勝又壽良のワールドビュー

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    弱い犬ほどよく吠えると言われるが、ロシアのプーチン大統領はこの類いかも知れない。ウクライナ侵攻して数日後、核攻撃を示唆して世界を驚かせた。開戦後のロシア軍は、精鋭を誇った空挺部隊が約1000名も殲滅され危機感を強めたのだ。これが、プーチン氏の「核発言」の背景である。

     

    今回は、ウクライナ北東部でロシア軍が大敗北した危機感が、二度目の「核発言」をもたらしたものだ。人間も弱い者ほど強がるが、国家も似ているようである。

     

    米国は、冷戦時代からソ連の核動向を常時、監視している。その体制は、現在も変わらないという。プーチン「核発言」が、これからどうなるかは米軍の監視体制によってウォッチされるのだ。

     


    米『ニューズウィーク 日本語版』(9月22日付)は、「プーチンが核攻撃を決断すれば『アメリカが検知する』」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による再度の「核の脅し」を受けて、今度こそロシアの核攻撃が迫っているのでは、と懸念する声が上がっている。だがアメリカは、プーチンが攻撃を計画した段階で、それを検知することができるという。

     

    (1)「プーチンは9月21日、NATOが核兵器でロシアを「脅そうとした」と非難した。事前収録されたテレビ演説の中で、ロシア側も「さまざまな大量破壊兵器を保有しており」、反撃の用意があると警告。「ロシアと国民を守るために、あらゆる手段を行使する」つもりだと述べ、「はったりではない」とつけ加えた。ロシアにとっても核兵器の使用は最後の手段だが、専門家は、もし本当にプーチンが核攻撃を決断しても、アメリカは事前にそれを検知することができるだろうと指摘する。米軍備管理不拡散センターの政策担当シニアディレクター、ジョン・エラスによれば、こうした核活動の監視は冷戦以降、当たり前のことになっていると本誌に語った」

     

    プーチン氏は、ロシアだけが核を保有しているような発言をしているが、米国は冷戦時代からソ連(ロシア)の核攻撃を事前に察知すべく監視網を敷いている。米国は、数分以内に報復攻撃が可能な体制を維持しているのだ。

     


    (2)「全米科学者連盟の核情報プロジェクト責任者であるハンス・クリステンセンは本誌に対し、プーチンが核兵器の使用を決定した場合、中央保管施設から持ち出さなければならない短距離核戦力よりも、既に警戒態勢に入っている長距離核戦力を使用する方が迅速に動けるだろうと指摘した。米情報当局はロシアの核兵器保管施設を監視しており、核弾頭がトラックやヘリコプターに積み込まれたり、核兵器を扱うための特殊訓練を受けた部隊の活動が活発化したりした場合に、それを検知することができる。これらの活動は、プーチンが短距離核戦力による攻撃の準備に着手したことを示すものとなる」

     

    核は常時、厳重に保管されている。これを取り出し攻撃体制へシフトさせるには、それなりの過程を踏む。そこで、米国の監視網がこれを検知できるシステムになっている。

     


    (3)「一方で地上型の移動式発射台、ミサイル潜水艦や巡航ミサイルの移動が通常よりも増えた場合には、長距離核戦力が使用される可能性があると予測できる。「核兵器の指揮統制システムや通信全般における検知可能な活動が増えることからも、何かが起きていることが伺える」とクリステンセンは指摘した。全米科学者連盟によれば、ロシアは世界最大の核兵器保有国で、保有する核弾頭は推定5977個にのぼる。世界で2番目に多いのがアメリカの4428個、その次がフランスの290個だ」

     

