勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:EU経済ニュース時報 > EU経済ニュース時評

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    EU(欧州連合)が、TPP(環太平洋連携協定)へ接近する構えをみせている。11月29日に予定される、豪州でのTPP参加国閣僚級会合に、EUの通産相であるマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員会上級副委員長が出席することになった。EUが、米中の脅威を念頭にTPP加盟国と通商関係を強化する狙いとされる。

     

    EUのシェフチョビッチ氏は7月会見で「新市場を開拓し、ルールに基づく貿易を促進する」と述べて、TPPとの連携への関心を示していた。まずは、TPPとEUの対話の枠組みを設けて、デジタル貿易のルールづくりなどに共同で取り組む案である。各国が、米国の関税政策に翻弄されるなか、「ルールに基づく自由貿易の機運を維持する」(日本の交渉関係者)狙いが双方にあると指摘されている。

     

    『東洋経済オンライン』(10月27日付)は、「TPP加盟国と連携に舵を切るEUの勝算と落とし穴」と題する記事を掲載した。筆者は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員、土田 陽介 氏である。

     

    アメリカのトランプ大統領は、いわゆるGATT/WTO体制の下で構築された自由貿易の原則を反故にし、独善的な通商政策に邁進する。一方の中国は、重要鉱物、特に希土類元素(レアアース)の輸出制限をテコに、各国に圧力をかける。このような中で、EUは第三軸の形成を目指し、TPP加盟国に接近しているわけである。

     

    (1)「EUのTPPへの接近は、インド太平洋戦略の一環として捉えるべき現象でもある。EUは中国に代わる市場として、そして中国に代わる原材料の調達先としてインドに注目している。その延長線上に、ASEAN(東南アジア諸国連合)や太平洋諸国を位置付ける。そしてEUは、インドとの自由貿易協定(FTA)交渉を加速し、年内の交渉の妥結を目指している」

     

    EUにとってTPPは、連携できる最適の相手である。EUが、対米関係で多くの障害を抱えている以上、TPPがその代替役として浮上してきた。

     

    (2)「世界各国が米中から圧力を受けている。ゆえに「敵の敵は味方」の理屈から、新興国が世界3位の経済圏であるEUと通商関係を深めることは、ある意味で現実的な選択だ。ただし同時に、ほとんどの新興国が世界1位の経済力を持つアメリカと2位の中国との間で巨額の貿易を行っている。EUだけでは米中に代わる存在にはなれない事実がある。ここで問われるのは、EUの本気度にほかならない。具体的には、おのれの価値観を重視する外交姿勢を抑制し、実利的な新興国と渡り合えるかどうかが、TPP加盟、ひいてはASEANや太平洋諸国全般との通商関係の深化を図るうえでのカギを握る。自らが普遍的と定義する価値観の共有を相手に強いる外交姿勢を堅持したままなら事は運ばない」

     

    EUは、価値観が一致している集団である。この価値観は、対外関係でも生かされるのは当然であって、非難の対象にはならない。ただ、EUの原理原則重視の度合いは、どこまで緩めて交渉できるかという現実対応力が求められている。

     

    (3)「グローバルなルールメーカーを志向するEUは、自らが望ましいと定めた方向に各国を誘導しようとする傾向が非常に強い。端的な事例としては、脱炭素化に関する誘導がある。脱炭素化を重視するEUは各国に石炭火力発電の廃絶を訴え、電気自動車(EV)の普及を世界各国に呼び掛けた。特に前者に関しては、新興国の強い反発を招いた。それに、EUは法の支配や基本的人権の順守、民主主義を普遍的な価値観と定めている。言い換えると、これらが順守されない国々に対して、その改善を求めて圧力をかけたり、通商関係そのものを打ちきったりする。EUがそうした姿勢を前面に出すなら結局、EUは孤立するだろう」

     

    EUが、理想を高く掲げていることは、決して非難されるべきことでない。その意味では、TPPが、EUと交渉できる基本的資格を共有している以上、交渉は可能である。

     

    (4)「事実、EUにはかつて、ASEANと地域間FTAを締結しようとして、失敗した過去がある。両者は2007年5月に地域間FTAの交渉を開始したが、2009年12月にEUとASEAN加盟国の二者間のFTAを模索する方針に切り替えた。EUがミャンマーの人権問題に関する取り扱いを問題視したことで、ASEANとの交渉が決裂したためだ。この間にEUとのFTAを発効できたASEAN加盟国は、シンガポールとベトナムだけである。

     

    EUとASEANでは、経済発展レベルが違い過ぎる。ASEANとのFTA交渉が難しかったのは当然であろう。

     

