勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:EU経済ニュース時報 > EU経済ニュース時評

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    欧米は、中国のEV(電気自動車)に神経を使っている。これまで、自動車は欧米が独占的な強みを発揮してきたが、EV登場でこの構図が狂い始めている。中国が、政府補助金をテコに輸出攻勢を掛けているからだ。

     

    欧州の雇用先は、約6%が自動車産業である。それだけに、中国EVが欧州へ輸出ドライブを掛ければ雇用喪失問題が起ることは確実だ。これによって、社会不安を生んで極右の政治勢力台頭というリスクをはらんでいる。単なる経済問題を超えて政治問題へ発展する危険性が指摘されている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月18日付)は、「中国EV台頭が米欧の保護主義招く」と題する記事を掲載した。

     

    「中国と自由に貿易をしよう。時間は私たちの味方だ」――。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)への加盟を果たす前、当時の米大統領だったブッシュ氏(第43代)は自信を持ってこう発言していた。ところが、それから20年以上が経過した今、時間は中国の味方だったというのが西側の一般的な結論となっている。中国は習近平国家主席の下、むしろ閉鎖性と独裁主義を強めていった。米国に対しても強硬姿勢を鮮明にし、急速な経済成長を糧に軍事力の強化も進めた。

     

    (1)「米政策当局者の中には、中国のWTO加盟を認めたのは間違いだったとする向きもある。彼らは、中国はWTO加盟によって輸出を急拡大させることができたわけで、そのことが米国の産業空洞化に拍車をかけたとみている。そしてそれに伴い米国で格差が拡大したことがトランプ前大統領を登場させる一因につながった、と。この流れを踏まえると、厄介な疑問が浮上してくる。「グローバル化は、中国の民主主義を推進するどころか、米国の民主主義の弱体化をもたらしたのではないか」との見方だ。現状を踏まえれば、笑うに笑えない皮肉と言える」

     

    中国のWTO加盟を認めたのは失敗とする意見が、トランプ政権(当時)から強く出ていた。WTOには罰則規定がないので、中国はこの抜け穴探しを行ってきたという非難だ。

     

    (2)「欧州連合(EU)では、米国が先に保護主義へ傾き、自国の産業に多額の補助金を提供するようになったことに失望する声が多く上がっていた。しかしEUは9月13日、中国製の安価な電気自動車(EV)のEUへの流入を問題視し、中国政府によるEV産業への補助金提供が競争を阻害していないか調査すると表明した。このニュースは、EUも米国と同様の道を歩み始めたことを示している。米国の中国製自動車に対する関税は27.%だが、現時点のEUの同関税は10%と低い。しかし、もしEUが中国は自動車メーカー各社に不当な補助金を支給していると判断すれば、関税は大幅に引き上げられる可能性がある」

     

    中国が、WTO規則を無視する以上、保護貿易で対抗するほかない。これは、トランプ政権の見方であり、バイデン政権も引き継ぎ強化している。米国の中国製自動車に対する関税は27.%である。これによって中国EV輸入を防いでいるのだ。EUも、これに従うであろう。

     

    (3)「EUが、米国の後を追って実際に保護主義に傾くのであれば、それは米国と同じ理由による。つまり、中国のやり方は欧州の産業基盤、ひいてはその社会および政治の安定性をも脅かしつつあるという懸念だ。中でも自動車産業はEU、特にドイツにとって最も重要な産業で、EU経済の中核を成す。しかも自動車は欧州が世界をリードする数少ない産業分野の一つだ。売上高でみた世界4大自動車メーカーのうち、フォルクスワーゲン(VW)、ステランティス、メルセデス・ベンツ・グループの3社は欧州企業だ」

     

    自由貿易は理想型である。中国は、この抜け穴を利用して急成長したという認識が欧米に強いのだ。これは、ロシアのウクライナ侵攻への中国支援によって強くなっている。

     

    (4)「欧州委員会によれば、自動車産業はEUの全雇用者数の6%強を占める。その給与水準は往々にして比較的高く、ドイツなどにとっては自国のアイデンティティーにもなっている。それだけにこうした雇用が中国に奪われることになれば、それは政治的にも社会的にも大きな反発を招くことになる。ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持がすでに拡大しており、世論調査では2位の人気政党となっている。独自動車大手のBMWに代わって中国の自動車大手BYDの車がアウトバーンを走るようになり、国内の自動車業界が不振に陥れば、AfDへの支持がどうなるかは容易に想像できるだろう」

