勝又壽良のワールドビュー

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    ロシアは、核脅迫という「最後通告」とその後の「Uターン」を繰り返し、戦争目的も絶えず変化している。このため西側諸国の政府当局者の間では、プーチン氏は自分の手に負えなくなっているこの戦争で、行き当たりばったりに対処することを余儀なくされているとの見方が強まっている。 

    ロシアは、欧米の制裁で重要産業の運営維持に苦慮している。このため、自動車、航空機、鉄道の部品を含む製品500以上のリストをインドに送付していたことが分かった。『ロイター』(11月29日付)が報じた。ロシアは、ここまで追込まれているが、「止めるに止められない戦争」という、最悪事態へ自ら落込んでいる。プーチン氏にも解決方法はないのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月29日付)は、「ぶれるプーチン氏、戦争目的と『レッドライン』は」と題する記事を掲載した。 

    ウラジーミル・プーチン大統領が主導したウクライナ侵攻後、ロシアはしばしば戦争をエスカレートさせるという脅しをかけてきたが、脅しの多くを後にトーンダウンするか無視している。米国とその同盟国は、プーチン氏の真のレッドラインはどこなのか推測せざるを得なくなっている。 

    (1)「キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のマイケル・クラーク客員教授は、「プーチン氏の行動には現在、自暴自棄の要素がある。なぜなら、戦況が芳しくないこと、そして戦闘の長期化を覚悟しなければならないことを知っているはずだからだ」と述べた。ロシアはウクライナへの侵攻を拡大させている。ここ数週間でさらに数万人の兵士を前線に送り、ウクライナの電力網をはじめとする民間インフラへの攻撃を繰り返しており、首都キーウなどの都市はたびたび停電に見舞われている」 

    プーチン氏は、自暴自棄になっている気配があるという。勝ち目のない戦争だが、自ら止めるワケにもいかない。そこで、ウクライナの厭戦気分や支援する西側諸国の支援疲れを待っているのであろう。

     

    (2)「軍事アナリストらによると、ロシアの目的は、冬季にウクライナ国民を凍えさせることで士気を低下させ、西側諸国のウクライナ支援のコストをさらに高め、戦争が積極的に押し進められていることをロシア国内向けに示すことだという。ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国の双方が維持するレッドラインの一つは、ほとんど明言されていないが、相手との直接的な軍事衝突を望んでいないことだ」 

    ロシアは、NATO軍との軍事衝突を望んでいない。全面衝突になればさらに勝ち目がなくなるからだ。ロシア大統領選挙は2024年3月である。プーチン氏が立候補するならば、早く戦争を切り上げる必要があろう。

     

    (3)「ロシアのその他のレッドラインは、しばしば幻想であることが判明しており、特に好戦的な発言の一部は裏目に出ている。プーチン氏は9月21日、「ロシアとその国民を守るために利用可能な全ての手段」を講じると述べ、ウクライナで核兵器を使用する用意があると警告した。同氏は「これははったりではない」と付け加えた。ロシア政府はその後、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の準備を進めていると非難した」 

    弱い犬ほど「遠吠え」するというが、ロシアはこれまで何回か「核威嚇」してきた。これにより、ウクライナやNATOの厭戦気分を引き出す計画であった。

     

    (4)「西側諸国の当局者はこの動きについて、衝突をエスカレートさせる口実だと指摘した。西側の当局者やアナリストによると、この脅しの主な目的は、西側諸国の市民に戦争に関するパニックを起こさせ、ウクライナへの支持をやめて、ロシアが示す条件で和平交渉を進めるよう各国政府を説得してもらうことにあった。今のところ、この脅しは西側諸国によるウクライナ支援に影響しておらず、支援は順調に続いているように見える」 

    米国は、ロシアへ核使用のリスクを伝えている。通常兵器での報復である。ロシア軍部は、これを聞いて震え上がったのであろう。ロシアの黒海艦隊を全滅させると通告されているのだ。

     

    (5)「プーチン氏の核戦力による威嚇は、世界からの非難を浴び、ロシアを外交的に一層孤立させた。ジョー・バイデン米大統領はロシア政府に対し、戦術核兵器の使用が「極めて深刻な過ち」になると警告した極め付きは、中国の習近平国家主席が初めて公の場でロシアによる戦争行為を非難したことだった。習氏は、いかなる者も紛争で核兵器を使用したり、その使用をちらつかせたりすべきではないとけん制した」 

