勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

    a0960_006625_m
       

    ウクライナ戦争は、今からざっと120年前の日露戦争(1904~05年)と酷似している部分がある。ロシアは、アジアの「小国」日本を相手に戦った。この日本を支援したのが英国と米国である。英米は、ロシアの南下政策(満州と朝鮮半島の権益を握る)を食止めるべく、日本を支援した戦争である。日本は、日本海海戦勝利を機に、米国の勧奨によってロシアと講和条約を結んで終結した。

     

    今回のウクライナ戦争は、ロシアが「小国」ウクライナを侵攻した。これに対して、英米が主体であるG7(主要7ヶ国)によって、ウクライナ支援体制が組まれている。開戦当初は、ロシア軍の圧倒的に優勢な戦況が予想された。だが、ウクライナ軍の抵抗で善戦しているのだ。西側諸国は、さらなるウクライナ支援体制を敷いている。

     


    日露戦争とウクライナ戦争は、三つの共通点がある。

    1)ロシアが、「小国」と戦っている。

    2)「小国」側に、米英がついて支援している。

    3)ロシアは、小国相手ゆえに簡単に勝てると踏んで開戦している。

     

    こうした、共通点から、今回のウクライナ戦争は「第二の日露戦争」スタイルの決着になるかどうか。見ておきたい。

     


    『毎日新聞 電子版』(3月23日付)は、「日露戦争で大敗しながらウクライナでも同じ過ちを繰り返す 懲りないロシアの時代遅れな『帝国主義』ー河東哲夫」と題する記事を掲載した。筆者は、元外交官の河東哲夫氏である。

     

    (1)「ロシア兵士の士気は低かった。(日露戦争の)敗戦後にはロシア革命が勃発。ウクライナ侵攻と重なってみえる。1904年10月15日、ロシアが誇るバルチック艦隊は、バルト海の港を出港した。ロシアに戦いを挑んだ東洋の小国、日本の艦隊をたたきつぶし、海上補給ルートを断ち切ってやろうという作戦。いとも簡単に思われたこの企ては、大失敗に終わる」

     

    これは、日本海までの港がだいたい日本の同盟国、大英帝国の息がかかり、自軍基地もないから補給も思うにまかせない、半年以上の船旅となった。貴族の上級士官、ついこの前まで農奴だった水兵の間には、ストレスがたまる。05年6月には、そのストレスが高まり、黒海で戦艦ポチョムキン号上の反乱――士官は射殺――が起きている。あげくのはて、バルチック艦隊は対馬の海戦で、新型の日本艦に比べて大砲が旧式であることを露呈した。

     


    (2)「こうして05年5月には、バルチック艦隊は対馬の海に沈んだ。その直後、日本の依頼を受けた米国のセオドア・ルーズベルト大統領は、ロシアに和平を持ち掛ける。日ロ両国は同9月、米国のボストン北郊ポーツマスで講和条約を結ぶのだ。ロシアは「小国日本」をなめた上、自身の戦術、装備、軍隊の士気、その他がちぐはぐで、世界のほとんど誰も予想しなかった敗北を喫した」

     

    アジアの小国日本が、ロシア軍を打ち破る形となった。現実は、日本もこれ以上の戦い継続は無理であり、米国が見かねて講和を斡旋した形になった。「渡りに船」であったのだ。

     

    (3)「同じようなことが、今のウクライナで起きたらどうなるか。まさかと思うかもしれないが、ロシア軍、そしてその背後のロシアの経済・社会は百余年前にあった構造的な弱みを引きずっている。プーチン大統領は21年7月に、ウクライナはロシアと民族的・文化的には同一、そしてウクライナはまだ国家として十分機能してもいないという、上から目線の「歴史」論文を発表し、今回の武力侵略への狼煙をあげていた。何々についての「学問的な」論文を発表し、それで政府全体を洗脳するのは、昔スターリンがよく使った手。要するにプーチン大統領たちは100年前、「小国日本」へと同じく、ウクライナをなめてかかったのだ」

     