    (5)「TPP加盟国は、一般的な自由貿易の原則を重視するからこそ、相互に関税を撤廃・軽減する。しかし、EUが求める自由貿易の在り方は、EUにとって有利なかたちでの自由貿易である。例えば脱炭素化を例にとれば、電気自動車(EV)の普及とガソリン車やディーゼル車の削減というルールを定め、自らに有利な方向にゲームを導こうとする」

     

    これは、双方の話合いで調整できるであろう。EUの通産相であるマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員会上級副委員長が、TPP会合へ出席することは、相互理解を深める機会となる。日本が、橋渡してEUとTTPの関係密度を高めることが期待されよう。

     

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    経営的に余裕を持つトヨタ自動車は、世界的のEVメーカーが萎縮している時期を捉え、欧州で初のEV(電気自動車)の生産へ乗り出す。チェコで年産10万台規模、28年からの生産計画だ。

     

    トランプ米大統領が、輸入自動車に15%の追加関税を課すなど、世界経済がブロック化に向かう中、グローバル企業が供給網の分散に動き出す。トヨタは現在、世界で5車種の自社開発EVを販売している。これまでは、日本と中国でのみ生産していたが、生産拠点を5カ国に拡充することで為替や関税リスクを回避する。輸送のリードタイムが短くなるため、より早く顧客に車両を届けられるようにもなる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月29日付)は、「トヨタがチェコでEV生産、欧州初 2028年にも年10万台規模」と題する記事を掲載した。

     

    トヨタ自動車が、2028年にも欧州で電気自動車(EV)の生産を始めることが29日、わかった。チェコの子会社で年間10万台規模を生産する見込みで、欧州では初の現地生産となる。環境規制が進む欧州では新車販売の15%程度をEVが占めている。足元ではEV需要が低迷する中でも将来の普及を見据えて生産体制を拡充する構えだ。

     

    (1)「多目的スポーツ車(SUV)の生産を始めるとみられる。トヨタは、26年までに欧州で新型車を含めEV14車種を投入する方針を明らかにしている。新しく投入する車種にはSUV「C-HR+(プラス)」やトヨタ初の量産EVの新型「bZ4X」などが含まれる」

     

    C-HR+は、最大で約600kmの航続距離とされる。bZ4Xについては、最大航続距離が約567kmである。トヨタは、性能面で競争力を強化するため、充電効率やバッテリーのプレコンディショニング(急速充電を最適化する技術)を導入している。また、デザインや信頼性、長年の技術への信頼も競争力の一部と捉えている。欧州市場は、航続距離だけでなく、充電時間や利便性、ブランド力が選ばれる要素とされている。

     

    (2)「足下のEVへ需要は、伸び悩んでいる。24年の欧州域内主要31カ国のEV販売は23年比で1%減の199万台で、新車販売に占めるEV比率は23年の15.%から15.4%に下がった。もっとも、2%を下回る日本に比べると一定程度普及している。欧州連合(EU)では、35年に合成燃料を除くエンジン車の新車販売を原則禁止する方針を掲げている。再生可能エネルギー由来の合成燃料を利用したエンジン車は継続販売可能なものの、こうした長期的な環境対応にも備える観点からも現地生産を進めることが最適と判断したようだ」

     

    24年の欧州EV需要は、約200万台である。トヨタは、ここへ年産10万台で参入する。浸透している「トヨタ・ブランド」をバックに、「EVトヨタ」を売り込む。

     

    (3)「トヨタは、欧州で35年に二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を達成する目標を掲げている。トヨタのEV販売は全体でも2%弱にとどまっており、これから生産・販売両面ともに拡充する必要がある」

     

    トヨタは、EVのほかに商用での水素自動車や水素電池の普及に取組んでいる。こうして、トヨタの水素戦略は欧州で大きな注目を浴びています。特に商用車分野への普及を加速させる取り組みが際立っている。トヨタは、水素充填ステーションのインフラ拡大に注力しており、フランスのHRSやENGIEと協力して欧州全域に水素ステーションネットワークを展開する契約を締結した。

     

    大型商用車用の次世代燃料電池システムも開発中で、短時間の水素充填で長距離走行が可能になる技術を搭載している。環境負荷を削減しつつ、商用モビリティの持続可能性を実現する戦略だ。こういうトヨタの総合的戦略は、欧州で高い評価となって結実している。EV販売でも、この企業イメージがプラスとなろう。

     

