勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は6月19日、平壌で首脳会談を開いた。軍事や経済に関する「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との会談で新条約に署名し、「同盟関係という新たな水準」(金氏)に到達。ロ朝はそれぞれの思惑で蜜月ぶりを強調するが、両国と関係が深い中国には複雑な見方がある模様だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月20日付)は、「ロシア・北朝鮮接近「最大の敗者は中国」、元米高官」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記は19日、軍事や経済に関する「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した。ロ朝の急接近を受け、米国の専門家は「中国が最大の敗者になる可能性がある」と話す。

     

    ダニエル・ラッセル元米国務次官補「北朝鮮、中国無視で混乱の可能性」とみる。ラッセル氏は、オバマ政権で東アジア・太平洋担当の米国務次官補としてアジア重視戦略を担った。現在は米シンクタンクのアジア・ソサエティー政策研究所副所長。

     

    (1)「プーチン氏と金正恩氏の首脳会談でロシアが必要とする軍需品と北朝鮮が求めるエネルギーや肥料、技術を取引した。ロシアが防衛産業の能力を立て直し、平凡な品質の北朝鮮製の弾薬の必要性が低下するにつれ、両国関係は縮小していくだろう。だが、現時点では双方が戦略的利益を得ている。 北朝鮮が圧倒的に得をし、中国が最大の敗者になる可能性がある。ロ朝の相互防衛協定は、ロシアが実際に北朝鮮を防衛することを意味しないかもしれない。ただ、ロシアが中国の支援で構築している西側諸国の制裁への「対抗軸」を強化するのは間違いない」

     

    ロシアは当面、北朝鮮製の弾薬を利用できるエリットがある。だが、時間の経過とともにその必要性は薄れるので、ロ朝関係は縮小するとみている。ロシアの「作戦勝ち」と言える。

     

    (2)「北朝鮮にとって重要なのは、ロシアとの協力が中国への貴重な影響力を生み出す点だ。過去数十年にわたって中国に大きく依存しており、金正恩氏が減らしたいと切望する負担だった。ロ朝の接近は金正恩氏にとって想定外の利益で、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席には頭痛の種になる。中国が自ら影響力を行使できるとみなす地域にプーチン氏が割り込んできたいら立ちとは別に、中国にとって真の代償は北朝鮮が中国の利益を考慮せずに行動する余地が増すことだ」

     

    北朝鮮は、ロシアとの関係強化で物資の供給を受けられる。これまで、中国への経済的依存度が高かっただけにプラスになる。中国からみれば、駒が減ったことでマイナスになった。

     

    (3)「中国の影響力低下は、金正恩氏が中国の自制要求を無視できる事態を意味し、習氏が安定を望んでいる時に混乱を引き起こす可能性が高まる。米国とその同盟国への影響も大きい。弾薬などの補給でロシアは欧州に対する脅威を高め、北朝鮮の防衛技術強化や同国への制裁緩和で日米韓への脅威が一段と増す。プーチン氏と金正恩氏の策略は(国際社会での)ゲームチェンジャーにはならないかもしれないが、世界の国々にもたらされる挑戦を拡大する」

     

    中国の北朝鮮への影響力が低下することで、北朝鮮が中国のコントロールを外れるリスクが高まる。この点は、日米韓にとっては脅威である。

     

    米ハドソン研究所 パトリック・クローニン氏は「米国と同盟の協力より強固に」とみる。クローニン氏は、日米中などアジア太平洋の外交・安全保障が専門。米戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長や新米国安全保障研究所上級顧問などを歴任。現在は米ハドソン研究所のアジア太平洋安全保障部長。

     

    (4)「プーチン氏は、米国に対してウクライナの防衛力を支えるより、東アジアに軍事資源を集中させるよう望んでいる。今回のロシアと北朝鮮の「包括的戦略パートナーシップ条約」はかねて懸念されていた防衛協力に大きな変化はない。相互防衛は誇張されているが、ロシアと北朝鮮は世界秩序と米国の指導力を混乱させ続けるだろう。彼らの行動は米国と同盟国の間の協力をさらに強めることになる。ロシアが朝鮮半島の安定を脅かすような技術移転に動けば、中国はバランスを正すために介入するだろう」

     

    ロ朝が、「包括的戦略パートナーシップ条約」と仰々しい名前の条約を締結したが、ロシアの防衛協力はこれまでと実質的な変化は起こるまい。もし起これば、中国が介入してくる。ロシアの狙いは、米国の軍事資源を東アジアに向けさせ、欧州を手薄にすることだ。これは、中国にとって不都合なだけに、逆にロシアを牽制するであろう。中ロの関係は、各論になると食い違いが起こる。これが、中ロ関係の弱点である。