    下線部のように、ロシア軍の通信網を傍受しているであろう米軍は、「核異変」が起これば直ぐに察知する体制だ。


    (4)「
    プーチンが核攻撃の警告を発したのは今回が初めてではない。ウクライナへの軍事侵攻を受けて西側諸国が対ロ制裁を発動し、またグローバル企業がロシアから撤退し始めた2月末には、核戦力を含む「核抑止部隊」を、任務遂行のための高度な警戒態勢に移行させると言った。だが当時はプーチンが核攻撃の準備を行っていることを示す動きはみられなかった、とクリステンセンは言う。彼は今回も当局者たちが前回同様にロシアの動きを観察し、脅威がどれだけ差し迫ったものか否かを明らかにすると期待している。またアメリカ側も1000発近い核兵器を数分以内に発射できる態勢にあるため、プーチンが核攻撃を行っても、すぐに反撃できるともいう」

     

    米国は、ロシアの核攻撃の動きを察知すれば、事前に世界へ公表するであろう。同時に、米国も報復する旨を伝えて抑止への動きを強める筈だ。

     






    (5)「米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー報道官は21日、もしもロシアが核兵器を使用すれば「深刻な結果」がもたらされることになると述べたが、現時点ではウクライナでの戦闘がそこまでのレベルにエスカレートすることを示す情報は「一切ない」とも説明した」

     

    現状では、ロシアの核攻撃の気配はゼロという。米国の情報網は、「ファイブアイズ」(米・英・豪・カナダ・ニュージーランド)によって、第二次世界大戦中から高度の機密情報を収集している。情報戦で一歩先を行く米国が、ロシアの「核クライシス」予防に向けてフル回転するはずだ。

     

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    ウクライナは、ロシアの無差別攻撃によって民間に多大な被害を受けている。「軍事小国」ウクライナにとって、「軍事大国」ロシアを相手にした戦いは、余りにもアンバランスである。この軍事力の差は、ウクライナ国民の団結による「レジスタンス運動」で埋められている。

     

    ウクライナは2014年、クリミア半島をロシアに奪われて以来、米軍の作成した「レジスタンス作戦概念」(2013年)が、民間を巻き込み全土で展開されてきた。これが今、ロシアへの抵抗で大きな力になっているのだ。

     


    この作戦概念は、小国が規模で勝る隣国の侵攻に効果的に抵抗、対抗するための枠組みを提供している。
    ROCとも呼ばれるこのドクトリンは、戦争や総動員防衛の方法に革新をもたらすものだという。こうした新たな手法は、ウクライナ軍の指針となるだけでなく、ロシア軍に対する総力を挙げた抵抗に民間人を組み込むことになった。これが、ウクライナのゼレンスキー大統領支持率を91%に押上げ、高い士気を維持させている理由である。

     

    米『CNN』(9月1日付)は、「ロシアに反撃のウクライナ、米軍開発のレジスタンス戦法を活用」と題する記事を掲載した。

     

    「誰もがウクライナ政府の包括防衛に参加している」。そう語るのは、ドクトリン策定時に米欧州特殊作戦コマンドの司令官を務めていたマーク・シュウォーツ退役中将だ。数や火力、兵力では劣るものの、ウクライナ軍はロシア軍に徹底抗戦している。

     

    (1)「ロシア軍は当初、数日ではないにしても数週間でウクライナの大半を制圧できるものと見込んでいた。それが外れた裏には、ウクライナに秘法があった。「これ(レジスタンス作戦概念)は、第一級線の大国との戦いで形勢を逆転するための手法だ」とシュウォーツ氏。「信じがたい人命の喪失や犠牲を被りながらも、抵抗の意思と決意でこれほどの戦いが可能なのだということを見せられ、ただただ驚嘆している」としている」

     

    米軍作成のレジスタンス作戦概念は、ウクライナ国民が積極的に情報収集などで軍に協力したことにも現れている。

     


    (2)「レジスタンス概念の策定チームを率いたケビン・ストリンガー退役大佐は、クリミア半島のロシア軍陣地で最近相次いだ攻撃や爆発に、そうした手法が使われた形跡が見て取れると話す。「通常の方法では攻撃できないため、特殊部隊の出番になる。こうした部隊がクリミア地域にたどり着くには、情報やリソース、兵たん面でレジスタンスの支援が必要となる」。

