ロシアのウクライナ侵攻は、すでに2年6ヶ月を迎えようとしている。現在、ウクライナ軍の反攻作戦は全般的に膠着状態になっているなかで突然、ウクライナ正規軍がロシア領へ奇襲作戦を展開している。狙いは、ウクライナ国内で次第に厭戦気分が強まっており、いずれ休戦交渉が始めなければならない状況とされている。そこで、ウクライナは「乾坤一擲」(けんこんいってき)で休戦交渉を有利に進めるべく、ロシア領の占領を試みているという。NATO(北大西洋条約機構)も承認済みの作戦と言われる。
『日本経済新聞 電子版』(8月9日付)は、「ウクライナ、停戦視野のロシア本土奇襲 形勢逆転へ賭け」と題する記事を掲載した。
ロシア軍に守勢に追い込まれていたウクライナが、形勢逆転へ賭けに打って出た。千人規模の部隊でロシア南部クルスク州に侵攻したウクライナ軍は8日も進軍を続けた。兵力不足の中での大規模な戦力投入には、年末にも想定するロシアとの停戦交渉を少しでも優位に運びたい狙いがある。
(1)「ウクライナのゼレンスキー大統領は8日の軍の行事で、クルスク攻撃への直接的な言及は避けつつ、「ウクライナ軍は奇襲を仕掛ける方法も、成果をあげる方法も知っている」と戦果をあげたウクライナ軍を称賛した。複数のウクライナメディアによると、同国軍は国境から15キロメートル以上進軍した。クルスク州内で支配下においた領土は45平方キロメートル以上。東京都江戸川区にほぼ相当する面積をわずか2日で制圧した」
ウクライナ軍は2日間で、ロシア南部クルスク州へ15キロメートル以上進軍した。東京都江戸川区にほぼ相当する面積という。
(2)「ロシア国防省は8日、ウクライナ軍の前進を阻止したと主張した。ただ、前線で従軍するロシアの軍事ブロガーによると、ウクライナ軍は同州内のクルスク原子力発電所など各方面へ進軍を続けている。ウクライナが奇襲を成功させた背景には、ロシア側の油断があったのは間違いない。これまでもウクライナ側からロシアへの越境攻撃は複数回あった。小規模だったため、いずれもロシア側は早々に撃退した」
今回のウクライナ軍の急襲は、ロシア軍の隙を突いた作戦の成功である。
(3)「ウクライナの後ろ盾である欧米が、核大国ロシアとの対立激化につながる大規模な越境攻撃を容認しないとの思い込みもあったとみられる。ロシア軍はウクライナ東部の激戦地に戦力を集中投入し、クルスク州などの国境防衛は脆弱な状態で放置していた。一方のウクライナ軍は奇襲のために周到な準備を欠かさなかった。主要7カ国(G7)の軍高官によると、奇襲前の数週間でウクライナ軍は同州の通信設備を集中的に攻撃した。ロシア軍の偵察能力に大きな打撃を与え、察知されない形の侵攻を可能にした。奇襲には機械化旅団など装備が充実した数千人の部隊が出動したとみられる」
ウクライナ軍の後ろ盾であるNATOは、この作戦を認めている。従来は、反対してきた作戦だ。それが、承認されたのは、この反攻作戦が大詰めを迎えている証拠であろう。
(4)「奇襲作戦は、今後のロシア側との停戦交渉をにらんだ色彩が濃い。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は7日のテレビ番組で、国境地帯でのウクライナの攻撃は「ロシアの戦争コストの増大」につながると説明した。将来の和平交渉でウクライナの立場の改善につながるとの見方だ。戦争の長期化で国内の厭戦(えんせん)機運は高まりつつある。キーウ国際社会学研究所が5月に実施した世論調査では「和平実現のためロシアと交渉に入るべきか」との問いに、2023年11月の前回よりも15ポイント多い57%が賛成と回答した」
侵略されたウクライナが、徹底抗戦するのでなく休戦したい。世論とは、こういうものだとすれば、侵略されない防衛力を持つべきという結論になるのか。
(5)「ウクライナの念頭には11月の米大統領選がある。和平協議の即時実現を唱えるトランプ前大統領が返り咲いた場合、協議で厳しい条件を押しつけられかねない。ウクライナ側が折り合える条件で今冬以降の停戦交渉に臨むには、秋までに大きな戦果をあげておく必要があった。欧米各国は相次ぎ、今回の奇襲攻撃を理解する立場を表明した。米国務省のミラー報道官は7日、ウクライナの行動は「わが国の方針に違反しない」と語った。ウクライナメディアによると欧州連合(EU)のスタノ報道官は、ウクライナには侵略国の領土を攻撃することを含む正当な自衛権があるとの認識を示した」
ウクライナは、トランプ氏の大統領復帰を前提にした外交戦略を取り始めている。