勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    習氏は、きょうプーチン氏と会談する。何を語り合うのか。これが、中国の将来に危険性をもたらさないか。改めて、その「危険度」を探る。 

    『ブルームバーグ』(10月17日付)は、「プーチン氏に賭けた習氏の危ういギャンブル 負ければ失うもの多し」と題する記事を掲載した。 

    ロシアのプーチン大統領は2022年2月の中国訪問で習近平国家主席から「限界のない」パートナーシップという約束を取り付けた。プーチン氏はそれから1カ月を経ずして、ウクライナへの武力侵攻を開始。今や中国の経済支援と自ら招いた政治的孤立からの脱却を必要としている同氏は17日、再び北京に戻った。習氏が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の国際会議が北京で同日開幕する。 

    (1)「ウクライナ侵攻開始から1年8カ月がたち、ロシアの対中依存は経済のあらゆる面に及んでいる。今のところ、プーチン、習両氏は首脳会談で2国間関係の強化に焦点を絞ると予想されている。ロシアは中国からの経済支援を確固たるものにし、中国政府に新しいガスパイプラインに関する協定に調印するよう働きかけたい考えだ」 

    プーチン氏は、中国から経済支援と新しいガスパイプライン協定調印を目指している。

     

    (2)「習氏としては、新たな世界秩序のビジョンを構築する上で強力なパートナーとなる信頼に足るロシアを必要としている。それは、西側諸国、特に米国とその同盟国に対する長きにわたる不信と、台湾を巡る中国の立場を強めたいという願いに基づくものだ。中国が領土の一部と見なす台湾に米国は支援を約束している。習氏にとって、プーチン氏は重要な一翼を担う。すぐにはあり得ないだろうが、実際にもし中国が台湾に侵攻するようなことがあれば、ロシアは食料や燃料の供給を確保し、国連安全保障理事会で政治的な援護をする可能性がある」 

    中国は、台湾侵攻の際にロシアから食料や燃料の供給を確保と政治的援護を期待している。 

    (3)「中国とロシアの間には不穏な雰囲気も漂う。中国がロシアとの関係で得ているのは一定の自動車・テレビ・スマートフォン市場と、値引きされたロシア産石油・ガスを除けばほとんどないと北京の一部専門家や学者は分析。このため、プーチン氏に賭けるギャンブルの度が過ぎるのではないかという疑念も浮上している。ワルシャワのヤクブ・ヤコボフスキ東方研究センター副所長は、「習氏にとってプーチン氏は理想的なパートナーではないと思う。習氏はもっと大きなことを望んでいた」と指摘。ロシアが始めた戦争に関与したくない「中国エリート層の一部からすれば、プーチン氏は習氏にとって一段と重荷になっている」と述べた」 

    中国がロシアとの関係で得ているのは、輸出急増を除けば何もないという。中国は、ロシアが始めたウクライナ戦争に関与したくないのが本音だ。

     

    (4)「EUの行政執行機関である欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長(通商担当)はウクライナに対する中国の姿勢が、EUの対中投資意欲を減退させていると警告している。マレーシアのマラヤ大学で中国研究所所長を務め、中国政治について多くの著書があるヌゲオウ・チャウ・ビン氏は「中国とロシアが同じカテゴリーに分類され続ける限り、欧米などとの橋渡し役」になれないことを中国政府は憂慮しているとし、「中国はどちらの側からも頼れる存在として自らをアピールしたいと考えている」との見方を示した」 

    ウクライナ戦争に対する中国の姿勢が、EUの対中投資意欲を減退させていることは間違いない。中国の理想は、EUとロシア双方から尊敬されることだという。これは、中国経済の減速とともに不可能になってきた。 

    (5)「欧州を拠点とするある外交官は、2人の関係性には同志間の抗争のような側面もあると主張する。両国の関係はしばしば緊張し、時には公然と敵対してきた。1969年の国境紛争では、当時のソ連が中国に対して核兵器の使用をちらつかせた。EU担当の中国外交官だった王義桅・中国人民大学国際事務研究所所長によれば、この「核の脅し」がウクライナに対する同じようなロシアの威嚇に中国が反対する理由の一つだという」 

