勝又壽良のワールドビュー

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    ウクライナ軍は、ロシア軍との1000キロメートルにも及ぶ戦線を突破するために、数百台規模の米欧製の戦車を必要としている。今回のドイツ戦車「レオパルト21」の供与決定によって、装甲車と組み合わせた機甲部隊の編成が可能になった。欧州13カ国の軍は、約2000両のレオパルト2を保有している。今年前半で供与されるレオパルト2は、100両を大きく超えるとみられる。主力戦車の訓練は、米英指導による「NATO方式」で1〜2カ月程度かかるとみられる。春から夏には、供与された戦車を軸とした機甲部隊を前線に投入できる見通しという。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月27日付)は、「ウクライナ戦車戦は『NATO軍式』、米英が戦術指導」と題する記事を掲載した。

     

    欧米各国が相次ぎウクライナへの戦車供与を決めたことに伴い、同国軍は春から夏にかけて大規模な反攻作戦に出る見通しとなった。発動される作戦は、戦車部隊を中心に編成し、2003年のイラク戦争でイラク軍を攻略した「北大西洋条約機構(NATO)軍式」の最新の機甲戦となる見通しだ。

     

    (1)「戦車は戦車だけで戦うわけではない。装甲の厚さゆえに視界が制限される戦車の弱点を補うため、戦車に準じた能力を持つ戦闘装甲車や兵員輸送車に搭乗し対戦車砲などで武装する歩兵が帯同し、全体で「機甲部隊」をつくる。米英仏独などは既に戦車供与に先立って戦闘装甲車などの供与を表明済みだ」

     

    「機甲部隊」は、戦車と装甲車から構成される。戦車部隊は通常、4両で1個小隊を構成する。さらに小隊3個+隊長車1両で1個中隊(計13両)となる。つまり、戦車13両で1個中隊の編成だ。

     

    (2)「NATO式機甲戦の強みは、戦車や装甲車、無人機(ドローン)と司令部を通信で常時つなぎ、連携して効率的に敵軍を無力化する「ネットワーク中心の戦い(NCW)」にある。砲弾が尽きた戦車が敵戦車を発見した場合、仲間の戦車やドローンに敵の場所を伝え、代わりに攻撃してもらうといったことができる。ロシアの戦車と比べ「走・攻・守」の基本性能がただでさえ優れている上に、こうした連携戦が可能な英独米の主力戦車をウクライナ軍が配備することの意義は大きい。今後、米欧製の戦車や装甲車に搭乗する兵員の訓練を進めれば、全体で数百両の戦車・装甲車からなるNATO式の機甲部隊に編成し、順調にいけば春から夏にかけて大規模な反転攻勢の準備が整いそうだ」

     

    ウクライナは、ITに長けている国である。現在でも、わずかな部品を組立てて独自の通信機能を維持して最前線で戦果を上げている。NATO式機甲戦は、戦車や装甲車、無人機(ドローン)と司令部を通信で常時つなぎ、連携して効率的に敵軍を無力化することだ。この方式は、直ぐにウクライナ軍に消化されるはず。短期間に機甲化部隊は軌道に乗るであろう。

     

    (3)「米軍や英軍は03年のイラク戦争で大規模な機甲戦を展開し、旧ソ連製戦車を配備していたイラクのサダム・フセイン政権軍を一気に打倒した。この実績を踏まえ米英軍は、ウクライナ軍に戦車などを供与するのと並行して具体的な戦術を指導しているもようだ。イラク戦争当時と現在が異なるのは、地上戦において無人機が普及したことだ。ロシア軍はなお各種ミサイルも保有している。ウクライナ軍が大規模な機甲戦に踏み切る際には、ロシア軍の空からの反撃に備える必要がある」

     

    イラク軍は、ロシア製戦車を砂漠の中に埋める奇想天外な待ち伏せ作戦を行い大失敗した。米英軍の理詰めの戦術に対抗できなかったのだ。こういう失敗から、ロシア軍はどのような戦い方をするのか。空からの攻撃も考えられるのであろう。

