勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ウクライナ経済ニュース時評 > ウクライナ経済ニュース時評

    a0960_006628_m
       


    ウクライナ軍は6月30日、ウクライナ南部オデッサ州沖合の黒海上にあるズメイヌイ(スネーク)島からロシア軍が撤退したと明らかにした。ロシア国防省も同日、撤退を認めた。同島は周辺の制海権や制空権を掌握する上で要衝とされ、ウクライナ軍が奪還に向けた攻撃を続けていた。『日本経済新聞 電子版』(6月30日付)が報じた。

     

    ロシア国防省は、ウクライナからの穀物の輸出に向け、国連などが黒海で安全に貨物船が通れる「回廊」の設置を協議しており、これを阻害しないために撤退したと説明した。これにより、世界の穀物危機が回避される希望が出てきた。

     


    ウクライナからの穀物輸出を巡っては、ロシアのラブロフ外相とトルコのチャブシオール外相が6月8日に会談し、黒海に貨物船が通過できる「回廊」の設置などを協議。さらにウクライナとロシアに加え、トルコと国連も参加する4者協議をイスタンブールで開くことを提案していた。ロシア軍が、スネーク島撤退を明らかしたことで、ウクライナから穀物輸出が可能になりそうだ。

     

    一方、ロシア軍のスネーク島撤退は、ウクライナ軍の猛攻撃に耐え切れなかったという軍事的な側面がある。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月28日付)は、「ウクライナ沖の小島、戦争で大きな役割」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはスネーク島を制圧して以降、拠点の確立と防衛の強化に繰り返し取り組んできた。一方で、ウクライナは妨害工作を活発化。複数回にわたりロシア軍のヘリや防空システム、重火器を空爆で破壊したと主張している。ロシア側はこれを否定している。衛星データ企業マクサーとプラネット・ラボがウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に提供した衛星画像によると、ロシア軍は4カ月でスネーク島の要塞(ようさい)化に成功。新たにテント構造や塹壕(ざんごう)を構築し、短距離ミサイルシステムを配備した。とりわけ6月初め以降の進展が著しい。

     


    (1)「ウクライナ軍はトルコ製ドローン「バイラクタル」を使って相次ぎスネーク島で空爆に成功したと主張している。58日に公表された動画によると、島の上空を飛行していたロシア軍のヘリがドローン攻撃を受けたみられる様子が映っている。ウクライナの軍情報機関トップ、キリロ・ブダノフ氏は22日、テレビのインタビューで「われわれは攻撃を加えており、スネーク島を全面解放するまで作戦を続ける」と言明した。ウクライナのアンドリー・ザゴロドニュク元国防相は、ロシアがスネーク島にレーダーや防空・電子戦システムを導入することで、実質的に沈没したモスクワの代わりにしようとしていると指摘する。ウクライナは414日、対艦ミサイルでモスクワを撃沈させた。ロシアは原因不明の火災が原因だと説明している」

     

    スネーク島を巡って、ロシア軍とウクライナ軍が激しい攻防戦を繰返してきた。ロシア軍は、沈没した「モスクワ」に代わって、スネーク島へレーダーや防空・電子戦システムを導入していた。絶対的な防衛戦構築の構えであった。それが、6月30日に撤退したのだ。相当の決断の結果である。

     


    (2)「ロシアはウクライナの海上封鎖を狙っている」とザゴロドニュク氏。「ロシアはスネーク島を沈まない巡洋艦として使い、黒海で飛行・航行するものすべてを攻撃する考えだ」軍事専門家によると、ロシアはウクライナの空爆にさらされながらスネーク島で軍事拠点の構築を続けるリスクを勘案した結果、島にとどまり、いずれ地対空ミサイルシステム「S400」などの最新鋭兵器を持ち込むことの利点が、島を断念するコストを上回ると結論づけた可能性がある」

     

    ロシア軍のスネーク島死守の決断が揺らいだのは、ウクライナ軍の猛攻であったに違いない。ウクライナ軍は、米英からミサイルも供与されているので猛攻できる兵器を揃えていたことは事実だ。

     

