勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 欧州経済ニュース時報

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    中古EV(電気自動車)の値下がりが激しい。既に3割の値下がりを記録している。特に、2021年にEVが登場したが、24年はリース期限を迎えて一斉に中古市場へ登場する。それだけに、来年の値下がりがどの程度厳しくなるか危惧されている。

     

    『ブルームバーグ』(1226日付)は、「EV市場で強まる逆風、中古需要が低迷ー脱炭素化に新たなハードル」と題する記事を掲載した。

     

    排気ガスを出す内燃エンジン車からの脱却は新たなハードルにぶつかっている。電気自動車(EV)は中古の需要がさえず、それが新車市場にも悪影響を及ぼしているのだ。

     

    (1)「1兆2000億ドル(約171兆円)規模の中古車市場では、EVの価格は内燃エンジン車よりも急速に下がっている。その背景には補助金不足のほか、より先進的な技術を待ちたいとの思惑、充電インフラが依然として不十分などの理由で、消費者がEVを敬遠していることがある。テスラや競争力のある中国EVメーカーによって引き起こされた激しい価格競争は新車と中古車の価値をさらに押し下げ、フォルクスワーゲン(VW)やステランティスなどの収益を脅かしている」

     

    EV(電気自動車)人気が一巡して、中古EVは内燃エンジン車よりも値下がりが激しくなっている。EV新車の値下げ競争は、中古EVの値段をさらに押下げている。

     

    (2)「欧州では新車の多くがリース販売であり、自動車メーカーやディーラーは価格急落による損失をリース料の引き上げで埋め合わせようとしている。内燃エンジン車からの転換で先陣を切っていた一部の欧州市場では、それもEV需要に打撃を与えている。VWの金融サービス部門を率いるクリスチャン・ダールハイム氏は「車両の価値が1%下がると利益は1%減る」と指摘。中古EVの需要低迷は業界全体で数十億ユーロの収益悪化をもたらす恐れがあるとの見方を示した」

     

    中古EVの値下がりは、欧州でのリース販売へ暗い影を落としている。中古EVの値下がりは、新規リース料金の値上がりに跳ね返っているからだ。

     

    (3)「2021年に欧州で販売されたEVは120万台。その多くが来年に3年のリース期間を終えて中古市場に出回るため、こうした問題はさらに深刻化することが予想される。企業がこの問題にどう取り組むかは各社の業績だけでなく、2035年までに内燃エンジン車の新車販売を段階的に廃止するという欧州連合(EU)の計画など、脱炭素化の取り組みにとっても重要な鍵となるだろう。トヨタ自動車の欧州地域責任者、マット・ハリソン氏は「EVには中古市場がない」と指摘。「それがコスト・オブ・オーナーシップの問題に大きく影響している」と語った」

     

    欧州で販売されたEVは、2021年に120万台である。これが、24年にリース開けで戻ってくる。EVには事実上、市場がないだけにどのように処理するか。大幅な値下がりは必至である。

     

    (4)「各社はEVをライドシェアサービスのスタートアップなどに供給することは可能だが、そうした市場の需要には限りがある不要になった内燃エンジン車はアフリカに行き着くことが多いが、アフリカは充電インフラが整っていないためEVの受け入れは現実的に難しい

     

    不要になった中古EVの行き先がない。内燃エンジン車は、アフリカで再活用されたが、中古EVではそれが無理である。充電インフラが足りないからだ。

     

    (5)「EV市場を巡っては中国が教訓を与えてくれる。手厚い補助金などで中国は世界有数のEV大国になったが、廃棄された大量のEVが雑草やゴミの中に放置されている状況も生まれた。仮に欧州や米国で似たような事態となれば、政治家からEV業界への援助縮小を求める声が強まる可能性がある。2024年には米国と欧州で重要な選挙が相次いで行われる。自動車やディーラーを格付けするiSeeCars.comのデータによると、10月までの1年間で中古EVの価格は約30%下落した。これに対し、中古市場全体の価格下落率は5%。中古EVは大幅な値下げをしてもガソリン車より販売に長い時間がかかるという」

     

    中国では、中古EVをゴミとして破棄しているが、欧州は不可能である。新車EVへの補助金停止問題が起こるからだ。10月までの1年間で、中古EVの価格は約30%下落した。中古市場全体の価格下落率が、5%に比べると桁違いである。

     