     

    (4)「ロシア軍は今後、ウクライナ軍の機甲戦準備が整う前に、兵士に多大な犠牲を強いる力任せの従来型戦術で攻勢をかけてくる見通しだ。ウクライナ軍や同軍を支援する欧米各国が戦いの主導権を握るには、今後の新機甲部隊の編成と戦闘準備をいかに前倒しできるかにかかっている」

     

    軍事戦略の専門家は、次のような予測をしている。「ロシア軍司令官は、ウクライナが新型兵器をどこでどのように使用するか予測し、最善の対策を見極めようとするだろう。ロシア政府は、防御と攻撃のバランスをどう取るか、機先を制するか、それとも春に予想されるウクライナの攻撃を待ち構えるか決断する必要がある」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月27日付)

     

    ロシア国防省は25日、戦闘地域の近くで「急襲部隊」が訓練を受けている映像も公開した。「ウクライナ軍の最も困難で陣形の整った防衛地区を突破する」ことを想定していると指摘した。こういう秘密作戦を公開したのは、逆に言えば「行なわない」という意味でもある。虚々実々の駆引きをしているところだ。

     

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    ウクライナ侵攻に参加するロシアの軍事会社「ワグネル」の元指揮官が、13日にノルウェーに逃れて亡命申請した。ワグネルの構成員が、西側に逃れるのは初めて。ワグネルの戦争犯罪を証言する用意があるという。ワグネルは、数々の不法行為を働いているとされるが、実態を公にされたことはなかった。今回の亡命事件をきっかけに、戦争犯罪の実態が明らかにされる。

     

    英国『BBC』(1月17日付)は、「ロシア雇い兵組織『ワグネル』の元指揮官、ノルウェーに亡命申請 ウクライナで実態見て」と題する記事を掲載した。

     

    ノルウェーへの亡命を申請したのはワグネルの元指揮官アンドレイ・メドベージェフ氏(26)。13日に越境し、ノルウェーの国境警備隊に拘束されたという。メドベージェフ氏の弁護士ブリュンユルフ・リスネス氏はBBCに対し、メドベージェフ氏は不法入国容疑によりオスロ地域で拘束されていると語った。メドベージェフ氏はウクライナでの戦争犯罪を目の当たりにし、ワグネルを離れたのだと、同弁護士は述べた。

     

    (1)「ノルウェーの国境警備隊はBBCに対し、全長198キロにわたるロシアとの国境を越えてノルウェーに入ったロシア人男性1人を拘束していることを認めた。「安全とプライバシーの理由から」これ以上のコメントは控えるとした。ノルウェー北部フィンマルクの警察本部長は、男性1人が国境警備隊に拘束され、亡命を申請していると語った。ロシアの人権団体「Gulagu」はこの男性はメドベージェフ氏だと認めた。同団体はメドベージェフ氏の出国を支援したという。ワグネルのメンバーが西側諸国に逃れたのは今回が初めてとみられる」

     

    ワグネルのメンバーが、西側諸国で亡命を申請したのは初めて。秘密のベールに包まれている、その実態が明らかになろう。

     

    (2)「Gulaguの創設者ウラジーミル・オセチキン氏はBBCに対し、メドベージェフ氏は2022年7月に4カ月契約でワグネルに加わったが、ウクライナでの職務中に多数の人権侵害と戦争犯罪を目撃して脱走したと語った。オセチキン氏によると、メドベージェフ氏はロシア軍の元兵士で、2017年から2018年にかけて刑務所に服役した。ワグネルに加わると、ウクライナに投入された部隊の責任者となった。部隊には毎週約30~40人が追加投入されていたという。メドベージェフ氏はGulaguがソーシャルメディア・チャンネルに投稿した動画の中で、自分との契約を無期限に延長する方針をワグネル側から知らされ、昨年11月にウクライナから逃れたと語った」

