(5)「ウクライナ側は無人機を駆使してロシア各地の製油所やインフラ施設を攻撃しており、製油所攻撃でガソリン不足が広がっている。クリミアやロシア南部ではガソリンスタンドに長蛇の列ができ、モスクワの一部でも購入制限が敷かれた。こうした中で、政権寄りのワシリー・カリン・モスクワ高等経済学院教授はロシアの外交専門誌で、ウクライナは今後長期にわたり反露・親欧米の国であり続け、キエフへの親露派政権樹立というプーチン政権の目標は不可能だとし、早期停戦を求める論文を寄稿して話題を呼んだ。政権内の経済テクノクラートや政権に近いオリガルヒの間でも、早期停戦論が台頭していると伝えられる」
ロシア内部では、明らかに停戦派が増えている。プーチン氏は不利だ。こういうときこそ、習近平氏の出番だが中国自身も大きな問題を抱えている。経済減速、若者の絶望、不動産崩壊、失業増加、老人急増の一方で社会保障の不足などだ。これらの不満を外に向けて発散できない以上、ロシアと同じような国内事情に直面している。それだけに、ロシアが早く停戦に応じることを望むものの強制はできないジレンマに陥っている。これは、歴史的に見ても権威主義国家の抱える共通の悩みである。
(6)「プーチン氏自身は公の場では徹底抗戦の構えを崩していないが、本音では早期停戦を志向している形跡がある。それは第一に、ドローン戦の不利など戦況悪化や国民の厭戦気分を察知したためだろう。ロシアの国営世論調査機関である全ロシア世論調査センターによれば、80%台を維持してきた大統領の支持率は、4月中旬の調査で65%まで低下した。第二に、9月の下院選を意識しているかもしれない。最大野党・共産党のマルハエフ下院議員はブログで、「現在の状況が続けば、社会不安や混乱が拡大し、社会的爆発を招く」と警告し、現政権を厳しく非難した。開戦後初となる下院選では、反戦世論が台頭しかねない」
ロシアは、停戦へ向かわざるを得ない方向に追い込まれつつある。 ただし「勝った形」を演出しない限り、プーチン氏は停戦を飲めない。ロシアはすでに「戦略的に不利」な状態にある。最近の報道が示す「ロシア劣勢」は、単なる戦況ではなく
「構造的劣勢」である。兵士不足(徴兵の限界)、弾薬不足(北朝鮮頼み)、経済制裁の蓄積、産業基盤の弱体化、兵器の質の低下、国際的孤立である。そして、イラン停戦で、ロシアの補給線がさらに細くなる。
プーチン氏は「停戦したい」が「停戦できない」点が、事態の深刻さを示している。プーチン氏は本音では停戦したい。
しかし停戦すれば、「敗北」と見なされる、国内の権威が崩れる、エリート層が離反する、反プーチン派が動き出す。停戦は、政権崩壊の引き金になりかねないのだ。
(7)「第三に、イラン戦争が終結すれば、原油価格は再び下落し、ロシアのエネルギー収入が減少して経戦能力が低下する。第四に、イラン戦争後はウクライナ戦争に再び世界の注目が集まり、欧州が調達する米国製兵器が湾岸からウクライナに向けられそうだ。欧州連合(EU)は4月、ウクライナへの900億ユーロ(約17兆円)の巨額融資を承認した。ロシアの新提案が事実なら、プーチン政権は戦争長期化がロシアに不利と判断したかもしれない。プーチン氏は6月14日、G7(主要7カ国)首脳会議に臨むトランプ米大統領と電話協議を行い、停戦仲介を改めて求めていた」
米国は、「停戦の条件」をロシアに押し付けやすくなる。イラン停戦で、米軍が自由になると、米国はロシアに対して経済制裁を強化するからだ。ウクライナへの兵器供与の増加、NATOの東側強化、ロシアの海上輸送の監視強化を一気に進められる。ロシアは、「停戦を拒否するコスト」が急上昇するであろう。プーチン氏は、人生最大の危機が来た。




