勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    中国は、ロシアのウクライナ侵攻を影で支援している。価値観に基づく同盟的な結束力に基づくものではない。中国にとって、米国と対抗する上でパートナーとしてのロシアが必要という次元の話だ。中国は、ロシアから安い価格で石油や天然ガスを輸入できるメリットを享受している。ただ、ウクライナ侵攻によって、中国は米欧との関係が決定的に悪化するマイナス要因もつくり出した。中国製品への高い関税障壁が張り巡らされる事態を招いている。中国にとって、対ロシア関係はプラスとマイナスが織り混ざっている。 

    『日本経済新聞』(11月21日付)は、「実利でつながる中ロの蜜月」と題するインタビュー記事を掲載した。モスクワ大付属IAAS所長 アレクセイ・マスロフ氏へのインタビューである。 

    中国はウクライナ戦争により、ロシアの原油と天然ガスを極めて安価に調達できるようになった。ロシアへの製品輸出でも独占的な地位を占めている。だが中国にとって対ロ接近のメリットは、米欧との関係悪化に伴うデメリットを相殺するほどではない。

     

    (1)「中国はここにきて、国内経済の停滞が続くようになった。一因は輸出の低迷で、背景にはウクライナ戦争がある。つまり中国が米国より、ロシア寄りの立場をとっていることが負の影響を与えている。中国から欧州に向かう物流回廊も戦争で壊されている。中国はなるべく早く、ウクライナでの軍事行動をやめさせたいと考えている。あらゆる戦闘行為が自国に経済的な打撃を与えるからだ。中国は間接的にせよ、ロシアにしかるべき政治的圧力をかけているはずだ。中国がより本気で、ウクライナの紛争を調停したいと意気込んでいるようにもみえる」 

    中国は、経済減速が目立っている。西側諸国が、対中貿易で厳しい姿勢に転じていることも大きな負担だ。米国次期大統領のトランプ氏が、どのような圧力を加えてくるかも分らない。こういう状況下で、中国はロシアにウクライナ侵攻を止めさせたいのが本心であろう。

     

    (2)「中国は元来、米国や他国との関係を損なってまでロシアに加担するつもりはなかった。ロシアの軍事行動を支持すれば、結果的に中国の利益を損ねるとみている。ロシアとの貿易決済を意図的に遅らせたり、中国が軍事転用可能とみなす設備や部品の対ロ輸出を難しくさせたりしているが、ロシアへのいら立ちを示しているのだろう。とはいえ、中国はロシアが戦争で負けることは望んでいない。中国にとってロシアは有望なパートナー国だ」 

    中国の経済関係の主体は、対西側諸国である。その関係を悪化させてまで、ロシアを支援するには限界がある。一方、ロシアが中国の有力パートナーだけに、敗北されると大きな影響をうける。中国が、国際社会で孤立するからだ。こういうジレンマを抱えている。 

    (3)「ロシアが負ければ、中国は国際社会で孤立し、単独で米国に対峙せざるを得ない。現時点で中国は、技術開発力で決して米国に勝てないと自覚している。そこで中国は対米で共闘してくれる強いロシアを欲している。中国がウクライナ戦争で、ロシア寄りの立場を完全にやめることはない」 

    中国は大言壮語しているが、自らつくり出した技術はゼロである。全て、米国発である。こういう米国と対決しても利益はないが、政治的に対抗してメンツを保ちたい。それには、相棒にロシアが必要という関係だ。

     



    (4)「中国は、米欧がロシアに科す経済制裁の出方も注視している。銀行口座や資産の凍結、国際銀行間通信協会(Swift)からの排除といった措置が将来、中国に科された場合の影響などを分析している。台湾有事や南シナ海での紛争などを想定しているのだろう。中国は米欧による経済制裁下で、ロシアがどのように対処し、行動しているかについても詳細にフォローしている。結局、中国は自己の目的、利益のために相当程度、ロシアを利用しているわけだ。中国は、ウクライナ戦争を道徳論や倫理ではなく、自国の利益になるかどうかという完全に実利的な基準でみている」 

