勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    ロシアのウクライナ侵攻が始まって、8月24日で半年が過ぎた。プーチン・ロシア大統領は、東欧諸国でロシアの歴史的な影響力を復活させ、冷戦後の歴史を塗り替えようとする試みが失敗したのだ。また、欧州諸国はほぼ「反プーチン」で結束した。北大西洋条約機構(NATO)は息を吹き返し、スウェーデンとフィンランドが新たに加盟する。プーチン氏にとってほぼすべてが裏目に出る展開である。

     

    だが、ウクライナで戦闘は続く。ロシア軍の劣勢が明らかになった。ウクライナ東部は失速状態。南部は、弱点を補強中である。ウクライナ軍は、首都キーウを死守した際の戦略を踏襲する戦略だ。具体的には、ゲリラ戦術などを駆使し、前線から離れた後方の補給ラインを狙い、ロシア軍の戦闘能力を弱め、撤退を迫る作戦である。持久戦の様相を呈している。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月25日付)は、「ウクライナ侵攻から半年、ロシアの苦戦鮮明に」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻してから半年が経過した。軍事、経済の両面で戦況は緩やかながらも、ウクライナと後ろ盾である西側諸国に優位に傾く兆しが強まっている。だが、死と破壊の連鎖が終わる兆候はなお見えない。ウクライナはロシアの圧倒的な軍事力を前になお厳しい戦いを余儀なくされているが、西側からさらに武器が到着するのに伴い、ロシアの補給ラインや基地を確実に攻撃できるようになってきた。

     

    (1)「米国防研究組織CNAのロシア研究プログラム責任者、マイケル・コフマン氏は「ロシア軍は勢いの大半を失っており、ウクライナによる南部での反撃に備えて部隊の多くを再配置している」と指摘する。「戦況の膠着が自然な成り行きだとは思わない」と話すコフマン氏。「冬が訪れる前に、少なくもあと一回は新たな展開が訪れる」。その取り組みがどんな結果をもたらすのかは見通せないが、紛争の行方は、ウクライナが何を実現できるかにかかっていると言えそうだ」

     

    戦線は、膠着状態になっている。この状態を動かすのは、ウクライナ軍がどのような戦い方をするかにかかっているという。戦闘の主導権は、ウクライナ軍が握った形である。

     


    (2)「2月24日の侵攻開始以降、ロシア、ウクライナ双方で数万人の兵士が死傷したとみられている。ロシアは兵士や軍装備の補充でウクライナよりも苦戦しており、外国の雇い兵や代理勢力、旧型戦車を投入せざるを得ない状況に追い込まれている。さらに、ロシア経済は西側諸国よりも深刻なリセッション(景気後退)に直面している。それでも、戦争がいつまで続くのかという問いと同様に、その結末も読みにくい。ロシアは依然、はるかに多くの重火器を保有している。平地での進軍が困難なため、ウクライナが領土を奪還することも難しくなる。西側諸国がロシアと直接戦火を交える事態を招きかねないほどの支援を行わない限り、ウクライナが軍事的に勝利を収めることはできない――。西側の政策担当者の間では、こうした懐疑的な見方が依然として根強い」

     

    劣勢になっている形のロシア軍は、依然として多くの重火器を保有している。平野部での戦闘だけに、ウクライナ軍がロシア軍を大きく押し返すには力不足である。こういう見方が、西側専門家に多いという。

     




    (3)「夏が終わりに近づく中、ウクライナ軍はロシアの前線から遠く離れた後方拠点にも攻撃を加えることができるようになってきた。ウクライナ東部ドンバス地方における、ロシアの攻撃は失速しつつある。またロシアは、ウクライナ南部のぜい弱な拠点を補強するため、兵士の配置転換を余儀なくされている。それでも、ロシアから領土の大部分を奪還することは、ウクライナ軍にとって今も至難の業だ。ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問はインタビューで、南部での反撃について、正面から猛攻撃を仕掛けることはしないと述べた。むしろ、首都キーウを死守した際の戦略を踏襲するという。具体的には、ゲリラ戦術などを駆使して前線から離れた後方の補給ラインを狙い、ロシア軍の戦闘能力を弱め、撤退を迫る作戦だ」

