勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシアのプーチン大統領は、ライバル不在の中で大統領選に圧勝した。当面の課題の第一は、ウクライナ侵攻をいつ止めるのかだ。そのカギは、ロシアの兵器増産力がいつまで保つかにもかかっている。数年説もあるが、長引けば長引くほどロシアの国力を消耗する。すでに予算の29%を国防費に向けている。確実に国力衰退に向っている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月20日付)は、「ロシアの兵器増産 持続力には疑問」と題する記事を掲載した。 

    ロシアの戦車・ミサイル・砲弾生産能力は西側諸国を驚かせ、ウクライナにさらなる圧力をかけた。問題は、それがいつまで続くかだ。欧米の当局者やアナリストの間では、ロシアが公表している軍事生産量は誤解を招きやすく、労働力不足や品質低下などの問題を覆い隠しているとの声がある。増産は経済全体の資源を消耗するため、長く続けるのは難しい可能性がある。生産量が落ちれば、中国・イラン・北朝鮮といった友好国からの援助にさらに頼ることになるかもしれないという。

     

    (1)「ロシアが2022年にウクライナに侵攻すると、米国とその同盟諸国は一連の制裁を科し、ロシアの軍需産業を阻害しようとした。戦場では、ロシアはすぐに装備を失い、ミサイルや砲弾の在庫が底を突いた。これを受けて、ロシア政府は直ちに兵器産業に資源を投入した。昨年は、連邦政府支出に占める国防費の割合が21%と、2020年の約14%を上回った。2024年の連邦予算ではこの割合がさらに大きくなり、29%を超えた」 

    ロシアの国防費は24年、予算の29%超にもなった。ウクライナ侵攻前の20年は、14%だ。この間に倍増している。国家経済を大きく圧迫していることは疑いない。 

    (2)「欧米の当局者らによれば、ロシアはミサイルなどの兵器も増産している。例えば、2021年に40万発だった砲弾生産量は翌年に60万発となり、米国と欧州連合(EU)の合計生産量を上回ったと、エストニアの軍事情報機関は推定している。北大西洋条約機構(NATO)の高官によれば、ロシアは現在の規模であと2~5年は戦力を維持できるとみられる。欧州の少なくとも二つの軍事情報機関は、あと数年は十分な兵器を生産できるとの見方を示している」 

    欧州の複数の軍事情報機関は、ロシアがあと数年は兵器生産ができるとみている。

     

    (3)「ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、増産――および軍事費全体の水準――は持続可能なものではない可能性があるとフィンランド銀行は結論づけている。同行の分析では、増産された防衛関連品の大半はローテク製品(加工鋼など)であり、ロシアが国外のサプライヤーに依存している、より高度な製品(半導体など)ではないことも明らかになっている。ロシアは一部の製品については制裁を回避することができたが、戦車の乗組員の視界を確保する光学部品など、ロシアが欧米から購入していた特殊部品は、第三者を通じて購入することがはるかに難しい」 

    フィンランド銀行は、ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、兵器生産「数年説」を否定する。増産された防衛関連品の大半が、ローテク製品(加工鋼など)であると指摘している。ハイテク兵器ではないのだ。 

    (4)「ロシアが主張する生産数に疑問を呈するアナリストもいる。例えばロシアの生産数は、新たに生産された装甲車と、倉庫から出して改修した旧型車を区別していない。「生産数は誇張されている」と国際戦略研究所のマイケル・ジェルスタッド研究員は言う。ジェルスタッド氏が開戦前後の衛星画像を調べたところ、ロシアが昨年、少なくとも1200両の旧型戦車を倉庫から引っ張り出してきたとみられることが分かったという。つまり、ロシアが昨年生産した戦車はせいぜい330両ということになるが、実際の数はその半分である可能性が高いと同氏は指摘する」 

    ロシアは、兵器の生産数を誇張しているとみられる。これまで眠っていた旧型戦車(約1200両)を引っ張り出して、「増産」に数えている節がある。ロシアが、昨年生産した戦車はせいぜい330両とみられる。

     