    中国は、露骨なまでに「国益中心主義」である。利益のために、ロシアを利用しているだけである。ロシアとは長い国境線を接しているので、「火種」を消しておきたいのだ。 

    (5)「ロシアにとっては、中国が唯一の大国パートナーだ。これはロシアの選択ではなく、やむを得ない結果だ。ロシアは中国頼みの状況が安全でないことも十分に承知している。そこで他の国々とも関係を強めて新たなパートナーシップを築こうとしている。プーチン大統領は今年に入って、関係改善のためにベトナムやモンゴルを訪問したり、マレーシアやインドネシアとの対話を盛んにしたり、アフリカとの関係強化に重点を置き始めたりしている」 

    ロシアにとっての中国は、唯一の大国パートナーである。だが、100%の信頼感を持ってはいない。他国との関係強化を模索している。東南アジアへも接近している。北朝鮮もその一環であろう。

     

    (6)「米国を含めどの国も、中ロが過去の対立を乗り越え、ここまで急接近するとは予測しなかった。だが政治状況が変化していく中、今後10~15年の間に様々な対立、摩擦や紛争が起きる可能性は否定できない。ロシアの極東地方で中国が経済的な圧力を強めたり、旧ソ連の中央アジア地域で中ロ間の紛争が起きたりする恐れも排除できない。中ロの蜜月は未来永劫(えいごう)続くものではない」 

    中ロ関係は、一枚岩の状態でない。中国が、中央アジアへ支配権を及ぼしたり、ロシア極東地方で圧力を強めれば、中ロ関係は瓦解する。中ロの勢力関係が地政学的に重なり合っていることが、将来の紛争の種になりかねないのだ。

    テイカカズラ
       

    ロシア大統領プーチン氏は2022年、ウクライナで占領した「ロシアの土地」を奪回するいかなる試みに対しても、核攻撃による報復につながると警告した。さらに、「これははったりではない」とも語った。このロシアへ、ウクライナ軍が越境攻撃を敢行し、30キロを超えてロシア領を支配している。プーチン氏が、ウクライナ軍へ核投下という脅しを控えているのは、通常兵器の戦争に核攻撃が不可能という現実を見せつけている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月17日付)は、「ウクライナ越境攻撃、『核の脅し』利かず 抑止論に一石」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ軍が8月6日に始めたロシア西部クルスク州への越境攻撃は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身で情報工作にたけたプーチン大統領のお株を奪った格好になった。核大国に対する史上初の大規模侵攻は、ロシアの核の脅しの空疎さも印象づけた。今回の奇襲劇は各国の安全保障の論議にも影響を及ぼす。

     

    (1)「ウクライナ政府は14日、ロシア西部クルスク州の国境地帯をロシアの攻撃から自国を守るための「緩衝地帯」にすると発表した。ウクライナ軍は15日には占領地域の管理にあたる軍司令官事務所の設置を公表した。戦闘の長期化に備え、防衛陣地の建設も急いでいる。ウクライナ側は今回の作戦にあたり、徹底した情報統制をしいた。作戦に参加した兵員は日本経済新聞に「情報漏洩の防止のため、部隊の大半は直前まで越境攻撃することを知らされなかった」と明かした。ロシア側は同国との対立激化を恐れるバイデン政権がウクライナ軍の越境攻撃を容認しないとみていたようだ。このためクルスク州の防衛は徴集兵など練度の低い少数の兵力に任されていた」

     

    ロシアのプーチン氏は、ウクライナ軍の越境攻撃を防ぐことができなかった。ウクライナ軍が、完全は情報管理を行ったからだ。

     

    (2)「ウクライナの越境攻撃は、核大国ロシアとの全面対決につながる「レッドライン」を恐れ、ウクライナ支援を慎重に判断してきた西側諸国の姿勢にも一石を投じた。今回の攻撃では、西側が関与していると断定する一方、従来のような核の脅しを控えている。同州の戦闘を「対テロ作戦」と位置づけ、ウクライナの攻撃を軽視するかのような構えをみせる。政権の管理下にある国営メディアも、クルスク情勢について詳細な報道を控えている。インスブルック大のゲルハルト・マンゴット教授(国際関係学)は「情勢を見る限り、今回の攻撃の報復として核兵器が使用される可能性はない」と分析する」

     

