勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時報

    a0960_008532_m
       

    今回の米中首脳会談でも、レアアース問題は登場しなかった。米国を初めとする西側諸国が軸になって、重要鉱物特恵市場(8月稼働:55ヶ国参加)するので、レアアースの需給逼迫度がかなり緩和されるからだ。こういう事情も知らないで、中国メディアはEU(欧州連合)を中国の意のままに動かせると「慢心」している。

     

    『レコードチャイナ』(5月14日付)は、「レアアース問題でEUに交渉材料ないと見透かし、自信を見せる中国中国メディア」と題する記事を掲載した。

     

    中国メディア『観察者網』(5月12日付)は、中国によるレアアースの輸出管理強化が供給網の自立を目指す欧州連合(EU)にとって深刻な脅威になっていると報じた。

     

    (1)「記事は、中国商務部が25年10月にレアアース輸出管理の新規定を公表し、米中間の貿易休戦により一時的に見送られたものの、欧州にとってはいつ降り掛かってくるかわからない「ダモクレスの剣」となっていると紹介。25年4月実施の既存規制によってすでに生産ラインが停止の危機に直面する中で、解決策を模索する欧州側の交渉が行き詰まりを見せているとした」

     

    重要鉱物特恵市場は、レアアースを初めとする重要鉱物を無税で輸入するほか、最低価格を設定して、仮に世界の市況が急落しても一定価格を保証する。これまで、小鉱山で自国精錬が不可能であった国でも、日本の化学的精錬法の採用によって無公害精錬が可能になる。こうして、中国へ鉱石(精鉱)を輸出していた国々が、自国で精錬が可能になることで、重要鉱物特恵市場へレアアースを輸出できる道が開かれるのだ。

     

    しかも、これら鉱山国は、米国市場で事業も可能という特典がつくほど優遇される。重要鉱物特恵市場参加国の具体的国名発表は抑えられている。中国の妨害を防ぐためだ。

     

    (2)「交渉に関わる欧州側の担当官が、「中国はトランプ大統領に譲歩させることに成功した。今の中国は貿易戦争で勝つ方法を知っていると確信しており、その自信は交渉の場で明らかだ」と述べたことを紹介した。中国が世界の永久磁石生産の94%、レアアース精錬能力の90%以上、採掘能力の68%を掌握するという圧倒的な支配力を背景として輸出管理の範囲に「域外適用」を追加し、中国産の成分が含まれていれば第三国で生産された製品に対しても制限を課すことを可能にしたと解説」

     

    今回の米中首脳会談で、米国が台湾問題でも中国の要求を聞き流している背景には、レアアース自給への展望が開かれているからだ。中国は、レアアースを武器にした外交が、もはや不可能になった。

     

    (3)「中国が、欧州のサプライチェーンを封じ込める実質的な能力を手にしたことを意味すると評した。その上で、欧州連合安全保障研究所(EUISS)で経済安全保障と技術研究を担当するヨリス・ティアー分析官が、この輸出管理措置をあらゆる交渉の場に掲げられる「必殺の一撃」だと指摘し、これを利用して欧州に対し中国製電気自動車(EV)への輸入関税を撤回させるよう迫っていると分析したことを伝えた」

     

    フランスでは、日仏合弁によるレアアースの「都市鉱山」(リサイクル回収)が26年末をメドに建設中である。フランスの「カレスター社」と日本の「JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)」による合弁プロジェクトだ。年間2000トンの永久磁石を回収して、ネオジム等の軽希土類を約800トン、重希土類を約600トン生産する計画である。重希土類の分離生産能力は、世界の約15%に相当する。

     

    欧州は、使用済み永久磁石(風力・EV)が大量に存在する。廃棄磁石のリサイクルは、欧州が最も得意な領域だ。日本の化学的精錬法は、リサイクル(二次)と鉱石からの製錬(一次)の両方に使える「二刀流」技術である。

     

    日仏両政府は、官民の共同プロジェクトとして、仏南部にレアアース精製工場を建設している。2026年末に稼働予定で、電気自動車のモーターの永久磁石などに使用される重レアアースを生産する。経済産業省によると、将来の日本の需要の2割に当たる供給を受ける長期契約を結んでいる。日本は、重レアアースの長期安定供給を受ける長期契約を結んでいる。このように、中国のレアアース「独占」は、26年末には破られる見通である。

     

