勝又壽良のワールドビュー

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    ウクライナ軍は、北東部で迅速な反転攻勢を進め、ロシア軍に占領された全域の解放を目指している。ウクライナのゼレンスキー大統領は演説で、これまでに約8000平方キロメートルが解放され、その全てが北東部のハリコフ地域に集中していると述べた。

     

    今回見せたウクライナ軍の作戦は、ロシア軍をウクライナ南部へ誘導し、手薄となった東部の防御ラインを一気に突破する「奇襲作戦」で、これがまんまと成功したものだ。約3ヶ月掛けて編み出した戦術だという。米軍は、こうしたウクライナ軍の優秀さを再評価しており、ロシアによる侵攻開始直後と打って変わり高い評価を与えている。

     


    ロシア軍は、約3旅団分(約1万の兵士)の武器弾薬を放棄して逃走したという。ロシア軍が、どれだけ慌てていたかが分る。私服に着替え、自転車に乗って逃げたという。中には、森林に逃げ込んだとも言われ、掃討作戦に乗り出している。旧「赤軍」のイメージとかけ離れた不甲斐ない負け方だ。

     

    そこで、米軍はロシア軍に占領された全域の解放後、5年程度を見据えたウクライナ防衛計画の検討に着手した。米国は、中国の台湾侵攻作戦をも見据えており、ウクライナを「モデル・ケース」にするのであろう。

     


    米『CNN』(9月15日付)は、「
    ウクライナ軍を長期支援の検討開始、終戦以降も見据え 米国防総省」と題する記事を掲載した。

     

    米国防総省がウクライナ軍に関する詳細な分析を準備し、同軍をロシアとの軍事衝突の終了以降も含め中長期的に支える方途をまとめていることが15日までにわかった。

    同省当局者の3人が明らかにした。まだ初期段階にあるとする作成作業などは米軍の制服組トップのミリー統合参謀本部議長が仕切っている。

     

    (1)「中長期的な支援の財源は、ロシアによる今年2月の侵攻開始以降、米国がウクライナに供与してきた数十億ドル規模の軍事援助をあてにしている。国防総省高官は、今回の作成作業は「ウクライナ軍の将来の姿を見据えている」とし、軍事支援の側面で道理にかない、中長期的に米国がウクライナに取り組んで欲しい課題に関する重要な問題点への回答を見出すことを狙っているとした」

     

    ウクライナが、ロシア軍と対峙して戦える体制づくりが求められている。これは、ロシアへの経済制裁が長期にわたることを前提にした話だ。ロシアは経済制裁で、技術的出遅れがさらに拡大されるであろう。

     


    (2)「
    中長期との位置づけについては、ロシア軍との軍事衝突が長期化しそうなことを踏まえ、戦争が終わった後の少なくとも5年間を念頭に置いているとした。分析は、ウクライナ側と協力して進めており、バイデン米大統領が承認すれば、将来的に複数年の兵器売却や米国が提供する長期の軍事訓練計画に結実する可能性があるとした。中長期的な軍事支援の道筋がまとまれば、ウクライナ側に示して評価を求めるとした。ただ、ウクライナ軍のあるべき姿と米側が判断した将来像に関する明確なロードマップ(行程表)の提供になるだろうともした」

     

    ロシア軍にとっては、ただならぬ「強敵ウクライナ軍」が現れるかもしれない。ウクライナ侵攻が、プーチン氏の個人プレーなのかどうか。その辺も今後、見定めなければならない。ロシアの受ける経済制裁の損害は、時間が経てば立つほど明らかになろう。

     


    (3)「米国防総省高官は、分析作業が今後1~2カ月でまとまるとの見通しを示した。ただ、ウクライナ側の見解が最終的な骨格にとって最重要との考えも表明。「彼らの戦略や要望は何なのか」を知る必要があると強調。この調整作業は、ウクライナ戦争での戦局の推移や同国軍が得る戦果の度合いをにらみながら今後数カ月間、継続するだろうとも予測した」

     

