勝又壽良のワールドビュー

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    ロシアのウクライナ侵攻が1年経った。和平への動きはあるのか。ロシア軍は、さらに大軍を戦線へ投入する構えだ。ウクライナ軍は、西側諸国から戦車の供与を受けて奪回作戦への準備中である。こうした中で、英独仏が和平への動きを見せている。 

    終戦は、戦場で決まるとされる。ロシア軍が継戦しても「無駄」という認識を持つには、どうすべきかが焦点だ。その具体策が、NATO(北大西洋条約機構)とウクライナとの防衛協力協定である。ロシアは、ウクライナ側に実質的なNATOという大きな壁を認めれば、戦いの矛を収めるであろうという狙いである。
     

    米国のデビッド・ペトレイアス退役陸軍大将は、終戦の条件として次の点を上げている。『CNN』(2月21日付「米陸軍退役大将に聞く、ウクライナでの戦争はどのように終結するか」 

    「交渉による解決で終わると思う。それはプーチン氏がこの戦争について、戦場においてもロシア国内においても持続不可能だと悟る時だ。ロシアが1年目の戦闘で被った損害は、ソ連時代の約10年間、アフガニスタンで被った水準の何倍にも達する公算が大きい。国内では各種制裁と輸出規制の悪影響が重くのしかかる。一方でそれは、ウクライナがミサイルとドローン攻撃に耐え得る限界に達する時でもある。その際、米国と主要7カ国(G7)はかつてのマーシャルプランのような計画を策定して、ウクライナの復興を支援する。安全保障上の枠組みも鉄壁のものとなる(NATOへの加盟か、それが不可能なら米国主導の同盟がそれを保証する)。安全保障の確約は、復興の取り組みを成功させ、外部からの投資を引き付ける上で極めて重要になるだろう」 

    下線部の指摘は、NATOなどによってウクライナの安全保障を恒久的に行なうことが、ウクライナを納得させる、としている。この構想が、現実に動き始めているのだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月25日付)は、「ウクライナ・NATO防衛協定構想 独仏英が提案」と題する記事を掲載した。 

    独仏英3カ国は、ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)との関係強化に向けた協定締結を模索している。ロシアがウクライナの一部領土を占拠し続ける中でも、和平協議に着手するようウクライナを促す狙いがある。独仏英の当局者が明らかにした。 

    (1)「英国のリシ・スナク首相は先週、ウクライナが戦争終結後、国防目的で最新鋭の軍事機器、兵器、砲弾をより幅広く入手できるような協定を交わす計画を示した。その上で、この提案を7月のNATO年次会合の議題にするよう呼びかけた。フランスとドイツもこの構想を支持している。3カ国は、ウクライナの自信を高め、ロシアとの和平協議を促すとみている。ただ、これら当局者は和平協議の開始時期・場所、条件は完全にウクライナ次第だと述べた。スナク氏は24日、西側諸国は戦場でウクライナを「決定的に有利」にする戦闘機などの兵器を提供する必要があると語った」 

    英独仏の3ヶ国が、ウクライナとロシアの和平準備に取りかかるろうとしている。その前に、戦場でウクライナ軍が徹底的に有利になることを前提にしている。戦争終結後、NATOはウクライナへ国防目的で最新鋭の武器で供与する協定を結び安全を保障する。これが、和平案である。

     

    (2)「この3カ国の当局者によれば、こうした表向きの発言とは裏腹に、2014年以降ロシアの支配下に置かれているクリミアとウクライナ東部からロシア軍を駆逐できるかとの疑念が英仏独の政治家の間でひそかに強まっている。特に紛争が膠着状態に陥った場合は、ウクライナへの軍事支援をいつまでも継続できないとの見方がある。あるフランス当局者は「われわれはロシアを勝たせてはならないと繰り返しているが、それはどういう意味だろうか。これほど激しい戦争が長く続けば、ウクライナも損害に耐えがたくなる」とし、「クリミアを奪還できると考えている人は皆無だ」と話した」 

    英独仏は、ウクライナによるクリミア半島奪回を困難視している。クリミア半島奪回まで戦えば、戦争が長引くからだ。

     