     

    民間の情報収集面での協力がなければ、ウクライナ軍がクリミア地域の奥で攻撃を引き起こせないはずだ。

     

    (3)「ウクライナ政府がCNNに共有した報告書では、ロシアの基地や弾薬集積所への攻撃にウクライナが関与していたことを認めている。一連の攻撃は敵の戦線のはるか後方で実施され、米国などからウクライナに公に供与された兵器の射程を越えていた。爆発の動画には、飛来するミサイルやドローン(無人機)は映っていないように見えた。ロシアは破壊工作や弾薬の起爆が爆発の原因になったと主張している。ストリンガー氏は、レジスタンス作戦概念の原則が今まさに実戦で展開されている可能性が高いとの見方を示す」

     

    下線部のように、レジスタンス作戦手法が実戦で成果を上げている。

     


    (4)「戦争初期の段階で、ウクライナ政府は様々な抵抗の方法を説明するウェブサイトを制作していた。このサイトでは、公共イベントのボイコットやストといった非暴力的手段に加え、ユーモアや風刺の活用法も解説。その狙いは親ロシア当局を妨害しつつ、国民にウクライナの主権の正当性を改めて訴えることにある。レジスタンスのドクトリンではさらに、火炎瓶の使用や放火、敵の車両を破壊するためガスタンクに化学物質を混入させるなどの暴力的行動も推奨している。また、戦争をめぐる言説をコントロールし、占領者のメッセージが定着するのを阻止して、国民の団結を維持するため、幅広い情報発信を行うことも要請している」

     

    第二次世界大戦で、フランス国民がドイツ軍に抵抗したレジスタンス運動が、ウクライナで形を変えて行なわれている。

     


    (5)「
    レジスタンスの先頭に立つのは、ウクライナのゼレンスキー大統領その人だ。ゼレンスキー氏は毎晩の演説や国際会合への出席で戦争への関心が薄れないように努めてきた。ゼレンスキー氏による前線付近の視察が、世界中でニュースになる一方、ロシアのプーチン大統領の姿が大統領府やソチのリゾートの外で目撃されることはめったにない。今も続くこうした積極的な情報発信が海外からの支援のうねりを起こし、欧米政府にウクライナへの武器・弾薬の供給を増やすよう求める声が高まった理由だ」

     

    ゼレンスキー大統領は、内外に向けて適宜適切な情報発信が行なわれている。これも、レジスタンス運動の一環である。

     

    (6)「全体として、レジスタンス作戦概念は国のレジリエンス、つまり外からの圧力に抵抗する能力を高め、レジスタンスの計画を立てる枠組みを提供する。ここでのレジスタンスは、被占領地の主権回復に向けた全国家的な取り組みと定義される」

     

    ロシアのプーチン大統領は、高圧姿勢でロシア国民を縛り上げている。ウクライナでは、国を挙げて侵略者への抵抗運動を展開している。この差は、極めて大きいのだ。

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    ロシアが、一方的に占領したクリミアで相次ぐ攻撃が起こっている。ロシアは、一部の攻撃はウクライナ軍の特殊部隊によるものか、あるいはウクライナ政府のために活動する勢力による破壊工作かもしれないとしている。西側当局は、ロシア人観光客がリゾート地から逃げ出す原因になった一連のクリミア攻撃が、作戦の上でも心理面でも、ロシア政府やロシア軍に大きな打撃を与えていると分析する。これから、ロシア軍はどう動くか、英国軍情報機関のトップ、ジム・ホッケンハル中将が、そうした見方をBBCに示した。

     

    英『BBC』(8月17日付)は、「ロシアは次にどう動くのか、英軍情報トップがウクライナ情勢を語る」と題する記事を掲載した。

     

    ホッケンハル氏は、国防情報当局の長としてこの4年間、極秘情報を扱う組織を影で指揮してきた。ウクライナで戦争が起こると、その組織と彼の仕事は重要さが増した。

     


