勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    中国が、主宰した23日のBRICS(中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ)オンライン首脳会議の共同発表は、なんら目新しいものもなかった。事前の情報では、BRICSを米欧との対抗軸に押し上げる「策略」を練っていると伝えられていたのだ。それが、拍子の抜けするような「常識的」内容に止まった背景は、「クアッド」(日米豪印)へ足を踏み入れているインドが、中ロの「策略」に賛成しなかったのであろう。

     

    『ブルームバーグ』情報ではインドが、中ロによるBRICSを米欧対抗軸に変質させることに反対すると漏らしていた。BRICS会議直前、中ロはそれぞれ米国とNATOを厳しく批判していた。激しい前哨戦であっただけに、BRICSでも同様の主張をしたはずだ。だが、インドは、この過激なラインに乗らなかったのだ。

     


    ロシアは、ウクライナ侵攻によって世界的に評価を急落させている。逆に米国の評価が上がっている。

     

    米国の世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」は、「2022グローバル・アティテュード・サーベイ」を6月22日に発表した。主要18カ国の成人を対象にした今回の調査で、米国とNATOに対しては友好的な評価を示した。だが、ロシアに対する評価はこれまでの最低を記録した。

     

    米国に対しては61%が「好感」を示した。ロシアに対しては、「好感」が10%で2020年から急激に下落。過去最低値を記録した。「非好感」の回答の割合は85%で、中でもポーランドのロシア非好感度は97%でもっとも高かった。

    ロシアに対する「好感」がこれほど低い状況では、中ロ以外のBRICSメンバーのインド、ブラジル、南アフリカもロシアの言分を認めて、米欧へ対抗する気持ちも失せたに違いない。

     


    『時事通信』(6月24日付)は、「ウクライナ危機で対話支持、BRICS首脳が『北京宣言』」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席が主宰し、ロシアのプーチン大統領らが参加した新興5カ国(BRICS)のオンライン首脳会議は23日、ロシアとウクライナの対話を支持するとした「北京宣言」を採択した。ただロシアは侵攻したウクライナで攻勢を強めており、現時点で対話の実現は見通せない。

     

    (1)「中国外務省によると、宣言は「各国の主権や領土の一体性を尊重する」とし、「対話や協議を通じ国家間の不一致や紛争を解決すべきであり、危機の平和的解決に資する努力を支持する」と言及した。朝鮮半島情勢に関しては「完全非核化」に向けた北朝鮮など関係国の話し合いを後押しした」

     

    このパラグラフは、これまでの中国が表向きに「中立」を装った発言と寸分、変わらない内容だ。インドが、米欧に対抗するという過激な発言に賛成しなかった結果であろう。中国は、インドの外交戦略を完全に見誤っている。

     


    インド最大の敵は、中国である。国境線で繰返される武力紛争がそれを示している。インドが、好き好んで中国の片棒を担ぐはずがない。中国が、インドへ接近しているとすれば、外交的に米欧と対立して苦しい立場に立たされていることを示すものだ。

     

    「中ロ枢軸」は孤立している。厳密に言えば、習近平氏とプーチン氏の二人が、肝胆相照らす関係であり、国家は道連れにしているだけだ。この二人の寿命に限りがある。未来永劫にわたり、中ロが一体化している訳でない。巷間、言われているようにプーチン氏に健康不安があるとすれば、プーチン後ますます中ロの関係は不安定化しよう。

     

    次の記事もご参考に。

    2022-06-24

    中国、「墓穴」BRICS首脳会議、米欧との対抗軸に利用の構え「インドは反対意向」

     

     

    テイカカズラ
       

    「永世中立」を貫いているスイスが、今回のウクライナ侵攻でロシアへの経済制裁に加わった。平和主義のスイスが、ロシア制裁に参加した理由は、増え続ける地政学的危機に対し、もはや孤塁を守るリスクの大きさに耐えられないという判断だろう。「中立」は目的でなく、手段であると割り切ったもの。グローバル化経済の下で、中立という選択は不可能になっている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月16日付)は、「スイス、経済では『脱中立』、ロシア制裁には参加」と題する記事を掲載した。