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    ドイツ連邦議会(下院)は18日、防衛およびインフラ支出に向け何千億ユーロもの借り入れを可能にする法案を採決した。これにより、財政拡大政策への大転換が始まる。ドイツが欧州防衛の要になることを確実にするともに、インフラ投資によって国内経済立直しへ向けてテコ入れする。

    ドイツは、過剰貯蓄国であるにもかかわらず、憲法で財政赤字比率をGDPの0.35%に規制してきた。これが、ドイツ経済の活力を奪うという矛盾に陥っていた。それが、ようやく改善されることになった。ドイツが、その国力に応じた経済運営と欧州防衛の核として立ち上がることは、ロシアへの牽制として重要な一歩になる。もはや、欧州は眠れる集団でなくなる。


    『ブルームバーグ』(3月18日付)は、「ドイツは欧州防衛強化の基盤築いているー次期首相有力のメルツ氏演説」と題する記事を掲載した。

    ドイツの次期首相就任が確実視されるメルツ氏は18日、ドイツが軍事支出を増やすために借り入れ制限を解除する動きは、英国やノルウェーなどの欧州連合(EU)非加盟国を含む広範な欧州防衛共同体創設に向けた「第一歩」と捉えるべきだと述べた。

    (1)「中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)陣営を率いるメルツ氏は、18日に予定されている採決を前に、拡張的な財政政策への転換を意味する画期的な法案を支持するよう議員らに訴えた。メルツ氏のCDU・CSU陣営と社会民主党(SPD)が提出し緑の党が支持するこの法案は、21日に連邦参議院(上院)で最終承認を得る前に、連邦議会(下院)の3分の2の賛成多数で可決される必要がある」

    次期首相が有力視されるメルツ氏が率いる保守系会派(CDU)と社会民主党(SPD)は先週、緑の党との間で合意。財政拡大法案を連邦議会で可決させるのに必要な3分の2の賛成票確保のめどが立った。ドイツの16の州が代表を出す連邦参議院(上院)が、21日採決し承認すれば、シュタインマイヤー大統領が署名して法律が成立する。


    メルツ氏が、率いる中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)陣営と、SPDは次期政権樹立に向けた協議を行っている。それに先立ち、大幅な歳出拡大を可能にしようと取り組んできた。国防費の増大によってよって、トランプ氏の米大統領復帰に端を発する地政学的な激変への対応を急ぐ。

    防衛および安全保障関連の支出として、GDPの1%、つまり約450億ユーロ(約7兆4000億円)を超える額が、ドイツ憲法に盛り込まれた借り入れ制限、いわゆる「債務ブレーキ」から除外される。実質的に、GDPの1%を超える支出に上限がなくなることを意味する。同時に、予算外の特別なインフラ基金が憲法に組み込まれ、今後12年間に5000億ユーロを上限として借り入れを行うことが可能になる。さらに、16の州にはGDPの0.35%、160億ユーロ相当までの借り入れの余地が与えられる。これで、地方はインフラ投資が可能になる。

    超右翼政党出現の裏には、厳しい財政規律で地方行政に足かせがはめられたことも一因である。これが、財政的に緩和されればドイツの「右翼化」は是正されるであろう。


    (2)「メルツ氏は、ドイツに自由、平和、繁栄をもたらした政治体制が脅威にさらされており、平和の配当は「とっくに底をついている」ため、抜本的な対策が緊急に必要だと論じた。「今日のわれわれの決定は、今後数年、数十年にわたるわれわれの防衛能力を決定する」と語った。CDU・CSU、SPD、緑の党の議員を合わせると520議席となり、3分の2の賛成に必要な489議席を31議席上回るため法案は可決される見込み。投票結果は現地時間午後3時頃には判明する見通し」

    CDU・CSU陣営とSPDは連立協議を急ピッチで進め、遅くとも復活祭(4月20日)までには合意に達する見通しがついた。CDU・CSUが2月の選挙で勝利して以来、暫定内閣として政権運営を行っているSPDのショルツ氏から、メルツ氏が首相の座を引き継ぐために、連邦議会の承認を確保する道筋が整う。ドイツは、新たな時代を迎える。




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    ドイツ自動車産業は、総崩れ状況に遭遇している。その象徴が、VW(フォルクスワーゲン)である。工場閉鎖を巡って労組と厳しい交渉の渦中にある。ドイツ最大の産業が、自動車だけに労組も簡単に引き下がれないジレンマに立たされている。

    VWが経営不振に陥った最大要因は、EV(電気自動車)の販売不振にある。これからの自動車は、全てEVへ移行すると読み違えたことが経営基盤を揺るがしている。もう一つ、「時給1万円」という高賃金負担が経営を圧迫している。日本のほぼ3倍という高賃金である。VWは、この危機をどう乗切るのか。

