勝又壽良のワールドビュー

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    ウクライナ侵攻開始から4日目の2月27日、ロシアのプーチン大統領は、戦略的核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。西側諸国が、ロシアに「非友好的な行動」をとったことを理由にしたのである。ロシア政府による「核戦争危機論」は、その後沈静化していたが、4月25日にラブロフ外相の蒸返しによって、改めてこの問題が浮上している。

     

    『ロイター』(4月26日付)は、「ロシア外相、核戦争の『深刻なリスク』警告」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ロシアのラブロフ外相は国営テレビのインタビューで、核戦争が起きる「かなりのリスク」があり、過小評価すべきではないとの見方を示し、ロシアはリスクを抑えたいと述べた。また、西側諸国がウクライナに供与する武器はロシア軍の「正当な標的」になるとした。「このようなリスクを人為的に高めることは望まない。高めたいと考える国は多い。深刻で現実の危険があり、それを過小評価してはならない」と語った。外務省のウェブサイトに発言内容が掲載された」

     


    このような発言が飛び出す背景は、ロシア軍が苦戦していることを意味する。英国防省は25日、つぎのような発表をした。

     

    「英国防省は25日、ウクライナのマリウポリ防衛が「多くのロシア部隊を消耗させ戦闘効果を落とした」と明らかにした。ロシアが、ウクライナ東部ドンバス地域をすべて占領しようとして「小さな進展」を成し遂げたが、供給問題が攻勢の足を引っ張り「重大な突破口」を設けられずにいると付け加えた。また、英国のウォレス国防相は下院でウクライナ軍によるロシア軍の戦死者が1万5000人に達するという分析を明らかにし、ロシア軍の装甲車も2000台以上が破壊されたり、ウクライナ軍に奪取されたと話した」『中央日報』(4月26日付)が伝えた。ロシア軍が,予想以上の苦戦を強いられていることから、苦し紛れに「核戦争論」が出てきたのであろう。



    (2)「ラブロフ氏のインタビューを受け、ウクライナのクレバ外相はツイッターで、ロシアはウクライナ支援をやめるよう外国を脅せるとの望みを失ったようだと指摘。「つまり、敗北感を覚えているということだ」とした」

     

    ウクライナ外相は、このバブロフ発言がロシア軍劣勢を自ら言っているようなものだと批判している。核戦争がどんな意味を持っているか、あまりにも軽々に発言しすぎているからだ。客観的に見て、ロシアがウクライナ戦争で「核投下」する危険性はあるのか。

     


    英『BBC』(3月1日付)は、「核使用のリスク、どれくらいあるのか ロシアのウクライナ侵攻」と題する解説記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月27日、核兵器を含む「抑止部隊」を「戦闘の特別態勢」に移すよう、軍に命じた。一体なにを意味しているのか。多くの人は今回の動きについて、実際の核兵器使用の意図を示したというより、主に世界に向けてシグナルを送ったものと解釈している。プーチン氏は、核を使えば西側から核の報復を受けることを分かっている。イギリスのベン・ウォレス国防相は、プーチン氏の発表について、主に「言葉の上」のことだとの考えを示した。だからといって、リスクがゼロというわけではない。状況は注意深く見守られることになるだろう。

     

    (1)「プーチン氏は先週、間接的な言い方で、ロシアの計画を邪魔する国は「見たことのないような」結果に直面すことになると警告していた。北大西洋条約機構(NATO)に向かって、ウクライナで直接的な軍事行動を取らないよう注意したものと、広く受け止められた。NATOは一貫して、そうした行動を取るつもりはないと言明している。もし実施すれば、ロシアとの直接衝突につながり、核戦争へとエスカレートしうると理解しているからだ。2月27日のプーチン氏の警告は、これまでより直接的かつ公なものだった」

     

    プーチン氏は、NATOが直接的な軍事行動を恐れて、「核使用」という形でけん制している。もともと、ロシアはNATOがロシアの安全保障を脅かしているという理由で、ウクライナ侵攻を行なったはずだ。それが、本当にNATO参戦になれば、大変な思惑違いになる。