     

    ドイツでは、極右政党が支持率を高めている。ドイツ自動車業界が不振に陥れば、極右政党が跋扈するのは不可避であろう。民主主義を守るためにも、中国EV進出を阻止しなければならない。こういう論調が強くなっているのだ。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-09-18

    メルマガ499号 中国、EUとEV「紛争予兆」 23%の高関税掛けられれば「経済は混乱」

     

     

     

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    EU(欧州連合)のフォンデアライエン欧州委員長は13日、中国製の安価な電気自動車(EV)の流入を問題視し、補助金支援が競争を阻害していないか調査すると発言した。欧州市場で中国製EVのシェアは、すでに昨年の約2倍の8.2%へ上昇している。この裏には、中国政府が税制優遇や工場建設の支援、低利融資、エネルギー料金の上限設定など手厚い支援を与えていることも影響している。EUは、こういう実態を調査して関税引上げを目指している。これに対して、中国政府は早くも警戒しEUを威嚇し「対抗措置もあり得る」としている。

     

    中国EVは、欧州市場で存在感を高めている。独シュミット・オートモーティブ・リサーチの調査では、欧州EV市場の中国車シェアは2019年の0.%から21年には3.%に急伸。23年17月には8.%まで伸ばしている。欧州で実際に販売される中国車のうち9割近くが、上海汽車集団が買収した英国車の老舗ブランド「MG」など表向きは欧州企業名を冠したものという。こうして、欧州ブランド名を利用しており、実態以上に欧州市場で影響力を得ているのだ。こうなると、EUとしても危機感を持って当然であろう。

     

    『ロイター』(9月14日付)は、「中国、EV補助金調査巡り欧州連合を批判ー自国企業守ると主張」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)が中国の電気自動車(EV)に関する補助金の調査を始め、中国が反発している。中国商務省は「強い懸念と不満」を示す声明を発表した。

     

    (1)「EUの行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は13日、「巨額の国家補助金によって価格が人為的に低く抑えられており、われわれの市場をゆがめている」と欧州議会で述べ、調査の開始を発表。「EU域内に起因するこうしたゆがみをわれわれが受け入れることはない。域外によるゆがみも同様だ」と指摘した。事情に詳しい関係者によれば、調査は最長9ヶ月を要する可能性があり、米国が中国のEVにすでに課している27.5%水準に近い関税率が適用され得るという」

     

    EU加盟国からは、安価な中国製が域内で広く流通すれば、欧州の自動車メーカーの利益を損なうと不満が出ていた。複数の欧州メディアによると、フランスが水面下で欧州委に調査開始を強く求めていた模様だ。フランスは外交面で、中国と友好ぶりを演出しているが、内情は複雑である。

     

    (2)「中国商務省は、ウェブサイトに14日掲載した声明で、EUの動きは世界の自動車産業に深刻な混乱をもたらし、中国とEUの関係に悪影響を及ぼすと主張。声明によれば、中国はEUに対しEV産業のために公平で差別のない予測可能な市場環境を生み出すため対話を行うよう求めるとともに、EUによる今後の行動を注視し、中国企業の権利と利益を断固として守るという」

     

    米国は、中国EVへ27.5%水準に近い関税率を科している。EUでも、これと同水準が適用されると中国EVへ大きな影響が出る。

     

    中国EVは、EUで二つの価格帯で販売されている。浙江吉利控股集団が子会社のボルボ・カー(スウェーデン)と立ち上げたポールスターのように、欧州市場での販売価格が8万9900ユーロ(約1400万円)を超える超高級EVがある一方、3万ユーロ(約467万円)以下の相対的に安価なEVが中国製全体の7割を占める。欧州車大手の同型車と比べても中国製EVは割安だといい、欧州自動車工業会(ACEA)のジグリッド・デ・フリース事務局長は「中国車メーカーが公的資金と政府の意向に支えられ、欧州や他地域の市場で攻勢をかけているのは周知の事実だ」と危機感をあらわす。以上、『日本経済新聞 電子版』(9月13日付)が報じた。