    昔のロシア同様、現在も「大国意識」に燃えている。自意識過剰で、地に足がついた戦闘準備を怠っていた。ウクライナ戦争でもそういう脆弱性が滲んでいる。

     

    (4)「兵士の士気。これも日露戦争の時を思わせる。ロシア陸軍の兵の多くは「契約兵」、つまり徴兵よりはまともな給与をもらってはいるのだが、しょせんはそうしたカネ狙い。上官の方は、「もうこいつにはカネを払っているのだから」ということで、昔の貴族よろしく、契約兵をアゴでこき使う。加えて兵士の中には、ウクライナに行くことを知らされていなかった者が多い。ウクライナ側に捕まったロシア兵捕虜は、「演習だと思っていたら、自分はウクライナにいたんだ」と言って泣いている」

     

    兵士の士気の低さは、昔も今も変わらない。日露戦争では、黒海で戦艦ポチョムキン号上の反乱が起こっている。現在は、出動命令を拒否して、原隊へ徒歩で帰った兵士(約300人)も報じられている。士気の緩みは想像以上である。

     


    (5)「そして通信。2008年8月、旧ソ連の小国だったジョージアに侵入したロシア軍は自前の通信装置が機能せず、市販のガラケーで相互の連絡を取った。秘密は筒抜け。そこで10年以降、ロシア軍は何兆円分もの予算で大々的な近代化に乗り出したのだが、今回はその効果が見えないようだ。通信がうまく機能しないと、作戦は麻痺する。どの部隊がどこにいて何をやっているか、モスクワの参謀本部は把握できているだろうか。
    かくて戦術、士気、装備、百年前のバルチック艦隊と同じような問題を露呈して、ロシアは対欧州正面の貴重な兵力の多くを失ってしまうかもしれない」

     

    部隊間の意思疎通が、満足にできないという根本的な弱点を抱えている。西側に通話を簡単に傍受され、7人もの将官クラスが戦死している。通信面では、「ザル」同然の部隊である。

     


    (6)「ロシアでは2024年、大統領選挙がある。西側の制裁で、その時インフレは数十%、輸入に依存していた消費財は店から消えてなくなっているだろう。プーチンは当選できない。彼を支えるシロビキ(主として旧KGB=ソ連国家保安委員会。ソ連共産党亡き今、全国津々浦々に要員を置く唯一の組織)は、自分たちの権力と利権を守るため、かつぐ神輿をすげ代えようとするだろう」

     

    次の大統領選挙は、2024年である。ウクライナ出身のノーベル賞作家は次のよう言っている。「テレビと冷蔵庫の争い」と指摘する。テレビは、政府のプロパガンダ。冷蔵庫は、物価上昇を指す。物価上昇が酷くなれば、政府のプロパガンダを見破って、プーチン氏は選挙に勝てないというのだ。さて、どうなるのか。

    1106 (1)
       


    ロシアのウクライナ侵略で、西側諸国が一斉に経済制裁を行なっている。この影響で、海外に依存する自動車販売は、急激な悪化に見舞われた。3月の新車販売台数は、前年比63%も落込んだ。

     

    これだけの減少に見舞われたのは、消費者が買い控えた外に、外資系自動車メーカーが、国内での生産を打ち切ったことも影響している。ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)は3月3日、ロシアでの生産および同国への輸出を停止することを明らかにした。VWは、ロシアによるウクライナへの攻撃とそれに伴う影響から、追って通知があるまでロシアでの自動車生産停止を決定したと説明した。ロシア向け輸出も直ちに停止するとした。

     


    トヨタ自動車も3月3日、部品供給の問題でロシアの工場での自動車生産を4日から当面の間、止めることを決めたと発表した。トヨタは、ロシア西部のサンクトペテルブルク工場での稼働を停止するほか、他地域からロシアへの完成車の輸出も取りやめる。トヨタはロシアで168の販売やサービス拠点を持っている。昨年は約8万台を生産した。このように、世界1位と2位の企業が、相次いでロシアでの生産を休止した。

