勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    先のG7首脳会議は、ロシアへさらなる経済制裁を見送った。効果は確実に出始めた。資源高騰で外貨を稼いでいるが、経済制裁で部品や技術の供給が止まっている。これにより、国内の鉱工業生産に大きな影響が出る。4月は、3.0%のマイナス成長に落込んだ。これから、マイナス幅が拡大されるはずだ。

     

    『日本経済新聞』(6月30日付 経済教室欄)は、「ロシア経済の強さと弱さ 制裁に伴う在庫不足、大打撃」と題する記事を掲載した。筆者は、ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所代表の隈部兼作氏である。

     

    2月24日に始まったウクライナ侵攻により、ロシア経済を取り巻く環境は激変した。西側諸国は外貨準備の凍結、ロシア主要行の国際銀行間通信協会(SWIFT)排除、エネルギー資源の一部禁輸、半導体などの輸出制限、対ロ新規投資の禁止など、ロシアを国際金融システムや世界経済から孤立させる措置を次々と導入した。ウクライナは欧米諸国から供与される重火器などで反撃しており、紛争は長期化が予想される。

     


    (1)「貿易に関しては、ロシア税関庁は侵攻後に通関統計の公表をやめている。対ロ輸出入の60%以上を占める欧州連合(EU)、米国、日本、中国、インドの統計から、これらの国の対ロ貿易が侵攻前後でどう変化したかを見る。34月の対ロ輸入は米国を除き前年比で増えた。資源価格の高騰が主因だ。ただし、制裁に参加している米国、EU、日本は減少傾向で、いち早くエネルギーを禁輸した米国は4月に前年同期比15%減少した。一方、制裁に参加していない中国は4月に57%、インドは253%増加させており、制裁参加国と非参加国の違いが鮮明だ」

     

    インドと中国は、ロシアからの原油輸入が激増している。対ロ制裁で西側諸国は減少し、好対照である。

     

    (2)「特筆すべきは制裁に参加していないインドで、割安なロシア産ウラル原油の輸入を急増させており、ロシアの原油輸出に占める割合は侵攻前の1%から18%に拡大した。インドは輸入した原油を精製し、その一部を米国、フランス、イタリア、英国などに輸出している。インドや中国が制裁の抜け道になると懸念していた欧米諸国は、ロシア産原油が原料であることを知りながら、インドからの石油製品輸入を増やしている。EUはロシア産石油を輸送する船舶への保険提供を禁止し、制裁を科していないインドなどへの輸出を制限する効果に期待するが、こちらも6カ月間の猶予期間があり即効性はない」

     

    インドは、急増するロシア原油を精製して第三国へ輸出して利益を上げている。この便乗商法は、秋に船舶への海上保険付保が禁止されるので、不可能になる。西側諸国は、インドを陣営へ取り込もうとしており、見て見ぬ振りをしている。

     


    (3)「6月に入りロシアから欧州へ天然ガスを輸送するパイプライン「ノルドストリーム」の輸送量が60%減少した。ロシア側の報道によれば、西側企業の撤退で出荷基地の保守・点検・修理ができなくなった。制裁による西側企業の撤退は、エネルギー禁輸よりも早くロシアのエネルギー産業に影響を与えそうだ」

     

    下線部は、極めて重要だ。ロシアの原油出荷基地では、保守・点検・修理業務の6割を西側企業が担ってきた。西側企業の撤退で、前記業務が大幅に滞っている。これにより、ロシアは原油の生産減に追い込まれる。

     

    (4)「各国の対ロ輸出をみると、3月以降大幅に減少した。制裁を科していない中国やインドも減少している。SWIFT除外の影響による海外送金の停滞、半導体などの先端技術の輸出制限強化、サプライチェーン(供給網)の分断などにより、ロシアのビジネス環境は急速に悪化し、企業の撤退や工場の操業停止が相次いでいる。これらの制裁は即効性が高く、ロシアは原材料、設備、部品、高度な技術などを西側から調達することが困難になった。現時点で電子部品などを海外から輸入する自動車工場はすべて操業を停止している」

