勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:EU経済ニュース時報 > EU経済ニュース時評

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    EU(欧州連合)は、12月5日からロシア産原油を輸入禁止にする。これに合わせて、原油価格の高騰を防ぐために、ロシア産原油価格に上限制を決めた。1バレル60ドルにし、価格上限を市場価格より少なくとも5%低く保つことになった。この決定に、G7と豪州が賛成している。

     

    価格が上限を下回っていない限り、海運や保険、再保険会社がロシア産原油の貨物を扱うことを禁止する。主要海運企業や保険会社は、G7各国に拠点を置いているため、価格上限設定によりロシアが原油をより高い価格で販売することは極めて難しくなる。海上保険がつかないロシア産原油の輸送は、リスクが余りにも高くなることから、事実上の輸送禁止になるもの。ロシアにとっては、大きな打撃だ。

     

    『ロイター』(12月3日付)は、「EU、露産原油価格上限で週末にも正式合意 禁輸後の高騰阻止」と題する記事を掲載した。

     

    EU(欧州連合)は2日、ロシア産原油の輸入価格に対する1バレル=60ドルの上限設定で合意した。承認を保留していたポーランドが支持に転換したことを受け、週末にも正式承認される見通し。

     

    (1)「ポーランドのアンジェイ・サドスEU大使は2日、記者団に対し、価格上限を市場価格より少なくとも5%低く保つとの条件が含まれた合意に賛成すると表明した。ポーランドは、ロシアの戦費調達を制限するため上限をより低く抑える調整メカニズムの検討を求め、提案された水準に抵抗感を示していた。価格上限の設定は主要7カ国(G7)の提案で、ロシアの原油収入を減らし、EUが12月5日にロシア産原油禁輸を開始した後の価格高騰を防ぐ狙いがある」

     

    ロシア産原油価格の上限制を最初に提案した米国は、EUの決定を歓迎している。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、記者団に対し「価格上限はプーチン氏が石油市場から利益を得て罪のないウクライナ人を殺し続ける戦争マシンに資金を供給し続ける能力を制限するのに資する」と指摘。1バレル=60ドルでの価格上限は適切な水準で、望ましい効果を及ぼすとした。また価格上限には2つの意図があり、一つはロシアが石油市場から利益を得ることを制限すること、もう一つは需給のバランスに役立つこととした。『ロイター』(12月3日付)が報じた。

     

    (2)「EUの輪番議長国を務めるチェコの報道官は、加盟27カ国全てがこの協定を正式に承認するため書面による手続きを開始したと明らかにした。4日に正式発表される見通し。フォンデアライエン欧州委員長は、上限の設定はロシアの収入を著しく減少させるとの認識を示した。また、市場の動きに対応できるように60ドルの上限の調整は可能とした上で、「世界のエネルギー市場を安定させる」という見通しを示した」

     

    ロシア産原油価格の上限制は、60ドルで固定せず調整が可能になっている。これにより、世界のエネルギー価格は安定するとしている。

     

    (3)「先週のG7の当初提案では、価格上限は1バレル当たり65~70ドルとし、調整メカニズムの設定はなかった。ロシアのウラル原油はすでにこれを下回って取引されていたため、ポーランド、リトアニア、エストニアは上限価格の引き下げを求めていた」

     

    価格の上限を巡っては、ギリシャのように70ドル以上を主張する国もあった。ギリシャは船主が多いので、高価格のほうが運賃も上がるからだ。だが、バルト三国のようにロシアへ強い反感を持つ国々は、60~65ドルを主張。結局、最低ラインに落ち着いた。

     

    (4)「G7の価格上限は、EU域外の国々がロシア産原油の海上輸入を継続することは認めるが、価格が上限を下回っていない限り、海運や保険、再保険会社がロシア産原油の貨物を扱うことを禁止するもの。主要海運企業や保険会社は、G7各国に拠点を置いているため、価格上限設定によりロシアが原油をより高い価格で販売することは極めて難しくなる。米ホワイトハウスは2日、これを歓迎し、ロシアの収入に対する制限につながると引き続き確信しているとした」

     

    原油輸送には、海上保険が不可欠だ。主要保険会社は欧州に存在するので、EUのロシア産原油価格の上限制は、決定的な意味を持つ。EUの決定が、保険会社を拘束するからだ。

     

    (5)「ロシア下院外交委員会のスルツキー委員長は2日、EU(欧州連合)はロシア産石油に価格上限を設定することにより、EU域内のエネルギー安全保障を危険にさらしていると述べた。タス通信が報じた」