    (3)「こうした論調は、ロシアの侵略に対する結束を呼びかけたジョー・バイデン米大統領をはじめとする今週の西側首脳の公式発言とは著しい対照をなす。ウクライナが近くロシアと協議を開始するという見込みに触れた西側の首脳はいなかった。米当局者はNATOの安保協定についてのコメントを避けた。米政府は、ロシアによる将来の攻撃を十分抑止できるよう、ウクライナが戦争終結後に防衛力を強化することが望ましいとの考えを示してきた。ドイツ政府はコメントを拒否した。英仏政府の報道官は現時点でコメントの要請に応じていない」 

    米国は、侵略者に利益を与えてはならぬという立場である。英独仏とは、この点で、食い違がっている。

     

    (4)「複数の関係者によると、エマニュエル・マクロン仏大統領とオラフ・ショルツ独首相は今月、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談で、ロシアとの和平協議の検討を促した。マクロン氏はパリの大統領官邸(エリゼ宮)での夕食会で、フランスとドイツのような旧敵同士でさえも戦後は和解したと、ゼレンスキー氏に冷静なメッセージを伝えた。また、ゼレンスキー氏は戦時下の優れた指導者だが、ゆくゆくは政治家として難しい判断をする必要があると伝えた 

    下線部は、意味深長である。ウクライナが、どの時点で戦いを終わらせるか、という政治判断を強調している。 

    (5)「ある英当局者の話では、NATOとの協定のもう一つの狙いは、ロシア政府の想定を変えることだ。ウクライナへの軍事支援を長期的に強化する用意が西側にあると見れば、ロシアも自国の軍事目標の達成は難しいとの結論に至るとの読みがある」 

    NATOが、ウクライナと防衛協力協定を結べば、ロシアも長期の戦いの無益を悟るであろうとしている。ただ、ロシアはこれをどう捉えるかだ。

     

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    ウクライナ軍には、ドイツ製戦車「レオパルト2」300両以上が供与される見通しとなった。ロシア製戦車と異なって、装置ははるかに優れているとみられる。ロシアは、気がついたらNATO(北大西洋条約機構)軍を相手に戦っているような状況へと変わっている。だが、プーチン・ロシア大統領は、西側諸国がいずれウクライナ支援疲れを起して、休戦に応じるであろうという読みがあるようだ。 

    『ブルームバーグ』(1月28日付)は、「プーチン氏、ウクライナ戦争の長期化に身構えー新たな攻勢も準備」と題する記事を掲載した。 

    数週間で決着を付けるはずだった侵攻から1年近くがたつ中で、ロシアのプーチン大統領はウクライナで新たな攻勢を準備している。同時にロシア国内では、自身が今後何年も続くとみる米国やその同盟国との衝突に身構えさせようとしている。

     

    (1)「ロシアの狙いは、数カ月にわたって劣勢続きの軍が再び戦争の主導権を握れることを誇示し、ロシアが現在支配する領土が認められる形でのある種の停戦に合意するよう、ウクライナとその支援国に圧力をかけることだ。事情に詳しい政府の当局者や顧問、関係者が述べた。非公表の内容だとして匿名を条件に語った関係者によると、当初占領した面積の半分以上を失い、プーチン氏ですら自身が数十年かけて作り上げてきたロシア軍の弱さを否定できなくなっている。後退続きでロシア政府の多くが短期的な目標についてより現実的にならざるを得なくなり、現在の占領地を維持するだけでも成果だと認めている」 

    ロシアは、現在の占領地保持を前提に「停戦」を考えているという。これは、ウクライナの見解と真っ向から食い違っている。ウクライナは、「原状回復」が停戦条件としている。

     

    (2)「プーチン氏はこれまでの失敗にもかかわらず、規模に勝る軍と犠牲をいとわない姿勢がロシアを最終的な勝利に導くとなお確信している。米国や欧州の見積もりによると、ロシア軍の死傷者数は既に数万人に上り、第2次世界大戦後のどの紛争よりも多い。ロシア大統領府関係者は、新たな攻勢は2月か3月にも始まる可能性があると述べた。ウクライナとその支援国も、米国や欧州が新たに約束した戦車が届く前にロシアが攻勢を開始する可能性があると警戒している」 

