勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    ウクライナ戦争反対で、多くの心あるロシア市民がデモに参加し、一時拘束の憂き目にあっている。その時の恐ろしい経験が引き金になり、ロシア出国者を増えさせている。ウクライナでは、戦争被害からの脱出を目的にするが、ロシアではプーチン弾圧を逃れるためだ。いずれも、プーチン氏が加害者である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月10日付)は、「国外へ逃げ出すロシア人、制裁と弾圧に反対」と題する記事を掲載した。

     

    国外に逃げ出しているのはウクライナ人だけではない。多くのロシア人も自国を去っている。ある男性は、妻が必要とするインスリンがそのうち買えなくなるかもしれないとの懸念から、妻とともに出国し、ドイツに住む娘の家に向かった。薬を詰めたスーツケース2つと、衣服を詰めたスーツケース2つを携えて。別の男性は、母親の葬儀を終えた直後にイスラエルに移住するため出国した。戦争のプロパガンダに囲まれて息苦しくなったのだという。戦争反対のデモに参加して逮捕されたある女性は、釈放後すぐに荷物をまとめ、若い息子を連れてアルメニアに向けて出国した。

     

    (1)「7日にフィンランドに入国したあるロシア人によれば、彼の乗った列車が国境を越えた後、1人の乗客が「ウクライナに栄光あれ」と叫んだという。厳しい対ロシア制裁、深まる孤立、ひどくなるばかりのウラジーミル・プーチン大統領の圧政を背景に多くの人々がロシアから逃げ出している。その数は、ウクライナから国外に避難した200万人とは比べものにならない。しかしそれは、政治的自由の段階的縮小と経済的苦境に直面するロシア人の大量出国の始まりかもしれない。出国者の多くは、専門職を持つ者や富裕層だ。ジャーナリスト、活動家、文化人たちも国外に去っている

     

    ロシアへ残っていれば、確実にロシア経済や社会の発展に寄与する人たちが、「プーチン恐怖症」でロシアから逃げ出している。第二次世界大戦前後、ドイツから多数のユダヤ人がナチスの圧迫を逃れてドイツを逃げ出した。今度は、ロシアの専門家や教養人がプーチンの圧迫を逃れて、ヨーロッパへ逃げ出している。歴史は繰り返している。

     


    (2)「米系企業に勤務するユリア・ザハロワ氏(36)は8日、ロシアとフィンランドの国境線を越えた数分後、「私の父は『早く出国しなさい。そうしないとロシアに閉じ込められる』と言っていた」と語った。彼女とハイテク分野の新興企業の最高経営責任者(CEO)を務めるギリシャ人の夫は、ロシアとギリシャの間を航空機で往復する生活を何年も続けてきた。しかし、彼女が妊娠7カ月になったこともあって、2人は生活の場を当面ギリシャに移すことを決めた。彼女は「こんな状況が続くロシアで子供を産むつもりはない」と語った」

     

    自分の生まれた国を捨てることは、簡単にできることであるまい。積み重なったプーチンへの怒りと恐怖が、最後に国を捨てさせる決心をさせるのであろう。

     


    (3)「最近何週間かで、どれほどの数のロシア人が国を去ったのかを示す正確なデータは入手でない。また、ロシアを出た人々の全員が、長期間国外にとどまるのかどうかも分からない。しかし、他の諸国から得られるデータは、ロシアを去った人々の数が何千人にも上ることを示唆している。フィンランドの国境警備当局によれば、今年2月にフィンランドに入国したロシア人は約4万4000人となり、前年同月の2万7000人を上回った。ロシアからフィンランドに向かうバス、列車の乗車券は売り切れ状態になっており、国営フィンランド鉄道(VR)は、ヘルシンキとサンクトペテルブルクを結ぶ列車の増便に努めるとしている」

     

    ヘルシンキとサンクトペテルブルクを結ぶ列車は、増便するほど乗客が増えているという。ロシア人が、「プーチン逃避」を始めている証拠だ。

     


