勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時報

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    ドイツは、欧州経済安定の象徴として、多くの投資家が不動産を購入してきた。個人住宅相場は、2000年から2022年までに2倍へ跳ね上がるほどの人気を集めてきた。商業用不動産も1.5倍へと値上がりしたほど。だが今、ドイツ経済のエンジンは失速状態である。高金利・高エネルギー価格に阻まれての結果だ。

     

    『ロイター』(5月24日付)は、「ドイツ不動産市場、外国人が敬遠 経済の傷深まる恐れ」と題する記事を掲載した。

     

    過去数十年で、ドイツの不動産市場は、最悪の状態に見舞われている。外国人が不動産取引を手控えており、ドイツ国経済の傷はさらに深まりそうだ。第1・四半期の商業用不動産購入に占める外国人の比率は35%と、2013年以降で最低へ落込んだ。販売額は20~21年の新型コロナウイルス流行時から70%も急減している。こうした中、ドイツは再び「欧州の病人」になったのかとの議論が巻き起こっている。

     

    (1)「ドイツが、欧州の病人と呼ばれたのは景気停滞と高失業率に悩まされていた1990年代後半。その後、ドイツは汚名返上に努めてきたが、ここにきてロシア産エネルギーとの決別、官僚主義の呪縛、極右の躍進などを背景に、再びこの呼び名が浮上してきた。国内有数の大手デベロッパーを経営するクルト・ツェヒ氏は、ロイターとのインタビューで、外国人投資家が市場に戻るまで厳しい状況が続くと予想」

     

    ドイツは、EU統合による共通通貨「ユーロ」がドイツ・マルクよりも割安に設定され、その恩恵を輸出増という形で享受してきた。その「魔法」が解けてしまったのだ。ロシアのウクライナ侵攻後の高金利と高エネルギー価格の結果である。これが、大きな圧力になった。

     

    (2)「ドイツの長年の不動産ブームを支えていたのは低金利、安価なエネルギー、好調な経済だった。不動産部門は国内経済におおむね年間7300億ユーロ(7935億1000万ドル)の貢献をしている。国内総生産(GDP)の約2割だ。だが、インフレの高進で欧州中央銀行(ECB)が急ピッチな利上げを迫られると、不動産ブームは終焉を迎えた。不動産融資は枯渇し、不動産取引が失速。プロジェクトが行き詰まり、大手デベロッパーが倒産し、一部の銀行も痛手を負った。業界団体は政府に介入を要請している。独ファンドブリーフ銀行協会(VDP)によると、第1・四半期の商業用不動産価格は前年同期比9.6%下落。23年通年では10.2%値下がりした」

     

    ドイツ経済へ吹いていた春風は、一挙に突風へと変わった。ドイツの不動産相場は、急激な冷え込みとなった。GDPの20%を占める不動産の沈滞は、ドイツ経済をゼロ成長へ追込んでいる。形の上では、中国不況と似通っている。

     

    (3)「INGのチーフエコノミスト、カールステン・ブルゼスキー氏は「ドイツはかつて欧州の安定の象徴で、多くの投資家が群れをなして不動産を購入していた」と指摘。だが「今、ドイツの経済エンジンは失速しており、メンテナンスが必要だ。もう投資家が望むような真新しい投資先ではない」と語った。BNPパリバによると、23年の商業用不動産購入に占める外国人の比率は37%で、10年ぶりの低水準。かつては外国人の取引が半分を占めていた。ドイツの不動産取引は、大半が商業用不動産で住宅販売の比率は低い

     

    外国人は、ドイツの商業用不動産投資で利益を上げてきた。個人住宅投機ではない。商業用不動産運用では、利回りが重視される。ドイツ経済のゼロ成長では、不動産利回りは低くて投資対象にはならない。これは、ドイツ経済にとって痛手だ。 

    (4)「高金利は世界的に不動産市場の重石になっているが、3月にフランスのカンヌで開催された業界の国際会議では、特に打撃を受けているのがドイツだとの声が相次いだ。カンヌでインタビューに応じたハインズのマネジングディレクター兼ファンドマネージャー、シモーネ・ポッツァート氏は「本当にムードが最悪なのはドイツだ」と発言。欧州系デベロッパーの別の幹部は匿名を条件に、人員をドイツから英国など、投資家の関心が高く早期回復が見込まれる市場に再配置する計画を明らかにした」

     