     

    ロシアのプーチン大統領とドイツのショルツ首相が12月2日、電話会談した。ロシア大統領府によると、プーチン氏はウクライナに関するドイツなどの西側の対応は「破壊的」だとし再考を求めたという。今回のロシア産原油価格の上限制について触れていないが、「破壊的」という意味にはこれも含まれているであろう。

     

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    EV(電気自動車)は、時代の寵児である。異常気象克服への切り札として、EVが関心を集めている。EVの販売台数では、中国が断トツである。政府が、大気汚染対策として力を入れている結果だ。だが、人口当りの普及率では欧州が中国を抜いている。ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、「脱化石燃料」のエースとしてEVがさらなる関心を集めている。

     

    『ロイター』(10月10日付)は、「中国がリードするEV市場、欧州が逆転する可能性と理由」と題するコラムを掲載した。

     

    世界の電気自動車(EV)市場に目を向けると、購買力という点で中国は圧倒的な存在だ。昨年販売されたEVの2台に1台は中国で買われており、今後何十年も国・地域別のEV販売台数でダントツの首位を守り続けるだろう。しかし、EV市場における他の重要な幾つかの指標、具体的には自動車販売台数全体に占める割合、既存の自動車在庫に対する比率、人口100万人当たりの販売台数といった分野では、欧州が世界の中で大きくリードしている。これはEV産業の動きを包括的に理解しようとする人々にとって、注目に値する状況と言える。

     


    (1)「過去10年間にわたり、中国がEV市場で独占的に脚光を浴び続けてきたのは確かだ。背景には、政府が大胆な脱炭素化と省エネ推進に乗り出し、国内自動車メーカーがEV生産で積極的に優越的な地位を得ようと取り組んだという流れがある。同時に重要なバッテリー製造能力を含めたEV向けサプライチェーン(供給網)の主要部門構築を進めたため、世界のEV市場とりわけ供給サイドで、中国が最も大事な役割を担うという確固たる構図が出来上がった」

     

    中国がEVに特化したのは、ガソリン車(内燃機関)のエンジンづくりで永遠に西側を抜けないという自覚が、強く後を押した。EVで世界一を狙っているのだ。

     


    (2)「自動車需要全体と比べたEV需要の伸びに焦点を当てた場合、今度は欧州の優位がはっきりしてくる。国際エネルギー機関(IEA)によると、北欧諸国では昨年の自動車販売台数の半分以上がEVだった。その理由として、1)気候変動問題に関心が高い一般の人々の所得水準が高い、2)政府の強力なEV購入支援、3)官民一体となった充電施設普及の努力――が挙げられる。ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機で苦境に陥っている欧州では、電力価格高騰を受けて脱化石燃料を加速する取り組みに幅広い支持が集まっており、これから先にEV需要が勢いを増していくと予想される」

     

    欧州は、環境意識の高さで世界一である。EV推進には、こういう環境意識の高さが後押ししている。それが、普及率で中国をはるかに抜いている理由だ。

     


    (3)「欧州のEV需要拡大を後押しするもう1つの要素は、消費者が買うことができる自動車の在庫に占めるEVの割合が、急速に上昇している点だ。IEAのデータによると、販売用自動車在庫におけるEVシェア世界上位10カ国中9カ国は欧州勢。そのうち7カ国はシェアが3%ないしそれ以上となっている。単位人口当たりのEV販売台数の多さが、主にこうした在庫を膨らませる原動力になっている。絶対的なEV販売台数では中国が群を抜いてトップだが、ノルウェーとドイツ、オランダ、英国はいずれも昨年の100万人当たりのEV販売台数が中国を上回った。つまり購入予算を気にする潜在的な買い手でも、いざ買い換えの際に新車だけでなく、中古車でもEVの選択肢が広がっていることを意味する」

     

    欧州の自動車メーカーは、ガソリン車を捨ててEV特化の経営作戦へ転換している。それだけに、供給されるEV車種も多彩化している。消費者が選択し易い状態が生まれている。

     


    (4)「欧州では充電施設の急速な整備進展も、EV需要の追い風だ。IEAによると、2016年から昨年までに欧州全体でEVの充電ステーション数が431%増えて35万6000カ所を超えた。16年以降の伸びは中国の716%や韓国の5197%には及ばないものの、欧州各国が最近、早急にEV関連インフラを一層充実させると約束している以上、今後は充電ステーションがもっと大幅に増加するのは確実だ」

     

