勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

    ムシトリナデシコ
       


    ロシアへ経済制裁が始まって3ヶ月経った。ロシア国民の市民生活は、着実にその影響が現れている。エアバッグ不足で、新車ではこれが装備されないままで販売許可が出た。便器も不足している。映画作品の輸入禁止で,映画館は9年前のハリウッド作品を上映するほどの苦境に立たされている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月3日付)は、「制裁下ロシアでエアバッグ不足 便器・映画も」と題する記事を掲載した。

     

    西側諸国の制裁が、ロシアの消費者に打撃を与え始める中、在庫は底をつきつつある。企業や消費者は、価格が7倍に跳ね上がった自動車部品など希少な製品を購入したり、古い映画や品質の劣る代替品で済ませたりしている。

     


    (1)「状況はさらに悪化しそうだ。物資の不足は、ロシアのウクライナ侵攻を受けた西側諸国による制裁の影響を測る現実世界の指標となっている。エコノミストたちは、ロシアが今年、深刻なリセッション(景気後退)に陥ると予想しているが、ロシア政府はこれまでのところ、値上がりした石油・ガスを売却して得た資金で打撃を和らげることができている」

     

    エコノミストは、今年のロシア経済が深刻なリセッションになると見ている。制裁による部品不足で生産が止まることや、消費の手控えによってロシア経済がマイナス10%を超える急落は不可避の事態になっている。

     

    (2)「ロシアの新たな「物不足経済」が姿を現し始めるにつれ、長年にわたり西側諸国からの輸入に大きく依存してきた同国経済が直面する課題が浮き彫りになっている。プーチン大統領は、西側諸国の経済的な電撃戦は失敗していると主張して、戦争の影響を小さく見せようとしている。政府は何年にもわたって芳しい結果が出ていないにもかかわらず、輸入代替政策を強化している。輸入代替政策は、外国製品を自国製品で置き換えようとするものだ」

     

    耐久消費財の半分近くが、輸入依存である。これが杜絶する影響は甚大だ。価格高騰は必至である。輸入代替政策が、軌道に乗らなかったのである。

     


    (3)「一部の当局者は、ロシア経済が直面する問題や長期的課題を認識し始めている。ロシア中央銀行のアナリストは工業化退行の時代、つまり、高度でない技術に基づいた経済成長の時代が来ると予想している。ロシアのアンドレー・クリシャス上院議員は、輸入代替政策は失敗していると述べる。クリシャス氏は先月、対話アプリのテレグラムに、「分野別の誇張された報告以外に見るべきものは何もない。国民は消費財やその他の多数の分野で、こうしたことを目にしている」と書き込んだ」

     

    ロシア中銀のアナリストは、工業化退行時代が来ると指摘する。「ロウテク時代」である。輸入品でハイテク時代を味わったが、再びロウテク時代へ逆戻りする。

     


    (4)「航空会社は部品不足のため、使用する機体を減らさざるを得なくなっている。ロシアを代表する航空会社アエロフロート・ロシア航空傘下の格安航空会社ポベーダ航空は、使用しているボーイング737―800型機の数を41機から25機に減らした。新たな供給経路が見つかるまで予備の部品在庫がもつようにするためだ。ロシア最大の航空機メーカーである国営の統一航空機製造会社(UAC)は4月、1990年代に運航を開始した長距離ジェット機「Tu-214」の増産を発表した。Tu-214はロシアでサービスを中止したボーイングやエアバスの航空機に代わるものとして必要とされているほか、UAC自身の新型高性能機の部品が不足しているという理由からも、必要とされている」

     

    航空会社は、部品不足で使用する機体を41機から4割も減らしている。ロシアは、1990年代に国産したTu-214が、再登場するという。まさに、1990年代への逆戻りである。

     

    (5)「ロシアの空港でつくる協会は先月、運輸省に対し、空港の保安検査機器が法定上の使用期限に達しつつあると警告した。協会は、政府が使用期限を延長しない場合、保安検査スタッフは乗客とその荷物を手作業で検査しなければならなくなるとしている。こうした機器を国産品に代えるには少なくとも5年かかるという」

     

    空港の保安検査機器が、法定上の使用期限が到来する。そうなるとスタッフは、乗客とその荷物を手作業で検査しなければならなくなる。

     


