勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    ロシアのプーチン大統領は13日、米国提案のウクライナ停戦案について「紛争の根本的な原因を取り除くものでなければならない」などと述べ、現在の一時停戦案の受け入れに条件を付けた。プーチン氏は、ウクライナが受け入れた30日間の停戦案について「戦闘を停止する提案に同意するが、長期的な平和につながり、紛争の根本的な原因を取り除くものでなければならない」と述べた。即時の停戦の受け入れには難色を示し、今後の米国との協議に向けて注文を付けた。

    ロシアは、米国案に対して「全面拒否」でなく「協議継続」を申し入れているが、引き延し戦術が通用しない切羽詰まった難題が突きつけられている。ロシアの最も恐れている米銀とのアクセスが、すでに切断されていることだ。これは、ロシア経済の「心臓」を突かれたのも同然の強い負の影響をもたらす。


    『ブルームバーグ』(3月14日付)は、「米政権、対ロ制裁ひっそり強化-ウクライナ巡り和平交渉進めるも」と題する記事を掲載した。

    ウクライナでの戦争を巡り、米国はロシアと和平交渉を進める一方、エネルギー関連の決済制限を通じて対ロ制裁を強化している。

    (1)「トランプ政権は、ロシアの一部銀行とのエネルギー関連決済に関する許可を失効させた。2022年2月のウクライナ侵攻開始後に導入されたこの「一般許可8」を通じ、これらの銀行はドルでの資金受け取りが引き続き可能だった。トランプ政権から発表や公式な確認はない。失効はバイデン前政権が1月に実施した制裁措置の一環で、失効は3月12日午前0時と、通常6カ月の有効期間が短縮されていた」


    トランプ政権は、ロシアの金融機関とのエネルギー取引を認めるライセンスの期限が切れることで、ロシアの銀行が米国の決済システムにアクセスできなくなると発表した。これにより、ロシア経済に大きな影響を与えることが予想される。特に、エネルギー取引が制限されることで、ロシアの収入源が減少し、経済的な打撃を受けるとみられる。

    ロシアの銀行が、米国決済システムにアクセスできなくなることは重大問題である。国際取引が困難になり、ロシア経済は世界経済から遮断されるに等しい状況に追込まれる。ロシアのウクライナ侵攻直後、この米銀アクセス切断を検討したが、西側も影響を受けることで棚上げになった経緯がある。ついに、そのマイナスを乗り越えて米銀アクセス切断が始まる。

    エネルギー部門に対する制裁は、ロシアの主要な収入源である石油と天然ガスの輸出に大きな打撃を与える。これにより、ロシアは毎月数十億ドルの損失を被ると予想されている。


    (2)「14年の対ロ制裁に携わった元国務省高官のエドワード・フィッシュマン氏は、許可失効によって「ロシアの石油・ガス収入を巡る業務で大きな支障が出るだろう」とし、「もしあなたが外国の石油精製業者や石油トレーダー、ロシア産ガスの購入業者で、取引銀行がロシアへの石油・ガス代金支払いをドルなど西側諸国の通貨で決済しようとする場合、かなり難しくなるだろう」と指摘した。ベッセント米財務長官は経済専門局CNBCとのインタビューで、ロシアを交渉のテーブルに着かせるため米国は対ロ追加制裁をためらわないとし、トランプ大統領は「双方に最大限の圧力をかける意向だ」と述べている」

    ロシアは、主力輸出商品の石油・ガス輸出で大きな障害が生じる。西側が代金支払でドル決済することが困難になるからだ。すでに、ロシア経済は3年を上回る戦争で疲弊しきっている。そこへ、毎月数十ドルの輸出代金決済が滞れば、さらなる重圧を受けることになる。


    (3)「許可失効の影響は不明だ。ロシア産エネルギーの大口購入者は失効を見越して既に制限に対応したか、西側諸国の制裁を回避する代替の決済手段を確保した可能性がある。元財務省高官でオリバー・ワイマンのパートナーであるダニエル・タネバウム氏は「締め付けであることは間違いないが、問題は実際の石油取引に関する現金での支払いや価値にどれほど影響があるかだ」とした上で、「実際にそのルートでどの程度の資金フローがあったかは非常に不透明だ」と分析した」