    (5)「ロシアの兵器メーカーは人手不足に直面している。ロシア大統領府のウェブサイトに掲載された発言記録によれば、ウラジーミル・プーチン大統領は2月に同国最大の戦車工場を訪問した際、熟練工が不足していることは認識していると従業員に語った。ウラルバゴンザボード社の同工場では昨年初め、特に深刻な人手不足に陥り、近隣の刑務所から250人の受刑者を受け入れたと、同刑務所が当時明らかにしていた。ユーリ・ボリソフ副首相は2022年6月、兵器産業では労働者が約40万人不足していると述べた。ボリソフ氏などの当局者は同産業の必要人員を約200万人としていることから、約20%の人員が足りていない計算になる」 

    ロシアの兵器生産では、労働力不足で刑務所の受刑者を兵器生産に当らせているほどだ。兵器産業では労働者が約40万人不足(20%)している状態だ。増産説に疑問がつく大きな理由だ。 

     

     

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    トランプ氏が、今秋の米大統領選で復帰するかどうか。当の米国よりも米同盟国が警戒姿勢を滲ませている。これまでは、「もしトラ」であったが、「ほぼとら」というほどの警戒音を高めている。だが、トランプ氏が大統領へ当選するには大きな壁が立ちはだかっている。これまで集めた選挙運動資金は、裁判費用に大方使い果したという報道も出ている。米共和党の本流が、どこまでこの破天荒なトランプ氏を支持するのか。投票箱を開けてみるまでは分らないのだ。

     

    『毎日新聞』(2月17日付)は、「ウクライナ、独仏と安保協定締結 10年間軍事支援 戦局好転狙う」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は2月16日、ドイツとフランスを訪問し、長期的な軍事支援を確保するための2国間の安全保障協定をそれぞれと結んだ。昨年7月に主要7カ国(G7)が提示した国際的な枠組みに基づく協定となる。ウクライナ軍はロシアの侵攻に対し、東部の要衝アブデーフカから撤退するなど苦戦を強いられており、支援を戦局の好転につなげたい考えだ。

     

    (1)「ゼレンスキー氏はこの日、ベルリンでショルツ独首相と会談し、同国との安全保障協定を締結した。協定の期間は10年。ドイツはウクライナに現在進行中の軍事支援を続けるとともに、将来的な攻撃への抑止力を強化するための装備近代化に協力する。ショルツ氏はゼレンスキー氏との共同記者会見で、約11億ユーロ(約1780億円)の追加軍事支援を提供することも発表した」

     

    ゼレンスキー氏は、ドイツ首相と10年間の安全保障協定を締結した。トランプ氏が、米大統領に復帰すれば、どのような事態が起こるか分らない以上、最悪に事態に備える。

     

    (2)「この後、ゼレンスキー氏はパリを訪問。マクロン仏大統領と会談し、フランスとの2国間の安全保障協定にも署名した。仏大統領府によると、協定でフランスはウクライナに武器や訓練を提供するほか、2024年に最大30億ユーロの追加軍事支援を行うことを約束した。協定の効力はドイツと同じ10年間となる。ゼレンスキー氏はマクロン氏との共同記者会見で「野心的かつ極めて実質的な安全保障協定だ」と語った」

     

    ゼレンスキー氏は、フランスへマクロン氏を訪問して10年間の安全保障協定を結んだ。ドイツと同じ内容である。欧州の安全保障は、NATO未加入のウクライナに対しても行うという強い決意である。

     

    (3)「G7は昨年7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議にあわせ、長期安全保障の国際的な枠組みを提案する共同宣言を発表した。NATOは原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため枠組みでは、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図る。すでに英国も同様の協定に署名しており、これで英独仏の欧州主要3カ国が締結した」

     

    NATOは、原則として加盟国以外に本格的な安全保障を提供しない。このため、西側諸国が2国間協定を通じ、ウクライナに対し持続的な軍事支援を図るものだ。すでに、英国もウクライナと2国間協定を結んだ。これで、仮に「ほぼトラ」でトランプ氏が復帰して、かき回してもウクライナ支援が空洞化しないように手を打ったところだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月2日付)は、「EUがウクライナ支援を強化」と題する社説を掲げた。

     