    (6)「問題のひとつは、業界全体が中古EVの取り扱いに慣れていないことだ。内燃エンジン車は年式や走行距離ですぐに評価できるが、バッテリーの品質を判断するテストは普及していないと、VW系ディーラーの幹部は語る。ブルームバーグNEF(BNEF)によれば、バッテリーはEVの価値の約30%を占めているが、この比率は今後数年で下がると予想されている」

     

    中古EVは、初めての経験で査定基準のないことも響いている。「初物買い」には、こういう思わぬ落し穴が待っている。

     

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    ロシア人はギャグが上手い。経済制裁で部品の輸入が止まった結果、新車は「反制裁車」として売り出されている。新車に定番のエアバッグ、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)、横滑り防止装置(ESC)、シートベルト・プリテンショナーのない「新車」が販売されているのだ。ロシアの新車は、何十年も前に逆戻りした「オールドカー」になっている。

     

    西側諸国の経済制裁効果はまだ、数値的にはっきりと目に止まる結果にはなっていない。だが、ロシアではこれから出てくると警戒している。ロシア経済が止まることはないとしても、世界の動きから大きく取り残されると気を揉んでいるのだ。

     

    英『BBC』(6月19日付)は、「ロシア経済、前途は多難 制裁が効き目」と題する記事を掲載した。

     

    モスクワ「ロシアで最も手頃な新型車です。名前は……反制裁車です!」。これはロシアの国営テレビが、西部の工業都市トリヤッチの生産ラインから出てきた、さほど改良されたとは言えない新型のラーダを、努めて前向きに紹介した時の売り文句だった。「最も手頃な」は、おそらく唯一のセールスポイントだ。西側の制裁によって、ロシアの自動車メーカーは、かつて輸入していた部品をすべて輸入できずにいる。そのため、「反制裁」のラーダ・グランタには、エアバッグも、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)も、横滑り防止装置(ESC)も、シートベルト・プリテンショナーもない。

     


    (1)「ウクライナ侵攻から4カ月近くたち、新型のラーダはある意味、ロシア経済を象徴している。部分的に欠けてはいるが、それでも機能し続けている。「それでも機能している」のは大したものだ。ロシアは現在、世界で最も制裁を科された国となっている。データサービス会社スタティスタによると、ロシアの個人と企業を対象とした制裁は1万0500件を超える。うち7500件以上は、ここ4カ月間に実施された。戦争が始まってこれだけたてば、今頃はもうロシア経済の歯車は完全に外れてしまっているはずだと、一部の専門家が予想していたのも無理はない」

     

    ロシアは、イラン以上の制裁件数になっている。大きなダメージを受けている筈だと想像されやすい。だが、まだ基本部分では機能している。ただ、レベルが下がっていることだ。

     


    (2)「モスクワのコンサルティング会社マクロ・アドバイザリーのクリス・ウィーファーさんは、「この規模の国際的な制裁をいきなり科されていたら、経済は崩壊していただろう」と話す。「だが、ロシアは2014年以降、段階的に制裁を経験してきた。そのレベルはかなり強まっているが、ロシアはいつでも制裁に対応していたという面もある」「その上、供給の寸断を各国が恐れているため、ロシアはエネルギーや原材料の輸出でこれまで以上に稼いでいる」と、ウィーファーさんは言う。「今年は5月までに経常収支、の黒字が過去最高の1100億ドル(約15兆円)に達した。その金は軍事に使うほか、国営企業への補助金に充てて、失業率の急上昇や所得の過度の下落を防ぐこともできる」と指摘する」

     

    ロシアには、2014年から受けてきた制裁の歴史がある。「制裁馴れ」している面があるのだ。ただ、今回の制裁は技術・サービスなどと広範囲にわたっている。原油採掘の井戸で用いられる技術やサービスの6割は西側の提供である。これが打ち切られた以上、影響は徐々に広がるであろう。

     


    (3)「ウィーファーさんは続ける。「資本規制によってルーブルの価値は上がり、インフレも緩和し始めている。だが、この先には深刻な不況が待ち受けている。ロシア経済は今年、最大10%縮小すると予想されている。ロシアの消費者は、その全面的な影響をまだ実感していない。モスクワのスーパーの棚は、まだかなり埋まっている。ただ、一部の輸入品は手に入らなくなっている。変化が最も明らかなのは、モスクワのショッピングセンターだ。かつてはにぎわっていたのに、今ではだいぶ静かだ。客はわずかで、品ぞろえも少ない。多くの外国ブランドは、ウクライナ侵攻への抗議として、ロシアでの事業を停止または完全撤退した。多くの店でシャッターが下りている」と指摘する」