     

    ウクライナ軍は、南部での反撃について猛攻撃を仕掛けるのでなく、首都キーウを防衛したようにゲリラ戦術などを駆使して、ロシア軍の兵站線を遮断し戦闘部隊の撤退へ追込むという。

     


    (4)「ポドリャク氏は、「ロシア軍は弾薬、燃料、前線に近い現場司令部を必要としている。われわれが燃料や弾薬を破壊し、司令部がなくなることで混乱が生じる。そのため、すでに士気低下が広がっている。そこに攻撃を仕掛け、切り込むのだ」と説明する。「キーウ防衛で機能した。今回の反撃でもうまく行くだろう」ポドリャク氏はその上で、ロシアの電子戦防御を突き破るため、追加のハイマースと攻撃ドローンが必要だと訴えた」

     

    ウクライナ軍は、NATOから柔軟な戦い方を習得している。これは、ロシア軍にはない戦術である。重火器で「ドカン」「ドカン」と攻撃する第二次世界大戦型のロシア軍を打倒するには、ゲリラ戦が有効という判断である。

     




    (5)「現在の戦闘局面において、ロシア、ウクライナのいずれも相手に対して大きく優位に立ってはいないものの、ウクライナが前線から遠く離れたロシア軍のインフラに攻め入っていることは、いかに主導権がシフトしたかを如実に物語っている。米国防当局者はこう現状を分析している。ある米国防総省の高官は19日、ロシア軍がドンバス地方での戦いで優勢に立っていた2カ月前と比べて、戦争が異なる局面に入ったとの認識を示した。「ロシア軍が戦場で全く前進していないと言える状況だ」という」

     

    下線部のように、ウクライナ軍が前線から遠く離れたロシア軍の兵站を攻撃できることは、戦線の主導権がウクライナへ移っていることを示している。ロシア敗北の第一歩が始まっている。

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    ロシアのウクライナ侵攻は、大きな岐路を迎えている。ロシアが、2014年に編入したウクライナ南部クリミア半島のサキ軍用飛行場で9日に大爆発が起こった。これにより、ロシア黒海艦隊の海軍航空戦闘機は、半数以上が使用不能になったと、西側当局者が19日に述べた。当局者によると、黒海艦隊はもはや「沿岸防衛艦隊」以上の機能を果たせず、南部オデーサ(オデッサ)への陸海空軍共同の攻撃が難航しているという。さらに、全体的に戦争は「作戦停止に近い状態」とした。『ロイター』(8月20日付)が報じた。

     

    人工衛星写真によれば、ロシア軍はクリミア半島のサキ軍用飛行場大爆発に伴い12日、クリミア半島を離脱する大量の車列が確認されている。さらなる被害を避けてロシア本土へ脱出する様子が認められるのだ。英国『BBC』(8月20日付)が報じた。

     

    英国『BBC』(8月20日付)は、「ウクライナ軍がクリミア半島で反撃、ロシアに『心理的』影響ー西側当局者」と題する記事を掲載した。

     

    強力な艦隊として長い歴史を持つ黒海艦隊だが、2月のウクライナへの侵攻開始以来、相次ぐ屈辱のため、防戦態勢を余儀なくされていると、西側の当局者は話す。ウクライナ軍は4月、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を沈没させた。乗員510人のミサイル巡洋艦は、侵攻において海側からの攻撃を担っていたが、その沈没は象徴的にも軍事的にも大きな打撃となった。

     

    (1)「ロシア国防省は当時、モスクワに積載していた弾薬が、原因不明の火災で爆発したと説明。港までけん引されている途中に転覆したと述べていた。さらに6月には、2月の侵攻開始日に占領した黒海のズミイヌイ(英語名スネーク)島がウクライナ軍に集中爆撃され、艦隊は撤退を余儀なくされている。そしてここ数週間、ロシアが2014年に併合したクリミア半島で黒海艦隊が拠点としてきたクリミア西岸セヴァストポリの周辺が、ウクライナ軍の攻撃にさらされている」

     


    ウクライナからクリミア西岸セヴァストポリまで、約200キロの距離がある。ウクライナには、これだけの長距離砲を持っていないことから、ウクライナ特殊部隊が活動していると見られる。ロシアにとって、もはやクリミア半島が「安全地帯」でなくなったのだ。

