勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ウクライナ経済ニュース時評 > ウクライナ経済ニュース時評

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    ロシアのウクライナ侵攻は、すでに2年6ヶ月を迎えようとしている。現在、ウクライナ軍の反攻作戦は全般的に膠着状態になっているなかで突然、ウクライナ正規軍がロシア領へ奇襲作戦を展開している。狙いは、ウクライナ国内で次第に厭戦気分が強まっており、いずれ休戦交渉が始めなければならない状況とされている。そこで、ウクライナは「乾坤一擲」(けんこんいってき)で休戦交渉を有利に進めるべく、ロシア領の占領を試みているという。NATO(北大西洋条約機構)も承認済みの作戦と言われる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月9日付)は、「ウクライナ、停戦視野のロシア本土奇襲 形勢逆転へ賭け」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア軍に守勢に追い込まれていたウクライナが、形勢逆転へ賭けに打って出た。千人規模の部隊でロシア南部クルスク州に侵攻したウクライナ軍は8日も進軍を続けた。兵力不足の中での大規模な戦力投入には、年末にも想定するロシアとの停戦交渉を少しでも優位に運びたい狙いがある。

     

    (1)「ウクライナのゼレンスキー大統領は8日の軍の行事で、クルスク攻撃への直接的な言及は避けつつ、「ウクライナ軍は奇襲を仕掛ける方法も、成果をあげる方法も知っている」と戦果をあげたウクライナ軍を称賛した。複数のウクライナメディアによると、同国軍は国境から15キロメートル以上進軍した。クルスク州内で支配下においた領土は45平方キロメートル以上。東京都江戸川区にほぼ相当する面積をわずか2日で制圧した」

     

    ウクライナ軍は2日間で、ロシア南部クルスク州へ15キロメートル以上進軍した。東京都江戸川区にほぼ相当する面積という。

     

    (2)「ロシア国防省は8日、ウクライナ軍の前進を阻止したと主張した。ただ、前線で従軍するロシアの軍事ブロガーによると、ウクライナ軍は同州内のクルスク原子力発電所など各方面へ進軍を続けている。ウクライナが奇襲を成功させた背景には、ロシア側の油断があったのは間違いない。これまでもウクライナ側からロシアへの越境攻撃は複数回あった。小規模だったため、いずれもロシア側は早々に撃退した」

     

    今回のウクライナ軍の急襲は、ロシア軍の隙を突いた作戦の成功である。

     

    (3)「ウクライナの後ろ盾である欧米が、核大国ロシアとの対立激化につながる大規模な越境攻撃を容認しないとの思い込みもあったとみられる。ロシア軍はウクライナ東部の激戦地に戦力を集中投入し、クルスク州などの国境防衛は脆弱な状態で放置していた。一方のウクライナ軍は奇襲のために周到な準備を欠かさなかった。主要7カ国(G7)の軍高官によると、奇襲前の数週間でウクライナ軍は同州の通信設備を集中的に攻撃した。ロシア軍の偵察能力に大きな打撃を与え、察知されない形の侵攻を可能にした。奇襲には機械化旅団など装備が充実した数千人の部隊が出動したとみられる」

     

    ウクライナ軍の後ろ盾であるNATOは、この作戦を認めている。従来は、反対してきた作戦だ。それが、承認されたのは、この反攻作戦が大詰めを迎えている証拠であろう。

     

    (4)「奇襲作戦は、今後のロシア側との停戦交渉をにらんだ色彩が濃い。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は7日のテレビ番組で、国境地帯でのウクライナの攻撃は「ロシアの戦争コストの増大」につながると説明した。将来の和平交渉でウクライナの立場の改善につながるとの見方だ。戦争の長期化で国内の厭戦(えんせん)機運は高まりつつある。キーウ国際社会学研究所が5月に実施した世論調査では「和平実現のためロシアと交渉に入るべきか」との問いに、2023年11月の前回よりも15ポイント多い57%が賛成と回答した

     

    侵略されたウクライナが、徹底抗戦するのでなく休戦したい。世論とは、こういうものだとすれば、侵略されない防衛力を持つべきという結論になるのか。

     