    (6)「映画業界では、古いハリウッド映画やソ連時代の映画が再上映されている。ウォルト・ディズニー、ソニー・グループ、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーがロシアでの新作映画の配給を停止したためだ。映画の再上映では赤字を食い止められていない。ウラル地方と西シベリアで映画館チェーンを展開するオーナーによれば、2月24日のウクライナ侵攻以降、観客数は70~80%程度減少している」

     

    映画館は、米国から新作映画が輸入できないので、9年前の作品を再上映している。観客は7~8割減だ。

     

    (7)「政府統計によると、ロシアの自動車生産台数は4月に前年同月比で61%減少した。部品不足の影響だとみられる。政府は5月上旬、自動車に関する規制を緩和した。これにより国内で生産される乗用車は、エアバッグやABSセンサー、操縦性向上のための電子安定制御技術を搭載しなくても販売できるようになった。こうした車はまだディーラーには届いていない。ロシアの自動車情報誌「speedme」の編集者ニキータ・ノビコフ氏は、ロシアの自動車業界が最高級車を生産できるようになる夢の実現は、少なくとも10年は先送りされたと話した」

     

    エアバッグやABSセンサーが、装備されない新車が発売される。輸入杜絶の結果である。ロシアで最高級車が生産できる時期は、少なくとも10年先送りされた。

     

    (8)「ウクライナ国境に近いロシア南部の都市ブリャンスクにある自動車修理店のオーナー、イゴール氏(36)によると、乗用車を修理に出さなくなった人もいるという。同氏の顧客は、スペア部品の価格上昇と、今では欧州製よりも一般的になっている中国製・トルコ製部品の品質の低さによって、購入意欲をそがれている。かつては2000ルーブル(約4000円)だった部品の価格が、今は1万5000ルーブルになっているという。イゴール氏は、ソ連崩壊直前の時期ほどの物不足にはならないとみるが、国民は物不足経済を実感するだろうと話した。「商品棚が空っぽになることはない。しかし、棚に商品があってもわれわれには買えなくなるだろう」と」

     

    自動車部品価格は、7倍を超えている。修理を断念する顧客も出てきた。棚に商品があっても顧客には買えなくなるだろうと、悲観的である。

     

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    『日本経済新聞 電子版』(5月14日付)は、「ロシア軍、第2の都市ハリコフから撤退 地元市長」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ北東部ハリコフのテレコフ市長は14日、ロシア軍が市街地から対ロ国境方面に撤退していると英BBCに語った。ハリコフではウクライナ軍の攻勢が続いており、米シンクタンクの「戦争研究所(ISW)」は13日に「ウクライナはハリコフの戦いに勝利したように見える」と分析していた。

     

    (1)「ハリコフは、ウクライナ第2の都市で、ロシア国境から約50キロメートルの位置にある。2月24日のウクライナ侵攻開始当初から攻撃されており、テレコフ市長は「ロシア軍はハリコフを絶え間なく砲撃していたが、国境方面に追い返すことができた」と話した。ISWは「首都キーウ(キエフ)を占領しようとしたロシア軍にしたように、ハリコフ周辺からもロシア軍を追い出した」と指摘している。ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、ビデオメッセージで「ハリコフ地方の段階的な解放は、我々が誰一人も敵に委ねないことを証明している」と強調していた」

     

    ウクライナ軍は、西側諸国からの武器支援でロシア軍を押し返している。米軍から提供された榴弾砲が威力を発揮しているという。

     


    ロシア軍が、ハリコフから撤退したのはドネツ川の渡河作戦に失敗した結果と見られる。『読売新聞 電子版』(5月14日付)は、次のように報じている。

     

    (2)「米英の国防当局は13日、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク州)の制圧を目指すロシア軍が渡河作戦中にウクライナ軍の攻撃を受け、重大な損失を被ったことを明らかにした。露軍が渡河を試みたのはルハンスク州西部のドネツ川。ウクライナ軍はSNSで、露軍部隊の渡河を9回阻止し、計70台以上の戦車や装甲車などを破壊したと説明した。米国防総省高官は、露軍は渡河作戦の失敗で兵力をウクライナに送り込めず、「苦戦の要因にもなっている」と指摘。ドンバス地方制圧を目指す露軍の作戦に、当初の計画より少なくとも2週間の遅れが生じているとの分析を示した。英国防省は、「戦果を示さなければならない露軍司令官の重圧を物語っている」とした」

     

