勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    西側諸国は、これまでウクライナへの武器供与に当って、極めて慎重姿勢で臨んできた。ロシアを刺激して、NATO周辺国まで攻撃してくるのでないかと危惧していたからだ。現実は、ロシア軍が相当弱体化しているとの見方が一挙に広まっている。そこで、ウクライナへの武器供与も大っぴらになってきた。

     

    米『CNN』(5月1日付)は、「ポーランド、ウクライナに戦車200台以上を供与」と題する記事を掲載した。

     

    ポーランドの公共ラジオ放送局は5月1日までに、同国が過去数週間余でウクライナへ旧ソ連製のT72型戦車を200台以上、供与したと伝えた。同国のIAR通信社の報道を引用した。ポーランドのモラビエツキ首相は最近、同国がウクライナに提供した軍装備品は約16億米ドル相当に達することを明らかにしていた。

     


    (1)「同ラジオ局「ポーランド・ラジオ」は、これら装備品には戦車のほか、多数の歩兵戦闘車両、2S1自走榴弾(りゅうだん)砲、多連装ロケット弾発射装置や携行式対空ミサイルシステムなども含まれると報じた。ロシアのウクライナ侵攻を受け北大西洋条約機構(NATO)加盟国は同国への軍事支援に動いている。この中で米国防総省高官は先に、米国やNATOなどによる対ウクライナ軍事支援の調整や能率化を図るためドイツ・シュツットガルトに管理センターを新設したことを記者団に明らかにしていた」

     

    ポーランドは、これまでウクライナへの武器供与で最も積極的であった。過去、ソ連製ミグ戦闘機20機以上を供与する意思を明らかにしたが、米国に止められた経緯がある。ポーランドは、ロシアの欺瞞性をNATOで最も強く主張してきた国であり、その軍事的危険性を説いてきた。今回のウクライナ侵攻で、それが立証された形でもあり、各国ともポーランドの意見に一目置いている。

     

    ポーランドが、旧ソ連製のT72型戦車を200台以上もウクライナへ提供する話に、ロシア側は複雑な気持ちであろう。

     


    (2)「運営の責任は、ドイツ・シュツットガルト市に本部がある米軍欧州軍が担う。このセンターは米欧州軍ウクライナ管理センター(ECCU)の呼称を持ち、米海軍の少将が責任者となる。管理センターには、米国の担当者のほか、15カ国の要員も詰める。ウクライナを支援している40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動などの管理にも当たるとした」

     

    ドイツ・シュツットガルトに、ウクライナへの武器などの供与センターを設けて、40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動の交通整理役を行なう。ロシアは、こういう本格的なウクライナ支援体制を見ることによって、「被害者意識」になってきたという。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「ロシア、『ウクライナ紛争は 西側との戦争』」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア政府がウクライナとの戦いを西側諸国との戦争と位置づけようとしている。ロシア政府の指導者らやプロパガンダを担う政府系メディアはロシア国民に対し、ウクライナとの対立は世界的な衝突に発展する可能性があると警告している。

     

    (3)「ロシア政府や政府系メディアはここ数日、西側諸国は最終的にロシアを封じ込め、崩壊させようとしていると警鐘を鳴らし、核による攻撃の可能性を含め報復措置をちらつかせている。米国と一部の同盟国は、ウクライナ戦争をロシアの帝国主義的野望を抑えるための機会ととらえる姿勢を強めており、ウクライナへの軍事支援を強化している」

     

    ロシアは、短時日でウクライナ侵攻を終わらせると楽観していたが、ついに2ヶ月を超える戦いになった。ウクライナ軍の武器弾薬は日に日に,西側諸国の支援によって強化されている。形勢不利に驚いたロシアは、被害者意識に転じているという。

     

    (4)「これに対しロシア政府は国民に対し、歩み寄りが不可能でより広範な対立となる可能性があることを伝え始めた。とりわけ、第二次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した9日の戦勝記念日の祝賀式典を利用し、第二次世界大戦とウクライナでの戦争を関係づけようとしている。ロシアではここ数週間、ロシアは西側諸国からの攻撃を受ける被害者であり、国を守る必要があるという主張が勢いを増している

     