    欧州連合(EU)の加盟国首脳は1日、ウクライナに540億ドル(約7兆9000億円)相当の金融支援を提供することで合意した。この支援パッケージは、欧州が応分の貢献をしていないと常日頃主張している、米共和党内の対ウクライナ追加支援反対派への非難ともいうべきものだ。

     

    (4)「支援の詳細確定には欧州議会の承認が必要だが、現在の案によれば540億ドルの支援は融資と無償資金援助で構成され、今後2027年までの期間に分割で実施する。ハンガリーのビクトル・オルバン首相が支援策に反対していたが、EU加盟国はこの問題を克服し、結局は全会一致で支援策を支持した」

     

    EUが、トランプ氏の過激な発言に刺激され、ウクライナを自力で守らなければならないという結束力を強めている面もあろう。米国が支援しなければ、「ウクライナ敗北」となり、ロシアに新たな口実を与えるようなものになる。

     

    (5)「支援のうち420億ドル余りは、ウクライナ政府が年金や教員給与といった基本的なものへの歳出によって機能を維持するのに役立てる。また、重点産業のリスクをカバーする特別投資措置の87億ドルも盛り込まれている。こうした支援はウクライナが生き残りをかけたロシアとの戦いを継続できるようにする点で、EUの戦略上の目的にかなう。ウクライナは今年、400億ドル超の予算不足に直面しており、同国の経済全般が破綻すれば防衛を続けることは一段と難しくなる」

     

    ウクライナ財政を支援する形だ。ウクライナ経済が、侵攻によって破綻に瀕している以上、これを支えなければ、新たな国が同様な憂き目に遭いかねないからだ。

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    ロシアの軍事侵攻の犠牲になっているウクライナが、TPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を正式に申入れた。ニュージーランド(NZ)外務貿易省は7月7日、ウクライナから5月にTPPへの正式な加盟申請を受け取ったことを明らかにしたもの。TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は、5月1日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    ウクライナは、2030年開催の万博でも立候補したが予備選で敗れた経緯がある。ロシアの侵攻終了後を見据えており、その準備を着々と進めているところだ。TPP加盟申請もその一環である。実は現在、ウクライナ財務省顧問として、元日本銀行勤務でIMFへも派遣された人物が、経済再建の指南役になっている。ウクライナの行政改革や汚職撲滅で種々、アドバイスをしている模様だ。

     

    ウクライナは、EU(欧州連合)加盟を熱望しているが、行政改革や汚職撲滅が最大の課題となっている。旧ソ連式の行政が改まらない限り、EU加盟は困難とされている。TPP加盟には、先進国並みの明瞭な行政が要求されるので、EU加盟準備と同時並行で改革促進のテコにしようという狙いであろう。TPPへの加盟をテコに経済復興で支援を取り付けたい狙いがあるとの指摘もされている。こういう単純なソロバン計算よりも、ウクライナがEUにも加盟しTPPにも軸足を広げたいのであろう。これによって、ロシアを上回る経済発展の礎石を作り上げて差をつけたい。そういう「負けじ魂」も感じられるのだ。

     

    ウクライナは、旧ソ連時代に鉄鋼業や造船業・宇宙産業などを手がけてきたので潜在的な工業水準は高いものがある。欧州の「パンかご」というイメージで穀物生産国である一方、工業でも見逃せない力を持っているのだ。今回のロシアによる侵攻では、ITの潜在力を生かして機動的な戦い方を独自に編み出しており、NATO(北大西洋条約機構)に舌を巻かせている。

     

    ウクライナの国際競争力ランキング(2019年:世界経済フォーラム=WEF調べ)では、85位である。インターネット自由度は22位(2022年)と上位に食い込み、ロシア(53位)を大きく引離している。この差が、ロシアとの戦いでウクライナの敏捷さに現れているのであろう。ロシア大統領プーチン氏は、このウクライナの国民性を過小評価していたと見られる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月7日付)は、「ウクライナ、TPP加盟を正式申請 参加国の支援拡大狙う」と題する記事を掲載した。

     

    TPP事務局の役割を担うNZ外務貿易省によると、ウクライナは55日に加盟を申請したという。同国のゼレンスキー大統領は51日にTPP加盟交渉にあたる代表団を編成する政令を発表していた。

