勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース > ロシア経済ニュース時評

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    ブリンケン米国務長官は3月28日、ウクライナ侵攻を続けるロシアとの停戦協議について「表面的に魅力的に見えることが皮肉にもワナである可能性がある」と述べた。ブリンケン氏は、中国が「一見、善意でやっているように見える取り組みも、注意しなければならない」と指摘。「停戦の呼びかけで紛争を凍結させ、ロシアが再び攻撃するために時間を使えるようになるおそれがある」と話した。

     

    ブリンケン氏は、ウクライナ停戦がロシアの時間稼ぎと警戒している。一方、中国は米国と対抗するためにも長期的にロシアを必用としているとの指摘が出てきた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月29日付)は、「やがて訪れる中国の衰退と混乱、ジャック・アタリ氏と題する記事を掲載した。アタリ氏は、ミッテラン大統領の特別顧問。91〜93年、欧州復興開発銀行(EBRD)の初代総裁を務めた。経済学者である。

     

    中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はロシアのウクライナ侵攻に対する仲裁案を提示した。自国が直接関与しない国際的な政治問題に中国が口出しするのは異例で、中国の懸念の表れだろう。中国にとって今回の事態は自国の中期的な利益を自問する機会となった。

     

    (1)「中国は、米国に世界のリーダーと主張するため「弱いロシア」を望んでいるかもしれない。豊富な天然資源が眠るシベリア全土を掌握するために、ロシアの崩壊を願っているとの見方もある。だが私の感覚では、中国の指導層は今後30年、政治的に強固で安定したロシアを望んでいる。米ロ対立の間に軍事力を米国と同等にまで引き上げ、対等になりたいからだ」

     

    中ロは、枢軸になって米国へ対抗する道を進んでいる。プーチン氏のウクライナ侵攻も米国への対抗策である。その意味で、中国にとってロシアは盟友である。

     

    (2)「中国はいくつもの難題を抱えている。第一に台湾問題だ。中国は台湾を強引に征服するのではなく、経済統合を通じた平和裏の併合を望むはずだ。だが、米台の一部の政治家が台湾の独立と民主主義を強硬に主張すれば、武力行使に踏み切るかもしれない。米国は中国に対し、これまで以上に敵対的な態度をとるはずだ。米国は戦略的分野に素材や部品を供給している中国企業を徹底的に排除しようとするだろう」

     

    米国は、中国が武力で台湾侵攻を狙っていると断定している。この前提から「中国排除」へ直線的に動いている。中国は、こういう米国に対してどのように対応するかだ。平和統一が犠牲もなく理想的だが、習氏の3期目は「武力統一」が既定方針のようになっている。習氏は、3期目を目指して「スパイス」を効かせすぎたのである。

     

    (3)「経済面でも大国になりつつある中国だが、中国共産党が最近発表した経済成長率の目標値は5%であり、数十年来で最低の数値だ。直面する困難は途方もなく大きく、この控えめな目標値でさえ達成できるか疑わしい。人口の急減で労働市場が逼迫する。若い女性は経済的に自立してきているが、子育て支援策が不十分で合計特殊出生率の上昇は期待できない。社会は豊かになる前に高齢化し、介護・医療費の急増に悩まされる。急成長してきた中国経済は失速するだろう」

     

    中国経済は今後、多くの失速条件を抱えている。一つは、労働力人口の急減が大きな理由だ。

     

    (4)「さらに中国共産党の企業支配の姿勢が明らかになるにつれ、中国国内だけでなく外国の投資家も中国での投資に消極的になっている。既に多くの中国の起業家は活動拠点を外国に移し、西側諸国の多数の企業は中国から撤退して生産・販売に適した土地を探している。この動きは今後も継続する」

     

    共産党支配が、企業にも及んでいる。企業はこれを嫌って、国外へ企業を移している。これも二つ目の理由で、中国経済を失速させる。

     