    (4)「記事は、EUが今年初めに「欧州重要原材料センター」の新設を発表し、重要原材料法を可決するなど中国からの依存脱却を掲げているものの、域内生産目標を実現するためのプロジェクトは財務的な持続可能性が保証できず、輸入多角化戦略も実質的な成果を挙げていないと指摘。欧州は超大国間の争いによって自らの工業および軍事計画が深く沈み込んでいくのを傍観するしかない無力感に苛まれているとの見方を示した」

     

    EUは、日本のJOGMECと同じ組織を立ち上げた。重要鉱物の製品在庫や資源開発などに最大30億ユーロ(約5400億円)の資金を充てた。これによる一定の在庫を保有して緊急時に備える。一方では、既述の通り日仏合弁によるレアアース・リサイクルと精錬事業が始まる。さらに、フィリピンでは、米国政府主導で24時間連続操業のレアアース工場が28年末には操業開始である。ここでも、日本の化学的精錬法が採用される。

    a0070_000030_m
       

    米国は、今年8月稼働予定の「重要鉱物特恵市場」で入念な準備作業を進めている。米国・EUの重要鉱物協定(事実関係)について、重要鉱物パートナーシップ(MOU)を締結した。目的は、 中国依存への低減である。そのため、 価格フロア(最低価格制)、補助金、備蓄、標準化、共同投資について協定を結んだ。3月に結んだ日米協定と構造がほぼ同じであり、米国が「同じ設計思想」でEUも巻き込んでいることが分かる。

     

    このように、米国がレアアースなどの重要鉱物で中国への依存度を徹底的に下げ、逆に中国を追い込むという「逆転の発想」を実行に付そうとしている。これには、西側諸国が重要鉱物の生産で中国を圧倒するという前提がある。日本の開発した「化学的精錬法」が、基軸になってレアアースなどの増産体制を固める準備が着々と進んでいる。米国の構想では、中国のレアアースのシェアは、2030年までに、10~20%へ縮小(推定)させるという意気込みである。この裏には、ESG基準によって中国製レアアースを排除するという米国の執念が働いている。

     

    『ロイター』(4月25日付け)は、「米EU、重要鉱物で行動計画 中国念頭に貿易措置検討へ」と題する記事を掲載した。

     

    米国と欧州連合(EU)は24日、レアアースなど重要鉱物の生産・供給確保での協力に関する覚書(MOU)に署名するとともに、重要鉱物の供給網強化に向けた行動計画もまとめた。中国の市場支配力を弱めることを念頭に、最低価格制度などの貿易措置を今後検討する。

     

    (1)「覚書は、ルビオ米国務長官とEUのシェフチョビッチ欧州委員(通商担当)が署名した。ルビオ氏は今回の合意について、西側諸国の間でサプライチェーン(供給網)と重要鉱物が経済的成功に重要という認識が高まっていることを反映していると指摘。中国を名指ししなかったものの、「これらの資源の過度な集中、つまり12カ所に支配されている事実は容認できないリスクである。サプライチェーンの多様化が必要だ」と強調した」

     

    これは、米EUが自らの市場圏で価格・規制・投資審査を統合し、中国の価格支配を無効化するための枠組みである。「重要鉱物特恵市場」は、 日本・米国・EU・豪州・メキシコなどが参加し、ESG準拠の鉱物に特恵的な市場アクセスを与える制度化された市場である。重要鉱物特恵市場に出される鉱物生産にはESG基準が適応される。具体的には、日本の化学的精錬法によって精錬された鉱物だけが取引されるという内容だ。

     

    今回の行動計画は「特恵市場の外側で、米・EUが先に制度的足場を固めた動き」である。米国が、先手を打って重要鉱物特恵市場のシステム作りに奔走しているのは、55ヶ国が重要鉱物特恵市場に参加するので、市場の大手である国々があらかじめ意思統一しておくという狙いだ。

     

    (2)「シェフチョビッチ氏は記者団に、最低価格制度の試験事業が年内に始動することを期待していると語った。同氏は、グリア米通商代表部(USTR)代表とも会談し、重要鉱物に関する行動計画を発表。「重要鉱物のサプライチェーンをゆがめてきた非市場的な政策や慣行」に対処する狙いがある。グリア氏は、最低価格制度などの貿易措置が、国内の重要鉱物産業や川下産業をどのように強化できるかについて、米EUで検討すると語った。米国はすでに日本やメキシコと同様の行動計画に署名している」

     

