ウクライナ軍は、ロシア軍との1000キロメートルにも及ぶ戦線を突破するために、数百台規模の米欧製の戦車を必要としている。今回のドイツ戦車「レオパルト21」の供与決定によって、装甲車と組み合わせた機甲部隊の編成が可能になった。欧州13カ国の軍は、約2000両のレオパルト2を保有している。今年前半で供与されるレオパルト2は、100両を大きく超えるとみられる。主力戦車の訓練は、米英指導による「NATO方式」で1〜2カ月程度かかるとみられる。春から夏には、供与された戦車を軸とした機甲部隊を前線に投入できる見通しという。
『日本経済新聞 電子版』(1月27日付)は、「ウクライナ戦車戦は『NATO軍式』、米英が戦術指導」と題する記事を掲載した。
欧米各国が相次ぎウクライナへの戦車供与を決めたことに伴い、同国軍は春から夏にかけて大規模な反攻作戦に出る見通しとなった。発動される作戦は、戦車部隊を中心に編成し、2003年のイラク戦争でイラク軍を攻略した「北大西洋条約機構(NATO)軍式」の最新の機甲戦となる見通しだ。
(1)「戦車は戦車だけで戦うわけではない。装甲の厚さゆえに視界が制限される戦車の弱点を補うため、戦車に準じた能力を持つ戦闘装甲車や兵員輸送車に搭乗し対戦車砲などで武装する歩兵が帯同し、全体で「機甲部隊」をつくる。米英仏独などは既に戦車供与に先立って戦闘装甲車などの供与を表明済みだ」
「機甲部隊」は、戦車と装甲車から構成される。戦車部隊は通常、4両で1個小隊を構成する。さらに小隊3個+隊長車1両で1個中隊(計13両)となる。つまり、戦車13両で1個中隊の編成だ。
(2)「NATO式機甲戦の強みは、戦車や装甲車、無人機(ドローン)と司令部を通信で常時つなぎ、連携して効率的に敵軍を無力化する「ネットワーク中心の戦い(NCW)」にある。砲弾が尽きた戦車が敵戦車を発見した場合、仲間の戦車やドローンに敵の場所を伝え、代わりに攻撃してもらうといったことができる。ロシアの戦車と比べ「走・攻・守」の基本性能がただでさえ優れている上に、こうした連携戦が可能な英独米の主力戦車をウクライナ軍が配備することの意義は大きい。今後、米欧製の戦車や装甲車に搭乗する兵員の訓練を進めれば、全体で数百両の戦車・装甲車からなるNATO式の機甲部隊に編成し、順調にいけば春から夏にかけて大規模な反転攻勢の準備が整いそうだ」
ウクライナは、ITに長けている国である。現在でも、わずかな部品を組立てて独自の通信機能を維持して最前線で戦果を上げている。NATO式機甲戦は、戦車や装甲車、無人機(ドローン)と司令部を通信で常時つなぎ、連携して効率的に敵軍を無力化することだ。この方式は、直ぐにウクライナ軍に消化されるはず。短期間に機甲化部隊は軌道に乗るであろう。
(3)「米軍や英軍は03年のイラク戦争で大規模な機甲戦を展開し、旧ソ連製戦車を配備していたイラクのサダム・フセイン政権軍を一気に打倒した。この実績を踏まえ米英軍は、ウクライナ軍に戦車などを供与するのと並行して具体的な戦術を指導しているもようだ。イラク戦争当時と現在が異なるのは、地上戦において無人機が普及したことだ。ロシア軍はなお各種ミサイルも保有している。ウクライナ軍が大規模な機甲戦に踏み切る際には、ロシア軍の空からの反撃に備える必要がある」
イラク軍は、ロシア製戦車を砂漠の中に埋める奇想天外な待ち伏せ作戦を行い大失敗した。米英軍の理詰めの戦術に対抗できなかったのだ。こういう失敗から、ロシア軍はどのような戦い方をするのか。空からの攻撃も考えられるのであろう。
(4)「ロシア軍は今後、ウクライナ軍の機甲戦準備が整う前に、兵士に多大な犠牲を強いる力任せの従来型戦術で攻勢をかけてくる見通しだ。ウクライナ軍や同軍を支援する欧米各国が戦いの主導権を握るには、今後の新機甲部隊の編成と戦闘準備をいかに前倒しできるかにかかっている」
軍事戦略の専門家は、次のような予測をしている。「ロシア軍司令官は、ウクライナが新型兵器をどこでどのように使用するか予測し、最善の対策を見極めようとするだろう。ロシア政府は、防御と攻撃のバランスをどう取るか、機先を制するか、それとも春に予想されるウクライナの攻撃を待ち構えるか決断する必要がある」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月27日付)
ロシア国防省は25日、戦闘地域の近くで「急襲部隊」が訓練を受けている映像も公開した。「ウクライナ軍の最も困難で陣形の整った防衛地区を突破する」ことを想定していると指摘した。こういう秘密作戦を公開したのは、逆に言えば「行なわない」という意味でもある。虚々実々の駆引きをしているところだ。