    欧州は、ドイツ不動産ではビジネスにならないとして、英国へ関心を向けているという。

     

    (5)「ドイツの経済モデルには疑問の声が投げかけられている。エネルギーコストの高騰、世界的な需要低迷、破壊的なネットゼロ経済へのシフト、中国との競争激化などが背景だ。ドイツ政府の経済諮問委員会(5賢人委員会)は先週、今年のGDP成長率予想を昨秋時点の0.7%から0.2%に下方修正。ショルツ首相は国内経済が「前例のない困難に直面している」と述べた」

     

    ドイツ社会は、強い保守的一面を持っている。「破壊的なネットゼロ経済へのシフト」と指摘されるなど、過去の生活スタイルに固執している。極右の躍進で、「ヒトラー礼賛」発言が飛び出すほどだ。日本の「右傾化」とは質が異なる。ドイツ極右は、前記の発言で欧州極右から除名されたほどだ。ドイツ経済の将来に不安を残す背景である。

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    中国は、景気回復を自国の責任で行うべきだが、それを怠っている。過剰生産分を輸出で処理するという「無責任」体制である。こういう中国に対して、過剰生産を止めさせるにはどうすべきか。誰も、解決案を持っていないのだ。中国は、あくまで「不況輸出」維持の姿勢を崩さないだけに難題である。 

    『ブルームバーグ』(5月9日付)は、「中国の過剰生産能力、早期解決期待できずー日米経済摩擦に倣う展開も」と題する記事を掲載した。 

    中国製造業の過剰生産能力を巡る不満の声がますます高まっているが、是正に乗り出せば脆弱な経済への逆風になりかねず、中国政府が動く兆しはない。 

    (1)「中国製電気自動車(EV)への関税賦課をちらつかせる欧州連合(EU)の指導者は今週、中国の過剰生産能力をあらためて批判。フォンデアライエン欧州委員長は中国の習近平国家主席との会談を前に「早急な」行動を期待していると述べた。フォンデアライエン氏は恐らく失望することになるだろう。バッテリー産業の成長を減速させる中国政府の案が8日公表されたが、拘束力はない」 

    EUは、中国製EVへ関税を割り増しするとフォンデアライエン欧州委員長が言明している。EUの決断は下ったのだ。

     

    (2)「中国国家発展改革委員会(発改委)は先週、クリーンエネルギー製品分野での中国の生産能力が過剰との主張に対し、4部構成の反論を公表。自国産業の競争力は補助金ではなくイノベーション(技術革新)によるものだと訴えた。それは、EVや太陽光パネルといったハイテク産業に関する中国政府の決まり文句だ。習主席が描く景気回復の青写真で、これらの産業は極めて重要であり、中国はどんなに強く求められても恐らく支援をやめないだろう。他の諸国にとっても戦略的に重要な産業分野であり、貿易障壁が高くなる理由がそこにある」 

    中国が百万言の言い訳をしても通用しない。政府からの多額な補助金が、企業へ支給されている。中国企業の有価証券報告書を見れば、一目瞭然であるのだ。 

    (3)「HSBCホールディングスのアジア担当チーフエコノミスト、フレデリック・ニューマン氏は「中国の過剰生産能力の問題に即効性のある単一の解決策はない」と指摘。クリーンエネルギーの根本原因は中国の「活発な投資」だが、より伝統的な産業では「特に住宅建設の失速」に伴う需要の弱さが問題だと分析した。ニューマン氏によれば、中国住宅市場の安定と消費支出拡大に関し、需給バランスを図る「2方面からのアプローチ」が最終的に必要だ。しかし、中国の過剰生産能力を強く批判する人々さえ、それが難題だと認める」 

    中国は、住宅市場の安定と消費支出拡大に責任を持つべきである。その基本的義務を履行しないで、意図的な供給増による需要不足の「ツケ」を、他国へ回すことは赦されない。甘えを許してはならないのだ。

     

    (4)「中国は内需への依存を強め、他の国々への依存を減らすべきだというのが米国の見解だ。イエレン氏は広州市で記者団に対し、「これはマクロ経済と産業戦略全体に関わる複雑な問題だ。半日や1カ月でも解決できるものではない」と語った。中国の家計と地方政府は現時点で、成長けん引の重責を担う状況からは程遠く、住宅危機を受けて支出を抑制している。中国では内需が勢いを失う中で、1-3月(第1四半期)の工業部門の稼働率が低下し、新型コロナウイルス禍が始まった2020年初め以来の水準に落ち込んだ。工場は輸出志向となり、物価は下落している」 

