勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって、間もなく3年目を迎える。ウクライナは、多大な被害を受けながらも、国土を守り抜く強い意志を示している。だが、世論調査ではそういう強い意志をみせる国民は8割を下回っており、「休戦」の二文字がちらつき始めている。

     

    『毎日新聞』(2月15日付)は、「対露戦争3年目を前に疲弊漂うウクライナ 徴兵逃れや関心低下も」と題する記事を掲載した。

    ロシアの侵攻が続くウクライナ。昨年2月以来、1年ぶりに現地入りした記者(鈴木)が感じたのは、人々の間にじわりと広がる疲弊ムードだ。24日で3年目に突入する戦いは終わりが見えない。捕虜への関心低下や、兵員不足の深刻化など重い課題が浮き彫りとなっている。

     

    (1)「前線で戦った兵士のことを忘れるな!」「捕虜を解放させろ!」――。11日、首都キーウ(キエフ)市内の大通りの交差点。冬曇りの下で、ウクライナ内務省傘下の戦闘部隊「アゾフ大隊」の隊員家族ら約200人がプラカードを掲げてデモを行った。アゾフ大隊は開戦当初に、南東部の要衝マリウポリの製鉄所などを拠点としてロシア軍と激戦を繰り広げた部隊だ。製鉄所に立てこもった隊員たちは2022年5月中旬に投降し、ロシアの捕虜となった」

     

    南東部の要衝マリウポリの製鉄所は、激戦地で多数の犠牲者が出た場所だ。多くの兵士が、ロシア軍の捕虜となった。

     

    (2)「デモに参加したカトリーナさん(25)の婚約者の男性(27)は、今もロシアの収容所に捕らわれている。カトリーナさんは昨年6月にテレビ番組のニュース映像でロシアの法廷に姿を現した婚約者を見たというが、それ以降の消息は不明だ。「映像を目にしたときは驚きで息が止まるかと思った。痩せこけていて心配だ」と目に涙を浮かべる。ロシア側との捕虜交換で解放された隊員もいるが、現在でも700人以上が拘束されているとされる。手詰まり状態の戦況に、カトリーナさんは「兵士ではない私が無責任なことは言えない。ただ早く戦争が終わって婚約者が無事に帰ってきてほしい」と声を落とした」

     

    捕虜の解放を待つ身にしてみれば、早い戦争終結を待ちわびている。 

     

    (3)「毎週日曜に続けるこのデモの企画者の一人、ターニャさん(44)は「ウクライナの人々も戦争状態に慣れたり疲れたりしてきている」と指摘する。捕虜の存在にも関心が薄れてきているといい、「彼らは英雄だ。忘れてはならないと訴え続ける」と力を込めた。総動員令が出ているウクライナでは、18~60歳の男性は出国が原則禁止されている。地元メディアによると、侵攻開始後の数カ月間は何万人もの男性がこぞって兵役を志願したが、熱意は次第に低下。前線では兵員不足が深刻化している。ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討中と明かした」

     

    ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討している。18~60歳の男性は、すでに全員が出国禁止されている。そのなかで、50万人を動員できるのか。

     

    (4)「こうした状況の中、徴兵逃れが大きな問題となっている。英公共放送BBCは昨年11月、これまでに約2万人の男性が国外に出国したと報道。また、約2万1000人が出国に失敗してウクライナ当局に拘束されたという。徴兵事務所から数回にわたって兵役を呼びかける手紙を受け取ったという男性(31)は匿名を条件として取材に応じ、「適切な装備も訓練もなく前線に放り込まれるのは絶対にごめんだ」と語気を強めた。軍の徴兵担当者らが街頭で対象者をチェックしている場合があるといい、外出の際には、仲間らとネット交流サービス(SNS)で情報交換をするなど警戒しているという。「強制的に徴兵事務所に連行されるのではないかと恐怖を感じている」と話すこの男性。「2年前は国の未来を守るために兵役を志願する人々がいた。今、私は妻と6歳の長女を守るため、戦場へ行くことを拒否する」と断言した」

     

    戦争忌避する人々もいる。中には、不正手段で出国するという事態も発生している。こういうなかで、ゼレンスキー大統領は今後の展望をどのように描いているのか。戦闘機の導入が本格化すれば、新たな展開も期待できるのであろう。

     

