勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ: EU経済ニュース時報

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    EU(欧州連合)は9月、中国製EV(電気自動車)の輸出急増問題をめぐってダンピング疑惑で調査する旨を発表した。これに対して、中国は「EUの保護貿易化」として猛烈な反発をみせたが、その後はやや沈静化に向っている。中国は、欧州との全面的対立に陥らないように自制している様子が窺える。

     

    ここで、EUと全面的な対立になると、すでに米国との対立が厳しい局面にあるだけに、せめてEUとは正常な関係を維持したいという外交的な狙いが透けて見えるのだ。

     

    『ロイター』(10月4日付)は、「中国商務省、EUのEV補助金調査に「強烈な不満」表明」と題する記事を掲載した。

     

    中国商務省は4日、欧州連合(EU)が正式に開始した中国製電気自動車(EV)の補助金調査を巡り、EUが中国側に「非常に短期間」の協議を要求したとの不満を表明した。

     

    (1)「同省は、EUの補助金調査について「強烈な不満」を表明。証拠が不十分で、世界貿易機関(WTO)のルールに合致しておらず、中国側に十分な協議資料が提供されていないと主張した。自国企業の権利と利益を守るため、欧州委員会の調査手続きに細心の注意を払うとしている。またEUに対し、グローバルな供給網の安定と中国・EUの戦略的パートナーシップを守るよう要請。貿易上の是正措置は「慎重に」適用すべきだと訴えた」

     

    EUが、中国のEVに対する補助金調査を始めたことに対して、中国商務省は「強烈な不満」を表明した。これまで、EUに対して「対抗手段を取る」と威嚇してきたが、今回はそういう「物騒」な言葉も消えて冷静な姿勢をみせている。

     

    (2)「補助金調査の正式開始は、EUの官報に発表された。官報によると、中国は事前に協議に招かれていた。協議が行われた時期は不明。官報は、中国のメーカーが補助金の恩恵を受け、EUの産業が損害を被っていると主張。具体的には助成金交付、国有銀行による優遇ローン、減税、税還付、免税が行われているほか、国が原材料・部品などの財・サービスを適切な水準を下回る価格で提供していると指摘した」

     

    EU発表の官報によれば、「中国のメーカーが補助金の恩恵を受け、EUの産業が損害を被っていると主張」している。具体的には、助成金交付、国有銀行による優遇ローン、減税、税還付、免税が行われているほか、国が原材料・部品などの財・サービスを適切な水準を下回る価格で提供している、と指摘している。

     

    地方政府は、①工場建設で助成金を提供する。②借入資金には優遇金利を適用する。③減税・税還付・免税を行う。④國が、原材料・部品などの財・サービスを適切な水準を下回る価格で提供している。これらの項目をみると、「おんぶに抱っこ」という至れり尽くせりの「サービス」を施しているのだ。これらの事実がすべて明らかになると、中国製EVは、世界市場で総スカンを受けることになろう。

     

    中国商務省は、EUが前記の項目を中心にして調査に入ることを前提にすれば、従来のような「威嚇発言」を控えざるを得まい。後で、取り返しのつかない事態になるからだ。

     

    『東洋経済オンライン』(9月21日付)は、「EUが『中国製EV』の補助金に関する調査に着手」題する記事を掲載した。これは、中国『財新』記事の転載である。

     

    中国製EV(電気自動車)のヨーロッパ市場向け輸出が規制される可能性が出てきた。EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は9月13日、欧州議会での施政方針演説のなかで、中国製EVへの補助金に関する調査に着手すると明らかにした。

     

    (3)「フォンデアライエン氏が非難した中国製EVの(不当な)低価格と巨額の補助金について、中国の自動車業界からは反論の声が上がっている。「中国製EVの輸出先での販売価格は、中国国内での販売価格より明らかに高い。(不当な)安売り行為は存在しない」。財新記者の取材に応じた複数の業界関係者は、そう口をそろえた。例えば、国有自動車最大手の上海汽車集団が傘下の「MG」ブランドで販売しているグローバルモデル「MG4」は、ベースグレードの希望価格が中国では11万5800元(約233万円)なのに対し、ドイツでは3万2312ユーロ(約510万円)と2倍を超える高さだ」

     