    重要鉱物のサプライチェーンを歪めてきた非市場的な政策や慣行とは、中国による独占的な買鉱と製品のダンピングによるライバル潰しである。EUは、こういう不正取引を正常化するために、重要鉱物特恵市場を構築するとしている。中国は、これまでの「悪行」が標的にされている。 

     

    あじさいのたまご
       

    円も落ちぶれたものだ。ユーロ・円で190円もあり得るという為替専門家の見通しが堂々と登場する時代になった。これは、高市首相の「積極財政論」のマイナス・イメージと植田日銀総裁の「弱々しい」発言がもたらした「感情相場」という側面が強い。つまり、理性的な相場域をはるかにこえた思惑が先行している。

     

    これは「円悲観論」の典型的な構造であり、円を「陰の極」として描きすぎていという印象が極めて強いのだ。円の弱さを「構造的・永続的」と断定していると、日本経済の実態が大きく変わろうとしている現実を見落とすであろう。 ユーロの強さを「理想化」して、円を「ダメ通貨」と位置づけるのは余りにも危険である。

     

    NATO(北大西洋条約機構)の30ヶ国大使が4月16日、訪日したのは日本の技術力を高く評価した結果だ。日本の化学的精錬法が、中国のレアアース(希土類)精錬法を国際市場から「放逐」する現実を理解しているほかに、日本の高い技術力への連携申入れに当たっての「実情調査」であった。こういう水面下の動きを無視して円を「最弱通貨」扱いするとは、余りにも実態無視である。近く、「日本見直し」が起こるであろう。

     

    『ロイター』(4月20日付)は、「190円をうかがうユーロ円相場、円の構造的弱さ際立つ=植野大作氏」と題する記事を掲載した。

     

    春先の外国為替市場でユーロ/円相場の歴史的な高騰が進んでいる。今月17日のニューヨーク市場では一時187円95銭と、1999年1月1日の通貨発足以来の最高値を記録する場面があった。その後はさすがにひと息入り、史上高値圏での利益確定売りに押されて頭打ちになったが、186円台では下げ止まり、歴史的高値圏での取引が続いている。

     

    当該期間中もユーロ/円相場は過去最高値を更新し続けている。ECBと日銀の金融政策サイクルのスレ違いにより発生していたはずの循環的なユーロ安・円高要因を相殺して余りあるほど強くて構造的なユーロ高・円安要因が関与している疑いが濃厚だ。以下、4点を挙げておきたい。

     

    (1)「第一に、24年における日本の一般政府債務残高の名目国内総生産(GDP)比は、約227%とユーロ圏の約2.5倍の水準にある。ソブリン債の信用力を比べても、米系格付け機関による日本国債のランクは最高位にあるユーロ共同債より複数段階も格下だ。昨年はユーロ圏と日本で相次ぎ財政出動への期待が強まったが、理論通りに買われたユーロと売られた円の違いは明白だった。通貨価値の安定に必要な中長期的な財政規律に対する為替市場の信認格差が、歴史的なユーロ高・円安進行の一因だったと思われる」

     

    石破政権では、市場は円高へ舵を切って動き出していた。それが、高市政権の積極財政ですっかり流れが変わった。日本経済の実態には何らの変わりもないのだ。市場の「センチメント」という風向きが変わったというのだ。この気まぐれが、もっともらしい理屈を付けて円を売っているだけである。財政規律だけで通貨の強弱を説明するのは、現代では不十分である。

     

    (2)「第二に、日本とユーロ圏の経常収支を比べると、どちらも安定的な黒字基調であるのは似ているが、その内訳をみると、日本の黒字は海外資産の利息や配当で稼ぐ第一次所得収支が中心だ。得られた外貨が円転されて国内に回帰すれば円高圧力が発生するが、先進国で最も深いマイナス圏に位置している日本の実質金利や人口減による期待成長率の低さがネックになって円転比率が低迷、見かけほどの円高圧力は発生していないとみられる」

     

    現在、経常黒字=円高圧力が弱いのは、現在の円安で企業が円転換しないという理由だ。しかし、第一次所得収支の黒字は円安の「防波堤」として機能している。円防衛の持久力を保っているのだ。これから、国内の設備投資が増えれば、円転換して円高要因へ切り替わるであろう。第一次所得収支の円転換遅れを構造的とみるのは誤りだ。

    テイカカズラ

       

