勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ウクライナ経済ニュース時評 > ウクライナ経済ニュース時評

    a0960_005041_m
       

    ロシアは、西側諸国の経済制裁によって資金減を絶たれた訳でない。EU(欧州連合)が輸入をストップした分を中国やインドが輸入しているからだ。これにより、ロシアの受ける打撃は「少ない」という印象を与えている。だが、ロシアの占領したウクライナ東部地域での統治費用は、決して小さくないとの指摘が出てきた。

     

    旧ソ連は、東欧諸国を支配下に収めたが、その統治費用が莫大であった。これに耐えきれず、ソ連からの補助金を5%にまで減らした。東欧諸国は、これに反発して独立を勝ち取る原因になった。こういう経緯を振りかえると、ロシアは、旧ソ連の失敗を繰返すというのである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(6月19日付)は、「プーチン体制、アリの一穴どこに 占領維持に巨額負担も」と題する記事を掲載した。

     

    いつまでロシアは戦争を続けることができるのか。プーチン体制はいつまで持つのか。ヒントは意外にもロシア本体ではなく、ロシアの影響下にあるウクライナ東部地域にあるのかもしれない。

     

    (1)「G7は石炭と石油の禁輸で合意した。だが、次の焦点であるガスの禁輸に踏み込んだとしても即効性には欠ける。中国やインドなどが依然としてロシア産エネルギーを買い支え続けており、西側の制裁効果を打ち消している。だが、経済制裁はまったく無意味というわけではない。スウェーデン出身の著名なロシア研究者、アンダース・アスランド氏らは2021年の論考で、14年のクリミア併合後に実施された対ロシア制裁の効果を調べている。当時の制裁は小規模な資産凍結などにすぎなかったが、それでもロシアの成長率を最大3ポイント押し下げたという」

     

    ロシアは、2014年のクリミア併合後、西側の経済制裁によって、ロシアの成長率を最大3ポイント押し下げたと計測されている。ウクライナ侵攻も、それ以上の制裁効果が出るはずだ。

     

    (2)「ロシアが、ウクライナ南部や東部を長く支配すれば、その負担が自らの経済を危うくするリスクがある。占領地域で住民の反ロシア感情を抑え込むには、金融システムの安定や社会保障制度の充実を図る必要があり、ロシア本体からの膨大な補助金が不可欠となる。ヒントになるのがロシアに併合されたクリミア半島の維持コストだ。アンダース氏の論考によれば、年に20億ドル(約2700億円)が必要という。米議会が運営を支援する自由欧州放送(ラジオ・フリー・ヨーロッパ)は21年9月末、親ロシア派勢力が実効支配する東部ウクライナに、ロシアが124億ドルを支援すると報じたことがある」

     

    ロシアには、ウクライナ支配地域の維持コストが高くつく。クリミア半島の維持コストですら、年に20億ドル必要という。ロシアが21年9月末、東部ウクライナへ124億ドルを支援すると報じられている。これから、ロシア産の原油や天然ガスの輸出が減れば、決して小さい負担でなくなる。

     


    (3)「一見すると規模が小さいようにみえるが、注意すべきは、これが全面侵攻前の金額であるということだ。ロシア影響下の地域はいずれも激しい戦場となったところだ。激戦地の都市インフラはほぼ完全に破壊され、今後、巨額の復興費用が加わることになる。この地域は経済状況の悪化も著しい。例えば4月のウクライナのインフレ率は平均16%だったが、ロシア占領下のヘルソン州は37%に達したとウクライナ中銀のニコライチュク副総裁が明かしている。「ロシア占領地域では物資の搬入が妨げられている」のが、需給逼迫の理由だという」

     

    ウクライナ東部で、新たにロシアの支配下に組入れられた地域のインフレ率は、37%にも達している。戦闘による物資搬入が妨げられている結果だ。この状態は、今後も続くであろう。

     

    要衝の港湾都市マリウポリを陥落させたロシアは支配地域の拡大を誇示するが、経済的には間違いなく重荷となる。ウクライナ側はこれからもG7の手厚い支援が期待できるが、ロシア支配地域は、制裁を受けて弱っているロシアが単独で支えなければならない。

     