     

    ロシアの輸入ビジネスが、禁輸の影響を真っ正面から受けている。ロシアは、モノカルチャー経済ゆえに、禁輸の影響は甚大である。想像を超えるマイナス効果が及ぶはずだ。

     


    (5)「ロシア中央銀行の調査では、ロシアの製造業の約4割が代替サプライヤー(部品会社など)を見つけるのが困難で生産に支障を来している。夏以降の生産に不安を抱く企業も多い。
    ロシアは資源価格の高騰で外貨を稼げても、必要な物資や技術を海外から調達できない状況にある。エネルギー資源の生産・輸出についても、今後は西側企業の撤退により保守・点検・修理などが困難となり、生産量が減少する可能性が高い。中長期的にはエネルギー禁輸や船舶保険の提供禁止の発動により輸出も減少していくと考えられる

     

    ロシアは資源価格高騰で外貨を稼いでいるが、その外貨を使った肝心の輸入ができないのだ。モノカルチャー経済最大の弱点である。中長期的には、海上保険の付保禁止の影響が、これからのし掛ってくる。

     

    (6)「4月以降のロシア経済は景気後退が一段と鮮明になった。1~3月の実質経済成長率は3.%に達したが、4月は3.%のマイナスとなった。鉱工業生産は1.%減、小売売上高は9.%減など、経済指標は軒並み悪化している。1~5月の経常収支は資源価格の高騰による輸出増加と輸入激減から1103億ドルの黒字を計上し、一時暴落したルーブル相場は侵攻前よりも強くなった。だが、外貨があっても必要な物資や技術を海外から調達できない結果ともいえる」

     

    外貨があっても、必要な物資や技術を海外から調達できない結果、下線部のように経済指標は軒並み悪化している。インドや中国では、その代役ができないのだ。

     


    (7)「ロシアの連邦財政をみると、14月は歳入が前年比34%増えた。資源価格の高騰で石油ガス収入が91%増えたことが大きい。他方、非石油ガス収入は制裁による景気後退で5.%の増加にとどまり、侵攻後の34月は単月で前年よりも減少した。一方、歳出は3月以降急増し、4月は前年比40%増えた。ロシア財務省は侵攻後、歳出の内訳を公表せず詳細は不明だが、一部報道から算出すると4月の国防費が前年比約150%増えたことが原因とみられる。4月の連邦財政は赤字となった。22年の国防予算は3.5兆ルーブル(約9兆円)が計上されていたが、4月時点で4割強の1.5兆ルーブルが使われたことになる」

     

    歳入は、石油関連が増えても非石油関連が減少し、トータルでは減っている。歳出は、国防費関連が激増し、財政赤字に陥っている。

     

    (8)「今後も国防費が膨らむのは確実だ。ロシア政府は4月に国民福祉基金の資金の繰り入れと使途に関するルールを変更した。同月だけで基金残高は約2兆ルーブル減っており、戦費流用の可能性を指摘する専門家もいる。今後問題になる失業対策や年金などの社会保障についても、国防費が財政を圧迫する中で手当てせねばならない。原材料や部品の在庫が底をつき始める夏以降に、経済は厳しい状況になるだろう」

     

    国防費激増分を賄うべく、国民福祉基金を流用し始めている。財政も悪化は必至である。輸入の原材料や部品の在庫が、夏以降に底をつく。これから、ロシア経済の危機が表面化するだろう。



    ムシトリナデシコ
       

    メドベージェフ前大統領は、プーチン大統領の影のような存在である。そのメドベージェフ氏が突然、昨秋からウクライナ批判を始め存在感をアピールしているのだ。誰でも感づくのは、プーチン氏の健康不安から、メドベージェフ氏がその後釜を狙っているのでないか、というのである。真相は不明だが、メドベージェフ氏の言動からプーチン氏の健康状態を推し測れるかも知れない。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(6月30日付)は、「『プーチンの犬』メドベージェフ前大統領の転落が止まらない」と題する記事を掲載した。