     

    ロシアの消費者は、その全面的な影響をまだ実感していない。モスクワのスーパーの棚は、まだかなり埋まっている。ただ、一部の輸入品は手に入らなくなっている。こうして、次第に輸入品は影を消していくであろう。耐久消費財の半分近くが輸入依存である。経済制裁の影響が出るのは、在庫が切れるこれからだ。

     


    (4)「ロシアの経済苦境は、同国政府が考えを改めることにつながるろうか? ウクライナでのロシアの攻撃終了を早めることになるだろうか? 制裁は機能しているのだろうか?  「目的が、経済や金融の危機を作り出して行動を変えさせることなら、答えはノーだ」と前出のウィーファーさんは考えている。「ロシアは(まだ)危機を経験していない。だが、経済的な消耗の時期に入りつつある。秋冬までには、より厳しい現実に直面する。とりわけ、ヨーロッパによるロシア産石油・石油製品の禁輸の効き目が出て、政府が支出を減らさざるを得なくなった時が問題だ

     

    今年の秋から冬にかけて、経済制裁の影響は強く出てくるであろう。EU(欧州連合)によるロシア産の原油や天然ガの輸入禁止効果が表面化する時期だ。タンカーの保険も禁止することになった。EUの禁輸体制が整えば、ロシアが無傷の筈がない。

     


    (5)「また、ウィーファーさんは指摘する。「ロシアは今後23年、経済の停滞を避けられない。問題は、それが10年続くのかどうかだ」「ロシアは西側の技術を輸入できずにいるが、それを自国で代替できない。中国は、制裁対象に含まれる技術をロシアに提供しないと明言している。そのようなことをすれば、二次制裁を受けるかもしれないからだ」「ロシア経済が機能しなくなるとは思えない。ただ、技術と効率のレベルはかなり下がるだろう。世界との差は一段と広がっていく。ロシア経済は取り残されるだろう」

     

    西側諸国が、ロシアへの経済制裁をいつ解除するのか。プーチン氏が、大統領に止まっている間は不可能である。プーチン氏は今年、70歳である。86歳まで大統領を務める意向とされる。となれば後、16年間の経済制裁は解かれないことになろう。ロシアで、空恐ろしいことが起こる可能性を否定できないのだ。

     

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    ウクライナ戦争反対で、多くの心あるロシア市民がデモに参加し、一時拘束の憂き目にあっている。その時の恐ろしい経験が引き金になり、ロシア出国者を増えさせている。ウクライナでは、戦争被害からの脱出を目的にするが、ロシアではプーチン弾圧を逃れるためだ。いずれも、プーチン氏が加害者である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月10日付)は、「国外へ逃げ出すロシア人、制裁と弾圧に反対」と題する記事を掲載した。

     

    国外に逃げ出しているのはウクライナ人だけではない。多くのロシア人も自国を去っている。ある男性は、妻が必要とするインスリンがそのうち買えなくなるかもしれないとの懸念から、妻とともに出国し、ドイツに住む娘の家に向かった。薬を詰めたスーツケース2つと、衣服を詰めたスーツケース2つを携えて。別の男性は、母親の葬儀を終えた直後にイスラエルに移住するため出国した。戦争のプロパガンダに囲まれて息苦しくなったのだという。戦争反対のデモに参加して逮捕されたある女性は、釈放後すぐに荷物をまとめ、若い息子を連れてアルメニアに向けて出国した。

     

    (1)「7日にフィンランドに入国したあるロシア人によれば、彼の乗った列車が国境を越えた後、1人の乗客が「ウクライナに栄光あれ」と叫んだという。厳しい対ロシア制裁、深まる孤立、ひどくなるばかりのウラジーミル・プーチン大統領の圧政を背景に多くの人々がロシアから逃げ出している。その数は、ウクライナから国外に避難した200万人とは比べものにならない。しかしそれは、政治的自由の段階的縮小と経済的苦境に直面するロシア人の大量出国の始まりかもしれない。出国者の多くは、専門職を持つ者や富裕層だ。ジャーナリスト、活動家、文化人たちも国外に去っている

     

    ロシアへ残っていれば、確実にロシア経済や社会の発展に寄与する人たちが、「プーチン恐怖症」でロシアから逃げ出している。第二次世界大戦前後、ドイツから多数のユダヤ人がナチスの圧迫を逃れてドイツを逃げ出した。今度は、ロシアの専門家や教養人がプーチンの圧迫を逃れて、ヨーロッパへ逃げ出している。歴史は繰り返している。

