勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    ロシアは、ウクライナ侵略で何らかの「勝利」を得たいとして、東部や南部で大規模な戦闘を仕掛ける公算が強まっている。ウクライナ側は、今週中にもと切迫感を表しているが、米英の軍事当局は、これまでの戦いで手痛い打撃を受けているので、短期間に装備と兵員を補充し攻撃体制を整えられるか疑問の声を上げている。

     

    ロシア軍が、時間的な遅れはあるとしても、大規模攻撃を再開することは間違いなく、第二次世界大戦並の重火器の戦闘という事態を避けられないという。ウクライナ軍には、それに耐えられる武器弾薬があるのか、不安視する向きもある。NATO(北大西洋条約機構)軍は、その辺りの事情を十分に認識しているはずであろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月12日付)は、「ウクライナとロシア、最大の戦闘局面へ突入」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナとロシアは先週末、互いに東部ウクライナへの兵力再配備を進め、今回の戦争で最大規模になるとみられる戦闘に備えている。ロシアの主要目的はここにきて、東部ドンバス地方でまだ制圧できていない地域を掌握することにシフトした。ロシア軍の作戦変更により、侵攻当初6週間の第1段階とは異なり、ウクライナは戦車や砲撃、航空機を駆使した通常の戦闘を余儀なくされる。平地での戦いは、ロシアの軍装備の優位性が発揮されやすい状況だ。

     

    (1)「西側やウクライナの当局者によると、大規模な攻撃が始まるタイミングはロシア政府次第で、今ある兵力で即座に猛攻を加える可能性もあれば、ウクライナ北部で大きな痛手を負った部隊を再編成するために数週間待つこともあり得る。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアはウクライナを支配下に置く野望を断念していないとして、新たな戦闘に突入するにあたり、改めて早急な支援を提供するよう各国に訴えた」

     

    ロシアの大規模な作戦再開は、部隊再編成が終りしだいと見られている。ウクライナ側は、これに備えて早急な武器弾薬の支援を要請している。

     

    (2)「ウクライナ当局は週末、ドンバス地方を構成するドネツクとルガンスクのウクライナ支配地域、およびハリコフ地域2地区の住民に対して、できる限りの手段を講じて即刻退避するよう勧告。追加の鉄道やバスを手配した。ウクライナ北部から撤収したロシア軍の大隊戦術群(BTG)の多くは深刻な打撃を受けており、近くドンバスの前線に再配備することはできないだろう、とウクライナや西側の当局者は話している。米国防総省のある幹部は「一部の部隊はどうみても、実質的に全滅状態である形跡が見受けられる」と明かす。その上で、ロシアがその溝を埋めるため、予備役およそ6万人の配備を目指しているとの見方を示した」

     

    下線部のように、キエフ付近に展開したロシア軍部隊の一部は、実質的に全滅状態という。こういう負け方が、残虐行為を働かせた要因になっているのかも知れない。厳しく糾弾されるべき事件である。

     


    (3)「
    ドンバス地方に関しては、戦術を取り巻く環境はロシア軍に一段と優位な状況にある。補給線は短縮され、ロシア軍の作戦範囲が限られることで、空軍の支援を効果的に活用できるためだ。ウクライナや西側の当局者はこう分析している。ウクライナ政府は大砲や戦車、高射砲といった重火器が早急に必要だと訴えている。それは小規模部隊ではなく、大規模な編隊が対峙するという、従来とは異なる戦闘になるとみられることが最大の理由だ。ただ、西側諸国はこれまで、こうした重火器の供与には二の足を踏んでいる」

     

    これからの戦線では、補給物資の運搬距離が短くなることで、ロシア軍に有利な面があるとされている。これは、港からの補給が進むという前提だ。ただ、英国から提供される対艦ミサイルシステムが、ロシア艦艇を脅かす存在になるので、定石通りに運ばれない面があろう。そうなれば、ロシア軍は再度の目算違いに直面するはずだ。

     


