勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    ウクライナ侵攻は、一日も早い停戦が求められている。一方では、停戦に伴う大量の帰還兵が、一般生活になじめないことから社会不安を引き起すのでは、と危惧されている。ロシアの独立系メディア「ベルストカ」によると、昨年10月時点で約500人の民間人がウクライナ戦争の帰還兵の被害者となった。この事実は、今後の被害者発生を予告している。プーチン・ロシア大統領にとって、新たな難題がのし掛っている。

     

    (1)「国際組織犯罪対策グローバル・イニシアチブ報告書で、ロシア政府の動員解除後の難題について書いた英国のロシア専門家マーク・ガレオッティ氏は、「25年初めの時点で合計して、おそらく150万人以上のロシア人の男性と女性が戦争に参加していた」と述べた。「ますます多くの動員解除が始まるにつれて、ロシアは戦争の心理的影響を抱えた帰還兵の波に直面するだろう」と述べた。クレムリンの消息筋3人によれば、この懸念は最高指導部にも届いている。プーチン大統領は、軍の一斉復員を潜在的なリスクと見なし、社会と自らが築いた政治体制を不安定にしないよう、慎重な対応を探っている」

     

    ロシア最高指導部は、心理的影響を抱えたウクライナ戦争帰還兵の問題の深刻さについて、対応策を探っている。

     

    (2)「ある消息筋は、狙いはソ連のアフガニスタン侵攻終結後に起きた社会的混乱の再現を避けることだと明かす。当時、帰還兵は組織犯罪の拡大を助長し、1990年代のソ連を荒廃させた。同じ消息筋は続ける。民間生活に戻った兵士の多くは、いま受け取っている高額の給与のようには稼げず、不満が高まるだろう。たとえば、モスクワ出身の新兵はウクライナ戦争に参加した最初の年に、少なくとも520万ルーブル(約960万円)を得られる。うち、契約一時金は190万ルーブルで、モスクワの平均年収にほぼ匹敵する額だ」

     

    下手をすると、ソ連当時のアフガニスタン侵攻終結後に起きた社会的混乱の二の舞になりかねない。しかも、ウクライナ戦争では多額の給与と一時金を払っている。それだけに、帰還後の企業では給与が下がって不満の種になりかねないのだ。

     

    (3)「帰還兵の管理は、ロシアだけの課題ではない。米退役軍人省によれば、ベトナム戦争に出征した米国人約270万人のうち、「かなりの少数派」が心理的・社会適応の問題に苦しんだという。ウクライナ戦争には、他の多くの紛争と決定的に異なる点がある。ロシア・ウクライナ両陣営が受刑者を前線に送っていることだ。ロシア矯正当局とウクライナ情報機関のデータによれば、ロシアは2022年の侵攻開始以降、12万~18万人の受刑者を兵士として採用した」。

     

    ウクライナ戦争では、受刑者が戦場へ送られている。もともと、罪を犯している上に、戦場での過酷なストレスが加わった、「異常心理状態」へ陥るリスクを抱えている。

     

    (4)「ロシアの独立系メディア「ベルストカ」によると、昨年10月時点で約500人の民間人がウクライナ戦争の帰還兵の被害者となった。ベルストカは報道やロシアの裁判記録を基にした軍事犯罪に関する公開情報を活用した。その結果、少なくとも242人が殺害され、227人が重傷を負ったと計算した。ロイターはこれらの数字を独自に確認できなかった」

     

    ロシアは昨年10月時点で、約500人の民間人がウクライナ戦争の帰還兵の被害者となった。少なくとも242人が殺害されている。恐ろしい事態だ。

     

    (5)「消息筋の別の1人によると、ロシア政府は大量の兵士の帰還が厳しく統制された政治体制に及ぼす影響を恐れているという。別の情報筋によると、クレムリンはプーチン大統領の指示のもと、潜在的な問題を抑え込むため、複数の政策やプログラム、人事を総動員してきた。具体的には、昨年の地域選挙で退役軍人の参加を後押しし、来年の連邦議会選挙では彼らを候補として擁立する方針を進めているという」

     

    ロシアは、昨年の地域選挙で退役軍人の参加を後押しし、来年の連邦議会選挙では彼らを候補として擁立する方針を進めている。こうした、待遇によって帰還兵のプライドを維持しなければならない。

     