     

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    習近平氏は、きっと肝を冷やしたに違いない。盟友プーチン氏へ反旗を翻す騒ぎが起るとは夢にも思わなかったであろう。この伝で言えば、中国の反習近平派の共青団(中国共産主義青年団)や上海閥(江沢民派)が将来、混乱に乗じて習氏追放へ動き出してもおかしくない。権威主義政治では、こういう「一揆」がいつでも起こりうることを示したのだ。 

    もう一つの驚きは、習氏が米国を初めとする西側諸国への対抗パートナーとして選んだロシアが、たった1日とは言え、反乱騒ぎが起るほどの矛盾を抱えていたことだ。こういう脆弱なパートナーでは、とても巨大な西側諸国と対抗することは不可能である。「弱い」相手をパートナーにしたことへの失望感を味わったであろう。今時、権威主義など時代逆行思想が民主主義へ対抗することの無益を悟るべきであろう。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月29日付)は、「ワグネル蜂起、中国外交も揺さぶる」と題する記事を掲載した。 

    民間軍事組織によるロシア政府への束の間の反乱と、その際に浮き彫りになった同政府のぜい弱性は、中国にとって米国主導の世界秩序に挑む上で主要なパートナーであるロシアとの関係に新たなリスクを投げかけている。

     

    (1)「中国は3年に及んだゼロコロナ政策を今年初めに撤廃すると、世界の外交舞台で前面に立ち、世界第2位の経済大国としての地位にふさわしい、より大胆な振る舞いで自国の主張を押し出している。さらに、米国の覇権に対抗する国際秩序という習近平国家主席の構想を掲げ、これに沿った新たな発展と安全保障の取り組みを推進している。その過程で中国は、米国主導の民主主義陣営による圧力緩和を狙い、ロシアとの連携を強めた。両国は歴史的には緊張関係にあったが、習氏とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、米国と同盟国が両国を抑え込もうとしているとの共通認識のもと、より緊密な関係を築いてきた」 

    習氏は、プーチン氏と同年齢(プーチン氏の誕生日が半年早い)であり、互いに終身ポストを狙っているという共通項もあって友情を深めた。ただ、打算の趣が強く、ロシアの実態を精査しなかったのであろう。習氏の個人的な利害関係が、国益を左右したケースである。 

    (2)「民間軍事会社ワグネル・グループの武装蜂起は失敗に終わったものの、この混乱で国内ではプーチン氏への圧力が強まり、ウクライナで戦闘を続けられるかが改めて疑問視されている。そのため、習氏のプーチン氏との友好関係は一段と不都合なものと映り、緊密に連携する強大な隣国同士というイメージが傷ついた。ウクライナ侵攻が起きてもなおロシアとの関係を優先するあまり、中国は米欧や多くの主要国との関係を損なってきた」 

    習氏は、政敵をことごとく獄窓へつないできたので「終身ポスト」でない限り、身の安全を保てないというジレンマを抱えている。それが、プーチン氏を理由の如何にかかわらず支持しなければならない理由だ。この結果、中国の国益は大きく損なわれている。

     

    (3)「元米中央情報局(CIA)職員のジョン・K・カルバー氏は、「習氏と中国にとって、ロシア内部の混乱や、西側が支援するウクライナの反転攻勢を受けたつまずき、制裁などは、孤立が深まるリスクを高めることになる」と、上級客員研究員を務める米シンクタンクのアトランティック・カウンシルへの寄稿でこう指摘した。中国にとって「現実的な選択肢は、米国や欧州との緊張を緩和することだろうが、習氏は前任者たちよりイデオロギー的であることがはっきりしてきた」という」 

    習氏は、中国の国益を大きく損ねている。西側諸国との対立は、習氏の自己保身に関わっている部分が大きいからだ。習氏が、国家主席3期目を目指したことから、歴史の歯車は逆回転を始めている。 

    (4)「中国が、プーチン氏に背を向ける気配はない。世界情勢における米国の影響力低下を狙う中国は、自国やロシアなどパートナー国の発言力を高める、多極体制と呼ぶ枠組みを推進している。米中の当局者は、対立を望まないとしている。それでも、中国が国際情勢でより積極的な役割を担うようになり、また米国が最先端技術への中国のアクセスを制限するよう同盟国に働きかけていることで、摩擦や衝突の可能性は高まっている。米政府高官はとりわけ、中国が台湾を巡り軍事行動に出る可能性を危惧する。中国当局は、ロシアがウクライナで苦戦していることについて、台湾を支配下に置くという決意には影響しないとしている。中国は長年、平和的統一が第一の選択肢だと主張してきた」 