    このパラグラフは、米銀アクセス切断の重要性をどこまで理解しているか疑わしい内容だ。ドルが世界の基軸通貨であり、世界中のドル決済はすべて米国が把握している。こういう事情が分れば、軽々な判断はできないであろう。





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    ロシアは、ウクライナ戦争終結をにらんで米国との接近を窺わせるような動きを見せ始めた。これまで、大量の中国製自動車を輸入してきたが、「リサイクル料」名目で大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)へ引き上げた。今後も引上げられる見通しで、事実上の関税の役割を果す。ロシアは、米国製自動車輸入再開へ道を開こうとしているとみられる。変わり身の早いロシアの行動に驚きである。

    『フィナンシャル・タイムズ』(3月10日付)は、「ロシア、中国車の輸入急増阻止 実質的な関税を引き上げ

    ロシア政府が中国車の大量輸入の抑制に乗り出し、友好的な対ロ関係への依存を強めてきた中国の自動車メーカーと輸出業者に打撃を与えている。


    (1)「中国乗用車協会(CPCA)によると、2024年にロシアへ輸出された中国車の数は、22年の7倍に達した。ウクライナ戦争で制裁を受けているロシアは、西側諸国のブランドの自動車を輸入できなくなっている。米国、欧州連合(EU)、カナダ、トルコ、ブラジルといった市場で反ダンピング(不当廉売)措置を課され、販売が下押しされている中国メーカーにとっても、ロシアでの需要は好都合だった」

    中国自動車メーカーにとって、西側から経済制裁を受けているロシアは、最高の輸出市場であった。それが今、急変しようとしている。ウクライナ戦争終結を見込んだ米ロ接近が、中国車を阻もうとしているようだ。

    (2)「CPCAの崔東樹・秘書長は「(ロシアで)海外ブランドが中国車にすっかり置き換わった」と話し、「ロシア・ウクライナ間の危機が終わると、中国車メーカーにかかるプレッシャーが劇的に強まるだろう」と続けた。ロシアは24年、100万台を超える中国車を輸入した。これは中国全体のガソリン車輸出の約3割に上る。CPCAのデータによると、ロシア市場では中国ブランドのシェアが63%に伸びた一方、国内ブランドのシェアが29%にとどまった」

    ロシアは24年、中国車100万台超を輸入した。中国全体のガソリン車輸出の約3割に上がる。これだけの規模だけに、中国にとっては「ロシアの心変わり」が大きな痛手になる。


    (3)「ロシア政府は、この流れに歯止めをかけようとしている。1月には、関税と同様の効果がある「リサイクル(再利用)料」を大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)に引き上げた。この金額は24年9月時点に比べて2倍を超える。今後も30年まで、年10〜20%の値上げが実施される見通しだ。米コンサルティング会社ロディアム・グループの自動車アナリスト、グレゴール・セバスチャン氏は「安価な中国車の大量流入が国内での生産に悪影響を与えている」という国際的な認識をロシアも共有するようになったと指摘する」

    日本では、普通乗用車のリサイクル料は、約1万円~1万8000円程度とされる。ロシアでは、何と110万円という。これは、輸入禁止的な高関税になる。

    (4)「セバスチャン氏は、ロシアが中国各社に「現地生産の拡大を求めている」と説明した。「しばらくは仕方がないと感じていたものの、(ロシア側が)ここにきて自らの交渉力に気づきつつある。中国の自動車メーカーにとってのかなり重要な市場になってきた」。さらにロシアでの最近の調査により、中国の主要トラックメーカー3社の安全基準違反が発覚し、1つのモデルがロシアでの販売を禁じられた。ロシア政府関係者は、輸入車に対して新たな法令順守状況チェックや検査を導入する構えを見せている」

    ロシアの自動車産業は、今回のウクライナ戦争で大きな影響を受けている。それだけに、中国車の輸入が急場を救った形であるが、再び国際情勢が変わり始めたことをロシアは肌身で感じ取っているのであろう。


