勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    米国は昨年6月、制裁によりロシアの半導体輸入は90%減少したと発表した。だが、米業界団体は今年1月、米国製半導体の「不正取得や偽造を防止するための広範な課題」について警鐘を鳴らした。ロシアへ半導体が流れているという指摘である。一方、貿易を抑制しようとする米国の取り組みにいら立つロシアは、技術水準が低めの調達しやすい民生用部品の取得に軸足を移していると、「不正入手」を否定している。

     

    『ブルームバーグ』(3月20日付)は、「戦争の行方左右、ロシアに半導体流出かー米ハイテク規制強化でも」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「英王立防衛安全保障研究所(RUSI)が分析し、ブルームバーグが確認した通関データも、アナログ・デバイセズやテキサス・インスツルメンツ(TI)、マイクロチップ・テクノロジーなど大企業が生産した半導体が侵攻開始から数カ月にわたって第三国の企業を通じてロシアの手に渡っていたことを示している。3社は法を順守しており、ロシアには販売せず、同国での自社製品の販売を許可していないとしている。ワシントンの法律事務所ワイリー・レインのパートナー兼国家安全保障関連訴訟手続き責任者で、米商務省の高官を務めた経験を持つナザク・ニカクタル氏は、「わが国の機密技術の多くが悪者の手に渡っていると想定すべきだ。第三者の仲介者という問題はかなり容易で重要な抜け道だ」との見方を示した」

     

    米国の大手半導体製品が、生産3ヶ月後にはロシアの手に入っているという。第三者の仲介者が、ロシアへ半導体を持込んでいると見られる。

     

    (2)「半導体は戦争の行方にとってますます重要になりつつある。ロシアは半導体を入手するための取り組みを強化しており、ここからロシアの在庫が不十分で、政府の対策では供給不足が解消されそうにないことが読み取れると、ロンドンに拠点を置く国際戦略研究所(IISS)のマリア・シャギナ氏は指摘した。同氏は制裁のエキスパートだ。ウクライナ政府は、クアルコムやブロードコムなどのハイテク大手に対し、ロシアの衛星測位システム「GLONASS(グロナス)」を支えているとされる半導体の製造を停止するよう公然と要求している」

     

    ウクライナ政府は、米国大手半導体に対して、製造そのものの中止を要求するほどだ。こういう根本対策を取らない限り、ロシアへ渡るのを阻止できないのであろう。

     

    (3)「アナログ・デバイセズは発表資料で、制裁発動後のロシアとウクライナのロシア占領地域、ベラルーシへの同社製品出荷は、「不当な転売・転用の結果」であり、同社の方針に直接的に反するものだと説明。グレーな市場活動の監視を強化していると明らかにした。マイクロチップも制裁対象地域への販売は行っておらず、顧客の選別に努めていると資料で発表。TIは同社の「製品が意図しない用途に使用されることを支持も容認もしない」と資料で表明し、ロシアやベラルーシには販売していないと付け加えた」

     

    制裁発動後に、ロシアとベラルーシなどへ禁輸対象の半導体が渡っているのは、「不当な転売・転用の結果」という。こうなると、転売ルートの探索探しになる。

     

    (4)「元米財務省高官で対ロシア制裁策に携わり、現在は法律事務所ギブソン・ダンに勤めるアダム・スミス氏によれば、米国の圧力が強まる中、ロシアは常に新たな抜け穴を探している。RUSIの分析によると、最近の通関データで示されるロシアが入手した米国製半導体のほぼ全てが、中国企業によって購入され、最終的にロシアの無人機「オルラン10」の製造元に届いている。事情に詳しい複数の関係者によれば、バイデン政権当局者は中国やアラブ首長国連邦(UAE)などの他国を通じたロシアの半導体調達について懸念を強めている」

     

    RUSIの分析によると、ロシアが入手した米国製半導体のほぼ全てが、中国企業によって購入され、最終的にロシアの無人機「オルラン10」の製造元に届いているという。

     

    (5)「EUや米国とは異なり、中国とUAEは対ロシア制裁を実施していない。あるUAE当局者はブルームバーグへの資料で、「UAEは米国を含む外国のパートナーと結んだ合意に加え、国際法と国連が定める制裁を順守し、厳格に執行している」とし、不正な資金の流れを監視するシステムを導入しており、機密技術を含む製品を監視する高度な税関システムを備えていると説明した」

     