    習氏は、ロシアの国力を完全に見誤っている。現在のロシアは、中堅国の一つに過ぎないのだ。原油だけで工業技術を持たない国で、「脱炭素」が軌道に乗れば、最初に消える国である。さらに、ウクライナ侵攻で膨大な損害を与えている。この賠償金額だけでも、ロシアは大変な負担を負う。

     

    (5)「中国はロシアへの揺るぎない支持を示しているものの、今回のロシアの混乱が習氏や指導部に大きな懸念をもたらしたことはほぼ間違いない。中国はウクライナ戦争で中立に努め、ロシアが侵略者とみなされない形での和平を呼びかけてきた。蜂起に失敗したワグネルが主力から退くことで、ウクライナの反抗に伴う今後の戦局はますます見通しにくくなっている。中国のシンクタンク、全球化智庫(CCG)の副主任、高志凱(ビクター・ガオ)氏は「今回のワグネルの動きは、中国を含む多くの国にとって全く予想外だった」と語る。高氏は、ロシア国内が不安定化することでウクライナ戦争がエスカレートする可能性が高まり、ロシアが本気で核兵器の配備を検討しかねないとみている。ロシアで内紛が起きたことで、すぐにも和平交渉を始める必要があると指摘した 

    下線部は重要な指摘であるが、ロシアの撤退が前提になる話だ。それには、ロシアに「革命」が起らなければなるまい。和平交渉は、それほど難しい問題だ。

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    ウクライナ侵攻の矛盾数々

    ロシア経済に大きな衝撃波

    脆弱であったプーチン政権

    デリスキングに揺らぐ中国

     

    ロシアの傭兵部隊ワグネルが、6月24日に反乱行動へ出て世界を驚かせた。ワグネル代表のプリゴジン氏は、この行動が軍事クーデタでなく「正義の行進」と称した。目的は、ロシア国防省の稚拙な軍事作戦に対する責任追及であると主張したのである。ロシア政府は、すぐに取り締る方針を決めたので、ワグネルは25日には正義の行進を取り止めると発表、「一日だけの反乱」に終わった。めまぐるしい動きであった。

     

    6月24日は、ロシアがウクライナ侵攻を始めた2022年2月24日から、ちょうど16ヶ月目に当たる。ロシア軍は、開戦「三日で戦争終了」という当初目論見と異なって、戦線は膠着して防衛に回るという想定外の事態へ追込まれている。ロシア側に不満がたまるのは当然であろう。ワグネルは、それを掬い上げて反乱行動へ出たものと推測される。

     

    この問題は、間違いなくロシアの弱体化を物語っている。一方、蜜月関係にある中国へ与える影響が極めて大きいことを特筆しなければならない。中国は、ロシアと連携して米国へ対抗する戦術を練ってきた。だが、ロシアは「ワグネル反乱」で弱体化が表面化し、中国は狼狽しているはずだ。ロシアを信じて、米国とその同盟国へ対抗することが、余りにもリスキーであることを認識させられたであろう。「金」と思っていたロシアが、実は「銅」以下の存在であったのだ。習氏の眼力に、大きな狂いがあったことは間違いない。

     

    ウクライナ侵攻の矛盾数々

    ロシア経済は、今回のウクライナ侵攻とこれに伴う西側諸国による経済制裁、さらにはロシアの最大の輸出品である石油需要が、脱二酸化炭素で先細り状態にある。まもなく、ロシアは経済的に行き詰まる運命だ。プーチン氏は、こういう切迫した事態の進行を正確に認識しないままに当てのない戦争を続けている。悲喜劇を演じているのだ。

     

    プーチン氏は、ウクライナ侵攻を長引かせて行けば、いずれ西側諸国のウクライナ支援が息切れして和平へ持ち込めると踏んでいる。これが、一般的な予測である。だが、西側はウクライナ支援疲れを口に出せない「次なる問題」を抱えている。中国の台湾侵攻である。ウクライナが、ロシアの思惑通りの決着になれば、中国が必ず台湾へ侵攻するであろう。これは、中ロ枢軸に勝利をもたらす意味で、民主主義の危機になる。こういう経緯が予想されるだけに、西側はロシアの勝利を絶対に阻止しなければならない理由を抱えている。

