勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

    30 1025    2
       

    旧ソ連崩壊(1991年)から32年で、再び「第二次冷戦」思考が復活する事態になった。6月30日にNATO(北大西洋条約機構)首脳会議は、新戦略概念の発表で、ロシアを「脅威」と規定した。有事の際には即時、30万の兵士を動員する体制を構築すると宣言しており、ロシアに対する抑止力を働かせる。

     

    第二次世界大戦(1945年)後から1991年まで、米ソ対立(第一次冷戦)が続いた。ソ連崩壊で世界は平和な時代が来ると期待したが、ロシアのウクライナ侵攻によって夢は敗れた。ロシアのプーチン大統領は、公然と領土拡大が歴史の使命と宣言しており、自ら第二次冷戦を宣言したようなものである。これを受けた形で、NATOはロシアを「脅威の対象」と規定した。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月30日付)は、「NATO、ロシア抑止で冷戦期のドクトリン復活」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの本格的なウクライナ侵攻を受け、欧州の防衛を支える基盤は北大西洋条約機構(NATO)であることが再確認され、NATO首脳は冷戦期のドクトリンが復活する今、ロシアにいかに立ち向かうか再考を迫られた。

     

    (1)「NATO首脳会議で発表された宣言は4つのポイントからなる。

    1)有事の際に即応できる部隊の7倍への増員を目指す

    2)NATOの東方前線で初めて米軍の常設司令部を設ける

    3)フィンランドとスウェーデンの加盟を認める

    4)今後10年の指針となる新「戦略概念」ではロシアとの連携という幻想を捨てる。NATOで重視すべき点が本質的に絞り込まれた格好だ」

     


    NATO防衛線が、ロシア軍によって突破されやすい地点は、バルト3国とされている。そこで、ポーランドに米軍の常設司令部を置き、ロシア軍を監視して戦術を編み出すという役割を担うことになった。ロシア軍にとって、急所を突かれた感じだろう。

     

    (2)「NATO首脳宣言は、「我々は共同軍事訓練を強化して高強度のマルチドメイン(多領域横断)作戦への準備を整えるとともに、短期間での加盟国への増援体制を強化する」と表明した。「これにより、敵の目的遂行を阻みNATOの領土への侵攻を食い止める」という。英国王立防衛安全保障研究所のマルコム・チャルマーズ副所長は、NATOが「冷戦時代の任務に戻り」、最大の目的として「ロシアの抑止力となること」を掲げていると語った」

     

    冷戦時代は、米軍が有事に即応できる体制であった。NATO軍は、これに代わって短期間に兵力を集中させる機動力をつけることになった。

     


    (3)「NATO元事務次長のローズ・ゴッテモラー 氏は、NATOが「有事の際の即応体制を大幅に刷新」することで合意したと語った。「ロシアを抑止するために、より効率的で効果の高い方法が必要だ。それは領土を守る準備と戦力を初動から備えることに他ならない」。事前配置する戦闘部隊の増強も1つの手段だ。米国はルーマニアに5000人、英国はエストニアに1000人の兵士を追加派遣すると表明している。だが、ゴッテモラー氏によると、最大の変化はNATOが即応部隊の大幅増員を約束したことだという。各国部隊を適した地点、適した任務に配備するプランニングが進んでいることにもそれが表れている

     

    ウクライナ軍は、機動力に優れていると評価されている。これは、NATO軍による訓練の成果である。NATO軍は、この機動力にさらなる磨きをかけて、ロシア軍に対抗・撃破するシステム作りに着手する。

     

    (4)「有事の際に30日以内に出動できる即応部隊を30万人に増員する計画は冷戦時代のドクトリン復活を意味し、軍司令官は特定地域で敵から受けた攻撃を想定し、具体的にどの部隊や兵器を使って応戦していくか詳細な計画を用意する必要がある。そうした即応体制を支援するのは米国がポーランドに設置する常設司令部であり、NATOが加盟国から部隊派遣の約束を取りまとめたうえで23年に設置される予定だ」

     

    NATO軍は、即応部隊を30万人に増員する。その司令塔は、ポーランドに設置する米軍の常設司令部が当る。脆弱なバルト3国の防衛線を守るためだ。ロシアは、このバルト3国の併合を狙っている。

