EU(欧州連合)は9月、中国製EV(電気自動車)の輸出急増問題をめぐってダンピング疑惑で調査する旨を発表した。これに対して、中国は「EUの保護貿易化」として猛烈な反発をみせたが、その後はやや沈静化に向っている。中国は、欧州との全面的対立に陥らないように自制している様子が窺える。
ここで、EUと全面的な対立になると、すでに米国との対立が厳しい局面にあるだけに、せめてEUとは正常な関係を維持したいという外交的な狙いが透けて見えるのだ。
『ロイター』(10月4日付)は、「中国商務省、EUのEV補助金調査に「強烈な不満」表明」と題する記事を掲載した。
中国商務省は4日、欧州連合(EU)が正式に開始した中国製電気自動車(EV)の補助金調査を巡り、EUが中国側に「非常に短期間」の協議を要求したとの不満を表明した。
(1)「同省は、EUの補助金調査について「強烈な不満」を表明。証拠が不十分で、世界貿易機関(WTO)のルールに合致しておらず、中国側に十分な協議資料が提供されていないと主張した。自国企業の権利と利益を守るため、欧州委員会の調査手続きに細心の注意を払うとしている。またEUに対し、グローバルな供給網の安定と中国・EUの戦略的パートナーシップを守るよう要請。貿易上の是正措置は「慎重に」適用すべきだと訴えた」
EUが、中国のEVに対する補助金調査を始めたことに対して、中国商務省は「強烈な不満」を表明した。これまで、EUに対して「対抗手段を取る」と威嚇してきたが、今回はそういう「物騒」な言葉も消えて冷静な姿勢をみせている。
(2)「補助金調査の正式開始は、EUの官報に発表された。官報によると、中国は事前に協議に招かれていた。協議が行われた時期は不明。官報は、中国のメーカーが補助金の恩恵を受け、EUの産業が損害を被っていると主張。具体的には助成金交付、国有銀行による優遇ローン、減税、税還付、免税が行われているほか、国が原材料・部品などの財・サービスを適切な水準を下回る価格で提供していると指摘した」
EU発表の官報によれば、「中国のメーカーが補助金の恩恵を受け、EUの産業が損害を被っていると主張」している。具体的には、助成金交付、国有銀行による優遇ローン、減税、税還付、免税が行われているほか、国が原材料・部品などの財・サービスを適切な水準を下回る価格で提供している、と指摘している。
地方政府は、①工場建設で助成金を提供する。②借入資金には優遇金利を適用する。③減税・税還付・免税を行う。④國が、原材料・部品などの財・サービスを適切な水準を下回る価格で提供している。これらの項目をみると、「おんぶに抱っこ」という至れり尽くせりの「サービス」を施しているのだ。これらの事実がすべて明らかになると、中国製EVは、世界市場で総スカンを受けることになろう。
中国商務省は、EUが前記の項目を中心にして調査に入ることを前提にすれば、従来のような「威嚇発言」を控えざるを得まい。後で、取り返しのつかない事態になるからだ。
『東洋経済オンライン』(9月21日付)は、「EUが『中国製EV』の補助金に関する調査に着手」題する記事を掲載した。これは、中国『財新』記事の転載である。
中国製EV(電気自動車)のヨーロッパ市場向け輸出が規制される可能性が出てきた。EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は9月13日、欧州議会での施政方針演説のなかで、中国製EVへの補助金に関する調査に着手すると明らかにした。
(3)「フォンデアライエン氏が非難した中国製EVの(不当な)低価格と巨額の補助金について、中国の自動車業界からは反論の声が上がっている。「中国製EVの輸出先での販売価格は、中国国内での販売価格より明らかに高い。(不当な)安売り行為は存在しない」。財新記者の取材に応じた複数の業界関係者は、そう口をそろえた。例えば、国有自動車最大手の上海汽車集団が傘下の「MG」ブランドで販売しているグローバルモデル「MG4」は、ベースグレードの希望価格が中国では11万5800元(約233万円)なのに対し、ドイツでは3万2312ユーロ(約510万円)と2倍を超える高さだ」
ここでは、中国が買収した「MG」という英国老舗自動車企業ブランドを使って、EUで売り込んでいる。これは、EUにとっては「不公正」というイメージで反発している。EUでは、中国価格よりも高値で販売しているとしているが、いずれ調査で真偽のほどが分る。
(4)「ある中国の自動車業界の専門家は、中国製EVの優れたコストパフォーマンスは生産のスケールメリットや(EVの主要部品のほとんどが中国国内で調達できるという)サプライチェーンの優位性などで形づくられたものであり、「政府の補助金によるものではない」と語気を強めた」
中国EVは、政府の補助金によるものでなく、と自らのコストパフォーマンスの良さを自慢している。これも、EUの調査結果で判明するはずだ。