勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ウクライナ経済ニュース時評 > ウクライナ経済ニュース時評

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    ロシアとウクライナの戦争は、ロシアのプロパガンダが吹聴する筋書きとは逆に、これまでのところウクライナが勝ち続けている。トランプ米大統領でさえ9月23日、自身のSNSで「ウクライナは欧州連合(EU)の支援を受けて戦いに勝利する立場にある」と表明した。ロシア寄りであったトランプ氏が、米情報部門からの報告でようやく真相を知ったと指摘されている。

     

    『日本経済新聞』(10月15日付)は、「ウクライナは勝利している」と題する歴史学者ハラリ氏の寄稿を掲載した。ハラリ氏は、1976年イスラエル生まれ。歴史学者、哲学者。著書に『サピエンス全史』『NEXUS 情報の人類史』など。

     

    ロシアとウクライナの戦争は、ロシアのプロパガンダが吹聴する筋書きとは逆に、これまでのところウクライナが勝ち続けている。ロシアは22年2月24日、ウクライナの全土を制圧して独立国家としての存在に終止符を打つべく全面攻撃に乗り出し、戦争は激しい局面へと入った。

     

    (1)「ウクライナ軍は戦力で劣るにもかかわらず、ロシア軍のキーウ攻撃を退け、世界を驚かせた。その後22年の夏の終わり頃、反撃に転じた。東部ハルキウ州と南部ヘルソン州の2カ所で大きな勝利を収め、22年の侵攻当初にロシア側に占領された領土の多くを解放した。それ以降、両陣営とも限定的な前進はあったにせよ前線はほとんど動かなくなった。ロシアは絶え間なく前進しているという印象を与えようとしているが、22年春以降、キーウやハルキウ、ヘルソンといった戦略的に重要な大都市の攻撃目標を一つとして制圧できていない」

     

    軍備で劣勢のウクライナ軍が、ロシア軍の侵略に対抗して戦える源泉は、「戦闘方式」にある。NATO軍仕込みで、前線部隊に作戦指揮を任せる自主性だ。ロシア軍は、作戦司令部の命令で戦うので前線部隊には何の自主性も与えられていない。中国軍も、全く同様だ。

     

    (2)「25年に入ってから、兵士の死傷者数20万~30万人という代償を払ってロシア軍がなんとか獲得できたのは、前線周辺のわずかな領土だ。その面積は最も信頼できる複数の情報源によると、ウクライナ全土の約0.%にすぎない。ロシア軍が、25年のスピードで侵攻を続けるとすると、ウクライナの残りの領土すべてを征服するのに理論上、約100年の歳月と数百万人の死傷者が必要となる。それどころか、ロシアが25年8月時点で支配していたウクライナ領土は、22年8月時点より小さい」

     

    ロシア軍が、無謀な作戦命令で多くの犠牲者を出している。旧日本軍と同じで、司令部の作戦命令で戦っているからだ。

     

    (3)「ウクライナにとって適切な場面で戦術的に撤退して軍の体力と兵士の命を温存することは、軍事的に理にかなっている。ロシア側はその間、あまり意味のない前進を勝ち取ろうと高い代償を払って攻撃を仕掛け、自ら流血と疲弊を繰り返すことになるからだ。ウクライナは徹底抗戦でロシアを膠着状態に追い詰めた、というのが本当のところだ。オーストラリア軍の退役少将ミック・ライアン氏は近著の中で、こう記している。もし03年にイラクに侵攻した米軍が3年以上かけてもイラク全土の20%しか制圧できず、死傷者が100万人に達していたとしたら、これを米軍の勝利と呼ぶ人はいるだろうか。ロシアが置かれた状況はそのようなものだ、と」

     

    ウクライナは、前線指揮官の判断で戦術的に撤退し、軍の体力と兵士の命を温存している。言うならば、義経がみせた壇ノ浦での「八艘飛び(はっそうとび)」である。現場に合せた戦い方を採用している。

     

    (4)「北大西洋条約機構(NATO)はウクライナに兵器や他の物資を大量に供与しているが、NATO軍が公式に実際の戦闘に加わったことはない。ウクライナ軍は22年、限られた兵器だけでキーウ、ハルキウ、ヘルソンの勝利を手にしたのだ。当初から全面支援を受けていれば、ロシアが軍隊と戦時経済を立て直すいとまを与えず、22年末か23年夏には勝利していたかもしれない」

     