    (1)「機密情報(インテリジェンス)は科学ではない。確率に照らして予測する。国防情報当局が驚いたことも多数ある。西側諸国の結束とウクライナの抵抗の強さは予想以上だと、ホッケンハル氏は話す。ロシア軍の失敗も予想外であり、指揮や統制、兵たんは「お粗末」なレベルだと同氏は説明。ロシア軍は戦略から戦術に至るまで政治的な干渉を受けている、と付け加える。ロシアの政界と軍部には信頼関係が欠如しているというのが、ホッケンハル氏の見方だ。ロシアはこれらすべての問題に同時に見舞われており、そのことに同氏は驚いていると話す」

     

    プーチン氏が想定したのは、西側諸国の乱れとウクライナ軍の抵抗の弱さであった。いずれも、事実に大きく反しており、ロシアは最初からインテリジェンスに失敗した。この一件は、敵情把握がいかに重要であるかを物語る。ロシア軍の弱さも予想外であったという。インテリジェンスで失敗したことの反映であろう。ロシアは、政界と軍部に信頼関係が欠如しているという。開戦は簡単だが、終息は極めて難しいのだ。

     


    (2)「ロシアの侵攻が目前に迫っていると同氏が確信を強めたのは、昨年11月だったという。「これは起こるぞ」と思った、と振り返る。侵攻の前の週、ホッケンハル氏は極めて異例の決断をした。ロシアの侵攻計画を予測した地図を、ツイッターで公開したのだ。簡単な決断ではなかったが、情報を公にする必要があると確信したという。「うそが流れ出す前に、真実を表に出すことが大事なのだ」。ホッケンハル氏はまた、ロシアの化学・生物兵器使用の可能性を強調した、西側諸国の判断を支持する。西側がそうした可能性を強調することで、ロシアのいわゆる偽旗作戦の阻止に役立った、というのが彼の見方だ。ロシアは偽旗作戦で、紛争を扇動しているのはウクライナ人や西側だと見せかけようとしていたとされる」

     

    昨年11月に、ロシアのウクライナ侵攻を予測し、これを公表してきた。かつてない戦術である。これによって、未然にロシアのウソ情報を封じることに成功した。西側諸国は、事前準備が進んで開戦とほぼ同時にロシアへの経済制裁を発動した。ロシアへ制裁回避できる時間を与えなかったのだ。

     


    (3)「大きな損失を被ったロシアは、明らかに戦力の増強に努めているという。ホッケンハル氏はまた、ロシアは部隊の一部をドンバス地方から南へと再配置する必要性に直面していると話す。南部ヘルソンやその周辺では、ロシアはウクライナ軍の強い圧力にさらされているという。ただ、今後数カ月内に南部で決定的な転換があると期待するのは非現実的だと言う。ホッケンハル氏は、ウクライナの領土奪還への意欲は理解できると話す。しかし、反撃や反転攻勢はあるだろうが、勝敗を決するような行動をどちらかが起こすことは、年内にはないとみている。つまり、長期戦になるというのが彼の予想だ」

     

    ウクライナ軍は、南部でロシア軍へ大きな圧力を掛けているが、決定的な局面転換は無理という。年を越えた長期戦になると予測する。

     


    (4)「もし、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍事目的の達成に苦労し続けたら、彼は何をするのか、というものだ。核兵器の使用に踏み切る可能性はあるのだろうか。ホッケンハル氏は、この点を「極めて注意深く」見ているという。ロシア海軍の原子力潜水艦ドミトリー・ドンスコイ。同国がすぐに核兵器を使う可能性は低いと、ホッケンハル氏はみている。ロシアは西側諸国とは異なり、軍事政策として、作戦のために戦術核兵器を使うとしている。ホッケンハル氏は、戦術核兵器がすぐに使用される可能性は低いと考えているが、今後も注視していくという。そして、戦況が変われば、使用される可能性も変わるかもしれないと説明する」

     