     

    最近のメドベージェフのソーシャルメディア投稿には、欧米政府高官に対する口汚い批判や、アメリカを攻撃するとか、ウクライナを地図から消し去るといった好戦的な言葉が目立つ。ウクライナ侵攻がロシア国内にもたらす混乱が日常生活に表れ始め、さらにウラジーミル・プーチン大統領の健康悪化がささやかれるなか、メドベージェフは自己防衛策を強化しているようだ。

     


    (1)「メドベージェフは昨年10月、ロシアの日刊紙コメルサントに反ユダヤ主義むき出しの寄稿をした。ロシアがウクライナ国境に兵力を集める少し前のことで、ユダヤ系であるウォロディミル・ゼレンスキー大統領をナチスと非難するなど、支離滅裂な陰謀論と罵詈雑言に満ちた寄稿だった。かつては温厚に見えたメドベージェフの変節は、ロシアがヨーロッパにとって厄介な隣人から、存亡を脅かす存在に変貌したことと一致する」

     

    温厚に見えたメドベージェフ氏が、昨秋から豹変して過激派になった。ウクライナ批判を始めたのだ。そのきっかけが、プーチン氏の健康不安を察知した結果とみられる。

     


    (2)「2月のウクライナ侵攻以来、ロシア政界はナショナリズム色が極めて濃くなり、異論を認めない風潮が強まった。メドベージェフの過激な主張も、強硬派の監視の目を意識して繰り出された可能性が高い。「ロシア政治で起きている非常に興味深い変化の1つだ」と、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティクのタチアナ・スタノバヤ代表は語る。「ロシアは変わった。そしてメドベージェフは、自分が新しいロシアの一員であることを示す必要に駆られている」と指摘」

     

    メドベージェフ氏は、ロシアの動きに合せて過激発言を行い一体感を演出しているというのだ。

     

    (3)「リベラル派からはプーチンの犬と揶揄され、ロシアの安全保障当局からは、アメリカに擦り寄ったと疑念の目で見られて、近年のメドベージェフは孤立していた。だから余計に、プーチンの厚意にすがるしかなくなっていた。「メドベージェフはロシアの政治エリートで、最も立場が弱い1人だ」とスタノバヤは語る。メドベージェフは6月のテレグラムへの投稿で、最近極端な愛国主義を唱えるようになった理由を説明した。「あいつらのことが憎いからだ。連中はろくでなしのクズだ」。この「連中」とはウクライナのことらしい。「私の命ある限り、あいつらを消滅させるために何でもする」と言う」

     

    メドベージェフ氏は、リベラル派から揶揄され安保当局からは警戒されるという挟み撃ちに遭っている。どうしても、プーチン氏の庇護を得なければならない立場とされる。これによって、「ポスト・プーチン」の座を固めたいのかも知れない。

     


    (4)「メドベージェフが大統領に就任したのは08年、プーチンが当時の憲法が定める大統領の任期上限に達して、ひとまずその座を降りなければならなくなったときだ。それはロシア国内にも欧米諸国にも、大きな希望を生み出した。なにしろメドベージェフは、プーチンをはじめ過去のロシア(とソ連)の政治指導者たちとは大きく違っていた。大学を卒業したのはベルリンの壁崩壊の数年前で、ソ連の政治に染まっていなかった。ロシアの「弱い民主主義」と「非効率な経済」は問題だと語るなど、言うことは言う。だが、欧米諸国にこうした希望を抱かせることになったメドベージェフの特質が、ロシア政界では、保守派の愚弄と疑念を招く原因となった」

     

    メドベージェフ氏の経歴は、ソ連政治に染まっていないことだ。だから、第三者の立場で過去のソ連を批判できる。ロシア保守派には、それが気に入らないのだろう。

     