    (4)「一部のロシア人は、プーチン氏が近く戒厳令を出すのではないかと懸念している。戒厳令が出されれば、検閲のさらなる強化や国境封鎖が可能になる。プーチン氏は5日、戒厳令を布告する必要はないと述べていた。ロシアの侵攻から数日後に反戦デモに参加して逮捕されたサンクトペテルブルク在住の俳優兼監督の女性は、釈放後、急いでアルメニア行きの航空機のチケットを買いに行った。自分と5歳の息子用にだ。女性はフライトのために空港で16時間待った。アルメニアの首都エレバンに着いた女性は、警察官が自分のサンクトペテルブルクの住所を訪れていたことを知った。女性はロシアに戻るのは心配だが、エレバンで12カ月暮らせる程度のお金しか持っていないと話した」

     

    ロシア経済が、厳しさを増している現状から言えば、いずれ「生活苦デモ」が始まることだろう。それは、最終的に戒厳令でしか乗り切れない事態になるかも知れない。ロシアは、いつまでウクライナ戦争を続けられるか。戒厳令は、その反戦デモの頻発状況によって決められるに違いない。

     


    (5)「プーチン氏は長年、自らを批判する人々を黙らせようとしてきたが、その圧力は先週、一層強くなった。ロシア議会は、軍に関して意図的に「虚偽」の情報を拡散した場合に最長15年の禁錮刑を科す法案を可決した。無期限で友人宅に滞在するため、妻と5歳の息子と一緒にバルセロナに向かっていたエバン・セルゲエフ氏は、「われわれは戦争と呼ぶことさえ禁じられている」と話した。プーチン氏はウクライナ侵攻を「特殊作戦」と呼んでいる」

     

    プーチン氏は、国民が批判する目を恐れている。だから、「特殊作戦」と称し隠蔽している。いずれ、ロシア国民が事実を知ったとき、プーチン氏の身に何が起こるだろうか。ロシアとウクライナは、兄弟分である。そこで,殺戮が行なわれているのだ。

     


    (6)「
    高学歴でリベラルなロシア人の集団脱出は、同国の長期的な発展を脅かす。同国でこのような頭脳流出が起きることは、初めてではない。旧ソ連が1970年代にユダヤ人による大規模な海外移住に扉を開いた際、科学者、技術者や医師の多くがイスラエルや西側諸国に向かった」

     

    プーチン戦争は、ロシアの人材を国外流出させるテコになっている。知識産業が、ロシア経済を発展させる原動力であることを忘れているのだ。その点で、習近平氏の頭脳構造と類似しているから驚く。

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    米国は、自らウクライナでロシア軍と対峙しないが、新鋭武器をさらに120億ドル(約1兆4000億円)追加供与することを発表した。ウクライナ人の不屈の戦いで、ロシア軍の士気を挫き戦っている。ロシア軍は当初の戦闘計画が、失敗に終わっている。米国は、強気の対応である。

     

    英政府は9日、ウクライナの防空手段がロシアのジェット機に対してかなりの戦闘効果を発揮しており、ロシアは制空権を確保できない可能性が高いとの見方を示した。英国防省はツイッターに、「ウクライナの防空手段は、ロシアの現代戦闘機にかなりの効果を発揮しているとみられ、恐らく制空権の確保を防げるだろう」と投稿した。ロシア軍が、首都キエフ北西の戦闘では、大きな成果を得られていないとの見方も示した。以上は、『ロイター』(3月9日付)が報じた。

     


    英国防省が、ウクライナ軍の「善戦」を伝えているだけに、米国が120億ドルもの追加による武器供与すれば、ウクライナ軍がさらに盛り返せる余地が生まれるかも知れない。

     

    ロシア外務省のザハロワ報道官は9日、ロシアがウクライナの中立化を確実にする目標を達成する見通しだが、対話を通じた実現を望んでいると述べた。報道官は、ロシア軍の「作戦」が計画通り進んでいるとした上で、ウクライナ政府転覆は目的でないと強調し、ウクライナとの次回停戦交渉で一段の意義ある進展を遂げることを期待していると述べた。『ロイター』(3月9日付)が伝えた。ロシアも、戦線膠着気味から若干の「弾力性」も見せる風情を覗わせている。

     


    『日本経済新聞』(3月9日付)は、「バイデン氏『プーチン氏は勝てず』」と題する記事を掲載した

     