    ロシア軍は。軍事政策として戦術核兵器を使う可能性を持っている。ただ、直ぐに使用する可能性は低いと見る。ロシア軍の敗北が決定的になったとき、何をするか分らない不気味さは残る国である。

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    ロシアは、超短期間で終わるはずだったウクライナ侵攻が長引き、その上に想像以上の経済制裁が加わって、経済は泥沼に入っている。物価の高騰が、国民生活を直撃しているのだ。これに対応して、最低賃金の大幅引き上げと年金支給額を二度も引上げるなど、国民の不満を和らげるべく全力を挙げている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月5日付)は、「ロシア国民に制裁の痛み、特効薬は現金支給」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアは西側諸国の制裁による影響を取り繕うため、石油やガスで得た数十億ドルに上る資金を国内にばらまいている。この資金は、制裁がロシア市民にもたらす痛みを和らげている。だが、ロシア経済は西側諸国を大幅に上回る高インフレに見舞われているほか、供給不足で生産が大きく落ち込んでいる。政府やエコノミストらの予測では、今年の国内総生産(GDP)は10%縮小すると見込まれている。

     


    (1)「ロシア政府当局者の間では、多額の戦費をつぎ込む一方で経済を刺激しようとする政策がもたらす代償について、懸念する声が聞かれ始めている。ロシア政府は、子どものいる家庭、妊婦、公務員、年金受給者にカネを支給している。一方、不動産開発業者から航空会社まで幅広い企業も、主にウクライナ侵攻に伴う原油価格の高騰による恩恵を受けている。財務相によると、今年の連邦支出はウクライナ侵攻前の予測を約12%上回り、財政収支は赤字になるとみられている。一方、景気刺激策はプーチン大統領と侵攻への支持を固める効果がある。プーチン氏はそれにより、制裁がロシアよりも西側諸国を苦しめていると主張できるからだ」

     

    ロシア経済は、資源高で潤っているイメージだが、経済制裁によって急激なルーブル高が起こっていることを忘れてはいけない。年初から6月29日までにルーブルは対ドル相場で41%も急騰している。国際通貨の中で、最大の値上りだ。ロシア中銀は、為替介入したくても経済制裁で取引を禁じられているので、それもできない状態である。

     


    (2)「プーチン大統領は、「国家のあらゆる社会的義務を果たすだけでなく、市民とその所得を支える、より効果的なメカニズムを作り出す」と約束し、さまざまな刺激策を推進してきた。政府は最低賃金を10%引き上げたほか、年金支給額を2度にわたり合計20%近く増額した。最も大きな打撃を受けたロシア企業の多くは、政府からの資金援助や、補助金付き融資、倒産回避策など、さまざまな支援を受けている。航空会社に対しては政府が収入減を補てんしている。ロシア連邦航空局は「この措置により、国内航空会社の旅客数は昨年の水準に保たれ、国民に手頃な価格で空の旅を提供できる」としている」

     

    ロシア政府は、最低賃金を10%、年金支給額を都合20%も引上げて物価高に対応している。それだけでない。企業まで資金援助や補助金付き融資などを行なっている。政府の現金バラマキで不満を抑えているのだ。

     


    (3)「ロシアは石油と天然ガスの販売収入が1日当たり10億ドルに上るにもかかわらず、予算は社会支出や戦争費用で圧迫されている。アントン・シルアノフ財務相は5月の政府会合で、2022年は財政赤字の対国内総生産(GDP)比が2%に達するとの見通しを示した。それまでは黒字を見込んでいた。ミハイル・ミシュスティン首相によると、ロシアの政府支出は今年14月に前年同期比25%増加した。しかし、それ以降はデータがなく、資金の使途に関するデータの公表を取りやめている」

     

    下線のように、石油と天然ガスの販売収入が1日10億ドルでも、ルーブルの41%が為替相場高で消えている。ここを、間違えてはならない。今年の財政収支は、当初の黒字予想が一転して、対GDP比で2%の赤字に陥るほど。

     

