中国は、電気自動車(EV)を中心に世界市場で攻勢をかけている。自動車大手の比亜迪(BYD)は乗用車のEV販売が、2025年に225万台となり、年間で初めて米テスラから首位を奪った。問題は、フリーキャッシュフローの悪化だ。販売台数が伸びても,利益を伴わない点で「暴走経営」になっている。現在、欧州市場を目指しているが、EU(欧州連合)は、部品の域内生産比率70%以上を条件にしている。さて、どうなるか。
『日本経済新聞』(3月1日付)は、「中国のEV覇権どこまで 日米欧の識者に聞く」と題する記事を掲載した。独自動車研究センター リサーチディレクター ビアトリクス・カイム氏は、「欧州市場への理解欠く」として,次のような見解を明らかにした。
中国は2025年、世界首位となる700万台の自動車を輸出したが、世界を征服したとまでは言えない。2000年代初頭から低価格なエンジン車の輸出を始め、中央アジアや南米ではある程度普及した。
(1)「自国に生産体制がある先進国では異なる。欧州市場の中国車シェアは4.4%、ドイツでは2.2%にとどまる。価格面での優位が続けば、欧州で15〜20%、アフリカや南米ではそれ以上のシェアを得られるだろう。フォード・モーターなど米国メーカーの持続可能性は低い。中国と欧州、日本メーカーの三つどもえの主導権争いが起こる可能性が高い」
BYDは、財務的には限界点にある。25年のフリーキャッシュフロー(FCF)の赤字が、2840億元(約5.9兆円)にも達した。原因は、研究開発費・海外工場建設・販売網整備による投資負担が主因である。25年の売上高利益率7.6%と過去最高になったが、これまで5%以下という危険水域をさまよってきた。政府補助金を受けながら、こういう状況であったのだ。FCFが黒字化するのは28年ころと見られる。今後も、低空飛行を余儀なくされよう。
(2)「EVで車載電池の75%のシェアをおさえているのが中国の強みだ。いち早く研究開発を始め、09年以降、本格的な投資に打って出た。レアアースやリチウムの資源確保に加え、精製・加工も手がける。資源供給のバリューチェーンが自国で完結している。ドイツメーカーもEV開発で出遅れたわけではない。BMWは14年にEV「i3」を販売したが、国の支援がなく失敗した」
現在の車載電池は、リチウムイオン電池である。航続距離が500~600キロメートル程度であり、発火事故が多いとか、充電時間が長いという欠点を抱えている。中国が車載電池で有利であったのは、リチウム生産国であり、低コストで入手できた結果である。このほか、LFP系というさらに低コストの電池も開発してきたが、この亜流技術開発が災いして、全固体電池開発の技術基盤を培養できなかったという「負担」を抱えている。
(3)「中国は、世界最大のアーリーアダプターの国だ。顧客層が若く新技術にオープンで、ソフトウエアで最新機能を更新するソフト定義車両(SDV)も独自に進化した。中国車に欠けているのは市場理解だ。例えば海外進出の先駆けだった長城汽車は、25年のドイツ販売がわずか2300台超だった。自分たちのブランドを伝えるマーケティング・コミュニケーションがない状態で、BMWと同価格帯の高級車は売れない。上海汽車集団傘下の英ブランド「MG」や、メルセデス・ベンツグループと浙江吉利控股集団が共同生産する小型車「スマート」は賢明な戦略を取っている。欧州ブランドのイメージを壊さず、多くの消費者が中国車だと認識していない」
中国の消費者は、意外と「新し物好き」(アーリーアダプター)である。これは、見栄が他国に比べて極めて強いという特性を示している。この点で、保守的性向が強い欧州市場で中国車が受入れられるには、それなりの時間を必要としよう。
(4)「BYDは、「中国発BYDが津波のように押し寄せる」という広告戦略を仕掛けたが、その後変えた。ステラ・リー執行副総裁は「世界でBYDを中国ブランドと思われたくない」と理由を説明する。欧州は単一市場ではないことを理解すべきだ。EVの浸透度は南欧と北欧で大きな差があり、車文化も異なる。多くの中国メーカーは、中国と同じ手法が欧州でも通用すると考えているが間違いだ」
中国のようなアーリーアダプターが、欧州には存在しない。「見栄」や「虚栄心」が
弱いからだ。すべて、オーソドックスでなければ受け入れられないであろう。
(5)「欧州連合(EU)は、中国製の輸入EVに追加関税を課し、域内生産の小型EVを優遇するなど、保護主義にかじを切る。しかし、多額の政府補助金を得る中国メーカーの価格競争力は高い。関税分を自社負担し、消費者に転嫁しなくても黒字を確保できる。トヨタ自動車やホンダなど日本メーカーにあって、中国や欧州にない強みがある。それは米国市場だ。米国やメキシコに自社工場を持ち、エンジン車やHVの売り上げが大きい。ドイツメーカーが失いつつある面で、明らかに日本に優位性がある。米国の利益基盤があれば、全固体電池など新技術に投資し、中国に対抗することも十分に可能だ」
日本車には、米国という「金城湯池」の市場がある。ここでたっぷりと利益を上げているのだ。欧州車も中国車も、遠く及ばない世界である。トヨタ自動車は、27年から人気車をEVにして米国で販売する。全固体電池車ではないが航続600キロメートル、給電10分へ短縮する。この後に、本命の全固体電池車を投入するのであろう。実に、整然とした販売戦略で市場把握に務めている。