    下線部分は、ロシア軍が守勢に立たされていることを物語っている。ロシア軍は、武器弾薬の補給に支障が出始めている様子であり、開戦当初の勢いは完全に消え失せた。 

     

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    ロシア軍のウクライナ東部作戦は、停滞気味と報道されている。この状況視察で、ロシア軍のゲラシモフ軍参謀総長が現地へ入らざるを得ないほどだ。米『ニューヨーク・タイムズ』は5月1日、ウクライナ軍がロシア軍制服組トップのゲラシモフ軍参謀総長を標的とした攻撃を行ったと報じた。

     

    ウクライナ軍は、欧米からの武器弾薬の供給を受け、これまでの防衛から転じて「反転攻勢」により、ロシア軍支配地の奪回を目指す作戦に転じる。ウクライナ政府の高官が、日本経済新聞との単独インタビューで明らかにした。

     


    『日本経済新聞 電子版』(5月3日付)は、「ウクライナ高官『5月末にも反転攻勢』 米欧軍事支援で」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのオレクシー・アレストビッチ大統領府長官顧問は5月1日、日本経済新聞のオンライン取材に応じた。ロシアの軍事侵攻について、米欧からの武器供与により「ウクライナ軍は5月末から6月半ばには攻勢に転じることができる」と述べた。ロシア軍は5月9日の対独戦勝記念日に向け猛攻撃に出るとの見方もあり、戦闘が一段と激しくなる恐れがある。アレストビッチ氏はゼレンスキー大統領の側近の一人で、大統領府で安全保障・軍事部門を担当している

     

    (1)「2月24日にウクライナに侵攻してきたロシア軍とは、近く東部ドンバス地方をめぐる「決定的な戦闘」(ゼレンスキー氏)が始まるとみられている。アレストビッチ氏は5月半ば以降に米欧から戦車や長距離砲などが前線に届くと説明し、「攻勢に移るための攻撃部隊を整えることができる」と指摘した。これまでウクライナ軍は防衛に軸を置いてきたが、反転攻勢に出れば戦局は大きな転機になりそうだ。数多くの市民殺害が確認された首都キーウ(キエフ)近郊のブチャの惨事を挙げ、「ロシア軍が領内に一日でも長くとどまれば、それだけ大量殺人の犯罪が増える」と訴え、欧米に侵攻を止めるため武器支援を急ぐよう求めた」

     


    ウクライナ軍は、ロシア軍との「決定的な戦闘」を準備している。一日も早くロシア軍の支配地を取り戻さなければ、ウクライナ国民が災害を受ける、としている。

     

    (2)「ロシア軍についてはキーウ占領作戦などに失敗し、「すでに戦略的に敗北した。何一つ目標を達成できていない」と述べた。予備役の補充がなく、ソ連時代の旧式武器が多いロシア軍は多大な損失を被って弱体化している。ロシアには対独戦勝記念日に向け成果をアピールしたい考えがあるとみられ、停滞する攻撃を勢いづけるため大規模動員に乗り出す可能性がある。アレストビッチ氏はウクライナ軍が最終的には「勝つだろう」と指摘したが、ドンバスを中心にロシア軍の猛攻撃も予想され、予断は許さない」

     

    ロシア軍は、予備役の補充がない上に旧式武器が多く多大の損失を被っている、と分析している。東部作戦が膠着している理由は、ここにありそうだ。

     

    (3)「アレストビッチ氏によると、今後の展開は3つのシナリオがある。

    1つ目はウクライナ軍が攻撃に転じ「12か月で領土を解放する」。

    2つ目はロシア軍が早期に予備役を投入し、ウクライナ軍による攻勢まで時間がかかる。

    3つ目はロシアが事実上、攻撃を断念して停戦交渉が進展するという展開だ」

     

    今後の展開には3通りのシナリオが考えられる。ウクライナは、「1つ目」のシナリオの実現に全力を挙げる。欧米からの強力な武器弾薬が着きしだい、反転攻勢に転じるとしている。順調に行けば、夏には明るいニュースが出るかもしれない。

     

    ロシア軍が、予備役を投入するとしても最低、半年間の訓練が必要であろう。となれば、ウクライナ軍の反転攻勢に対して時間的余裕がなくなる。ロシア軍が停戦を申入れる可能性は、極めて低いだろう。プーチン氏の政治生命に関わる問題であるからだ。

