勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

    a1320_000160_m
       

    プーチン氏はウクライナ侵攻によって、決して優れた戦略家でないことを証明した。21世紀になって、隣国領土を手に入れようという野望を持つこと自体、時代遅れであるからだ。さらに、第二次世界大戦後にタブーとなった「核」を気軽に喋って、相手を恫喝する点でも時代遅れであることを知らしめた。

     

    プーチン氏が、仮に戦略核を投下しても、軍事専門家によればその戦略効果はほとんどないという。ウクライナ軍が一カ所に固まって軍事行動していないからだ。逆に、ロシア軍は核投下した後を進軍するので、多大の被害を受けるマイナス効果の方が大きいのである。さらに大きな問題は、ロシアが国際社会から孤立する危険である。ロシア友好国も、手を切らざるを得まい。ロシアの国連常任理事国の座も危うくなる。すべて、マイナス点だけがロシアを襲うのだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月23日付)は、「プーチン氏の脅しに効果も、核使用なら返り血」と題する記事を掲載した。

     

    西側諸国はここ数カ月で、ロシアが核兵器の使用に向けて準備を進めている兆候は認められないとしている。とはいえ、プーチン氏が予告通りに核兵器を使う確率はゼロではないため、脅しを真剣にとらえる必要があるという。

     

    (1)「西側では、ロシア軍の劣勢が伝わる中で、プーチン氏が相当追い込まれていることの表れだとの受け止め方が広がっている。ただ、核兵器を使用しても、ロシアに恩恵をもたらすシナリオは考えにくいというのが、専門家の共通した意見だ。プーチン氏が核兵器の使用も辞さない構えをみせたことについて、ロシアが仮に第2次世界大戦以降のタブーを破って核兵器の使用に踏み切れば、多くのシナリオにおいて、ロシアはさらに窮地に追い込まれると想定されている。そうなれば、ウクライナ侵攻以降もロシアへの支持を表明していた数少ない友好国すら、失う恐れがある」

     

    プーチン氏は、「大ロシア帝国」再興を夢見ている。だが、核投下は、その夢を自ら粉砕することになる。ロシアはそういう取り返しのつかない大きな矛楯を抱えているのだ。核投下は、プーチン氏とロシアを滅ぼすのである。

     


    (2)「仏シンクタンク、戦略研究財団(FSR)の国防顧問、フランソワ・エスブール氏は、戦術核兵器を戦場で使えば「相当大きな爆発が起きるが、実のところ、相対的な軍事面での利点はほとんどない」と述べる。ウクライナは兵力を分散させており、核兵器で標的にできるような大規模な部隊が集中配備されているところはない。一方で、ロシア軍が核攻撃に乗じて優位に立とうとすれば、核爆発による放射性降下物が降り注ぐ中で進軍する必要がある。そうなると、ロシアが核の脅しやテロを実行する場所は、人口が密集するウクライナの都市部となる。

     

    ロシア軍は、前線で核投下しても効果がなければ、都市部を狙うことになろう。これが、ロシアを地獄へ叩き落とす「1丁目」になる。

     


    (3)「西側の専門家は、そのような作戦に出ても、戦略的な利点は何ら得られず、むしろこれまで抑制的な対応にとどまっていた米国や同盟国の態度が一変する可能性が高いと話す。ジョー・バイデン米大統領は、ロシアが核兵器を使用すれば、何らかの報復を受けることになるとの考えを示唆している。その場合、米国が核兵器を対抗して使用する可能性は低いが、ウクライナに展開するロシア軍には著しい危険が及ぶことになるとみられる

     

    ウクライナ都市部への核投下は、米国と同盟国(NATO)の対応を一変させる。下線部は、米軍の最新兵器でロシア軍を全滅させる戦術を展開すると予想される。報復作戦だ。

     

    (4)「(ロシアの)核兵器使用の利点とコストを計算する上で、別の要因も影響してくる。核兵器を搭載する可能性が高いミサイルは、今回の戦争で事故率が高く、核を搭載した状態で失敗すればロシアにとっても大きなリスクとなる。軍事専門家は核弾頭を爆発させることが、プーチン氏にとっては最後の危険な賭けとなるだろうとみている。またプーチン氏はロシアという国家よりも、自身の面目を保つことを狙っているフシがあるという。これとは別に、ロシア軍の司令官がそのような指示に従うかどうかも、プーチン氏が見極める必要のある賭けだ