     

    前述のように、ロシアは長期戦でのウクライナ侵攻を決意しているとしても、現実はそれを許さない事態になっている。今回の「ワグネル反乱」は、その一つのシグナルである。ロシアがすでに経済的な行き詰まりによって、最前線へ十分な武器弾薬を供給できない事態にあるからだ。ワグネルに反乱を引き起こさせた理由の一つと見るべきであろう。

     

    現実に、ロシア経済は経済制裁の影響を強く受けている。すでに、それが国際収支面へ現れている。今年1~5月の経常黒字は、前年同期比81.6%減と急減して228億ドルである。石油・ガス収入は、前年同期比49.6%減になった。ウラル原油の価格低下と天然ガスの輸出量の減少が響いたものだ。この調子で行けば、7~8月には経常収支は赤字転落の事態になろう。

     

    これを反映して、ルーブル相場は主要国通貨の中で最大の値下がりである。対ドル相場は現在、1ドル=84~85ルーブル台へ下落している。1年3カ月ぶりのルーブル安水準である。年初来の下落率は、12%と主要25通貨の中で最大だ。このように、下落基調を強めているのは、ロシア経済が混沌としていることを反映している。

     

    ロシアは昨年、若者が兵役忌避で国外移住したことと徴兵によって人手不足に陥っている。開戦1ヶ月間で30万人の若者が出国している。昨年の年初来では、数百万人が出国しているが、多くはIT関連の技術者とされる。手に職があるので、出国しても暮らしに困ることはない。出国者の86%が44歳以下の若者だ。

     

    こうして、ロシアの労働力不足は、1991年のソ連崩壊後で最大規模とされている。その上、約30万人が兵役で動員されている。この結果、ロシア企業ではプログラマーやエンジニアから溶接工、石油採掘業者に至るまで、あらゆる職業で人材が不足している。経済活性化やウクライナ戦争支援に必要な人材が、揃わないという皮肉な事態に陥っているのだ。

     

    ロシアが、ワグネルなど国際法違反の傭兵に依存して戦争しているのは、兵士になる若者が不足している結果でもある。人口動態からみて、これ以上の徴兵は生産活動へ致命的は影響を与えるので不可能な状態だ。人的資源から見て、継戦能力には限界が出ている。

     

    ロシア経済に大きな衝撃波

    ロシアにとって今後、経済上の大きなネックになるのは原油需要が鈍化することだ。需要が鈍化すれば、価格も上がらないという意味で、原油需要の鈍化がロシア財政に大きく響くことは避けられなくなっている。ロシアの原油生産は、世界生産の約1割のシェアだ。

    (つづく)

     

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    ウクライナ侵攻によるロシア側の死者が、昨年12月以降で2万人を超えているとの見方を、米国政府が5月1日に示した。うち半数は、民間の雇い兵組織「ワグネル」の所属だとした。プーチン・ロシア大統領が、3月一杯に占領せよという命令に従った結果と見られる。

     

    英『BBC』(5月2日付)は、「ロシア戦死者、昨年12月以降で2万人超す 米政府が推定」と題する記事を掲載した。

     

    米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官が、新たに機密解除された情報をもとに記者団に説明した。カービー氏は、「私たちの推定では、ロシアは10万人以上の死傷者を出した。そのうち戦死者は2万人超とみられる」と述べた。これらの人数について、BBCは独自に検証できていない。ロシアはコメントを出していない。

     

    (1)「ロシアは東部の都市バフムトの占拠を狙い、昨年からウクライナと消耗戦を続けている。双方にとって、同市は象徴的な意味が大きい。現在、住民は数千人が残るだけになっている。ウクライナ当局はこれまでに、バフムトの戦いで可能な限り多くのロシア兵を排除し、ロシアの予備兵力を削ぐ考えを示している。ただ、ウクライナが現時点で掌握しているのは、同市のわずかな地域に限られている。カービー氏はこの日、「ロシアが主にバフムトを通してドンバス地方で仕掛けた攻勢は失敗した」と説明。「ロシアは真に戦略的重要性のある領土を奪えていない」との見方を示した。また、「ロシアの攻勢は裏目に出た。何カ月も戦闘を続け、多大な損失を被った」と述べた」

     

    下線部で、米国政府はロシアがバフムト攻略戦で多大の犠牲を出して失敗したとの判断を下した。昨年12月以来で2万人もの犠牲が出ているという。痛ましい犠牲である。

     

