勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    米国経済通信社『ブルームバーグ』は、ロシア経済が開戦2週間で年率換算マイナス9%成長に落込んでいると報じた。「類い希なスピード」と驚くほど、今回の西側諸国による経済制裁がロシア経済を瓦解させている。グローバル経済の下では、経済制裁がいかに効くかを示している。

     

    中国が仮に台湾侵攻すれば、ロシアと同じ憂き目に遭うことを立証している。戦争の戦い方という戦術論以上に、グローバル経済下の経済制裁の即効性が、重大問題であることを学ぶであろう。

     


    『ブルームバーグ』(3月12日付け)は、「ロシア経済、類いまれなスピードで悪化 侵攻からわずか2週間で」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻してから2週間で、戦争がロシア経済に強いた犠牲は20年以上に及ぶプーチン政権下で最悪の景気低迷と既に肩を並べている。

     

    (1)「国際的な制裁が足かせとなり、2年連続で拡大軌道を進んでいたロシア経済はわずか数日で反転した。ブルームバーグ・エコノミクスのナウキャストはロシアの経済生産が約2%減少したことを示唆。この落ち込みは新型コロナウイルス禍にあった2020年通年の景気縮小に並ぶ。昨年の金額に基づくと、これはロシアの国内総生産(GDP)が300億ドル(約3兆5000億円)余り消失したことを意味する。ブルームバーグ・エコノミクスの暫定予測によれば、2022年のロシアGDPは約9%のマイナスとなる」

     


    ブルームバーグの経済予測精度は極めて高く、過去の実績はパーフェクトである。よって、今回の予測も現実の動きを捕捉していると見て間違いなさそうだ。これによると、ウクライナ侵略戦争を始めて2週間で、年率換算マイナス9%成長に落込む。今後、さらにマイナス幅が拡大するであろう。

     

    (2)「プーチン大統領は11日、旧ソ連は制裁下にあっても成長し「巨大な成功を収めた」と主張。国民を安心させようと努めた。しかし、ウクライナでの戦争が長期化し、追加制裁が発動された場合、こうした深刻な苦境は国家としての決意を試すことになりかねない。ロシアは既に今世紀最大級のインフレ高騰に見舞われており、物資不足のリスクで政府はするだろう。輸出制限措置を講じている」

     

    下線部は、極めて重要な点を示唆している。ロシア経済の悪化が酷くて戦争継続が不可能になる事態を予想している。それほど深刻な事態(猛インフレ)が、国内に起こるであろうことを予想した記事である。私にはそう読めるのだ。ロシア自らが、国内物資確保で輸出制限措置を講じている点を見逃してはなるまい。

     


    (3)「ブルームバーグ・エコノミクスの活動指数では、戦争初期のこうした落ち込みはコロナ禍や世界金融危機の際に見られた景気下降に似ていることが示唆されている。ロシアGDPは2009年に8%近く縮小した」

     

    ウクライナへの侵略戦争を開戦して2週間で落込んだロシア活動指数は、コロナ禍や2009年のリーマンショック時に匹敵する。この時は、8%近いマイナス成長であった。今回は、さらなる経済制裁の強化によって、事態の悪化を招くはずだ。

     


    『ブルームバーグ』(3月12日付け)は、「
    米政権、ロシア象徴する品目を輸入禁止ー貿易優遇の撤廃求める」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米大統領は11日、ロシア産のアルコール類と魚介類、ダイヤモンドの輸入を禁止すると発表した。同国を象徴する品目であるウオッカとキャビアが標的。また議会に対し、西側同盟国と協調してロシア向け貿易優遇措置を撤廃するよう求めた。ウクライナを侵攻したロシアへの制裁を強化する。

     

