勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    米国政府は、ロシアの凍結資産3000億ドル(約42兆3600億円)相当を接収する方策について、主要7カ国(G7)の作業グループで検討するよう提案したと英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が28日報じた。米国は、ロシアによるウクライナ侵攻から2年の節目となる来年2月24日に間に合うよう合意を急いでいるという。

     

    事情に詳しい複数の関係者がFTに語ったところでは、12月開かれたG7財務相のオンライン会合で協議されたが、決定には至っていない。FTによれば、欧州各国で引き続き活発に検討され、ウクライナ支援への活用に向け、ロシア資産接収に向けた作業が加速している。西側にとって、その重要性が増す状況を浮き彫りにすると同紙は伝えた。

     

    米国政府が、ロシアの凍結資産の接収について結論を急いでいるのは、米議会で共和党がウクライナ支援を渋っていることと関係があろう。共和党は、来秋の大統領選でバイデン大統領を破るためには、ウクライナ侵攻でロシアの勝利が打撃を与えられるという近視眼的な対応を始めているからだ。こういう事態を見据えて、米国政府は苦肉の策に出ている。

     

    『フィナンシャル・タイム』(12月13日付)は、「米共和党で広がるプーチン支持の影」と題する記事を掲載した。

     

    米国の外交政策において、ウクライナを巡る問題ほど議論の流れが大きく変わった例はあまりない。1年前にはロシアを分割し、プーチン大統領を戦争犯罪で裁くべきだと議論していた。ところが米議会は今、ウクライナ支援を継続すべきかどうかで分かれ、紛糾している。米政府はウクライナがロシアの手に落ち、それにより西ヨーロッパがロシアの脅威にさらされるようになるのではないかとのリスクにおびえている。

     

    (1)「客観的に分析すると、ロシアのウクライナ侵攻による地上戦は、西側諸国がウクライナ支援を継続できなければプーチン氏に有利に傾くことは明らかだ。プーチン氏は今、米国の「ウクライナ支援疲れ」につけ込み、同国のもう片方の腕をも無力化しようとしている。それは、ここへきて米国内でかつてないほど存在感を増しているプーチン氏に好感をもつ、あるいは共感する人々の力を活用しようという目論見だ。共和党は強力なウクライナ支持派と、孤立主義とあからさまなプーチン信奉者がない交ぜとなった勢力に二分している」

     

     

    共和党内には、プーチン支持派が増えているという。目的は、バイデン大統領を窮地に追込むことである。

     

    (2)「ウクライナ支援に反対する主張のほとんどは精査すれば根拠に欠けることがわかる。米国からの支援金の大半は米国内での兵器製造に使われており、ウクライナに直接投入されるわけではない。ウクライナへの支援額は米連邦予算の1%にも満たない。金融支援としてウクライナ政府に送られる米ドルは厳しい監査を受けており、大型ヨットの代金などに使われることは決してない。また米国がウクライナで実際に戦っているわけではないので、米市民の間でウクライナ戦争に対する疲労感が生じているということもほぼない」

     

    ウクライナへの支援額は、米連邦予算の1%にも満たない金額である。それでも、共和党の一部は、バイデン大統領を困らせて大統領選で共和党の勝利に導こうという狙いであるという。

     

    (3)「よく耳にするのは、ウクライナ支援に1ドル支出するたびに台湾防衛のための資金が1ドル減るという議論だ。だが、実際はその正反対に近い。中国とロシアは「制限なき」協力関係を結んでおり、米国の弱体化を狙っている。それを達成するための最も効果的な取り組みはロシアがウクライナ戦争で勝利することだ。そうなれば北大西洋条約機構(NATO)の士気が下がり、欧州の穀倉地帯はロシアの手に落ちるだろう。軍事戦略家が100年以上前から指摘してきたように「ウクライナを制する者がユーラシアを制す」ということになるのだ。むしろ、米国がウクライナに兵器を送るたびにロシアはウクライナ戦争に勝つことが難しくなるわけで、そのことは中国に台湾問題について熟考させることにつながる

     

    ロシアがウクライナで勝利を収めることは、中国の台湾侵攻を促す口実になる。こういう関連性を共和党議員は、理解していないようである。

     