    (6)「プーチン氏は、ウクライナで戦った「戦士」を「真のエリート」の一員と呼び、彼らに栄誉ある職を約束した。またプーチン氏は民間部門の指導者を育てるための「英雄の時代」と呼ばれる指導者養成プログラムに個人的な関心を示している。プーチン氏は6月の会合で「祖国に奉仕しようと意識的に決断し、その結果として個人的成功を収めた人々は徐々に一定の地位を占めていくべきだ」と述べた」

     

    政府は、退役軍人を政治に参加する機会を与え、「真のエリート」として敬う姿勢を取るようだ。

     

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    「窮鼠猫を噛む」現象が起っている。産油国ロシアは、ウクライナによるドローン攻撃によって、ガソリン供給能力が13%も低下。ついに配給制へ追い込まれた。ロシア国内の鉄道網や空港では、ウクライナのドローン攻撃の影響で頻繁に混乱が生じ、夏の休暇中も自動車での移動を強いられる市民が増加している。収穫期であることも、燃料需要を急増させているのだ。

     

    ウクライナの外相を務めたパブロ・クリムキン氏は、「戦争は前線だけで起きているわけではない。そのため、システム的な打撃は非対称的な重要性を持つ」と指摘。「これらの攻撃は軍事活動に直接的な影響を与えないが、ロシア経済に影響を与える。ロシア経済は、すでに問題を抱えているため小さな圧力でもボトルネックを生み、システム内部の問題を増幅させる可能性がある」とした。ロシアの継戦能力が、ダーメージを受けている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月28日付)は、「ロシアが燃料配給制、ウクライナのドローン攻撃で」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの戦争は石油、ガス、燃料の輸出に支えられている。プーチン大統領は、死傷者が増加しているにもかかわらず、高額の入隊ボーナスで軍への志願者を募集している。

     

    (1)「ウクライナは長距離ドローン産業を発展させ、2023年からロシアの製油所に対する攻撃を開始。バイデン前米政権は当時、世界の原油供給の混乱を懸念し、このような攻撃に反対していた。ウクライナは最近まで、ロシア経済の生命線である石油・ガス輸出インフラへの攻撃をおおむね控えていた。それも今や過去のものとなり、ウクライナのドローンは24日にはバルト海沿岸の戦略的施設であるウスチルガを炎上させた。過去1カ月間でロシア国内10カ所以上の製油所が攻撃を受けており、その一部は国境から数百マイル(数百キロ)離れた場所にある。これはウクライナのドローンがより強力になり、数も増えたことが背景にある」

     

    過去1カ月間で、ロシア国内10カ所以上の製油所が、ウクライナのドローン攻撃を受けて損傷を被っている。これが、ガソリン不足を起こす原因になっている。

     

    (2)「ロシアの主要な国営ガス会社の一つであるガスプロム・ネフチで22年まで幹部を務めていたセルゲイ・バクレンコ氏は、「ウクライナは現在、持続的攻撃を実行できる。昨年もこれを試みたが弾頭は軽く、成功率も低かった。今は攻撃で生じた影響が修復されると新たな攻撃が続く状況にある。もしウクライナがこの圧力を維持し、ロシアが修復できる以上の頻度で製油所に損害を与えることができれば状況は全く異なるものになるだろう」と述べた。ドローン攻撃はウクライナの政治的道具にもなっている。米国防総省は今春以降、米国製の長距離陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)でウクライナがロシアを標的とすることを制限してきた。だが、ウクライナ製兵器にはこのような制限はない」

     

    ウクライナのドローンは、攻撃能力が一段と高まっている。ロシアが、修復できる以上の頻度で製油所は損害を被ると、今後の状況が大きく変ってくる。ドローン攻撃は、ウクライナの政治的道具になっており、プーチン政権を追詰める状況が起りうる事態だ。

     

    (3)「ウクライナ国立戦略研究所(NISS)の研究員で、ウクライナ軍を支援する同国の慈善団体「カムバック・アライブ」のミコラ・ビエリエスコフ氏は、「われわれは攻撃範囲を常に拡大し、戦術も改善している。確かにパートナー国には依存しているものの、独自の能力、独自のカードを開発し、主体性も持っている」と述べた。また、「ロシアはあまりにも大きいため防空システムが十分に行き渡ることはなく、われわれはこれを利用している。過去の戦争と異なり、ロシアはその規模や戦略の深さが実際には不利になっている」とも付け加えた」

     

    ロシアは、国土があまりにも大きいために防空システムが十分に行き渡っていない。ウクライナは、この盲点をついている。戦争の形態が変れば、広い国土は逆に負担になるというパラドックスが起きている。

