勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    米国の相互関税は、世界経済を不安の渦に巻き込んでいる。ロシアは対象外であるが、主力産品である原油相場の下落が、国家財政に大きな影響を与え始めた。ロシア原油の採算点は、1バレル=50ドルとされる。すでに、ロシア産原油は55ドルまで低下しており、あとわずかで赤字ラインへ落込む。ロシアの国家歳入の3割が、原油収入である。ウクライナ侵攻をいつまでつづけられるか瀬戸際にきている。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月21日付)は、「プーチン氏の戦争経済 トランプ貿易戦争の影響不可避」と題する記事を掲載した。

    石油産業はロシア経済の原動力であると同時に、脆弱性の主な原因でもある。石油・ガス産業からの収入が国家財政収入の約3分の1を占めるからだ。


    (1)「世界の原油相場は今月、関税に伴うリセッション(景気後退)懸念の高まりを受けて急落し、今も不安定な状態にある。ロシア産原油の指標であるウラル原油価格は、1バレル=55ドルを下回る水準で推移している。これは今年の国家予算で目標とされる70ドル前後を大きく下回る。アナリストらによると、原油相場が低水準にとどまれば、ロシア経済はハードランディング(強行着陸)に直面する見通しだ。その場合、今年の財政赤字はほぼ倍増するだろうという」

    ロシア産原油の指標のウラル原油価格は現在、1バレル=55ドルを下回っている。今年の国家予算目標の70ドル前後を大きく下回る状態だ。ロシア原油相場は、世界経済の停滞と中国需要の低下によって、さらに低下の気配である。デッドラインが迫っている。

    (2)「現在の原油相場の水準では、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が軍事作戦の中止に追い込まれる公算は小さいが、さらに相場が下落すれば、同氏の計算が変わる可能性がある。一方、原油相場の急落によってロシア政府は痛みを伴う選択を迫られるとアナリストは指摘する」

    ロシアは、「モノカルチャー」経済だ。原油へ極度に依存した偏った経済構造である。それだけに、原油相場の下落がロシア経済の首を絞めるという単純な構図になっている。プーチン氏の描く「大ロシア帝国」の実相は、この程度のものである。


    (3)「米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所の非常駐シニアフェロー、エリーナ・リバコバ氏は、「原油価格が安いままなら、彼らは危機を感じるだろうし、既にそうした危機を感じ始めている。これが続けば、軍事か経済かの選択を迫られるだろう」と話す。JPモルガンのアナリストは先週の顧客向けメモで、ロシアは制裁や国際関係の断絶によって世界的なトレンドの影響を受けにくくなっているものの、「米国の通商政策がもたらす津波に対して、無傷でいられることはなさそうだ」と述べた」

    トランプ氏の相互関税が、米国と貿易関係のないロシアに台風となって襲いかかっている。

    (4)「プーチン氏の国家安全保障体制は多くの点で、石油がもたらす富の上に構築されている。1980年代の壊滅的な原油安は、ソ連の崩壊につながった。プーチン氏は1999年にロシア首相に指名されたが、同氏が権力の座に就くのを後押ししたのは、この年の原油価格の回復だった。このため、政府は原油安を国家安全保障上の脅威と捉えている」

    ソ連経済崩壊は、壊滅的な原油安によってもたらされた。今のロシアも原油依存経済である。この間、なんらの産業発展もなかったのだ。この先、自然エネルギーに向う中で、ロシア経済は何を頼りにするのか。お先真っ暗な状態である。


    (5)「ロシアの元エネルギー業界幹部で、現在はカーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのシニアフェローを務めるセルゲイ・バクレンコ氏は、原油価格が10ドル下がるごとに、ロシアの年間収入が約250億ドル(約3兆5600億円)減ると推測している。「従って、これは確かに歳入に影響を及ぼし、経済全体から資金が失われる」と同氏は述べた。トランプ政権は発足後間もなく、原油価格の引き下げにつながる米国とサウジアラビアでの増産を呼び掛けることによって、ロシアに和平を受け入れさせようとする可能性を示唆した。キース・ケロッグ米大統領特使(ウクライナ・ロシア担当)は今年1月、原油価格が45ドルに下落すれば、戦争を終結させるには十分かもしれないとの見方を示した」