    (4)「ウクライナは最初、兵士が使い慣れた旧ソ連製の重火器システムの提供を求めていた。しかし、こうした装備や銃弾の供給が限られることに加え、紛争が長引く見通しであることを踏まえ、NATOが通常使っている重火器を購入することを要請している。ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相が明らかにした。レズニコフ氏は演説で「これまで入手した旧ソ連製の兵器は、ウクライナ軍を短期的にしか増強できない」と主張。その上で「この戦争に勝つためには、これまで受け取った支援とは異なるものを必要としている」と訴えた」

     

    第二次世界大戦並に、重火器による応戦が始まるとすれば、ロシア軍は傭兵や新兵を集めて戦線へ投入するという「ゲリラ戦」ごとき戦いは通用しなくなろう。ウクライナ軍が、これまでと同様に地の利を生かした戦い方をすれば、勝機を掴めるはずだ。情報収集戦では、ウクライナ軍が圧倒的に優位である。

     


    (5)「
    西側諸国の首脳も支援を強化している。ボリス・ジョンソン英首相は9日、ウクライナを訪問し、首都キーウをゼレンスキー氏と共に視察。その場で新たな軍事支援を発表した。これには120の装甲車や対艦ミサイルシステムなどが含まれる。これまでのところ、ウクライナに戦車を提供したのはチェコ共和国のみで、旧ソ連製の「T72M」を供与した。スロバキアは米国から地対空ミサイル(SAM)「パトリオット」の配備を受ける代わりに、地対空ミサイル「S300」をウクライナに送っている」

     

    西側諸国の兵器支援によって、ウクライナ軍が強化されなければ、ウクライナがこれまで受けた犠牲が無駄なものになる。まさに、「天王山」と言える局面になった。

     


    (6)「ウクライナはロシアによる侵攻が始まる以前、ドンバス地方を構成するドネツクとルガンスクの約3分の2を掌握していた。残りはロシアが2014年にクリミア半島を併合してウクライナ東部に介入して以降、親ロ派武装勢力が支配しており、最近になって「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」として独立を宣言していた。ウクライナ当局者は、ロシアの狙いはドンバス地方にとどまらない見通しで、プーチン氏はドンバスでの戦いでウクライナの先鋭部隊を破壊し、首都キーウを含めウクライナ全土を掌握することを再び目指す、と予想している

     

    ウクライナ軍が、今回のロシア総攻撃に後退する事態となれば、首都キエフへロシア軍の再攻撃を許す局面になりかねないと警戒している。

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    ロシアは、約19万人といわれる大軍をウクライナ戦争に差し向けた。だが、不思議なことに全軍を指揮する「司令官」は存在しなかった。各部隊が、勝手に攻撃して多大の損害を出したのが実情だ。この無秩序攻撃を反省し、司令官の下に秩序だった攻撃を意図しているようである。

     

    米英の複数メディアによれば、プーチン大統領がウクライナ侵攻の司令官として、アレクサンドル・ドゥボルニコフ大将を任命したと伝えている。ドゥボルニコフ氏は、米軍の元幹部から「処刑人」と評される人物だ。民間人の犠牲が出てもお構いなく攻撃する、という評価である。ロシアは、ウクライナ東部で勝利を収めて、ロシアの対独戦勝記念日(5月9日)に花を添える計画であろうと予想されている。そのように、上手く進むか疑問符がついている。

     


    米『CNN』(4月10日付)は、「プーチン大統領、ウクライナ侵攻の指揮官を任命」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は10日までに、ウクライナの全戦域を統括する司令官に、連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将(60)を任命した。米国と欧州の当局者がCNNに語った。欧州の同当局者によると、ロシアは形勢が極めて厳しいことを認め、戦法の転換を迫られている可能性がある。

     

    (1)「ドゥボルニコフ氏は、ロシアがシリア内戦に軍事介入した2015年9月から16年6月にかけて作戦の指揮を執った人物。ロシア軍は当時のアサド政権を支援し、北部アレッポの反体制派支配地域で人口密集地を空爆して多数の犠牲者を出した。ロシア軍はウクライナでも主要都市の民間施設を攻撃し、南部の港湾都市マリウポリの街を破壊するなど、当時と同様の行為を繰り返している。ロシア軍の基本思想や戦術は昔からほとんど変わっていないと、同当局者は指摘する」