     

    スイス政府は、ウクライナを支援する同盟国だけでなく、スイス国民をも驚かせる対応を示した。ロシアへの経済制裁で欧州連合(EU)とほぼ足並みをそろえたのだ。制裁の規模は小さくはない。個人資産の凍結はプーチン政権と近い関係にある1100人に及び、そのうち数百人はスイスの銀行と取引がある。さらに重大なのはロシアの天然資源の禁輸措置を実施したことだ。天然資源の大半はスイスのツーク州とジュネーブ州の商品取引会社を通じて売買されていたため、ロシアにとっては痛手となる。

     


    (1)「経済制裁に参加したものの、スイス政府は同国が長年守り続けてきた永世中立の方針は変わっていないと力説している。しかし、国内最大の政治勢力で右派ポピュリスト(大衆迎合主義者)政党であるスイス国民党(SVP)のように、反論する声もある。SVPの定義では中立は政治的介入を一切受けることなく自由に取引できることを意味する。スイス政府がEUや米政府と歩調を合わせることはスイスの価値観を裏切る行為になるというのがSVPの主張だ」

     

    スイス政府は、苦しい弁明をしている。経済制裁に加わったが、永世中立の方針に変わりないとしている。これに対する国内の反対論も強い。突然の方向転換である以上、当然であろう。

     

    (2)「SVP幹部であるトーマス・エシ氏は今月、議会で制裁はロシアの侵攻を止めるのに有効だという証拠がなく、スイスの経済的利益を損ねているだけだと声高に論じた。エシ氏の主張には一理ある。スイスは他の西側諸国に比べるとロシアへの制裁で失うものは多い。スイスで事業を展開する利点には、教育水準の高い労働力や有利な税制、安定性、法の支配など多数あるが、最大の魅力はスイスの確固たる独立性、中立性だ」

     

    スイスの最大の魅力は、確固たる独立性、中立性にあることは疑いない。それに傷を付けても経済制裁に加わったことに、深い理由があるはずである。

     


    (3)「多くの企業がスイスに拠点を置くのは、まさしく米国やEUから規制、司法、政治の面で介入を受けない「安息地」であると認識されているからだ。スイスの銀行がロシアの顧客の資産凍結を命じられたなか、銀行業界では今、中国の顧客がスイスの銀行との取引継続をためらうのではないかとの懸念が広がっている。台湾問題をめぐって緊張が高まれば、スイスではどんなことが起きるのかということだ」

     

    スイス銀行業界は、中国が台湾問題で緊張感が高まれば、スイスへの預金を回避すると想像し始めている。

     

    (4)「ロシアのウクライナ侵攻は、国際政治における時代の転換点となり、ドイツ国内は大きく揺れている。同国は長年にわたって堅持してきた平和主義の再考を迫られている。そうなると、変化の度合いは小さいもののスイスも経済面でドイツと同じような路線変更を検討せざるを得なくなるのではないかと考えられる。少なくともそうした方向性を視野に入れるかもしれない」

     

    ドイツ国内も平和主義が揺れている。地政学的危機が、現実に起こった以上は傍観できないという苦悩だ。スイスも同様の悩みを抱えている。近隣国の不幸を見て見ぬ振りできないのだ。それが、欧州の連帯感である。

     


    (5)「西側諸国はどの国も周辺国の経済や西側の金融システムと深く統合が進んでしまった。増え続ける地政学的危機に直面したときに、経済的な犠牲を払ってまで独自路線を貫くのは難しくなっている。これは今に始まった問題ではない。ウクライナ危機によって浮き彫りになっただけだ。スイスは何年にもわたってEUと同等の経済的自由を享受するために厳しい交渉を続けてきた」

     

    スイスは、EUと同等の経済的自由を享受できる交渉を続けた。こういう一方で、EUが団結してロシア制裁に動いているときに、スイスだけ「永世中立」と唱えられない事情はよく分るのだ。

