勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    ウクライナが、ロシアのプーチン大統領の公邸をドローン(無人機)で攻撃したとするロシアの主張を巡り、米中央情報局(CIA)が「標的にしていなかった」と結論づけたことがわかった。米主要メディアが12月31日に相次ぎ報じた。

     

    CIAは、立体的な情報収集をしており、ロシア情報の虚言を指摘したが、ロシアの狙いは何であったのか。国内向けには、結束強化(ナショナリズムの喚起)である。「国家元首が狙われた」という演出は、国民の危機意識を高め、戦時体制への支持を強化する効果がある。特に長期化する戦争に対する国民の疲弊や不満を、外敵への怒りに転化する狙いがあるのは明瞭だ。

     

    「自国の指導者が攻撃された」という構図を作ることで、より強硬な軍事行動やインフラ攻撃を正当化しやすくなる。これは、戦争の主導権を握り直すための戦術的布石とも言える。また、和平交渉を望む国々(特にグローバルサウス)に対して、「ウクライナは挑発的で和平に非協力的だ」という印象を与えることで、外交的圧力をウクライナ側に向けさせる意図もあるだろう。

     

    ロシアは、和平拒否の伏線としての演出でもある。「和平を望まない」あるいは「自国に有利な条件でしか和平を結ばない」という姿勢を正当化する布石という見方も十分に成り立つ。特に、戦況が膠着しつつある中で、交渉の主導権を握るための情報操作は、ロシアの常套手段として注目すべきだ。米CIAの分析は、技術的な情報収集(シグナルインテリジェンス)に基づいており、攻撃の意図や実行主体に関する信頼性の高い判断とみられる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月1日付)は、「プーチン氏公邸へ『攻撃なかった』、CIAがロシアの主張否定 米報道」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア大統領府はウクライナ軍が12月28〜29日にかけてロシア北西部ノブゴロド州のバルダイ湖畔にある大統領公邸を攻撃したと説明していた。投入された91機のドローンをすべて撃墜したと唱えたものの、裏付ける証拠は示していなかった。

     

    (1)「米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は、米国の国家安全保障当局者の話として「ウクライナはプーチン氏や公邸をドローン作戦の対象にしていない」と伝えた。ロシア側の立場と食い違う内容になる。ウクライナや欧州は「虚偽だ」と否定していた。米CNNによると、CIAのラトクリフ長官は12月31日、トランプ米大統領に情報機関としてロシアの主張を「真実だとは考えていない」と報告した。衛星や通信傍受などを通じてロシア領土内の攻撃を監視しているという」

     

    CIA情報が、ロシアの発表を虚言とした。ロシアは、ウクライナと米国が和平案を詰めている最中だけに、妨害したかったのだろう。

     

    (2)「トランプ氏は、12月29日にプーチン氏と電話協議した際に「(プーチン氏が)今朝それが起きたと私に伝えた」と明かしていた。虚偽の可能性にも言及しつつ「私はこの件に非常に怒っている」とも表明した。一方、12月31日には自身のSNSにプーチン氏公邸「攻撃」の主張について「和平の妨げとなっているのはロシア側だと示している」と訴える米紙ニューヨーク・ポストの社説のリンクを投稿した。CIAの分析に対する自らの立場は明確にしていない」

     

    トランプ氏は、プーチン氏の虚言性に目を見開かねばならない。あとになって、世界の笑いものにされるのはトランプ氏であるからだ。

     

    (3)「ロシアは、トランプ氏が仲介する和平協議のさなかの「攻撃」を口実に、ウクライナ侵略を正当化しようとする思惑がある。ペスコフ大統領報道官は「和平協議により強硬な姿勢で臨む」と発言し、交渉で有利な条件を引き出そうともくろむ。トランプ氏は1期目だった2018年にプーチン氏と会談後の記者会見で、16年の米大統領選への介入疑惑を否定したプーチン氏の立場を支持。介入があったと断定した米情報機関の分析を退け、プーチン氏の言い分を認めた経緯がある」

     

