中国は、ロシアのウクライナ侵攻を影で支援している。価値観に基づく同盟的な結束力に基づくものではない。中国にとって、米国と対抗する上でパートナーとしてのロシアが必要という次元の話だ。中国は、ロシアから安い価格で石油や天然ガスを輸入できるメリットを享受している。ただ、ウクライナ侵攻によって、中国は米欧との関係が決定的に悪化するマイナス要因もつくり出した。中国製品への高い関税障壁が張り巡らされる事態を招いている。中国にとって、対ロシア関係はプラスとマイナスが織り混ざっている。
『日本経済新聞』(11月21日付)は、「実利でつながる中ロの蜜月」と題するインタビュー記事を掲載した。モスクワ大付属IAAS所長 アレクセイ・マスロフ氏へのインタビューである。
中国はウクライナ戦争により、ロシアの原油と天然ガスを極めて安価に調達できるようになった。ロシアへの製品輸出でも独占的な地位を占めている。だが中国にとって対ロ接近のメリットは、米欧との関係悪化に伴うデメリットを相殺するほどではない。
(1)「中国はここにきて、国内経済の停滞が続くようになった。一因は輸出の低迷で、背景にはウクライナ戦争がある。つまり中国が米国より、ロシア寄りの立場をとっていることが負の影響を与えている。中国から欧州に向かう物流回廊も戦争で壊されている。中国はなるべく早く、ウクライナでの軍事行動をやめさせたいと考えている。あらゆる戦闘行為が自国に経済的な打撃を与えるからだ。中国は間接的にせよ、ロシアにしかるべき政治的圧力をかけているはずだ。中国がより本気で、ウクライナの紛争を調停したいと意気込んでいるようにもみえる」
中国は、経済減速が目立っている。西側諸国が、対中貿易で厳しい姿勢に転じていることも大きな負担だ。米国次期大統領のトランプ氏が、どのような圧力を加えてくるかも分らない。こういう状況下で、中国はロシアにウクライナ侵攻を止めさせたいのが本心であろう。
(2)「中国は元来、米国や他国との関係を損なってまでロシアに加担するつもりはなかった。ロシアの軍事行動を支持すれば、結果的に中国の利益を損ねるとみている。ロシアとの貿易決済を意図的に遅らせたり、中国が軍事転用可能とみなす設備や部品の対ロ輸出を難しくさせたりしているが、ロシアへのいら立ちを示しているのだろう。とはいえ、中国はロシアが戦争で負けることは望んでいない。中国にとってロシアは有望なパートナー国だ」
中国の経済関係の主体は、対西側諸国である。その関係を悪化させてまで、ロシアを支援するには限界がある。一方、ロシアが中国の有力パートナーだけに、敗北されると大きな影響をうける。中国が、国際社会で孤立するからだ。こういうジレンマを抱えている。
(3)「ロシアが負ければ、中国は国際社会で孤立し、単独で米国に対峙せざるを得ない。現時点で中国は、技術開発力で決して米国に勝てないと自覚している。そこで中国は対米で共闘してくれる強いロシアを欲している。中国がウクライナ戦争で、ロシア寄りの立場を完全にやめることはない」
中国は大言壮語しているが、自らつくり出した技術はゼロである。全て、米国発である。こういう米国と対決しても利益はないが、政治的に対抗してメンツを保ちたい。それには、相棒にロシアが必要という関係だ。
(4)「中国は、米欧がロシアに科す経済制裁の出方も注視している。銀行口座や資産の凍結、国際銀行間通信協会(Swift)からの排除といった措置が将来、中国に科された場合の影響などを分析している。台湾有事や南シナ海での紛争などを想定しているのだろう。中国は米欧による経済制裁下で、ロシアがどのように対処し、行動しているかについても詳細にフォローしている。結局、中国は自己の目的、利益のために相当程度、ロシアを利用しているわけだ。中国は、ウクライナ戦争を道徳論や倫理ではなく、自国の利益になるかどうかという完全に実利的な基準でみている」
中国は、露骨なまでに「国益中心主義」である。利益のために、ロシアを利用しているだけである。ロシアとは長い国境線を接しているので、「火種」を消しておきたいのだ。
(5)「ロシアにとっては、中国が唯一の大国パートナーだ。これはロシアの選択ではなく、やむを得ない結果だ。ロシアは中国頼みの状況が安全でないことも十分に承知している。そこで他の国々とも関係を強めて新たなパートナーシップを築こうとしている。プーチン大統領は今年に入って、関係改善のためにベトナムやモンゴルを訪問したり、マレーシアやインドネシアとの対話を盛んにしたり、アフリカとの関係強化に重点を置き始めたりしている」
ロシアにとっての中国は、唯一の大国パートナーである。だが、100%の信頼感を持ってはいない。他国との関係強化を模索している。東南アジアへも接近している。北朝鮮もその一環であろう。
(6)「米国を含めどの国も、中ロが過去の対立を乗り越え、ここまで急接近するとは予測しなかった。だが政治状況が変化していく中、今後10~15年の間に様々な対立、摩擦や紛争が起きる可能性は否定できない。ロシアの極東地方で中国が経済的な圧力を強めたり、旧ソ連の中央アジア地域で中ロ間の紛争が起きたりする恐れも排除できない。中ロの蜜月は未来永劫(えいごう)続くものではない」
中ロ関係は、一枚岩の状態でない。中国が、中央アジアへ支配権を及ぼしたり、ロシア極東地方で圧力を強めれば、中ロ関係は瓦解する。中ロの勢力関係が地政学的に重なり合っていることが、将来の紛争の種になりかねないのだ。