勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    イラン政府は23日、アラグチ外相をロシアに派遣した。米軍による大規模な攻撃を受け、プーチン大統領にさらなる支援を要請することが目的だ。関係筋が、ロイターに語ったところによると、アラグチ氏は最高指導者ハメネイ師からの親書をプーチン氏に手渡し、支援を求めるもの。イランの関係筋は、イランはこれまでのところロシアの支援に満足しておらず、イスラエルと米国に対抗するためプーチン氏による支援強化を期待していると述べた。『ロイター』(6月23日付)が報じた。

     

    プーチン氏の対応は、冷たかったようだ。プーチン氏は、米国やイスラエルによるイランへの攻撃を非難し、同国を支援する姿勢を示したものの具体的な内容には踏み込まなかった。ウクライナ侵略で仲介役を務める米国との関係改善に取り組むなか、中東への積極的な仲介に距離を置いているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月24日付)は、「プーチン氏、イランに支援策示さず 米国との関係改善を重視」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭でイランへの攻撃について「いかなる根拠も正当性もない」と述べ、米国やイスラエルを非難した。ロシアとイランの信頼関係に言及し「イラン国民を支援する」と強調した。

     

    (1)「プーチン氏は、同日にイラクのスダニ首相とも電話協議した。米国によるイランへの核施設攻撃などについて意見交換し、武力対立の早期終結と政治・外交的解決を求めていくことで一致した。プーチン氏は武力衝突に揺れる中東諸国の首脳や高官と相次ぎ会談や協議を開き、中東でのロシアの存在感を維持しようとしている。ロシアが肩入れしてきたシリアのアサド政権は反体制派の攻撃で2024年12月に崩壊し、アサド前大統領はロシアに亡命した。これ以上の中東での影響力低下は避けたいとの焦りも透ける」

     

    プーチン氏は、相手の苦衷を聞くだけの役割に止めている。それ以上は、行動しないという姿勢である。

     

    (2)「プーチン氏は、軍事支援を含むイランへの具体的な支援の内容には踏み込んでいない。「現時点ではロシアはイランへの政治支援以上のことはしないだろう」(ロシアの政治評論家)との見方が強まっている。ロシアはウクライナ侵略を巡ってイランから攻撃型無人機(ドローン)などの供給を受けてきた。25年1月には同国と「包括的戦略パートナーシップ条約」を結び接近を強めてきたが、プーチン氏は19日に外国通信社との会見でイランへの軍事支援やパートナーシップ条約について問われた際、「この条約には防衛分野に関する条項はない」と話した。ロシアとしては軍事支援する理由がないとの考えを強調した」

     

    ロシアは、イランと「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだが、単なる精神論に止まっている。

     

    (3)「ロシアは、北朝鮮とも24年6月に包括的戦略パートナーシップ条約を締結している。こちらの条約では一方の締約国が武力侵攻を受けた際の軍事援助を規定しており、ロ朝の関係は事実上の軍事同盟に格上げされた。北朝鮮からはウクライナ侵略を巡って砲弾や兵士の支援も受けており、足元ではイラン以上に結びつきは強まっている」

     

    ロシアは、北朝鮮との「包括的戦略パートナーシップ条約」では、軍事援助を規定している。北朝鮮から兵士を派遣してもらっている間柄だ。

     

    (4)「イランの核施設を攻撃した米国のトランプ政権は、ウクライナ侵略を巡る仲介役だ。ロシアは、ウクライナ東・南部4州からのウクライナ軍の撤退など自国に有利な条件での停戦を目指しており、米国との関係改善の優先度は高い。18〜21日まで開催されたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは、米ロ関係について協議するプログラムを設けた。同フォーラムに参加したロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は18日、「(米ロ間の)直行便の再開が非常に重要」だと強調し25年中の再開に期待を示した。ドミトリエフ氏は米国との経済協力を担当し、4月に訪米して首都ワシントンのホワイトハウスで米国のウィットコフ中東担当特使と会談した」

     

    ロシアにとっての米国は、ウクライナ侵攻での大事な仲介役である。その米国を怒らせる訳にいかないのだ。イランへは、リップサービスに止まっている。

     

    (5)「米国との関係にも配慮し、積極的な介入から距離を置いているもようだ。プーチン氏は20日の同フォーラム本会議の質疑で「仲介を目指しているわけではない」と強調し、解決に向けたアイデアを提示しているだけだと「及び腰」ともとれる発言が目立った。中東を巡る武力衝突が激化する中、ロシアはウクライナの前線で攻勢を強めている。ロシア軍はウクライナが越境攻撃を仕掛けたロシア西部クルスク州と国境を接するウクライナ北東部スムイ州で攻勢をかけている」