    (5)「ロシアへと次々と運ばれる中国車の多くは、綏芬河(すいふんが)をはじめとする中国東北部の国境地帯を通る。いてついた道路に出荷待ちの自動車が並ぶ綏芬河で、ある中国の業者は「関税と、それがわれわれにとって何を意味するかについて、懸念も不満もたくさんある」と語った。「欧州と米国に制裁を科されたから、こちらに頼ってきたくせに」。CPCAによると、ロシア市場で中国勢のトップを走るのは、国有の奇瑞汽車(チェリー)だ。24年1〜3月期にはロシアで43万台を売り上げ、同社の総販売台数の28%を占めた。香港上場を目指す奇瑞汽車は「対ロ販売によって相当な売上高がもたらされた」と新規株式公開(IPO)の書類に記しつつも、「制裁リスクの緩和」に向けてロシアへの販売を減らしていく計画を打ち出している」

    中国側には,ロシアの「心変わり」が恨めしいようである。ウクライナに平和が戻れば、中国自動車メーカーには市場喪失危機が高まる。

    (6)「ロシアでの中国車ブームは、中古車とガソリン車の販路を開くことにもなった。いずれも中国内では電気自動車(EV)人気に押され、売り上げが振るわない。24年はロシアに輸出された中国車のうち、97%がガソリン車だった。綏芬河の地元当局者によると、中古車の輸出は24年に612%増加した。中古車の対外販売を促進する政策に加え、国内の需要喚起を目的とした自動車買い替え促進策を受けて多くの人が、古いガソリン車を手放したという背景がある」

    中国にとって、ロシアへのガソリン車と中古車輸出は、国内EV化促進の上で欠かせない「バッファー」であった。それが、これから急速に縮小するとすれば、中国の自動車生産に影響する。


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    フランスのマクロン大統領は2月24日、ウクライナとロシア間の停戦が数週間以内に合意される可能性があると述べた。ホワイトハウスで、トランプ米大統領と会談した後にFOXニュースのインタビューで明らかにした。ロシアにとって、米国による和平交渉斡旋が渡りに船である。

    ロシア経済は、破綻の一歩手前まで追込まれている。政策金利は21%、軍需支出が国家予算の3分の1に達している。今年1月の財政赤字は、前年の14倍にもなった。スタッグフレーションへの道が、待っていたのである。プーチン大統領は、夜も眠れなかったであろう。「盟友」トランプ氏が、プーチン氏へ助け船を出したのである。

    『ロイター』(2月25日付)は、「苦境のロシア経済、トランプ米大統領の早期終戦案は助け船か」と題する記事を掲載した。

    ロシア経済はウクライナ戦争の膨大な軍事支出で過熱状態だが、深刻な冷え込みに転じる瀬戸際にある。大規模な景気刺激策や金利の急上昇、インフレの高止まり、そして西側諸国による経済制裁の影響が浸透しつつあるからだ。それだけに、戦争の早期終結を目指すトランプ米大統領の方針はロシアにとって助け船になりそうだ。


    (1)「トランプ政権は、対ロシア交渉でウクライナや欧州の同盟国を除外し、侵攻の責任をウクライナに負わせるなど政治的にロシア寄りの姿勢を取っている。米国のこうした動きについて、元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ビューギン氏は、ロシアが2つの望ましくない選択肢に直面する中で起きていると分析。ロシアはウクライナ戦向けの軍事支出の拡大を中止するか、あるいは支出を拡大し続けてその代償として何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受するか、二者択一を迫られている。いずれの道も政治的リスクを伴うと指摘した」

    ロシア経済は、危機の分かれ道にある。このまま続けば今後、何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受する最悪状態へ向うところだった。

    (2)「財政支出は通常、経済成長を促進する。ロシアでは、民間部門を犠牲にする形でミサイル向け支出という、新しい価値創出につながらない軍事支出で経済が過熱し、中央銀行の政策金利は21%にまで達して企業の設備投資が鈍り、インフレは抑制できていない。ビューギン氏は、「ロシアは経済的な観点から外交的手段による戦争終結に向けた交渉に関心を持っている。これこそスタグフレーションを避ける唯一の方法だ」と話した。ロシアが国家予算の3分の1を占める軍事費をただちに減らすことはないだろう。しかし、和平合意の可能性が浮上すれば経済への圧迫が弱まり、制裁の解除や、最終的には西側企業の復帰につながることもあり得る」

