勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ウクライナ経済ニュース時評 > ウクライナ経済ニュース時評

    a0960_008527_m
       

    ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、トランプ米政権のケロッグ特使(ウクライナ・ロシア担当)とキーウで会談し、ロシアの侵攻が続くウクライナの戦争終結を巡り協議した。ゼレンスキー氏は会談後、「ウクライナは投資と安全保障に関し、(トランプ)米大統領と強力で効果的な合意を結ぶ用意がある」とX(旧ツイッター)に投稿した。

    『時事通信』(2月21日付)は、「トランプ氏と『合意の用意』ウクライナ大統領 米特使と会談」と題する記事を掲載した。

    (1)「会談は、ロシア寄りの姿勢を示すトランプ氏が、ゼレンスキー氏に対する批判を強める中で行われた。ゼレンスキー氏は、これ以上亀裂が深まるのを回避しようとしたとみられ、「実り多い会談だった」と強調し、米国の支援に謝意を表明した。また、同氏はトランプ氏との合意に向けて「最も迅速で建設的なやり方を提案している」と説明。「強固なウクライナと米国の関係は全世界の利益になる」と訴えた」

    ゼレンスキー氏は、妥協する形で米国からのウクライナ鉱物資源の権利50%譲渡を認めた形だ。これに先立ち、米ホワイトハウスはウクライナが米国非難をやめて鉱物協定に署名するべきだと明らかにしていた。


    『中央日報』(2月21日付)は、「米ホワイトハウス『ウクライナは米国を非難せずレアアース供給協定にサインを』」と題する記事を掲載した。

    ウォルツ米大統領補佐官は20日(現地時間)、FOXニュースのインタビューで、ゼレンスキー大統領が米国の軍事支援の見返りに米国にレアアース(希土類)を供給するという協定に署名するのを避けている点を指摘し、「ここ(ワシントン)には多くの不満がある」と述べた。

    (2)「ウォルツ補佐官は、トランプ大統領だけでなくJ・D・バンス副大統領、ベッセント財務長官も先週、ゼレンスキー大統領との会談後「失望する」と話した。ウォルツ補佐官は、「米国はウクライナにこれ以上は望めない最高の安保保障を提供できる驚くほどの歴史的機会を提供した」とし「なぜ我々がこのような反発を受けているのか、米国がウクライナのためにしたすべてのことに対してメディアで『誹謗』を浴びせるのは容認できない」と話した。続いて「彼らは非難の声を低めて綿密に検討した後、取引に署名しなければいけない」と主張した。トランプ大統領は、ロシアが2022年2月にウクライナを侵攻して以降ワシントンが提供した経済的、軍事的支援に対する見返りの一環として、キーウが米国に約5000億ドル相当のレアアースを提供することを望むと述べた」

    今週初めにサウジアラビアで開かれた米ロ高官協議で、ウクライナが除外されたことで、米国とウクライナの間で葛藤が深まった。トランプ大統領は、ゼレンスキー大統領について「選挙をしない独裁者」とし「ぞっとする」と非難しエスカレートした。


    『フィナンシャル・タイムズ』(2月18日付)は、「トランプ米大統領が狙うウクライナの鉱物資源」と題する記事を掲載した。

    トランプ米大統領が12日、ウクライナに「援助の見返りに鉱物資源」を提案したことで、同国に大量に眠る希少な鉱物資源にスポットライトが当たった。米政府は過去の軍事支援への見返りとして、こうした資源の提供を求めている。

    (3)「ウクライナには最大で11兆5000億ドル(約1750兆円)相当の重要鉱物が眠る大きな地下鉱床がある。リチウムや黒鉛、コバルト、チタン、そしてスカンジウムといったレアアース(希土類)など、防衛から電気自動車(EV)まで様々な産業にとって不可欠な資源を持つ。欧州では珍しいこうした鉱床の確認は、安定した政府の司法管轄下でさえ何年もの時間がかかる。にもかかわらず、ウクライナではそうした大規模な探査や開発はされていない。埋蔵資源の質に関するデータも不足している。これは何百万ドルもの資金を新たな鉱山につぎ込む前に投資家が必要とする情報だ」

    ウクライナは、米国が不可欠とする鉱物資源が豊富である。これまで、ウクライナでは大規模な探査や開発もされていないのだ。約1750兆円とされる鉱物資源は、ソ連時代の探査結果に基づく評価である。