    中国は、内需への依存を強め、他の国々への輸出依存を減らすべきである。この正論を曲げてはならない。中国が、責任ある国家を目指すならば、最低限、「自国完結」で需給バランスを取るべきだ。それが、一国政府の義務である。 

    (5)「自動車業界では、状況はもっと複雑だ。JSCオートモーティブの推計によると、設備稼働率は1-3月期に急低下したが、比亜迪(BYD)や米テスラなどの主要なEV輸出企業の稼働率は業界全体を上回っている。中国の急速なEVシフトの影響で、かつてガソリン車を製造していた工場の休止が増えている様子がうかがえる」 

    BYDは、政府から多額の補助金を受入れている。この事実を忘れてはならない。

     

    (6)「中国企業が他国での生産に乗り出すことが、EVを巡る緊張を和らげる一つの方法かもしれない。1980年代の日米経済摩擦は、日本の自動車メーカーが米国の工場に投資したことで緩和された。中国企業は政府の後押しを受け、欧州や南米、アジアで同じ道をたどり始めている。共産党の最高意思決定機関である党中央政治局は先週、「民間企業の海外市場進出を支援する」と表明した。習主席の今回の訪問先のうち、ハンガリーでは、BYDが工場建設を計画し、フランスのルメール経済・財務相も工場建設を歓迎する姿勢を示す。だがこれは長期戦略だ。BYDによれば、ハンガリーでの生産開始には3年かかるという。中国の投資への反感が広がる米国ではうまくいかないかもしれない」 

    中国企業に、先進国へ工場進出させるのは「公平」な措置にみえる。だが、中国があからさまにスパイ行為を働いている以上、感情的に受入れないだろう。日米摩擦解消策が、対中国企業に適応できない政治的事情を忘れてはなるまい。

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    中国は、通商や安全保障の対中抑止を主導する米国に対抗するため、欧州との関係を重視している。習氏は3月にオランダのルッテ首相、4月にドイツのショルツ首相とそれぞれ北京で会い、協力の拡大を確かめた。そして現在、習氏自身が欧州を訪問中である。これら一連の欧州首脳との会談で、中国は外交成果をあげていると思われがちである。欧州は、本音部分で中国へ警戒感を募らせている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月7日付)は、「欧州の海空軍、太平洋集結へ 中国念頭に南シナ海も航行」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツやフランスなど欧州諸国が、多くの艦船と航空機を近く太平洋に展開する。日米などとの共同演習に臨み、一部艦船は南シナ海を航行する。中国の脅威への警戒心が急速に強まっているためだ。前例のない規模で欧州の海空軍が太平洋に集結する。

     

    (1)「ドイツ政府は、フリゲート艦や補給艦で構成する艦隊を太平洋に派遣すると決めた。7日、独北部ウィルヘルムスハーフェンなどから出航し、大西洋を横断して太平洋に入る。今夏に米海軍主催の多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」に参加したのち、フィリピンと中国が領有権を争う南シナ海を通る。フランスやイタリアなどもリムパックに参加すると日本経済新聞の取材に明かした。ベーアボック独外相は1月、フィリピンを訪問し、覇権主義に傾く中国を批判した。ドイツ海軍高官は「将来の紛争抑止のため、ドイツ海軍も重要な役割を果たす」と話す。フリゲート艦を派遣するオランダ海軍の報道官は「最新鋭兵器を使った演習で同盟国との協力を深めたい」と答えた」

     

    今年の夏から秋にかけて、ヨーロッパ諸国の軍艦が太平洋へ出現しそうな情勢だ。多くの欧州諸国が、米ハワイ沖で行われる合同演習(リムパック)に参加するためだ。インド太平洋に領土を持つ英国やフランスだけなく、ドイツ・イタリア・オランダ・スペイン・イタリアなどEU主要国が軒並み太平洋へ艦船か航空機(もしくは両方)を展開することになりそうだ。

     