    1969年の国境紛争で、当時のソ連が中国に対して核兵器の使用をちらつかせた。これが、トラウマになっており、ロシアへの感情に不信感が混ざっているという。

     

    (6)「中国政府にとってもう一つの「レッドライン」は、国連憲章にうたわれている領土主権の原則だ。中国は台湾を巡る自国の見解を強化しようと常にこの原則に触れている。習氏はまた、北大西洋条約機構(NATO)拡大に対するプーチン氏の懸念を共有しているように見える。だが、それは全面的なロシア支持を示すものではない。親モスクワ派は「ロシアの領土奪取を支持している」のではなく、「西側の覇権に対抗するロシアの行動を評価している」のだと王氏は言う。「多くの人々がロシアを嫌い、ロシアを批判している」とも話した」 

    中国は、西側の覇権に対抗するロシアの行動を評価しているだけだという。中国の「お仲間」づくりにすぎない。これでは、真の関係強化は不可能だ。 

    (7)「両国間で緊張が生じている分野の一つが、習氏肝いりの一帯一路だ。中国は1兆ドル(約150兆円)規模のこのプロジェクトを通じ影響力拡大を図っており、ロシアの裏庭である中央アジアに足を踏み入れている。今のところ、ロシアは対中関係の不均衡についてほとんど何もできない。BEのロシア担当エコノミスト、アレクサンダー・イサコフ氏によると、「ロシア政府は国内経済を維持するため中国の協力をしかたなく必要としている」という」 

    中国は、一帯一路事業でロシアの勢力圏である中央アジアへ触手を伸ばしている。こういう現状から言えば、プーチン氏は習氏へ複雑な感情を持っているはず。プーチン氏は、こういう「一物」を胸に、習氏と会談するのだろう。

     

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    国を挙げての戦争で、国内のもめ事は禁物である。このタブーが、ロシアでは民間軍事会社創始者のプリゴジン氏によって日常的に破られている。プリゴジン氏は、国防相や参謀総長へ侮辱的発言を繰り返しており、本来ならば罰せられるべきだが無罪放免だ。この裏には、プーチン大統領がプリゴジン氏の「後援者」として控えている結果とされる。こうして、ロシアの権力構造にひび割れが起こっていると見られる。この状態で、ウクライナ侵攻作戦は継続できるのか疑問符がつくのだ。

     

    『ウォールストリートジャーナル』(5月25日付)は、「ワグネル恨み深く、プーチン氏の権力構造に亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は520日、制圧したウクライナ東部の都市バフムトの廃虚に立ち、敵視する人物をやり玉に挙げて怒りをぶちまけていた。名指しされたのはロシアのセルゲイ・ショイグ国防相とロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長だ。

     

    (1)「ワグネルとロシア軍幹部の対立激化は、1年余り前のウクライナ侵攻開始以降初めて、ロシアの権力組織内の秩序に生じた大きな亀裂を露呈させた。双方の対立は、シリア内戦に端を発する裏切りの物語とも言える。双方がここ数週間に公然と対立し、軍の作戦にも影響を与えている状況は、戦況の劣勢により、ウラジーミル・プーチン露大統領が過去20年にわたり築き上げてきた強力な権力構造にひずみが生じていることの裏返しでもある」

     

    ワグネルは、ロシア正規軍の敗北をカバーしてきた。それだけに、プリゴジン氏は強気に振る舞っている。誰も彼を咎められないという事態だ。プーチン氏もその一人であろう。すべては、ロシア軍の弱体が原因である。

     

    (2)「自身の立場を脅かす政敵の台頭を警戒するプーチン氏(70)はかねて、部下同士の対抗意識をあえて促してきた。だが、これまで内紛劇が表面化することはなかった。隠すことなく繰り広げられるワグネルと軍幹部のにらみ合いは、こうした従来の慣例を打ち破ったことになる」