    『日本経済新聞 電子版』(12月19日付)は、「独VW、危機招いた『時給1万円』 頼みのポルシェも失速」と題する記事を掲載した。

    (1)「独フォルクスワーゲン(VW)の業績が悪化している。2024年7〜9月期の連結純利益は12億ユーロ(約2000億円)と前年同期比で69%減った。売上高純利益率は1.5%に落ち込んだ。原因の一つには高い人件費がある。現地の自動車産業の時給相当のコストは日本の3倍近い「約1万円」という。回復への道のりは険しく、PBR(株価純資産倍率)は0.2倍台と、経営不振にあえぐ日産自動車と同水準にある」

    VWは、7~9月期の営業利益率が1.5%と危機ラインの5%を大きく割込んだ。これまで、7%台を維持してきた同社にとって、急落状況に陥っている。PBRは、0.2倍と「倒産企業並み」である。実は、日産自動車もこのレベルにある。

    (2)「VWの最高財務責任者(CFO)アルノ・アントリッツ氏は、「大幅なコスト削減と効率化は急務」と7〜9月期の決算発表で危機感をにじませた。収益力の低下を受け、経営陣はドイツの3工場の閉鎖や数万人規模の人員削減、賃金カットを労働組合に提示した。労組側は反発し、時限ストライキを含む争議が進行している」

    VWは、創業以来の3工場閉鎖と数万人規模の人員削減、賃金カットを労組に提示した。このくらいの「荒技」を使わないと生き延びられない事態だ。

    (3)「VWの業績不振は複数の要因が重なる。まずは世界販売の苦戦だ。7〜9月は217万台と前年同期比で7%減った。現地勢が台頭する中国に限らず、主力の欧州でも景気減速の影響などで7%減少した。稼ぎ頭の高級車「ポルシェ」や「アウディ」も振るわない。VWは中国事業を除くブランド別の業績を開示している。もともとVWブランドの乗用車は営業利益の1割程度で、傘下のポルシェやアウディなどが車販売の利益の大半を占めていた。そこに両ブランドの「共倒れ」が重なった」

    EV戦略の失敗が、大きな負担になった。EV専用工場まで建設したが、未稼働という結果だ。高級車の落込みも、収益を圧迫している。

    (4)「アウディは競争力が低下した上、ベルギーの工場閉鎖に伴う費用もかさみ、営業利益が前年同期比で91%減った。ポルシェもモデル切り替えの過渡期で販売が減り同45%減だった。追い打ちをかけるのが人件費だ。ドイツ自動車工業会(VDA)によると、23年の現地の車産業における1時間あたりの平均労働コストは、物価高の影響もあり23年時点で62ユーロ強まで上昇した。直近レートで換算すると約1万円にのぼる。同コストは正社員や社会保険料なども含めた従業員の「時給」に相当する。同じ前提でみた米国(44ユーロ)より4割高で、日本(24ユーロ)と比べると2.6倍になる」

    アウディやポルシェが、揃って販売不振である。欧州景気の停滞が足を引っ張っている。これら高級車が、高賃金であることでVW全体の賃金水準を押上げたのであろう。

    (5)「ドイツの賃金は、24年も上昇傾向が続いているため、直近の時給コストはさらに上がっている可能性がある。最低賃金も12ユーロ(約1900円)と日本のおよそ2倍だ。欧州連合(EU)統計局によると、23年のドイツの時給コストは全産業平均で41ユーロのため、VWを含む車産業は中でも高給だ。VDAのアレクサンダー・フリッツ氏は「競争力の高い労働者の関心を引く存在であり続けるため、ドイツの自動車メーカーは魅力的な報酬を提供する必要がある」と指摘する。現地労組の力は、歴史的に日本より強い点も高い賃金につながっているとみられる」

    ドイツの時給コストは23年、全産業平均で41ユーロ(約6600円)である。自動車産業は、これよりも高い62ユーロ(約1万円)賃金水準にある。

    (6)「さらに同じドイツ勢の中でも、23年のVWの売上高人件費率は15%と、メルセデス・ベンツグループの11%やBMWの9%を大きく上回る。大衆車が主体のVWは高級車が中心の両社に比べ薄利多売の事業モデルのため、人件費率が高まりやすい。現地ではロシアのウクライナ侵略により、燃料費も高騰する」

    VWの賃金水準は、他の自動車企業よりも飛び抜けて高い。VWの売上高人件費率は23年、15%になっている。メルセデス・ベンツグループの11%やBMWの9%を大きく上回る。やはり、VWは「大手術」が避けられないのだろう。