    (2)「欧州諸国は、同時に多くの航空機を太平洋に展開する。独仏スペインが、戦闘機ユーロファイターと給油・輸送機などで構成する航空編隊をインド太平洋に送り、日米やオーストラリアとの演習に臨む。ここ数年、欧州勢がアジア安保に関与する動きが目立つ。2021年には英国が米英豪の安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を背景に、航空母艦を日本に派遣した。軍艦に台湾海峡を通過させたこともある。ドイツも同じ頃、フリゲート艦を日本に送った。ドイツは派遣規模を大きく広げ、歴史的にみてアジア外交に関心の薄かったスペインやイタリアまで加わる」

     

    欧州諸国は、軍艦と同時に多くの航空機を太平洋に展開する見通しである。「仮想敵」中国を想定した動きである。

     

    (3)「欧州のこうした動きには2つの政治的な狙いがある。1つ目は民主主義陣営が安全保障政策で一枚岩であるというメッセージだ。7月に米ワシントンで北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が開かれる。これに重なるタイミングで遠い太平洋に兵力を展開し、米欧が表裏一体だと印象づけたい。ロシアを意識するとともに、米国に「欧州の貢献」を目に見える形で示す思惑もある。2つ目は中国への警告だ。セルビアやモンテネグロなどのバルカン半島諸国に政治的な影響力を強めようとする中国への警戒心は強まっている。ドイツや英国など欧州政界のあちこちに潜入した中国のスパイ工作が相次ぎ露見し、不信に拍車をかけている」

     

    欧州が、太平洋へ軍艦と航空機を派遣する目的は二つある。1つ目は、民主主義陣営が安全保障政策で一枚岩であるというメッセージ。2つ目は直接、中国への警告とされる。欧州に出没する中国スパイによる不信感が増大しているからだ。

     

    (4)「ショルツ独首相は、4月に独企業幹部を引き連れて訪中。マクロン仏大統領も56日、パリを訪れた中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と経済交流を巡って会談した。一方で、欧州は海軍と空軍を同時に太平洋に展開し、日韓印との関係も深めようとしている。欧州連合(EU)では、インド太平洋地域の安定こそ欧州の利益になるとの認識が浸透しつつある。台湾海峡などは海上輸送の要衝で、貿易ルートが寸断されれば欧州景気を支えるドイツ企業のサプライチェーン(供給網)に大きな混乱が生じる。英国は、25年からインド太平洋で日米と定期的に合同演習することを明らかにした。今秋の米大統領選の結果にかかわらず、欧州のアジア安保への関与はますます深まりそうだ」

     

    世界のサプライチェーンが、アジアに多く広がっている以上、欧州の各国政府はインド太平洋との関わりが増えている。「台湾有事」が起こる事態になれば、欧州経済へ波及する。傍観できない状況になっているのだ。NATO(北大西洋条約機構)が将来、アジアへ足がかりをつくるステップになるのであろう。

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    中国自動車業界は、操業度が適正水準の80%を大きく割り込み60%台まで低下している。それでも、政府補助金によって増産体制を維持する目的は何か。その一つとして、雇用維持が上げられる。中国は、EV(電気自動車)輸出によって過剰生産をカバーしているが、輸入国側もダンピング調査など、壁を高くしている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「あふれる中国車、それでも生産続けるのはなぜ?」と題する記事を掲載した。 

    (1)「中国では長年にわたり、自動車の生産能力が過剰状態にある。国内100余りのブランドは毎年、同国のドライバーが購入するより多くの自動車を生産している。しかし、中国当局が経済成長押し上げや雇用維持、世界のEVビジネスにおける中国の役割拡大を目指す中で、政府は赤字の自動車メーカーに生産継続を奨励している。補助金など政府の奨励策によって、世界市場への供給が増えており、供給過剰に拍車がかかる恐れがある」 

    中国当局は、雇用維持目的で赤字の自動車メーカーに補助金を支給して生産を継続させている。 

    (2)「中国には現在、年間4000万台を生産する能力があるが、国内での販売台数は2200万台前後にとどまっている。こうした状況は、テスラなどの企業が中国で激しい値下げ競争に直面することにつながっている欧米諸国では、中国の自動車メーカーが国内で売れ残った車で他国の市場をあふれさせるのではないかとの懸念が生じている生産能力の余剰は、とりわけエンジン車で顕著だ。中国の消費者がEVへの乗り換えを進める中、エンジン車は人気がなくなってきている」 

    欧米諸国は、中国の過剰生産された部分が輸出されているのでないかと危惧している。貿易摩擦の原点である。

     