    トランプ氏は、プーチン氏の虚言に騙された経緯がある。ノーベル平和賞に目がくらんで、プーチン氏に乗せられてはならない。

     

    (4)「ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアが偽情報を拡散することで「米国との和平交渉で対ロシア制裁の緩和につなげる狙いがある」と発言した。米国とウクライナが、和平案で合意に近づいているのを受け、ロシアが焦りを抱いているとの見方も示した。ウクライナとロシアとの和平交渉を仕切る米国のウィトコフ中東担当特使は12月31日、X(旧ツイッター)でウクライナや英国、フランス、ドイツの高官と和平案を巡って話し合ったと投稿した。米国によるウクライナへの「安全の保証」のほか、戦争終結と再侵略抑止策などを話し合ったと書き込んだ」

     

    ロシアを無条件で、和平交渉の席に着かせるには、米国がウクライナへ長距離砲を与えることだ。それによって、侵略の無意味さを悟らせることだが、トランプ氏はそれをためらっている。理由は、ロシアを取り囲み中国へ対抗するという思惑があるからだ。

     

     

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    EU(欧州連合)加盟国の閣僚理事会は12日、域内にあるロシアの国家資産を無期限に凍結することで合意した。全会一致ではなく、EU条約の緊急条項を発動し、域内人口を勘案した特定多数決で決めた。資産凍結は今後、ロシアがウクライナに賠償するまで解除しない。親ロシアのハンガリーが拒否権を行使して凍結の延長を阻み、資産を利用したウクライナ支援が滞る事態を避ける狙いがある。EUは、侵略者を許さないという強い姿勢だ。中国は、こういうEUのスタンスをどんな思いでみているか。

     

    『ロイター』(12月13日付)は、「EU、ロシア中銀資産の無期限凍結で合意 ウクライナ支援融資に道」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)は12日、域内で管理されているロシア中央銀行の資産を無期限で凍結することで合意した。これまでは6カ月ごとに凍結の延長の是非を巡る投票を実施していたが、無期限で凍結することで、ロシアと比較的良好な関係を持つハンガリーやスロバキアなどが反対する事態を防ぐ狙いがあるとみられる。

     

    (1)「無期限凍結の対象になるのは2100億ユーロ(約2460億ドル)に上る資産。EUは域内で凍結されているロシア資産を担保にウクライナに最大1650億ユーロの融資を行う意向で、EUはロシア中銀資産を無期限で凍結することで、ロシア資産の多くが保管されているベルギーを説得したい考え。こうした融資は2026年と27年のウクライナの軍事、民生予算を賄うためのもので、ロシアが戦争賠償を支払った時点での返済が予定されている」

     

    EUは、域内で凍結されているロシア資産を担保にウクライナに最大1650億ユーロの(約30兆1950億円)融資を行う意向である。これは、ロシアに払わせる賠償金が支払いを終えたら返済するもの。ウクライナ侵略を続けるロシアへの大きな制裁圧力となる。EUは、米国とロシアが主導するウクライナ和平交渉で、欧州側の交渉力が高まると期待する。

     

    (2)「EUは18日に開く首脳会議で、融資の詳細のほか、ベルギーが単独で負担を強いられないようにする保証などについて詰めの協議を行う。これに先立ち、ウクライナのゼレンスキー大統領は15日にベルリンを訪問し、メルツ独首相と会談。独政府によると、EUや北大西洋条約機構(NATO)の首脳も協議に参加する」

     

    凍結資産の多くを管理する証券決済機関ユーロクリアを抱えるベルギーは、融資案はリスクが大きいとして難色を示す。それだけに、EUやNATOも参加して、ロシアの復讐に備えて議論する。ウクライナのNATO加盟については、加盟国の間で意見が一致していない状況だ。

     

    (3)「ロシア中銀は12日、EUによるロシア中銀の資産利用計画は違法だとし、国益を守るため、あらゆる手段を講じる権利を留保すると表明。ロシア資産の多くが保管されているベルギーの決済機関ユーロクリアについては、資金や証券の処分能力に悪影響を及ぼしたとし、モスクワの裁判所に提訴すると表明した」