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    中国は、押し寄せる内需不振をカバーすべく輸出戦略で血眼になっている。EV(電気自動車)は、欧州が高関税で壁を高くしているので、HV(ハイブリッド車)でこの壁を乗り越える戦略を立てている。HVは、トヨタが無料で技術を公開した経緯があるので、技術蓄積が進んでいるのだ。

    『ロイター』(12月7日付)は、「中国メーカーが欧州向けハイブリッド車輸出拡大 EV関税回避狙う」と題する記事を掲載した。

    中国自動車メーカーは欧州向けのハイブリッド車輸出を拡大しつつあり、今後より多くの車種を投入する計画だ。欧州連合(EU)が発動した中国製電気自動車(EV)に対する高関税による影響を、最小限にとどめる狙いがある。

    (1)「EUの輸入関税対象にハイブリッド車は含まれず、BYD(比亜迪)といった中国メーカーはこのハイブリッド車を通じて欧州市場での事業拡張路線を維持できる、と複数のアナリストが解説した。カウンターポイント・リサーチのアナリスト、ムルトゥサ・アリ氏は、EUが中国から輸入されるEVに課す関税を回避する手段として、中国のOEM(相手先ブランドによる生産)がプラグインハイブリッド車(PHEV)にシフトしていることが輸出の伸びをけん引していると指摘。中国の欧州向けハイブリッド車輸出は今年が20%、来年はもっと増えると予想している」

    中国のHVは、欧州のEV高関税対象には含まれていない。それだけに、格好の「EV代替」になっている。

    (2)「最大45.3%の税率が適用されるEUの中国製EV関税は、10月終盤に発効した。ただEUの反補助金調査は昨年10月に始まっており、一部の中国メーカーは国内の景気減速に伴う販売鈍化という事情も踏まえ、既に欧州戦略をハイブリッド車輸出に転換していることがデータから分かる。通常のエンジン車と完全電動車の中間的性格を持つハイブリッド車は、価格の手頃さから消費者の間で人気が高まってきている。中国乗用車協会(CPCA)によると、7―9月の欧州向けハイブリッド車輸出は6万5800台と前年同期の3倍以上に増加し、昨年から今年それまでにかけての販売減少の流れが逆転しつつある」

    中国派、7~9月の欧州向けハイブリッド車輸出が、前年同期の3倍以上に増加しており、輸出の本命に成長しそうである。

    (3)「7―9月に中国から欧州に輸出された全自動車のうち、PHEVと従来のハイブリッド車の比率は18%と1―3月の9%から2倍に上昇。対照的にこの間のEVの比率は62%から58%に低下した。こうした傾向はさらに強まりそうだ。複数のアナリストは、昨年日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となった中国は、国内の過剰供給問題を解消するため輸出攻勢をかけている、と話す。米国とカナダが中国製EVに100%の関税を課している状況にあって、欧州は中国メーカーにとって最も明確な販路にもなっている」

    中国は、HVでEV輸出規制の穴をカバーする方針である。欧州市場は、中国メーカーにとって最も期待できる販路になってきた。

    (4)「大手中国メーカーは、今のところ地元勢と日本勢が牛耳る欧州のPHEV市場の構図を覆す可能性がある。BYDは欧州向け初のPHEVとなる「シールU DM-i」を投入し、独フォルクスワーゲン(VW)やトヨタ自動車に対抗する構え。シールU DM-iは3万5900ユーロ(3万7700ドル)からと、VWで最も売れ筋のPHEV「ティグアン」の価格を下回り、トヨタの「C-HR」より10%安い。中国メディアの報道では、BYDはハンガリーの工場でEVとハイブリッド車を生産することも検討中だ」

    欧州HV市場は、地元メーカーと日本メーカーが支配している。中国製が、これに割って入る勢いである。トヨタよりも10%も安く売り込んでいる。

    (5)「今年の欧州におけるハイブリッド車の需要拡大は、中国での過剰生産に悩む日本メーカーにとっても追い風だ。中国の1―9月販売が29%落ち込んだホンダは、中国から欧州に従来のハイブリッド車2種類とPHEV1種類を輸出している。中国から欧州へのハイブリッド車輸出増加は、欧州市場での価格競争を激化させかねないが、複数の専門家は中国メーカーがEUの追加的な関税発動を警戒してより慎重に振る舞う公算が大きいと予想する」

    中国は、EVで高関税をかけられたので、HVでその二の舞にならぬように慎重に振る舞うとみている。派手な値引き競争をすると、再び締め出されるリスクに気付いてきたのであろう。

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