ロシア軍のクゾブレフ上級大将は11月下旬、プーチン大統領にウクライナ東部ハルキウ州クピャンスクの「解放を完了した」と報告した。クピャンスクは、小さいながら戦略的に重要な要衝だ。その後プーチン氏は、ロシア軍最高の栄誉である金星章をクゾブレフ氏に授与した。だが授与式からわずか3日後、ウクライナのゼレンスキー大統領がクピャンスクへの境界標前に立つ動画を公開した。第三者による評価では、ロシアは2022年前半以降、クピャンスク全域を支配下に置いたことはない。このように、ロシア軍は大統領を欺くような戦況報告をして、勲章まで授与されている。
『フィナンシャル・タイムズ』(12月22日付)は、「自信深めるプーチン氏、根拠に不正確な戦況報告か」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領がロシアに有利とみられている和平案を提示したにもかかわらず、プーチン氏は戦争を推し進めている。欧米の政府関係者はロシア大統領府に届く不正確な情報が同氏の判断に影響していると考えている。
(1)「2人の当局者によると、ロシア軍や情報機関はプーチン氏に定期報告を行う際、ウクライナ側の死傷者数を水増ししているほか、ロシアが人員などの軍事資源で優位に立っていると強調したり戦術的な失敗を小さく見せたりしているという。プーチン氏と定期的に面会する側近が、ウクライナ侵略が勢いを失いつつあるロシア経済の重荷になっていると説明しているものの、軍幹部が伝える楽観的な戦況報告によってプーチン氏は全面的な勝利を収められると信じているという」
太平洋戦争でも、旧日本軍は戦果を過大に発表していた。これが、戦争を長引かせた大きな要因だ。ロシアでも、ウクライナ侵攻で同じ手が使われている。
(2)「バンス米副大統領も10月、その傾向に言及した。「ロシア側は実際の戦況より自分たちが優位に立っていると考える傾向があり、本質的にずれた期待を抱いている」と述べ、これが合意をより困難にしているとの見方を示した。英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア専門家キア・ジャイルズ氏は、ロシアの偽情報作戦が国外にも届いており、「トランプ氏の側近の大半にロシアが早期に戦争に勝利する」と確信させる「非常に高い効果」を上げていると指摘した」
プーチン氏は、完全に「雲の上」の人になっている。ロシア軍の嘘情報を真に受けているからだ。
(3)「ゼレンスキー氏は12月中旬、「ロシアから大量の偽情報が流れてきている。そのため米国の仲間にロシアの言うことをうのみにすべきではないと合図を送った」と報道陣に述べた。ロシアの独立系ニュースサイト「ファリデイリー」はプーチン氏が10月以降、公開の場で6回軍幹部から説明を受けており、ウクライナ侵略開始以降で最も多いと報じた。そのうち3回でプーチン氏は軍服を着用していた。4時間半に及んだ19日の記者会見で、プーチン氏はロシア軍が優位に立っていると再び主張した。「我が軍は前線全体で前進しており、敵は後退している」と述べ、「25年末までに(戦場での)新たな成功を目にするだろう」と国民に約束した」
ロシア軍の嘘情報は、米国まで流れて正常な判断を妨げているほどだ。プーチン氏が丸め込まれているのは、最も信頼している軍幹部から聞かされるかららだ。
(4)「プーチン氏への戦況報告は、ウクライナ侵略の総司令官であるゲラシモフ参謀総長が主に行っている。ウクライナは、抵抗しないとの報告を受けていたゲラシモフ氏が2022年にウクライナの首都キーウへの電撃戦を指揮した。1カ月後には撤退を余儀なくされ、作戦は大失敗に終わった。戦闘が長期化すると、侵略を支持する強硬派はゲラシモフ氏と当時のショイグ国防相がプーチン氏に実情を知らせず、多数の兵士を犠牲にする「肉ひき機」戦術に依存していると非難した。前出のジャイルズ氏は、組織内におけるこの「独立した偽情報のループ」が軍事作戦の結果に直接影響していると指摘した。最も顕著な例が22年に始まったウクライナへの全面侵略そのものだ。プーチン氏は数日で終わると期待したが、4年近く続いている」
ウクライナ侵攻をはじめた時のゲラシモフ参謀総長が、いまもプーチン氏への「嘘戦況報告」の張本人となっている。
(5)「ゲラシモフ氏は24年8月、プーチン氏にロシア西部クルスク州でウクライナ軍の前進を止めたと報告した。だが実際にはウクライナ軍が既に同州の一部を制圧しており、混乱の中で避難した住民に死者が出た。同じ集落を何度も制圧したと主張するなど勝利を誇張する報告と、戦場での実態には落差があった。これは民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏(故人)による23年の反乱で、ゲラシモフ氏とショイグ氏が主な標的となる理由にもなった。ジャイルズ氏によれば、ロシアが停戦合意によって得られる利益を無視し、多大な犠牲を払って侵略を継続しているのも、この落差を埋めるためだと考えれば説明できる」
ロシアが、停戦合意によって得られる利益を無視し、多大な犠牲を払って侵略を継続しているのも、すべて「嘘戦況報告」が原因としている。実に、「罪作りな話」である。