     

    ロシアにとってのイランは、北朝鮮と比べて劣位の関係にある。イランが泣きついてきても、支援できない事情にあるのだ。

     

     

    テイカカズラ
       

    トランプ米大統領は7日、5月8日を第2次世界大戦の「戦勝記念日」に制定する布告に署名した。ナチス・ドイツが連合国に無条件降伏した日を記念する。ホワイトハウスで記者団に「米国がいなければ勝利できなかった。米国以外の皆が祝っている。米国も勝利を祝い始める時だ」と語った。米国は、ロシアが5月8日を対ドイツ戦勝80周年記念式典として大々的に開催していることに「腹を立てた」形だ。

    これには理由がある。ロシアがウクライナ侵略戦争を中止しないことへの苛立ちである。トランプ氏は、すでにロシア産原油を購入し国家や企業に「二次制裁」を課すと発言しているほど。こうした、米国の怒りがベッセント財務長官の「プーチン氏は戦争犯罪人」という発言になって飛び出したのだろう。当初、トランプ政権がみせた「ロシア寄り姿勢」は、今は「ウクライナ寄り姿勢」へ変わってきた。


    『日本経済新聞 電子版』(5月8日付)は、「ベッセント財務長官、プーチン氏は『戦争犯罪人』 対ロ強硬へ踏み込む」と題する記事を掲載した。

    ベッセント米財務長官は7日、ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領について戦争犯罪人だとの認識を示した。連邦議会下院の公聴会で戦争犯罪人と停戦交渉するのかと問われ「それが外交の本質であり、双方と交渉しなければならない」と述べた。公聴会で「プーチンを戦争犯罪人だと考えているか」と質問され、ベッセント氏は「はい(Yes)」と答えた。

    (1)「バイデン前米大統領は、プーチン氏を戦争犯罪人と呼んだものの、ロシアに融和姿勢をとるトランプ米大統領は断定を避けてきた。同氏は、停戦交渉での譲歩に後ろ向きなロシアにいら立ちを募らせており、ベッセント氏の踏み込んだ発言は、対ロ強硬に傾く政権の姿勢を映す。国際刑事裁判所(ICC)は2023年3月、プーチン氏の逮捕状を出した。ロシアの支配地域でウクライナの子どもを連れ去ったことなどの戦争犯罪について、プーチン氏が「刑事責任を負っていると信じる合理的な根拠がある」と声明で記した」


    中国の習近平国家主席は8日、訪問先のモスクワでロシアのプーチン大統領と会談した。西側諸国との対立が高まる中、両首脳は協力関係を新たな段階に引き上げ、米国の影響力に「断固として」対抗していくと表明。新たな世界秩序の擁護者としての立場を鮮明にした。中国とロシアは、「百の試練を経た、鋼鉄のような真の友人だ」とし、共に国際的な公平性と正義を守ると表明。両国は協力関係の基盤を強固にし、「外部からの干渉を排除する」と述べた。この発言は、米国を相当に刺戟している。米国は、戦争を止めないロシアへの制裁を強める姿勢だ。

    (2)「トランプ氏はロシアが停戦に合意しなければ制裁を科すとかねて警告してきた。7日、ホワイトハウスで記者団にロシアが停戦協議で過剰な要求をしているかと聞かれ「あり得る。我々は何らかの決断をしなければならないところにきている」と表明した。4月下旬にはロシアと取引する第三国を制裁対象にする「2次制裁」に踏み切る可能性に言及していた。米連邦議会の超党派議員はロシア産の石油やガス、ウランなどを購入する国に関税をかける法案の準備に入った」

    米連邦議会の超党派議員は、すでにロシア産の石油やガス、ウランなどを購入する国に関税をかける法案の準備に入っている。超党派議員による法案作成だけに、議会での成立は確実である。さしずめ、中国が「二次制裁」の対象国になりかねないのだ。


    (3)「バンス米副大統領は7日、ワシントンで会合に出席し「両陣営が紛争を終結させるために必要な措置を建設的に話し合っていないのはバカげている」と両国を批判した。「ロシアによる戦争の正当化に同意する必要はない。トランプ氏も私も全面侵略を批判してきた」と話した。停戦交渉を念頭に「ロシアが問題を解決する意思がないと思わない」と指摘。一方、協議でのロシアの態度を「要求が過大だ。紛争を終わらせるための特定の要求と譲歩を求めている」と主張した」

