25~0.5%とみられる。この結果、現在の5.25~5.5%金利は一挙に5%も考えられる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月30日付)は、「8月のユーロ圏消費者物価、2.2%上昇 3年ぶり低水準」と題する記事を掲載した。 

    8月のユーロ圏の消費者物価指数は、速報値で前年同月比2.%上昇した。伸び率は2021年7月以来、およそ3年ぶり低水準になった。欧州中央銀行(ECB)は、次回9月の理事会で追加利下げに向けて議論する。 

    (1)「伸び率は、事前の市場予想と同じ水準だった。7月までは6カ月連続2%台半ばで推移していた。価格変動の大きい食品やエネルギーを除くと2.%で、7月の2.%から小幅に鈍化した。ECBは9月12日に金融政策を話し合う理事会を開く。6月に4年9ヶ月ぶりに利下げを決めた後、7月は政策金利を据え置いた。理事会内部では9月の追加利下げを容認する声が上がっている。金融市場の参加者も利下げを確実視している。残る焦点は拙速な金融緩和に慎重なタカ派メンバーの判断に絞られつつある」 

    ECBは、28ヶ国の中央銀行が加盟している。それだけに意見調整で時間をとられるが、中核のドイツ経済の浮揚を確かなものにするためにも追加利下げが必要になっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月28日付)は、「円一段高の芽、ユーロ起点 米欧同時利下げの可能性と題する記事を掲載した。 

    市場の注目を集めた8月23日の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が9月の利下げを事実上予告し、いったん円高・ドル安が強まったが、その後は落ち着きを取り戻しつつある。だが、円相場が一段高になる可能性は消えていない。波乱の芽はユーロだ。 

    (2)「この程度で収まったか」。マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)の深谷幸司氏は今週の円相場の動向に、こんな感想を抱いた。9月の米利下げの有無が最大の関心事だったジャクソンホール会議で、パウエル議長は「政策を調整すべき時が来た」と宣言。週明けの為替市場では一時、1ドル=143円台まで円高・ドル安が加速した。だが市場の興奮をよそに、その後は再び145円台に揺り戻す場面もあるなど、一方的に円高が強まる展開にはなっていない」 

    FRBの9月利下げ「声明」は、円高相場へ大きな支援材料であったが結果は、ほどほどにとどまった。

     

    (3)「何が円高の勢いを鈍らせたのか。理由の一つはユーロの動向だ。23日のニューヨーク市場では円高・ドル安だけでなく、ユーロも対ドルで買われ、一時は2023年7月以来のユーロ高・ドル安水準を付けた。パウエル氏の発言ばかりに関心が集中した結果、米利下げ予告がドル独歩安を招いたわけだ。だが日米欧の金融政策環境をみると、ドル独歩安とは異なる相場観が浮かんでくる。FRBのパウエル議長は9月の利下げ開始を事実上予告した。一方、日銀は7月末に利上げを決め、植田和男総裁は日銀の見通し通りに経済が進めば「もう少し金利を調整できる局面が来る」として、今後の追加利上げを排除しない。 

    ニューヨーク市場が、円高・ドル安だけに傾かなかったのは、同時にユーロも買われたからだ。ドル売りが円買いとユーロ買いに分散された結果である。この流れが、9月に円買い一本に集中するという予測である。ユーロが、9月に利下げするからだ。 

    (4)「ジャクソンホール会議では、ECBのレーン専務理事が「高すぎる金利があまりにも長くなれば、慢性的に物価目標を下回りかねない」として、過度の金融引き締めによるリスクに言及した。追加利上げのカードを手放さない日銀に対し、インフレ収束を見込んで利下げ姿勢を強め始めたFRBとECB。そこから浮かぶ為替相場の力学は、ドル独歩安ではなく、円独歩高ではないか」

     

    このページのトップヘ