    (4)「なぜ、プーチン支持者がここまで米共和党内に広がるのだろうか。それはプーチン氏がバイデン氏の敵だからだ。「敵の敵は自分の味方」ということで、それ以上複雑な事情はない。米国の極右勢力には純粋にプーチン氏を支持する人もいるが、プーチンの肩を持つ大多数はトランプ米前大統領のような現金な日和見主義者だ。つまり、「バイデン氏にとって悪いことは共和党にとってよいこと」であり、従ってウクライナが負ければ、それは共和党にとって喜ばしいことを意味する

     

    米共和党の一部が、プーチン氏の肩を持つのはバイデン大統領を困らせることが目的である。米国政府は、こういう共和党の動きを封じるべく、ロシアの接収資産3000億ドルを、戦費に充てる案を大急ぎでまとめようとしているのであろう。

     

     

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    中国は7月末に突如、外相の秦剛氏を解任した。理由は一切、明かされないままである。だが、この事件の裏にはロシアが絡んでいたという情報が登場した。英紙『フィナンシャル・タイム』によって、秦氏は女性問題が絡んでいたとされた。この情報の出所は、ロシアであるという。目的は、中国が積極的であったロシアのウクライナ侵攻休戦を葬るためだという。そう言われれば、その後の中国はウクライナ問題について沈黙している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月13日付)は、「中国外相さえ消すロシアの密告力 ウクライナ絡む暗闘」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員中沢克二氏である。

     

    ロシアから侵攻を受けたウクライナが、反転攻勢を宣言して半年。作戦は順調とはいえず、戦況膠着が目立つ。その激しい実戦と別次元の国際政治の世界で、ウクライナと米中も絡む神経戦が演じられていた経緯が次第に明らかになってきた。

     

    (1)「中ロ関係を巡る今年の重要な出来事は、まず3月後半の習の訪ロだ。中国トップとして異例の3期目入りを果たした後、初の外国訪問だった。ここで習とプーチンは中ロの蜜月関係をアピールしたはずだった。だが、2カ月もしないうちに中国代表団が、ロシアの意向に反してウクライナ入り。ゼレンスキーにも会ってしまった。表でも裏でもロシアの心強い味方のはずの中国が基本姿勢を変え、「ロシア離れ」に動いたのではないか。ロシアが疑心暗鬼に陥るのは無理もない。ここから中ロ関係は部外者が考える以上にギクシャクする」

     

    ロシアは、中国が唯一の頼りである。その中国が、ウクライナ休戦問題で代表団をウクライナへ送った。ロシアは、これを中国の裏切りとみた。そこで、外相秦剛を失脚させる戦術に出たたというのだ。

     

    (2)「焦るロシア側は、ついに大きな勝負に出る。それは「情報」を駆使した対中攻勢だ。狙ったターゲットは、時の中国外相。問題は、ロシアの標的が習自らの意向で外相に抜てきされた秦剛だったという「アヤ」である。ロシア側の理屈はシンプルだった。秦剛が、李輝率いる中国外交代表団をウクライナ、欧州各国、ロシアに送った形式上の責任者であるからだ。真実とは別に、ロシアは、外相に抜てきされる前、短い期間、駐米大使を務めた秦剛に「親米派」というレッテルをあえて貼った。そして、「(秦剛は)米国のスパイである疑いが濃いという内部情報を中国上層部に伝えた」。中ロ関係に詳しい別の人物の見立てでは、この「密告」ではロシアがつかんでいた「証拠」も示されたという」

     

    ロシアは、秦剛外相の失脚を狙って情報戦を展開した。秦氏の女性問題である。

     

    (3)「では、ロシアが中国に突き付けた証拠とは何か。その肝として、先に世界的な話題になった秦剛の女性問題の件が含まれていたのは間違いない。妻子ある秦剛が、中国系テレビ局の有名なメディア人だった女性と不倫関係になり、米国での代理母出産という方法で子供をもうけたとされる問題は、既に英紙フィナンシャル・タイムズが詳しく報じている。ロシアは、親米派との烙印(らくいん)を押した秦剛と、米英にも在住したこの女性の問題に焦点を当てた。秦剛が消えてからの中国は、ウクライナ侵攻を巡り「ロシア寄り」という従来のスタンスに急速に戻ってゆく。中国が、両国停戦の仲介役になる、という声を発する場面は全くなくなった」