    (3)「近年の日本は、「成熟した債権国」に移行しつつある。かつて恒常的な黒字だった貿易・サービス収支が赤字体質に転じているほか、政府開発援助や出稼ぎ外国人の仕送り、宗教的寄付などで構成される第二次所得収支も流出超過となっている。いずれも国内外の金利差にあまり影響されない構造的な円売り圧力の発生源になっている。現在、ユーロ圏の経常収支黒字の中心は、年間5000億ユーロ前後の規模に膨らんだ貿易・サービス収支が主役に戻っている」

     

    日本の化学的精錬法が、欧米が進めているESG基準の骨格になる技術力として、中国製造業を西側市場から排除する「秘密兵器」であることをご存じだろうか。日本技術が、国際標準となって世界中で設置されるのだ。具体的には、レアアースなど鉱物の他に、これを部品に使った中国の全工業製品が排除される仕組みである。こうして、莫大な利益が日本の貿易収支構造を変えるはずである。化学的精錬法が、貿易・サービス収支構造を黒字体質へ変えるのだ。円が、最弱通貨と言っているのは、今が最後であろう。

     

    (4)「第三に、日本の財務省が行った過去の円売り介入実績をみる限り、その大部分はドル買い介入であり、ユーロ買い介入は少額かつまれにしか実施されていない。政府は外貨準備でユーロ建ての資産はあまり持っていないとみられる。そのためか、過去3年連続でユーロ/円が史上最高値を更新し続けても、ユーロ売り・円買い介入は1度も発動されていない。今後、ユーロ/円相場が続伸しても、巨額のユーロ売り介入が実施される可能性は低そうだ」

     

    ユーロは、強い通貨だろうか。EUは移民問題で分断し、財政統合は未完成だ。東欧諸国は、ロシアとの緊張で不安定である。イタリア・ギリシャの財政問題は未解決である。フランスは、政治的に揺れている。こうみてくると、ユーロは「強い通貨」というより、 政治的に脆弱な通貨同盟が、なんとか維持されている状態であろう。日本の方が、はるかに政治的に安定している。望むらくは、「強い日銀総裁」の出現である。発言に威厳を持たせ、市場を緊張させる「演出」が必要なのだ。

     

    (5)「第四に、ユーロと円の国土面積の変化を比較すると、ユーロの参加国数は1999年の発足当時の11から徐々に増え、今年の正月にはブルガリアが加わって21まで拡大した。過去、武力の行使や政変によって国境が消滅して国土面積や利用人口が増えた通貨は他にもあるが、加盟国の民主的意思決定で領土を拡げている通貨の類例は見当たらない。一方、1973年の変動相場制採用後、日本の国土はほぼ変わっていない上、人口減を背景に利用者の数も今世紀に入って減り続けている」

     

    日本は人口減であるが、ユーロは人口増 である。だから円は弱い としている。これは、 人口と通貨価値を直結させる誤った議論である。 現実には、スイスの人口900万人でも通貨は世界最強。シンガポールも、人口600万人で通貨は強いのだ。通貨価値は、「生産性・技術・資本収支」で決まるものである。日本は、世界最大の対外純資産国、世界最大級の技術立国、世界最大の海外利益保有国である。長年の「弱い円」というイメージで円を「オモチャ」にしているのであろう。こういう誤った認識は、いつまでも続くはずがない。

     

     

     

     

    a0960_008532_m
       

    中国は、電気自動車(EV)を中心に世界市場で攻勢をかけている。自動車大手の比亜迪(BYD)は乗用車のEV販売が、2025年に225万台となり、年間で初めて米テスラから首位を奪った。問題は、フリーキャッシュフローの悪化だ。販売台数が伸びても,利益を伴わない点で「暴走経営」になっている。現在、欧州市場を目指しているが、EU(欧州連合)は、部品の域内生産比率70%以上を条件にしている。さて、どうなるか。

     

    『日本経済新聞』(3月1日付)は、「中国のEV覇権どこまで 日米欧の識者に聞く」と題する記事を掲載した。独自動車研究センター リサーチディレクター ビアトリクス・カイム氏は、「欧州市場への理解欠く」として,次のような見解を明らかにした。

     

    中国は2025年、世界首位となる700万台の自動車を輸出したが、世界を征服したとまでは言えない。2000年代初頭から低価格なエンジン車の輸出を始め、中央アジアや南米ではある程度普及した。

     