     

    ロシア中央銀行は12日、ユーロクリアに損害賠償を求め、モスクワの仲裁裁判所に提訴すると発表した。

     

     

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    米国とウクライナが23日、4年近く続いているロシアとウクライナの戦争を終わらせるための「平和の枠組み」をまとめたと共同声明を通じ明らかにした。両国は、「ウクライナの主権をすべて保障する」という内容を共同声明に盛り込んだ。

     

    当初の米国案では、ロシア寄りが明らかであった。ウクライナや欧州が、結束してこの案を押し返しているもようだ。米国は、ロシア経済が、ウクライナ侵略で大きく揺らいでいることを知らず、ロシアの手の内に乗せられているのであろう。ロシアは、経済的に戦争が限界へ達している。西側はここで、ひと踏ん張りして「侵略戦争」に片を付けなければならない局面だ。

     

    『中央日報』(11月24日付)は、「国家の支払いが遅延…ロシア防産業界、戦争特需どころか生存危機」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア防衛産業は、ウクライナ戦争で好況を迎えたとみられたが、人員不足、制裁による需給問題、そして財政問題で困難に直面している。制裁のために西側で作られた部品・材料を確保するのに困難がある中、過去に定めた供給価格を強要され、さらにロシア政府が代金の支払いを先に延ばす状況だ。

     

    (1)「海外軍事メディアの『ディフェンスブログ』は、ウクライナ戦争を支えてきたロシア防衛産業が深刻な危機に直面しているというロシア内部の事情を報じた。戦争が長期化し、莫大な軍の需要があるが、複合的な問題がロシア防衛産業全般を圧迫しているという。問題の1つ目、防衛産業企業で勤務していた熟練労働者が戦争に動員されたり犠牲になったりし、防衛産業企業は生産ラインを維持する十分な人材を確保できずにいる。その結果、一部の工場は大量の注文を消化している」

     

    ロシア財政が苦境に立たされている。武器購入代金が足りないという最悪事態を迎えている。西側が、ここで安易な妥協をすれば「悔いを千載に残す」であろう。プーチン氏の「手練手管」に乗せられては駄目だ。

     

    (2)「問題の2つ目、西側の制裁の余波で核心部品・原材料の確保が難しくなった。半導体以外の潤滑油・精密コーティング材料などの輸入がふさがったり価格が急騰したりした。ロシア内部で購入する努力もあったが、ロシア産代替品は性能が落ちるという評価を受けている」

     

    長期戦で軍需品の部品不足が目だってきた。経済制裁を受けながら、4年近くも戦争を続けているのだ。当然の現象である。

     

    (3)「3つ目、防衛産業会社の財政状態が悪化している。ロシア政府が防衛産業会社に対する代金支払いを延ばし、このため戦車を生産する企業は1月に引き渡した戦車の代金を受けていない状況で契約を引き続き履行しなければならない状況だ。政府の支払い遅延はそうでなくとも厳しい防衛産業会社の財政状況を悪化させている。ロシア軍の中高度長期滞空無人機オリオンを生産するクロンシュタットは数億ルーブル規模の債務請求訴訟がいくつか提起されている。政府が、定めた価格政策も問題を悪化させている。企業は政府に過去の固定納品価格で契約を結ぶが、必要な部品は市場価格で購入している。こうした契約構造のため企業に損害が生じている」

     

    ロシア政府は、財政ひっ迫で防衛産業への代金支払を滞らせている。それでも、生産を続けるという無理難題を押しつけられているのだ。こういう状況では、いつまでも継戦は不可能である。

     

    (4)「4つ目、ウクライナの攻撃で基盤体系が破壊された。ドローンとミサイル攻撃、そして鉄道網の破壊などのサボタージュは主な防衛産業工場、物流拠点、燃料と潤滑油供給施設に被害を与えている。

     