     

    (2)「セヴァストポリの北にあるサキ空軍基地への爆撃では、少なくとも戦闘機8機が破壊された。ウクライナ侵攻開始後もクリミア半島に戦火は及んでいなかったものの、サキ基地へのこの攻撃後には、多くの観光客がクリミア半島から逃れる様子が確認された。BBCが入手した写真では、半島からロシアへ続く道路が大渋滞となっている様子がうかがえる」

     

    火災を起したセヴァストポリの北にあるサキ空軍基地では、少なくも8機の戦闘機が破壊されたという。サキ空軍基地の防衛力が低下したことから、ロシア軍の車列がロシア本土へ向かっている。退避である。ロシアにとって想像もしない事態が起こったのだ。

     


    (3)「ウクライナ軍によるクリミア攻撃は、89日のサキ軍事基地だけではない。ロシア当局は7月、セヴァストポリで行われた海軍記念日の式典がウクライナのドローン攻撃を受けたと発表。また、8月16日にもクリミア北東部マイスケの弾薬庫で爆発が相次いだ。ウクライナ軍の攻撃能力はクリミア半島には決して届かないだろうというのが、これまでの見方だった。しかし8月に入ってから、クリミアで相次いだ爆発を多くのロシア人観光客が目撃し、その後ロシアに逃げ帰っている。西側当局者は、こうしたことがロシア政府に心理的な影響を与えていると報道陣に話した」

     

    プーチン氏には、予想外の展開になっている。間もなく侵攻後、半年を経過するが一段と不利な事態だ。プーチン氏は穀物輸出で妥協するなど、国連とトルコを仲介人にする準備をしているようにも見えるのだが、踏み切れないのだろう。

     

    (4)「この当局者らは今回、報道陣への状況説明に応じた。それによると、ロシアの黒海艦隊は現在、沿岸警備にあたる小規模な艦艇部隊と大差のない規模まで縮小しており、ウクライナの攻撃を警戒して慎重な動きを強いられている。また、ロシア軍がウクライナ南西部の主要港オデーサ港を攻撃する能力や、攻撃する可能性は、短期的にはほとんどないだろうと述べた」

     

    黒海艦隊は、ロシアにある5つある艦隊の中で、歴史を誇る存在である。それが現在、旗艦モスクワをウクライナ攻撃で失い、沿岸警備にあたる小規模な艦艇部隊並に落ちぶれているという。ウクライナ沿岸を攻撃する能力など、とっくに失っているというのだ。

     


    (5)「イギリス国防省は16日の戦況分析で、黒海艦隊の実行力が現在「限定」されているせいで、ロシア政府の全般的な「侵略戦略が損なわれている」と指摘した。「水陸からのオデーサへの脅威が、現在ほとんど無効化されている」ことが、この一因だという。英国防省によると、この時期に他の海域で活発化するロシア軍の活動とは対照的に、黒海艦隊は概して「極めて防戦的」な態勢をとり、その警戒活動はクリミア沿岸から目視できる範囲に留まっているという」

     

    ロシアが、ウクライナの小麦輸出を認めた裏には、黒海艦隊が沿岸警備隊程度に零落していることと無関係でない。ウクライナ攻撃能力喪失をカムフラージュしているつもりなのだ。

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    ウクライナ軍は、6月末から予定されていた南部での本格的反攻作戦の準備が整った。ロシアに占領されているウクライナ国民へ、作戦の巻き添えにならぬよう避難を呼びかけた。

     

    米国から提供された高機動ロケット砲システム「ハイマース」は、射程距離77キロもある。ロシア軍は、これに対抗する射程距離の重火砲を保持していないので、苦戦を強いられるのは必至とみられる。

     

    『産経新聞 電子版』(7月9日付)は、「ウクライナ軍、南部で本格反攻準備 住民に避難要請」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの侵攻を受けるウクライナのベレシチュク副首相は7月8日、近くウクライナ軍が本格的な反攻作戦を開始するとして、南部ヘルソン州とザポロジエ州内のロシア占領地域の住民に即時の避難を呼びかけた。火砲の使用が予定されており、巻き添えとなるのを避けるためだとした。ウクライナメディアが伝えた。