    (4)「ホワイトハウスでの演説でバイデン氏は、貿易優遇措置の撤廃で「ロシアが米国とビジネスを行うことが一段と困難になる」と指摘。「ロシア経済にさらなる強烈な打撃を与えることになる」と述べた。ロシアを貿易面で優遇する「恒久的通商関係正常化」(PNTR)を大統領の一存で撤廃することはできない。そうした権限は議会にあるためだ。ペロシ下院議長は同措置を撤廃するための法案について、下院で来週検討すると語った。措置撤廃は民主、共和両党から支持を得ている」

     

    法案にバイデン氏が署名し成立すれば、ロシアからの輸入品に高関税を課すことが可能になる。米国はキューバと北朝鮮に貿易面での優遇措置を与えておらず、ロシアも両国と同じ待遇となる。

     

    米国は昨年、ロシアから飲料や蒸留酒、酢を年間約2410万ドル(約28億円)相当輸入した。ただロシア・ブランドのウオッカは大半が同国外で生産されている。魚介類に関しては、米国は昨年ロシアから12億ドル相当を輸入した。バイデン氏によれば、今回の措置では非工業用ダイヤモンドの輸入も禁止。ロシアへの高級品の輸出も禁止する。

     

    米国が、ロシアへ矢継ぎ早に制裁を加えているのは、中国の台湾侵攻を諦めさせる効果も狙っているはずだ。「中国よ、お前もこういう事態になるぞ」と予告していると見るべきであろう。教育効果を上げるためだ。

     

    (5)「バイデン氏は、今回の措置は欧州連合(EU)ならびに主要7カ国(G7)との協調の下で実施されると説明。G7は声明で、「ロシアが、国際通貨基金(IMF)や世界銀行、欧州復興開発銀行(EBRD)といった主要な国際機関から資金を調達できないようにするため」の取り組みを進めると表明した」

     

    ロシアは、資金面でも干し上げられる見通しである。EUとG7は、ロシアがIMF・世界銀行・EBRDなど国際金融機関から融資を受けられないように協調する。これは、ロシアにとって痛手だ。外貨準備6300億ドルの約半分は、西側諸国によって凍結されている。さらに融資も受けられなければ、身動きできなくなる。自業自得の状態へ追い込まれるのだ。

     

     

     

     

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    ロシア大統領のプーチン氏をめぐっては、病気で引き起こされている行動でないかと気遣われている。核攻撃準備などと言ってのけるから、ますます常軌を逸していると危惧されるのだ。だが、軍事戦略専門家から言えば、プーチン氏は「気は確か」という診断である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月11日付)は、「怒れるプーチン氏、気はたしか」と題する寄稿を掲載した。筆者のマイケル・オハンロン氏は、ブルッキングス研究所の防衛・戦略研究チェアーである。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、頭がおかしくなっているのだろうか。ほぼ間違いなく、そうではないだろう。同氏はウクライナ侵攻でひどい計算ミスを犯した。しかし歴史を振り返れば、侵略者側の考えでは戦争がもっと簡単に片付くはずだったのに、実際にはそうならなかったという例は、枚挙にいとまがない。

     


    人間というのはそういうものだ。独裁政権や軍事政権ではなおさらだ。第1次世界大戦を招いたドイツ皇帝、第2次世界大戦に踏み込んだ日本の東条英機内閣、朝鮮戦争の際の北朝鮮の金日成氏、アフガニスタンに侵攻したソ連、イランやクウェートとの戦争を起こしたサダム・フセイン氏などの例を思い出してみるといい。

     

    (1)「米国も同様の失敗を経験した。2003年3月のイラク進攻の前、一部の米当局者はその年の秋までには、投入兵力の3分の2が帰国できるようになり、戦費は1000億ドル(現在のレートで約11兆6000億円)以下にとどまると予想していた。しかし実際には13万~17万人の米兵がさらに約7年間イラクに駐留することになった。イラクでの米国の戦費は最終的に1兆ドルを大きく超え、勇敢な米兵4500人がイラクで命を落とした」

     

    プーチン氏は、ウクライナ侵攻で大きな戦略的な間違いを犯している。実は、米国も同じような間違いをしているのだ。2003年のイラク侵攻がその例である。7ヶ月程度でイラク全土を平定できると見ていたのだ。結果は、大きく外れた。