    中国とUAEは、対ロシア制裁を実施していない。これが、米国大手半導体製品のロシア入手ルートになっている可能性がある。

     

    (6)「中国外務省は、半導体の問題を巡る詳細を把握していないとコメント。中国のロシアとの関係について、米国は虚偽の情報を度々流してきたとも主張した。米国とEUの当局者は、ロシアがイランやトルコ、UAE、カザフスタンなどの第三国を経由して外国の半導体や技術を引き続き調達していると認識している」

     

    米国とEUは、ロシアがイラン、トルコ、UAE、カザフスタンなどの第三国を経由し、外国の半導体や技術を引き続き調達していると認識している。となると、米国とEUは、次なる対策を打つのか注目される。

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    ロシアのウクライナ侵攻が1年経った。和平への動きはあるのか。ロシア軍は、さらに大軍を戦線へ投入する構えだ。ウクライナ軍は、西側諸国から戦車の供与を受けて奪回作戦への準備中である。こうした中で、英独仏が和平への動きを見せている。 

    終戦は、戦場で決まるとされる。ロシア軍が継戦しても「無駄」という認識を持つには、どうすべきかが焦点だ。その具体策が、NATO(北大西洋条約機構)とウクライナとの防衛協力協定である。ロシアは、ウクライナ側に実質的なNATOという大きな壁を認めれば、戦いの矛を収めるであろうという狙いである。
     

    米国のデビッド・ペトレイアス退役陸軍大将は、終戦の条件として次の点を上げている。『CNN』(2月21日付「米陸軍退役大将に聞く、ウクライナでの戦争はどのように終結するか」 

    「交渉による解決で終わると思う。それはプーチン氏がこの戦争について、戦場においてもロシア国内においても持続不可能だと悟る時だ。ロシアが1年目の戦闘で被った損害は、ソ連時代の約10年間、アフガニスタンで被った水準の何倍にも達する公算が大きい。国内では各種制裁と輸出規制の悪影響が重くのしかかる。一方でそれは、ウクライナがミサイルとドローン攻撃に耐え得る限界に達する時でもある。その際、米国と主要7カ国(G7)はかつてのマーシャルプランのような計画を策定して、ウクライナの復興を支援する。安全保障上の枠組みも鉄壁のものとなる(NATOへの加盟か、それが不可能なら米国主導の同盟がそれを保証する)。安全保障の確約は、復興の取り組みを成功させ、外部からの投資を引き付ける上で極めて重要になるだろう」 

    下線部の指摘は、NATOなどによってウクライナの安全保障を恒久的に行なうことが、ウクライナを納得させる、としている。この構想が、現実に動き始めているのだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月25日付)は、「ウクライナ・NATO防衛協定構想 独仏英が提案」と題する記事を掲載した。 

    独仏英3カ国は、ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)との関係強化に向けた協定締結を模索している。ロシアがウクライナの一部領土を占拠し続ける中でも、和平協議に着手するようウクライナを促す狙いがある。独仏英の当局者が明らかにした。 

    (1)「英国のリシ・スナク首相は先週、ウクライナが戦争終結後、国防目的で最新鋭の軍事機器、兵器、砲弾をより幅広く入手できるような協定を交わす計画を示した。その上で、この提案を7月のNATO年次会合の議題にするよう呼びかけた。フランスとドイツもこの構想を支持している。3カ国は、ウクライナの自信を高め、ロシアとの和平協議を促すとみている。ただ、これら当局者は和平協議の開始時期・場所、条件は完全にウクライナ次第だと述べた。スナク氏は24日、西側諸国は戦場でウクライナを「決定的に有利」にする戦闘機などの兵器を提供する必要があると語った」 

    英独仏の3ヶ国が、ウクライナとロシアの和平準備に取りかかるろうとしている。その前に、戦場でウクライナ軍が徹底的に有利になることを前提にしている。戦争終結後、NATOはウクライナへ国防目的で最新鋭の武器で供与する協定を結び安全を保障する。これが、和平案である。

     

    (2)「この3カ国の当局者によれば、こうした表向きの発言とは裏腹に、2014年以降ロシアの支配下に置かれているクリミアとウクライナ東部からロシア軍を駆逐できるかとの疑念が英仏独の政治家の間でひそかに強まっている。特に紛争が膠着状態に陥った場合は、ウクライナへの軍事支援をいつまでも継続できないとの見方がある。あるフランス当局者は「われわれはロシアを勝たせてはならないと繰り返しているが、それはどういう意味だろうか。これほど激しい戦争が長く続けば、ウクライナも損害に耐えがたくなる」とし、「クリミアを奪還できると考えている人は皆無だ」と話した」 