    (4)「冷戦時代のソ連・東欧ブロックにはコメコン(経済相互援助会議)と呼ばれる経済協力の枠組みがあり、ソ連は安い原油などを補助金として東欧の衛星国家にばらまいていた。第2次大戦で手に入れた勢力圏をなんとしても維持したかったからだ。それが1980年代前半に揺らぐ。ソ連経済に余裕がなくなり、補助を徐々にカットせざるを得なくなった。世界銀行が91年にまとめた論文によれば82年から87年までの5年間で、旧東ドイツ、ポーランドなど東欧6カ国に対する補助は、ぼぼ20分の1に圧縮された。だからこそハンガリーなどがソ連を見切って経済の自由化を推し進め、89年の東欧革命につながった」

     

    旧ソ連は、東欧諸国を勢力圏に入れたが、経済衰退で補助金を往時の5%まで切下げた。旧ソ連経済は、いずれ経済制裁下にあるロシア経済の今後を示唆するものだけに、ウクライナのロシア支配地域でも起こり得ることであろう。

     


    (5)「これは、いまのロシアにもあてはまる。まだプーチン大統領を支える新興財閥(オリガルヒ)や治安・軍要員(シロビキ)が離反する動きは、それほど目立たない。だが時代遅れの帝国主義がじわじわとプーチン政権を追い詰め、盤石に見える体制に穴を開け、寿命を縮める可能性がある。ただ、時間をかけてそれを待たなければならないとすれば、ウクライナにとってあまりに酷な話である」

     

    ウクライナ東部で、ロシア支配下に置かれている人々に、ロシア経済衰退まで「解放」を待てというのも気の毒だ。歴史が、時にこういう過酷さを要求するとすれば、天を仰がざるを得ない。

     

    a0005_000022_m
       

    『日本経済新聞 電子版』(5月14日付)は、「ロシア軍、第2の都市ハリコフから撤退 地元市長」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ北東部ハリコフのテレコフ市長は14日、ロシア軍が市街地から対ロ国境方面に撤退していると英BBCに語った。ハリコフではウクライナ軍の攻勢が続いており、米シンクタンクの「戦争研究所(ISW)」は13日に「ウクライナはハリコフの戦いに勝利したように見える」と分析していた。

     

    (1)「ハリコフは、ウクライナ第2の都市で、ロシア国境から約50キロメートルの位置にある。2月24日のウクライナ侵攻開始当初から攻撃されており、テレコフ市長は「ロシア軍はハリコフを絶え間なく砲撃していたが、国境方面に追い返すことができた」と話した。ISWは「首都キーウ(キエフ)を占領しようとしたロシア軍にしたように、ハリコフ周辺からもロシア軍を追い出した」と指摘している。ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、ビデオメッセージで「ハリコフ地方の段階的な解放は、我々が誰一人も敵に委ねないことを証明している」と強調していた」

     

    ウクライナ軍は、西側諸国からの武器支援でロシア軍を押し返している。米軍から提供された榴弾砲が威力を発揮しているという。

     


    ロシア軍が、ハリコフから撤退したのはドネツ川の渡河作戦に失敗した結果と見られる。『読売新聞 電子版』(5月14日付)は、次のように報じている。

     

    (2)「米英の国防当局は13日、ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク州)の制圧を目指すロシア軍が渡河作戦中にウクライナ軍の攻撃を受け、重大な損失を被ったことを明らかにした。露軍が渡河を試みたのはルハンスク州西部のドネツ川。ウクライナ軍はSNSで、露軍部隊の渡河を9回阻止し、計70台以上の戦車や装甲車などを破壊したと説明した。米国防総省高官は、露軍は渡河作戦の失敗で兵力をウクライナに送り込めず、「苦戦の要因にもなっている」と指摘。ドンバス地方制圧を目指す露軍の作戦に、当初の計画より少なくとも2週間の遅れが生じているとの分析を示した。英国防省は、「戦果を示さなければならない露軍司令官の重圧を物語っている」とした」

     

    ロシア軍が、圧倒的な武器・兵員を擁しながら、劣勢のウクライナ軍に苦戦している理由は、ウクライナ軍の機動的な戦い方にあるという。

     


    米『CNN』(5月10日付)は、「
    米陸軍の退役少将に聞く、ウクライナが勝利するために必要なこと」と題する記事を掲載した。

     