    ロシア軍が、圧倒的な武器・兵員を擁しながら、劣勢のウクライナ軍に苦戦している理由は、ウクライナ軍の機動的な戦い方にあるという。

     


    米『CNN』(5月10日付)は、「
    米陸軍の退役少将に聞く、ウクライナが勝利するために必要なこと」と題する記事を掲載した。

     

    米特殊作戦軍を欧州で率いた経歴を持つ陸軍の退役少将のマイク・レパス氏は、過去6年間、米政府から請け負う形でウクライナ軍への助言を行ってきた。先月はポーランドとウクライナ西部を訪れ、ウクライナでの戦争の道筋に関するより深い知見を得た。

     

    (3)「なぜロシアは、あまりうまく機能しない戦闘モデルに固執するのか?彼らは、戦い方において融通が利かないからだ。言ってみれば、彼らがウクライナでの戦争の開始当初試みたのは奇襲だった。迅速な攻撃で首都キーウ(キエフ)を奪取しようとしたがうまくいかず、コテンパンにやられた。そこで火力のすべてを東部と南部に振り向け、大規模な砲撃を実施した。標的を狙うか、または接近経路に沿う形で砲弾を撃ち込んだ。目の前のものをほぼ全て破壊してから、彼らは整然と進軍していく。つまりこれは機動戦ではなく、火力による消耗戦にほかならない。火力を基調にした軍隊は、我々西側諸国のそれと正反対だ。我々の軍隊は機動力に基礎を置いている」

     

    このパラグラフで指摘されている点は、すべて納得である。ウクライナ市街地が砲撃によって、これでもか、これでもかと言うほど破壊され尽くされている。これは、ロシア流の戦い方によるもので火力を基調にした軍隊である。一方、西側諸国の戦い方はそれと正反対である。西側軍隊は、機動力に基礎を置いている,と強調する。先に指摘したように、ロシア軍がドネツ川の渡河作戦に9回も失敗し、計70台以上の戦車や装甲車などを破壊された。これは、西側軍隊の訓練を受けたウクライナ軍の典型的な機動力による反抗作戦の結果であろう。

     

    (4)ウクライナで、新たにロシア軍の指揮を執るアレクサンドル・ドゥボルニコフ司令官は徹底して火力を基軸とする消耗戦の申し子だ。機動戦を戦うタイプではない。生涯でやってきたあらゆることをするだろう。行く手にあるすべてを爆破・破壊して、兵士を送り込むだろう」

     

    ロシア軍で新たに任命された総合司令官ドゥボルニコフ氏は、徹底して火力を基軸とする消耗戦の申し子で、機動戦を戦うタイプではないという。となれば、ロシア軍は火力を消耗し尽くせば、自ずと戦闘力が落ちる運命のようである。早く、平和が訪れて欲しいと願うばかりだ。

     

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    21世紀の現在、自国の安全保障の「邪魔」になるから隣国を侵略するとは驚きである。古代と変わらない強者の論理だ。ロシアが、隣国ウクライナを侵攻したのは、まさに強者の論理そのものである。「一寸の虫にも五分の魂」という言葉の通り、相手を敬う心を失った悲劇と言うほかない。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「ウクライナ蔑視するロシア、根深い歴史の潮流」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ウクライナ人は実在せず、ウクライナ国家は人為的に生み出されたもの」との考えは、ロシアの文化、文学、政治の主流として古くから存在する。ウラジーミル・プーチン露大統領のウクライナに関する見解も例外ではない。これらは長い伝統に基づくものであり、ロシア市民の間でなぜ今もウクライナ侵攻に対する支持が途絶えないのかを理解する一助となる」

     


    ロシアの文化、文学、政治の主流では、ウクライナ蔑視が伝統的な流れである。これこそ、肌で知っているウクライナ人が、今回の侵攻に対して敢然と立ち向かい,一歩も引かない戦いを続けている原動力であろう。この一事だけでも、ロシアは不利な戦いである。

     

    (2)「ロシアの歴史的な解釈や文学の伝統において、ウクライナ人は愚かだが、気のいい小作人であり、おかしななまりで話すと描かれることが多い。また将来の独立志向は外国の陰謀の産物でしかないとされている。ロシアから移住してきた両親を持つキーウ出身の作家ミハイル・ブルガーコフは、自身の作品の中でウクライナ語をばかにしている。画家のカジミール・マレービッチやソビエト宇宙開発の父セルゲイ・コロリョフら、芸術や科学の分野で誰もが認める実績を残したウクライナ出身者は、ロシア人として位置づけられている