    ウクライナは、NATO(北大西洋条約機構)軍への加盟が最終的な安全保障となろう。それまでの繋ぎが、必要不可欠である。ロシア軍との戦いで、NATO軍加盟資格は立証済である。

     

    (4)「その上でこれら作業の初期段階での成果は、ウクライナ側の承認次第としながらも兵器供与や訓練提供の勧告につながる可能性があると指摘。最終的に、長期かつ複数年にわたるウクライナに対する兵器提供の契約を通じて、米国と同盟国によるウクライナへの関与が拡大する可能性にも言及した。この種の最初の契約はバイデン大統領が1期目を終える前に実現するかもしれないとした」

     

    下線部分が、ウクライナのNATO軍加盟問題を示唆しているように見える。

     


    (5)「米ホワイトハウスは15日までに、ウクライナに対する新たな軍事援助を近く発表する方針を明らかにした。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が述べたもの。新規援助の内容についての説明は避けたが、ウクライナ軍が必要とする装備品については同国側と同時進行の形で話し合っていると説明。米国が過去数週間あるいは過去2カ月の間にウクライナへ引き渡してきた装備が攻勢を仕掛ける上で役に立ち、その有効性を立証したと指摘。ウクライナの防御面でも、過去数日間あるいは数週間において非常な効果を示したと述べた」

     

    下線部分は、ロシア軍を最終的にウクライナ領土から追い払うことを意味する。クリミア半島への奪回作戦が含められるのだ。プーチン氏は、苦しい選択を迫られる。安易に始めた戦争は、予想外の結末になりそうである。

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    ウクライナ南部戦線は、ウクライナ軍の反攻作戦によって、ロシア軍が守勢に回っていることが明らかになった。ロシア兵の脱走が目立っており、ロシア軍はヘリコプターでこれら兵士を捕捉して、前線へ連れ戻しているという。

     

    米『CNN』(9月10日付)は、「反攻の南部ヘルソンでロシア軍脱走兵が増加、ウクライナ軍」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ウクライナ軍参謀本部は9日、同軍が反転攻勢を進める南部ヘルソン州でロシア軍の脱走兵が増えていると主張した。背景には、ロシア軍が被った相当な規模の損害や戦う意欲の喪失などがあると指摘。「ロシア占領軍のモラルや精神状態は大きく悪化しており、脱走兵の人数も増えている」と続けた。脱走兵の増加を示す特定の証拠には触れなかった。ただ、ロシアが一方的に併合したウクライナ・クリミア半島近くにある町でロシア軍が複数のヘリコプターを動員して脱走兵を探し、戦場への連れ戻しを試みた事例に言及した」

     


    ヘルソン州内を流れるドニプロ川西岸に展開するロシア部隊は、数千人規模とされる。この部隊を孤立させるべく、ウクライナ軍がドニプロ川にかかる橋を攻撃して通行不可能な状態にした。同時に、船で渡河しようとするロシア軍をロケット攻撃し、物資補給を不可能な事態に持込んだ。こうして、ドニプロ川西岸のロシア兵は袋のネズミ状態である。これでは、士気も衰え脱走したくなろう。約束の「戦闘ボーナス」も支払われていないのだ。

     

    米『CNN』(9月10日付)は、「ロシア掌握のヘルソン『年末までの奪還狙う』ウクライナ軍と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ軍は、ロシア軍が掌握する南部ヘルソン州などで踏み切った反転攻勢で、今年年末までに占領地の大半を奪還する大がかりな目標を据えていることが10日までにわかった。

     


    (2)「複数の米政府高官とウクライナ政府当局者がCNNの取材に明らかにした。南部で先週みられた反攻の規模はロシア軍の侵攻開始以降、最も大規模な地上攻撃ともなった。出回った映像の位置情報や衛星画像の分析では、前線から背後に離れた指揮統制の拠点、弾薬庫や燃料貯蔵庫などへの攻撃が継続的に仕掛けられ、米政府高官はロシア軍の補給路の破壊で一定の戦果を収めたと分析した。ドニプロ川西岸に現在配置されているロシア軍への補給遮断や孤立化を狙った戦術とも述べた。米国防総省のライダー報道官は記者団に、ヘルソン州で初めてウクライナ軍による持続的な攻撃が見られ、ある程度の前進を続けていると説明。一部の村落奪回を果たしたことも把握していると述べた」