    (5)「ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイは17年、ロシアの政治家による幅広い腐敗を暴露する動画を発表した。プーチンが大統領に復帰すると入れ替わるように首相に就任していたメドベージェフもターゲットの1人だ。すると、その豪勢な暮らしぶりを知った多くの市民が全国で怒りのデモを繰り広げた。10代の若者たちは、黄色いアヒルのおもちゃを手にデモに参加した。メドベージェフの広大な別荘に、ヨットハーバーやスキー場やヘリ発着場だけでなく、アヒル小屋があることにちなんだ抗議だ。支持率が38%に落ち込むと、メドベージェフは20年に首相辞任を発表した」

     

    メドベージェフ氏も、利権漁りをして広大な別荘を手に入れていた。これが暴露され結局、首相辞任へ追い込まれた。プーチン氏と同じ蓄財に励んだが失脚原因になった。

     


    (6)「コロナ禍が始まってから2年、プーチンはいまだに群衆に近づこうとしないし、政府高官とさえ距離を置きたがる。このため欧米のメディアでは、「プーチン健康悪化説」が盛り上がる一方だ。もちろんロシア政界も噂には気付いている。メドベージェフの最近の行動は、長年自分を守ってくれたパトロンも、政治的・肉体的な死と無縁ではないという思いと関係していると、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティクのタチアナ・スタノバヤは語る。「メドベージェフは『プーチン後のロシア』における、自分の居場所を確保するために戦っているのだ」と指摘」

     

    メドベージェフ氏にとっては、プーチン氏の健康不安が絶好のチャンスになる。何と言っても大統領と首相の経験者である。秘かに、「闘志」を燃やしても不思議でない、政治環境になったと判断したのであろう。

     

     

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    ロシアは、西側諸国による経済制裁の影響がじわりじわりと出てきたという。4月の消費者物価指数は、前年同月比で17.%と20年ぶりの高水準。それでも、インフレは減速し始めている。ロシア中央銀行は、物価に合せて政策金利を引下げた。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(5月31日付)は、「求人広告55%減、米欧の制裁で綻び始めたロシア経済」と題する記事を掲載した。

     

    プーチン大統領の努力にもかかわらず、制裁と欧米企業の取引停止の影響がじわじわとロシア経済に浸透し、シャッターが閉まった店舗や混乱したサプライチェーン(供給網)をもたらしている現状を表す事例の一つだ。

     


    (1)「労働者のかなりの割合が国に雇用されているロシアでは、最近承認された年金と最低賃金の引き上げもあって、大半のロシア人は日常生活で劇的な変化を経験していない。石油・天然ガス輸出からの多額の収入のおかげで、ロシア政府は、従業員を解雇せずに一時帰休させるインセンティブを民間企業に与える手段も手に入れた。失業率は約4%で推移し、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中のような急激な上昇を避けられている。モスクワに暮らす経済学者のタチアナ・ミハイロワさんは「食料品の価格は確かに上昇したが、全般的には大きな変化はない」と話す。テレビのニュース番組をつけなければ「全く何も起きていないかのような印象を受ける」と」

     

    ロシア政府は、石油・天然ガス輸出からの多額の収入を使って、年金や最低賃金を引き上げている。民間企業に従業員を解雇しないようにインセンティブを与えている。日常生活に劇的な変化はないという。

     


    (2)「失業率の数字はおおむね安定しているが、オンライン求人プラットフォーム「ヘッドハンター」では、広告で募集される求人数が4月に紛争開始前の2月と比べて28%減少した。マーケティング、PR、人事、経営管理、銀行業の求人広告は40~55%減少した。「市場には今、高い資質を持った人が本当に大勢いる。ポストをめぐる競争は非常に激しい」とクリュエワさんは話す。政府関係者によると、一時帰休中の労働者数は3月初旬の4万4000人から5月半ば時点には13万8000人に急増しており、パートタイムの勤務体系に変更された従業員の数も増えた」

     

    4月の求人広告は、開戦前の2月と比べて40~55%の減少である。一時帰休中の労働者は、3月初旬に比べて5月は3倍以上も増えている。

     