    EVの普及には、充電ステーション数を充実することが前提である。欧州各国は、充電ステーションの増加に力を入れて、EV普及率を引上げるテコになる。

     

    (5)「EVの走行距離に不安を持つ人々にとっても、欧州では他の地域よりも多くのプラグインハイブリッド車(PHEV)を購入対象として選べるという利点がある。ドイツと英国、ノルウェーではEV在庫の4割強がPHEV。この比率は中国がわずか21%、世界全体でも32%にとどまる。また、割高で温室効果ガス排出量の多い化石燃料への依存を欧州各国が減らすため、充電ステーションとともにEV購入補助金の拡充も打ち出そうとしている。このため、欧州のEV購買力は今後も高まり続け、どこかのタイミングで中国をしのぐ日が訪れるかもしれない」

     

    PHEVは、充電ステーション不足を克服する有力手段である。こういう努力の甲斐あって、欧州のEV普及率は高まり続ける、というのだ。

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    G7(主要7ヶ国)財務相会議は、ロシアの戦費調達に斬り込むべくロシア産原油価格に上限制を設けることで合意した。1バレル40~60ドル見当が目安にされている。現在の国際価格(WTI)は、87ドル(先物価格)程度。実現すれば、西側諸国にプラスだが、ロシアにとっては大きな圧迫材料になる。EU27ヶ国も共同歩調の見込み。

     

    『ロイター』(9月2日付)は、「G7財務相、ロシア産石油価格の上限設定で合意」と題する記事を掲載した。

     

    主要7カ国(G7)の財務相は2日開催したオンライン会合で、ロシア産石油および石油製品の価格に上限を設定する措置を導入する方針で合意した。

     


    (1)「原油価格の高騰を回避しつつ、ウクライナ侵攻を続けるロシアの戦費調達を阻む。しかし、バレル当たりの価格上限については「技術的インプットの範囲に基づき」今後詰めるとし、重要な詳細は盛り込まれていない。G7財務相は声明で「ロシア産原油および石油製品の海上輸送を可能にするサービスの包括的な禁止を決定し、実施するという共同の政治的意図を確認する」と表明した」

     

    G7は、EUが12月5日に発動する予定のロシア産原油の部分的禁輸措置に合わせて上限価格を導入する計画だ。声明で、制裁内容の変更にはEU加盟国全てが合意する必要があると明記した。ただ、最終的な上限価格のレンジには言及していない。上限価格は、「これを着実に守り実行する各国の幅広い連合によって決定される」とし、「明確かつ透明性ある方法で公に発表される」と説明している。

     

    G7とEU加盟27ヶ国が、ロシア産原油価格上限制に参加すれば、ロシアにとっては大きな圧力だ。米国はインドにも働きかけている。

     


    (2)「価格上限を超えるロシア産石油や石油製品の海上輸送への保険・金融サービスなどの提供は禁止される。声明はまた、「欧州連合(EU)の第6次対ロシア制裁に含まれる関連措置のスケジュールに合わせて実施することを目指す」としている。EUは12月からロシア産石油の禁輸を施行する。米国財務省の高官によると、ロシア産原油については特定のドルの価格上限を設け、石油製品については別の2種類の上限を設ける見通し。価格は必要に応じて見直すという」

     

    この上限制に参加した国々のロシア産原油の輸送には、正規の海上保険契約を認めることにしている。ロシアは、これに対抗して独自に保険機能を付けるとしている。だが、果たして事故が起こった時、保険金支払いができるか疑問視されている。

     

    (3)「議長国ドイツのリントナー財務相は会見で、ロシアの石油価格に上限を設けることで、ロシアの歳入が減少するとともに、インフレが抑制されるとし、「われわれはロシアの収入を制限したい。それと同時にわれわれの経済への打撃を軽減したい」と語った。さらに、G7は上限設定でコンセンサス形成を目指しており、EUの全加盟国が参加することを望んでいるとした。イエレン米財務長官も声明で「世界のエネルギー価格に下押し圧力をかける、ウクライナでの残忍な戦争の財源となるプーチン大統領の収入を断つという2つの目標」達成に役立つという認識を示した」

     

    この上限制に参加することは、一種の踏み絵になる。国連の「ロシア非難決議」では、棄権や反対した国が、原油を安く買えるとなれば、どのように対応するのか。見ものである。

     

    ロシア大統領府のペスコフ報道官はG7の声明を受け、世界の石油市場を不安定化させる措置という見方を示し、上限価格を設定する国への石油販売を停止すると述べた。これは、ロシアとして販売先を失うことになる。痛し痒しであろう。