     

    ウクライナ軍は、ロシア軍がドニプロ川西岸に配置されている部隊へ行なう補給の遮断や孤立を狙っている。これにより、ロシア軍が自軍の不利を悟り、自然に前線を離脱するように仕向けている面もある。ロシア軍が、最後まで戦う姿勢をとらぬよう「誘導」しているのだ。ロシア兵の大量脱走は、ウクライナ軍が「ワナ」へ追込んでいる結果であろう。

     


    3)「ウクライナ政府当局者は、ヘルソン州での攻勢の目的はドニプロ川北部や西部に位置する領土の少なくとも全てを制圧することにあると説明。この地域にはヘルソン市とノバカホウカ市が含まれる。ノバカホウカには重要な水力発電所のほか、ロシアが強制併合したウクライナ・クリミア半島が必要とする給水の多くを満たす運河もある。ウクライナ軍による南部での反攻の範囲は幅が約161キロと広範で、ロシア軍の1カ所における兵力集中を阻止する狙いもある。占領地で親ロシアの当局者を標的にした攻撃や妨害工作も増えている。米政府当局者は年末までにヘルソン州を取り戻すとの目標は野心的すぎる色合いもあるが、反攻作戦で成果を得られ続けるのなら可能性はあるともした」

     

    下線部は重要である。ロシアが現在、占領しているクリミア半島で必要とする給水の多くを満たす運河は、ドニプロ川北部や西部に位置している。ウクライナ軍がヘルソン州全体の奪回を実現できれば、クリミア半島の水源を支配できる。これは、ロシアへ大きな圧力になるだろう。

     


    ウクライナ軍による南部での反攻の範囲は、幅が約161キロと広範である。ロシア軍の1カ所における兵力集中を阻止する狙いもあるとされる。ウクライナ軍が、いかに余裕をもって反攻作戦を仕掛けているか。主導権は、ウクライナ軍が握っている典型的な戦い方であろう。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は8日のビデオ演説で、91日以降の反撃によってロシアから全体で1000平方キロメートル以上の領土を奪還したと表明した。1000平方キロメートルは、琵琶湖の約1.5倍に相当するという。

     

    ウクライナ軍は、これまで主に南部で巻き返しを図ってきたが、ここにきて東部でも攻勢を強めている。

     


    米『CNN』(9月10日付)は、「ロシア、北東部ハルキウ州に増援派遣 ウクライナ軍の進軍受け」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナ北東部ハルキウ州で苦戦する部隊に増援を送っていることが分かった。ウクライナ軍が同州の要衝2都市の郊外に迫るなか、ロシア軍は対応を迫られている。

     

    (4)「ウクライナ軍は今週初め以来、ロシア支配領域の内側に50キロあまり進軍。クピャンスクの西郊に到達したほか、イジュームに向けて南下している。電光石火の進軍を受け、双方が戦略的要衝とみなすクピャンスクとイジュームをめぐる対決が近づいているとみられる。ロシアは現在、クピャンスクを補給用の鉄道拠点として使用。イジュームについては南方のドネツク州内を攻撃するための出撃拠点として用いている」

     

    ウクライナ軍は、南部ヘルソン州への奪回作戦だけでなく、北東部ハルキウ州への攻略作戦も展開している。ロシア軍がこれに驚き増援部隊を送っているという。今やウクライナ軍は、ロシア占領地へ向けた全戦線で奪回作戦を展開していることが明らかになった。

     

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    ロシア軍は、ウクライナ侵攻ですでに死傷した兵士は8万人に達すると米国防省が推計している。ロシアは、こうした甚大な被害を出したことから兵士の10万人増員計画を発表した。だが、現実問題として、この達成目標は困難というのが米英当局の見方である。

     