    ロシアは、原油価格が10ドル下がるごとに、年間歳入が約250億ドル減る計算だ。45ドルまで下がれば、ウクライナ侵攻の余力を失うとみられる。

    (6)「原油相場の見通しは、サウジアラビアなどの生産国からの供給増と中国の需要鈍化が重荷となっている。ゴールドマン・サックスは今週、北海ブレント原油について、今年の平均価格は63ドル、26年は58ドルとの予想を示した。ロシア産ウラル原油は、国際的な指標原油よりかなり割安な価格で取引されているため、この予想はロシア産原油の価格が50ドルを下回る可能性を示唆している」

    ロシア産原油の価格が、50ドルを下回る公算が強まっているという。完全な採算割れで赤字になる。


    (7)「ロシアの投資銀行ルネサンス・キャピタルは最近発表した顧客向けメモで、原油相場の低迷はロシア経済のハードランディングの可能性を高めるとの見解を示した。今年のウラル原油平均価格が50ドルなら、国内総生産(GDP)の伸びは0.1%になりそうだという。これはロシア経済にとってショックとなるだろう」

    ロシアは、ウラル原油平均価格が50ドルならば、GDPは0.1%増程度という。あと5ドルの下落で「アウト」だ。ロシア経済は、瀬戸際に来ている。



    テイカカズラ
       

    ロシアは、最大の輸出商品が原油や天然ガスである。これが、米国トランプ関税をきっかけに、米中が互いに関税引上げの報復合戦を演じ、世界経済への悪影響が懸念される事態となった。この影響を最も強く受けるのが、ロシア経済である。4月11日現在、NYのWTIは1バレル60.51ドルと下げ足を早めている。4年ぶりの安値である。ロシア原油の採算点は、1バレル50ドル見当とされている。

    ロシアは、ウクライナ侵攻の継戦能力に大きな影響を与えるのが原油市況である。あと10ドルの下落があれば、ロシア財政が赤字転落になると指摘されている。こうして、財政面から、ウクライナ戦争の今後は予断を許さなくなってきた。ロシアは、米中対立の思わぬ余波に揺さぶられることになりそうだ。


    『ロイター』(4月9日付)は、「ロシア経済が急減速、原油安で一段のリスクも」と題する記事を掲載した。

    ロシア経済の急減速が最新のデータで明らかになった。原油価格の下落や世界的な市場の動揺が続けば、一段のリスクにさらされる可能性がある。

    (1)「ロシアの経済成長率は過去2年間、ウクライナ侵攻に伴う支出を追い風に4%を上回った。一方、他の多くのセクターにおける労働力不足が賃金・物価スパイラルにつながり、インフレ率は10%を超えている。中央銀行は主要政策金利を21%に引き上げ、企業幹部は投資を阻害していると反発。一方、ロシアの主要輸出品である原油は価格が下落している」

    原油価格の急落が、ロシア経済に深刻な影響を与えている。トランプ政権の関税政策が、世界的な景気後退を引き起こし、それが原油需要の減少につながる懸念が深まっているからだ。これが、ロシアのウクライナ侵攻継戦能力に重大な影響を及ぼしそうである。


    米国は、ロシアがウクライナ侵攻停戦への動きに消極姿勢であることに不満を募らせているが、決め手がなく静観姿勢になっていた。そこへ突然、現れたのがトランプ関税による米中対立の先鋭化である。これが、世界経済へ大きな影響を与えかねない事態になってきた。こうした動きが、米国の地政学的な狙いにもとづく戦略の一環という見方も生まれるであろう。世界情勢は、「玉突き」同様に思わぬ効果が出てくるのだ。

    (2)「先週発表の統計によると、2月のロシアGDP成長率は前年比0.8%と1月の3%から低下し、2023年3月以来の低さとなった。また、鉱工業生産の伸びは2.2%から0.2%に急減速した。ライファイゼンバンクのアナリストは、「鉱工業セクターの大部分で悪化が根強くなっている。減速の兆候が定着しつつある」とし、高金利や労働力不足、防衛産業以外の生産能力欠如、西側の制裁による圧迫継続などを要因に挙げた」

