勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: EU経済ニュース時報

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    世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7月27日、7月の世界の平均気温が観測史上で最高となる見通しだと発表した。国連のグテレス事務総長は、これを受け「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」と強調した。熱波や洪水、山火事などにつながる「異常気象がニューノーマル(新常態)になってしまっている」と警告したもの。 

    この記事は、先に本欄で取り上げた次の記事と関連している。

    2023-07-28

    世界、「異常に暑い!」一過性と思ってませんか、大西洋水温5度も上昇 異常気象定着「前

     

    この異常気象事態を分析した研究論文が、科学誌『ネイチャー』で発表される。北大西洋からの海流が、早ければ2025年以降に止まるという衝撃的内容である。人類の生存に関わる重大な問題が起ることになった。
     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月26日付)は、「北大西洋の海流『想定より早く停止』 研究者が論文」と題する記事を掲載した。 

    気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの新たな科学論文で明らかになった。この研究によると、熱帯から暖かい海水を北方へと運ぶ「ベルトコンベヤー」のような役割をしている海流「大西洋子午面循環(AMOC)」が、2025年から95年のどこかのタイミングで止まる見通しで、最も確率が高いのは50年代という。気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの科学論文で明らかになった。 

    (1)「デンマークのコペンハーゲン大学のピーター・ディトレフセン教授とスサンネ・ディトレフセン教授は最も高い確率で起る予測としており、英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。一方、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、AMOCが今世紀中に停止する公算は小さいとの見方を表明している。IPCCの予測から逸脱することに引き続き慎重な科学者もいる。米南部フロリダ州沖から欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流を含むAMOCが失われれば、北半球の気温が著しく低下する。これに伴い、欧州は冬の嵐に見舞われやすくなり、夏の降雨量が減る。逆に南方では、大気の熱が温帯や寒帯へと運ばれないために気温がさらに上昇し、熱帯降雨やモンスーン(雨期)に大きな変化をもたらす

     

    ヨーロッパが、あれだけ北に位置するにもかかわらず、暖かい海流によって漁業などが盛んなのは、AMOCと呼ばれる海流循環の結果である。その流れが、止まるというショッキングな内容だ。AMOCは、大西洋循環システムの一つである。大西洋循環システムは、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。その大西洋循環システムの一部が、今世紀中に停止するとなれが人類の生存に関わる。想像もできない事態になる。 

    (2)「こうした事態は、温暖化の脅威にさらされている地球にとって「決定的な転換点」の一つとなり、ひとたび起これば取り返しがつかないと懸念されている。ピーター・ディトレフセン氏は「決定的な転換点がこれほど早く訪れると見込まれ、そのタイミングが来ないように抑制していけるのが向こう70年間であるということに驚いた」と述べた。同氏はIPCCのモデルについて「保守的すぎる」との認識を示し、足元で不安定な状況が増えているという早期警告サインを看過していると指摘した」 

    科学者は、AMOCがいずれ起りかねないことを認めている。その発生する時期が、いつかという問題だけである。となれば、二酸化炭素削除は緊急不可避の課題となる。 

    (3)「欧州の主要な気候科学者の一人である独ポツダム大学のシュテファン・ラームシュトルフ教授(海洋物理学)は、海流パターンの顕著な変化を示す研究が世界各地で相次いでいると話す。「今回の分析結果は、AMOCの決定的な転換点が従来の想定よりずっと早く訪れる可能性を示す近年のいくつかの研究とも一致する。証拠が積み上がりつつあり、警鐘を発しているように思われる」と指摘する。この問題を世界の第一線で研究する一人である英エクセター大学のティム・レントン教授(気候科学)は、ディトレフセン氏らの研究が「データに直接基づいて気候の決定的な転換点を早期に警告する方法に重要な改善をもたらした」とみる。「転換点を越えた時点で、AMOCを取り戻すことはできなくなる」とレントン氏は語り、「(AMOCの)崩壊とその影響の広がりには時間がかかるが、どれだけ長くかかるかは不透明だ」と続けた」 

    AMOCをいかに防ぐか。世界は、緊急会議を開くべきテーマである。

     