     

    秦氏の親密であった女性は、米国へ中国の機密情報を漏らしたのでないかという疑惑が持ち上がった。こうして、秦氏は外相を罷免される羽目になった。これ以降、ウクライナを巡る和平問題は消えてしまった。

     

    (4)残る謎は、なぜ中国が、内政干渉にみえるロシアの主張を受け入れたのかだ。それは、中国が自分の手で改めて過去に遡って秦剛周辺を詳しく洗ってみると、単なる女性問題の範囲に収まらない大変な問題が存在することがわかったから、とみるのが自然だ。秦剛の女性問題は、ロシアの密告がひとつのきっかけにせよ、最後は中国共産党内の深刻な内政上の「政治問題」に発展した。別の案件が絡んでいたからである。今回は、中国が最も重視する対米関係だ。中国の内政上の様々な問題が、秦剛と親しい女性を通じて米側に漏れていたとしたら……。そう考えた中国上層部は、ロシアの密告を捨て置けなかった。万一の場合、集権に成功した習の体面に大きな傷が付きかねない」

     

    秦剛氏は、当局の調べに対して中国情報が米国へ漏れていないと強調している。だが、秦氏を外相に任じたのは習氏である。万一、中国情報が米国へ渡っているとすれば、習氏の責任は免れなくなる。そこで、安全策として秦氏を罷免したという見方だ。

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    ロシアは、ウクライナ侵攻を始めてすでに16ヶ月経った。ロシア経済は、完全に軍需で拡大するという不安定化する。若者は、30万人動員で軍務についているほか、国外へ大量流出したことも手伝って、労働力不足の深刻化に直面。軍需工場では、「学歴は今やあまり重要ではないだろう。正直なところ、手が2本、足が2本、そして目と耳があれば採用される」という事態だ。 

    『フィナンシャル・タイム』(11月9日付)は、「戦時経済体制のロシア、深刻化する人手不足」と題する記事を掲載した。 

    ウクライナ侵攻を続けるロシアが長期戦に備えるなか、ロシアの軍と兵器工場がますます多くの労働者を取り込んでいる。民間部門は痛みを伴う人手不足に見舞われ、経済全体が不安定化している。労働市場は非常に逼迫している」。ロシアの大手鉱山会社のトップはフ『ィナンシャル・タイムズ』(FT)に語った。「原因は労働力の戦争動員や国外流出だけでない。一番の問題は兵器生産だ」と指摘する。

     

    (1)「労働力不足は、クレムリン(ロシア大統領府)が描くバラ色の見通しとは相反するロシア経済の弱点を露呈させている。プーチン大統領は、ロシア経済の健全性と戦闘や西側諸国の制裁が深刻な損害をもたらしていないことの証拠として、同国の国内総生産(GDP)は増加していると繰り返し強調している。だがエコノミストらは、GDPの数字は国防費の大幅な増加によって実態以上に押し上げられており、長期的な不安定化要因になり得る構造的な問題を見えなくしていると指摘する」 

    GDPは、軍需費の増大で拡大する。長期的にみれば、国民生活は何ら豊かにならない。こういう矛盾した事態が起こっている。 

    (2)「ロシアの危機は戦闘でとりわけ深刻化している。2022年には、ウクライナ側がロシア軍の侵攻を食い止めたことを受け、約30万人が緊急動員された。さらに数十万人が兵役を逃れるため国外に脱出した。脱出者の多くは教育を受けた若者で、高度なスキルを持つ人材に頼るIT(情報技術)などの業界には大打撃が及んでいる。エコノミストやロシアの実業界からは、紛争の長期化を見越して経済を戦時体制に移行させるという政府の決定が状況の悪化を招いているとの声が聞かれる。防衛企業が軍への供給でフル稼働するなか、民間業界は労働者の確保に苦戦している。ロシアの失業率は過去30年間で最低の3%に低下しており、ロシア経済の大半を占める労働集約型産業は働き手の確保に苦労している」 

    ロシア経済の過半を占める労働集約型産業は、国民生活に直結する。戦時経済下で労働力不足に直面しているのだ。

     