    ここでは、中国が買収した「MG」という英国老舗自動車企業ブランドを使って、EUで売り込んでいる。これは、EUにとっては「不公正」というイメージで反発している。EUでは、中国価格よりも高値で販売しているとしているが、いずれ調査で真偽のほどが分る。

     

    (4)「ある中国の自動車業界の専門家は、中国製EVの優れたコストパフォーマンスは生産のスケールメリットや(EVの主要部品のほとんどが中国国内で調達できるという)サプライチェーンの優位性などで形づくられたものであり、「政府の補助金によるものではない」と語気を強めた」

     

    中国EVは、政府の補助金によるものでなく、と自らのコストパフォーマンスの良さを自慢している。これも、EUの調査結果で判明するはずだ。

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    中国は、EU(欧州連合)が中国製EV(電気自動車)への政府補助金支給状態を調査すると発表した時、猛反発して対抗策をちらつかせた。その後、強硬発言は姿を消しており、話合い路線へ転換した模様だ。EUをさらなる反中国へ追いやれば、米中対立の緩衝役を失うリスクを考慮し始めたとの指摘が出ている。 

    この裏には、「親中派」とみられるフランスが、最も強硬に中国製EVのEU進出を警戒していることが明らかになった事情も働いている。フランスは、ドイツとともに自動車が主力産業だけに割安な中国製EVに警戒姿勢を強めている。 

    『ブルームバーグ』(9月28日付)は、「中国、EV補助金調査巡りEUとの正面衝突回避ー対外関係修復探る」と題する記事を掲載した。 

    欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会は今月、中国製の電気自動車(EV)を対象に補助金の調査を始めると発表した。その直後に欧州委のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)が北京を訪れたが、EUの一部では中国側が激しく反発し報復をちらつかせるとの想定もあった。

     

    (1)「EU側が目にしたのは、9000億ドル(約135兆円)規模に上る欧中経済関係を悪化させるような攻撃的な論調を控える習近平政権のスタンスだ。EUと対話し、約束を交わす用意があることが分かった。中国の何立峰副首相は補助金調査について「懸念と不満」を表明する一方で、金融サービスや貿易規制を含む幾つかの作業部会を設置することに同意した。中国経済が低迷している中で、中国政府が貿易パートナーとの関係を慎重に扱おうとしているのは、地政学的な関係を安定させようとする幅広い動きの一環とみられる」 

    EUと中国との貿易関係では、中国が一方的な黒字を計上している。中国は、「不均衡な貿易関係」であることを知りながら、EU側の動きを恫喝で一蹴しようとした。中国は、この間違いに気づいて、融和路線へ転じたのであろう。 

    (2)「中国は、ここ数カ月でホワイトハウスの閣僚級高官計4人を北京に招き、習国家主席がバイデン米大統領と11月に会談する可能性を踏まえ、米国との作業部会を再開した。イタリアは習主席が旗振り役となって進める巨大経済圏構想「一帯一路」の協定から離脱する方針だが、習主席はイタリアとの「安定的」な関係を促進すると26日に約束した。中国の王毅外相は27日、ハンガリーのシーヤールトー外務貿易相との電話会談で、EUに対しより開かれた中国政策を採用するよう働きかけるよう求めた。中国との関係が悪化していたオーストラリアは、2020年の最悪期から関係改善が進んだことを示すためアルバニージー豪首相が近く中国を訪問する可能性が高い」 

    中国は、自国経済の悪化に加えてさらなる紛争拡大を望まないという外交姿勢を見せ始めている。一方では、日本へは高姿勢である。これは、欧米側と融和スタンスを見せていることで日本へ高姿勢になってバランスを取ろうとしているに過ぎない。逆に欧米とギクシャクすれば、日本接近という構図だ。常に、「天秤外交」で利益を得ようとしている國だ。

     

    (3)「欧州外交問題評議会アジアプログラムの政策フェロー、アリッチャ・バチュルスカ氏は中国の経済政策について、「保護主義色が強まるとともに安全保障を重視している」と分析。「EUとの関係修復が急務であることを中国政府は自覚している」と述べ、「そのため、レトリックが比較的穏やかになった」と指摘した。欧州委が中国製EVの補助金調査を発表すると、中国政府は当初、「露骨な保護主義」だとEUを非難。そのため欧州では、中国が過剰に反応し貿易戦争を引き起こしかねないとの懸念が高まったという」 