    (4)「地質学的には、最終氷期(最盛期は約2万年前)に大西洋の海流が10〜20年間で劇的に変化した証拠が示されている。しかし一部の気候モデルでは、21世紀の環境においてAMOCが完全に停止するまでに1世紀ほどかかるだろうと予測されている。ただし、AMOCが部分的に機能しなくなるだけでも、地球温暖化による打撃は深刻化する公算が大きい。他にも海洋に見られる地球温暖化の兆候として、北半球の温帯における海面水温の異常な高さが挙げられる。カナダ東海岸沖では平均水温が最大でセ氏5度上回った。同時に、南極では冬季の海氷面積が観測史上最も小さくなっている。これらの現象はAMOCの変化と直接の関連はない」 

    下線部は、AMOCの変化と直接の関連はないという。米南部フロリダ州沖から、欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流へ集中的に現れる現象と理解すべきなのだろう。

     

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    中国からイタリアまで、各地で過去最高気温となっている。専門家は、記録破りの猛暑の時代に入った可能性があると警告する。その影響は、夏の観光業にとどまらない。気候変動の影響で高温の日が増えることから、建設、製造、農業、運輸、保険など、様々な業界が事業運営の修正を迫られつつあるという。 

    科学者は、0.1度単位の温暖化の進行とともに、熱波を含む異常気象は頻度と強度を増していくと明言している。7月、世界の平均気温がすでに産業革命前より少なくとも1.1度上がった状況の中で、米国や欧州アジア一帯が「ヒートドーム」に覆われて猛暑となっている。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月22日付)は、「猛暑の時代、熱波は実体経済を変える」と題する記事を掲載した。 

    猛暑が経済への重大な脅威となる大きな理由の一つは、人が働くことが難しくなることだ。気温の上昇は生産性の低下をもたらす。英国機械技術者協会のローラ・ケント氏は、暑くなると人間は通常、「作業が遅くなり、リスク許容度が高まり、認知機能が低下する」と説明する。同協会は最近、産業界が猛暑にいかに適応すべきかについて報告書をまとめた。 

    (1)「国際労働機関(ILO)の報告書は、暑すぎて働けなくなったり、能率が下がったりすることにより、2030年までに世界の年間総労働時間の2%強が失われていると試算している。気候行動の推進に取り組む市長の国際ネットワーク「C40」で気候レジリエンス(強じん性)ディレクターを務めるサチン・ボワト氏によると、現在、世界の都市部で約2億人が猛暑のリスクに直面しており、その数は50年までに8倍に増える見通しだ。だが、酷暑時に就業を停止すべき上限気温を定めている国はほとんどない。例えば、これまでの歴史において猛暑があまり問題にならなかった英国では、寒冷時に就業の停止が推奨される下限気温は定められているが、上限はない」 

    下線のように、酷暑で労働時間の2%強が失われるという。「炎熱コスト」である。

     

    (2)「猛暑で最大の打撃を受けるのは、最貧困層の人たちだ。暑さへの対応能力が低いためだ。賃金が平均水準を下回る傾向にある職種に生産性のロスが集中することが多い。ILOによると、屋外で働く労働者、特に農業や建設業の働き手は暑さにさらされることで死亡・けが・病気のリスクが高く、生産性が低下することも多い。学術調査によると、米国では1992〜2016年の間に、暑さに関連した原因で死亡した建設労働者は285人に上る。暑さによる全米の労災死亡者の約3分の1を占める。だが、猛烈な熱波が頻発する中で、屋内労働者のリスクも高まっている。その中には、空調設備のない工場や作業場で働くことも少なくない世界6600万人の繊維産業の労働者が含まれる。その多くは、最高気温の水準がより極端で危険になっているグローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)の労働者だ」 

    労働環境の悪いところで働く人たちへしわ寄せが行くリスクが高いという。クーラーなどの設備が不足しているからだ。 

    (3)「調査によると、21年にカナダ西部ブリティッシュコロンビア州が異常な熱波に見舞われた後、補償を必要とする暑熱絡みの労災は前3年間の平均と比べて180%増加した。その3分の1強を屋内労働者が占めた。それまでの割合は平均20%だった。労働者に対する猛暑の影響は今や「人権問題」だと、イタリアを拠点に活動する環境経済学者のショウロ・ダスグプタ氏は指摘する。労働者保護政策を強化する必要があるという。「安全で健全に働ける労働環境は人権の一つであり、それが侵害されている」と同氏は付け加えた。「政府が介入する必要がある」と強調する」 

    暑熱絡みの労災の3分の1強は、屋内労働者が占めているという。劣悪労働環境が災いの原因をつくっている。

     