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月17日付)は、次のように報じている。「ロシア国内で2カ月潜伏した後、国境を流れる凍り付いたパスビク川を渡り、銃を発砲し犬をけしかけてくる警備隊から逃げた末にノルウェーにたどり着いたと話している。警察によると、ノルウェーに入った後、メドベージェフ氏は近くの民家に助けを求めた。ノルウェーの情報機関はこの一件に注目していると表明した。メドベージェフ氏の弁護士は、ノルウェー当局に加え国際機関も、同氏の話を聞きたいはずだと話している」

     

    (3)「ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、メドベージェフ氏がワグネルの元兵士だと認めた。しかし、同団体は報道機関向けの発表で、メドベージェフ氏はノルウェーの市民権を持ち、ノルウェー出身の兵士の大隊を率いたことがあるとした。プリゴジン氏はまた、メドベージェフ氏について「捕虜を不当に扱った」と非難し、「非常に危険」な人物だとした。メドベージェフの弁護士リスネス氏は、プリゴジン氏のこうした主張は事実ではないとBBCに語った」

     

    ワグネル創設者プリゴジン氏は、メドベージェフ氏がワグネルの元兵士だと認めた。

     

    (4)「イギリスの当局者は、ウクライナに投入されたロシア側の勢力の約10%をワグネルが構成しており、先週にロシア軍がウクライナ東部ドンバス地方の町ソレダルを制圧するのに重要な役割を果たしたとみている。ロシアはウクライナに投入する部隊員として数千人の囚人をロシア国内で募った。プリゴジン氏自身も元受刑者で、これらの囚人に6カ月間の兵役と引き換えに自由を保証すると約束している。ワグネルの雇い兵の数は、ウクライナ侵攻前は数千人ほどだった。そのほとんどはロシアのエリート連隊や特殊部隊の出身者など、経験豊富な元兵士と考えられていた。ワグネルは2015年以降、シリアやリビア、マリ、中央アフリカ共和国に部隊を展開してきたとされる」

     

    ウクライナに投入されたロシア側の勢力は、約10%がワグネルで構成されているという。「私兵集団」が正規軍のロシア軍と一緒に戦うという奇妙な組み合わせだ。ウクライナ侵攻が、私兵集団を組入れているのは、この侵略戦争の性格を示している。プーチン・ロシア大統領の「私的思い」が、始めた戦争であることを明白にしているのだ。


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    ロシアは、ウクライナ戦争で大苦戦を強いられている。弾道ミサイルの備蓄も急減しており、兵器の損失規模もウクライナの3倍にのぼるとの推計も出てきた。こうした状況下で、中ロ首脳のオンライン会議が12月30日行なわれた。これにより来春、中国の習近平国家主席がロシアを訪問することを決めた。

     

    ロシア国営メディアによると、プーチン氏は「ロシアと中国の軍隊の交流強化を目指す」と話し、軍事協力の強化を示唆した。中国から軍事支援を得たいという願望が強く滲み出た発言である。ロシア軍劣勢の中で、中国が今になって軍事支援するリスクを冒すとは考えられない。経済的な面での話し合いと見られている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月31日付)は、「ロシア軍の消耗顕著に『兵器損失』ウクライナの3倍か 広がる兵員不足観測 29日に大量ミサイル攻撃」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ロシア軍は12月29日朝、ウクライナ全土で大規模なミサイル攻撃を実施した。ウクライナ軍によると各地のエネルギー関連のインフラ施設に向けて69発のミサイルが発射され、54発が迎撃された。ロシア軍は10月からウクライナ各地のインフラを標的にしたミサイル攻撃を続けてきた。市民生活を窮乏化させ、継戦能力を奪うのが狙いだったが、いまだに戦局をロシア優位に転換できていない。ウクライナ国防省の情報機関トップ、キリロ・ブダノフ氏は英BBCが29日に公開したインタビューで、ロシア軍が「完全に行き詰まっている」と語った」

     

    ロシア軍は、米国提供の「ハイマース」によって兵站線を徹底的に潰されている。ロシア軍「行き詰り」の理由はこれだ。

     

