勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    ロシアは兵士募集で限界
    軍事費が歳出の3割強へ
    停戦がロシア経済を救済
    米国の狙いは対中包囲網

    ロシアのウクライナ侵略は、2月24日で満3年を経た。ロシア軍とウクライナ軍は、おびただしい死傷者を出す消耗戦を続けている。21世紀で初めての不毛な戦争であり、トランプ米国大統領が就任直後から停戦への動きを始めた。停戦交渉の一環として行われた、先の米トランプ大統領とウクライナ・ゼレンスキー大統領の会談は、激論で物別れというハプニングを生んだ。だが、いずれ再会談によって、ウクライナの鉱物資源開発協定は調印されよう。米国に、その必要性があるからだ。その理由は、おいおい説明する。

    ロシアは、トランプ氏が大統領就任直後に行った「和平提案」に対して、強い拒絶反応をみせた。さすがのトランプ氏も弱気になって、停戦実現までには長時間を必要とする発言を行うほどであった。だが、2月に入ってからロシアの強硬姿勢は急に変化を見せ、トランプ和平提案を受入れる姿勢に変わった。


    この間、ロシアで何が起こったのか。ロシア軍の兵士・装備の消耗が激しく、これ以上の継戦が不可能という事態を再認識したとみられる。ロシアが、3年間の戦時経済によって疲弊しきっている結果が表面化したのだ。

    戦争経済が現在、ロシア経済を支える異常事態へ突入している。GDP統計では、24年成長率は4%未満と他国と遜色ないが、25年は0.5%へと落込む。ロシア経済の持続性に、大きな疑問付がつく事態となったのだ。

    ロシア国防相のベロウソフ氏は、24年5月に就任した国防と無縁の経済学者である。プーチン氏の信任厚いベロウソフ氏が、トランプ氏の「和平提案」を受入れるように進言したとしても不思議でない状況が生まれていた。これには、次のような背景がある。

    ベロウソフ氏は、もともと国防相就任前に「消耗戦を制するのは経済」と指摘していた。こうして、「軍事支出を削減せず増やした」結果、ロシア経済の激しい消耗化が進んで、身動きできない事態へ追込まれた。ベロウソフ氏が、この事態を認識しプーチン氏へ、「トランプ和平提案」受入れ工作したとしても不思議のない流れとなっている。


    ロシアは兵士募集で限界
    ロシア軍は、この半年の間に米ロードアイランド州程度のウクライナ領土を制圧したが、数万人の兵士が犠牲になった。これを補充する新兵の募集は、ますます困難になっている。ロシアは、受刑者を含めた志願兵を集めるために報酬を引き上げざるを得ない状況にまで人集めが悪化している。

    ロシアは24年9月、ロシア軍の定員を18万人増やし150万人とすると発表した。入隊する際に兵士が受け取る一時金は、これまでのほぼ倍にするなど、兵士確保のための財政負担が大きくなっている。一方では、激増する死亡した兵士の遺族には、生涯収入を超える補償金も用意せざるをえず、軍事予算を膨脹させる要因になっている。ロシア経済にとって、ウクライナ侵略の人的な消耗による経済負担が限界点になろうとしている。


    ロシア軍の消耗は、軍事装備でも多大の損害を被った。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月18日付)は次にように指摘している。

    1)ロシアは3年間の戦争で、主に旧ソ連時代に備蓄された膨大な数の戦車と装甲車のうち約半分を使い果たした。また、残された装備品の多くは、さらに旧式で手入れの悪い状態である。これは、ロシアの兵器備蓄の衛星画像を調査する、オープンソースの情報アナリストグループによる分析で明らかになった。

    2)この巨大な損失は、ロシアの侵攻に伴うコストや、今後、戦争を維持していくことの難しさを浮き彫りにする。装甲車の在庫が減りつつある中、ロシアは民間車両やオートバイを攻撃に用いている。攻撃の大半は、無防備な歩兵に依存しており、多数の死傷者を出している。

    3)現在のペースでは、ロシアは2025年の終わりには戦車と装甲兵員輸送車が決定的に不足すると、米首都ワシントンのシンクタンク、戦争研究所のアナリスト、ジョージ・バロス氏は指摘する。同氏によると、ロシアと協力する国々、特に北朝鮮などが自国で備蓄する装甲車を提供することで支援される可能性もある。