    ロシアは、ウクライナ越境攻撃に対して核攻撃できない現実を見せつけた。通常兵器の攻撃に対して核による報復を行えば、ロシアの世界的地位をさらに引下げるからだ。

     

    (3)「プーチン氏は2022年、ウクライナで占領した「ロシアの土地」を奪回するいかなる試みも核攻撃による報復につながると警告してきた。だが、ロシアに米欧と軍事的に事を構える余力はなく、プーチン氏の脅しをブラフだとする見方も少なくなかった。今回の攻撃でこうした認識が広がることで「ロシアを追い詰めるべきでない」とする融和論が後退するのは間違いない。バイデン政権はなお、米供与の長距離ミサイルを使ったロシア領内への攻撃をウクライナに認めていない。ただ米議会でも今回の攻撃を評価する声が広がっており、解禁を求める意見も出始めている」

     

    西側は、これまでロシアが簡単に核で報復するという「仮定」を立ててきた。これが、プーチン氏の野望を膨らませる結果になった。この仮想は、今回のウクライナ軍の越境攻撃で崩れた。この成果は、今後の外交戦略に生かされるであろう。

     

    (4)「核の非保有国が、保有国の本土に侵攻した事例ができたことで、今後の核抑止の議論にも影響を及ぼす可能性がある。米国はかねて、ロシアにウクライナへの核使用を控えるよう強く警告してきた。核使用は自国への多大な経済・軍事的打撃を伴うため、実際に踏み切るのは容易ではない。1982年のフォークランド紛争でもアルゼンチンは英国領の島に侵攻したが、英国は核使用を控えた。欧州連合(EU)加盟国の高官は「今回の攻撃は、核の有効性を巡る幻想を問い直す機会になる」と語る」

     

    プーチン氏は、ウクライナ軍への核使用を控えている。それだけ、冷静になってきた証拠だ。彼も、弱気になっており「戦後」を考えなければならない段階に来ているのだ。

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    ウクライナのゼレンスキー大統領は、これまで一貫してロシア侵略への反撃きり札として、米国製戦闘機「F16」の供与を求めてきた。この夢が、ようやく実現の運びとなった。最初の10機がウクライナ側へ供与されたのだ。

     

    英誌『エコノミスト』(8月4日付)は、「F16、ウクライナ利するか」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナには年末までに20機が配備される見通しだ。残りはデンマークとオランダ主導のいわゆる「F16連合」が供与を約束しており、25年中に順次引き渡される。米国の駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏は、ウクライナへのF16供与にこれほど時間がかかったことへの不満は極めて強いと指摘する。戦況に影響を与えるのに十分な数の提供が遅れている理由の一つは、ウクライナ軍パイロットの訓練時間が「深刻に」不足していること、つまり「米政権の政策決定」にあるという。言葉の壁も影響している

     

    (1)「F16は実際のところどれほどの変化をもたらすのだろうか。航空戦力に詳しい英国際戦略研究所(IISS)のダグラス・バリー氏は、目先の主な効果は士気向上だと考えている。当初の配備数は少なく、ウクライナはロシア側にプロパガンダ上の勝利を許すような損失を避けるため、使用に慎重を期すとみられる。しかし、変化は少しずつ出始めるはずだ。報道によると、米国はF16に高性能の空対空ミサイル(中距離ミサイル)「AIM120」の長距離版や、「サイドワインダー」の最新版「AIM9X」などに加え、高速対レーダーミサイルを装備している」

     

    F16が、ウクライナ空軍へ実戦配備されれば、ロシア軍にとっては脅威である。F16が、性能的に優れているからだ。ただ、当初は配備機数も少ないので、出動回数は限られる。

     

    (2)「各機体は、滑空爆弾(一般的に航空機から投下できる短い翼のついた砲弾)「GBU39」を最大4発搭載できるようになる。この爆弾はロシアの同等品より小型だが、精度と射程ははるかに優れている。F16は対人・対装甲車両用のクラスター(集束)弾を搭載することも可能だ。レーダー性能の向上も予定されているという。F16が実戦配備されれば、ウクライナの前線に戦闘爆撃機「スホイ34」を投入しているロシア軍は反撃を受ける可能性が高まり、爆撃するのが難しくなるだろう。ロシアは自国の領空外に出ることなく、粗製ながら効果的な滑空爆弾を毎日100発以上投下している

