勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:EU経済ニュース時報 > EU経済ニュース時評

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    ロシアは、自国へ経済制裁を科している「非友好国」に対して、天然ガスの輸入代金をルーブルで支払うように求めた。西側諸国には、ルーブルを手当しなくてはならない手間とコストが掛かるので「難題」を突付けられた形である。輸入契約では、支払いがドルかユーロとなっている。ロシアが敢えて、ルーブルでの支払いを要求するのは、明らかな契約違反になるのだ。

     

    ロシアは先に、ドル建て国債のクーポンをルーブルで支払うと威嚇した。だが、そうなれば「デフォルト」(債務不履行)になると脅され結局、ドルでの支払いなった。これと同様で、エネルギー代金のルーブル支払い要求は、「対外的ポーズ」であろうと指摘されている。

     


    『ロイター』(3月25日付)は、「ガス代金のルーブル決済要求、ロシアの狙いと現実味」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は23日、同国がウクライナ侵攻に絡んで指定した「非友好国」に輸出する天然ガスについて、代金をルーブルで支払うよう近く求める考えを示した。これにより欧州でガスの需給ひっ迫が起きるのではないかとの警戒感が強まっている。

     

    (1)「ガスの買い手側は、ロシアや同国の幅広い企業が欧米から経済制裁を受けている点を踏まえ、どうすればルーブルでの支払いが可能か必死に手掛かりを求めている。多くの専門家からは、ルーブル決済は契約違反に当たるのではないかとの声も聞かれる。ロシア経済は、欧米の制裁で大打撃を受けている。ただ、ロシア産の石油とガスに依存している欧州連合(EU)は、エネルギー輸入をまだ制裁対象に含めていない。コンサルティング会社のライスタッド・エナジーによると、現在はほぼ全てのロシア産ガス購入契約がユーロ建てないしドル建てで決済されている」

     


    ルーブル決済は、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、急落してきたルーブル相場の押し上げ要因になると見られる。実際、プーチン氏の発言だけで、ルーブルの対ドル相場は9%も反発した。一般的には、プーチン氏の「ルーブル払い」発言は、ルーブル相場のテコ入れ目的と理解されている。

     

    (2)「欧州は、ガス需要の約40%をロシアから輸入しており、年初からの支払額は1日当たり2億~8億ユーロに上る。市場では各国がルーブルで決済するつもりか、あるいは本当にできるのか懸念が広がり、欧州天然ガス価格の指標となる「オランダTTF」は高騰している。ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は、ルーブル決済要求について「プーチン氏が(EUと米国の)同盟分断を狙って打った一手だ」と評し、欧州諸国が要求に応じれば「制裁の足並みは大きく乱れる」とツイッターに記した」

     

    策略家のプーチン氏である。この「ルーブル払い」要求は、政治的な目的があるはず。西側諸国の足並みの乱れを誘う目的と指摘されている。

     


    (3)「複数の買い手は、契約で決済通貨変更が認められていないので、今後もユーロで支払い続けると話している。何人かの法律専門家の見解に基づくと、ロシアが一方的に契約条項を変えることは、まず不可能だ。シドニー工科大学の公共政策ガバナンス研究所でチーフエコノミストを務めるティム・ハーコート氏は、「契約は買い手と売り手の双方で成り立ち、ドル建てかユーロ建てが普通。だから、どちらかが一方的に『違う。これ(ルーブル)で払うのだ』と言ってしまうと、契約は存在しなくなる」と説明した」

     

    プーチン氏は、契約の存在を無視したことを言っている。だから、支払い側は契約通りでドルかユーロで支払えば済むことだ。

     

    (4)「もう1つ厄介な問題は、西側の銀行がロシア資産取引に消極的な点にある。INGバンクは「たとえ買い手がルーブルで支払おうとしても、多くのロシアの銀行に制裁が発動されている以上、かなり難しいことが分かるのではないか」と指摘。ロシアがルーブル決裁にこだわった場合、期間など契約の他の条項も再交渉できる余地が生まれるとの見方を示した」

     

    西側の銀行は、経済制裁へ抵触しないようにルーブルに関わることに消極的という。ロシアが、ルーブル払いに固執すれば、契約の見直しになる。商取引とは、そういうものであら。

     

    (5)「外国為替取引を専門とするある銀行幹部によると、制裁はあくまで部分的なので、ルーブル決裁は技術的に可能だ。西側の買い手がユーロないしドルを取引銀行に支払い、その銀行がロシアの銀行に送金するとともに「ガスプロムに対してルーブルで払って」と頼めばよいというもっとも欧州の買い手が市場でルーブルを調達できるほどの規模で、ロシア中銀がルーブルを供給できるかは、まだ分からない」

     

    下線のように、通常の送金手続きで済むという。ただ一言、「相手にルーブルで払って」と言えばOKというのだ。

     

    (6)外国為替取引を専門とするある銀行幹部は、ドル建てロシア国債の返済を引き合いに出す。ロシア政府はドルではなくルーブルでの支払いをちらつかせたが、同幹部によると、いざデフォルト(債務不履行)の可能性が迫ると、結局はドルで返済資金をねん出した。ルーブル決済を振りかざすのは「対外的なポーズ」という側面が強いという」