     

    (3)「中国全国乗用車市場情報連合会(乗連会)の崔東樹秘書長は、「中国の新エネルギー車(NEV)輸出が好調なのは、国家から多額の補助金を受けているからではなく、自国の産業チェーンが持つ競争力が高いからだ」と反論。「EUは、中国EU産業の発展を客観的に見るべきであり、恣意的に一方的な経済・貿易手段を用いて」成長を妨げるべきではないとコメントした。中国共産党系の新聞、環球時報は論評で、欧州は明らかに「中国との競争を恐れているためゆっくりと電動化に向かう欧州の自動車メーカーを保護する傘として、貿易保護主義を求めようとしている。EUによって不公正な措置が取られた場合、中国には自国企業の法的利益を守る対抗措置として行使し得るさまざな手段がある」と論じた。

     

    今年6月、欧州議会が承認した欧州電池規制には、電池の製造時CO2排出量の報告義務化が盛り込まれている。火力発電に依存する中国製EVに対し、欧州製EVはライフサイクルアセスメント(LCA)で優位に立っている。EUは、脱炭素を大義に中国EVにグリーン関税を課すことができるという。

     

    ライフサイクルアセスメント(LCA)とは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取原料生産製品生産流通・消費廃棄・リサイクル)、またはその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法である。「環境のEU」らしい対応であるから、中国EVの泣き所を突く手段は、すでに持っているのだ。こうなると、中国がEUに圧力をかけることは難しくなろう。

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    一部の海外メディアは、中国のEV(電気自動車)が低価格を武器に欧州市場を席巻するのでないかと派手に報じてきた。現実は、決してそんな甘いものでなく、高い壁にぶつかっている。中国からの高い輸送コストと弱いブランド力である。知名度が、極めて低いのだ。

     

    欧州は、自動車の母国である。米国は、大量生産で「自動車王国」を築いたが、乗り心地という「質」では断然、欧州メーカーが勝っているとされる。その欧州へ、新興・中国EVが進出しても、消費者の高いプライドに跳ね返されるというデータが出てきた。

     

    『ロイター』(8月22日付)は、「中国EVメーカー、欧州で費用増とブランド力の壁に直面」と題する記事を掲載した。

     

    中国の電気自動車(EV)メーカー各社は、国内で外国勢に対する優位を確立した勢いを駆って欧州市場に進出しつつある。だが、そこで新たな試練に直面している。比亜迪(BYD)や上海蔚来汽車(NIO)、上海汽車(SAIC)傘下のMGモーターなどに突きつけられているのは、欧州市場における重い輸入コストへの対応や、中国製品は低品質との固定観念をいかに払拭できるかといった課題の克服だ。

     

    (1)「滑り出しは前途洋々だった。欧州で今年これまでに販売されたEV新車のうち、中国ブランドの比率は8%で、22年の6%や2021年の4%から着実に高まっていることが、自動車コンサルティングのイノベブのデータで分かる。また、アリアンツの調査によると、2025年までには少なくとも新たに11種類の中国製EVが欧州に投入される。これには西側メーカーも動揺を隠せず、ステランティスのカルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)は先月、欧州に安価な中国のEVが「侵攻」してきたと警鐘を鳴らした」

     

    中国EV輸出の出足はよかったが、欧州側も対抗して新製品を発売して防戦した。

     

    (2)「欧米各社も反撃の構えを見せ、続々と新たなEVを投入するとともに、コストや価格の引き下げを計画している。つまり中国勢は全力を振り絞っての競争を強いられるだろう。中国汽車工業協会(CAAM)の陳士華副秘書長は先週、このままでは中国メーカーの事業拡張計画があまりにも厚みを欠いたものになりかねないと指摘。「各メーカーにとって、グローバル展開は円滑には行かない。リスクに注意を払わなければならず、現状では手を広げすぎで、はっきりした重点を置かずに全ての地域に乗り込もうとしているのではないか」と苦言を呈した

     

    中国EVは、欧州進出を安易に考えており、すでに行き詰まりを見せている。

     