    バイデン米大統領は8日、ホワイトハウスで記者会見し「ウクライナはプーチン(ロシア大統領)の勝利にならない。都市を制圧するかもしれないが、国家を支配することはできないだろう」と述べた。ウクライナへの武器供与や人道支援などに新たに120億ドル(約1兆4000億円)規模の予算措置をすると表明し、議会に早期可決を求めた。

     

    (1)「バイデン氏は、「プーチンの戦争はウクライナ人とロシア人に多大な苦痛と犠牲を強いている。どんな犠牲を払っても殺人の道を歩み続けると決意しているようだ」と批判。「世界の平和と安定への攻撃に対峙しなければ、自由と米国民の代償はさらに大きくなる」と力説した」

     

    米国は、ウクライナ戦争を圧政との戦いと位置づけている。米軍が、ウクライナでロシア軍と戦うことは、第三次世界大戦を誘発する危険性を孕んでいる。それだけに切歯扼腕の思いで武器供与に止めている。ロシアは、それをいいことにして横暴を極めているのだ。

     


    米国は、ロシア軍と戦わないでいかに勝利を収めるか。秘策をいろいろ練っている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月8日付)は、「ウクライナ危機、西側の新たな選択肢は」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻して2週間近くが経過するなか、悲惨な状況から三つの側面が浮かび上がってきた。まずはロシアの残虐性がさらに度を増していること。ウクライナが依然として感動するほど粘り強い抵抗をみせていること。そして西側諸国が戦闘の行方に影響を与える能力は、いらだたしいほど限られているということだ。

     

    (2)「ウクライナは、奇跡的にどうにか勝利を収めつつあるのかもしれないし、単にロシアのウラジーミル・プーチン大統領が想定していたより緩慢なペースで敗北に向かっているだけかもしれない。いずれにしても、驚くほど迅速かつ結束してロシアに経済制裁を発動した米国とその同盟国は、ここにきてジレンマにとらわれている。ウクライナへの支援を拡充したい意向と、核武装した暴君と世界的な紛争を引き起こすリスクとの間で、板挟みになっているのだ。西側諸国は無力さと絶望のはざまに陥りかねない」

     

    米国と同盟国は、矢継ぎ早に経済制裁やロシア中央銀行資産凍結を発表し、戦略物資の禁輸措置も発表した。次に打つ手が、やや迷っている段階だ。

     


    (3)「もちろん、ウクライナを助け、ロシアを抑止するための極秘の取り組みがすでに水面下で進行している可能性は高い。とはいえ、差し迫った問いは「さらにどのような選択肢が残されているのか」だ。先週末、有力な戦略思考家たちにこの問いを投げかけたところ、バイデン米政権が取り得る手段が幾つか浮かび上がった。最も明白な手段は、ウクライナへの武器提供とロシアへの経済圧力を加速させることだ。最も有力な選択肢はウクライナにジェット戦闘機を提供することだろう。ポーランドに対して、ウクライナ兵が操縦の仕方を心得ているロシア製ジェット機を提供するよう促し、ポーランドには米国製ジェット機を代わりに送ることが有力視されている

     

    下線部は、ポーランドと米国の間で見解が一致せず、目下のところは実現困難の様子だ。アイデアはなかなか良いのだが、ロシアの報復を恐れているようだ。

     

    (4)「他にも選択肢はある。国家安全保障会議(NSC)の元分析官、アレクサンダー・ビンドマン氏は、米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国がウクライナ向けに無償「武器貸与」プログラムを設置することを提案している。これにより、防空システムや対戦車兵器、ドローン(小型無人機)といった軍装備を絶えず供給できるようになるという」

     

    NATOが、ウクライナへ無償「武器貸与」することも重要だ。

     

    (5)「経済制裁に関しては、まだロシア産エネルギーの禁輸措置という切り札はまだ実施されていない。ただ、ロシアのエネルギー供給に大きく依存する欧州の同盟国は、そこまで踏み込んだ措置には乗り出さないとみられ、米国は単独での実施を余儀なくされるかもしれない」

     

    すでに、バイデン大統領がまず米国が実施すると発表した。同盟国については、時間を掛けて検討することになった。このロシア産エネルギーの禁輸措置について、ロシアは敏感に反応している。輸出市場を失うからだ。事態は、ロシアの本丸であるロシア産エネルギーに移っている。

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