    米『CNN』(9月3日付)は、「プーチン氏命令の軍増強の達成は無理、米国防総省高官」と題する記事を掲載した。

     

    米国防総省高官は9月3日までに、ロシアのプーチン大統領が最近命令した同国軍の規模拡大に触れ、実現する可能性は少ないとの見方を示した。

     

    (1)「ロシア軍の過去に言及しながら、規模拡大の目標値を達成した事例はないと強調した。プーチン氏は先に、ロシア軍の規模を現行の約190万人から204万人に拡大する大統領令に署名した。この大統領令は、来年1月1日に発効する。米国防総省高官は、新兵を集めるために年齢制限の撤廃や刑務所の受刑者の取り込みなどの措置を講じても、ロシア軍の戦闘能力の向上にはつながらない可能性に言及。これらの新たな新兵募集を打ち出したものの、より高齢で軍務に不適格な人物の採用、不十分な訓練につながった事態に直面したことも考えられると指摘した」

     


    ロシアは、新兵を集めるために年齢制限の撤廃や、刑務所の受刑者の取り込みなどの措置を講じても、ロシア軍の戦闘能力の向上にはつながらない、と突き放した見方だ。かつての栄光ある「赤軍」のソ連軍が、囚人や年齢制限を引上げてまでの募集を掛けているが集まらないのだ。ウクライナ侵攻で、8万人もの「損耗」を出している以上、応募は「死」にゆくようなものだ。いくら厚遇されても生命と引き替えにはできない話だ。

     

    英『BBC』(8月26日付)は、「プーチン氏、ロシア軍増強の大統領令に署名 戦闘要員を約10%増員へ」と題する記事を掲載した。

     

    現在のロシア軍の規模は最大約190万人(軍人100万人強、軍属約90万人)に設定されている。今回の大統領令は、「ロシア連邦軍の規模を203万9758人(うち軍人は115万628人)とする」としている。欧米当局は、半年前にウクライナに侵攻して以降、7~8万人のロシア兵が死傷しているとしている。

     

    (2)「ロシアは高額の報酬を提示し、国中で志願兵を募っている。また、志願兵募集の担当者が各地の刑務所を訪れ、受刑者に釈放と金銭を約束して契約させようとしているとの報告もある。イギリス国防省は2週間前の声明で、ロシアの一部地域に設置された義勇大隊が、新たな軍隊の一部を形成する可能性が高いと指摘した。ただ、「ウクライナでの戦闘に志願する人の量は非常に限られている」ため、必要な数の兵士を見つけるのは難しいだろうとした」

     

    ウクライナ侵攻での死傷者数が多いとの情報が浸透してきた結果か、志願兵の希望は微々たるものという。

     


    (3)「今回の大統領令で志願兵を増やすのか、徴兵制を拡大するのかは不明だ。現在は18歳から27歳のロシア人男性が徴兵の対象となっているが、多くの人は医療上の理由や大学進学を理由に徴兵(通常1年間)を回避あるいは短縮できる。ロシアは当初、徴兵のウクライナ派遣を否定していた。しかし、徴兵が契約書に強制的にサインさせられたり、捕虜になった事例が明るみになり、複数の将校が懲戒処分を受けた。ロシアの法律では徴兵された兵士は戦地に送られる前に4カ月間の訓練を受けることが義務付けられている

     

    ロシアは、18歳から27歳のロシア人男性が徴兵対象だが、医療上の理由や大学進学を理由に徴兵(1年間)を回避・短縮できるという。緩い制度である。徴兵された兵士は、戦地へ送られる前に4ヶ月の訓練期間が必要という。となれば現在、徴兵してもウクライナ前線へ送られるのは来年1月である。急場には間に合わないのだ。

     

    『BBC』(8月29日付)は、「ロシア軍の増員、ウクライナでの戦争で効果なしー英国防省」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月25日、同国の軍人を13万7000人増やし、115万人以上にする大統領令に署名した。これについて英国防省は、増員が志願兵の募集によって実現されるのか、徴兵を増やすことで達成するのか明確ではないと、ウクライナの戦況分析の定期更新で指摘

