勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    ロシアは、イランが設計したドローンの新たな生産工場を国内に設ける計画で、イラン政府と協議を進めている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月5日付)が報じた。米同盟国の当局者らが明らかにしたもの。工場では、ウクライナ戦争向けに少なくとも6000機のドローンが生産される可能性がある。ロシアとイランの協力関係の深まりを示す新たな兆候だ。

     

    『中央日報』(2月6日付)は、「『ロシアでイランが開発のドローン6000機作る』…ドローン工場設立に合意」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアとイランが、イランが開発した無人攻撃機(ドローン)をロシアで直接生産することで合意したことがわかった。米国やドイツなど西側諸国がウクライナに戦車などを支援することにし、最近ドローン攻撃を増やしてきたロシアが非対称戦力強化にさらに力を入れる様相だ。

    (1)「『ウォール・ストリート・ジャーナル』が5日に伝えたところによると、ロシアとイランはロシアに工場を設立しイランの技術力でドローンを生産することで最近合意した。同紙は「イランのハイレベル代表団が先月初めにロシアを訪問して工場建設予定地を訪問し細部事項を調整した。自爆ドローンを最小6000機以上生産してウクライナの戦場に投じる方針」と伝えた。イラン代表団が視察した工場用地は、モスクワから東に1000キロメートルほど離れた人口6万~7万人の工業都市エラブガという」

     

    ロシアは、大量の武器をイラク侵攻で失っている。経済制裁で、武器の生産も出来ないことから、ドローン生産でウクライナ軍の意表を突くという苦肉に策に出ざるを得なくなっている。

     

    (2)「ロシアは、これまでイランから自爆ドローンの提供を受けウクライナの電力網などを空襲するのに活用してきた。新年初日から自爆ドローンで猛爆を加えるなど、戦争長期化で兵力が不足すると攻撃用ドローンに対する依存度が高まっている状況だ。しかし、イラン製ドローン「シャヘド136」はプロペラエンジンで動くため速度が遅く騒音が激しく小銃射撃にも撃墜されるほど防御が弱かった。ウクライナ空軍が昨年秋以降これまでに撃墜したと明らかにした自爆ドローンだけで540機に達する」

     

    これまでのイラン製ドローンは、速度が遅くウクライナ軍の攻撃対象になってきた。映像では、ウクライナ軍の電波で強制着陸させられているケースも出ていた。こういう弱点を抱えていたのだ。

     

    (3)「このためロシアに新しく設立される工場では、さらに速いスピードを出すことができ、さらに遠くまで飛べる改良型ドローンを作るのに集中するものとみられる。同紙は「新たに製作されるドローンはウクライナだけでなく他の国にも新たな挑戦を抱かせることになりかねない」と指摘した。これに先立ち、1月末にウクライナは西側からM1エイブラムス(米国)とレオパルト2(ドイツ)など主力戦車の支援を引き出している。現在はF16など戦闘機まで要請している状況だ。これに対し「現代版ナチズム」としながら猛非難してきたロシアの危機感が大きくなっているだけに、ドローンへの依存度は今後さらに高まるだろうという専門家らの見方が出ている」

     

    ロシアは、持ち駒の武器の大半を失っている。ドローンの大量生産で、ウクライナ軍を混乱させる計画であろう。

     

    (4)「一方、西側の制裁を受けているロシアは、イランだけでなく中国などからも軍需装備を調達している。4日には中国国営防衛産業事業者が戦闘機部品などをロシアに輸出してきた事実が確認された。イランとの協力はますます強化する傾向だ。ドローンを提供する見返りとして戦場で捕獲した西側の兵器をイランに渡して複製品を作らせるよう助ける一方、1月末には両国の銀行間通信網連結にも合意した。両国とも西側の金融網から事実上締め出された状況だ」

     

    ロシアは、イランとの関係強化で「生き延びる道」を模索している。プーチン氏は、ウクライナ侵攻長引かせて、中国の台湾侵攻と「合流」させる戦略を立てているのであろう。これが、プーチン氏の唯一の「戦略」かも知れない。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-02-02

    メルマガ434号 中ロ枢軸、「ウクライナ・台湾」同時侵攻の危険性 第三次世界大戦を防げるか

     

     

     