    ロシアは、和平交渉が始まらなければ、スタグフレーションへ突入する瀬戸際であった。トランプ氏の和平交渉斡旋は、「神の声」にも等しいグッドタイミングであった。


    (3)「ロシアが軍需生産向けの支出を一夜にして止めることには消極的だろう。不況の発生を恐れているし、軍の立て直しが不可欠だからだ。ただ、兵士を一部復員させることで労働市場への圧力を多少なりとも和らげることができるだろう」と、欧州政策分析センター(CEPA)のアレクサンダー・コリアンドル氏は予想した。ロシアは徴兵や戦闘忌避の国外移住で深刻な労働力不足が発生し、失業率は過去最低の2.3%となっている。コリアンドル氏は和平の可能性が高まれば米国が中国などの企業に対する二次制裁を強める可能性が下がり、輸入がスムーズになり、その結果物価も下がる可能性があると見ている」

    ロシアは一時的に、軍需費削減は困難である。大不況の発生が不可避であるからだ。ただ、兵士の帰還で労働力不足は緩和の方向に向う。

    (4)「ロシア市場には既に好転の兆しが現れており、21日には制裁緩和の期待からルーブル相場が対ドルで約6カ月ぶりの高値を付けた。中銀のナビウリナ総裁は、政策金利を21%に据え置いた14日の会合で、長期にわたり需要の伸びが生産能力を上回っているため、成長は自然に減速していると説明した。経済成長を促しつつインフレを抑制するという中銀の課題は、大規模な財政刺激策によって複雑になっている。政府が2025年の財政支出を前倒したことで1月の財政赤字は1兆7000億ルーブル(192億1000万ドル)と前年比で14倍に膨らんだ」

    今年1月の財政赤字は、前年比で14倍にも膨らんだ。これこそ、ロシアがもはや継戦不可能な事態へ向っている証拠だ。


    (5)「多くの企業は、高金利にあえいでいる。「現在の貸出金利では新たな開発プロジェクトを立ち上げるのは困難だ。内部資料によると、ロシアが直面する主な経済リスクとして原油価格の下落、財政面の制約、企業の不良債権の増加などが挙げられている。また、トランプ氏はウクライナ問題で譲歩の可能性を示唆する「アメ」をぶら下げる一方、合意が成立しなければ追加制裁を科すと「ムチ」もちらつかせている。マクロアドバイザリーの最高経営責任者(CEO)クリス・ウィーファー氏は、「米国は経済的に大きな影響力を持っている。だからロシア側も交渉の席につくことを望んでいる」とロシアの立場を解説。「米国はこう言っているのだ。『協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる』と」

    ロシア企業は、21%という高金利に苦しんでいる。トランプ氏は、こうしたロシア経済の苦境を知っており、「和平へ協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる」と迫っているのだ。ロシアは、トランプ氏の言うことを聞くほかない事態へ追込まれている。


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    米『ブルームバーグ通信』は16日、トランプ政権が欧州側にロシアとウクライナの「停戦」を4月20日の復活祭(イースター)までに実現したいとの考えを伝えたと報じた。戦争終結に向けてロシア政府高官との和平交渉に当たる米側の一員、ウィットコフ中東担当特使は16日、サウジアラビアでロシア側と協議を始めると明らかにした。ロシア主要紙コメルサントは、交渉は18日に行われると報じた。

    ルビオ米国務長官は15日、ロシアのラブロフ外相と電話協議し、ロシアとウクライナの停戦に向け意見を交わした。ロシア側の発表によると、両氏は米ロ首脳会談に備えるために定期的に連絡を取ることで合意した。米『ブルームバーグ通信』は、早ければ今月末にも首脳会談が実施されると伝えた。

    ロイター通信などによると、米国からウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)やルビオ国務長官らが数日以内にサウジアラビアを訪問し、ロシア側と協議を始めるという。ロシア側の代表団にはウシャコフ大統領補佐官やナルイシキン対外情報局(SVR)長官が参加すると報じられている。


    ウクライナメディアによると、同国のポドリャク大統領府長官顧問は15日、サウジでの高官協議にウクライナは参加しないと明らかにした。「交渉のテーブル上に議論すべきものはない。ロシアはまだ交渉の準備はできていない」と語った。