     

    (6)「スイスの元外交官、トーマス・ボーラー氏に言わせれば、ビジネスや経済面での「中立」を巡る議論の解決は難しくないという。同氏はスイスの現行の公式な中立政策の多くを起草したことで知られる。また、第2次大戦中にナチスがユダヤ人らから略奪しスイスの銀行に隠した資産を、もともとの所有者やその相続人に返還するためにスイス政府が1996年に設置したタスクフォースの長も務めた。中立はスイスの外交政策の手段であって目的ではないとボーラー氏は説明する。目的はスイスの国益を可能な限り強力に守ることだ

     

    下線部が、スイスの本音を示している。中立は外交手段である。目的でない以上、可能な限り合法的に国益を守ることにつきる。

     


    (7)「スイスが、経済的中立の現実から目をそむけられる時代は終わったと同氏は言う。「我々は自分たちの友人が誰なのか、自分たちと同じ価値観を持つのは誰なのかを知る必要がある。スイスは選択しなければならなくなった」。スイスの実業界も、スイスで事業をする人も、選択を迫られている」

     

    スイスは、最終的に自国と同じ価値観を持つ友人を選ばざるを得ない。それが、今回のロシア制裁への参加という結論である。

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    ロシアのプーチン大統領は、意気軒昂である。西側諸国から経済制裁を受けているが、ロシアの経常収支黒字は資源価格の高騰で、今年1月~5月に約3倍増の1100億ドル(約14兆5600億円)にも達している。このまま行けば、今年は過去最高の経常黒字となる見通しだ。

     

    いったい、ロシアへの経済制裁はいつから効き出すのか。この夏から秋にかけて、ロシア経済の問題点が浮き彫りになる。失業率の顕著な上昇である。GDP成長率は、今年と来年の2年間のマイナス成長によって、過去の成長率をゼロにするほどの効き方になると予測されている。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月17日付)は、「対ロシア制裁、まだ効かないのはなぜ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアに対する制裁は、エネルギー価格高騰という予想外の恩恵によって相殺され、十分な経済的痛みを与えられずにいる。ロシアの戦争遂行努力を妨げ、ウラジーミル・プーチン大統領を交渉の席に着かせる狙いはうまくいっていない。ただ、この「耐性」は長続きしないと見られている。年内に深刻な景気後退が始まり、貧困が拡大し、経済的潜在力が長期的に低下すると多くのエコノミストが予測している。今のところ、制裁を科すペースが遅く、ロシアの経済安定化への取り組みが成功し、石油・ガス輸出を継続できていることが、同国に与える打撃を和らげている。

     

    (1)「ドイツ国際安全保障問題研究所のロシア経済専門家ヤニス・クルーゲ氏は、「現時点で、経済制裁はロシアに交渉に臨む動機を与えていない」と指摘。「ロシア政府は数年間の景気悪化を乗り切り、好転するまで待てるだろうと確信している。西側の制裁をかわすのに成功していることが、ロシアをつけあがらせている」。ロシアのサンクトペテルブルクで今週開催されている国際経済フォーラムには、例年ここに集う世界の政治、経済、実業界のリーダーたちの姿がなかった。

     

    現在のロシアは、経済制裁によって資源価格が高騰してその恩恵に浴している。制裁のマイナスをはるかに超過している。

     


    (2)「欧州はエネルギー面のロシア依存脱却に躍起となるが、ロシアは世界的な価格高騰のおかげもあって毎日何億ドルもの石油・ガス販売収入を得ている。その結果、ロシアの対外貿易の指標である経常収支の黒字額は、今年1月~5月に約3倍増の1100億ドル(約14兆5600億円)に達した。このまま行けば今年は過去最高の経常黒字となる見通しで、ロシアは準備金を相当積み増せる。ロシアはこの潤沢な資金を緊急時に備えるためではなく、経済の下支えに使っている」

     