    中国は、対EU貿易で大幅黒字を得ている。その大事な「顧客」に当たるEUへ、暴言混じりの高姿勢を取ることは、誰がみても異常である。中国も、そのことに気づいたに違いない。 

    (4)「ドムブロフスキス氏の4日間にわたる訪中の際、中国はそうした批判を公には繰り返さなかった。同氏はウクライナでの戦争に対する中国の姿勢は良い投資先としてのイメージを損なうものだと批判し、貿易不均衡を是正するため欧州はより強い姿勢で臨まざるを得ないと中国側に伝えた」 

    欧州委のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)は、中国の痛いところを突いている。EUの本音を聞かされた中国は、事態の深刻さに気づいて後退したに違いない。この裏には、フランスの強硬姿勢も伝わったのであろう。

     

    『ブルームバーグ』(9月26日付)は、「EUの対中強硬シフト、フランスが主導-域内産業への打撃警戒」と題する記事を掲載した。 

    欧州連合(EU)が中国に対しこれまで以上に厳しい新たなアプローチを始めている。背景にあるのが、中国政府の貿易慣行が欧州の基幹産業に重大な脅威をもたらし始めたというフランスの懸念だ。 

    (5)「EUの対中強硬スタンスの形成に重要な役割を果たしているのがフランス政府だと、同国の考えをよく知る関係者は指摘する。今何もしなければ、EUの域内経済は長期的なダメージにさらされる方向に進むと仏政府は警戒している。欧州は約10年前、中国からの安価な輸入品流入によって太陽光発電関連の生産が大打撃を受けた。匿名を条件に述べた複数の当局者によれば、念頭にあるのはこうした状況が再び起き得るとの懸念で、当局者の1人は欧州の自動車業界が同じような道をたどる恐れがあるとみているという」 

    中国は、EUの太陽光発電設備生産を中国製で駆逐してしまったという「すねに傷持つ」身である。EUから、この点を蒸し返されると返す言葉がない。さらに、フランスの強硬姿勢を伝えられ、話合い路線を求め始めたのであろう。

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    中国の自動車の業界団体、中国汽車工業協会は9月26日、欧州連合(EU)の中国製電気自動車(EV)の補助金に関する調査について反対の声明を発表した。それによると、「重大な保護主義の行為だ」として調査や規制措置を慎重にするよう求めた。 

    中国は、新エネルギー車輸出の48.1%(2022年)が欧州向けである。それだけに、EUによる政府補助金調査に神経を使っている。中国EVメーカーは、工場建設段階から多額の政府補助金を得てきた。調べられれば必ず「ボロ」が出る。こういう事情であるので、調査させまいとEUへ圧力を掛けている。 

    中国汽車工業協会、中国製EVが欧州でシェアを拡大するなど成長していることについて、同協会は「中国企業が激しい市場競争でイノベーションを続けてきた結果であり、補助金に支えられたものではない」と主張。さらに「サプライチェーン(供給網)も整備し、EUを含む世界の消費者から受け入れられた」などと強調した。

     

    『ブルームバーグ』(9月26日付)は、「テスラの中国製EV EUの補助金調査の標的ー関係者」と題する記事を掲載した。 

    事情に詳しい関係者によると、EUが中国製EVに対する補助金調査を今月発表するに至った証拠収集の過程で、中国の国家補助金の恩恵を受けている公算が大きいと判明した企業の中にテスラも含まれていた。 

    (1)「報道を受けて、米株式市場開始前の時間外取引でテスラ株は一時1.6%安と下落している。EU調査の目的は、中国がテスラのほか、BYDや上海汽車集団(SAICモーター)、蔚来汽車(NIO)などの国内メーカーに補助を提供しているのか、している場合の規模はいくらかを判断し、EU域内のメーカーにとって公平な競争条件を確保するための必要な対抗措置を講じることにある」 

    米国のEVメーカーであるテスラまで、中国政府の補助金を得ていたのかが、焦点になってきた。テスラは、ことあるごとに「正論」を吐いてきただけに、もし補助金を得ていたとすれば、企業イメージは悪化する。

     

    (2)「テスラは、米国外で初の工場となる上海工場を稼働させてから1年足らずの2020年終盤に、同工場で生産したセダン「モデル3」の輸出を開始。翌年7月までに、テスラは主要輸出拠点として上海工場を挙げるようになった。シュミット・オートモーティブ・リサーチによると、テスラは今年1~7月に同工場からの納車台数のおよそ47%に相当する9万3700台を西欧で販売したと見積もられる。中国から欧州に輸出したEVが次に多いメーカーはSAICで、約5万7500台だった。テスラ、BYD、SAICはいずれもコメントを控えた」 