     

    (1)「ウクライナ経済省は5月の声明で、TPP加盟の目的に穀物以外の貿易の多様化や加工産業への外資の誘致を挙げた。「ビジネス関係を広げ、包括的な国際支援を得ることはロシアの侵略に対抗するうえでも重要だ」と述べた。NZで15~16日に開くTPPの閣僚会合では承認済みの英国の加盟手続きが完了する見通し。ウクライナの加盟申請についても協議する可能性がある。後藤茂之経済財政・再生相は7日、都内で記者団に「ウクライナがTPPの高いレベルを完全に満たすことができるかどうかについて、まずはしっかりと見極める必要がある」と述べた」

     

    ウクライナは、英国がTPP加盟で2年間要したのと比較して、もっと短期間に加入条件をクリアできる自信を見せている。その根拠は不明だが、ウクライナはEU加盟に備えて国内条件を急ピッチで整備していることで自信を深めているのかも知れない。復興後の経済で、引き続き経済制裁を受けているだろうロシアに比較して急ピッチの回復を実現させ、見返したい気持ちが強いのであろう。

     

    (2)「TPPには中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイも加盟を申請中だ。加盟には全参加国の同意が必要で、英国は申請から承認まで2年以上を要した。貿易や投資、サービスなどの水準をウクライナがクリアできるかが焦点となる」

     

    TPP加盟先願組が、5カ国・地域もある。難物は中国の扱いだ。中国の産業構造は国有企業中心で、最初からTPP加盟資格を欠いている。中国は、これを承知での加盟申請である。本音は、台湾加盟阻止であろう。

     

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    ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダム破壊は、人道上も許されない卑劣な行為である。カホフカ水力発電所は、ロシア軍が支配していた場所だ。そこで起ったダム決壊は、仮に自然崩壊としても管理責任はロシア側にある。

     

    ロシア側が、蛮行に訴えなければならないほど、ロシア軍には勝利への見通しが立たないのであろう。こうした追い詰めた状況下で、ロシアは手段を選ばず手当たり次第に蛮行を重ねている。今後も、何をするか分らない「暗黒部分」が存在することに注意をしなければならなくなった。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月8日付)は、「ロシア戦争犯罪疑惑深めたウクライナのダム決壊」と題する社説を掲載した。

     

    ウクライナへの侵攻を開始して以来、ロシア軍は同国で数知れぬ残虐行為を犯してきたが、南部ヘルソン州にあるカホフカ水力発電所のダム破壊は最も非道な行為の一つだ。構造上の問題による決壊である可能性も否定できない。しかし、どう分析してみても、ウクライナよりもロシアの方が得るものが大きいということは明白だ。

     

    (1)「洪水を起こす目的で意図的にダムを破壊するというのは、ロシアの戦略に沿った行為だ。この出来事は、ウクライナが待望の反転攻勢を仕掛けようというタイミングで起こった。ロシアは、ウクライナの士気と戦闘能力を低下させようと、主要なインフラに攻撃を加えてきた。ウクライナの領土に対しては焦土作戦を実行してきた。これがもし構造上の問題による決壊であるならば、ロシアは、何カ月も前の戦闘でダメージを受けたダムの修復を怠り、最近の異常に高い水位を放置していたことから、過失の罪に問われるべきだろう

     

    下線部のように、ダムを支配していたのはロシアである。ロシアが全責任を負うべき事態だ。

     

    (2)「ロシアは、ウクライナの「テロリスト」を非難するプロパガンダを展開しているが、ウクライナ側がダムの破壊から得られるものはほとんどない。決壊によってクリミアへの水の供給に影響を与えられるかもしれないが、2014年のロシアによる一方的な併合以降、クリミア半島は、この水源からの水の供給なしでしのいできた。ドニプロの東側のロシア軍の要塞が洪水に見舞われるだろうが、ウクライナ軍にとってはドニエプル川を越えて南下する進軍が困難になる」

     

    ダム破壊で、ウクライナが得られる利益は全くない。逆に損害を被っている。

     