    ロシアが、2~3月に再攻勢説に疑問符がつく。昨年も2月24日開戦で、ロシア戦車は雪解けで行動力を失った経緯があるからだ。春になって大地が乾かなければ戦車は動けないのだ。 

    (3)「プーチン氏が示す決意は、戦争が再びエスカレートする前兆となる。一方でウクライナも国土からロシア軍を駆逐する新たな攻勢を準備しており、ロシアの占領維持を認める停戦協定には応じない姿勢だ。関係者によると、プーチン氏はロシアの存亡を懸けて西側と戦っているとの認識で、戦争に勝利する以外に選択肢はないと信じている。新たな動員が今春行われる可能性もあるという。ロシアは経済や社会を二の次とし、戦争のニーズを最優先する性格をますます強めている」 

    下線部は、ロシアが受ける傷の深さを示している。ロシアが、ウクライナへ領土を拡張しようとすれば、西側諸国が認めないという大きな枠が掛かっているからだ。

     

    (4)「政治コンサルタント会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノワヤ氏は、「プーチン氏は事態の展開に失望しているが、目標を断念する用意はない」と指摘。「それが意味するのは、道のりが長くなり、さらなる犠牲を伴い、全員にとって一層悪い展開になるということだ」と述べた。米国と欧州の情報当局は、昨秋に30万人を追加動員したロシアに再び大規模な攻勢をかける資源があるのか疑問視している。一方で、ウクライナ支援国は兵器供給を強化。ウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破できるよう、初の主力戦車や装甲車両の供与に向け準備が進む」 

    下線部のように、西側諸国はロシアが30万人以外に、さらなる大規模動員を掛ける資源があるか疑問視している。 

    (5)「ロシアの政府系シンクタンク、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長は「何かが変わらない限り、第1次世界大戦のような消耗戦を目にすることになる。両陣営とも時間が自分に味方すると考えているため、長期戦になる可能性がある」との見方を示し、「プーチン氏は西側やウクライナに戦争疲れが広がると確信している」と述べた。原油輸出に対する上限価格設定など相次ぐ制裁でロシアの財政は圧迫されているが、戦争の資金力を断つには今のところ至っていない。制裁の影響を受けていない中国人民元建ての多額の準備金に対するアクセスをロシアは維持しており最長で2~3年の財政赤字を穴埋めする資金として利用できるだろうと、エコノミストらはみている」 

    ロシアは、あと2~3年は戦時経済に耐えられる資金力があるという。だが、ウクライナへの被害を増やせばその賠償金が自動的に増えていくことを忘れている。

     

    (6)「ウクライナを支援する側にも、戦争長期化への不安は広がりつつある。「ロシア軍をあらゆるウクライナの土地から、あるいはロシアが占領したウクライナの国土から軍事的に排除するのは、今年は非常に困難だろう」と米国のミリー統合参謀本部議長は1月20日、同盟国との国防担当相会合で発言。「ただ、この戦争も過去の多くの戦争と同様、最後にはある種の交渉で終わることになると思う」と語った」 

    米国のミリー統合参謀本部議長は、一貫して「和平交渉」の必要性を主張している。ただ、統合参謀本部議長は、実質的発言権が弱いと指摘されている。

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    ロシア経済は、ウクライナ侵攻の影が忍び寄っている。頼みの原油輸出価格は、1バレル40ドル以下の安値圏に沈んだままだ。G7などは、ロシア産原油価格上限制を設けて1バレル60ドルに設定している。現実には、このラインを大幅に下回る40ドル以下で取引されるほど低迷している。

     

    ロシア財政の4割は、原油などエネルギー輸出で賄われているだけに、原油価格低迷は痛手だ。昨年の財政赤字は6.4兆円。今年は、原油価格低迷の結果、財政赤字幅がさらに拡大する見込みである。ウクライナ戦況は不利になっており、財政も泥沼化しそうである。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月11日付)は、「ロシア、戦費をエネルギー収入で賄えず 財政赤字に」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはウクライナ侵攻に伴う戦費を過去最高となった石油・ガス収入で賄えず、2022年の財政収支は大幅な赤字となった。