    英独仏は、ウクライナによるクリミア半島奪回を困難視している。クリミア半島奪回まで戦えば、戦争が長引くからだ。

     

    (3)「こうした論調は、ロシアの侵略に対する結束を呼びかけたジョー・バイデン米大統領をはじめとする今週の西側首脳の公式発言とは著しい対照をなす。ウクライナが近くロシアと協議を開始するという見込みに触れた西側の首脳はいなかった。米当局者はNATOの安保協定についてのコメントを避けた。米政府は、ロシアによる将来の攻撃を十分抑止できるよう、ウクライナが戦争終結後に防衛力を強化することが望ましいとの考えを示してきた。ドイツ政府はコメントを拒否した。英仏政府の報道官は現時点でコメントの要請に応じていない」 

    米国は、侵略者に利益を与えてはならぬという立場である。英独仏とは、この点で、食い違がっている。

     

    (4)「複数の関係者によると、エマニュエル・マクロン仏大統領とオラフ・ショルツ独首相は今月、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談で、ロシアとの和平協議の検討を促した。マクロン氏はパリの大統領官邸(エリゼ宮)での夕食会で、フランスとドイツのような旧敵同士でさえも戦後は和解したと、ゼレンスキー氏に冷静なメッセージを伝えた。また、ゼレンスキー氏は戦時下の優れた指導者だが、ゆくゆくは政治家として難しい判断をする必要があると伝えた 

    下線部は、意味深長である。ウクライナが、どの時点で戦いを終わらせるか、という政治判断を強調している。 

    (5)「ある英当局者の話では、NATOとの協定のもう一つの狙いは、ロシア政府の想定を変えることだ。ウクライナへの軍事支援を長期的に強化する用意が西側にあると見れば、ロシアも自国の軍事目標の達成は難しいとの結論に至るとの読みがある」 

    NATOが、ウクライナと防衛協力協定を結べば、ロシアも長期の戦いの無益を悟るであろうとしている。ただ、ロシアはこれをどう捉えるかだ。

     

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    主要7カ国(G7)が、昨年12月にロシア産原油の輸入価格に1バレル=60ドルの上限制度を設けた。この結果、ロシアはこの1月の石油輸出収入が、前年比で40%も減少する事態になった。この大幅減収分が、原油輸入国などの「反射利益」となって転がり込んでいる計算になる。最大の受益者は、中国・インドのほかに海運会社という。

     

    『ロイター』(2月10日付)は、「制裁でロシア石油収入減少、『反射的利益』流れ込む先は」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはウクライナ侵攻を巡る欧米からの経済制裁により、政府の石油収入が大きく目減りした。この何百億ドルという金額を思わぬ形で流入しているのが海運、製油という2つの業界だ。だが、その中にはロシア系企業の影もちらつき、制裁効果を実質的に弱めている面は否定できない。

     

    主要7カ国(G7)が昨年12月にロシア産原油の輸入価格に上限制度を設けたことを受け、ロシア財務省が発表した1月の石油輸出収入は前年比で40%減少した。

     

    (1)「カーネギー国際平和財団の非常勤研究員、セルゲイ・バクレンコ氏は「公定価格が低くなったことでロシアの国家予算はここ数週間、苦境に置かれている」と話す。一方、通関統計に基づくと、こうした状況がもたらすメリットの一部はインドと中国の製油業者に波及しているが、最大の利得者は海運業者と仲介業者、そしてロシア企業であるはずだと付け加えた。バクレンコ氏はロシア石油会社・ガスプロムネフチの元戦略責任者で、ウクライナの戦争が始まった後に退職し、ロシアからも出国している」

     

    ロシア産原油価格には、G7によって1バレル=60ドルという上限が設けられた。ロシアは、これによって輸出価格を引下げざるを得なくなっている。この値引き分が、中国・インドのほかに輸送する海運業者などに流れている。

     

    (2)「欧米の対ロシア制裁は、恐らく一国への措置としては最も厳しい。米国とEUがロシア産エネルギーの購入を全面的に禁止するとともに、輸出価格が1バレル=60ドル以下でない限り、世界のどこにもロシア産原油を船で出荷してはいけないと定められた。これに伴ってロシアは、原油と石油製品のほとんどの輸出先をアジアに切り替え、インドや中国の買い手に対して、競合する中東産などよりも大幅に価格を引き下げている。また、船舶輸送や輸出価格の制限で買い手が取引に慎重になっている上に、自前の船団で全ての輸送を賄えないロシアとしては、多額の輸送費も負担せざるを得ない状況だ」

