ロシアのプーチン大統領は、これまでウクライナ侵攻で核使用をほのめかし欧州を警戒させてきた。この問題が、欧州と中国との外交関係にも悪影響を与えてきた。中国の習国家主席は、3月の訪ロの際にプーチン氏へ核使用を警告したことが、『フィナンシャル・タイムズ』の報道で明らかになった。中国の外交関係者は、この警告を中国外交の成果として関係国へ喧伝しているという。
『フィナンシャル・タイムズ』(7月5日付)は、「習氏、プーチン氏に核兵器使わぬよう警告 ウクライナで」と題する記事を掲載した。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月、ロシアのプーチン大統領に対し、ウクライナで核兵器を使用しないよう個人的に警告した。西側諸国と中国の当局者らが明らかにした。中国がロシアに暗黙の支援をしているにもかかわらず、戦争に懸念を抱いていることを示唆している。習氏が外遊をした時のことだ。
(1)「中国政府のシニアアドバイザーは、核兵器使用をプーチン氏に思いとどまらせることは欧州との傷ついた関係を修復する中国の組織的運動の中心だったと語った。ロシアが2022年にウクライナに全面侵攻したことで、ロシアと中国は欧州の多くの国と対立することになった。中国は一貫して公式声明でウクライナでの核兵器使用に反対してきた。しかし、ウクライナを支援する多くの国は、このような抑止に対する中国政府の深い関与を疑ってきた。習氏がプーチン氏と「無制限」の協力関係を持ち、ロシアの主張と重なる「平和案」を掲げたことが背景にある」
中国は、ロシアのウクライナ侵攻で微妙な立場に立たされている。明確に「戦争反対」を発言しないことが、欧州との関係を悪化させているのだ。それだけに、中国はロシアへ核使用反対を明らかにして、欧州との関係改善を目指している。
(2)「習氏によるプーチン氏への警告は、中国が公の場での発言を密室で裏付けているという明るい期待を与えた一方、プーチン氏の核兵器使用を阻止するのに十分である関係性に悪影響が出る恐れもある。ある米政権高官は「中国はあらゆるレベルで、ロシアにメッセージを送ったことを手柄にしようとしている」と語った。中国外務省にコメントを求めたが、すぐには返答がなかった。しかし、ある元中国政府高官は、習氏がプーチン氏に核兵器を使用しないよう個人的に伝えたことを認めた。核兵器の使用に反対する中国の立場がウクライナ和平に関する政策提言書に含まれているとも指摘した」
中国外交関係者は、ロシアへの「核警告」を手柄にしているという。それだけ、警告効果があると認めているのであろう。
(3)「共同声明で核兵器の使用を非難したのは、ほぼ間違いなく中国の意向で追加されたものだと、西側の安全保障当局者は付け加えた。もし、ロシアがウクライナで核兵器を使用すれば「中国にとってはマイナス面ばかりだ」とある当局者は語った。ロシアのウクライナ侵攻は、中国からの支援に大きく依存しており、ロシアが重要な国際市場やサプライチェーン(供給網)から排除される経済制裁を乗り切ることに役立っている。昨年、中国によるロシアとの2国間貿易は過去最高の1900億ドル(約27兆5000億円)に達した。これは、中国がロシアのエネルギー購入を拡大し、ロシアが半導体を含む重要な技術を輸入できるようにしたためである」
ロシアが核を使用すれば、中国との関係悪化は必至である。経済面で中国の支援を受けているだけに、ロシア経済の窮迫は間違いない。
(4)「中国政府のシニアアドバイザーによれば、この戦争は欧州と米国の間にくさびを打ち込もうとする中国の努力を台無しにする恐れがあるという。同人物は、ロシアがウクライナや欧州の協力国を核攻撃すれば、欧州が中国を敵対するリスクになると述べた。一方、中国がそのような行為を阻止するためにロシアに継続的に圧力をかけることは、欧州との関係改善につながるかもしれないという。北京の中国人民大学国際関係学院の時殷紅教授は「ロシアが核兵器を使用することを中国が承認したことは一度もないし、今後もないだろう」と述べた。もしロシアがウクライナに対して核兵器を使用すれば「中国はロシアからさらに距離を置くだろう」と付け加えた」
中国は、ロシアへ核攻撃させないことで欧州との関係を維持している面もある。それだけに、真剣であると指摘している。
(5)「ロシア大統領府に近い関係者によれば、ロシアの指導者は、戦術核兵器を使用した場合のシナリオを予測した結果、戦術核兵器がロシアに有利に働くことはないと独自に判断したという。核攻撃は、プーチン氏がロシアの一部と主張している地域を放射線で汚染された荒れ地に変えてしまう可能性が高いが、軍隊の前進を後押しすることはほとんどないと関係者は語った」
ロシア当局は、ウクライナでの核使用がロシアにプラスになることはないと認めている。
(6)「ウクライナの反転攻勢が始まった6月、プーチンは再び核兵器について言及し、ロシアがベラルーシに戦術核弾頭を運搬したと述べた。しかしプーチン氏はすぐに、ロシア軍がウクライナの前進を食い止めているため、使用については「その必要はない」と付け加えた。この声明は中国でさえプーチン氏を使用に抑止することはできないかもしれないことを示唆していると米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのアレクサンドル・ガブエフ氏は「核兵器は、プーチン氏がこの戦争に破滅的に負けることに対する究極の保険なのだ」と指摘する」
米国には、プーチン氏が核を破滅的敗北への「究極の保険」として認識しているのでないかと疑念を抱いている筋も存在する。