     

    プーチン氏は、部下同士の内紛を収めず放置している。それが、プーチン氏にとって最も都合がいいからだ。収めれば、「白黒」をつけるほかない。そうなれば、プーチン氏の身辺に累が及ぶ。成敗を下された側が、プーチン氏を恨んで裏切り行為に及ぶ危険性が高まるからだ。ともかく、武器を持っている相手である。その刃が、プーチン氏に向けられれば

    最後になる。

     

    (3)「プーチン氏の元スピーチライターで、現在は政権に批判的な政治アナリストのアッバス・ガリャモフ氏は「この対立劇をみて、ロシアのエリート層が導き出す主な結論は、プーチン氏がこれらの関係を制御できなくなっているということだ。プーチン氏の立場が弱まっているため、垂直の権力構造が崩れつつある」と述べる。「戦時下では、結束を示すというのが国家の基本任務だ。プーチンはそれを遂行できなくなっている」と指摘する

     

    下線部は、極めて重要である。プーチン氏は、核で威嚇する以外に自らの権力を維持できる基盤がなくなりつつある。追い詰められていることは確かだろう。

     

    (4)「ワグネルによるバフムト制圧は、ロシアにとってここ10ヶ月で最大の成果だ。ロシア正規軍はこの間、ウクライナ南部と東部で大部分の占領地を失っている。プリゴジン氏が重ねて強調している事実だ。プーチン氏自身も、戦況の変化にあわせ、プリゴジン氏に近いとみられる将校の待遇を変えることで、ワグネルと軍幹部双方の間でどっちつかずの立場を維持している」

     

    ウクライナ軍はまだ、ロシアによるバフムト完全制圧を否定している。ワグネルは、制圧したと宣伝して自己の成果にしたいのだろう。

     

    (5)「プリゴジン氏は最近になって、標的とする人物を軍幹部から、プーチン政権関係者にも広げているようだ。このような禁じ手なしの手口は「ロシアから勝利を奪う強力な裏切り者を相手に立ち上がるプリゴジン氏」というイメージを醸成しており、プーチン氏の承諾がなければ不可能だ、と西側当局者や専門家は話している」

     

    プリゴジン氏の大胆な政権幹部批判は、プーチン氏がかなり政治的・軍事的に弱気となっている証拠であるかも知れない。この点は、注目点であろう。

     

    (6)「プリゴジン氏は、ウクライナでの戦闘に加わるよう要請されたのは、2022224日の侵攻開始から3週間後だったと語っている。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)掌握に失敗し、「特別軍事作戦の計画が狂って」からだ。ワグネルは直後に、アフリカに展開していた戦闘員を呼び戻してウクライナ東部ルガンスク州に送り、戦況を好転させた。ロシア軍が昨秋、ウクライナ南部と東部から後退を余儀なくされる中、ロシア側が何とか進軍できていたのは、プリゴジン氏が指揮するバフムト近辺に限られた」

     

    このパラグラフによれば、プーチン氏が始めた戦争を持ちこたえさせているのはプリゴジン氏ということになろう。ならば、プーチン氏はプリゴジン氏へ頭が上がらない関係になる。ロシア軍が弱すぎた結果でもある。それほど、ウクライナ侵攻は無謀な戦争であるのだ。

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    ウクライナは、反攻作戦について厳重な箝口令を敷いている。だが、ここ1ヶ月間の作戦を見れば、明らかに反攻作戦の前段階であることを示している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月19日付)は、次のように分析する。 

    「これはウクライナ軍による『攻め前の攻め』だ。ウクライナはここにきて、ロシアが戦場で必要とする弾薬など軍装備品の保管庫に照準を合わせ、ピンポイントで攻撃を仕掛けている。計画している大規模な反攻作戦を控え、できる限りロシア軍を弱体化する狙いがある」と分析する。 

    ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島の解放は「確実に起こる」と述べた。また、「われわれはクリミア再統合の準備を進めており、クリミアおよびクリミア半島の港湾都市セバストポリの再統合と脱占領に関する諮問委員会に関する法令に署名した」とも述べた。この段階で、あえてクリミア半島奪還に触れたことは、今後の反攻作戦の目標を示唆し、そのために必要な準備期間を予告しているようでもある。

     

    『CNN』(5月19日付)は、「曖昧さに包まれたウクライナ軍の反転攻勢、これも計画通りか」と題する記事を掲載した。 

    複数の兆候がこの1カ月間で集まった。米軍の高官も先週、CNNの取材に対し、反攻の準備段階に当たる「形成」作戦をウクライナ軍が開始したと述べていた。それでも公式には、ウクライナによる反転攻勢はまだ始まっていない。 

    (1)「米国と北大西洋条約機構(NATO)が、この作戦にどれだけの装備と助言、訓練を提供しているかを考えれば、ここで反攻開始の宣言を遅らせているのは戦術とみるのが妥当だろう。ウクライナ軍の混乱や無秩序の産物でもなければ、比較的雨の多い4月の気候によって地面がぬかるんでいるからでもない。開始の発表は、全面的にゼレンスキー大統領の裁量の範囲内だ。作戦遂行を宣言すれば、時計は直ちに最初の戦果に向けて動き出す。まだ始まっていないと言えば、ロシアがどれだけの損害を被ろうと、それは普段から前線で繰り広げられている消耗戦の攻防によるものでしかなくなる」 

    ロシア軍と戦うウクライナ軍の間には、士気や兵器の面ですでに大きな格差が生まれている。ロシア軍は人海戦術、ウクライナ軍が情報を活用した戦いであるからだ。こうなると、ウクライナ軍が、焦らずじっくりと敵を追込む作戦に出ていることは間違いなさそう。ウクライナ軍が、情報戦で一歩も二歩も優位に立っている。

     

    (2)「過去1カ月、ゼレンスキー氏は不明瞭なコメントを口にしてきた。作戦の「重要な第一歩」が「間もなく起こるだろう」、あるいは「もう少し時間が必要だ」といったその発言は、開始を宣言することがないというウクライナ政府の当初の約束をなぞったものに過ぎなかった。このように事態を曖昧(あいまい)にする目的が、ロシア政府を揺さぶり続けることにあるのは明白だ。ウクライナ軍が新たな攻撃を仕掛けるたび、「それ(反転攻勢)」を遂行しているのか、単にまた探りを入れに来ただけなのか、ロシア側が見極めるのを不可能にする狙いがある」 

    ゼレンスキー大統領の発言は、まさに「焦らし戦法」である。ロシア軍は、そのたびに右往左往させられているに違いない。総反攻作戦を待つロシア軍にとって、一日一日が長いであろう。精神的にも参ってくるはずだ。

     

    (3)「ウクライナ政府はここまで、自分たちの意図や準備を隠すことに成功している。反攻開始に見せかけた可能性のある作戦行動についても、真相をつかませてはいない。ウクライナ軍には忍耐力と、計画を漏らすことなく入念に遂行する能力とが備わっているように見える。片やロシア政府は、自分たちの機能不全を完全に露呈した。このことは向こう数週間で非常に重要な意味を持つだろう。ロシア政府は見たところ悪い知らせの扱いが非常に不得手であり、表にも出し過ぎる」 

    ウクライナ軍が、一糸乱れぬ規律を守っているのに対して、ロシア軍からは内部的混乱の情報が飛び交っている。ロシア軍の内情が暴露されている感じだ。 

    (4)「ロシアが占領によって獲得したこれら3都市の一つを失うことになった場合、それはプーチン大統領にとって、広い意味での戦略的敗北を喫する最初のリスクとなるはずだ。ゼレンスキー氏は勝利を確実視しつつも、西側の供与する優れた装備が迅速に届かなければ、さらに多くのウクライナ人が命を落とすと指摘した。ここまでのウクライナの作戦にとって、この主張は重要だ。ウクライナ人の命は神聖であり、その喪失は疑いなく大きな意味を持つ。一方でウクライナ側はそうした喪失を、敵軍の場合よりも格段に受け入れがたいものとみなしている」 