    (4)「税収が減っているのは、経済が悪化しているためだ。資本規制、高金利、輸入不足によって押し上げられたルーブル高の結果、ドル建ての石油輸出で得る収入が、ルーブル建てでは目減りすることになる。政府は、石油や天然ガスによる収入を積み立てている国民福祉基金から資金を取り崩し、経済活性化に振り向けている。ロシア政府は、エネルギー生産からの収入を増やす取り組みを続けているようだ。71日には、巨大な石油・天然ガスプロジェクト「サハリン2」の国際コンソーシアムを掌握。その前日には、ガスプロムが年間配当を見送ると発表した。ガスプロムに対する課税を大幅に引き上げる法案がロシア議会で審議されている」

     

    国民福祉基金(石油や天然ガスによる収入を積み立て)から資金を取り崩していることは、財政が悪化している証拠である。国営石油企業ガスプロムは配当を見送り、さらに課税を増やす辺りにロシア財政の苦境ぶりが分る。

     


    (5)「それでも、ロシアの経済データは欧米諸国よりはるかに悪い。インフレ率は17.8%でピークを打ったが、依然として16.7%の水準にある。プーチン氏は6月の演説で、「この数字は高すぎる。16.%は高いインフレ率だ」とした上で、「われわれはこの問題に取り組まなければならない。いい結果を出せると確信している」と述べた。ロシア統計局によると、5月の製造業生産は2カ月連続で減少した。自動車生産台数は1年前の3分の1強まで落ち込んでいる」

     

    ロシアの消費者物価上昇率は、16.7%と目玉が飛び出るほどの状況に悪化している。経済制裁で部品や素材の輸入が禁止されているので製造業も不振だ。自動車生産も3割の水準に落ちている。これらが、物価押上げ要因になっている。

     


    (6)「政府はIT専門家向けに5%の低金利住宅ローンを提供し、新築住宅購入者には補助金付き住宅ローンを提供してきた。しかし、ロシア中央銀行のデータによると、5月の住宅ローン発行件数は、前年同月の4分の1にとどまった。それでも、政府の取り組みは、経済に対する信頼感を支える上で役立っている。モスクワのレバダ・センターが6月に行った世論調査では、「今が最も困難な時期」と考えるロシア人の割合は3月以降、16%から28%に増加した。しかし、状況が悪化すると予想する人は54%から48%に減少した」

     

    なぜ、IT専門家向けに5%の低金利住宅ローンで優遇するのか。もともと、ロシアで不足しているIT専門家が、今回のウクライナ侵攻を嫌気して国外へ出てしまっているからだ。その数は、500万人を超えると指摘されている。5月の住宅ローン発行件数は、前年同月の4分の1と惨憺たる状態である。国民の不安心理の高まりを浮き彫りにしている。

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    欧米企業は、ロシアからの撤退方向で流れは一本化されているが、日本企業は残留する意思が圧倒的である。撤退は、全体の4%に過ぎない。撤退すれば、ロシア政府に接収されることは確実である。その後釜として、中ロの企業が乗り込んでくることも明らか。日本政府は残留方向で旗を振っている。投資規模が大きいだけに、むざむざと中ロ企業の手に渡したくないという「意地」も見え隠れしている。

     

    『毎日新聞』(6月17日付)は、「『撤退か残留か』ロシア進出の日系企業の悩みとは」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアに進出している日系企業のうち、現地からの撤退を表明したのは全体のわずか4%にとどまることが、日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査で明らかになった。ロシアのウクライナ侵攻を受け、米マクドナルドや仏ルノーなどがロシア撤退を表明している。これに対して、撤退を表明する日本企業は少ない。取材を進めると、ロシアという特異な市場でビジネスを行う日本企業の複雑な立場が浮かび上がった。

     


