勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ウクライナ経済ニュース時評

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    米国が、最大射程距離190マイル(約305キロメートル)の長距離ミサイルである陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)をウクライナに提供する案が最終検討段階にあると『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報道した。ATACMSの最終支援が決まれば、ウクライナ戦争のまた別の「ゲームチェンジャー」になるかもしれないと指摘されている。

    この重大な時期に、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が最近ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領らと会談していたことが分かった。今回の訪問で、ウクライナ当局者らはバーンズ氏に、年内にロシア支配地を奪還して停戦交渉を始めるとの戦略を明かしたとも伝えた。ウクライナ側が、こういう大詰めの作戦計画を話している以上、ATACMSの提供が話題に上がったことは当然であろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月30日付)は、「米、長距離ミサイル供与の承認検討 ウクライナ支援で」と題する記事を掲載した。

     

    米国はウクライナへの長距離ミサイルシステム供与を巡り、承認を検討している。米欧の当局者が明らかにした。焦点となっている「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)」は射程が約300キロメートルで、ウクライナ軍は前線のはるか後方にあるロシア側の標的を攻撃することができる。

     

    (1)「米当局者の間では、ウクライナがATACMSをロシア領土の攻撃に使えば西側とロシアの対立が激化しかねないとの懸念があり、ジョー・バイデン大統領は供与を認めてこなかった。複数の当局者によると、ATACMS供与については最高レベルでの承認待ちとなっている。これまで供与に消極的だったホワイトハウスでは、ウクライナ軍への支援強化を急ぐ必要性を認識している兆しがあるという」

     

    バイデン政権はこれまでウクライナが自国領土を超えロシアを打撃できる武器を支援するのを避けてきた。戦争が、不必要に拡大するのを防ぐという次元からだ。これに対しウクライナはロシアが掌握しているクリミア半島を射程圏に入れるためにも長距離戦術武器が必要だという立場で、F16戦闘機とATACMSの支援を希望してきた。最近、ロシアの民間軍事会社ワグネルグループが反乱を起こし、米政府の気流が変わったという。ロシアが、内紛で混乱する隙に乗じることは、ウクライナの反撃に有利と判断したとみられる。

    (2)「週末に起きたロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者による反乱未遂でロシア国内が揺れる中、米欧の当局者はより高度な兵器をウクライナに提供する段階に入っているとの見方を示した。ウクライナの国防当局者は『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)に、ウクライナ政府は最近になって米国から前向きなサインを受け取ったと語った。米国と欧州の同盟国の発表によれば、ウクライナ当局者はロシアが占拠し、イラン製ドローン(無人機)の発射拠点に使っているクリミアを攻撃するためにも長距離ミサイルが必要だと主張している。米国家安全保障会議(NSC)と国防総省は今のところコメントの要請に応じていない」

     

    精密誘導が可能なATACMSは現在、ウクライナ戦争で活躍している高速機動ロケット砲システム(HIMARS)の発射台で発射できる利点もある。ウクライナがATACMSを確保すれば、ロシアは最前線の後方兵站基地と指揮所などを、最小200マイル(320キロメートル)は後退させなくてはならないだけに兵站効率が落ちるのは必至だ。

     

    『CNN』(7月2日付)は、「CIA長官がウクライナ訪問、大統領らと会談 米当局者」と題する記事を掲載した。

     

    米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が最近ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領らと会談していたことが分かった。米紙ワシントン・ポストが最初に伝え、米当局者がCNNに語った。

     

    (3)「同紙は、訪問の事情を知る当局者らの話として、ウクライナ当局者らはバーンズ氏に、年内にロシア支配地を奪還して停戦交渉を始めるとの戦略を明かしたとも伝えた。別の当局者がCNNに語ったところによると、バーンズ氏は反乱が起きた後でロシアのナルイシキン対外情報庁長官と電話で会談し、米国は反乱に関与していないと言明した。バーンズ氏は7月1日、英国での講演で、ロシア内部で戦争への不満が政権を弱体化させていると指摘。CIAにとっては「一世代に一度」のチャンスが生まれていると述べ、「このチャンスを無駄にはしていない」と強調した。バーンズ氏は講演の中で、ワグネルの反乱にも言及。反乱に先立って、創設者プリゴジン氏が戦争の大義名分やロシア軍指導部の戦法を厳しく批判した言動による影響は今後も広がり続け、プーチン政権や社会の消耗を浮き彫りにするだろうと述べた