    今年1月~5月で経常収支の黒字額は前年比、約3倍増の1100億ドルにも達している。その分が、制裁を科している西側諸国の負担になる皮肉なことが起こっている。独仏が、ウクライナ支援に二の足を踏み始めた背景である。

     

    (3)「国際金融協会(IIF)は今月取りまとめた報告書の中で、「ロシアの構造的な経常黒字はバッファーの迅速な構築につながり、制裁の効果が時間と共に低下するのは必至だ」と指摘した。IIFの試算によると、資源価格が高止まりし、ロシアがこれまで通り石油・ガス輸出を続けるならば、ロシアは今年、3000億ドル以上のエネルギー販売代価を受け取る可能性がある。これは西側の制裁で凍結されたロシアの外貨準備の額にほぼ匹敵する」

     

    ロシアは今年、3000億ドル以上のエネルギー販売代価を受け取る可能性があるという。凍結された外貨準備高に匹敵する。これでは、プーチン氏も鼻息が荒くなろう。

     


    (4)「西側諸国にとっては、ロシアへの締めつけを強めるほど、消費者物価の急上昇に直面する自国経済の巻き添えリスクが高まるという現状がある。リスクとのバランスを図るため、西側諸国はエネルギー関連の制裁に慎重にならざるを得ない。欧州連合(EU)がロシア産石油の90%の輸入停止で合意したのは大きな一歩だが、この措置が完全に効力を生じるのは今年末だ。プーチン氏は、西側が仕掛けた経済の電撃戦は失敗したと主張し、制裁の経済的影響を小さく見せようとしている。だが短期的な危機を回避できたのは、ロシア中央銀行が迅速に策を講じたことによるものだ」

     

    EUは、ロシア産石油の90%の輸入停止措置を行なうが、完全に効力を生じるのは今年末からである。それまで部分的にしか、制裁効果は発揮しないである。タイムラグがあるのだ。

     


    (5)「西側が科す制裁の影響は一様ではない。金融セクターの制裁――ロシアを世界的な決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除し、ロシア中銀との取引を禁じるなど――は即効性があるものの、マクロ経済に影響が出るのは時間がかかるとアナリストは言う。IIFの報告書は、「経済制裁は一夜にしてロシアの行動を止めることはできない。行動を続けることで支払う代償を引き上げるのが狙いだ」と指摘した。「その代償は最終的に、ロシアのウクライナに対する戦争が法外に高くつく水準に達する可能性がある」 それがいつ頃になるかは不明だが、すでに将来の経済停滞の輪郭は見え始めている。経済への影響は今年下半期に拡大する見通しだ。アナリストの予想では、これまで横ばいだった失業率が今秋には上昇するという。ロシア事業の縮小を表明した1000社余りの外資企業の多くは、労働者に賃金を払い続けている」。

     

    ロシア経済への影響は、今年下半期から拡大する見通しだ。具体的には、今秋から失業率の目立った上昇が始まると見られる。現状では、外資企業の1000社余りが労働者へ賃金を払い続けている。これも秋頃には期限切れになるからだ。

     


    (6)「前出のドイツのロシア経済専門家ヤニス・クルーゲ氏は、「夏から秋にかけてロシア経済の問題点が、徐々にではあるが増大するだろう」と語った。IIFはロシア経済が今年は15%、2023年も3%のマイナス成長になると予想。それによって約15年分の経済成長が消し飛ぶとみている。ロシアの今年の国内総生産(GDP)の落ち込みをより控え目に予想するアナリストもいるが、それでも10%程度は減少する見込みだという。ロシア中銀のアナリストは、今後経験するのは「産業化の逆行」だと話す。すなわち、より前の段階の技術を生かした経済成長だ」

     

    IIFは、ロシア経済の今年の成長率がマイナス15%、2023年もマイナス3%成長率になると予想する。この2年間のマイナス成長で、過去15年分の成長率が帳消しになり、古い技術による経済成長を余儀なくされる、というのだ。

     