    (5)「以上が、中国は米国に代わる超大国にはならないとみる根拠だ。そして本質的な問いに行き着く。中国共産党の長期的な統治は可能か、というものだ。共産党が統治を続けるには、大企業の成長を制御し、起業家の発意を抑制しなければならない。こうした介入は、経済成長、雇用の増加、社会的な安定を阻害する。汚職がはびこる現状では、今日の中国に一党独裁型からインド型民主主義への円滑な移行は期待できない」

     

    前述の二つの理由から、中国経済は失速するほかない。よって、中国が米国に代わって世界支配することはあり得ない。それよりも、中国共産党は経済失速によって国民の信頼を失うだろう。

     

    (6)「共産党の権威が失墜すれば、1990年代のロシアのように政治的な混乱を招き、似た道をたどるだろう。中国は数多くの内戦を経験してきただけに、大混乱に陥る可能性が考えられる。だが、党の権威失墜で大混乱に陥るかどうか。それは習氏の「極権」をどの程度、制御できるかにかかっている」

     

    中国共産党は権威失墜から、その責任を巡って、習派と反対派が対立するだろう。ただ、習氏が、自らに与えられた権力に使用にブレーキをかければ、その対立はセーブされる。習氏が目一杯、権力を行使する事態になれば、大混乱に陥る懸念が強く内戦となろう。

     

     

     

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    ロシアの22年GDP成長率は、マイナス2.1%にとどまった。ウクライナ侵攻直後は、二桁のマイナス成長率予測であったから、予想外の「健闘」と言えた。だが、今年に入って状況はがらりと変わっている。 

    今年1~2月は、政府歳入の半分近くを占める石油・ガス収入が、前年比46%落ち込む一方、歳出は50%余り急増したのだウクライナでの戦費が予算の重石となっており、ロシアが現時点で財政収支を均衡させるには、石油価格がバレル当たり100ドルを超える必要があるとアナリストは推定す。現状では、50ドルを割り込んだ状況だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月29日付)は、崩壊し始めたロシア経済 来年は資金枯渇か」と題する記事を掲載した。 

    ロシアによるウクライナ侵攻開始当初は、石油・ガス価格が跳ね上がり、ロシアに思わぬ巨額の利益をもたらした。だが、こうした局面は終わった。戦争が2年目に突入する中、西側の制裁による打撃が広がり、ロシア政府の財政は厳しさを増している。経済は低成長軌道へとシフトし、長期的に脱却できない可能性が高まっている。 

    (1)「短期的にロシアの戦費調達を脅かすほど、経済への打撃が深刻であることを示す兆候はまだ見られない。だが、財政収支は赤字に転落しており、ウラジーミル・プーチン大統領が市民を生活の困窮から守る一助となってきた補助金や社会保障向けの支出と、膨らむ軍事支出との間でどう折り合いをつけるか、ジレンマが深まっている状況を示している。ロシアの富豪オレグ・デリパスカ氏は今月の経済会議で、ロシアの財政資金が枯渇しつつあると警鐘を鳴らした。「来年には資金が尽きるだろう。われわれは外国人投資家を必要としている」と指摘する」 

    ロシア経済が、ウクライナ侵攻による経済制裁効果と軍事費増額で、確実に破局に向かっている。来年には、資金が枯渇するという暗い予測も出てきた。

     

    (2)「見通し悪化の大きな原因は、エネルギーを武器に使えば、西側諸国によるウクライナ支援を抑制できるとのプーチン氏の読みが外れたことだ。欧州諸国の政府はウクライナへの支援を縮小するどころか、ロシア産エネルギーへの依存脱却に向けて代替調達先の確保に迅速に動いた。ロシア産ガスの欧州への供給がほぼ止まると、価格は当初、急騰したものの、その後急落した。ロシアは現在、石油生産を6月まで従来レベルから5%減らす意向を示している。同国の石油価格は国際指標を下回っている」 