    『日本経済新聞 電子版』(2月17日付)は、「『4月20日までに停戦』意向、ウクライナ巡り 通信社」と題する記事を掲載した。

    米ロ間の対話の動きが加速しているが、ウクライナは今回の米ロ協議には参加しないとしており、両国がウクライナの頭越しに交渉を進めないようけん制を強めている。ウィットコフ氏はFOXニュースのインタビューで、ウォルツ大統領補佐官と共に現地時間17日中にサウジに入ると明らかにした。ルビオ国務長官も訪問先のイスラエルからサウジへ向かう。


    (1)「ウィットコフ氏は、ロシア側との初回協議について「信頼の構築」を主眼に置くと強調し「良い進展を得たい」と述べた。ルビオ氏は、CBSテレビで、今後数日間でロシアのプーチン大統領が和平にどれだけ真剣なのかを判断すると述べた。交渉にウクライナが参加する段階ではないと指摘。「真の交渉」に至ればウクライナや欧州も関与することになると話した」

    米国の動きが早くなっている。4月20日までに停戦を実現するとしている。米国ベッセント財務長官は12日、ウクライナ鉱物資源の50%を米国へ譲渡する協定書が、ロシア・ウクライナ戦争終結後のウクライナにとって「安全保障の盾」になるとの考えを示した。これは、米国が、この鉱物資源協定によって現在、ロシアに占領されている地域から撤退を迫る根拠にしたいのであろう。ウクライナも、「4月20日停戦案」を聞かされると、鉱物資源協定へ積極的に取組む可能性が強まるであろう。


    (2)「ウクライナのイエルマーク大統領府長官は16日、通信アプリの投稿でロシアとの会談予定はないと表明。「ウクライナ抜きの合意は受け入れられない」と強調した。ゼレンスキー大統領は16日、米ロ首脳会談の別の候補地とされるアラブ首長国連邦(UAE)を訪問したと発表した。サウジやトルコも訪問する。ロシア当局者との会談予定はないとしている」

    米国は、ウクライナの出席なしでロシアと直接協議をする理由は、大急ぎで停戦案の「たたき台」を作りたいという思惑であろう。米国は、ウクライナ抜きの第1回交渉で、ロシアへ妥協した案を持ち帰るようなことがあれば、ウクライナはもちろん欧州からも非難されることは間違いない。米国は、「火中の栗を拾う」リスキーな交渉だけに、慎重対応が求められる。

    ロシア連邦統計局によると、24年10~12月の失業率は2.3%で過去最低を記録した。軍需工場に労働力を取られているからだ。ロ政府は昨年12月、人口減少などを背景に30年までに労働市場で310万人が不足するとの見通しを示し働き手確保の問題は、長期化するとみられる。ロシア経済は、すでに戦時経済で混乱している。



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    ウクライナ軍が、じりじりと領土を奪われている。ロシア軍は、自国兵士の犠牲をいとわない人海戦術を仕掛ける。ウクライナは、ロシア軍に対し兵力が絶対的に足りず、動員逃れや戦場からの逃亡も起きている。前線を安定させなければ、米ロ主導で進む停戦交渉で一段と不利な立場に追い込まれる気配である。

    『日本経済新聞 電子版』(2月15日付)は、「『このままでは戦い続けられない』、ウクライナ前線の悲鳴」と題する記事を掲載した。筆者の古川英治氏は、日本経済新聞社でモスクワ特派員を務め、現在はウクライナを拠点に取材活動を続けている。

    1月末、ロシア軍が5キロに迫る南部ザポリージャ(ザポロジエ)州の前線の村、テミリウカに入った。手引きしてくれた兵士2人の車に乗り込み、鉄線とコンクリートの障害物が敷かれた地点を越えて「戦闘地域」に入ると、こう告げられた。「ここからはいつでもドローンの攻撃があり得る。(電波を発する)携帯電話を機内モードに変えてくれ」。


    (1)「ドローンは電子音とともに、あっという間に突っ込んでくるという。兵士は敵のドローンの電波を妨害する大きな装置を抱えて歩いた。曇り空で、寒さがこたえ、道はぬかるんでいる。大半の家屋は崩れ落ち、村は静まり返っていた。ロシアの全面侵略の前に600人いた住人のうち、今も村に留まるのは高齢の男性1人だけだという。テミリウカはドネツィク(ドネツク)州とドニプロペトロウシク(ドニエプロペトロフスク)州との境界に位置する。東方から攻めるロシア軍はこの2カ月で2キロ進軍し、ウクライナ兵は拠点を後方のドニプロペトロウシク州の村に後退させている。その村もその日、航空機搭載爆弾を4発落とされ、電気と水の供給が途絶えた」