     


    (4)「ロシアとの停戦協議については、両国代表団の接触はあるものの、検討中の合意文書の文言調整などにとどまり「行われていないに等しい」という。特にロシアが一方的に要求するクリミア半島併合の承認では「大きな隔たり」があるとした。ゼレンスキー氏はロシア軍の残虐行為で国民感情が悪化し協議が終わる可能性を示唆している。激戦が続く南東部マリウポリでは巨大製鉄所からの民間人の脱出が始まった。まだ約1000人が取り残されているとみられ、ウクライナ当局がロシア側と救出に向けた協議を続けている。アレストビッチ氏は交渉について「非常にデリケートで、不用意な言葉を発すれば妨害されてしまう」として明言を避けた。

     

    停戦交渉は事実上、ストップしている。ロシアは、ウクライナへ「無条件降伏」を強要しているからだ。その上、西側へ経済制裁解除を求めている。こういう難題を突付けている状態では、停戦交渉は不可能だろう。

     


    (5)「仮に停戦したとしても、ウクライナ難民の再定住支援など多くの難題が待ち受ける。アレストビッチ氏は子供460万人を含む1100万人以上の国民が避難を強いられたとして、「こうした避難民のうち約200万人が仮設住宅を必要としている」と国際社会の協力を求めた。日本に対しては「ロシアを一貫して非難する立場をとり、ウクライナ国民の真の友人だ」と謝意を示したうえで、さらなる人道支援を呼びかけた」

     

    停戦自体は、喜ばしいことである。新たな犠牲者が出ないからだ。ロシア軍によって、徹底的に破壊し尽くされているので、約200万人が仮設住宅を必要としている。日本は、仮設住宅建設のノウハウと実績がある。貢献する分野であろう。

     


    (6)「ロシアではプーチン大統領が4月下旬に「我々には誰もいまは誇示できないようなあらゆる武器がある」と述べるなど核兵器の使用も辞さない考えを示唆する発言が相次ぐ。アレストビッチ氏は核兵器を使用すればロシア領内や同国軍にも大きな被害が及ぶとして「現状では可能性は低い」との見方を示した」

     

    ロシア軍が、追詰められれば大量殺戮兵器を使用する危険性も残っている。この面では、ロシア軍自体にも被害が及ぶので、「現状では可能性は低い」という。そうなることを祈るほかない。

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    ロシアが、2月24日に始めたウクライナ侵攻は、すでに2ヶ月が経った。解決の目途は全く立たず、逆にどこまで拡大するのか。世界は、おびただしい犠牲者の増加におののくだけである。現状では、ロシア軍を具体的に支援する国は現れないが、ウクライナ軍には武器弾薬の支援が強化されている。形の上では、ロシアが不利な状況である。結末は、どのようになるのか。プーチン氏以外には、誰も予測できないが、3つのシナリオ考えられるという。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月25日付)は、「プーチン政権『苦境悪化は不可避』ウクライナ侵攻2カ月」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員、高坂哲郎氏である。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻の開始から2カ月が経過し、ロシア軍はウクライナの東部と南部で攻勢に出つつある。ウクライナのゼレンスキー政権は徹底抗戦の構えで、米欧なども同国支援を続ける構えだ。攻防戦の今後を予測すると、いかなる結果になってもロシアが開戦前より弱体化することが必至であることがみえてくる。

     


    (1)「第一のシナリオ。ロシア軍は、ウクライナ北部での作戦継続を断念した後、生き残った兵士を新たな部隊に再編成するとともに増援部隊も追加し、東部地域で攻勢に出つつある。東部は平原地帯で、ロシア軍はここで戦車や火砲を大量に投入してウクライナ軍を圧倒したい考えとみられる。攻防の最大の焦点は、米欧の軍事支援が十分間に合うかどうかだ。間に合わなければ、ロシア軍は南部でも攻勢を強め、モルドバ東部の親ロシア派が「沿ドニエストル共和国」を自称する地域につながる回廊を形成しそうだ」

     

    ウクライナ東部は平原地帯である。ロシア軍は、戦車や火砲を大量に投入してウクライナ軍を圧倒する戦術である。ウクライナ軍へ武器弾薬の増援が遅れれば、ロシア軍が有利な戦いになろう。