     

    ドヴォルニコフ氏は、プーチン大統領の命令によって、2020年6月に上級大将に昇進した。荒っぽい戦術で知られており、先に起こったウクライナ・クラマトルスク駅へのミサイル攻撃は、ドヴォルニコフ大将の「初仕事」でないかと観測されている。このミサイル攻撃で、少なくとも52人(ほとんどが女性、子ども、高齢者)が犠牲になった。こういう民間人を「虐殺」して、相手の戦意を挫く戦法を得意とする将軍である。

     

    下線部は重要である。ロシア軍は、これまで一貫して「歩兵と戦車」で戦う戦術できた。旧日本軍も同一戦術を繰返したので、米軍がすべてその逆を突く戦術を取って、日本軍を敗退に追い込んだ。ドヴォルニコフ大将の戦術は、すでに綿密に検証されているはずである。ウクライナ軍は、その弱点を突くであろう。「準備は整っている」と言っているほどだ。

     


    英国が、対艦ミサイルシステムをウクライナへ供与する点を見逃してはならない。これまですでにロシア艦艇1隻が、ウクライナ軍によって沈没の憂き目に遭っている。これ以降、ロシア海軍は慎重に行動しているのだ。対艦ミサイルシステムは、さらにロシア海軍に警戒感を与えるので、物資補給や兵力増強で難儀するであろう。ドヴォルニコフ大将は、厄介な問題を抱えることになった。シリアの戦いとは、様相が異なるのだ。

     

    (2)「事情に詳しい専門家や米当局者らによると、ロシア軍将校らは現在、第2次世界大戦の対独戦勝記念日にあたる来月9日までに、何らかの戦果をプーチン大統領に示すことを目指しているとみられる。元駐ロシア英国大使のロデリック・ライン氏は9日、英スカイニュースとのインタビューで、ロシアが「シリアでの蛮行の前歴」を持つ新たな司令官を任命したと指摘。その狙いは、少なくともウクライナ東部ドネツクで、プーチン氏が誇示できるような領土獲得を果たすことだと述べた

     

    下線部のような結果が出なければどうなるか。ロシア軍部が、プーチン氏から離反するのでないかという観測もある。時間を区切って戦果を上げることは、戦術として稚拙な攻撃の繰り返しとなろう。ロシア軍が焦って攻撃すれば当然、ミスを連発して自滅のリスクが高まるのだ。

     


    (3)「ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐっては、作戦全体を統括する司令官の不在で統制が取れていないとの見方を、CNNがかねて報じていた。米当局者らは総司令官の人選について、ロシア軍が一定の戦果を収めているウクライナ南部の作戦責任者が任命されるとの見通しを示していた」

     

    米欧州軍の司令官を務めたこともあるマーク・ハートリング米陸軍退役中将は10日、CNNに対して次のように語っている。

     

    「ロシア軍は、ウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)への進軍を計画しており、それに向けて同国東部で部隊の再編成を行っていると伝えられている。だが、こうした報道を疑問視する。これまでのロシア軍の兵力面、装備面での損失は大きく、東部に移動して新たな攻撃を行うのは難しい。ボードゲームやビデオゲームとは違う。ロシア軍部隊は大きな打撃を受け、ひどい状態だ。それを立て直してもう一度戦場に送り込むのは容易ではない。再び戦闘に従事させられるようにできるとしても、かなりの時間がかかるはずだ。だから私は、ウクライナが優勢だと考える」(『ニューズウィーク 日本語版』(4月11日付)。

     

    いったん敗走した部隊を立て直して再度、戦場へ向かわせるのは極めて困難である。「負け癖」がついた軍隊は、士気が低下しているからだ。プーチン氏が5月9日に、「祝杯」を上げられるか疑問符がつくのである。