     

    ロシアは、窮地に立たされている。自国産原油の売り先は、アジアに限られており、輸送費まで負担する状況に追込まれているのだ。

     

    (3)「1月終盤時点で、ロシアの石油企業がインドと中国の買い手に提示した原油の値引き幅は、1バレル当たり15~20ドルだった。取引に関わった少なくとも10人のトレーダーやロイターが確認したインボイスから判明している。それだけでなくロシア側は、自国から中国ないしインドまで原油を輸送する費用として、1バレル当たり15~20ドルを支払った。結果としてロシアの石油企業が1月に国内の港で受け取ったウラル原油の代金は、1バレル=49.48ドルと前年から42%も減少。北海ブレント価格の6割程度にとどまった、とロシア財務省が明らかにした」

     

    ロシアは、原油価格を1バレル当たり15~20ドル値引きし、さらに輸送費用として、1バレル当たり15~20ドルを支払っている。こうして、ロシアの手取りは、1バレル=49.48ドルと前年から42%もの落込みだ。ロシア財政には、大きな痛手だ。

     

    (4)「ロシアの2022年の原油生産量は、日量1070万バレルで、原油と石油製品の輸出量が700万バレル。これに値引きや追加費用を加えて計算すると、今年の同国石油会社の収入は数百億ドル単位で減少することになる。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は5日、価格上限制のためにロシアの石油収入は1月だけで80億ドル減ったと述べた。ところが、こうした減収分のある程度がロシア企業に流れているので、同国の生産者や政府に本当はどの程度痛手だったのか、正確に数値化するのは難しい」

     

    ロシアは、今年の原油収入が数百ドル単位で減少するという。IEAによると、1月だけで80億ドルの減収に落込んだ。年に換算すると960億ドルの減収になる。これは、大変な事態だ。ロシアは、3月から5%の減産を発表している。狙いは、国際市況を押上げることであろうが、ロシア産原油価格には60ドルの上限制が引かれている。となると、中国やインドへ値上げ圧力を掛ける目的か。

     

    (5)「ロシアによる大幅な値引きで、インドと中国の製油業者も大助かりだ。インドのロシア産原油輸入は、ここ数週間で日量125万バレル超と過去最高を更新。販売価格が1バレル当たり15ドル前後安くなっているため、インドは購入代金を月間で5億ドル以上も節約できている。ボルテクサ・アナリティクスの中国アナリスト、エマ・リー氏は、昨年4月から今年1月までの中国のロシア産原油輸入が日量180万バレル強になったと話す」

     

    インドは、購入価格が1バレル当たり15ドル前後安くなっているので、最近は日量125万バレル超と過去最高を更新するほど。中国も、昨年4月から今年1月まで、日量180万バレル強の輸入になっている。この両国は、ロシア産原油価格の値下がりでメリットを享受している格好だ。

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    ウクライナのレズニコフ国防相は2月5日、2月後半にロシアの新たな大攻勢が予想されるとして、ウクライナ側は備えを固めていると記者会見で話した。以下は、英国『BBC』(2月6日付)が伝えた。

     

    「レズニコフ国防相は記者会見で、ロシアの攻勢開始までに、西側諸国が提供を約束した武器のすべてが届くわけではないものの、ロシア軍を抑えられるだけの備蓄はウクライナ側にあると話した。ロシアは、大攻勢開始に必要な軍備をすべて用意できているわけではないものの、開戦1周年となる2月24日を念頭に、象徴的な意味も込めて大攻勢に臨むかもしれないとの見方を、レズニコフ氏は示した」

     
    ウクライナ国防相は、「ロシアは、大攻勢開始に必要な軍備をすべて用意できているわけではない」と足元を見透かした発言をしたが、英国防省はこれを裏づける見解を表明した。
     

    『日本経済新聞 電子版』(2月8日付)は、「『ロシア軍、大規模攻撃へ戦力不足』英国防省など指摘」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが2月中にも大規模な攻撃を始めるとの警戒が広がる中、英国防省は7日「(ロシア軍には)攻撃のための弾薬と機動部隊が不足している」との分析を発表した。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)やロシアの強硬派の間でも作戦を疑問視する声が出ている。

     