    (4)「ウクライナ政府の数字によると、ウクライナの地中には電池生産に使われるリチウムの世界埋蔵量の推定10%が眠っている。鉱床は約820平方キロメートルの範囲に及ぶようだが、これまでに採掘されたものは一つもない。まだ採掘されていないスカンジウム、そしてジェットエンジンに使われるジルコニウムの確認埋蔵量も大きい。半導体に使われるタンタルと超電導の特性を持つニオブ、航空宇宙産業で使われる金属ベリリウムについては一部の鉱床で小規模な採掘がされているが、こうした資源の可能性は膨大だとウクライナ政府関係者は話している」

    半導体に使われるタンタル、超電導の特性を持つニオブ、航空宇宙産業で使われる金属ベリリウムまで、垂涎の的になる資源ばかりだ。

    (5)「ウクライナ政府関係者によると、ミサイルや航空機、船舶に使われるチタンの埋蔵量でもウクライナは世界上位10位に入る。しかし、確認埋蔵量の約10%しか開発されていない。ウクライナのシュミハリ首相は2月初旬、同国は欧州のロシア産チタンの輸入を代替できると主張した。だが、ウクライナ地質調査所(UGS)のトップを務めたロマン・オピマク氏は2月中旬、ウクライナの埋蔵レアアースに関する「新しい分析評価はない」と述べ、推定埋蔵量は古い旧ソ連時代の研究に基づいていると指摘した」

    米戦略国際問題研究所(CSIS)ディレクターのグレースリン・バスカラン氏は、鉱物資源に関する言動は「大げさな政治的ポーズで(中略)データは最新ではなく、何がそこにあるかについての情報がほとんどない」と語っている。最新データはないのだ。



    a1320_000159_m
       

    中国は、これまでロシア経済を裏から支援し輸出で稼いできた。だが、ウクライナ和平が急進展する気配から、今度はウクライナへ接近して復興需要を狙う動きをみせている。なかなかの「商売人」である。ウクライナをできれば、「一帯一路」へ組入れたいとしている。ウクライナが、こういう誘いに乗るとも思えないだが、中国は「ビジネス第一」を掲げ始めた。

    『日本経済新聞 電子版』(2月17日付)は、「中国、ウクライナ巡る米ロ接近警戒 復興需要に期待も」と題する記事を掲載した。

    中国の習近平指導部は、ウクライナの戦争終結に向けた交渉開始で合意した米国とロシアの接近を警戒する。貿易やエネルギーで蜜月状態にある中ロ関係に影響しかねないからだ。トランプ米大統領が、意欲を見せる核軍縮の協議にロシアが応じれば、中国の軍拡路線に支障が出る可能性もある。


    (1)「中国の王毅共産党政治局員兼外相は14日、「平和に向けたあらゆる努力を歓迎する」と訪問先のドイツ・ミュンヘンで述べた。13日には英ロンドンでラミー英外相に「欧州を含む関係者と協力し、建設的役割を果たす」と伝えた。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』電子版は12日、中国政府関係者がこの数週間、停戦に向けてトランプ米政権に米ロ首脳会談を提案していたと報じた。停戦後の平和維持活動への支援にも意欲を示したという」

    中国は、ロシアへ非武器製品を輸出して儲けたが、今度はウクライナの復興需要を狙っている。「二股ビジネス」である。

    (2)「中国は、ロシアによるウクライナ侵略は地域情勢を緊迫させかねないと訴え、政治的な解決を求めてきた。双方に対話を促すため両国や周辺国へたびたび特別代表を派遣した。中立的な立場を唱える一方、ロシアから石油やガスの購入を増やして同国の戦費を事実上支えた。兵器の製造に欠かせない電子部品や半導体、工作機械も供給した。安価なエネルギー調達と対ロ輸出の拡大は中国の利益に沿う。対立する米国が、ウクライナ危機と中東問題という二正面の対応に追われ、対中抑止に割く余力が弱まるとの算段もあった」

    中国は内心、米国がウクライナ支援で手間取っていることを願っていた。だが、トランプ政権へ代わって、ウクライナ和平は電光石火で動いている。米国の手の内が読めないので、ウクライナへ接近しているのだ。