    (2)「ロシアがバフムトを占領すれば、東部ドネツク州全域の支配という目標にわずかに近づく。同州は昨年9月、東部と南部の3州とともにロシアに併合された。アナリストらは、バフムトに戦略的な価値はほとんどないとしている。ただ、めぼしい戦果を報告できていないロシア軍司令官らにとっては、重要な場所になっているという」

     

    バフムト攻略は、軍事目的でなく政治目的とされている。攻略に成功すれば、プーチン氏の面目が立つという意味である。

     

    (3)「同市におけるロシアの攻撃は、ワグネルが中心となっている。ワグネルのトップのエフゲニー・プリゴジン氏にとっては、バフムト制圧の可否に、自らとワグネルの評価がかかっている。だが、プリゴジン氏は最近、バフムトから部隊を撤退させるとちらつかせている。ロシアの有名戦争ブロガーとのインタビューでは、ロシア国防省から必要な弾薬が提供されなければ戦闘員らを引き揚げると述べた。そして、戦闘員らは西アフリカのマリに送ることになるかもしれないとした」

     

    民間軍事会社ワグネルは、バフムト攻略が成功すればそれによって、ロシア国内の政治的地位が上がるのだ。軍事的な目的からは、とうに外れている。これが、多大の犠牲者を生んでいる背景であろう。

     

    (4)「プリゴジン氏は、ワグネル戦闘員らがロシア国防省から十分な支援を受けていないとし、同省としばしば衝突している。同氏はまた、ロシアのメディアと軍指導者たちに対し、ウクライナの春の反攻を前に「すべて大丈夫だと言って、ロシア国民にうそをつくのをやめる」よう求めている。さらに、ウクライナ軍について、「見事で正しい軍事作戦」と、その指揮をたたえている

     

    プリゴジン氏は、ウクライナ軍の作戦を「正しい」と褒めている。これは、言外にロシア軍の作戦を非難しているのであろう。

     

    (5)「ウクライナ地上部隊のオレクサンドル・シルスキー司令官は5月1日、バフムトでの反撃によって、ロシア部隊をいくつかの拠点から撤退させたと、テレグラムに投稿した。だが、状況は依然として「困難」だと述べた。同司令官はまた、空挺部隊やワグネル戦闘員などの新たなロシア部隊が、大きな損失を被りながら「絶えず戦闘に投入されている」と説明。「だが、敵が街(バフムト)を支配することは不可能だ」 とした」

     

    ロシア軍の空挺部隊は、最新鋭部隊のはずである。その空挺部隊が、バフムト攻略の消耗戦に投入されているのは、ウクライナでの作戦でロシア正規軍が、いかに疲弊しているかを物語っていると指摘されている。第331連隊がまさにその好例とされる。

     

    第331連隊には1500~1700人ほどの兵士が所属したとみられる。昨年2月に最初にウクライナに侵攻した際、同連隊は2大隊、合わせて1000~1200人を送り込んだ。首都キーウへの侵攻が失敗し、多大な犠牲が出た後に同連隊は撤退。現在、バフムト前線にいるのは300~400人以下の可能性があるという。『BBC」(4月6日付)が報じた。最新鋭空挺部隊が現在、消耗戦に駆り出されているのだ。


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    ドイツが4月15日、国内最後の原子力発電所3基が稼働を終える。当初は2022年末の停止を目指していたが、ウクライナ危機に伴うエネルギー不安からショルツ政権は3カ月半の運転延長を認めた。これも期限切れを迎え、電力事業者は原発を電力網から切り離し、名実ともに「脱原発」へ踏み切る。 

    ロシアのウクライナ侵攻によって、ドイツのエネルギー政策は根本からひっくり返された。ロシアへの原油・天然ガス依存体制が不可能になったからだ。このため、一時的に脱原発政策を緩め原発を操業させたが、これも4月15日をもって終了した。原発による電力はゼロになる。 

    ドイツが、エネルギー危機の中で安定した電力源の原発依存をあえて断ち切った理由は、ロシアへのエネルギー依存はあり得ないという強烈なメッセージである。原発の運転には、ロシアからウランを輸入するほかない。これでは、ウクライナへ侵攻したロシアを助けることになる。こういう矛盾を避けて、侵略戦争へ対抗するドイツの意思を示したものだ。同時に、中国による台湾侵攻への厳しい姿勢にも現れている。

     