    (5)「ウクライナの世論調査機関「キーウ国際社会学研究所」が23年12月に公表した世論調査によると、「どんな状況の下でも領土を諦めるべきではない」と回答したのは74%。多数派ではあるが、22年5月からの調査で初めて8割を下回った。また、「平和のために領土を諦めてもよい」と答えたのは全体の19%で、昨年5月の10%から9ポイント上昇している。回答者の居住地域別にみると、激戦が続くウクライナ東部では25%が「諦めてもよい」と回答。南部、中央部、西部よりも領土放棄を容認する割合が高くなっている。一方で、「領土を諦めてもよい」と答えた人のうち71%は「西側諸国からの適切な支援があれば(露軍の撃退に)成功できる」と回答。「領土を諦めるべきではない」と答えた人では93%が同様の回答をしている。市民レベルでも、欧米の軍事支援が戦況のカギを握ると強く意識している模様だ」

     

    最終的には、ウクライナ世論が停戦=和平案を決めることだ。その時期は、24年中に来るであろうか。

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    国を挙げての戦争で、国内のもめ事は禁物である。このタブーが、ロシアでは民間軍事会社創始者のプリゴジン氏によって日常的に破られている。プリゴジン氏は、国防相や参謀総長へ侮辱的発言を繰り返しており、本来ならば罰せられるべきだが無罪放免だ。この裏には、プーチン大統領がプリゴジン氏の「後援者」として控えている結果とされる。こうして、ロシアの権力構造にひび割れが起こっていると見られる。この状態で、ウクライナ侵攻作戦は継続できるのか疑問符がつくのだ。

     

    『ウォールストリートジャーナル』(5月25日付)は、「ワグネル恨み深く、プーチン氏の権力構造に亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は520日、制圧したウクライナ東部の都市バフムトの廃虚に立ち、敵視する人物をやり玉に挙げて怒りをぶちまけていた。名指しされたのはロシアのセルゲイ・ショイグ国防相とロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長だ。

     

    (1)「ワグネルとロシア軍幹部の対立激化は、1年余り前のウクライナ侵攻開始以降初めて、ロシアの権力組織内の秩序に生じた大きな亀裂を露呈させた。双方の対立は、シリア内戦に端を発する裏切りの物語とも言える。双方がここ数週間に公然と対立し、軍の作戦にも影響を与えている状況は、戦況の劣勢により、ウラジーミル・プーチン露大統領が過去20年にわたり築き上げてきた強力な権力構造にひずみが生じていることの裏返しでもある」

     

    ワグネルは、ロシア正規軍の敗北をカバーしてきた。それだけに、プリゴジン氏は強気に振る舞っている。誰も彼を咎められないという事態だ。プーチン氏もその一人であろう。すべては、ロシア軍の弱体が原因である。

     

    (2)「自身の立場を脅かす政敵の台頭を警戒するプーチン氏(70)はかねて、部下同士の対抗意識をあえて促してきた。だが、これまで内紛劇が表面化することはなかった。隠すことなく繰り広げられるワグネルと軍幹部のにらみ合いは、こうした従来の慣例を打ち破ったことになる」

     

    プーチン氏は、部下同士の内紛を収めず放置している。それが、プーチン氏にとって最も都合がいいからだ。収めれば、「白黒」をつけるほかない。そうなれば、プーチン氏の身辺に累が及ぶ。成敗を下された側が、プーチン氏を恨んで裏切り行為に及ぶ危険性が高まるからだ。ともかく、武器を持っている相手である。その刃が、プーチン氏に向けられれば

    最後になる。

     

    (3)「プーチン氏の元スピーチライターで、現在は政権に批判的な政治アナリストのアッバス・ガリャモフ氏は「この対立劇をみて、ロシアのエリート層が導き出す主な結論は、プーチン氏がこれらの関係を制御できなくなっているということだ。プーチン氏の立場が弱まっているため、垂直の権力構造が崩れつつある」と述べる。「戦時下では、結束を示すというのが国家の基本任務だ。プーチンはそれを遂行できなくなっている」と指摘する

     

    下線部は、極めて重要である。プーチン氏は、核で威嚇する以外に自らの権力を維持できる基盤がなくなりつつある。追い詰められていることは確かだろう。

     

    (4)「ワグネルによるバフムト制圧は、ロシアにとってここ10ヶ月で最大の成果だ。ロシア正規軍はこの間、ウクライナ南部と東部で大部分の占領地を失っている。プリゴジン氏が重ねて強調している事実だ。プーチン氏自身も、戦況の変化にあわせ、プリゴジン氏に近いとみられる将校の待遇を変えることで、ワグネルと軍幹部双方の間でどっちつかずの立場を維持している」