     


    (4)「G7の高官は、ロシア産石油価格の上限設定を巡り、他国からも参加に向け「前向きなシグナルを受け取っているが、確固としたコミットメントには至っていない」と述べた。同時に「われわれはロシアや中国などに対する結束のシグナルを送りたかった」と述べた。

    ウクライナのゼレンスキー大統領のウステンコ上級経済顧問は、「ロシアの収入を減らすためにまさに必要な措置」とし、G7財務相会合での決定を歓迎。価格上限が4060ドルのレンジになるという見通しを示した。ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ロシアの天然ガス輸出にも上限を設けるべきと訴えた」

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア産天然ガス輸出にも上限価格制を設けるべきと主張している。原油で成功すれば、天然ガスにも適用されよう。

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    ロシアのプーチン大統領は7月8日、ウクライナでの戦争を巡りロシアに対する制裁を継続すれば、世界中の消費者に壊滅的なエネルギー価格の上昇を招くリスクがあると警告した。プーチン氏は、強気の姿勢を見せている。「ロシアに対する制裁は制裁を科した国々にはるかに大きな損害を与える」とし、「さらなる制裁は、世界のエネルギー市場に深刻な、誇張でなく壊滅的な結果をもたらすかもしれない」としたのだ。

     

    このプーチン発言には裏がある。ロシア経済が制裁による影響がじわりじわりと蝕まれているからだ。これから秋にかけて、マイナス影響が強まると観測されている。もう一つ、ロシア産エネルギーの「買い叩き方法」が模索されている。経済制裁に参加していない国は、「二次制裁発動」を盾にして同調させるというものだ。

     


    『日本経済新聞』(7月7日付)は、「ロシア産原油は買いたたける」と題する寄稿を掲載した。筆者は、元欧州復興開発銀行チーフエコノミストのセルゲイ・グリエフ氏である。

     

    ロシアのプーチン大統領は、石油によるドル建ての収入を今すぐ必要にしている。また、多くの人がロシアの予備役を総動員するためウクライナに正式な宣戦布告をすると予想している。プーチン氏は、ウクライナにより多くの派兵を考えているかもしれないが、その余裕はない。果たして、欧州連合(EU)が決めたロシア産石油の禁輸は、プーチン氏の侵攻を徐々に終わりへと近づけられるだろうか。

     

    (1)「ロシアは、近代的な軍装備の多くを失い、欧米の制裁で軍備の補充もできない。装備の不足を補うには、兵力の増派しかない。だが、徴兵制は人気がなく、プーチン氏は金を払うことにした。新兵の報酬は月額3000~5000ドル(約41万~68万円)と伝えられるが、新兵の年齢制限を撤廃するという最近の決定を見ると、ロシアの平均的な地域の平均賃金を1桁上回る報酬を提示しても十分な兵力を確保できないことを露呈している」

     

    ロシアは、ウクライナ侵攻によって兵器と兵士の面で多大の損害を受けている。だが、「宣戦布告」という法的な手続きを踏まないゆえに、国内で強制力を欠いている。その矛楯に苦しんでいる。戦線へ送る兵士の給与を大幅に引上げざるを得なくなったのだ。

     


    (2)「最近、発表されたロシア財務省の予算データは、プーチン氏に増える一方の戦費をまかなう余裕がほとんどないことを示唆している。戦争に高額の費用がかかっていることを示し、4月の財政赤字は2600億ルーブル(約6000億円)以上と、年換算で国内総生産(GDP)の2.%に相当したことが分かる」

     

    4月の財政赤字は、年率換算の対GDP比で2.5%にもなっている。今後、この赤字幅は拡大される。

     

    (3)「世界の原油価格は極めて高い水準にあるが、ロシアは原油の大幅な割引を受け入れ、ここ数週間、ロシア産原油の代表的な油種「ウラル」は、市場価格を3割下回る1バレル70ドルで販売、今年の全体の生産量が1割減少するとみられる。プーチン氏の石油収入への依存を考えると、今後数カ月の間にロシア産原油と石油製品の輸入を禁止するEUの発表は、ロシアの最も痛いところを突いたことになる。ただ、問題は禁輸措置が短期的にはプーチン氏を助けるということだ。禁輸の発表だけで原油価格が跳ね上がった。だからこそ、欧州は禁輸を即時の追加対策で補完すべきで、これには2つの選択肢がある」

     