    ドイツ外相ベーアボック氏は4月14日、中国訪問中に「紛争は平和的に解決されなければならない」と述べ、台湾海峡の緊張を重大な懸念を持って注視していると警告した。中国によるいかなる台湾支配の試みも容認できず、欧州に深刻な影響を及ぼすと表明したのだ。「一方的で暴力的な現状変更は、われわれ欧州人にとって容認できない」と語った。中国外相との共同記者会見の席での発言だ。ドイツの気迫が伝わる。フランスのマクロン大統領発言とは、大きな違いを見せつけた。欧州の盟主は、ドイツという自負心であろう。 

    『日本経済新聞 電子版』(4月15日付)は、「脱原発を完遂、ドイツの意地と政治計算」と題する記事を掲載した。 

    ドイツで15日、すべての原発が稼働をやめる。エネルギー不足が懸念される逆風下で、あえて脱原発を完遂する。背景にあるのは欧州の盟主としての意地と、ロシアに屈しないという政治メッセージだ。エネルギー政策の枠を超え、社会運動という意味合いがあった脱原発の成否は欧州の行方を左右する。

     

    (1)「冷戦期からロシア産エネルギーに頼ってきたドイツ。ロシアのウクライナ侵略で脱ロシアを迫られ、少しでもエネルギーを確保したいはずなのに、なぜ脱原発なのか。代替エネルギーの調達が順調に進んだことや、放射性廃棄物の扱いが問題になったことだけが理由ではない。さまざまな政治計算が底流にある」 

    ドイツとロシアは、帝政時代まで遡ると深い関係だ。ロシア帝政時代、ドイツ人がロシア官僚として働いた経緯がある。それだけに、地政学的にドイツとロシアが組んだら世界を制覇するという分析もあったほどだ。こういう関係のドイツが、敢然としてロシアへ対抗する。強い決意であろう。 

    (2)「まずは外交・安保の観点。脱原発に踏み切らなければどうなるか。「エネルギー不安がある」とみなされる。欧州の盟主としてロシアに弱みは見せられない。燃料の調達も課題になる。開戦前、欧州はウランの4割をロシアおよびロシアに近いカザフスタンから輸入していた。「いまドイツがロシアからウランを買ったらどうなるか想像してみてください」。取材に応じたドイツ政府高官は、そう問いかけてきた。政権のイメージは地に落ちる。ウクライナに重火器を送り、ロシアに融和的という印象が薄れつつあるのに、すべてが台無しになる。逆に自らを律する形で脱ロシア・脱原発の二兎(にと)を追えば欧州連合(EU)諸国への無言の圧力になる。域内の駆け引きでドイツが有利になるとの思惑が透ける」 

    下線部は、重要な意味がある。過去2回、世界戦争を始めたドイツには、民主主義・人道主義の国家として侵略戦争に立ち向かって、信頼を得たいという固い信念がある。ドイツは当初、ロシアのウクライナ侵攻で「日和」った印象を与えたが、今や「歴史の転換期」という認識に変わっている。

     

    (3)「政権のレガシー(遺産)にもなる。連立与党のうち、中道左派・ドイツ社会民主党と環境政党・緑の党には、平和・環境運動にかかわってきたリベラル系議員が多い。足元でドイツは軍拡に転じ、軍縮は遠のいた。脱原発ぐらい実現しないと支持層に見放されかねない。もともと脱原発は両党が与党だったシュレーダー政権(1998〜2005年)が決めた。ほぼ20年越しの悲願達成といえる」 

    ドイツの政権・与党では、平和・環境運動にかかわってきたリベラル系議員が多い。脱原発と平和は、二枚看板である。中国に対しても厳しい姿勢である。 


    (4)「将来への不安は残る。工業力は保てるのか。ドイツが沈めば欧州景気のけん引役はいなくなる。だからこそ背水の陣で再生エネ普及に取り組むしかない。域内のエネルギーの相互供給を進め、統合をさらに深めるのも手だろう。「揺らがぬ経済大国」を示すしかない。ドグマ的であっても理想を掲げ、実現を目指すのがドイツ流。通貨ユーロも数十年の準備の末、結実させた。 欧州統合がそうであったように、脱原発も失敗は許されない壮大な実験である」 

    ドイツは第二次世界大戦後、2度の世界大戦を引き起こした「十字架」を背負っている。それだけに強い理想主義が支えだ。西ドイツ時代の1948年に行った通貨改革は、猛威を振るうインフレを封じ込めるための劇薬であったが成功させた。その点で、日本は失敗し、米国の招聘したドッジ氏による「緊縮財政」(ドッジ・ライン:1949年)で対処するほかなかった。ドイツ政策の裏に、理想主義が潜んでいることは疑いない。

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