     

    下線部は、真実を衝いている。プーチン氏の個人的名誉を狙ったウクライナ侵攻で、核という「悪魔の兵器」の片棒を担ぐロシア軍司令官がいるか、である。人類への犯罪である「核攻撃」に加担する軍人は、真の軍人とは言えないからだ。

    ムシトリナデシコ
       

    ロシアのプーチン大統領9月21日、部分的動員令を発表した。即日から実施という慌ただしさだ。30万人の動員令である。翌日から召喚が行なわれている。その状況を米『CNN』(9月23日付)は、次のように報じた。

     

    「ロシアの一部の地域、特にカフカスと極東地域で「部分的動員」の第一段階が進行している様子をとらえた動画が、ソーシャルメディアに投稿されている。極東のネリュングリ市でバスに乗り込む大勢の男性に別れを告げる家族の映像も投稿されている。女性が泣きながら夫を抱きしめて送り出し、夫がバスの窓から娘に手を伸ばす姿が映っている」

     

    映像では、幼児の「パパ、パパ」と泣き叫ぶ情景もあり、戦時中の日本の応召姿とは全く異なるものの、悲壮感が漂っている点では同じだ。戦争は悲劇である。

     

    ロシアは「部分的動員令」で、戦局を変えられるだろうか。その可能性は極めて少ないという指摘があるので取り上げた。

     

    『CNN』(9月22日付)は、「ロシアの部分動員、『戦況に劇的な変化』もたらす公算小 戦争研究所」と題する記事を掲載した。

     

    米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は21日の分析で、ロシアのプーチン大統領による部分動員の発表が戦争の流れを劇的に変化させる可能性は少ないとの結論を示した。

     


    (1)「ISWの分析では、予備役の戦闘準備が整うには数週間から数カ月かかるほか、ロシアの予備役はそもそも練度が低いと指摘。(米)国防省が示した慎重な配備の段階をもとに判断すると、ロシア兵が突然押し寄せて戦況を劇的に変化させる事態は考えにくいと述べた。プーチン氏の命令は兵役を終えた「訓練済み」の予備役の一部を動員する内容だが、数カ月は大した戦力にならないだろうと指摘。死傷者の穴を埋めて現在の兵力を来年も維持するには十分かもしれないが、現時点ではそれすら定かではないとの見方を示した

     

    ロシアの兵役は1年間である。新兵が、この間に学ぶことは軍隊生活と基本的な訓練だけであろう。その1年間の兵役後に、継続したサポートを受けているわけでないという。つまり、時間が経てば忘れてしまう危険性が高いのだ。この状態で動員しても、数ヶ月の訓練がなければ、「一人前」の兵士にはなれないであろう。

     


    (2)「さらに、「ロシアの兵役期間はわずか1年で、徴集兵が兵士としての技能を学ぶ時間はそもそもほとんどない。この最初の期間の後には追加訓練がなく、時間が経つにつれ身に着けたスキルの劣化が加速する」としている」

     

    戦う相手のウクライナ兵は、多くが民間人であったが「祖国防衛」という強い信念に燃えている。NATO軍や米軍から合理的な戦い方を学び、ロシア兵と比較して格段の逞しさと強さを身に付けている。ウクライナ軍の長距離重火砲は、ロシア軍を圧倒しており、ロシア軍が戦線挽回の可能性は低いとみられている。

     

    ロシア国民の多くは、ウクライナ侵攻直後は「反戦デモ」を行なったが、その後は取締り強化もあって消えてしまった。そこへ、突然の「予備役動員令」によって、ウクライナ戦争が身近になって恐怖感に襲われている。動員令から逃れるには、国を出るほかない。道は、空路か陸路しかないのだ。空路は、予約が殺到して航空券を手に入れられるか分らない。ならば、陸路での脱出である。

     

    『CNN』(9月23日付)は、「ロシア出国を待つ長い車列、複数の隣国との国境で確認」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領が「部分的動員」を発表した翌22日、ロシアといくつかの隣国との国境ではロシアから出国しようとする長い車列ができ、その様子を収めた映像がソーシャルメディアに投稿された。

     

    (3)「カザフスタン、ジョージア(グルジア)、モンゴルとの国境の検問所には行列が出来ていた。21日撮影のあるビデオでは、ジョージアとロシアの国境の検問所に一晩中何十台もの車が並んでいるのが映っている。その列は、22日にはさらに長くなっているように見える。ビデオでは長い列が国境の後ろの山まで延びており、ある男性は「5〜6キロの長さだ」とコメントしている」