     

    (4)「ウクライナはドローンに加え、巡航ミサイル「フラミンゴ」を含む独自のミサイルも開発。オスロ大学のミサイル専門家ファビアン・ホフマン氏によると、フラミンゴはより大きな弾頭を持っており、ゲームチェンジャーになる可能性がある。ホフマン氏は「敵の産業・経済的標的を妨害できる長距離攻撃能力が、それらを包括的に破壊できる能力へと移行すれば、ロシアにとってはるかに対処が難しくなる」と説明。「ロシアはこの戦争を続ける限り、ウクライナが本当にロシアに打撃を与えることができるということを考慮に入れなければならなくなる」とした」

     

    ウクライナは、巡航ミサイル「フラミンゴ」を含む独自のミサイルも開発している。完成すれば、ロシアに脅威になるという。ウクライナを「舐めるな」という、強い警告だ。

     

    (5)「ロシア経済は、最近まで比較的堅調な成長を続けてきたが、持続的なインフレや高金利、欧米の制裁も影響を及ぼし始めている。国際通貨基金(IMF)は7月、ロシアの今年のGDP成長率の予想を0.9%に下方修正した。これは2024年の4%超から大幅な低下となる」

     

    ロシア経済は、戦争の負担に耐えかね急減速期に入っている。プーチン氏は、休戦を引き延ばせばウクライナが「白旗」を掲げるとみているが、大きな錯覚になりそうだ。物事には、必ず「潮時」がある。それを逃すと、手痛い打撃を被るのだ。現在が、その時期に来ていることを示している。

    あじさいのたまご
       

    米ロ首脳会談は、決裂せずに次回へつなげることになった。世界の報道では、「プーチン勝利」一色である。果たしてそうだろうか。プーチン氏は開戦当初、ウクライナを征服してロシアへ組入れる目的であった。その野望は、戦線膠着によって不可能になっている。一方、ウクライナは戦い続けても、失った領土を取り戻せる可能性はあるのか。

     

    こういう冷静な立場からみれば、次善の策を求めるほかない。再び、ロシアの侵略を許さない保証が、ウクライナに与えられるかが休戦のポイントになろう。これが実現すれば、ウクライナは領土喪失という犠牲を払いながら、将来の安全保障を得られる。プーチンの野望を防ぐ壁になるからだ。感情論に支配されることなく、今は冷静さも必要だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル」(8月18日付)は、「ウクライナ戦争はどう終わるのか 2つのシナリオ」と題する記事を掲載した。

     

    米アラスカ州でのトランプ・プーチン会談は終了したが、ウクライナ和平はなお遠い。それでもロシアの侵攻終結に関して最も可能性の高い二つのシナリオが見えてきた。

     

    (1)「一つ目のシナリオは、ウクライナは領土を失うが安全な主権国家として存続するというもの。二つ目は、領土と主権の両方を失い、ロシアの勢力圏に逆戻りするというものだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナと西側がロシアの広範な地政学的目標を受け入れる意向を示すまで、戦闘を継続する姿勢を示唆した」

     

    プーチン氏は、あくまでも目的完遂姿勢である。侵略者の野望に燃えている。だが、本音でないことも事実。潮時を探している。大義名分が欲しいのだ。米国の斡旋は、チャンスだった。

     

    (2)「ロシアによるウクライナ完全征服の試みは失敗し、実現は難しいだろう。ウクライナの依然として強固な防衛により、ロシアはわずかな戦果しか上げられず、多大な犠牲を強いられている。一方で、ウクライナ軍の疲弊した状況を考えると、ロシア軍を完全に追い払うというウクライナの希望も薄れている。第2次世界大戦以降の欧州で最大規模となったこの戦争の結末には、二つの現実的なシナリオが残されている。それらは何を意味するのか、また、何に左右されるのか」

     

    ロシアは疲弊している。だから、トランプ提案の交渉を受け入れた。

     

    (3)「ウクライナの指導部は、国境を完全に取り戻すだけの軍事力がないという現実を受け入れ始めている。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は先週、ドナルド・トランプ米大統領や欧州の指導者とのビデオ通話で、現在の前線を維持する停戦の後に領土に関する交渉に応じる意向を示した。ウクライナと欧州諸国は、ロシアが獲得した領土を法的に認めることは決してないと述べている。それは国際法を、さらなる征服の抑止ではなく、むしろ誘因に変えてしまうためだ。しかし、ロシアによる事実上の支配という現実は受け入れる姿勢を示唆している」