     

    自動車供給が減ったので、3月の新車販売価格は前年比24.2%もの上昇だ。他の耐久消費財価格も、大幅な上昇である。その一例を示すと次のようである。

     

    インフレ状況(3月1~25日)

    TV  24.2%

    外車  24.2%

    掃除機 22.5%

    国産車 18.2%

    スマホ 13.8%

    出所:ロシア連邦統計局 

     


    3月に耐久消費財で2割以上の値上りした物品は、テレビ・外車・掃除機である。この中に、ロシア製造業の脆弱性が窺える。ロシア経済は、資源輸出国であって製造業が育っていないのだ。経済制裁を受ければ、簡単に耐久消費財価格が高騰するという現実は、ロシアが長期の閉鎖経済に耐えられない体質であることを示唆している。

     

    『ブルームバーグ』(4月7日付)は、「ロシアの3月新車販売が大幅減ーウクライナ侵攻で生産停止相次ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの3月の新車販売は大幅に減少した。ウクライナ侵攻に伴う対ロシア制裁措置で通貨ルーブルが急落し、多くの世界的自動車メーカーによるロシアでの生産停止が相次ぐ中で、需要が落ち込んだ。

     

    (1)「欧州ビジネス協会(AEB)の6日の発表資料によると、ロシアの3月の新車販売台数(軽商用車含む)は前年同月比63%減と、新型コロナウイルス感染拡大に伴う全国的なロックダウン(都市封鎖)が行われた2020年4月以来の落ち込みとなった」

     

    3月は、前年比63%減と20年4月のロックダウン以来の低調な記録になった。これを見ると、ロシア市民がいかにウクライナ侵攻による経済制裁を深刻に受け止めているかが分る。

     

    (2)「ロシアの自動車ディーラー大手、ロルフのスベトラーナ・ビノグラードワ最高経営責任者(CEO)によると、同社は今年の需要が半減し、ロシアの人口の3分の1相当のスペインと同程度の水準になると予想している。自動車販売の大幅な落ち込みは、ウクライナとの戦争に伴う不況に備えて消費者が支出を必需品にシフトしているためだ」

     

    今年の通年予想では、昨年の半分程度まで低下するという。人口規模でロシアの3割強に当るスペイン並に、自動車市場が縮小すると見られている。

    a0001_001078_m
       

    米国は、ロシア兵によるウクライナでの民間人虐殺事件に対して強い態度で臨むことになった。ロシア国債への利払いで米銀窓口を使わせない方針を固めたもの。この結果、ロシアは外貨準備高を取り崩すか、新たな収入をあてるか迫り、デフォルトへ追い込む姿勢に変わった。

     

    ロシアがデフォルトに陥れば、ロシアは万事休すである。世界の資本市場は、ロシアに対して門戸を閉めることになる。そうなると、ロシアは完全に「孤児」となる。ロシアがこの状況を脱するには、ウクライナ侵攻に対し「正常さ」を取り戻すことが必要だ。世界の市場が、ロシア国債を受け入れ可能な形で戦争を終結する必要がある、との指摘が出ている。プーチン氏は、自国本位で言語道断な振る舞いをしていると、大変な事態に陥る局面に向かっている。

     


    『ブルームバーグ』(4月5日付)は、「
    米財務省、ロシア債務返済で米銀口座のドル使用認めず-当局者」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア政府は、米金融機関に保有する口座からドルで債務の支払いを行うことができなくなる。米財務省の報道官が匿名を条件に明らかにした。ロシア軍がウクライナで戦争犯罪を行った疑いが強まり、世界中からの非難がロシアに集中している。

     

    (1)「この報道官によれば、財務省外国資産管理局(OFAC)は、ロシア政府が米金融機関に保有する口座からのドルの支払いを今後認めない。国内に保有するドルの外貨準備を目減りさせるか、新たに受け取った収入を支払いに費やすか、デフォルト(債務不履行)に陥るか、いずれかの選択をロシアに迫る狙いがあるという」

     