    (5)「ウクライナの念頭には11月の米大統領選がある。和平協議の即時実現を唱えるトランプ前大統領が返り咲いた場合、協議で厳しい条件を押しつけられかねない。ウクライナ側が折り合える条件で今冬以降の停戦交渉に臨むには、秋までに大きな戦果をあげておく必要があった。欧米各国は相次ぎ、今回の奇襲攻撃を理解する立場を表明した。米国務省のミラー報道官は7日、ウクライナの行動は「わが国の方針に違反しない」と語った。ウクライナメディアによると欧州連合(EU)のスタノ報道官は、ウクライナには侵略国の領土を攻撃することを含む正当な自衛権があるとの認識を示した」

     

    ウクライナは、トランプ氏の大統領復帰を前提にした外交戦略を取り始めている。

     

     

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    ロシアに異色の国防相が登場する。アンドレイ・ベロウソフ氏である。経済学者であり軍歴はゼロである。前国防相セルゲイ・ショイグ氏の部下であった国防省人事総局長ユーリー・クズネツォフ中将が14日、収賄容疑で拘束された。これまでの国防省は、とかく噂の対象になってきた。それだけに、新国防相に任命されたベロウソフ氏に注目が集まっている。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月13日付)は、「経済学者のロシア新国防相が果たす役割は、手法に変化も」と題する記事を掲載した。 

    12日にショイグ国防相の後任に任命されたベロウソフ氏は、(これまでの国防相と)違うタイプの人物だ。ソ連時代からの経済専門家で従軍経験はなく、プーチン氏の文民の経済顧問として様々な役職に就いてきた。プーチン氏がベロウソフ氏を選んだのは予想外だったが、両氏を知る人や国内のアナリストは、プーチン氏が2年以上に及ぶウクライナ侵略の進め方を大きく転換したいと考えていることを示唆する人事だと指摘する。

     

    (1)「国家主義的な産業政策の擁護者で、権力基盤を持たない官僚のベロウソフ氏の任命は、過去最高の10兆8000億ルーブル(約18兆5000億円)に達した国防費を自らより掌握し、従順で現実的な人物に予算の執行を任せたいとのプーチン氏の意向を反映していると、同氏を知る人々は話した。プーチン氏とベロウソフ氏の双方を長年知る人物は「ベロウソフ氏は汚職と無縁で、国防省は現状から大きく変わるだろう。ショイグ氏や同氏の側近はお金に目がない人々だ」と述べた。さらに「ベロウソフ氏はメダルを数多くつけた将軍のように軍隊を率いるふりはしないだろう。同氏は仕事中毒の官僚だ。また正直な人物でプーチン氏はベロウソフ氏をよく知っている」とこの知人は話した」 

    ベロウソフ新国防相は、このウクライナ侵攻をどのように決着させる積もりか。最終的には、プーチン大統領の意思にかかるが、国防相としてどのように補佐するかだ。合理性を尺度とするならば、結論は一つ「平和」であろう。 

    (2)「ソ連の著名な経済学者を父に持つベロウソフ氏は、1999年に政府の仕事に就く前は学問の世界に身を置いていた。これまでに経済発展相やプーチン氏の経済担当補佐官などを歴任し、直近では第1副首相を務めていた。これらの役職を務める間、ベロウソフ氏は一貫して経済における国家の強力な役割や公共投資による成長促進、低金利や緩和的な財政・信用政策を支持してきた。そのためナビウリナ中銀総裁やシルアノフ財務相など、タカ派の金融・財政政策で欧米の制裁を切り抜けてきた他の高官と頻繁に対立してきた」 

    ベロウソフ氏の経済政策は、国家の強力な役割や公共投資による成長促進、低金利や緩和的な財政・信用政策を支持してきた。要するに、開発型の経済成長促進論者である。現在のロシア経済では、こうした開発型成長促進余地がなくなっており、持論を適用できない状況になっている。

     

    (3)コンスタンチン・ソニン米シカゴ大教授は、「ベロウソフ氏は国家が全てにおいて主要なけん引役だと考える一派に属している。一方で彼は抽象的な概念を弄ぶだけの他の政府寄りの経済学者とは違い、我々と同じデータを分析していた」と指摘する。またソニン氏はベロウソフ氏が政府の役職に就いた際、「プーチン氏の手勢」の部分が彼の中にある「マクロ経済学者」の部分を乗っ取ったとの見方を示した。ベロウソフ氏を20年以上前から知っているソニン氏はプーチン政権を批判しているため、ロシア政府から指名手配されている」 

