勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    中国政府はウクライナ戦争以降、ロシアから欧米による制裁を回避する実例を学ぶなど熱心だ。中国は、ロシアによる全面侵攻後の数カ月間に複数の省庁を横断する組織を設置したほどである。欧米による制裁の影響を研究し、指導部に報告書を定期的に提出している。これは、米国とその同盟国が台湾を巡る紛争で中国に同様の制裁を科した場合に備え、その影響を緩和する方法を学ぶことが目的だという。 

    中ロの経済規模は段違いである。中国が、世界のサプライセンターで西側経済と密接に結びついていることから、ロシアでは通用する回避策も中国に使えない限界がある。中国は、早とちりしないことが肝心だ。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月2日付)は、「中国、制裁回避はロシア手本に 台湾有事に備え」と題する記事を掲載した。 

    中国政府当局者らは、定期的にモスクワを訪れ、ロシア中央銀行や財務省、また制裁対策に関わるその他の機関と会合を持っていると関係者らは述べた。中国によるこの動きはこれまで報じられていなかったもので、経済政策と地政学的戦略の境界線がますます曖昧になる中、ロシアのウクライナ侵攻によって引き起こされた新たな経済戦争の時代を象徴するものでもある。またこの傾向は、交渉と強制の手段として関税を活用するとしているドナルド・トランプ次期米大統領の2期目でさらに強まる可能性が高い。

     

    (1)「中国政府の意思決定に近い関係者らは、(ウクライナ侵攻後設置した)複数の省庁を横断する研究組織が(台湾)侵攻準備を意味するものではないと注意を促し、政府として武力紛争とその経済的影響という「極端なシナリオ」に備えている状況だと述べた。中国にとっては、世界最大の3兆3000億ドル(約494兆円)以上に上る外貨準備も大きな懸念の一つとなる。ウクライナ侵攻後に米国やその同盟国がロシアの国外資産を凍結したことを受け、中国政府は米国債などドル建て資産から準備金を多様化する方法をより積極的に模索するようになっているという」 

    中国政府は、ロシアのウクライナ侵攻後に経済制裁による影響と回避策を研究している。だが、中国とロシアでは、経済規模や西側との経済依存度で格段の違いがある。部分的には参考になっても、制裁回避の「決め球」はない。 

    (2)「中国指導部が、外貨準備関連の制裁リスクを警戒していることを示すかのように、習近平国家主席は2023年秋、国家外貨管理局(SAFE)を珍しく訪問した。中国政府の意志決定に近い前出の関係者らはそう話す。習氏はその際、外貨準備をどのようにして守るかについて質問したという。対ロシア制裁に関する中国の省庁間グループは、経済・金融問題を担当する何立峰副首相の監督下にある。習氏直属の何氏は、中国経済を西側諸国の制裁から守る防御策を主に立案する役割を担っている。中国の対ロ接近に詳しい関係者は、「(中国政府は)事実上、あらゆることに関心がある。その範囲は制裁回避の方法から、内製化を進めるためのインセンティブといった(制裁の)各種プラス効果にまで至る」と述べた」 

    外貨準備高3兆3000億ドルの一部でも、差し押さえられなくするためには、米国債を保有しないことも手段だろう。だが、外貨準備は輸入決済に必要であるから一定量(普通は3ヶ月分)を必要とする。問題は、必要物資の輸入ができなくなる事態だ。中国経済は大混乱するであろう。

     

    (3)「米シンクタンクの大西洋評議会とロジウム・グループによる昨年の報告書によると、西側諸国が全面的な金融制裁を実施すれば、中国の金融システムは混乱し、貿易も滞り、さらに中国が国外の銀行に預けている資産や外貨準備金3兆7000億ドルが危険にさらされるだろうと分析する」 

    中国経済の首根っこを抑えるには、西側諸国が全面的な金融制裁を加えることだ。輸出入業務はストップする。 

    (4)「米国務省の元制裁担当官エドワード・フィッシュマン氏は、(中国が)「対ロ制裁から得られた教訓の一つは、大規模な経済に制裁を科し始めると、国内で経済的・政治的な影響が出るということだ」と述べている。製造大国である中国は、グローバル・サプライチェーン(供給網)とのつながりがもたらす潜在的な落とし穴についても、ロシアの経験から学んだ」 

