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中国は、ロシアと「限りない友情」の契りを交わした後で、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。中国にとってはなんとも格好のつかない話になっている。中国は、ロシアとウクライナ侵攻を示し合わせていたのでないかと疑われる始末だ。

 

実際は、そういう物騒な話はなかったとされている。世界で孤立する中国は、せめてロシアを繋ぎ止めておきたかった、という程度と見られる。だが、ロシアへ義理立てている間に、中国自身が「ロシアの一味」とされ始めている。火の粉が、中国へ飛んできたのだ。

 


『ロイター』(3月8日付)は、「中国主席、ウクライナ情勢『憂慮』 仏独首脳に和平へ協力求める」と題する記事を掲載した。

 

中国の習近平国家主席は8日、独仏首脳とオンラインで会談し、ウクライナ情勢について「最大限の自制」を求めた。「欧州で戦争の炎が再び燃え上がるのを見るのは苦痛」と指摘した。国営メディアが報じた。

 

(1)「報道によると、主席はフランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相に対し、3カ国が共同でロシアとウクライナの和平交渉を支援すべきと述べた。ウクライナ情勢を「憂慮」しており、エスカレートしたり「制御不能に陥る」ことを防ぐことを優先すべきだと主張した。また、フランスとドイツは危機の悪影響を抑える努力をすべきとし、制裁が世界の金融、エネルギー供給、輸送、サプライチェーン(供給網)の安定に与える影響に懸念を示した

 

中国は、ロシアと「限りない友情」で結ばれている間柄である。ここは、習氏が先ずロシアへ乗り込んで、仲裁の労を取るべきである。それをしないで、独仏首脳を巻き込んで仲裁劇をやろうとしている。下線部のように、ロシアへの制裁を緩めさせようという狙いであろう。習氏は、なかなかの「策士」である。独仏は、この手には乗るまい。

 

中国が、「風見鶏」で仲裁のまねごとに動き出しているのは、周辺国への配慮であろう。シンガポールが、日米欧と共にロシアへの経済制裁に加わっていることだ。中国としては、何とも居心地の悪い思いであろう。

 

『ロイター』(3月8日付)は、「シンガポールの対ロ制裁、プーチン氏の頼みの綱断つ英断」と題するコラムを掲載した。

 

シンガポールは、ロシアのプーチン大統領にとって困ったときの「頼みの綱」役を演じるのを断った。国連安全保障理事会が法的拘束力のある決議を採択していないにもかかわらず、シンガポールが特定のロシアの銀行や貿易に制裁を科すと決めたことは、中立的な金融センターとして知られる同国としては英断だ。アジアにおけるロシアの経済的地位の縮小を浮き彫りにすることにもなった。

 

(2)「小さな都市国家のシンガポールにとって、ロシアのウクライナ侵攻という「力は正義」(シンガポールのバラクリシュナン外相)の地政学に立ち向かうことで失うものはほとんどない。ロシアとの直接的な金融関係は小さい。またウクライナ問題に関して西側に味方したことで、シンガポールにとって最大の貿易相手国である中国を直ちに怒らせる結果にはなっていない。習近平国家主席はロシアの侵攻への非難を避けながらも、侵攻によって東欧諸国における中国の「一帯一路」プロジェクトに打撃が及ぶのを最小限に食い止めようと奔走中だ」

 


ロシアの評価は、ガタ落ちで「怨嗟の的」になっている。中国は、そのロシアと「お友達」というのだ。すでに、東欧での中国評価も低下している。習近平外交は最悪だ。こういう状況下だけに、独仏首脳へ電話して取り繕わざるを得ないであろう。

 

(3)「かたや、10年前からアジアに軸足を移してきたロシアにとって、シンガポールの制裁は大打撃となる。制裁はロシアの4銀行を対象にしているほか、電子製品、コンピューター、戦略物資の輸出禁止も含むものだ。ロシアが、2014年にクリミア半島を強制編入して以来、中国との二国間貿易は50%以上増え、中国の通関データによると昨年は過去最高の1470億ドルを記録した。ロシアは現在、中国以外のアジア諸国にも影響を広げようと取り組んでいるが、特筆すべきことに、ロシアの貿易相手上位5カ国に他のアジア主要国は入っていない」

 

シンガポールは、香港に代わって「自由貿易都市」を世界へ広める絶好の機会がきた。中国への経済制裁にも加わり、欧米に向けて確固たる地位を築く意向であろう。中国にとって、シンガポールは「うるさい」立場になろう。中国は、アジアにおける対ロ政策の変化を肌身で感じているであろう。

 


(4)「ロシアは、中国依存が強まり過ぎることを懸念し、他の国々との関係醸成に腐心してきた。昨年12月には、ロシアが主導するユーラシア経済連合(EEU)とシンガポールとの自由貿易協定に関する進展に喜びの声を上げたばかりだ。ロシアにとって、東南アジアの玄関口であるシンガポールは穀物を含む輸出の重要な拠点となるはずだった。しかし、その動きがしばらく止まりそうだ」

 

ロシアは、シンガポールの反旗によって、アジア進出への拠点を失ったも同然である。

 

(5)「アジア地域ではシンガポールのほか、日本、韓国、台湾も対ロシア制裁を発表している。態度を表明していないアジア諸国においてさえ、日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」など、米国主導の同盟の影響力が拡大している。こうして、ロシアがエネルギー以外を輸出する機会は狭まっている。例えばインドでは、ロシアの輸出業者が長年にわたり原子力発電所や武器庫の建設を支援してきたが、米国はそうした分野でもインドとの協力を拡大している。制裁が発動した今、アジアはもうやすやすとロシアの頼みの綱にはならないだろう」

 

中国は、ロシアと手を組めば大丈夫と高を括っていた。そのロシアが、世界の「最悪人」に成り下がっている。中国まで「疑いの目」で見られる始末だ。習近平氏は、2013年にプーチン氏と会い、「一番気が合う」と言ったという。以来、30回以上も会談する仲になった。習氏に人を見る目がなかったのだ。