勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:EU経済ニュース時報 > EU経済ニュース時評

    a0001_001078_m
       

    EU(欧州連合)は、中国企業の進出に当たり政府補助金を受けているかどうかを調査している。中国企業2社は、ルーマニアの太陽光発電所建設に当たり入札に応募したが、政府補助金について調査すると発表したとたんに、入札辞退を申入れてきた。調査で補助金支給が判明することを恐れたのであろう。論より証拠である。中国政府の補助金が支給されているのだ。

     

    『東洋経済オンライン』(6月4日付)は、「中国企業、ルーマニアの太陽光発電入札から撤退」と題する記事を掲載した。この記事は、中国『財新』記事の転載である。

     

    ルーマニア政府が実施した太陽光発電所の建設プロジェクトの競争入札から、応札していた中国企業2社が撤退したことがわかった。欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会が、これらの中国企業に対して不公正な補助金の有無に関する調査を進めていたことが影響したとみられる。

     

    (1)「入札から撤退したのは、中国の太陽光パネル大手の隆基緑能科技(ロンジ)と重電大手の上海電気集団。欧州委は43日、両社が欧州子会社などを通じて参加していた企業コンソーシアムに対して、EUの「外国補助金規則(FSR)」に基づく調査を始めると発表していた。ロンジと上海電気の撤退を受け、欧州委のティエリー・ブルトン委員(域内市場担当)は5月13日に声明を出し、調査を終了すると発表した。上述のルーマニアの太陽光発電所は、計画設備容量が約455MW(メガワット)、入札の予想契約価格は約3億7500万ユーロ(約634億円)で、建設資金の一部をEUが拠出することになっていた」

     

    EUが、「外国補助金規則」に基づいて調査すると発表したら、入札を辞退するとは不自然な動きだ。調査されたら困る事態が明るみになるからだ。よほど多くの金額が、政府補助金として入っているのだろう。違法なことは言うまでもない。

     

    (2)「欧州委は最近、FSRに基づく補助金調査で中国企業を狙い撃ちにしている。2月16日に中国の鉄道車両メーカー、中国中車青島四方機車車両(中車四方)に対して調査を開始したのを皮切りに、4月9日には中国製の風力発電装置への調査にも着手した。そのうち中車四方は、調査対象となったブルガリア政府の鉄道車両調達の入札から早々と撤退している」

     

    EUは、鉄道車両メーカーの中国中車青島四方機車車両や中国製風力発電装置への調査にも着手している。政府補助金は、WTO(世界貿易機関)の規定に反しているからだ。調べられて困るようなことをしてはならない。

     

    (3)「ヨーロッパに進出した中国企業の団体である欧盟中国商会(EU中国商工会議所)は、ヨーロッパに進出した中国企業の団体である欧盟中国商会(EU中国商工会議所)は、5月14日付の声明で「太陽光発電所の競争入札からの撤退は、中国企業にとっていかんともしがたい苦渋の選択だった」と強い不満を表明し、欧州委の対応を次のように批判した。「欧州委は(FSRに基づく)調査において、不公正、不透明かつ差別的なやり方で法律を運用している疑いがある。同じ競争入札にEU域外の非中国企業が応札しても、調査対象にはなっていない」とした」

     

    物は言いようである。中国は、自らの不正を棚に上げてEUを不透明として批判する。ならば、白黒の決着がつくまで入札を辞退せずに調査を受けるべきである。自ら疚しいところがあるので、白日にさらされる前に辞退していると読めるのだ。

     

    (4)「欧州委は、中国製太陽光パネルへの過度の依存は経済安全保障の観点から好ましくないという姿勢を隠さなくなっている。欧州委のブルトン委員は、5月13日の声明の中でこう強調した。われわれは二酸化炭素(CO2)の排出量とエネルギーコストを削減するため、太陽光パネルの設置に莫大な投資を行っている。しかしながら、それはヨーロッパのエネルギー安全保障、産業競争力、雇用確保を犠牲にするものであってはならない」と指摘する」

     

    EUの言い分は、もっともである。ヨーロッパのエネルギー安全保障、産業競争力、雇用確保を犠牲にしてはならないのだ。

     