    (3)「中国勢の最大の強みは価格にある。中国における昨年前半のEV平均販売価格は3万2000ユーロ(3万5000ドル)弱で、欧州の約5万6000ユーロよりずっと安い。だが、欧州において中国ブランドが、本国と同じ価格を設定するのは難しくなりそうだ。吉利汽車のEVブランド「Zeeker(ジーカー)」の欧州最高経営責任者(CEO)を務めるスピロス・フォティノス氏は、物流や売上税、輸入関税、欧州独自の認証基準達成といった要素が全てコスト増につながると解説する。

     

    中国EV平均販売価格は、昨年前半で3万2000ユーロ(約509万円)。欧州が約5万6000ユーロ(約890万円)で、ざっと40%安である。だが、物流や売上税、輸入関税、欧州独自の認証基準達成などのコスト増がかかる。結果的には、中国優位と言えなくなる。

     

    (4)「中国ブランドでもMGなどは有名だが、NIOや小鵬汽車(Xpeng)などは、まず消費者の信頼感を得るところから始めなければならない。さまざまな調査によると、欧州の潜在的なEV購入者の大半は中国ブランドを知らないし、知っている人たちも購入には消極的だ。これは日本や韓国のメーカーが何十年もかかった信頼獲得と欧州独自の嗜好性への適応という苦難の道のりを思い起こさせる。

     

    下線部のように、中国ブランド力の弱さに加え、知っていても購入には消極的という根本的な障害が立ちはだかっている。

     

    (5)「ユーガブが昨年、ドイツの消費者1629人を対象に実施した調査では、テスラに次ぐ欧州EV市場シェアを誇るBYDでさえ、認知率はわずか14%にとどまった。NIOの名前を聞いたことがあると答えたのは17%、Xpengの認知率は8%だった。テスラの認知率は95%で、その10%が次に買う車として検討していると回答。一方、中国ブランドを知っているとした人のうち、購入を考えていたのは1%かそれ未満だったという

     

    米テスラの認知度は95%で、購入可能性はそのうち10%。つまり、9.5%は潜在購入率である。中国ブランドの認知度は8~17%で、購入可能性は1%である。最大限に見積もって0.17%の潜在購入率にすぎない。気の遠くなるような話だ。これでは、中国EVは前途遼遠である。 

     


     

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    中国は、10月中旬に開催予定の一帯一路イベントで、出席者の顔ぶれが5年前とがらりと変わる見通しだ。ロシアのプーチン大統領が出席するので、顔を合わせたくないというのが理由の一つ。もう一つ、EU(欧州連合)が一帯一路事業に対抗するインフラ投資戦略「グローバル・ゲートウエー」(3330億ドル)を推進するためだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月31日付)は、「欧州が避ける中国『一帯一路』イベント」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルス流行に伴う隔離状態の3年間を経て、中国の習近平国家主席は自身が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」の盛大なイベントを計画している。

     

    (1)「招待に対する返事は、必ずしも続々と届いているわけではない。特に欧州諸国は、中国との関係が悪化する中、この「一帯一路フォーラム」への参加を見送る構えだ。中国政府は、世界の貿易や輸送インフラをつなぐ一帯一路のネットワークに欧州が参画することを期待していた。しかし、欧州の指導者たちは中国に対する経済的依存度を高めることへの警戒感を米国と共有し、逃げ腰になっている。出席の意向を表明している1人の著名な招待客――ロシアのウラジーミル・プーチン大統領――が、欧州の指導者たちを一段と遠ざけている。欧州首脳の多くは、ロシアのウクライナ侵攻開始以降、中国がロシアを支持していることを理由に、中国に対する姿勢を硬化させた」

     

    ロシアのウクライナ侵攻が、中国の世界の地位を引下げている。中国が、ロシア支持を続けているからだ。中ロは、ますます密接な関係を築いており、西側との壁を高くする反作用を招いている。

     