     

    動員令を逃れるには、国を出る以外に方法しかない。家族が一緒かどうかは分らない。逃亡を余儀なくされるのは、命を守るギリギリの決断であろう。

     


    (4)「22日に投稿された別のビデオには、モンゴルとの国境の長蛇の列がうつっている。カザフスタンとの国境の町トロイツクで同日朝に撮影されたビデオでは、何十台もの車が並んでおり、ある男性が「ここはトロイツク。トラックと乗用車の列ができている。列の始まりも終わりも見えない。皆ロシアから逃れている」と話している」

     

    車の列の始まりも終りも見えないとは、「渋滞」というイメージを超えている。予備役は、200万人いる。該当者は、逃げることで命を守るのだ。

     

    (5)「カザフスタン議会上院議長のマウレン・アシンバエフ氏は、カザフスタンはロシア人の入国を制限することはできないと述べたと、ロシア国営RIAノーボスチ通信が22日に報じた。しかしアシンバエフ氏は、在住許可を取得するためには申請者は法律に準拠した書類一式を用意しなければならないと述べている」

     

    カザフスタンでは、在住許可を取得するために書類一式が必要という。大慌てで家を出て来たであろうから、そのような時間はなかったはずだ。パスポート一つと預金だけであろう。こうなると、無事に在住許可を得られるか心配だ。

     

    a0960_008527_m
       

    ロシアは2つの問題に悩む

    同じ病に感染している中ロ

    極秘の電子兵器を捨て遁走

    購入契約破棄のロシア武器

     

    ロシアのウクライナ侵略戦争は、9月に入って大きな局面転換を見せている。ウクライナ軍が、北東部で約8000平方キロを奪回したからだ。この過程で起こったロシア軍の遁走は、これまで言われてきた「軍事大国」ロシアの姿とほど遠かった。小国の兵士が、先を争って逃げ去る状況を彷彿とさせた。「ロシア敗北」を強く印象づけたのである。中ロ枢軸に、空中分解の恐れも否定できまい。

     

     

    振り返って見たとき、戦争には大きな「ヤマ場」がある。太平洋戦争で日本軍は、真珠湾奇襲攻撃で大勝を収めたが、その7ヶ月後のミッドウェー海戦で大敗北を喫した。これで、日本海軍は主力艦隊を失って日本敗戦への道に繋がった。

     


    ロシアは2つの問題に悩む

    ロシア軍のウクライナ北東部での敗北は、二つの要因によってもたらされた。兵士不足と武器不足である。

     

    前者は、ロシアが開戦時に擁した兵員15~20万のうち、すでに7~8万人の死傷者が出ていると米英の軍事専門家は推計している。こういう、悲惨な戦い方になれば、兵士の士気が高まる筈がない。

     

    「明日は我が身」と思う兵士は、勝手に戦線離脱(逃亡)を始めている。この数は、相当数に上っているようだ。ロシア議会下院は9月20日、戦闘中の兵士が指示に従わなかったり、脱走した場合などの処罰を重くする法案を可決した。自発的に降伏した兵士には、10年の懲役刑が科せられる。

     

    こうした兵士不足状況を穴埋めすべく、プーチン大統領は21日、予備役の部分動員と親ロシア派地域の事実上の併合に踏み切る意向を強調した。予備役の部分動員は即日実施されるが、戦場へ出すまでに数ヶ月の訓練を要する。当面の戦局に影響なさそうだ。

     


    予備役の部分動員で止まったのは、総動員に拡大した場合に国内での反発を危惧した結果と見られる。大規模動員になれば、これまでウクライナで「勝利」してきたというプロパガンダを自ら否定することになる。その矛楯を避けるには、最小規模にするほかないという悩みを抱えている。プーチン氏の最大の悩みはここにある。自分の「ウソ発言」に縛られて動きがとれないのだ。

     

    武器不足の問題も深刻である。これまでロシアは、世界2位の武器輸出大国として発展途上国へ輸出してきた。そのロシアが今や、イランや北朝鮮へ武器譲渡を求めるという、想像もできなかった事態に追込まれている。これは、西側諸国が経済制裁で戦略物資の輸出を禁じた結果だ。ロシアは、西側の部品で武器弾薬を製造してきたことを白日の下にさらしたのである。要するに、ロシアの武器製造は西側の部品供給が止まれば不可能という、技術的脆弱性を曝したのである。