    テスラ、BYD、SAICがコメントを控えているのも「怪しい」ことだ。補助金をもらっていなければ堂々と否定するはず。仮に、補助金を得て輸出していたとすれば、政府も企業も「結託」していたことになろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月25日付)は、「中国自動車大手、欧州でEV生産拡大 補助金批判を回避」と題する記事を掲載した。 

    中国の自動車大手が欧州で現地生産に乗り出すと相次ぎ表明した。欧州連合(EU)は中国製の電気自動車(EV)が域内で台頭していることを警戒。安価な中国製の流入拡大は中国政府による補助金が問題とみて調査を始めた。中国側は地元雇用への貢献を訴えて摩擦を回避する。 

    (3)「EUは9月、中国製EVが価格競争力を持つ裏に、政府の補助金があるとみて調査を始めた。安価な中国製が市場を席巻すれば、欧州メーカーは商機を失い、域内の雇用減につながると懸念する。中国側は補助金と販売価格の相関性を否定する。業界団体幹部の崔東樹氏は「中国政府の(EVを含む)新エネルギー車への補助金は2022年末に終了した」と話す」 

    下線部のように、22年末まで補助金を出していたことを認めている。この発言が突破口になって、過去の補助金実態が掴めるであろう。 

    (4)「欧州経済が減速するなか、欧州委員会は域内の産業振興、雇用確保に目配りする姿勢を鮮明にし始めた。なかでも自動車産業はドイツ・フランスを中心にEU域内で多くの雇用を抱える。これまで有望な進出先だった中国でも、欧州車の販売シェアは19年の23%から23年16月に18%に低下した。欧州の産業競争力や雇用が維持できなければ、各国のポピュリスト政党が勢いづきかねない。特定国への依存を減らす経済安全保障上の狙いもあり、やり玉として中国製EVが挙がった」 

    EUにとっては、自動車産業はメインである。そこへ補助金を背にした中国EVが、土足で上がってくるという事態になれば、EUは絶対に容認できないであろう。

     

    (5)「欧州に広がる警戒感を見据え、中国側は現地生産による雇用創出を打ちだしている。国有自動車大手、上海汽車集団の幹部は9月中旬に「欧州で自動車の組み立て工場の立地の選定作業を始めた」と工場新設計画を明らかにした。中国メディアによると、EV世界大手の比亜迪(BYD)幹部も9月、独ミュンヘンの展示会で「年末までには完成車工場の立地選定作業を終える」と述べた。このほか、長城汽車の幹部はドイツメディアに独やハンガリー、チェコを候補地に工場新設を検討していると話した。奇瑞汽車は英政府と工場建設で協議中だと英メディアが報じた。 

    中国EVは劣勢を察知して、EUでのEV工場建設を臭わせている。独仏は、こういう動きにどう対応するか。初めてEUが、自らの利益を掛けて中国と対峙する場面となった。

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    欧米は、中国のEV(電気自動車)に神経を使っている。これまで、自動車は欧米が独占的な強みを発揮してきたが、EV登場でこの構図が狂い始めている。中国が、政府補助金をテコに輸出攻勢を掛けているからだ。

     

    欧州の雇用先は、約6%が自動車産業である。それだけに、中国EVが欧州へ輸出ドライブを掛ければ雇用喪失問題が起ることは確実だ。これによって、社会不安を生んで極右の政治勢力台頭というリスクをはらんでいる。単なる経済問題を超えて政治問題へ発展する危険性が指摘されている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月18日付)は、「中国EV台頭が米欧の保護主義招く」と題する記事を掲載した。

     

    「中国と自由に貿易をしよう。時間は私たちの味方だ」――。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)への加盟を果たす前、当時の米大統領だったブッシュ氏(第43代)は自信を持ってこう発言していた。ところが、それから20年以上が経過した今、時間は中国の味方だったというのが西側の一般的な結論となっている。中国は習近平国家主席の下、むしろ閉鎖性と独裁主義を強めていった。米国に対しても強硬姿勢を鮮明にし、急速な経済成長を糧に軍事力の強化も進めた。