    (2)「一部専門家の推計によると、中国は一帯一路構想で、欧州やアフリカ、中南米とアジアを結ぶ鉄道・道路・パイプライン・港湾のプロジェクト1兆ドル(約141兆円)の資金を振り向けることを計画していた。中国が次々と多数の途上国を新たなメンバーに迎え、イタリアやギリシャ、チェコなど、米国と近い関係にある富裕国を取り込んだのは、つい5年前のことだった。この結果、一帯一路構想で出資を受けた欧州の港湾や鉄道にモノが届くようになった。だが欧州は今、中国が経済面で域内にもたらす影響力を軽減しようとしており、多くの国々はプロジェクトから距離を置き始めている」

     

    中国は、欧州まで貨物鉄道列車を走らせていることから、5年前は欧州との関係が密接であった。欧州は現在、中国の影響力拡大を警戒している。距離を置こうとしているのだ。

     

    (3)「フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのオラフ・ショルツ首相は、今年の一帯一路フォーラムへの出席を予定していない。両国の政府高官が明らかにした。先進7カ国(G7)で唯一、一帯一路構想に参加したイタリアのジョルジャ・メローニ首相にも、その予定はない。同首相のスケジュールを調整する人物が明らかにした。歴史的に中立な立場を取っているスイスは、過去2回のフォーラムに大統領を派遣したが、外務省の報道担当者によると、今年のフォーラムに参加するかどうかは検討中だという。2018年に一帯一路構想に参加したギリシャは既に、同国首相が出席しないことを中国政府に伝えている。2015年に同構想に参加したチェコは大統領も政府高官も派遣しない見込みだと、政府報道担当者は語った。ギリシャ、チェコ両国が一帯一路構想への協力を約束した後、習氏はそれぞれ3日間の日程で両国を公式訪問していた」

     

    このパラグラフは、ほとんどの欧州首脳が一帯一路イベントへ参加しないことを表明している。プーチン氏の出席が確実である以上、顔を合わせたくないのが本音である。にこやかに握手すれば、どんな悪評を被るか分らないからだ。

     

    (4)「一帯一路フォーラムは2017年に初めて開催され、今回が3回目、コロナ禍後では初となる。今年のフォーラムは習氏の経済外交の柱である同構想の魅力を試す場となるため、中国の外交官らは、招待者リストを埋め、同国の世界的影響力を印象付けようとしている。「過去数年間、欧州の国々は先入観なしに(一帯一路構想に)対応していた」と調査会社ロジウム・グループで欧州と中国を専門とするノア・バーキン氏は指摘する。そうした状況は変化し、一帯一路は概して「中国の影響力を国外へ拡大するための手段」と見なされているという」

     

    中国の戦狼外交が、欧州各国の警戒心を高めている。イベント参加者が減っているのは、自業自得の面が強い。

     

    (5)「これまでのところ欧州の反応がさえないのは、習氏の外交的野心にとって世界情勢がより困難なものになっていることを示している。かつて欧州諸国は気まぐれで一帯一路に参加していたようなものだったが、現在はそれに対抗している。欧州諸国の政府は10月下旬、一帯一路に競合する独自のフォーラムにアフリカ、中南米、アジア(中国は除く)からビジネスリーダーや政府高官、首脳を招待する。EUが3330億ドルを投じるインフラ投資戦略「グローバル・ゲートウエー」を推進するためだ」

     

    中国は、一帯一路で影響力を強めようとしたが「不発」に終わった。その意図を見抜かれたことだ。欧州には欧州のプライドがる。「新興国」中国に、出し抜かれてたまるか、という意地があるのだろう。

     

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    世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7月27日、7月の世界の平均気温が観測史上で最高となる見通しだと発表した。国連のグテレス事務総長は、これを受け「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」と強調した。熱波や洪水、山火事などにつながる「異常気象がニューノーマル(新常態)になってしまっている」と警告したもの。 

    この記事は、先に本欄で取り上げた次の記事と関連している。

    2023-07-28

    世界、「異常に暑い!」一過性と思ってませんか、大西洋水温5度も上昇 異常気象定着「前

     

    この異常気象事態を分析した研究論文が、科学誌『ネイチャー』で発表される。北大西洋からの海流が、早ければ2025年以降に止まるという衝撃的内容である。人類の生存に関わる重大な問題が起ることになった。
     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月26日付)は、「北大西洋の海流『想定より早く停止』 研究者が論文」と題する記事を掲載した。 