    (3)「最も変化が目に見えるのが、商店街とショッピングモールだろう。商業用不動産コンサルティング会社「ILM」によると、モスクワでは外国ブランドを売る店舗が大型モールの売り場全体の約40%を占めていた。外国ブランドがロシアとの関係を絶った後、こうした店舗の多くが閉店した。英不動産大手「ナイト・フランク」のロシア法人によれば、モスクワのモール内の店舗の約15~20%が現在、閉店している。また、主に欧米企業の撤退のために、年末には最大でモスクワのオフィスビルスペースの20%が空室になるかもしれないとILMは話している」

     

    モスクワでは、モール内の店舗の約15~20%が現在、閉店している。年末には、モスクワのオフィスビルは、20%が空室になるかも知れないという。外資の撤退が大きな影響を及ぼしている。

     


    (4)「サプライヤーは、ロシアの顧客との取引を打ち切った。米クレジットカード大手のビザとマスターカードはロシアから撤退し、国際カード決済ができなくなった。配送のロジスティクスも崩壊した。今では欧米のブランド品を注文し、商品を受け取るためにジョージア(グルジア)やカザフスタンといった国の仲介業者を頼りにしており、「制裁の妖精」と自嘲する。「どんなものでも手に入れられることは分かっている」と言いつつも、新たなロジスティクスを作り上げるには「時間と忍耐が必要になる」としている」

     

    欧米のブランド品を注文し、商品を受け取るためには、ジョージア(グルジア)やカザフスタンの仲介業者に依存している。新たな流通網づくりに時間と忍耐が必要になっている。

     

    (5)「輸入品不足はほかにも消費者の習慣も変えている。輸入ワインは21年にロシア市場の40%を占め、数量にして3億7000万リットルに上っていた。ワインの棚は今、スカスカだ。また、スマートフォン市場のトップ企業の韓国サムスン電子と米アップルがロシアとの関係を絶っていることから、スマホの輸入が減少した。分析会社「GSグループ」によると、対照的に「ブリックフォン」と呼ばれる旧式の携帯端末の輸入は第1四半期に43%増加した」

     

    輸入ワインは、これまでロシア市場の40%を占めていた。それが輸入ゼロになっている。スマホも輸入減少で、旧式の携帯端末を代わりに輸入している。

     


    (6)「輸入が正確にどこまで落ち込んだのかを知るのは難しい。国際金融協会(IIF)のエコノミストらは、公式統計の代わりにロシアの貿易相手国上位20カ国のデータを使い、4月の輸入が前年同月比で50%減少したと推計した。国内商品に対する付加価値税(VAT)の徴税データは、消費が減り始め、経済活動が低下し始めた度合いを示している。ロシア財務省によると、4月のVAT税収は前年同月比で54%減少した。求人プラットフォーム「スーパージョブ」のデータによると、ロシア人の35%が22年は1週間の休暇をとる余裕がないと話しており、前年の30%から増えている。「これらは最初の小さな変化にすぎない」と指摘も。エコノミストらは激動期の到来を予想し、GDPが最大で10%縮小し、秋までに失業率が2倍以上に上昇すると見込んでいる」

     

    4月の輸入は、前年同月比で50%減少したと推計されている。消費も4月のVAT税収が前年同月比で54%減少した。ロシア人の35%が22年は、1週間の有給休暇を取るゆとりがないという。GDPは、最大でマイナス10%、失業率は秋までに8%になるとの予測も。

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    原油価格の高騰で、世界中の経済活動が大きな影響を受けている。OPEC(石油輸出国機構)が、大幅な増産に踏み切らないことが背景にある。ロシアが、自国の需要減を理由にしているからだ。そこで、OPECはロシアの参加停止を検討している。実現すれば、原油増産が可能になって、世界中の消費国が価格低下の恩恵に浴せることになろう。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月1日付)は、「OPEC、生産協定へのロシア参加停止を検討」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの産油量が西側諸国の制裁や欧州の部分禁輸措置の影響を受ける中、石油輸出国機構(OPEC)加盟国の一部は生産協定へのロシアの参加を停止させることを検討している。複数のOPEC代表が明らかにした。