    (4)「各業界は、猛暑で労働者の生産性に影響を受けるだけでなく、事業拠点の配置や操業方法など、事業のあり方に関わる部分で再検討を迫られている。建設業は最も抜本的な変革が必要な分野の一つかもしれないと語るのは、英国の業界団体、公認建築生産監理協会(CIOB)で政策を専門とするデイジー・リースエバンス氏だ。「異常気象になると、建設現場では作業に影響が出るだけでなく、資材も実体的な影響を受ける」。例えば、高温になると鋼材にひずみが生じることがある。また、コンクリートは固まるのが大幅に早くなり扱いにくくなる。ひび割れが発生しやすくなり、強度と耐久性にも響く。流し込む前にコンクリートが変質するリスクも高くなる」 

    炎天下で働く建設現場では、鋼材やコンクリートの強度と耐久性に問題が起るという。 

    (5)「これらの要因が相まって建設業のコストが膨らむとリースエバンス氏は説明する。建設会社は、鋼材のひずみなどで資材の再発注を強いられる場合もある。再調達が必要になった企業同士が競い合うと材料価格がつり上がる。同氏によると、契約書に記載された引き渡し日を守れないことで発生する違約金も含めて、工事の遅れもコストアップの要因になる。製造業も大きな変革を目前にする業界の一つだ。工場や倉庫は「今のような気温や今後予想される気温を前提にして設計されていない」と機械技術者協会のケント氏は言う。そのため、想定外の高温になると、機器が正常に作動しなくなったり、寿命が早まったりして、操業コストが上昇する可能性がある。「この業界では、ほとんどの企業が何らかのかたちで加温や冷却の手段をとっている」とケント氏は話す。「ある温度まで調整する場合、今までよりも気温が上がれば、その分難しくなる」という」 

    想定外の高温になると、機器が正常に作動しなくなったり、その寿命が早まったりして、操業コストが上昇する可能性があるという。炎熱地獄は、あちこちへ問題を波及させる。

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    中国は、国内経済立て直しで海外企業による対内直接投資呼び込もうと必死である。だが、習近平氏による安全保障重視策の結果、海外企業への締め付けが厳しくなっている。海外企業は、こうした動きを警戒しており、中国への直接投資に慎重な構えだ。今年は、40年ぶりに資本の準流出が起ると見られている。中国経済には、頭痛の種がまた一つ増えた形である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月18日付)は、「習氏の外資締め付け、投資促進と矛盾」と題する記事を掲載した。

     

    中国の各都市は経済が停滞する中、資本を切実に求めており、西側企業から投資を引き出すのに躍起となっている。中国政府は2023年を「中国(への)投資年」と位置づけ、地方当局者は外国に出向いて投資家の関心を喚起するツアーを始めた。こうした動きを妨げているのが、外国からの脅威とみなすものの排除を重視する習近平国家主席の安全保障政策だ。外国企業にとって対中投資はいまや潜在的な地雷原と化している。

     

    (1)「中国の各都市は経済が停滞する中、資本を切実に求めており、西側企業から投資を引き出すのに躍起となっている。中国政府は2023年を「中国(への)投資年」と位置づけ、地方当局者は外国に出向いて投資家の関心を喚起するツアーを始めた。こうした動きを妨げているのが、外国からの脅威とみなすものの排除を重視する習近平国家主席の安全保障政策だ。外国企業にとって対中投資はいまや潜在的な地雷原と化している」

     

    中国地方政府は、3年間のゼロコロナによる経済活動の停滞で大きな傷手を受けている。それだけに、海外企業誘致の増加を目指してきた。だが、習氏の海外企業への締め付けが大きな障害になっている。

     

    (2)「中国における事業リスクが大幅に高まったとの認識から、同国への資本流入に急ブレーキがかかっている。調査会社ロジウム・グループのアナリスト、マーク・ウィツキ氏による政府統計の分析によると、今年1~3月期の中国の対内直接投資は200億ドル(約2兆7700億円)と、前年同期の1000億ドルから急減した。ゴールドマン・サックスのエコノミストの予想では、今年の中国からの資本流出額は対内投資額を帳消しにする見通しだ。これは流入超が40年間続いた中国にとって衝撃的な変化だ。中国指導部にとって、外国企業に圧力をかけ続ける一方で、投資を呼び込もうとするのは、ますます危ない「綱渡り」になりつつある。その結果、自国の台頭を支えてきた資本や技術、アイデア、経営スキルを失う恐れがある」