    ロシアの盟友である中国は、ロシアの核使用に反対している。インドも表明した。こうなると、ロシアの核脅迫発言は国際社会で自らの孤立を深めるだけだ。

     

    (6)「ロシア政府は、10月下旬までに姿勢を後退させた。プーチン氏はテレビの長時間インタビューで、ロシアにはウクライナで核兵器を使用する計画がないと述べた。世界中にいるロシアの外交官からも同様の発言が出た。西側専門家は、戦場における核兵器の使用はロシアの軍事侵攻の目的達成にほとんど役立たず、米国とその同盟諸国を戦争にさらに深く引き込むリスクがあると指摘する。また、1945年以来維持されてきた核兵器使用のタブーを破れば、ロシアへの非難が強まり国際的な孤立が一層深まるだろ」 

    プーチン氏は、ウクライナで核兵器を使用する計画がないと述べた。自らまき散らした「核脅迫」は不発になりそうだ。こうなると、ロシアはどうするのか。「ダラダラ戦争」を行なって「偽正義」を言い募るという無益な試みで時間を空費するのだ。その間の人命の損失を考える余裕はなくなっている。自分の身の処し方で夢中になっているのであろう。

     

     

     

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    ロシアのプーチン大統領は19日、一方的に併合したウクライナ東・南部4州に戒厳令を導入する大統領令に署名した。ロシア軍は、ウクライナ軍の反転攻勢で戦況が不利になっており、戒厳令を出して立直しを図ろうという狙いであろう。

     

    戒厳令が、侵略などの外敵脅威を理由に発令された地域では、市民の移動や政治活動を制限できるようになる。破壊された施設やインフラの復旧に市民を動員することも可能になるという。人的資源の活用が目的であろう。

     

    ロシアは、戒厳令を出すほどウクライナ軍によって追込まれている。ロシア軍司令官セルゲイ・スロヴィキン将軍18日、ロシアが占拠してきた南部ヘルソン市が「困難」な状況にあるとし、住民を避難させると、ロシア国営テレビで述べた。司令官スロヴィキン将軍は、プーチン大統領から、戦線立直しの任務を与えられて着任したばかりだ。

     


    スロヴィキン将軍は、「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つほど、「必要などんな手段も使う」というほど容赦ない攻撃で知られる人物である。そのスロヴィキン将軍が、もはやヘルソン市でウクライナ軍を押し返す手立てがないほどロシア軍は劣勢に立たされているのだ。

     

    英『BBC』(10月19日付)は、「ロシア軍司令官、南部ヘルソンは『緊迫』 異例の厳しい認識」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「スロヴィキン司令官は、「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つ将軍である。最近、ウクライナでの戦争の作戦統括者に任命された。同将軍は、ウクライナ軍が高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使い、市内のインフラや住宅を攻撃していると主張。「ロシア軍は何よりもまず、ヘルソン市民の安全な避難を確保する」と述べた。また、「全体として、特別軍事作戦地帯の状況は緊迫していると言える」とした。スロヴィキン将軍が、大きな問題の存在を認めるのは珍しい」

     

    スロヴィキン将軍は、戦争経験が豊富でシリアで多くの民間人の死者を出したロシアの空爆を指揮した。チェチェンでは、人権侵害で非難された部隊を指揮した経験も持つ。この百戦錬磨の将軍が、ウクライナ軍へ何らの対抗策も取れず、撤退を臭わせているのは、ロシア軍に武器弾薬もなくどうにもならない事態を迎えていることを告げている。

     


    (2)「同将軍の見方には、ロシアに任命された現地の当局者、キリル・ストレムソフ氏も同調した。ストレムソフ氏はメッセージアプリのテレグラムで、ウクライナ軍が「ごく近い将来に」ヘルソン市を攻撃すると警告。「私の言葉を真剣に受け止めてください。できるだけ早い避難が大事です」と呼びかけた。ドニプロ川西岸の人々が最も危険だとした。同じくロシアが任命したヘルソン州のウラジーミル・サルド知事も、ビデオメッセージの中で、同様の状況認識を示した」

     

    ロシア軍は、ウクライナ軍の攻撃でドニプロ川西岸の防衛戦を死守できなくなっていることを示唆している。ここには、約2万5000人のロシア軍が陣を構えている。ウクライナ軍の兵站線攻撃で、ロシア軍は武器・弾薬・食糧の補給がストップしている結果であろう。