    (1)「自国に生産体制がある先進国では異なる。欧州市場の中国車シェアは4.%、ドイツでは2.%にとどまる。価格面での優位が続けば、欧州で15〜20%、アフリカや南米ではそれ以上のシェアを得られるだろう。フォード・モーターなど米国メーカーの持続可能性は低い。中国と欧州、日本メーカーの三つどもえの主導権争いが起こる可能性が高い」

     

    BYDは、財務的には限界点にある。25年のフリーキャッシュフロー(FCF)の赤字が、2840億元(約5.9兆円)にも達した。原因は、研究開発費・海外工場建設・販売網整備による投資負担が主因である。25年の売上高利益率7.6%と過去最高になったが、これまで5%以下という危険水域をさまよってきた。政府補助金を受けながら、こういう状況であったのだ。FCFが黒字化するのは28年ころと見られる。今後も、低空飛行を余儀なくされよう。

     

    (2)「EVで車載電池の75%のシェアをおさえているのが中国の強みだ。いち早く研究開発を始め、09年以降、本格的な投資に打って出た。レアアースやリチウムの資源確保に加え、精製・加工も手がける。資源供給のバリューチェーンが自国で完結している。ドイツメーカーもEV開発で出遅れたわけではない。BMWは14年にEV「i3」を販売したが、国の支援がなく失敗した」

     

    現在の車載電池は、リチウムイオン電池である。航続距離が500~600キロメートル程度であり、発火事故が多いとか、充電時間が長いという欠点を抱えている。中国が車載電池で有利であったのは、リチウム生産国であり、低コストで入手できた結果である。このほか、LFP系というさらに低コストの電池も開発してきたが、この亜流技術開発が災いして、全固体電池開発の技術基盤を培養できなかったという「負担」を抱えている。

     

    (3)「中国は、世界最大のアーリーアダプターの国だ。顧客層が若く新技術にオープンで、ソフトウエアで最新機能を更新するソフト定義車両(SDV)も独自に進化した。中国車に欠けているのは市場理解だ。例えば海外進出の先駆けだった長城汽車は、25年のドイツ販売がわずか2300台超だった。自分たちのブランドを伝えるマーケティング・コミュニケーションがない状態で、BMWと同価格帯の高級車は売れない。上海汽車集団傘下の英ブランド「MG」や、メルセデス・ベンツグループと浙江吉利控股集団が共同生産する小型車「スマート」は賢明な戦略を取っている。欧州ブランドのイメージを壊さず、多くの消費者が中国車だと認識していない」

     

    中国の消費者は、意外と「新し物好き」(アーリーアダプター)である。これは、見栄が他国に比べて極めて強いという特性を示している。この点で、保守的性向が強い欧州市場で中国車が受入れられるには、それなりの時間を必要としよう。

     

    (4)「BYDは、「中国発BYDが津波のように押し寄せる」という広告戦略を仕掛けたが、その後変えた。ステラ・リー執行副総裁は「世界でBYDを中国ブランドと思われたくない」と理由を説明する。欧州は単一市場ではないことを理解すべきだ。EVの浸透度は南欧と北欧で大きな差があり、車文化も異なる。多くの中国メーカーは、中国と同じ手法が欧州でも通用すると考えているが間違いだ」

     

    中国のようなアーリーアダプターが、欧州には存在しない。「見栄」や「虚栄心」が

    弱いからだ。すべて、オーソドックスでなければ受け入れられないであろう。

     

    (5)「欧州連合(EU)は、中国製の輸入EVに追加関税を課し、域内生産の小型EVを優遇するなど、保護主義にかじを切る。しかし、多額の政府補助金を得る中国メーカーの価格競争力は高い。関税分を自社負担し、消費者に転嫁しなくても黒字を確保できる。トヨタ自動車やホンダなど日本メーカーにあって、中国や欧州にない強みがある。それは米国市場だ。米国やメキシコに自社工場を持ち、エンジン車やHVの売り上げが大きい。ドイツメーカーが失いつつある面で、明らかに日本に優位性がある。米国の利益基盤があれば、全固体電池など新技術に投資し、中国に対抗することも十分に可能だ」

     

    日本車には、米国という「金城湯池」の市場がある。ここでたっぷりと利益を上げているのだ。欧州車も中国車も、遠く及ばない世界である。トヨタ自動車は、27年から人気車をEVにして米国で販売する。全固体電池車ではないが航続600キロメートル、給電10分へ短縮する。この後に、本命の全固体電池車を投入するのであろう。実に、整然とした販売戦略で市場把握に務めている。

     

    このページのトップヘ