    ウクライナによるドローン攻撃、ミサイル攻撃、鉄道網の破壊などが効果的に行われている。これが、ロシアのインフラへ大きな傷跡を残している。

     

    (5)「5つ目、輸出市場の縮小だ。伝統的にロシア防衛産業企業は外国への輸出で損失を補填してきたが、制裁のために輸出が遮断されたり取引が延期されたりするケースが増えた。例えばインドネシアとエジプトはSu35戦闘機を購入する計画だったが、これを取り消した。インドは海軍艦艇に搭載するガスタービン部品の需給問題で契約を取り消した。輸出による収益が減り、企業は内需用低価格契約で生じる損失を埋めるのが難しくなった。ディフェンスブログは危機が単なる一時的な障害でなく、ソ連崩壊後の最悪レベルの構造的危機と分析した」


    武器輸出は、ウクライナ侵攻前に米国と1位2位を競うほどの実績を持っていた。それが、納品遅延ですっかり信用を失いキャンセルされている。いったん失った市場は、簡単に取り戻せないのだ。

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    中国経済の生産性に赤信号

    過剰生産が経済の命取りへ

    ソ連崩壊時と酷似する状況

    価格急落が最大の危機告知

     

    中国は、10月20〜23日に党の重要会議である「4中全会」を開催。第15次5カ年計画(2026〜30年)を討議する。これまで、14次にわたり5カ年計画を立ててきた。70年にも及ぶ、超長期の経済計画の「続編」を検討するのだ。

     

    経済計画は、政府が資源配分を決める統制経済である。これをテコに、中国は右肩上がりの経済成長を続けてきた。資本主義経済に随伴する、景気循環とは無縁の成長一辺倒の経済である。一見、効率的経済にみえるであろうが、現実は全くの逆である。

     

    資本主義経済は、景気循環の下降局面において一時的な過剰在庫を整理し、新たな技術開発をテコに成長経路を模索するものだ。この結果、過剰在庫は整理され「身軽な状態」で新たな経済発展経路を歩んできた。計画経済は、竹にあるような「節」がない「のっぺらぼう」状態である。これが実は、大きな問題を孕んでいる。過剰生産=過剰在庫という「慢性疾患」である。

     

    中国経済は、70年間にわたり自動的景気循環を経験せず、補助金に支えられた「供給力先行」経済路線を歩み、膨大な無駄な投資を行ってきた。実態は、温室経済である。これにより、投資を増やしてもさほど利益を生まない経済をつくり上げた。2021~25年の中国経済は、資本投入量が約34%増である。だが、技術進歩率(全要素生産性)は、「ほぼゼロからマイナス」状態へ落込んでいる。債務の増加によって経済を拡張させる、最悪事態へ落込んでいるのだ。詳細なデータは、後で示したい。

     

    習近平国家主席は、新三種の神器として「EV・電池・太陽光パネル」を増産させた。だが、過剰投資=過剰生産=価格暴落によって惨憺たる結果に終った。習氏は、次なる産業として「AI・半導体」などに焦点を合わせている。これも、過剰生産によって価格暴落の道を歩むであろう。経済成長に余り寄与しない「お祭り騒ぎ」に終るであろう。根本原因は、政府補助金が過剰生産を生むからだ。これが、計画経済にまつわる最大の欠陥である。ソ連経済は、こういう悪弊によって自滅した。中国経済も、この方向へ進んでいる。

     

    中国経済の生産性に赤信号

    中国経済は、前述の通り2021~25年の技術進歩率(全要素生産性)が、ほぼゼロからマイナス状態と推計されている。原因は、補助金による過剰生産によるものだ。今少し説明すると、「過剰生産在庫増加資本効率低下全要素生産性悪化」という過程である。量的成長を急いで補助金を支給しても、その結果は全く逆になっている。「くたびれ儲けの銭失い」という最悪事態である。これが、計画経済にまつわる最大の欠陥だ。

     

    不吉な点は、ソ連経済崩壊末期においても同様の状況が起こっていた点である。1980~89年の技術進歩率(全要素生産性)が、「マイナス0.3%」であった。

     