     

    (3)「ヘルソン市は、2月に侵攻を開始したロシア軍が最初に制圧した大都市。ウクライナ軍はここ数週間、同市付近の国土を着実に奪還している。ドニプロ川に沿って南に30キロメートル近く進んでおり、ロシア軍を追い込む勢いだ。ヘルソン市は、ロシア軍が占拠した唯一の州都。ロシアは現在、ヘルソンなど4州をロシアの一部だと主張している。国際社会はこれを認めていない」

     

    ヘルソン市は、クリミア半島防衛にも関係を持つ重要拠点である。ロシア軍がここから撤退することになれば、ロシア軍のウクライナ侵攻は大きなヤマ場を迎えたことになる。敗色濃厚という烙印を押されるだろう。

     


    (4)「
    スロヴィキン将軍はさらに、ウクライナのロケット弾がヘルソン市のアントニフスキー橋とカホフカ水力発電ダムを損壊させ、幹線道路の交通を遮断したと説明した。そして、食料配送、水、電気といった生活に不可欠なサービスの提供に問題が生じているとした。同将軍はまた、ウクライナ軍が広範囲にわたる前線で、絶え間ない攻撃を仕掛けていると述べた。東はクピャンスクとリマン、南はミコライウからクリヴィー・リフにかけての戦線を挙げた」

     

    スロヴィキン将軍は、戦争経験が豊富である。その「鬼将軍」が、手も足も出ないほどの追詰められ方をしている。ウクライナ軍の兵站線攻撃が、見事な成果を上げている証拠だ。ロシア軍は、もはや挽回不可能になった。 

     

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    弱い犬ほどよく吠えると言われるが、ロシアのプーチン大統領はこの類いかも知れない。ウクライナ侵攻して数日後、核攻撃を示唆して世界を驚かせた。開戦後のロシア軍は、精鋭を誇った空挺部隊が約1000名も殲滅され危機感を強めたのだ。これが、プーチン氏の「核発言」の背景である。

     

    今回は、ウクライナ北東部でロシア軍が大敗北した危機感が、二度目の「核発言」をもたらしたものだ。人間も弱い者ほど強がるが、国家も似ているようである。

     

    米国は、冷戦時代からソ連の核動向を常時、監視している。その体制は、現在も変わらないという。プーチン「核発言」が、これからどうなるかは米軍の監視体制によってウォッチされるのだ。

     


    米『ニューズウィーク 日本語版』(9月22日付)は、「プーチンが核攻撃を決断すれば『アメリカが検知する』」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による再度の「核の脅し」を受けて、今度こそロシアの核攻撃が迫っているのでは、と懸念する声が上がっている。だがアメリカは、プーチンが攻撃を計画した段階で、それを検知することができるという。

     

    (1)「プーチンは9月21日、NATOが核兵器でロシアを「脅そうとした」と非難した。事前収録されたテレビ演説の中で、ロシア側も「さまざまな大量破壊兵器を保有しており」、反撃の用意があると警告。「ロシアと国民を守るために、あらゆる手段を行使する」つもりだと述べ、「はったりではない」とつけ加えた。ロシアにとっても核兵器の使用は最後の手段だが、専門家は、もし本当にプーチンが核攻撃を決断しても、アメリカは事前にそれを検知することができるだろうと指摘する。米軍備管理不拡散センターの政策担当シニアディレクター、ジョン・エラスによれば、こうした核活動の監視は冷戦以降、当たり前のことになっていると本誌に語った」

     

    プーチン氏は、ロシアだけが核を保有しているような発言をしているが、米国は冷戦時代からソ連(ロシア)の核攻撃を事前に察知すべく監視網を敷いている。米国は、数分以内に報復攻撃が可能な体制を維持しているのだ。

     


    (2)「全米科学者連盟の核情報プロジェクト責任者であるハンス・クリステンセンは本誌に対し、プーチンが核兵器の使用を決定した場合、中央保管施設から持ち出さなければならない短距離核戦力よりも、既に警戒態勢に入っている長距離核戦力を使用する方が迅速に動けるだろうと指摘した。米情報当局はロシアの核兵器保管施設を監視しており、核弾頭がトラックやヘリコプターに積み込まれたり、核兵器を扱うための特殊訓練を受けた部隊の活動が活発化したりした場合に、それを検知することができる。これらの活動は、プーチンが短距離核戦力による攻撃の準備に着手したことを示すものとなる」