    ロシアの鉱工業生産は、防衛産業以外の生産能力不足が表面化している。高金利や労働力不足の深刻化の影響が顕在化している結果だ。この穴埋め役が、原油などの輸出であった。それが今、国際市況の急落で財政黒字が圧縮されている。あと、1バレル=10ドルの下落で赤字転落というギリギリの限界に向っている。トランプ関税措置が、世界的な景気後退を招くとの懸念で、原油価格が4年ぶり安値に落ち込む中、ロシア経済の減速はさらに悪化するとみられる。


    米国が、この状況をみて対中国関税引上げが有効なロシア経済圧迫化と判断したとしても不思議はない。米国は、偶然にも対中ロ戦術のカギを握る形になった。中国は、米国への報復関税を125%へ引上げて、自らスタグフレーションへのドロ沼へ足を踏み入れているからだ。これは、中国経済に重大な影響を及ぼすことになろう。

    (3)「ロシア経済省と中銀は、政府との2月4日の会合向けにまとめた報告書で、インフレが抑制される前に景気後退に陥る可能性が高まっていると指摘。高金利を受けた融資や投資の減速により、将来の成長が鈍化すると予想した。これに加え、ロシアは米国の関税の対象から外れたものの、トランプ氏はロシアがウクライナとの停戦に向けてさらに努力しなければ、ロシアの石油輸出をさらに制限する制裁を科すと警告している」

    米国は、ロシアの弱点が原油輸出にあることを正確に把握している。となると、米中対立が国際原油市況を引下げることを利用して、ロシアを圧迫する姿勢に転じたとみることも間違いでなかろう。




    テイカカズラ
       

    ロシアのプーチン大統領は13日、米国提案のウクライナ停戦案について「紛争の根本的な原因を取り除くものでなければならない」などと述べ、現在の一時停戦案の受け入れに条件を付けた。プーチン氏は、ウクライナが受け入れた30日間の停戦案について「戦闘を停止する提案に同意するが、長期的な平和につながり、紛争の根本的な原因を取り除くものでなければならない」と述べた。即時の停戦の受け入れには難色を示し、今後の米国との協議に向けて注文を付けた。

    ロシアは、米国案に対して「全面拒否」でなく「協議継続」を申し入れているが、引き延し戦術が通用しない切羽詰まった難題が突きつけられている。ロシアの最も恐れている米銀とのアクセスが、すでに切断されていることだ。これは、ロシア経済の「心臓」を突かれたのも同然の強い負の影響をもたらす。


    『ブルームバーグ』(3月14日付)は、「米政権、対ロ制裁ひっそり強化-ウクライナ巡り和平交渉進めるも」と題する記事を掲載した。

    ウクライナでの戦争を巡り、米国はロシアと和平交渉を進める一方、エネルギー関連の決済制限を通じて対ロ制裁を強化している。

    (1)「トランプ政権は、ロシアの一部銀行とのエネルギー関連決済に関する許可を失効させた。2022年2月のウクライナ侵攻開始後に導入されたこの「一般許可8」を通じ、これらの銀行はドルでの資金受け取りが引き続き可能だった。トランプ政権から発表や公式な確認はない。失効はバイデン前政権が1月に実施した制裁措置の一環で、失効は3月12日午前0時と、通常6カ月の有効期間が短縮されていた」


    トランプ政権は、ロシアの金融機関とのエネルギー取引を認めるライセンスの期限が切れることで、ロシアの銀行が米国の決済システムにアクセスできなくなると発表した。これにより、ロシア経済に大きな影響を与えることが予想される。特に、エネルギー取引が制限されることで、ロシアの収入源が減少し、経済的な打撃を受けるとみられる。

    ロシアの銀行が、米国決済システムにアクセスできなくなることは重大問題である。国際取引が困難になり、ロシア経済は世界経済から遮断されるに等しい状況に追込まれる。ロシアのウクライナ侵攻直後、この米銀アクセス切断を検討したが、西側も影響を受けることで棚上げになった経緯がある。ついに、そのマイナスを乗り越えて米銀アクセス切断が始まる。

    エネルギー部門に対する制裁は、ロシアの主要な収入源である石油と天然ガスの輸出に大きな打撃を与える。これにより、ロシアは毎月数十億ドルの損失を被ると予想されている。