     

    中国は、これまでの40年間にわたり海外企業の対内直接投資によって、技術、アイデア、経営スキルを得てきた。だが、習氏の海外企業締め付けで、この流れが中断する。今年は、資本の純流出が起る可能性が高まっている。

     

    (3)「その陰で、財政難に苦しむ中国各地の市や郷は置き去りにされている。3年にわたって新型コロナウイルスによる規制が続いたあと、負債を抱え、雇用創出もままならない多くの地方政府は今すぐ資本を必要としている。公式統計によると、昨年の地方政府の歳出額は、コロナ検査などのコストで医療費が18%増加したことなどにより前年から増加した。一方、開発業者への土地使用権売却による収入が前年比で23%減となったことなどから、歳入は落ち込んだ。地方政府の直接債務は歳入の120%に達している」

     

    コロナによって、中国地方政府は出費増加と土地収入減で4割以上の損害を被っている。その穴を債務で埋めているのだ。地方政府の直接債務は、歳入の120%にも達している。

     

    (4)「多くの当局者によると、従来の外資誘致戦略は失敗に終わっている。中国南西部にある四川省の省都・成都市の貿易当局者は最近、投資促進ツアーで欧州を訪れたが、成果がないまま帰国。「欧州からの投資誘致に20年関わっているが、基本合意書への署名が1件もなかったのは初めてだ」と話す」

     

    四川省の省都・成都市の貿易当局者は、欧州へ投資促進ツアーで訪ねたが成果はゼロ。欧州の中国警戒の強さを身に滲みた。

     

    (5)「中国で活動する複数の業界団体が最近実施した調査によると、ドイツなど欧州や米国の企業は対中投資の拡大を中断するか減らしている。自動販売機などの産業用製品の米大手メーカー、クレーン(本社:コネティカット州スタンフォード)は1990年代から中国で製造を行っているが、同社に近い関係者によると、政策を巡り不透明感が高まったことなどから対中投資を大幅に縮小している。上海米商工会議所の会頭で元上海総領事のショーン・スタイン氏は中国が最近、米コンサルティング会社に圧力をかけていることから、「外国企業の目や耳が切り落とされる」恐れがあると指摘した」

     

    ドイツは、中国依存で欧州一の國である。それでも、ロシアのウクライナ侵攻で損害を被った結果、中国の地政学的リスクに敏感になっている。

     

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    ロシアは、ウクライナ侵攻で財政的にも苦境に立たされている。5月9日の「祖国大勝利パレード」は、昨年よりも規模を小さくして行った。侵略戦争の損害が大きいことを伺わせている。ロシアは、緊急対策としてエネルギー企業への課税強化を図り、最大6000億ルーブル(約1兆円)の税収を増やそうとしている。これによって、エネルギー企業の設備投資が抑制されるので発展力を奪うことは確実だ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月8日付)は、「ロシア政府、歳入不足でエネルギー企業に増税」と題する記事を掲載した。

     

    西側諸国の複数の政府関係者によると、ロシア産原油の輸出価格に上限を設ける主要7カ国(G7)を中心とした西側の経済制裁により、ロシア政府は石油各社への課税を強化せざるを得なくなっている。すでに制裁に苦しんでいるロシアのエネルギー業界にとっては追い打ちだ。

     

    (1)「フィナンシャル・タイムズ(FT)が入手した、ある西側の国による影響分析では、歳入不足を補うためのこの増税は業界の長期的な投資能力を犠牲にすることになり、逆効果になる可能性が高いことがわかった。西側政府の関係者はFTの取材に対し「これはロシアのエネルギー業界にとって間違いなく壊滅的な打撃になる」と語った。「この課税強化で設備や探査、既存の石油・ガス田への投資に充てることができたはずの資金が奪われ、ロシアの石油・ガス業界の将来の生産能力は低下するだろう」と指摘」

     

    ロシアが、歳入不足をカバーするための増税が、企業の設備投資を抑制するので、発展力に影響が出ることは不可避となった。

     