     


    (2)「その場合、プーチン大統領は「国外のロシア系住民の救済という作戦目的を達成した」として勝利を宣言しそうだ。英国のジョンソン首相は、戦争が来年末まで長引けば「ロシアが勝利する可能性はある」と語った。米欧の「支援疲れ」を懸念しているとみられる。その場合でもロシアは、大きくみると「戦闘には勝ったが、戦争には負けた状態」に陥る。ロシア支配地域とそれ以外のウクライナ領の間には新たな「鉄のカーテン」がひかれる形となり、対ロ制裁は固定化される。世界は再び東西に分断され、ロシア経済はソ連崩壊直後の1990年代のような大低迷期に突入しそうだ」

     

    ロシア軍が、ウクライナ東部で勝利を収めた場合、ロシア支配地域はウクライナ領と遮断される。この場合、ロシア制裁は固定化されてしまい、ロシア経済の混乱状態が継続する。

     


    (3)「第二のシナリオ。米欧の軍事支援が円滑に進み、ウクライナ軍が北部戦線と同様にロシア軍部隊を精密誘導兵器で効率的に撃破すると同時に、新たに供与される155ミリりゅう弾砲など重火器面でもロシア軍に対抗する展開を想定する。ロシア軍は攻勢に出ようとしているが、北部などでの苦戦を経験した兵士の士気は高いとは言えず、増援部隊にもそうした苦境は伝わっているとみられる。補給に陰りが出れば、ロシア軍首脳がもくろむ大規模攻勢をかけられるかは流動的となる」

     

    第一のシナリオと異なり、ウクライナ軍への支援が順調に進み、ロシア軍を圧倒するケースである。

     

    (4)「米欧のウクライナへの軍事支援の中身は質量ともに強まっている。「今後本格化するウクライナ軍の反撃で、ロシアはいずれ本国にまで押し戻されるかもしれない」と、シナリオAとは正反対の予測を語る元自衛隊情報系幹部もいる。確かに、破格な規模の武器供与をみていると、どうやら米欧は「プーチンが勝手に始めた戦争なのだから、これを奇貨としてこの際徹底的にロシア軍をたたき、当面は欧州方面で脅威にならない水準まで弱体化させてしまいたい」と考え始めたようにもみえる」

     

    NATO加盟国は、結束してウクライナ支援に立ち上がっている。下線部のように劣勢になったロシア軍を追詰める戦術も予想される。

     

    (5)「そうした展開になると、ウクライナが平和を回復する一方、ロシアの国内情勢は不安定化していく。「ウクライナ侵攻」から「ロシア不安定化」に事態が転化するわけだ。この展開に向かう必須要素は、米欧の支援が迅速かつ強力に進むこと、ロシア軍の本国撤退を「その時点でのロシアの指導者」が許容するかどうかの2点となる」

     

    ウクライナ優勢で情勢が逆転すれば、ロシアが国内的に苦境に立たされる。ロシア国内で,停戦の動きが出ないとも限らない状況も考えられる。

     

    (6)「第三のシナリオ。東部や南部での戦闘が膠着状態に陥ったり、ウクライナ軍が明らかに優勢になったりする場合、ロシア軍が化学兵器や核兵器といった大量破壊兵器の使用に踏み切る恐れがある。ロシア軍は伝統的に、戦術核兵器を「通常爆弾のちょっとした延長線上の兵器」程度にしか認識しておらず、プーチン大統領も過去にたびたび核使用の可能性に言及している。東部のどこかにウクライナ軍部隊が集結した場合、そこにロシア軍が戦術核攻撃をしかける危険がある。マリウポリの巨大製鉄所の地下には、なおウクライナ軍部隊や市民が隠れ、抵抗を続けている。世界の目が東部や南部での戦局に移る隙を突く形で、ロシア軍が製鉄所の完全制圧へ化学兵器を使う恐れもある」

     

    このシナリオでは、苦境に立たされるロシア軍が、化学兵器や核兵器を使って退勢挽回を図る事態だ。これは、ロシアにとっても悲劇的結末が待っている。

     


