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中国国連大使の張軍は、2月28日に始まった国連総会の緊急特別会合で、「状況は中国が望まないところまで発展している。どの当事者にとっても利益にならない」と発言した。中国の上層部内の異論を反映している。

 

米紙『ワシントンポスト』によれば、中国は事前にロシアのウクライナ侵攻を知っていたとされている。中国は、すぐにこれを否定したが、客観的に見れば知らされていなかったと見るべきだ。

 

2月4日の北京冬季五輪開会式の後、中国最高指導部7人は外部に顔を見せず、密室でウクライナ問題を議論していた。結論は出なかったとされる。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じている。ロシアと一枚岩であれば、中国指導部がこのように悩むことはないはず。一致していないから悩んでいるのだ。

 


『ニューズウィーク 日本語版』(3月3日付)は、「混乱気味の中国が、ウクライナ問題で最も恐れていること」と題する記事を掲載した。筆者は、ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)である。

 

ウクライナ問題をめぐって、中国は反欧米姿勢を固めることにしたようだ。少なくとも今のところは――。ロシアがウクライナに軍事侵攻した翌日、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談し、中国外務省の汪文斌(ワン・ウエンビン)副報道局長は定例会見で、ロシアの「安全保障に関する正当な懸念を理解している」と発言。

 

(1)「侵攻前日には、同省の華春瑩(ホア・チュンイン)報道局長が「現在の緊張の元凶」はアメリカだと批判し、ロシアへの暗黙の支持を示した。とはいえそれ以前には、王毅(ワン・イー)外相らが、ウクライナ危機の責任論を避け、国家の主権を重んじるとの声明を発表していた。24日に習とプーチンが行った首脳会談を、ロシア側に立つ姿勢の表れだと米政府が見なしたことに、中国当局者らは不快感を覚えたとの報道もある」

 


中国外交部では、ウクライナ問題で発言する当人の年齢で、ニュアンスが異なっている。王毅外相は、中立論的なスタンス。華春瑩報道局長という中堅層は反米的スタンスである。これは、過去の「反ソ連」時代に育った上層部と、2000年代に入って中国の経済成長と共に高まる「反米」時代に社会へ出た層で、ロシアや米国への印象が異なる。この論文の筆者は、後半でこのように指摘している。あらかじめ、記しておきたい。

 

(2)「ウクライナをめぐる緊張は誇張で、欧米の情報機関の目くらましにすぎないと退けていた中国にとって、ロシアの軍事侵攻は予想外だったと主張するアナリストもいる。それが事実なら、混乱気味の反応にも納得がいく。政府筋の表向きの発言と現実の溝からは、ほかの大国の動きをどこまで真剣に受け止めるべきか、多くの場合に理解していない中国の姿が浮かび上がる

 

中国のウクライナ問題に対する発言は、いくつかの矛楯した面が見られる。それは、表面的にロシアを支持する「反米派」と、ロシアの軍事行動に反対である「反ソ派」の本音が、ポロリと漏れる結果である。

 

(3)「ここへきて中国の論調がロシア寄りに傾斜しているのは、ロシアとの極めて有益な連携関係を最優先すると決断したことを意味しているのかもしれない。あるいは、プーチンがさらに大胆な行動に踏み切ることはないと判断している可能性もある」

 

(4)「中国にとって理想的なのは、2番目のシナリオだろう。それなら、欧米を悩ませつつ、紛争拡大のリスクや経済の混乱を避けられる。だが他国との関係を最重要視する一派と、イデオロギー状況が自身のキャリアに与える影響を最大の関心事とする一派の間で、分裂が起きている可能性もある前者に属するのは主に、国外でより多くの時間を過ごしてきた経験豊富な外交関係者だ。後者のグループはより若く、メディアを重視し、習体制のナショナリズムを出世の基盤にしている」

 

このパラグラフは重要である。他国との関係を重視する「反ソ派」は、ごく自然の発言で違和感はない。だが、「反米派」はイデオロギー重視で、ロシアが正しく米国が悪いという前提で発言する。聞かされる側は混乱させられる。ただ、「反ソ派」か「反米派」かは、発言者の年代で分類できるであろう。

 


(5)「こうした事態は、世代交代の流れを反映しているのかもしれない。その象徴が外務省報道局長の華だろう。欧米メディアへの攻撃を強める華は、ロシアが不変の同盟相手と見なされた2000~2010年代に昇進してきた。それに対して、年上の高官らはロシアが最大の敵だった「中ソ対立」時代の余波の中で成長した世代だ。指導部から明確な指示があれば、若手の一派は態度を一変させるかもしれない。だが、欧米との関係悪化という短期的懸念にもかかわらず、中国がロシアとの連携を危険にさらすことはなさそうだ」

 

中国は、国内で完全にウクライナ問題に対する意見調整を終えていない。結論が、出ないと言うのが正直なところであろう。下線部のように、「反ソ派」と「反米派」が思い思いに発言しているもの。それゆえ、それを聞かされる側は、一喜一憂する必要はなさそうだ。

 

(6)「中国の最終的な公式見解は、あるメディアがSNSに誤って投稿した「命令」により近いものになるだろう。親ロシアのコンテンツだけを投稿し、親欧米的なものは削除せよと、命令にはある。ただし、ロシアがウクライナ東部のドネツクとルガンスクを独立した共和国として承認したことは、中国にとって問題含みだ。両地域の分離独立が許されるなら、台湾や新疆ウイグル自治区は? 中国はこの矛盾を、単に無視して片付けるだろう。いずれにしても、ロシアが両地域を併合すると、中国はみているはずだ」

 

ウクライナ東部の独立宣言とロシアの承認は、中国では困った問題である。台湾や新疆ウイグル自治区の独立を認めないという原則で対応しているからだ。中国には、こういう矛楯した問題を抱えている。

 

(6)「中国にとってより深刻な懸念は経済制裁、特にロシアを支持する国などに対する2次的制裁だ。中国経済と中国エリート層の生活は今も、アメリカと密接に結び付いている。中国は公にはロシアへの支持を表明する裏で、真剣に支持していないとアメリカに伝えるのではないか。当面は、経済制裁の最悪の影響を回避する手段をロシアに提供し、ロシア寄りの報道を続けるだろうが」

 

下線部は、中国の二面性を指摘している。実益面では、ロシアより米国から得られる利益がはるかに大きいからだ。中国の本当の悩みは、イデオロギーに縛られて、ロシアを支援することの矛楯だ。台湾問題におけるロシアの支援は、現在の中国が行なっている「精神的」なものになろう。