    (3)「ウクライナにとっては、スネーク島を奪還できれば、ロシア軍による封鎖を突破するための一助となる。ロシアの軍艦がオデッサ南部の沖合を巡回しており、ウクライナ南部の拠点から穀物など重要な食糧が輸出されるのを妨げている。港湾封鎖で経済が壊滅的な打撃を受けているオデッサのゲナディー・トゥルハノフ市長は「スネーク島はシンボルになった」と話す。「ここを支配すれば、戦況を支配できる」。ロシア、ウクライナ双方とも今のところ、目標は達成できていない。ただ、ウクライナはスネーク島への部隊配置を目指しているのではなく、むしろロシアによる軍事拠点の構築を阻止することに注力している可能性があるとの指摘も出ている」

     

    下線のように、スネーク島奪回はウクライナ軍の戦況を有利に展開できるシンボル的な意味を持っている。この象徴的な「小島」をウクライナ軍が手中に奪回したことは、ウクライナ戦争全体へ大きな意味を持っている。ウクライナが、和平への足がかりを掴んだとも言えるのだ。

     


    (4)「前出のザゴロドニュク氏は「戦争が終わるまで総じて空白のままだろう。スネーク島の支配を維持することは極めて困難だ」と話す。「ここに残っても意味がないとロシアが認識するまで、軍装備を何度破壊しなければならないのだろうか」と指摘」

     

    ロシア軍は、ウクライナからの穀物輸出を妨害していると世界の非難を浴びてきた。だが、こうした非難ぐらいで撤退するロシアではない。穀物輸出を口実に撤退したと理解すべきだ。撤退の潮時と判断したのだ。それは、ウクライナ侵攻全体の構図を俯瞰した上での決断と読むべきである。和平への準備を始めたとも読める。

     

    ムシトリナデシコ
       

    メドベージェフ前大統領は、プーチン大統領の影のような存在である。そのメドベージェフ氏が突然、昨秋からウクライナ批判を始め存在感をアピールしているのだ。誰でも感づくのは、プーチン氏の健康不安から、メドベージェフ氏がその後釜を狙っているのでないか、というのである。真相は不明だが、メドベージェフ氏の言動からプーチン氏の健康状態を推し測れるかも知れない。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(6月30日付)は、「『プーチンの犬』メドベージェフ前大統領の転落が止まらない」と題する記事を掲載した。

     

    最近のメドベージェフのソーシャルメディア投稿には、欧米政府高官に対する口汚い批判や、アメリカを攻撃するとか、ウクライナを地図から消し去るといった好戦的な言葉が目立つ。ウクライナ侵攻がロシア国内にもたらす混乱が日常生活に表れ始め、さらにウラジーミル・プーチン大統領の健康悪化がささやかれるなか、メドベージェフは自己防衛策を強化しているようだ。

     


    (1)「メドベージェフは昨年10月、ロシアの日刊紙コメルサントに反ユダヤ主義むき出しの寄稿をした。ロシアがウクライナ国境に兵力を集める少し前のことで、ユダヤ系であるウォロディミル・ゼレンスキー大統領をナチスと非難するなど、支離滅裂な陰謀論と罵詈雑言に満ちた寄稿だった。かつては温厚に見えたメドベージェフの変節は、ロシアがヨーロッパにとって厄介な隣人から、存亡を脅かす存在に変貌したことと一致する」

     

    温厚に見えたメドベージェフ氏が、昨秋から豹変して過激派になった。ウクライナ批判を始めたのだ。そのきっかけが、プーチン氏の健康不安を察知した結果とみられる。

     


    (2)「2月のウクライナ侵攻以来、ロシア政界はナショナリズム色が極めて濃くなり、異論を認めない風潮が強まった。メドベージェフの過激な主張も、強硬派の監視の目を意識して繰り出された可能性が高い。「ロシア政治で起きている非常に興味深い変化の1つだ」と、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティクのタチアナ・スタノバヤ代表は語る。「ロシアは変わった。そしてメドベージェフは、自分が新しいロシアの一員であることを示す必要に駆られている」と指摘」

     

    メドベージェフ氏は、ロシアの動きに合せて過激発言を行い一体感を演出しているというのだ。

     