     

    (1)「シルアノフ財務相によると、22年の財政赤字は3兆3500億ルーブル(約6兆4000億円)で、国内総生産(GDP)の2.%に相当する。政府は同年2月のウクライナ侵攻開始前の段階で1.%の財政黒字、12月時点では2%の赤字を見込んでいた。エネルギー価格の高止まりを背景に石油・ガス収入が過去最高となり、石油の輸出先をアジアに転換したにもかかわらず、財政が悪化したことを政府として公式に認めた」

     

    ロシアの国家財政は歳入の4割前後を占める石油・天然ガス部門の収入に左右される。22年予算案ではロシア産石油の平均価格を1バレル62ドルと見込んでいたが、実際は1バレル76ドルまで上昇した。これにより歳入は2.8兆ルーブル増えたが、歳出の増加が上回って赤字に陥った。

     

    (2)「歳入は前年比10%増だったが、歳出が26%増と大きく膨らんだ。財務省は22年6月、「米国、欧州連合(EU)などの非友好国からの圧力が強まっている」ことを理由に予算の詳細を機密扱いとしたため、支出の内訳は公表されていない。米投資銀行ルネサンス・キャピタルのロシア担当エコノミスト、ソフィア・ドネツ氏は、「歳出の配分は不明だが、主に軍事費に充てられたようだ。政府は22年9月、歳出予算を夏時点より2兆ルーブル増やし、12月にさらに同額を追加した」と話した。ロシア政府は政府系ファンドの流用や国債発行、国営天然ガス会社ガスプロムの超過利潤への一時課税で赤字を補填した」

     

    22年2月に始めた軍事侵攻に伴う戦費が赤字要因だ。有力紙『ベドモスチ』は昨年9月、政府資料をもとに、当初3.5兆ルーブルを見込んでいた国防費が3割以上増え、約4.7兆ルーブルにのぼる見通しだと報じたという。これだけの戦費を使って戦況不利とは、割の合わないことを始めたものだ。戦争は、国家滅亡の原因になる。

     

    (3)「シルアノフ氏は5日の閣議で「地政学的状況やエネルギー輸出制限、経済制裁にもかかわらず、政府は計画した任務を全うした」と述べた。「支出を増やし、その資金を主に国民の支援に充てた」と指摘。同氏は年金を増額し住宅ローン補助制度を延長したと述べたが、ウクライナ戦争には言及しなかった。「財政を安定させるために23年分の支出の一部も22年予算で手当てした」という。GDP比2.%が見込まれる財政赤字には、非予算勘定である年金基金などに資金を補填した分も含まれているという。プーチン大統領が企業に対する年金基金への拠出を猶予したのに伴う措置だ」

     

    政府ファンドの資金で穴埋めしたもの。だが、戦争が原因の赤字である以上、戦争を止めない限り赤字は続く。

     

    (4)「ロシアは手堅い財政政策により財務状況を安定させてきたが、23年には西側各国による経済制裁の影響が本格化し、歳入はさらに圧迫を受けそうだ。ロシア産の主力油種「ウラル」は1バレル40ドル以下の安値圏で取引され、23年の予算で想定した70ドルを大幅に割り込んでいる。ドネツ氏は「ウラル原油の平均価格が1バレル60ドル前後で推移し、支出が計画通りだとすると、23年の財政赤字はGDP比約4.%に膨らむ可能性がある」と指摘した。

     

    予算案で想定した原油価格は1バレル70ドルだが、22年12月の平均価格は50ドルまで低下した。米ブルームバーグは1月9日、直近の取引価格が約38ドルまで低下したと伝えた。主要7カ国(G7)などが22年12月に導入したロシア産石油の上限価格が効果を上げており、ロシア産原油価格を押し下げている。

     

    (5)「23年予算では国防支出が国内外合わせて3兆5000億ルーブル増え、歳出に占める比率は30%になる見込みだ。「22年の歳出額が計画を上回ったという事実に照らせば、23年もそうなる可能性が高い」とドネツ氏は話した。「歳入が計画を下回り歳出が上振れすれば、ロシアは政府系ファンドの資金をもっと大々的に流用しなければならなくなるだろう」と指摘」