    中国経済が、すでに価格下落の恒常化によって技術進歩率がマイナスに落込んでいる。これは、ソ連経済崩壊末期の状況と似通っているもので、背筋が凍るほどの不気味さである。中国経済が、危険水域へ入っているシグナルを発しているからだ。

     

    「難破船から最初に逃げ出すのはネズミ」という寓話がある。身近な者が、危険を察知して一番早く逃げ出すという意味である。最近、中国政府高官の親族が地下銀行を通じる違法送金で、東京のマンションを購入しているという報道があった。英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』(9月6日付)は、次のように報じた。

     

    「中国人向けに賃貸物件や売買物件を扱う不動産仲介会社に務めているグオさんは、『私どもの扱う物件を購入してくださる多くのお客様は中国政府の高官の親族なので』と語った」

     

    中国政府高官の親族が、違法な地下銀行経由により東京でマンションを購入している理由は、中国経済の危機を身近に感じている結果であろう。これは、単なる富裕層の資産逃避ではない。高官親族の行動は、習近平体制への危機感の表れである。 体制の中枢にいる人物の親族が、国外に資産を移すのは体制の持続可能性に対する深刻な懸念を示しているのだ。これは、ソ連末期にも見られた現象である。エリート層が、先に逃げ道を確保することは、制度崩壊の予兆となることが多いのである。

     

    世間的に言えば、一国経済の盛衰はGDP成長率で評価されている。それは、表面的な現象である。経済は、成長率が高い低いという問題でなく、効率的であるかどうかが、最も問われるものだ。その尺度が、技術進歩率(全要素生産性)である。中国の経済計画では、経済を動かす「心臓部」への関心が全くない。過剰投資=過剰生産によって、世界市場のシェアを高めることで国威を発揚する単純な考え方である。その結果、価格暴落が起っても大して関心を持たないという、致命的な欠陥である「物量主義」に囚われている。

     

    価格暴落は、せっかくつくり上げた生産性を未実現のままに「捨てる」愚かな行為でもある。習氏は、「価格は安いほど良い」という考え方の持ち主である。だが、生産性は投入コストと適正利潤が回収できて初めて実現する。これによって、経済の再生産過程が支障なく進むのである。この基本的な部分が、理解されていないのだ。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526


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    ロシアは、戦争負担と西側の経済制裁によって、縮小に向っている貯留層からの石油採取がさらに困難になっている。一部の予測では、2020年代末には産油量が少なくとも約1割減少する見通しで、ロシア経済とその基盤となるオイルマネーが危機に直面している。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月1日付)は、「図解:ロシア産石油の緩やかな『終焉』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ウクライナで戦争を始めて以降、ロシア政府は新たな油田に向けた探鉱よりも既存油田の継続に軸足を置くことで、石油の生産・輸出を比較的安定した状態に保ってきた。だが長期的な見通しは厳しい。ロシアの歳入のうちエネルギー分野の利益が最大3分の1を占めており、石油生産が減速すればこの割合は低下する見込みが高い。開戦前でさえ、ロシアの主に西シベリアとボルガ・ウラル地域にある旧ソ連時代の油田の多くは底を突きかけており、石油会社はより回収が困難な北極圏やシベリアの油田での原油採取に頼らざるを得なくなっていた」

     

    ロシアは、歳入のうちエネルギー分野の利益が最大3分の1を占めている。この頼みの綱である原油生産に赤信号がともった。現在、旧ソ連時代の油田の多くは底を突きかけており、石油会社はより回収が困難な北極圏やシベリアの油田へ依存するほかない。

     

    (2)「状況を改善するため、ロシアの石油メジャーは、米テキサス州やノースダコタ州で開発されたフラッキング(水圧破砕法)技術を利用してシベリアのシェール層を開発する予定だったが、戦争がその計画に立ちはだかった。経済制裁によって必要な抽出技術へのアクセスが禁止された。アナリストは石油産業が既に何年分も後退したとみている。ロシア専門家、マシュー・セイガーズ氏は、「地下からの石油採取はいっそう困難かつ高コストになっている。だが資源基盤の悪化を考えると、現状維持だけのために毎年走るスピードを上げなければならない」と、S&Pグローバル・コモディティー・インサイトでこう述べた。「基本的にこれはロシア産石油との長い、緩やかなお別れだ」と指摘」