    4)歩兵が不足するウクライナ軍は、主に爆撃ドローンを使用して進軍を目指すロシア兵を狙撃している。ウクライナと西側同盟国によると、2024年8~12月にロシア軍の1日当たりの死傷者数は毎月増加した。

    これら情報を総合すると、ロシア軍が多大な損害を受けていることが分る。装甲車の在庫が減った結果、ロシア軍は民間車両やオートバイを使い攻撃作戦へ出ている。大半の歩兵が、ウクライナ軍によるドローン攻撃で死傷している理由だ。北朝鮮兵のウクライナ軍捕虜が、『朝鮮日報』のインタビューに対して、「ドローンが上から狙う逃げ場のない攻撃であった」と述べているほど。同僚の北朝鮮軍兵士は、全員が死亡したと答えた。

    以上の通り、ロシアがトランプ氏の和平提案を受入れざるを得ない、ロシア軍の内情が明らかにされている。(つづく)

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    米国の対ソ戦略の基本は、ロシアによる中国への完全依存度を剥がすことにある。中ロ蜜月関係に杭を打ち込むとしているが、中国は早くも警戒姿勢を強めている。ロシアは、3年間のウクライナ戦争で疲弊しきっており、中国の支援なしには経済が円滑に回らない状態へ落込んでいる。米国は、このロシアの窮状を「救うべく」中国に代わって支援する姿勢をみせている。

    『ブルームバーグ』(2月27日付)は、「ロシアは中国に『完全に依存』、引き剥がし狙うールビオ米国務長官」と題する記事を掲載した。

    米国のルビオ国務長官は、ロシアと中国との間に不和の種をまくことなく両国の関係を希薄化させたいと述べ、ロシアの中国との緊密な関係を管理する米国の戦略を打ち出した。


    (1)「ルビオ氏は、保守系メディアのブライトバート・ニュースに対し、ロシアについて「中国との関係から引き剥がすことに完全に成功するかはわからない」としつつ、「中ロを対立させることが世界の安定に有益だとも思わない。両国とも核大国だからだ」と語った。一部のアナリストは、トランプ大統領のロシアに対する最近の歩み寄りを、ニクソン元大統領とは逆のやり方で中ロを分断させる試みだと捉えてきた。ニクソン氏は約53年前に歴史的な中国訪問を果たし、ソ連の世界的な影響力を突き崩すとともに中国を米国に引き寄せ、その後数十年にわたって国際的なパワーバランスをシフトさせた」

    トランプ氏は、ニクソンを尊敬している。ニクソンが行った中ソ離間作戦を、今度再び行おうとしているのだ。ニクソンは、米国から中国へ接近してソ連を孤立させた。トランプ氏は、米国がロシアへ接近して中国を孤立させる戦術である。

    (2)「中国政府は、ウクライナでの戦争終結を巡り米国と協議したロシアを称賛したが、米ロの雪解けが中国にとって何を意味するかは明らかでない。中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は、2022年のウクライナ全面侵攻開始直前に「制限のない」友好を宣言し、国際舞台での対米姿勢で団結している。中国外務省の林剣報道官は、ルビオ氏の発言に反論し、中ロの関係はいかなる第三者によっても影響されないと主張した」

    ロシア経済が、これから苦境に向う中で、中国はどれだけ支援できるかだ。従来のロシアは、中国に対して上位であった関係が完全に崩れている。ロシア社会では、受入れがたい事態の到来である。ここへ、米国が割って入ろうとしている。


    (3)「同報道官は27日、北京で開いた定例記者会見で「中ロの間に不和の種をまこうとする米国の試みは失敗に終わる」と述べ、「中国とロシアは、いずれも長期的な発展の戦略と外交政策を持つ。国際情勢がどう変化しようとも、中ロ関係は独自のペースで前進していくだろう」と続けた」

    中国外務省は、米国の動きに反発している。当然であろう。習近平にとっては、プーチン氏は無二の盟友である。その盟友が、米国と握手する事態は想像もできないであろう。

    (4)「ルビオ氏は、ロシアが中国の「恒久的なジュニアパートナー」となり、2つの核大国が米国に立ち向かってくるようになるのなら、中ロ関係の緊密化は米国にとって問題になると警告。米国主導の制裁で孤立するロシアはここ数年、中国市場へのアクセスによって経済を維持することができ、習氏はプーチン氏に外交的なシェルターを提供している。「ロシアは、対米関係の改善を望もうが望むまいが、同国は完全に中国に依存するようになってしまったためにそれができない状況に陥っているかもしれない。それは、われわれがロシアを切り離したからだ。米国にとってより良い結果は、関係を築くことで生まれる」とルビオ氏は論じた」