    (2)「ロシア軍のミサイル備蓄は急減している。これまでの大規模攻撃で発射されたミサイルの数は確認された分だけで計549発。ロシアの年間生産量のおよそ6年分を3ヵ月で使い切った計算だ。米欧による先端技術部品の輸出禁止でロシアのミサイル生産能力も落ちている。ウクライナ軍はあと2~3回の大規模攻撃でロシア軍の弾道ミサイルの備蓄が尽きるとの見方を示す。兵器の損失も膨らみ続けている。民間の軍事情報サイト「Oryx」の24日時点のリストによると、破壊されたり、ウクライナ側に渡ったりしたロシア側の装備品は計約8500点で、ウクライナ側のほぼ3倍だ。ロシア軍は直近の1カ月で計240両を超える戦車と装甲車を失ったという」

     

    ロシアは、ミサイルの年間生産量のおよそ6年分を、3ヵ月で使い切った計算という。これだけ早いペースで、ウクライナ国内へ攻撃しても戦況を回復できないのは、ウクライナ国民の士気の高さだ。理不尽な戦争への怒りが、ウクライナを結束させている。

     

    (3)「ロシア軍では兵員不足の懸念も広がる。現在のロシア軍の兵員は訓練不足の徴集兵が多く、敵地で戦うために損耗率も高い。侵攻開始以来の死傷者数は10万人を大きく超えるとみられる。ロシアの独立系メディア、メドゥーザは22日「数カ月後には再び深刻な人手不足に陥りかねない」と指摘した。プーチン大統領は21日、9月末に部分動員令で集めた30万人のうち、15万人はまだ戦闘地域に投入していないと主張した」

     

    ウクライナは、ロシア軍兵士10万人以上が死亡したとしている。これが、正しいとすれば、この2倍以上の重傷者が出ていると見られる。特に、痛手は将校クラスの損失である。戦場で指揮官がいない部隊は、烏合の衆になりかねないのだ。

     

    (4)「ショイグ国防相は21日、軍の規模をいまの3割増の150万人に拡大させることを提案した。兵力の早期消耗をにらんだ大規模な追加動員の布石とみる向きが多い。プーチン氏が9月に部分動員令を発した際は社会が大きく動揺した。独立系調査機関レバダ・センターが発表するプーチン氏の支持率は7割台に低下。動員令後、出国したロシア人男性は70万人に達したとの推計もある」

     

    23年早々に、新たな動員令が出るとの情報も見られる。また、出国者には課税するというニュースも出てきた。ロシアが、人的補充で苦しい局面にあることを覗わせている。

     

    (5)「ロシアでは市民の生活水準も悪化し続けている。国際通貨基金(IMF)は、ロシアの22年の実質経済成長率をマイナス3.%と予測する。景気後退は鮮明で、欧州ビジネス協議会によると1~11月のロシアの新車販売台数は前年同期比60.%減だった。プーチン氏はこれまで、ソ連崩壊直後の貧困を知る高齢層に生活水準の向上をアピールし、政権基盤を保ってきた。生活水準の悪化に加え、大規模動員という第2次大戦以降で初めての事態に市民が直面すれば、抗議活動は一気に広がる可能性がある」

     

    ロシアは、原油価格がEU(欧州連合)によって価格上限制が引かれた結果、大幅に値下がりしている。1バレル=42~45ドルである。国際価格の45%引きという捨て値相場だ。これでは、ロシア財政に大きく響く筈。年金財政も厳しくなる。

     

    (6)「米国はウクライナ支援を増やす一方、プーチン氏を追い詰めて偶発的な核戦争のリスクが高まる事態を懸念する。21日には18億5000万ドル(約2400億円)の軍事支援を表明したが、戦局打開のためウクライナが望んだ最新鋭戦車、戦闘機、長距離ミサイルの供与は控える方針を維持した。ロシア本土や同国が併合を宣言したクリミア半島への攻撃に対し、ロシアが核兵器で報復し、北大西洋条約機構(NATO)を巻き込むリスクがあるためだ」

     

    ロシア軍は苦境に立つと、核問題を持出して威嚇している。ウクライナ軍は、核投下がないという前提で作戦計画を遂行している。米国もNATOも厳重にロシアへ核投下について警告しているところだ。ロシアが核を使えば自滅の運命である。