     

    (5)「米シンクタンク大西洋評議会のシニアフェロー、レイチェル・リゾ氏は「米国は欧州の同盟国とともに、NATOの東欧加盟国の懸念を払拭する方策を懸命に探り当てようとしている。同時に、東欧における前線配備と抑止策を強固にしてプーチン(ロシア大統領)を十分かつ確実に思いとどまらせようともしている」と話す。30万人の即応部隊を実現させるうえで、大規模な戦闘部隊を配備するよりも、永続的にプランニング、訓練、命令指揮機能を与える米国の常設司令部が重要になるとゴッテモラー氏は言う」

      

    NATOは今後、東欧加盟国の懸念を払拭することに最大の努力を払う。ポーランドはかねてから、ロシアの欺瞞性を鋭く指摘してきたが、NATO内部では重視されなかった。今回のウクライナ侵攻で、これが立証された形だ。NATOは、ポーランドの主張を大幅に飲まざるを得ない事情にある。

     


    (6)「在欧米陸軍司令官だったベン・ホッジ氏は、「冷戦時代に必要だった規模は不要だが、コミットメントの姿勢を示すことと実際に能力を備えることが重要だ。特に防空・ミサイル防衛体制、軍司令部、兵たんといった能力は非常に重要になる」と言う。「これは大幅な兵力増強だ、しかも強力な武器になる」。ウォレス英国防相は米国の派兵は、「引き続き同盟国に安心してもらうために欧州駐留米軍を増強する」意志が、米国にあることを示していると述べた。しかしNATOが今週、首脳会議に合わせて即応部隊の30万人への増強を大々的に発表したとはいえ、NATO高官は増強計画がまだ概念的なものにすぎず、実際の構成や規模は加盟国が軍隊派遣を正式に約束するまで不透明なままだと認めた」

     

    米国は、NATOへ大幅に肩入れする形になった。中国が、ロシア支援に動いているのは、米国を欧州に釘付けする意図であろう。これを深読みしている米国は、中国をロシア同様にNATOの「厄介国家」に指名した。中国をけん制するためだ。中国は、自由世界の包囲網に取り込またのである。

     

    米国が、ウクライナ侵攻で軍隊を派遣しないのは、中国軍の動きを警戒しているためだ。米国にとっては、中国との戦闘が死活的意味を持っている。ウクライナでは力を温存して、中国との一戦に備えているのが真相である。

    a0001_001078_m
       


    先進7ヶ国首脳会議(G7サミット)は、6月28日に終了した。ロシアへの新たな経済制裁は見送られた。G7各国への経済的負担が大きくなることが理由である。一方では、ウクライナへの支援継続を決めた。和平問題は、ウクライナが決めることとし、G7側からの働きかけをしないことを明らかにした。欧州国内での「和平論」は封印された形だ。

     

    ロシアへの新たな経済制裁を見送り、ウクライナへの支援継続となれば、軍事面でウクライナをさらに支援するほかなくなった。ウクライナの要望する大型火器を供給して、ウクライナに有利な和平条件をつくり出す段階へ移っているようだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月29日付)は、「即効薬なきロシア制裁策、G7会合では手詰まり感も」と題する記事を掲載した。

     

    先進7カ国(G7)はドイツで3日間にわたり開催した首脳会議(サミット)で、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの追加制裁措置の検討を続けることで合意したものの、侵攻から4カ月が経過し、経済的手段で制裁を加えることの限界も浮き彫りになった。

     

    (1)「これまでは武器供与によって戦況がすぐに変化しており、ウクライナはロシア軍を押し戻すために支援拡大を求めている。ただ、制裁措置は効果が表れるまでに時間がかかり、一部は西側諸国への打撃となって跳ね返っている。最新の制裁措置は複雑になりすぎ、迅速な発動が困難になっている。今回のサミットでは、G7首脳はある程度の結束を示した。ウクライナへの支援を継続することに表立った反対意見はなかった。だが、ウクライナや西側の一部専門家の間では、重火器の増強以外に、ロシアの侵攻を短期的に食い止める方法はないとの見方がある」