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    中国は、米国からの「二次制裁」を恐れてロシアとの取引を抑えていると見られていた。現実には、こっそりとロシアへ輸出していたのだ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が、ロシアの関税資料から確認した。中国にとっては、都合の悪い事態だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月5日付)は、「中国が軍用品でロシア支援、貿易データで発覚」と題する記事を掲載した。

     

    中国は、国際的な制裁と輸出規制をよそに、ロシア軍がウクライナで戦争を行うのに必要な技術を提供している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がロシアの税関データを確認したところ明らかになった。税関の記録には、中国国有の防衛企業が航法装置や電波妨害技術、戦闘機部品を制裁対象のロシア国有防衛企業に出荷していることが示されている。

     

    (1)「米非営利団体C4ADSがWSJに提供した税関記録によれば、これらは、ロシアが昨年の侵攻後に輸入した軍民両用品の数万件の出荷のうちの一握りでしかない。記録によれば、軍民両用品のほとんどは中国から輸入された。C4ADSは国家安全保障上の脅威の分析を専門としている。中国がロシアのウクライナ侵攻を支援していることを巡っては、アントニー・ブリンケン米国務長官の北京訪問で議題となるはずだったが、訪中は3日、無期限に延期された。中国の偵察目的とみられる気球が米本土上空に飛来したためだ」

     

    今回中止されたブリンケン米国務長官の北京訪問では、中国によるロシアへの軍事品輸出問題が議題になる筈だった。早晩、取り上げられる。

     

    (2)「ロシアは基本的な軍需品の多くを国内で生産する能力を持つ一方で、現代戦に不可欠な半導体などの軍民両用技術については輸入に大きく依存している。欧米当局は、昨年2月に開始した経済的圧力は、コンピューターチップや赤外線カメラ、レーダー装置などのロシアへの輸出をターゲットにすることで、モスクワの軍事機構をまひさせるだろうと述べている。だが税関や企業の記録文書によると、ロシアは依然として、米国主導の制裁に参加していない国を通じてこれらの技術を輸入することが可能となっている。輸出規制されている製品の多くは、トルコやアラブ首長国連邦(UAE)などの国々を経由している」

     

    ロシアは依然として、制裁に参加していない国を通じて軍需物資を輸入していることがわかった。西側は、改めて抜け穴防止に取り組むほかない。

     

    (3)「WSJが確認した記録では、中国企業(国有および民間)が、米国当局が特に懸念しているという軍民両用品の主要輸出国であることが示されている。WSJは、西側諸国が経済的な圧力をかけ始めて以降、ロシアの税関が記録した8万4000件以上の出荷を分析した。C4ADSによれば、ロシアの公式な税関記録は、すべての記録を網羅しているわけではないかもしれないが、日付、荷主、購入者、住所、製品の説明など国内への各貨物の詳細が記されている。また、WSJは米国が制裁対象としている10社以上のロシアおよび中国企業をこれらの記録の中に確認した。税関の記録には、ウクライナでロシア軍が使用している種類の兵器の部品が輸出されている例も含まれている」

     

    中国企業が、ロシアへの軍民両用品の主要輸出国であることが分かった。中国企業は、米国の制裁対象企業10社以外にもロシアへ輸出していることが判明した。

     

    (4)「米当局者によれば、ロシアが戦争を続ける上で不可欠な物資の中にはコンピューターチップが含まれている。チップはウクライナ軍やインフラを標的とする兵器のほか、衛星の測位や無線通信、偵察、航法を可能にする電子回路に使用されている。税関の記録によると、米国とその同盟国が最初に厳しい輸出制限を課した後、こうしたチップや関連部品の輸出は半分以下になった。しかしすぐに増え始め、10月には3300万ドル近くに達した。ロシアの税関記録と国連のコムトレードデータベースをWSJが分析したところによると、これは、ロシア軍がクリミアを占拠した後の2014年に米国がロシアを制裁対象とし始めてからのロシアの月間輸入額の平均3500万ドルにわずかに届かない水準だ」

     

    ロシアは、西側の輸出制限品目の輸入額が昨年10月、3300万ドル近くになっていることが判明。これは2014年、クリミア侵攻以後の制裁によって、ロシアの月間輸入額が平均3500万ドルとなっていることと大差ない事実が浮かび上がった。輸出に抜け穴があるのだ。