     

     

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    ロシアのウクライナ戦争は、間もなく2年目を迎える。ロシア軍は、ウクライナ軍が戦場で得ている勢いを阻止し、逆転できるのか――。その手掛かりを得るには、今後数カ月が重要になってくると観測されている。 

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月29日付)は、「冬のウクライナ戦争、カギ握る6つの要因」と題する記事を掲載した。 

    (1)「ウクライナ東部ドネツク州バフムート市を掌握するロシアの取り組みは、戦略的な意義よりも心理的な重要性を帯びている。ウクライナ軍にとって、この戦いに敗れれば、より高所の防御しやすい陣地まで退却できるが、プロパガンダ上の勝利をロシアに譲り渡すことになる。バフムートはロシア軍が前進しようとしている数少ない地域の一つだが、ここ数カ月のウクライナ陣地への容赦ない攻撃は最小限の前進しかもたらさず、非常に多くの死傷者を出している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)の現地からの報道によると、ウクライナ軍はロシアの砲撃が最近減速しており、恐らく弾薬不足が原因だろうと報告している」

     

    ロシア軍は、すでに戦略的に重要性を失ったバフムートへ、執拗な攻撃を続け多くの犠牲者を出している。政治的な勝利を狙った無謀な攻撃とみられるのだ。つまり、プーチン大統領、私兵ワグネル創始者プリゴジン氏、ロシア軍司令官スロビキン大将という3人のメンツを保つための攻撃とされる。 

    (2)「ウクライナの首都キーウ(キエフ)にある政府系シンクタンク、国家戦略研究所のミコラ・ビリエスコフ研究員は、ロシアのバフムートへの注力は、軍事的目標が政治的配慮によって決められていることを示していると指摘する。同氏は、それはロシアには「ウクライナと異なり、依然として健全な政治・軍事関係がない」ことを示していると述べた。英国防省は21日、バフムートを巡る戦闘の多くは、同市東部の開けた場所で行われていると指摘した。戦闘が市街地に移った場合、訓練不足のワグネルの戦闘員やロシアの予備兵よりも、ウクライナの有能な下級指揮官が率いるよく訓練された歩兵隊の方が有利になる可能性が高い」 

    バフムートの攻防戦が仮に市街戦になれば、ウクライナ軍の有能な将校が指揮する歩兵部隊が有利な戦いをすると見られる。

     

    (3)「ほとんどの軍事アナリストは、秋にロシア占領地の多くを奪還して以降は、ウクライナが戦争の戦略的主導権の多くを握っていると考えている。ウクライナは冬の間も攻勢を維持し、可能であればロシア軍をさらに後退させる構えだとアナリストはみている。(前出の)ビリエスコフ氏は、次の進軍のタイミングは重要ではないと話す。「われわれに能力があり、冬に絶好の機会が訪れれば、冬に実行すればいい。春を待つ必要があるのなら、恐らく春まで待って実行することになるだろう」 

    ロシア軍は、すでに多くの下士官を失っている。半年程度で下士官を育成するのは無理だ。指揮官のいないままに、兵士だけが戦うのは力を発揮できず「バラバラ」の戦いになるという。こうして、戦場の支配権は、ウクライナ軍が握っているとしている。

     

    (4)「ウクライナの攻撃には、明白な方向が二つあると軍事アナリストは話す。一つは、東部ルガンスク州のスバトベ・クレミンナ間の幹線道路R66で結ばれた線を標的にするものだ。もう一つは、南部ザポロジエ州のメリトポリとベルジャンスクを狙うものだ。この目標を達成すれば、ロシアとクリミアを結ぶ重要な補給線と通信線を断つことになる」 

