西側諸国は、これまでウクライナへの武器供与に当って、極めて慎重姿勢で臨んできた。ロシアを刺激して、NATO周辺国まで攻撃してくるのでないかと危惧していたからだ。現実は、ロシア軍が相当弱体化しているとの見方が一挙に広まっている。そこで、ウクライナへの武器供与も大っぴらになってきた。
米『CNN』(5月1日付)は、「ポーランド、ウクライナに戦車200台以上を供与」と題する記事を掲載した。
ポーランドの公共ラジオ放送局は5月1日までに、同国が過去数週間余でウクライナへ旧ソ連製のT72型戦車を200台以上、供与したと伝えた。同国のIAR通信社の報道を引用した。ポーランドのモラビエツキ首相は最近、同国がウクライナに提供した軍装備品は約16億米ドル相当に達することを明らかにしていた。
(1)「同ラジオ局「ポーランド・ラジオ」は、これら装備品には戦車のほか、多数の歩兵戦闘車両、2S1自走榴弾(りゅうだん)砲、多連装ロケット弾発射装置や携行式対空ミサイルシステムなども含まれると報じた。ロシアのウクライナ侵攻を受け北大西洋条約機構(NATO)加盟国は同国への軍事支援に動いている。この中で米国防総省高官は先に、米国やNATOなどによる対ウクライナ軍事支援の調整や能率化を図るためドイツ・シュツットガルトに管理センターを新設したことを記者団に明らかにしていた」
ポーランドは、これまでウクライナへの武器供与で最も積極的であった。過去、ソ連製ミグ戦闘機20機以上を供与する意思を明らかにしたが、米国に止められた経緯がある。ポーランドは、ロシアの欺瞞性をNATOで最も強く主張してきた国であり、その軍事的危険性を説いてきた。今回のウクライナ侵攻で、それが立証された形でもあり、各国ともポーランドの意見に一目置いている。
ポーランドが、旧ソ連製のT72型戦車を200台以上もウクライナへ提供する話に、ロシア側は複雑な気持ちであろう。
(2)「運営の責任は、ドイツ・シュツットガルト市に本部がある米軍欧州軍が担う。このセンターは米欧州軍ウクライナ管理センター(ECCU)の呼称を持ち、米海軍の少将が責任者となる。管理センターには、米国の担当者のほか、15カ国の要員も詰める。ウクライナを支援している40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動などの管理にも当たるとした」
ドイツ・シュツットガルトに、ウクライナへの武器などの供与センターを設けて、40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動の交通整理役を行なう。ロシアは、こういう本格的なウクライナ支援体制を見ることによって、「被害者意識」になってきたという。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「ロシア、『ウクライナ紛争は 西側との戦争』」と題する記事を掲載した。
ロシア政府がウクライナとの戦いを西側諸国との戦争と位置づけようとしている。ロシア政府の指導者らやプロパガンダを担う政府系メディアはロシア国民に対し、ウクライナとの対立は世界的な衝突に発展する可能性があると警告している。
(3)「ロシア政府や政府系メディアはここ数日、西側諸国は最終的にロシアを封じ込め、崩壊させようとしていると警鐘を鳴らし、核による攻撃の可能性を含め報復措置をちらつかせている。米国と一部の同盟国は、ウクライナ戦争をロシアの帝国主義的野望を抑えるための機会ととらえる姿勢を強めており、ウクライナへの軍事支援を強化している」
ロシアは、短時日でウクライナ侵攻を終わらせると楽観していたが、ついに2ヶ月を超える戦いになった。ウクライナ軍の武器弾薬は日に日に,西側諸国の支援によって強化されている。形勢不利に驚いたロシアは、被害者意識に転じているという。
(4)「これに対しロシア政府は国民に対し、歩み寄りが不可能でより広範な対立となる可能性があることを伝え始めた。とりわけ、第二次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した9日の戦勝記念日の祝賀式典を利用し、第二次世界大戦とウクライナでの戦争を関係づけようとしている。ロシアではここ数週間、ロシアは西側諸国からの攻撃を受ける被害者であり、国を守る必要があるという主張が勢いを増している」
下線部分は、ロシア軍が守勢に立たされていることを物語っている。ロシア軍は、武器弾薬の補給に支障が出始めている様子であり、開戦当初の勢いは完全に消え失せた。