勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース時報

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    ロシアのプーチン「30万人動員令」は、いかに事前準備もなく発令されたかが次第に判明してきた。招集された兵士達が、自分たちの置かれている状況がいかに悲惨であるかを、動画で訴えているのだ。この状態では、戦意が高まるどころか、脱走したくなるような寒々とした環境にあることが分る。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(9月28日付)は、「銃創の止血にはタンポン、兵舎はまるで収容所 戦わずして死にそうなロシア徴集兵」と題する記事を掲載した。

     

    新たに戦闘に動員されたロシア兵たちがいかに厳しい状況に置かれているかを示すさまざまな動画が拡散されている。食料や備品も不足するなか、銃弾で負傷した兵士が、止血にタンポンを使えと指示される有様だ。

     


    (1)「Ukraine Reporterがツイッターに投稿した動画では、1人の徴集兵が、自分たちの状況に不満を訴えた動画のせいで、所属部隊が罰を受けていると語っている。2日前に撮った「不満」動画のあとに起きたことを報告する内容だ。「状況はさらに悪くなる、と警告された。今日は、トイレの使用が制限された」。食料と水も与えられていない、と兵士は続けた。「まるでどんどん膨張する強制収容所のような様相だ」。また別の動画では、シベリア南部のアルタイ地方にいる部隊の女性上官が徴集兵たちに向かって、薬や止血帯を含めたあらゆるものを買っておけと話している。上官は言う。「防護具と軍服は支給されるが、それ以外は何もない

     

    ロシア軍は、兵站部が極度に手薄であることを示している。下線部のように、兵器と軍服は支給するが、それ以外の身の回り品は自分で買えという指示は絶望的だ。これでは、前線へ出る前に脱走したくなって当然だ。

     

    もう一つ、前線へ出る前の数ヶ月という訓練がないことだ。即、前線への配備では戦死するために行くようなもの。なにやら、沖縄戦で現地の人たちが無理矢理、銃を持たされた光景と重なる。悲劇だ。

     


    (2)「撃たれた傷の治療には、女性用タンポンを使えとも話している。「銃弾による傷を負った場合は、(タンポンを)傷口にじかに詰めれば、(タンポンが)膨らみ始める」、「必ず安いタンポンを買うように」と上官は言う。「自分の身は自分で守れ」。ベラルーシの報道機関ネクスタがツイートした「徴集兵の冒険パート1」というタイトルの動画は、兵士やバックパックなどの荷物でほぼ立錐の余地もない兵舎での、スペース争いを垣間見ることができる」

     

    銃撃を受けた際には、自分で買った「タンポン」を傷に当てて応急措置を取れという命令だ。上官は、「自分の身は自分で守れ」とも言う。これでは、軍隊とは言えない。組織的な戦いを放棄している様子が手に取るように分る。

     


    (3)「ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍が膨大な損失を被った後、プーチン大統領は9月21日、深刻な人員不足を補うための予備役の「部分的動員」を発表。事実上は誰が招集されるかもわからないことも相まって、ロシア国内では怒りと衝撃が広がっている。ロシア政府は予備役30万人を召集する予定だと発表したが、ここ数日の動画からは、動員現場は混乱を極めており、酔っぱらいの徴集兵を映した動画も拡散されている。プーチンの動員発表後、男性たちが召集を逃れようとしたことから、ロシアとジョージアの国境には、長さ6マイル(約9.7キロ)におよぶ車列ができた」

     

    招集状況は、デタラメである。亡くなった人への招集がかかっているほどだ。老人まで招集がかかるなど混乱の極みである。予備役名簿が整理されていない結果であろう。

     


    (4)「ウクライナレポーターが9月25日にツイートした動画には、コーカサス地方で起きた騒動の様子がとらえられている。「ダゲスタン共和国で起きた、ロシアの動員に対する激しい抗議」という説明が添えられている。「秩序回復のために(プーチン直属の武装部隊)ロシア国家親衛隊が派遣されたが、抗議活動は勢いを増しつつある、と地元の情報筋は伝えている」とツイートには書かれている」

     

    コーカサス地方では、動員令に反対する人たちが強固な抗議活動を始めている。少数民族の戦死者が多いことから、その不平不満が爆発しているに違いない。モスクワなど大都市出身者の犠牲者は、極めて少ないのが実態だ。こういう不公平性が、地方へも知れ渡ってきたのだろう。

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    ロシアのプーチン氏は、完全な独裁者になった。今回のウクライナへの侵略戦争は、プーチン氏の采配で行なわれた痕跡が濃厚である。戦略に詳しくない「元スパイ」出身のプーチン氏は、謀略だけで勝てると踏んだ粗雑な戦い方と言われている。

     

    プーチン氏のもう一つの失策は、これまでロシアへ親和的であったドイツが堂々と再軍備宣言したことである。対ロシアへ防衛を固める姿勢を明確にしたのだ。ロシアにとって、重要な理解国を失った。

     