    (2)「ロシアのプーチン大統領は4月、石油会社への課税方法を変更した。これによりロシア産の主力油種「ウラル原油」の価格ではなく、国際指標の北海ブレント原油価格から一定額を差し引いた水準に基づいて課税されることになった。ウラルはここ数カ月、北海ブレントよりも安値で取引されている。ロシアはウクライナ侵攻の戦費調達の妨害を狙った西側の制裁で、石油輸出収入が不足した。その穴を埋めるため、今回の課税強化で税収を最大6000億ルーブル(約1兆円)増やそうとしている。この措置により、ロシアは「現在」の戦費を賄うために「未来」を犠牲にしていると関係者はみる」

     

    課税基準は、割安のロシア産の主力油種「ウラル原油」ではなく、高値の国際指標の北海ブレント原油価格から一定額を差し引いた水準に基づいて課税されるという。ロシアのエネルギー企業にとっては、実勢販売価格を上回る価格を基準に課税されるという、とんでもない事態に直面している。

     

    (3)「2023年1〜3月期のロシアの石油・ガス関連の税収は前年同期比45%減少した。中でも3月の石油精製製品では前年同月比85%も落ち込んだ。前出の関係者は、ロシアは歳入の45%をこうした収入に依存しているとも語った。「課税強化は歳入が大きく落ち込んでいる明白な証拠だ」

     

    ロシアの石油・ガス関連の税収は1~3月期に前年同期比45%もの減少である。これでは、戦費を賄えないのは当然である。ロシアは、確実に日干しにされている。

     

    (4)「英調査会社エナジー・アスペクツ傘下のオイルエックスによると、4月のロシアの原油産出量は日量1040万バレルに減少した。上限価格の設定に対抗し、ロシア政府が減産をちらつかせたことが反映されている可能性があるという。アジア向けが大半を占める輸出量は470万バレルで、過去5年間の平均を下回った。G7各国は上限価格の設定は想定通りの効果を上げていると考えているが、税関のデータではロシアの石油会社は少なくとも一部の輸出では、上限を超える価格を確保していることが示されている。極東へのある輸出ルートではここ数週間、74ドルもの高値で販売されていた」

     

    4月の輸出量は470万バレルで、過去5年間の平均を下回った。しかも、価格は「上限制」でかんぬきをはめられている。ただ、例外もあるようで1バレル74ドルの販売もある。

     

    (5)「今週、日本で開催されるG7財務相・中央銀行総裁会議では、対ロ制裁が主な議題になるとみられる。西側政府関係者は「上限価格とその効果が焦点になる」との見方を示した。制裁参加国は今後、「上限を超える価格での不正な取引行為など、制裁逃れの対策強化にも取り組む」と述べた。さらにこの関係者は、各国が「船舶の位置情報の操作」や「運航費や積み荷の運賃、関税、保険料を石油と分けて明細に記載していないこと」などの「危険信号」を指摘し、石油各社が制裁に従うよう支援していくとも語った」

     

    G7では、ロシア産原油の上限制を守らせるために規制を厳しくする。ロシアを財政面から追込む意図である。

     

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    ロシアの22年GDP成長率は、マイナス2.1%にとどまった。ウクライナ侵攻直後は、二桁のマイナス成長率予測であったから、予想外の「健闘」と言えた。だが、今年に入って状況はがらりと変わっている。 

    今年1~2月は、政府歳入の半分近くを占める石油・ガス収入が、前年比46%落ち込む一方、歳出は50%余り急増したのだウクライナでの戦費が予算の重石となっており、ロシアが現時点で財政収支を均衡させるには、石油価格がバレル当たり100ドルを超える必要があるとアナリストは推定す。現状では、50ドルを割り込んだ状況だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月29日付)は、崩壊し始めたロシア経済 来年は資金枯渇か」と題する記事を掲載した。 

    ロシアによるウクライナ侵攻開始当初は、石油・ガス価格が跳ね上がり、ロシアに思わぬ巨額の利益をもたらした。だが、こうした局面は終わった。戦争が2年目に突入する中、西側の制裁による打撃が広がり、ロシア政府の財政は厳しさを増している。経済は低成長軌道へとシフトし、長期的に脱却できない可能性が高まっている。 

    (1)「短期的にロシアの戦費調達を脅かすほど、経済への打撃が深刻であることを示す兆候はまだ見られない。だが、財政収支は赤字に転落しており、ウラジーミル・プーチン大統領が市民を生活の困窮から守る一助となってきた補助金や社会保障向けの支出と、膨らむ軍事支出との間でどう折り合いをつけるか、ジレンマが深まっている状況を示している。ロシアの富豪オレグ・デリパスカ氏は今月の経済会議で、ロシアの財政資金が枯渇しつつあると警鐘を鳴らした。「来年には資金が尽きるだろう。われわれは外国人投資家を必要としている」と指摘する」 