    西側が、大規模な経済に制裁を始めれば、「世界の工場」と言われる中国は身動きできなくなる。西側諸国が、サプライチェーンの「脱中国」を図っている理由もここにある。

     

    (5)「ロシアは長年にわたり、経済の自給自足を目指してきたが、ほとんど失敗に終わっていた。制裁が科された時、同国は突然入手できなくなった西側の部品に深く依存していることに気付いた。その結果、モノ不足が生じ、自動車製造など産業全体が一時ストップした。生産再開後、ロシアの自動車メーカーは必要な部品がなかったため、当初はエアバッグなどの安全機能なしで車を製造した。フィッシュマン氏は、「制裁は、グローバル・サプライチェーンに組み込まれている全ての生産部門にとって本当に破壊的なものになり得る」と述べる。「それは中国を非常に脆弱(ぜいじゃく)にする」 

    下線部は、中国経済が世界経済に組み込まれている以上、「謀反」が不可能ということだ。「台湾は中国領」ということで気ままに動き出せば、その反作用は極めて大きいことを知るべきだろう。

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    米ワシントンで10月23~25日にかけて、20カ国・地域(G20)と主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議が開催された。その間、中国やロシアはBRICSなどの枠組みを通じて新興国との関係を深めて対抗する形になった。BRICSは、中ロの思惑通り、西側への対抗軸になれるのか。実態は、不揃いで「興味半分」で集まっているのが実態のようだ。 

    『ロイター』(10月25日付)は、「BRICS拡大後初の首脳会議、増大する『非西側』の影響力誇示」と題する記事を掲載した。 

    BRICSは、首脳会議参加国の人口を合わせれば世界全体のほぼ半分に達し、加盟国は増え続けている。依然として国際通貨基金(IMF)と肩を並べて基軸通貨であるドルに対抗するにはほど遠いとはいえ、加盟国が今年9カ国に拡大した後初となった今回の首脳会議開催で影響力の増大ぶりを見せつけた。 

    (1)「閉会に当たって公表された共同宣言は、長々と書き連ねてはいたものの、西側主導で作られた決済・貿易制度や制裁の仕組みを回避する新たなメカニズムの創設については具体的に触れなかった。プーチン氏にとっては、多くのリーダーがロシアに集まったという事実だけでも、ロシアが世界経済から孤立しているという西側の主張への反論に役立つ。経済シンクタンク、ブリューゲルの上級研究員、アリシア・ガルシアエレロ氏は「西側諸国は首脳会議の重要性を理解していない。今回の会合は西側が力を失いつつあることを示している」と述べた」 

    BRICSは、中ロの「隠れ蓑」になっている。とりわけ、ロシアのプーチン氏には貴重な存在である。一方、BRICSの存在が西側の力を失っている証拠とみる向きもいる。

     

    (2)「アフリカ諸国の統治のあり方を調査している財団を運営するモ・イブラヒム氏は「BRICSへの参加を希望する国々がどれほど多いかを認識すべきだ。第二次世界大戦後の1945年頃に設立された、代表性や民主性に欠ける機関は全く変わっていないことが明らかだ」と述べた。プーチン氏によると、BRICSには30カ国以上が加盟を申請している」 

    BRICSへの参加国が多いのは、「藁をつかみたい」という保険機能への期待だろう。ハッキリ言えば「弱者連合」である。自らは改革せずに、恵みを待っている集団のようにみえる。 

    (3)「BRICSは2006年にブラジル、ロシア、インド、中国で発足したが、これまでの実績は一長一短。ウィーン国際経済研究所のマリオ・ホルツナー氏の試算によると、発足後も創設4カ国の1人当たり国内総生産(GDP)の伸びに大きな変化は見られない。また、BRICSの新開発銀行(NDB)は今年の融資予定額が50億ドルと、世界銀行が計画していう与信や融資、供与の合計額728億ドルに比べれば微々たるもので、他のプロジェクトもまだ初期段階に過ぎない」 

    BRICS創設4ヶ国の1人当たり名目GDPの伸び率には、大きな変化がみられないという。「中所得国の罠」に落込んでいる。改革がストップしている証拠であろう。

     

