勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:EU経済ニュース時報 > EU経済ニュース時評

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    自動車需要の低迷と中国の競合企業からの激しい競争に苦しめられるなか、欧州の自動車部品メーカーが、過去2年間で10万人以上の人員削減を発表した。2025年に5万人の人員削減を発表した。24年の5万4000人に続く削減で、苦戦する業界で厳しい状況が続く様子を浮き彫りにしている。

     

    日本では、完成車メーカーごとに部品メーカーが系列化されている。これが、品質を高める大きな理由で、輸入部品に代替される可能性も低くしている。欧州は、系列化がなくオープン市場である。ここへ、中国製品が流れ込んでいる。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月13日付)は、「欧州自動車部品業界の人員削減、2年間で10万人を突破」と題する記事を掲載した。

     

    業界団体の欧州自動車部品工業会(CLEPA)のベンジャミン・クリーガー事務局長は、「かなり前代未聞の事態で、過去2年間で10万人以上の人員削減が発表された。出血が止まっていない」と語った。

     

    (1)「新型コロナウイルス禍に見舞われていた20年と21年に、自動車部品メーカーが合計で5万3700人の人員削減を発表したが、欧州の自動車需要はコロナ禍以前のレベルを大幅に下回る水準が続き、新型の電気自動車(EV)への購買意欲も限られている。業界の業績不振から多くの自動車メーカーが欧州大陸全土で生産台数を減らすことになり、部品メーカーに打撃を与えた」

     

    欧州の自動車部品メーカーは、完成車メーカーとの間に系列がないことが、中国部品に食い込まれる状況を生んでいる。

     

    (2)「業界は、欧州市場で自動車販売台数のシェアを伸ばしている中国企業からの激しい競争にも見舞われている。「(業界が直視したがらない)最大の問題は中国だ。中国勢は極端な安値で市場に投入される技術的に優れた自動車を持っている」とクリーガー氏は指摘した」

     

    欧州完成車メーカー自体、中国車メーカーから競争を挑まれているので、欧州部品メーカーにとっては、一段と市場が狭くなっている。

     

    (3)「世界最大の自動車部品メーカーである独ボッシュは25年9月、30年までに人員を1万3000人削減すると表明し、12月に従業員による抗議活動につながった。部品メーカーの仏ヴァレオと仏フォルヴィア、独シェフラーが24年に数千人規模の人員削減計画を発表した、その後25年には、独コンチネンタルの自動車部品部門が分社化したオモビオが追加の人員削減を発表した」

     

    独仏の自動車部品メーカーは、大掛かりな人員整理を行う。

     

    (4)「独シュツットガルトに本社を構える自動車部品大手マーレのアルント・フランツ最高経営責任者(CEO)はFTに対し、業界が大底を打ったのかどうか、あるいは26年も問題に直面し続けるのかどうかは「断言するのが難しい」と話した。同社は11月、主に欧州と北米で人員を1000人削減する対策を発表した。フランツ氏は「25年については、はるかに前向きな期待を抱いていた」と述べ、トランプ米大統領が打ち出した全面的な米国の相互関税が予想より鈍い自動車部品需要につながったと指摘した」

     

    欧州自動車部品メーカーは、業況が底打ちしたか確認できない状況だ。

     

    (5)「そのうえで、業界にかかる圧力によって「今後2年、あるいは3年で再編の波が押し寄せ、生産能力の調整が進む」ことになるとの見方を示した。ヴァレオのクリストフ・ペリヤCEOはさらに率直だ。25年11月に業界は「ダーウィン的な変化」に直面していると警鐘を鳴らし、欧州連合(EU)が中国企業との競争から業界を守らない限り、欧州でさらに多くの雇用が失われると危機感をあらわにした。欧州ではEVの普及ペースが予想より遅かったものの、ガソリン車とディーゼル車からの移行は、内燃機関(エンジン)の生産に重点を置いてきた欧州の部品メーカーへの圧力を着実に強めてきた」

     

    EUが、中国企業との競争から業界を守らない限り、欧州でさらに多くの雇用が失われると悲観的である。

     

    (6)「EUの執行機関である欧州委員会は、重要産業のために「メード・イン・ヨーロッパ」と銘打った保護措置を導入することにより、業界を保護する提案について検討している。使われる部品の一定割合が欧州大陸で生産されることを確実にする仕組みだ。ヴァレオのような部品メーカーは現状を維持するために現地生産比率を約75%とするよう求めたが、そうした提案は、高価な欧州製部品を使うことを強いられた場合に自社の競争力への打撃となることを恐れる自動車メーカーから反対されている。欧州委の対策は1月末に公表される見通しだ。クリーガー氏は、すべての企業がEU域内で生産すれば、欧州企業は中国のライバル企業と競うことができると主張する」