    米特殊作戦軍を欧州で率いた経歴を持つ陸軍の退役少将のマイク・レパス氏は、過去6年間、米政府から請け負う形でウクライナ軍への助言を行ってきた。先月はポーランドとウクライナ西部を訪れ、ウクライナでの戦争の道筋に関するより深い知見を得た。

     

    (3)「なぜロシアは、あまりうまく機能しない戦闘モデルに固執するのか?彼らは、戦い方において融通が利かないからだ。言ってみれば、彼らがウクライナでの戦争の開始当初試みたのは奇襲だった。迅速な攻撃で首都キーウ(キエフ)を奪取しようとしたがうまくいかず、コテンパンにやられた。そこで火力のすべてを東部と南部に振り向け、大規模な砲撃を実施した。標的を狙うか、または接近経路に沿う形で砲弾を撃ち込んだ。目の前のものをほぼ全て破壊してから、彼らは整然と進軍していく。つまりこれは機動戦ではなく、火力による消耗戦にほかならない。火力を基調にした軍隊は、我々西側諸国のそれと正反対だ。我々の軍隊は機動力に基礎を置いている」

     

    このパラグラフで指摘されている点は、すべて納得である。ウクライナ市街地が砲撃によって、これでもか、これでもかと言うほど破壊され尽くされている。これは、ロシア流の戦い方によるもので火力を基調にした軍隊である。一方、西側諸国の戦い方はそれと正反対である。西側軍隊は、機動力に基礎を置いている,と強調する。先に指摘したように、ロシア軍がドネツ川の渡河作戦に9回も失敗し、計70台以上の戦車や装甲車などを破壊された。これは、西側軍隊の訓練を受けたウクライナ軍の典型的な機動力による反抗作戦の結果であろう。

     

    (4)ウクライナで、新たにロシア軍の指揮を執るアレクサンドル・ドゥボルニコフ司令官は徹底して火力を基軸とする消耗戦の申し子だ。機動戦を戦うタイプではない。生涯でやってきたあらゆることをするだろう。行く手にあるすべてを爆破・破壊して、兵士を送り込むだろう」

     

    ロシア軍で新たに任命された総合司令官ドゥボルニコフ氏は、徹底して火力を基軸とする消耗戦の申し子で、機動戦を戦うタイプではないという。となれば、ロシア軍は火力を消耗し尽くせば、自ずと戦闘力が落ちる運命のようである。早く、平和が訪れて欲しいと願うばかりだ。

     

    a0960_008572_m
       

    韓国の進歩派(民族主義)は、ロシアのウクライナ侵攻について半ば容認姿勢を見せている。ロシアの主張する「民族統一」というエセ議論に酔っているとしか見えないのだ。朝鮮戦争は、北朝鮮による韓国併合(民族統一)を目指した侵略戦争である。韓国侵略の原因はここにある。

     

    韓国進歩派には、他国の「民族統一」でも望ましいという受取り方である。文政権支持メディアの『ハンギョレ新聞』には、巧妙にロシア支持を臭わせる言説が登場している。同紙には、ウクライナ侵攻を批判する論調もあって多様だが、ウクライナ問題を朝鮮半島問題に置換えて真摯に議論すべきだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(5月3日付)は、「ロシアに罰を与えるのか、ウクライナを救うのか」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のチョン・ウィギル国際部先任記者である。

     

    ウクライナを侵攻したロシアは、北大西洋条約機構(NATO)の東進などの西側の脅威を防ぐために自国の喫緊の安全保障の必要性を掲げた。しかし、中立国のフィンランドやスウェーデンなどがNATO加盟を明らかにし、NATOは当面さらに堅固になり拡大する逆説が生じた。侵略からウクライナを守るとする米国など西側は、ロシアに対する制裁とウクライナに対する支援に拍車をかけ、国際経済にしわ寄せがいき、戦争は拡大している。

     

    (1)「当初のウクライナ戦争の背景は何だったか。ウクライナはロシアの脅威から独立した主権国家でいられることを求め、ロシアはウクライナが自国の安全保障を脅かす西側の足場にならないことを願い、西側は既存の国境線で象徴される自由主義国際秩序を守ることを望んだ。3者のこのような利害の衝突における均衡点は、「ウクライナを救う」ことだ。中立化が解決策だ」