    米国が、中国からロシアを引離すには、ロシアへ経済的便益をどれだけ提供できるかにかかっている。その意味で、欧州がロシアに対して「寛容」になれるかも大きな要因だ。ロシアが、今のように欧州を威嚇し続けていては、欧州のロシア警戒論は続くであろう。



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    米国とロシアは、ウクライナ戦争の終結に向けた協議を開始することで合意した。ロシアのウクライナ侵略ペースが今、明らかに減速している。トランプ米大統領による「ドクターストップ」は、ロシアにとってまたとないチャンスであろう。米国は、こういうロシアの「台所事情」を理解していれば、ウクライナに一方的な譲歩を迫るような「和平交渉」は不公平という批判を浴びよう。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月18日付)は、「ウクライナは『トランプのベトナム』になるか?と題する記事を掲載した」

    ドナルド・トランプ米大統領の就任直前、スティーブ・バノン氏は政治専門紙ポリティコで、かつての上司であるトランプ氏に対し、ウクライナは「トランプのベトナム」になる可能性があると警告した。バノン氏は正しいが、理由は彼が考えているようなことではない。


    (1)「現実に起きているのは正反対のことだ。トランプ氏は、ウクライナでの大虐殺を終わらせるようなディール(取引)について交渉するのは自分だと選挙活動で訴えた。彼がそれをやり、そのディールが最終的に失敗した場合、つまりロシアのウラジーミル・プーチン大統領が侵攻を再開すれば、トランプ氏のレガシーに極めて大きな汚点を残すことになる。そしてそれは当然のことだ」

    トランプ氏は、今回のディールに失敗してプーチン氏がウクライナ侵攻を再開すれば、大きな傷がつく。

    (2)「トランプ政権は相反するシグナルを送っている。ピート・ヘグセス国防長官は、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟は不可能であり、2014年より前の国境を取り戻すことも同様だと述べたが、JD・バンス副大統領はその発言内容を撤回した。キース・ケロッグ米大統領特使(ウクライナ・ロシア担当)は先週末、ウクライナは交渉の席に着くが、欧州は参加しないと付け加えた。同時に、サウジアラビアで18日に始まる米ロ高官協議からウクライナが排除されることが分かっている」

    プーチン氏は、侵略したロシアを相手にして被害国のウクライナを外している。理由は不明である。狙いは、「一瀉千里」に話を決めたいのであろう。そして、有無を言わせずにウクライナへ押しつける。もし、こういう狙いとすれば、和平は実現しないであろう。米国の信頼は地に墜ちる。トランプ氏は、中国外しで米中接近を狙っている節もみられる。中ロ関係が、それほど簡単に離間するであろうか。習氏は、プーチン氏を頼りにしているのだ。


    (3)「トランプ氏は自身の選択肢を検討する際に、同じく共和党出身の大統領とその補佐官の会話について調べてみるとよいかもしれない。それは1972年8月3日のことで、当時のヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官はニクソン大統領に、北ベトナムと和平合意に達する可能性はほぼ五分五分だと考えていることを伝えた。現在と同様に当時も、安全保障の確保は最大の懸案だった。米軍撤退後に北ベトナムが戦争を再開する恐れがあった」

    1972年当時の米国と北ベトナムの関係は、現在の米ロ関係と極めて似通っている。米国は、北ベトナムへ接近して南ベトナムに無理矢理、パリ和平協定を結ばせた。ウクライナは、「第二の南ベトナム」になって米国に従うことはあるまい。

    (4)「1973年1月27日に、パリ和平協定が結ばれた。それは(米国が)南ベトナムのグエン・バン・チュー大統領に押し付けた協定だった。ニクソン政権から強い圧力を受けていたにもかかわらず、チュー氏はより良い合意のために勇敢に戦った。それは称賛に値する行為だったが、ニクソン氏のいら立ちにもつながった。恐らく、チュー氏にとっての大きな問題は、協定が北ベトナム軍の南ベトナム残留を容認している点だった。それは、今後どんな協定が結ばれるとしても、ロシア軍がウクライナ領にとどまるように思える今の状況と同じだ」