     

    (5)「米国の競争力強化を目指すシンクタンク、シルベラード・ポリシー・アクセラレーターは今月発表した報告書で、ロシアは軍事的ニーズを満たすために、中国、特に香港を経由する軍民両用品の積み替えにますます依存するようになっていると指摘している。シルベラードのサラ・スチュワート最高経営責任者(CEO)は、同盟国の制裁と輸出規制について「これらの措置はロシアの能力にかなり大きな影響を与えてきたが、まだ致命傷にはなっていない」と語った」

     

    ロシアは、香港経由で軍需品を輸入していることが判明した。やはり、中国はロシア支援姿勢を貫いていることが証明された。中ロ枢軸は機能しているのだ。


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    共同で狙う半導体技術

    科学技術「不毛の地」

    2年早まる台湾侵攻?

     

    米空軍のミニハン大将が、指揮下の部隊に対しメモで「私の直感では、2025年に中国軍と戦うことになると思う」と述べた。この発言がメディアに報じられてから、中国の台湾侵攻は、差し迫ってきた印象を強めている。

     

    ミニハン氏は、次のような理由を台湾侵攻の根拠にしている。台湾と米国はいずれも2024年に米大統領および台湾総統の選挙を控えその準備に忙しく、中国はそれを防衛上において脆弱な時期と捉える可能性がある、としている。ブリンケン国務長官は22年、中国は以前に検討していたよりも「ずっと速い時間軸で台湾統一を目指すと決意」と指摘した。こういう重大なメッセージを無視することは極めて危険であろう。

     

    台湾与党に新リーダーが誕生した。台湾独立を強く主張する頼清徳副総統は、蔡英文総統から民進党党首の座を引き継いだ。中国が2024年の台湾の総統選に介入し、頼氏の当選を阻止しようとするのはほぼ間違いないとされる。もし頼氏が当選すれば、中国はすぐにでも侵攻に踏み切る。そういう可能性を指摘する向きさえ出てきたのだ。

     

    とりわけ、ロシアのウクライナ侵攻の決着が付かない現在、中ロが西側諸国への対抗を強めるべく、中国が台湾侵攻することで西側諸国の軍事力を分断させることは可能だ。米国が、台湾侵攻に関わることでウクライナ支援の手を緩めざるを得ず、中国は間接的にロシア支援を実現できるのだ。習近平氏が生涯、中国国家主席を務めるには、プーチン氏もロシア大統領であり続けることが望ましいことである。その意味で、中ロは人的要因で結束し易い要因を持っている。

     

    こうして、中ロは水面下で提携強化に動く可能性を強めている。近く行なわれる中ロ首脳会談では、台湾侵攻についても話題に上がるであろう。

     

    ロシアは、ウクライナ侵攻であと2~3年ぐらい戦争を継続できる財政的裏づけがあると見られる。プーチン大統領は、自らの政治生命に関わることから、敗北を認めずにズルズルと戦いを引き延ばして、西側諸国にウクライナ支援疲れを起させるのを待っている。こうなると、中ロの思惑が一致して、ウクライナ侵攻と台湾侵攻が並行するという最悪事態に陥る危険性が高まるだろう。

     

    欧州とアジアでの戦乱は、第三次世界大戦だ。この危機を防ぐ手立てはないのか。それには、台湾侵攻を是が非でも防ぐことが不可欠である。

     

    共同で狙う半導体技術

    中ロが、ウクライナ侵攻と台湾侵攻を並行する場合、大きな経済的な利益を狙うことは明白だ。中国が、台湾を占領して台湾の最先端半導体を手中に収め、半導体窮乏に苦しむロシアを助けられるからだ。台湾侵攻で半導体製造設備は荒廃しても、技術者を獲得できれば「半導体砂漠」の中国は、一挙に米国へ対抗して世界覇権を握れる態勢が整う。同時に、ロシアも先端半導体を入手して、ウクライナ侵攻を成功させられるという思惑を強めるであろう。

     

    戦争は、誤算から出発する。合理的に計算すれば、開戦する筈がない戦争が悲惨な結果を生んでいる。身近な戦争で言えば、日本の太平洋戦争開戦がそうであった。北朝鮮の韓国侵攻もそうだ。ロシアのウクライナ侵攻もその例である。国家間の紛争解決手段として、不合理な戦争を手段に使えば自滅する。これが戦争のもたらす歴史的帰結である。これは、戦い終わってから得られる結論だが、戦争の過程では戦争を「正答」として見てしまうもの。人間の性(さが)と言うべきだろう。