    ベロウソフ氏は国家主義者であるが、抽象論を弄ばずデータに基づく実証主義者とされる。 

    (4)「ロシア大統領府の元高官は「彼は愚かではない。数学的な頭脳を持つが、物事の見方はソ連のままだ。公平性についてばかげた考えを持っている。誰かが大金を稼いだらそれを奪わなければならないというものだ。私から見れば中国のやり方に似ている」と述べた。「Zブロガー」と呼ばれる愛国主義者や政府寄りメディア及び国営メディアの戦争特派員は、ウクライナ侵略の最初の1年間に軍の汚職を度々指摘し、管理能力の低さが前線での劣勢につながったと批判してきた。彼らの多くはベロウソフ氏の任命を歓迎している。経済の専門知識を称賛し、国防省の腐敗を一掃できる人物だとみている」 

    ベロウソフ氏は、旧ソ連型の価値観の人物とされている。プーチン氏と同じタイプだ。ただ、腐敗を嫌うことから、国防省の腐敗を一掃できる人物とされている。

     

    (5)「ロシア軍が、地上戦で屈辱的な敗北を喫した後もショイグ氏は国防相の座にとどまった。だが最近の防衛装備品の調達に関する汚職事件で同氏の地位は一層脅かされていた。連邦保安局が先月、ショイグ氏の側近のイワノフ国防次官を収賄容疑で逮捕したことから国防相の交代は時間の問題と見られていた。ロシア中銀の元職員アレクサンドラ・プロコペンコ氏は、ベロウソフ氏の指名は今後、内閣と国防省がより緊密に予算を調整することを意味するとの見方を示した。「ベロウソフ氏は、軍の予算削減ではなく増加する可能性がある。同氏は産業が経済に果たす役割を強く支持しており、防衛産業を通じた経済への資金供給に全面的に賛成するだろう」と同氏は話した」 

    ベロウソフ氏は、防衛産業の拡大を通じて経済への資金供給策に賛成するとしている。これは、理屈から言えば不可能であろう。軍事産業は、付加価値を生まないから一般産業の発展に寄与しないのだ。現実に、労働力が軍事工場へ奪われ一般産業は労働力不足に陥っている。ただ、軍事産業の技術が、一般産業に利用されて生産性を上げることはある。それは、中長期的なことで短期的には不可能である。

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    ウクライナ南部ヘルソン州で、カホウカ・ダムが決壊して多くの死傷者が出ている。原因究明などに当たっていた国際的な法律専門家チームは18日までに、ロシア側の仕業による「可能性が高い」とする初期段階の調査結果を明らかにした。『BBC』が報じた。一方、米紙『ニューヨーク・タイムズ』(NYT)は、専門家チームによって爆薬による破壊と報じた。事態は、新たな局面へ移っている。

     

    『BBC』(6月18日付)は、ダム決壊はロシアの仕業の「可能性大」、 国際専門家調査」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ南部ヘルソン州のカホウカ・ダムの決壊で原因究明などに当たっていた国際的な法律専門家チームは18日までに、ロシア側の仕業による「可能性が高い」とする初期段階の調査結果を明らかにした。

     

    (1)「チームは国際法律事務所「グロバール・ライツ・コンプライアンス」の所属で、ウクライナ検事総長室の調査作業を支援している。これら専門家は最近の2日間、ダム決壊の影響を受けたヘルソン州の被災地なども訪問。ウクライナの検察当局者や国際刑事裁判所の代表者も同行した。チームは今月6日に起きたダムの決壊は、「ダムの構造自体にとって重要な意味を持つ場所に爆発物が前もって仕掛けられていた可能性が高い」と結論づけた」

     

    下線のように、事前に爆発物が仕掛けられていたと指摘している。

     

    (2)「報道発表文で、証拠物件、地震感知のセンサーや最良の爆破専門家らとの話し合いなど活用出来るデータを総合的に分析すれば、決壊はダムの重要な場所に事前に隠されていた爆発物が主因だった可能性が強いことを示唆していると主張。決壊はダム施設の貧弱な管理方法が原因とする見方は「可能性が低い」とし、それだけではあのような壊滅的な破壊の威力を説明出来ないとした。チームはまた、同ダムがロシア軍に占領されていたことに注意を向け、爆破の実行役あるいはダム運用の監督業務担当者はダム施設への接近や現場の管理で相応の権限を必要としていただろうとも推測した」

     

    ダムの自然破壊という見方を否定している。ダムが、ロシア軍によって占領されていたことが重要としている。

     

