勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシアの軍事侵攻の犠牲になっているウクライナが、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を正式に申入れた。ニュージーランド(NZ)外務貿易省は7月7日、ウクライナから5月にTPPへの正式な加盟申請を受け取ったことを明らかにしたもの。TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は、5月1日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    ウクライナは、2030年開催の万博でも立候補したが予備選で敗れた経緯がある。ロシアの侵攻終了後を見据えており、その準備を着々と進めているところだ。TPP加盟申請もその一環である。実は現在、ウクライナ財務省顧問として、元日本銀行勤務でIMFへも派遣された人物が、経済再建の指南役になっている。ウクライナの行政改革や汚職撲滅で種々、アドバイスをしている模様だ。

     

    ウクライナは、EU(欧州連合)加盟を熱望しているが、行政改革や汚職撲滅が最大の課題となっている。旧ソ連式の行政が改まらない限り、EU加盟は困難とされている。TPP加盟には、先進国並みの明瞭な行政が要求されるので、EU加盟準備と同時並行で改革促進のテコにしようという狙いであろう。TPPへの加盟をテコに経済復興で支援を取り付けたい狙いがあるとの指摘もされている。こういう単純なソロバン計算よりも、ウクライナがEUにも加盟しTPPにも軸足を広げたいのであろう。これによって、ロシアを上回る経済発展の礎石を作り上げて差をつけたい。そういう「負けじ魂」も感じられるのだ。

     

    ウクライナは、旧ソ連時代に鉄鋼業や造船業・宇宙産業などを手がけてきたので潜在的な工業水準は高いものがある。欧州の「パンかご」というイメージで穀物生産国である一方、工業でも見逃せない力を持っているのだ。今回のロシアによる侵攻では、ITの潜在力を生かして機動的な戦い方を独自に編み出しており、NATO(北大西洋条約機構)に舌を巻かせている。

     

    ウクライナの国際競争力ランキング(2019年:世界経済フォーラム=WEF調べ)では、85位である。インターネット自由度は22位(2022年)と上位に食い込み、ロシア(53位)を大きく引離している。この差が、ロシアとの戦いでウクライナの敏捷さに現れているのであろう。ロシア大統領プーチン氏は、このウクライナの国民性を過小評価していたと見られる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月7日付)は、「ウクライナ、TPP加盟を正式申請 参加国の支援拡大狙う」と題する記事を掲載した。

     

    TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は51日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    (1)「ウクライナ経済省は5月の声明で、TPP加盟の目的に穀物以外の貿易の多様化や加工産業への外資の誘致を挙げた。「ビジネス関係を広げ、包括的な国際支援を得ることはロシアの侵略に対抗するうえでも重要だ」と述べた。NZで15~16日に開くTPPの閣僚会合では承認済みの英国の加盟手続きが完了する見通し。ウクライナの加盟申請についても協議する可能性がある。後藤茂之経済財政・再生相は7日、都内で記者団に「ウクライナがTPPの高いレベルを完全に満たすことができるかどうかについて、まずはしっかりと見極める必要がある」と述べた」

     

    ウクライナは、英国がTPP加盟で2年間要したのと比較して、もっと短期間に加入条件をクリアできる自信を見せている。その根拠は不明だが、ウクライナはEU加盟に備えて国内条件を急ピッチで整備していることで自信を深めているのかも知れない。復興後の経済で、引き続き経済制裁を受けているだろうロシアに比較して急ピッチの回復を実現させ、見返したい気持ちが強いのであろう。

     

    (2)「TPPには中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも加盟を申請中だ。加盟には全参加国の同意が必要で、英国は申請から承認まで2年以上を要した。貿易や投資、サービスなどの水準をウクライナがクリアできるかが焦点となる」

     

    TPP加盟先願組が、5カ国・地域もある。難物は中国の扱いだ。中国の産業構造は国有企業中心で、最初からTPP加盟資格を欠いている。中国は、これを承知での加盟申請である。本音は、台湾加盟阻止であろう。

     