    (3)「ダムの決壊により、何十もの町や村が破壊され、何千人もが家を失い、広い地域にわたって家庭や産業への水やエネルギーの供給に支障が出ると予想される。すでに水力発電所が1つ破壊されており、さらに上流にあるいくつかの発電所にも危険が迫っている。ダムの貯水池から冷却水を取水するザポロジエ原子力発電所は今のところ無事のようではある。さらに、ウクライナの主要穀倉地帯の広い範囲で灌漑システムが混乱する。こうしたことを考えると、戦後の復興費用を大幅に増加させるダムの破壊をウクライナが行ったと考えるのは無理がある」

     

    ウクライナは、ダム破壊で膨大な損害を被った。ウクライナの主要穀倉地帯の水害だけに受ける被害は甚大である。こういう視点からも、ウクライナがダム破壊を行ったとするロシアの主張には、全く合理性がない。

     

    (4)「総合的に見ると、カホフカ水力発電所のダム破壊は、これからのウクライナによる反転攻勢に打撃となった。ウクライナの最大の軍事的な目標と目されている南部クリミアとロシア本土をつなぐ橋を断つ作戦を困難にする。これこそが、ロシアがウクライナ侵略から得た最大の戦略的、象徴的な戦果だ。ウクライナによる南部の主要な反攻が、ドニエプル川を渡る作戦である可能性は低い。しかし、ダムの決壊により、道路の横断が不可能になり、川幅がさらに広がり、その東岸が浸水してしまったがために、ウクライナ軍がこの地域を足場に攻撃して、ロシア軍を足止めすることは、当面は、ほぼ不可能になってしまった。一方、ロシア側は、ウクライナが反攻の焦点にせざるを得なくなったザポロジエ州やドンバス地方南部に兵力を集中できる。900キロに及んでいた前線は、実質的に短縮された」

     

    ダム破壊で受けるロシアの軍事的利益は計り知れない。ウクライナ軍のドニエプル川を渡る作戦の可能性は低く、ロシア軍は防衛線を短縮できるからだ。ただ、ウクライナ軍がこの逆境をどう跳ね返すかという「可能性」もないではあるまい。

     

    (5)「ウクライナを支援する西側諸国はこのことをよく考えるべきだ。カホフカ水力発電所のダム破壊は、ロシア軍には自らの欠点を補うための作戦を遂行する能力があり、プーチン大統領はどこまでも過激な手段を取る覚悟があることを示唆した。ウクライナが形勢逆転の大戦果を上げる可能性は否定できない。しかし、西側諸国が、戦況の決定的な転換が数カ月以内に起こることを期待するならば、腰を据えてウクライナ支援を続ける覚悟が必要だろう」

     

    プーチン氏は、元KGB(ソ連スパイ)出身である。残酷なことを平然と行う訓練を受けてきた人物だ。実際、大統領就任後にもいくつかの事件が、プーチン氏の指令で行われたと報道されている。これからも、ウクライナで何が起るか分らない不気味さを残している。

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    6月6日未明に起ったウクライナ南部のダム決壊は、想像以上の後遺症をもたらすことが分ってきた。ウクライナ軍南部司令部のナタリヤ・フメニュク報道官は、ウクライナ・テレビに対し「(ロシア占領地域の)対歩兵用地雷の多くが浮き上がり、水に流されている」と述べた。その上で、こうした地雷ががれきなどに当たると爆発する可能性が高いと述べ、「これは大きな危険となる」と指摘する。事態は深刻である。 

    ウクライナとロシアは互いを非難しているが、ダムの決壊が起きたのはロシアの占領地域である。決壊の原因はまだ分っていないものの、CNNによる衛星画像の分析によれば、ダムは決壊の数日前に損傷していた。この損傷が、自然発生か人為的工作によるものかは不明である。ロシア側の占領地域ダムだけに、損傷を修復する、あるいは警告する義務がロシア側にある。ロシアの責任は免れず永遠の十字架を背負うだろう。

     

    『ブルームバーグ』(6月8日付)は、「ロシアのエリート層、ウクライナ侵攻の見通し悲観ー停戦も見えず」と題する記事を掲載した。 

    プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻を巡り、重苦しい空気がロシアのエリート層を支配している。ロシアにとっていまやあり得る結果は、最善でも紛争の「凍結」でしかないとの見方が広がっている。 