    (3)「中国から米国に輸入される自動車には高関税が課されるとはいえ、米政府は、補助金の恩恵を受けた中国の自動車が米国に輸入されることでダンピング(不当廉売)を心配している。欧州は昨年、中国のEV補助金に関する調査を開始した。この結果、向こう数カ月の間に輸入関税がかけられる公算が大きい中国の自動車輸出はわずか3年間で5倍近くに増え、2023年には約500万台に達し、欧米諸国に懸念を生じさせる一因となった」 

    EUは、今後数ヶ月以内に中国製EVに対して関税引上げに踏み切るとみられる。中国との関係悪化が懸念される。 

    (4)「明らかな点は、中国国内の自動車販売の伸びが減速する中で、同国の自動車産業が拡大基調にあることだ。4月25日に開幕した中国最大の自動車ショー「北京国際モーターショー」では、300近い車種のEV、プラグインハイブリッド車(PHV、PHEV)が展示されている。その中には、スマートフォンメーカーの小米科技(シャオミ)が開発したスポーツセダンEVも含まれている。同社は自動車生産に乗り出したばかりだが、今年中に10万台を販売する計画を立てている」 

    中国の国内自動車需要は減少しているのに、供給は拡大基調にある。このギャップが、貿易摩擦に発展している理由だ。3月にEVへ参入した小米科技は、年内に10万台を目指すという。国内競争激化が、さらなる輸出圧力となろう。

     

    (5)「中国はかなり前から、支配的地位の確立を目指す産業分野の一つにEVを挙げていた。このため地方政府の多くは先を争うように、雇用創出につながる新たな自動車メーカーの育成を図ってきた。中国経済の他の分野が停滞し、習近平国家主席が地方の指導者に「新質生産力」の強化を求める中、この1年で自動車産業育成の緊急性が高まった。新質生産力とは、高付加価値の製造業育成の必要性を訴えるために中国の政策立案者がよく用いる言葉だ。ドイツのキール世界経済研究所(IfW)の4月の報告書によれば、中国の自動車業界への公的支援策には、市場実勢を下回る金利での融資、割引価格での鉄鋼や電池の供給などが含まれる」 

    下線の通り、中国自動車業界は手厚い公的支援を受けている。貸出金利や鋼材・電池の購入で優遇されているという。 

    (6)「同研究所が中国EV最大手、比亜迪(BYD)の年次報告書に基づき指摘したところによると、同社は2018~22年に政府補助金約35億ドルを受け取った。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)で中国の経済政策について研究するスコット・ケネディ氏が提供する最新の推計によれば、中国はEVやPHVなどを含む新エネルギー車産業を支援するために2009~22年に総額約1730億ドルの補助金を支出した」 

    EVで破竹の勢いであるBYDは、2018~22年に政府補助金を約35億ドル(約5400億円)受け取っている。政府は、新エネルギー車産業を支援するため、自動車業界へ2009~22年で総額約1730億ドル(約26兆8000億円)の補助金を支給した。

     

    (7)「中部・河南省鄭州市は2月、「新質生産力」産業を育成し、年間70万台の生産能力を持つ「新エネルギー車都市」となることを宣言した。その1ヶ月後、鄭州市の政府系事業体が、経営難に陥っていた自動車メーカー、海馬汽車の現地部門の資産を一時的に取得した。現地部門は3000人近い従業員を抱え、同市に工場を持つ。同社の開示文書によると、今年1~3月の販売台数は2000台に満たなかった。期間5年のこの契約で、海馬汽車には必要な資金約2750万ドル相当が供与された。海馬は、ロシアやベトナムといった市場への輸出強化に注力し、成長を促進する方針を明らかにした」 

    河南省鄭州市は、新たに年間70万台の自動車都市を宣言した。経営難の海馬汽車(従業員約3000人)へテコ入れしている。5年間の契約で、すでに約42億6000万円が供与された。自動車の過剰生産は、さらに勢いづく情勢だ。

     

    テイカカズラ
       

    中国経済は、不動産バブル崩壊によって内需が停滞している。これをカバーすべく、「三種の神器」(EV・電池・太陽光パネル)の輸出に全力を挙げている。だが、中国輸出の標的になっている各国は、輸入障壁を高める体制をかためつつある。中国製品には、ダンピング輸出の疑いが濃いというのが理由だ。

     

    中国の工業部門利益が、3月に前年同月比3.5%も急減した。輸出が、3月に前年比7.5%減に見舞われた結果である。工業利益は、1~3月期は前年同期比4.3%増。輸出は、同1.5%増であるが、1~2月と3月の様相でハッキリと境界線が生まれている。年初の勢いが3月に途切れたという意味だ。