     

    ロシア占領地は、99年先に決めるというのがトランプ提案である。そうなれば、ウクライナのメンツは立つ。

     

    (4)「ウクライナと欧州の支援国にとって最善のシナリオはおそらく、ロシアが占領している地域(ウクライナ国土の約5分の1)を現状にとどめることだ。最大の問題は、ウクライナ領土の残り8割がどうなるかだ。ウクライナと欧州諸国は、強力なウクライナ軍の防衛力と西側の安全保障支援を組み合わせることで、残存する国家の将来の安全と主権を保護したいと考えている」

     

    ウクライナは、ロシア占領地をこれ以上、拡大させてはならない。それには、西側の安全保障支援が不可欠である。ウクライナは、セカンドベスト(次善の策)を採用するほかないであろう。

     

    (5)「英国とフランスが主導する「有志連合」は、将来のロシアの攻撃に対するさらなる抑止力として、自国の軍隊の一部をウクライナに配備する考えを示している。欧州の指導者らは、ウクライナの安全保障を保証するのに米国が加わることを期待しており、ここ数日間のトランプ氏の前向きな姿勢に勇気づけられている。とはいえ、米国の役割はなお不透明だ。このような結末は1953年の朝鮮戦争休戦に似たものとなるだろう。朝鮮半島はそれ以降分断されたままだが、韓国は米軍の駐留などで守られている」

     

    ウクライナの安全保障は、有志連合へ米国が加われば完璧な形になる。これは、朝鮮戦争休戦と同じスタイルだ。ロシアは面目ない結果となろう。

     

    (6)「プーチン氏にとって、朝鮮半島型の結末は歴史的な失敗を意味することになるだろう。プーチン氏はウクライナ国土の2割を支配下に置くことになるが(その大部分は瓦礫と化している)、同国の大半を永久に失うことになる。しかも、ロシアの兄弟国だと主張する国を西側の軍隊が守るのを見守ることになる」

     

    ロシアにとって、朝鮮戦争型休戦は敗北である。ロシアが自国領と主張するウクライナに、西側軍隊が駐留するからだ。

     

    (7)「プーチン氏が、このような譲歩をする理由として考えられるのは、この戦争がロシア国内の安定に持続不可能な経済的・政治的リスクをもたらすことを恐れているか、米国主導の制裁強化に対応できないと考えていることだ。だが今のところ、多くの専門家はどちらの可能性もほとんどないとみている。大半のアナリストは、(ロシア)制裁は強化できるが、大きな効果が表れるまでには時間がかかるとみている。また、プーチン氏が自身の支配体制の存続を心配するような事態にならない限り、経済的な重圧よりも、ウクライナへの歴史的な執着やロシアを再び偉大にするという決意を優先するとみられる」

     

    プーチン氏は、表面的に未だ戦える余裕があるとしている。だが、ロシア経済は今年に入って急減速である。論理的に言えば、余力がなくなっている。だから、トランプ提案に乗らざるを得なかったのだ。真相を見誤ってはいけない。

     

     

    テイカカズラ
       

    トランプ米大統領は8日、ロシアのプーチン大統領との会談を8月15日にアラスカで行うと発表した。ウクライナでの戦闘終結を交渉する。これに先立ってトランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を含む当事者たちが、3年に及ぶ紛争を解決できる停戦合意に近づいていると述べていた。トランプ氏は8日、ホワイトハウスでの記者会見で、合意には領土の交換が含まれることを示唆した。

    ロシアのプーチン大統領は8日、中国、インド、旧ソ連3カ国の首脳らと相次いで電話会談し、ウクライナ戦争を巡る米国との接触について説明した。プーチン氏は、ウクライナ侵攻の停戦を決意したので了解を求めたとみられる。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、ビデオ演説で「ロシアは停戦により前向きになったようだ」と述べた。トランプ米大統領との同日の電話会談で、モスクワで行われたロシアのプーチン大統領と米国のウィトコフ中東担当特使の会談内容を知らされたという。米ウクライナ首脳の電話会談は5日に続いて2日連続。ゼレンスキー氏は、「圧力が奏功している」と語り、8日までにウクライナとの停戦に応じない場合、対ロシア制裁を強化すると警告したトランプ氏の強硬路線を評価した。『時事通信』(8月7日付)が報じた。