    (2)「14年の対ロ制裁に携わった元国務省高官のエドワード・フィッシュマン氏は、許可失効によって「ロシアの石油・ガス収入を巡る業務で大きな支障が出るだろう」とし、「もしあなたが外国の石油精製業者や石油トレーダー、ロシア産ガスの購入業者で、取引銀行がロシアへの石油・ガス代金支払いをドルなど西側諸国の通貨で決済しようとする場合、かなり難しくなるだろう」と指摘した。ベッセント米財務長官は経済専門局CNBCとのインタビューで、ロシアを交渉のテーブルに着かせるため米国は対ロ追加制裁をためらわないとし、トランプ大統領は「双方に最大限の圧力をかける意向だ」と述べている」

    ロシアは、主力輸出商品の石油・ガス輸出で大きな障害が生じる。西側が代金支払でドル決済することが困難になるからだ。すでに、ロシア経済は3年を上回る戦争で疲弊しきっている。そこへ、毎月数十ドルの輸出代金決済が滞れば、さらなる重圧を受けることになる。


    (3)「許可失効の影響は不明だ。ロシア産エネルギーの大口購入者は失効を見越して既に制限に対応したか、西側諸国の制裁を回避する代替の決済手段を確保した可能性がある。元財務省高官でオリバー・ワイマンのパートナーであるダニエル・タネバウム氏は「締め付けであることは間違いないが、問題は実際の石油取引に関する現金での支払いや価値にどれほど影響があるかだ」とした上で、「実際にそのルートでどの程度の資金フローがあったかは非常に不透明だ」と分析した」

    このパラグラフは、米銀アクセス切断の重要性をどこまで理解しているか疑わしい内容だ。ドルが世界の基軸通貨であり、世界中のドル決済はすべて米国が把握している。こういう事情が分れば、軽々な判断はできないであろう。





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    ロシアは、ウクライナ戦争終結をにらんで米国との接近を窺わせるような動きを見せ始めた。これまで、大量の中国製自動車を輸入してきたが、「リサイクル料」名目で大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)へ引き上げた。今後も引上げられる見通しで、事実上の関税の役割を果す。ロシアは、米国製自動車輸入再開へ道を開こうとしているとみられる。変わり身の早いロシアの行動に驚きである。

    『フィナンシャル・タイムズ』(3月10日付)は、「ロシア、中国車の輸入急増阻止 実質的な関税を引き上げ

    ロシア政府が中国車の大量輸入の抑制に乗り出し、友好的な対ロ関係への依存を強めてきた中国の自動車メーカーと輸出業者に打撃を与えている。


    (1)「中国乗用車協会(CPCA)によると、2024年にロシアへ輸出された中国車の数は、22年の7倍に達した。ウクライナ戦争で制裁を受けているロシアは、西側諸国のブランドの自動車を輸入できなくなっている。米国、欧州連合(EU)、カナダ、トルコ、ブラジルといった市場で反ダンピング(不当廉売)措置を課され、販売が下押しされている中国メーカーにとっても、ロシアでの需要は好都合だった」

    中国自動車メーカーにとって、西側から経済制裁を受けているロシアは、最高の輸出市場であった。それが今、急変しようとしている。ウクライナ戦争終結を見込んだ米ロ接近が、中国車を阻もうとしているようだ。

    (2)「CPCAの崔東樹・秘書長は「(ロシアで)海外ブランドが中国車にすっかり置き換わった」と話し、「ロシア・ウクライナ間の危機が終わると、中国車メーカーにかかるプレッシャーが劇的に強まるだろう」と続けた。ロシアは24年、100万台を超える中国車を輸入した。これは中国全体のガソリン車輸出の約3割に上る。CPCAのデータによると、ロシア市場では中国ブランドのシェアが63%に伸びた一方、国内ブランドのシェアが29%にとどまった」

    ロシアは24年、中国車100万台超を輸入した。中国全体のガソリン車輸出の約3割に上がる。これだけの規模だけに、中国にとっては「ロシアの心変わり」が大きな痛手になる。


    (3)「ロシア政府は、この流れに歯止めをかけようとしている。1月には、関税と同様の効果がある「リサイクル(再利用)料」を大半の乗用車で66万7000ルーブル(約110万円)に引き上げた。この金額は24年9月時点に比べて2倍を超える。今後も30年まで、年10〜20%の値上げが実施される見通しだ。米コンサルティング会社ロディアム・グループの自動車アナリスト、グレゴール・セバスチャン氏は「安価な中国車の大量流入が国内での生産に悪影響を与えている」という国際的な認識をロシアも共有するようになったと指摘する」