     

    ロシアが、経済制裁でドル資金不足に悩んでいるときに、「ルーブル払い」を要求すること自体、「対外的ポーズ」の臭いがする。過剰な心配は要らない、という結論になりそうだ。

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    西側諸国にとって、ロシアはすでに「憎しみ」の対象である。主要7カ国(G7)は3月11日に出した共同声明で、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへ、新たな経済制裁を科すと表明した。ロシアからの輸入品に大幅に高い関税を課すほか、高級品の対ロ輸出も禁じる。

     

    欧州連合(EU)と英国は15日、G7の共同声明に基づき、ウクライナに侵攻したロシアへの追加制裁を発表した。世界貿易機関(WTO)のルールに基づく「最恵国待遇」からロシアを除外する。米国に追随し、ロシアへの経済面での締め付けを一段と強めるもの。EUは、格付け機関にロシアの政府と企業を格付けするのを禁止する。ロシア政府や企業が、EUの金融市場に一段とアクセスしにくくする目的だ。

     


    ロシア株式市場は現在、閉鎖されたままである。株価の暴落を回避すべく、ウクライナ侵攻が落ち着くまで閉鎖状況が続くのであろう。ロシア経済は、すでに半身不随状態へ追い込まれている。そこへ、今回のEU・英国のよる追加経済制裁である。ロシア経済は、窒息状態へ追い込まれる。

     

    ロシアのG7向けの輸出高は、対GDP比(21年)で5.9%も占めている。中国向けの同3.7%を上回る。このG7向け輸出が落込むことは、ロシア経済にとって死活的問題である。しかも、対ロシア制裁は短期間に終わるものではない。ロシアに政変が起こって、プーチン氏復活の可能性がないことや、民主政治へ100%変革したという確証が掴めぬ限り、経済制裁は続くと見るほかない。ロシアは、「コペルニクス的転回」が求められるのである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(3月15日付)は、「EU・英、ロシアに追加制裁 『最恵国待遇』から除外」と題する記事を掲載した。

     

    G7の共同声明は、「主要製品でロシアに『最恵国待遇』を与えない措置を講じるよう努める」と記してある。各国・地域は世界貿易機関(WTO)ルールに基づき、ロシア製品に他国と同じ低い関税を課してきた。今回、最恵国待遇を取り消せば、35%も高い関税がかけられる。

     

    (1)「ロシアの鉄鋼製品をEUに輸入するのも禁じる。欧州委員会はこの分野のロシアの輸出による収入約33億ユーロ(約4300億円)が失われるとみている。EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表は声明で「制裁の目的はプーチン大統領の非人間的で無意味な戦争をやめることだ」と主張した。英国もロシアからの数百種類の輸入品の関税を大幅に引き上げる。最恵国待遇から外すことで制裁の対象となるロシアからの輸入品に35%の関税が上乗せされる。対象は鉄鋼や銅、アルミニウムといった原材料のほかウオッカや飲料、魚介類など食品も含む。声明で「国際秩序を尊重しない者が、WTOからの利益を享受できないようにする措置だ」とロシアを非難した」

     

    EUは、ロシアからの鉄鋼製品の輸入を禁止した。これにより、ロシア鉄鋼業は年間輸出高4300億円の市場を失う。ロシアからのエネルギー輸入は、従来通りである。EUにとっては、命綱であるからだ。プーチン氏も「契約を守る」と殊勝な発言をしている。ロシアにとっては貴重な外貨収入源であるから、双方が「手付けず」の聖域である。ただ、EU委員長は、2027年までにロシア産エネルギー輸入をゼロにする目標を発表している。

     

    ロシア産天然ガスは、EUが全体の71.9%(2020年)も輸入している。これが、27年までにゼロとなれば、ロシア経済は成り立たなくなる。天然ガス・石油が、輸出高に占める比率は40%台前半にもなっている。これだけの高いウエイトを占めているエネルギーが,EU向けでゼロになれば、ロシアはどうなるか。想像しただけでも鳥肌が立つであろう。

     


    (2)「EU、英ともに高級品をロシアに輸出することも禁止する。英は今後詳細を発表するが高級自動車や宝飾品、美術品などが対象となる見通しだ。ロシアのプーチン大統領を支えるオリガルヒ(新興財閥)など富裕層に打撃を与える狙いがある。主要7カ国(G7)は11日の共同声明で「ロシアに最恵国待遇を与えない措置を講じるよう努める」と宣言した。EU、英の15日の発表は、これに対応したものだ。EU、英ともこれまでにロシア金融機関の資産凍結やオリガルヒを標的とした制裁を実施している」

     

    ロシア経済の弱点は、諸費財の4割を輸入に頼っている状況だ。ロシアは、国内で満足に消費財の生産もできない国である。それにも関わらず、「ロシア帝国再興」と大きな夢を持ちだして、今回のウクライナ侵略を始めた。極端に資源依存経済であり、これからの「脱炭素」経済では、確実に世界で落後する体質である。プーチン氏は、この経済構造大転換期に、侵略戦争にうつつをぬかしているのだ。

     

     

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