     

    米国技術のフラッキングを利用して、シベリアのシェール層の開発予定もウクライナ侵攻で不可能になった。地下からの石油採取は、いっそう困難かつ高コストになっている。

     

    (3)「ロシアのエネルギー省によると、同国の石油埋蔵量のうち回収困難とされるものの割合は、現在の59%から2030年には80%に上昇する。エネルギー次官を務めるパベル・ソロキン氏は、「つまり、石油を地中から取り出すための資本コストも運営コストも増えるということだ」と、昨年の会議で指摘した。コンサルティング会社ライスタッド・エナジーの上流調査担当バイスプレジデント、ダリア・メルニク氏は、「ロシアの巨大な在来型油田(訳注:非在来型はシェールオイルなど)の黄金時代は過ぎ去った」と指摘」

     

    ロシアは、石油埋蔵量のうち回収困難とされるものの割合が、現在の59%から2030年には80%に上昇する。原油回収の資本コストや運営コストが増える。

     

    (4)「ロシアの最も石油埋蔵量が豊富な貯留層は西シベリアとボルガ・ウラル地域に集中しており、以前から同国の原油生産の大半を占めている。だがこうした地域でも石油は急速に枯渇している。ロシアは北極圏の広大な油層に期待をかけるが、極限の気候と難しい地質構造のため、採掘には費用も時間もかかる。また経済制裁がシベリア油田の新規開発を妨げている。石油埋蔵量が縮小する中、コスト上昇と設備不足により、実用的な代替油田を探せる場所も少なくなっている」

     

    ロシアが、原油生産で最も依存する西シベリアとボルガ・ウラル地域は急速に枯渇している。石油埋蔵量が縮小する中、コスト上昇と設備不足により、実用的な代替油田を探せる場所も少なくなっている。

     

    (5)「採掘場所を開発し、原油の抽出と輸送を行うには、多岐にわたる高度に専門化された設備が必要になるが、経済制裁のためロシアではその多くが不足している。ロシアには、岩盤や油井からのデータを分析し、石油がどこにどれだけ存在するかや、抽出方法を見極めるための最新ソフトウエアがない。たとえロシアの石油会社がそうしたコンピュータープログラムを持っていたとしても、2022年以降はアップデートを禁止されており、使用不能になっているものが多いとアナリストらは指摘する」

     

    ロシアには、岩盤や油井からのデータを分析し、石油がどこにどれだけ存在するか、抽出方法を見極めるための最新ソフトウエアがないのだ。ウクライナ侵攻でソフトの使用が禁止されている。

     

    (6)「ロシアの原油埋蔵量が減るのに伴い、1バレル当たりの採掘コストは上昇する。貯留層に残ったものが重質化し、地下からのくみ上げが難しくなるからだ。だがそれは地質学上の問題に過ぎない。ウクライナとの戦争が各種コストを悪化させている。西側の経済制裁で、大抵は第三国を経由する設備の調達コストが上昇。一方、労働力不足のため、例えば石油労働者の賃金が押し上げられ、またフラッキングで作られた坑井から石油やガスが流出し続けるよう、シェール層の亀裂を維持するために注入する砂などの固体材料も価格が上昇している。「全ての費用が以前より高くなっている」と前出のセイガーズ氏は述べた。「国内のこうした圧力が影響し、ロシアが産油量を増やすことはたとえ短期的にでも非常に困難だ」と指摘」

     

    ロシアの原油埋蔵量が減るのに伴い、1バレル当たりの採掘コストは上昇する一方だ。労働力不足のため、石油労働者の賃金が押し上げられている。ロシアが、産油量を増やすことは短期的にでも非常に困難な状況に向っている。

     

     

     

     

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