     

    戦線で直ぐに効果の出るのは、ウクライナへの大型武器供与である。米国は、重火器供与に舵を切っている。不幸なことだが、これ以外に、侵攻解決の手段はなくなった。

     


    (2)「G7を含む各国が実施した前例のない対ロシア制裁は世界の市場に変動を引き起こし、エネルギー価格の上昇を招いた。ここにきて、高インフレや成長鈍化、さらに欧州における今冬のエネルギー不足への懸念を背景に、西側諸国ではロシアへの制裁を強化する意欲がそがれている。G7各国の間には対ロシア制裁を巡り温度差があり、具体的な追加措置で合意することができなかった。合意したのは、ロシア産石油の価格上限設定や、ロシアからの金の輸入禁止などについて検討していくことにとどまった。ロシアをすぐに罰することができる選択肢はほぼ使い果たされ、検討対象となっているのは複雑で議論の余地のある選択肢しか残されていない」

     

    これまでの経済制裁は、西側諸国の物価高騰という形ではね返っている。経済制裁の限界を示したものだ。ただ、ロシア経済は今年下半期から制裁効果が出てくるという経済予測もあるので、西側は一呼吸おいて状況を見守ることも必要だ。ここは、戦線立直しが優先されるのだろう。ウクライナは、年内の終結を目指している。これに合わせた武器供与が課題に挙がるに違いない。

     


    (3)「G7は声明で、ロシアを制裁する「さまざまなアプローチを検討する」とし、ロシアの原油や石油製品の世界的な海上輸送を可能にするサービスの全面的な禁止などを検討する方針を示した。政府関係者や専門家は、G7が声明で言及した対策はどれも、実施までに長い時間がかかると指摘する。G7議長国ドイツのオラフ・ショルツ首相は、米国が提案したロシア産石油の価格上限設定について「非常に野心的な取り組みであり、もっと時間と作業が必要になる」と述べた。ショルツ氏はその一方で、ロシアへの対応では他に選択肢がないとの見方を示し、「ウクライナ侵攻前の時代に戻ることはできない。なぜなら、状況が変われば、われわれも変わらなければならないからだ」と語った」

     

    下線部分は重要ある。一定の時期に「休戦」を示唆した言葉だ。西側が、十分な武器を供与して、その結果を見て最終判断するという含みに取れるのである。

     


    (4)「英国のシンクタンク「チャタムハウス」のジョン・ロック氏は、G7首脳が具体的な追加制裁で合意できなかったことは、既存の制裁措置が西側の政策立案者が許容できる痛みを超えたことを示していると指摘。その上で「ロシア経済に圧力をかけるための最初の選択肢を使い果たし、追加制裁には代償が伴うことを西側の指導者らは今になって身に染みて感じている」と述べた」

     

    経済制裁の限界は、和平交渉への精神的な準備をさせるであろう。

     

    (5)「ショルツ氏はロシアに対抗するための連携拡大を目指し、インド、インドネシア、南アフリカ、セネガル、アルゼンチンなど新興国の首脳をG7サミットに招いた。ところが、こうした国々は対ロシア制裁に加わる意向をほとんど示さなかったと西側当局者は語る。インドのナレンドラ・モディ首相はショルツ氏に対し、ウクライナでの戦争は途上国の経済に打撃を与えており、インドはロシアへのいかなる対抗策にも参加できないと告げた。両氏は27日午後に会談した。インド政府はロシア産石油の購入を正当化している」

     

    G7にオブザーバーとして出席した新興国は、経済制裁に加わる意思のないことを明らかにした。それは、各国がロシアの反撃に耐えられない経済体質であることの結果だ。

     


    (6)「シンクタンクの欧州外交評議会(ECFR)のグスタフ・グレッセル氏は現在議論されている制裁について、軍事ではなく経済でロシアに対応しようとする西側の意向を反映していると指摘する。ただ、ロシアは軍事的に敗北しない限りは侵攻を継続する公算が大きいという

     

    下線のように、ロシアは軍事的な敗北のない限り侵攻を続けるという。ならば、西側諸国も腹を括って大型火器の供与に踏み切らざるを得まい。ロシアの「核脅迫」に怯えていれば、ウクライナ侵攻を長引かせるだけだ。これが、結論のようである。 