    (7)「ロシア軍による大量破壊兵器使用で起こりうるのは、第一に、ウクライナや米欧が衝撃を受けて混乱し、ロシアが一方的に勝利を宣言する展開だ。もうひとつは米欧の軍事支援が一段と手厚くなり、一部の国が公然と軍事行動に出たり、ウクライナ以外の場所でロシア軍対米欧諸国軍の戦いが始まったりする可能性だ」

     

    ロシア軍による大量破壊兵器使用されれば、そこで、ウクライナ戦争が終わる保証がないことだ。事態は、さらに悪化する危険性が出てくる。これを、どのようにして防ぐかだ。第三のシナリオになったなら、ロシア国民も安閑としていられなくなろう。その深刻さを早く、認識すべきだ。戦争を止めなければ危険である。

     

    テイカカズラ
       

    米国とNATO(北大西洋条約機構)は、ロシア軍のウクライナ侵攻3日目で、ロシア軍の「衝撃的な弱さ」に驚いたという。近代戦の戦い方でなく、第二次世界大戦並の攻略法に呆れたというのだ。ロシアのプーチン大統領は、開戦4日目で実態を知り、核部隊へ「待機命令」を出さざるを得なかったようである。

     

    ロシア軍は、ウクライナ軍の「非対称作戦」(神出鬼没な戦い)に翻弄され、大量の兵員と武器を失っている。さらに、米国やNATO加盟国からのより高度の武器が供与される事態になって、ロシア政府は危機感を強めている。そこで、米国とNATOへ武器供与するなと警告する事態になっている。

     


    英国『BBC』(4月16日付)は、「ロシア政府、西側のウクライナ武器供与を警告 『予測できない結果に』」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシア政府が、正式な外交文書で、アメリカをはじめとする同盟諸国によるウクライナへの武器供与について警告していたことが15日、明らかになった。在ワシントンのロシア大使館が米国務省に送った文書を、複数の米メディアが確認した。

     

    (1)「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は米CNNに出演し、ロシアがウクライナに戦術核兵器を使用する危険について世界は備えておくべきだと述べた。2ページにわたる正式な外交文書でロシア政府は、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)諸国がウクライナへ武器を提供し続けていることが、ウクライナでの紛争に「燃料を与えて」おり、「予測できない結果に」つながりかねないと警告した」

     

    ロシアが、核兵器を持出すのは敗北リスクを強く意識している結果と見られる。最後の休戦条件で、ウクライナへ無理強いする伏線だ。「暴力団」がよく使う手である、“落とし前を付けろ”という脅迫材料に使う意図なのだ。

     


    (2)「ロシア政府はこの文書を12日に送付していた。アメリカの追加武器供与について情報が出回り始めたのとほぼ同時で、その数時間後にはジョー・バイデン米大統領が計8億ドル(約1000億円)の追加軍事支援を承認した。追加支援には旧ソ連製ヘリコプター「Mi17」11機、自爆型ドローン「スイッチブレード」300機、携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」500基などのほか、初めて長距離榴弾(りゅうだん)砲などが含まれた」

     

    米国は、より攻撃型な武器をウクライナへ供与する計画を明らかにしてきた。ウクライナ軍が、これまでの「非対称作戦」から転じて、「正規軍」的な戦いを挑んでくれば、ロシア軍にとって脅威になるのだ。ロシア軍が、開戦前に抱いていたウクライナ軍のイメージは、大きく変わっており「強敵」に映ってきたのであろう。

     


    (3)「ロシア政府の警告について米政府幹部は、アメリカとNATOの軍事援助が効果を上げているとロシアが認めたと受け止められると述べている。アメリカからの追加支援は数日中にウクライナに到着する予定。ロシア軍はウクライナ東部に集結を続けており、数週間のうちにドンバス地方で大攻勢を仕掛けるものとみられている。ロシアとウクライナの戦争が始まって以来、アメリカは30億ドル(約3800億円)以上の軍事支援をウクライナに提供している」

     

    ウクライナ兵は、コサック兵の伝統を受継いでいる。帝政ロシア時代、コサックは貴族・聖職者・農民・商人とならぶ階級の一つとなり、税金免除の引き換えに騎兵として兵役の義務が課された。こういう歴史を持つだけに、勇猛果敢にロシア軍と戦うのであろう。

     