     

    EU委員会は、欧州自動車部品業界を守るために保護する意向を示している。中国の輸出攻勢が、欧州の自動車部品業界を食い荒らすからだ。ただ、完成車メーカーは、コスト高を理由に反対している。

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    日本の軽自動車が、米欧で脚光を浴びている。米国トランプ大統領は、「キュート」として絶賛。EU(欧州連合)では、中国製EVへの対抗車として独自規格の「ECar」を設ける方針を立てた。通常のEVよりも技術要件を緩和することで、欧州車大手の車両コストを下げて普及を促し、中国勢の低価格EVに対抗する狙いだ。EUは、日本の軽自動車規格を参考にしており、日本勢の欧州での販売拡大につながる可能性もある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月8日付)は、「EUが小型EV規格、中国勢念頭に域内生産を保護 日本の『軽』参考に」と題する記事を掲載した。

     

    新分類の名称は「E Car(イーカー)」。EU執行機関の欧州委員会が近く法案を発表し、主要機関の承認をへて、数年内に新制度を始める。車体の大きさや重量、モーター出力に上限を設ける見通し。EU加盟国政府が自動車税控除の仕組みも検討する。

     

    1)「EUは、自動車の必須機能として、運転者の居眠り防止や車線維持システム、緊急停止を知らせる光信号装置の搭載を義務づけてきた。長距離走行を想定した機能が、小型EVにも不可欠なため車両コストの上昇要因となっている。ドイツ自動車研究センターのビアトリクス・カイム氏は「技術仕様の緩和に合わせた低価格部品の採用が広がれば、軽EVの生産コストを大幅に抑制できる」と指摘する。将来的に販売価格が1〜2割下がり、1万5000〜2万ユーロ(約270万〜360万円)となる見通しだ」

     

    欧州では、軽EVの仕様を簡易化すれば、販売価格が1〜2割下がり、1万5000〜2万ユーロ(約270万〜360万円)になるという。これだと、中国EVの低価格路線に対抗可能としている。ただ、BYDは日本で軽EV発売を宣言している。この価格が,どの程度になるか。これによって、おおよその見当がつくであろう。

     

    2)「EUは、中国製EVに対し最大45.%の関税を課している。新分類をつくることで欧州車の価格競争力を高める。小型EVを手掛ける独フォルクスワーゲン(VW)グループや欧州ステランティス、仏ルノーなどの新車開発に恩恵がある。独シュミット・オートモーティブ・リサーチの調査では、欧州市場での中国車シェアが25年79月に7%1年前の2倍に上昇した。そのうちEVに絞れば比亜迪(BYD)がけん引役となり、中国車のシェアが1年で9%から12%に増えた」

     

    BYDは、国内販売不振を輸出でカバーする方針へ転じている。日本での軽EV発売で様子を掴み、EU市場攻略を始めるであろう。

     

    3)「新分類E Carに適用見通しの開発補助金や各国政府の税控除は「域内生産」などを条件とする可能性が高い。中国勢のEU域内の生産拠点はBYDのハンガリー工場などに限られる。日本の軽自動車は、車体サイズや排気量などで規定され、24年の国内新車販売の35%を占めた。EUは、日本の軽自動車分類を「欧州車の参入を阻む非関税障壁」と批判したこともある。こうした姿勢が変わってEUが独自の小型車分類を設定することになる」

     

    軽自動車は、日本の「国民車」とされてきたが、EUでも日の目を見ると一躍、「国際小型車」へ昇格する。

     

    4)「軽自動車を得意とする日本勢にとって、新分類の設定は欧州攻略への戦略を左右する。日産自動車の「サクラ」やホンダの「N-ONE e:」など軽EVの投入に注力している。国内で展開する車両をほぼそのまま輸出できる可能性もある。米国でも都市部での日常使いに適した小型車に注目が集まる。トランプ米大統領は3日、ダフィー米運輸長官に「小さな車」の米国生産を承認するように指示したと明らかにした。長く独自規格で「ガラパゴス製品」と批判されてきた日本の軽自動車が欧米市場に受け入れられる可能性が出てきた」

     