    ウクライナ軍の総反攻作戦を前に、中国が「和平仲介」を名乗って関係国を回り始めた。ロシア軍不利という前提で動いていることは明らか。中国の本音は、ロシアの大敗を防ぐことにある。ドクターストップを掛けるつもりであろう。

    (5)「弱体化したロシア軍の陣地への全面攻撃は、いつでも可能な状況だ。同軍は兵站(へいたん)、指揮命令系統、士気のいずれも弱まっている公算が大きい。これからの数週間、ロシア軍が混乱に陥り、戦線が間延びし、内部批判が一段と明るみに出るようなら、それによってウクライナ軍は人的損失を低下できるとみられる。ロシア側からの混乱したメッセージが、おそらくは内部分裂を示す稀(まれ)な兆候であるのに対し、ウクライナ側のそれには意志と覚悟が表れている」 

    ゼレンスキー大統領は、クリミア半島奪還まで口にしている。大方の軍事専門家は、クリミア半島まで奪回できると予想していない。「痩せてもロシア軍」である。その存在を軽視してはならぬ、という警告を込めているのだ。この予測が外れたならどうなるか。ロシア国内は、収拾がつかなくなろう。

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    ウクライナ軍が、予想されるロシア軍への反転攻勢を前に、準備段階に当たる「形成」作戦を開始したことが分かった。米軍や欧米当局の高官がCNNに明らかにした。ウクライナ東部の激戦地バフムトで5月10日、ウクライナ軍がロシア精鋭部隊壊滅させたことが「形成」作戦に当たると見られる。

     

    形成作戦の内容には、部隊の進軍に備えて戦場の状況を準備するため、武器集積所や指揮所、装甲車、火砲を攻撃することが含まれる。大規模な連合作戦の前に行われる標準的な戦術となっている。ウクライナが昨年夏に南部と北東部で反攻を仕掛けた際にも、事前に航空攻撃で戦場を形成する作戦が行われた。米軍高官によると、こうした形成作戦は、予定されるウクライナの攻勢の主要部分の前に何日も続く可能性があるという。『CNN』(5月12日付)が報じた。

     

    『朝鮮日報』(5月12日付)は、ウクライナ軍がバフムトで大反撃 ロシア軍最精鋭部隊が壊滅

     

      ウクライナ軍がバフムトでの反撃でロシアに対する反転攻勢の序幕を飾った。ウクライナ東部の都市バフムトは昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、最大の激戦地だった ウクライナ陸軍第3強襲旅団は10日(現地時間)「バフムトでロシア軍第72自動小銃旅団を退却させた」と発表した。第72自動小銃旅団はロシア軍最精鋭部隊の一つだ。ウクライナの民兵隊「アゾフ連隊」のアンドリー・ビレツキー氏は動画メッセージで「ロシア軍2個中隊の兵力を壊滅させ、7.8平方キロの領土を回復した」と明らかにした。

     

    (1)「ウクライナ軍は、敵陣への空襲からロシア軍の逃亡に至る圧勝の様子を動画と写真で公開したことから、機先を制していることがうかがえる。ウクライナ軍筋によると、ウクライナ軍は旧ソ連製戦車T64や米国製装甲車M113などを先頭にロシア軍陣地に進撃した。反転攻勢の始まりだった。ウクライナ製の対戦車ミサイル「スタグナP」も反撃に加わった。 ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップでプーチン大統領の側近とされるプリゴジン氏は「ロシア軍第72自動小銃旅団が退却したため、ワグネルの兵士500人が犠牲になった」と主張し、ウクライナ軍の攻勢で逃亡したロシア正規軍を非難した」

     

    今回のバフムトでのウクライナ軍の反攻作戦は、「諸兵科連合作戦」のテスト版であろう。小手試しに戦術を展開した結果で、まずは成功と言える。

     

