今年は40万トン増
概算金なんと5割増
巧妙なEU農業政策
輸出視野に大転換へ
令和の米騒動は、政府の備蓄米放出で一時的に米価高騰を抑えこんだ形になった。一方、本命とも言うべき銘柄米は、高値に張り付いたままだ。現在のコメ小売市場は、5キロ2000円台の随意契約米、3000円台の備蓄米を使ったブレンド米、それに銘柄米の4000円台と3通りの価格帯が存在する。異常事態に陥っている。
この現象をどう理解すべきか。明らかに、農業政策の失敗を意味する。本来であれば、備蓄米は地震など緊急時に備えて置くべきコメである。入札制の備置米放出は、未だ5割強が店頭に並んだだけ。残りは「行方不明」だ。放出の主旨から言えば、認められないことだが、堂々と「隠匿」されている。これは、制度の欠陥である。コメは現在、卸売業者間で投機対象になっている。今後の制度改革で、大きな焦点になろう。
政府は、当面の米価高騰抑制目的で随意契約によって押さえ込みにかかっている。これは、ごく短期の政策である。米価政策が何ら変わっていない以上、「来年はどうなるか」という不安を抱えたままだ。米作は、一毛作で年1回である。25年産米の出荷が始まる9月以降も、高値の状況が変わらなければ、本格的な「米騒動」が起っても不思議はない。驚くことに集荷業者は現在、24年産米よりもさらに高値で買付けている。
日本のコメ市場は、不思議な存在である。供給は原則、国内に限定されている。輸入は、日本農業を破壊するという長年の認識によってタブーなのだ。生産者保護が、全面的に打ち出されている。食糧自給維持が基本である以上、やむを得ない面もあるが、国内流通網だけは完全に「市場ルール」である。供給が、大幅に国内だけに制限されている市場において、流通業者が自由経済前提のビジネスを行っている。投機を奨励しているようなものなのだ。
投機機能は本来、必要な経済行為である。需要と供給が、自由に行われている状況下で、価格安定機能を発揮させるからだ。だが、日本のような歪なコメ市場では、肝心の供給が制限されている。その中で、コメ卸売業者が6次まで存在して投機をしている。日本の消費者は、上乗せされる流通マージン分だけ高い値段のコメを買わされている計算なのだ。消費者から、怒りの声が上がるのは当然である。
今年は40万トン増
注目の25年産米価格はどうなるか。消費者の関心は、この一点に移っている。コメの高騰を受け、農家は生産意欲を高めている。2025年産米の収穫量見込みは、前年比40万トン増の719万トンとされる。増産幅は、調査を開始した2004年以降で最大である。問題は、夏の天候だ。23年夏のように異常高温の再来となると、暑さに弱い「銘柄品種」は大きな影響を受ける。
2023年の銘柄米上位10位の銘柄と高温耐性に弱い品種は次の通りである。
銘 柄 作付け割合 主要産地
コシヒカリ 33.1% 新潟・茨城・栃木
ヒノヒカリ 7.4% 熊本・大分・鹿児島
アキタコマチ 6.7% 秋田・茨城・岩手
ナナツボシ 3.3% 北海道
ユメピリカ 1.9% 北海道
キヌヒカリ 1.8% 滋賀・兵庫・京都府
出所:ニッセイ基礎研究所(2025年4月)
銘柄米上位10位の中で、高温耐性に弱いのが6種類、作付け合計で54.2%も占めている。米どころ新潟県は、コシヒカリの主産地だ。高温耐性の弱い品種が、日本産米の主力であることは深く考えさせられる問題である。今後の異常気温頻発を前提にすれば、品種の変更も考慮されるべきだろう。
25年の夏の気温はどうなるか。日本気象協会は、次のように警告している。全国的に猛暑が予想されるからだ。鍵となるのが、「ラニーニャ現象」で、太平洋熱帯域の海面水温が変化する。ラニーニャ現象が発生すると、冬は寒く、夏は猛暑となる傾向が強い。今年の冬はたびたび強い寒波に襲われた。夏は、いつもより暑くなるという予想である。
この通りになると、前記の銘柄がそのまま25年も作付けされていれば、暑さに弱いだけに、25年産米が前年比40万トン増になるかは不明。減少は不可避だ。
集荷業者のJA(全農)やコメ商社は、25年産米で昨年よりも「高値買付け」を積極的に行っている。米価が、今後も高値で推移すると判断した上での行動だ。
コメの流通網は次のようになっている。
農家→集荷業者→卸売業者(6次まで)→小売店→消費者
JAは、集荷業務で全国の4割を占める。かつての米価統制時代は100%であったが、シェアはこれだけ低下した。この低下分が、コメ商社が蚕食したことになる。「コメ・ビジネスが儲かる」という判断である。
集荷業者は、農家への買付けで「概算金」(予約金)を支払いヒモ付けにしている。ただ、概算金を受け取った農家は、必ずしも販売予約先へコメを引き渡していないのが実態だ。高値の買い付け先が現れれば乗換えている。こういう事情だけに、JAも商社も現在の米価高騰に乗って強気の概算金払いを始めている。
コメの最大生産地の新潟県では、JA全農にいがたが2025年産コシヒカリについて6月、農家への「概算金」目標を60キログラムあたり2万6000円(5キログラム2167円)以上とする方針を県内の各JAに示した。24年産当初の概算金から5割も高い水準だ。政府の備蓄米放出後も品薄感が強く、集荷業者間で争奪戦を激化させている。
概算金なんと5割増
JA全農にいがたが、25年産概算金で前記の通り、前年比5割も高い水準になった。25年産米のさらなる値上がりを予告している。全国25年産米の生産量が、40万トン増で2004年以来の増加とされるが、集荷業者は超強気の値付けをしていることが不思議に思えるのだ。異常気象を想定しているような振舞である。(つづく)
https://www.mag2.com/m/0001684526