    『ニューズウィーク 日本語版』(3月3日付)は、「ロシア軍『衝撃の弱さ』と核使用の恐怖ー戦略の練り直しを迫られるアメリカ」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ侵攻の最初の3日間でわかったことは、ロシア軍が西側の脅威にはなりえないほど弱かったことだ。しかしそれは同時に、プーチンを追い詰め過ぎると本当に核兵器を使いかねない恐怖と隣り合わせになったということだ。

     

    (4)「戦闘開始からわずか1日で、ロシアの地上軍は当初の勢いをほとんど失った。その原因は燃料や弾薬、食糧の不足に加え、訓練や指導が不十分だったことにある。ロシアは陸軍の弱点を補うために、より離れた場所から空爆、ミサイル、砲撃による攻撃を行うようになった。プーチンは核兵器を使う可能性をちらつかせて脅したが、これはロシア軍の通常戦力が地上における迅速な侵攻に失敗したからこその反応だと、アメリカの軍事専門家は指摘する

     


    下線のように、ロシア軍が緒戦で大敗したことが、核の影をちらつかせて米国やNATOを脅かしている理由としている。

     

    (5)「他の軍事専門家からは、ロシア本土から完全な準備を整えて侵攻したロシア軍が、隣接する国でわずか数十キロしか進めなかったことに唖然としたという声もあがった。ある退役米陸軍大将は、本誌に電子メールでこう述べた。「ロシアの軍隊は動きが遅く、その兵力はなまくらだ。そんなことは知っていた。だが最小限の利益さえ達成する見込みがないのに、なぜ地球全体の反感を買う危険を冒すのか」。この陸軍大将は、ロシア政府が自国の戦力を過大評価していたという説明しかないと考えている」

     

    西側の軍事専門家は、開戦すぐに決着がつくと観念していた節がある。それが、ウクライナへ強力な武器を与えなかった理由だ。降伏して、ロシア軍に接収される事態を避けたかったのだろう。ところが、結果は逆になった。弱いのはロシア軍である。となると、強力な武器を与えて、戦いの膠着化を避ける方針に切り替わったのであろう。

     

    (6)「元CIA高官は、「ロシアの軍事に関する考え方は、第二次大戦時に赤軍を率いて東欧を横断し、ベルリンに攻め入ったゲオルギー・ジューコフ元帥のやり方が中心にあると思う」と、本誌に語った。ジューコフは、「大砲を並べ、...諸君の前方にあるものすべてを破壊せよ」と命じたという。「そして生存者を殺すか強姦するために農民兵士部隊を送り込んだ。ロシア人は繊細でない」と指摘する。今回明らかになったロシアの通常兵力の弱さは、米政府内部の専門家を含む地政学的ストラテジストがロシアを脅威と見ていた多くの前提を覆すものだ」

     

    ロシア兵は、狩猟民族の血を引くので残虐なことを平気で行なう気風があると言われる。コサック兵の血統を継ぐウクライナ兵の気質とは、全く違うというのだ。ロシア軍が今も、ジューコフ元帥のやり方を継承しているとすれば、NATO軍に訓練されたウクライナ軍に勝ち目はなさそうだ。

     

     

     

     

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    ロシア軍は、これからウクライナ東部で大攻勢をかけるべく部隊再編成中である。この矢先に、ロシア海軍の黒海艦隊旗艦「モスクワ」が沈没した。ロシア国防省が4月14日に発表した。

     

    これまで、こうした重大ニュースを発表しなかったロシア国防省が、なぜ正確に事実を明かしたのか。この点も関心が持たれる。ロシア軍部内に、ウクライナ侵攻の不条理を感じている「分子」が存在しているのか、という憶測を呼びそうだ。

     

    黒海艦隊は、ロシア海軍5艦隊の一つである。黒海艦隊は戦艦巡洋艦、攻撃型潜水艦が配属されるなど主力艦隊の一翼を担ってきた。だが現在、最大の問題は艦艇の老朽化である。依然として旧式艦が多数在籍しており、約40隻の在籍艦艇中、稼動状態にあるものは20隻程度とされている。その旗艦が沈没しただけに、黒海艦隊は作戦機能を失ったのも同然と言えよう。

     


