プーチン氏はウクライナ侵攻によって、決して優れた戦略家でないことを証明した。21世紀になって、隣国領土を手に入れようという野望を持つこと自体、時代遅れであるからだ。さらに、第二次世界大戦後にタブーとなった「核」を気軽に喋って、相手を恫喝する点でも時代遅れであることを知らしめた。
プーチン氏が、仮に戦略核を投下しても、軍事専門家によればその戦略効果はほとんどないという。ウクライナ軍が一カ所に固まって軍事行動していないからだ。逆に、ロシア軍は核投下した後を進軍するので、多大の被害を受けるマイナス効果の方が大きいのである。さらに大きな問題は、ロシアが国際社会から孤立する危険である。ロシア友好国も、手を切らざるを得まい。ロシアの国連常任理事国の座も危うくなる。すべて、マイナス点だけがロシアを襲うのだ。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月23日付)は、「プーチン氏の脅しに効果も、核使用なら返り血」と題する記事を掲載した。
西側諸国はここ数カ月で、ロシアが核兵器の使用に向けて準備を進めている兆候は認められないとしている。とはいえ、プーチン氏が予告通りに核兵器を使う確率はゼロではないため、脅しを真剣にとらえる必要があるという。
(1)「西側では、ロシア軍の劣勢が伝わる中で、プーチン氏が相当追い込まれていることの表れだとの受け止め方が広がっている。ただ、核兵器を使用しても、ロシアに恩恵をもたらすシナリオは考えにくいというのが、専門家の共通した意見だ。プーチン氏が核兵器の使用も辞さない構えをみせたことについて、ロシアが仮に第2次世界大戦以降のタブーを破って核兵器の使用に踏み切れば、多くのシナリオにおいて、ロシアはさらに窮地に追い込まれると想定されている。そうなれば、ウクライナ侵攻以降もロシアへの支持を表明していた数少ない友好国すら、失う恐れがある」
プーチン氏は、「大ロシア帝国」再興を夢見ている。だが、核投下は、その夢を自ら粉砕することになる。ロシアはそういう取り返しのつかない大きな矛楯を抱えているのだ。核投下は、プーチン氏とロシアを滅ぼすのである。
(2)「仏シンクタンク、戦略研究財団(FSR)の国防顧問、フランソワ・エスブール氏は、戦術核兵器を戦場で使えば「相当大きな爆発が起きるが、実のところ、相対的な軍事面での利点はほとんどない」と述べる。ウクライナは兵力を分散させており、核兵器で標的にできるような大規模な部隊が集中配備されているところはない。一方で、ロシア軍が核攻撃に乗じて優位に立とうとすれば、核爆発による放射性降下物が降り注ぐ中で進軍する必要がある。そうなると、ロシアが核の脅しやテロを実行する場所は、人口が密集するウクライナの都市部となる。
ロシア軍は、前線で核投下しても効果がなければ、都市部を狙うことになろう。これが、ロシアを地獄へ叩き落とす「1丁目」になる。
(3)「西側の専門家は、そのような作戦に出ても、戦略的な利点は何ら得られず、むしろこれまで抑制的な対応にとどまっていた米国や同盟国の態度が一変する可能性が高いと話す。ジョー・バイデン米大統領は、ロシアが核兵器を使用すれば、何らかの報復を受けることになるとの考えを示唆している。その場合、米国が核兵器を対抗して使用する可能性は低いが、ウクライナに展開するロシア軍には著しい危険が及ぶことになるとみられる」
ウクライナ都市部への核投下は、米国と同盟国(NATO)の対応を一変させる。下線部は、米軍の最新兵器でロシア軍を全滅させる戦術を展開すると予想される。報復作戦だ。
(4)「(ロシアの)核兵器使用の利点とコストを計算する上で、別の要因も影響してくる。核兵器を搭載する可能性が高いミサイルは、今回の戦争で事故率が高く、核を搭載した状態で失敗すればロシアにとっても大きなリスクとなる。軍事専門家は核弾頭を爆発させることが、プーチン氏にとっては最後の危険な賭けとなるだろうとみている。またプーチン氏はロシアという国家よりも、自身の面目を保つことを狙っているフシがあるという。これとは別に、ロシア軍の司令官がそのような指示に従うかどうかも、プーチン氏が見極める必要のある賭けだ」
下線部は、真実を衝いている。プーチン氏の個人的名誉を狙ったウクライナ侵攻で、核という「悪魔の兵器」の片棒を担ぐロシア軍司令官がいるか、である。人類への犯罪である「核攻撃」に加担する軍人は、真の軍人とは言えないからだ。