    トランプ米大統領は12月3日、ダフィー米運輸長官に「小さな車」の米国生産を承認するように指示したと明らかにした。トランプ氏は、日本の軽自動車を「キュート」として注目している。日本製の軽トラック中古車は、すでに中国農村部で人気を得ている。小回りの効く点が評価されているという。

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    中国政府は、レアアース(希土類)の主権を宣言して、製品に中国産レアアースが0.1%含まれていても、中国へ報告する義務があると高姿勢をみせている。実施は、来年11月へと延期したが、EU(欧州連合)は中国への不信感を強めている。EUのステファン・セジュルネ欧州委員会上級副委員長(繁栄・産業戦略担当)は、中国の動きを「恐喝」と称して加盟国に対策強化を強く求め行動計画を発表した。

     

    在中国EU商工会議所は12月1日、会員企業の3割が中国以外からの調達増を検討しているとする調査結果を発表した。米中対立で中国政府がレアアースなどの輸出管理を強めており、供給網の脱中国依存を急ぐ欧州企業の実態が浮き彫りとなった。EU企業は、中国への信頼感が急速に低下していることを窺わせている。

     

    『レコードチャイナ』(12月4日付)は、「中国へのレアアース依存低減へ、EUが行動計画を発表―独メディア」と題する記事を掲載した。

     

    独国際放送局『ドイチェ・ヴェレ・中国語版サイト』(12月3日付)は、欧州連合(EU)が中国のレアアースへの依存を低減するための行動計画を策定したと報じた。

     

    (1)「記事は、EUが3日に中国へのレアアース依存を解消するための新たな行動計画を発表したと紹介。その背景には、中国によるレアアース輸出規制の強化があり、中国が4月から特定の輸出に対して許可を義務付け、10月には新たな規制を発表したことを伝えた。また、EUのステファン・セジュルネ欧州委員会上級副委員長(繁栄・産業戦略担当)は、中国の動きを「恐喝」と称して加盟国に対策強化を強く求めたとし、新たな行動計画ではレアアースを含む重要原材料の共同購入をEU主導で促進すること、欧州内での生産とリサイクルを加速させるための措置を講じること、信頼できるパートナー国との連携を深め、サプライチェーンを多角化することが盛り込まれたと紹介している」

     

    在中国EU商工会議所調査によると、中国によるレアアース規制などの輸出管理が実施されれば、62%が「重度」または「中程度」の混乱が生じると回答した。そのうち13%は生産停止や減産に追い込まれるとの懸念を示した。こうなると、企業にとっては死活問題になる。中国のレアアースを求めて進出したEU企業が、レアアースの規制を受けるとは、EUのステファン・セジュルネ欧州委員会上級副委員長でなくとも、「恐喝」と叫びたいであろう。信頼関係を頭から断ち切られた形だ。

     

    (2)「さらに、EUが来週には日本の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)をモデルとし、地域の重要資源供給ハブとしての役割を担う「欧州重要原材料センター」の設立も提案する予定だと伝えた。記事は、在中国EU商工会議所が今週月曜日に発表した調査によると、回答した会員企業の6割が、中国政府による制限措置の結果、サプライチェーンが混乱すると予測し、13%の企業が生産の中断や減速につながることを懸念していると紹介。欧州の鉱業ロビー団体「Euromines」の幹部が、「状況は極めて緊急性が高い。今はスピードが最も重要だ」と語ったことを伝えている」

     

    EUは、日本の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)をモデルとして、「欧州重要原材料センター」の設立を検討している。日本は、2012年に中国からレアアース輸出規制を受けた。この経験でその後、日本はレアアースの在庫を手厚くしている。中国が、今回の高市発言に抗議し中国人の訪日観光自粛令を出す一方、レアアース輸出禁止を躊躇している裏に、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構のレアアース在庫が大きな要因である。

     

    今回のEUの動きは、日本の制度を明確に意識したものである。EUは、「信頼できるパートナー国との連携を深め、サプライチェーンを多角化することが盛り込まれている」。日本との連携を想定しているものであろう。

     

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    台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁を巡り、中国が日本に圧力を加えようと欧州にも外交戦を展開している。中国の王毅外相は27日、フランスのボンヌ大統領外交補佐官との電話協議で高市政権を批判し、フランス側の同調を呼びかけた。現実には、台湾問題を巡る溝は中国と欧州との間でも深まっている。事態が、習近平指導部の思惑通りに進むとは考えにくい。欧州は、G7で日本の「味方」なのだ。

     