     


    (2)「プーチン氏はウクライナの戦力から見て、勝利が容易だと考えたようだ。多方面からウクライナに侵攻することで、同国の政治と軍事の指導者らにある種の「衝撃と畏怖」を与え、自分たちより弱く小さい敵を戦場で圧倒し、新しいテクノロジーを戦いの道具に使うことで攻撃作戦に予想外の側面を付加できると想定していた。プーチン氏はうかつだった。長年、イラクやアフガニスタンで泥沼に陥った米国をあざ笑っていた。自身も1990年代には、国内でチェチェン紛争を経験した。とは言うものの、ベトナム戦争後の米国も、ある意味、うかつだった」

     

    プーチン氏は、米国が過去に経験した過ちに陥っている。米国も、当時の大統領の精神状態が狂っていた訳でない。驕っていたのだ。プーチン氏も同様の状態と見られる。

     


    (3)「2014年にクリミア併合に成功し、2015年以降シリアのバッシャール・アサド大統領の権力維持を支援できていることから、プーチン氏は侵攻前、自身の判断力と自らが抱える軍隊に関して自信過剰になっていたようだ。1991年の湾岸戦争や1999年のコソボ紛争、2001年のタリバン政権崩壊を経て、米国がそうなっていたように、だ。この自信過剰に、世界でのロシアの立場をめぐって傷ついたプライドや、敵対勢力への怒りが加われば、大きな計算ミスを可能にするような心理状態になる。正気を失ったと考えなくても、この判断ミスは説明できる」

     

    プーチン氏の自信過剰は、2014年にクリミア併合や2015年以降のシリア・アサド大統領支援が成功したことにある。この自信過剰が、大きな計算ミスを起させたのだ。正気を失った結果の行動ではなさそうだ。合理的な説明がつくからである。

     


    (4)「核の脅しについてはどうか。プーチン氏には、侵攻の初期に軍に対して警戒態勢に入るよう命じてきた前例がある。米国も、1973年の中東戦争の際、ソ連の介入を思いとどまらせるために同じことを行った。抵抗勢力には「歴史で経験したことのない重大な結果」で報いるというプーチン氏の侵攻前の誓いは、脅しを通じた抑止の試みだった可能性が最も高い」

     

    プーチン氏の「核発言」は、米国も1973年の中東戦争の際に行なっている。ソ連介入を封じる目的の発言である。

     

    (5)「これらすべてのことは二つの要素を示している。一つ目は、プーチン氏は自分が過ちを犯したことにおそらく気づき始めているのではないかという点。今後はその影響を軽減させる方法を探るかもしれない。西側は、ロシア軍の撤退と検証可能な取り決めの履行と引き換えに。二つ目は、プーチン氏が理性的であれば、NATOはポーランドとバルト海諸国により多くの部隊を派遣することで、これらの国をプーチン氏の攻撃から守ることが可能である点だ」

     

    プーチン氏はすでに、ウクライナ侵攻の緒戦が失敗であったと認識している。今後は、その失敗を軽減させる方法を取るだろう。具体的には、ウクライナのNATO加盟なしに、同国の長期的安全保障を確保する方法を検討しなければならない。すでに、この道は探られている。NATOは、ポーランドやバルト三国へ軍隊を派遣して防衛体制を固めることも必要だ。

     


    (6)「われわれは既に、プーチン氏が怒っており、傲慢で独裁的だったことを知っていた。考えていた以上に同氏が無謀であることも学んだ。しかし、その行為はまた、指導者たちがこうした類いの過ちを犯しがちであることを考慮すれば、簡単に説明することも可能だ。同氏の指が核の引き金にかかっていることを考えれば、それはわれわれにとって救いである

     

    下線部分は、ちょっと誤解を受けがちである。プーチン氏が、核の引き金に手を掛けているのは、自らが劣勢になっていることを白状しているに等しいからだ。西側諸国が、全面的に戦争へ加わるな、というジェスチャーでもある。敗北意識が、頭をよぎっていると見られる。

