ロシアは、ウクライナ侵略で何らかの「勝利」を得たいとして、東部や南部で大規模な戦闘を仕掛ける公算が強まっている。ウクライナ側は、今週中にもと切迫感を表しているが、米英の軍事当局は、これまでの戦いで手痛い打撃を受けているので、短期間に装備と兵員を補充し攻撃体制を整えられるか疑問の声を上げている。
ロシア軍が、時間的な遅れはあるとしても、大規模攻撃を再開することは間違いなく、第二次世界大戦並の重火器の戦闘という事態を避けられないという。ウクライナ軍には、それに耐えられる武器弾薬があるのか、不安視する向きもある。NATO(北大西洋条約機構)軍は、その辺りの事情を十分に認識しているはずであろう。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月12日付)は、「ウクライナとロシア、最大の戦闘局面へ突入」と題する記事を掲載した。
ウクライナとロシアは先週末、互いに東部ウクライナへの兵力再配備を進め、今回の戦争で最大規模になるとみられる戦闘に備えている。ロシアの主要目的はここにきて、東部ドンバス地方でまだ制圧できていない地域を掌握することにシフトした。ロシア軍の作戦変更により、侵攻当初6週間の第1段階とは異なり、ウクライナは戦車や砲撃、航空機を駆使した通常の戦闘を余儀なくされる。平地での戦いは、ロシアの軍装備の優位性が発揮されやすい状況だ。
(1)「西側やウクライナの当局者によると、大規模な攻撃が始まるタイミングはロシア政府次第で、今ある兵力で即座に猛攻を加える可能性もあれば、ウクライナ北部で大きな痛手を負った部隊を再編成するために数週間待つこともあり得る。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアはウクライナを支配下に置く野望を断念していないとして、新たな戦闘に突入するにあたり、改めて早急な支援を提供するよう各国に訴えた」
ロシアの大規模な作戦再開は、部隊再編成が終りしだいと見られている。ウクライナ側は、これに備えて早急な武器弾薬の支援を要請している。
(2)「ウクライナ当局は週末、ドンバス地方を構成するドネツクとルガンスクのウクライナ支配地域、およびハリコフ地域2地区の住民に対して、できる限りの手段を講じて即刻退避するよう勧告。追加の鉄道やバスを手配した。ウクライナ北部から撤収したロシア軍の大隊戦術群(BTG)の多くは深刻な打撃を受けており、近くドンバスの前線に再配備することはできないだろう、とウクライナや西側の当局者は話している。米国防総省のある幹部は「一部の部隊はどうみても、実質的に全滅状態である形跡が見受けられる」と明かす。その上で、ロシアがその溝を埋めるため、予備役およそ6万人の配備を目指しているとの見方を示した」
下線部のように、キエフ付近に展開したロシア軍部隊の一部は、実質的に全滅状態という。こういう負け方が、残虐行為を働かせた要因になっているのかも知れない。厳しく糾弾されるべき事件である。
(3)「ドンバス地方に関しては、戦術を取り巻く環境はロシア軍に一段と優位な状況にある。補給線は短縮され、ロシア軍の作戦範囲が限られることで、空軍の支援を効果的に活用できるためだ。ウクライナや西側の当局者はこう分析している。ウクライナ政府は大砲や戦車、高射砲といった重火器が早急に必要だと訴えている。それは小規模部隊ではなく、大規模な編隊が対峙するという、従来とは異なる戦闘になるとみられることが最大の理由だ。ただ、西側諸国はこれまで、こうした重火器の供与には二の足を踏んでいる」
これからの戦線では、補給物資の運搬距離が短くなることで、ロシア軍に有利な面があるとされている。これは、港からの補給が進むという前提だ。ただ、英国から提供される対艦ミサイルシステムが、ロシア艦艇を脅かす存在になるので、定石通りに運ばれない面があろう。そうなれば、ロシア軍は再度の目算違いに直面するはずだ。
(4)「ウクライナは最初、兵士が使い慣れた旧ソ連製の重火器システムの提供を求めていた。しかし、こうした装備や銃弾の供給が限られることに加え、紛争が長引く見通しであることを踏まえ、NATOが通常使っている重火器を購入することを要請している。ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相が明らかにした。レズニコフ氏は演説で「これまで入手した旧ソ連製の兵器は、ウクライナ軍を短期的にしか増強できない」と主張。その上で「この戦争に勝つためには、これまで受け取った支援とは異なるものを必要としている」と訴えた」
第二次世界大戦並に、重火器による応戦が始まるとすれば、ロシア軍は傭兵や新兵を集めて戦線へ投入するという「ゲリラ戦」ごとき戦いは通用しなくなろう。ウクライナ軍が、これまでと同様に地の利を生かした戦い方をすれば、勝機を掴めるはずだ。情報収集戦では、ウクライナ軍が圧倒的に優位である。
(5)「西側諸国の首脳も支援を強化している。ボリス・ジョンソン英首相は9日、ウクライナを訪問し、首都キーウをゼレンスキー氏と共に視察。その場で新たな軍事支援を発表した。これには120の装甲車や対艦ミサイルシステムなどが含まれる。これまでのところ、ウクライナに戦車を提供したのはチェコ共和国のみで、旧ソ連製の「T72M」を供与した。スロバキアは米国から地対空ミサイル(SAM)「パトリオット」の配備を受ける代わりに、地対空ミサイル「S300」をウクライナに送っている」
西側諸国の兵器支援によって、ウクライナ軍が強化されなければ、ウクライナがこれまで受けた犠牲が無駄なものになる。まさに、「天王山」と言える局面になった。
(6)「ウクライナはロシアによる侵攻が始まる以前、ドンバス地方を構成するドネツクとルガンスクの約3分の2を掌握していた。残りはロシアが2014年にクリミア半島を併合してウクライナ東部に介入して以降、親ロ派武装勢力が支配しており、最近になって「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」として独立を宣言していた。ウクライナ当局者は、ロシアの狙いはドンバス地方にとどまらない見通しで、プーチン氏はドンバスでの戦いでウクライナの先鋭部隊を破壊し、首都キーウを含めウクライナ全土を掌握することを再び目指す、と予想している」
ウクライナ軍が、今回のロシア総攻撃に後退する事態となれば、首都キエフへロシア軍の再攻撃を許す局面になりかねないと警戒している。