    (4)「BRICSは加盟国が増えるにつれて、加盟国間の規模や影響力の違い、対立する案件などにより、共通する課題で合意を形成するのが難しくなると見られている。しかし、加盟を望む国は既に世界の商取引の5分の1を占めており、これらの国はBRICを事実上の貿易フォーラムとみなしている」 

    BRICS加盟を望む国々の貿易額は、世界の2割に達している。だが、最大の市場は米国である。ここへ輸出できるメリットが最大のはずだ。米国へ背を向けたBRICSは、存在し得ないであろう。 

    (5)「BRICSが構築を目指す独自の決済システムがルの支配をすぐに脅かすことはないと見られるが、こうした取り組みは、自国の政策が将来西側から制裁を受けるのではないかと恐れる国にとって魅力的だ。「西側諸国との間で将来起きるかもしれない摩擦に対する地政学的な緩衝材として、こうした代替構造を作り、リスクを分散している」と、リスク情報会社ベリスク・メープルクロフトの上級アナリスト、ハミッシュ・キニア氏は分析した。BRICSは「世界秩序が変化する兆しであって、秩序の変化を引き起こしている原因ではない」と言う」 

    下線部こそ、BRICS参加国の本音部分だ。西側諸国との摩擦を起こしやすい国は、そのリスク分散でBRICSを利用するという狙いである。ヘッジを賭けているのだろう。

     

    (6)「実際のところ、BRICSは加盟国や加盟を希望する国から、IMFに対する明確な代替手段というよりも、世界が地政学的変化に直面する中で賢くリスクを分散させるための手段として利用価値があると受け止められている。中国人民大学国際関係学院の時殷弘教授は、「(中国にとって)BRICSは戦略的かつ経済的な連合ではない」とし、多くのBRICS加盟国が西側諸国と関係を促進していると指摘した」 

    BRICSは、愚痴を言い合う場所であろう。自らの改革努力を棚上げして、多くの恵みを待っているのであろう。下線部は、BRICSが戦略的かつ経済的な連合でないと言い切っている。この発言の主が、なんと中国の時殷弘教授だ。意味深長である。

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    韓国の国家情報院(国情院)が18日、北朝鮮軍のロシア派兵をめぐり異例にも報道資料を出して関連情報を公開した。北朝鮮特殊部隊1500人が、すでに派兵された事実と、北朝鮮軍の個人の写真まで公開した。韓国は、「前例のない脅威」に「前例のない対応」をした形だ。 

    (1)「韓国国情院は今回、「ロシア太平洋艦隊所属の揚陸艦4隻、護衛艦3隻が8日から13日にかけて北の清津(チョンジン)・咸興(ハムフン)・舞水端(ムスダン)近隣地域から特殊部隊およそ1500人をロシアのウラジオストクに1次移送するのを完了した」と明らかにした。具体的にロシア艦艇が、北朝鮮特殊部隊兵力を移送する動きに関連し、人工衛星撮影写真も公開した。外国の衛星写真提供民間会社AIRBUSが提供した写真と、政府が運用する衛星が撮影したと推定される写真など3枚を北朝鮮軍派兵の証拠として提示した。ウクライナ情報機関と協力して人工知能(AI)顔認識技術を適用した結果、北朝鮮軍ミサイル技術者を特定した」 

    韓国国情院は、北朝鮮がロシアへ特殊部隊およそ1500人を派兵したと発表した。具体的な証拠写真も添えている。

     

    (2)「特に北朝鮮軍が投入された地域や部隊名まで詳細に特定したのは、偵察資産だけでなく内部情報に直接接近したという解釈が可能だ。盗聴・傍受やヒューミント(HUMINT、人的情報資産)まで動員した結果と推定される。これは「情報は握っているほど価値が高まる」という過去の公式とは異なる接近だ。最近の情報戦で浮上する「戦略的機密解除」技法を積極的に活用したということだ」 