    ロシアにとっては、辛い選択を迫られることになった。ロシア政府が、米金融機関に保有する口座からドルの支払いを認めないというのだ。ロシアが、手持ちのドルで支払うか、新たに受取った収入で支払えと迫っている。これらが不可能であれば、最終的にデフォルトになる。米国の狙いは、ロシアをデフォルトに追い込むことである。

     

    (2)「財務省は、米国などの債券保有者がロシア中央銀行から外貨建て債の支払いを受けることができる包括許可を3月2日に出した。この適用除外措置は、5月25日が期限となる。ブルームバーグの集計データによると、ロシアは2026年償還ドル建てソブリン債と36年償還ユーロ建て債の利払い期日が5月27日に到来する。米財務省の動きを受け、利払いの行方に注目が集まると予想される」

     

    5月27日に、2026年償還ドル建て債と36年償還ユーロ建て債の利払い期が来る。米財務省は、米銀におけるドル建て債のドルによる金利支払いを認めないと決めている。ロシアは、それゆえ自ら外貨準備を取り崩して支払わなければならない。それができなければ、デフォルトになる。

     


    (3)「アベニュー・アセット・マネジメントの債券責任者カール・ウォン氏は、「ロシアが合計1億1700万ドル(約143億円)の利払いを行った3月17日に米政府が認めた内容からは180度の方針転換と受け止められる」と指摘した。格付け会社などが発する警告にもかかわらず、ロシアのプーチン政権はこれまでのところ外貨建て債の支払い義務を履行している。ロシア財務省は3月31日、4月4日償還のドル建てソブリン債(発行額20億ドル)の72%、14億5000万ドル相当をルーブルで買い戻したと発表した。ロシア日満期国債14.5億ドル買い戻し残りの償還に投資家注目している」

     

    4月4日償還のドル建てソブリン債20億ドルのうち、14億5000万ドルを買い戻したという。残り、5億5000万ドルが未償還である。この扱いが焦点になる。

     


    (4)「米国と同盟国による対ロシア制裁はエネルギー取引を除外しており、ロシアは原油と天然ガスの代金は引き続き受け取ることが可能だ。事情に詳しい関係者からの情報を引用しロイター通信が伝えたところでは、ロシアの22年償還債と42年償還債の直近利払いについて、コルレス銀行であるJPモルガン・チェースは、米財務省から送金処理の許可が得られていない

     

    ロシアの22年償還債と42年償還債の直近利払いについて、コルレス銀行のJPモルガン・チェースは、米財務省から送金処理の許可が出ていないという。仮に出なければ、ロシア側が自ら処理するほかない。

     

    a0960_008527_m
       

    ウクライナ大統領は、ロシアに対して「言葉だけでは信じられない」と手厳しい姿勢を続けている。ただ、先の停戦交渉によって、おぼろげながら将来のウクライナの姿が浮かび上がってきた。

     

    ロシアは、この侵略戦争で経済的に大きなダメージを受けている。欧州復興開発銀行(EBRD)によると、停戦が近く実現すれば今年のロシア経済はマイナス10%成長、23年はゼロ成長と見込んでいる。欧米から資本と技術の流入が遮断される影響は今後、長引くと予想している。ウクライナ経済は、今年がマイナス20%成長と大きく落込むものの、来年は急回復を見込んでいる。

     

    このように、停戦を前提にした経済予測ができるようになってきた。だが、停戦が実現するまでにはいくつかの問題が横たわっている。

     


    米『CNN』(3月31日付)は、「ロシアとウクライナの交渉、停戦への道筋示すも行く手には地雷原」と題する記事を掲載した。

     

    3月29日、イスタンブールで行われたロシアとウクライナの代表団による会合では政治的ムードはかなり改善され、おぞましい壊滅的戦争の全面的解決の輪郭が、おぼろげながらも見え始めた。会合では、クリミアおよびドンバス地方の今後の在り方やウクライナの中立的立場、安全保障の確約による保護、現在キエフ北部で展開しているロシア軍の大幅な撤退の他、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の首脳会談の可能性についても話し合われた。

