ブリンケン米国務長官は3月28日、ウクライナ侵攻を続けるロシアとの停戦協議について「表面的に魅力的に見えることが皮肉にもワナである可能性がある」と述べた。ブリンケン氏は、中国が「一見、善意でやっているように見える取り組みも、注意しなければならない」と指摘。「停戦の呼びかけで紛争を凍結させ、ロシアが再び攻撃するために時間を使えるようになるおそれがある」と話した。
ブリンケン氏は、ウクライナ停戦がロシアの時間稼ぎと警戒している。一方、中国は米国と対抗するためにも長期的にロシアを必用としているとの指摘が出てきた。
『日本経済新聞 電子版』(3月29日付)は、「やがて訪れる中国の衰退と混乱、ジャック・アタリ氏と題する記事を掲載した。アタリ氏は、ミッテラン大統領の特別顧問。91〜93年、欧州復興開発銀行(EBRD)の初代総裁を務めた。経済学者である。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はロシアのウクライナ侵攻に対する仲裁案を提示した。自国が直接関与しない国際的な政治問題に中国が口出しするのは異例で、中国の懸念の表れだろう。中国にとって今回の事態は自国の中期的な利益を自問する機会となった。
(1)「中国は、米国に世界のリーダーと主張するため「弱いロシア」を望んでいるかもしれない。豊富な天然資源が眠るシベリア全土を掌握するために、ロシアの崩壊を願っているとの見方もある。だが私の感覚では、中国の指導層は今後30年、政治的に強固で安定したロシアを望んでいる。米ロ対立の間に軍事力を米国と同等にまで引き上げ、対等になりたいからだ」
中ロは、枢軸になって米国へ対抗する道を進んでいる。プーチン氏のウクライナ侵攻も米国への対抗策である。その意味で、中国にとってロシアは盟友である。
(2)「中国はいくつもの難題を抱えている。第一に台湾問題だ。中国は台湾を強引に征服するのではなく、経済統合を通じた平和裏の併合を望むはずだ。だが、米台の一部の政治家が台湾の独立と民主主義を強硬に主張すれば、武力行使に踏み切るかもしれない。米国は中国に対し、これまで以上に敵対的な態度をとるはずだ。米国は戦略的分野に素材や部品を供給している中国企業を徹底的に排除しようとするだろう」
米国は、中国が武力で台湾侵攻を狙っていると断定している。この前提から「中国排除」へ直線的に動いている。中国は、こういう米国に対してどのように対応するかだ。平和統一が犠牲もなく理想的だが、習氏の3期目は「武力統一」が既定方針のようになっている。習氏は、3期目を目指して「スパイス」を効かせすぎたのである。
(3)「経済面でも大国になりつつある中国だが、中国共産党が最近発表した経済成長率の目標値は5%であり、数十年来で最低の数値だ。直面する困難は途方もなく大きく、この控えめな目標値でさえ達成できるか疑わしい。人口の急減で労働市場が逼迫する。若い女性は経済的に自立してきているが、子育て支援策が不十分で合計特殊出生率の上昇は期待できない。社会は豊かになる前に高齢化し、介護・医療費の急増に悩まされる。急成長してきた中国経済は失速するだろう」
中国経済は今後、多くの失速条件を抱えている。一つは、労働力人口の急減が大きな理由だ。
(4)「さらに中国共産党の企業支配の姿勢が明らかになるにつれ、中国国内だけでなく外国の投資家も中国での投資に消極的になっている。既に多くの中国の起業家は活動拠点を外国に移し、西側諸国の多数の企業は中国から撤退して生産・販売に適した土地を探している。この動きは今後も継続する」
共産党支配が、企業にも及んでいる。企業はこれを嫌って、国外へ企業を移している。これも二つ目の理由で、中国経済を失速させる。
(5)「以上が、中国は米国に代わる超大国にはならないとみる根拠だ。そして本質的な問いに行き着く。中国共産党の長期的な統治は可能か、というものだ。共産党が統治を続けるには、大企業の成長を制御し、起業家の発意を抑制しなければならない。こうした介入は、経済成長、雇用の増加、社会的な安定を阻害する。汚職がはびこる現状では、今日の中国に一党独裁型からインド型民主主義への円滑な移行は期待できない」
前述の二つの理由から、中国経済は失速するほかない。よって、中国が米国に代わって世界支配することはあり得ない。それよりも、中国共産党は経済失速によって国民の信頼を失うだろう。
(6)「共産党の権威が失墜すれば、1990年代のロシアのように政治的な混乱を招き、似た道をたどるだろう。中国は数多くの内戦を経験してきただけに、大混乱に陥る可能性が考えられる。だが、党の権威失墜で大混乱に陥るかどうか。それは習氏の「極権」をどの程度、制御できるかにかかっている」
中国共産党は権威失墜から、その責任を巡って、習派と反対派が対立するだろう。ただ、習氏が、自らに与えられた権力に使用にブレーキをかければ、その対立はセーブされる。習氏が目一杯、権力を行使する事態になれば、大混乱に陥る懸念が強く内戦となろう。