    (3)「米シンクタンク、欧州政策分析センターの非常勤シニアフェロー、パベル・ルジン氏は「23年1月以降、軍事関連産業(の購買担当者景気指数)は30〜40%急上昇している」と話す。ロシア政府は9月、24年の国防費をGDPの約6%に相当する10兆8000億ルーブル(約17兆8000億円)とする予算案を発表した。ウクライナ侵攻を始める前年の21年比で3倍、23年の当初予算比では1.7倍になる。独立系アナリストらは、機密費を含めると実際の数字はさらに上がるとみている」 

    24年国防費は、ウクライナ侵攻を始める前の21年比で3倍へ。23年比で1.7倍へ急増する。これに合わせて民間労働力が不足する。

     

    (4)「UPFのエニコロポフ氏は「ロシアの労働市場と経済全体は限界に達している。ギリギリの状態を強いられているため、これ以上の生産は不可能だ」と述べた。例えば、ロシア西部のニジニ・ノブゴロド州では、当局が未曽有の労働力不足を報告していると、ロシア紙コメルサントの地方版が報じた。同州では登録失業者数が9月に27%減少し、製造業で1万7000人の欠員が発生した。そのうち7500人は防衛産業で、この1年で1600人の雇用が創出されるなど労働需要が高まっている」 

    ロシアは、労働市場と経済全体が限界に達している。となれば、ウクライナ侵攻を続ける余力は失われる。供給面から、ウクライナ侵攻は重大な局面を迎えることになりそうだ。 

    (5)「プーチン氏は今夏、この問題を認めた。大統領府で製造業の幹部と会談した際「労働力不足は中小企業に、いい意味ではなく影響を及ぼし始めている」と語った。プーチン氏に続く形で政府高官からも声が上がっている。レシェトニコフ経済発展相は9月、労働力不足は「ロシア経済にとって最大の内部リスク」だと発言した。ロシアの「アルミ王」とも呼ばれる大富豪のオレグ・デリパスカ氏も、防衛企業が他部門から労働者を呼び込んでいるとの見方を示した。FTの取材に対し「国家資本主義は資金と資本、指令で成り立つ。(防衛企業には)資金があるため、人材を採用し、競争を続けるだろう」と語った」

    労働力不足が、ロシア経済にとって最大の内部リスクである。この矛盾は、どこかで吹き上げるだろう。 

    (6)「ロシアのデジタル発展・通信・マスコミ相は8月、国内でIT人材が50万〜70万人不足していると述べた。通信分野のある管理者は、熟練した専門職はもはや「希少種」だと語った。労働市場全般の逼迫について問われると「目も当てられない」状況だと嘆いた」 

    IT人材が、50万~70万人不足している。生産性上昇を押し上げる力が落ちている。

     

     

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    ロシアの傭兵部隊ワグネルの創設者プリゴジン氏は、武装反乱が1日で失敗に終わった。これが、プーチン大統領の権力を弱めたことは疑いない。それだけでない。プーチン氏にとって最も重要な盟友である中国の習近平国家主席にも、実質的に後退を強いたことになろう。肝心の中国経済の低迷や、米国が主導する西側連合との対立激化という問題に直面しているからだ。

     

    「拙いことになったな」。これが、習氏の抱く個人的に正直な危機感であろう。現実は、強気の姿勢を崩さず扇動を続けている。焦点は、習氏がプーチン氏のウクライナ侵攻と傭兵部隊反乱から教訓を引きだせるかどうかだ。習氏の判断が、中国の命運を握っている。

     

    『ロイター』(7月5日付)は、「ロシア劣勢と習氏の打撃、西側は好機生かせ」と題するコラムを掲載した。筆者は、ロイター・コラムニストHugo Dixon氏である。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻直前、習氏はロシアとの「無制限の」協力関係を築くと約束し、もしも、ロシアがすぐに戦争で勝利していれば、習氏は素晴らしい戦略を打ち出した形になったとみられる。この同盟は、西側諸国にとって「待った」をかける手段が乏しい、との印象をより強く与えただろう。現実を見ると、ロシアは戦争でしくじった。そして、ワグネルの反乱はプーチン氏のイメージを弱めた上、ウクライナの反転攻勢を後押しする可能性がある。それでも、実際に中国は自らの国際的イメージが損なわれるという代償を伴う形で、プーチン氏を支えている。

     