     

    ウクライナ軍はまだ、ロシアによるバフムト完全制圧を否定している。ワグネルは、制圧したと宣伝して自己の成果にしたいのだろう。

     

    (5)「プリゴジン氏は最近になって、標的とする人物を軍幹部から、プーチン政権関係者にも広げているようだ。このような禁じ手なしの手口は「ロシアから勝利を奪う強力な裏切り者を相手に立ち上がるプリゴジン氏」というイメージを醸成しており、プーチン氏の承諾がなければ不可能だ、と西側当局者や専門家は話している」

     

    プリゴジン氏の大胆な政権幹部批判は、プーチン氏がかなり政治的・軍事的に弱気となっている証拠であるかも知れない。この点は、注目点であろう。

     

    (6)「プリゴジン氏は、ウクライナでの戦闘に加わるよう要請されたのは、2022224日の侵攻開始から3週間後だったと語っている。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)掌握に失敗し、「特別軍事作戦の計画が狂って」からだ。ワグネルは直後に、アフリカに展開していた戦闘員を呼び戻してウクライナ東部ルガンスク州に送り、戦況を好転させた。ロシア軍が昨秋、ウクライナ南部と東部から後退を余儀なくされる中、ロシア側が何とか進軍できていたのは、プリゴジン氏が指揮するバフムト近辺に限られた」

     

    このパラグラフによれば、プーチン氏が始めた戦争を持ちこたえさせているのはプリゴジン氏ということになろう。ならば、プーチン氏はプリゴジン氏へ頭が上がらない関係になる。ロシア軍が弱すぎた結果でもある。それほど、ウクライナ侵攻は無謀な戦争であるのだ。

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    G7広島サミットは21日、ウクライナのゼレンスキー大統領を交えた討議を開き、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの財政や軍事面での支援を「必要な限り提供する」ことで一致した。この席上でゼレンスキー氏は、国際社会の支持を取り付けるために首脳級の「平和サミット」を7月に開催することを提案した。『毎日新聞 電子版』(5月21日付)が報じた。 

    ゼレンスキー氏が、7月に首脳級の「平和サミット」開催を提案したことは、大きな意味を持っている。これから開始する総反攻作戦が、大方のメドをつけるという予想ができるからだ。無論、現実には机上プランのように簡単でないにせよ、西側諸国からさらなる支援を取り付けたことで、必要な武器弾薬の調達メドができたと見られる。

     

    『CNN』(5月20日付)は、「ウクライナ支援『必要な限り』、G7首脳が共同声明」と題する記事を掲載した。 

    主要7カ国(G7)の首脳は20日、共同声明を発表し、ウクライナに対して、ロシアによる不法な侵略戦争に直面する中で必要な限りの支援を行うことで合意した。 

    (1)「具体的には外交、財政、人道、そして軍事面でウクライナへの支援を強化し、ロシア及び同国の戦争を支持する側に一段の代償を支払わせることを約束した。またウクライナに対しては揺るぎない支援を必要な限り行うと確認。広範囲にわたる正当かつ永続的な平和を同国にもたらすとの方針を示した。首脳らはこの他、中国に対してロシアに圧力をかけるよう要求。自軍を即刻ウクライナから完全かつ無条件で撤退させ、侵略を止めるよう迫ることを求めた 

    G7が、一枚岩になってロシアと中国へ圧力を掛けている。中国は、「和平仲介」と称して平和の使徒のような振る舞いをしているが、G7によって逆に利用され「真面目にロシアへ撤退圧力」を掛けさせられる無様な形になった。中国は、ウクライナとポーランドまで「和平特使」を送ったが、今後も仲介話を続けるのか。中国にとって、情勢は不利になった。

     

    (2)「共同声明には、「我々は中国が広範囲にわたる正当かつ永続的な平和を支持するよう促す。そうした平和は領土の一体性及び国連憲章の原則と意義に基づくものであり、その過程にはウクライナとの直接の対話も含まれる」とある。中国はかねて、自分たちを今回の紛争における和平の仲介者に位置づけようとしてきた。しかしこれまでのところ、ロシアに対して軍をウクライナの領土から撤退させるよう求めたことはない」 