     

    『ブルームバーグ』(4月27日付)は、「中国の工業部門利益減少に転じるー海外からの需要低迷が響く」と題する記事を掲載した。

     

    中国の工業部門の企業利益は3月に減少した。輸出の低迷とデフレ圧力の継続が響いた。1~3月の予想を上回る経済成長を維持するのは難しいことを示唆している。

     

    1)「国家統計局の27日の発表によると、大企業の3月の工業利益は前年同月比で3.5%減少。1~3月の利益は1兆5100億元(約33兆円)と4.3%増加したが、新型コロナウイルス禍後に見られた回復との比較では伸びが鈍化している。1~2月の工業利益は前年同期比10.2%増加していた。3月の減少により、連続増益は7ヶ月で終止符が打たれた。輸出は3月に予想外に落ち込み、弱い内需を補う助けにはほとんどならなかった」

     

    中国は、内需が停滞しているので輸出に依存する経済運営を行っている。その頼みの輸出が3月に急減したことから、13月期の工業利益は通期で4.3%増に止まった。1~2月は前年同期比10.2%増であったから、急ブレーキがかかった格好である。これは、中国経済にとって前途の厳しさを予告している。

     

    2)「住宅不況で内需低迷が続く中、工場渡し価格の下落が利益率を圧迫し、工業製品を扱う企業は海外での販売を強化している。ただ、地政学的リスクの高まりによって、そうした取り組みを難しくする可能性が高まっている。欧米諸国は、中国が国内で過剰生産能力を構築し、製品を海外で不当廉売していると非難。欧州連合(EU)は中国の電気自動車(EV)補助金などに関する調査を実施している」

     

    EUは、中国の電気自動車(EV)補助金に関する調査に加え、中国が欧州の風力発電に違法な支援を行ったかどうかも調べている。補助金調査はソーラー企業や鉄道会社にも及び、中国の医療機器調達に関する調査にも間もなく着手する。EUで、対中貿易規制問題を牽引しているのは、欧州委員会のフォンデアライエン委員長(首相)である。これは、EUが対中貿易問題をいかに深刻に捉えているかを示している。

     

    EUは、中国に対して一段と強硬になりつつあり、関税を課すような貿易制限措置をちらつかせている。中国を欧州市場から切り離し、貿易戦争に発展させる可能性もあるほどである。EUは、2022年に対中国貿易赤字が約4000億ユーロ(約67兆6000億円)と過去最大を記録している。EUの危機感が強まるのは致し方あるまい。

     

    3)「国家統計局のアナリスト、於衛寧氏は「工業企業の利益は第1四半期に成長の勢いを維持した」ものの、回復はまだ不均衡だと説明。政府は「内需を押し上げ、引き続き各業種の企業の信頼感を向上させ、産業経済の回復の基盤をさらに強化する」とした」

     

    中国は、不動産バブル崩壊による過剰負債処理を棚上げしたままである。この穴をカバーするために、「三種の神器」の輸出策に出ているが、これも限界を迎えている。

     

    『読売新聞』(4月28日付)は、「日本とEUが経済安保強化へ共同構想、中国を念頭 半導体など調達を特定国に依存しない方針」と題する記事を掲載した。

     

    日本と欧州連合(EU)は、経済安全保障の強化に向けた国際的な共同構想を打ち出す。半導体など戦略物資の調達で、特定国に依存しないことや、環境への配慮など共通の原則を策定していく。中国製など安価な製品が市場を席巻していることが念頭にある。米国を始め同志国にも賛同を呼びかけ、透明性の高いルールに基づく市場競争を目指す

     

    (4)「5月初旬に、日EUのハイレベル経済対話をパリで開催して共同声明を出す見通しだ。日本からは上川外相と斎藤経済産業相、EUの執行機関・欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長が出席する。共同声明では、日EUが「透明、強靱(きょうじん)で、持続可能な供給網」を推進していくことを盛り込む。日EUで経済安保の強化について具体的な声明を出すのは初めてだ」

     

    EUは、日本と協調して半導体など戦略物資の調達で中国に依存しない体制構築を目指している。中国による台風のような輸出攻勢を遮断する姿勢をみせているのだ。中国は、こうして輸出市場を失うのであろう。

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