     

    (1)「ウクライナ側はロシアが2014年に併合したクリミアの地位について、今後の課題とすることに合意した。クリミア併合に関してはウクライナも欧米諸国もこれまで承認していなかったが、ポドリャク大統領府顧問は今後の展望として、「この領域の地位に関しては、15年間かけて二国間協議で話し合うことに双方が同意した」と述べた。「これとは別に、二国間協議が行われる15年間は軍事的敵対行為を行わないことについても話し合った」とも報道陣に語った。これにより、もっとも対立を深める争点のひとつが、とりあえず棚上げされる形となる」

     

    ロシアが一方的に併合したクリミアの地位については、両国が今後15年間かけて協議する。その間の軍事的敵対行為を行なわない点も合意した。これは、ウクライナ側の主張が通ったものだろう。

     

    (2)「歩み寄りの中でも直近のものとして、チェルニヒウと首都キエフに対する攻撃を大幅に縮小するとロシアが宣言したことが挙げられる。北部ウクライナのチェルニヒウはこの3週間ロシア軍に包囲され、甚大な被害を被っていた。とくに重大なのは、ウクライナ側の提案が十分に調整されており、「大統領に提示することができる。我々も今後適切な返答を提示する」とメジンスキー氏が発言したことだ。「合意交渉が迅速に行われ、妥協が見出せるのであれば、和平合意の可能性もより近づくだろう」と同氏は述べた――2月末の最初の交渉以来、ロシア当局者の考えとしてはもっとも前向きな発言だ」

     

    北部ウクライナのチェルニヒウは、この3週間ロシア軍に包囲されて、甚大な被害を被っていた。ウクライナ側は、この攻撃を縮小するように求めている。次回の停戦交渉で回答が出れば、和平合意の可能性に近づくとしている。

     

     

    (3)「これまでロシア当局者は、大統領本人が直接協議の場につく前にさらなる交渉が必要だとして、プーチン大統領の交渉参加を一切退けていた。だが今やロシア国営通信社のRIAノーボスチは――ロシア代表団の発言として――両国外相による和平協議と並行し、プーチン大統領とゼレンスキー大統領による首脳会談もありうると報じた。交渉の仲介にあたったトルコのチャブシュオール外相は「一刻も早い停戦実現に向けた最優先事項は、恒久的な政治的解決への道筋を築くことだ」とし、想定されるシナリオについて語った」

     

    ロシア側は、両国首脳会談について拒否してきたが、軟化姿勢を見せている。その前に,外相会談をすることになった。

     


    (4)「ウクライナにとって、安全保障の確約はつねに紛争解決の要だった。だが次第にゼレンスキー大統領も政府当局者も歩み寄りの姿勢を見せ、憲法で謳(うた)われているNATO加盟はウクライナの権利――むしろ義務――というこれまでの主張を譲歩している。そこへきて今、非常に異なる提案が持ち上がっている。会合の後、ウクライナ交渉団の1人ダビッド・アラカミア氏はウクライナのTVに対し、「我々は全ての保証国が署名する国際協定を策定し、批准することを強く主張する」と発言した」

     

    ウクライナ側が、NATO加盟を断念する代わりに、安全保障の国際協定を要求している。

     

    (5)「ウクライナ当局者によれば、この協定は保証当事国の議会で批准されなくてはならない。またウクライナは、保証国にロシアも含む国連安全保障理事会の常任理事国を加えたい考えだ。安全保障の確約は非常に具体的なものになるだろう、とアラカミア氏は述べた。ウクライナに対して侵攻や軍事作戦が行われた場合には「3日以内に協議を行わなければならない」。「その後、保証国には我々の支援が義務付けられる。軍事支援、兵力、武器、飛行禁止区域――我々が今非常に必要としながらも、手に入れることができずにいるもの全てだ」。ウクライナが現在目指しているものは、保護下での――かつ恒久的な――中立性と言えるだろう」

     

