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世界経済が、ウクライナ戦争で大揺れである。資源価格の高騰や一連のロシアへの経済制裁が、新型コロナウイルス禍からなお回復途上にある世界経済を脅かしている。

 

ロシアは、ウクライナ侵攻を開始してからわずか10日間で、世界で最も多くの制裁を科される国となった。世界の制裁を追跡調査するデータベースのキャステラム・AIによると、2月22日から米国と欧州同盟国が主導する形で制裁措置が急増。新たに2778の制裁が科され、合計で5530強となった。イランは、核プログラムやテロ支援などでこの10年に制裁が科された制裁件数3616を抜いて最多だ。『ブルームバーグ』(3月8日付)が報じた。

 

原油先物相場(8日アジア時間)は、1バレル=126ドルと14年ぶり高値付近でもみ合っている。これがもたらす世界経済への影響は大きく、1970年代か2008年のリーマン・ショックにも匹敵する衝撃を受けるのでないかと危惧する見方も出ている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月8日付)は、「身構える世界経済、ウクライナ戦争の波紋」と題する記事を掲載した。

 

欧米諸国では、インフレ率が数十年ぶりの水準に跳ね上がっており、今も上昇に歯止めがかからない。世界の株式市場は売りが膨らみやすい環境にあるほか、ドルは主要通貨に対してほぼ全面高の展開となっている。安全資産とされるドル資産に資金が逃避しているためだ。エコノミストの間では、とりわけ欧州に関して、1970年代にみられたようなスタグフレーション(不況と物価上昇の併存)の懸念が高まっている。

 


(1)「ドイツ銀行のストラテジスト、ジム・リード氏は「資源価格の動向は1970年代の様相を強めており、当時との比較を無視することは難しくなるだろう」と話す。ここにきて急速に不透明感を強めている主な要因が、世界第11位の経済規模を持ち、欧州の重要なエネルギー供給国であるロシアだ。西側諸国は、主要国に対する経済制裁としては過去数十年で最大級となる一連の措置を発動。ロシア産エネルギーに対する禁輸措置も浮上している」

 

1970年代は、アラブ諸国による石油減産が引き起した「石油ショック」で、世界経済が大混乱に陥った苦い経験を持つ。日本の高度経済成長は、この「石油ショック」で終焉を迎えた。それだけのインパクトがあった。

 


(2)「米財務省および国家安全保障会議(NSC)でオバマ大統領の特別補佐官を務めたクリストファー・スマート氏は、世界の企業が直面する不確実性は、2008年9月のリーマン・ブラザーズ経営破綻時のものをほうふつとさせると話す。「これだけの経済規模を持ち、世界経済で重要な役割を果たす国に対して、ここまで包括的かつ強力な措置をこのように突如発動したことは一度もない」。スマート氏はその上で「誰がロシアに対して直接的、または間接的なエクスポージャーを抱えているか、かなり不透明だという点において」リーマン危機に酷似していると指摘する」

 

ロシア経済が今後、どのような悲劇的な状態に落込むかを誰も見通せない。そういう意味で、市場の価格変動リスクや特定のリスクにさらされている金額や残高がどれだけあるかという「エクスポージャー」が不明である。地雷原を歩くような危険性は、2008年のリーマン危機に似通っていると指摘している。

 


(3)「戦闘が激化しているウクライナに地理的に近く、ロシアのエネルギー供給に大きく頼る欧州は、ここ2年で3度目のリセッション(景気後退)入りとなる可能性が高い。米国は主要産油国であり、家計の貯蓄がなお高水準にあることを踏まえると、欧州よりも難局をうまく乗り越えるとみられる。それでもインフレ高進が個人消費と経済成長を下押しする可能性が高い」

 

ウクライナ戦争の影響は、欧州がもっとも大きく受ける。キャピタル・エコノミクスでは、ウクライナ戦争により、ユーロ圏の成長率が最大2ポイント押し下げられる恐れがあると分析している。米国は、家計貯蓄がなお高水準であることから、ある程度の物価上昇に耐えられると見られる。

 

(4)「ユーロは最近、対ドルで5年ぶりの安値に迫った。ユーロ圏の大型・中型株で構成されるMSCI EMUは1月以降、約2割の値下がりとなっている。これに対し、S&P500種指数は10%の下落だ。ユーロ圏の銀行は総じてロシアへの投融資残高は大きくないものの、株価の下げが特にきつい。欧州では、ウクライナ戦争の前の時点ですでに米国よりも景気回復の勢いが弱かった。背景には政府の財政出動の規模が米国ほどは大きくなかったことがある。ECBのデータによると、ユーロ圏の個人消費と投資はコロナ前の軌道をなお大きく下回っているのに対し、米国はすでにその軌道に戻っている」

 

ユーロは、対ドルで5年ぶりの安値接近場面である。株価も2割の値下がりになった。米国は、ドル高になり株価(S&P)も1割の値下がりに止まっている。米国経済の底力が発揮されている。

 

(5)「ロシアは最大10%のマイナス成長が見込まれており、実際にそうなればソ連崩壊後の経済改革で混乱した1990年代以来となる。キャピタル・エコノミクスでは、ロシアが経済的に孤立を深めるのに伴い、当初の経済的な衝撃の後に長い成長低迷や不況が続くと予想している

 

「火元」のロシア経済は、最大10%のマイナス成長予想だが、マイナス5~6%が多い。戦費は1日、200~250億ドルも掛かっている。この負担だけでも過大だ。一旦、世界経済との鎖が切られた以上、その復活までにどれだけの時間を要するか。予測不可能である。

 

(6)「中国では経済成長が鈍化するとともに、エネルギー価格高騰への警戒が高まっている。同国はなお「ゼロコロナ」政策を堅持しており、消費は依然として勢いを欠く。当局は住宅市場の過剰を抑制しようと取り締まっている。習近平国家主席は6日、穀物の供給確保と国内の生産維持を確実にする必要があると述べた。国営の中国中央テレビ(CCTV)が報じた」

 

中国は2021年に、ウクライナから2800万トンのトウモロコシを輸入したが、これは前年の1100万トンの2倍を超え、過去最高だった。ウクライナは肥沃な黒土に恵まれ、その面積は世界の25%以上を占める。中国が輸入するトウモロコシの8割以上がウクライナ産だ。このウクライナが戦場になっている。