    NATOは、ロシア軍の動向を逐次、ウクライナ軍へ通報している。これが、ウクライナ軍が敏捷に動ける要因である。

     

    (5)「ウクライナ防衛の最大の弱点は今も、同国を支援する西側諸国の考えだ。制空権と制海権の掌握に失敗したロシアは、地上でもウクライナの防衛線を突破できない以上、米欧各国の意志をくじいてウクライナを窮地に追い込むしかない。「自国の勝利は必然」とのプロパガンダで米欧各国の意欲をそぎ、各国がウクライナ支援から手を引けば、ウクライナが降伏を余儀なくされると期待している。こんなプロパガンダに屈すれば、ウクライナにとっては悲劇だ。またNATOの信頼も失墜し、強まるロシアの脅威に対して最も優れた防衛力を持つウクライナを失うことになる」

     

    ウクライナ軍100万は現在、欧州で最強軍隊とされる。NATOは、このウクライナ軍がロシアに屈することになれば、どれだけ痛手であるか明白だ。ウクライナ軍への軍備支援は、NATO自身の防衛にもなっている。

    あじさいのたまご
       


    ロシア大統領プーチン氏は、なぜウクライナ侵略戦争始めたのか。プーチン氏は、北大西洋条約機構(NATO)の包囲網からの脱却、ウクライナ東部のロシア語話者マイノリティーの保護などと、もっともらしい理由を挙げている。だが、これは表向きの話だという。本心は、ウクライナがロシアよりも経済的に発展すれば、プーチン氏の力量が非難される。そこで、ウクライナを自国領へ占領してしまえば、そういう非難される事態は起こらない。こういう単純動機というのだが。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月25日付)は、「プーチン氏がウクライナの繁栄を許せない理由」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアが、ウクライナ支配にこだわる理由については、客観的な経済データに基づいて、プーチン氏の主張よりもはるかに説得力のある説明ができる。プーチン政権にとって最大の脅威は、ロシアとその支配から逃れた周辺国の繁栄の格差が拡大していることだ。

     

    (1)「旧ソ連の元衛星国で欧州連合(EU)に加盟した国は1990年以降、国内総生産(GDP)が平均でほぼ10倍になった。一方、ロシアおよびその西側国境沿いの非EU加盟国のGDPの増加率は、同じ期間で4倍にとどまった。その結果、わずか一世代で、ロシアの影響圏を脱した国々の経済力の合計がロシアを上回るという、驚くべき逆転が起きた」

     

    旧ソ連の元衛星国は、EUに加盟した国と非EU加盟国(ロシアを含む)の間で、GDPの増加率に大差がついている。前者の方が、平均でほぼ10倍。後者は4倍にとどまった。経済制度の違いが、これだけの差を生んだ。

     

    (2)「1990年時点で、ロシア連邦のGDPはEUに加盟した元衛星国のGDP合計の2倍だった(ロシアが5000億ドル=約74兆円、元衛星国は約2500億ドル)。今では、EUに加盟した元衛星国のGDPは合わせて2兆4000億ドル、ロシアは2兆2000億ドルで、繁栄の差は年々広がっている。プーチン氏は2001年、ロシア経済が目覚ましい成長を遂げて2020年までに世界第5位の経済大国になると予想したが、現状は大きく異なり世界11位だ」

     

    プーチン氏は2001年、ロシア経済が2020年までに世界第5位の経済大国になると予想した。現状は世界11位だ。何が、こうした予想違いを生んだか。ロシアが、完全な市場経済制度にならなかった結果である。

     

    (3)「プーチン氏にとって、ウクライナが経済的に成功するとの見通しは深刻な脅威だ。ロシア国民は、ウクライナを民族的・言語的にロシアに近い存在として見ることに慣れているため、ウクライナが繁栄すればロシア国内に厄介な問題が生じる。両国がほぼ同じ条件であるならば、経済的な成功で大きな差が生じる唯一の説得力ある理由は、ロシア自体の政治・経済の基本構造になるだろう。そうなるとロシア国民は、化石燃料が生み出す過剰利潤への過度な依存は続けられないのではないかという疑問を持ち始めるかもしれない。その利潤の大半はモスクワやサンクトペテルブルクの腐敗したエリートが支配し、浪費している」

     

    プーチン氏にとって、ウクライナが経済的に成功すると深刻な脅威だ。ウクライナとロシアは、民族的・言語的にロシアに近い存在であるからだ。プーチン氏の統治能力に疑問が沸くからだ。