    ウクライナ軍が、東部ルハンシク(ルガンスク)州の主要都市クレミンナを近く奪還するという見方が出てきた。ウクライナ側のハイダイ・ルハンシク州知事は27日(現地時間)、ツイッターで「ロシア占領軍の軍指揮部は、ウクライナ軍隊が接近しているクレミンナを離れた」とし「都市から遠くないところですでに戦闘が行われている」と伝えた。ハイダイ知事は同日、テレグラムで「ロシア人はクレミンナを失えば全体の防御ラインが崩れることを知っている」とも強調した。事態は、急進展している。

     

    (5)「ロシア軍は前線の大部分とその周辺を守るために塹壕を掘っており、ウクライナ軍の海からの上陸を阻止するためクリミアのビーチにまでそれを伸ばしている。既存のロシア軍に予備兵が加わり、隊形は深く構築されつつある。ウクライナにはロシア軍がどこを掘ったかが分かる上、木々の葉が落ちることで陣地を隠すのは難しくなる。ビリエスコフ氏は、ロシア軍が広範な地域に塹壕を掘っていることは、ロシアが「あらゆる不測の事態に備えている」ことを示しているが、「最終的にわれわれが詳細な計画を立て、適切な能力で古典的な攻勢作戦を行えば、彼らは攻撃を免れないだろう」と述べた」 

    ロシア軍が塹壕を掘って防衛戦を固めているが、ウクライナ軍は古典的な攻撃作戦で突破できると見る。事前に塹壕をしらみつぶしに攻撃するという意味だろう。 

    (6)ウクライナ高官は最近、ロシアがウクライナでさらなる大規模攻撃を準備しており、まだ戦線に派遣されていない30万人の予備兵の半数を既存部隊と組み合わせ、来年序盤に攻勢に出る計画だと述べた。これには、ベラルーシ領内からキーウに向けたさらなる攻撃も含まれる可能性があるという。西側のアナリストは、より能力の高い部隊が今年序盤に達成できなかったことを予備役が達成できる可能性に懐疑的だ」 

    ロシア軍は、昨秋の動員兵30万人のうち、残り15万人が訓練を終えて前線へ投入される。だが、今年序盤において能力の高い部隊は、ウクライナ軍に撃退されて作戦目的を達成できなかった。訓練期間の短い動員兵が正規部隊以上の戦い方ができるとは思えないというのだ。ウクライナ軍は、さらに兵器を充実させてもいる。

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    ロシアが、ウクライナへ侵攻して間もなく10ヶ月を迎える。プーチン・ロシア大統領は、核投下を臭わせたりしながら局面転換を図っているものの、すべて失敗している。侵略戦争は2年目を迎え越年する。何らの解決策がある訳でなく、人命の損耗が続くだけだ。ロシアは、これからどのようにして結末を付けるのか。見取り図を描けないのだ。一つはっきりしていることは、長い目で見たロシアが衰退して、普通の国になることである。 

    米戦略国際問題研究所(CSIS)で戦略分野のトップも務めているエリオット・コーエン米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院教授が、ロシアの抱える本質的な脆弱性を前記のように指摘する

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月21日付)は、「ウ侵攻で露呈したロシアの本質、予想される未来は」と題する寄稿を掲載した。 

    (1)「国際関係論を専門とする有識者がロシアの行動を「リアリズム」で説明しようとして失敗するのは、国家を指導者の人格はもちろん、文化や歴史から切り離して考えるからだ。ウラジーミル・プーチン大統領はたしかに貪欲で残忍かもしれないが、この問題は一人の独裁者よりもはるかに大きな問題である。戦争は社会について多くのことを明らかにするが、今回も例外ではない。ウクライナへの侵攻は、正当な不満や独裁者の願望ではなく、ロシアの帝国的な自己認識というもっと根深い問題だ。だからこそ、ウクライナに勝利をもたらし、そのような野望を打ち砕くことが重要なのだ」 

    プーチン氏の独特の性格が、今回のウクライナ侵攻を行なわせたのでなく、ロシアの帝国的な自己認識というもっと根深い問題が原因としてある。それゆえ、中途半端な妥協でなく、ロシアの野望を打砕くことが必要である。

     