    米国は、しだいに和平交渉の軸足をウクライナ側へ移している。ウクライナとの間では、地下資源開発で協定が成立している。米国にとっては念願の「レアアース」獲得の道が開けた以上、ウクライナ側へ立って解決するほかない。



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    習氏は、きょうプーチン氏と会談する。何を語り合うのか。これが、中国の将来に危険性をもたらさないか。改めて、その「危険度」を探る。 

    『ブルームバーグ』(10月17日付)は、「プーチン氏に賭けた習氏の危ういギャンブル 負ければ失うもの多し」と題する記事を掲載した。 

    ロシアのプーチン大統領は2022年2月の中国訪問で習近平国家主席から「限界のない」パートナーシップという約束を取り付けた。プーチン氏はそれから1カ月を経ずして、ウクライナへの武力侵攻を開始。今や中国の経済支援と自ら招いた政治的孤立からの脱却を必要としている同氏は17日、再び北京に戻った。習氏が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で同日開幕する。 

    (1)「ウクライナ侵攻開始から1年8カ月がたち、ロシアの対中依存は経済のあらゆる面に及んでいる。今のところ、プーチン、習両氏は首脳会談で2国間関係の強化に焦点を絞ると予想されている。ロシアは中国からの経済支援を確固たるものにし、中国政府に新しいガスパイプラインに関する協定に調印するよう働きかけたい考えだ」 

    プーチン氏は、中国から経済支援と新しいガスパイプライン協定調印を目指している。

     

    (2)「習氏としては、新たな世界秩序のビジョンを構築する上で強力なパートナーとなる信頼に足るロシアを必要としている。それは、西側諸国、特に米国とその同盟国に対する長きにわたる不信と、台湾を巡る中国の立場を強めたいという願いに基づくものだ。中国が領土の一部と見なす台湾に米国は支援を約束している。習氏にとって、プーチン氏は重要な一翼を担う。すぐにはあり得ないだろうが、実際にもし中国が台湾に侵攻するようなことがあれば、ロシアは食料や燃料の供給を確保し、国連安全保障理事会で政治的な援護をする可能性がある」 

    中国は、台湾侵攻の際にロシアから食料や燃料の供給を確保と政治的援護を期待している。 

    (3)「中国とロシアの間には不穏な雰囲気も漂う。中国がロシアとの関係で得ているのは一定の自動車・テレビ・スマートフォン市場と、値引きされたロシア産石油・ガスを除けばほとんどないと北京の一部専門家や学者は分析。このため、プーチン氏に賭けるギャンブルの度が過ぎるのではないかという疑念も浮上している。ワルシャワのヤクブ・ヤコボフスキ東方研究センター副所長は、「習氏にとってプーチン氏は理想的なパートナーではないと思う。習氏はもっと大きなことを望んでいた」と指摘。ロシアが始めた戦争に関与したくない「中国エリート層の一部からすれば、プーチン氏は習氏にとって一段と重荷になっている」と述べた」 

    中国がロシアとの関係で得ているのは、輸出急増を除けば何もないという。中国は、ロシアが始めたウクライナ戦争に関与したくないのが本音だ。

     

    (4)「EUの行政執行機関である欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)はウクライナに対する中国の姿勢が、EUの対中投資意欲を減退させていると警告している。マレーシアのマラヤ大学で中国研究所所長を務め、中国政治について多くの著書があるヌゲオウ・チャウ・ビン氏は「中国とロシアが同じカテゴリーに分類され続ける限り、欧米などとの橋渡し役」になれないことを中国政府は憂慮しているとし、「中国はどちらの側からも頼れる存在として自らをアピールしたいと考えている」との見方を示した」 

    ウクライナ戦争に対する中国の姿勢が、EUの対中投資意欲を減退させていることは間違いない。中国の理想は、EUとロシア双方から尊敬されることだという。これは、中国経済の減速とともに不可能になってきた。 

    (5)「欧州を拠点とするある外交官は、2人の関係性には同志間の抗争のような側面もあると主張する。両国の関係はしばしば緊張し、時には公然と敵対してきた。1969年の国境紛争では、当時のソ連が中国に対して核兵器の使用をちらつかせた。EU担当の中国外交官だった王義桅・中国人民大学国際事務研究所所長によれば、この「核の脅し」がウクライナに対する同じようなロシアの威嚇に中国が反対する理由の一つだという」 

