EU(欧州連合)は、ウクライナ侵攻を早く止めるべく、ロシアからの原油輸入禁止措置を発表している。だが、原油価格の急騰もあって、ロシア貿易にはさほどの影響を与えていないとされている。ロシアの外務省報道官が、EUは原油禁輸で自分の足を撃っている、とまで言い出している。拳を挙げたEUは、メンツ丸つぶれだ。
EUには奥の手が残っていた。タンカーへの保険業務は、欧州企業が一手で握っていることから、ロシア産原油を輸送するタンカーへ保険をつけないという手に出たのだ。
米『CNN』(6月17日付)は、「ロシア、欧州以外への原油輸出もより困難に 運搬船の『保険』禁じた欧州の制裁」と題する記事を掲載した。
EUが最近発表したロシア産原油輸入の9割禁止の措置は、ウクライナ侵攻以降のロシアに対する制裁で最も厳しい内容となった。だが、最近の制裁パッケージの中には、それと同じくらいの重要性を秘めた目立たない項目がある。ロシア産原油の運搬船に対する保険提供の禁止だ。
(1)「ロシアは、毎日数十万バレルの原油の輸出先を欧州からインドや中国など別の買い手に振り向けているが、保険の禁止でそれが難しくなる可能性がある。一方で、こうした措置は世界の原油価格をさらに高騰させるリスクもある。市場調査会社ケプラーのアナリスト、マット・スミス氏は「保険の側面を標的に選ぶのは、ロシア産原油の流れを単に変えるのではなく、止めるために打つ手として最高だ」と語る。EUは実施まで6カ月の移行期間を置いた上で、EU企業がロシア産原油の第三国への輸送に保険を掛けたり、融資したりすることを禁止した。ロンドンの保険会社ロイズは、数世紀にわたり海上保険市場の中心的存在である。」
海上輸送には、海上保険が不可避である。EUは、ロシア産原油の輸出を止めるために、タンカーに海上保険を付けさせない戦術を編み出した。海上輸送で保険がなければ、危険この上ない話になるからだ。
(2)「海上輸送で欧州に輸入されるロシア産原油は、段階的な禁止が始まっている。だが、欧州の顧客は既に、供給の難しさや評判の毀損(きそん)を回避するため、輸入量を減らしている。
ケプラーのデータによると、欧州北西部への輸出量は1月の1日108万バレルから5月には同32万5000バレルにまでに減った。西側の圧力を受けてロシア側も減産し、4月には同国経済省が今年は17%の減産が見込まれると発表した」
ロシア産原油の欧州北西部への輸出量は、1月から5月には3割減である。ロシア経済省は、今年17%の減産見込みである。EUの輸入禁止が、影響しているもの。
(3)「アジア向けの輸出増が、こうした減少の大部分を補っている。中国とインドは大きな割引販売の利益を享受し、1月の1日17万800バレルから5月には同93万8700バレルへと輸入量を急増させた。前述のスミス氏は、侵攻から3カ月が過ぎてもロシアの原油輸出ペースは保たれていると指摘。「彼らは単にルートを変えて、新たな家を見つけただけだ」と話す。
EUへの輸出減は、中国とインドがカバーしている形だ。この増加分を、海上保険の引き受け禁止で抑制したいと狙っている。
(4)「今回の保険禁止は、こうした問題に狙いを定めたものだ。対象となる保険市場には再保険会社のネットワークも含まれ、そうした会社の多くが欧州企業となっている。保険の問題は、石油精製企業や輸入者だけの問題ではない。「無保険や保険不足の船舶は、主要な港や、ボスポラス海峡やスエズ運河といった海上輸送の要衝に入ることが許されない」。ドイツを拠点とするアナリストのセルゲイ・バクレンコ氏は、カーネギー国際平和基金に寄せた投稿でそう記した。
金融機関も、制裁違反に当たる行為を恐れている。万一違反すれば、規制当局から巨額の罰金を受ける可能性がある」
下線のように、無保険や保険不足のタンカーは、海上輸送の要衝に入ることができないルールである。だが、ロシア政府は次のパラグラフで指摘するように、便法を講じるとしている。
(5)「ロンドンのコンサルティング会社エナジー・アスペクツの地政学部門トップ、リチャード・ブロンズ氏は「これは精製企業やロシアの生産者だけが絡む取引ではない。こうした他の全ての関係者が存在する」と指摘する。一方ロシアは、保険の禁止に対抗して、国家保証を付与する方策で回避できると公言している。こうした保証は理論上、従来の保険の代わりに利用できるものとなる。ロイター通信は、国営ロシア国家再保険会社がロシア船舶の主要な再保険会社になると伝えた」
ロシアは、国営ロシア国家再保険会社が、ロシア船舶の主要な再保険会社になる、としている。
(6)「前ロシア大統領で安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは、通信アプリへの投稿で、「この問題は解決できる」「保険の問題は第三国と国際的合意を結ぶフレームワークで、国家保証を通じて終結できる。ロシアは常に責任のある、頼りになるパートナーだ」と述べた。こうした回避策で、ロシアの輸送が完全に断たれる状況にはならなそうだ。前述のブロンズ氏も「(保険禁止は)破壊的なものとなるが、ロシアの全輸出を消し去るものにはならないだろう」と語る」
ロシアは、国営ロシア国家再保険会社が保険引き受けするとしている。
(7)「ロシアの提示する方法が、十分な解決策になると誰もが考えるわけではなさそうだ。特に、厳しい制裁を受けるロシアが、いざ保険金の支払いが必要な場面で本当にその能力があるのかという疑問はつきまとう。ブロンズ氏は「より多くの疑念が出てくるだろう。それが原因で購入を希望する国の範囲は狭まると考えられる」と語った」
来年からロシアへの経済制裁は、その効果が現れてくる。その中で、保険金を支払えない局面が来ないとは限らない。最終的に、ロシアの国際収支状況が、保険金支払いを占う手段になろう。