    (2)「ロシアの歴史は拡大と帝国の歴史であり、まれな例外を除いては、そこから脱却することができず、また脱却しようともしていない。ウクライナの独立と西欧化は、ロシア帝国主義にとって単純に受け入れがたいものだ。2022年の戦争は、こうした野心にとって破滅的なものであった。ロシア軍は屈辱を受け、キーウ郊外、ハリコフ、そして後にヘルソンからも追われ、その兵器庫は二流の装備の寄せ集めであることが明らかになり、黒海艦隊の旗艦は沈没し、兵士の召集は管理上の混乱に陥っている」 

    ロシア帝国の持つ残忍な領土拡張意欲が、今回のウクライナの悲劇を生んだ原因である。そういう視点で北方四島問題を考えると、日本へ還る希望はゼロだろう。

     

    (3)「中央アジアの同盟関係は崩壊した。特にアゼルバイジャンとカザフスタンはウクライナ戦争に事実上反対し、ロシアの影響から距離を置くようになった。石油と天然ガスという武器は、欧州を屈服させるのに十分ではない。ロシア経済は制裁で打撃を受け、何十万人もの最も優秀な若者が国外に流出した。その一方で、強制的に動員された人たちもいる。戦争はある意味で社会的なテストであり、今回の戦争はソ連崩壊後のロシアにまん延する腐敗と、その意思決定者を特徴づけるパラノイア(被害妄想)を明らかにした」 

    中央アジアの同盟関係は、ロシアのウクライナ侵攻という破天荒な行為で維持できなくなっている。優秀な若者は国を去った。パラノイアによって破滅への道を歩んでいるのだ。 

    (4)「ウクライナ侵攻は、欧州の対ロシア姿勢に大きな変化をもたらした。フィンランドとスウェーデンの新規加盟でNATOは拡大することになる。ポーランドは活気づき、ドイツは態度を一変させた。ウクライナはロシアに苦しめられたことで、ロシアへの憎悪を深めるだけでなく、民主的なナショナリズムを形成し、ロシアにとって最も憎むべき敵となったのだ」 

    これまで欧州の小国にあった「ロシア恐怖症」は、NATOという大きな傘に入ることで解消に向かう。ロシアの味方ドイツも、縁を切った。ウクライナは、ロシアにとって最大の敵として立ちはだかる。ロシアは、すべてを失ったのだ。

     

    (5)「(ロシアには)二つの可能性がある。一つは、体制が崩壊することによる内戦で、その兆候もある。ロシア軍の支配が及ばないところで、民兵組織が台頭してきている。折に触れて怒りや反発が爆発し、軍隊の反乱も起きている。ロシアの街角には遅かれ早かれ、屈辱と敗北の憂さを晴らすために怒れる退役軍人の群れが出現するだろう。ロシアはこれまでにも混乱と内戦を経験している。それが再び起こらないと考える根拠はない」 

    ロシアの敗北によって、怒れる退役軍人の群れが出現するだろう。これが、ロシアの歴史である。 

    (6)「もう一つの可能性は、膠着状態か完全な敗北によって、いまの指導者の下でそれでもまとまるか、あるいはプーチン大統領がかつての多くの敵のようになぜか窓から転落し、別の元秘密警察官に取って代わられるかだ。可能性が高いのは後者だが、より危険な結末でもある。ロシアは打ちのめされ、屈辱を受け、復讐を企てるだろう。ロシアは弱体化するものの、依然として危険であり、これを阻止するためには忍耐と決意が必要となる。西側諸国の決意があれば、弱体化し、孤立したロシアは阻止できるだろう。数十年後、あるいは数世代後には、ロシアが常に恐れ、うらやみ、そしてひそかに称賛してきた西側世界の中に、別の道を見つけることさえできるかもしれない」 

    もう一つの道は、プーチン氏の後に民主的政治指導者が出現するのでなく、より危険な人物の登場だ。ロシアは弱体化しても、危険な存在であり続ける。核を持っているからだ。だが、経済制裁の継続でロシアをより弱体化させれば、いずれ「牙を抜かれた」存在になる。西側は、それを辛抱強くまつことである。

     

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