     

    ロシアでは、ウクライナ人を愚鈍なものとして扱っている。根拠のない優越感に浸ってきた。ウクライナ出身者の功績も,ロシア人として分類している。このように、ロシア人はウクライナ人に対して屈折した心理状態にある。ある意味、劣等感を持っているのだろう。だから、ウクライナに対して虚勢を張っているのだ。

     


    (3)「ロシア人が建国の父とみる歴史的人物は実のところ、ロシア政府が誕生する以前から数世紀にわたりキーウ(ウクライナ)から支配していた。その一例がウラジーミル大公で、キエフ大公国と呼ばれる王国にキリスト教を持ち込んだ10世紀の統治者だ。プーチン氏とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の名前はいずれもこのウラジーミル大公に由来する」

     

    ウクライナのキエフ大公国は、数世紀にわたりロシアを支配した。キエフこそ、ロシア民族の中心地である。こういう歴史的事実を忘れて、ロシアはウクライナを蔑視する。この心理状態には、意識的にウクライナを葬り捨てたいという劣等感の裏返しが見える。民族主義は、劣等感に通じているのだ。

     


    (4)「ウクライナ人の野心に対して、ロシア人が敵対心をあらわにする慣習には二つの流れがある。まずは、ロシア人とは異なる別の人間としてウクライナ人の存在自体を否定するというものだ。これは19世紀をほぼ通じてロシア帝国で浸透していた考え方だ。当時はウクライナ語で書かれた書籍は禁止され、ウクライナを示す言葉そのものが禁じられたため、代わりに「小さなロシア」との名称が使われた。もう一つの流れは、ウクライナ人は独自のアイデンティティーを持ち、かつ自国語を話すと認めつつも、現在のウクライナ領土の少なくとも半分はロシアに属しており、旧ソ連建国の父ウラジーミル・レーニンによって不当に分離されたというものだ」

     

    ロシア人は、意識的にウクライナ人の存在を頭から否定したがっている。理由は,二つある。遅れている民族という認識と、ウクライナ領の半分はロシア領という認識だ。あれだけ,広大な版図を持ちながら、なお領土を欲しがる。中国の習近平氏と同じ発想である。

     


    (5)
    「プーチン氏は2014年、ウクライナで親ロ派のビクトル・ヤヌコビッチ大統領が市民の激しいデモ抗議により政権の座から追われたことを受けて、クリミア半島の併合に踏み切った。ヤヌコビッチ政権が欧州連合(EU)との統合に向けた長年の政策を覆し、ロシアとの関税同盟を目指したことがデモの発端だった。クリミア半島併合は、ロシア国内でほぼ全面的に称賛された。収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏ですら当時、クリミア半島はロシアの領土にとどまるべきだと主張していた。ラジオとのインタビューでは「クリミアは返還されるべきソーセージ・サンドイッチではない」と述べた。ただ現在は、プーチン氏がウクライナに仕掛けた戦争に対して声高に異議を唱えている」

     

    プーチン氏は、典型的なロシア人である。世界では、プーチン氏一人がウクライナ戦争を始めたという評価である。現実は、ロシア社会の底流に渦巻いているウクライナ蔑視が引き起した戦争である。

     


    (6)「ロシアのプロパガンダ(政治宣伝)によると、西側の後押しを受けて2014年に実権を握ったとされる一派こそが問題であり、この集団を排除すれば、ロシアと兄弟のような親密な関係を再開したいと望む一般のウクライナ市民に歓迎されるとされていた。しかしながら、ウクライナの激しい抵抗により、ロシア兵を解放者として迎えるウクライナ人などほぼ誰もいないことが露呈すると、ロシアのトーンは変化した。ここにきてロシア国営メディアの報道や政府の見解は、ウクライナとその文化は単に抹殺されるべきだとの主張にすり替わった。ロシア軍に占領されていたブチャのようなウクライナの町で市民が大量に殺害されていたことも、これで説明がつく」

     

    このウクライナ戦争が、不首尾に終わった場合、ロシア社会はどうなるだろうか。虚脱状態になることは目に見えている。一皮むけて、民主主義国へ歩むのか。逆に騒乱状態へ落込むのか。ロシアの将来は、分岐点に向かっている。