    (1)「ジェトロによると、ロシアに進出している日系企業で、「モスクワ・ジャパンクラブ商工部会」と「サンクトペテルブルク日本商工会」に所属する企業は211社ある。多くは自動車メーカーや商社など大企業だ。ジェトロはこの211社を対象に5月、四半期に1度の景況感調査を行い、90社から回答を得た。その中で「今後12年の事業展開見通し」を尋ねたところ、「ロシア撤退」を表明したのはわずか4%。残る96%の企業は規模を縮小するなどしても撤退せず、残留する意向を示した」

     

    規模を縮小しても、ロシア残留希望が強い企業が96%と圧倒的である。撤退すれば、中ロ企業が後釜の座ることが目に見えているだけに、意地でも頑張ろうというのであろう。

     

    (2)「民間調査会社の帝国データバンクがロシアに進出する日本の上場企業168社を対象に5月に行った調査では、「完全撤退」を表明したのは3社にとどまった。撤退は全体の約  2%で、ジェトロの調査と傾向は同じだった。ロシアからの撤退を表明した日系企業が4%と少ない現状について、ジェトロは「外国企業がロシアから撤退した場合、ロシア政府が接収するという法案がロシアの上下院で審議中のため、日系企業は考えあぐねているのではないか」(海外調査部欧州ロシアCISか)とみている」

     

    帝国データバンクの調査でも、同じような結果が出ている。日本企業は、ロシア市場と相性が良いのだろう。成長性を見込んでいるに違いない。

     


    (3)「法案が成立すれば、日本企業が撤退した場合、工場の生産設備をロシアや中国など第三国が取得する可能性が高い。仮にウクライナとの問題が終結した後にロシア市場に再参入しようとしてもハードルは高くなると日系企業は考えているようだ。ロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン12」では、大手石油会社の米エクソンモービルと英シェルは撤退を表明した。しかし、日本政府は67日に閣議決定した「エネルギー白書」で「日本が撤退し、権益をロシアや第三国が取得する場合、有効な制裁とならない可能性がある」として、権益を維持する考えを表明している日系企業の多くも同様に「ロシア撤退で自社の工場が接収されるくらいなら、今は『忍』の一文字で、今後の推移を見守った方がよい」(関係者)と考えているという

     

    日本政府は、日本企業がロシアから撤退しても、他国が権益を維持すれば事業が継続されるので、何ら制裁にはならないという理由である。日本企業以外の企業は存在しない場合、撤退すれば制裁になる。ライバル企業の存在する状態では、撤退による圧力にはならないのだ。

     


    (4)「エクソンモービルやシェルなど世界市場でビジネスを展開する欧米企業は、ロシア市場を失う損失は相対的に少なく、むしろロシア市場に残ることによる「レピュテーションリスク」(企業の信用やブランド価値の低下)を気にしているようだ。ロシアにはトヨタ自動車、日産自動車、マツダ、三菱自動車など自動車メーカーやブリヂストン、横浜ゴムなど自動車関連の製造業が多く進出している。武田薬品工業、ユニ・チャームなど業界を代表する企業も多い。これらの企業の多くは現地生産や販売を一時停止し、駐在員も大半が帰国しているが、正式に撤退を表明した著名企業は見当たらない」

     

    ロシア市場に残ることで生じる「レピュテーションリスク」も、無視できない要素である。このリスクを重視すれば、撤退方向も選択されるが、現状は「様子見」である。

     


    (5)「ロシアは人口が1億4000万人で、市場としては有望とする見方があった。自動車など工業製品のほか、近年は健康食ブームに乗った日本食や若者にはアニメーションなどの人気が高く、「日本の商品に愛着をもってくれる消費者がある程度いる」(ジェトロ海外調査部)という。ロシア市場には中国や韓国、トルコなども積極的に進出し、日本とライバル関係にあった。現地の日本人駐在員の中には「ここで撤退するのはビジネスチャンスの損失」と感じる人も多いという」

     

    現地で市場開拓してきた関係者の立場からすれば、撤退という選択は「最後の最後」の手段であろう。現状では、事業をストップしているが、今後のロシア経済が深刻な事態に陥るかどうか。その見極めを付けてから最終判断しても遅くはない。

     

     

     

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