    (3)「ウクライナ戦争が、終結すれば米欧が対ロ制裁の緩和に動き、ロシアの対中依存度が下がる可能性がある。中ロ関係筋は「戦争状態が続くことを中国は内心、望んでいる」と話す。中国がより警戒するのが米ロの接近だ。習指導部は米国との戦力差を埋めるため、核戦力を急ピッチで増強している。トランプ大統領が打ち出した核軍縮の協議にロシアが応じれば、中国の軍拡継続に影響が及びかねない」

    米国は、ウクライナ和平を利用して「中ロ関係」へ割って入る意向をみせている。中国からロシアを引離す戦略だ。ロシアを「G8」へ復帰させるなどと「エサ」を撒き始めている。米国の狙いは、中国の孤立にある。

    (4)「ロシアは、中国の対米戦略の要だ。中ロは新興国の枠組みであるBRICSや上海協力機構(SCO)の加盟国拡大を主導してきた。経済協力をテコに友好国を結集し、米国に対抗できる勢力をつくる「多極化」戦略の一環だ。ウクライナの停戦交渉が、米ロ主導にならないよう欧州などの関与を唱える。王毅氏は15日、ミュンヘンでウクライナのシビハ外相と会い「公正で全ての当事者が受け入れられる和平協議を望む」と述べた」


    中国が、自らの国力衰退リスクを忘れて、大国意識で振る舞っている。BRICSの「頭目」を目指しているが、一枚岩でない。インドというライバルが控えているのだ。

    (5)「中国にとって停戦は、好機でもある。ウクライナの復旧や復興に伴うインフラ整備の需要を広域経済圏構想「一帯一路」で取り込めるとみるからだ。農業国ウクライナとの関係強化は食料安保の観点からも理にかなう。北京の外交筋は「中国が『建設的役割』を果たそうとしているのは停戦後の再建事業においてだろう」とみる」

    ウクライナが、中国の「一帯一路」へ参加することなどまずあり得ない。ロシアのウクライナ侵略では、一方的にロシアの肩を持ってきたからだ。こういう不条理なことをしながら、今度はウクライナを味方へ引き寄せようしている。余りにも「非常識」な振る舞いだ。



    a0960_008527_m
       

    トランプ米大統領は2月3日、ウクライナが埋蔵するレアアース(希土類)を確保したいと発言した。トランプ氏は、ホワイトハウスで記者団に対し、米国の支援に対してウクライナからの「応分の見返り」を望んでいると表明した。「われわれは、レアアースなどの提供についてウクライナと取引をしたいと考えている」とした。

    このトランプ発言を受けて、米国ベッセント財務長官は12日、両国間の鉱物資源に関する協定はロシア・ウクライナ戦争終結後のウクライナにとって「安全保障の盾」になるとの考えを示した。ベッセント長官は、トランプ米政権の閣僚として初めてウクライナを訪問した。トランプ氏は、これまでウクライナに対する軍事支援継続について明言を避ける一方、米国の支援には「保証」が必要としており両国の鉱物資源協定締結を要求している。

    米誌『フォーブス』によると、ウクライナには14兆8000億ドル相当の重要鉱物資源が埋蔵されている。その7割はドネツク州やルガンスク州などロシアが実効支配する東部に位置する。米国は、ウクライナと鉱物資源協定を結び、これを根拠にしてロシア軍のドネツク州やルガンスク州などからの撤退を要求する根拠にするのであろう。


    『ロイター』(2月16日付)は、「米の鉱物資源協定案 ウクライナ防衛につながらずーゼレンスキー氏」と題する記事を掲載した。

    ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、米政府から提示された鉱物資源協定案について、ウクライナの求める安全保障条項が盛り込まれておらず、現時点で国益にならないとの認識を示した。

    (1)「関係筋によると、米国はウクライナの重要鉱物資源の50%の所有権を取得することを提案。協定案は、ベッセント米財務長官が12日にキーウ(キエフ)を訪問して提示した。ゼレンスキー氏は、米国の協定案について「今日のわれわれの国益にならない」とし「この文書には安全保障に関する具体的な情報があまり盛り込まれていない。私にとっては、ある種の安全保障とある種の投資の間の結びつきが非常に重要だ」と記者団に述べた。関係筋によると、ゼレンスキー氏は米国が12日に協定案を提示した際、署名を断った。同氏は国内憲法に沿った自身の鉱物協定案について米国側と協議したという」