     

    (1)「米政策当局者の中には、中国のWTO加盟を認めたのは間違いだったとする向きもある。彼らは、中国はWTO加盟によって輸出を急拡大させることができたわけで、そのことが米国の産業空洞化に拍車をかけたとみている。そしてそれに伴い米国で格差が拡大したことがトランプ前大統領を登場させる一因につながった、と。この流れを踏まえると、厄介な疑問が浮上してくる。「グローバル化は、中国の民主主義を推進するどころか、米国の民主主義の弱体化をもたらしたのではないか」との見方だ。現状を踏まえれば、笑うに笑えない皮肉と言える」

     

    中国のWTO加盟を認めたのは失敗とする意見が、トランプ政権(当時)から強く出ていた。WTOには罰則規定がないので、中国はこの抜け穴探しを行ってきたという非難だ。

     

    (2)「欧州連合(EU)では、米国が先に保護主義へ傾き、自国の産業に多額の補助金を提供するようになったことに失望する声が多く上がっていた。しかしEUは9月13日、中国製の安価な電気自動車(EV)のEUへの流入を問題視し、中国政府によるEV産業への補助金提供が競争を阻害していないか調査すると表明した。このニュースは、EUも米国と同様の道を歩み始めたことを示している。米国の中国製自動車に対する関税は27.%だが、現時点のEUの同関税は10%と低い。しかし、もしEUが中国は自動車メーカー各社に不当な補助金を支給していると判断すれば、関税は大幅に引き上げられる可能性がある」

     

    中国が、WTO規則を無視する以上、保護貿易で対抗するほかない。これは、トランプ政権の見方であり、バイデン政権も引き継ぎ強化している。米国の中国製自動車に対する関税は27.%である。これによって中国EV輸入を防いでいるのだ。EUも、これに従うであろう。

     

    (3)「EUが、米国の後を追って実際に保護主義に傾くのであれば、それは米国と同じ理由による。つまり、中国のやり方は欧州の産業基盤、ひいてはその社会および政治の安定性をも脅かしつつあるという懸念だ。中でも自動車産業はEU、特にドイツにとって最も重要な産業で、EU経済の中核を成す。しかも自動車は欧州が世界をリードする数少ない産業分野の一つだ。売上高でみた世界4大自動車メーカーのうち、フォルクスワーゲン(VW)、ステランティス、メルセデス・ベンツ・グループの3社は欧州企業だ」

     

    自由貿易は理想型である。中国は、この抜け穴を利用して急成長したという認識が欧米に強いのだ。これは、ロシアのウクライナ侵攻への中国支援によって強くなっている。

     

    (4)「欧州委員会によれば、自動車産業はEUの全雇用者数の6%強を占める。その給与水準は往々にして比較的高く、ドイツなどにとっては自国のアイデンティティーにもなっている。それだけにこうした雇用が中国に奪われることになれば、それは政治的にも社会的にも大きな反発を招くことになる。ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持がすでに拡大しており、世論調査では2位の人気政党となっている。独自動車大手のBMWに代わって中国の自動車大手BYDの車がアウトバーンを走るようになり、国内の自動車業界が不振に陥れば、AfDへの支持がどうなるかは容易に想像できるだろう」

     

    ドイツでは、極右政党が支持率を高めている。ドイツ自動車業界が不振に陥れば、極右政党が跋扈するのは不可避であろう。民主主義を守るためにも、中国EV進出を阻止しなければならない。こういう論調が強くなっているのだ。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-09-18

    メルマガ499号 中国、EUとEV「紛争予兆」 23%の高関税掛けられれば「経済は混乱」

     

     

     

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    EU(欧州連合)のフォンデアライエン欧州委員長は13日、中国製の安価な電気自動車(EV)の流入を問題視し、補助金支援が競争を阻害していないか調査すると発言した。欧州市場で中国製EVのシェアは、すでに昨年の約2倍の8.2%へ上昇している。この裏には、中国政府が税制優遇や工場建設の支援、低利融資、エネルギー料金の上限設定など手厚い支援を与えていることも影響している。EUは、こういう実態を調査して関税引上げを目指している。これに対して、中国政府は早くも警戒しEUを威嚇し「対抗措置もあり得る」としている。

     

