ロシアは、ウクライナ侵攻を始めてすでに16ヶ月経った。ロシア経済は、完全に軍需で拡大するという不安定化する。若者は、30万人動員で軍務についているほか、国外へ大量流出したことも手伝って、労働力不足の深刻化に直面。軍需工場では、「学歴は今やあまり重要ではないだろう。正直なところ、手が2本、足が2本、そして目と耳があれば採用される」という事態だ。
『フィナンシャル・タイム』(11月9日付)は、「戦時経済体制のロシア、深刻化する人手不足」と題する記事を掲載した。
ウクライナ侵攻を続けるロシアが長期戦に備えるなか、ロシアの軍と兵器工場がますます多くの労働者を取り込んでいる。民間部門は痛みを伴う人手不足に見舞われ、経済全体が不安定化している。労働市場は非常に逼迫している」。ロシアの大手鉱山会社のトップはフ『ィナンシャル・タイムズ』(FT)に語った。「原因は労働力の戦争動員や国外流出だけでない。一番の問題は兵器生産だ」と指摘する。
(1)「労働力不足は、クレムリン(ロシア大統領府)が描くバラ色の見通しとは相反するロシア経済の弱点を露呈させている。プーチン大統領は、ロシア経済の健全性と戦闘や西側諸国の制裁が深刻な損害をもたらしていないことの証拠として、同国の国内総生産(GDP)は増加していると繰り返し強調している。だがエコノミストらは、GDPの数字は国防費の大幅な増加によって実態以上に押し上げられており、長期的な不安定化要因になり得る構造的な問題を見えなくしていると指摘する」
GDPは、軍需費の増大で拡大する。長期的にみれば、国民生活は何ら豊かにならない。こういう矛盾した事態が起こっている。
(2)「ロシアの危機は戦闘でとりわけ深刻化している。2022年には、ウクライナ側がロシア軍の侵攻を食い止めたことを受け、約30万人が緊急動員された。さらに数十万人が兵役を逃れるため国外に脱出した。脱出者の多くは教育を受けた若者で、高度なスキルを持つ人材に頼るIT(情報技術)などの業界には大打撃が及んでいる。エコノミストやロシアの実業界からは、紛争の長期化を見越して経済を戦時体制に移行させるという政府の決定が状況の悪化を招いているとの声が聞かれる。防衛企業が軍への供給でフル稼働するなか、民間業界は労働者の確保に苦戦している。ロシアの失業率は過去30年間で最低の3%に低下しており、ロシア経済の大半を占める労働集約型産業は働き手の確保に苦労している」
ロシア経済の過半を占める労働集約型産業は、国民生活に直結する。戦時経済下で労働力不足に直面しているのだ。
(3)「米シンクタンク、欧州政策分析センターの非常勤シニアフェロー、パベル・ルジン氏は「23年1月以降、軍事関連産業(の購買担当者景気指数)は30〜40%急上昇している」と話す。ロシア政府は9月、24年の国防費をGDPの約6%に相当する10兆8000億ルーブル(約17兆8000億円)とする予算案を発表した。ウクライナ侵攻を始める前年の21年比で3倍、23年の当初予算比では1.7倍になる。独立系アナリストらは、機密費を含めると実際の数字はさらに上がるとみている」
24年国防費は、ウクライナ侵攻を始める前の21年比で3倍へ。23年比で1.7倍へ急増する。これに合わせて民間労働力が不足する。
(4)「UPFのエニコロポフ氏は「ロシアの労働市場と経済全体は限界に達している。ギリギリの状態を強いられているため、これ以上の生産は不可能だ」と述べた。例えば、ロシア西部のニジニ・ノブゴロド州では、当局が未曽有の労働力不足を報告していると、ロシア紙コメルサントの地方版が報じた。同州では登録失業者数が9月に27%減少し、製造業で1万7000人の欠員が発生した。そのうち7500人は防衛産業で、この1年で1600人の雇用が創出されるなど労働需要が高まっている」
ロシアは、労働市場と経済全体が限界に達している。となれば、ウクライナ侵攻を続ける余力は失われる。供給面から、ウクライナ侵攻は重大な局面を迎えることになりそうだ。
(5)「プーチン氏は今夏、この問題を認めた。大統領府で製造業の幹部と会談した際「労働力不足は中小企業に、いい意味ではなく影響を及ぼし始めている」と語った。プーチン氏に続く形で政府高官からも声が上がっている。レシェトニコフ経済発展相は9月、労働力不足は「ロシア経済にとって最大の内部リスク」だと発言した。ロシアの「アルミ王」とも呼ばれる大富豪のオレグ・デリパスカ氏も、防衛企業が他部門から労働者を呼び込んでいるとの見方を示した。FTの取材に対し「国家資本主義は資金と資本、指令で成り立つ。(防衛企業には)資金があるため、人材を採用し、競争を続けるだろう」と語った」
労働力不足が、ロシア経済にとって最大の内部リスクである。この矛盾は、どこかで吹き上げるだろう。
(6)「ロシアのデジタル発展・通信・マスコミ相は8月、国内でIT人材が50万〜70万人不足していると述べた。通信分野のある管理者は、熟練した専門職はもはや「希少種」だと語った。労働市場全般の逼迫について問われると「目も当てられない」状況だと嘆いた」
IT人材が、50万~70万人不足している。生産性上昇を押し上げる力が落ちている。