     

    日本の太平洋戦争開戦は、ABCD(米国・英国・中国・オランダ)ラインによる経済制裁(石油・鉄くずの輸入禁止)への対抗手段として始まった。石油は、戦略品であるから生命線である。日本は真珠湾攻撃の他に、南方地域(東南アジア)で石油資源獲得目的に侵略戦争を始めた。こういう経緯から、太平洋戦争は「自衛戦争」という主張もあるが、肝心の東南アジアにとっては日本の「侵略行為」である。これが、歴史的審判である。

     

    当時の石油は、現在の半導体である。先端半導体は、最新鋭武器には不可欠である。ロシア軍の武器を分解すると、米国を筆頭とする西側諸国からの部品・半導体が圧倒的という分析結果が出ている。中国は、このロシアから武器を輸入している関係だ。つまり、先端半導体が入手できなければ戦争継続が不可能という時代になっている。

     

    科学技術「不毛の地」

    ロシアの半導体事業は、スタートしたばかりの段階である。中国半導体は、ロシアよりも進んでいるが、先端半導体を生産する能力はない。そこで、必死になって西側からの技術導入を進めてきたが、米国から安全保障上の理由によって大幅に制限されている。最近では、米国が中国ファーウェイへ全ての半導体技術・製品の輸出禁止を命令した。これでは、ファーウェイは、営業不可能でお手上げになる。すでに、これまでの規制で世界トップを狙ったスマホ生産を放棄させられている。米国技術の威力をまざまざと見せつけたのだ。(つづく)

     

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    ウクライナの次なる戦闘にとって、戦車こそが最適の兵器となるだろうと予測されている。ウクライナ軍は、ドイツの主力戦車「レオパルト2」の供与を受けられることになった。ウクライナのオメルチェンコ駐仏大使は、ウクライナに供与される戦車が計321両になると明かした。最短距離で4月以降には最前線に配備される見通しである。これを受けて、ロシア軍も戦車で対抗するものと見られる。 

    ロシア製戦車はこれまでの戦闘で、「ビックリ箱」と揶揄されるように、砲撃に弱いことが知られている。砲塔と弾薬が近くに配置されているから、すぐに誘発をおこして爆発するのだ。西側諸国の戦車は、砲身と弾薬が別々に配置されているので、「ビックリ箱」という事態を免れている。ロシア軍は、こうした弱点を抱える戦車隊がどのように戦うのか、ヤマ場を迎える。 

    米『CNN』(1月28日付)は、「ウクライナ情勢、今後の戦闘で戦車が決め手となる理由」と題する寄稿を掲載した。筆者のデービッド・A・アンデルマン氏は、CNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞している。 

    ウクライナで戦争に突入した1年前、一般的な通念では戦車はもはや時代遅れということになっていた。ドローン(無人機)や自動追尾機能のあるミサイルには太刀打ちできないというのがその理由だ。この考えは明らかに間違っている。かなり明確になりつつあることだが、ウクライナのような戦場において、装甲車両による優越性は形勢を逆転させ得る。それも劇的に。 

    (1)「ロシアの戦車は、(昨年ウクライナで)冬から春にかけて雪解けのために起きる土壌のぬかるみにはまった。中には砲塔まで泥に沈んだ戦車もあった。そうした戦車は戦うこともできず、ウクライナ軍に狙い撃ちにされた。侵攻の過程でロシア軍が失った戦車の数は1400両を超える。あれから1年近くが経過した現在、ロシア軍は教訓を得たと思われる。「彼らにとって、冬の後半や春の初めに攻撃を開始するのは得策ではないだろう」「春の終わりまで待つはずだ。その時期なら土壌の水気は格段に抜けている」と、アンドリー・ザゴロドニュク元ウクライナ国防相は指摘する」 

