米国経済通信社『ブルームバーグ』は、ロシア経済が開戦2週間で年率換算マイナス9%成長に落込んでいると報じた。「類い希なスピード」と驚くほど、今回の西側諸国による経済制裁がロシア経済を瓦解させている。グローバル経済の下では、経済制裁がいかに効くかを示している。
中国が仮に台湾侵攻すれば、ロシアと同じ憂き目に遭うことを立証している。戦争の戦い方という戦術論以上に、グローバル経済下の経済制裁の即効性が、重大問題であることを学ぶであろう。
『ブルームバーグ』(3月12日付け)は、「ロシア経済、類いまれなスピードで悪化 侵攻からわずか2週間で」と題する記事を掲載した。
ロシアがウクライナに侵攻してから2週間で、戦争がロシア経済に強いた犠牲は20年以上に及ぶプーチン政権下で最悪の景気低迷と既に肩を並べている。
(1)「国際的な制裁が足かせとなり、2年連続で拡大軌道を進んでいたロシア経済はわずか数日で反転した。ブルームバーグ・エコノミクスのナウキャストはロシアの経済生産が約2%減少したことを示唆。この落ち込みは新型コロナウイルス禍にあった2020年通年の景気縮小に並ぶ。昨年の金額に基づくと、これはロシアの国内総生産(GDP)が300億ドル(約3兆5000億円)余り消失したことを意味する。ブルームバーグ・エコノミクスの暫定予測によれば、2022年のロシアGDPは約9%のマイナスとなる」
ブルームバーグの経済予測精度は極めて高く、過去の実績はパーフェクトである。よって、今回の予測も現実の動きを捕捉していると見て間違いなさそうだ。これによると、ウクライナ侵略戦争を始めて2週間で、年率換算マイナス9%成長に落込む。今後、さらにマイナス幅が拡大するであろう。
(2)「プーチン大統領は11日、旧ソ連は制裁下にあっても成長し「巨大な成功を収めた」と主張。国民を安心させようと努めた。しかし、ウクライナでの戦争が長期化し、追加制裁が発動された場合、こうした深刻な苦境は国家としての決意を試すことになりかねない。ロシアは既に今世紀最大級のインフレ高騰に見舞われており、物資不足のリスクで政府はするだろう。輸出制限措置を講じている」
下線部は、極めて重要な点を示唆している。ロシア経済の悪化が酷くて戦争継続が不可能になる事態を予想している。それほど深刻な事態(猛インフレ)が、国内に起こるであろうことを予想した記事である。私にはそう読めるのだ。ロシア自らが、国内物資確保で輸出制限措置を講じている点を見逃してはなるまい。
(3)「ブルームバーグ・エコノミクスの活動指数では、戦争初期のこうした落ち込みはコロナ禍や世界金融危機の際に見られた景気下降に似ていることが示唆されている。ロシアGDPは2009年に8%近く縮小した」
ウクライナへの侵略戦争を開戦して2週間で落込んだロシア活動指数は、コロナ禍や2009年のリーマンショック時に匹敵する。この時は、8%近いマイナス成長であった。今回は、さらなる経済制裁の強化によって、事態の悪化を招くはずだ。
『ブルームバーグ』(3月12日付け)は、「米政権、ロシア象徴する品目を輸入禁止ー貿易優遇の撤廃求める」と題する記事を掲載した。
バイデン米大統領は11日、ロシア産のアルコール類と魚介類、ダイヤモンドの輸入を禁止すると発表した。同国を象徴する品目であるウオッカとキャビアが標的。また議会に対し、西側同盟国と協調してロシア向け貿易優遇措置を撤廃するよう求めた。ウクライナを侵攻したロシアへの制裁を強化する。
(4)「ホワイトハウスでの演説でバイデン氏は、貿易優遇措置の撤廃で「ロシアが米国とビジネスを行うことが一段と困難になる」と指摘。「ロシア経済にさらなる強烈な打撃を与えることになる」と述べた。ロシアを貿易面で優遇する「恒久的通商関係正常化」(PNTR)を大統領の一存で撤廃することはできない。そうした権限は議会にあるためだ。ペロシ下院議長は同措置を撤廃するための法案について、下院で来週検討すると語った。措置撤廃は民主、共和両党から支持を得ている」
法案にバイデン氏が署名し成立すれば、ロシアからの輸入品に高関税を課すことが可能になる。米国はキューバと北朝鮮に貿易面での優遇措置を与えておらず、ロシアも両国と同じ待遇となる。
米国は昨年、ロシアから飲料や蒸留酒、酢を年間約2410万ドル(約28億円)相当輸入した。ただロシア・ブランドのウオッカは大半が同国外で生産されている。魚介類に関しては、米国は昨年ロシアから12億ドル相当を輸入した。バイデン氏によれば、今回の措置では非工業用ダイヤモンドの輸入も禁止。ロシアへの高級品の輸出も禁止する。
米国が、ロシアへ矢継ぎ早に制裁を加えているのは、中国の台湾侵攻を諦めさせる効果も狙っているはずだ。「中国よ、お前もこういう事態になるぞ」と予告していると見るべきであろう。教育効果を上げるためだ。
(5)「バイデン氏は、今回の措置は欧州連合(EU)ならびに主要7カ国(G7)との協調の下で実施されると説明。G7は声明で、「ロシアが、国際通貨基金(IMF)や世界銀行、欧州復興開発銀行(EBRD)といった主要な国際機関から資金を調達できないようにするため」の取り組みを進めると表明した」
ロシアは、資金面でも干し上げられる見通しである。EUとG7は、ロシアがIMF・世界銀行・EBRDなど国際金融機関から融資を受けられないように協調する。これは、ロシアにとって痛手だ。外貨準備6300億ドルの約半分は、西側諸国によって凍結されている。さらに融資も受けられなければ、身動きできなくなる。自業自得の状態へ追い込まれるのだ。