    (2)「現時点で確認されていないロシア正規軍の被害を合計すれば、死亡者の数はさらに増えそうだ。ウクライナ・メディアのキーウ・ポストは「ここ数カ月ではロシア軍最大の敗北」と報じた。ウクライナ軍はバフムト攻撃の様子を撮影した動画、さらにウクライナ軍の攻勢に押されロシア軍が逃走する様子を撮影した写真などを公開した。戦果が決して誇張されていないことを強調することで、プーチン大統領とロシア正規軍、そしてワグネルの士気を下げる狙いがあるとみられる」

     

    ロシア軍は、ここ数ヶ月では最大の敗北とされる。バフムトは、ロシア軍が占領を目指して多くの犠牲を払ってきた要衝地である。それが、ウクライナ軍の小型「諸兵科連合作戦」によって敗退したとすれば、これから迎える本格的な反攻作戦にも大きな影響が出るはずだ。

     

    (3)「ウクライナ軍によるバフムトでの攻勢は、ロシアに大きな打撃を与えた可能性も考えられる。それは、バフムトが戦略的に非常に重要とされるからだ。バフムトは東部ドネツク州の都市でここ9カ月の間にウクライナ軍とロシア軍・ワグネルが激しい戦闘を続けてきた。 ウクライナの立場からすれば、戦争の勝機をつかむにはロシア軍がすでに大部分を掌握したバフムトを死守しなければならない。またロシアにとってもバフムトはドネツク州やルハンシク州など東部ドンバス地域の占領を維持する重要な拠点となる。そのためウクライナ軍によるバフムト奪還はロシアにとっては手痛い打撃だ」

     

    バフムトは、ウクライナ軍にとって防衛の象徴的な場所になっている。ロシア軍に多大な消耗を強いて、今後の反撃能力を奪うことに主眼が置かれてきた。ウクライナは、この目的を100%達成して、ついに反攻作戦に転じたのだ。

     

    (4)「ウクライナ軍の被害が、ワグネルとの戦闘で相次いだ際には西側諸国から撤退を求める声も相次いだ。そのたびに、ウクライナのゼレンスキー大統領は「絶対に放棄できない」として強い意志を何度も表明してきた。 「クリミア半島周辺でウクライナが反転攻勢に乗り出す」との見方は以前から有力視されていた。ところがウクライナ軍が突然バフムトで攻撃を開始したことで、「ロシアの舌を切り取った」との評価も相次いでいる」

     

    ロシアは、ロシア軍第72自動小銃旅団が退却した衝撃は大きいであろう。これから本格化が予想されるウクライナの反攻作戦により、ロシア軍の士気が低下するであろう。

     

    (5)「ウクライナ軍が、今回の勝利で奪還した地域はまだ一部に過ぎないため、「ウクライナ軍によるバフムトでの勝利は戦争の版図を変えるほどではない」との見方もある。ウクライナ東部軍のセルヒー・チェレバティ広報担当官は「現時点でロシア旅団全体の兵力が破壊されたわけではない」とコメントした」

     

    ウクライナ軍は、今回のバフムトの反撃を過大評価しないという慎重さを見せている。なによりも、「諸兵科連合作戦」が機能したことに手応えを得た点で、大きな「戦果」になったといえよう。

     

     



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    ロシアは、ウクライナ侵攻で財政的にも苦境に立たされている。5月9日の「祖国大勝利パレード」は、昨年よりも規模を小さくして行った。侵略戦争の損害が大きいことを伺わせている。ロシアは、緊急対策としてエネルギー企業への課税強化を図り、最大6000億ルーブル(約1兆円)の税収を増やそうとしている。これによって、エネルギー企業の設備投資が抑制されるので発展力を奪うことは確実だ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月8日付)は、「ロシア政府、歳入不足でエネルギー企業に増税」と題する記事を掲載した。

     