    ロシアは、昨年の開戦直後の失敗に懲りている。本格的攻撃開始は、雪解けが終わって大地が乾くまで仕掛けないと見られる。 

    (2)「西側は現状を好機ととらえ、自国の最新鋭の主力戦車を実際の戦争という状況下でテストしたい考えだ。対するロシア側は、長い間そうしたシナリオへの準備を全く整えていなかった。ソ連の戦車操縦手には大型のハンマーが支給される。頻発するギアの不具合が起きた際には、それでトランスミッションを叩いて対処するのだという。また戦車内には冷暖房がないため、搭乗員は冬の寒さに凍え、夏は暑さに息が詰まる状態を余儀なくされる。とりわけ砲塔を閉じる時にはそうだった」 

    ロシア側は、西側諸国の戦車と戦う想定がなく、旧式の戦車を稼働させている。戦車内は劣悪な「戦闘空間」である。戦車内には冷暖房設備がないのだ。 

    (3)「ウクライナでのロシア軍戦車が、(ソ連時代同様に)脆弱であることに変わりはなかった。中でも「ビックリ箱」に例えられる設計上の欠陥は深刻だ。ロシア軍の戦車のほとんどは、大砲の弾薬を操縦手や砲手のすぐ隣に搭載している。その数最大40発。戦車は前部こそ頑丈な装甲で覆われているが、側面や砲塔はそれほどでもない」 

    ロシア戦車は、「ビックリ箱」と称せられるように、敵の攻撃で簡単に爆発する構造になっている。砲塔が爆発で飛び出すほどである。むろん、塔乗員は犠牲になる。 

    (4)「米国製の「ジャベリン」や、英国とスウェーデンが合同開発した「NLAW」といった対戦車ミサイルが、ロシア戦車のエンジンを直撃すると、最も装甲の薄い部分に影響が及ぶ。このため、搭載する弾薬全てが爆発し搭乗員は焼け死ぬことになる。これに対し、米国のM1エイブラムスやドイツのレオパルト2など西側の戦車は、搭乗員を弾薬から厳重に隔離。双方の間には爆発にも耐えられる壁が設置されている」 

    ドイツのレオパルト2など西側の戦車は、搭乗員が弾薬から厳重に隔離されているので「ビックリ箱」にはならない。 

    (5)「ロシア軍の保有する新型戦車「T14アルマータ」は、あらゆる点でM1エイブラムスとレオパルト2に匹敵するが、わずかな数しか製造していないという問題がある。昨年のメーデーに赤の広場で行われたパレードには、3両しか登場しなかった。最近の情報報告によると、同戦車の開発と配備は、コストの上昇など複雑な問題が絡んで停止しているとみられる」 

    ロシアにも欧米並みの新鋭戦車はあるが、たったの3両しか登場していない。コスト高が鬼門になっている。 
    (6)「ウクライナでの戦争が戦車戦に変わるとしても、またそれがエイブラムス、レオパルト対最新のロシア戦車の戦いだとしても、実際には全く勝負にならない可能性がある。西側の戦車の到着が間に合えばなおさらだ。ウクライナの当局者は、最新の戦車300両があれば自軍の装備を補完しつつ、ロシアに対しても数の上で全く同等の立場に持ち込めるとみている。ザゴロドニュク氏が国防省の推計を引用して筆者に説明した」 

    ウクライナ軍は、西側の最新戦車300両があれば、ロシア軍と対等の戦いができるという。すでに321両の供与が決まったから、この面での不安は消えた。

    (7)「車長や砲手、操縦手、技術兵、整備士を訓練するには最低でも3カ月を要する。それだけ複雑な戦車を相手にするのであり、時間が極めて重要になる。今後4カ月もしないうちに春の雪解けは終わり、地面は乾き始める。間違いを犯す、もしくは躊躇するような余裕はほぼないと言っていい 

    下線のように、ウクライナにとっては今後の4ヶ月が極めて重要な時間になる。それは、ロシアにとっても同じことだ。

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    ドイツは、ようやくウクライナへの主力戦車の供与問題で決着をつけた。ロシアとの全面衝突を避けるために供与に慎重だったが、国内外の批判を受けて外堀が埋まった結果だ。隣国ポーランドのモラウィエツキ首相は、「他国と連携して戦車をウクライナに送る」とドイツに主力戦車「レオパルト2」の供与を認めるよう圧力をかけ続けた。ポーランドは、かつてドイツの侵攻を受けた歴史を持つ。そのポーランドが、ドイツの背中を押してウクライナへの提供を決めさせた。複雑な第二次世界大戦への感情があったのだ。