    下線のように、EUは年内目標でロシア産原油と石油製品の輸入を禁止する。ロシアにとっては痛手だ。現状では、価格高騰が起こっており、こういう問題の到来がもたらす危機を隠している。プーチン氏が、強気になっている背景はこれだ。この強気には「賞味期限」つきである。

     


    (4)「一つは、経済学者のハウスマン氏が提案したロシアの石油輸入に高い関税をかける案だ。ロシア産エネルギーの購入者が支払った金額の一部を補償金としてウクライナに送るか、正式に賠償金が支払われるまで第三者が管理する口座に保管すべきだという。しかし、エネルギーコストの高騰に直面する今、欧州各国に税を導入する意欲はほとんどないだろう」

     

    これから数ヶ月の間、エネルギー価格高騰の余波を防ぐには、二つの方法がある。一つは、このパラグラフにとり上げられた「ロシア産石油輸入に高関税をかける」案だ。だが、現在の高い価格に高関税をかければ、価格はさらに上がって消費者を苦しめる結果になる。現実的でない案だ。

     

    (5)「そこで、イタリアのドラギ首相が提案する「(天然ガスなどの)価格上限制」に注目したい。西側諸国がロシアに支払う価格を引き下げ、高い価格を支払う第三国に二次的制裁を科すというものだ価格上限制は即座に導入でき、例えば1バレル70ドルで実施し、戦争が続く限り毎月約10ドルずつ引き下げる。プーチン氏はこの価格での販売を拒否できるが、すでに中国やインドに大幅な割引価格で販売するほどの窮状を見ると、その可能性は低い」

     

    より現実的なのは、「(天然ガスなどの)価格上限制」である。西側諸国が、ロシアに支払う価格を引き下げ、高い価格を支払う第三国に二次的制裁を科すというものだ。この案は、「二次的制裁」を発動させて、抜け穴を防ぐことにある。この案に、ロシアは強い反応を見せて「絶対拒否」を鮮明にしている。それだけ、痛いところを突かれているのだ。

     


    (6)「ロシアは、おそらく西側の買い手に上限価格で石油とガスの供給を続け、中印などの買い手は制裁の脅威から上限以上を支払わないだろう。そうなれば、エネルギー価格の高騰は緩和され、ロシアの収入は大幅に減少する。すでに欧州のエネルギー企業は、プーチン氏の戦争マシンを支援しないと口では言いながら、ロシアの石油製品を他の製品と組み合わせた「ラトビア・ブレンド」を扱い始めている。これらの行為は価格上限制が導入されれば違反行為になる。EUのロシア産石油の禁輸は、プーチン氏に痛手となると思われるが、すぐに効果が出るわけではない。だからこそ欧州は直ちに価格上限を設定すべきだ」

     

    ロシアは、上限価格制に従わざるを得まい。「二次制裁発動」は、中印にとっても脅威であるからだ。こういう絡め手で、ロシアを経済的に屈服させることだ。

     

     

     

     

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    EU(欧州連合)は、ウクライナ侵攻を早く止めるべく、ロシアからの原油輸入禁止措置を発表している。だが、原油価格の急騰もあって、ロシア貿易にはさほどの影響を与えていないとされている。ロシアの外務省報道官が、EUは原油禁輸で自分の足を撃っている、とまで言い出している。拳を挙げたEUは、メンツ丸つぶれだ。

     

    EUには奥の手が残っていた。タンカーへの保険業務は、欧州企業が一手で握っていることから、ロシア産原油を輸送するタンカーへ保険をつけないという手に出たのだ。

     


    米『CNN』(6月17日付)は、「ロシア、欧州以外への原油輸出もより困難に 運搬船の『保険』禁じた欧州の制裁」と題する記事を掲載した。

     

    EUが最近発表したロシア産原油輸入の9割禁止の措置は、ウクライナ侵攻以降のロシアに対する制裁で最も厳しい内容となった。だが、最近の制裁パッケージの中には、それと同じくらいの重要性を秘めた目立たない項目がある。ロシア産原油の運搬船に対する保険提供の禁止だ。

     

    (1)「ロシアは、毎日数十万バレルの原油の輸出先を欧州からインドや中国など別の買い手に振り向けているが、保険の禁止でそれが難しくなる可能性がある。一方で、こうした措置は世界の原油価格をさらに高騰させるリスクもある。市場調査会社ケプラーのアナリスト、マット・スミス氏は「保険の側面を標的に選ぶのは、ロシア産原油の流れを単に変えるのではなく、止めるために打つ手として最高だ」と語る。EUは実施まで6カ月の移行期間を置いた上で、EU企業がロシア産原油の第三国への輸送に保険を掛けたり、融資したりすることを禁止した。ロンドンの保険会社ロイズは、数世紀にわたり海上保険市場の中心的存在である。」