    (3)「今回、調査に加わった英国人の弁護士は声明で、独自に集めた情報や確認などされた公開情報などを組み合わせれば、この段階ではロシア軍は意図的にダムを壊した可能性が高いことをうかがわせると断じた。国際人道法の下ではダムは本質的に民間インフラと想定されていると指摘。カホウカ・ダム近くの住民は攻撃が差し迫っていることを警告されず、氾濫(はんらん)が起きた地域からの退避を試みていた際、砲撃も受けていたとその非道さを訴えた」

     

    調査に参加した英国人弁護士は、ロシア軍が意図的に爆発したと、断定している。

     

    (4)「カホウカ・ダムの決壊は欧州では過去数十年間で最悪の産業災害あるいは環境災害の一つと受け止められている。村落全体の水没、農地を襲う洪水、停電に見舞われ飲み水を失った数万人規模の住民の苦境も伝えられている。ロシアはダム決壊への関与を一切否定し、ウクライナ側の工作と非難しているが証拠は示していない」

     

    農地が回復するまでに、約70年間もかかるとする見方が出ている。ロシアは、重大な犯罪を行ったと言うほかない。

     

    『ロイター』(6月18日付)は、「ロシアが爆発物仕掛ける カホフカダム破壊で証拠発見ーNYT」と題する記事を掲載した。

     

    米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、ウクライナのロシア支配地域にあるカホフカダムが今月破壊されたことを巡り、ロシアが仕掛けた爆発物によるものであることを示す証拠があると伝えた。

     

    (5)「同紙は16日、複数のエンジニアと爆発物の専門家の話として、調査の結果、ダムのコンクリート基盤を通る通路の爆発物が爆発したことを示唆する証拠が見つかったと報道。「この証拠はダムが、これを管理する側であるロシアが仕掛けた爆発物によって損傷したことを明確に示している」とした。これとは別に、ウクライナの検察当局を支援する国際的な法律専門家チームは16日、初期段階の調査で、ダム決壊はロシア側が仕掛けた爆発物によって引き起こされた可能性が「非常に高い」と表明した」

     

    NYTは、爆発物の爆発を示唆する証拠が見つかったと報じている。国際的な法律専門家チームの調査とは別の爆発部の専門家による作業としている。

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    ウクライナはついに今週、長く予想されてきた反撃を開始したのだろうか。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「ウクライナの反撃が始まったと、我々は断言できる」と、9日にビデオインタビューの中で語った。ウクライナは軍事用語で「形成作戦」と呼ばれる、前線のはるか後方にあるロシア軍の重要な物流拠点を長距離砲やミサイルで攻撃し、本格的な作戦の開始前に自軍に有利な状況をつくる作戦を実施している。

     

    英『BBC』(6月10日付)は、「ウクライナの反転攻勢ついに開始か 数カ月の準備経て」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「現在、いわゆる『戦闘偵察段階』がすべての前線において行われている」と、ウクライナ安全保障協力センターの共同設立者兼会長セルヒィ・クザン氏は、BBCに語った。「つまり、ロシア軍の防衛体制に探りを入れているということだ」。いくつかの動画や証言から、この作戦は開始直後からトラブル続きだった様子がうかがえる。「小さな損失だけで成功する場所もあれば、ロシアに反撃されてあまりうまくいかない場所もある」と、クザン氏は述べた。クザン氏は、ウクライナ軍が偵察作戦を展開しているのはどれもザポリッジャ州の南だと述べるにとどまり、具体的な町の名前は伏せた」

     

    ウクライナ軍が狙う地域は、「ザポリッジャ州の南」である。そこからアゾリア海へ出てロシア占領地域を分断する、模様だ。

     

    (2)「ウクライナ南部ヘルソン州のロシア支配地域では6日、ノヴァ・カホフカ市にあるカホフカ水力発電所のダムが決壊し、世界の注目が集まった。ロシア政府は関与を否定しているが、タイミングが偶然重なった出来事ではなさそうだ。カホフカ・ダムとその陸橋は、ロシア軍の態勢をどう崩せるか方法を模索しているウクライナ軍にとって、攻撃ルートになり得るものだった。ダムを支配していたロシア軍がこれを爆破し、ウクライナの軍事作戦のひとつを阻止した可能性は非常に高いように思える。ウクライナ政府はすでに、ロシアとの前線各地の中で特にこの場所に関心を抱いていると、明らかにしていた」

     

    爆破されたダム堰堤は、ウクライナ軍の有力攻撃ルートであった。ロシア軍は、これを察知して爆破したと見られる。ウクライナ側には爆破する動機がないのだ。

     