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    ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダム破壊は、人道上も許されない卑劣な行為である。カホフカ水力発電所は、ロシア軍が支配していた場所だ。そこで起ったダム決壊は、仮に自然崩壊としても管理責任はロシア側にある。

     

    ロシア側が、蛮行に訴えなければならないほど、ロシア軍には勝利への見通しが立たないのであろう。こうした追い詰めた状況下で、ロシアは手段を選ばず手当たり次第に蛮行を重ねている。今後も、何をするか分らない「暗黒部分」が存在することに注意をしなければならなくなった。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月8日付)は、「ロシア戦争犯罪疑惑深めたウクライナのダム決壊」と題する社説を掲載した。

     

    ウクライナへの侵攻を開始して以来、ロシア軍は同国で数知れぬ残虐行為を犯してきたが、南部ヘルソン州にあるカホフカ水力発電所のダム破壊は最も非道な行為の一つだ。構造上の問題による決壊である可能性も否定できない。しかし、どう分析してみても、ウクライナよりもロシアの方が得るものが大きいということは明白だ。

     

    (1)「洪水を起こす目的で意図的にダムを破壊するというのは、ロシアの戦略に沿った行為だ。この出来事は、ウクライナが待望の反転攻勢を仕掛けようというタイミングで起こった。ロシアは、ウクライナの士気と戦闘能力を低下させようと、主要なインフラに攻撃を加えてきた。ウクライナの領土に対しては焦土作戦を実行してきた。これがもし構造上の問題による決壊であるならば、ロシアは、何カ月も前の戦闘でダメージを受けたダムの修復を怠り、最近の異常に高い水位を放置していたことから、過失の罪に問われるべきだろう

     

    下線部のように、ダムを支配していたのはロシアである。ロシアが全責任を負うべき事態だ。

     

    (2)「ロシアは、ウクライナの「テロリスト」を非難するプロパガンダを展開しているが、ウクライナ側がダムの破壊から得られるものはほとんどない。決壊によってクリミアへの水の供給に影響を与えられるかもしれないが、2014年のロシアによる一方的な併合以降、クリミア半島は、この水源からの水の供給なしでしのいできた。ドニプロの東側のロシア軍の要塞が洪水に見舞われるだろうが、ウクライナ軍にとってはドニエプル川を越えて南下する進軍が困難になる」

     

    ダム破壊で、ウクライナが得られる利益は全くない。逆に損害を被っている。

     

    (3)「ダムの決壊により、何十もの町や村が破壊され、何千人もが家を失い、広い地域にわたって家庭や産業への水やエネルギーの供給に支障が出ると予想される。すでに水力発電所が1つ破壊されており、さらに上流にあるいくつかの発電所にも危険が迫っている。ダムの貯水池から冷却水を取水するザポロジエ原子力発電所は今のところ無事のようではある。さらに、ウクライナの主要穀倉地帯の広い範囲で灌漑システムが混乱する。こうしたことを考えると、戦後の復興費用を大幅に増加させるダムの破壊をウクライナが行ったと考えるのは無理がある」

     

    ウクライナは、ダム破壊で膨大な損害を被った。ウクライナの主要穀倉地帯の水害だけに受ける被害は甚大である。こういう視点からも、ウクライナがダム破壊を行ったとするロシアの主張には、全く合理性がない。

     

    (4)「総合的に見ると、カホフカ水力発電所のダム破壊は、これからのウクライナによる反転攻勢に打撃となった。ウクライナの最大の軍事的な目標と目されている南部クリミアとロシア本土をつなぐ橋を断つ作戦を困難にする。これこそが、ロシアがウクライナ侵略から得た最大の戦略的、象徴的な戦果だ。ウクライナによる南部の主要な反攻が、ドニエプル川を渡る作戦である可能性は低い。しかし、ダムの決壊により、道路の横断が不可能になり、川幅がさらに広がり、その東岸が浸水してしまったがために、ウクライナ軍がこの地域を足場に攻撃して、ロシア軍を足止めすることは、当面は、ほぼ不可能になってしまった。一方、ロシア側は、ウクライナが反攻の焦点にせざるを得なくなったザポロジエ州やドンバス地方南部に兵力を集中できる。900キロに及んでいた前線は、実質的に短縮された」