    (5)「EU市場における中国製太陽光パネルのシェアは、現時点で約9割に達している。中国の太陽光パネルメーカーにとっても、EUは最大の輸出市場だ。2022年から2023年にかけて中国から輸出された太陽光発電関連製品のうち、EU向けが約5割を占めていただけに、今後の影響が懸念される」

     

    EUで、太陽光パネルで9割のシェアとは、ほぼ独占である。政府補助金が、この「偉業」を実現させたのだ。EUが、中国へ警戒するのは当然であろう。

    あじさいのたまご
       

    中国は、国内不況をEV(電気自動車)輸出で跳ね飛ばそうと猛烈なダッシュをかけている。狙い目は欧州である。「猫も杓子も」欧州へ殺到しているのだ。EVは、欧州で陸揚げされたものの肝心の輸送の手配が遅れていることと販売難が重なって、港湾に大量の中国EVが滞留していた。いかに、無計画な輸出であるかを窺わせている。

     

    こういう無鉄砲な欧州へのEV輸出は、ついに限界にきたようである。長城汽車が、8月を以て欧州事務所を閉鎖すると発表した。これまでの怒濤の輸出は、現地販売店からの引き合いによって輸出したものでなく、「見計らい輸出」であったことを裏付けている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月31日付)は、「中国・長城汽車、欧州本部を8月閉鎖へ 販売減速で」と題する記事を掲載した。

     

    中国自動車大手の長城汽車は8月末にドイツ・ミュンヘンの欧州本部を閉鎖する。一部中国メディアが報じた。現地で電気自動車(EV)の販売が減速していることなどが背景にあるとみられる。

     

    (1)「中国国営新華社のグループ会社が30日にSNSの公式アカウントで伝えたところによると、長城汽車は欧州本部で働く100人に解雇を通知した。欧州での販売は継続するという。中国メディアによると、長城汽車は欧州本部を2021年に設立し、販売管理や現地市場向けの研究開発などを手掛けてきた。小型車ブランド「欧拉(オラ)」や高級車ブランド「WEY」などの現地販売台数は24年1〜4月に約1600台だった」

     

    長城汽車は、1984年に設立された中国最初の私営自動車企業である。2004年には、欧州市場へ初めて進出するなど、中国自動車業界をリードしてきた企業である。こういう歴史を持つ長城汽車が、欧州事務所閉鎖を決めたことは相当な決断であったに違いない。

     

    現地販売台数は24年1〜4月に約1600台であった。過去20年の欧州進出してきた成果が、この程度であったことは定着の難しさを物語ってもいる。

     

    (2)「ドイツでは23年12月にEVの補助金が打ち切られたことで販売の環境は厳しくなっている。欧州連合(EU)は中国政府の補助金によって安価な中国製EVが流入していることを問題視しており、対抗措置を検討していることも閉鎖の一因となったとみられる」

     

    長城汽車が、欧州事務所閉鎖を決めたのはスタッフ100人の経費が経営を圧迫し、今後も改善の見込みがつかないことであろう。EU内では、中国EVに対してダンピング輸出の疑いを抱いており、営業活動がスムースに行かなかったのであろう。これは、長城汽車だけの現象でなく、中国EV全般に当てはまることであろう。

     

    (3)「長城汽車の23年の海外販売台数は31万6000台で22年に比べ8割強増えた。24年は50万台を目標とし、30年に100万台をめざす。ただ欧州本部の閉鎖によって現地での拡大路線を見合わせることになり、今後の海外戦略に影響しそうだ」

     

    下線部分の目標台数が、あまりにも現実からかけ離れていることを示している。24年1〜4月が約1600台の販売台数であったという。年間で4800台にすぎない。23年の海外販売台数は31万6000台とすれば、欧州の年間5000台程度の販売では、採算も取れなかったであろう。欧州の中国EVは、不人気であったことを物語っている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(4月10日付)は、「中国からの輸入車、欧州の港に滞留 輸送・販売が難航」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「欧州の港湾が輸入車の滞留で「駐車場」と化している。自動車メーカーや販売業者が、販売不振やトラック運転手の不足を含む物流の停滞に悩まされていることが背景にある。港湾業界や自動車業界の幹部は、集積する中国製の電気自動車(EV)が問題の主因の一つだと指摘している。陸揚げ後の輸送手段を確保せずに船積み予約を入れる企業もあるという。また、ドライバーや車両を移動させる設備が不足していることから、自動車メーカー全体がトラックの手配に苦労している面もある」