    南北ベトナムのパリ和平協定は、北ベトナム軍の南ベトナム残留を容認している点が、火種になった。ロシア軍が、ウクライナ領にとどまる形で和平協定が結ばれれば、南ベトナムが消滅したように、ウクライナ再侵攻を想起させるであろう。


    (5)「1975年4月30日、北ベトナムの戦車がサイゴンになだれ込み、南ベトナムは消滅した。確かに、ベトナムとウクライナの間には決定的な違いがある。ウクライナでの戦闘に米軍は加わっていない。ウクライナの人々の粘り強さも、ベトナム戦争のケースと異なる。トランプ氏の和平のディールが失敗に終わったとしても、ウクライナがロシアに屈服するとは考えにくい」

    ウクライナが、再度のロシア侵攻があったとしても、占領されることはない。だが、甚大な被害を受けることは不可避だ。そういう危険因子をはらむ和平交渉をさせてはならない。

    (6)「和平合意を結ぶこと自体は、本質的に悪いことではない。しかし、結局のところ、最も重要なのは安全担保措置の信頼性だ。トランプ氏がレガシーを残す上で最も頼りになる友人は、「和平合意の条件の中でプーチン氏が最も強く反対するものは、和平を担保するために最も必要な条件だ」と指摘してくれる人々だ。重要なのは、プーチン氏を交渉の席に着かせることではなく、プーチン氏に合意を順守させることだ」

    プーチン氏が、ウクライナ和平を守るために最も必要な条件で反対すれば、それこそ危険信号である。再び、ウクライナ侵攻をする意図を持っていることの証明になるからだ。プーチン氏に合意を遵守させることが最大条件である。

    (7)「トランプ氏は、「独立国家として繁栄する」ウクライナを存続させる強力な内容の合意をまとめることができるかもしれない。しかし、今週サウジの首都リヤドで開かれる米ロ高官協議からウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が排除されていることと、ベトナム戦争時にチュー氏の知らないところで、米国と北ベトナムが秘密協議を進めたことの間には、ハッとするような共通点がある。この和平のディールが悲惨な結果を招いた場合にはトランプ氏がその責任を負うということを、彼は自覚しておくべきだろう」

    米国は当時、北ベトナムと秘密協議を進めていたことが後に明らかになっている。これが、南ベトナム崩壊へ導いた。トランプ氏が、仮にプーチン氏と秘密交渉をすれば、永遠にウクライナへ和平はこないだろう。トランプ氏の真価は、ウクライナ和平交渉で明らかにされよう。


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    トランプ米大統領は、ウクライナ侵攻を巡りロシアのプーチン大統領との直接交渉に乗り出した。12日には電話協議を行い、即座に戦争終結に向けた交渉を開始することで合意した。両首脳による相互訪問を含め緊密に協力し、関係正常化を目指す方針でも一致した。事態は急速に動き始めた。

    ロシアにとって、ウクライナ侵攻は経済的に限界にきている。そこへ、飛び込んできたトランプ氏の戦争終結交渉案である。願ったり叶ったりの局面である。トランプ氏が、急いでいるのは対中国戦略だ。中ロに「溝」を掘ることを狙い定めている。プーチン氏を「味方」に引き寄せる狙いであろう。中国の孤立を目指した戦略の一環である。

    『日本経済新聞 電子版』(2月13日付)は、「トランプ政権、停戦へロシアと直接協議 ウクライナ打撃」と題する記事を掲載した。

    米国はバイデン前政権時にはウクライナ抜きの協議に反対してきたが、今回の電話で融和路線への転換を鮮明にした。トランプ政権内ではウクライナに厳しい案が浮上しており、今後の交渉ではプーチン氏が目指すウクライナの属国化の試みを米側がどれだけ阻むかが焦点になる。


    (1)「トランプ大統領は12日、「プーチン大統領がこの電話に要した時間と努力を感謝したい」とSNSへの長文の投稿でプーチン氏との「極めて生産的な電話」の後の興奮をあらわにした。ロシアのペスコフ大統領報道官の発表によると協議は1時間半にわたり、プーチン氏は「両国が協力すべき時が来たという米大統領の主張」を支持する意向を示した。トランプ氏の訪ロも招請した」

    トランプ・プーチン電話協議は、1時間半にもわたった。両氏は、電話協議に満足したようだから、ある種の「合意」に至ったのであろう。これは、ロシア側の主張に立つ解決案という意味だ。