     


    (2)「プーチン氏は、ウクライナの戦場でロシア軍がどれほど抵抗を受けるかについて、見誤っていた可能性がある。プーチン氏はまた、西側が厳しい制裁措置を取ることについて、どこまで結束するのかも見誤った。そのため、彼は新たな選択肢と、さらに厳しい話を持ち出すことになった。「怒り、フラストレーション、落胆の表れだ」と、ある元英軍司令官は先日、私に言った」

     

    プーチン氏の予測が完全に外れたことへの絶望感が、「核使用」というトンデモ発言に現れたに違いない。最近では黒海艦隊旗艦「モスクワ」が撃沈されるなど、予想外の事態が連続的に起こっている。「核使用」という言葉を外相に使わせて鬱憤晴らしをしている面もあろう。

     


    (3)「このように見ると、核への警戒の呼びかけは、自国民に向けてメッセージを発する1つの方法のように思われる。別の見方としては、西側がウクライナに軍事支援を提供するのをプーチン氏は懸念しており、西側に対してやり過ぎないよう警告しているとも考えられる。さらに、プーチン氏が制裁について、政情不安と政権転覆を狙ったものではないかと心配しているとの解釈もできる(演説では制裁に触れていた)。しかし、メッセージ全体としては、NATOに対して、直接関与すれば事態は悪化しうると警告したものと思われる」

     

    ロシアが、甘く見ていたNATOの結束ぶりに驚き、さらに本格的な反撃に出てくることを恐れているにちがいない。その意味でロシアは日々、苦境に立たされているとの認識を強めているのかも知れない。

     


    (4)「冷戦時代、西側ではロシアの核兵器の動きを監視する巨大な情報マシーンが作り出された。人工衛星、通信傍受、その他の情報を分析し、ロシアの行動に変化を示すものがないか探った。武器や、爆撃機の乗組員の準備といった、警告が必要となる状況が生じていないか調べた。それらの多くはまだ残っていて、西側各国はロシアの動きに重大な変化がないか、活動を注意深く見ている。変化を示すものは、いまのところない」
     

    NATO軍の情報収集に加え、「ファイブアイズ」(米英豪加ニュージーランド)5ヶ国の特別諜報網が、ロシアによる核への動きを監視している。冷戦時代のソ連監視網は、現在に引継がれているのだ。仮に、ロシアが核投下の兆候を見せれば即、世界へ発表されるだろう。ロシアの評価は、それだけで激落間違いない。そういう事態にならぬよう、プーチン氏の自重を祈るほかない。


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    ロシアによるウクライナ侵略は、政治と宗教が絡んだ複雑な様相を帯びている。プーチン氏は、ロシア正教の総主教と密接な関係を持っている。その総主教が、プーチン氏に対してウクライナ侵攻の背中を押しているのだ。ウクライナもロシア正教である。ただ、ウクライナでは、ウクライナ正教と称して、ロシア正教から財政的に独立した存在である。

     

    宗教上の問題が、ロシア正教とウクライナ正教との間に起こっている。だからと言って、戦争という「殺人行為」を奨めるロシア正教に対しては、世も末という恐ろしさを感じる。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月18日付)は、「戦争を正当化、プーチン氏支えるロシア正教会」と題する記事を掲載した。

     

    世界各地の正教会の一つであるロシア正教会のトップ、キリル総主教は4月、ロシアが「外と内の敵を撃退」できるよう政府の下に団結するようロシア国民に訴えた。プーチン大統領の統治体制の柱の一つであるロシア正教会は、プーチン支持者に、この戦争が正当なものであるという空気をもたらしている。ロシアの侵攻は、古来スラブ民族と正教の下にあった領土を再統一するためとするプーチン氏の主張を支えている。

     