     

    ロシア軍の戦闘爆撃機「スホイ34」は、F16に機能が劣るので、できるだけ出撃を減らして安全を図るとみられる。制空権は、ウクライナ軍が握る形だ。これは、ウクライナ軍にとって大きな転機になる。

     

    (3)「元ドイツ国防省のランゲ氏によると、最も重要なのはロシア軍機を遠方にとどまらせ、近づけば撃墜されるリスクにさらすことだという。空対空ミサイル「AIM120D」は独自のアクティブレーダーを搭載した全天候型で、射程は最長180キロメートルに及ぶとされる。ただ、F16の配備は徐々に進むため、大きな影響をもたらすには時間がかかるかもしれない。米戦略国際問題研究所(CSIS)は最近の報告書で、ウクライナには各国がこれまでに供与を約束した数よりはるかに多くの機体が必要だと論じている

     

    F16の機数が増えれば、射程が最長180キロメートルの空対空ミサイルを発射できる。安全圏からロシア軍を攻撃できる利点は大きい。

     

    (4)「供与を約束された79機のうち、少なくとも10機は2人乗りの練習機だ。また、予備部品の供給源にするしかないほど状態の悪い機体も含まれている可能性がある。ウクライナへの配備数は、34個飛行隊(1個飛行隊の定数18機)分にとどまりかねない。CSISの報告書によれば、ウクライナが局地的な制空権(航空優勢)を確保し、地上戦を優位に進めるには、12個飛行隊以上の能力が必要になる。ウクライナは、フランスとスウェーデンが戦闘機「ミラージュ」「グリペン」の供与に前向きであることをありがたく受け止めている。だが、単一機種で運用する利点から、F16の配備数を増やしたい考えだ」

     

    ウクライナへの配備数は、34個飛行隊(1個飛行隊の定数18機)だが、12個飛行隊以上の能力を備えられれば、十分にロシア軍への反撃可能という。

     

    (5)「それでも、F16の到着を機に、NATO基準を満たす航空戦力の構築が始まる。ウクライナはF16の充実したサプライチェーン(供給網)に加わることになる。ウクライナ向けのF16には、安全な通信や精度の高い状況認識を可能にするNATOのデータ連結システム「リンク16」も装備される。供与が少なすぎ、かつ遅すぎるとはいえ、F16の重要性を過小評価してはならない」

     

    F16の配備は、機数が少なく時期が遅すぎたという批判があっても、これから威力を発揮するという。重要性を過小評価してはならないと指摘する。

     

     

     

     

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    (6)「『アメリカン・コンサバティブ』誌は今年に入り、憲法修正第22条は「2期連続で務めない大統領、ひいては民主主義そのものを恣意(しい)的に制約するものだ」と主張する記事を掲載し、広く拡散した。とりわけトランプ氏支持者らは任期制限で不利な影響を受けるとした上で、「トランプ2028!」を提唱した。トランプ氏は憲法を尊重すると示唆している。今年行った米誌タイムとの長いインタビューでは、憲法修正第22条を覆すつもりはないと語った。「異議を唱えることには賛同しない。私はそんなことはしない」とし、「私は4年務め、素晴らしい仕事をするつもりだ」と語った」

     

    トランプ支持派には、憲法修正第22条を修正して「トランプ終身大統領」を狙っている人たちが存在している。

     

    (7)「では、タイム誌のインタビューで語ったトランプ氏と、大統領在任中に度々憲法を覆そうとしたトランプ氏のどちらを信じればいいのだろうか。筆者は後者だと考える。トランプ氏は根本的に無法者であり、権威主義者なのだ。もっとも、米議会は11月以降も上院と下院で多数派政党が別のままかもしれない。そもそも、憲法修正第22条の廃止を強行するために数十州の支持を取り付けるのも困難な仕事だろう」

     

    トランプ氏が、根本的に「無法者」(状況次第)であり、「権威主義者」であることは否定できまい。北朝鮮の金正恩氏やロシアのプーチン氏に対して見せる、格別の「親近感」にそれを感じる。

     