    (3)「リベラル派からはプーチンの犬と揶揄され、ロシアの安全保障当局からは、アメリカに擦り寄ったと疑念の目で見られて、近年のメドベージェフは孤立していた。だから余計に、プーチンの厚意にすがるしかなくなっていた。「メドベージェフはロシアの政治エリートで、最も立場が弱い1人だ」とスタノバヤは語る。メドベージェフは6月のテレグラムへの投稿で、最近極端な愛国主義を唱えるようになった理由を説明した。「あいつらのことが憎いからだ。連中はろくでなしのクズだ」。この「連中」とはウクライナのことらしい。「私の命ある限り、あいつらを消滅させるために何でもする」と言う」

     

    メドベージェフ氏は、リベラル派から揶揄され安保当局からは警戒されるという挟み撃ちに遭っている。どうしても、プーチン氏の庇護を得なければならない立場とされる。これによって、「ポスト・プーチン」の座を固めたいのかも知れない。

     


    (4)「メドベージェフが大統領に就任したのは08年、プーチンが当時の憲法が定める大統領の任期上限に達して、ひとまずその座を降りなければならなくなったときだ。それはロシア国内にも欧米諸国にも、大きな希望を生み出した。なにしろメドベージェフは、プーチンをはじめ過去のロシア(とソ連)の政治指導者たちとは大きく違っていた。大学を卒業したのはベルリンの壁崩壊の数年前で、ソ連の政治に染まっていなかった。ロシアの「弱い民主主義」と「非効率な経済」は問題だと語るなど、言うことは言う。だが、欧米諸国にこうした希望を抱かせることになったメドベージェフの特質が、ロシア政界では、保守派の愚弄と疑念を招く原因となった」

     

    メドベージェフ氏の経歴は、ソ連政治に染まっていないことだ。だから、第三者の立場で過去のソ連を批判できる。ロシア保守派には、それが気に入らないのだろう。

     

    (5)「ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイは17年、ロシアの政治家による幅広い腐敗を暴露する動画を発表した。プーチンが大統領に復帰すると入れ替わるように首相に就任していたメドベージェフもターゲットの1人だ。すると、その豪勢な暮らしぶりを知った多くの市民が全国で怒りのデモを繰り広げた。10代の若者たちは、黄色いアヒルのおもちゃを手にデモに参加した。メドベージェフの広大な別荘に、ヨットハーバーやスキー場やヘリ発着場だけでなく、アヒル小屋があることにちなんだ抗議だ。支持率が38%に落ち込むと、メドベージェフは20年に首相辞任を発表した」

     

    メドベージェフ氏も、利権漁りをして広大な別荘を手に入れていた。これが暴露され結局、首相辞任へ追い込まれた。プーチン氏と同じ蓄財に励んだが失脚原因になった。

     


    (6)「コロナ禍が始まってから2年、プーチンはいまだに群衆に近づこうとしないし、政府高官とさえ距離を置きたがる。このため欧米のメディアでは、「プーチン健康悪化説」が盛り上がる一方だ。もちろんロシア政界も噂には気付いている。メドベージェフの最近の行動は、長年自分を守ってくれたパトロンも、政治的・肉体的な死と無縁ではないという思いと関係していると、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティクのタチアナ・スタノバヤは語る。「メドベージェフは『プーチン後のロシア』における、自分の居場所を確保するために戦っているのだ」と指摘」

     

    メドベージェフ氏にとっては、プーチン氏の健康不安が絶好のチャンスになる。何と言っても大統領と首相の経験者である。秘かに、「闘志」を燃やしても不思議でない、政治環境になったと判断したのであろう。

     

     

    a0960_008527_m
       

    ウクライナは、年1回開催されるG7首脳会議と、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に合わせて、自国への支援を求めて積極的な動きをしている。G7では、ロシアとの貿易から得る関税収入をウクライナ支援に充当する方針を盛り込んだ。また、NATOが2030年を目標とする文書の「戦略概念」では、欧州安保の基盤がウクライナにあることを明記するように働きかけている。これによって、NATO非加盟のウクライナの安全保障への間接的寄与を求めているものだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月27日付)は、「米欧、ウクライナ支援強化 ロシア関税収入を充当」と題する記事を掲載した。