    (1)「ロシア正教会の総主教は、紛争をウクライナに対する侵攻ではなく、価値観をめぐる世界規模の歴史的戦いと位置付け、ロシアは「同性愛者のパレード」などを認める不道徳な西側に対する最後の砦(とりで)であるとしている。「神の真理」はロシア側にあるのだという。ウクライナ戦争の勃発以来、総主教はウクライナの平和に祈りをささげているが、その一方で、ロシア軍の治安組織で傘下の部隊がウクライナで戦っている国家親衛隊のトップと教会で面会し、「若き戦士たち」を守るイコン(聖像画)を贈ってもいる。総主教は4月、モスクワ郊外に新たに建立されたロシア軍主聖堂で、ロシアの「真の独立」のために戦っている兵士たちに特別の祈りをささげた」

     


    世にも不可思議なことが起っている。ロシア正教会のトップである総主教が、ウクライナ侵攻を止めるのでなく、ロシアの「真の独立」のために戦う兵士たちに特別の祈りをささげたという。現代版の十字軍だ。ロシア兵による残虐行為に対し神の祝福を与えるとは、どういうことか。

     

    (2)「ウクライナでは多くの人々の怒りを呼んでいる。2018年の歴史的な分裂により、初めて独立した宗教指導力を持つキーウ(キエフ)総主教庁系のウクライナ正教会が発足した。戦争が勃発するまで、同国内の数千の教区は、モスクワ総主教庁の管轄下に残り、キリル総主教を精神的指導者としていた。ウクライナで数十カ所の教会が戦火で破壊され、聖職者が防空壕(ごう)で避難生活をしながら地域の救援活動にあたる事態に至っても、ロシア正教会はウクライナ国内の信徒の運命について沈黙を保っている」

     

    ロシア正教会の総主教は、ウクライナでどのような悲劇が起こっているか。見ようとしていないのだ。ウクライナで、多くの人々が怒りを呼ぶのは当然である。総主教に、もはやイエスキリストの名を口にする資格はない。

     


    (3)「米フォーダム大学で正教を専門とするセルゲイ・チャプニン上級研究員は、「ウクライナの聖職者と正教会の信徒にとっては、キリル総主教に裏切られたということになる」と指摘する。「彼は支援や同情の言葉を一言も発していない。彼らから見れば、自分たちはキリル総主教の眼中にない存在ということだ」。チャプニン氏によると、戦争前までウクライナ国内の12000の教区がモスクワ総主教庁とキリル総主教の管轄下にあり、両国内のモスクワ系教区の約3分の1を占めていた」

     

    キリル総主教は、自らの門徒が死の淵に追詰められている現状に対して平然としている。神の道に使える資格はない。

     


    (4)「ウクライナの独立系調査機関ラズムコフセンターによる意識調査では、人口約4400万人の同国で14%の人がモスクワ系教会との一体感を示していた。それが今、多くの人が絶縁を望むようになっている。世論調査によると、開戦後わずか2週間の時点で、モスクワ系教会に通うウクライナの正教信徒の半数以上が教会は、モスクワ総主教庁およびキリル総主教との関係を断ってほしいと答えた。正教会の多くの聖職者が、祈りの中でキリルの名に触れなくなった。キーウ総主教がそうするまで公式的にはキリル総主教が精神的指導者のままだが、「事実上」ウクライナ国内の数千の教区がモスクワの支配下から離れたことを意味する」

     

    いずれは、この侵略戦争も終わる時期が来る。そのとき、キリル総主教はロシアによる惨劇に対してどのように弁解するのか。神の名において、断罪が下されるべきだろう。

     

    (5)「モスクワ系教会に今も所属する数百人の聖職者が、「ウクライナに対する戦争に祝福を与えている」としてキリル総主教を異例の教会裁判にかけるよう求め、ウクライナ東部ドニプロ近郊の小さな町の聖職者アンドリー・ピンチュク氏が立ち上げた署名運動に応じている。「キリル総主教は長年、公式な発言でウクライナの正教徒は自分の信徒であると信じ、自分が責任を負うとしていた」とピンチュク氏は書いている。「ところが今日、彼はロシア軍によるこのコミュニティーの物理的破壊に直接的な祝福を与えた」とする」

     