    北朝鮮軍が、投入された地域や部隊名まで詳細に特定されているのは、韓国情報網の力量を示したとみられる。 

    (3)「趙太庸(チョ・テヨン)国情院長も7月の国会情報委員会で「過去には軍事・安保分野の情報は絶対に外部に露出しないのが望ましいと評価されたが、最近、米国をはじめとする主要先進国では、戦略的秘密公開形態で一部を公開することで関係国家の警戒心を高める目的で使われる傾向がある」(国民の力情報委幹事の李成権議員)と説明した。一例として2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻当時、米国はロシアの地上攻撃時点まで特定の情報報告を友好国と共有し(当時、米ポリティコ報道)ロシアの動態を把握している事実を意図的に浮き彫りにした」 

    韓国情報院が、北朝鮮情報をあえて公表した理由は、米国CIAによってロシアのウクライナ侵攻情報を事前に発表した例に倣ったものだ。

     

    (4)「韓国国情院が情報資産の露出リスクまで甘受して関連情報を公開したのも、これにより得るメリットの方が大きいという判断のためと解釈される。情報力を誇示する一方、ロシアと北朝鮮に内部の「穴」を疑わせ、不安と亀裂を誘発する効果があるからだ。高麗大の南成旭(ナム・ソンウク)統一融合研究院長は、「国情院が異例にも大量の物証を公開したのは、それだけ情報の信憑性に自信を持って心理戦をしているという傍証」とし「ただ、朝ロは国際世論を眼中に置かず行動しているため、当分は『マイウェイ』の動きを見せる可能性が高い」と話した」 

    今回の韓国情報院の情報公表で、ロ朝は衝撃を受けているはずである。この件について、ロ朝が沈黙していることに表れている。事前に情報が察知され、筒抜けになっていたからだ。 

    (5)「朝ロの行動を抑止できなくても高い費用を払わせる効果はあるとみられる。統一部の金秀卿(キム・スギョン)次官はこの日、チャンネルAに出演し「『暴風軍団』と呼ばれる特殊部隊の1次派兵があったのに続き、近いうちにその配下部隊員が追加で派兵されるとみられる」とし「防御より攻撃に特化している部隊員であり、激戦地のクルスクが(投入される戦場として)可能性があるのではと思う」と話した」 

    韓国統一部は、近いうちに北朝鮮の実戦部隊が派兵されると予測している。

     

    (6)「ウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官は1月、米外交専門紙『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿で「米国は情報外交の価値が高まっている点を学んでいる」として、次のように指摘した。「戦略的機密解除は競争者を弱化させ、同盟を結集するために特定の機密を意図的に一般公開するものであり、これは政策立案者に強い道具となっている」と指摘」 

    バーンズ米CIA長官は、事前に機密情報公開が敵方を弱体化させ、同盟側を結集させるとしている。中国が台湾侵攻を行えば、事前に情報が公開され西側が準備する時間的ゆとりができる。奇襲攻撃はできない時代だ。 

    (7)「(今回の韓国情報院の発表は)バーンズ局長の説明のように、同盟および似た立場の国が警戒心を共に高める効果もある。今回の件の余波で北大西洋条約機構(NATO)のウクライナ派兵論がまた台頭するという見方が出てきた。マルク・ルッテNATO事務総長は18日、北朝鮮のウクライナ派兵について「現在までの我々の公式立場は確認不可だが、もちろんこの立場は変わる可能性がある」と話した。主要国の情報機関も朝ロ間の動向を注視する可能性が高まった」 

    NATOは、北朝鮮のロシア派兵を重大視するであろう。火に油を注ぐことにならぬよう、ロシアへ自重を望みたい。

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    ロシアと中国が、資金決済を伴わない「物々交換」による貿易を早ければ秋にも開始する可能性がある。ロイターが報じた。両国とも、米国が監視する銀行システムの利用を限定的にとどめる狙いだ。

     

    『ロイター』(8月9日付)は、「ロシアと中国、『物々交換』貿易を秋にも開始か=関係筋」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアと中国が、資金決済を伴わない「物々交換」による貿易を早ければ秋にも開始する可能性があることが、事情に詳しい関係者3人の話で明らかになった。両国とも、米国が監視する銀行システムの利用を限定的にとどめる狙いがある。

     

    (1)「プーチン大統領が5月に中国を訪問した際、両国貿易を巡る決済の遅れが重大な問題として議論された。対応策として、米国の監視が届きにくい中国の小さな地方銀行を使うといった案が浮上したが、問題の解決には至っていない。物々交換貿易により、両国は決済の問題を回避できる上、両国間の貿易に対する西側当局の監視力を弱め、為替リスクを抑えることができる」

