ロシアと中国が、資金決済を伴わない「物々交換」による貿易を早ければ秋にも開始する可能性がある。ロイターが報じた。両国とも、米国が監視する銀行システムの利用を限定的にとどめる狙いだ。
『ロイター』(8月9日付)は、「ロシアと中国、『物々交換』貿易を秋にも開始か=関係筋」と題する記事を掲載した。
ロシアと中国が、資金決済を伴わない「物々交換」による貿易を早ければ秋にも開始する可能性があることが、事情に詳しい関係者3人の話で明らかになった。両国とも、米国が監視する銀行システムの利用を限定的にとどめる狙いがある。
(1)「プーチン大統領が5月に中国を訪問した際、両国貿易を巡る決済の遅れが重大な問題として議論された。対応策として、米国の監視が届きにくい中国の小さな地方銀行を使うといった案が浮上したが、問題の解決には至っていない。物々交換貿易により、両国は決済の問題を回避できる上、両国間の貿易に対する西側当局の監視力を弱め、為替リスクを抑えることができる」
中国とロシアが、物々交換という最も原始的な方法によって、「地下貿易」を始めるという。こうなると、中国からロシアへ何が渡るかが、全く闇の世界になる。ただ、「価格」がないから、中国に買い叩かれることは明らかである、ロシアは、「弱者」の身分になっているので不平を唱える立場でない。長い目で見て、これが中ロのしこりとなろう。
(2)「ロシア政府は物々交換貿易に関する規則の策定を進めている。ロイターが取材したロシア筋は、中国も同様の作業を進めていると想定している。ロシア大手銀行の幹部は、物々交換貿易の計画は準備が整いつつあると話したが、詳しくは説明しなかった。決済に従事している関係者は、ロシアからの食品輸出が協議されていると話した。ロシアの工業筋は、中国から機械を輸入する見返りに、ロシアから金属を輸出する案が企業間で話し合われていると述べた」
ロシアからは中国へ食品や金属が輸出され、中国が機械を輸入するという。中国は現在、異常気象によって中国の「穀倉地帯」である河南省が、大きな打撃を受けている。河南省は中国小麦の3割を生産している。ロシアから物々交換で輸入できれば助かるだろう。国内は,工業製品が過剰生産で在庫の山である。大幅ディスカウントで輸出している。それだけに、ロシアへ圧力をかければ中国の言い分が通る可能性が強まる。
ロシアは、中国と物々交換を始めるほどの窮迫した事態になっている。今後の経済見通しはどうか。IMF(国際通貨基金)と世界銀行は、25年以降に厳しい見通しを発表している。
IMFは7月16日、世界経済見通しを発表した。ロシアの実質GDP成長率について、2024年は3.2%、2025年は1.5%になると予測。前回見通し(24年4月)と比較して、2024年は据え置いたが、2025年は0.3ポイント下方修正した。
世界銀行は6月11日に発表した世界経済見通しの中で、2024年のロシアの実質GDP成長率を2.9%、2025年は1.4%、2026年は1.1%と予測した。軍事関連の需要が引き続き経済を牽引するという「戦争景気」である。だが、これは線香花火であって持続性がない。軍需景気は、再生産効果がなく消耗一方の経済活動である。
IMFと世界銀行に共通している点は、25年の経済成長率がいずれも1.4~1.5%へと急減速することだ。24年までの戦争経済が終わって、25年以降にその負の部分が顕在化する。世界銀行は、ロシアのマクロ・プルーデンス政策や住宅ローン補助金の縮小が民間需要を抑制すると予測している。マクロ・プルーデンス政策とは、金融システム崩壊を防ぐべく採用する「緊縮政策」である。これを採用せざるを得なくなるとみているのだ。率直に言えば、ロシア経済破綻回避という壁にぶつかると判断している。
ロシア経済は25年に、ウクライナ侵略でいよいよ3年目へ入る。経済的に大きな重圧がかかってきたことを証明している。