     

    バーンズ米CIA長官は、「プリゴジン反乱」の影響でロシア国内が混乱すると見ている。米国が、この好機にATACMSをウクライナへ供与する可能性は高まるであろう。

     

     

     

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    ロシアのプーチン大統領が12月22日、国家評議会の会合に出席後、モスクワで記者団の取材に「我々の目標は軍事紛争を拡大させることではなく、逆に戦争を終結させることにある」と発言した。プーチン氏が、ウクライナでの紛争を「戦争」と表現したことに対し、波紋が広がっている。プーチン氏は、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と位置づける情報発信を行なっており、こうした方針から公の場で逸脱するのは侵攻開始後10カ月で初となる。

     

    『中央日報』(12月24日付)は、「プーチン露大統領、ウクライナ戦争を初めて『戦争』と規定」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争を初めて「戦争」と規定した。ロシアはプーチン大統領の主導で開戦以降ウクライナ戦争を「特別軍事作戦」と表現し、「戦争」と呼ぶ人たちを処罰してきた。ところがプーチン大統領本人が公式的に「戦争」という言葉を使用し、ロシア内で「ダブルスタンダード」という非難が続いていると、『ワシントンポスト』(WP)が22日(現地時間)報じた。

     

    (1)「プーチン大統領は22日の記者会見で「我々の目標は軍事的衝突を続けることでなく、できるだけ早期に『戦争』を終わらせることだ」と述べた。プーチン大統領は2月24日、「ウクライナ内に特別軍事作戦を遂行する」として開戦を知らせて以降、ウクライナ戦争を「特別軍事作戦」と表現してきたが、この日初めて「戦争」という言葉を使用したのだ。

    WPは、プーチン大統領をはじめとするロシア政府が「特別軍事作戦」という用語を使用したのは今回の戦争が少数の専門軍人に限られた「作戦」という点を強調しようとしたためだ、と分析した。ここには戦争に対するロシア市民の懸念を緩和しようという目的がある」

     

    ロシアが、ウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼んでいるのは、短期に終了することとウクライナを懲罰するという意味が込められている。現在は、目算外れに陥り「国難」に遭遇している。

     

    (2)「さらに、政府の表現方針に反対する人たちを処罰し、口をふさいだ。ロシア議会は3月、ロシア軍運用に関する虚偽情報を流布する場合は最大15年の懲役刑とする刑法改正案を通過させた。プーチン大統領がこの改正案に署名して発効した改正案を通じて、ロシアでウクライナ戦争を「戦争」と呼ぶことは事実上不法になった。WPによると、刑法改正案が採択された後、「戦争」だと反論した多くのロシア人と独立メディアなどが処罰を受けた」。

     

    ロシアは、ウクライナ侵攻を「戦争」と呼ぶことを法律で禁じている。違反すれば、懲役刑という厳しい処罰だ。プーチン氏は、自らこの法律に違反したことになる。

     

    (3)「10月までウクライナ戦争に関連してロシア政府を批判したり「戦争」に言及して虚偽情報流布などの容疑で起訴されたケースは5000件を超える。うち、最高15年の懲役刑を言い渡された人も100人以上だ。実際、ロシア野党圏のイリヤ・ヤシン氏は9日、ウクライナでのロシア軍による民間人虐殺を批判した容疑で懲役8年6月を言い渡された。7月にはモスクワ中部クラスノセルスキー区の議員アレクセイ・コリノフ氏が、議員会議で戦争犠牲者を追悼するために黙祷したという理由などで懲役7年刑となった」