    (1)「今や西側の地政学的戦略を策定する上で基幹的な存在となりつつある主要7カ国(G7)は、中国経済との関係で「デリスク(リスク低減)」や、先端半導体など軍事転用の恐れがある技術の輸出規制を共同で推進している。米国は、人工知能(AI)向け半導体の対中輸出規制も検討しているところだ。これら全ての要素が、既に低調な中国経済の足をさらに引っ張るだろう。もっとも、中国が抱える最大の問題は、2008年の世界金融危機以降ずっと、借金に頼って成長てこ入れを図ってきたことにある。この間に公的部門と民間部門の合計債務は倍増して国内総生産(GDP)の3倍まで膨らんだ。平均すると年間でGDPの1割の規模で借り入れが増えた計算になる」

     

    中国経済が2008年以降、過剰債務によって支えられてきたことは明白である。債務残高の対GDP比が300%にも達する事態に陥っているからだ。この異常事態が、いつまでも続くはずがない。精算時期を迎える。それが、今から始まるのだ。

     

    (2)「経済の元気が衰えれば、中国が海外に軍事力を投入する力にも制約が加わる。防衛費の急拡大は無理だし、「グローバルサウス」と呼ばれる途上国に影響力を及ぼすための「債務のわな」も、積極的には展開できなくなる。こうした情勢変化を受け、中国がどう対応するかについては2通りの考え方がある。

    1)強圧的な態度を慎むというアプローチだ。

    2)国力が峠を越える前に早く影響力を行使しなくてはいけないという重圧を感じるというシナリオだ。プーチン氏の経験が、中国にとって「反面教師」になるのは間違いない。プーチン氏は、他国を侵略すればそのツケをどのように払わされるのか、身をもって示してくれた」

     

    中国が、経済衰退過程で取り得る道は二つある。これまでの強硬路線の修正か、強行突破かである。後者であれば、中国は破滅への道に転落である。

     

    (3)「G7は引き続き、台湾問題に関して最悪事態に備えなければならない。つまり同盟関係を強化しつつ、中国に対するデリスクの作業を加速させる必要がある。ただ、同時にG7は、最善の展開に向けた取り組みもできる。これは、先月のブリンケン米国務長官の訪中によって生まれた緊張緩和を土台として、共通の利益が得られる分野で、力を合わせる機会を探るという意味だ」

     

    G7は、中国に強硬路線(台湾侵攻)を諦めさせて、共通の利益が得られる融和路線への転換を誘導する必要がある。

     

    (4)「G7は、習氏に対してプーチン氏にウクライナの主権を尊重する形の和平協定を結べ、と働きかけるよう促し続ける必要がある。ある段階で習氏は、プーチン氏は敗北者なのでそうするべきだとの結論に達するだろう。中国と米国主導の同盟の対立は、依然として危うさをはらんでいる。それでも中国の力が落ちてきたことは恐らく、西側にとってマイナスよりもプラスを多くもたらすとみられる」

     

    中国の国力低下は、台湾侵攻への大きな障害になるはずである。だが、習氏はこうした合理的判断を受け入れる冷静さがあるかどうかだ。側近の民族主義者(王滬寧氏)が気がかりな存在である。王氏は、生粋の民族主義者であり党内序列4位に上がっている。

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    ロシアのウクライナ侵攻は、意外な展開になってきた。傭兵部隊ワグネルを率いるプリゴジン氏が、公然と軍事的反抗姿勢を取っているからだ。

     

    プリゴジン氏は23日、ウクライナでの戦争は「ショイグ(国防相)が元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだまし、いかれたウクライナが我々を攻撃しようとして、NATO(北大西洋条約機構)と一緒になって我々を攻撃しようとしているだとか、そんなでたらめをまきちらしていた」のだと攻撃した。

     

    『BBC』(6月24日付)は、「プーチン大統領、ワグネルを『裏切り』と緊急演説で非難 プリゴジン氏は『死ぬ覚悟』」と題する記事を掲載した。

     

    ワグネルの部隊は24日未明、ウクライナから国境を越えてロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌに入った。プリゴジン氏が同市内のロシア軍南部軍管区司令部に入る映像が拡散している。動画の中でプリゴジン氏は、ワグネル部隊がロストフを封鎖し「すべての軍事施設を掌握」したと宣言。セルゲイ・ショイグ国防相とヴァレリー・ゲラシモフ総司令官が会いに来ない限り、このまま首都モスクワへ進軍すると述べている。