    下線の「教会裁判」は、教会の秩序維持を巡って行なわれるものだ。キリル総主教の振る舞いは、プーチン氏の侵略戦争の片棒を担いだ「共犯者」というべき大罪に該当する。 

     

     

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    ウクライナ軍の反攻体制が、これまでのゲリラ的戦いから、大型兵器を使った反撃に移っている。その一例として、ロシアの黒海艦隊の旗艦である巡洋艦「モスクワ」が14日、沈没したことと無縁でないからだ。ウクライナ軍の反撃態勢確立への証とも言えよう。

     

    ロシア海軍の巡洋艦「モスクワ」沈没原因については、ウクライナ軍のミサイル攻撃説とロシア軍による火災説が出ている。だが、常識的に言えば戦闘中の事故であるゆえ、攻撃説が常識的であろう。

     

    ウクライナ軍は3月24日、ロシアに占拠されたアゾフ海に面する都市ベルジャンシクの港に停泊していたロシア海軍の複数の艦船を攻撃した実績がある。攻撃から数時間後、ロシア艦隊は港を離れざるを得なかった。これにより、ロシア軍は地上部隊への支援やウクライナ各都市への攻撃が困難になった。軍事専門家は、「ロシア軍の後方支援にとって大きな打撃」と指摘している。米国が、このようなウクライナ軍の戦い方を見ながら、大型兵器供与に傾いたと見られる。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月14日付)は、「米、ウクライナへ情報共有拡大 大型兵器提供も」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米政権はウクライナ軍への機密情報の提供を大幅に拡大する。東部ドンバス地方やクリミア半島を制圧しているロシア軍への攻撃を可能にする狙いがある。

     


    (1)「ホワイトハウスはこれとは別に、重火器や装甲兵員輸送車(APC)、ヘリコプターなどを含む8億ドル(約1005億円)相当の追加の軍事支援を発表した。ロシア軍は今後、ウクライナ東部で猛攻を仕掛けると予想されており、ウクライナの反撃を支えることが目的だ。バイデン政権は機密情報の提供拡大や重火器供与の決定により、今回のウクライナ紛争に対するアプローチを軌道修正する」

     

    ロシア軍が、5月9日の対独戦勝記念日に向けてウクライナ東部での勝利を目指し集中的な攻撃に移るとみられている。ウクライナ軍には、これに対抗する本格的武器が不足している。士気は極めて高いが「素手」では攻撃を防げないのだ。それ相応の武器弾薬が必要である。そこで、米国は重火器・装甲兵員輸送車(APC)・ヘリコプターなどをウクライナ軍に供与することになった。

     

    (2)「米国はすでに対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」などの武器をウクライナに提供しているが、これまで戦闘機の供与には踏み込んでこなかった。戦闘機を供与すれば、ロシアが米国を戦闘相手とみなしかねないと懸念していためだ。またウクライナが求める飛行禁止区域の設定にも応じていない。だが、ロシア軍はここにきて、首都キーウ(キエフ)周辺などウクライナ北部から撤退し、兵力を集中させているドンバス地方など同国東部に激しい攻撃を加える戦略にシフトしている。そのため、バイデン政権は先週終盤、ロシアの攻撃計画をより正確に把握するため機密情報を共有する仕組みを設け、ウクライナが重火器やドローン(小型無人機)などを駆使して反撃できるようにすることを決めた

     

    NATO軍は常時、情報収集目的で6機の偵察機を飛行させている。その情報は、各加盟国へ即時通報されている。米国は、これらの情報と独自に得た情報をウクライナと共有して、ロシア軍撃破に使用するという。

     


    (3)「だが、米国は情報共有の新たな指針においても、ウクライナによるロシア領土内への空爆を可能にするような情報の共有までは踏み込まない方針だ。米当局者はこれについて、紛争を拡大させないために設けられた制限だと説明した」

     

    米国は、ウクライナ軍と情報を共有しても限度を設ける。ウクライナ軍が、ロシア領を爆撃して戦線拡大させない歯止めを設ける。

     