     

    「戦争」と発言して起訴されたケースは、5000件を超える。最高15年の懲役刑を言い渡された人が、100人以上もいるのだ。こういう厳しい法律がある以上、プーチン氏を「無罪放免」とは行くまい。さて、どうなるか。

     

    (4)「ロシア内部でもプーチン大統領の発言をめぐり「ダブルスタンダード」という声が高まっている。ロシア野党圏の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の同僚ゲオルギー・アルブロフ氏はこの日、ツイッターで「コリノフ氏はロシアのウクライナ侵攻を戦争と表現して懲役7年刑を言い渡された」とし、「コリノフ氏を釈放するか、プーチンを7年間監獄に閉じ込めるべきだ」と批判した。サンクトペテルブルクの市会議員ニキータ・ユペレフ氏もツイッターで「数千人が戦争だと表現し、フェイクニュースを広めた容疑で起訴された。同じ理由でロシア検察総長にプーチン大統領を起訴するよう要請する訴状を送った」と伝えた」

    プーチン氏の「戦争」発言は結局、最高権力者ゆえにウヤムヤになるであろうが、後から問題になる一件である。プーチン氏が落ち目になったとき、この法律が適用されることになりかねないのだ。歴史とは、こういうことが後に大問題になる例があるから要注意である。

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    ロシアは、4~5日で勝てると踏んだウクライナ戦争で、目算が大きく狂っている。作戦の最高指揮を取るショイグ国防相は、なんと軍人出身でなく元土木技師というのだ。この経歴が示すように、「百戦錬磨」の将軍ではなかった。そこに、作戦の狂いがあったのか。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月8日付)は、「ウクライナ短期戦失敗、露国防相に泥沼化のつけ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2月27日、同国の核兵器部隊の高度警戒態勢入りを命じた際、長いテーブルの先にいたセルゲイ・ショイグ国防相を見下ろした。ショイグ氏は命令に同意し、うなずいた。

     


    10年間国防相を務めているショイグ氏は、職業軍人の経歴を全く持っていないが、陸軍大将の肩書を有し、ロシア軍の近代化、専門化を推進し、効果的な戦闘マシン、外交ツールとしての軍のイメージを作り上げてきた。クリミア半島とシリアでの戦争で勝利を収めたことにより、ショイグ氏とロシア軍は、プーチン政権の権力構造の中核となり、人々に恐れられている情報機関をしのぐことに成功した。ロシアの情報機関は、プーチン氏自身が元々スパイだったこともあって、かつては同氏の主要な支持基盤だった。

     

    (1)「ロシア軍が、ウクライナを早期に屈服させられなかったことは、ショイグ氏が行った変革が、たとえ本格的内容だったとしても、宣伝していたほど強力な戦闘力を生み出せなかったことを物語っている。兵站面の不手際、戦略ミス、兵士の準備不足などから分かるのは、今回の侵攻で何らかの勝利が得られるとしても、そのコストが極めて高くなり、占領状態の維持は困難だということだ。ロシア軍に詳しい専門家らはこうした不都合な状況について、ショイグ氏が、プーチン氏の計画を積極的に支持したことが一因だと指摘している。計画が非現実的だったにもかかわらず、ショイグ氏はそれを支持したのだ」

     

    ショイグ氏が同意した計画は、ロシア軍の有利な戦力を前にウクライナ軍がすぐに降参し、ロシア軍は人民の解放者として歓迎されるといった想定に基づくものだった。ウクライナで捕虜になったロシア兵は異口同音に、こういう発言をしている。ロシア軍全体が、「弱いウクライナ軍」というイメージで戦場に臨んでいたことは疑いない。それゆえ、足下をすくわれたのだろう。

     

    (2)「バージニア州アーリントンを拠点とする非営利の調査および分析機関であるCNAでロシア研究部門ディレクターを務めるマイケル・コフマン氏は、「プーチン氏以外に、こうした状況下で特に大きな打撃を受ける人物を1人挙げるとすれば、それはセルゲイ・ショイグ氏だ」と指摘。「こうした想定とこの種の作戦に同意したことで実質的に彼は、ロシア軍を悲惨な戦場に投げ込んだ」と語った」