    韓国紙『ハンギョレ新聞』(3月1日付)は、「プーチンの挑発がドイツの軍備増強に火をつけた」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウクライナ侵攻は、第2次世界大戦以降、軍事力ではなく通商と対話を通じた問題解決を主張してきたドイツの外交・安保政策路線を、一夜のうちに180度覆した。今回の侵攻が欧州に及ぼした衝撃のほどが推し量れる。

     

    (1)「オラフ・ショルツ首相は2月27日のドイツ議会での演説で、兵器の現代化に1000億ユーロを投じるとともに、空軍の老朽化したトルネード戦闘機の代替機として米国の先端ステルス機F-35を購入することを明らかにした。また、対国内総生産(GDP)比1.3%水準の国防費を2%以上まで引き上げることを約束した。対GDP比で2%の国防費支出は、2014年の北大西洋条約機構(NATO)会議で合意されている。しかしドイツなどは増額に消極的で、ドナルド・トランプ政権時代の米国と激しく対立した」

     


    ショルツ首相は、プーチン氏と対面で会談を行ない、性格の異常性に気付いたようである。ドイツ議会で「プーチン」と呼び捨てにしているところに、怒りのほどがあらわれている。プーチン氏の中に侵略魔「ヒトラー」を見たに違いない。

     

    (2)「ショルツ首相は、こうした政策を取る理由について「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻によって新たな現実を作り出した。この新たな現実は明確な対応を求めている」と述べた。同氏は「プーチンはロシア帝国の建設を望んでいる」とし、ドイツはロシアがNATO加盟国の領土を「一寸」たりとも侵略できないようにすると宣言した」

     

    プーチン氏への怒りは、習近平氏にも向けられて不思議はない。新疆ウイグル族弾圧は、習氏の指揮で始められたものだ。それを証明する公式文書が発表されている。ヒトラーは、ユダヤ人撲滅を狙った。習氏は、新疆ウイグル族撲滅を目指している。こう見ると、ヒトラー・プーチン・習近平は同一線上に並ぶ。危険な存在であることは確かである。

     


    (3)「この日のショルツ首相の発言は、戦後70年あまり続いてきたドイツの外交・安保政策の根幹を覆したものと評価しうる。ドイツは先の戦争を引き起こした「戦犯国」であるとの反省のもと、軍備に対する支出を抑制するなどの慎重な態度を取ってきた。民主的価値を無視する独裁国家や権威主義国家に対しても、強力な制裁よりも、いわゆる「貿易を通じた変化」というドクトリンの適用の方を好んできた」

     

    ドイツの外交政策は、最後まで性善説に立ってきた。性善説は、社会が明るくなる上で欠かせないが、国家間では通用しない。国家エゴが前面に出るからだ。その意味で、ドイツはロシアを疑うことがなかったのだ。余りにも「うぶ」過ぎた。

     


    (4)「1989年に冷戦が終わり、統一を達成して以降は、このような傾向はさらに強まった。1989年には50万人だった兵力は18万人に、戦車も5000台から300台ほどにまで削減した。今回の戦争が始まるまでは、支援を要請するウクライナに対して5000個の軍用ヘルメットを送るに止まっていたほどだ。しかし、ロシアの侵攻がすべてを変えた。ベルリンにある「グローバル公共政策研究所」のトーステン・ベナー所長は、ドイツは「プーチンがやったことに衝撃を受けただけではない。プーチンがどんなことをするかについて、我々は過小評価していたという羞恥心と自責の念を抱くようになった」と述べた」

     

    ドイツは、駐独米軍によって防衛され、自主防衛を怠ってきた。この裏には、第二次世界大戦でドイツが、米軍によって徹底的に破壊された恨みがずっと残っていたのだ。こういう怨念が、正規の防衛努力をせず、米国の足を引っ張る外交を行なってきた。日本とは真逆の対米外交である。今、その誤りを悟ったのである。その機会は、プーチンによって与えられた。

     


    (5)「平和主義外交を掲げてきた緑の党のアンナレーナ・ベアボック外相も、ドイツの政策は「180度転換した」と認めた。同氏は「本日ドイツは、外交と安保政策で特に自制力を行使してきたやり方を裏に置いてきた」、「世界が変わったのなら、我々の政策も変わらねばならない」と述べた」

     

    ドイツは、プーチン戦争で目を醒まされた。親しい国と思っていたロシアが、牙を向けてきたことで、その本性を悟ったのである。アジアでも事情は同じだ。中国が、いつ近隣国を襲うか。やはり未然にそれを防がなければならない。外交だけでは防げないのだ。ドイツの政策転換の意味は、ここにある。

     

    (6)「ドイツのこのような路線変更は、2月26日にロシアの銀行をSWIFT(スイフト、国際銀行間通信協会)の決済ネットワークシステムから排除することに反対していた態度を変えていたため、ある程度は予想されていた。ドイツはこの日の夜、ウクライナにスティンガーミサイルなどの兵器を提供する方針も明らかにし、これまでは認めていなかったエストニアとオランダによるドイツ製兵器のウクライナへの供与も認めた」

     

    ドイツの政策転換は、まさに劇的であった。これだけ180度もの変わり方ができるのか。そういう典型的な変化である。

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