    (1)「事情に詳しい7人の関係者によると、政治や実業界のエリート層の多くは戦争にうんざりし、戦争を止めたいと考えているが、プーチン大統領が戦争を停止するとは思っていない。関係者は繊細な内容を話しているとして匿名を要請した。侵攻について大統領に立ち向かおうとする者は誰もいないが、政権に対する絶対的な信念は揺らいでいると、関係者4人が述べた 

    ロシア・エリートは、すでにプーチン氏への絶対的な信念が揺らいでいる。危険水域へ入っている証拠だ。 

    (2)「最も望ましい展開は、年内に交渉が行われて紛争が「凍結」され、占領地域の一部の支配を維持してプーチン氏が一応の勝利を宣言できるようになることだと、関係者の2人は話した。元ロシア政府顧問で侵攻後に国を離れ、現在はウィーンを拠点とするシンクタンク、『Re:Russia』の責任者を務めるキリル・ロゴフ氏は「エリートは袋小路にはまっている。無意味な戦争のスケープゴートにされることを恐れている」と指摘。「ロシアのエリート層の間で、プーチン氏が今回の戦争に勝利できない可能性がこれほど広く考えられるようになったというのは、実に驚くべきだ」と続けた」 

    プーチン氏への絶対的な信頼が揺らいでいることは、これまでになかった。「プーチン終焉」が近くなっている兆候であろう。

     

    (3)「失望感の深まりで、先行きが怪しくなってきた侵攻の責任を巡る非難合戦が強まりそうだ。すでに、国粋主義的な強硬派とロシア国防省の間の亀裂は表面化している。欧米の巨額の支援を受けたウクライナが反転攻勢に乗り出す中で、ロシア当局者による戦況好転への期待は低い。ロシア軍は冬季に攻勢をかけたもののほとんど進軍できず、多大な犠牲ばかりを生んだ」 

    下線部は、重大な事態である。傭兵組織を率いるプリゴジン氏は国防省トップをこき下ろしている。これだけでも「敗北の前兆」だ。プーチン氏が、この紛糾を抑える動きもしないとは、どういう意味か。両者が、武器を持っているので片方の肩を持てば相手側がプーチン氏の追い落としを策するであろう。そういう意味では、極めて危険なゾーンに入っている。ウクライナ侵攻の継戦能力に疑問符がつくのだ。 

    (4)「ウクライナに対する侵攻を支持し、攻撃強化を望んでいた向きですら、戦争の見通しに対する期待はしぼんだ様子だ。侵攻は当初、数日で終わると考えられていたが、いまや16カ月目に入った。ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループ創設者のエフゲニー・プリゴジン氏ら国粋主義者は、ショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に軍事的失敗の責任があると非難し、破滅的な敗北を避けるため総動員と戒厳令の導入を呼び掛けている。ロシア大統領府と緊密な関係を持つ政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフ氏は、「あまりに多くの大きな誤りがあった」と述べ、「ずっと前には、ロシアがウクライナの大部分を占領できるとの期待があった。しかしその期待は実現しなかった」と説明した」 

    国粋主義者と国防省のトップが、責任のなすり合いをしている。これは、ウクライナ侵攻が敗北過程に入っている証拠であろう。旧日本軍では、最後に陸軍と海軍が争って合同作戦を妨げた例もある。「負け戦」とは、内部の統一が崩れることでもあるのだ。

     

    (5)「プーチン大統領と政権幹部は、まだロシアが勝利するとの主張を続けている。政権内部からプーチン氏に挑戦するような兆しは見られない。事情に詳しい関係者4人によると、エリートの大半は大勢に影響を及ぼすことはできないと信じ、目立たないようおとなしく仕事に専念しているという。プーチン氏は終戦を望んでいる兆候を一切見せていないと、関係者5人が述べた」 

    日本では敗戦前夜、ポツダム宣言受託をめぐって血なまぐさい争いがあった。終戦促進派がいた。ロシアには、未だそれが現れないのだ。エリートは、「国難」を見て見ぬ振りをしている。これもロシア危機を示す例だ。

     

     

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