     

    (4)「ウクライナが、ロシアの影響圏から完全かつ恒久的に切り離されれば、ロシアは包囲される。ただしNATOにではなく、民主主義と経済の繁栄を享受する広大な地域によってだ。欧州との約5800キロメートルの国境に広がる弧の形をした地域は巨大な鏡となり、ロシア国民はその中に自国制度のみじめな失敗を見ることになる。これは大陸規模の「ベルリンの壁」の再現となり、ロシアにとって屈辱的なものとなるだろう」

     

    ウクライナがロシアと別世界で経済発展すると、ロシア国民は自国制度のみじめな失敗を見る羽目になる。プーチン氏は、これに耐えられないのだ。

     

    (5)「根本的な現実は、経済にある。そこから導き出される結論は以下の通りだ。まずロシアの近隣に位置する旧衛星国の目覚ましい発展は、ロシアの現体制の存続には現実的な脅威だ。そのため、ロシアとEUの境界に位置する全ての国、とりわけロシア語話者のマイノリティーがいるバルト3国は、将来ロシアの標的になる可能性が高い」

     

    ロシアとEUの境界に位置する全ての国、とりわけロシア語話者のマイノリティーがいるバルト3国は、将来ロシアの標的になる可能性が高い。

     

    (6)「二つ目の結論は、ウクライナが自らの存在を交渉で放棄することができないように、ウクライナの完全征服はプーチン氏にとって交渉の余地のない、存亡に関わる問題だ。それはプーチン氏が公に述べる理由のためだけではない。三つ目に、米国はロシアと講和条件を交渉するのは無駄だと理解すべきだ。ロシアの現政権はウクライナの征服や抑圧を自発的にやめることは決してない。最後に、欧州は長期的な防衛体制を強化する必要がある。これにはウクライナの戦闘能力の強化や、ウクライナおよび他の取り残された国のEU加盟を急ぐことが含まれる。ウクライナの戦いは、欧州の民主主義の繁栄を守るための共同の闘いだ」

     

    ロシアの現政権は、ウクライナの征服や抑圧を自発的にやめることは決してない。欧州は、長期的な防衛体制を強化する必要がある。プーチン氏という一人の人物が、自己のメンツを守るために他国を攻め滅ぼすことを厭わない。こういう「戦国時代」のような話が、亡霊となって現代をさまよっている。「人間の業」と言うべきことだ。


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    米国トランプ大統領は23日、ウクライナがロシアに奪われた領土を全て奪還できるとの見解を初めて示した。トランプ氏はこれまで、ロシアへウクライナ侵攻を停止させるべく、種々の圧力を掛けてきたがいずれも失敗。こうした経緯から、ついにロシア軍へ反撃することが戦争を終らせるという単純な結論になった。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月24日付)は、「トランプ氏『ウクライナは全ての領土奪還可能』、異例の方針転換」と題する記事を掲載した。

     

    ドナルド・トランプ米大統領は23日、ウクライナがロシアに奪われた領土を全て奪還できるとの見解を初めて示した。さらに、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領空にロシア軍機が侵入した場合、撃墜するよう同盟国に促した。世界の指導者が国連総会に集結する中、トランプ氏が異例の方針転換を表明し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への圧力を強めた格好だ。

     

    (1)「トランプ氏はこの日、国連でウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談。会談後にソーシャルメディアへの投稿で、ロシアの戦争行為は明確な目的がないと批判した。「ウクライナ・ロシアの軍事・経済情勢について完全に理解し、ロシアが経済問題に直面しているのを目の当たりにした上で、私はウクライナが欧州連合(EU)の支援を得て、元通りに全ての領土を奪還する戦いを続け、勝利する立場にあると思う」とトランプ氏は述べた」

     

    トランプ氏は、ロシアが経済的に行き詰まっていることを確認し、ここで反撃線を強化すればウクライナが占領された領土の奪回が可能と判断した。この判断は、大きな転換点になる。

     

    (2)「さらに「時間と忍耐、そして欧州、特に北大西洋条約機構(NATO)の財政支援があれば、この戦争が始まった時点の本来の国境線の回復は十分な選択肢となり得る。(中略)ロシアは3年半にわたって明確な目的もなく戦争を続けているが、真の軍事大国なら1週間もかからずに勝利できたはずの戦争だ。これはロシア(の強み)を際立たせるものではない。実際のところ、ロシアを『張り子の虎』のように見せている」と記した」