     


    (1)「ウクライナ国軍のマロムシュ大将も8日、同国メディアで、米欧から供与された兵器の習熟が完了しつつあると指摘。「今後3~4週間で大規模な奪還作戦が始まり、南部からロ軍を駆逐できるだろう」との見通しを示した。米シンクタンク「戦争研究所」も6日、「ウクライナ軍がヘルソン方面で反攻を準備している」とする分析を公表している。 ただ、ロ軍も南部の占領地域で防衛線を構築。ウクライナ軍が反攻を本格化させた場合、激しい戦闘が起きる見通しだ」

     

    ウクライナ軍が、南部の反攻作戦を始めるに当り信頼をよせている兵器は、米国の「ハイマース」である。射程距離77キロという強みを持っている。すでに8基が訓練も終えてウクライナ軍の前線に配置された。極めて優れており、精密誘導弾での攻撃になるので、ピンポイント攻撃に威力を増している。ロシア軍は、精密誘導弾を使い果たしており、非精密誘導弾という標的に当るか当らないか分らない「盲状態」である。これが、ウクライナ側施設の被害を大きくしている。

     


    (2)「ロシアが全域の制圧を目指す東部ドンバス地域(ルガンスク、ドネツク両州)のうち、ウクライナ側がなお4割超を保持するドネツク州では8日も攻防が続いた。ウクライナ軍参謀本部は同日、同州の中心都市スラビャンスク方面に前進を図ったロ軍を撃退したと発表。ロ軍が同州の複数の集落に砲撃を続けているとも発表した。ロシアはドンバス全域を制圧後、ドンバスと南部の占領地域を「割譲」する条件でウクライナに停戦をのませる思惑だとみられる」

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、CNNのインタビューで、自国の土地をロシアに譲る気はなく、戦争を終わらせるための外交交渉に領土の譲歩は含まれないとの立場を堅持していると語った。「ウクライナ人は自分たちの土地を手放し、これらの領土がロシアに属することを受け入れるつもりはない。これは我々の土地だ」と、ゼレンスキー氏はCNN番組「ザ・シチュエーション・ルーム」で7日に放映された独占インタビューで語った。「我々はそれを証明するつもりだ」と同氏は付け加えた。

     

    (3)「ウクライナは、ドネツク州を死守する間に、南部の奪還を進める方針だ。 米CNNテレビによると、米国は8日、ウクライナに対し、新たに高機動ロケット砲システム「ハイマース」4基と弾薬、155ミリ榴弾(りゅうだん)砲用の高精度な新型弾薬1千発など、4億ドル(約540億円)相当の追加支援を行うと発表した」

     

    米国から、さらに「ハイマース」4基が追加供給される。これで、ウクライナ軍は合計12基の「ハイマース」を使ってロシア軍への反撃作戦を展開できる。「高機動」だけに、ロケット発射後すぐに攻撃地点を離れて、ロシア軍の反撃を受けずに済むという大きなメリットがある。

     

    「ハイマース」については、次の記事を参照してください。

     

    2022-07-08

    ウクライナ、「お待たせ」米提供の高機動ロケット砲、国土奪回目指し作戦開始「手応え十分

     

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    空虚だった「北京宣言」

    中国が難癖つける理由

    弱小国食い荒らす無法

     

    中国の習近平国家主席は焦っている。今秋の共産党大会で、国家主席3選を勝ち取るためには、党員を納得させる成果を上げなければならない。現状では、得点はゼロどころか、マイナス点ばかりだ。そこで、党員だけでなく国民も奮い立たせるイベントが必要になった。

     

    その役割を担ったのが6月23日、習近平氏主宰によるオンライン形式での新興5ヶ国(BRICS)首脳会議である。参加国は、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの5ヶ国である。習氏は、BRICS首脳会議で米欧対抗軸をつくり上げて、中国が世界の2大強国として米国へ対抗する姿勢を国民に見せる算段であった。

     


    この思惑を裏づけるように、習氏は首脳会議で強気発言を行なった。国連体制に基づいて、真の多国籍的な国際システムを支持する必要があると強調した。その上で、「冷戦思考を放棄し、対立を阻止する必要がある」とした。「主要新興国および途上国として、BRICSは自らの責任を果たしていかなければならない」と述べたのである。