    1969年の国境紛争で、当時のソ連が中国に対して核兵器の使用をちらつかせた。これが、トラウマになっており、ロシアへの感情に不信感が混ざっているという。

     

    (6)「中国政府にとってもう一つの「レッドライン」は、国連憲章にうたわれている領土主権の原則だ。中国は台湾を巡る自国の見解を強化しようと常にこの原則に触れている。習氏はまた、北大西洋条約機構(NATO)拡大に対するプーチン氏の懸念を共有しているように見える。だが、それは全面的なロシア支持を示すものではない。親モスクワ派は「ロシアの領土奪取を支持している」のではなく、「西側の覇権に対抗するロシアの行動を評価している」のだと王氏は言う。「多くの人々がロシアを嫌い、ロシアを批判している」とも話した」 

    中国は、西側の覇権に対抗するロシアの行動を評価しているだけだという。中国の「お仲間」づくりにすぎない。これでは、真の関係強化は不可能だ。 

    (7)「両国間で緊張が生じている分野の一つが、習氏肝いりの一帯一路だ。中国は1兆ドル(約150兆円)規模のこのプロジェクトを通じ影響力拡大を図っており、ロシアの裏庭である中央アジアに足を踏み入れている。今のところ、ロシアは対中関係の不均衡についてほとんど何もできない。BEのロシア担当エコノミスト、アレクサンダー・イサコフ氏によると、「ロシア政府は国内経済を維持するため中国の協力をしかたなく必要としている」という」 

    中国は、一帯一路事業でロシアの勢力圏である中央アジアへ触手を伸ばしている。こういう現状から言えば、プーチン氏は習氏へ複雑な感情を持っているはず。プーチン氏は、こういう「一物」を胸に、習氏と会談するのだろう。

     

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    国を挙げての戦争で、国内のもめ事は禁物である。このタブーが、ロシアでは民間軍事会社創始者のプリゴジン氏によって日常的に破られている。プリゴジン氏は、国防相や参謀総長へ侮辱的発言を繰り返しており、本来ならば罰せられるべきだが無罪放免だ。この裏には、プーチン大統領がプリゴジン氏の「後援者」として控えている結果とされる。こうして、ロシアの権力構造にひび割れが起こっていると見られる。この状態で、ウクライナ侵攻作戦は継続できるのか疑問符がつくのだ。

     

    『ウォールストリートジャーナル』(5月25日付)は、「ワグネル恨み深く、プーチン氏の権力構造に亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は520日、制圧したウクライナ東部の都市バフムトの廃虚に立ち、敵視する人物をやり玉に挙げて怒りをぶちまけていた。名指しされたのはロシアのセルゲイ・ショイグ国防相とロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長だ。

     

    (1)「ワグネルとロシア軍幹部の対立激化は、1年余り前のウクライナ侵攻開始以降初めて、ロシアの権力組織内の秩序に生じた大きな亀裂を露呈させた。双方の対立は、シリア内戦に端を発する裏切りの物語とも言える。双方がここ数週間に公然と対立し、軍の作戦にも影響を与えている状況は、戦況の劣勢により、ウラジーミル・プーチン露大統領が過去20年にわたり築き上げてきた強力な権力構造にひずみが生じていることの裏返しでもある」

     

    ワグネルは、ロシア正規軍の敗北をカバーしてきた。それだけに、プリゴジン氏は強気に振る舞っている。誰も彼を咎められないという事態だ。プーチン氏もその一人であろう。すべては、ロシア軍の弱体が原因である。

     

    (2)「自身の立場を脅かす政敵の台頭を警戒するプーチン氏(70)はかねて、部下同士の対抗意識をあえて促してきた。だが、これまで内紛劇が表面化することはなかった。隠すことなく繰り広げられるワグネルと軍幹部のにらみ合いは、こうした従来の慣例を打ち破ったことになる」

     

    プーチン氏は、部下同士の内紛を収めず放置している。それが、プーチン氏にとって最も都合がいいからだ。収めれば、「白黒」をつけるほかない。そうなれば、プーチン氏の身辺に累が及ぶ。成敗を下された側が、プーチン氏を恨んで裏切り行為に及ぶ危険性が高まるからだ。ともかく、武器を持っている相手である。その刃が、プーチン氏に向けられれば