     


    「軍事大国」ロシアが、戦いで「軍事小国」ウクライナに追込まれたのは、ロシア製武器がウクライナ軍の西側製武器に比べ性能が劣ることを証明した。ロシアの武器不足の問題は、ロシア製の武器輸入国に大きな衝撃を与えている。この問題は、兵士の戦い方とも関わるため、あとで詳細に取り上げたい。

     

    同じ病に感染している中ロ

    中国軍は、ロシア軍と共同演習を重ねるなど密接な関係を築いている。ロシアのパトルシェフ連邦安全保障会議書記が9月19日、中国外交担当トップの楊潔チ共産党政治局員と会談した。この席で、中ロは戦略的提携を深化して防衛協力を拡大し、主要な地政学的問題で両国が連携を強化するよう要請した。中ロは、「さらなる軍事協力と参謀本部間の連絡強化で合意した」という。

     

    この中で注目すべきは、「軍事協力と参謀本部間の連絡強化」である。中ロの軍隊が協力するとは、同じ部隊運営システムであることが前提になる。

     


    米国防大学は最近、中国軍がウクライナで苦戦するロシア軍と同じ潜在的な弱点を抱えており、同様の戦争で敗北する可能性があるという衝撃的な報告書を公表した。米『CNN』(9月17日付)が報じた。
    これによると、中ロの協力関係強化は中国軍にマイナスになるという報告である。ロシア軍の脆弱性が、そのまま中国軍の弱点になるという注目すべき内容なのだ。

     

    報告書では2021年までの6年間、中国人民解放軍(PLA)の陸海空軍とロケット軍、戦略支援部隊の5軍種に所属する幹部将校300人以上の経歴を調査した。その結果、どの軍種においても、幹部はキャリアを開始した軍種以外で作戦経験を積む機会に乏しいことが判明した。別の言い方をすれば、PLAの陸軍兵は陸軍兵のまま、海軍兵は海軍兵のまま、空軍兵は空軍兵のままキャリアを過ごすのである。これは、ロシア軍と全く同じ道である


    報告書では、PLAの要員がそうした狭い組織の外に出ることはまれだと述べている。米軍が、1986年から法律で義務付けられており、軍種をまたいだ訓練を行なっている。米軍将校は、「オールランドプレーヤー」として、陸・海・空の知識を収めているので臨機応変な軍事判断が可能である。(つづく)

     

    次の記事もご参考に。

    2022-09-05

    メルマガ392号 中国ファーウェイ「巣ごもり宣言」、米国の技術輸出禁止で「ノックアウト」

    2022-09-12

    メルマガ394号 米中「始まった新冷戦」、米国は技術情報封鎖へ 中国はスパイで対抗?

     

     

    ムシトリナデシコ
       

    先の習近平氏とプーチン氏の首脳会談後、ロシアのパトルシェフ連邦安全保障会議書記が19日、中国外交担当トップの楊潔チ共産党政治局員と会談した。パトルシェフ氏は、戦略的提携を深化して防衛協力を拡大し、主要な地政学的問題で両国が連携を強化するよう要請したと、『ロイター』(9月19日付)が伝えた。

     

    中ロ首脳会談では、双方が意見を述べ合っただけで深い詰めがなかった。習氏は、夕食もとらず帰国するという「隙間風」が吹いていたので、ロシア側がプーチン氏の側近を中国へ派遣したものだ。中ロは、今後とも「共同演習やパトロールを中心に、さらなる軍事協力と参謀本部間の連絡強化で合意した」という。

     


    中ロは、ウクライナで軍事行動を共にすることはなくても、軍事協力と参謀本部間の連絡強化を申し合わせた。ただ、中ロの協力関係強化が、中国軍にマイナスになるという調査報告が米国防大学から発表された。ロシア軍の脆弱性が、そのまま中国軍の弱点になるという注目すべき報告である。

     

    米『CNN』(9月17日付)は、「中国軍、ロシア軍と同じ潜在的な弱点 米国防大の新報告書」と題する記事を掲載した。

     