    プーチン氏の読みは、ことごとく間違った。エネルギーを武器に使えば、欧州は音を上げてウクライナを長期支援できまいと見てきたのだ。現実は逆になった。欧州が、ロシア産エネルギー購入を止め、ロシア産原油上限制60ドルの枠をはめてしまったのだ。これで、ロシア産原油は欧州という需要先を失い、価格が暴落している。

     

    (3)「ロシアのエネルギー収入は今年12月に前年比でおよそ半減し、財政赤字も膨らんだ。1~2月の財政赤字は340億ドル(約4兆4600億円)と、国内総生産(GDP)比1.5%余りに達した。そのため、ロシアは危機時の財政緩衝材である政府系ファンド(SWF)から赤字の穴埋めを余儀なくされている。ロシア政府は依然として国内で借り入れすることが可能であるほか、侵攻前から280億ドル減ったとはいえ、SWFはなお1470億ドル相当を保有する。行き場を失った石油についても、中国やインドが新たな受け皿になった」 

    ロシア財政の緩衝材役を果たすSWFは、1470億ドル相当を保有するに過ぎない。今後、これは減る一方である。軍事費と国民生活をどのようにバランスさせるかだ。

     

    (4)「国際通貨基金(IMF)はロシアの潜在成長率について、ウクライナからクリミア半島を強制併合した2014年より前の段階では約3.5%だと推定していた。だが、生産性の低下や技術的な後退、世界からの孤立といった要因が重なり、今では1%程度まで下がったと指摘するエコノミストもいる。前出のプロコペンコ氏は「ロシアのような経済にとって、1%はないも同然で、維持する水準にすら届かない」と話す」 

    ロシアの潜在成長率は、すでに1%程度にまで下がっている。この程度の成長率では、ロシア国民の生活を守れないという。これは、日本で経験済みである。

     

    (5)「今年12月は政府歳入の半分近くを占める石油・ガス収入が前年比46%落ち込む一方、歳出は50%余り急増したウクライナでの戦費が予算の重石となっており、ロシアが現時点で財政収支を均衡させるには、石油価格がバレル当たり100ドルを超える必要があるとアナリストは推定している。ロシア財務省によると、同国の代表的な油種であるウラル原油の平均価格は2月、バレル当たり49.56ドルとなった。これは同月に80ドル程度で取引されていた国際指標の北海ブレントに対して大幅なディスカウント水準だ。ウィーン国際経済研究所のエコノミスト、バシリ・アストロフ氏は、「ロシアは石油の販売先が限られるため、今では世界の市場で価格交渉力が弱まっている」と指摘する」 

    ロシア財政を維持するには、原油価格が1バレル100ドルでなければ無理という。現状は、その半分にすぎない。財政赤字は膨らんで当然であろう。

     

    (6)「IMFは2027年までには、ロシアの成長率がウクライナ侵攻前の予想から7%程度切り下がると想定している。「人的資本の喪失、国際金融市場からの孤立、先端技術の入手困難などの要因がロシア経済を損なう見通しだ」としている。 ウィーン国際経済研究所のエコノミスト、バシリ・アストロフ氏は、「われわれは1年や2年の危機を言っているのではない」と述べる。「ロシア経済は異なる軌道を歩むことになるだろう」と指摘する」 

    ロシア経済は、ウクライナ侵攻の長期化で異次元へ進むという危機感が表明されている。

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    ロシアは、イランが設計したドローンの新たな生産工場を国内に設ける計画で、イラン政府と協議を進めている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月5日付)が報じた。米同盟国の当局者らが明らかにしたもの。工場では、ウクライナ戦争向けに少なくとも6000機のドローンが生産される可能性がある。ロシアとイランの協力関係の深まりを示す新たな兆候だ。

     