    最後になる。

     

    (3)「プーチン氏の元スピーチライターで、現在は政権に批判的な政治アナリストのアッバス・ガリャモフ氏は「この対立劇をみて、ロシアのエリート層が導き出す主な結論は、プーチン氏がこれらの関係を制御できなくなっているということだ。プーチン氏の立場が弱まっているため、垂直の権力構造が崩れつつある」と述べる。「戦時下では、結束を示すというのが国家の基本任務だ。プーチンはそれを遂行できなくなっている」と指摘する

     

    下線部は、極めて重要である。プーチン氏は、核で威嚇する以外に自らの権力を維持できる基盤がなくなりつつある。追い詰められていることは確かだろう。

     

    (4)「ワグネルによるバフムト制圧は、ロシアにとってここ10ヶ月で最大の成果だ。ロシア正規軍はこの間、ウクライナ南部と東部で大部分の占領地を失っている。プリゴジン氏が重ねて強調している事実だ。プーチン氏自身も、戦況の変化にあわせ、プリゴジン氏に近いとみられる将校の待遇を変えることで、ワグネルと軍幹部双方の間でどっちつかずの立場を維持している」

     

    ウクライナ軍はまだ、ロシアによるバフムト完全制圧を否定している。ワグネルは、制圧したと宣伝して自己の成果にしたいのだろう。

     

    (5)「プリゴジン氏は最近になって、標的とする人物を軍幹部から、プーチン政権関係者にも広げているようだ。このような禁じ手なしの手口は「ロシアから勝利を奪う強力な裏切り者を相手に立ち上がるプリゴジン氏」というイメージを醸成しており、プーチン氏の承諾がなければ不可能だ、と西側当局者や専門家は話している」

     

    プリゴジン氏の大胆な政権幹部批判は、プーチン氏がかなり政治的・軍事的に弱気となっている証拠であるかも知れない。この点は、注目点であろう。

     

    (6)「プリゴジン氏は、ウクライナでの戦闘に加わるよう要請されたのは、2022224日の侵攻開始から3週間後だったと語っている。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)掌握に失敗し、「特別軍事作戦の計画が狂って」からだ。ワグネルは直後に、アフリカに展開していた戦闘員を呼び戻してウクライナ東部ルガンスク州に送り、戦況を好転させた。ロシア軍が昨秋、ウクライナ南部と東部から後退を余儀なくされる中、ロシア側が何とか進軍できていたのは、プリゴジン氏が指揮するバフムト近辺に限られた」

     

    このパラグラフによれば、プーチン氏が始めた戦争を持ちこたえさせているのはプリゴジン氏ということになろう。ならば、プーチン氏はプリゴジン氏へ頭が上がらない関係になる。ロシア軍が弱すぎた結果でもある。それほど、ウクライナ侵攻は無謀な戦争であるのだ。

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    ウクライナは、反攻作戦について厳重な箝口令を敷いている。だが、ここ1ヶ月間の作戦を見れば、明らかに反攻作戦の前段階であることを示している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月19日付)は、次のように分析する。 

    「これはウクライナ軍による『攻め前の攻め』だ。ウクライナはここにきて、ロシアが戦場で必要とする弾薬など軍装備品の保管庫に照準を合わせ、ピンポイントで攻撃を仕掛けている。計画している大規模な反攻作戦を控え、できる限りロシア軍を弱体化する狙いがある」と分析する。 

    ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島の解放は「確実に起こる」と述べた。また、「われわれはクリミア再統合の準備を進めており、クリミアおよびクリミア半島の港湾都市セバストポリの再統合と脱占領に関する諮問委員会に関する法令に署名した」とも述べた。この段階で、あえてクリミア半島奪還に触れたことは、今後の反攻作戦の目標を示唆し、そのために必要な準備期間を予告しているようでもある。

     

    『CNN』(5月19日付)は、「曖昧さに包まれたウクライナ軍の反転攻勢、これも計画通りか」と題する記事を掲載した。 

    複数の兆候がこの1カ月間で集まった。米軍の高官も先週、CNNの取材に対し、反攻の準備段階に当たる「形成」作戦をウクライナ軍が開始したと述べていた。それでも公式には、ウクライナによる反転攻勢はまだ始まっていない。 