    (1)「ウクライナや欧米諸国の間では、侵攻開始から丸1年となる2月24日の前後に、ロシア軍が大規模な攻撃を仕掛けるとの見方が多い。ウクライナ国防省は、ロシアのプーチン大統領が3月末までにドネツク、ルガンスクの東部2州の全域を占領するよう命令したと分析している。ただ、こうした目標の早期達成は「非現実的」だとの見方が少なくない。英国防省は7日にSNS(交流サイト)のツイッターで発表した戦況分析で、ロシア軍の戦力不足に言及し、「今後数週間以内に戦争の動向に実質的な影響を与える戦力を整えられる可能性は低いままだ」と指摘した」

     

    ロシアは、2月24日の開戦1年を期して大攻勢を掛けるという噂が飛んでいる。動員兵の約20万人が訓練を終わって、前線へ投入されるだろう、というのが根拠になっている。だが、英国防省は下線のように、この大攻勢説に否定的である。ロシア軍の戦力不足が深刻だとしている。

     

    (2)「米国の戦争研究所も7日に公表した戦況分析で、「ロシアの指導部はロシア軍の戦力について誤った想定に基づいて決定的な攻撃を再び計画している可能性がある」と改めて否定的に評価し、同日の英国防省の戦況分析におおむね同意した。ロシアの強硬派で2014年の東部紛争で親ロシア武装勢力を組織したとされるイーゴリ・ストレルコフ氏は5日までに、大規模な攻勢について「成功は疑わしい」とネット上で指摘した。「新たな動員なしにウクライナ軍を粉砕することはできない」として、ロシア軍幹部に作戦の見直しを促した」

     

    米国の戦争研究所も、英国防省と同一の見解である。ロシアの強硬派も同じ立場としている。2~3月は、雪解けで戦車を思うように動かせない特殊事情がある。ロシアが、昨年の開戦時に大敗したのは、雪解けが障害になったのだ。同じ失敗を繰返さないであろう。

     

    (3)「ロシア軍は想定される大規模な攻撃を前に、ドネツク州の交通の要衝バフムトの攻防で多大な兵力損失を被り、なお制圧できていない。ウクライナ軍の東部の本拠地はドネツク州北部のクラマトルスクやスラビャンスクにあり、防御態勢を固めている同国軍を攻略するのは容易ではない。一方、ウクライナ軍はロシア軍の大規模な攻撃を耐え、戦地が泥沼化する春を待つ戦略だ。欧米による戦車供与など強力な軍事支援を受けて反転攻勢に出る方針で、ゼレンスキー大統領は7日夜のビデオメッセージで「敵のすべてのシナリオに対応し、国家を守る」と訴えた」

     

    ウクライナ軍は7日、ロシア軍の死者数が過去24時間で1030人に上ったと発表した。侵攻開始後で最多となり、この2日間の死者数は1900人になったとしている。ウクライナや西側諸国によると、ロシアは侵攻開始から丸1年となる24日までに新たな戦果を上げるため、東部に軍や傭兵を投入しているという。『ロイター』(2月8日付)が伝えた。

     

    ロシア軍の攻撃は、人海戦術になっている。ウクライナ軍の弾薬を使い果たせるために、「人間の盾」としてロシア兵を前線に立たせているというもの。この状況では、大攻勢を掛ける戦術そのものに疑問符がつくのであろう。

     

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    2月24日で、ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年になる。ロシアは、これをきっかけに大攻勢を掛けるとの見方が流されている。ただ、雪解けシーズンであり、ロシアは昨年この時期に大苦戦を強いられた苦い経験がある。同じ過ちを重ねるとも考えられない。

     

    こうした「風評」とは異なり、米CIA長官バーンズ氏は「今後数ヶ月が決定的に重要な時期」を迎えると発言した。米国は、これに備えウクライナへ新鋭戦車の供与や戦闘機、長距離砲という本格的な武器によって、ロシアとの対決を制す構えを見せ始めている。ロシアの手に乗って侵攻を長引かせないという方針へ切り変えたのであろう。

     

    『CNN』(2月3日付)は、「米CIA長官、今後6カ月が『決定的』 ウクライナ侵攻の結果を左右と発言」と題する記事を掲載した。

     

    米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は2日、今後6カ月がウクライナでの戦争の最終結果を左右する「間違いなく決定的な」ものになると発言した。

     