    (3)「イギリス国防省8日朝の時点で、「前線の複数の場所で激しい戦闘が続いている」とし、大半の地域でウクライナが「主導権を握っている」とした。ウクライナ政府関係者は通常、進行中の作戦について多くを語らない。しかし、現状についてはいくつか興味深い断片を示している。ハンナ・マリャル国防次官は、ザポリッジャから約65キロ南東のオリヒフ村周辺でロシア軍が「積極的に防衛している」と思わせぶりな発言をした。この前線をいずれウクライナは突破しようとするはずだと、多くのアナリストは予想している。「南部に集中する敵軍への補給路となっている陸の回廊を断ち切ること。これが我々の主な目標の一つだというのは、秘密でも何でもない」と、前出のクザン氏は言う。ウクライナ軍は、クリミアへ至るロシア占領地の陸の回廊を寸断させようとしている」

     

    下線部のザポリッジャから約65キロ南東地域が、攻防戦になりそうだ。ここを突破して、クリミアへ至るロシア占領地の陸の回廊を寸断させる狙いをつけている。

     

    (4)「この戦争で特筆して長く激しい戦闘が続くバフムト市の北と南からの映像では、ウクライナ軍が前進しているように見える。マリャル国防次官は「複数の位置で200~1100メートル」前進したと述べた。この動きはいずれバフムトを包囲し、市内を占領するロシア軍部隊を捕らえるための作戦かもしれない。イギリス国防省が言うように、「きわめて複雑な作戦の様相」なのだ。しかし、これはウクライナの反転攻勢がすでに劇的な新段階に入ったことを意味するのか?ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクシー・ダニロフ書記は7日、新たな攻撃に関する報道を否定。「どれも正しくない」とロイター通信に話した。「ウクライナが反転攻勢を開始すれば、誰もが知ることになる。誰もが目にする」とダニロフ氏は述べた」。

     

    バフムトでは、ウクライナ軍がロシア軍を包囲し捕虜にする戦術を展開している。それまでは、隠密作戦で臨み一挙にたたみ込む戦術のようだ。

     

    (5)「ウクライナ軍にはかなりの厳しい制約もかかっている。とりわけ、空からの援護ができる戦闘機がないことが、大きな問題だ。「そのために我が軍はゆっくり前進して、防空システムを近づけている」のだと、クザン氏は言う。もうひとつの制約は、時間だ。きたる反転攻勢は長く続いても5カ月間だ。その後は秋の雨によって地面は再び、大型の装甲車が移動できない状態になる」

     

    ウクライナ軍は、制空権がないことと秋の雨期に入るまでの5ヶ月間で、結果を出さなければならない。そのための準備を過去半年も行ってきた。ロシア側がいうように派手な戦い方ではない。潜行しながら一挙に浮上する。そういう地味な戦いになりそうだ。

     

    (6)「作戦成功とは、どういう状態を意味するのか。仮にウクライナがロシアの戦線を、アゾフ海まで突破できたとする。その場合、そこから西に位置するすべてのロシアの部隊は、クリミア半島を通過する補給線に依存しきっているだけに、今よりはるかに弱体化する。そうなれば、あとはロシアとクリミアを結ぶケルチ大橋を破壊し続いて、クリミアへ補給物資を運ぶ船舶や飛行機を攻撃するだけだと、クザン氏は言う」

     

    作戦成功は、アゾフ海まで突破してクリミア半島のロシア軍を孤立させることである。この段階で、外交交渉が始まるようにも見える。

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    ロシアがまた、ウクライナ南部のダム破壊という暴挙を行った。ロシアが占領しているウクライナ南部ヘルソン州の巨大ダムの破壊によって、およそ4万2000人が洪水被害に遭う危険性があると予想される事態だ。国連の支援責任者は、重大な影響が広範囲に及ぶと警告した。

     

    ダム決壊による洪水でロシア軍の兵士らが流され、ドニプロ川東岸(ロシア占領地域)から退避する様子をウクライナ軍が目撃した。ウクライナ軍のアンドレイ・ピドリスニイ大尉によると、未明のダム決壊で、「ロシア側で逃げられた者は皆無だった。ロシア側の連隊は全員が洪水に巻き込まれた」という。同氏によれば、ドニプロ川周辺の地勢から、東岸に位置していたロシア軍はダムの決壊で深刻な影響を被った。同氏の部隊は、当時の状況をドローン(無人機)や現場の兵士らを通じて確認することができた。『CNN』(6月7日付)が伝えた。