     

    政府系ファンドとは、国の余剰資金を用い、外貨資産を対象に長期的な視点から国富の成長を目ざすもの。ロシアには2種類の政府系ファンドがある。予算不足を補うためには「予算備金ファンド」が使われる。プーチン大統領は1月11日に政府系ファンドが保有する外貨の売却を行なうと発表。中央銀行と財務省は同日、石油ガス収入の増減に応じて外貨を売買する「予算のルール」に従い、1月13日から2月6日までに市場で、歳入不足分の545億ルーブル相当の外貨売却を実施すると発表した。このファンドもいずれ底をつく。

     

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    ウクライナ軍とロシア軍の戦いは現在、膠着状態にあり大規模戦が姿を消している。これは、ロシア軍がウクライナ軍の「ハイマース」を警戒して、兵站線を最前線より80キロ後方へずらしているため、攻撃態勢にないと見られている。ウクライナ軍は、80キロを超える長距離砲供与を西側諸国と協議中であり、いずれ結果が出て追撃が始まる模様だ。

     

    韓国紙『ハンギョレ新聞』が今月2日(現地時間)、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問とインタビューした。ポドリャク氏は、ゼレンスキー大統領の最側近として、昨年2月末の戦争開始以来国際メディアが最も多く引用する人物である。

     

    『ハンギョレ新聞』(1月10日付)は、「ウクライナの大統領最側近『戦争は遅くとも夏頃には終わる』」と題する記事を掲載した。

     

    国際的に孤立したロシアよりも、「米国・英国・欧州連合(EU)・日本などの強力なパートナー」がいるウクライナの方が「より多くの資源」を活用することができ、現在有利な状況にあるとし、「現在の戦況と戦争に関する数値・データを考慮すると、戦争は2023年上半期または夏頃に終わる可能性がある」と予測した。

     

    (1)「ロシアが約2~3回大規模な攻撃をすると予想している。それ以上攻撃を敢行する可能性は低い。ロシアはイラン製ドローンを使用してはいるが、序盤とは異なり、それほど効果的ではない。ウクライナ軍の防空網はドローン攻撃に適応し、どのように対応するか知っている。ロシア軍は民間施設ばかりを攻撃している。彼らの主張とは違って、軍事目標に当てることができない。弾道ミサイルが不足しているからだ。特定の目標に当てるためには70個以上のロケットが必要であり、(このように大規模に発射してはじめて)効果が出る。ロシア軍は現在の水準の攻撃を続けたり、目標を正確に打撃したりできるロケットの供給を十分受けていない」

     

    ロシア軍にはロケット備蓄が減っている。後2~3回の大規模攻撃余力しかないと見ているようだ。これを撃ち終えれば、どうなるか。ウクライナ戦争の局面が大きく変わる可能性が出てくる。

     

    (2)「現在、我々にとっては『戦線安定化』が重要だ。さらなる反撃のためにより多くの砲弾・ロケットを蓄積し、兵站基地、物流供給網を実際の最前線にもっと近づけなければならない。ロシアが兵器貯蔵所と供給線を80キロ以上後方に移したため、(長距離ミサイルの確保は)非常に重要だ。現在、我々は長距離ミサイルの確保について協力国と協議している」

     

    ウクライナ軍は、「戦線安定化」の時期としている。今冬は予想外の暖冬である。キーウでは1月早々、桜が開花するほどである。これでは大地が凍らず反撃が難しい。

     

    (3)「我々はロシアが広めた『神話』とは違うロシアを見ている。ロシア軍の戦術訓練、戦略的力量は非常に弱い。また、ロシアの士気は大きく低下した。それとは反対にウクライナ社会では『我々の領土をすべて解放しなければならない』という合意がなされた状態だ。すべての数字とデータを見て、現在『つまはじき国家』になっているロシア軍の能力を考えてみよう。彼らとは異なり、ウクライナには米国・英国・欧州連合(EU)・日本など多くの強力なパートナーがいる。戦争が(あと)6~8カ月ほど長期化するとみると、ウクライナが利用可能な資源の方がはるかに多い」