     

    主要7カ国首脳会議(G7サミット)は26~27日にかけてウクライナ情勢を議論し、追加軍事支援や復興に向けた財政支援の強化で一致した。東部ルガンスク州の制圧が迫るなか、ウクライナ側に必要な支援を提供できるかどうかが戦況を左右する。

     


    (1)「G7は27日、ウクライナ支援に関する声明を発表し、ロシアとの貿易から得る関税収入をウクライナ支援に充当する方針を盛り込んだ。日米などは貿易上の優遇措置を保証する「最恵国待遇」の対象からロシアを外しており、これで引き上げた関税を有効活用する。軍事支援では米政府がサミット直前の23日、高機動ロケット砲システム「ハイマース」4基を含む4億5000万ドル(約600億円)相当の武器の追加供与を承認した。侵攻開始以来、米国のウクライナ向け武器支援は総額61億ドルにのぼる。英国とドイツも多連装ロケット発射システム(MLRS)の供与を決め、支援兵器は大型化している」

     

    G7各国は、対ロシア貿易の関税収入をウクライナ支援に充当することを決めた。これにより、一定の資金がウクライナ側で確保できる。米国は、支援兵器の大型化に乗出している。

     


    (2)「ウクライナ政府は兵器支援拡大を求めるが、足元で到着したのは要請の1割程度だと訴える。G7は29~30日にある北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の議論も踏まえ追加軍事支援を急ぐ。ゼレンスキー大統領は侵攻による打撃で毎月50億ドルの財政支援が必要だと訴える。破壊されたインフラの被害額は1000億ドルに達するとの試算もある。G7は通常の財政支出だけでなく、様々な手段でウクライナへの資金支援を検討する。対ロシア貿易の関税収入の活用はその一つだ」

     

    ウクライナが受けたインフラ被害は、すでに1000億ドルに達している。このほか、ウクライナは毎月50億ドルの財政支出が必要としている。この資金調達の一環として、ウクライナは人口流出と工場の操業ストップで電力供給が過剰になっているので、欧州へ販売する件も検討されている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月27日付)によれば、年間16億ドル程度の利益が得られるという。それでも、約10日分の財政支出を賄えるだけだ。

     

    (3)「米国や欧州連合(EU)では、制裁で凍結したロシア政府やオリガルヒ(新興財閥)の資産を、ウクライナ復興に充当する案が浮上する。ただ国際法に合致した枠組み作りのハードルは高い。今回のG7サミットでも「打開策は簡単には見つからない」(EU関係者)との見方が強い。英王立防衛安全保障研究所のマリア・ニツェーロ氏は、「私たちは法の支配の原則に沿って凍結資産の没収や支援への充当を考える必要がある。特に(各国中銀にある)ロシアの外貨準備を没収するのは難しい」と指摘する」

     

    ウクライナ復興でロシアの凍結資産を流用する問題は、法的にもかなり難しい面がある。とりわけ、ロシアの外貨準備を没収することは困難であるとしている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月25日付)は、「NATO戦略概念で『ウクライナ評価を』同国高官」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に対し、同国が欧州の安全保障で中心的な役割を果たしていると29~30日にマドリードで開かれるNATO首脳会議で評価するよう求めている。取材に応じたウクライナ政府高官が明らかにした。NATOは首脳会議で、戦略概念の改定を議論する。

     

    (4)「ウクライナのジョウクヴァ大統領府副長官兼大統領顧問(外交担当)は、ウクライナが侵攻してきたロシアと戦っている事実を考慮し、NATOの戦略目標の文書「戦略概念」にウクライナが欧州安保の「基盤」だと明記すべきだという考えを示した。ジョウクヴァ氏は、ウクライナは戦略概念を改定する議論に直接参加するわけではないが、NATOに加盟する各国に同国の提案を伝えている」

     

    ウクライナは、自国の運命をNATOに託している以上、ウクライナの立場をNATOの「戦略概念」に明記してくれるように求めている。大国ロシアを前に、ウクライナが国家主権を守るべく必死である。