     

    ダム破壊で受けるロシアの軍事的利益は計り知れない。ウクライナ軍のドニエプル川を渡る作戦の可能性は低く、ロシア軍は防衛線を短縮できるからだ。ただ、ウクライナ軍がこの逆境をどう跳ね返すかという「可能性」もないではあるまい。

     

    (5)「ウクライナを支援する西側諸国はこのことをよく考えるべきだ。カホフカ水力発電所のダム破壊は、ロシア軍には自らの欠点を補うための作戦を遂行する能力があり、プーチン大統領はどこまでも過激な手段を取る覚悟があることを示唆した。ウクライナが形勢逆転の大戦果を上げる可能性は否定できない。しかし、西側諸国が、戦況の決定的な転換が数カ月以内に起こることを期待するならば、腰を据えてウクライナ支援を続ける覚悟が必要だろう」

     

    プーチン氏は、元KGB(ソ連スパイ)出身である。残酷なことを平然と行う訓練を受けてきた人物だ。実際、大統領就任後にもいくつかの事件が、プーチン氏の指令で行われたと報道されている。これからも、ウクライナで何が起るか分らない不気味さを残している。

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    6月6日未明に起ったウクライナ南部のダム決壊は、想像以上の後遺症をもたらすことが分ってきた。ウクライナ軍南部司令部のナタリヤ・フメニュク報道官は、ウクライナ・テレビに対し「(ロシア占領地域の)対歩兵用地雷の多くが浮き上がり、水に流されている」と述べた。その上で、こうした地雷ががれきなどに当たると爆発する可能性が高いと述べ、「これは大きな危険となる」と指摘する。事態は深刻である。 

    ウクライナとロシアは互いを非難しているが、ダムの決壊が起きたのはロシアの占領地域である。決壊の原因はまだ分っていないものの、CNNによる衛星画像の分析によれば、ダムは決壊の数日前に損傷していた。この損傷が、自然発生か人為的工作によるものかは不明である。ロシア側の占領地域ダムだけに、損傷を修復する、あるいは警告する義務がロシア側にある。ロシアの責任は免れず永遠の十字架を背負うだろう。

     

    『ブルームバーグ』(6月8日付)は、「ロシアのエリート層、ウクライナ侵攻の見通し悲観ー停戦も見えず」と題する記事を掲載した。 

    プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻を巡り、重苦しい空気がロシアのエリート層を支配している。ロシアにとっていまやあり得る結果は、最善でも紛争の「凍結」でしかないとの見方が広がっている。 

    (1)「事情に詳しい7人の関係者によると、政治や実業界のエリート層の多くは戦争にうんざりし、戦争を止めたいと考えているが、プーチン大統領が戦争を停止するとは思っていない。関係者は繊細な内容を話しているとして匿名を要請した。侵攻について大統領に立ち向かおうとする者は誰もいないが、政権に対する絶対的な信念は揺らいでいると、関係者4人が述べた 

    ロシア・エリートは、すでにプーチン氏への絶対的な信念が揺らいでいる。危険水域へ入っている証拠だ。 

    (2)「最も望ましい展開は、年内に交渉が行われて紛争が「凍結」され、占領地域の一部の支配を維持してプーチン氏が一応の勝利を宣言できるようになることだと、関係者の2人は話した。元ロシア政府顧問で侵攻後に国を離れ、現在はウィーンを拠点とするシンクタンク、『Re:Russia』の責任者を務めるキリル・ロゴフ氏は「エリートは袋小路にはまっている。無意味な戦争のスケープゴートにされることを恐れている」と指摘。「ロシアのエリート層の間で、プーチン氏が今回の戦争に勝利できない可能性がこれほど広く考えられるようになったというのは、実に驚くべきだ」と続けた」 

    プーチン氏への絶対的な信頼が揺らいでいることは、これまでになかった。「プーチン終焉」が近くなっている兆候であろう。

     