     


    ロシアが、ウクライナへ中立化せよと要求する権利はない。これは、越権行為である。ウクライナ国民が、NATO(北大西洋条約機構)へ加入したいと要求した現実こそ尊重されるべきだ。このパラグラフの主張に従えば、北欧のフィンランドとスウェーデンがNATO加入はまかり成らぬことにある。

     

    安全保障問題の本質は、ロシアがNATOと相互不可侵条約を結ぶことである。そうすれば、ロシアが周辺国へ圧力をかけなくても済むはずだ。それをしないのは、周辺「弱小国」領土を狙っている現れであろう。

     

    (2)「中立化は戦争直前にフランスのエマニュエル・マクロン大統領が仲栽したが、米国はフランスが分不相応なことをするとして、冷たい反応を示した。ついに戦争がはじまってから、3月29日にイスタンブール和平会談で原則的な中立化合意が出た。しかし、ブチャの虐殺などにより交渉は中断され、西側とロシアは戦争拡大に向かっている。米国はこれを機にロシアを抑え込もうとしている。ロシアはキーウ(キエフ)戦線から撤退した後、南部と東部から領土を取る戦略に旋回し、ウクライナを内陸国家にしようとしている」

     


    ロシア軍が、大量虐殺という許されざる戦争犯罪を起こした結果、ウクライナ国民は徹底的に戦うという意思を示している。このコラムの筆者は、ロシアが正しく米国が邪悪という暗黙の前提に立っている。これは、朝鮮戦争において北朝鮮が正しく、米国の介入を不当とする韓国民族派の思考に通じている。

     

    (3)「米国が、ロシアを抑え込もうとするのは、ウクライナ侵攻が自由主義の国際秩序を脅かすとみなしているからだ。制裁は米国にとって最大の武器であり、強力な威力を発揮するが、逆効果も大きい。北朝鮮、ベネズエラ、イランに対する苛酷な制裁は、これらの国々を変えることはできなかった。世界の地政学的秩序の一軸であるロシアに対する制裁は、長期的には自由主義的国際秩序をいっそう侵食する懸念が強い

     

    下線部分は、国際経済の実態を知らない「戯言」に聞える。ロシアへの長期制裁は、確実にロシア経済を100年前へ引き戻すであろう。同時に、制裁によってロシアの武器製造は部品不足から、大幅に後退する。このロシアから武器を輸入する中国の軍拡路線は、影響を受けるであろう。中ロの軍事的浮上を抑制するには、経済制裁が不可欠である。

     

    ロシアを制裁することは、中国の軍拡を抑制するので、自由主義的国際秩序は安泰になるはずだ。この筆者は、失礼だが国際経済知識が極めて希薄であり、政治的思惑だけが先行している。

     


    (4)「ロシア、中国、インド、イランなどは、ドル体制を回避する彼らだけの決済システムの構築に乗り出している。これらの国々が持っている石油やガス、食糧などの莫大な資源は、長期的には米国主導の自由主義的国際秩序から独立した秩序を作りだす武器になりうる。ロシア制裁に参加する国々は、世界の経済力の3分の2に迫るが、人口は世界全体の14%にすぎない」

     

    下線部分も間違えた主張である。世界の人口動態では、発展途上国も減少する。中国の人口は21世紀末に7億人を割込むという驚くべき予測が出ている。先進国は、女性の高学歴化と社会進出を歓迎する社会的土壌が出来上がっている。それゆえ、出生率への悪影響は少ないのだ。発展途上国とは社会的な土壌が完全に異なっている。先進国はまた、科学技術力における優越性に変わりない。米国では、今世紀中の人口減が起こらない見通しだ。

     

    (5)「戦争を挑発した側は戒めを受けなければならない。しかし、その戒めは侵略された側の犠牲をさらに要求するというのが現実だ。西側がウクライナに武器を支援してウクライナが戦闘で勝てば勝つほど、ウクライナの苦しみと被害が大きくなるという逆説だ。戦闘でのそのような勝利は、ウクライナの戦争での勝利を担保するものでもない」

     