     

    (4)「兵士の増員によってロシアの戦闘力が高まる可能性は低いとし、その根拠として、ロシアの以下の事情を挙げた。

    1)何万人もの兵士が失われた

    2)徴兵によらない新たな兵士の採用がほとんどない

    3)徴兵された兵士は厳密には、ロシア領外で任務につく必要がない」

     


    前記の3点のうち、2)と3)が重要である。現在、徴兵は事実上ストップしていることだ。これは一時、徴兵事務所で放火事件が起こったので、政府が騒ぎの大きくなることを止めている結果だろう。また、徴兵された兵士は戦地へ送られる前に4ヶ月の訓練を必要とすることになっている。

     

    以上の点を勘案すると、ロシは軍の増員計画は実現不可能になる。せいぜい、イランの無人機を何百機か購入するのが関の山となりそうだ。ロシア軍の苦戦が濃厚である。

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    ウクライナは、ロシアの無差別攻撃によって民間に多大な被害を受けている。「軍事小国」ウクライナにとって、「軍事大国」ロシアを相手にした戦いは、余りにもアンバランスである。この軍事力の差は、ウクライナ国民の団結による「レジスタンス運動」で埋められている。

     

    ウクライナは2014年、クリミア半島をロシアに奪われて以来、米軍の作成した「レジスタンス作戦概念」(2013年)が、民間を巻き込み全土で展開されてきた。これが今、ロシアへの抵抗で大きな力になっているのだ。

     


    この作戦概念は、小国が規模で勝る隣国の侵攻に効果的に抵抗、対抗するための枠組みを提供している。
    ROCとも呼ばれるこのドクトリンは、戦争や総動員防衛の方法に革新をもたらすものだという。こうした新たな手法は、ウクライナ軍の指針となるだけでなく、ロシア軍に対する総力を挙げた抵抗に民間人を組み込むことになった。これが、ウクライナのゼレンスキー大統領支持率を91%に押上げ、高い士気を維持させている理由である。

     

    米『CNN』(9月1日付)は、「ロシアに反撃のウクライナ、米軍開発のレジスタンス戦法を活用」と題する記事を掲載した。

     

    「誰もがウクライナ政府の包括防衛に参加している」。そう語るのは、ドクトリン策定時に米欧州特殊作戦コマンドの司令官を務めていたマーク・シュウォーツ退役中将だ。数や火力、兵力では劣るものの、ウクライナ軍はロシア軍に徹底抗戦している。

     

    (1)「ロシア軍は当初、数日ではないにしても数週間でウクライナの大半を制圧できるものと見込んでいた。それが外れた裏には、ウクライナに秘法があった。「これ(レジスタンス作戦概念)は、第一級線の大国との戦いで形勢を逆転するための手法だ」とシュウォーツ氏。「信じがたい人命の喪失や犠牲を被りながらも、抵抗の意思と決意でこれほどの戦いが可能なのだということを見せられ、ただただ驚嘆している」としている」

     

    米軍作成のレジスタンス作戦概念は、ウクライナ国民が積極的に情報収集などで軍に協力したことにも現れている。

     


    (2)「レジスタンス概念の策定チームを率いたケビン・ストリンガー退役大佐は、クリミア半島のロシア軍陣地で最近相次いだ攻撃や爆発に、そうした手法が使われた形跡が見て取れると話す。「通常の方法では攻撃できないため、特殊部隊の出番になる。こうした部隊がクリミア地域にたどり着くには、情報やリソース、兵たん面でレジスタンスの支援が必要となる」。

     

    民間の情報収集面での協力がなければ、ウクライナ軍がクリミア地域の奥で攻撃を引き起こせないはずだ。

     

    (3)「ウクライナ政府がCNNに共有した報告書では、ロシアの基地や弾薬集積所への攻撃にウクライナが関与していたことを認めている。一連の攻撃は敵の戦線のはるか後方で実施され、米国などからウクライナに公に供与された兵器の射程を越えていた。爆発の動画には、飛来するミサイルやドローン(無人機)は映っていないように見えた。ロシアは破壊工作や弾薬の起爆が爆発の原因になったと主張している。ストリンガー氏は、レジスタンス作戦概念の原則が今まさに実戦で展開されている可能性が高いとの見方を示す」