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    ロシア人はギャグが上手い。経済制裁で部品の輸入が止まった結果、新車は「反制裁車」として売り出されている。新車に定番のエアバッグ、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)、横滑り防止装置(ESC)、シートベルト・プリテンショナーのない「新車」が販売されているのだ。ロシアの新車は、何十年も前に逆戻りした「オールドカー」になっている。

     

    西側諸国の経済制裁効果はまだ、数値的にはっきりと目に止まる結果にはなっていない。だが、ロシアではこれから出てくると警戒している。ロシア経済が止まることはないとしても、世界の動きから大きく取り残されると気を揉んでいるのだ。

     

    英『BBC』(6月19日付)は、「ロシア経済、前途は多難 制裁が効き目」と題する記事を掲載した。

     

    モスクワ「ロシアで最も手頃な新型車です。名前は……反制裁車です!」。これはロシアの国営テレビが、西部の工業都市トリヤッチの生産ラインから出てきた、さほど改良されたとは言えない新型のラーダを、努めて前向きに紹介した時の売り文句だった。「最も手頃な」は、おそらく唯一のセールスポイントだ。西側の制裁によって、ロシアの自動車メーカーは、かつて輸入していた部品をすべて輸入できずにいる。そのため、「反制裁」のラーダ・グランタには、エアバッグも、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)も、横滑り防止装置(ESC)も、シートベルト・プリテンショナーもない。

     


    (1)「ウクライナ侵攻から4カ月近くたち、新型のラーダはある意味、ロシア経済を象徴している。部分的に欠けてはいるが、それでも機能し続けている。「それでも機能している」のは大したものだ。ロシアは現在、世界で最も制裁を科された国となっている。データサービス会社スタティスタによると、ロシアの個人と企業を対象とした制裁は1万0500件を超える。うち7500件以上は、ここ4カ月間に実施された。戦争が始まってこれだけたてば、今頃はもうロシア経済の歯車は完全に外れてしまっているはずだと、一部の専門家が予想していたのも無理はない」

     

    ロシアは、イラン以上の制裁件数になっている。大きなダメージを受けている筈だと想像されやすい。だが、まだ基本部分では機能している。ただ、レベルが下がっていることだ。

     


    (2)「モスクワのコンサルティング会社マクロ・アドバイザリーのクリス・ウィーファーさんは、「この規模の国際的な制裁をいきなり科されていたら、経済は崩壊していただろう」と話す。「だが、ロシアは2014年以降、段階的に制裁を経験してきた。そのレベルはかなり強まっているが、ロシアはいつでも制裁に対応していたという面もある」「その上、供給の寸断を各国が恐れているため、ロシアはエネルギーや原材料の輸出でこれまで以上に稼いでいる」と、ウィーファーさんは言う。「今年は5月までに経常収支、の黒字が過去最高の1100億ドル(約15兆円)に達した。その金は軍事に使うほか、国営企業への補助金に充てて、失業率の急上昇や所得の過度の下落を防ぐこともできる」と指摘する」

     

    ロシアには、2014年から受けてきた制裁の歴史がある。「制裁馴れ」している面があるのだ。ただ、今回の制裁は技術・サービスなどと広範囲にわたっている。原油採掘の井戸で用いられる技術やサービスの6割は西側の提供である。これが打ち切られた以上、影響は徐々に広がるであろう。

     


    (3)「ウィーファーさんは続ける。「資本規制によってルーブルの価値は上がり、インフレも緩和し始めている。だが、この先には深刻な不況が待ち受けている。ロシア経済は今年、最大10%縮小すると予想されている。ロシアの消費者は、その全面的な影響をまだ実感していない。モスクワのスーパーの棚は、まだかなり埋まっている。ただ、一部の輸入品は手に入らなくなっている。変化が最も明らかなのは、モスクワのショッピングセンターだ。かつてはにぎわっていたのに、今ではだいぶ静かだ。客はわずかで、品ぞろえも少ない。多くの外国ブランドは、ウクライナ侵攻への抗議として、ロシアでの事業を停止または完全撤退した。多くの店でシャッターが下りている」と指摘する」

     