    (3)「失望感の深まりで、先行きが怪しくなってきた侵攻の責任を巡る非難合戦が強まりそうだ。すでに、国粋主義的な強硬派とロシア国防省の間の亀裂は表面化している。欧米の巨額の支援を受けたウクライナが反転攻勢に乗り出す中で、ロシア当局者による戦況好転への期待は低い。ロシア軍は冬季に攻勢をかけたもののほとんど進軍できず、多大な犠牲ばかりを生んだ」 

    下線部は、重大な事態である。傭兵組織を率いるプリゴジン氏は国防省トップをこき下ろしている。これだけでも「敗北の前兆」だ。プーチン氏が、この紛糾を抑える動きもしないとは、どういう意味か。両者が、武器を持っているので片方の肩を持てば相手側がプーチン氏の追い落としを策するであろう。そういう意味では、極めて危険なゾーンに入っている。ウクライナ侵攻の継戦能力に疑問符がつくのだ。 

    (4)「ウクライナに対する侵攻を支持し、攻撃強化を望んでいた向きですら、戦争の見通しに対する期待はしぼんだ様子だ。侵攻は当初、数日で終わると考えられていたが、いまや16カ月目に入った。ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏ら国粋主義者は、ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に軍事的失敗の責任があると非難し、破滅的な敗北を避けるため総動員と戒厳令の導入を呼び掛けている。ロシア大統領府と緊密な関係を持つ政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏は、「あまりに多くの大きな誤りがあった」と述べ、「ずっと前には、ロシアがウクライナの大部分を占領できるとの期待があった。しかしその期待は実現しなかった」と説明した」 

    国粋主義者と国防省のトップが、責任のなすり合いをしている。これは、ウクライナ侵攻が敗北過程に入っている証拠であろう。旧日本軍では、最後に陸軍と海軍が争って合同作戦を妨げた例もある。「負け戦」とは、内部の統一が崩れることでもあるのだ。

     

    (5)「プーチン大統領と政権幹部は、まだロシアが勝利するとの主張を続けている。政権内部からプーチン氏に挑戦するような兆しは見られない。事情に詳しい関係者4人によると、エリートの大半は大勢に影響を及ぼすことはできないと信じ、目立たないようおとなしく仕事に専念しているという。プーチン氏は終戦を望んでいる兆候を一切見せていないと、関係者5人が述べた」 

    日本では敗戦前夜、ポツダム宣言受託をめぐって血なまぐさい争いがあった。終戦促進派がいた。ロシアには、未だそれが現れないのだ。エリートは、「国難」を見て見ぬ振りをしている。これもロシア危機を示す例だ。

     

     

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    ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、定例のビデオ演説で、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトとその周辺で戦っている部隊から「待ち望んでいたニュース」があったと歓迎した。シルスキー陸軍司令官はこれより先、バフムト周辺でウクライナ軍が前進を続けていると述べた。

     

    『ロイター』(6月6日付)は、「ウクライナ軍、バフムト周辺で前進 大統領『待望のニュース』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ゼレンスキー大統領は、「今日、私たちが待ち望んでいたニュースを与えてくれた兵士ら全員に感謝している。バフムト方面の兵士のみなさん、素晴らしい」と語った。それ以上の詳細には言及しなかった。ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は5日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの北方にあるベルキフカの一部をウクライナ軍が奪還したと明らかにした」

     

    ウクライナは、「反攻作戦」について沈黙してきたが、「勝利」のニュースを発表した。それだけ激戦が続いていることを裏付けている。ウクライナ軍の動向には、世界が注目しているだけに、誇張した報道は信頼を失う。

     

    (2)「ロシアは5月、バフムトを掌握したと主張したが、ウクライナ側は一部地域をまだ維持しているとして、ロシアの完全掌握を否定した。ゼレンスキー氏は、ロシアがウクライナ軍の行動に「ヒステリックに」反応していると述べ「巧みに、断固として、効果的にわれわれの陣地を守り、占領者を破壊し前進している」と2部隊に言及した」。

     