     

    この記事は、欧州での中国EVの売行きが不調であったことを示している。長城汽車が、欧州事務所を閉鎖せざるを得なかった事情を窺い知ることができよう。

     

    a0001_002230_m
       

    ドイツは、欧州経済安定の象徴として、多くの投資家が不動産を購入してきた。個人住宅相場は、2000年から2022年までに2倍へ跳ね上がるほどの人気を集めてきた。商業用不動産も1.5倍へと値上がりしたほど。だが今、ドイツ経済のエンジンは失速状態である。高金利・高エネルギー価格に阻まれての結果だ。

     

    『ロイター』(5月24日付)は、「ドイツ不動産市場、外国人が敬遠 経済の傷深まる恐れ」と題する記事を掲載した。

     

    過去数十年で、ドイツの不動産市場は、最悪の状態に見舞われている。外国人が不動産取引を手控えており、ドイツ国経済の傷はさらに深まりそうだ。第1・四半期の商業用不動産購入に占める外国人の比率は35%と、2013年以降で最低へ落込んだ。販売額は20~21年の新型コロナウイルス流行時から70%も急減している。こうした中、ドイツは再び「欧州の病人」になったのかとの議論が巻き起こっている。

     

    (1)「ドイツが、欧州の病人と呼ばれたのは景気停滞と高失業率に悩まされていた1990年代後半。その後、ドイツは汚名返上に努めてきたが、ここにきてロシア産エネルギーとの決別、官僚主義の呪縛、極右の躍進などを背景に、再びこの呼び名が浮上してきた。国内有数の大手デベロッパーを経営するクルト・ツェヒ氏は、ロイターとのインタビューで、外国人投資家が市場に戻るまで厳しい状況が続くと予想」

     

    ドイツは、EU統合による共通通貨「ユーロ」がドイツ・マルクよりも割安に設定され、その恩恵を輸出増という形で享受してきた。その「魔法」が解けてしまったのだ。ロシアのウクライナ侵攻後の高金利と高エネルギー価格の結果である。これが、大きな圧力になった。

     

    (2)「ドイツの長年の不動産ブームを支えていたのは低金利、安価なエネルギー、好調な経済だった。不動産部門は国内経済におおむね年間7300億ユーロ(7935億1000万ドル)の貢献をしている。国内総生産(GDP)の約2割だ。だが、インフレの高進で欧州中央銀行(ECB)が急ピッチな利上げを迫られると、不動産ブームは終焉を迎えた。不動産融資は枯渇し、不動産取引が失速。プロジェクトが行き詰まり、大手デベロッパーが倒産し、一部の銀行も痛手を負った。業界団体は政府に介入を要請している。独ファンドブリーフ銀行協会(VDP)によると、第1・四半期の商業用不動産価格は前年同期比9.6%下落。23年通年では10.2%値下がりした」

     

    ドイツ経済へ吹いていた春風は、一挙に突風へと変わった。ドイツの不動産相場は、急激な冷え込みとなった。GDPの20%を占める不動産の沈滞は、ドイツ経済をゼロ成長へ追込んでいる。形の上では、中国不況と似通っている。

     

    (3)「INGのチーフエコノミスト、カールステン・ブルゼスキー氏は「ドイツはかつて欧州の安定の象徴で、多くの投資家が群れをなして不動産を購入していた」と指摘。だが「今、ドイツの経済エンジンは失速しており、メンテナンスが必要だ。もう投資家が望むような真新しい投資先ではない」と語った。BNPパリバによると、23年の商業用不動産購入に占める外国人の比率は37%で、10年ぶりの低水準。かつては外国人の取引が半分を占めていた。ドイツの不動産取引は、大半が商業用不動産で住宅販売の比率は低い

     