     

    ゼレンスキー氏の発言によれば、米国はウクライナと密接な連絡をしながら、プーチン氏と交渉していることを伺わせている。一部の外信によれば、ウクライナの頭越しに米ロが交渉していると誤った記事を報じている。

     

    『FNN』(8月8日付)は、「アメリカ 『ロシアの占領認める』停戦案 ウクライナNATO加盟の可能性残す ウクライナメディアなど報道」と題する記事を掲載した。

     

    アメリカがロシアに対して、ウクライナの占領地を事実上認める内容の停戦案を提案したと、ウクライナなどのメディアが報じました。

     

    (1)「ウクライナメディアは7日、ポーランドメディアを引用する形で、「アメリカがヨーロッパ各国と調整した停戦案をロシアに提示し、ロシア側は受け入れる姿勢を示している」と伝えました。この案では、「和平」ではなく「停戦」とし、ロシアが占領したウクライナの領土については「正式な認定を最長99年先送りにすることで事実上ロシアの支配を認める」としています。さらに、ロシアに対する制裁の大部分を解除し、将来的にロシア産のガスや石油の輸入を再開するなど、エネルギー分野での関係を戻すことが盛り込まれています」

     

    米国は、欧州諸国と意見調整した上で、ロシアと交渉しているとしている。欧州は、ウクライナ侵攻において「準当事者」の位置づけであるからだ。欧州が恐れているのは、ロシアがウクライナ侵攻のあと、引き続き周辺国を侵略する危険性である。これを食止める保証をどう取り付けるか。これも大きなポイントになる。

     

    (2)「ロシアが、求めて来たNATO(北大西洋条約機構)の不拡大に関する保証はなく、ウクライナはNATO加盟の権利が残されるほか、アメリカのウクライナへの軍事支援も継続されるとしています。ロシア側はこうした条件を受け入れる構えをみせているということです。ロシアとアメリカは首脳会談の実施で合意しており、早ければ来週にも開催される可能性があります」

     

    ロシアは、NATO拡大を恐れている。今回のウクライナ侵攻の狙いは、ウクライナをNATOへ加盟させない「予防措置」であった。ウクライナは、仮に領土の一部を失ってもNATO加盟の可能性を残さなければならない。この点は、絶対に譲れぬ線だ。ロシアも、領土獲得と引き換えに、ウクライナのNATO加盟阻止という目標を放棄させられる。

     

    ウクライナは将来、NATO加盟が可能となれば、大きな勝利となる。ロシア侵攻によって多大の犠牲を強いられたが、永久の安全保障を手に入れられることになれば、敗者はロシアとなろう。プーチン氏の野望であった「大ロシア帝国」復活の野望が未完に終るからだ。プーチンの時代は、これで事実上の幕切れに向うであろう。

     

     

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    ロシアは武器供与に警戒

    二次制裁が招く財政危機

    ウ側に付いた米国の思惑

    CRINKs隠れる中国

     

    米国トランプ大統領は、これまでウクライナ侵攻に対してロシア寄りスタンスを取ってきた。そのトランプ氏が豹変して、ロシアへ「50日以内の停戦」を要求した。これに応じなければ、ロシア産の原油・天然ガスを輸入する國へ100%関税の「二次制裁」を課すという条件を突きつけたのだ。同時に、米国はウクライナへ供与する武器が防空ミサイルのパトリオットだけでないと明言。ロシア領土の奥深くまで、到達可能な長距離ミサイル供与を示唆したのである。

     

    ロシアへ50日以内の停戦要求は裏を返せば、この間にロシアのウクライナ攻撃を自在にさせかねないリスクを含む。米国は、これを防ぐべく防空ミサイルだけでなく、長距離ミサイルの供与を増やしてロシア領土の奥深い地域への反撃を容認する姿勢を鮮明にした。トランプ氏が、「モスクワへの攻撃は不可」としているほどで、それ以外の地域へは反撃可能になった。こうして、ウクライナが強力な反撃手段を得たことは、ロシアにとっては新たな「危機」を招きかねなくなっている。

     

    50日以内の停戦要求は、ロシアにとって軍事的な「受け身」となるリスクを高める。問題は、停戦に応じない場合に受ける経済的ペナルティーである。ロシア財政を支えている原油や天然ガス輸入国へ、「第二次制裁」として100%関税を課すのだ。ロシア産原油などの輸入国は、米国から新たに関税を賦課されることになれば重大事態である。こうなれば、原油などの輸出が著しく減って、ロシア戦時経済が危機を迎える。ロシア経済は、今年に入って急速に減速しているのだ。財政破綻リスクが、高まることは必至であろう。