    中国軍はウクライナで苦戦するロシア軍と同じ潜在的な弱点を抱えており、同様の戦争を遂行する能力の妨げになる可能性がある――。米国防大学がそんな報告書を公表した。

    報告書では、軍種を超えた訓練の不足が人民解放軍(PLA)のアキレス腱になる可能性があると指摘している。ただ、専門家は中国の能力を過小評価することには依然慎重で、ロシアとの比較には注意を促している。

     


    (1)「報告書では2021年までの6年間、PLAの陸海空軍とロケット軍、戦略支援部隊の5軍種に所属する幹部将校300人以上の経歴を調査した。その結果、どの軍種においても、幹部はキャリアを開始した軍種以外で作戦経験を積む機会に乏しいことが判明した。別の言い方をすれば、
    PLAの陸軍兵は陸軍兵のまま、海軍兵は海軍兵のまま、空軍兵は空軍兵のままキャリアを過ごす。報告書では、PLAの要員がそうした狭い組織の外に出ることはまれだと述べ、軍種をまたいだ訓練が1986年から法律で義務付けられている米軍とは対照的だと指摘している」

     

    人民解放軍(PLA)の幹部将校は、下線のように陸軍は陸軍、海軍は海軍と生涯に他の軍務を経験することがない。米国は1986年以降にこの垣根を取り払い、あらゆる軍務を経験させている。この経験が、陸・海・空の一体化作戦に不可欠という。

     


    (2)「報告書はさらに、こうした「硬直性が将来の紛争で中国の有効性を低下させる可能性がある」とし、特に軍種をまたいだ高レベルの統合行動が求められる紛争では問題になると指摘。PLAは「軍全体のまとまりに欠ける」ウクライナでのロシア軍と同様の問題に見舞われる可能性があると示唆した。7カ月前のウクライナ侵攻開始以降、ロシア軍の組織構造の欠陥は外部から見て明らかになっている。専門家によれば、ウクライナ軍の反転攻勢で最近敗走した際、ロシアの地上部隊は航空支援を欠いていた。開戦当初には兵たん面の問題で補給能力がそがれ、ロシア軍のトラックは地形に適したタイヤもなく、整備不足による故障が相次いだ

     

    ウクライナ侵攻で見せたロシア軍の欠陥は、地上部隊が航空支援できなかった点にあるという。他軍務を経験していないので、硬直的な戦い方になるという。ウクライナ侵攻でロシア軍は、開戦3日間で空挺部隊の大半を失った。

     


    (3)「報告書の著者であるジョエル・ウズノー氏によると、PLAの幹部は軍種をまたいだ訓練の不足から、これと同様の問題に直面している。「例えば、作戦指揮官が後方支援部門でキャリアを広げる機会はほとんどない。その逆もしかりだ」(ウズノー氏)。同氏は米国防大学中国軍事研究センターの上級研究員を務める。報告書によると、21年に四つ星司令官(米軍の統合参謀本部議長やインド太平洋軍司令官、あるいは中国の中央軍事委員会幹部や戦区司令官など)を比較したところ、米軍の40人全員が統合軍の経験があったのに対し、中国軍では31人中77%しか統合軍の経験がなかった。米国では四つ星司令官のほぼ全員が作戦経験を持つが、中国では半数近くが「プロの政治将校」だという」

     

    PLAは、ロシア軍が見せたウクライナ戦争での欠陥を、そのまま受け継いでいる可能性が強い。台湾軍は、米軍による訓練を受けているので、他軍務を経験させているだろう。驚くべきは、中国の四つ星司令官の約半数が「政治将校」上がりだ。つまり、実戦指揮の経験がない「アマチュア」である。これは、中国最大の弱点であろう。

     


    (4)「ハワイにある米太平洋軍統合情報センターの元作戦責任者、カール・シュスター氏は、今回の報告書は「中国の現状や今後について私が見た中で最良の分析だ」と語る。一方で、この報告書を基にウクライナと似た戦争でのPLAの戦いぶりを予想するのには慎重になった方がいいとも指摘した。中国軍にはロシア軍より優れた点が他に数多くあるからだ。中国は新兵訓練の質がより高く、現在はもう徴集兵に依存していないが、ロシア軍は下士官の「80~85%を入隊7カ月の徴集兵に頼っている」(シュスター氏)。ロシアとは異なり、中国にはプロの下士官も存在するという」

     