     

    ウクライナが、ドイツ製戦車「レオパルト2」の提供を求め続けたのは、軽量であることと高い信頼性にあるという。ドイツ機械工業の結晶である。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(1月24日付)は、「ドイツ製戦車が最適、ウクライナが欲する理由」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ軍は、ロシア軍から領土を奪還しようしており、作戦上、最新鋭戦車は必須とみられている。そのロシアは新たな攻勢に向けて15万人の兵士を動員した。ロシア側は兵員の装備や武器を更新すべく、同国の国防産業は戦時体制を取っている。双方にとって次の6カ月が非常に重要になる。

     

    (1)「米国の「エイブラムス」、英国の「チャレンジャー2」、ドイツの「レオパルト2」といった西側の戦車は、ウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破し、軍事的主導権を握るための火力をもたらす。ロシア軍が今後、再攻勢に出た場合にウクライナの防衛線を守るうえでも必要だ。領土を奪還するための歩兵部隊と火砲による機動作戦において、戦車は決定的な要素だ。加えて、西側の戦車はロシアの戦車に対して優位となる。装甲の防護力、砲撃の精度、夜間作戦などを可能にする操縦・誘導システムなどが優れている」

     

    ウクライナ軍にとって、ドイツの「レオパルト2」を不可欠としている。軽量であることから、ウクライナの橋梁を補強しなくても通過できるというメリットがあるのだ。ドイツが、欧州13ヶ国が保有する「レオパルト2」のウクライナでの使用を認めたので、ウクライナ軍にとっては大きな戦力補強になる。

     

    (2)「専門家によると、ドイツのレオパルト2は性能面で米国のエイブラムス、英国のチャレンジャー2と似通っているが、いくつか利点がある。エイブラムスより軽量で、ガスタービンエンジンの同戦車より燃料補給が簡単だ。信頼性の点でチャレンジャー2に勝るともみられている。だが決定的な利点は、手に入れやすいことだ。英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)によると、レオパルト2は欧州13カ国の軍が合計約2000両を運用している。そのうちどれだけがすぐに実戦投入できるか、改修が必要な車両はどれだけなのかは不明だ。だが、ウクライナにとっては豊富な供給源になりうる。交換部品や整備の要員もそれだけ得られやすい」

     

    レオパルト2は、欧州13カ国の軍が、合計約2000両も運用している。そのうちどれだけがウクライナへ提供されるか不明だが、ウクライナにとっては豊富な供給源になりうる。

     

    (3)「ウクライナ軍は、旧ソ連時代の戦車を持っていた。だが、ウクライナを支援する国々の間では、旧ソ連時代の戦車の砲弾や交換部品がごく限られる。したがって火砲と同様、ウクライナは西側の標準装備の戦車に転換する必要があり、さもないと砲弾や砲身などの交換部品が尽きる恐れがある。これがレオパルト2のもう1つの利点だ。配備数が多い同戦車をウクライナ軍が使えるようになれば、修理や交換部品、砲弾が一本化され、後方支援が簡素化する」

     

    欧州で保有されているレオパルト2が、ウクライナ軍へ提供されれば、砲弾や砲身などの部品交換が簡単に行えるというメリットが出てくる。

     

    (4)「米国は、エイブラムスを供与しないとしている。ウクライナには保守整備が困難であることに加え、欧州内に適切な選択肢、つまりレオパルト2が多数あることが理由だ。ドイツ政府は、北大西洋条約機構(NATO)を引き込むことにつながるような紛争の激化につながるとロシアに認識される恐れがあることから、レオパルト2の提供をためらっている(注:その後に承認)」

     

    ドイツがためらった理由は、第二次世界大戦中にドイツ軍戦車とソ連軍戦車が激突した光景が再現することを恐れているという。ドイツは、当時の最新鋭戦車を相次ぎ投入したものの、物量で勝るソ連軍に圧倒された経緯がある。それだけでなく、戦闘中に多くの住民や捕虜を虐殺し、占領地を経済的に収奪した。こうしたことが、ドイツ史の汚点として刻まれている。ドイツのこうした古傷が、レオパルト2の提供でうずくというのである。同じ敗戦国の日本も、このドイツの気持ちが理解できるであろう。

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