    米通信社『ブルームバーグ』(4月15日付)は、「
    ロシア軍旗艦沈没、黒海艦隊防空戦力と士気に打撃も-ミサイル命中か」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナでの戦争が重大局面に入る矢先、ロシア軍は黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「モスクワ」を失った。13日夜に火災に見舞われた状況は双方の説明に食い違いがあるが、ロシア側にはプライドへの打撃にとどまらず、軍事的にも重要な防御と戦力の喪失を意味する。

     

    (1)「ロシアのメディアは14日、艦上の弾薬庫で爆発があり、港にえい航中に荒天の中で沈没したとの国防省の説明を報道。一方、ウクライナ南部オデーサ(オデッサ)のマルチェンコ知事は同国国防省を引用し、対艦巡航ミサイル「ネプチューン」2発の攻撃を受けたと主張した。同艦沈没はウクライナにとって戦果だが、ロシアにとっては黒海艦隊の長距離防空と指揮統制システムの要を失う痛手であり、そうした機能を容易に代替できない。約500人の乗組員は退避したと同国は明らかにした」

     


    旗艦「モスクワ」は、黒海艦隊の長距離防空と指揮統制システムという要の役割を果たしてきた。ミサイル巡洋艦であり、皮肉にもウクライナ軍のミサイル攻撃が沈没の原因になった。防空システムに重大な欠陥があって撃ち落とせなかったとすれば、ロシア海軍の実力の低さを示すことになりかねない事態だ。このように問題はあったにせよ、ウクライナ侵攻では長距離防空と指揮統制システムの役割を果たしてきた。その「目」とも言える旗艦が消えてしまったのだ。ロシア軍の打撃のほどが推し測れる。

     

    (2)「英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の特別研究員(海軍力)、シッダールト・コウシャル氏は「モスクワ」について、「長距離防空システムを担うこのクラスとしては、ロシア海軍が現在保有する唯一の艦船」だとした上で、「黒海艦隊の軍事活動のため、艦隊全体の防空と同時に指揮統制機能を果たす役割があり重要だ」との見解を示した。西側の当局者の1人は、ミサイル攻撃を受けたとするウクライナ側の主張は信頼できると述べ、同艦を失ったことは、ロシアにとって深刻な打撃だと指摘した」

     

    下線部は、重要な指摘である。ロシア海軍には、「モスクワ」に代替する艦船がないこと。これによって、黒海艦隊全体の防空と指揮統制機能を失ったのである。暗闇で戦争するような事態に追い込まれたのだ。これから始まるウクライナ東部攻撃作戦で、今後は艦砲射撃が難しくなる。事態の急変である。

     


    英国『BBC』(4月15日付)は、「ロシア国防省、黒海艦隊の旗艦モスクワが沈没と発表」と題する記事を掲載した。

     

    全長186.4メートル、乗員最大510人、排水量12490トンの「モスクワ」は、ロシアの軍事力の象徴で、ウクライナ侵攻では海からの攻撃の中心を担っていた。ウクライナの攻撃で撃沈したことが確認されれば、第2次世界大戦後に敵の攻撃で沈没した最大の軍艦ということになる。ロシアがウクライナ侵攻開始後、海軍艦を失うのは2隻目。南東部ベルジャンスクで3月24日には、大型揚陸艦サラトフがウクライナの攻撃で撃沈した

     

    (3)「ロシアは、巡洋艦モスクワ沈没の原因が、ウクライナのミサイル攻撃によるものとは認めていない。しかし、アメリカのイラク駐留多国籍軍司令官、中央軍司令官、アフガニスタン駐留多国籍軍司令官などを歴任したデイヴィッド・ペトレイアス元中央情報局(CIA)長官はBBCに対して、ロシア政府が黒海艦隊旗艦の沈没を認めたことは、「珍しい真実の瞬間」だと話した。「(ロシアが)認めたことに驚いている」と、ペトレイアス氏は述べた」

     

    ロシア国防省は、これまで「ウソ」の発表をし続けてきた。だが今回、巡洋艦モスクワ沈没を正確に発表したのはなぜか。ロシア陸軍はウクライナ東部作戦で、後方支援の艦砲射撃を期待できなくなった。その厳しさを、プーチン大統領へ告げる目的と読めるのだ。ロシア軍全体の士気低下を招くことを発表した意図が解しがたいのである。

     

     

     

     

     

     

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