     

    (1)「ロシアを協定から排除すれば、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など他のOPEC加盟国が大幅に増産できる可能性がある。ウクライナ侵攻で原油が1バレル=100ドル超に高騰する中、米欧はOPECに増産を要請してきた。OPECとロシアなど非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」は昨年、産油量を毎月段階的に増やすことで合意した。だが原油生産で世界トップ3に入るロシアは、今年の産油量が約8%減少する見通しとなっている。同国が協定からの除外を受け入れるかどうかは不明だ」

     

    ウクライナ侵攻で,原油価格は高騰している。原油を大幅増産しない限り、価格沈静化は困難である。もっとも、ウクライナの戦乱が終息すれば、状況は大きく変わることはたしかだ。ロシアは、今年の産油量が経済制裁で約8%の減少見込みだ。その分をOPEC他国が増産しなければ、さらなる価格高騰へと拍車がかかる。そこで、ロシアをOPEC協定から除外する案が検討されている。

     


    (2)「今のところ見込まれるロシアの不足分を補うためにOPECに正式に増産を働きかける動きは見られない。だが複数のOPEC代表者によると、ペルシャ湾岸の加盟国の一部は向こう数カ月中の増産を計画し始めている。OPECプラスは6月2日の会合で、産油量を新型コロナウイルス流行前の水準に戻す計画の一環として、予定通り日量43万2000バレルの増産を承認する見通しだ。ロシアのウクライナ侵攻を受け、それだけでは原油市場を安定させるのに十分ではないと米欧は主張してきたが、OPECプラスは従来通りの計画を維持している」

     

    ペルシャ湾岸の加盟国の一部は、向こう数カ月中の増産を計画し始めている。OPECは最低限、ロシアの減産分をカバーする増産をしない限り、OPEC全体の生産量の責任を果たせないことは明らか。他国の「肩代わり増産」は当然である。

     


    (3)「ロシア・エネルギー省の報道官は2日の会合までコメントしないとしている。あるOPEC代表者は、「生産協定へのロシアの実効性をもった参加を厳密に除外することで、われわれは目下、合意した」と述べた。複数のOPEC代表者によると、ロシア除外を巡っては、欧州連合(EU)がロシア産原油購入の一部禁止で合意する前から検討を始めていた。ただ、EUが合意したことで、ロシアの生産の遅れにどう対処するかについて議論が加速したという」

     

    OPECは、生産協定へのロシア参加を除外しなければ、原油増産は不可能である。現在、この岐路に立たされている。

     

    (4)「ロシアは数カ月間、OPECで生産目標に基づいて割り当てられた量を達成できていなかった。「割り当て量に縛り付けるのは意味がない」。あるOPEC代表者はこう話した。産油量の回復を見据えてOPECがロシアを仲間として維持しようとする可能性は大きい。減っているとはいえ、ロシアは米国とサウジアラビアを除く全ての産油国よりも産油量が多い。ペルシャ湾岸諸国のあるOPEC関係者は、「ロシアはわれわれに圧力団体としての相当な力をもたらしている」と語った」

     

    ロシアは、米国とサウジアラビアに次ぐ世界3位の原油生産国である。それだけに、OPECが圧力団体として機能する上で、大きな力になっている。

     

    (5)「一方、ロシアを除外することでOPECプラスの結束力が弱まることを懸念する向きもある。ロシアを抜きにして「OPECプラスのコンセプトとは何なのか」と、あるOPEC代表者は言う。今後、OPECが減産を決める場合、ロシアは一段と「ノー」と言いやすくなる。「ロシアを割り当てから外すリスクは、われわれが今後、減産を強いられる場合、ロシアがそれに抵抗することだ」。前出のペルシャ湾岸諸国のOPEC関係者はこう話す」