    (1)「バーンズ氏は米ジョージタウン大学での演説で、米側はロシアのプーチン大統領が「交渉に真剣に向き合っているとは評価していない」と述べ、「戦場での今後6カ月が重要になる」との見方を示した。そうした期間に「プーチン氏の思い上がりに風穴を開けること、ウクライナをさらに進攻できないだけでなく、ひと月ごとに不法に掌握した土地を失うリスクが高まることを明確にすること」などが重要だと言及した」

     

    米国は、ウクライナに本格的は領土奪回作戦を展開させる決意を固めたように受け取れる。時間がかかりながらも、ウクライナ側の要求する武器を次第に供与していることからも、それが窺える。戦車に続いてF16戦闘機の供与も現実味を帯びてきた。

     

    米国は、ウクライナ侵攻を長引かせると、中国の台湾侵攻と重なり「ダブル侵攻」という最悪事態を迎え兼ねないのだ。下手をすると「第三次世界大戦」へ発展しかねないだけに、ウクライナは早めに解決する必要性が出てきたのであろう。

     

    (2)「バーンズ氏は、プーチン氏が「時間を自分に有利に働かせることができると賭けている」と指摘。政治的な疲れが欧州を覆い、米国の注意もそがれる中で、ウクライナを「摩滅させる」ことができると信じているとの見方を示した。バーンズ氏はまた、ロシアのナルイシキン対外情報局長官と昨年11月に会談した際、ロシアの計算には2月の侵攻当初の決断の時と同じくらい「深刻な欠陥がある」と伝えたとも語った」

     

    プーチン氏は、ウクライナ侵攻と台湾侵攻が重なれば、米国の注意もそがれる、ウクライナを占領できるという戦術を練っているのであろう。そうでなければ、次々と徴兵を拡大させる構えを取らないであろう。ウクライナ侵攻を長引かせることが、プーチン氏の最大の戦略になっていると見られる。

     

    『CNN』(2月3日付)は、「米、射程距離がより長いミサイル供与の見通し 2800億円規模の新支援で」と題する記事を掲載した。

     

    米国が新たに行う22億ドル(約2800億円)規模のウクライナ向け安全保障支援の中に、射程距離がこれまでより長いミサイルが含まれる見通しであることがわかった。米政権高官や複数の米当局者が明らかにした。

     

    (3)「支援パッケージには誘導ミサイル「地上発射型小直径爆弾(GLSDB)」が含まれる予定。ボーイングとこれを共同開発したサーブによると、このミサイルは高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」から発射され、射程は約90マイル(約145キロ)に及ぶ。ウクライナ軍が現在ハイマースに使う弾薬「GMLRS」の射程の約2倍となる。GLSDBは発射後に小さな翼を広げ、ロケットエンジンで目標に向けて飛行する。ただ、ウクライナが要請していた射程200マイル(約320キロ)超のミサイル「ATACMS」は支援に入らない。米国はロシア国内の奥深い標的に同ミサイルが使われる恐れがあるとの懸念を示している」

     

    下線のように、「ハイマース」を使って射程145キロの弾薬「GMLRS」が、ウクライナへ供与される。現在の射程は78キロであるから、ほぼ倍に伸びる。ロシア軍は、すでに78キロ射程を避けて、それ以上に距離を下げて兵站基地をおいている。「GMLRS」が前線に配備されると、ロシアの兵站線はさらに後退する。それだけ、補給に時間がかかる。

     

    (4)「今回のパッケージは、1月に米軍の主力戦車「M1エイブラムス」の供与を発表した支援後初の支援となる。早ければ3日に発表され、5億ドル分は米軍の備蓄から直接供与、残り17億ドル分は軍事企業との購入契約に基づき供給されることとなる。当局者によれば、今回のパッケージには大砲やハイマースの弾薬、補助システム、地対空ミサイル「パトリオット」向けの部品も含まれる」

    米国はロシアを刺激したくない、つまり、核使用という最悪事態を避けながら、ウクライナへ武器を供与するという姿勢を取っている。今回の供与プランでも実戦に配備されるまでには時間がかかる。米国は、まだ本格的な武器増産体制へ移っていない。備蓄している兵器を取り崩している形だ。仮に、中国が2025年へと台湾侵攻を繰り上げた場合、米国の武器弾薬の備蓄はないのが実情だ。対艦ミサイルの備蓄は、戦争1週間分とされている。お寒い限りである。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-02-02

    メルマガ434号 中ロ枢軸、「ウクライナ・台湾」同時侵攻の危険性 第三次世界大戦を防げるか

     

     




     

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