    米国は、ウクライナとの間で結ぶ「鉱物協定案」を急いでいる。だが、ウクライナは米国へ和平後の安保姿勢を明確にするよう迫っている。米国は、なぜ急にウクライナの鉱物資源協定を要求しているのか。これが、大きなヒントになりそうだ。


    『日本経済新聞 電子版』(2月5日付)は、「トランプ氏、ウクライナ支援継続探る 資源取引を口実に」と題する記事を掲載した。

    トランプ米大統領はウクライナへの武器供与の継続を探り始めた。停止すれば、ロシアとの停戦交渉でウクライナが不利な立場に陥りかねないとの判断がある。支援を続ける条件にレアアース(希土類)の供与を同国に求めたのは米国内向けの口実の側面も透ける。

    (2)「ウクライナと取引をしようとしている。彼らがレアアースやその他のものと引き換えに我々の支援を得るものだ」。トランプ氏は3日、ホワイトハウスで記者団にウクライナ国内の資源を米国に提供すれば武器供与を続ける「ディール(取引)」を話し合っていると明かした」

    トランプ氏は、ウクライナへ武器供与する条件に資源協定を要求している。しかも、ウクライナが埋蔵する資源の50%を要求している。これは、和平協定交渉でロシアに対してウクライナ占領地撤退要求に使うのであろう。ロシアへ、「米国の資源を占領している」から撤退せよと要求するのだ。


    (3)「米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)によると、ロシアがウクライナ侵略を始めた2022年2月から24年6月までに米国が決めたウクライナ政府への直接供与は1060億ドルに達する。トランプ氏は大統領選の期間中、ウクライナへの巨額支援の継続に否定的な立場を繰り返してきた。3日に「我々は(ウクライナに)保証を求めている」と言及したのは、見返りとしてレアアースを得られれば米国の一方的な支援ではないと誇示できるためだ」

    米国が、24年6月までに決めたウクライナ政府への直接供与は1060億ドルである。それにもかかわらず、鉱物資源の50%権利を要求するのは、和平交渉でのテコに使うつもりだろう。

    (4)「ウクライナのゼレンスキー大統領は、鉱物資源の供給が米国の経済的な利益につながると主張し、トランプ氏の歓心を買ったとみられる。ウクライナにある資源が、米国の実利につながるかは見通せない。米誌フォーブスによると、ウクライナには14兆8000億ドル相当の重要鉱物資源が埋蔵されている。その7割はドネツク州やルガンスク州などロシアが実効支配する東部に位置する」

    ウクライナのゼレンスキー氏が、トランプ氏へ鉱物資源協定を持ちかけたものだ。ゼレンスキー氏は、外交手腕を使ってトランプ氏を引きつけている。なかなかの外交巧者である。米国の力を使って、占領地の一部を奪回しようという戦略である。


    (5)「米紙『ワシントン・ポスト』は2月3日、トランプ氏が想定しているのは半導体や電気自動車(EV)などの部品に使用されるレアアースの取得だと伝えた。ロシア側がすでに12兆ドル相当を超える規模のウクライナのエネルギー資源を押さえたとの専門家の推計も報じた」

    ウクライナは、米国の力でロシアが押さえている鉱物資源を取り戻したいのだ。イソップ物語に出てきそうな話になってきた。

    テイカカズラ
       

    ロシア大統領プーチン氏は2022年、ウクライナで占領した「ロシアの土地」を奪回するいかなる試みに対しても、核攻撃による報復につながると警告した。さらに、「これははったりではない」とも語った。このロシアへ、ウクライナ軍が越境攻撃を敢行し、30キロを超えてロシア領を支配している。プーチン氏が、ウクライナ軍へ核投下という脅しを控えているのは、通常兵器の戦争に核攻撃が不可能という現実を見せつけている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月17日付)は、「ウクライナ越境攻撃、『核の脅し』利かず 抑止論に一石」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ軍が8月6日に始めたロシア西部クルスク州への越境攻撃は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身で情報工作にたけたプーチン大統領のお株を奪った格好になった。核大国に対する史上初の大規模侵攻は、ロシアの核の脅しの空疎さも印象づけた。今回の奇襲劇は各国の安全保障の論議にも影響を及ぼす。

     