     

    OPECが、ロシアを「OPECプラス」から除外すると、「プラス」が消えてしまうことになり、「OPECプラス」という原油生産者団体が空中分解する悩みを抱える。原油が減産時代に入った場合、ロシアは減産に抵抗するだろう。ただ、価格立直しにはロシアが減産に協力しなければならないのも事実だ。「原油生産カルテル」であるOPECは、需要減退時に機能しない。それが経済の原則だ。

     

    (6)「OPEC代表者らによると、ここ数週間に行われた原油市場のテクニカル面に関するOPECプラスの内部会議で、ロシアの代表は、価格が上昇する中で需要の見通しを下方修正するよう求めた。需要の減退を予測する一方で、増産するのは難しいと、代表者らは指摘した」

     

    ロシアの言分は身勝手である。価格上昇している中で、需要見通しを下げろと言っているからだ。ロシアは、自国の8%減産分を価格上昇でカバーしようとしている。戦費調達の目的がかかっている結果だ。 

     

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    日米豪印の「Quad(クアッド)」開催中の5月24日、中国軍のH6爆撃機とロシア軍のTU95爆撃機が2機ずつ、日本海と東シナ海の上空を飛んだ。その後に、中国機2機がH6爆撃機と推定される別の2機と入れ替わり、沖縄本島と宮古島の間を通過して東シナ海と太平洋を往復したと報じられている。

     

    この中ロ空軍の合同飛行は、日米豪印の「クアッド」へ警戒姿勢を見せたもので、「中ロ枢軸」を一段と印象づけることになった。中国としては、ロシアとの合同訓練によって「自国が孤立しているわけではない」と国民に訴えかけられる内政上の利点もあると指摘されている。

     


    中国軍爆撃機H6には、核兵器を搭載できるタイプもあるという。中国軍は、自らの「虎の子」兵器であるJL3を無力化するため米軍が日本海北部に進入するなら、戦術核兵器でこれを排除することも辞さないとの強烈な威嚇を合同飛行によって示したと専門家は指摘する。JL3とは、射程延伸型のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)及びそれを搭載するための新型SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を指す。

     

    中国のH6爆撃機が、日本海を飛行した裏には、以上のような狙いがあるとされる。ただ、中国の海空軍は、百戦錬磨の米軍と交戦した経験がない。この米軍と対抗するには、ロシア軍に共同訓練などを頼み、技量の向上を図ることが欠かせないと指摘されている。

     

    ロシアは近年、地下資源や武器など自国産品を中国に購入してもらうっている。ロシアは最近、ウクライナ侵攻に伴う経済制裁下で、中国に原油や天然ガスの購入量をさらに増やして貰わなければならない事情を抱える。こうしたわけで、中国から合同訓練を頼まれれば断れないと推測される。ロシアは、協力させられているという見立てだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(5月27日付)は、「中国・ロシア、軍事面で相互運用拡大 爆撃機共同飛行」と題する記事を掲載した。

     

    中国とロシアが日本周辺の軍事協力を拡大してきた。爆撃機の共同飛行や海上演習を通じて既成事実を積み上げ、相互運用力を高めようとする狙いがある。中国はウクライナ侵攻を巡りロシア支持を控えるものの、軍事面の結びつきは強める構図が浮かぶ。東アジアの安全保障の脅威となる。

     

    (1)「防衛省は27日、自民党の国防部会で中ロ両軍の爆撃機の飛行状況を説明した。これまでのうちもっとも南方まで飛行した。飛行時間もロシア国防省は13時間と発表した。前回は「10時間超」だった。防衛省は「爆撃機に護衛の戦闘機がついてきておらず、実戦的な意味合いは少ない示威行為だ」と指摘した。「中ロの協力の進化を示す意義があったのではないか」との分析を示した」

     

    爆撃機に護衛の戦闘機がついていないのは、演習でなくただの「威嚇飛行」と見られる。嫌がらせの飛行だ。

     