    外国人は、ドイツの商業用不動産投資で利益を上げてきた。個人住宅投機ではない。商業用不動産運用では、利回りが重視される。ドイツ経済のゼロ成長では、不動産利回りは低くて投資対象にはならない。これは、ドイツ経済にとって痛手だ。 

    (4)「高金利は世界的に不動産市場の重石になっているが、3月にフランスのカンヌで開催された業界の国際会議では、特に打撃を受けているのがドイツだとの声が相次いだ。カンヌでインタビューに応じたハインズのマネジングディレクター兼ファンドマネージャー、シモーネ・ポッツァート氏は「本当にムードが最悪なのはドイツだ」と発言。欧州系デベロッパーの別の幹部は匿名を条件に、人員をドイツから英国など、投資家の関心が高く早期回復が見込まれる市場に再配置する計画を明らかにした」

     

    欧州は、ドイツ不動産ではビジネスにならないとして、英国へ関心を向けているという。

     

    (5)「ドイツの経済モデルには疑問の声が投げかけられている。エネルギーコストの高騰、世界的な需要低迷、破壊的なネットゼロ経済へのシフト、中国との競争激化などが背景だ。ドイツ政府の経済諮問委員会(5賢人委員会)は先週、今年のGDP成長率予想を昨秋時点の0.7%から0.2%に下方修正。ショルツ首相は国内経済が「前例のない困難に直面している」と述べた」

     

    ドイツ社会は、強い保守的一面を持っている。「破壊的なネットゼロ経済へのシフト」と指摘されるなど、過去の生活スタイルに固執している。極右の躍進で、「ヒトラー礼賛」発言が飛び出すほどだ。日本の「右傾化」とは質が異なる。ドイツ極右は、前記の発言で欧州極右から除名されたほどだ。ドイツ経済の将来に不安を残す背景である。

    a1180_012903_m
       

    中国は、通商や安全保障の対中抑止を主導する米国に対抗するため、欧州との関係を重視している。習氏は3月にオランダのルッテ首相、4月にドイツのショルツ首相とそれぞれ北京で会い、協力の拡大を確かめた。そして現在、習氏自身が欧州を訪問中である。これら一連の欧州首脳との会談で、中国は外交成果をあげていると思われがちである。欧州は、本音部分で中国へ警戒感を募らせている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月7日付)は、「欧州の海空軍、太平洋集結へ 中国念頭に南シナ海も航行」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツやフランスなど欧州諸国が、多くの艦船と航空機を近く太平洋に展開する。日米などとの共同演習に臨み、一部艦船は南シナ海を航行する。中国の脅威への警戒心が急速に強まっているためだ。前例のない規模で欧州の海空軍が太平洋に集結する。

     

    (1)「ドイツ政府は、フリゲート艦や補給艦で構成する艦隊を太平洋に派遣すると決めた。7日、独北部ウィルヘルムスハーフェンなどから出航し、大西洋を横断して太平洋に入る。今夏に米海軍主催の多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」に参加したのち、フィリピンと中国が領有権を争う南シナ海を通る。フランスやイタリアなどもリムパックに参加すると日本経済新聞の取材に明かした。ベーアボック独外相は1月、フィリピンを訪問し、覇権主義に傾く中国を批判した。ドイツ海軍高官は「将来の紛争抑止のため、ドイツ海軍も重要な役割を果たす」と話す。フリゲート艦を派遣するオランダ海軍の報道官は「最新鋭兵器を使った演習で同盟国との協力を深めたい」と答えた」

     

    今年の夏から秋にかけて、ヨーロッパ諸国の軍艦が太平洋へ出現しそうな情勢だ。多くの欧州諸国が、米ハワイ沖で行われる合同演習(リムパック)に参加するためだ。インド太平洋に領土を持つ英国やフランスだけなく、ドイツ・イタリア・オランダ・スペイン・イタリアなどEU主要国が軒並み太平洋へ艦船か航空機(もしくは両方)を展開することになりそうだ。

     