     

    核は常時、厳重に保管されている。これを取り出し攻撃体制へシフトさせるには、それなりの過程を踏む。そこで、米国の監視網がこれを検知できるシステムになっている。

     


    (3)「一方で地上型の移動式発射台、ミサイル潜水艦や巡航ミサイルの移動が通常よりも増えた場合には、長距離核戦力が使用される可能性があると予測できる。「核兵器の指揮統制システムや通信全般における検知可能な活動が増えることからも、何かが起きていることが伺える」とクリステンセンは指摘した。全米科学者連盟によれば、ロシアは世界最大の核兵器保有国で、保有する核弾頭は推定5977個にのぼる。世界で2番目に多いのがアメリカの4428個、その次がフランスの290個だ」

     

    下線部のように、ロシア軍の通信網を傍受しているであろう米軍は、「核異変」が起これば直ぐに察知する体制だ。


    (4)「
    プーチンが核攻撃の警告を発したのは今回が初めてではない。ウクライナへの軍事侵攻を受けて西側諸国が対ロ制裁を発動し、またグローバル企業がロシアから撤退し始めた2月末には、核戦力を含む「核抑止部隊」を、任務遂行のための高度な警戒態勢に移行させると言った。だが当時はプーチンが核攻撃の準備を行っていることを示す動きはみられなかった、とクリステンセンは言う。彼は今回も当局者たちが前回同様にロシアの動きを観察し、脅威がどれだけ差し迫ったものか否かを明らかにすると期待している。またアメリカ側も1000発近い核兵器を数分以内に発射できる態勢にあるため、プーチンが核攻撃を行っても、すぐに反撃できるともいう」

     

    米国は、ロシアの核攻撃の動きを察知すれば、事前に世界へ公表するであろう。同時に、米国も報復する旨を伝えて抑止への動きを強める筈だ。

     






    (5)「米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー報道官は21日、もしもロシアが核兵器を使用すれば「深刻な結果」がもたらされることになると述べたが、現時点ではウクライナでの戦闘がそこまでのレベルにエスカレートすることを示す情報は「一切ない」とも説明した」

     

    現状では、ロシアの核攻撃の気配はゼロという。米国の情報網は、「ファイブアイズ」(米・英・豪・カナダ・ニュージーランド)によって、第二次世界大戦中から高度の機密情報を収集している。情報戦で一歩先を行く米国が、ロシアの「核クライシス」予防に向けてフル回転するはずだ。

     

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    ウクライナは、ロシアの無差別攻撃によって民間に多大な被害を受けている。「軍事小国」ウクライナにとって、「軍事大国」ロシアを相手にした戦いは、余りにもアンバランスである。この軍事力の差は、ウクライナ国民の団結による「レジスタンス運動」で埋められている。

     

    ウクライナは2014年、クリミア半島をロシアに奪われて以来、米軍の作成した「レジスタンス作戦概念」(2013年)が、民間を巻き込み全土で展開されてきた。これが今、ロシアへの抵抗で大きな力になっているのだ。

     


    この作戦概念は、小国が規模で勝る隣国の侵攻に効果的に抵抗、対抗するための枠組みを提供している。
    ROCとも呼ばれるこのドクトリンは、戦争や総動員防衛の方法に革新をもたらすものだという。こうした新たな手法は、ウクライナ軍の指針となるだけでなく、ロシア軍に対する総力を挙げた抵抗に民間人を組み込むことになった。これが、ウクライナのゼレンスキー大統領支持率を91%に押上げ、高い士気を維持させている理由である。

     

    米『CNN』(9月1日付)は、「ロシアに反撃のウクライナ、米軍開発のレジスタンス戦法を活用」と題する記事を掲載した。

     

    「誰もがウクライナ政府の包括防衛に参加している」。そう語るのは、ドクトリン策定時に米欧州特殊作戦コマンドの司令官を務めていたマーク・シュウォーツ退役中将だ。数や火力、兵力では劣るものの、ウクライナ軍はロシア軍に徹底抗戦している。

     

    (1)「ロシア軍は当初、数日ではないにしても数週間でウクライナの大半を制圧できるものと見込んでいた。それが外れた裏には、ウクライナに秘法があった。「これ(レジスタンス作戦概念)は、第一級線の大国との戦いで形勢を逆転するための手法だ」とシュウォーツ氏。「信じがたい人命の喪失や犠牲を被りながらも、抵抗の意思と決意でこれほどの戦いが可能なのだということを見せられ、ただただ驚嘆している」としている」