    『日本経済新聞』(4月15日付)は、「米欧、ウクライナに追加軍事支援1680億円 ヘリや無人機など」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナ東部への総攻撃を近く開始する可能性が高まっていることを受け、米欧は追加支援を決めた。バイデン米政権は13日、ヘリコプターや無人機など8億ドル(約1000億円)相当の追加軍事支援を発表し、欧州連合(EU)も同日5億ユーロ(約680億円)の追加支援を決定した。軍事装備品などを供与し、ロシアの戦力増強に備える。

     


    (4)「米国防総省によると、米が追加供与するのは旧ソ連時代に開発されたヘリ「Mi17」11機、携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」500基、自爆攻撃機能を持つ無人機「スイッチブレード」300機など。侵攻後、米の軍事支援は計26億ドルに上る。ウクライナ側の要望を踏まえ、ロシアの東部攻撃に備えた攻撃型の兵器を増強した。米メディアによると、ロシア軍の動向を正確に把握するため、米機密情報の提供も大幅に拡大する」

     

    米国の供与する武器は、攻撃型に移っている。ロシア軍の総攻撃に合わせた武器である。

     

    (5)「EUの5億ユーロの追加支援は燃料、軍事装備品をはじめ防護・救援物資にあてる。ボレル外交安全保障上級代表は「今後数週間が決定的になる」との見通しを示した。ウクライナのマルチェンコ財務相は14日「諸外国からすでに35億ドル以上の財政支援を受けている」と明らかにした。ロイター通信が伝えた。「およそ80億ドル相当の支援について交渉中だ」とも述べた」

     

    ウクライナは、これまでに35億ドル以上の財政支援を受けている。今後さらに80億ドル相当の支援を交渉中としている。これまで受けた支援の二倍以上である。ロシア軍の「皆殺し作戦」を防ぐ目的である。

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    ウクライナは、ロシアの侵攻によって不利な情勢にもかかわらず踏ん張りを見せている。ウクライナ軍が、情報収集においてロシア軍より敏捷に動いている結果であろう。これを支える一つの柱は、NATO(北大西洋条約機構)6機による空からの情報収集結果が、ウクライナ軍へ即時に伝えられていることだ。ウクライナは、NATOへ未加入であるが、「客分」としての礼遇を十分に受けている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月6日付)は、「上空からウクライナ周辺を監視するNATOの航空機」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ北西部にある遮蔽壕の奥深くで、欧州東部の空域図を映し出す大型スクリーンを前に北大西洋条約機構(NATO)の空軍要員十数人がコンピューターの周りをせわしなく行き交う。ロシア、ベラルーシ、ウクライナと接する東部地域の上空に、NATOの航空機を表す30個ほどの緑色の点が集まっている。戦闘機、偵察機、支援機が入り交じったその一群は、ロシアの侵略を抑止するための力を誇示すると同時に、ウクライナでの戦況に関して同国政府にフィードバックできる情報を収集している。「データは山のようにある」とNATOの防衛当局者は話した。「彼らは耳を澄まし、目を凝らしている」

     


    (1)「オランダ国境に近いドイツ・ウエーデムにあるNATOの統合航空作戦センターは、アルプス山脈以北の全ての航空作戦を調整している。平時はNATO域内への侵入を防ぐ空域監視が主な任務だが、約6週間前にロシアがウクライナに侵攻を開始してからは活動の規模と目的を拡大している。NATO加盟国によるウクライナへの武器供与と同じように、ポーランドとウクライナの国境周辺などの空域監視で得られる軍事情報は機密性が高い

     

    NATOは、ウクライナへ武器を供与している。当然、NATO機による軍事情報もウクライナへ伝えられていると見るべきだろう。

     