     

    ロシアのプーチン大統領もこれに呼応して、西側諸国が世界的な危機を助長していると非難。「誠実かつ相互に有益な協力によってのみ、一部の国々(注:西側諸国)の軽率で利己的な行動によって世界経済に生じた危機的状況から脱却する方法を模索できる」とし、BRICSの連携強化を呼びかけた。

     

    習氏とプーチン氏の演説を聴く限り、現在の世界経済を混乱させている責任は、ロシアへ経済制裁を科している西側諸国となる。この原因をつくった、ロシアのウクライナ侵攻について一言半句も触れていないのだ。国連の紛争調整機能を奪っているのも、当事国ロシアの拒否権発動が原因である。余りにも、自己弁護が過ぎる中国とロシアの発言に、ブラジル・インド・南アフリカの首脳も、あいづちを打つわけにいかなかったに違いない。

     


    空虚だった「北京宣言」

    こういう経緯からか、BRICS首脳会議後の「北京宣言」は、習氏とプーチン氏のトーンとかけ離れた「穏やかな」調子のものになった。

     

    北京宣言は、次のような内容だ。

    1)各国の主権や領土の一体性を尊重する。

    2)対話や協議を通じ国家間の不一致や紛争を解決すべきであり、危機の平和的解決に資す

    る努力を支持する。

    3)朝鮮半島情勢では、「完全非核化」に向けた北朝鮮など関係国の話し合いを後押しする。

    4)新たな参加国を求める。

     

    上記内容を見れば、1)から3)はありきたりのことで新味はない。新たに決まったことと言えば、参加国を求めることだけである。習氏は、これによって「中ロ枢軸」を強化しようと狙っている。既存メンバーでは、インドが「反中国」であり協力するはずがない。ブラジルと南アフリカが、「中ロ枢軸」に加わったところで、大した力にならない。新規参加国を求めたくても、新メンバー国へ提供できる肝心の技術がないのだ。

     

    中ロは、西側諸国から大量の技術を導入し、多額の特許権使用料を支払っている身だ。「技術料収支」で大赤字になり、世界最低クラスの「技術貧困国」である。この中ロの率いる「BRICS」へ、新たに加盟したい国が現れるとは思えないのだ。中ロ枢軸が、欧米への対抗軸を構築すること自体、ナンセンスと言うほかない。

     

    習氏が、「BRICS」というマイナーな集まりを強化しようとした狙いは何か。それは、米欧による「中国包囲網」がジリジリと形成されていることにあろう。

     

    米国主導のIPEF(インド太平洋経済枠組)は、14ヶ国が参加する。ASEAN(東南アジア諸国連合)10ヶ国中7ヶ国までが加わり、これに日米豪印のほかに韓国やNZ(ニュージーランド)、南太平洋島嶼国のフィジーが参加する多彩なメンバーである。

     


    IPEFは、4つの分野から成り立つ。

    1)貿易

    2)サプライチェーン

    3)クリーンエネルギー・脱炭素化

    4)税制・腐敗防止

     

    参加国は、前記の4分野から選択すれば良い仕組みである。1)貿易は、関税引き下げのメリットはない。2)サプライチェーンや、3)クリーンエネルギー・脱炭素化ではかなりのメリットが得られる感じだ。

     

    具体的には次のような内容である。

    2)では、半導体や重要鉱物へのアクセスを容易にできること。

    3)では、インフラの開発支援やクリーンエネルギー開発技術といった途上国には魅力的なテーマが並ぶ。こういうきめ細かい対応を見れば、「技術貧困国」中ロが逆立ちしても対抗できる筈もないのだ。(つづく)

     

    次の記事もご参考に。

    2022-06-02

    メルマガ365号 習近平10年の「悪行」、欧米から突付けられた「縁切り状」

    2022-06-09

    メルマガ367号 中国「二つの鬼門」、ロシア支援・ウイグル族弾圧事件 西側から孤立し

     

     

     