    (1)「米国と北大西洋条約機構(NATO)が、この作戦にどれだけの装備と助言、訓練を提供しているかを考えれば、ここで反攻開始の宣言を遅らせているのは戦術とみるのが妥当だろう。ウクライナ軍の混乱や無秩序の産物でもなければ、比較的雨の多い4月の気候によって地面がぬかるんでいるからでもない。開始の発表は、全面的にゼレンスキー大統領の裁量の範囲内だ。作戦遂行を宣言すれば、時計は直ちに最初の戦果に向けて動き出す。まだ始まっていないと言えば、ロシアがどれだけの損害を被ろうと、それは普段から前線で繰り広げられている消耗戦の攻防によるものでしかなくなる」 

    ロシア軍と戦うウクライナ軍の間には、士気や兵器の面ですでに大きな格差が生まれている。ロシア軍は人海戦術、ウクライナ軍が情報を活用した戦いであるからだ。こうなると、ウクライナ軍が、焦らずじっくりと敵を追込む作戦に出ていることは間違いなさそう。ウクライナ軍が、情報戦で一歩も二歩も優位に立っている。

     

    (2)「過去1カ月、ゼレンスキー氏は不明瞭なコメントを口にしてきた。作戦の「重要な第一歩」が「間もなく起こるだろう」、あるいは「もう少し時間が必要だ」といったその発言は、開始を宣言することがないというウクライナ政府の当初の約束をなぞったものに過ぎなかった。このように事態を曖昧(あいまい)にする目的が、ロシア政府を揺さぶり続けることにあるのは明白だ。ウクライナ軍が新たな攻撃を仕掛けるたび、「それ(反転攻勢)」を遂行しているのか、単にまた探りを入れに来ただけなのか、ロシア側が見極めるのを不可能にする狙いがある」 

    ゼレンスキー大統領の発言は、まさに「焦らし戦法」である。ロシア軍は、そのたびに右往左往させられているに違いない。総反攻作戦を待つロシア軍にとって、一日一日が長いであろう。精神的にも参ってくるはずだ。

     

    (3)「ウクライナ政府はここまで、自分たちの意図や準備を隠すことに成功している。反攻開始に見せかけた可能性のある作戦行動についても、真相をつかませてはいない。ウクライナ軍には忍耐力と、計画を漏らすことなく入念に遂行する能力とが備わっているように見える。片やロシア政府は、自分たちの機能不全を完全に露呈した。このことは向こう数週間で非常に重要な意味を持つだろう。ロシア政府は見たところ悪い知らせの扱いが非常に不得手であり、表にも出し過ぎる」 

    ウクライナ軍が、一糸乱れぬ規律を守っているのに対して、ロシア軍からは内部的混乱の情報が飛び交っている。ロシア軍の内情が暴露されている感じだ。 

    (4)「ロシアが占領によって獲得したこれら3都市の一つを失うことになった場合、それはプーチン大統領にとって、広い意味での戦略的敗北を喫する最初のリスクとなるはずだ。ゼレンスキー氏は勝利を確実視しつつも、西側の供与する優れた装備が迅速に届かなければ、さらに多くのウクライナ人が命を落とすと指摘した。ここまでのウクライナの作戦にとって、この主張は重要だ。ウクライナ人の命は神聖であり、その喪失は疑いなく大きな意味を持つ。一方でウクライナ側はそうした喪失を、敵軍の場合よりも格段に受け入れがたいものとみなしている」 

    ウクライナ軍の総反攻作戦を前に、中国が「和平仲介」を名乗って関係国を回り始めた。ロシア軍不利という前提で動いていることは明らか。中国の本音は、ロシアの大敗を防ぐことにある。ドクターストップを掛けるつもりであろう。

    (5)「弱体化したロシア軍の陣地への全面攻撃は、いつでも可能な状況だ。同軍は兵站(へいたん)、指揮命令系統、士気のいずれも弱まっている公算が大きい。これからの数週間、ロシア軍が混乱に陥り、戦線が間延びし、内部批判が一段と明るみに出るようなら、それによってウクライナ軍は人的損失を低下できるとみられる。ロシア側からの混乱したメッセージが、おそらくは内部分裂を示す稀(まれ)な兆候であるのに対し、ウクライナ側のそれには意志と覚悟が表れている」 

    ゼレンスキー大統領は、クリミア半島奪還まで口にしている。大方の軍事専門家は、クリミア半島まで奪回できると予想していない。「痩せてもロシア軍」である。その存在を軽視してはならぬ、という警告を込めているのだ。この予測が外れたならどうなるか。ロシア国内は、収拾がつかなくなろう。

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