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    ロシアの始めたウクライナ戦争で、インドはロシアに対して「反対」という意思表示をしないできた。インド太平洋戦略「クアッド」(日米豪印)では、米国と隊列を組んでいるのだ。その米国が、ロシア制裁で全力を挙げているにも関わらず、インドは別行動を取っている。「なぜ?」と疑問が湧くのは当然であろう。

     

    その答えは、インド独立後に一貫して旧ソ連時代を含め、ロシアへ軍事面(武器供給)で依存してきたことにある。インドの最大の敵は中国である。長い国境を挟んで幾度か軍事衝突を重ねてきた。ロシアは、武器供給面で中国よりもインドを優先してきた経緯がある。こういう関係が、ロシアを重視する最大の理由である。

     


    韓国紙『ハンギョレ新聞』(4月9日付)は、「インドはなぜ、新しい友人の米国を捨て古い友人のロシアに向かったのか」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウクライナ侵攻は世界を驚かせた。大多数の国家がこれを非難するなか、いわゆる「民主主義国」に分類されるインドの沈黙は、また別の“衝撃”だった。特に、民主主義を旗印にインド太平洋戦略を前面に出し、「インド抱き込み」に努めてきた米国の困惑は大きいだろう。

     

    (1)「インドは、ロシアのウクライナ侵攻の前後に国際舞台で繰り広げられた外交戦において、一度もロシアを公の場で非難しなかった。2022年2月11日、オーストラリアで開かれたクアッド外相会談の共同声明には、ロシアに対する言及は初めからなかった。インドは2月25日、国連安全保障理事会(安保理)のウクライナ侵攻非難決議案に、中国とアラブ首長国連邦とともに棄権票を投じた。米国ニューヨークで3月2日に開かれた国連緊急特別総会でも、ロシアの侵攻に対する非難と撤退決議案を棄権した。翌日のクアッド首脳会談でも、「ウクライナ人道支援・災害救済メカニズム」以外には、ロシアを非難するいかなる内容もなかった」

     


    インドは、ロシアのウクライナ侵攻に対しては沈黙している。インドの国益である中国との対立克服には、ロシア製武器が必要であるからだ。インドは、クアッドにも参加して「全方位外交」を展開している。

     

    (2)「インドはなぜ沈黙するのだろうか。特定の国家の外交・安全保障路線は、歴史的経験や脅威認識、それにともなう世論などの影響を受ける。一つ目は、インドとロシアの歴史的・地政学的な連帯関係が70年近くにわたり堅固であることだ。インドはスターリンの死後の1950年代から、ソ連がインドに経済・技術・軍事支援を提供し、両国関係が深まった。中国と国境をめぐり争ったソ連は、やはり中国と1962年に国境紛争を行ったインドに、条件なしあるいは低価格で安全保障を支援した。パキスタンとのカシミール紛争では、常にインド側に立った。さらに、1971年に第3次印パ戦争勃発時には、米国のリチャード・ニクソン大統領はインドを脅すために戦艦を送り、ソ連は戦艦を追い出すために海軍を派兵した」

     

    ロシアがソ連時代を含め、インドを軍事的に支援するのは、中国をけん制するためだ。現在のロシアは、中国と親密ぶりをアピールしているが、インドをめぐっては相反関係にある。インドは、中国へ軍事的に対抗するためにロシアが必要である。ロシアは、中国をけん制するにインドが必要という関係である。国際情勢が複雑怪奇と言われるゆえんである。国益が微妙に絡み合うのだ。インドは、また中国へ対抗するには、クアッドの日米豪も必要不可欠としている。

     


    (3)「このように刻印された両国の歴史的DNAは、世論に多大な影響を及ぼす。そして、世論は政策決定者が身動きできる外交安保政策の空間的な限界を規定する。インドの場合も、支配層だけでなく一般人も、ロシアを事実上の「同盟」と考えているという。米国の時事週刊誌「タイム」は、「インドのソーシャルメディア上の世論は、概してインドの中立的な態度を支持している」とし、「ロシアに対する支持は、政治的な境界も越えている」と報道した。野党でさえ、ナレンドラ・モディ首相に対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を孤立させるよう要求することはない。このような世論の状況では、モディ首相のような強力な指導者もロシアを無視できない」

