ロシアは、石油収入が潤沢だったころ、あらゆる社会問題を「金で解決できる」と夢想した時期もあった。その延長が、ウクライナ侵攻である。今や、財政状況はひっ迫してキリキリ舞い。今年1~8月のエネルギー収益は、2割減と大きな落ち込みだ。今年のGDPは、1%台へ落込む見込みである。ドロ沼の戦争をいつまで続けるのか。限界が近くなっている。
『フィナンシャル・タイムズ』(9月7日付)は、「苦境深まるロシア経済 プーチン氏に厳しい決断迫る」と題する記事を掲載した。
ロシアのプーチン大統領は、8月末から9月初めにかけて中国を訪れ、外交成果を誇示した。長く棚上げされていた中ロ間のガス供給パイプライン建設で合意文書に署名した。しかし、国内に目を向ければ、戦時経済には警戒信号がともっている。ウクライナ侵略当初、ロシア経済は予想を上回る強さを示した。原油・ガス価格の安定と軍事支出の拡大が、賃金と消費需要を押し上げたのだ。今は、軍事費の膨張、景気の減速、ルーブル高、原油安が重なり、厳しい選択を迫られている。
(1)「ロシアの中央銀行が実施する定例調査に回答したアナリストらは、25年通年の国内総生産(GDP)成長率は前年の4.3%から1.4%に減速し、今後3年間にわたり2%を超えることはないとの見通しを示した。同中銀は最悪の場合、ロシアは深刻な景気後退に陥る可能性があると警告している。侵略開始から3年余が過ぎても、ロシアが戦時経済を解こうとする兆しはない。エコノミストや元官僚の間では、ロシア経済の限界が鮮明になっており、(中国との)新たな貿易協定だけでは行き詰まりを解消できないとの認識が広がっている。石油・ガス収益は7月に四半期ごとの支払いで一時的に増えたものの、基調は低迷している。通年の財政赤字は当初予想を大きく上回る見通しだ」
25年GDP成長率は、1.4%へ低下する。24年が4.3%だから、3分の1への急減速である。容易ならざる事態だ。エコノミストや元官僚の間では、ロシア経済の限界が鮮明になっているとみる。
(2)「ロシア政府は、9月半ばをめどに26年度連邦予算案を編成中だが、財政赤字が重荷になっている。プーチン氏によると、25年前半の財政赤字は4.9兆ルーブル(約8兆8000億円)に達し、GDP比2.2%と当初目標の0.5%を大きく上回った。シルアノフ財務相は必要な支出をまかなう「財源」を探していると大統領に報告したという。予算案では一部の支出削減が見込まれ、軍事関連以外のインフラ事業や、サッカークラブ、赤字経営のサナトリウムなど非中核分野の補助金が対象になりそうだ。連邦議会上院予算委員会のアルタモノフ委員長によると、実施すれば支出を2兆ルーブル削減できる見通しだ」
26年の予算編成では、軍事関連以外の財政項目が削減される。2兆ルーブル削減できる見通しで、その分が国民生活へしわ寄せされる。
(3)「エコノミストは、残りの赤字は政府の借り入れで補えるとみている。中央銀行が6月に利下げを始め、政策金利は過去最高の21%から18%に下がった。国債発行による赤字補塡は、プーチン氏が選好する選択肢とみられる。同氏は9月5日、極東ウラジオストクでの経済フォーラムで「ロシアの債務負担は依然容認可能な水準にあり低い。赤字はさらに拡大できる」と述べた。予備費の取り崩しも選択肢だが、既に半分を戦費に充てており、国外資産も制裁で凍結されている。ドイツ国際安全保障研究所のヤニス・クルーゲ研究員は「25年にはかつてない課題に直面し、予算で初めて実質的なトレードオフを迫られている」と指摘する」
ロシアは、財源不足を国債発行で賄う方針である。だが、25年予算で初めて深刻な事態へ直面し、深刻な「二者択一」を迫られる。ロシアが、初めて戦争経済の壁にぶつかるのだ。
(4)「ロシアウオッチャーらは、同国政府とウクライナ政府の間で何らかの休戦が結ばれたとしても、戦時支出に対するロシアの考え方がすぐに変わるとは限らない、と指摘する。クルーゲ氏は「戦車工場は備蓄を補充するために何年もフル稼働を続ける必要がある」と指摘する。元政府高官も「最終的には一部の投資計画を見直すだろう」としながら、「休戦が成立しても軍需生産が急に止まるわけではない。工場は動き続ける」と語った」
休戦が結ばれても、ウクライナ侵攻で失われた武器の補充生産が行なわれる。このため、民生が余裕を持てるのは、何年も先になるという。