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    今の中国に、米国を敵に回してまでもロシアを救済する力はない。2月の新規融資額が前年同月比9.6%減となった。住宅不振が大きく影響している。「土地本位性」経済の弱点が、中国経済全体を覆っている感じだ。米国の怒りを買って、「二次制裁」されるリスクを避ける。これは当然の選択である。

     

    こういう事態から、習氏は新たな経済司令塔を決めたようだ。米紙『ウォールストリートジャーナル』(3月11日付)が、「スクープ」として伝えた。

     

    「中国の習近平国家主席は、自分に忠実な側近である何立峰氏を経済・金融政策の責任者に据えることを検討している。何氏は現在、中国国家発展改革委員会の主任を務めている。事情に詳しい関係者によると、何氏は経済・金融・産業分野で広範な責任を担う副首相への昇格が有力視されている」

     


    「何氏と習氏の関係は1980年代までさかのぼる。福建省では両氏はいずれも出世を重ね、習氏は省トップに就き、何氏は省都・福州市の共産党委員会書記に就いた。党関係者らによると、腹心を経済政策の司令塔に据えることで、習氏は中国経済の公平性向上や自立促進といった取り組みを強化することができる。何氏が昇格すれば、習氏の最高経済顧問を務め、米国との貿易交渉を主導してきた劉鶴副首相の後を引き継ぐ道筋も明確になるとみられる」

     

    習氏は、何立峰氏を先ず自らの最高経済顧問に引き立てて、経済立直しの大役を任せるのであろう。だが、傾いている中国経済を元に戻すことは不可能である。誰が、その任についても無理だ。

     


    『ロイター』(3月11日付)は、「中国新規融資、2月は1.23兆元に急減し予想下回る 追加緩和観測」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)が11日発表した2月の国内銀行の新規人民元建て融資は1兆2300億元(1950億ドル)で、過去最高だった1月の3兆9800億元から急減した。減速する景気を下支えするため、人民銀行に金融緩和を求める圧力が高まりそうだ。ロイターがまとめた市場予想は1兆4900億元だった。前年同月の1兆3600億元も下回った。中国の銀行は質の高い顧客と市場シェアを確保するため、年初に前倒しで融資を実行する傾向があり、2月の融資減少は予想されていた」

     

    2月は、春節(旧正月)による長期休暇で経済活動が大幅に鈍る。そこで、例年1~2月を一括して分析する。それにしても2月の人民元の新規貸出が、前年比で9.6%減とは警戒すべき現象である。

     

    (2)「キャピタル・エコノミクスのジュリアン・エバンス・プリチャード氏は、「広範な信用の伸びが予想を大幅に下回った。過去数カ月で加速した分の多くが失われた。全国人民代表大会(全人代)で打ち出した政策目標を達成するには追加の緩和措置が必要だ」と述べた。住宅ローンを中心とする家計向け融資は3369億元と、前月の8430億元から減少。不動産市場の低迷が続いていることが浮き彫りとなった」

     

    2月の家計向け融資は、1月より61%減である。住宅ローンが家計向け融資の主体であるから、住宅販売がいかに落込んでいるかを示している。

     

    (3)「野村の中国担当エコノミスト、Ting Lu氏によると、中・長期の家計向け融資が減少したのは、2007年の統計公表開始以降初めて。不動産開発上位100社の1~2月の新築住宅販売が40%減少したことと整合性が取れるという。法人向け融資は1兆2400億元と、前月の3兆3600億元から減少した。中信証券のチーフエコノミスト、Ming Ming氏は、2月の融資減少は不動産部門と家計需要の低迷を反映している可能性があるが、過去の緩和の効果が今後表れて回復する可能性があると指摘した」

     