     

     

     

     

    a0001_000268_m
       

    6月26日を以て、ロシア国債のデフォルト(債務不履行)が最終確定した。1918年以来の「歴史的事件」である。ロシアは、今回デフォルト状態に陥ったことで、経済、金融、政治の面での孤立が急速に進むという厳しい現実を示している。

     

    いかなる国といえども、世界覇権を握る西側諸国と軍事対決すると、このような冷酷な事態が起こることを示す象徴的な事例であろう。中国が軍事侵攻をすれば、ロシアと同様の結果を招くという意味で、重大な警告になる。

     


    『ブルームバーグ』(6月27日付)は、「ロシア国債がデフォルト状態、約1世紀ぶりー利払い猶予26日終了」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアが外貨建てソブリン債のデフォルト(債務不履行)状態に陥った。旧ソ連の初代指導者レーニンが帝政ロシア時代の債務の履行を拒否した1918年以来、約100年ぶりとなる。同国のウクライナ侵攻に対して米国と西側諸国が科した金融制裁が国外債権者への支払いルートを閉ざした結果、2件のユーロ債の利払いが履行できなくなった。

     

    (1)「債権者が5月27日の期日に受け取るはずだった約1億ドル(約135億円)の利払い猶予期間が26日に終了した。期限内に支払われない場合、デフォルト事由と見なされる。ロシア側はこれに対し、いかなる支払い義務も履行する資金があるにもかかわらず不払いを余儀なくされていると主張し、デフォルトの指定に反対する構えを示す。同国政府は先週、発行残高400億ドル相当のソブリン債について、ルーブルでの返済に切り替えると発表。西側が人為的に生じさせた「不可抗力」の状況だと批判した」

     

    ロシア側は、今回のデフォルト措置に反対意向を示している。支払う資金があるにもかかわらず、支払い手段を奪われたとしている。ロシアは、デフォルト判定された後の混乱を恐れている。世界の金融網から遮断されるからだ。

     

    (2)「デフォルトは、正式には格付け会社が通常認定するが、欧州連合(EU)が制裁強化の一環でロシアの発行体への格付けを禁止したため、S&Pグローバル・レーティングなど主要格付け会社は、既存の格付けを全て取り下げた。ロシアが発行したユーロ債は3月初め以降、発行体を破綻状態として扱うディストレスト水準で取引されてきた。中央銀行の外貨準備が凍結され、上位金融機関も国際金融システムから締め出されており、今回デフォルト状態に陥ったことは、ロシアの経済、金融、政治的孤立が急速に進む厳しい現実を浮き彫りにする。ただ、ロシアの経済と市場が既に被っている打撃を考えると、デフォルトは差し当たり象徴的意味合いが大きく、2桁のインフレと数年ぶりの深刻な景気縮小に見舞われるロシア国民への影響は限定的となりそうだ」

     

    デフォルト判定は、世界の主要格付け会社が行なう。EUは、ロシアの債券発行体の格付けを禁止している。「無格付け」の債券発行は不可能ゆえに、ロシアは孤立させられる。ただ、国民生活への影響は当面、限定的とされる。影響が出るのは、ロシア経済が大きく傾いた場合だ。来年以降となろう。

     

    (3)「ルーミス・セイレス・アンド・カンパニーのシニア・ソブリンアナリストのハッサン・マリク氏は、「違う状況なら返済手段を持つ政府が、外国政府によって債務不履行を余儀なくされる極めて珍しい事態だ。歴史の転機となる大きなデフォルトの一つになるだろう」と指摘した」

     

    このパラグラフは、支払う資金があってもデフォルトになるという珍しい事例である。政治的な理由で、今後も他国で起こり得る先例になる。さしずめ、中国が次の候補国であろう。

     

    (4)「猶予期間が終了したユーロ債に関する文書によると、発行残高の25%を占める保有者が「デフォルト事由」が発生したと認めれば、債権者自身でデフォルトと認定できる。同文書によれば、請求が無効になるには、支払期日から3年経過する必要があり、債権者側は直ちに行動する必要はない。経済制裁が最終的に緩和されると期待し、ウクライナでの戦争の今後の展開を見守る選択もあり得る