    ウクライナ国民は、ロシアの侵略を許さないという強い信念に燃えている。早く停戦すべきなのは、侵略したロシアである。ウクライナ国民には抵抗権がある。その抵抗権を否定して、ロシアの要求を飲めという主張は、本末転倒である。ロシアを非難すべきであり、ウクライナを責めるのは逆立ちしている。

     

    (6)「制裁と軍事的圧力は、ロシアに血を流させ弱体化させるものであっても、長期的には自由主義的国際秩序を壊すブロック化、そして何より、ロシアの血よりもさらに多くのウクライナの血を要求する。西側の真の成功は、まずは主権と安全が保障されるウクライナだ。そのようなウクライナは、最終的には西側の利益に帰するはずだ。そのためには、最小限の被害のもとで中立化へと導かねばならない。ロシアも終戦と撤退の条件を明確にしなければならない。ロシアも同様に、領土獲得に執着すればするほど流す血は多くなり、終戦の可能性が遠ざかる」

     

    即時停戦は,ロシアの義務である。ウクライナが、ロシアの要求を飲んで「中立化」宣言する必要はない。侵略者に褒美を与えてはならないし、ロシアはこれに成功すれば、次は北欧二国へ牙を向けるに違いない。

     

     

    a0960_005453_m
       

    西側諸国は、これまでウクライナへの武器供与に当って、極めて慎重姿勢で臨んできた。ロシアを刺激して、NATO周辺国まで攻撃してくるのでないかと危惧していたからだ。現実は、ロシア軍が相当弱体化しているとの見方が一挙に広まっている。そこで、ウクライナへの武器供与も大っぴらになってきた。

     

    米『CNN』(5月1日付)は、「ポーランド、ウクライナに戦車200台以上を供与」と題する記事を掲載した。

     

    ポーランドの公共ラジオ放送局は5月1日までに、同国が過去数週間余でウクライナへ旧ソ連製のT72型戦車を200台以上、供与したと伝えた。同国のIAR通信社の報道を引用した。ポーランドのモラビエツキ首相は最近、同国がウクライナに提供した軍装備品は約16億米ドル相当に達することを明らかにしていた。

     


    (1)「同ラジオ局「ポーランド・ラジオ」は、これら装備品には戦車のほか、多数の歩兵戦闘車両、2S1自走榴弾(りゅうだん)砲、多連装ロケット弾発射装置や携行式対空ミサイルシステムなども含まれると報じた。ロシアのウクライナ侵攻を受け北大西洋条約機構(NATO)加盟国は同国への軍事支援に動いている。この中で米国防総省高官は先に、米国やNATOなどによる対ウクライナ軍事支援の調整や能率化を図るためドイツ・シュツットガルトに管理センターを新設したことを記者団に明らかにしていた」

     

    ポーランドは、これまでウクライナへの武器供与で最も積極的であった。過去、ソ連製ミグ戦闘機20機以上を供与する意思を明らかにしたが、米国に止められた経緯がある。ポーランドは、ロシアの欺瞞性をNATOで最も強く主張してきた国であり、その軍事的危険性を説いてきた。今回のウクライナ侵攻で、それが立証された形でもあり、各国ともポーランドの意見に一目置いている。

     

    ポーランドが、旧ソ連製のT72型戦車を200台以上もウクライナへ提供する話に、ロシア側は複雑な気持ちであろう。

     


    (2)「運営の責任は、ドイツ・シュツットガルト市に本部がある米軍欧州軍が担う。このセンターは米欧州軍ウクライナ管理センター(ECCU)の呼称を持ち、米海軍の少将が責任者となる。管理センターには、米国の担当者のほか、15カ国の要員も詰める。ウクライナを支援している40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動などの管理にも当たるとした」

     

    ドイツ・シュツットガルトに、ウクライナへの武器などの供与センターを設けて、40カ国以上の同盟国やパートナー国の連携活動の交通整理役を行なう。ロシアは、こういう本格的なウクライナ支援体制を見ることによって、「被害者意識」になってきたという。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「ロシア、『ウクライナ紛争は 西側との戦争』」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア政府がウクライナとの戦いを西側諸国との戦争と位置づけようとしている。ロシア政府の指導者らやプロパガンダを担う政府系メディアはロシア国民に対し、ウクライナとの対立は世界的な衝突に発展する可能性があると警告している。