     

    ロシアは武器供与に警戒

    ロシアは、今回の「トランプ最後通牒」に対してどういう反応か。米『CNN』(7月16日付)は、次のように報じた。

     

    1)停戦までに50日間の猶予があるので、トランプ氏が心変わりするチャンスがある。

    2)米国が、ウクライナへ防空ミサイルだけでなく長距離ミサイルを供与すると、これまで行なってきた毎日のウクライナ空襲が無意味になる。ウクライナ降伏期待が消える。

    3)ロシア経済は、これまでの経済制裁に耐える体制ができたから、「二次制裁」もしのげる、と強気である。

     

    ロシアは、米国のウクライナへの武器供与に不安を募らせているが、経済制裁は耐えられるとしている。ロシアは、ウクライナへの要求を最後まで貫徹する姿勢だ。だが、ウクライナ侵攻が始まってすでに3年5ヶ月を経過している。過去の「大戦」をみても、開戦3年を過ぎれば急速に経済が疲弊するものだ。太平洋戦争時の日本もそうだった。ロシアだけは、例外ということはありえない。今年に入ってからのロシア経済の実態を検証した。

     

    ロシアのGDP伸び率(前年同期比)は、昨年10~12月期の4.5%から、今年1~3月期に1.4%へ急低下した。S&Pグローバルの購買担当者指数(PMI)によると、ロシアの製造業分野は、今年6月にそれまで3年以上例がなかった、急激な縮小を記録している。欧州ビジネス協会(AEB)によれば、6月のロシア新車販売台数は前年同月比で30%近く減少した。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月7日付)が報じた。

     

    ロシア経済が、ウクライナ侵攻以来「戦時経済モデル」で動いている点に注目しなければならない。ロシアの軍事支出のみの経済成長モデルは、すでに崩壊しつつある。軍需産業を支えるために優先的に労働力を確保している結果、民間部門の生産能力が縮小しているのだ。こういう経済モデルは、いつまでも続くはずがない。過去の大戦で、開戦3年を過ぎれば、経済成長力がガクンと低下した理由はこれだ。

     

    現に、今年1~3月期のGDP成長率は、昨年10~12月期と比較すれば4.5%から1.4%へと急落している。6月の購買担当者指数(PMI)も、過去3年になかったほどの低下である。6月の新車販売台数が、前年同月比で30%近い減少は民間の購買力が急激な縮小に見舞われている証明だ。ロシアメディアによると、25年は販売不振で国内自動車ディーラーの少なくとも3分の1が赤字との指摘がされている。

     

    ロシアの戦時経済は、明らかに限界へぶつかっている。軍需経済は、何ら生産性に寄与しない消耗だけの経済である。遅かれ早かれ、限界にぶつかるのは不可避なのだ。

     

    ロシア経済は、明らかに減速過程へ入っている。この段階で経済制裁が強化されることは、ロシア経済を不安定化させる可能性を大きくする。ロシアが今後、戦費調達で苦労することを示すのだ。ロシアは、歳入の約3分の1をエネルギーの輸出に頼っている。ロシア産原油の価格は、今年の予算で想定されている水準を一貫して下回っている。ロシア財務省のデータによると、6月の石油・ガス収入は2023年1月以来の低水準に落ち込んだ。これが、ロシア財政のひっ迫化している証明である。

     

    二次制裁が招く財政危機

    トランプ氏は、ロシアが停戦に応じなければ、ロシア産の原油などを輸入している諸国へ「二次制裁」として100%関税を課すとしている。現在、ロシア産原油を輸入している主な国は、次の通りだ。2022年12月から25年4月のロシアの原油輸出先は、中国が47%、インドが38%である。この両国で85%にも達している。米国が二次制裁を課すとなれば、中印はロシアとの取引を抑え調達先を中東産に切り替えるであろう。ロシアは、一挙に85%もの輸出先を失う計算だ。

     

    ロシアは、歳入の約3分の1がエネルギーの輸出で補っている。この8割強が消えれば、ロシアの歳入は一挙に支柱を失う事態へ落込む。財政は破綻の危機を迎えよう。大増税を行なえば国民の不満が高まる。ロシアの継戦能力が、赤信号に見舞われることは確実であろう。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526


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