EV(電気自動車)で、世界一の販売実績を掴んだ中国のBYDは、輸出市場で思わぬ障害に遭遇している。海外での販売に当たり、部品の調整を迫られたり、輸送中にカビが発生するなど初歩的なミスを重ねている。急成長してきた企業なので、製造過程でミスが見逃されるなど、消費者の信頼を裏切りやすく問題になっている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月12日付)は、「中国EV大手BYD、国外販売目標は達成難航か」と題する記事を掲載した。
中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)は国外展開で課題に直面しており、国内での急成長は短期間での国外市場の成功実現につながるものではないことが浮き彫りとなっている。
(1)「昨年後半に販売台数で米EV大手テスラを抜き、世界首位となったBYDの幹部らは、同社が抱える問題として市場需要の低迷や高過ぎる価格設定、品質管理、市場シアアの獲得スピードに対する社内の緊張を挙げた。BYDはEV業界に旋風を巻き起こしているが、販売台数の伸びの大半は国内市場のものだ。同社は昨年、国外で24万2765台を販売し、今年は40万台を社内目標に掲げているものの、達成できる公算は小さいと幹部らはみており、背景として世界的なEV販売台数の伸悩みやBYD固有の問題を指摘している」
BYDは、国内市場では大きな成果を上げたが、海外市場ではそれほど「甘くない」という印象を強めている。
(2)「調査会社ジャトー・ダイナミクスによると、BYDは23年に欧州では約1万6000台を販売したが、前年に設定した社内目標は下回った。BYDの担当者はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道について、「事実と異なる」と述べたが、詳細には言及しなかった。BYDは王伝福会長の下、世界的ブランドに成長した日本や韓国の自動車メーカーの足跡をたどろうとしている。
BYDは、強気経営に徹している。一日も早く世界的なメーカーになる、と気負いすぎている面が見られる。
(3)「BYDではこれまで、多くの消費者に影響が及ぶ大規模な品質問題が起きたことはない。それでも、乗用車と商用車の両方に影響が及ぶ事故は起きている。今年1月、ロンドンでBYD製バスが炎上したことから、英当局は約2000台のバスをリコール(回収・無償修理)対象とした。人的被害はなかった。当局は、車両の暖房・換気・空調システムに問題があり、放置すると火災につながる可能性があると指摘した。BYDが抱える問題の一つは、中国から輸出した乗用車を消費者に販売する前に必要となる補修・修理件数の多さだ。同社幹部やBYD車を扱う関係者によると、自動車業界では輸入後の補修は一般的だが、BYD車は大半の車両よりも大がかりな修復が必要になることが多い。これは同社が長距離輸送に不慣れであることが一因ではないかという」
BYDは、海外市場の実態分析が不十分なままに強引に輸出している感じを否めない。それ故、輸入後の大掛かりな補修が必要になっている。
(4)「最近では、日本に到着した車両の中に、へこみや傷などの表面的な問題がある車両や、日本の基準に適合させるために交換が必要な部品が付いた車両があった。欧州では、カビの生えた車両も中国から到着しているという。問題は、長距離輸送された車両に繁殖することで知られるカビの存在ではなく、胞子を完全に除去する専門的なイオン化処理が行われていなかったという懸念にあった」
BYDは、これまで輸出経験の少ないという欠陥が出ている。
(5)「BYDの品質問題は徐々に明るみに出てきており、タイでの塗装・プラスチックの剝がれや、EV販売が好調なイスラエルでのルーフラックの重みによる車両のゆがみなどの苦情が寄せられている。BYDのある幹部はBYD車に対する国外顧客の評判について、「それなりのレストランに行ったのに皿が欠けていた」という感じだと述べた。BYDの幹部らは、輸入車両に対する場当たり的な補修システムは、車両が少数であれば運営可能かもしれないが、BYDが構築したいと考えている大規模なビジネスでは機能しないと、社内で懸念を示している。欧州のBYD幹部が販売目標の実現性に疑問を呈し、需要の低迷や品質修正の必要性などの問題があるため、欧州の目標は達成できないと述べた」
BYDは、品質管理が不十分である。これは、車自体への信頼度を損ねる。
(6)「BYD車は、中国国外では国内よりもはるかに高価であるため、より有名なブランドに価格面で対抗する能力が低下している。アナリストやディーラーによると、BYDはディーラー網・新モデル・製品プロモーションの展開が遅すぎたため、EV購入者への補助金が段階的に廃止された昨年末にドイツなどの国々でEV販売が落ち込む前に、EV販売で他社に追い付くことができなかった。同社の関係者によると、昨年末時点で1万台超のBYD乗用車が欧州の倉庫で待機している。欧州連合(EU)での販売許可証が間もなく期限切れとなるため、欧州での販売ができなくなる可能性があるという」
BYDは、中国国内で販売している経験に従って輸出に当ると、しっぺ返しを受けるであろう。欧州市場は、日本車ですら定着するまで時間が掛っている。この例から言えば、BYDも相当の時間が必要となろう。