     

    トランプ氏は、ロシアを「張り子の虎」呼ばわりしている点がポイントだ。経済的・軍事的に難路に直面しているロシアを打倒するチャンスとみている。

     

    (3)「トランプ氏の発言は、ウクライナ戦争終結の取り組みにおける最新の方針転換だ。ウクライナとNATOの主要同盟国は数カ月にわたり、トランプ氏の真意を巡り懸念を深めてきた。トランプ氏がロシアのプーチン大統領との外交関係を前向きに継続するのか、それともロシアに対する圧力を強めるのか注視してきた。トランプ氏は8月11日、ロシアとウクライナが戦争終結のために「領土交換」を行う必要があり、これが双方にとって「良い」ことでもあり「悪い」ことでもあるだろうと発言していた」

     

    トランプ氏は、これまでウクライナ戦争に対する見解を変えてきた。こうした紆余曲折の過程を経て、「侵略者には対抗」という素朴な結論へ到達したようだ。

     

    (4)「この日のコメントには、米国がNATO加盟国への武器供与を継続するとの約束が含まれていた。米国製の武器はウクライナに輸送され、ウクライナ軍がロシアに対して使用している。「われわれはNATOが望む通りに使えるよう、NATOへの武器供与を継続する。皆の幸運を祈る!」とトランプ氏は書き込んだ」

     

    米国が、ウクライナへ提供する武器は、ロシア本土へ反撃が及ばないように制限されてきた。その制約を取り外して、ウクライナ軍は攻撃目標を自由に選択させることにする、という意味であろう。

     

    (5)「トランプ氏の新たなコメントを受けて、ゼレンスキー氏は記者団に対して楽観的な様子を示した。ゼレンスキー氏は、「(トランプ氏が)状況を明確に把握しており、この戦争のあらゆる側面について十分な情報を得ている。戦争終結を目指すトランプ氏の決断力を非常に高く評価する」と発言。トランプ氏を「ゲームチェンジャー」と呼んだ。ゼレンスキー氏は、トランプ氏との首脳会談は良好だったと振り返り、トランプ氏の見解はウクライナの状況認識により近づいたと指摘した。トランプ氏は長い間、ロシア側の情報を信頼してきたが、プーチン氏の発言の一部が「真実とはかけ離れている」ことに徐々に気づいていると付け加えた」。「このことを喜ばしく思う。トランプ氏と、おそらく状況説明を行った側近たちに感謝している」とゼレンスキー氏は述べた」

     

    トランプ氏は長い間、ロシア側の情報を信頼してきたことは事実だ。こういう基本的な間違いに気づいた以上、その逆反応は大きなものになろう。「俺を騙していたな」という怒りだ。

     

    (6)「ウクライナ・ロシア戦争を通じて、トランプ氏はしばしば方針を変えてきた。時には、追加制裁をちらつかせてロシアへの圧力を強める意向を表明した。だが、行動を遅らせ、方針を転換することも多かった。トランプ氏のソーシャルメディアへの投稿からは、ロシアが2014年に併合したクリミア半島についてもウクライナが奪還できると同氏が考えているかは明らかではない。ホワイトハウスにコメントを求めたが、回答は得られなかった」

     

    ウクライナの領土奪回の範囲には、クリミア半島が含まれているのか不明である。当面は22年2月の侵略開始時点までの領土回復という意味であろう。これを実現するには時間がかかる。ロシアが、停戦を求める局面もあろう。

     

     

     

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    トランプ米大統領とプーチンロシア大統領は8月15日、アラスカにおいてウクライナ停戦問題で会談する。国際世論は、「早期停戦」だけに拘るトランプ氏が、プーチン氏の術中にはまるのでないかと懸念している。欧州首脳は、米ロ会談前にトランプ氏と会談して欧州とウクライナの基本方針を伝えるとしている。

     

    ここで一つ指摘したいのは、トランプ氏がノーベル平和賞授賞を切望していることだ。ノーベル平和賞は、ノルウェーが主催しているだけに、欧州の期待を裏切るウクライナ停戦では、平和賞を授賞できないであろう。最近、トランプ氏はこうした内部事情まで理解しているのか、頻りと欧州やウクライナの意向を聞く姿勢をみせている。プーチン氏の話だけでなく、国際世論に配慮することの重要性に気付き始めたのであろう。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(8月11日付)は、「アラスカの米ロ首脳会談は始まりでしかない」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナと欧州の人々にとって最悪のシナリオは、トランプ氏とプーチン氏が15日の会談で「領土交換」に合意するというものだ。そんな事態になれば、ウクライナは自国領土のかなりの部分をロシアに恒久的に割譲する結果になる。おそらくプーチン氏は、トランプ氏との取引で合意して、それを既成事実としてウクライナに提示することを狙っている。