    ロシアの消費者は、その全面的な影響をまだ実感していない。モスクワのスーパーの棚は、まだかなり埋まっている。ただ、一部の輸入品は手に入らなくなっている。こうして、次第に輸入品は影を消していくであろう。耐久消費財の半分近くが輸入依存である。経済制裁の影響が出るのは、在庫が切れるこれからだ。

     


    (4)「ロシアの経済苦境は、同国政府が考えを改めることにつながるろうか? ウクライナでのロシアの攻撃終了を早めることになるだろうか? 制裁は機能しているのだろうか?  「目的が、経済や金融の危機を作り出して行動を変えさせることなら、答えはノーだ」と前出のウィーファーさんは考えている。「ロシアは(まだ)危機を経験していない。だが、経済的な消耗の時期に入りつつある。秋冬までには、より厳しい現実に直面する。とりわけ、ヨーロッパによるロシア産石油・石油製品の禁輸の効き目が出て、政府が支出を減らさざるを得なくなった時が問題だ

     

    今年の秋から冬にかけて、経済制裁の影響は強く出てくるであろう。EU(欧州連合)によるロシア産の原油や天然ガの輸入禁止効果が表面化する時期だ。タンカーの保険も禁止することになった。EUの禁輸体制が整えば、ロシアが無傷の筈がない。

     


    (5)「また、ウィーファーさんは指摘する。「ロシアは今後23年、経済の停滞を避けられない。問題は、それが10年続くのかどうかだ」「ロシアは西側の技術を輸入できずにいるが、それを自国で代替できない。中国は、制裁対象に含まれる技術をロシアに提供しないと明言している。そのようなことをすれば、二次制裁を受けるかもしれないからだ」「ロシア経済が機能しなくなるとは思えない。ただ、技術と効率のレベルはかなり下がるだろう。世界との差は一段と広がっていく。ロシア経済は取り残されるだろう」

     

    西側諸国が、ロシアへの経済制裁をいつ解除するのか。プーチン氏が、大統領に止まっている間は不可能である。プーチン氏は今年、70歳である。86歳まで大統領を務める意向とされる。となれば後、16年間の経済制裁は解かれないことになろう。ロシアで、空恐ろしいことが起こる可能性を否定できないのだ。

     

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    ロシアは、西側諸国の経済制裁によって資金減を絶たれた訳でない。EU(欧州連合)が輸入をストップした分を中国やインドが輸入しているからだ。これにより、ロシアの受ける打撃は「少ない」という印象を与えている。だが、ロシアの占領したウクライナ東部地域での統治費用は、決して小さくないとの指摘が出てきた。

     

    旧ソ連は、東欧諸国を支配下に収めたが、その統治費用が莫大であった。これに耐えきれず、ソ連からの補助金を5%にまで減らした。東欧諸国は、これに反発して独立を勝ち取る原因になった。こういう経緯を振りかえると、ロシアは、旧ソ連の失敗を繰返すというのである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(6月19日付)は、「プーチン体制、アリの一穴どこに 占領維持に巨額負担も」と題する記事を掲載した。

     

    いつまでロシアは戦争を続けることができるのか。プーチン体制はいつまで持つのか。ヒントは意外にもロシア本体ではなく、ロシアの影響下にあるウクライナ東部地域にあるのかもしれない。

     

    (1)「G7は石炭と石油の禁輸で合意した。だが、次の焦点であるガスの禁輸に踏み込んだとしても即効性には欠ける。中国やインドなどが依然としてロシア産エネルギーを買い支え続けており、西側の制裁効果を打ち消している。だが、経済制裁はまったく無意味というわけではない。スウェーデン出身の著名なロシア研究者、アンダース・アスランド氏らは2021年の論考で、14年のクリミア併合後に実施された対ロシア制裁の効果を調べている。当時の制裁は小規模な資産凍結などにすぎなかったが、それでもロシアの成長率を最大3ポイント押し下げたという」

     

    ロシアは、2014年のクリミア併合後、西側の経済制裁によって、ロシアの成長率を最大3ポイント押し下げたと計測されている。ウクライナ侵攻も、それ以上の制裁効果が出るはずだ。