    中国EVは、欧州市場で存在感を高めている。独シュミット・オートモーティブ・リサーチの調査では、欧州EV市場の中国車シェアは2019年の0.%から21年には3.%に急伸。23年17月には8.%まで伸ばしている。欧州で実際に販売される中国車のうち9割近くが、上海汽車集団が買収した英国車の老舗ブランド「MG」など表向きは欧州企業名を冠したものという。こうして、欧州ブランド名を利用しており、実態以上に欧州市場で影響力を得ているのだ。こうなると、EUとしても危機感を持って当然であろう。

     

    『ロイター』(9月14日付)は、「中国、EV補助金調査巡り欧州連合を批判ー自国企業守ると主張」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)が中国の電気自動車(EV)に関する補助金の調査を始め、中国が反発している。中国商務省は「強い懸念と不満」を示す声明を発表した。

     

    (1)「EUの行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は13日、「巨額の国家補助金によって価格が人為的に低く抑えられており、われわれの市場をゆがめている」と欧州議会で述べ、調査の開始を発表。「EU域内に起因するこうしたゆがみをわれわれが受け入れることはない。域外によるゆがみも同様だ」と指摘した。事情に詳しい関係者によれば、調査は最長9ヶ月を要する可能性があり、米国が中国のEVにすでに課している27.5%水準に近い関税率が適用され得るという」

     

    EU加盟国からは、安価な中国製が域内で広く流通すれば、欧州の自動車メーカーの利益を損なうと不満が出ていた。複数の欧州メディアによると、フランスが水面下で欧州委に調査開始を強く求めていた模様だ。フランスは外交面で、中国と友好ぶりを演出しているが、内情は複雑である。

     

    (2)「中国商務省は、ウェブサイトに14日掲載した声明で、EUの動きは世界の自動車産業に深刻な混乱をもたらし、中国とEUの関係に悪影響を及ぼすと主張。声明によれば、中国はEUに対しEV産業のために公平で差別のない予測可能な市場環境を生み出すため対話を行うよう求めるとともに、EUによる今後の行動を注視し、中国企業の権利と利益を断固として守るという」

     

    米国は、中国EVへ27.5%水準に近い関税率を科している。EUでも、これと同水準が適用されると中国EVへ大きな影響が出る。

     

    中国EVは、EUで二つの価格帯で販売されている。浙江吉利控股集団が子会社のボルボ・カー(スウェーデン)と立ち上げたポールスターのように、欧州市場での販売価格が8万9900ユーロ(約1400万円)を超える超高級EVがある一方、3万ユーロ(約467万円)以下の相対的に安価なEVが中国製全体の7割を占める。欧州車大手の同型車と比べても中国製EVは割安だといい、欧州自動車工業会(ACEA)のジグリッド・デ・フリース事務局長は「中国車メーカーが公的資金と政府の意向に支えられ、欧州や他地域の市場で攻勢をかけているのは周知の事実だ」と危機感をあらわす。以上、『日本経済新聞 電子版』(9月13日付)が報じた。

     

    (3)「中国全国乗用車市場情報連合会(乗連会)の崔東樹秘書長は、「中国の新エネルギー車(NEV)輸出が好調なのは、国家から多額の補助金を受けているからではなく、自国の産業チェーンが持つ競争力が高いからだ」と反論。「EUは、中国EU産業の発展を客観的に見るべきであり、恣意的に一方的な経済・貿易手段を用いて」成長を妨げるべきではないとコメントした。中国共産党系の新聞、環球時報は論評で、欧州は明らかに「中国との競争を恐れているためゆっくりと電動化に向かう欧州の自動車メーカーを保護する傘として、貿易保護主義を求めようとしている。EUによって不公正な措置が取られた場合、中国には自国企業の法的利益を守る対抗措置として行使し得るさまざな手段がある」と論じた。

     

    今年6月、欧州議会が承認した欧州電池規制には、電池の製造時CO2排出量の報告義務化が盛り込まれている。火力発電に依存する中国製EVに対し、欧州製EVはライフサイクルアセスメント(LCA)で優位に立っている。EUは、脱炭素を大義に中国EVにグリーン関税を課すことができるという。

     

    ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取原料生産製品生産流通・消費廃棄・リサイクル)、またはその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法である。「環境のEU」らしい対応であるから、中国EVの泣き所を突く手段は、すでに持っているのだ。こうなると、中国がEUに圧力をかけることは難しくなろう。

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