ウクライナのレズニコウ国防相は2月5日、ウクライナ東部の要衝バフムトについて、「依然として象徴だ」と述べた。ウクライナのゼレンスキー大統領は、昨年末の訪米時に米議会で、「バフムトの戦いは、独立と自由のための戦争であり、悲劇的な物語を変えるだろう」と述べた。この言葉通り、今もバフムトの戦いは続いている。
ロシア軍は、正規軍や民間軍事会社ワグネルの傭兵を投入してバフムト攻略を続けている。ロシア軍が、多くの犠牲者を出しながら攻略できない理由は、ウクライナ軍の高い士気による反撃もさることながら、バフムトという地形が「天然の要塞」になっていることも大きく影響している模様だ。
米『CNN』(2月7日付)は、「東部バフムト、天然の防御で『難攻不落の』要塞に ウクライナ軍司令官」と題する記事を掲載した。
ウクライナ陸軍の司令官は6日、同国東部の都市バフムトについて、天然の防御により「難攻不落の要塞(ようさい)」になっているとの見方を示した。
(1)「陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官は、SNSのテレグラムで「この地域ならではの地理的な特徴がある。当該の都市は圧倒的な高台や丘に囲まれ、街自体が敵にとって罠(わな)になっている」と述べた。シルスキー氏によると、ウクライナ軍は天然の地形に沿って障害物を設置。それが現場の地域を難攻不落の要塞にし、数千人の敵が死亡する状況になっているという。「我々はあらゆる選択肢を用いる。技術的な能力のみならず自然の機能も活用して、敵の最もすぐれた部隊を撃滅する。戦闘は続いている」(シルスキー氏)と指摘」
ロシア軍は、人海戦術による攻撃を繰返している。最も古典的な戦い方と言われている。この人海戦術には、ワグネルが集めた囚人部隊が投入されており、文字通り「屍を超えて」という悲惨な戦い方である。ウクライナ軍は、バフムトの高台に陣地を構えているので、天然の城(要塞)に守られている。
(2)「ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、「バフムトで降伏する者は1人もいない。我々は可能な限り戦うだろう」と述べていた。ロシア民間軍事会社「ワグネル」のトップ、エフゲニー・プリゴジン氏は5日、バフムトでは戦闘が続いており、ウクライナ軍に退却の兆候は見られないとテレグラムで明らかにした」
攻撃側のワグネル創設者プリコジン氏は、このバフムト戦が「困難な戦い」であることを認めたテレグラムを公開した。
『ニューズウィーク 日本語版』(2月7日付)は、「ワグネル創設者プリゴジン、バフムトでの苦戦を認める」と題する記事を掲載した。
ロシアの民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンは2月5日、激戦が続くウクライナ東部の要衝バフムトの戦況について、ウクライナ軍を退却させるに至っていないことを認めた。ウクライナ軍は撤退も近いと言われたが、それは嘘だったのだろうか。
(3)「プリゴジンは、「状況を明確にしたい。ウクライナ軍はどこからも撤退はしていない。ウクライナ軍は最後の最後まで戦い続けている。アルチョモフスク(バフムトのこと)の北部ではすべての街路、すべての住宅、すべての吹き抜け階段で、激しい戦闘が行われている」とテレグラムに投稿した。「もちろん、メディアがウクライナ軍の撤退を期待するのはありがたいが、北部でも南部でも東部でも(撤退は)起きていない」と指摘」
バフムトは、数カ月間にわたってロシア軍の集中攻撃の対象となり、無数の砲撃にさらされてきた。バフムトの制圧を目指すロシア軍は、まだ勝利宣言するには至っていない。
(4)「米シンクタンクの「戦争研究所」が5日に発表したレポートによると、ロシア部隊は「バフムトとブフレダルの周辺では攻勢を続けているが、ドネツク市西郊における攻撃のペースは落ちている」という。またレポートは、「ロシア軍の正規部隊、予備役、ワグネルを合わせ、バフムトの制圧に向けて(合わせて)数万人規模の部隊が投入されているが、すでにかなりの人的被害が出ている」としている」
ロシア側は、バフムト攻略で数万人規模の兵員が投入して、多大の犠牲者を出している。これは、今後の大攻略戦に大きく響くことになろう。昨年10月、ロシア軍は大敗走したが、その再現が起こりかねないほど、バフムトに執着している。これでは、他の戦線で大穴を作りかねないだろう。
(5)「米シンクタンク、ディフェンス・プライオリティ―ズで大規模戦略プログラムのディレクターを務めるラジャン・メノンは5日、本誌にこう語った。「ワグネルとロシア正規軍の合同部隊は何カ月にもわたってバフムトとソレダルを攻略しようとしてきたが、人数と火器、特に砲撃力に勝っているにも関わらず、最近になってようやくソレダルを制圧できたに過ぎない」
ワグネルは特に、大きな人的被害を出している。中でも、プリゴジンが恩赦を約束して戦いに駆り出した不運な元受刑者たちの犠牲が大きい、という
(6)「目下、ロシア軍はバフムトを3方向から包囲しているように見える。ならば、なぜウクライナ軍はここまで踏ん張っているのか。ウクライナ軍の狙いは、この戦いをできるだけロシア軍にとって犠牲の多いものにすることと、(敵の)部隊を足止めしてよそで使えないようにするなり、ドンバスの西側のウクライナ支配地域まで追いやることだ。血みどろの戦いだが、ウクライナ軍の士気を高めるとともに、ロシア軍の軍事的能力の低下につながっている」
下線部は、ウクライナ軍がバフムトを死守している理由を明確にしている。天然の要塞を利用して、ロシア側を引きつけ消耗戦を強いることである。ロシア軍は、この戦術に嵌り込んでいる印象だ。