     

    (1)「彼ら(ウクライナや欧州)の視点から見た好ましい結果とは、停戦に合意することだ。そして、もしプーチン氏が戦争を再開した場合には、ロシアに対し第2段階の制裁を科すことや、領土に関する協議は停戦が実現しない限り開始しないという条件をつけるものだ。外交が急速に展開し始め感情が高ぶるなか、ウクライナと欧州各国はともに、自分たちの望む着地点、さらには何が実現可能かという戦略的なビジョンを見失う危険がある。つまり、交渉が完全に決裂し、戦争が継続することになれば、事態はおそらくウクライナよりもロシアに有利に働くことになる。「領土は一切譲らない」というウクライナ政府の立場は、原則に基づくものだ。しかし、現状を踏まえると非現実的でもある。重要なのは、事実上の領土割譲と法律上の領土割譲との違いだ」

     

    ウクライナや欧州にとっては、先ず停戦合意が必要である。ロシアが、停戦を破れば新たな経済制裁を科すことだ。

     

    (2)「ウクライナの将来をより広い視野で考える場合、欧州の主要各国政府は、領土問題は重要だが、議論すべき点はそれだけではないことを理解している。外交で現在、大きな影響力を持つフィンランドのストゥブ大統領は、自国が1940年代にロシア(当時はソ連)と2度戦った経験に基づき、ウクライナの将来を考える上で有益な枠組みを提案している。フィンランドは当時、ソ連と結んだ平和条約で、最終的には自国の領土の約10%を割譲することになった。加えてフィンランドは戦後、ソ連政府の反感を買うのを避けるため、中立国であり続けることも余儀なくされた」

     

    ウクライナは、フィンランドがソ連へ領土割譲させられた例を参考にすべきとしている。これによって、フィンランド全体の独立を維持できたことだ。

     

    (3)「決定的に重要なのは、フィンランドが法的な独立と民主主義を維持した点だ。おかげでフィンランドは繁栄し、自由で成功した国になることができた。ストゥブ氏は、ウクライナの未来を確保するには、独立、主権、そして領土という3つの問題を考慮すべきだと指摘する。この枠組みを使って、かつフィンランドの経験も踏まえて考えると、ウクライナが今の戦争から明るい未来を切り開くには、3つの分野すべてで目標を100%達成する必要はないことがわかる。ウクライナが独立と民主主義を維持できるのであれば、事実上の領土割譲は痛みを伴うものの、容認可能な譲歩となるかもしれない」

     

    ウクライナの未来を確保するには、独立、主権、そして領土という3つの問題を総合的に比較検討する必要性があるとしている。トランプ氏は、これを支援する姿勢を強調することだ。

     

    (4)主権の問題も極めて重要だ。ロシアは、ウクライナが自国の進路を決める自由を大幅に制限するよう求めている。それには、ウクライナ軍の規模と能力の制限、北大西洋条約機構(NATO)や場合によってはEUへの加盟禁止が含まれる。ウクライナが、自国の防衛能力を損なうような軍事面での制限を受け入れられないのは明白だ。しかし、ウクライナ政府がEU加盟を目指すことが認められれば、NATOへの加盟問題は当面、棚上げするという考え方もあるだろう。特に今の政治情勢の中でウクライナのNATO加盟が当面、非現実的に思えることを考えればなおさらだ」

     

    ウクライナは、主権と独立を守ることに全力を挙げるべきだ。それには、EU加盟を優先させるここと、米国の安全保障の後ろ盾が必要である。米国は、それを保障すべきだ。

     

    (5)「アラスカでいかなる合意にこぎ着けたとしても、それは交渉プロセスの終わりではなく、むしろ始まりとなる可能性が高い。ウクライナの人々も欧州の人々も、トランプ氏の機嫌を取りつつ、長期戦に持ち込む必要があることを理解している。それは、最高の選択肢でないが、彼らが取り得る最善の選択肢だ」

     