    (2)「欧州諸国は、同時に多くの航空機を太平洋に展開する。独仏スペインが、戦闘機ユーロファイターと給油・輸送機などで構成する航空編隊をインド太平洋に送り、日米やオーストラリアとの演習に臨む。ここ数年、欧州勢がアジア安保に関与する動きが目立つ。2021年には英国が米英豪の安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を背景に、航空母艦を日本に派遣した。軍艦に台湾海峡を通過させたこともある。ドイツも同じ頃、フリゲート艦を日本に送った。ドイツは派遣規模を大きく広げ、歴史的にみてアジア外交に関心の薄かったスペインやイタリアまで加わる」

     

    欧州諸国は、軍艦と同時に多くの航空機を太平洋に展開する見通しである。「仮想敵」中国を想定した動きである。

     

    (3)「欧州のこうした動きには2つの政治的な狙いがある。1つ目は民主主義陣営が安全保障政策で一枚岩であるというメッセージだ。7月に米ワシントンで北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が開かれる。これに重なるタイミングで遠い太平洋に兵力を展開し、米欧が表裏一体だと印象づけたい。ロシアを意識するとともに、米国に「欧州の貢献」を目に見える形で示す思惑もある。2つ目は中国への警告だ。セルビアやモンテネグロなどのバルカン半島諸国に政治的な影響力を強めようとする中国への警戒心は強まっている。ドイツや英国など欧州政界のあちこちに潜入した中国のスパイ工作が相次ぎ露見し、不信に拍車をかけている」

     

    欧州が、太平洋へ軍艦と航空機を派遣する目的は二つある。1つ目は、民主主義陣営が安全保障政策で一枚岩であるというメッセージ。2つ目は直接、中国への警告とされる。欧州に出没する中国スパイによる不信感が増大しているからだ。

     

    (4)「ショルツ独首相は、4月に独企業幹部を引き連れて訪中。マクロン仏大統領も56日、パリを訪れた中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と経済交流を巡って会談した。一方で、欧州は海軍と空軍を同時に太平洋に展開し、日韓印との関係も深めようとしている。欧州連合(EU)では、インド太平洋地域の安定こそ欧州の利益になるとの認識が浸透しつつある。台湾海峡などは海上輸送の要衝で、貿易ルートが寸断されれば欧州景気を支えるドイツ企業のサプライチェーン(供給網)に大きな混乱が生じる。英国は、25年からインド太平洋で日米と定期的に合同演習することを明らかにした。今秋の米大統領選の結果にかかわらず、欧州のアジア安保への関与はますます深まりそうだ」

     

    世界のサプライチェーンが、アジアに多く広がっている以上、欧州の各国政府はインド太平洋との関わりが増えている。「台湾有事」が起こる事態になれば、欧州経済へ波及する。傍観できない状況になっているのだ。NATO(北大西洋条約機構)が将来、アジアへ足がかりをつくるステップになるのであろう。

    a0960_006621_m
       

    中国自動車業界は、操業度が適正水準の80%を大きく割り込み60%台まで低下している。それでも、政府補助金によって増産体制を維持する目的は何か。その一つとして、雇用維持が上げられる。中国は、EV(電気自動車)輸出によって過剰生産をカバーしているが、輸入国側もダンピング調査など、壁を高くしている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月2日付)は、「あふれる中国車、それでも生産続けるのはなぜ?」と題する記事を掲載した。 

    (1)「中国では長年にわたり、自動車の生産能力が過剰状態にある。国内100余りのブランドは毎年、同国のドライバーが購入するより多くの自動車を生産している。しかし、中国当局が経済成長押し上げや雇用維持、世界のEVビジネスにおける中国の役割拡大を目指す中で、政府は赤字の自動車メーカーに生産継続を奨励している。補助金など政府の奨励策によって、世界市場への供給が増えており、供給過剰に拍車がかかる恐れがある」 

    中国当局は、雇用維持目的で赤字の自動車メーカーに補助金を支給して生産を継続させている。 

    (2)「中国には現在、年間4000万台を生産する能力があるが、国内での販売台数は2200万台前後にとどまっている。こうした状況は、テスラなどの企業が中国で激しい値下げ競争に直面することにつながっている欧米諸国では、中国の自動車メーカーが国内で売れ残った車で他国の市場をあふれさせるのではないかとの懸念が生じている生産能力の余剰は、とりわけエンジン車で顕著だ。中国の消費者がEVへの乗り換えを進める中、エンジン車は人気がなくなってきている」 