    (8)「トランプ氏は、数十年の月日をかけて、ルールや法律を回避する方法を見いだしてきた。見込み薄の状況であっても、トランプ氏が取り組みの手を緩めることはないだろう。トランプ氏は、かねて任期を超えてホワイトハウスにとどまることを望むと発言しており、26日夜にも再び口にした。われわれはトランプ氏の言葉は本気だと受け止めるべきだ。玉座に就く機会があれば、トランプ氏は逃さず行動するだろう

     

    トランプ氏は、法律の抜け穴を探して生き抜く術を体得している人物である。トランプ氏が、終身大統領を意識していることは間違いないであろう。

     

    『フィナンシャルタイムズ』(7月26日付)は、「トランプ氏が法を破る理由」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ氏は、数々の裁判で有罪を言い渡された過去があり(直近ではポルノ女優のストーミー・ダニエルズさんに払った口止め料にからむ裁判があった)、ルールは状況次第だという見方をとる。同氏は支持者にも、こうした「ルールは状況次第」という見方を受け入れるように迫り、自身の有罪評決は政治的な目的のために民主党がでっち上げた「フェイク」だと主張している。

     

    (9)「トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、トランプ氏が今年の選挙で勝った場合に財務長官になる有力候補とされるロバート・ライトハイザー氏についても考えてみるといい。筆者が米国以外の政府関係者とともにオブザーバーとして参加した会合で、ライトハイザー氏はいかなる貿易協定も神聖ではなく、普遍的でも恒久的でもないと主張した。逆に同氏が近著で指摘しているように、必要が生じた場合はいつでも国益を守るために協定を改定することができ、改定すべきだと考えている。ライトハイザー氏にとっては、通商法は影響力と力の問題なのだ」

     

    トランプ氏の周辺にも、トランプ氏と共鳴する人物が集まっている。トランプ政権が生まれれば、財務長官候補とされるライトハイザー氏は、ルールを曲げるのは「状況次第」の特性を濃くしている。

     

    (10)「選挙について押さえておくべき重要なポイントが3つある。第一に、人類学者のジョセフ・ヘンリック氏が指摘したように、トランプ氏が状況的な思考を抱くことは、世界的な歴史の基準に照らすと珍しくない。実際、大半の文化がこうした考え方を持っていた。むしろ、米国の裁判所が高らかにうたう「法の支配」の現代的な理念こそが例外だ。第二に、この普遍主義的な法の支配の概念がこの数十年間にわたって米国のアイデンティティーを定義し、現代資本市場の柱となってきた。大半の投資家はこの概念が覆されるかもしれない世界に対して備えができていない」

     

    米国の普遍主義こそ、民主主義の根幹を形成してきた。それが、「状況次第」という事態になれば、米国の同盟国は離れるであろう。米国を信頼できないからだ。

     

    (11)「第三に、米国の司法制度がトランプ氏に対する抑制になると考えている人は皆、同氏が法を破ったか(または破らなかったか)どうかについて議論するだけでなく、ルールを「状況的」あるいは「普遍的」に判断する違いについて声高に発信すべきだ」

     

    原則は、愚直なまでに守ることが信頼を得る原点である。米国の「中国化」や「ロシア化」は最も避けたい、最も見たくない現実である。

     

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    3日間で終わるとみて始めたロシアのウクライナ侵略は、すでに2年半近くになっている。こうした大きな誤算が、国内経済を混乱の極へ陥れている。インフレ率は9%。これを抑え込むベく、政策金利が18%と目を剥く事態になった。習近平中国国家主席は、「台湾侵攻」のリスクがいかに大きいかを味わっているであろう。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月29日付)は、「プーチン氏悩ますインフレ、戦時経済を圧迫」と題する記事を掲載した。 

    ロシアはウクライナでの戦いを継続する一方、国内ではインフレとの戦いで劣勢を強いられている。ロシア中央銀行は昨年、物価を抑制するために金利を2倍以上に引き上げた。ところがインフレ率は上昇し続け、今月は約9%に達した。さまざまなモノやサービスが割高になり、ジャガイモは年初91%、エコノミークラスの航空券は35%上昇している。 