    中国の狙いは、中国があたかも「平和仲介」の労を取っているというアッピールをしたいのだろう。宣伝効果狙いである。だが、中国はこういう宣伝をしながら、台湾侵攻を行うとなれば、完全な「ジキルとハイド」を演じることになる。習氏は、こういう矛盾に気づいているだろうか。ウクライナ侵攻への平和仲介は、自らの台湾侵攻を放棄することになるはずである。こういう理屈になることを自覚していなければ、とんだピエロになろう。

     

    (3)「西側の首脳らは、中国の習近平(シーチンピン)国家主席がロシアのプーチン大統領との親密な関係を利用して戦争を終結させるのではないかと期待を寄せるが、専門家らは現時点でそうした結果は考えにくいとの見解を示す。中国政府はロシアとの関係維持によって利益を得ているというのがその理由だ」 

    ロシア軍が大敗するような事態になれば、中国は積極的に「平和仲介」へ動き出すであろう。中国にとってロシアは唯一のパートナーであるからだ。だが、冒頭に掲げたように、ゼレンスキー氏は7月に「平和サミット」開催を提唱している。これは、中国の仲介拒否を意味しているのだ。中国外交の失態になろう。

     

    (4)「今回のG7首脳会議は、開催地の広島にウクライナのゼレンスキー大統領が対面で姿を見せる驚きの展開となった。G7首脳らは、ロシアによる「エネルギーの武器化」といったリスクへの対策を講じる計画も共同声明に盛り込んだ。ロシアに対してはかねて、エネルギーの「武器化」や価格と供給の操作を利用して政治的影響力を強めているとの非難が寄せられていた。とりわけ欧州は、ウクライナでの戦争の開始以降、ロシア産エネルギーの依存からの脱却を模索している」 

    G7は、ロシアに対して「エネルギーの武器化」をさらに無力化させる。原油と天然ガスの売上は、一段と低下しており財政赤字の最大要因になっている。これをさらに、徹底化させるというもの。 

    ゼレンスキー氏のG7出席は、G7の結束をさらに固めている。それは、米国バイデン大統領が19日、欧州で使用されてきた米国製戦闘機F16をウクライナへ供与することを認めたことだ。これに伴い、米国はウクライナ軍パイロットの訓練を欧州と合同で行うとしている。ゼレンスキー氏は、この決定をG7サミットへ向かう途中で聞き、米国の「歴史的な決定」とツイッターで歓迎した。ウクライナ軍が、数ヶ月後にF16を実戦で使用できる段階になると、戦況はがらりと変わるであろう。

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    ウクライナは、反攻作戦について厳重な箝口令を敷いている。だが、ここ1ヶ月間の作戦を見れば、明らかに反攻作戦の前段階であることを示している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月19日付)は、次のように分析する。 

    「これはウクライナ軍による『攻め前の攻め』だ。ウクライナはここにきて、ロシアが戦場で必要とする弾薬など軍装備品の保管庫に照準を合わせ、ピンポイントで攻撃を仕掛けている。計画している大規模な反攻作戦を控え、できる限りロシア軍を弱体化する狙いがある」と分析する。 

    ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島の解放は「確実に起こる」と述べた。また、「われわれはクリミア再統合の準備を進めており、クリミアおよびクリミア半島の港湾都市セバストポリの再統合と脱占領に関する諮問委員会に関する法令に署名した」とも述べた。この段階で、あえてクリミア半島奪還に触れたことは、今後の反攻作戦の目標を示唆し、そのために必要な準備期間を予告しているようでもある。

     

    『CNN』(5月19日付)は、「曖昧さに包まれたウクライナ軍の反転攻勢、これも計画通りか」と題する記事を掲載した。 

    複数の兆候がこの1カ月間で集まった。米軍の高官も先週、CNNの取材に対し、反攻の準備段階に当たる「形成」作戦をウクライナ軍が開始したと述べていた。それでも公式には、ウクライナによる反転攻勢はまだ始まっていない。 

    (1)「米国と北大西洋条約機構(NATO)が、この作戦にどれだけの装備と助言、訓練を提供しているかを考えれば、ここで反攻開始の宣言を遅らせているのは戦術とみるのが妥当だろう。ウクライナ軍の混乱や無秩序の産物でもなければ、比較的雨の多い4月の気候によって地面がぬかるんでいるからでもない。開始の発表は、全面的にゼレンスキー大統領の裁量の範囲内だ。作戦遂行を宣言すれば、時計は直ちに最初の戦果に向けて動き出す。まだ始まっていないと言えば、ロシアがどれだけの損害を被ろうと、それは普段から前線で繰り広げられている消耗戦の攻防によるものでしかなくなる」 