    ウクライナ軍報道官は5日、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の支配地域でウクライナ軍の「大規模攻撃」を撃退したという発表した。これに対し、そのような情報はないと反論したもの。ロシア軍は声明で、ウクライナ兵250人を殺害し、複数の装甲車を破壊したと述べたが、十分な証拠は示さなかった。これに対してウクライナ軍の報道官はCNNに、ドネツク州で大規模攻撃があったという情報はないと反論した。

     

    (3)「ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は5日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの北方にあるベルキフカの一部をウクライナ軍が奪還したと明らかにした。また、ロシア正規軍の戦術では2週間以内にさらなる撤退を迫られると述べた」

     

    ロシアは、正規軍と傭兵部隊ワグネルとの間で「内紛」を起こしている。戦線が膠着状態にあることから始まった責任のなすりあいであろう。ただ。ワグネル創始者プリゴジン氏がロシア軍の実態を暴いている点に注目すべきだ。

     

    『ロイター』(6月6日付)は、「ウ軍がバフムト北の一部奪還、失策でロ軍さらに撤退もープリゴジン氏」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は5日、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトの北方にあるベルキフカの一部をウクライナ軍が奪還したと明らかにした。また、ロシア正規軍の戦術では2週間以内にさらなる撤退を迫られると述べた。

     

    (4)「ベルキフカは、バフムトの北西約3キロメートルの距離に位置。プリゴジン氏は自身のプレスサービスが公開した音声メッセージで「ベルキフカの集落の一部が失われた。軍隊は静かに逃げている。恥ずべきことだ」と述べた。ドネツク州の親ロシア派支配地域を率いるデニス・プシリン氏はロシア国営テレビに対し、状況は「コントロール下にある」としながらも「極めて困難」との認識を示した。ワグネルは5月、バフムトのほぼ全域をウクライナ軍との長い戦闘の末に掌握し、陣地をロシア正規軍に明け渡した。以来、ウクライナ軍は同市の北側と南側を攻撃し続けている」

     

    バフムトをめぐる戦いは、まさに「死闘」そのものの厳しさである。ウクライナ軍は、最後まで橋頭堡を維持しており、ロシアへの消耗戦を強いてきた。それが、傭兵部隊ワグネルを撤退させた理由である。ロシア正規軍は、ワグネルと交代した形だが、劣勢を覆いがたいのであろう。

     

    (5)「プリゴジン氏は5日にテレグラムに投稿されたインタビューで、ロシア国防省の戦術は国民と政府指導者を騙していると発言。バフムト周辺でのウクライナの動きは「われわれの前進よりもはるかに速く起こり得る」とし、「国防省の目的は全てが順調で、ロシア軍が前進しているように装うことだが、現実には今起きていることが2週間後に戦術的に大きな敗北をもたらすだろう」と警告した。プリゴジン氏はまた、ロシア軍がドネツク周辺の最近の戦闘でウクライナ軍に大きな損失をもたらしたとする国防省の主張について、「ばかげたサイエンスフィクション(SF)にすぎない」と懐疑的な見方を示した

     ロシア軍は、「ウクライナ兵250人を殺害し、複数の装甲車を破壊した」と発表したが、プリゴジン氏は「SF」に過ぎないと一蹴している。ロシア軍が、そのような力を持っていないと言いたいのであろう。


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    ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は6月4日、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)との約1時間のインタビューで、長い間待ち望まれていた反転攻勢の用意ができていると語った。同時に、成功を収めるには時間がかかり、多大なコストを伴う可能性があるとの見方も示した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月5日付)は、「ゼレンスキー氏が語る反転攻勢・米大統領選・中国」と題する記事を掲載した。

     

    1時間に及んだインタビューの話題は多岐にわたった。ゼレンスキー氏はこの中で、来年の米大統領選を受けて、現政権と比べてウクライナへの支援姿勢が弱い政権が誕生する可能性があることへの懸念を示した。また、北大西洋条約機構(NATO)に対し、ウクライナの加盟に向けた明確な道筋を示すよう呼びかけた。中国に対してロシアの制止を試みるよう求めた。