     

    (3)「ロシア政府や政府系メディアはここ数日、西側諸国は最終的にロシアを封じ込め、崩壊させようとしていると警鐘を鳴らし、核による攻撃の可能性を含め報復措置をちらつかせている。米国と一部の同盟国は、ウクライナ戦争をロシアの帝国主義的野望を抑えるための機会ととらえる姿勢を強めており、ウクライナへの軍事支援を強化している」

     

    ロシアは、短時日でウクライナ侵攻を終わらせると楽観していたが、ついに2ヶ月を超える戦いになった。ウクライナ軍の武器弾薬は日に日に,西側諸国の支援によって強化されている。形勢不利に驚いたロシアは、被害者意識に転じているという。

     

    (4)「これに対しロシア政府は国民に対し、歩み寄りが不可能でより広範な対立となる可能性があることを伝え始めた。とりわけ、第二次世界大戦でナチス・ドイツに勝利した9日の戦勝記念日の祝賀式典を利用し、第二次世界大戦とウクライナでの戦争を関係づけようとしている。ロシアではここ数週間、ロシアは西側諸国からの攻撃を受ける被害者であり、国を守る必要があるという主張が勢いを増している

     

    下線部分は、ロシア軍が守勢に立たされていることを物語っている。ロシア軍は、武器弾薬の補給に支障が出始めている様子であり、開戦当初の勢いは完全に消え失せた。 

     

    a1320_000159_m
       

    21世紀の現在、自国の安全保障の「邪魔」になるから隣国を侵略するとは驚きである。古代と変わらない強者の論理だ。ロシアが、隣国ウクライナを侵攻したのは、まさに強者の論理そのものである。「一寸の虫にも五分の魂」という言葉の通り、相手を敬う心を失った悲劇と言うほかない。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「ウクライナ蔑視するロシア、根深い歴史の潮流」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ウクライナ人は実在せず、ウクライナ国家は人為的に生み出されたもの」との考えは、ロシアの文化、文学、政治の主流として古くから存在する。ウラジーミル・プーチン露大統領のウクライナに関する見解も例外ではない。これらは長い伝統に基づくものであり、ロシア市民の間でなぜ今もウクライナ侵攻に対する支持が途絶えないのかを理解する一助となる」

     


    ロシアの文化、文学、政治の主流では、ウクライナ蔑視が伝統的な流れである。これこそ、肌で知っているウクライナ人が、今回の侵攻に対して敢然と立ち向かい,一歩も引かない戦いを続けている原動力であろう。この一事だけでも、ロシアは不利な戦いである。

     

    (2)「ロシアの歴史的な解釈や文学の伝統において、ウクライナ人は愚かだが、気のいい小作人であり、おかしななまりで話すと描かれることが多い。また将来の独立志向は外国の陰謀の産物でしかないとされている。ロシアから移住してきた両親を持つキーウ出身の作家ミハイル・ブルガーコフは、自身の作品の中でウクライナ語をばかにしている。画家のカジミール・マレービッチやソビエト宇宙開発の父セルゲイ・コロリョフら、芸術や科学の分野で誰もが認める実績を残したウクライナ出身者は、ロシア人として位置づけられている

     

    ロシアでは、ウクライナ人を愚鈍なものとして扱っている。根拠のない優越感に浸ってきた。ウクライナ出身者の功績も,ロシア人として分類している。このように、ロシア人はウクライナ人に対して屈折した心理状態にある。ある意味、劣等感を持っているのだろう。だから、ウクライナに対して虚勢を張っているのだ。

     


    (3)「ロシア人が建国の父とみる歴史的人物は実のところ、ロシア政府が誕生する以前から数世紀にわたりキーウ(ウクライナ)から支配していた。その一例がウラジーミル大公で、キエフ大公国と呼ばれる王国にキリスト教を持ち込んだ10世紀の統治者だ。プーチン氏とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の名前はいずれもこのウラジーミル大公に由来する」

     

    ウクライナのキエフ大公国は、数世紀にわたりロシアを支配した。キエフこそ、ロシア民族の中心地である。こういう歴史的事実を忘れて、ロシアはウクライナを蔑視する。この心理状態には、意識的にウクライナを葬り捨てたいという劣等感の裏返しが見える。民族主義は、劣等感に通じているのだ。