    ロシア軍と戦うウクライナ軍の間には、士気や兵器の面ですでに大きな格差が生まれている。ロシア軍は人海戦術、ウクライナ軍が情報を活用した戦いであるからだ。こうなると、ウクライナ軍が、焦らずじっくりと敵を追込む作戦に出ていることは間違いなさそう。ウクライナ軍が、情報戦で一歩も二歩も優位に立っている。

     

    (2)「過去1カ月、ゼレンスキー氏は不明瞭なコメントを口にしてきた。作戦の「重要な第一歩」が「間もなく起こるだろう」、あるいは「もう少し時間が必要だ」といったその発言は、開始を宣言することがないというウクライナ政府の当初の約束をなぞったものに過ぎなかった。このように事態を曖昧(あいまい)にする目的が、ロシア政府を揺さぶり続けることにあるのは明白だ。ウクライナ軍が新たな攻撃を仕掛けるたび、「それ(反転攻勢)」を遂行しているのか、単にまた探りを入れに来ただけなのか、ロシア側が見極めるのを不可能にする狙いがある」 

    ゼレンスキー大統領の発言は、まさに「焦らし戦法」である。ロシア軍は、そのたびに右往左往させられているに違いない。総反攻作戦を待つロシア軍にとって、一日一日が長いであろう。精神的にも参ってくるはずだ。

     

    (3)「ウクライナ政府はここまで、自分たちの意図や準備を隠すことに成功している。反攻開始に見せかけた可能性のある作戦行動についても、真相をつかませてはいない。ウクライナ軍には忍耐力と、計画を漏らすことなく入念に遂行する能力とが備わっているように見える。片やロシア政府は、自分たちの機能不全を完全に露呈した。このことは向こう数週間で非常に重要な意味を持つだろう。ロシア政府は見たところ悪い知らせの扱いが非常に不得手であり、表にも出し過ぎる」 

    ウクライナ軍が、一糸乱れぬ規律を守っているのに対して、ロシア軍からは内部的混乱の情報が飛び交っている。ロシア軍の内情が暴露されている感じだ。 

    (4)「ロシアが占領によって獲得したこれら3都市の一つを失うことになった場合、それはプーチン大統領にとって、広い意味での戦略的敗北を喫する最初のリスクとなるはずだ。ゼレンスキー氏は勝利を確実視しつつも、西側の供与する優れた装備が迅速に届かなければ、さらに多くのウクライナ人が命を落とすと指摘した。ここまでのウクライナの作戦にとって、この主張は重要だ。ウクライナ人の命は神聖であり、その喪失は疑いなく大きな意味を持つ。一方でウクライナ側はそうした喪失を、敵軍の場合よりも格段に受け入れがたいものとみなしている」 

    ウクライナ軍の総反攻作戦を前に、中国が「和平仲介」を名乗って関係国を回り始めた。ロシア軍不利という前提で動いていることは明らか。中国の本音は、ロシアの大敗を防ぐことにある。ドクターストップを掛けるつもりであろう。

    (5)「弱体化したロシア軍の陣地への全面攻撃は、いつでも可能な状況だ。同軍は兵站(へいたん)、指揮命令系統、士気のいずれも弱まっている公算が大きい。これからの数週間、ロシア軍が混乱に陥り、戦線が間延びし、内部批判が一段と明るみに出るようなら、それによってウクライナ軍は人的損失を低下できるとみられる。ロシア側からの混乱したメッセージが、おそらくは内部分裂を示す稀(まれ)な兆候であるのに対し、ウクライナ側のそれには意志と覚悟が表れている」 

    ゼレンスキー大統領は、クリミア半島奪還まで口にしている。大方の軍事専門家は、クリミア半島まで奪回できると予想していない。「痩せてもロシア軍」である。その存在を軽視してはならぬ、という警告を込めているのだ。この予測が外れたならどうなるか。ロシア国内は、収拾がつかなくなろう。

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    ロシア国防省は16日、ウクライナの首都キーウに展開されている米国製の地対空ミサイルシステム「パトリオット」をミサイル攻撃で破壊したと主張した。ウクライナ側は、ロシア軍が16日未明に発射した、極超音速ミサイル「キンジャル」6発を含むミサイル18発全てを撃墜したと発表した。