     

    下線部のように、レジスタンス作戦手法が実戦で成果を上げている。

     


    (4)「戦争初期の段階で、ウクライナ政府は様々な抵抗の方法を説明するウェブサイトを制作していた。このサイトでは、公共イベントのボイコットやストといった非暴力的手段に加え、ユーモアや風刺の活用法も解説。その狙いは親ロシア当局を妨害しつつ、国民にウクライナの主権の正当性を改めて訴えることにある。レジスタンスのドクトリンではさらに、火炎瓶の使用や放火、敵の車両を破壊するためガスタンクに化学物質を混入させるなどの暴力的行動も推奨している。また、戦争をめぐる言説をコントロールし、占領者のメッセージが定着するのを阻止して、国民の団結を維持するため、幅広い情報発信を行うことも要請している」

     

    第二次世界大戦で、フランス国民がドイツ軍に抵抗したレジスタンス運動が、ウクライナで形を変えて行なわれている。

     


    (5)「
    レジスタンスの先頭に立つのは、ウクライナのゼレンスキー大統領その人だ。ゼレンスキー氏は毎晩の演説や国際会合への出席で戦争への関心が薄れないように努めてきた。ゼレンスキー氏による前線付近の視察が、世界中でニュースになる一方、ロシアのプーチン大統領の姿が大統領府やソチのリゾートの外で目撃されることはめったにない。今も続くこうした積極的な情報発信が海外からの支援のうねりを起こし、欧米政府にウクライナへの武器・弾薬の供給を増やすよう求める声が高まった理由だ」

     

    ゼレンスキー大統領は、内外に向けて適宜適切な情報発信が行なわれている。これも、レジスタンス運動の一環である。

     

    (6)「全体として、レジスタンス作戦概念は国のレジリエンス、つまり外からの圧力に抵抗する能力を高め、レジスタンスの計画を立てる枠組みを提供する。ここでのレジスタンスは、被占領地の主権回復に向けた全国家的な取り組みと定義される」

     

    ロシアのプーチン大統領は、高圧姿勢でロシア国民を縛り上げている。ウクライナでは、国を挙げて侵略者への抵抗運動を展開している。この差は、極めて大きいのだ。

    あじさいのたまご


    ロシアのウクライナ侵攻は、開戦後すでに半年経過した。戦線は膠着状態である。ロシアの戦費は、高騰する原油や天然ガスの輸出代金でカバーできるが、経済制裁によるハイテク製品の輸出禁止によって、ロシアの技術進歩が大幅に遅れることが確実になった。ソ連が1979年、アフガン戦争で受けた経済制裁と同じ状況に陥る。これが引き金になって、1991年のソ連崩壊へ進んだのだ。今回の経済制裁によって、ロシアは大規模な戦争を再び起こせないほど、技術的打撃を受けるだろうと指摘されている。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(8月20日付)は、ロシア制裁は長期戦の覚悟を」と題する社説を掲載した。

     

    ウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁によって、ロシア経済はソ連崩壊以降で最大の混乱に見舞われている。だが、西側がプーチン政権の侵略行為に対してできる限り厳しい制裁を科してから半年がたった今も、ロシア経済は大方の予想より持ちこたえている。足元の戦況は、トルコのエルドアン大統領がプーチン氏には交渉による解決の用意があると述べたように、少なくとも膠着状態に陥っているように見えるが、制裁はロシアが戦争を続行する能力をそいではいない。

     

    (1)「ロシア中央銀行は迅速に資本制限と政策金利の大幅利上げを実施し、ルーブル相場を安定させた。ロシア産原油の「ロシア割引」は世界の石油価格が全体的に上昇したことで相殺された。欧州連合(EU)向けの輸出減は中国やインド、トルコ向けの輸出増で補われたため、国際エネルギー機関(IEA)の推計では、7月のロシアの石油生産量は侵攻前に比べて3%弱しか減っていない。ロシア中銀が予測する2022年のGDP縮小率は4〜6%で、壊滅的なレベルではない。国際通貨基金(IMF)も予想縮小率を4月に発表した8.%から6%に引き下げた」