     

    下線部では、ロシアへの経済制裁が解除される場合を想定している。短期間の制裁で済むだろうか。ロシアが、ウクライナの復興資金を負担させられる事態になれば、絶対に拒否するであろう。となれば、制裁は解除されるはずがない。

     

    もう一つの注目点は、EUがロシはからのエネルギー輸入を他国へ切り変えることだ。ロシアは、大手輸出先を失うので経済失速が続く。ロシア国債の格付けは、低位に沈むだろう。ロシアは今後、ウクライナ侵攻で失ったものが、人命のほかに余りにも大きいことを悟らされるはずだ。

    a0001_000088_m
       

    EU(欧州連合)は、ウクライナとモルドヴァの両国を「加盟候補国」と承認した。EU加盟国27カ国が全会一致で決めた。今後は、国内の制度改革が実効を挙げたか、その実績評価によって、正式な加盟国になる。これによって、経済的なメリットを受ける。EU域内では、モノやサービス、ヒトが自由に移動できる。ウクライナ国民も、EU市民になれば域内のどこにでも住み、働くことができるからだ。現状から見ると、夢のような環境が生まれる。

     

    こうした経済的メリットもさることながら、「EUに加盟することで、ウクライナはロシア世界の一部ではなく、欧州の独立主権国家という地位を確立できるだろう」という指摘がある。バルト三国(エストニア・リトアニア・ラトビア)が、「一寸の虫にも三分の魂」で自由を叫び、ロシアから独立した血の叫びを想起すべきだろう。人間には、自由が不可欠である。ウクライナ国民は、それを勝ち取ろうとしているのだ。

     


    英国『BBC』(6月23日付)は、「ウクライナがEU加盟候補国へ『何が変わる』ロシアの反応は?」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ゼレンスキー大統領は、今年2月にロシアの侵攻が始まった5日後に、EU加盟を申請した。ウクライナ側は即時の加盟を求めているが、その手続きには数年かかる可能性もある。EUに加盟すれば財政的な利点があるだろう。しかし、ブリュッセルのシンクタンク「欧州政策研究センター」のザック・パイキン博士は、ウクライナの動機は経済的なものではないと指摘する。「EUに加盟することで、ウクライナはロシア世界の一部ではなく、欧州の独立主権国家という地位を確立できるだろう」と、パイキン博士は述べた」

     

    ウクライナのEU加盟への目的は、欧州の一員になってロシアと縁を切りたいことだという。ウクライナ人の親類縁者はロシアに一杯いるが、もはや価値観が異なる以上、絶縁したいのだ。ウクライナ正教は、すでにロシア正教から独立した存在である。信仰が異なる以上、ロシアの支配を受けたくないという独立精神が旺盛なのだ。

     


    (2)「欧州委員会は、
    申請した国が加盟候補にふさわしいかどうかを判断する。安定した民主主義政府があるかどうか、人権が尊重されているか、自由市場経済が存在しているかどうかなどが基準となる。この手続きの後、欧州委が申請国を加盟候補に推奨すると、次は全加盟国の承認が必要となる。全加盟国が承認し、正式な加盟候補となった国は、数年をかけてEU法や規制を国内法に適用していく。このプロセスが終わって初めて、加盟候補国は加盟条約に署名することができる。この条約も、全加盟国が批准する必要がある」

     

    欧州は、カソリックかプロテスタントである。宗教改革や科学革命を経験している文化圏だ。それだけに、正教の古い慣行に染まっている国では、汚職などがはびこっている。EUは、それを糺さないと正式加盟国として受入れない。

     


    (3)「ブルガリアやルーマニア、クロアチアといった直近の加盟国は、一連の手続きに10~12年を費やした。アルバニアと北マケドニア、モンテネグロ、セルビアは正式な加盟候補国となって数年がたっているが、手続きは滞っている。トルコも1999年に加盟候補国となったものの、人権侵害への懸念があることから、加盟交渉は中断したままだ。ウクライナの隣国のモルドヴァも、ウクライナと同じ日に加盟候補国に認められた。ジョージアも同時期に申請したが、いくつかの改革が必要と判断された」