    『中央日報』(2月6日付)は、「『ロシアでイランが開発のドローン6000機作る』…ドローン工場設立に合意」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアとイランが、イランが開発した無人攻撃機(ドローン)をロシアで直接生産することで合意したことがわかった。米国やドイツなど西側諸国がウクライナに戦車などを支援することにし、最近ドローン攻撃を増やしてきたロシアが非対称戦力強化にさらに力を入れる様相だ。

    (1)「『ウォール・ストリート・ジャーナル』が5日に伝えたところによると、ロシアとイランはロシアに工場を設立しイランの技術力でドローンを生産することで最近合意した。同紙は「イランのハイレベル代表団が先月初めにロシアを訪問して工場建設予定地を訪問し細部事項を調整した。自爆ドローンを最小6000機以上生産してウクライナの戦場に投じる方針」と伝えた。イラン代表団が視察した工場用地は、モスクワから東に1000キロメートルほど離れた人口6万~7万人の工業都市エラブガという」

     

    ロシアは、大量の武器をイラク侵攻で失っている。経済制裁で、武器の生産も出来ないことから、ドローン生産でウクライナ軍の意表を突くという苦肉に策に出ざるを得なくなっている。

     

    (2)「ロシアは、これまでイランから自爆ドローンの提供を受けウクライナの電力網などを空襲するのに活用してきた。新年初日から自爆ドローンで猛爆を加えるなど、戦争長期化で兵力が不足すると攻撃用ドローンに対する依存度が高まっている状況だ。しかし、イラン製ドローン「シャヘド136」はプロペラエンジンで動くため速度が遅く騒音が激しく小銃射撃にも撃墜されるほど防御が弱かった。ウクライナ空軍が昨年秋以降これまでに撃墜したと明らかにした自爆ドローンだけで540機に達する」

     

    これまでのイラン製ドローンは、速度が遅くウクライナ軍の攻撃対象になってきた。映像では、ウクライナ軍の電波で強制着陸させられているケースも出ていた。こういう弱点を抱えていたのだ。

     

    (3)「このためロシアに新しく設立される工場では、さらに速いスピードを出すことができ、さらに遠くまで飛べる改良型ドローンを作るのに集中するものとみられる。同紙は「新たに製作されるドローンはウクライナだけでなく他の国にも新たな挑戦を抱かせることになりかねない」と指摘した。これに先立ち、1月末にウクライナは西側からM1エイブラムス(米国)とレオパルト2(ドイツ)など主力戦車の支援を引き出している。現在はF16など戦闘機まで要請している状況だ。これに対し「現代版ナチズム」としながら猛非難してきたロシアの危機感が大きくなっているだけに、ドローンへの依存度は今後さらに高まるだろうという専門家らの見方が出ている」

     

    ロシアは、持ち駒の武器の大半を失っている。ドローンの大量生産で、ウクライナ軍を混乱させる計画であろう。

     

    (4)「一方、西側の制裁を受けているロシアは、イランだけでなく中国などからも軍需装備を調達している。4日には中国国営防衛産業事業者が戦闘機部品などをロシアに輸出してきた事実が確認された。イランとの協力はますます強化する傾向だ。ドローンを提供する見返りとして戦場で捕獲した西側の兵器をイランに渡して複製品を作らせるよう助ける一方、1月末には両国の銀行間通信網連結にも合意した。両国とも西側の金融網から事実上締め出された状況だ」

     

    ロシアは、イランとの関係強化で「生き延びる道」を模索している。プーチン氏は、ウクライナ侵攻長引かせて、中国の台湾侵攻と「合流」させる戦略を立てているのであろう。これが、プーチン氏の唯一の「戦略」かも知れない。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-02-02

    メルマガ434号 中ロ枢軸、「ウクライナ・台湾」同時侵攻の危険性 第三次世界大戦を防げるか

     

     

     