     

    ロシア一国に対して、西側諸国が団結して武器供与を続けている。そのロシアは、経済制裁によって武器生産が不可能な状態へ追い込まれている。客観的に見て、ロシアが極めて不利な状況にあることは間違いないであろう。

     

    (4)「この戦争は民間人に対する戦争であり、大量虐殺だ。ロシアが我々の地で犯したすべての犯罪により、この戦争を終わらせる形は完全に変わった。もしウクライナ領土全体を解放しなかったら、我々は常にこの紛争の次の段階に直面することになるだろう。避難した市民たちが帰ってくることは不可能になる。投資を誘致できない。誰も破壊された土地に投資しないだろう。ロシアがこの戦争で敗北しなければ、彼らが犯した戦争犯罪、数千人の市民を殺害し、数千の民間インフラを破壊したことに対する処罰を受けず、賠償金も支払わないだろう

     

    朝鮮戦争のような「休戦」状態で、ウクライナ戦争を終わらせれば、ウクライナが受けた損害は何ら保障もされずに終り、さらなる火種を残す。下線部のような問題を引き起こさないためにも、決着(勝敗)をつけねばならないとしている。

     

    (5)「この戦争を終わらせるには、3つの条件がある。1)クリミア半島を含むウクライナ領土からロシア軍が完全に撤退し、2)ウクライナ領土に対するミサイルおよびドローン攻撃を中止し、3)特別調査委員会の稼動に向けての戦犯引き渡し問題について協議を始めることだ。前の2つの条件が、交渉というものを始めさせる『前提条件』だ」

     

    ウクライナ側は、戦争終結条件として3つ上げている。先ず、ウクライナ領土からのロシア軍の完全撤退の実現である。これが戦争終結交渉の前提としている。これは、ロシア国内でプーチン氏への非難を高める要因になる。ロシアはどう反応するのか。戦争よりも難しい事態になろう。

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    ウクライナ大統領ゼレンスキー氏は、昨年12月23日突然の訪米となった。バイデン米大統領との会談と米議会での演説後すぐに帰国、帯米時間はわずか半日の慌ただしさである。ホワイトハウスを出る際、日本人記者の問いかけに対して、これまで見せたことのない満面の笑みを浮かべ「満足した」様子を伺わせた。米国は、ウクライナ側の要請に対してほぼ「満額回答」したことが、その後のウクライナ大統領府高官の説明で判明したのだ。ゼレンスキー氏が、見せた微笑みの意味を裏づけることになった。 

    米国は、防空システムのパトリオット以外に、歩兵戦闘車「ブラッドレー」を供与することになった。このほか、慎重であったドイツがパトリオットと歩兵戦闘車「マルダー」を供与する。フランスも、装輪装甲車「AMX10RC」を供与する。こうして、米独仏が、「揃い踏み」の形でウクライナ軍へ進撃可能な兵器の供与を決めたのだ。停滞している戦線は、動き出す態勢が次第に整ってきた形だ。ウクライナ軍は最終的に、クリミア半島奪回まで進む作戦計画である。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月5日付)は、「米国とドイツ、ウクライナに歩兵戦闘車供与へ」と題する記事を掲載した。 

    ドイツと米国がウクライナに歩兵戦闘車を供与する。米ホワイトハウスが発表した。これによりウクライナの攻撃能力は大きく向上するとみられる。北大西洋条約機構(NATO)を戦争に巻き込む恐れがあるとしてウクライナへの重火器供与に消極的だったドイツのショルツ首相にとって、今回の戦闘車提供は大きな方針転換となる。 

    (1)「ショルツ氏とバイデン米大統領は5日に電話協議し、米独両政府のウクライナへの軍事支援について議論した。米国が歩兵戦闘車「ブラッドレー」の供与に応じる一方、ドイツは同「マルダー」に加え、米国に追随する形で長距離の地対空ミサイル「パトリオット」を提供する。ドイツのハベック副首相兼経済相は「良い決断」だと評価した。「戦争が始まって以来、我々はパートナーとの緊密な連携の下で支援を拡大してきた。今回の対応も理にかなっている。ウクライナにはロシアの攻撃から自国を守る権利があり、我々にはそれを支援する義務がある」としている」 