     


    (7)「ロシア国営通信RIAが、43日に掲載した「ロシアはウクライナに対して何をすべきか」と題する論説では、ロシアに敵対的な態度をとってきた罪をウクライナの一般市民に償わせるべきであり、ウクライナの名前そのものを再び廃止し、複数の地域に分割すべきだと主張している。さらにウクライナのエリート層は身体的に粛清され、残る国民は再教育するとともに「非ウクライナ化」すべきだとも指摘した。ディミトリ・メドベージェフ氏(元大統領)がウクライナの将来について似たような構想を表明。ロシアが勝利した後は、ウクライナ国家はナチスが支配したドイツ第三帝国のように消えると記している」

     

    このパラグラフは、「驚愕」と言うほかないおぞましい時代錯誤である。勝者のロシアが、敗者のウクライナを徹底的に「解剖」すると宣言しているのだ。相手国を敬う心の一欠片もないことに、ロシア社会の深い闇を感じる。このロシアは、近代国家として発展できる基本要因のすべてを欠いている。気の毒に思うのだ。

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    米国は、これまでにウクライナへ37億ドル相当の武器を送った。いずれも既存在庫を取り崩したものである。だが、これまで武器生産を縮小してきた事情もあり、ウクライナへ供与した分をすぐに補充しないという。完全な補充までには2~5年は掛かる見込みだ。すぐに補充しないのは、ウクライナ戦争への戦況判断も働いているのだろう。

     

    米紙『ウォールストリートジャーナル』(4月29日付)は、「米の兵器生産能力に懸念、ウクライナ侵攻で露呈」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻して2カ月余りが経過し、世界最大の武器生産・輸出国である米国では一部で在庫に不足が生じつつある。にもかかわらず、在庫の積み増しに向けた増産には着手できていない。米国の軍事産業基盤や紛争時の増産能力を巡っては、かねて不安がくすぶっていた。ここにきて半導体やロケットモーター、推進剤、人手不足が重なり、こうした懸念がさらに強まる構図となっている。

     


    (1)「バイデン米政権は来会計年度の国防総省予算として7730億ドル(約101兆円)の拠出を求めており、軍事支出は増加する見通しだ。それでも、ウクライナで広く使われている兵器の一部で、米軍の在庫は不足しつつある。防衛企業の幹部らは大半の兵器について増産の用意があると話すが、国防総省はまだ新規契約を発注し始めたところで、新規契約には外国に送った兵器の刷新に必要なものも含まれると指摘されている」

     

    米国がウクライナへ供与した武器は、在庫で保有してきたものである。米軍部隊には配備していない「古典的武器」である。今後、補充しなければならないが、すぐに生産する体制にはない。常備の武器でないので、生産計画で後回しにされるのだろう。

     


    (2)「国防総省はこれまで、ウクライナに37億ドル相当の武器を既存の在庫から送った。これには重火器や戦術ドローン(小型無人機)、携行式の地対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャベリン」などが含まれる。ところが、国防総省がこれまで締結した新規契約はドローン「プーマ」の調達に関する1件のみだ」

     

    ウクライナに送った武器は、37億ドル相当である。来会計年度の防衛費7730億ドルから見れば、0.48%に過ぎない。米国防省も、緊急生産すべき武器という位置付でないのも事実だ。

     

    (3)「増産を阻む障害の1つが、軍事産業基盤が細っていることだ。長年にわたる予算削減や業界再編を経て、米国内でミサイルのロケットエンジンを今も手掛けるメーカーはわずか2社にとどまる。1995年は6社あった。米会計監査院によると、企業の下請けサプライヤーの数も約5000社から1000社に大きく減った。米防衛大手レイセオンは26日、ロケットエンジンの不足は来年まで長引くとの見方を示した。同社は国防総省の第2位サプライヤーで、ジャベリンとスティンガーを生産する」

     

    米国の国防産業は、その基盤が次第に細っているという。ひと頃は、「産軍複合」として肥大化する防衛産業が批判の的になった。現在は、逆の現象が起こっているのだ。今回のロシアのウクライナ侵攻が、国防産業テコ入れということになるのだろう。

     