     

    ジュネーブ条約では、民間人に危険が及ぶためダムは紛争時の標的にしてはならないと定められている。ウクライナのゼレンスキー大統領は定例のビデオ演説で、同国の検察当局が既にダム破壊の捜査に国際司法を関与させるよう国際刑事裁判所(ICC)の検察官に打診していると明らかにした。

     

    『ブルームバーグ』(6月7日付)は、「ダム破壊、ロシアが攻撃とウクライナや西側非難ー戦争は新段階に」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ当局は6日、南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムをロシア軍が爆破したと発表した。ウクライナが領土回復の戦闘を強める中で、双方の陣地を激流が襲った。

     

    (1)「ウクライナ内務省は通信アプリのテレグラムに投稿し、ドニプロ川西岸に位置する10の村落とヘルソン市の一部に洪水のリスクがあるとして、住民に避難準備を呼び掛けた。穀物に直接の影響はないが、6日の取引では供給懸念から小麦価格が3%上昇。先週付けた2年半ぶり安値からの反発が続いている。農作物市場分析会社ソフエコンのマネジングディレクター、アンドレイ・シゾフ氏はダムの破壊で、事態は「大きくエスカレートしたとみられ、市場に甚大な影響を持つ悪いニュースや恐ろしい結果が生じるリスクが伴う」とツイートした」

     

    ドニプロ川西岸に位置する10の村落と、ヘルソン市の一部に洪水のリスクがあるという。

     

    (2)「ウクライナのゼレンスキー大統領は、スロバキアで開かれた東欧諸国首脳との会合で、ダムの破壊を「欧州での人為的な環境破壊としてはこの数十年で最悪の事態だ」と糾弾。ロシア軍は1年以上にわたりこの水力発電所を支配した上で、「爆破した」と語った。インタファクス通信によると、ロシアはダム破壊に「一切関与していない」とペスコフ大統領府報道官が記者団に発言。ダム決壊はウクライナ側の破壊工作が原因だと述べたという。ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、ロシア大統領府の主張は「ナンセンス」だと反論した」

     

    ロシア軍は、1年以上にわたりこの水力発電所を支配してきたことから、ロシアが爆破したと見るのが順当である。

     

    (3)「北大西洋条約機構(NATO)の高官は、最近の軍事作戦の激化でウクライナの反転攻勢は始まった可能性があるとの認識を示した。洪水について責任の所在を判断するのは時期尚早だとしつつ、ウクライナ軍の攻撃を恐れたロシアにはその動機があったと考えられると付け加えた。ドイツのショルツ首相はRTLのインタビューで、「ダムへの攻撃は長らく恐れていた事態だ。ウクライナが自国を守るための攻勢を妨害しようと、ロシア側が仕掛けた攻撃だ」と述べた。インタビューは6日に放送される」

     

    西側は、一様にロシア側の仕業と見ている。ウクライナが行う動機がないのだ。劣勢に回ったロシア軍が、ウクライナ軍の反攻作戦を遅らせる意図は明白である。

     

    (4)「NATOのストルテンベルグ事務総長は、「ロシアの残虐性が再びあらわになった」と発言。NATOは7月にリトアニアで開く首脳会議でウクライナ支援を強化する「重大な」決定を下すとし、それにより「ウクライナはNATOに近づく」と述べた。ここ数日で戦線はウクライナ東部と南部の複数に拡大。洪水でドニプロ川対岸のロシア軍は後退を強いられ、ウクライナ支配地域への砲撃は弱まる可能性があると、ウクライナ軍南部作戦司令部のフメニュク報道官がラジオ・リバティーのウェブサイト上で述べた」

     

    NATOのストルテンベルグ事務総長は、今回の事件により「ウクライナはNATOに近づく」と述べた。ウクライナへの武器弾薬補給を安定化する「取り決め」と見られる。ロシアにとっては「やぶ蛇」になった。

     

    (5)「ウクライナは1年前から繰り返し、同国軍の進軍を食い止めようとロシアがダムを爆破する可能性を警告していた。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は6日、ロシアが洪水でウクライナ軍にとって「乗り越えられない障害」をつくり出そうとしたとし、「甚大な環境被害」が生じるだろうとツイートした」

     

    ロシアの蛮行によって、西側は結束してウクライナ支援を行う。こういうリアクションを計算できないほど、ロシアは追い詰められて混乱しているのだろう。

     

     

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