     

    今回の作戦は、プーチン氏が立案したことを示唆している。軍人上がりでなく元土木技師の国防相は、このプーチン案に賛成して「点数稼ぎ」をしたのだ。軍事作戦に関して素人の大統領と国防相が、二人で犯した大きな誤りである。

     


    (3)「これがショイグ氏にどんな結果をもたらすのか、予想するのは難しい。ショイグ氏は侵攻計画に同意することで、欧州での政治目標達成を目指すプーチン氏への忠誠心を示した。しかし、この作戦が失敗すればプーチン氏は、スケープゴートを探すだろう。コフマン氏は「すべては、この侵攻がプーチン氏にとってどんな結果になるかにかかっている」と語った」

     

    ショイグ国防相は、ウクライナ侵攻の進展が芳しくなければ、プーチン氏によってヤリ玉に上げられるリスクを抱えている。

     

    (4)「現在66歳のショイグ氏は、ロシアで最も人気のある政府高官の1人だ。土木技師として訓練を受けた同氏は、ソ連崩壊直前に非常事態相としてのキャリアをスタートさせた。同氏は国中を駆け回って多数の危機に対応したほか、巨大な省を作り上げて、その取り組みをロシア国民に宣伝した。彼の成功は、軍のトップへの任命につながった。国防相に就任すると、士気が下がった弱い軍隊をより近代的な戦闘部隊に変えた。積極的な宣伝によって軍の評判は上がり、若者を呼び込んで、職業軍人に育てることができた。ショイグ氏は毎春、モスクワ中心部でパレードを行い、軍の新しい兵器や技術を披露した」

     

    ショイグ氏は、行政官として実績を上げたが、大きな戦争の経験がゼロである。それにも関わらず、国防相としてウクライナ作戦の概要を決める立場になった。余りにも無謀と言うほかない。プーチン氏の「お気に入り」人事が招いた失策である。

     


    (5)「ショイグ氏の最初の成功は、クリミア半島で訪れた。ショイグ氏は、夜間に特殊部隊を使って介入し、半島を制圧する計画を立てた。特殊部隊は2014年に政府庁舎を占拠する作戦を実行した。それは、最終的にウクライナの一部領土の併合につながった。この侵攻は、1カ月前にウクライナで親ロシア派の大統領が追放されたことに対する報復とみられているほか、クリミアに本拠を置くロシアの黒海艦隊を守るために行われたとみられている」

     

    ショイグ氏は、2014年のクリミア半島の奇襲作戦で名を上げた。今回のような、大軍を率いての戦争ではない。この辺りに、ウクライナ戦争初戦の躓き要因がありそうだ。こうした内情が分るに従い、ウクライナ戦の前途は多難である。

     


    (6)「2015年にロシア軍が、シリアで戦果を上げた。これにより、軍はプーチン氏の外交政策の主要手段となり、ショイグ氏はプーチン氏の取り巻きの主要なメンバーとなった。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院のセルゲイ・ラドチェンコ教授は、「彼は長年、プーチン氏が急死した場合、後継者になる可能性が最も高い人物とみられている」と述べるほど信頼を得た。ショイグ氏は、プーチン氏の政治的脅威になるのではなく、プーチン氏のイメージを向上させ、イデオロギーを推進する手助けをした。プーチン氏のイデオロギーは、西側諸国との対立、ロシアのナショナリズムと宗教を中心としたものだ」

     

    ショイグ氏は、プーチン氏の後継者に擬せられるほどにまでなっている。だが、ウクライナ戦争で大きな犠牲を出せば、その芽も摘まれる。こうなると、ウクライナで無差別攻撃に出てくる危険性が高まろう。ショイグ氏自身の生き残りを賭けた戦いでもあるのだ。

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