     


    海上輸送には、海上保険が不可避である。EUは、ロシア産原油の輸出を止めるために、タンカーに海上保険を付けさせない戦術を編み出した。海上輸送で保険がなければ、危険この上ない話になるからだ。

     

    (2)「海上輸送で欧州に輸入されるロシア産原油は、段階的な禁止が始まっている。だが、欧州の顧客は既に、供給の難しさや評判の毀損(きそん)を回避するため、輸入量を減らしている。 ケプラーのデータによると、欧州北西部への輸出量は1月の1日108万バレルから5月には同32万5000バレルにまでに減った。西側の圧力を受けてロシア側も減産し、4月には同国経済省が今年は17%の減産が見込まれると発表した」

     

    ロシア産原油の欧州北西部への輸出量は、1月から5月には3割減である。ロシア経済省は、今年17%の減産見込みである。EUの輸入禁止が、影響しているもの。

     


    (3)「アジア向けの輸出増が、こうした減少の大部分を補っている。中国とインドは大きな割引販売の利益を享受し、1月の1日17万800バレルから5月には同93万8700バレルへと輸入量を急増させた。前述のスミス氏は、侵攻から3カ月が過ぎてもロシアの原油輸出ペースは保たれていると指摘。「彼らは単にルートを変えて、新たな家を見つけただけだ」と話す。

     

    EUへの輸出減は、中国とインドがカバーしている形だ。この増加分を、海上保険の引き受け禁止で抑制したいと狙っている。

     

    (4)「今回の保険禁止は、こうした問題に狙いを定めたものだ。対象となる保険市場には再保険会社のネットワークも含まれ、そうした会社の多くが欧州企業となっている。保険の問題は、石油精製企業や輸入者だけの問題ではない。「無保険や保険不足の船舶は、主要な港や、ボスポラス海峡やスエズ運河といった海上輸送の要衝に入ることが許されない」。ドイツを拠点とするアナリストのセルゲイ・バクレンコ氏は、カーネギー国際平和基金に寄せた投稿でそう記した。 金融機関も、制裁違反に当たる行為を恐れている。万一違反すれば、規制当局から巨額の罰金を受ける可能性がある」

     

    下線のように、無保険や保険不足のタンカーは、海上輸送の要衝に入ることができないルールである。だが、ロシア政府は次のパラグラフで指摘するように、便法を講じるとしている。

     


    (5)「ロンドンのコンサルティング会社エナジー・アスペクツの地政学部門トップ、リチャード・ブロンズ氏は「これは精製企業やロシアの生産者だけが絡む取引ではない。こうした他の全ての関係者が存在する」と指摘する。一方ロシアは、保険の禁止に対抗して、国家保証を付与する方策で回避できると公言している。こうした保証は理論上、従来の保険の代わりに利用できるものとなる。ロイター通信は、国営ロシア国家再保険会社がロシア船舶の主要な再保険会社になると伝えた」

     

    ロシアは、国営ロシア国家再保険会社が、ロシア船舶の主要な再保険会社になる、としている。

     

    (6)「前ロシア大統領で安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは、通信アプリへの投稿で、「この問題は解決できる」「保険の問題は第三国と国際的合意を結ぶフレームワークで、国家保証を通じて終結できる。ロシアは常に責任のある、頼りになるパートナーだ」と述べた。こうした回避策で、ロシアの輸送が完全に断たれる状況にはならなそうだ。前述のブロンズ氏も「(保険禁止は)破壊的なものとなるが、ロシアの全輸出を消し去るものにはならないだろう」と語る」

     

    ロシアは、国営ロシア国家再保険会社が保険引き受けするとしている。

     

    (7)「ロシアの提示する方法が、十分な解決策になると誰もが考えるわけではなさそうだ。特に、厳しい制裁を受けるロシアが、いざ保険金の支払いが必要な場面で本当にその能力があるのかという疑問はつきまとう。ブロンズ氏は「より多くの疑念が出てくるだろう。それが原因で購入を希望する国の範囲は狭まると考えられる」と語った」

     

    来年からロシアへの経済制裁は、その効果が現れてくる。その中で、保険金を支払えない局面が来ないとは限らない。最終的に、ロシアの国際収支状況が、保険金支払いを占う手段になろう。



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