    (2)「NATOは、ウクライナ政府との機密情報共有の調整や促進には一切関与していないと強調する一方、加盟国が独自の判断でウクライナ軍の防衛に役立つ情報を流すことはありうるとしている。ウエーデムの作戦センターで司令官を務めるハロルド・ファン・ピー少将は、「情報をどのように扱うかは各国の判断による」と語った。「いくつかの国は恐らく、他の利害関係国と情報の一部を共有するだろう。そう言っておこう」と話す。米国の当局者は米政府がウクライナ政府と機密情報を共有していることを認めているが、ロシア側の標的を「リアルタイムで狙う」ことを可能にするデータは提供していないという」

     

    NATO機が得た情報は、NATO加盟国の個別意志でウクライナへ伝えられている模様だ。NATOとして意志決定しているものでない。要するに、建前と実際は別であるが、裏では繋がっている。

     


    (3)「NATOは米ボーイング製の空中警戒管制機(AWACS)「E3A」を十数機保有・運用しており、広範囲を監視できる「空の目」として知られる同機を常時6機ほど飛行させている。これはウクライナ紛争の勃発を受けて東欧の空域監視を強化し、毎日約100機を出動させているNATOの活動の一部分だ。活動には加盟各国が運用する戦闘機や有人・無人偵察機も参加している。ストルテンベルグNATO事務総長は、NATOはウクライナの状況を「非常に注意深く監視している」と述べ、「大量の情報をもたらす監視能力」があるとしている」

     

    NATOは、空中警戒管制機6機を常時、出動させている。ロシア軍のすべてが、空から覗かれているのだ。ロシア部隊の動きは、空から見れば一目瞭然である。

     


    (4)「ストルテンベルグ氏はブリュッセルで5日、「現在、ウクライナで起きているような危険な状況では、もちろん情報と可能な限りの状況把握が極めて重要だ」と記者団に語った。ウエーデムのファン・ピー司令官は「もちろん、我々は国境の向こうをのぞき込んでいる。向こう側で飛んでいるものを我々はリアルタイムで知りたい」と話した」

     

    空には「壁」がないから、NATO機はロシアの動きは逐一、把握可能である。ロシア軍が今週中に、ウクライナ東部を攻撃すると言われている裏には、こういう情報収集も寄与しているのであろう。

     

    (5)「NATOは空域監視の強化と同時に、ロシアの侵攻を受けて防衛態勢の見直しに動く中、東欧の加盟国への地上・海上戦力の配備も増強している。配置済みの部隊の規模拡大と新たな指揮系統を設ける決定により、東部地域でのNATO指揮下の兵力は4万人となり、ロシア、ウクライナと国境を接する加盟国及び黒海に面する加盟国の全てに戦闘群が配備される。加えて、空母打撃群が北海と東地中海に展開し、140隻以上の艦船が出動している。敵の航空機やミサイルを迎撃できる米国製の地対空ミサイル「パトリオット」もポーランド南部とスロバキアに配備された」

     

    NATOは、ウクライナ周辺の情報収集を特別任務で行なわずとも、NATO加盟国の安全保障任務の一環である。ロシア軍は、こうしてNATOから四六時中、監視される仕組みになっている。

     


    (6)「ウエーデムの作戦センターは巡航ミサイルの探知や追跡も担う。かつてNATOが使用していたウクライナ西部の軍事訓練場を攻撃したロシアのミサイルも探知していた。3月のこのミサイル攻撃は、NATOの東欧での空軍力強化による防衛と抑止、監視が並び立つものであることを実地で示したとウエーデムの当局者は話した。ミサイルが12キロメートルしか離れていない国境を越えてポーランドに飛んできていたら、撃ち落とせていたという。「向こう側を深く見ることができればできるほど、いつかこちらに来るかもしれないものに警戒を強められる」とファン・ピー司令官は話した」

     

    ウクライナ軍は、情報収集面でもNATOの全面的な支援を受けている。この事実は意外と知られていないが、ウクライナ軍の戦闘行為において大きな力を発揮しているに違いない。

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    ロシア軍は、ウクライナ侵攻でウクライナ北部から完全撤退したと米国防省が発表した。撤退したロシア部隊は、ウクライナ東部・南部の攻撃に加わるであろうと見られている。ただ、相当の打撃を受けていることも事実で、部隊を再編成して戦線へ投入されるのは、数週間後と米軍事当局が見ている。