    不動産開発上位100社は、1~2月の新築住宅販売が前年比で40%減少している。住宅ローンが減少するのは当然だ。中国の主力産業は、不動産開発である。それがこの状況では、今年の経済成長率目標5.5%前後の達成は難しくなっている。IMFは、4.8%予測である。李首相は、全人代終了後の記者会見で、「5.5%前後の目標達成は難しい」と心情を

    吐露しているほどだ。

     


    (4)「ゴールドマン・サックスはリポートで、「今年第2・四半期末までに預金準備率の50ベーシスポイント(bp)引き下げと政策金利の10bp引き下げがあると引き続き予想する」と述べた。マネーサプライM2の前年比伸び率は9.2%で、アナリスト予想の9.5%を下回った。1月は9.8%だった」

     

    預金準備率の50bp(0.5%)引き下げ予想が出ている。いくら引下げても、実需が後退している以上、回復の「呼び水」役になれるか疑問である。典型的な不動産バブル崩壊現象である。

     

    (5)「2月末の社会融資総量残高は前年比10.2%増。1月の同10.5%増から鈍化した。社会融資総量には、通常の銀行融資以外の新規株式公開、信託会社の融資、債券発行などが含まれる。2月の社会融資総量は1兆1900億元で、1月の6兆1700億元から減少した。アナリストの予想は2兆2200億元だった」

     

    中国では、社会融資総量(銀行融資以外の新規株式公開、信託会社の融資、債券発行を含む)を重視している。特に、シャドーバンキングという「裏街道融資」が大きなウエイトを持つほど、融資機構が乱れている。金融の近代化が,それだけ遅れている意味だ。2月末の社会融資総量残高は、前年比10.2%増で1月の同10.5%増から鈍化した。正規の金融機関が、融資を絞っている分をシャドーバンキングで補ったことを示唆している。中国経済の傷は深まっている。

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    中ロは2月4日、共同声明を発表して「限りない友情」を誓い合った仲である。中国は、ロシアのウクライナ侵攻を事前に知ることもなく、ロシアにまんまと一杯食わされた形だ。ただ、この共同声明をじっくり読むと、ロシアはウクライナ侵攻を前提に、中国を引き寄せているのだ。中国は,そこを読めなかったのであろう。

     

    ロシアは、共同声明で暗黙裏に中国の協力を求めていたのだ。プーチン氏はウクライナ侵攻によって、西側諸国の経済制裁を想定していたはずである。だが、人民元ではドルの代役が務まるはずもなく、大きな穴が空いたままである。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(3月9日付)は、「制裁で孤立するロシア、人民元は救世主ならず」と題する記事を掲載した。

     

    民主主義諸国からの厳しい経済制裁と大手企業の事業撤退によって、ロシアは経済的に孤立している。例えば、米クレジットカード大手のビザ、マスターカード、アメリカン・エキスプレス(アメックス)はロシアでの事業を停止すると発表した。こうしたことから、ロシアは決済システムやそれ以外にも多くのことで中国に近づこうとするかもしれない。しかし、これが強力な新経済圏の出現につながるのではないかとまでは懸念しなくてよさそうだ。

     

    (1)「理論上、中国はロシアが西側の制裁を逃れるために必要な金融インフラを提供できるかもしれない。実際は簡単ではない。その好例がクレジットカード決済だ。米大手3社がロシア国内で発行するカードは海外では機能しなくなる。ロシア以外で発行された3社のカードはロシアでは無効になる。もっとも3社のカードを使わなくても、ロシア独自のカード「MIR(ミール)」でならば国内で買い物ができる」

     

    ロシアのキャッシュレス比率は、7割にも達しているので、カードが生活インフラとなっている。それだけに打撃が大きい。ロシアのカード利用は、日本のようなクレジットでなく、デビッドである。カード会社からみれば、それだけ利益率が低いはずだ。

     


    マスターカードの場合、昨年の売上高のうちロシア事業は4%を占めるだけ。ロシア撤退を決意できたのは、こういう採算面での構造があったのであろう。それだけではない。米カード各社が、厳しい措置に動いたのは制裁強化を求める米国内の圧力やウクライナの要請が影響したとみられている。