    国際協定は議会批准が必要であること。保証国には、ロシアも含む国連安全保障理事会の常任理事国を加えたい考えである。これによって、恒久的な中立性を保障させる意向だ。

     


    (6)「別の交渉団のメンバー、オレクサンドル・チャリー氏は次のように語った。「ウクライナの安全保障再建に向けて、あらゆる手段を講じることが主要条件だ。我々にとって根幹的要件であるこれら主要事項を確立できるなら、ウクライナは事実上、永世中立という形で非同盟国、非核国としての地位を固める立場を取るだろう」。さらにチャリー氏はこうも続けた。「(我々は)領地内に他国の軍事基地や他国の軍隊を配備しない。軍事的、政治的同盟は締結しない。国内での軍事演習は、保証国の同意のもとでのみ行う」。プーチン大統領がこれまでずっと要求の中核に据えてきたのもこの点である」

     

    ウクライナは永世中立という形で、非同盟国・非核国としての地位を確立する。この点は、プーチン氏の要求にもあう。

     


    (7)「ウクライナはNATO加盟という野望を断念する代わりに、EUへの早期加盟を目指すことがさらに明確になった――これに関しても、ウクライナは保証国の後押しを望んでいる。
    ウクライナ国民の間でも広く支持されているEU加盟の可能性が見えてくれば、ウクライナ政府が公約に掲げてきた安全保障を伴う中立性も、国民投票で全面的に承認されることになるだろう」

     

    ウクライナは、NATO加盟を諦める。だが、EUへの早期加盟を実現する。これが実現の方向であれば、安全保障を伴う中立性も国民から承認される可能性が見えてくるであろう。

     

     

     

     

    a0001_001078_m
       

    ロシアは、ウクライナ戦争ですでに7人の将官クラス(大将・中将・少将)が戦死したと報じられている。約20人の将官が、ウクライナへ派遣されているとされるので、その3分の1の将官が戦死という異常事態を迎えた。

     

    米国の駐在武官が先週、ロシアの将官クラスと直接面談する機会があった。その際、ロシア将官は米国武官に対して極めて感情的な動揺を見せたとする報告書がCNNで報じられた。今回のウクライナ戦争が、「不条理」という印象を強く与えるものだったようだ。

     


    米国『CNN』(3月24日付)は、「ロシアの将軍、米国防当局者との希少な直接会談で感情「爆発」CNN EXCLUSIVE」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアと米国の軍当局者が直接顔を合わせる希少な会談が先週行われ、普段は冷静なロシア側の将軍が感情を「爆発」させる一幕があった。米軍が会談内容をまとめた非公開文書をCNNが確認した。出席した米国側は、ロシア軍が士気の面でより大きな問題を抱えていることを「暴露する瞬間」だったとの見方を示している。

     

    (1)「文書には、会談に同席した米国の駐在武官2人の見方やその場で見聞きしたことに対する印象が記されている。ここには、当該のロシア人将軍の振る舞いについて明確な説明となるような記載はない。機密に関わる会談の文書を軍や諜報機関が公にすることは決してない。当局者らがそれらを精査し、相手側の思考や意図についての手がかりを探ろうとするためだ。今回の会談は、モスクワにあるロシア国防省で行われた。2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以来、ロシアと米国の国防当局者が対面で話し合う珍しい機会となった。文書は会談が緊張感に包まれたものだったと説明。ロシア側には明らかにストレスを感じている兆候が見られたとした」

     


    ウクライナ戦争が始まって以来、初の米ロの武官同士の面会記録である。これによれば、冷静沈着であるべきロシア将官が、言葉には表さなかったものの、今回のウクライナ戦争に対して、やり場のない怒りを秘めていたという。大義ある戦争であれば、胸を張って自国の正統性を語るのであろうが、それがなかったのだ。

     