    (1)「ウクライナ政府は14日、ロシア西部クルスク州の国境地帯をロシアの攻撃から自国を守るための「緩衝地帯」にすると発表した。ウクライナ軍は15日には占領地域の管理にあたる軍司令官事務所の設置を公表した。戦闘の長期化に備え、防衛陣地の建設も急いでいる。ウクライナ側は今回の作戦にあたり、徹底した情報統制をしいた。作戦に参加した兵員は日本経済新聞に「情報漏洩の防止のため、部隊の大半は直前まで越境攻撃することを知らされなかった」と明かした。ロシア側は同国との対立激化を恐れるバイデン政権がウクライナ軍の越境攻撃を容認しないとみていたようだ。このためクルスク州の防衛は徴集兵など練度の低い少数の兵力に任されていた」

     

    ロシアのプーチン氏は、ウクライナ軍の越境攻撃を防ぐことができなかった。ウクライナ軍が、完全は情報管理を行ったからだ。

     

    (2)「ウクライナの越境攻撃は、核大国ロシアとの全面対決につながる「レッドライン」を恐れ、ウクライナ支援を慎重に判断してきた西側諸国の姿勢にも一石を投じた。今回の攻撃では、西側が関与していると断定する一方、従来のような核の脅しを控えている。同州の戦闘を「対テロ作戦」と位置づけ、ウクライナの攻撃を軽視するかのような構えをみせる。政権の管理下にある国営メディアも、クルスク情勢について詳細な報道を控えている。インスブルック大のゲルハルト・マンゴット教授(国際関係学)は「情勢を見る限り、今回の攻撃の報復として核兵器が使用される可能性はない」と分析する」

     

    ロシアは、ウクライナ越境攻撃に対して核攻撃できない現実を見せつけた。通常兵器の攻撃に対して核による報復を行えば、ロシアの世界的地位をさらに引下げるからだ。

     

    (3)「プーチン氏は2022年、ウクライナで占領した「ロシアの土地」を奪回するいかなる試みも核攻撃による報復につながると警告してきた。だが、ロシアに米欧と軍事的に事を構える余力はなく、プーチン氏の脅しをブラフだとする見方も少なくなかった。今回の攻撃でこうした認識が広がることで「ロシアを追い詰めるべきでない」とする融和論が後退するのは間違いない。バイデン政権はなお、米供与の長距離ミサイルを使ったロシア領内への攻撃をウクライナに認めていない。ただ米議会でも今回の攻撃を評価する声が広がっており、解禁を求める意見も出始めている」

     

    西側は、これまでロシアが簡単に核で報復するという「仮定」を立ててきた。これが、プーチン氏の野望を膨らませる結果になった。この仮想は、今回のウクライナ軍の越境攻撃で崩れた。この成果は、今後の外交戦略に生かされるであろう。

     

    (4)「核の非保有国が、保有国の本土に侵攻した事例ができたことで、今後の核抑止の議論にも影響を及ぼす可能性がある。米国はかねて、ロシアにウクライナへの核使用を控えるよう強く警告してきた。核使用は自国への多大な経済・軍事的打撃を伴うため、実際に踏み切るのは容易ではない。1982年のフォークランド紛争でもアルゼンチンは英国領の島に侵攻したが、英国は核使用を控えた。欧州連合(EU)加盟国の高官は「今回の攻撃は、核の有効性を巡る幻想を問い直す機会になる」と語る」

     

    プーチン氏は、ウクライナ軍への核使用を控えている。それだけ、冷静になってきた証拠だ。彼も、弱気になっており「戦後」を考えなければならない段階に来ているのだ。

    a0960_008532_m
       

    ロシアのプーチン大統領は、ライバル不在の中で大統領選に圧勝した。当面の課題の第一は、ウクライナ侵攻をいつ止めるのかだ。そのカギは、ロシアの兵器増産力がいつまで保つかにもかかっている。数年説もあるが、長引けば長引くほどロシアの国力を消耗する。すでに予算の29%を国防費に向けている。確実に国力衰退に向っている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月20日付)は、「ロシアの兵器増産 持続力には疑問」と題する記事を掲載した。 