     


    (4)「ウクライナ人の野心に対して、ロシア人が敵対心をあらわにする慣習には二つの流れがある。まずは、ロシア人とは異なる別の人間としてウクライナ人の存在自体を否定するというものだ。これは19世紀をほぼ通じてロシア帝国で浸透していた考え方だ。当時はウクライナ語で書かれた書籍は禁止され、ウクライナを示す言葉そのものが禁じられたため、代わりに「小さなロシア」との名称が使われた。もう一つの流れは、ウクライナ人は独自のアイデンティティーを持ち、かつ自国語を話すと認めつつも、現在のウクライナ領土の少なくとも半分はロシアに属しており、旧ソ連建国の父ウラジーミル・レーニンによって不当に分離されたというものだ」

     

    ロシア人は、意識的にウクライナ人の存在を頭から否定したがっている。理由は,二つある。遅れている民族という認識と、ウクライナ領の半分はロシア領という認識だ。あれだけ,広大な版図を持ちながら、なお領土を欲しがる。中国の習近平氏と同じ発想である。

     


    (5)
    「プーチン氏は2014年、ウクライナで親ロ派のビクトル・ヤヌコビッチ大統領が市民の激しいデモ抗議により政権の座から追われたことを受けて、クリミア半島の併合に踏み切った。ヤヌコビッチ政権が欧州連合(EU)との統合に向けた長年の政策を覆し、ロシアとの関税同盟を目指したことがデモの発端だった。クリミア半島併合は、ロシア国内でほぼ全面的に称賛された。収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏ですら当時、クリミア半島はロシアの領土にとどまるべきだと主張していた。ラジオとのインタビューでは「クリミアは返還されるべきソーセージ・サンドイッチではない」と述べた。ただ現在は、プーチン氏がウクライナに仕掛けた戦争に対して声高に異議を唱えている」

     

    プーチン氏は、典型的なロシア人である。世界では、プーチン氏一人がウクライナ戦争を始めたという評価である。現実は、ロシア社会の底流に渦巻いているウクライナ蔑視が引き起した戦争である。

     


    (6)「ロシアのプロパガンダ(政治宣伝)によると、西側の後押しを受けて2014年に実権を握ったとされる一派こそが問題であり、この集団を排除すれば、ロシアと兄弟のような親密な関係を再開したいと望む一般のウクライナ市民に歓迎されるとされていた。しかしながら、ウクライナの激しい抵抗により、ロシア兵を解放者として迎えるウクライナ人などほぼ誰もいないことが露呈すると、ロシアのトーンは変化した。ここにきてロシア国営メディアの報道や政府の見解は、ウクライナとその文化は単に抹殺されるべきだとの主張にすり替わった。ロシア軍に占領されていたブチャのようなウクライナの町で市民が大量に殺害されていたことも、これで説明がつく」

     

    このウクライナ戦争が、不首尾に終わった場合、ロシア社会はどうなるだろうか。虚脱状態になることは目に見えている。一皮むけて、民主主義国へ歩むのか。逆に騒乱状態へ落込むのか。ロシアの将来は、分岐点に向かっている。

     


    (7)「ロシア国営通信RIAが、43日に掲載した「ロシアはウクライナに対して何をすべきか」と題する論説では、ロシアに敵対的な態度をとってきた罪をウクライナの一般市民に償わせるべきであり、ウクライナの名前そのものを再び廃止し、複数の地域に分割すべきだと主張している。さらにウクライナのエリート層は身体的に粛清され、残る国民は再教育するとともに「非ウクライナ化」すべきだとも指摘した。ディミトリ・メドベージェフ氏(元大統領)がウクライナの将来について似たような構想を表明。ロシアが勝利した後は、ウクライナ国家はナチスが支配したドイツ第三帝国のように消えると記している」

     

    このパラグラフは、「驚愕」と言うほかないおぞましい時代錯誤である。勝者のロシアが、敗者のウクライナを徹底的に「解剖」すると宣言しているのだ。相手国を敬う心の一欠片もないことに、ロシア社会の深い闇を感じる。このロシアは、近代国家として発展できる基本要因のすべてを欠いている。気の毒に思うのだ。

    このページのトップヘ