    (2)「特筆されていたのは、ロシア軍のエフゲニー・イリン少将の態度だ。同氏はロシア軍参謀本部の幹部として、長く米国の当局者の対応に当たってきた。会談が終了する際、米国の駐在武官の1人が、ウクライナにルーツを持つイリン氏の家族について「何気なく尋ねた」ところ、「冷静だった同氏の顔色は突然紅潮し、動揺した表情を浮かべた」という。文書によると、イリン氏は質問に対し、自身がドニプロペトロフスクで生まれたと回答。その後家族とドネツクに移り、現地の学校に通ったと述べた。続いてイリン氏はウクライナの現在の状況について、「悲惨であり、自分もそのことで大変に意気消沈している」と付け加えた。そのまま握手を交わすことなく立ち去ったと、文書は伝えている」

     

    ロシア将官は、ウクライナ生まれである。東部ドネツク州の学校に通ったという。親族は今も、そこに住んでいるのだろうか。自分の生まれ故郷が、ロシア軍によって戦場となっている。「悲惨であり、自分もそのことで大変に意気消沈している」と言ったという。この言葉の中に、ウクライナ戦争の矛楯が現れている。前線に立つロシア兵士も、ウクライナに親類縁者がいるはず。銃を向けられる相手でないのだ。

     

    (3)「米国側が感じたところによれば、イリン氏は何とか思いとどまり、自身の家族への残虐行為について米国とウクライナを非難するのをこらえた様子だったという。米国側がそのような結論に至った具体的な理由は不明だが、武官の1人は「燃えるような彼の眼差しと、狼狽(ろうばい)した様子を見て背筋が凍った」と述べた。文書によれば、両武官とも、ロシア側が公式の会談でこれほど感情を爆発させたのは見たことがないと報告している。こうした要約からは、イリン氏が上記の反応を示した正確な理由は分からない。それでも駐在武官2人は、ロシア軍の士気に関する問題を示唆している可能性があると分析。それが「前線の兵士に限ったものでないのは明らかだ」と結論付けている」

     

    ロシア将官は、言葉に出さなかったが、米国側に怒りの眼差しを向けたという。なぜ、米国側に怒りを向けたのか。多分、米国が武器で援助しなければ、ロシアの侵攻は早く終わり、犠牲が増えなかったと言いたかったのだろうか。それが、せめての慰めと見ているのだろう。

     


    ロシア将官が、怒りの眼差しを向けたのには、もう一つの解釈が成り立つ。米国はじめ西側が、ロシア軍の弱点を徹底的に分析していることへの恥ずかしさかも知れない。ともかく、複雑な思いが一気にこみ上げてきたに違いない。武人が見せた「心の涙」であろう。

     

    (4)「また米国側は、会談の最中からイリン氏は冷静さを失い始めていたとも報告。きっかけは米国側がウクライナの状況を危機と呼んだ場面で、この時同氏はすかさずこの表現を「修正、撤回させた」としている。会談中、どんな代償を払ってでも勝つというロシアの戦略から逸脱する見解をイリン氏が示すことはなかった。米側の2人は、こうした同氏の様子から「明らかに現状を嘆いているものの、怒りのやり場がどこにもない。ロシア政府が掲げる言説に沿って行動するしかない」のがうかがえたと語った」

     

    ロシアの不条理な戦争であるが、ロシア軍の弱点が炙り出されていること。それを「敵」に知れ渡った恥ずかしさ。武人であれば、これほど恥辱に満ちた戦はないであろう。

     

    (5)「文書はまた、この会談が戦争に対するロシア側の姿勢の硬化や、ロシア軍将校は他に選択肢がないため命令の実行に迫られている様子を強調するものとなった可能性について、米国側は軽視しないとも記述した。この会談が開かれた理由や背景は不明。CNNは会談内容を伝える追加の文書が存在するのかどうか把握していない」

     

    ロシア軍は、米軍に次ぐ「軍事大国」とされている。それが、欧州で7番目とされるウクライナ軍に戦略・戦術の面で手玉に取られている。これほど屈辱的な戦いもあるまい。こうなると、ロシアは勝つまで戦うという最悪事態が予想される。どこで、ロシアに「勝者」の花を持たせて終結させるか。知恵比べという段階かも知れない。

    このページのトップヘ