     

    インドは、困った時に助けてくれたロシアへの義理を守っている。それが、世論までにも浸透しているのだ。

     


    (4)「二つ目は、当面の安全保障上の脅威に関連し、中国の経済的・軍事的浮上によって、インドと中国の国力の不均衡がよりいっそう大きくなっていることだ。しかも、中国は南シナ海で攻勢的に軍事力を投入している。インドは2020年、インド北部のガルワン渓谷で中国と軍事的に衝突したこともあった。インドが中国の浮上に対し、ヘッジ戦略として米国との友好関係を強化しようとするのもそのためだ」

     

    インドにとって中国は、宿命的な対決相手である。中国は、絶えず領土拡大を図っている。無人のヒマラヤ山中でも、貪欲に国境線を動かそうと軍事力を行使するのだ。インドが、ロシアを必要とする背景はここにある。

     

    (5)「インドの“二枚舌”を眺める米国と西側の内心は複雑だ。米国のジョー・バイデン政権は、インドへの直接的な非難は自制している。東欧の危機がある程度落ち着いた後、米国の外交政策の重点が欧州からふたたび中国に移ったとしても、インドに対する米国の期待値は以前より低くなるだろう。しかし、米国がAUKUS(米国、英国、オーストラリアの安全保障同盟)の役割をいっそう強化し、北東アジアで焦りを示す可能性もある。韓国、米国、日本の安保協力強化は、米国が取り出しやすいカードだ。韓国がスピードと緩急を調節しなければ、中国との関係設定はよりいっそう難しくなるだろう」

     

    インドが、野党を含めてロシアへ共感していることから言えば、韓国も朝鮮戦争で救援してくれた米国へ全幅の信頼を置くべきである。文政権は、韓国を侵略した中国に対して、米国よりも親愛の情を見せてきた。あべこべなことをしているのだ。韓国世論の8割は、親米派である。中国派はゼロに近い微々たるものである。

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    ロシアは、ウクライナ侵略戦争の焦点をウクライナ東部に置くことになった。全土の把握は、ロシアの戦力の現状から諦めたようである。ロシアが仕掛けた古典的な「植民地戦争」は、失敗という印象が強くなった。プーチンのロシアは、これからどうなるのか。新たなテーマが浮かび上がる。

     

    米経済通信社『ブルームバーグ』(3月25日付)は、「プーチン氏の戦争、勝てない場合のロシアの未来」と題するコラムを掲載した。筆者のハル・ブランズ氏は、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授である。

     


    (1)「2月下旬以降、ロシアは経済、貿易、金融の面で制裁を受けている。債務不履行(デフォルト)へ突き進み、テクノロジー面のデカップリング(切り離し)も進行している。外国企業はロシアから撤退し、サッカーなどスポーツ界でもロシア代表は国際大会から排除されている。ロシアはキューバもしくは北朝鮮のような小さな独裁国家ではなく、つい最近まで国民が国際社会と深く結びついていた大国だ。それが今や、ある国が世界を相手に戦争している時だけに起きるような国際社会からの追放に直面している」

     

    ロシアは文字通り、世界の孤児になった。経済制裁が強烈、かつ広範囲にわたること。それだけでない、スポーツや芸術にまで及んでいる。チャイコフスキーの名曲演奏まで拒否される「ロシア嫌悪感」に満ちあふれている。

     


    (2)「ウクライナでの戦争が、今後数カ月もしくは数年続くとしたら、それはロシア側には何を意味するだろうか。いくつかのシナリオが考えられるが、いずれもロシアにとっては難題をもたらすものだろう。米国やその同盟国にとって極めて憂慮すべき展開も考えられる」

     

    プーチン氏は、間違った民族主義に酔い、タブーの引き金に手を掛けてしまった。戦争を止めるのはプーチン氏である。

     