     

    この「空白期」を利用して、NATO(北大西洋条約機構)は、これまでよりも高度の兵器をウクライナへ供与すると発表している。具体的な兵器については示していない。一方、米国は新たに無人機の「自爆ドローン」110機を供与すると発表した。ウクライナ側は、これまで戦闘機の供与を求めてきたが、そうなると米ロの直接対決になるので、これを避けている。「第三次世界大戦」を回避するのが目的である。

     


    自爆ドローン」については、ドローン本体がミサイルを搭載し、地上からの指示に従ってミサイル攻撃する機能を備える。ある意味で、戦闘機に代わる機能を持っている。

     

    韓国紙『中央日報』(4月7日付)は、「米国防総省、ウクライナ軍『自爆ドローンの操作訓練受けた』」と題する記事を掲載した。

     

    米国防総省はウクライナに対し、ロシアに対抗する先端兵器を相次いで支援した。最近では最先端「自爆ドローン」として知られる「スイッチブレード」110機を送り現在投入を準備中だ。こうした中、すでに戦争開始前に少数のウクライナ軍が該当兵器の操作に向けた訓練を受けていたと伝えられた。

     


    (1)「ロイター通信は6日、米国防総省関係者の話として、「ロシアが侵攻する前に、12人未満のウクライナの軍人が、スイッチブレードをはじめとする最新兵器の運用方法について訓練を受けた」と報道した。米国防総省関係者は、「われわれは定期的な軍事教育プログラムに参加するために米国を訪問したウクライナの軍人に多様な米国兵器の使用法について教育させた。訓練プログラムにはスイッチブレードの運用法教育が含まれた」と明らかにした。続けて「われわれの目標はウクライナが1日も早く日常を回復すること」と付け加えた」

     

    米軍は、一日も早いウクライナ侵攻を終わらせるべく、ウクライナへ「自爆ドローン」を提供するとしている。無人機が、地上からの操作で攻撃する「未来型戦闘形態」を実現させる。

     


    (2)「ホワイトハウスは3月16日にウクライナを支援するため8億ドル規模の安全保障支援パッケージのうち旧バージョンである「スイッチブレード300」100機を支援することに決めた。続けて米国防総省は4日に3億ドル規模の安全保障支援の一環としてこの無人機の最新バージョンである「スイッチブレード600」10機を追加支援することに決めた。製造会社のエアロバイロンメントは最新版であるスイッチブレード600について、重量約23キログラムで39キロメートル以上を飛行できると説明した。また、スイッチブレード600はタッチスクリーンでの手動操縦が可能で、40分以上飛行して搭載されたミサイルで戦車を破壊させられるとした」

     

    米国は、旧型の「スイッチブレード300」100機と、新型「スイッチブレード600」10機を供与するという。「自爆ドローン」というと、戦時中の日本軍が行なった「特攻隊」のようなイメージであるが、そうではない。ドローンが自ら攻撃するという意味で「自爆」というネーミングであろう。

     


    (3)「この兵器の初期バージョンは、2010年にタリバンに対抗するためアフガニスタンに秘密裏に支援されてから米軍の兵器庫に保管されてきた。軍事専門家らはスイッチブレードがウクライナに支援されるならば戦争様相において大きな変化を引き出せると分析した。米国が支援する兵器に自爆型ドローンを選択した理由は、比較的大きく高価なMQ9リーパーに比べ、スイッチブレードはウクライナ軍がすぐに運用しやすいためだ。その上スイッチブレードは、センサーと火薬など値段が安い消耗品で作られており費用対効果が大きく、ロシアの戦車などを効率的に破壊できる」

     

    下線のように、「自爆ドローン」の登場によって、戦争形態が大きく変わる可能性を持っているという。無人ドローンだけに、操縦士が搭乗することはない。地上で操作するから安全地帯に身を置くのだ。こういう現実の積み重ねが将来、戦争を地上から一掃する契機になるのかも知れない。

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