    (2)「両首脳が会談を含め、直接協議を継続することでも合意した。トランプ氏は12日、記者団にプーチン氏とまず第三国のサウジアラビアで会談するとの見通しを示した。約3年にわたるロシアのウクライナへの侵略や残虐行為の責任問題を棚上げして関係正常化を目指すことで合意した格好だ。トランプ氏はこの直後、ウクライナのゼレンスキー大統領と約1時間電話し、プーチン氏との電話協議の内容を伝えた。同国への一定の配慮を示す狙いがあったとみられるが、ゼレンスキー氏が負った政治的な打撃は大きい。同氏はXにトランプ氏と「有意義な会話をした」と投稿した」

    戦争とは、無慈悲なものだ。侵略された側が、最終的に領土を取られるという結末になるからだ。「正義」の回復は困難である。


    (3)「プーチン氏は、2日公開のロシア国営テレビのインタビューで、欧州の指導層について「すぐにトランプ氏が秩序をもたらし、彼らは主人の足元に立って尻尾を振るだろう」と語った。米国の軍事援助に深く依存しているウクライナも米国の属国とみなしてきた。プーチン政権の工作が奏功しているのは否定できない。これまでロシアの侵略に厳しい姿勢で臨んできた欧州の一部でも対ロ融和論が勢いを増しており、トランプ政権がロシアに大幅な譲歩をした場合に阻むのは難しくなっている」

    欧州は、蚊帳の外に置かれたままである。米ロが、ウクライナ侵攻で決着を付けようとしているからだ。

    (4)「トランプ政権内では交渉開始前の現段階ですでに、ロシアに配慮した戦争終結案が浮上している。訪欧中のヘグセス米国防長官が12日、戦争終結に向けた方針を発表した。①ロシアが反対してきたウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の断念 ②停戦ラインへの米軍抜きの欧州平和維持部隊の配備 ③ウクライナによる領土面の譲歩 ④欧州によるウクライナ防衛の枠組みの構築、を柱とする。いずれも将来の再侵略を抑止するための米国の関与を求めてきたゼレンスキー氏が反対する内容だが、トランプ政権には同氏への配慮はみられない。ヘグセス氏は、ウクライナの全土奪回について「非現実的な目標だ」との認識も示した」

    トランプ政権内で浮上している戦争終結案は、ウクライナにとってすべて譲歩を迫るものばかりである。最大の狙いは、早期の戦争終結ということだけだ。

    (5)「こうしたロシアに融和的な戦争終結案が交渉の出発点になれば、さらにウクライナに譲歩を求める圧力が高まることも想定される。ペスコフ氏によると電話協議でプーチン氏は「紛争の根本原因を取り除く必要性を強調し、和平交渉を通じて長期的な解決が達成できる」と語った。目標としてきたウクライナの事実上の属国化を引き続き求める立場を示したものだ」

    ウクライナ戦争は、米国がウクライナへの最大支援国だけに、その発言に重みがある。ウクライナは、軍事支援を得られなければ継戦不可能で、米国終結案を受入れるほかない。



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    中国は、ロシアのウクライナ侵攻を影で支援している。価値観に基づく同盟的な結束力に基づくものではない。中国にとって、米国と対抗する上でパートナーとしてのロシアが必要という次元の話だ。中国は、ロシアから安い価格で石油や天然ガスを輸入できるメリットを享受している。ただ、ウクライナ侵攻によって、中国は米欧との関係が決定的に悪化するマイナス要因もつくり出した。中国製品への高い関税障壁が張り巡らされる事態を招いている。中国にとって、対ロシア関係はプラスとマイナスが織り混ざっている。 

    『日本経済新聞』(11月21日付)は、「実利でつながる中ロの蜜月」と題するインタビュー記事を掲載した。モスクワ大付属IAAS所長 アレクセイ・マスロフ氏へのインタビューである。 

    中国はウクライナ戦争により、ロシアの原油と天然ガスを極めて安価に調達できるようになった。ロシアへの製品輸出でも独占的な地位を占めている。だが中国にとって対ロ接近のメリットは、米欧との関係悪化に伴うデメリットを相殺するほどではない。

     