    ロシア経済が、ウクライナ侵攻による経済制裁効果と軍事費増額で、確実に破局に向かっている。来年には、資金が枯渇するという暗い予測も出てきた。

     

    (2)「見通し悪化の大きな原因は、エネルギーを武器に使えば、西側諸国によるウクライナ支援を抑制できるとのプーチン氏の読みが外れたことだ。欧州諸国の政府はウクライナへの支援を縮小するどころか、ロシア産エネルギーへの依存脱却に向けて代替調達先の確保に迅速に動いた。ロシア産ガスの欧州への供給がほぼ止まると、価格は当初、急騰したものの、その後急落した。ロシアは現在、石油生産を6月まで従来レベルから5%減らす意向を示している。同国の石油価格は国際指標を下回っている」 

    プーチン氏の読みは、ことごとく間違った。エネルギーを武器に使えば、欧州は音を上げてウクライナを長期支援できまいと見てきたのだ。現実は逆になった。欧州が、ロシア産エネルギー購入を止め、ロシア産原油上限制60ドルの枠をはめてしまったのだ。これで、ロシア産原油は欧州という需要先を失い、価格が暴落している。

     

    (3)「ロシアのエネルギー収入は今年12月に前年比でおよそ半減し、財政赤字も膨らんだ。1~2月の財政赤字は340億ドル(約4兆4600億円)と、国内総生産(GDP)比1.5%余りに達した。そのため、ロシアは危機時の財政緩衝材である政府系ファンド(SWF)から赤字の穴埋めを余儀なくされている。ロシア政府は依然として国内で借り入れすることが可能であるほか、侵攻前から280億ドル減ったとはいえ、SWFはなお1470億ドル相当を保有する。行き場を失った石油についても、中国やインドが新たな受け皿になった」 

    ロシア財政の緩衝材役を果たすSWFは、1470億ドル相当を保有するに過ぎない。今後、これは減る一方である。軍事費と国民生活をどのようにバランスさせるかだ。

     

    (4)「国際通貨基金(IMF)はロシアの潜在成長率について、ウクライナからクリミア半島を強制併合した2014年より前の段階では約3.5%だと推定していた。だが、生産性の低下や技術的な後退、世界からの孤立といった要因が重なり、今では1%程度まで下がったと指摘するエコノミストもいる。前出のプロコペンコ氏は「ロシアのような経済にとって、1%はないも同然で、維持する水準にすら届かない」と話す」 

    ロシアの潜在成長率は、すでに1%程度にまで下がっている。この程度の成長率では、ロシア国民の生活を守れないという。これは、日本で経験済みである。

     

    (5)「今年12月は政府歳入の半分近くを占める石油・ガス収入が前年比46%落ち込む一方、歳出は50%余り急増したウクライナでの戦費が予算の重石となっており、ロシアが現時点で財政収支を均衡させるには、石油価格がバレル当たり100ドルを超える必要があるとアナリストは推定している。ロシア財務省によると、同国の代表的な油種であるウラル原油の平均価格は2月、バレル当たり49.56ドルとなった。これは同月に80ドル程度で取引されていた国際指標の北海ブレントに対して大幅なディスカウント水準だ。ウィーン国際経済研究所のエコノミスト、バシリ・アストロフ氏は、「ロシアは石油の販売先が限られるため、今では世界の市場で価格交渉力が弱まっている」と指摘する」 

    ロシア財政を維持するには、原油価格が1バレル100ドルでなければ無理という。現状は、その半分にすぎない。財政赤字は膨らんで当然であろう。

     

    (6)「IMFは2027年までには、ロシアの成長率がウクライナ侵攻前の予想から7%程度切り下がると想定している。「人的資本の喪失、国際金融市場からの孤立、先端技術の入手困難などの要因がロシア経済を損なう見通しだ」としている。 ウィーン国際経済研究所のエコノミスト、バシリ・アストロフ氏は、「われわれは1年や2年の危機を言っているのではない」と述べる。「ロシア経済は異なる軌道を歩むことになるだろう」と指摘する」 

    ロシア経済は、ウクライナ侵攻の長期化で異次元へ進むという危機感が表明されている。

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