    (3)「最も明るいシナリオは「モスクワの春」だ。戦争の代償として政変が起こり、1990年代にロシアが一時的に経験した民主主義が復活する。ロシアのエリート層がプーチン氏を排除し、ウクライナとの和平を結ぶ。侵略と独裁が迎えた結末を目の当たりにしたロシアの都会的かつリベラルな層は、政治の開放と国際社会への再統合を求める。1980年代後半に世界から孤立した南アフリカ共和国がアパルトヘイト(人種隔離)を放棄したように、ロシアの内外政策は外圧によって劇的な変化を強いられる」

     

    ロシア民衆が、「プーチン不信任」を行い政権から降すのがベストだ。2024年の大統領選挙がカギを握る。

     


    (4)「このシナリオが実現する可能性は低い。過去20年にわたるプーチン主義により、ロシアの野党勢力は弱く、分裂している。プーチン氏もクーデター防止網を張り巡らせているだろう。仮にロシアで革命が起きたとしても注意が必要だ。1990年代の歴史は、不安定かつ混沌(こんとん)とした時代が続く可能性をわれわれに警告している」

     

    旧ソ連時代はあのフルシチョフ書記長でさえ、ソ連共産党から解任された。いまのロシアは、ソ連時代よりさらに独裁化が進み、プーチン一人舞台である。「プーチン退任」は夢物語だ。

     


    (5)「2番目は、より妥当な「傷を負った巨人」シナリオだ。権力にしがみつくプーチン氏は、孤立で高まる民衆の不満を治安部隊を使って抑える。ロシアは経済および技術の面で西側に代わる選択肢を模索し、中国への依存を高めるようになる。この場合、変わるのはロシアの政策ではなく、ロシアの影響力だ。経済の衰退、技術進歩の遅れ、軍事力の長期弱体化という代償を伴う。このシナリオは西側や太平洋地域の民主主義国家にとって素晴らしいものではないが、ひどいものでもない。停滞するロシアに対し、米国は長期的なライバル関係で十分な成果を上げることができるだろう」

     

    プーチン氏が権力にしがみつけば、ロシアは国家として衰退する。国際的な影響力は低下するだろう。

     


    (6)「3番目は、さらに暗い「ボルガ川のテヘラン」シナリオだ。ここでは孤立化と急進化が並行して進む。高学歴で将来性のある層はロシアを離れ、率直な批判を口にするリベラル派は政権から排除される。強硬派は自給自足を前提とした「抵抗経済」を受け入れ、西側からの汚染を避けようとする。厳しい内部粛清、執拗(しつよう)なプロパガンダ、好戦的ナショナリズムの高揚はロシア型ファシズムを生み出す。やがてプーチン氏がいなくなっても、同じように抑圧的で野心的、外国嫌いのリーダーが現れる。こうしてロシアは、核兵器を保有する超大国版イランと化し、世界から永久に疎外され、好戦性を高めることで弱さを補うようになる。西側との対立は緩和するどころか激化するかもしれない」

     

    プーチン後のロシアは、世界から永久に阻害される存在となる。中国は、こういうロシアを支え続けることはないだろう。好戦的ロシアが続く以上は、経済制裁が続くからだ。

     


    (7)「もちろん、最終的な現実は上記のいかなるシナリオとも違ってくる可能性がある。しかし、こうした頭の体操で2つの重要なポイントが浮かび上がる。まず、米政権はロシアの長期的な軌道について真剣に考え始める必要があるという点だ。ソ連に激震が走っていた1989年、当時のブッシュ(父)政権は何が起こり得るかを検討する会議を静かに立ち上げていた。今回の危機で何が起きるにせよ、ロシアは強大であり、その軌道は国際秩序全体の健全性にとって極めて重要だ。米国はロシアがどんな方向に進んでも対応できるようにしておく必要がある」

     

    米国は、衰退するロシアへの準備を始めるべきだ。1989年、米国のブッシュ大統領(当時)は、1991年のソ連崩壊を見据えて準備作業に入っていた。

     