    気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの新たな科学論文で明らかになった。この研究によると、熱帯から暖かい海水を北方へと運ぶ「ベルトコンベヤー」のような役割をしている海流「大西洋子午面循環(AMOC)」が、2025年から95年のどこかのタイミングで止まる見通しで、最も確率が高いのは50年代という。気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの科学論文で明らかになった。 

    (1)「デンマークのコペンハーゲン大学のピーター・ディトレフセン教授とスサンネ・ディトレフセン教授は最も高い確率で起る予測としており、英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。一方、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、AMOCが今世紀中に停止する公算は小さいとの見方を表明している。IPCCの予測から逸脱することに引き続き慎重な科学者もいる。米南部フロリダ州沖から欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流を含むAMOCが失われれば、北半球の気温が著しく低下する。これに伴い、欧州は冬の嵐に見舞われやすくなり、夏の降雨量が減る。逆に南方では、大気の熱が温帯や寒帯へと運ばれないために気温がさらに上昇し、熱帯降雨やモンスーン(雨期)に大きな変化をもたらす

     

    ヨーロッパが、あれだけ北に位置するにもかかわらず、暖かい海流によって漁業などが盛んなのは、AMOCと呼ばれる海流循環の結果である。その流れが、止まるというショッキングな内容だ。AMOCは、大西洋循環システムの一つである。大西洋循環システムは、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。その大西洋循環システムの一部が、今世紀中に停止するとなれが人類の生存に関わる。想像もできない事態になる。 

    (2)「こうした事態は、温暖化の脅威にさらされている地球にとって「決定的な転換点」の一つとなり、ひとたび起これば取り返しがつかないと懸念されている。ピーター・ディトレフセン氏は「決定的な転換点がこれほど早く訪れると見込まれ、そのタイミングが来ないように抑制していけるのが向こう70年間であるということに驚いた」と述べた。同氏はIPCCのモデルについて「保守的すぎる」との認識を示し、足元で不安定な状況が増えているという早期警告サインを看過していると指摘した」 

    科学者は、AMOCがいずれ起りかねないことを認めている。その発生する時期が、いつかという問題だけである。となれば、二酸化炭素削除は緊急不可避の課題となる。 

    (3)「欧州の主要な気候科学者の一人である独ポツダム大学のシュテファン・ラームシュトルフ教授(海洋物理学)は、海流パターンの顕著な変化を示す研究が世界各地で相次いでいると話す。「今回の分析結果は、AMOCの決定的な転換点が従来の想定よりずっと早く訪れる可能性を示す近年のいくつかの研究とも一致する。証拠が積み上がりつつあり、警鐘を発しているように思われる」と指摘する。この問題を世界の第一線で研究する一人である英エクセター大学のティム・レントン教授(気候科学)は、ディトレフセン氏らの研究が「データに直接基づいて気候の決定的な転換点を早期に警告する方法に重要な改善をもたらした」とみる。「転換点を越えた時点で、AMOCを取り戻すことはできなくなる」とレントン氏は語り、「(AMOCの)崩壊とその影響の広がりには時間がかかるが、どれだけ長くかかるかは不透明だ」と続けた」 

    AMOCをいかに防ぐか。世界は、緊急会議を開くべきテーマである。

     

    (4)「地質学的には、最終氷期(最盛期は約2万年前)に大西洋の海流が10〜20年間で劇的に変化した証拠が示されている。しかし一部の気候モデルでは、21世紀の環境においてAMOCが完全に停止するまでに1世紀ほどかかるだろうと予測されている。ただし、AMOCが部分的に機能しなくなるだけでも、地球温暖化による打撃は深刻化する公算が大きい。他にも海洋に見られる地球温暖化の兆候として、北半球の温帯における海面水温の異常な高さが挙げられる。カナダ東海岸沖では平均水温が最大でセ氏5度上回った。同時に、南極では冬季の海氷面積が観測史上最も小さくなっている。これらの現象はAMOCの変化と直接の関連はない」 

    下線部は、AMOCの変化と直接の関連はないという。米南部フロリダ州沖から、欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流へ集中的に現れる現象と理解すべきなのだろう。

     

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