    日本では、普通乗用車のリサイクル料は、約1万円~1万8000円程度とされる。ロシアでは、何と110万円という。これは、輸入禁止的な高関税になる。

    (4)「セバスチャン氏は、ロシアが中国各社に「現地生産の拡大を求めている」と説明した。「しばらくは仕方がないと感じていたものの、(ロシア側が)ここにきて自らの交渉力に気づきつつある。中国の自動車メーカーにとってのかなり重要な市場になってきた」。さらにロシアでの最近の調査により、中国の主要トラックメーカー3社の安全基準違反が発覚し、1つのモデルがロシアでの販売を禁じられた。ロシア政府関係者は、輸入車に対して新たな法令順守状況チェックや検査を導入する構えを見せている」

    ロシアの自動車産業は、今回のウクライナ戦争で大きな影響を受けている。それだけに、中国車の輸入が急場を救った形であるが、再び国際情勢が変わり始めたことをロシアは肌身で感じ取っているのであろう。


    (5)「ロシアへと次々と運ばれる中国車の多くは、綏芬河(すいふんが)をはじめとする中国東北部の国境地帯を通る。いてついた道路に出荷待ちの自動車が並ぶ綏芬河で、ある中国の業者は「関税と、それがわれわれにとって何を意味するかについて、懸念も不満もたくさんある」と語った。「欧州と米国に制裁を科されたから、こちらに頼ってきたくせに」。CPCAによると、ロシア市場で中国勢のトップを走るのは、国有の奇瑞汽車(チェリー)だ。24年1〜3月期にはロシアで43万台を売り上げ、同社の総販売台数の28%を占めた。香港上場を目指す奇瑞汽車は「対ロ販売によって相当な売上高がもたらされた」と新規株式公開(IPO)の書類に記しつつも、「制裁リスクの緩和」に向けてロシアへの販売を減らしていく計画を打ち出している」

    中国側には,ロシアの「心変わり」が恨めしいようである。ウクライナに平和が戻れば、中国自動車メーカーには市場喪失危機が高まる。

    (6)「ロシアでの中国車ブームは、中古車とガソリン車の販路を開くことにもなった。いずれも中国内では電気自動車(EV)人気に押され、売り上げが振るわない。24年はロシアに輸出された中国車のうち、97%がガソリン車だった。綏芬河の地元当局者によると、中古車の輸出は24年に612%増加した。中古車の対外販売を促進する政策に加え、国内の需要喚起を目的とした自動車買い替え促進策を受けて多くの人が、古いガソリン車を手放したという背景がある」

    中国にとって、ロシアへのガソリン車と中古車輸出は、国内EV化促進の上で欠かせない「バッファー」であった。それが、これから急速に縮小するとすれば、中国の自動車生産に影響する。


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    フランスのマクロン大統領は2月24日、ウクライナとロシア間の停戦が数週間以内に合意される可能性があると述べた。ホワイトハウスで、トランプ米大統領と会談した後にFOXニュースのインタビューで明らかにした。ロシアにとって、米国による和平交渉斡旋が渡りに船である。

    ロシア経済は、破綻の一歩手前まで追込まれている。政策金利は21%、軍需支出が国家予算の3分の1に達している。今年1月の財政赤字は、前年の14倍にもなった。スタッグフレーションへの道が、待っていたのである。プーチン大統領は、夜も眠れなかったであろう。「盟友」トランプ氏が、プーチン氏へ助け船を出したのである。

    『ロイター』(2月25日付)は、「苦境のロシア経済、トランプ米大統領の早期終戦案は助け船か」と題する記事を掲載した。

    ロシア経済はウクライナ戦争の膨大な軍事支出で過熱状態だが、深刻な冷え込みに転じる瀬戸際にある。大規模な景気刺激策や金利の急上昇、インフレの高止まり、そして西側諸国による経済制裁の影響が浸透しつつあるからだ。それだけに、戦争の早期終結を目指すトランプ米大統領の方針はロシアにとって助け船になりそうだ。