     

    (2)「国際取引に関しては、ロシアの銀行は中国でカード決済を独占している中国銀聯(ユニオンペイ)のカードの発行を検討しているという。だが、切り替えには新たなIT(情報技術)インフラの導入が必要だ。米国や韓国などの強力なハイテク国家が、ロシアに制裁を科している現在、これは難しい」

     

    米国3社のカードが業務停止すれば、中国のユニオンペイを代役に採用すれば良さそうだが、そう簡単に事態は進まないという。切り変えに必要なITインフラが、米国などに握られているからだ。西側諸国の経済制裁がIT技術でも広く網を張っている。

     


    (3)「中国の国際銀行間決済システム(CIPS)は、ロシアの大手銀行数行が締め出された国際銀行間通信協会(SWIFT)に代わるものだとうたわれている。とはいえ、この両者は目的が全く異なる。SWIFTはもともと国際金融取引に関する情報のやりとりや送金のためのシステムで、200カ国の11000以上の金融機関が利用する」

     

    SWIFTは、世界のドル決済をスムーズに行なうためのシステムである。いわば、「新幹線」的な存在である。200カ国で、1万1000以上の金融機関が利用する金融インフラである。

     


    (4)「CIPSは、中国の中央銀行が人民元の決済を通じて人民元の国際化を促すために構築したものだ。CIPSは、取引の8割以上をSWIFTの情報交換機能に依存している。CIPSの規模はSWIFTに比べて小さい。1年前の時点で参加していたのは1159機関だった。SWIFTのロシア版といえる「SPFS」はさらに小さく、利用しているのはわずか400機関だ。中国は、結果的にロシア財政を支援できるかもしれない。ただ支援は人民元で行われる。米ドルが世界貿易を支配している限り、長期的には有望な選択肢とは思えない」

     

    CIPSは、SWIFTに接続して情報交換機能に依存する「ローカル線」である。この氏PSが、SWIFTに代われるはずがない。SWIFT情報は、全て米国が監視しているシステムである。ドル決済に使われる以上、米国の管理下に置かれるのはやむを得ないのだ。

     

    米国は、この特権的立場を利用して、米国の法律に反した金融取引を排除す立法措置を行なっている。中国が、ロシアを救済すべく動けば、米国から「二次制裁」を科されるのは明白である。中国は、すでに米国から事前警告を受けているのだ。中国人民元は、逆立ちしても米ドルに反逆できない構造になっている。

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    ロシアは、西側諸国から厳しい経済制裁を受けている。これに伴い外資系企業の撤退や一時的な営業停止が相次いでいる。ロシア政府は、これに対抗して5日以内の営業再開か売却を迫るという強硬策に出てきた。

     

    『ブルームバーグ』(3月11日付)は、「ロシア、撤退する外国企業を接収へー5日以内の営業再開か売却迫る」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア政府は同国から撤退する外資系企業を接収、あるいは国有化する案を策定した。ロシアのウクライナ侵略を受けてイケアやマクドナルドなど外国企業の撤退が相次いでいる。ロシア経済発展省は外国人の持ち分が25%を超える撤退企業を一時的に管理下に置く方針を明らかにした。

     

    (1)「同案の下で、モスクワの裁判所が取締役会メンバーなどからの外部管理受け入れの要請を検討する。その後、資産と従業員を保護するための取り組みの一環として、外資系企業の株式を凍結する可能性がある。経済発展省の発表によると、外部管理にはVEB、RF(ロシア開発対外経済銀行)などが参加する可能性がある。企業の保有者は5日以内にロシアでの営業を再開するか、株式売却など他の選択肢を選ぶかを決めなければならないという

     

    この方針は、まだ最終決定されていない。すでに撤退を発表した外国企業は、5日以内の営業再開かロシア当局へ企業売却せざるを得なくさせる。狙いは、営業再開を促すものと見られる。

     