     

    ロシア側の発表した「パトリオット破壊」は、一部に損傷が出たこともあり得るということで、詳細について調査中とされる。

     

    『CNN』(5月17日付)は、「米、パトリオット損傷の可能性を評価中 キーウ近郊へのロシアの攻撃で」と題する記事を掲載した。

     

     16日未明のウクライナ首都キーウやその周辺に対するロシア軍の連続ミサイル攻撃で、米製地対空防空システム「パトリオット」が損傷を受けた可能性があることがわかった。米当局者がCNNに明らかにした。パトリオットの破壊は免れたという。

     

    (1)「この当局者によると、米国は損傷の程度を評価中で、修理のためにシステム全体を同国から引き揚げるか、現場でウクライナ軍が修理可能な程度の損傷かを見極める。ロシア国防省は同日、SNS「テレグラム」に「キンジャル極超音速ミサイルシステムによるキーウ市の精密攻撃は米製パトリオット防空ミサイルシステムに当たった」と投稿した。米国家安全保障会議(NSC)の報道官にコメントを求めたが、ウクライナ政府に問い合わせるように促した」

     

    NSC報道官がコメントしなかったことは間接的に、「パトリオット」が損傷を受けている事実を認めた形だ。

     

    (2)「ウクライナの当局者は同日、ロシアが発射した極超音速ミサイル6発をすべて迎撃したと語った。だが、ウクライナ軍はパトリオットシステム攻撃に関するロシア軍の主張にコメントを控えた。ウクライナ空軍司令部のイーナット報道官は、「この件についてはコメントできない。ロシア側のソースに関するコメントはしない」と述べた。ウクライナは現在、米国からの1基、ドイツとオランダから共同で供与された1基、計2基のパトリオット防空システムを保有する。損傷した可能性があるのがどちらのシステムかは不明。だが、一時的にでも運用から外れれば、ロシアのミサイル攻撃が激しさを増す中でキーウの防衛能力に影響を及ぼす可能性がある」

     

    ウクライナには現在、2基のパトリオットが設置されている。米国とドイツからの供与である。このどちらかが損傷を受けている。

     

    (3)「米当局者は先週、ロシアが5月4日夜に極超音速ミサイルでウクライナにあるパトリオットを破壊しようとしたとCNNに明らかにした。その試みは失敗し、逆にウクライナ軍がパトリオットでミサイルを撃墜したという。パトリオットはウクライナが強く要望した防空システムだった。米国はウクライナ軍兵士にシステムの維持や操作を10週間で教え、その習得の早さは西側当局者を驚かせた。パトリオットは先月ウクライナに到着した」

     

    ウクライナ兵士によるシステム兵器への習熟度は、驚くほど早いという。国民性によるものであろう。

     

    (4)「別の米当局者によると、パトリオットの機材の一つが今回のミサイル攻撃で被害を受けた可能性があるという。パトリオットは発電機、レーダー装置、管制装置、アンテナ、発射装置、迎撃ミサイルの六つの機材から構成される。こうした機材が統合して稼働し、ミサイルの発射と目標への誘導が可能になる。だが、機材の一つ以上が大きな損傷を受ければ、大規模修繕のために国外への運搬を余儀なくされる可能性がある」

     

    パトリオットは、6つの機材から構成される。今回の損傷は、どの部分かが不明である。部分的な改修ですめば、ウクライナ国内で行える。そうでなければ、国外搬出によって改修が必要になる。パトリオットが改修を必要となれば、この間に稼働できるパトリオットは1基になる。それだけ、防空体制に負担がかかる。

     

    (5)「パトリオットは、遠距離から向かってくる目標を探知できるよう強力なレーダーを備えており、弾道ミサイルなどを迎撃できる。だが、こうしたレーダーの出力は敵にパトリオットの位置を察知する機会も与えることになる。米国は、ロシアにパトリオットの信号を拾う能力があり、極超音速ミサイル「キンジャル」を使ってパトリオットを狙うことが可能とみている。これまでウクライナに供与された短距離の防空装備は移動式のため標的にされにくかったが、パトリオットのシステムはそれより大規模で一定の位置にとどまるため、ロシア軍が時間をかけてその位置を探ることが可能となる」

     

    パトリオットは、レーダー出力が大きいので敵にその位置を察知さえるリスクがある。今回は、ロシア軍によってパトリオットの位置を割り出されたと見られる。

     

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