    (2)「防衛省が、日本周辺で中ロ両軍の長距離共同飛行を公表したのは2019年以降、4年連続4回目となる。これまでは1年ほどだった飛行の間隔は今回、前回から半年後と短くなった。機数は21年が4機だったのに対し、今回は計6機へ増えた。自衛隊の杉山良行元航空幕僚長は、「軍事演習は繰り返すことに意味がある。日本海に入って政治的なメッセージを強めている」と語る。「爆撃目標など高いレベルの戦術は確認していないと推定するが、恒常的に示威行動を続けて作戦の相互運用性を高めているとも言える」と話す」

     

    中ロの軍機が、飛行中に無線連絡して実践感覚を磨いているのであろう。中ロの共通語は何だろうか。まさか英語ではあるまい。興味が持たれる点だ。

     


    (3)「中ロ両軍が、合同演習「平和の使命」を開始したのは05年だ。12年以降、定期的な海軍合同演習「海上連合」を展開する。18年からはロシアが毎年実施する最大規模の軍事演習に中国軍が参加するようになった。21年10月には「合同海上パトロール」と称して津軽海峡や大隅海峡を初めて一緒に通過し、日本列島をほぼ1周した」

     

    中ロ軍機が、同時並行で飛行するのは、中ロにとっては「見せ場」であろう。ただ、ロシアがウクライナ侵攻で評価を落としているから、西側諸国から見る中国のイメージは芳しいものでない。中国側は、それをどこまで理解しているか疑問だ。中国は、ただの「鬱憤晴らし」に行なっているとすれば、取り返しのつかないイメージダウンになる。

     


    (4)「中ロ両政府は、表向きには正式な軍事同盟ではないと主張する。それでも中国は1990年以降、戦闘機や駆逐艦、潜水艦などの武器をロシアから購入し始めた。最大の武器供給国はロシアとなり、軍事面でのつながりの深さは明らかだ。弾道ミサイルや宇宙ロケットの発射計画を相互に通告する政府間協定も結ぶ。これらの動きを中ロは、「新時代の包括的・戦略的協力パートナーシップ」と呼ぶ。ロシアのプーチン大統領はかつて中国と軍事同盟を形成する可能性を「理論的には十分想像できる」と述べた」

     

    ロシアのウクライナ侵攻で、ロシア空軍はその評価を大きく下げている。「ロシア空軍は米軍より30年遅れている」と米軍専門家が見下げているのだ。ロシア空軍の戦闘法が、過去と全く変わらず、やたらとミサイル攻撃しているだけだと指摘する。そのミサイルも、極めて命中度が低く、40%にも達していないという。精密な半導体不足も影響しているのだろう。

     


    (5)「中ロの接近は東アジアの最大のリスクとされる台湾有事とも密接だ。自民党安保調査会の小野寺五典会長は27日の党部会で、「中国、ロシアにあわせたかたちで北朝鮮が弾道ミサイルを実験する。まさしく3正面が現実に起きている」と強調した。台湾有事になると、ロシアが権威主義国の枠組みで中国に加勢し、北朝鮮も足並みをそろえるといったシナリオだ。岸田文雄首相とバイデン米大統領はこうした動きを踏まえ、23日の首脳会談で抑止力と対処力を強化することで一致した。共同声明で「軍事面における中ロ間の協力に引き続き注意を払っていくことに関与する」とうたった」

     

    中朝ロが一体化して、日米へ攻撃をしけてくるか。その場合、中国にはメリットがあるとしても、ロシアと北朝鮮には何のメリットもない。第一、ロシア軍がウクライナ侵攻で被った被害が簡単に癒えるはずがない。厭戦気分が蔓延している。さらに、経済制裁が長期に続けば、ロシアの軍需生産は止まる危険性が高まる。ロシアの武器生産が止まれば、中国も購入不可能だ。よって、日米へ開戦したくても武器が整わない事態となろう。日米は、中ロの開戦抑止を怠ってならないが、無闇に恐れる必要もあるまい。

     

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