     

    (2)「ロシアが、ウクライナ南部や東部を長く支配すれば、その負担が自らの経済を危うくするリスクがある。占領地域で住民の反ロシア感情を抑え込むには、金融システムの安定や社会保障制度の充実を図る必要があり、ロシア本体からの膨大な補助金が不可欠となる。ヒントになるのがロシアに併合されたクリミア半島の維持コストだ。アンダース氏の論考によれば、年に20億ドル(約2700億円)が必要という。米議会が運営を支援する自由欧州放送(ラジオ・フリー・ヨーロッパ)は21年9月末、親ロシア派勢力が実効支配する東部ウクライナに、ロシアが124億ドルを支援すると報じたことがある」

     

    ロシアには、ウクライナ支配地域の維持コストが高くつく。クリミア半島の維持コストですら、年に20億ドル必要という。ロシアが21年9月末、東部ウクライナへ124億ドルを支援すると報じられている。これから、ロシア産の原油や天然ガスの輸出が減れば、決して小さい負担でなくなる。

     


    (3)「一見すると規模が小さいようにみえるが、注意すべきは、これが全面侵攻前の金額であるということだ。ロシア影響下の地域はいずれも激しい戦場となったところだ。激戦地の都市インフラはほぼ完全に破壊され、今後、巨額の復興費用が加わることになる。この地域は経済状況の悪化も著しい。例えば4月のウクライナのインフレ率は平均16%だったが、ロシア占領下のヘルソン州は37%に達したとウクライナ中銀のニコライチュク副総裁が明かしている。「ロシア占領地域では物資の搬入が妨げられている」のが、需給逼迫の理由だという」

     

    ウクライナ東部で、新たにロシアの支配下に組入れられた地域のインフレ率は、37%にも達している。戦闘による物資搬入が妨げられている結果だ。この状態は、今後も続くであろう。

     

    要衝の港湾都市マリウポリを陥落させたロシアは支配地域の拡大を誇示するが、経済的には間違いなく重荷となる。ウクライナ側はこれからもG7の手厚い支援が期待できるが、ロシア支配地域は、制裁を受けて弱っているロシアが単独で支えなければならない。

     


    (4)「冷戦時代のソ連・東欧ブロックにはコメコン(経済相互援助会議)と呼ばれる経済協力の枠組みがあり、ソ連は安い原油などを補助金として東欧の衛星国家にばらまいていた。第2次大戦で手に入れた勢力圏をなんとしても維持したかったからだ。それが1980年代前半に揺らぐ。ソ連経済に余裕がなくなり、補助を徐々にカットせざるを得なくなった。世界銀行が91年にまとめた論文によれば82年から87年までの5年間で、旧東ドイツ、ポーランドなど東欧6カ国に対する補助は、ぼぼ20分の1に圧縮された。だからこそハンガリーなどがソ連を見切って経済の自由化を推し進め、89年の東欧革命につながった」

     

    旧ソ連は、東欧諸国を勢力圏に入れたが、経済衰退で補助金を往時の5%まで切下げた。旧ソ連経済は、いずれ経済制裁下にあるロシア経済の今後を示唆するものだけに、ウクライナのロシア支配地域でも起こり得ることであろう。

     


    (5)「これは、いまのロシアにもあてはまる。まだプーチン大統領を支える新興財閥(オリガルヒ)や治安・軍要員(シロビキ)が離反する動きは、それほど目立たない。だが時代遅れの帝国主義がじわじわとプーチン政権を追い詰め、盤石に見える体制に穴を開け、寿命を縮める可能性がある。ただ、時間をかけてそれを待たなければならないとすれば、ウクライナにとってあまりに酷な話である」

     

    ウクライナ東部で、ロシア支配下に置かれている人々に、ロシア経済衰退まで「解放」を待てというのも気の毒だ。歴史が、時にこういう過酷さを要求するとすれば、天を仰がざるを得ない。

     

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