    ロシアの戦車・ミサイル・砲弾生産能力は西側諸国を驚かせ、ウクライナにさらなる圧力をかけた。問題は、それがいつまで続くかだ。欧米の当局者やアナリストの間では、ロシアが公表している軍事生産量は誤解を招きやすく、労働力不足や品質低下などの問題を覆い隠しているとの声がある。増産は経済全体の資源を消耗するため、長く続けるのは難しい可能性がある。生産量が落ちれば、中国・イラン・北朝鮮といった友好国からの援助にさらに頼ることになるかもしれないという。

     

    (1)「ロシアが2022年にウクライナに侵攻すると、米国とその同盟諸国は一連の制裁を科し、ロシアの軍需産業を阻害しようとした。戦場では、ロシアはすぐに装備を失い、ミサイルや砲弾の在庫が底を突いた。これを受けて、ロシア政府は直ちに兵器産業に資源を投入した。昨年は、連邦政府支出に占める国防費の割合が21%と、2020年の約14%を上回った。2024年の連邦予算ではこの割合がさらに大きくなり、29%を超えた」 

    ロシアの国防費は24年、予算の29%超にもなった。ウクライナ侵攻前の20年は、14%だ。この間に倍増している。国家経済を大きく圧迫していることは疑いない。 

    (2)「欧米の当局者らによれば、ロシアはミサイルなどの兵器も増産している。例えば、2021年に40万発だった砲弾生産量は翌年に60万発となり、米国と欧州連合(EU)の合計生産量を上回ったと、エストニアの軍事情報機関は推定している。北大西洋条約機構(NATO)の高官によれば、ロシアは現在の規模であと2~5年は戦力を維持できるとみられる。欧州の少なくとも二つの軍事情報機関は、あと数年は十分な兵器を生産できるとの見方を示している」 

    欧州の複数の軍事情報機関は、ロシアがあと数年は兵器生産ができるとみている。

     

    (3)「ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、増産――および軍事費全体の水準――は持続可能なものではない可能性があるとフィンランド銀行は結論づけている。同行の分析では、増産された防衛関連品の大半はローテク製品(加工鋼など)であり、ロシアが国外のサプライヤーに依存している、より高度な製品(半導体など)ではないことも明らかになっている。ロシアは一部の製品については制裁を回避することができたが、戦車の乗組員の視界を確保する光学部品など、ロシアが欧米から購入していた特殊部品は、第三者を通じて購入することがはるかに難しい」 

    フィンランド銀行は、ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、兵器生産「数年説」を否定する。増産された防衛関連品の大半が、ローテク製品(加工鋼など)であると指摘している。ハイテク兵器ではないのだ。 

    (4)「ロシアが主張する生産数に疑問を呈するアナリストもいる。例えばロシアの生産数は、新たに生産された装甲車と、倉庫から出して改修した旧型車を区別していない。「生産数は誇張されている」と国際戦略研究所のマイケル・ジェルスタッド研究員は言う。ジェルスタッド氏が開戦前後の衛星画像を調べたところ、ロシアが昨年、少なくとも1200両の旧型戦車を倉庫から引っ張り出してきたとみられることが分かったという。つまり、ロシアが昨年生産した戦車はせいぜい330両ということになるが、実際の数はその半分である可能性が高いと同氏は指摘する」 

    ロシアは、兵器の生産数を誇張しているとみられる。これまで眠っていた旧型戦車(約1200両)を引っ張り出して、「増産」に数えている節がある。ロシアが、昨年生産した戦車はせいぜい330両とみられる。

     

    (5)「ロシアの兵器メーカーは人手不足に直面している。ロシア大統領府のウェブサイトに掲載された発言記録によれば、ウラジーミル・プーチン大統領は2月に同国最大の戦車工場を訪問した際、熟練工が不足していることは認識していると従業員に語った。ウラルバゴンザボード社の同工場では昨年初め、特に深刻な人手不足に陥り、近隣の刑務所から250人の受刑者を受け入れたと、同刑務所が当時明らかにしていた。ユーリ・ボリソフ副首相は2022年6月、兵器産業では労働者が約40万人不足していると述べた。ボリソフ氏などの当局者は同産業の必要人員を約200万人としていることから、約20%の人員が足りていない計算になる」 

    ロシアの兵器生産では、労働力不足で刑務所の受刑者を兵器生産に当らせているほどだ。兵器産業では労働者が約40万人不足(20%)している状態だ。増産説に疑問がつく大きな理由だ。 

     

     

    このページのトップヘ