    (4)「グレッグ・ヘイズ最高経営責任者(CEO)は、国防総省がここ約20年、新たにスティンガーを購入していないと語った。同社は昨年、外国顧客のためにスティンガーの生産ラインを再開したが、すでに生産終了となった部品があり、再設計する必要があるという。トランプ政権時代に国防総省の武器調達責任者を務めたエレン・ロード氏は、米国はすでにスティンガー在庫の約4分の1をウクライナに送ったと話す。国防総省はこれまで、ウクライナにスティンガー約1400基を振り向けたと説明している。ロード氏は26日、議会公聴会で「政府が生産能力を維持するための資金を投じていないという問題がある」と述べた。生産を拡大してウクライナに送った分を補うには2~5年を要する可能性があるという」

     

    米国は、ウクライナへスティンガー1400基を送った。在庫はまだ、4200基ある計算である。米国は、在庫補充のためにもスティンガー生産を検討する必要がないのか。すぐに取りかからないのは、米国独自の戦況判断があるにちがいない。

     

    (5)「米在庫の取り崩しが進む中でも、補充の生産体制が欠如している現状について、議員らも問題視し始めている。国防総省によると、これまでウクライナに送られた兵器はすべて既存在庫からのものだ。当局者らはウクライナへの武器供与により、米軍の即応体制に影響を与えることはないと強調している。米防衛大手ロッキード・マーチンは先週、国防総省と協議を行っているとしながらも、ウクライナが求めている兵器のいずれについても増産していないと明らかにした」

     

    米国は、兵器メーカーとウクライナへ送った武器の補充生産を検討していないという。米国には、そろそろ停戦時期に来ているという読みがあるのだろうか。もし、苛烈な戦線拡大の危険性があれば、何はともあれ増産体制に入る筈だ。「それがない」とは、楽観的な見通しが出てきたとも見える。

     

    (6)「ロッキードのジェイ・マラベ最高財務責任者(CFO)は、国防総省による軍装備増産の要請を検討しているとしたが、どの装備かについては明言を避けた。また、コロナ禍に絡むサプライチェーン(供給網)の制約によって受注への対応が難しくなっているとも述べた。米国は、ウクライナにジャベリンを5500基余り供給したが、どれくらいの在庫が残っているのかは明らかにしていない。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)では、国防総省が在庫の約3分の1を使ったと推定している」

     

    米国は、ウクライナへジャベリンを5500基余り供給している。在庫の約3分の1を使った程度という推計もある。そうなると、在庫はあと約1万2000基ある計算だ。すぐに、在庫補充の動きはなさそうという。これも、米国の戦況判断によるものに違いない。

     

    テイカカズラ
       

    経済制裁は、確実に効果を現している。西側企業のロシア撤退で即、失業という事態が起こっているのだ。労働者には,何の罪があるわけでない。すべては、プーチン氏の個人的な怨恨で始まったウクライナ侵略が、ことの始まりである。

     

    『ロイター』(4月17日付)は、「『西側制裁で失業』、ロシア労働者の新たな現実」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「西側のロシア制裁によって同国経済は急降下しており、インフレ率は2桁台、成長率はマイナス2桁台に陥る見通しだ。戦略研究センター(モスクワ)は、ロシアの失業者数が年末までに最大200万人増えると予想している。最悪の場合、失業率は2月水準の2倍の8%に近づく恐れがあるという。「ロシアは国際金融システムから強制的に追い出された。従って経済の構造全体が変わるだろう」と言うのは、オックスフォード・エコノミクスのタチアナ・オルロバ氏だ。「外資系企業と銀行の撤退に伴い、ホワイトカラーの失業が増えていくだろう。だが低賃金労働者を雇っていた小売りなどのセクターからも企業は撤退している」という」

     

    ロシアの失業者は、年末までに最大200万人、8%の失業率に近づく危険性がある。外資系企業と銀行の撤退に伴い、ホワイトカラーの失業が増えていく見通しである。

     


    (2)「米エール大経営大学院の調べでは、侵攻以降にロシア撤退を発表した企業は600社を超える。もっとも多くの企業は、数カ月間は給与の支払いを続ける方針だ。西側企業によるロシア国内の雇用者数は、米マクドナルドが6万人余り、仏自動車大手ルノーが4万5000人、スウェーデンの家具大手イケアが1万5000人に上っていた。オルロバ氏は、西側企業の撤退により100万人近くの雇用が直接失われると試算している」

     

    ロシア撤退を発表した西側企業は、すでに600社を超える。これにより、100万人近い失業者が出そうだ。年末までに最大200万人に失業者が予想されるが、この半分は西側企業の解雇者が占めそうだ。

