イラン政府は23日、アラグチ外相をロシアに派遣した。米軍による大規模な攻撃を受け、プーチン大統領にさらなる支援を要請することが目的だ。関係筋が、ロイターに語ったところによると、アラグチ氏は最高指導者ハメネイ師からの親書をプーチン氏に手渡し、支援を求めるもの。イランの関係筋は、イランはこれまでのところロシアの支援に満足しておらず、イスラエルと米国に対抗するためプーチン氏による支援強化を期待していると述べた。『ロイター』(6月23日付)が報じた。
プーチン氏の対応は、冷たかったようだ。プーチン氏は、米国やイスラエルによるイランへの攻撃を非難し、同国を支援する姿勢を示したものの具体的な内容には踏み込まなかった。ウクライナ侵略で仲介役を務める米国との関係改善に取り組むなか、中東への積極的な仲介に距離を置いているのだ。
『日本経済新聞 電子版』(6月24日付)は、「プーチン氏、イランに支援策示さず 米国との関係改善を重視」と題する記事を掲載した。
ロシア大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭でイランへの攻撃について「いかなる根拠も正当性もない」と述べ、米国やイスラエルを非難した。ロシアとイランの信頼関係に言及し「イラン国民を支援する」と強調した。
(1)「プーチン氏は、同日にイラクのスダニ首相とも電話協議した。米国によるイランへの核施設攻撃などについて意見交換し、武力対立の早期終結と政治・外交的解決を求めていくことで一致した。プーチン氏は武力衝突に揺れる中東諸国の首脳や高官と相次ぎ会談や協議を開き、中東でのロシアの存在感を維持しようとしている。ロシアが肩入れしてきたシリアのアサド政権は反体制派の攻撃で2024年12月に崩壊し、アサド前大統領はロシアに亡命した。これ以上の中東での影響力低下は避けたいとの焦りも透ける」
プーチン氏は、相手の苦衷を聞くだけの役割に止めている。それ以上は、行動しないという姿勢である。
(2)「プーチン氏は、軍事支援を含むイランへの具体的な支援の内容には踏み込んでいない。「現時点ではロシアはイランへの政治支援以上のことはしないだろう」(ロシアの政治評論家)との見方が強まっている。ロシアはウクライナ侵略を巡ってイランから攻撃型無人機(ドローン)などの供給を受けてきた。25年1月には同国と「包括的戦略パートナーシップ条約」を結び接近を強めてきたが、プーチン氏は19日に外国通信社との会見でイランへの軍事支援やパートナーシップ条約について問われた際、「この条約には防衛分野に関する条項はない」と話した。ロシアとしては軍事支援する理由がないとの考えを強調した」
ロシアは、イランと「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだが、単なる精神論に止まっている。
(3)「ロシアは、北朝鮮とも24年6月に包括的戦略パートナーシップ条約を締結している。こちらの条約では一方の締約国が武力侵攻を受けた際の軍事援助を規定しており、ロ朝の関係は事実上の軍事同盟に格上げされた。北朝鮮からはウクライナ侵略を巡って砲弾や兵士の支援も受けており、足元ではイラン以上に結びつきは強まっている」
ロシアは、北朝鮮との「包括的戦略パートナーシップ条約」では、軍事援助を規定している。北朝鮮から兵士を派遣してもらっている間柄だ。
(4)「イランの核施設を攻撃した米国のトランプ政権は、ウクライナ侵略を巡る仲介役だ。ロシアは、ウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の撤退など自国に有利な条件での停戦を目指しており、米国との関係改善の優先度は高い。18〜21日まで開催されたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは、米ロ関係について協議するプログラムを設けた。同フォーラムに参加したロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は18日、「(米ロ間の)直行便の再開が非常に重要」だと強調し25年中の再開に期待を示した。ドミトリエフ氏は米国との経済協力を担当し、4月に訪米して首都ワシントンのホワイトハウスで米国のウィットコフ中東担当特使と会談した」
ロシアにとっての米国は、ウクライナ侵攻での大事な仲介役である。その米国を怒らせる訳にいかないのだ。イランへは、リップサービスに止まっている。
(5)「米国との関係にも配慮し、積極的な介入から距離を置いているもようだ。プーチン氏は20日の同フォーラム本会議の質疑で「仲介を目指しているわけではない」と強調し、解決に向けたアイデアを提示しているだけだと「及び腰」ともとれる発言が目立った。中東を巡る武力衝突が激化する中、ロシアはウクライナの前線で攻勢を強めている。ロシア軍はウクライナが越境攻撃を仕掛けたロシア西部クルスク州と国境を接するウクライナ北東部スムイ州で攻勢をかけている」
ロシアにとってのイランは、北朝鮮と比べて劣位の関係にある。イランが泣きついてきても、支援できない事情にあるのだ。