     

    ブルガリアやルーマニアの宗教は正教である。クロアチアはカトリックが8割である。一連の手続きに10~12年も費やしている。ウクライナは、こういう国々と比べてどこまで短縮できるかだ。ウクライナ侵攻という多大の犠牲を被っても、新しい国造りを目指す熱意が、期間を短縮させることを期待したい。

     

    (4)「ウクライナは、EU加盟申請への準備としてすでに、数々の国内法や規制をEU基準に変更している。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、ウクライナは「良い仕事をしている」と述べた一方で、加盟に向けてはさらに「重要な改革」が必要だと指摘した。これには、法の統治の強化、人権状況の改善、オリガルヒ(新興財閥)の権力縮小、汚職対策などが挙げられている。欧州政策研究センターのパイキン博士はさらに、「ウクライナは一人前の市場経済を構築する必要がある。旧ソ連国には難しい課題だ」と指摘した。また、大きな批判を浴びている司法体系の整備も、課題の一つだという」

     

    ウクライナが、EUの加盟国になるには下線部のような改善が課されている。オリガルヒの権力はかなり縮小されている。ウクライナ侵攻撃退で、自費で戦費を提供している例もあるという。

     


    (5)「EU加盟から15年がたった
    ルーマニアでは国民総所得が3に、ブルガリアでは2に拡大した。EUは欧州構造投資基金(ESIF)を通じ、両国に数百億ユーロを投入している。こうした資金は、新しい道路や港の建設などに充てられ、経済開発を支援している。2014~2020年に、ブルガリアは112億ユーロを、ルーマニアは350億ユーロを受け取っている。一方で、各国の腐敗・汚職に取り組む非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナルは、こうした資金の多くが汚職によって失われていると指摘する」

     

    EUが、汚職に厳しい目を向けているのは、EUからの補助金が汚職で消えているからだ。EUが、新加盟国のハードルを高くしているの裏には、こういう事情があるのだ。

    a0960_006628_m
       

    ウクライナ侵攻は、すでに4ヶ月を過ぎた。原油や穀物の価格高騰で国民生活が圧迫されている。フランスでは、総選挙で極右政党が第二党に踊り出るなど波乱含みである。これを受けて、6月26~28日にドイツで開催されるG7首脳会談では、ウクライナ支援で結束を固める方針を打ち出している。

     

    『中央日報』(6月24日付)は、「マクロンが真っ先に打撃、底なしのウクライナ支援で経済的圧迫を受ける欧州」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウクライナ侵攻によって勃発した戦争が4カ月目を迎えながら欧州が揺れている。これまでロシア報復を目標に単一隊列を誇っていたが、戦争発インフレで経済沈滞が深刻化し、戦争終息と休戦を要求する声が力を増している。

     


    (1)「イタリアでは、ウクライナ支援問題をめぐり連立内閣が崩壊する兆しまで見えている。政府与党である五つ星運動(M5S)の党首であり元首相であるジュゼッペ・コンテ氏は「武器支援は戦争を延長してむやみに犠牲を増やすだけ」としながら「対話・交渉を通した早急な終戦」を主張する。ウクライナ支援を主張するマリオ・ドラギ首相との衝突が続き、コンテ氏に反発した議員が離党して新党を結成すると21日(現地時間)、明らかにした。最近、欧州のシンクタンク「欧州外交問題評議会(ECFR)」の調査によると、フランス・ドイツ・ルーマニアなどで「戦争を最大限早期に終わらせなければならない」という回答(35%)が「ロシアを懲らしめなければならない」という回答(22%)を上回った」

     

    物価上昇が、市民によるウクライナ侵攻へのスタンスに影響を与え始めた。イタリアでは、連立政権に亀裂が入った。フランス・ドイツ・ルーマニアなどの世論調査では、戦争の早期解決派が増えている。