    欧米諸国は、中国の過剰生産された部分が輸出されているのでないかと危惧している。貿易摩擦の原点である。

     

    (3)「中国から米国に輸入される自動車には高関税が課されるとはいえ、米政府は、補助金の恩恵を受けた中国の自動車が米国に輸入されることでダンピング(不当廉売)を心配している。欧州は昨年、中国のEV補助金に関する調査を開始した。この結果、向こう数カ月の間に輸入関税がかけられる公算が大きい中国の自動車輸出はわずか3年間で5倍近くに増え、2023年には約500万台に達し、欧米諸国に懸念を生じさせる一因となった」 

    EUは、今後数ヶ月以内に中国製EVに対して関税引上げに踏み切るとみられる。中国との関係悪化が懸念される。 

    (4)「明らかな点は、中国国内の自動車販売の伸びが減速する中で、同国の自動車産業が拡大基調にあることだ。4月25日に開幕した中国最大の自動車ショー「北京国際モーターショー」では、300近い車種のEV、プラグインハイブリッド車(PHV、PHEV)が展示されている。その中には、スマートフォンメーカーの小米科技(シャオミ)が開発したスポーツセダンEVも含まれている。同社は自動車生産に乗り出したばかりだが、今年中に10万台を販売する計画を立てている」 

    中国の国内自動車需要は減少しているのに、供給は拡大基調にある。このギャップが、貿易摩擦に発展している理由だ。3月にEVへ参入した小米科技は、年内に10万台を目指すという。国内競争激化が、さらなる輸出圧力となろう。

     

    (5)「中国はかなり前から、支配的地位の確立を目指す産業分野の一つにEVを挙げていた。このため地方政府の多くは先を争うように、雇用創出につながる新たな自動車メーカーの育成を図ってきた。中国経済の他の分野が停滞し、習近平国家主席が地方の指導者に「新質生産力」の強化を求める中、この1年で自動車産業育成の緊急性が高まった。新質生産力とは、高付加価値の製造業育成の必要性を訴えるために中国の政策立案者がよく用いる言葉だ。ドイツのキール世界経済研究所(IfW)の4月の報告書によれば、中国の自動車業界への公的支援策には、市場実勢を下回る金利での融資、割引価格での鉄鋼や電池の供給などが含まれる」 

    下線の通り、中国自動車業界は手厚い公的支援を受けている。貸出金利や鋼材・電池の購入で優遇されているという。 

    (6)「同研究所が中国EV最大手、比亜迪(BYD)の年次報告書に基づき指摘したところによると、同社は2018~22年に政府補助金約35億ドルを受け取った。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)で中国の経済政策について研究するスコット・ケネディ氏が提供する最新の推計によれば、中国はEVやPHVなどを含む新エネルギー車産業を支援するために2009~22年に総額約1730億ドルの補助金を支出した」 

    EVで破竹の勢いであるBYDは、2018~22年に政府補助金を約35億ドル(約5400億円)受け取っている。政府は、新エネルギー車産業を支援するため、自動車業界へ2009~22年で総額約1730億ドル(約26兆8000億円)の補助金を支給した。

     

    (7)「中部・河南省鄭州市は2月、「新質生産力」産業を育成し、年間70万台の生産能力を持つ「新エネルギー車都市」となることを宣言した。その1ヶ月後、鄭州市の政府系事業体が、経営難に陥っていた自動車メーカー、海馬汽車の現地部門の資産を一時的に取得した。現地部門は3000人近い従業員を抱え、同市に工場を持つ。同社の開示文書によると、今年1~3月の販売台数は2000台に満たなかった。期間5年のこの契約で、海馬汽車には必要な資金約2750万ドル相当が供与された。海馬は、ロシアやベトナムといった市場への輸出強化に注力し、成長を促進する方針を明らかにした」 

    河南省鄭州市は、新たに年間70万台の自動車都市を宣言した。経営難の海馬汽車(従業員約3000人)へテコ入れしている。5年間の契約で、すでに約42億6000万円が供与された。自動車の過剰生産は、さらに勢いづく情勢だ。

     

    このページのトップヘ