    (8)「次に、何を望むかに注意が必要だ。ウクライナが粘り強い抵抗を見せる中、米国とその同盟国は、最も基本的な国際行動規範を明白に破ったロシアに重い代償を背負わせるべく、厳しい制裁措置を正しく行使している。これに代わる唯一明白な、そして忌まわしい代替策となるのが融和策と武力介入だ。しかし、われわれは制裁措置が長期的にどのような結果をもたらし得るかの検討を始めたばかりだ」

     

    西側は現在、ロシアへ強烈な経済制裁を行なっている。これを緩めてはいけない。融和策と武力介入は、決して「代替策」になり得ない。「兵糧攻め」が、最善の策である。 

     

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    ロシアの仕掛けたウクライナ戦争は、完全にロシア軍の計算違いを証明した。ウクライナは3月後半、雪解けによって大地が「泥沼」状と化す。1812年のナポレオン戦争や1941年の独ソ戦。ロシア(ソ連)が勝利を得たのは、この「泥沼」が味方したのである。敵は、進軍を阻止されて挫折した結果だ。

     

    今回のウクライナ戦争では、ロシア軍が「泥沼」にはまってしまい、ウクライナ軍の餌食にされている。プーチン氏は、こういう歴史的事実を忘れて侵略を始めた。この結果、「兵站」(補給路)が寸断されて、最前線へ食糧・弾薬が届かない最悪事態に陥っている。戦争を左右するのは、この「兵站」が上手く行くかどうかに掛かっているのだ。

     


    『ニューズウィーク 日本語版』(3月25日付)は、「ロシア軍は3日以内に食糧弾薬尽きる、ウクライナ側が分析」と題する記事を掲載した。

     

    食糧事情は悪化し、キエフ郊外で村人に食べ物をねだるロシア兵が出現。3週間にわたり車列が停滞していることで、補給が破綻した可能性がある。

     

    (1)「補給線の弱さが指摘されるロシア軍に関し、ウクライナ軍総参謀本部は新たに、進軍中のロシア部隊の燃料・弾薬・食糧がいずれも3日以内に枯渇するとの認識を示した。軍参謀本部は、「入手できる情報によると、ウクライナで活動中のロシア占領軍が備蓄している弾薬および食糧は3日分に満たない。燃料に関してはタンクローリーで補給が行われるが、これについても状況は類似している。占領軍は兵士集団の需要に応えるだけの補給ルートを構築することができなかった」と指摘している」

     

    補給路(兵站)を確保できなかったのは、開戦当初のロシア空挺部隊の侵攻が全滅したからだ。これにより、制空権を確保できず陸上輸送に頼ることになった。この時点で、ロシア軍の「敗北」は決定的になった。空挺部隊の将官も戦死している。チェチェン紛争の功労者であった。

     


    (2)「この分析は、ウクライナ軍参謀本部が3月21日、Facebookを通じて明かした。手元食糧の節減や現地での略奪などを通じ、3日を超えて持ちこたえている可能性があるが、前線のロシア部隊の切迫した状況を示している。当初短期戦を意図していたロシアは、戦闘の泥沼化にあえぐ。24日時点の戦況について英BBCは、首都包囲を試みていた部隊が「防御陣地を掘り地雷を設置している模様で、近いうちの大規模な攻撃は想定していない可能性がある」とするアナリストの見解を報じた」

     

    弾薬と食糧が、24日現在で「3日分」しかないのは悲劇である。ロシア参謀本部が25日、「東部地域に戦力を投入する」と発表したのは、キエフ方面の兵站が失敗していることを裏付けている。

     

    (3)「首都包囲に向かうロシア軍の車列は、31日ごろから停滞している。この車列こそ、前線のロシア部隊に燃料と食糧を届ける生命線であった可能性が指摘されている。元ノキア重役でありウクライナ侵攻を精力的に分析している著述家のトミ・アホネン氏(フィンランド出身・香港在住)は、単一の補給線に頼ったロシア側のリスク管理の甘さを指摘する。各戦闘車両は1日分の燃料と食糧を搭載していたが、2日目以降は後方からの補給に頼る計画だった模様だ」

     