    『毎日新聞 電信版』(11月28日付)は、「台湾有事答弁巡り、中国が欧州にも外交戦 現実はあつれき絶えず」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国外務省によると、王氏はフランスのボンヌ大統領外交補佐官との電話協議で「日本の現職指導者は台湾に関して挑発的発言を行い、中国の主権と領土の一体性を侵害した」と主張。フランス側に「第二次世界大戦勝利の成果を共同で守り、互いの核心的利益に関わる問題で互いに支持すべきだ」と述べた。中国側の発表では、ボンヌ氏は「台湾問題での中国の正当な立場を理解する」と表明したという」

     

    外交用語では、「理解」や「尊重」は、「承認」と違って法的意味のない言葉とみなされている。ボンヌ氏は「台湾問題での中国の正当な立場を理解する」と述べた。外交的には法的意味のない言葉を使っている点に注目すべきだ。「聞き及びました」という意味だ。

     

    (2)「仏ルモンド紙によると、フランスは、マクロン大統領が12月3~5日の日程で訪中すると発表しており、今回の電話協議はそのための事前準備とみられる。これから年明けにかけて中国は欧州主要国の首脳を相次いで迎えようとしている。ロイター通信によると、1月にもドイツのメルツ首相が訪中する予定で、英メディアはイギリスのスターマー首相も1月の訪中を調整中と報じた」

     

    王外相は、習国家主席の手前、日本へ強腰を見せている。日本留学経験のある王氏は辛い立場だ。

     

    (3)「米国に対抗するため、中国は欧州との連携強化を望んでおり、トップ外交を重要な機会と位置づける。さらに、王氏とボンヌ氏の電話協議からは、この機に乗じて台湾問題で日本に圧力をかけようとする思惑も浮き彫りになった。しかし、中国側があえて触れようとしない不都合な現実がある。それは欧州諸国との間でも台湾問題を巡るあつれきが絶えないことだ。11月には、台湾の蕭美琴副総統がベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)欧州議会で演説した。台湾の高官が欧州議会で演説したのは初めてという。同じ時期に蔡英文前総統もドイツ・ベルリンでのイベントで民主主義や自由の重要性を訴えた。蔡氏は昨年以降、チェコやデンマークを訪問した。度重なる台湾要人の訪欧に、中国側は神経をとがらせている」

     

    台湾首脳や元首脳は、欧州を相次いで訪問している。EUは、台湾の立場に深い同情を寄せているのだ。それを知ってか知らずか、台湾と日本を非難している。

     

    (4)「欧州が、台湾問題への関心を強めるのは、ウクライナに侵攻するロシアを経済面で支える中国に対し、安全保障上の警戒心が高まっていることが大きい。今年5月には、マクロン氏がシンガポールでのアジア安全保障会議で「ロシアがいかなる制約もなくウクライナ領土の一部を奪うことが許されると考えると、台湾では何が起きるだろうか」と問題提起した」

     

    欧州からみる中国は、ウクライナ侵攻を背後から手助けする国と冷笑されている。自らの矛盾した立場を弁えない王氏は、さしずめピエロ役であろう。

     

    (5)「中国が、意に沿わない国々への「威圧」を常とう手段としていることは、欧州が身をもって経験している。近年、習指導部は、台湾と交流を深めたリトアニアに経済的圧力を加えてきた。過去にはノーベル平和賞を中国の民主活動家、劉暁波氏が受賞したことで、ノルウェー産のサーモン輸入を差し止めたこともあった。欧州では、中国との間でレアアース(希土類)問題を含む貿易摩擦への懸念も深まっている。日中関係筋は、「中国の主張が国際社会に浸透しているとは思えない。中国のやり方に、閉口するような空気も感じられる」と明かした」

     

    EUは心底、中国を「厄介者」扱いしている。ダンピング輸出や威圧で、どれだけ迷惑をかけているか、だ。そういう事実を忘れたような顔をしているのは、なんとももの悲しい話である。

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    EU(欧州連合)が、TPP(環太平洋連携協定)へ接近する構えをみせている。11月29日に予定される、豪州でのTPP参加国閣僚級会合に、EUの通産相であるマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員会上級副委員長が出席することになった。EUが、米中の脅威を念頭にTPP加盟国と通商関係を強化する狙いとされる。

     

    EUのシェフチョビッチ氏は7月会見で「新市場を開拓し、ルールに基づく貿易を促進する」と述べて、TPPとの連携への関心を示していた。まずは、TPPとEUの対話の枠組みを設けて、デジタル貿易のルールづくりなどに共同で取り組む案である。各国が、米国の関税政策に翻弄されるなか、「ルールに基づく自由貿易の機運を維持する」(日本の交渉関係者)狙いが双方にあると指摘されている。