     

    米軍作成のレジスタンス作戦概念は、ウクライナ国民が積極的に情報収集などで軍に協力したことにも現れている。

     


    (2)「レジスタンス概念の策定チームを率いたケビン・ストリンガー退役大佐は、クリミア半島のロシア軍陣地で最近相次いだ攻撃や爆発に、そうした手法が使われた形跡が見て取れると話す。「通常の方法では攻撃できないため、特殊部隊の出番になる。こうした部隊がクリミア地域にたどり着くには、情報やリソース、兵たん面でレジスタンスの支援が必要となる」。

     

    民間の情報収集面での協力がなければ、ウクライナ軍がクリミア地域の奥で攻撃を引き起こせないはずだ。

     

    (3)「ウクライナ政府がCNNに共有した報告書では、ロシアの基地や弾薬集積所への攻撃にウクライナが関与していたことを認めている。一連の攻撃は敵の戦線のはるか後方で実施され、米国などからウクライナに公に供与された兵器の射程を越えていた。爆発の動画には、飛来するミサイルやドローン(無人機)は映っていないように見えた。ロシアは破壊工作や弾薬の起爆が爆発の原因になったと主張している。ストリンガー氏は、レジスタンス作戦概念の原則が今まさに実戦で展開されている可能性が高いとの見方を示す」

     

    下線部のように、レジスタンス作戦手法が実戦で成果を上げている。

     


    (4)「戦争初期の段階で、ウクライナ政府は様々な抵抗の方法を説明するウェブサイトを制作していた。このサイトでは、公共イベントのボイコットやストといった非暴力的手段に加え、ユーモアや風刺の活用法も解説。その狙いは親ロシア当局を妨害しつつ、国民にウクライナの主権の正当性を改めて訴えることにある。レジスタンスのドクトリンではさらに、火炎瓶の使用や放火、敵の車両を破壊するためガスタンクに化学物質を混入させるなどの暴力的行動も推奨している。また、戦争をめぐる言説をコントロールし、占領者のメッセージが定着するのを阻止して、国民の団結を維持するため、幅広い情報発信を行うことも要請している」

     

    第二次世界大戦で、フランス国民がドイツ軍に抵抗したレジスタンス運動が、ウクライナで形を変えて行なわれている。

     


    (5)「
    レジスタンスの先頭に立つのは、ウクライナのゼレンスキー大統領その人だ。ゼレンスキー氏は毎晩の演説や国際会合への出席で戦争への関心が薄れないように努めてきた。ゼレンスキー氏による前線付近の視察が、世界中でニュースになる一方、ロシアのプーチン大統領の姿が大統領府やソチのリゾートの外で目撃されることはめったにない。今も続くこうした積極的な情報発信が海外からの支援のうねりを起こし、欧米政府にウクライナへの武器・弾薬の供給を増やすよう求める声が高まった理由だ」

     

    ゼレンスキー大統領は、内外に向けて適宜適切な情報発信が行なわれている。これも、レジスタンス運動の一環である。

     

    (6)「全体として、レジスタンス作戦概念は国のレジリエンス、つまり外からの圧力に抵抗する能力を高め、レジスタンスの計画を立てる枠組みを提供する。ここでのレジスタンスは、被占領地の主権回復に向けた全国家的な取り組みと定義される」

     

    ロシアのプーチン大統領は、高圧姿勢でロシア国民を縛り上げている。ウクライナでは、国を挙げて侵略者への抵抗運動を展開している。この差は、極めて大きいのだ。

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    ロシアが、一方的に占領したクリミアで相次ぐ攻撃が起こっている。ロシアは、一部の攻撃はウクライナ軍の特殊部隊によるものか、あるいはウクライナ政府のために活動する勢力による破壊工作かもしれないとしている。西側当局は、ロシア人観光客がリゾート地から逃げ出す原因になった一連のクリミア攻撃が、作戦の上でも心理面でも、ロシア政府やロシア軍に大きな打撃を与えていると分析する。これから、ロシア軍はどう動くか、英国軍情報機関のトップ、ジム・ホッケンハル中将が、そうした見方をBBCに示した。

     

    英『BBC』(8月17日付)は、「ロシアは次にどう動くのか、英軍情報トップがウクライナ情勢を語る」と題する記事を掲載した。

     