     


    (3)「西側がロシアからの輸入禁止に踏み込んだ場合、鉱業・石油企業は人員解雇を迫られるかもしれないとオルロバ氏は述べた。オンラインの人材採用プラットフォーム、ヘッドハンターを見ると、4月10日までの1週間の求職者数は、2月24日までの1週間に比べて約1割増えている。これに対し、求人件数は25%余り減少した。波紋は大きく広がっている。西側の制裁によって旅行が途絶えたため、モスクワのシェレメチエボ空港は3月、スタッフの2割を一時帰休とした。ロシアのサービスセクターは3月、約2年ぶりの急激な縮小ぶりを示し、就業者数は2020年6月以来最も大幅に減少した。世界銀行は、全体で260万人が今年、ロシアの公式な貧困ラインを下回る可能性があると推計している」

     

    サービス部門が、急激な縮小過程に入っている。世界銀行の推計では260万人が貧困ラインを下回りかねないと見ている。一般的な貧困ラインとは、可処分所得の中央値の半分(貧困ライン)に満たない状態をいう。

     


    (4)「モスクワ近辺で美容師をしているアレフティナさん(25)は、3月は常連客の1割以上から予約が入らなかったと語る。このため、平均10万ルーブルだった月収が1万5000ルーブル(185ドル、約2万3000円)削られてしまった。「私のお客さんは毎月減っていくのだろう。仕事がなくなったから美容代を節約している、という不満を耳にする」という」

     

    美容室へ予約する客が、3月には1割以上減ったという。街の景気悪化のシグナルである。

     

    (5)「ロイター調査によると、ロシアの対外(貿易)収支黒字は今年、エネルギー収入を支えに2330億ドルと、前年の約2倍に膨らむ見通しだ。このため当局は失業給付の支払いを維持できるかもしれない。しかし、オックスフォード・エコノミクスのオルロバ氏は、ロシア経済は1998年や2008年よりも深刻なリセッション(景気後退)に陥ると予想。しかも、例えば制裁によってロシア企業が投資に必要な外国の技術や設備にアクセスできなくなるなど、長期的な影響も伴いそうだという」

     

    今年の貿易収支の黒字は、エネルギー高騰によって昨年の約2倍になるので、失業給付金を賄える見通しという。だが、今年は深刻な不況突入が不可避で、マイナス10~同15%の落込みが見込まれる。また、制裁によって外国の技術や設備補修が不可能になるので、来年以降の景気もマイナス状況の停滞が続く。

     


    (6)「オルロバ氏のモデルでは、ロシアは生産性も貿易相手諸国に比べて低下する見通しとなっている。その一因は、ロシアで有望視されていたITセクターが打撃を被りそうなことだ。ハイヤー・スクール・オブ・エコノミクスによると、ロシアのITセクターは、2019年までの6年間に経済価値が倍増し、同年末時点で国内総生産(GDP)の1.2%を占めていた。しかしウクライナ侵攻以来、10万人を超えるIT専門家がロシアを脱出したとロシア電子通信協会は推計している」

     

    ロシア経済を下支えする筈のIT技術者が、相次いで出国している。プーチン氏の侵略戦争に反対している結果だ。肝心のIT人材が減れば、ロシア産業の改革はストップする。

     

    (7)「コロナ禍中に西側諸国の失業率が2桁台に上昇する一方で、ロシアの失業率が6.5%を超えなかったのには、同国特有の要因もある。国営企業がしばしば人員解雇よりも賃金カットを選ぶことが、その1つだ。もう1つの要因として、高齢化が進んでいるため、非熟練労働を中心に人手不足の穴埋めを近隣諸国からの出稼ぎ労働者に頼る傾向が強まっているという事情がある。世界銀行によると、ロシアでは65歳以上の人口の割合が世界平均の9%の2倍程度に上る。つまりロシアで雇用が失われると、旧ソ連諸国に影響が広がり始めるだろう。キルギス民族離散会議(モスクワ)の代表、クバニチベク・オスマナリエフ氏は「どこもかしこも人員削減で、ルーブルは下落し、給料を支払われていない人々もいる」と嘆く」

     

    ロシアへ出稼ぎに来ている旧ソ連領の人たちには、失業問題が深刻である。帰国しても仕事はなく、帰るに帰れない状況が起こっている。

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