     


    (5)「ジョウクヴァ氏は、「NATO各国が欧州やウクライナの現状を明記しなければ、この文書の内容は実態からかけ離れてしまう」と主張した。現行の戦略概念は2010年に改定された。欧州の安保体制の整備に向けた多くの目標の一つとして、ウクライナとの協力態勢を強化していくと明記した。背景にあるのは08年にルーマニアの首都ブカレストで開いたNATO首脳会議がウクライナの加盟を歓迎すると判断した事実だ。ウクライナは近い将来のNATO加盟が現実的でないと認識しているが、NATOにウクライナとの協力姿勢を再確認するよう要求している」

     

    現行の「戦略概念」では、ウクライナとの協力態勢を強化すると明記していた。次の「戦略概念」でも、引き続きウクライナとの関係強化を訴えているもの。このウクライナの要請によって、国運の保護をNATOに要請せざるを得ない土壇場の苦衷が伝わる。

     

    (6)「ジョウクヴァ氏は、NATOが改定する戦略概念で、ロシアを「パートナー」と言及している部分をすべて削除するようにも求めている。現行の戦略概念で、NATOはロシアとの「真の戦略的パートナーシップ」を目指し、NATOとロシアの協調は戦略上重要だと指摘している。ジョウクヴァ氏は「(新たな)戦略概念では侵略者ロシアへの警告をもっと強めてほしい。加盟国はひるむことなく、ロシアに対抗する規定をまとめてほしい」と注文をつけた」

     

    このパラグラフから言えば、NATOはロシアを敵対視せずに話し相手として位置づけていたことが分る。NATOは、ロシアを刺激しない文言であったのだ。それにも関わらず、ロシアは敢えて曲解した形で、ウクライナ侵攻に走ったことが浮き彫りになっている。それだけに、裏切られた形のウクライナは、ロシアへ厳しい言葉で対抗するように求めているのだろう。

    a0960_006618_m
       

    ロシア軍は目下,他国の軍隊では滅多に見られないような事態が連続して起こっている。将官クラス7人の戦死のほかに、今度はロシア軍参謀総長という軍のトップがウクライナ東部の戦線で負傷したというのだ。軍の最高指導部が、このような「異変」に見舞われているのは、ウクライナ侵攻が芳しい結果が出ていない証拠と見られる。

     

    『中央日報』(5月2日付)は、「ロシア軍がまた屈辱、参謀総長『ウクライナで尻に破片、帰国』」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ東部戦線の最前方地域をロシア軍最高指揮官のゲラシモフ参謀総長が訪問した事実が明らかになった。ゲラシモフ総長はプーチン大統領、ショイグ国防相と共にウクライナ侵攻を計画したロシア軍の核心人物だ。



    (1)「5月1日(現地時間)の『ニューヨークタイムズ』(NYT)と英『デイリーメール』によると、ウクライナ当局者はゲラシモフ総長がこの数日間、ドンバスを含む東部戦線の最前方陣地を訪れていたと把握した。ゲラシモフ総長は4月30日、ロシア軍の占領地イジウムを経てロシアに戻ったという」

     

    ロシア軍のゲラシモフ参謀総長が、ウクライナの東部戦線を訪問した。ロシア軍最高指揮官が、危険な最前線に出たのは軍隊史上でも珍しいこととされている。戦線膠着を打開する指示を与える目的であったのであろう。

     

    (2)「ゲラシモフ総長はイジウムで脚と尻を破片で負傷したという報道もあった。『デイリーメール』は、ロシアの非公式情報筋を引用し、ゲラシモフ総長がイジウムで「骨折でなく破片による負傷」のため急いで帰国し、現在は手術を終えて命に別条はない状態だと報じた。続いて、「ゲラシモフ総長は(ドネツク州の要衝地)スラビャンスクに対する攻撃を指揮するためにウクライナ入りしたが、彼の負傷と帰国はロシア軍のもう一つの敗北」と伝えた。ウクライナ軍はゲラシモフ総長がロシアに戻った後、東部最前線の陣地を爆撃した。この攻撃で少なくとも1人の将軍を含む約200人のロシア軍が死亡したと、ウクライナ軍は主張した。匿名を求めた米当局者2人もゲラシモフ総長がウクライナ東部に数日間とどまったと確認した」