    ホッケンハル氏は、国防情報当局の長としてこの4年間、極秘情報を扱う組織を影で指揮してきた。ウクライナで戦争が起こると、その組織と彼の仕事は重要さが増した。

     


    (1)「機密情報(インテリジェンス)は科学ではない。確率に照らして予測する。国防情報当局が驚いたことも多数ある。西側諸国の結束とウクライナの抵抗の強さは予想以上だと、ホッケンハル氏は話す。ロシア軍の失敗も予想外であり、指揮や統制、兵たんは「お粗末」なレベルだと同氏は説明。ロシア軍は戦略から戦術に至るまで政治的な干渉を受けている、と付け加える。ロシアの政界と軍部には信頼関係が欠如しているというのが、ホッケンハル氏の見方だ。ロシアはこれらすべての問題に同時に見舞われており、そのことに同氏は驚いていると話す」

     

    プーチン氏が想定したのは、西側諸国の乱れとウクライナ軍の抵抗の弱さであった。いずれも、事実に大きく反しており、ロシアは最初からインテリジェンスに失敗した。この一件は、敵情把握がいかに重要であるかを物語る。ロシア軍の弱さも予想外であったという。インテリジェンスで失敗したことの反映であろう。ロシアは、政界と軍部に信頼関係が欠如しているという。開戦は簡単だが、終息は極めて難しいのだ。

     


    (2)「ロシアの侵攻が目前に迫っていると同氏が確信を強めたのは、昨年11月だったという。「これは起こるぞ」と思った、と振り返る。侵攻の前の週、ホッケンハル氏は極めて異例の決断をした。ロシアの侵攻計画を予測した地図を、ツイッターで公開したのだ。簡単な決断ではなかったが、情報を公にする必要があると確信したという。「うそが流れ出す前に、真実を表に出すことが大事なのだ」。ホッケンハル氏はまた、ロシアの化学・生物兵器使用の可能性を強調した、西側諸国の判断を支持する。西側がそうした可能性を強調することで、ロシアのいわゆる偽旗作戦の阻止に役立った、というのが彼の見方だ。ロシアは偽旗作戦で、紛争を扇動しているのはウクライナ人や西側だと見せかけようとしていたとされる」

     

    昨年11月に、ロシアのウクライナ侵攻を予測し、これを公表してきた。かつてない戦術である。これによって、未然にロシアのウソ情報を封じることに成功した。西側諸国は、事前準備が進んで開戦とほぼ同時にロシアへの経済制裁を発動した。ロシアへ制裁回避できる時間を与えなかったのだ。

     


    (3)「大きな損失を被ったロシアは、明らかに戦力の増強に努めているという。ホッケンハル氏はまた、ロシアは部隊の一部をドンバス地方から南へと再配置する必要性に直面していると話す。南部ヘルソンやその周辺では、ロシアはウクライナ軍の強い圧力にさらされているという。ただ、今後数カ月内に南部で決定的な転換があると期待するのは非現実的だと言う。ホッケンハル氏は、ウクライナの領土奪還への意欲は理解できると話す。しかし、反撃や反転攻勢はあるだろうが、勝敗を決するような行動をどちらかが起こすことは、年内にはないとみている。つまり、長期戦になるというのが彼の予想だ」

     

    ウクライナ軍は、南部でロシア軍へ大きな圧力を掛けているが、決定的な局面転換は無理という。年を越えた長期戦になると予測する。

     


    (4)「もし、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍事目的の達成に苦労し続けたら、彼は何をするのか、というものだ。核兵器の使用に踏み切る可能性はあるのだろうか。ホッケンハル氏は、この点を「極めて注意深く」見ているという。ロシア海軍の原子力潜水艦ドミトリー・ドンスコイ。同国がすぐに核兵器を使う可能性は低いと、ホッケンハル氏はみている。ロシアは西側諸国とは異なり、軍事政策として、作戦のために戦術核兵器を使うとしている。ホッケンハル氏は、戦術核兵器がすぐに使用される可能性は低いと考えているが、今後も注視していくという。そして、戦況が変われば、使用される可能性も変わるかもしれないと説明する」

     

    ロシア軍は。軍事政策として戦術核兵器を使う可能性を持っている。ただ、直ぐに使用する可能性は低いと見る。ロシア軍の敗北が決定的になったとき、何をするか分らない不気味さは残る国である。

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