    かつて600人いたテミリウカ村は、高齢の男性1人だけだという。大半の家屋は崩れ落ち、村は静まり返っていた。

    (2)「テミリウカを案内してくれた兵士はザポリージャ州出身の42歳。敵のドローン攻撃に対する防御が十分でなく、大隊の大半が戦死したという。地元の領土防衛隊の仲間だった16人のうち、今も前線に残るのは2人だけ。この話に及ぶと、気持ちを抑えきれずに泣き崩れた。「我々は家族を守るために戦っている。しかし、今の状態では戦い続けられなくなる。徴兵を契約方式にして兵士を集め、退役までの期間も定めるべきだ」。ウクライナ軍は歩兵不足に苦しむ。兵士によるとザポリージャ、ドネツィクの州境界の前線では、ロシア軍との兵力の差は1対5〜7人。兵士は迫撃砲部隊に所属しているが、今は歩兵を欠く別の部隊に駆り出されている」

    地元の領土防衛隊の仲間だった16人のうち、今も前線に残るのは2人だけという戦争の厳しさだ。ロシア軍の兵力は、ウクライナ軍の5~7倍である。


    (3)「ウクライナ軍はそれまで兵力不足をドローン戦で補ってきた。1台500ドルの自爆ドローンを多用して装甲車などを効率的にたたき、火力の差を埋めた。するとロシア軍は戦術を変えてきた。1000キロ以上にわたるウクライナ軍の防衛線の弱いところを突き、3〜5人の兵士を波状攻撃で突っ込ませる。これにはドローンでは対処しきれない。ロシア兵の大半は倒されるが、生き残った兵士が前進して陣を築き、ウクライナ軍を後ずさりさせる」

    ウクライナ軍は、ロシア軍の人海戦術に圧倒されている。多勢に無勢で、不利な状況に追込まれている。

    (4)「最近は砲兵やドローン操縦士、軍医まで歩兵に配置換えされ、軍総司令官が空軍から5000人を陸上部隊に組み替える指令を出したことも明らかになった。新兵の訓練は十分ではなく、前線ではスキルや経験を持つ司令官や兵士が少なくなっている。ゼレンスキー大統領は24年12月、これまでに4万3000人以上の兵士が戦死し、40万人が負傷したと明らかにしている。ドネツィク州の前線から30キロ離れた場所では数十人の歩兵の訓練が行われていた。全体訓練のあと、ここで所属する旅団による1週間ほどの訓練を受けて前線に向かう」

    ウクライナ軍は、砲兵やドローン操縦士、軍医まで歩兵に配置換えされている。何か、沖縄戦線を彷彿とさせる壮絶さだ。この戦いは、もはや限界点にきた。これ以上の犠牲を出してはなるまい。


    (5)「22年の本格侵略の開始直後は全土から数十万人が軍に志願してきたが、状況は変わった。24年の法改正で軍への登録を義務付けられた徴兵対象者のうち、600万人の男性は登録せず、徴兵を逃れている。世論調査では半数が「徴兵逃れは理解できる」と答えている。悪化する戦況、富裕層や高官の子息らは徴兵対象から外れるという不信感、装備や訓練の不備――といった問題を、SNS上で氾濫するロシアのプロパガンダが増幅しているという。政府も世論の反発を恐れ、動員の問題を避けている面がある」

    徴兵対象者のうち、600万人の男性は登録せず、徴兵を逃れている。世論は、これを非難できないという同情論もある。「厭戦ムード」が高まっている。

    (6)「ドネツィク州で戦う旅団を率いる司令官は、「我々は全面戦争を戦い続ける体制にない」ともらす。各旅団はそれぞれ自前で広告やSNSを通じてPRを展開して新兵を募集し、ドローンや軍用車を購入する寄付金を集めている。司令官は、「兵士を訓練したり休ませたりしなくては効果的には戦えない。政府も軍も社会も変わらなくてはならない。我々には時間がない」と訴える」

    ウクライナ各旅団は、それぞれ自前で広告やSNSを通じてPRを展開して新兵を募集し、ドローンや軍用車を購入する寄付金を集めている。ここまで来た以上、継戦は困難だ。


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