    ともかく、トランプ氏をロシア側に立たせないことだ。ロシア側に就けば、トランプ氏の欲しがるノーベル平和賞は与えられないであろう。ノーベル平和賞は、トランプ氏を引き留める「手段」にしなければならない。

     



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    米国は、紆余曲折を経てウクライナの鉱物資源の利権50%を獲得する。この鉱物資源譲渡案は最初、ウクライナのゼレンスキー大統領が米国側へ提案したものだ。それが、米国による安全保障条項がないことで暗礁に乗り上げていた。この最も重要な安全保障問題で、折り合いがついたのであろう。

    『日本経済新聞 電子版』(2月23日付)は、「トランプ氏、資源権益巡り『ウクライナと合意かなり近い』」と題する記事を掲載した。

    トランプ米大統領は22日、ウクライナへの安全保障支援の見返りとして求めている同国の資源権益を譲渡する協定案について「かなり合意に近づいている」との認識を示した。資源権益の獲得でウクライナに拠出した資金を「取り戻す」と主張した。


    (1)「トランプ氏は、ワシントン近郊で開かれた保守政治活動会議(CPAC)で70分あまり演説した。トランプ氏は紛争終結後の安全保障支援を確約する条件として、レアアース(希土類)などの権益譲渡をウクライナのゼレンスキー大統領に迫ってきた。トランプ氏は「米国が負担した分の見返りとして、何かを与えてほしい。戦争を終わらせ、すべての死を終わらせたい」と主張。「レアアースや石油など手に入るものは何でも要求している。公平ではないからだ」と自説を唱えた。米シンクタンクの外交問題評議会(CFR)によると、ロシアが侵略を始めた2022年2月から24年9月までで米国の支援は軍事費だけで約700億ドル(10兆円)に達する」

    トランプ氏は、実利主義者である。「友情」は成立しない人物だ。ギブ・アンド・テイクが基本である。ウクライナが、鉱物資源の利権を50%与えて米国に守って貰うのは、悪い「ディール」でない。日米開戦の糸口は、旧満州を巡る日米の利権争いが導火線である。ウクライナが、米国へ利権を与えることで米国のウクライナ防衛の伏線になろう。


    (2)「協定案は、ベッセント米財務長官が12日のウクライナ訪問時にゼレンスキー氏に提示した。英紙『デーリー・テレグラフ』によると新設する共同投資ファンドを通じ、鉱物、石油、ガスを含む同国の天然資源の50%の権益や、港湾など重要なインフラの運営権を米側に与えるのが柱だった。ゼレンスキー氏は、見返りとなる安全保障供与の条項がなかったことを理由に署名を拒否した。米側は「長期的にはウクライナでの米国の利益がロシアの侵略への抑止力となる」(ベッセント氏)と主張する」

    ウクライナの港湾利権も要求している。これは、米国が黒海で足場を得ようとしている証拠だ。ロシア牽制上で大きな武器になる。

    (3)「米国のウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は、資源協定を締結すれば「共同投資でウクライナの取り分も大きくなる」と唱えた。たとえば、ロシアの攻撃を受けたアルミニウム加工施設が復旧すれば「米国が輸入する1年分を賄える」と説く。ウクライナのレアアースの多くはロシアの実効支配する東部地域の周辺に埋蔵されている。米フォーブス誌(ウクライナ語版)は23年、同国の鉱物資源の確認埋蔵量の7割は東部のドネツク、ルガンスクなど3州にあると推定した」

    ウクライナが、米国と大きく結びつくことは間違いない。これは、安全保障上でも安定要因になる。


    (4)「ゼレンスキー氏は、米国が産業用に使うチタンの40年分を賄える埋蔵量がウクライナにあるとの見解を示す。「ウクライナのチタンを守れば、ロシアにも中国にも多額の金を支払う必要がなくなる」と話す。米紙ワシントン・ポストによると、資産価値の総額は数兆ドルに上るとの試算もある。ウクライナの主要なリチウム埋蔵地のひとつはロシアとの戦線から16キロメートルほどに位置する。協定を結んでも戦闘の前線に近い地域の資源開発にはリスクもある」

    米国が、ウクライナ鉱物資源の50%もの利権を得れば、ロシアが占領しているウクライナ東部の鉱物資源も対象になる。米国は、ロシア軍撤退要求の理屈づけに使えるはずだ。この鉱物資源問題はトランプ氏の実利主義に基づくが、意外な展開の契機になりうるであろう。


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