米国の相互関税は、世界経済を不安の渦に巻き込んでいる。ロシアは対象外であるが、主力産品である原油相場の下落が、国家財政に大きな影響を与え始めた。ロシア原油の採算点は、1バレル=50ドルとされる。すでに、ロシア産原油は55ドルまで低下しており、あとわずかで赤字ラインへ落込む。ロシアの国家歳入の3割が、原油収入である。ウクライナ侵攻をいつまでつづけられるか瀬戸際にきている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月21日付)は、「プーチン氏の戦争経済 トランプ貿易戦争の影響不可避」と題する記事を掲載した。
石油産業はロシア経済の原動力であると同時に、脆弱性の主な原因でもある。石油・ガス産業からの収入が国家財政収入の約3分の1を占めるからだ。
(1)「世界の原油相場は今月、関税に伴うリセッション(景気後退)懸念の高まりを受けて急落し、今も不安定な状態にある。ロシア産原油の指標であるウラル原油価格は、1バレル=55ドルを下回る水準で推移している。これは今年の国家予算で目標とされる70ドル前後を大きく下回る。アナリストらによると、原油相場が低水準にとどまれば、ロシア経済はハードランディング(強行着陸)に直面する見通しだ。その場合、今年の財政赤字はほぼ倍増するだろうという」
ロシア産原油の指標のウラル原油価格は現在、1バレル=55ドルを下回っている。今年の国家予算目標の70ドル前後を大きく下回る状態だ。ロシア原油相場は、世界経済の停滞と中国需要の低下によって、さらに低下の気配である。デッドラインが迫っている。
(2)「現在の原油相場の水準では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍事作戦の中止に追い込まれる公算は小さいが、さらに相場が下落すれば、同氏の計算が変わる可能性がある。一方、原油相場の急落によってロシア政府は痛みを伴う選択を迫られるとアナリストは指摘する」
ロシアは、「モノカルチャー」経済だ。原油へ極度に依存した偏った経済構造である。それだけに、原油相場の下落がロシア経済の首を絞めるという単純な構図になっている。プーチン氏の描く「大ロシア帝国」の実相は、この程度のものである。
(3)「米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所の非常駐シニアフェロー、エリーナ・リバコバ氏は、「原油価格が安いままなら、彼らは危機を感じるだろうし、既にそうした危機を感じ始めている。これが続けば、軍事か経済かの選択を迫られるだろう」と話す。JPモルガンのアナリストは先週の顧客向けメモで、ロシアは制裁や国際関係の断絶によって世界的なトレンドの影響を受けにくくなっているものの、「米国の通商政策がもたらす津波に対して、無傷でいられることはなさそうだ」と述べた」
トランプ氏の相互関税が、米国と貿易関係のないロシアに台風となって襲いかかっている。
(4)「プーチン氏の国家安全保障体制は多くの点で、石油がもたらす富の上に構築されている。1980年代の壊滅的な原油安は、ソ連の崩壊につながった。プーチン氏は1999年にロシア首相に指名されたが、同氏が権力の座に就くのを後押ししたのは、この年の原油価格の回復だった。このため、政府は原油安を国家安全保障上の脅威と捉えている」
ソ連経済崩壊は、壊滅的な原油安によってもたらされた。今のロシアも原油依存経済である。この間、なんらの産業発展もなかったのだ。この先、自然エネルギーに向う中で、ロシア経済は何を頼りにするのか。お先真っ暗な状態である。
(5)「ロシアの元エネルギー業界幹部で、現在はカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのシニアフェローを務めるセルゲイ・バクレンコ氏は、原油価格が10ドル下がるごとに、ロシアの年間収入が約250億ドル(約3兆5600億円)減ると推測している。「従って、これは確かに歳入に影響を及ぼし、経済全体から資金が失われる」と同氏は述べた。トランプ政権は発足後間もなく、原油価格の引き下げにつながる米国とサウジアラビアでの増産を呼び掛けることによって、ロシアに和平を受け入れさせようとする可能性を示唆した。キース・ケロッグ米大統領特使(ウクライナ・ロシア担当)は今年1月、原油価格が45ドルに下落すれば、戦争を終結させるには十分かもしれないとの見方を示した」
ロシアは、原油価格が10ドル下がるごとに、年間歳入が約250億ドル減る計算だ。45ドルまで下がれば、ウクライナ侵攻の余力を失うとみられる。
(6)「原油相場の見通しは、サウジアラビアなどの生産国からの供給増と中国の需要鈍化が重荷となっている。ゴールドマン・サックスは今週、北海ブレント原油について、今年の平均価格は63ドル、26年は58ドルとの予想を示した。ロシア産ウラル原油は、国際的な指標原油よりかなり割安な価格で取引されているため、この予想はロシア産原油の価格が50ドルを下回る可能性を示唆している」
ロシア産原油の価格が、50ドルを下回る公算が強まっているという。完全な採算割れで赤字になる。
(7)「ロシアの投資銀行ルネサンス・キャピタルは最近発表した顧客向けメモで、原油相場の低迷はロシア経済のハードランディングの可能性を高めるとの見解を示した。今年のウラル原油平均価格が50ドルなら、国内総生産(GDP)の伸びは0.1%になりそうだという。これはロシア経済にとってショックとなるだろう」
ロシアは、ウラル原油平均価格が50ドルならば、GDPは0.1%増程度という。あと5ドルの下落で「アウト」だ。ロシア経済は、瀬戸際に来ている。