    ロシア軍は制空権を握れない結果、空路での輸送が不可能になっていることを示す。開戦緒戦において、ウクライナ軍がロシア空挺部隊を全滅させた効果は極めて大きかった。

     


    (4)「氏のツイートよると、この補給線こそが64キロの車列であり、その構成は8台あたり1台ほどの武装車両がエスコートするほかは、2800台のほぼすべてが輸送トラックとなっていた。「この40マイル(64キロ)の車列は、(前線にいるとされる7個師団の)7万の兵士ではない。7万の兵士に1日分として供給される、燃料、弾薬、食糧だ」この大動脈が停滞したことで、前線の活動は大混乱に陥った」

     

    64キロの車列は、7万人の兵士に対して1日分の燃料、弾薬、食糧の供給にしか過ぎないという。制空権を握れない状況での陸上輸送は、自殺行為である。太平洋戦争で、旧日本軍は兵站部門の失敗で大敗した。ロシア軍も同じ状況に置かれている。キエフ占領は、不可能であろう。

     

    (5)「車列の停滞を受けロシア側は、防御に必要な最低限の弾薬についてはヘリによる緊急輸送を実施した。しかし、攻撃用の重火器と燃料は重量があるため、空輸が難しい。7個師団を動かすには1日あたり910万リットル(鉄道タンク車69台分)の燃料を必要とするが、この輸送が途絶えたことでロシア軍の活動は目に見えて弱体化する。アホネン氏は次のように総括している。「核心に入ろう。ロシアの侵略立案者たちは、燃料補給車すべてを40マイルの車列という同じバスケットに入れた(リスクを分散しなかった)ことで、華麗な失態を演じたのだ」と指摘する」

     

    7個師団を動かすには、1日あたり910万リットル(鉄道タンク車69台分)の燃料を必要だという。現実に、これだけの輸送は不可能だ。ロシア軍の敗北は不可避であろう。

     


    (6)「プーチンは現在、兵士に食糧と燃料の「自給自足」を命じているが、これは略奪による現地調達を意味しており、兵站の破綻を実質的に認めた形だ。アホネン氏はさらに踏み込み、ウクライナ軍が戦略的にあえて停滞車両を破壊しなかったとも推察している。これにより、補給地点目前にまで到達した車列の前進にロシア側が腐心するよう仕向け、他の兵站ルートの構築を遅らせたとの読みだ。ウクライナ側にそこまでを企図する余裕があったかは定かでないが、いずれにせよ、64キロに及ぶ単一の輸送網に頼ったロシア側の戦略ミスは否めないだろう」

     

    哀れなのは,ロシア軍兵士である。燃料不足の結果、凍傷に掛かっている兵士が多いという。中には、ウクライナ兵の靴を履いているロシア兵もいるという。零度以下に下がる荒野で、燃料もなく寒いタンクの中で寝ている状況では、士気など高まるはずがない。しかも、大義もなく、兄弟国へ銃を向ける。脱走兵が出るのは当然だ。

     


    (7)「食糧配送網の破綻により、ここ数日、ロシア兵がウクライナ市民に食糧を乞い、今後はウクライナのため戦うと誓った話が報じられるようになった。英「エクスプレス」紙は、キエフ郊外の村に複数のロシア兵が現れ、「食べ物はありませんか」とねだったと報じている。同紙に対し、キエフの市民はこう証言している。「そしていえることは、彼ら(ロシア兵ら)は攻撃する気がない......悪意があるのは彼らの指揮官たちだ」「しかし個々の兵士たちは、助けてくれ、なにか食べるものをくれ、という状態だ」「だから、この侵略をはじめたウラジーミル・プーチンは厄介な事態に陥った。侵略をはじめたものの、彼の兵士たちは腹を空かせていて戦う気がないのだ」

     

    ウクライナ農民が、動かないロシア装甲車をトラクターで引っ張る光景がSNAに掲載された。ロシア兵が、ウクライナの農村で食べ物を懇願する姿も報じられている。「泥沼」にはまったロシア戦車が、乗り捨てられている光景も見られる。兵士が、必死に引っ張り出す努力をしないで放棄したのだ。

     

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