    西側諸国の複数の政府関係者によると、ロシア産原油の輸出価格に上限を設ける主要7カ国(G7)を中心とした西側の経済制裁により、ロシア政府は石油各社への課税を強化せざるを得なくなっている。すでに制裁に苦しんでいるロシアのエネルギー業界にとっては追い打ちだ。

     

    (1)「フィナンシャル・タイムズ(FT)が入手した、ある西側の国による影響分析では、歳入不足を補うためのこの増税は業界の長期的な投資能力を犠牲にすることになり、逆効果になる可能性が高いことがわかった。西側政府の関係者はFTの取材に対し「これはロシアのエネルギー業界にとって間違いなく壊滅的な打撃になる」と語った。「この課税強化で設備や探査、既存の石油・ガス田への投資に充てることができたはずの資金が奪われ、ロシアの石油・ガス業界の将来の生産能力は低下するだろう」と指摘」

     

    ロシアが、歳入不足をカバーするための増税が、企業の設備投資を抑制するので、発展力に影響が出ることは不可避となった。

     

    (2)「ロシアのプーチン大統領は4月、石油会社への課税方法を変更した。これによりロシア産の主力油種「ウラル原油」の価格ではなく、国際指標の北海ブレント原油価格から一定額を差し引いた水準に基づいて課税されることになった。ウラルはここ数カ月、北海ブレントよりも安値で取引されている。ロシアはウクライナ侵攻の戦費調達の妨害を狙った西側の制裁で、石油輸出収入が不足した。その穴を埋めるため、今回の課税強化で税収を最大6000億ルーブル(約1兆円)増やそうとしている。この措置により、ロシアは「現在」の戦費を賄うために「未来」を犠牲にしていると関係者はみる」

     

    課税基準は、割安のロシア産の主力油種「ウラル原油」ではなく、高値の国際指標の北海ブレント原油価格から一定額を差し引いた水準に基づいて課税されるという。ロシアのエネルギー企業にとっては、実勢販売価格を上回る価格を基準に課税されるという、とんでもない事態に直面している。

     

    (3)「2023年1〜3月期のロシアの石油・ガス関連の税収は前年同期比45%減少した。中でも3月の石油精製製品では前年同月比85%も落ち込んだ。前出の関係者は、ロシアは歳入の45%をこうした収入に依存しているとも語った。「課税強化は歳入が大きく落ち込んでいる明白な証拠だ」

     

    ロシアの石油・ガス関連の税収は1~3月期に前年同期比45%もの減少である。これでは、戦費を賄えないのは当然である。ロシアは、確実に日干しにされている。

     

    (4)「英調査会社エナジー・アスペクツ傘下のオイルエックスによると、4月のロシアの原油産出量は日量1040万バレルに減少した。上限価格の設定に対抗し、ロシア政府が減産をちらつかせたことが反映されている可能性があるという。アジア向けが大半を占める輸出量は470万バレルで、過去5年間の平均を下回った。G7各国は上限価格の設定は想定通りの効果を上げていると考えているが、税関のデータではロシアの石油会社は少なくとも一部の輸出では、上限を超える価格を確保していることが示されている。極東へのある輸出ルートではここ数週間、74ドルもの高値で販売されていた」

     

    4月の輸出量は470万バレルで、過去5年間の平均を下回った。しかも、価格は「上限制」でかんぬきをはめられている。ただ、例外もあるようで1バレル74ドルの販売もある。

     

    (5)「今週、日本で開催されるG7財務相・中央銀行総裁会議では、対ロ制裁が主な議題になるとみられる。西側政府関係者は「上限価格とその効果が焦点になる」との見方を示した。制裁参加国は今後、「上限を超える価格での不正な取引行為など、制裁逃れの対策強化にも取り組む」と述べた。さらにこの関係者は、各国が「船舶の位置情報の操作」や「運航費や積み荷の運賃、関税、保険料を石油と分けて明細に記載していないこと」などの「危険信号」を指摘し、石油各社が制裁に従うよう支援していくとも語った」

     

    G7では、ロシア産原油の上限制を守らせるために規制を厳しくする。ロシアを財政面から追込む意図である。

     

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