    (2)「何よりロシアに対するエネルギー制裁が西側にブーメランとして返ってきている。ドイツは23日、ロシアのガス供給が減少しながらガス非常供給計画を第2段階である「警報(Alarm)」に引き上げた。欧州連合(EU)は身を削る苦痛に耐えてロシア産の石炭・石油禁輸措置に出たが、かえってこれはガス・原油価格を暴騰させてロシアの残高を増やしている。さらにロシアが制裁の応戦として欧州に向かう天然ガスのパイプラインを閉めて黒海を通した食糧輸出を統制すると、各国の物価不安に広がっている」

     

    ドイツのハベック経済相は、天然ガス供給が増えない限り、12月までにガス不足に陥るとの予測を示した。一方、ショルツ首相は22日の議会演説で、G7首脳会談において「プーチン(ロシア大統領)の帝国主義との戦いだけでなく、飢餓、貧困、健康危機、気候変動との戦いでも世界の民主主義国が共にある」ことを示さなければならないと強調。西側が、南半球の途上国との連帯を示さなければ、ロシアや中国が恩恵を受けることになると警告した。

     


    (3)「経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国の今年4月の消費者物価は9.2%上昇した。通貨危機時期だった1998年(9.3%)以降、最高値だ。食料品(11.5%)価格が最も大きく跳ね上がった。ユーロ圏の先月の消費者物価は8.1%、米国は8.6%高騰してすべて40年ぶりの最高値を記録した。いわゆる「プーチンフレーション(プーチン+インフレーション)」の襲撃だ」

     

    OECD38ヶ国の今年4月の消費者物価は、9.2%も上昇した。1998年以来の高騰である。台所への影響は深刻である。

     

    (4)「物価急騰の中で賃金引き上げを要求するデモにも火がついた。英国では鉄道労組が33年ぶりに最大規模のストライキに突入したことに続き、法曹・医療・教育分野の労働者までストライキに参加する兆しをみせている。フランス・スペイン・イタリア・ポルトガルでは航空関連労働者が来月ストライキを予告したほか、ベルギーは20日にブリュッセル空港保安要員のストライキですべての出発航空便が欠航となった。英国の鉄道ストに参加しているある男性は「闘わなければ家賃も暖房費も出すことができない」とし、切迫した心情を吐露した」

     

    物価高騰を背景にして、賃上げ要求も激しくなっている。英国では鉄道労組が、フランス・スペイン・イタリア・ポルトガルでは航空関連労働者が来月ストライキを予告している。



    (5)「これによる民心離反にフランス政府が真っ先にダメージを受けた。19日に開かれた総選挙で与党は過半議席の確保に失敗した。フランスの政府与党が過半を獲得できなかったのはこの20年で初めてだ。エマニュエル・マクロン大統領がガス・電気料金の上限ラインの設定などで支持層をつなぎとめようとしたが失敗した。選挙を控えた他の国々も神経を尖らせている。ドイツは10月、民心のマイルストーンと呼ばれるニーダーザクセンで州議会選挙を行う。イタリアは翌年6月の総選挙日程が決まった。米国は11月に中間選挙を控えている」

     

    フランスの総選挙では、極右政党が第二党の議席を占めた。イタリアは来年6月の総選挙日程が決まった。米国は11月に中間選挙を控えている。与党にとっては、物価高の影響が危惧されるところだ。

     


    (6)「ウクライナは切なくSOSを叫んでいる。19日、ドミトロ・クレバ外相は「米国と欧州同盟国はウクライナに迅速に適正な数字の高性能重火器を供給しなければならない」と強調した。また「西側は既存のロシア制裁はそのまま維持しつつも新たな制裁を賦課せよ」と要求した。
    西側が、大義名分と現実の間で選択の瞬間を迎えたと、海外報道は伝えている。侵略戦争、民間人虐殺など数多くの戦争の罪を犯した「ロシア報復」という名分は明らかだが、自国民の苦痛を無視したまま無制限にウクライナを支援できないためだ。西側はEU首脳会議と主要7カ国(G7)およびNATO(北大西洋条約機構)首脳会議などを相次いで開催しながら内部引き締めとあわせて代案探しに出た」

     

    ウクライナは、さらなる武器の供与を求める切実な声を上げている。西側は、これに応え民主主義の価値である大義を守らなければならない。一方、現実では物価高が襲っている。国民はその不満を我慢できない段階だ。難しい選択の局面にある。

     

     

    このページのトップヘ