    NATO軍では米軍に次ぐ兵器を保つドイツが、ついに米国と肩を並べる形でウクライナへ武器供与する腹を固めた模様。これによって、今後も武器供与を継続する姿勢へ転じた意味は大きい。

     

    (2)「ショルツ氏とバイデン氏は声明で「必要な限りウクライナに財政、人道、軍事、そして外交面での支援を提供し続ける」という共通の決意を示した。その一環として「米国が歩兵戦闘車『ブラッドレー』を、ドイツが同『マルダー』を提供する。両国は、ウクライナ軍がそれぞれの戦闘車を使いこなせるよう訓練を実施する予定だ」と声明には記されている。フランスのマクロン大統領は、ウクライナ軍に仏製装輪装甲車「AMX10RC」を供与することで合意した。仏大統領府によると、欧米製の装甲車がウクライナに供与されるのは初めてとなる。これを受け、ショルツ氏に立場の転換を迫る圧力が高まっていた。今回の協議に詳しいある関係者は「ショルツ氏は、マクロン氏が前進したことを受けて行動を余儀なくされた」と語った」 

    ドイツが、下線のように米国と歩調を合わせてウクライナ支援へ舵を切ったことは、ウクライナ侵攻を長引かせないという決意であろう。「親ロ」のドイツが、ここまで決断したことは、日本が中国の台湾侵攻の際に取るべき姿勢を示唆しているようだ。日本も、ドイツ同様に「地域大国」として、地域安保に責任を持たざるを得ない局面に来ている。

     

    (3)「米国防総省のライダー報道官は、6日に発表されるウクライナ向けの新たな軍事支援にブラッドレーの供与が盛り込まれる予定だと述べた。「(ブラッドレーは)攻守両面の作戦を支援する機械化歩兵を戦場に輸送できる装甲能力があり、戦場で優位性をもたらす一定の火力と装甲を提供する」とライダー氏は説明した。米国はウクライナ軍に車両の操作・保守方法を訓練するという。ウクライナは東部の前線地帯で長く過酷な戦いに直面しており、かねて戦車などの軍事支援を呼びかけてきた。ロシアとウクライナが塹壕(ざんごう)地帯で一進一退の攻防を続けるなか、ウクライナ軍が(様々な部隊や兵器を連携して配備する)諸兵科連合戦術を実施するにあたり、装甲車両は重要な役割を果たせるだろう」 

    ウクライナ軍が奪回作戦を進めるには、強力な機甲部隊が必要である。機甲部隊とは、戦車・装甲車・自走砲など火力と機動力を有する機械化部隊である。米国の「ブラッドレー」やドイツの「マルダー」は、機甲部隊の核の一つになる。「ハイマース」でロシア軍の兵站線を叩き、抵抗力の弱ったところを機甲部隊が一気呵成に攻め込む。奪還作戦は、こういうスケジュールで展開されるのであろう。これが、勝利の方程式である。

     

    (4)「ウクライナは米国製の「エイブラムス」やドイツ製の「レオパルト2」など、NATO規格の近代戦車を求め続けている。だが、ロシアとの対立激化や保守に伴う兵たんへの懸念から、各国当局は供与に二の足を踏んできた。しかし、(今回の)歩兵戦闘車の供与であっても大きな方針転換となる。ドイツのハベック副首相兼経済相は5日、ドイツ政府は「ウクライナ軍への支援を常に状況に合わせて行ってきた」との考えを示した。「フランスはすでに装甲車の供与を決定し、米国も同様の計画を示している。これはドイツの議論にも間違いなく影響を与える」と同氏は述べた」 

    フランスは、装輪装甲車「AMX10RC」を供与する。米国も装甲車の供与計画を示しているので、ドイツも同様に決定をすると見られる。そうなると、米独仏が装甲車をウクライナに供与するので、ウクライナ軍の奪還作戦は弾みがつくであろう。

     

     

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