ロシアのウクライナ侵攻が1年経った。和平への動きはあるのか。ロシア軍は、さらに大軍を戦線へ投入する構えだ。ウクライナ軍は、西側諸国から戦車の供与を受けて奪回作戦への準備中である。こうした中で、英独仏が和平への動きを見せている。
終戦は、戦場で決まるとされる。ロシア軍が継戦しても「無駄」という認識を持つには、どうすべきかが焦点だ。その具体策が、NATO(北大西洋条約機構)とウクライナとの防衛協力協定である。ロシアは、ウクライナ側に実質的なNATOという大きな壁を認めれば、戦いの矛を収めるであろうという狙いである。
米国のデビッド・ペトレイアス退役陸軍大将は、終戦の条件として次の点を上げている。『CNN』(2月21日付「米陸軍退役大将に聞く、ウクライナでの戦争はどのように終結するか」
「交渉による解決で終わると思う。それはプーチン氏がこの戦争について、戦場においてもロシア国内においても持続不可能だと悟る時だ。ロシアが1年目の戦闘で被った損害は、ソ連時代の約10年間、アフガニスタンで被った水準の何倍にも達する公算が大きい。国内では各種制裁と輸出規制の悪影響が重くのしかかる。一方でそれは、ウクライナがミサイルとドローン攻撃に耐え得る限界に達する時でもある。その際、米国と主要7カ国(G7)はかつてのマーシャルプランのような計画を策定して、ウクライナの復興を支援する。安全保障上の枠組みも鉄壁のものとなる(NATOへの加盟か、それが不可能なら米国主導の同盟がそれを保証する)。安全保障の確約は、復興の取り組みを成功させ、外部からの投資を引き付ける上で極めて重要になるだろう」
下線部の指摘は、NATOなどによってウクライナの安全保障を恒久的に行なうことが、ウクライナを納得させる、としている。この構想が、現実に動き始めているのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月25日付)は、「ウクライナ・NATO防衛協定構想 独仏英が提案」と題する記事を掲載した。
独仏英3カ国は、ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)との関係強化に向けた協定締結を模索している。ロシアがウクライナの一部領土を占拠し続ける中でも、和平協議に着手するようウクライナを促す狙いがある。独仏英の当局者が明らかにした。
(1)「英国のリシ・スナク首相は先週、ウクライナが戦争終結後、国防目的で最新鋭の軍事機器、兵器、砲弾をより幅広く入手できるような協定を交わす計画を示した。その上で、この提案を7月のNATO年次会合の議題にするよう呼びかけた。フランスとドイツもこの構想を支持している。3カ国は、ウクライナの自信を高め、ロシアとの和平協議を促すとみている。ただ、これら当局者は和平協議の開始時期・場所、条件は完全にウクライナ次第だと述べた。スナク氏は24日、西側諸国は戦場でウクライナを「決定的に有利」にする戦闘機などの兵器を提供する必要があると語った」
英独仏の3ヶ国が、ウクライナとロシアの和平準備に取りかかるろうとしている。その前に、戦場でウクライナ軍が徹底的に有利になることを前提にしている。戦争終結後、NATOはウクライナへ国防目的で最新鋭の武器で供与する協定を結び安全を保障する。これが、和平案である。
(2)「この3カ国の当局者によれば、こうした表向きの発言とは裏腹に、2014年以降ロシアの支配下に置かれているクリミアとウクライナ東部からロシア軍を駆逐できるかとの疑念が英仏独の政治家の間でひそかに強まっている。特に紛争が膠着状態に陥った場合は、ウクライナへの軍事支援をいつまでも継続できないとの見方がある。あるフランス当局者は「われわれはロシアを勝たせてはならないと繰り返しているが、それはどういう意味だろうか。これほど激しい戦争が長く続けば、ウクライナも損害に耐えがたくなる」とし、「クリミアを奪還できると考えている人は皆無だ」と話した」
英独仏は、ウクライナによるクリミア半島奪回を困難視している。クリミア半島奪回まで戦えば、戦争が長引くからだ。
(3)「こうした論調は、ロシアの侵略に対する結束を呼びかけたジョー・バイデン米大統領をはじめとする今週の西側首脳の公式発言とは著しい対照をなす。ウクライナが近くロシアと協議を開始するという見込みに触れた西側の首脳はいなかった。米当局者はNATOの安保協定についてのコメントを避けた。米政府は、ロシアによる将来の攻撃を十分抑止できるよう、ウクライナが戦争終結後に防衛力を強化することが望ましいとの考えを示してきた。ドイツ政府はコメントを拒否した。英仏政府の報道官は現時点でコメントの要請に応じていない」
米国は、侵略者に利益を与えてはならぬという立場である。英独仏とは、この点で、食い違がっている。
(4)「複数の関係者によると、エマニュエル・マクロン仏大統領とオラフ・ショルツ独首相は今月、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談で、ロシアとの和平協議の検討を促した。マクロン氏はパリの大統領官邸(エリゼ宮)での夕食会で、フランスとドイツのような旧敵同士でさえも戦後は和解したと、ゼレンスキー氏に冷静なメッセージを伝えた。また、ゼレンスキー氏は戦時下の優れた指導者だが、ゆくゆくは政治家として難しい判断をする必要があると伝えた」
下線部は、意味深長である。ウクライナが、どの時点で戦いを終わらせるか、という政治判断を強調している。
(5)「ある英当局者の話では、NATOとの協定のもう一つの狙いは、ロシア政府の想定を変えることだ。ウクライナへの軍事支援を長期的に強化する用意が西側にあると見れば、ロシアも自国の軍事目標の達成は難しいとの結論に至るとの読みがある」
NATOが、ウクライナと防衛協力協定を結べば、ロシアも長期の戦いの無益を悟るであろうとしている。ただ、ロシアはこれをどう捉えるかだ。