     

    中国とロシアが、物々交換という最も原始的な方法によって、「地下貿易」を始めるという。こうなると、中国からロシアへ何が渡るかが、全く闇の世界になる。ただ、「価格」がないから、中国に買い叩かれることは明らかである、ロシアは、「弱者」の身分になっているので不平を唱える立場でない。長い目で見て、これが中ロのしこりとなろう。

     

    (2)「ロシア政府は物々交換貿易に関する規則の策定を進めている。ロイターが取材したロシア筋は、中国も同様の作業を進めていると想定している。ロシア大手銀行の幹部は、物々交換貿易の計画は準備が整いつつあると話したが、詳しくは説明しなかった。決済に従事している関係者は、ロシアからの食品輸出が協議されていると話した。ロシアの工業筋は、中国から機械を輸入する見返りに、ロシアから金属を輸出する案が企業間で話し合われていると述べた」

     

    ロシアからは中国へ食品や金属が輸出され、中国が機械を輸入するという。中国は現在、異常気象によって中国の「穀倉地帯」である河南省が、大きな打撃を受けている。河南省は中国小麦の3割を生産している。ロシアから物々交換で輸入できれば助かるだろう。国内は,工業製品が過剰生産で在庫の山である。大幅ディスカウントで輸出している。それだけに、ロシアへ圧力をかければ中国の言い分が通る可能性が強まる。

     

    ロシアは、中国と物々交換を始めるほどの窮迫した事態になっている。今後の経済見通しはどうか。IMF(国際通貨基金)と世界銀行は、25年以降に厳しい見通しを発表している。

     

    IMFは7月16日、世界経済見通しを発表した。ロシアの実質GDP成長率について、2024年は3.2%、2025年は1.5%になると予測。前回見通し(24年4月)と比較して、2024年は据え置いたが、2025年は0.3ポイント下方修正した。

     

    世界銀行は6月11日に発表した世界経済見通しの中で、2024年のロシアの実質GDP成長率を2.9%、2025年は1.4%、2026年は1.1%と予測した。軍事関連の需要が引き続き経済を牽引するという「戦争景気」である。だが、これは線香花火であって持続性がない。軍需景気は、再生産効果がなく消耗一方の経済活動である。

     

    IMFと世界銀行に共通している点は、25年の経済成長率がいずれも1.4~1.5%へと急減速することだ。24年までの戦争経済が終わって、25年以降にその負の部分が顕在化する。世界銀行は、ロシアのマクロ・プルーデンス政策や住宅ローン補助金の縮小が民間需要を抑制すると予測している。マクロ・プルーデンス政策とは、金融システム崩壊を防ぐべく採用する「緊縮政策」である。これを採用せざるを得なくなるとみているのだ。率直に言えば、ロシア経済破綻回避という壁にぶつかると判断している。
     

    ロシア経済は25年に、ウクライナ侵略でいよいよ3年目へ入る。経済的に大きな重圧がかかってきたことを証明している。

     

     

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    米大統領選は、共和党のトランプ氏と民主党のハリス氏の対決になるが、ここへ一つの問題が浮上してきた。トランプ氏が、終身大統領制を目指しているのでないかという疑問が湧き起こっているからだ。トランプ氏が、キリスト教徒に向って「今回の選挙で私に投票してくれれば、次から選挙に行かなくても済むようにする」と発言している。この裏には、トランプ氏が、かねてから「終身大統領」になりたいと言い続けてきたことと符節があうのだ。 

    トランプ氏には、民主主義を普遍的なものと捉えるのでなく、「状況次第」という側面がある。今回の大統領選は、「男性対女性」「保守対進歩」「白人対非白人」の象徴的な戦いになると以上に、法に対する見方が「普遍的」(ハリス氏)か、あるいは「状況的」(トランプ氏)か、を巡る戦いにもなることだ。この点は、世界の民主主義にとって大きなターニングポイントになろう。

     