     

    (1)「ゼレンスキー氏は、前線でのロシアの空軍力の優位を認め、それに対する防衛手段が足りなければ、反転攻勢で「多数の兵士が死亡するだろう」と語った。ウクライナは反転攻勢に向けて、もっと多くの西側製兵器を得られることを望んでいたが、それでも開始の準備はできているという。「われわれは特定のものを欲しているが、何カ月も待てない」とゼレンスキー氏は述べた。同氏はウクライナの地上部隊について、同国東部および南部の約2割に塹壕を掘ってしがみつこうとしているロシアの部隊より「強く、士気が高い」と語った」

     

    ゼレンスキー氏は、極めて慎重である。反攻作戦がウクライナ軍の犠牲を伴うことも正直に話している。最高指揮官としての苦衷を吐露しているのだ。それだけに、最大効果・最小犠牲による戦果をめざしている。反攻作戦の中核部隊になる約3万名の将兵は、これまで最前線で戦わず温存されてきた部隊である。十分な訓練を積んで反攻作戦を展開する。

     

    (2)「ある西側当局者によると、ウクライナを支持する西側諸国は反転攻勢で戦争が終結しないであろうことを認識しているが、塹壕で身を隠し、ウクライナへの支援が損なわれるのを待つというロシアのウラジーミル・プーチン大統領の戦略が無益であることを反転攻勢で示してほしいと考えているという」

     

    塹壕に身を潜めるロシア兵は、相当の心理的プレッシャーが掛っているという。平家が、「富士川の羽音」に驚いて退却したのと同様に、ウクライナ軍のわずかな攻撃にも「援軍を要請する」騒ぎになっているという。報道では、ロシア軍が戦う前に集団で投降したとも報じられている。

     

    (3)「ゼレンスキー氏は、米国の政権交代がどんな形になろうとも、それがウクライナ支援に及ぼし得る影響を懸念していると語った。 「支援を受けている現在のような状況下では誰であれ、変化を恐れるものだ」と同氏。「正直に言って、政権交代となれば、私は他の誰もが感じるのと同じことを感じる。それは、良い方向に変わることを望むが、その逆になる恐れもあるというものだ」。ゼレンスキー氏は、24時間で戦争を終わらせるというトランプ氏の主張について、理解できないと語った。ロシアが既にクリミア半島とウクライナ東部の一部地域を占領していた時点で、当時大統領だったトランプ氏がこうした主張通りのことを実現できなかったからだ」

     

    ゼレンスキー氏は、米国の次期大統領選挙後にも変わらぬ支援を要請している。トランプ前米大統領の「24時間で戦争を終わらせる」という発言には、理解できないと否定した。当然であろう。

     

    (4)「中国はロシアの侵攻を非難せず、この戦争の原因は米国とその同盟国にあるとの立場で、和平実現を目指す外交で役割を果たそうとしている。ウクライナは、中国の意見を聞く用意はあるが、領土の割譲を含む提案には決して応じない姿勢を見せている。ゼレンスキー氏によると、中国の習近平国家主席と4月に行った電話会談の中で、ロシアへ兵器やその他の技術を供与しないよう求めた際、習氏はロシアには兵器を供与していないとゼレンスキー氏を安心させる発言をしたという」

     

    中国は、ロシアの立場を代弁している。ウクライナは、それでも中国の意見を聞くとしている。解決への扉を閉めないという消極的対応だ。習氏は、このゼレンスキー発言を真摯に効くべきである。

     

    (5)「ゼレンスキー氏は中国について、ロシアを上回る大国で、影響力も大きいため、和平の実現に重要な役割を果たし得るとの見方を示した。「そのような国に、人々が死ぬのを傍観してほしくない」とゼレンスキー氏は言う。「大国であれば、国家の偉大さの示しどころだ。これは絵画でも博物館の展示物でもない。現実に起きている血みどろの戦争だ」と指摘」

     

    中国へは、皮肉を込めて大国らしい行動を要請している。侵略されているウクライナとして、当然な発言だ。

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