     

    『東洋経済オンライン』(10月27日付)は、「TPP加盟国と連携に舵を切るEUの勝算と落とし穴」と題する記事を掲載した。筆者は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員、土田 陽介 氏である。

     

    アメリカのトランプ大統領は、いわゆるGATT/WTO体制の下で構築された自由貿易の原則を反故にし、独善的な通商政策に邁進する。一方の中国は、重要鉱物、特に希土類元素(レアアース)の輸出制限をテコに、各国に圧力をかける。このような中で、EUは第三軸の形成を目指し、TPP加盟国に接近しているわけである。

     

    (1)「EUのTPPへの接近は、インド太平洋戦略の一環として捉えるべき現象でもある。EUは中国に代わる市場として、そして中国に代わる原材料の調達先としてインドに注目している。その延長線上に、ASEAN(東南アジア諸国連合)や太平洋諸国を位置付ける。そしてEUは、インドとの自由貿易協定(FTA)交渉を加速し、年内の交渉の妥結を目指している」

     

    EUにとってTPPは、連携できる最適の相手である。EUが、対米関係で多くの障害を抱えている以上、TPPがその代替役として浮上してきた。

     

    (2)「世界各国が米中から圧力を受けている。ゆえに「敵の敵は味方」の理屈から、新興国が世界3位の経済圏であるEUと通商関係を深めることは、ある意味で現実的な選択だ。ただし同時に、ほとんどの新興国が世界1位の経済力を持つアメリカと2位の中国との間で巨額の貿易を行っている。EUだけでは米中に代わる存在にはなれない事実がある。ここで問われるのは、EUの本気度にほかならない。具体的には、おのれの価値観を重視する外交姿勢を抑制し、実利的な新興国と渡り合えるかどうかが、TPP加盟、ひいてはASEANや太平洋諸国全般との通商関係の深化を図るうえでのカギを握る。自らが普遍的と定義する価値観の共有を相手に強いる外交姿勢を堅持したままなら事は運ばない」

     

    EUは、価値観が一致している集団である。この価値観は、対外関係でも生かされるのは当然であって、非難の対象にはならない。ただ、EUの原理原則重視の度合いは、どこまで緩めて交渉できるかという現実対応力が求められている。

     

    (3)「グローバルなルールメーカーを志向するEUは、自らが望ましいと定めた方向に各国を誘導しようとする傾向が非常に強い。端的な事例としては、脱炭素化に関する誘導がある。脱炭素化を重視するEUは各国に石炭火力発電の廃絶を訴え、電気自動車(EV)の普及を世界各国に呼び掛けた。特に前者に関しては、新興国の強い反発を招いた。それに、EUは法の支配や基本的人権の順守、民主主義を普遍的な価値観と定めている。言い換えると、これらが順守されない国々に対して、その改善を求めて圧力をかけたり、通商関係そのものを打ちきったりする。EUがそうした姿勢を前面に出すなら結局、EUは孤立するだろう」

     

    EUが、理想を高く掲げていることは、決して非難されるべきことでない。その意味では、TPPが、EUと交渉できる基本的資格を共有している以上、交渉は可能である。

     

    (4)「事実、EUにはかつて、ASEANと地域間FTAを締結しようとして、失敗した過去がある。両者は2007年5月に地域間FTAの交渉を開始したが、2009年12月にEUとASEAN加盟国の二者間のFTAを模索する方針に切り替えた。EUがミャンマーの人権問題に関する取り扱いを問題視したことで、ASEANとの交渉が決裂したためだ。この間にEUとのFTAを発効できたASEAN加盟国は、シンガポールとベトナムだけである。

     

    EUとASEANでは、経済発展レベルが違い過ぎる。ASEANとのFTA交渉が難しかったのは当然であろう。

     

    (5)「TPP加盟国は、一般的な自由貿易の原則を重視するからこそ、相互に関税を撤廃・軽減する。しかし、EUが求める自由貿易の在り方は、EUにとって有利なかたちでの自由貿易である。例えば脱炭素化を例にとれば、電気自動車(EV)の普及とガソリン車やディーゼル車の削減というルールを定め、自らに有利な方向にゲームを導こうとする」

     

    これは、双方の話合いで調整できるであろう。EUの通産相であるマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員会上級副委員長が、TPP会合へ出席することは、相互理解を深める機会となる。日本が、橋渡してEUとTTPの関係密度を高めることが期待されよう。

     

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