    (1)「ロシア中銀は7月26日、政策金利を2ポイント引き上げて18%とした。インフレは、ロシアの戦時経済における極めて特徴的な現象となっている。先進国の大半では物価上昇が緩やかになる一方、物価安定を巡りロシアの苦境は深まっている。政府による軍事支出の急増に加え、働き盛りの男性の出征や徴兵回避の逃亡などに伴う深刻な労働力不足を背景に賃金や物価が上昇している。また、米国による追加制裁措置が国際決済の複雑化を招き、輸入業者のコストをさらに押し上げている」 

    ロシアは、政策金利を2ポイント引上げ18%にした。それでも経済が回っているのは、軍需支出があるからだ。しかし、再生産に結びつかない無駄な支出である。国力沈滞への引き金である。

     

    (2)「物価上昇が、経済危機や社会不安を引き起こすほど急速なわけではない。しかし、インフレは経済の裏側で拡大する不均衡を映し出す。頑固なインフレは戦争遂行のコスト拡大も意味し、軍事費のさらなる拡大につながる。ロシア中銀の元職員で、現在はカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのフェローであるアレクサンドラ・プロコペンコ氏は、「インフレとの戦いにおいて、ロシア当局には良い選択肢がない。戦争をやめることも、労働問題を解決することも、賃金の引き上げを抑えることもできない」とし、「戦争が続く限り、インフレは高止まりするだろう」と述べた」 

    戦争が、継続する限りインフレ率は高まる。政策金利は、」いずれ20%を超すだろう。 

    (3)「軍事費は、ソ連時代のように経済成長の柱となり、国内総生産(GDP)の約7%を占めるほど拡大した。戦車やドローン(無人機)、兵士の衣類を生産する工場は週7日、複数シフトで稼働した。その結果、賃金は上昇し、物価高が広がった。ロシアのプーチン大統領は5月、国防相を交代させた。後任は、マクロ経済学者であり、国家による経済への介入を支持するアンドレイ・ベロウソフ氏だった。アナリストはこの人事について、いまや経済と戦争が深く絡み合っていることを象徴するとの見方を示す」 

    ロシア経済は、ウクライナ侵略と深く関係している。じり貧が続くのだ。

     

    (4)「ロシア中銀は昨年12月以降、政策金利を16%という比較的高い水準に据え置いてきたが、物価にはほとんど影響がなかった。住宅価格の高騰を抑制するため当局は今月、政策金利を大幅に下回る8%の金利で提供してきた住宅ローンの補助金を打ち切った。この支援制度は戦争による国民への影響を緩和する役割を果たす半面、不動産バブルを生み出した」 

    ロシアは、昨年12月に引上げた政策金利16%を、7ヶ月後に18%へさらなる引上げである。次は20%だ。来年に入れば確実にそうなるだろう。プーチン氏の個人的な判断が、こういう結末をもたらした。習近平氏にとっては、「他山の石」となろう。 

    (5)「ロシア中銀は、最近の報告書でインフレ率を低下させる取り組みについて、従来の中銀見通しと比べ金利を「はるかに長い期間」高水準で維持する必要があるとの見方を示した。伝統料理のボルシチの材料であるビーツやサワークリームなどの価格を追跡しているウェブサイト「ボルシチ指数」によると、今年は昨年と比べ価格が26%上昇している。ロシア人の間では、インフレは市場経済への痛みを伴う移行期だった1990年代の経済危機の記憶を呼び起こす」 

    ロシアの現在は、旧ソ連崩壊当時に混乱時に匹敵する。インフレ抑制は、長い戦いになるからだ。

     

    (6)「労働力不足の深刻化も、インフレ高進の大きな要因になっている。ロシアでは毎月3万人もの兵士が動員される一方で、数十万人が徴兵を回避するために逃亡した。ロシアの人口減少は労働力不足を悪化させており、当局は高卒者や大卒者の数が減少していると報告している。長年にわたり労働力の供給源となってきた移民の数も減っている。当局は3月に発生したテロ事件を受けて入国管理を厳格化しており、この傾向は続くとみられる。ロシア中銀によると、企業では高度な専門知識を有する労働者と低スキル労働者の両方が不足している」 

    ロシア経済は、軍需支出によって保っているが、中身は「空中分解」へ向っている。ウクライナ侵略は、いつまでも続けられる状況でない。

     

     

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