     


    (2)「米系企業に勤務するユリア・ザハロワ氏(36)は8日、ロシアとフィンランドの国境線を越えた数分後、「私の父は『早く出国しなさい。そうしないとロシアに閉じ込められる』と言っていた」と語った。彼女とハイテク分野の新興企業の最高経営責任者(CEO)を務めるギリシャ人の夫は、ロシアとギリシャの間を航空機で往復する生活を何年も続けてきた。しかし、彼女が妊娠7カ月になったこともあって、2人は生活の場を当面ギリシャに移すことを決めた。彼女は「こんな状況が続くロシアで子供を産むつもりはない」と語った」

     

    自分の生まれた国を捨てることは、簡単にできることであるまい。積み重なったプーチンへの怒りと恐怖が、最後に国を捨てさせる決心をさせるのであろう。

     


    (3)「最近何週間かで、どれほどの数のロシア人が国を去ったのかを示す正確なデータは入手でない。また、ロシアを出た人々の全員が、長期間国外にとどまるのかどうかも分からない。しかし、他の諸国から得られるデータは、ロシアを去った人々の数が何千人にも上ることを示唆している。フィンランドの国境警備当局によれば、今年2月にフィンランドに入国したロシア人は約4万4000人となり、前年同月の2万7000人を上回った。ロシアからフィンランドに向かうバス、列車の乗車券は売り切れ状態になっており、国営フィンランド鉄道(VR)は、ヘルシンキとサンクトペテルブルクを結ぶ列車の増便に努めるとしている」

     

    ヘルシンキとサンクトペテルブルクを結ぶ列車は、増便するほど乗客が増えているという。ロシア人が、「プーチン逃避」を始めている証拠だ。

     


    (4)「一部のロシア人は、プーチン氏が近く戒厳令を出すのではないかと懸念している。戒厳令が出されれば、検閲のさらなる強化や国境封鎖が可能になる。プーチン氏は5日、戒厳令を布告する必要はないと述べていた。ロシアの侵攻から数日後に反戦デモに参加して逮捕されたサンクトペテルブルク在住の俳優兼監督の女性は、釈放後、急いでアルメニア行きの航空機のチケットを買いに行った。自分と5歳の息子用にだ。女性はフライトのために空港で16時間待った。アルメニアの首都エレバンに着いた女性は、警察官が自分のサンクトペテルブルクの住所を訪れていたことを知った。女性はロシアに戻るのは心配だが、エレバンで12カ月暮らせる程度のお金しか持っていないと話した」

     

    ロシア経済が、厳しさを増している現状から言えば、いずれ「生活苦デモ」が始まることだろう。それは、最終的に戒厳令でしか乗り切れない事態になるかも知れない。ロシアは、いつまでウクライナ戦争を続けられるか。戒厳令は、その反戦デモの頻発状況によって決められるに違いない。

     


    (5)「プーチン氏は長年、自らを批判する人々を黙らせようとしてきたが、その圧力は先週、一層強くなった。ロシア議会は、軍に関して意図的に「虚偽」の情報を拡散した場合に最長15年の禁錮刑を科す法案を可決した。無期限で友人宅に滞在するため、妻と5歳の息子と一緒にバルセロナに向かっていたエバン・セルゲエフ氏は、「われわれは戦争と呼ぶことさえ禁じられている」と話した。プーチン氏はウクライナ侵攻を「特殊作戦」と呼んでいる」

     

    プーチン氏は、国民が批判する目を恐れている。だから、「特殊作戦」と称し隠蔽している。いずれ、ロシア国民が事実を知ったとき、プーチン氏の身に何が起こるだろうか。ロシアとウクライナは、兄弟分である。そこで,殺戮が行なわれているのだ。

     


    (6)「
    高学歴でリベラルなロシア人の集団脱出は、同国の長期的な発展を脅かす。同国でこのような頭脳流出が起きることは、初めてではない。旧ソ連が1970年代にユダヤ人による大規模な海外移住に扉を開いた際、科学者、技術者や医師の多くがイスラエルや西側諸国に向かった」

     

    プーチン戦争は、ロシアの人材を国外流出させるテコになっている。知識産業が、ロシア経済を発展させる原動力であることを忘れているのだ。その点で、習近平氏の頭脳構造と類似しているから驚く。

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