    (2)「同措置は、株主を含む経営陣がロシアの法律に反して事業活動の管理を事実上終了させた企業に適用されると経済発展省は説明。2月24日以降に経営陣がロシアを離れたり、資産を移転したりした企業も対象となる可能性があるとしている。発表によると、接収された企業は改めてパッケージ化され、3カ月後に競売で売却される可能性があり、新しい所有者は従業員の3分の2を維持し、1年間は営業を続ける必要がある。この措置はまだ承認されてはいない」

     

    接収された企業は、3ヶ月後に競売されるというが正式決定ではない。仮に、実行に移された場合、米国は「第二次制裁」でその企業を身動きできぬようにする可能性もあろう。そうなると、ロシア政府は自縄自縛になりかねない。

     


    『ロイター』(3月11日付)は、「ロシア事業停止の動き加速 ファーストリテやJTも」と題する記事を掲載した。

    ファーストリテイリングとJTは10日、ロシア事業を停止すると発表、これまでの営業継続方針を一転させた。ウクライナ侵攻に関連し、主要国の企業にロシア事業の停止や撤退・縮小の動きが一段と広がっている。

     

    (1)「ゴールドマン・サックス は米大手金融機関として初めて、ロシアからの撤退を表明。米穀物商社ブンゲはロシアから国外への出荷を停止したと発表。現地市場向けの植物油の生産は続けている。資源大手リオ・ティントは、ロシア企業との全ての商業的関係を終了すると発表した。ソニーグループと任天堂は家庭用ゲーム機のロシア向けの出荷を停止。米ソニー・ミュージックグループと米ワーナー・ミュージック・グループもロシアの事業を停止した。マクドナルドやコカ・コーラをはじめとするファストフード大手や飲料メーカーも、欧米の顧客からの圧力でロシア事業の停止・縮小を余儀なくされた。米ホテルチェーン大手マリオット・インターナショナルはモスクワのオフィスを閉鎖し、競合するヒルトンやハイアットと同様に、開発事業を停止した」

     


    米金融大手ゴールドマン・サックスとJPモルガン・チェースは10日、ロシア事業を段階的に閉鎖すると明らかにした。ロシアによるウクライナ侵攻を受け西側諸国が導入した制裁措置で事業環境が厳しくなる中、米大手金融機関として初めて撤退を表明した。ゴールドマンは声明で「規制と許認可の要件を順守し、ロシア事業を縮小している」と明らかにした。関係筋は、ゴールドマンが直ちにロシア市場から撤退することはせず、段階的に事業を縮小していくと予想。撤退による損失は軽微との見方を示した。『ロイター』(3月11付)が伝えた。

     

    ロシアでの事業を完全に停止する企業は、それなりの成算あってのことだが、問題は「一時停止」という時間稼ぎのケースである。これは、5日以内の営業再開か株式売却を迫られる。

     


    (2)「日本企業のロシア事業停止の動きは加速している。その多くは実務上の問題を理由に挙げている。ファーストリテイリングは「衣服は生活の必需品」として店舗の営業を続けていたが、ウクライナの「紛争を取り巻く状況の変化や営業を継続する上でのさまざまな困難」から事業停止の決定に至ったと説明。日立製作所はロシア事業で生活に不可欠な電力設備を除き、グループ全体で輸出と現地生産を順次取りやめると発表。ロシアの売上高は建設機械が大半を占める。米建機大手キャタピラー、複合企業スリーエム(3M)、機械のディアとハネウェルもロシア事業を停止している。米自動車大手フォードや米IT大手アップルなどがロシアのウクライナ侵攻を非難する一方で、物流の問題を理由にロシアでの生産停止を発表したトヨタ自動車など、より中立的な立場を取る企業もいる」

     

    フォードやアップルなどは、ウクライナ侵攻に抗議して事業停止したが、トヨタは物流問題を理由にした事業停止である。ロシア当局は、こうした二つのケースを別々に扱うのか、一緒に「事業停止」という理由だけで接収するのか。見通し難だ。ただ、買い手は「二次制裁」に該当するであろう。

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