    中国軍が、ロシア軍並の弱さという結論を出すべきでない、としている。当然だろう。敵を見くびって負けた例は多い。今回のロシア軍がそれだ。



    118
       

    中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は15日、訪問先のウズベキスタンのサマルカンドで会談した。両首脳の対面会談は、2月のロシアによるウクライナ侵攻後初めてである。プーチン氏は会談で、「ウクライナ危機に関する中国の懸念を理解しており、すべての問題を説明する用意がある」と述べた。中国側が、長期化するウクライナ侵攻に懸念を伝えた結果であろう。

     

    米国務省のプライス報道官は15日の記者会見で、プーチン氏が「ウクライナ危機に関する中国の懸念を理解している」と述べたことに関して「プーチン氏がこれだけ公然と中国の懸念を認めたことは興味深い」と語った。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月16日付)は、
    習氏、ウクライナ巡りプーチン氏に懸念伝える」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は15日、ロシアによるウクライナ侵攻開始後初めて対面で会談した。ウクライナを巡り習氏が伝えた懸念については、プーチン氏は対応する姿勢を示した。

     

    (1)「ロシアの戦況が悪化する中、ウズベキスタンのサマルカンドで開かれている上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせて会談が行われた。プーチン氏は習氏に対し、ウクライナ危機を巡る中国政府のバランスの取れた姿勢を高く評価すると述べた。また、中国がウクライナ危機への懸念を表明したことを受け、ロシアは自国の立場を明らかにしていく考えを示した。詳細には言及しなかった」

     

    今回の中ロ首脳会談には、ウクライナでのロシア軍の苦戦が影を落とした。侵略したロシアの「負け戦」の中では、いかなる正論もその根拠を失うからだ。中ロは、それぞれの悩みを抱えている。習氏は、台湾情勢に危機感を強めている。プーチン氏は、ウクライナの戦況悪化に焦っている。この両者の接近は、ロシアが経済で中国に従属し、中国がロシアの「反米」路線に引き込まれる危うさをはらむ。この認識は、中国国内でも広く共有されている。中国は、厄介な問題に引きずり込まれているのだ。

     


    (2)「プーチン氏は中国側の「疑問や懸念は理解している」と述べた。ロシア国営テレビが発言を伝えた。プーチン氏はまた、台湾を巡り挑発を行っているとして米国を非難した上で、中華人民共和国政府が中国唯一の合法的な政府であるとする「一つの中国」原則を支持すると述べた。中国国営の新華社によると、習氏は会談で、中国とロシアが今年初めから「実効性のある戦略的対話」を維持してきたと発言。「世界が歴史的変化に直面する中、主要国として中国はロシアとともに主導的役割を果たし、動揺する世界に安定をもたらすよう取り組む用意がある」と述べた」

     

    下線部は、いかにも苦しい弁明に聞える。中ロが、世界情勢を動揺させている張本人であるからだ。習氏とプーチン氏は、年齢的には1歳違いである。来年は、70歳を迎える年齢になりながら、世界中を騒がせて「主導的役割を果たす」と嘯(うそぶ)いている。普遍的価値観欠如がもたらした2人の錯誤と悲劇である。

     


    (3)「米首都ワシントンに拠点を置く保守系シンクタンク、民主主義防衛財団のクレイグ・シングルトン氏は、ウクライナでの戦争を巡り中国が懸念していることをプーチン氏が公に認めたことは極めて注目に値すると指摘。中国政府の公式発表は、ウクライナについて触れていないとした上で、中国はロシアへの支援を強める意図がないことを示唆していると述べた。シングルトン氏は、ロシアによる侵攻を支持し続けることで、欧州との関係だけではなく、侵攻への反対姿勢を明らかにしている国が多い中央アジア全体との関係も大幅に悪化することを中国は「当然ながら懸念している」と述べた」

     

    ロシアは、これまで重視していた欧州との政治、経済関係が断たれつつある。中国もまた、ロシアのウクライナ侵攻を「擁護」する発言で、欧州との政治・経済関係が希薄化されている。結局、ロシアも中国も今回のウクライナ侵攻では、失ったものが余りにも大きいのだ。今後、この両国は、本心は別としても依存し合わなければならない苦境に立たされることになった。

     

    中ロは、互いに相手国を「利用」するだけの目的である。同盟関係に進まないのは、両国の間に越すに越せない「歴史的なわだかまり」があるからだ。ロシアは、共産主義の「本家意識」を持ち、中国は経済面で「上位」という奢りである。かつての毛沢東とソ連との対立は、感情的に今も解決できないのだろう。


    このページのトップヘ