    『ブルームバーグ』(7月30日付)は、「トランプ氏『終身大統領』発言に偽りなし」と題する記事を掲載した。 

    トランプ前米大統領は7月26日夜、「終身大統領」になりたいと再びぶち上げた。同氏が好んで展開する持論の1つだ。 

    トランプ氏はフロリダ州で開催された宗教団体関連のイベントで「キリスト教徒の皆さん、今回だけ投票してほしい。もう投票する必要はなくなる」と呼掛け、こう続けた。「ぜひ投票を。4年後にはその必要はなくなる。われわれがうまく修正し、あなた方はもう投票しなくて済むようになる」と言った。 

    (1)「トランプ陣営は今回の発言について、王座や王権とは全く関係ないと主張。スポークスマンのスティーブン・チョン氏は、トランプ氏は 「多大な分断をもたらし、暗殺未遂事件にまで発展した敵対的な政治環境とは対照的に、この国を団結させ、すべての米国人に繁栄をもたらすことについて語っていた」と述べた。この解釈にはかなり無理がある。共和党が先頃ミルウォーキーで開催した全国大会で結束に注力すると述べたことを踏まえてもだ」 

    共和党は、トランプ氏の発言について王権を狙ったものでないと否定している。しかし、トランプ氏の持論であることを忘れてはならない。その機会があれば、「米大統領2期制」を廃止することを否定できないようだ。

     

    (2)「トム・コットン上院議員(共和、アーカンソー)は28日のトーク番組で、トランプ氏は「明らかに冗談を言っている」と述べた。トランプ氏の批判派から擁護派に転じたニューハンプシャー州のクリス・スヌヌ知事(共和)は、発言は大げさな表現に過ぎず、「典型的なトランピズム」だと指摘。選挙の不正操作を意図した発言ではなく、国を立て直すと言いたかっただけだと続けた。リンゼー・グラム上院議員(共和、サウスカロライナ)は、トランプ氏が伝えたかったのは「米国という船を正し、次の世代に引き継ぐ」という点だけだと主張した」 

    共和党議員は、米国民主主義に危険はないと言っているが、鵜呑みにはできないだろう。米国の上下両院で共和党が多数を握れば発議できるからだ。 

    (3)「トランプ氏がここ数年、2期務めた後も政権を握りたいと繰り返し発言していることを認識するのが賢明な道筋だろう。11月の選挙で共和党が上下両院議会を掌握し、最終的に少なくとも38州の支持を得れば、憲法をいじり、大統領の任期を2期に制限している憲法修正第22条を廃止することもあり得る。トランプ氏は決して権力の放棄を望んでいない」 

    米国38州の支持を得れば、大統領の任期を2期に制限している「憲法修正第22条」を廃止することもあり得るのだ。そういう事態になれば、米国もロシアや中国並みに墜ちる。

     

    (4)「そもそも、トランプ氏とその側近らは、2020年の大統領選結果に異議を唱え数十件にわたる訴訟を起こしたが、失敗に終わった。彼らは選挙人の集計結果の正当性を損なうため偽の選挙人名簿を作成し、トランプ氏は選挙結果について争うよう州当局者に個人的に圧力をかけた。2021年1月6日には連邦議会議事堂襲撃をあおり、一段と露骨かつ大胆に選挙結果を覆そうとした。その後も選挙結果は自身に不利になるように操作されたとのうそをつき続けている。過去には、ホワイトハウスに8年いても満足できないかもしれないとも話している」 

    トランプ派は、2020年の大統領選結果に異議を唱え、数十件にわたる訴訟を起こした。これこそ、「終身大統領制」への憧れを示している証左だ。 

    (5)「トランプ氏は2018年、中国の習近平国家主席について「今や終身の国家主席となった。終身国家主席だ」とし、「彼にはこれができた。素晴らしいことだ。われわれもいつかやってみる必要があるかもしれない」と発言。2019年には「少なくとも10年か14年間」大統領であり続けるという夢も口にした。同じ年にツイッター(現X)で、自身の支持者らが2期よりも「長くとどまることを要求するだろう」と投稿。2020年の選挙戦の際にも、3期目のシナリオに触れていた」 

    トランプ氏は、習氏の「終身国家主席」に憧れを抱いている。世界を米中ロの3極の「専制体制」で取引しようという構想なのだろう。

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