     

     

    ゲラシモフ総長は、現地部隊の士気高揚の目的もあったであろう。ウクライナ側が、この情報を把握していたことから見て、極めて危険な前線視察である。

     


    (3)「西側の軍事専門家らは、軍の最高位職が最前方に行くのは極めて異例だとし、ロシア軍内部の混乱の証拠かもしれないと分析した。ロシアは、ウクライナ全域を占領しようとした当初の目標を修正し、東部ドンバス地域に戦線を大幅に縮小して大々的な空襲を浴びせているが、明確な成果を出せずにいる。現在、ロシア軍は軍需物資資源と食料・燃料補給の支障など慢性的な兵たん問題、部隊間の意思疎通・協力問題などが解決せず、内部の不満が高まっている。ウクライナ軍の抗戦が続き、士気も落ちた状態だ。東部地域でロシア軍が占領した一部の村も、ウクライナ軍の反撃で少しずつ奪還されている状況という」

     

    下線部のように、ロシア軍のウクライナ東部の作戦は停滞している。兵士の士気が落ちているという。ウクライナ北部戦線で敗退してきただけに、ウクライナ軍への恐怖感が先立っているに違いない。戦争はロボットがするものでなく、感情のある人間が行なうもの。一度、苦手意識を持った相手とは、互角に戦えないのであろう。

     


    (4)「4月30日にペロシ米下院議長と共にウクライナを訪問したクロウ下院議員は、NYTに「ゲラシモフ総長の最前方訪問はロシアの状況が良くないとことを意味する」とし「ロシア軍の数千人が戦死して士気が落ち、東南部で攻勢が停滞したとみられる」と話した。一方、開戦から約2カ月間でロシア軍は少なくとも12人の将軍を失い、こうした状況は現代史に前例がないという西側の指摘が出ている。米政治専門メディアのザ・ヒルによると、1日、北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍の元最高司令官ジェームズ・スタブリディス氏は、WABC放送のラジオインタビューで「この2カ月間に少なくとも12人のロシア将軍が死亡したと聞いている」とし、「将軍の死だけ見ると、現代史でこのような前例はない」と述べた」

     

    米国の軍事専門家からも、ロシア軍の攻撃が稚拙であると指摘されている。第二次世界大戦当時の戦闘方式をとっていることと当初、ウクライナ軍を甘く見て無防備で進撃し全滅したトラウマから抜け出せないようである。ウクライナ軍は,NATO(北大西洋条約機構)から、最新の合理的な戦闘方式を学んでいる。この差が、大きく出ているに違いない。

     


    (5)「続いて、「米国は20年間にわたり戦争をしたアフガニスタン戦争はもちろん、イラク戦争の事例まで合わせて、実際の戦闘で戦死した将軍は一人もいない」とし、ロシア軍の無能は驚くほどだと評価した。また開戦後に引き続き提起されているロシア軍の兵たん問題、戦略不在、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」沈没などに言及し、「ロシア軍の成果はみすぼらしい」と話した。スタブリディス元司令官は、米国南部指令官・欧州司令官を務め、欧州司令官在任中は欧州連合軍最高司令官も兼ねた」

     

    元米軍司令官からは、ロシア軍が無能なほどの戦い方であると見下されている。こうなると、「軍事大国ロシア」の評価はズタズタである。戦争の勝敗は、単純に兵士と武器の数で決まるのでないという教訓が、改めて思い起こされる。「兵站」という後方の支援体制を含めた総合戦力が、最終的な勝敗を決するものだ。ロシア軍は、この点でウクライナ軍に劣っているのだろう。

    a1320_000159_m
       

    ロシア語のアルファベットに、「Z」の文字はない。では、なぜロシアで急に「Z」が広く使われているのか。誰しも抱く疑問である。英国 BBC放送によると、ロシア語で使用されるキリル文字では、「Z」は異なる書き方(数字の3のような形)をする。しかし、ロシア人の大半は、欧米のアルファベットが使うラテン文字の「Z」を認識しているという。