     

    今年に限って見れば、ロシアのウクライナ侵攻の代償は、GDPがマイナス数%程度で済むかも知れない。本格的な影響は、来年以降に出てくる予想である。

     


    (2)「未曽有の暖房費の値上がりに直面する欧州の市民は、ロシア人ほど困窮に慣れておらず、すぐに不満をデモで爆発させる。プーチン氏は、経済的な痛みへの我慢比べをすればロシアは多くの西側諸国よりも強いと考えていてもおかしくはない。だが、それは間違いだろう。そもそも制裁はロシア経済を直ちに崩壊させるものではない。西側の制裁措置は徐々にロシア経済を締め上げており、ロシアが払う代償は今後も累積していく」

     

    短期的に見れば、西側諸国がエネルギー価格の上昇によるインフレで苦しんでいる。だが、来年以降になれば、代替策が効果を見せるはずだ。

     


    (3)「
    西側の民主主義陣営にとっては正念場だ。ロシアのエネルギー収入を減らすためにはさらなる措置が必要だ。また、EUが決めたロシア産石油の禁輸については、ロシアよりも民主主義陣営のほうが大きな痛みを被ることがないように制度を調整する必要がある。市民に直接訴え、支援措置を取ることで、エネルギー価格の上昇に人々が耐えられるように体制を整えるべきだ。中国とインド、トルコに対してはロシアの制裁逃れに加担しないよう説得を強める必要がある」

     

    ロシア産原油価格の上限制が検討されている。これが実現すれば、中国、インド、トルコなどにも「恩恵」が及ぶ形である。

     


    (4)「西側にとって、エネルギーのデカップリング(分断)による痛みは、ロシアに比べると短期で済みそうだ。例えば、EUにはロシア産天然ガスからの脱却に向けた具体的な道筋がすでに見えているが、ロシアが輸出先を中国に切り替えるにはインフラを整備する必要があるため数年かかる。ロシアにとって最も影響が大きいのは西側のエネルギー市場を失うことではなく、西側の技術や電子部品が入ってこなくなることだ。中国製品で完全に代替することはできず、ロシアの製造業や天然資源産業、軍産複合体は大きな打撃を受けるだろう

     

    下線部は、西側の経済制裁によって、ロシアへ技術や電子部品が入らなくなることだ。ウクライナ侵攻直後、ロシア経済界は経済制裁でロシア経済が100年前に戻ると嘆いていた。技術や電子部品の杜絶は、このようにロシア経済を荒廃させるのだ。

     

    ロシア製武器生産は、電子部品の輸入杜絶で大きな影響を受ける。中国は、このロシアから武器を輸入している。中国も武器の入手難に直面するはずだ。

     


    (5)「現在の状況は、1979年のソ連のアフガニスタン侵攻に対してハイテク製品の輸出制限が発動されたときに通じる面がある。この制裁で、ソ連は経済成長が鈍化し、技術の後れも深刻化した。エネルギー価格の低下もあり、80年代末までにロシア経済は深刻な危機に陥った。制裁は、今はまだプーチン政権がウクライナ戦争を続行する能力を損なってはいないかもしれない。だが、制裁の結果、プーチン氏が長期戦を続けることは難しくなっており、将来、今回のような規模の戦争を始めることが難しくなったということは言えるだろう」

     

    ソ連は、アフガン戦争で疲弊した。西側諸国の経済制裁によって、技術と電子部品の輸入が困難になったことも影響した。これが引き金になり、ソ連崩壊という大事件へ発展した。今回の経済制裁も同様の内容である。西側諸国は、ロシアが再び近隣国侵略を不可能にするように、制裁措置を長期に行なうはずである。ロシアは、やがて大誤算をしたことに気付くであろう。

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