ロシアのウクライナ侵攻が始まって、8月24日で半年が過ぎた。プーチン・ロシア大統領は、東欧諸国でロシアの歴史的な影響力を復活させ、冷戦後の歴史を塗り替えようとする試みが失敗したのだ。また、欧州諸国はほぼ「反プーチン」で結束した。北大西洋条約機構(NATO)は息を吹き返し、スウェーデンとフィンランドが新たに加盟する。プーチン氏にとってほぼすべてが裏目に出る展開である。
だが、ウクライナで戦闘は続く。ロシア軍の劣勢が明らかになった。ウクライナ東部は失速状態。南部は、弱点を補強中である。ウクライナ軍は、首都キーウを死守した際の戦略を踏襲する戦略だ。具体的には、ゲリラ戦術などを駆使し、前線から離れた後方の補給ラインを狙い、ロシア軍の戦闘能力を弱め、撤退を迫る作戦である。持久戦の様相を呈している。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月25日付)は、「ウクライナ侵攻から半年、ロシアの苦戦鮮明に」と題する記事を掲載した。
ロシアがウクライナに侵攻してから半年が経過した。軍事、経済の両面で戦況は緩やかながらも、ウクライナと後ろ盾である西側諸国に優位に傾く兆しが強まっている。だが、死と破壊の連鎖が終わる兆候はなお見えない。ウクライナはロシアの圧倒的な軍事力を前になお厳しい戦いを余儀なくされているが、西側からさらに武器が到着するのに伴い、ロシアの補給ラインや基地を確実に攻撃できるようになってきた。
(1)「米国防研究組織CNAのロシア研究プログラム責任者、マイケル・コフマン氏は「ロシア軍は勢いの大半を失っており、ウクライナによる南部での反撃に備えて部隊の多くを再配置している」と指摘する。「戦況の膠着が自然な成り行きだとは思わない」と話すコフマン氏。「冬が訪れる前に、少なくもあと一回は新たな展開が訪れる」。その取り組みがどんな結果をもたらすのかは見通せないが、紛争の行方は、ウクライナが何を実現できるかにかかっていると言えそうだ」
戦線は、膠着状態になっている。この状態を動かすのは、ウクライナ軍がどのような戦い方をするかにかかっているという。戦闘の主導権は、ウクライナ軍が握った形である。
(2)「2月24日の侵攻開始以降、ロシア、ウクライナ双方で数万人の兵士が死傷したとみられている。ロシアは兵士や軍装備の補充でウクライナよりも苦戦しており、外国の雇い兵や代理勢力、旧型戦車を投入せざるを得ない状況に追い込まれている。さらに、ロシア経済は西側諸国よりも深刻なリセッション(景気後退)に直面している。それでも、戦争がいつまで続くのかという問いと同様に、その結末も読みにくい。ロシアは依然、はるかに多くの重火器を保有している。平地での進軍が困難なため、ウクライナが領土を奪還することも難しくなる。西側諸国がロシアと直接戦火を交える事態を招きかねないほどの支援を行わない限り、ウクライナが軍事的に勝利を収めることはできない――。西側の政策担当者の間では、こうした懐疑的な見方が依然として根強い」
劣勢になっている形のロシア軍は、依然として多くの重火器を保有している。平野部での戦闘だけに、ウクライナ軍がロシア軍を大きく押し返すには力不足である。こういう見方が、西側専門家に多いという。
(3)「夏が終わりに近づく中、ウクライナ軍はロシアの前線から遠く離れた後方拠点にも攻撃を加えることができるようになってきた。ウクライナ東部ドンバス地方における、ロシアの攻撃は失速しつつある。またロシアは、ウクライナ南部のぜい弱な拠点を補強するため、兵士の配置転換を余儀なくされている。それでも、ロシアから領土の大部分を奪還することは、ウクライナ軍にとって今も至難の業だ。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問はインタビューで、南部での反撃について、正面から猛攻撃を仕掛けることはしないと述べた。むしろ、首都キーウを死守した際の戦略を踏襲するという。具体的には、ゲリラ戦術などを駆使して前線から離れた後方の補給ラインを狙い、ロシア軍の戦闘能力を弱め、撤退を迫る作戦だ」
ウクライナ軍は、南部での反撃について猛攻撃を仕掛けるのでなく、首都キーウを防衛したようにゲリラ戦術などを駆使して、ロシア軍の兵站線を遮断し戦闘部隊の撤退へ追込むという。
(4)「ポドリャク氏は、「ロシア軍は弾薬、燃料、前線に近い現場司令部を必要としている。われわれが燃料や弾薬を破壊し、司令部がなくなることで混乱が生じる。そのため、すでに士気低下が広がっている。そこに攻撃を仕掛け、切り込むのだ」と説明する。「キーウ防衛で機能した。今回の反撃でもうまく行くだろう」ポドリャク氏はその上で、ロシアの電子戦防御を突き破るため、追加のハイマースと攻撃ドローンが必要だと訴えた」
ウクライナ軍は、NATOから柔軟な戦い方を習得している。これは、ロシア軍にはない戦術である。重火器で「ドカン」「ドカン」と攻撃する第二次世界大戦型のロシア軍を打倒するには、ゲリラ戦が有効という判断である。
(5)「現在の戦闘局面において、ロシア、ウクライナのいずれも相手に対して大きく優位に立ってはいないものの、ウクライナが前線から遠く離れたロシア軍のインフラに攻め入っていることは、いかに主導権がシフトしたかを如実に物語っている。米国防当局者はこう現状を分析している。ある米国防総省の高官は19日、ロシア軍がドンバス地方での戦いで優勢に立っていた2カ月前と比べて、戦争が異なる局面に入ったとの認識を示した。「ロシア軍が戦場で全く前進していないと言える状況だ」という」
下線部のように、ウクライナ軍が前線から遠く離れたロシア軍の兵站を攻撃できることは、戦線の主導権がウクライナへ移っていることを示している。ロシア敗北の第一歩が始まっている。