    (1)「トランプ政権は、対ロシア交渉でウクライナや欧州の同盟国を除外し、侵攻の責任をウクライナに負わせるなど政治的にロシア寄りの姿勢を取っている。米国のこうした動きについて、元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ビューギン氏は、ロシアが2つの望ましくない選択肢に直面する中で起きていると分析。ロシアはウクライナ戦向けの軍事支出の拡大を中止するか、あるいは支出を拡大し続けてその代償として何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受するか、二者択一を迫られている。いずれの道も政治的リスクを伴うと指摘した」

    ロシア経済は、危機の分かれ道にある。このまま続けば今後、何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受する最悪状態へ向うところだった。

    (2)「財政支出は通常、経済成長を促進する。ロシアでは、民間部門を犠牲にする形でミサイル向け支出という、新しい価値創出につながらない軍事支出で経済が過熱し、中央銀行の政策金利は21%にまで達して企業の設備投資が鈍り、インフレは抑制できていない。ビューギン氏は、「ロシアは経済的な観点から外交的手段による戦争終結に向けた交渉に関心を持っている。これこそスタグフレーションを避ける唯一の方法だ」と話した。ロシアが国家予算の3分の1を占める軍事費をただちに減らすことはないだろう。しかし、和平合意の可能性が浮上すれば経済への圧迫が弱まり、制裁の解除や、最終的には西側企業の復帰につながることもあり得る」

    ロシアは、和平交渉が始まらなければ、スタグフレーションへ突入する瀬戸際であった。トランプ氏の和平交渉斡旋は、「神の声」にも等しいグッドタイミングであった。


    (3)「ロシアが軍需生産向けの支出を一夜にして止めることには消極的だろう。不況の発生を恐れているし、軍の立て直しが不可欠だからだ。ただ、兵士を一部復員させることで労働市場への圧力を多少なりとも和らげることができるだろう」と、欧州政策分析センター(CEPA)のアレクサンダー・コリアンドル氏は予想した。ロシアは徴兵や戦闘忌避の国外移住で深刻な労働力不足が発生し、失業率は過去最低の2.3%となっている。コリアンドル氏は和平の可能性が高まれば米国が中国などの企業に対する二次制裁を強める可能性が下がり、輸入がスムーズになり、その結果物価も下がる可能性があると見ている」

    ロシアは一時的に、軍需費削減は困難である。大不況の発生が不可避であるからだ。ただ、兵士の帰還で労働力不足は緩和の方向に向う。

    (4)「ロシア市場には既に好転の兆しが現れており、21日には制裁緩和の期待からルーブル相場が対ドルで約6カ月ぶりの高値を付けた。中銀のナビウリナ総裁は、政策金利を21%に据え置いた14日の会合で、長期にわたり需要の伸びが生産能力を上回っているため、成長は自然に減速していると説明した。経済成長を促しつつインフレを抑制するという中銀の課題は、大規模な財政刺激策によって複雑になっている。政府が2025年の財政支出を前倒したことで1月の財政赤字は1兆7000億ルーブル(192億1000万ドル)と前年比で14倍に膨らんだ」

    今年1月の財政赤字は、前年比で14倍にも膨らんだ。これこそ、ロシアがもはや継戦不可能な事態へ向っている証拠だ。


    (5)「多くの企業は、高金利にあえいでいる。「現在の貸出金利では新たな開発プロジェクトを立ち上げるのは困難だ。内部資料によると、ロシアが直面する主な経済リスクとして原油価格の下落、財政面の制約、企業の不良債権の増加などが挙げられている。また、トランプ氏はウクライナ問題で譲歩の可能性を示唆する「アメ」をぶら下げる一方、合意が成立しなければ追加制裁を科すと「ムチ」もちらつかせている。マクロアドバイザリーの最高経営責任者(CEO)クリス・ウィーファー氏は、「米国は経済的に大きな影響力を持っている。だからロシア側も交渉の席につくことを望んでいる」とロシアの立場を解説。「米国はこう言っているのだ。『協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる』と」

    ロシア企業は、21%という高金利に苦しんでいる。トランプ氏は、こうしたロシア経済の苦境を知っており、「和平へ協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる」と迫っているのだ。ロシアは、トランプ氏の言うことを聞くほかない事態へ追込まれている。


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