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    北欧二ヶ国のフィンランドとスウェーデンが、NATOへ加盟申請した。ロシアは事前に、報復を仄めかしていたが、いまのところ無反応だ。米英は、ロシアが報復すれば防衛するとまで発言している。これでは、たとえロシでも静観せざるを得まい。このまま、騒ぎにならぬように祈るばかりである。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月5日付)は、「フィンランド情報機関長官『ロシア報復なし』に驚き」と題する記事を掲載した。

     

    北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指しているフィンランドの情報機関トップが、同国のNATO加盟申請が現時点でロシアの報復措置につながっていないことに驚きを示している。フィンランドのNATO加盟には今のところ、テロ対処を巡りトルコが反対している。

     


    (1)「フィンランド安全保障情報庁のアンティ・ペルタリ長官はフィナンシャル・タイムズ(FT)紙に対し、同国政府は東の隣国ロシアが干渉してくる可能性をなおも「警戒」しているが、ロシアはウクライナでの戦争で手いっぱいだと述べた。「かなり静かな状況で、このままであることを望むばかりだ」とペルタリ氏は異例のインタビューで語った。「何も起きていないのは良いことだ。しかしそれは同時に、我々が備えを固め、社会を守れるようにしてきたという証しでもある」と指摘」

     

    ロシアが、北欧2ヶ国へ軍事的に無反応なのは、ウクライナ侵攻で勢力を削がれている結果であろう。北欧2ヶ国も多分、これを見越してNATOへの加盟申請をしたと見られる。

     

    (2)「フィンランドはNATO加盟の是非をめぐる議論の間、そして正式に加盟するまでの数カ月間、ロシアのサイバー攻撃やハイブリッド攻撃を受ける恐れがあると身構えていた。フィンランドの当局者らは、NATOに加盟するという決定をロシアのプーチン大統領は容認したのではないかと期待を抱いているが、フィンランドに外国の部隊や核兵器を配備するかどうかといった決定に関して、ロシア側は影響を及ぼそうと考えているかもしれないと受け止めている。ペルタリ氏は「NATOへの加盟後、フィンランドがどのようなメンバーになるのかに彼らは関心を持っている」と語った」

     

    ロシアが静観しているは、NATO加入後にフィンランドへ、NATO軍が駐屯するか否かを見ているとみられる。フィンランドでは、ロシアの懸念を払拭すべくNATO軍の駐屯を否定している。

     


    (3)「フィンランドは、外国の部隊や核兵器配備に何らの関心を示していないが、同時に加盟申請したスウェーデンとは異なり、その可能性を排除してはいない。かつてフィンランドは、ソ連に対して慎重にコミュニケーションをとる戦略で知られたが、今はロシアについてもっと率直に語るようになっているとペルタリ氏は付け加えた。フィンランドのニーニスト大統領は5月、自身のロシアに対するメッセージは「これを引き起こしたのは、あなたたちだ。鏡を見てほしい」と、印象に残る発言をした。ペルタリ氏はこう続けた。「大きく変わることはない。備えを固め、国の安全を期す。それがフィンランド流だ。我々の決意は固いが、騒ぎ立てたりはしない」と」

     

    従来のフィンランドは、ロシアに対して慎重な物言いであった。最近は、NATO加盟で気持ちも大きくなり、大胆な発言になっている。これが、普通の外交関係である。フィンランドは、これまでどれだけ萎縮していたが分るようだ。ロシアの圧力が、いかに大きかったかを物語っている。

     


    (4)「フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に残る障害はトルコの反対だ。加盟申請前にニーニスト氏がトルコのエルドアン大統領と協議した際、エルドアン氏は「前向きに」検討するだろうと明言した。だが同氏はその後、フィンランドはテロリストの「ゲストハウス」で、トルコが敵視するクルド系武装組織、クルド労働者党(PKK)の活動に目をつぶっていると主張するようになった。フィンランドは現在、外相がトルコ製ドローン(小型無人機)の購入や武器売却の条件改善の可能性を示すなど、トルコ側の歓心を買おうと攻勢に出ている」

     

    トルコが、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対している。両国が、トルコの敵視するクルド系武装組織を保護しているとの理由だ。トルコの反対は、外交的な駆引きとも見られる。いずれ、米国が中に入って解決するであろう。 

     

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