     

    BBCは、「プロパガンダでは、一番シンプルなものが最も早く受け入れられがちだ」、「この文字はなかなか威圧的で、きっぱりしている。美的観点からは、非常に強力なシンボルだ」という専門家の見方を紹介している。

     


    『ニューズウィーク 日本語版』(4月20日付)は、「ついに明かされたロシア軍『Z』の真の意味」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア軍によるウクライナ侵攻のシンボルとして有名になった「Z」マークの意味を、ロシアの国営放送が明らかにした。

     

    (1)「ロシアの国営テレビ局「第1チャンネル」のニュース番組が4月18日、第2次大戦でソ連がナチスドイツに勝利したことを祝う5月9日の戦勝記念日のリハーサルが行われたことを報じた。そのなかでアンカーのエリセーエフは、パレードには1万1000人以上の軍人が参加し、8機のMIG-29戦闘機が、アルファベットのZを描きながら飛行する予定だと伝えた」

     

    ロシアでは、すでに5月9日の戦勝記念日のリハーサルが行われている。8機のMIG-29戦闘機が、アルファベットのZを描きながら飛行している光景もTVで見ることができる。ロシアは、大急ぎでウクライナ侵攻勝利を「前倒し」で祝う焦りかただ。

     

    (2)「米誌『デイリー・ビースト』の記者で、ロシアウォッチャーでもあるジュリア・デイビスのツイートによれば、エリセーエフは番組内で、なぜ「Z」なのかを説明した。Z」は数字の72つ、1つを逆さまにして重ねたものだという。つまり、77回目の戦勝記念日を意味し、それがウクライナからドンバス地方を「取り戻す」ウクライナ侵攻の象徴になった(注:だとすれば、59日までに勝利する、の意味も含まれそうだ)。「つまり、第2次大戦(WWII)の終結を祝うため、プーチンはWWZを始めることにしたわけだ」とデイビスはツイートする。また別のツイートでは、「ロシアは基本的に特大サイズの北朝鮮といえるが、北朝鮮よりたちが悪い」と記している」

     


    このパラグラフに「Z」の意味が説明されている。「7」を上下に重ねたもの。つまり「77」回目の対独戦勝記念日というこじつけである。だが、悪名高き「ヒトラー・ユーゲント」のマークに似ているようにも思う。

     

    (3)「Zの文字は、2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始してから、ロシアへの支持を表すロゴとしておなじみの存在になった。ロシア軍の軍用車両にはZが書かれ、多くの政治家が、Z入りの服や記章を身に着けている。ロシアのタタールスタン共和国の首都カザンでは、ホスピスを運営するがん慈善団体の会長ウラジーミル・バビロフのアイデアで、子どもたちが雪の上で「Z」の形に並ばされたという」

     

    「Z」は、簡単なマークだけにプロパガンダとして最適なのだろう。だが、マークの影で、多くのウクライナ市民が生死の境をさ迷っている厳しい現実を忘れている。後味が悪いのだ。

     


    (4)「
    Zの解釈は他にもあった。英国の防衛シンクタンク王立統合軍事研究所(RUSI)の所長だったマイケル・クラークはスカイニュースに、このシンボルはおそらく、部隊の配置に関係していると語っていた。米シンクタンク、ウッドロウ・ウィルソン国際センターのフェロー、カミル・ガレエフは3月6日のツイッターで、Zはロシア語の「Za pobedy(勝利のために)」や「Zapad(西)」を表しているという解釈もあると述べた。ガレエフはそのうえで、解釈にかかわらず、Zは「新しいロシアのイデオロギーと国民意識の象徴」になっており、不吉な含みを持つと続けた。「簡単に言えば、完全なファシストに近づいているということだ」

     

    Zはロシア語の「勝利」とか「西」を表すという解釈もあると言う。だが、「完全なファシストに近づいている」という見方が正しいように思える。ロシアの人々にとって、いずれ「悪」という認識に変わる日も近いであろう。

     

     

    このページのトップヘ