     

    (1)「イギリス国防省は、一部のワグネル部隊が「ヴォロネジ州から北へ移動しており、首都モスクワを目指しているのはほぼ確実」との見方を示している。同州の州都ヴォロネジは、ロストフ・ナ・ドヌとモスクワの中間地点にあたる。BBCロシア語の取材に対して消息筋は、ワグネルの部隊がヴォロネジでも軍事施設を制圧したと話した。ヴォロネジ州の北にあるリペツク州のイーゴリ・アルタモノフ州知事は24日午後、ワグネルが州内で「装備」を移動させていると認めた」

     

    (2)「プーチン大統領は「ロシア市民への呼びかけ」と題された緊急演説を行い、全軍に勢力を結集するよう呼びかけた。大統領は、ワグネルによる行動は国民への裏切りだとして、ロストフ・ナ・ドヌで「情勢安定化のため断固たる対応」をとると強調。「内部からの反乱はこの国を脅かす恐ろしい脅威だ。この国と国民を攻撃するものだ。そのような脅威から祖国を守るため、我々は厳しい行動をとる」と述べた。同時にプーチン氏は、正規のロシア軍と共にウクライナで戦ってきたワグネルの雇い兵たちを「英雄」としてたたえた」

    大統領は、プリゴジン氏は名指ししなかったものの、その演説は同氏への直接的な警告と受け止められている」

     

    (3)「プーチン大統領の演説にプリゴジン氏が直接反応したものと思われる音声が、その後「テレグラム」に投稿された。プリゴジン氏の声に酷似した声は、「母国への裏切りについて、大統領は非常に間違っている」、「我々は母国の愛国者だ。我々は戦ってきたし、今も戦っている」と主張。「そして誰も、FSB(ロシア連邦保安庁)も、ほかの誰も、大統領が要求したように、我々に罪があると認めたりはしない」、「なぜなら我々は自分たちの国がこれ以上、汚職とうそと官僚主義の中で生きてほしくないからだ」と続けた。この後、プリゴジン氏は「テレグラム」に、ロシア軍が進軍するワグネルの車列を攻撃していると書いた。「まず砲撃、そしてヘリから空爆された」と、プリゴジン氏は具体的な場所や証拠を示さずに書いている」

    (4)「プリゴジン氏はこれに先立ち、メッセージアプリ「テレグラム」に、「自分たちは全員、死ぬ覚悟だ。2万5000人が全員。そしてその後にはさらに2万5000人が」と述べる音声を投稿した。同氏はさらに、プーチン大統領の演説とは裏腹に、自分たちの行動は「ロシア国民のため」なのだと述べた。ロシア第二の都市でプーチン氏の地元でもある西部のサンクトペテルブルクでは、市内のワグネル事務所を警察や国家親衛隊が強襲したという地元情報もある。プリゴジン氏が関係するホテルやレストランの近くでは、「覆面をかぶり自動小銃を持った」人物たちが配備されたと、現地メディアは伝えている」

     

    (5)「イギリス国防省は同日、「ロストフ・ナ・ドヌで、ワグネルはほぼ確実に、主要な防衛拠点を占拠した。その中には、ウクライナにおけるロシアの軍事作戦を統括する司令本部も含まれる」と状況分析を公表した。イギリス国防省はさらに、一部のワグネル部隊が「ヴォロネジ州から北へ移動しており、首都モスクワを目指しているのはほぼ確実」との見方を示し、「ワグネルとロシア治安部隊の戦闘はきわめて限定的で、おそらくその一部はワグネルを受け入れる格好で受け身のままだと思われる」と書いた」

     

    (6)「その上で、「これからの数時間において、ロシアの治安部隊、とりわけ国家親衛隊の忠誠が、この危機の展開を決定するカギとなる。この事態は、最近のロシア国家に対する最も重大な挑戦」だとの見方を示した」

     

    ロシアの治安部隊、とりわけ国家親衛隊が、ワグネルに対してどのように対応するのか。これが、極めて重要と指摘している。プリゴジン氏に共鳴するのかどうかだ。プリゴジン氏によるこれまでの発言では、同調者がいるとしてきたのでその真偽のほどが判明する。

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