    (1)「中国はここにきて、国内経済の停滞が続くようになった。一因は輸出の低迷で、背景にはウクライナ戦争がある。つまり中国が米国より、ロシア寄りの立場をとっていることが負の影響を与えている。中国から欧州に向かう物流回廊も戦争で壊されている。中国はなるべく早く、ウクライナでの軍事行動をやめさせたいと考えている。あらゆる戦闘行為が自国に経済的な打撃を与えるからだ。中国は間接的にせよ、ロシアにしかるべき政治的圧力をかけているはずだ。中国がより本気で、ウクライナの紛争を調停したいと意気込んでいるようにもみえる」 

    中国は、経済減速が目立っている。西側諸国が、対中貿易で厳しい姿勢に転じていることも大きな負担だ。米国次期大統領のトランプ氏が、どのような圧力を加えてくるかも分らない。こういう状況下で、中国はロシアにウクライナ侵攻を止めさせたいのが本心であろう。

     

    (2)「中国は元来、米国や他国との関係を損なってまでロシアに加担するつもりはなかった。ロシアの軍事行動を支持すれば、結果的に中国の利益を損ねるとみている。ロシアとの貿易決済を意図的に遅らせたり、中国が軍事転用可能とみなす設備や部品の対ロ輸出を難しくさせたりしているが、ロシアへのいら立ちを示しているのだろう。とはいえ、中国はロシアが戦争で負けることは望んでいない。中国にとってロシアは有望なパートナー国だ」 

    中国の経済関係の主体は、対西側諸国である。その関係を悪化させてまで、ロシアを支援するには限界がある。一方、ロシアが中国の有力パートナーだけに、敗北されると大きな影響をうける。中国が、国際社会で孤立するからだ。こういうジレンマを抱えている。 

    (3)「ロシアが負ければ、中国は国際社会で孤立し、単独で米国に対峙せざるを得ない。現時点で中国は、技術開発力で決して米国に勝てないと自覚している。そこで中国は対米で共闘してくれる強いロシアを欲している。中国がウクライナ戦争で、ロシア寄りの立場を完全にやめることはない」 

    中国は大言壮語しているが、自らつくり出した技術はゼロである。全て、米国発である。こういう米国と対決しても利益はないが、政治的に対抗してメンツを保ちたい。それには、相棒にロシアが必要という関係だ。

     



    (4)「中国は、米欧がロシアに科す経済制裁の出方も注視している。銀行口座や資産の凍結、国際銀行間通信協会(Swift)からの排除といった措置が将来、中国に科された場合の影響などを分析している。台湾有事や南シナ海での紛争などを想定しているのだろう。中国は米欧による経済制裁下で、ロシアがどのように対処し、行動しているかについても詳細にフォローしている。結局、中国は自己の目的、利益のために相当程度、ロシアを利用しているわけだ。中国は、ウクライナ戦争を道徳論や倫理ではなく、自国の利益になるかどうかという完全に実利的な基準でみている」 

    中国は、露骨なまでに「国益中心主義」である。利益のために、ロシアを利用しているだけである。ロシアとは長い国境線を接しているので、「火種」を消しておきたいのだ。 

    (5)「ロシアにとっては、中国が唯一の大国パートナーだ。これはロシアの選択ではなく、やむを得ない結果だ。ロシアは中国頼みの状況が安全でないことも十分に承知している。そこで他の国々とも関係を強めて新たなパートナーシップを築こうとしている。プーチン大統領は今年に入って、関係改善のためにベトナムやモンゴルを訪問したり、マレーシアやインドネシアとの対話を盛んにしたり、アフリカとの関係強化に重点を置き始めたりしている」 

    ロシアにとっての中国は、唯一の大国パートナーである。だが、100%の信頼感を持ってはいない。他国との関係強化を模索している。東南アジアへも接近している。北朝鮮もその一環であろう。

     

    (6)「米国を含めどの国も、中ロが過去の対立を乗り越え、ここまで急接近するとは予測しなかった。だが政治状況が変化していく中、今後10~15年の間に様々な対立、摩擦や紛争が起きる可能性は否定できない。ロシアの極東地方で中国が経済的な圧力を強めたり、旧ソ連の中央アジア地域で中ロ間の紛争が起きたりする恐れも排除できない。中ロの蜜月は未来永劫(えいごう)続くものではない」 

    中ロ関係は、一枚岩の状態でない。中国が、中央アジアへ支配権を及ぼしたり、ロシア極東地方で圧力を強めれば、中ロ関係は瓦解する。中ロの勢力関係が地政学的に重なり合っていることが、将来の紛争の種になりかねないのだ。

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