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    中国は、米国からの「二次制裁」を恐れてロシアとの取引を抑えていると見られていた。現実には、こっそりとロシアへ輸出していたのだ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が、ロシアの関税資料から確認した。中国にとっては、都合の悪い事態だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月5日付)は、「中国が軍用品でロシア支援、貿易データで発覚」と題する記事を掲載した。

     

    中国は、国際的な制裁と輸出規制をよそに、ロシア軍がウクライナで戦争を行うのに必要な技術を提供している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がロシアの税関データを確認したところ明らかになった。税関の記録には、中国国有の防衛企業が航法装置や電波妨害技術、戦闘機部品を制裁対象のロシア国有防衛企業に出荷していることが示されている。

     

    (1)「米非営利団体C4ADSがWSJに提供した税関記録によれば、これらは、ロシアが昨年の侵攻後に輸入した軍民両用品の数万件の出荷のうちの一握りでしかない。記録によれば、軍民両用品のほとんどは中国から輸入された。C4ADSは国家安全保障上の脅威の分析を専門としている。中国がロシアのウクライナ侵攻を支援していることを巡っては、アントニー・ブリンケン米国務長官の北京訪問で議題となるはずだったが、訪中は3日、無期限に延期された。中国の偵察目的とみられる気球が米本土上空に飛来したためだ」

     

    今回中止されたブリンケン米国務長官の北京訪問では、中国によるロシアへの軍事品輸出問題が議題になる筈だった。早晩、取り上げられる。

     

    (2)「ロシアは基本的な軍需品の多くを国内で生産する能力を持つ一方で、現代戦に不可欠な半導体などの軍民両用技術については輸入に大きく依存している。欧米当局は、昨年2月に開始した経済的圧力は、コンピューターチップや赤外線カメラ、レーダー装置などのロシアへの輸出をターゲットにすることで、モスクワの軍事機構をまひさせるだろうと述べている。だが税関や企業の記録文書によると、ロシアは依然として、米国主導の制裁に参加していない国を通じてこれらの技術を輸入することが可能となっている。輸出規制されている製品の多くは、トルコやアラブ首長国連邦(UAE)などの国々を経由している」

     

    ロシアは依然として、制裁に参加していない国を通じて軍需物資を輸入していることがわかった。西側は、改めて抜け穴防止に取り組むほかない。

     

    (3)「WSJが確認した記録では、中国企業(国有および民間)が、米国当局が特に懸念しているという軍民両用品の主要輸出国であることが示されている。WSJは、西側諸国が経済的な圧力をかけ始めて以降、ロシアの税関が記録した8万4000件以上の出荷を分析した。C4ADSによれば、ロシアの公式な税関記録は、すべての記録を網羅しているわけではないかもしれないが、日付、荷主、購入者、住所、製品の説明など国内への各貨物の詳細が記されている。また、WSJは米国が制裁対象としている10社以上のロシアおよび中国企業をこれらの記録の中に確認した。税関の記録には、ウクライナでロシア軍が使用している種類の兵器の部品が輸出されている例も含まれている」

     

    中国企業が、ロシアへの軍民両用品の主要輸出国であることが分かった。中国企業は、米国の制裁対象企業10社以外にもロシアへ輸出していることが判明した。

     

    (4)「米当局者によれば、ロシアが戦争を続ける上で不可欠な物資の中にはコンピューターチップが含まれている。チップはウクライナ軍やインフラを標的とする兵器のほか、衛星の測位や無線通信、偵察、航法を可能にする電子回路に使用されている。税関の記録によると、米国とその同盟国が最初に厳しい輸出制限を課した後、こうしたチップや関連部品の輸出は半分以下になった。しかしすぐに増え始め、10月には3300万ドル近くに達した。ロシアの税関記録と国連のコムトレードデータベースをWSJが分析したところによると、これは、ロシア軍がクリミアを占拠した後の2014年に米国がロシアを制裁対象とし始めてからのロシアの月間輸入額の平均3500万ドルにわずかに届かない水準だ」

     

    ロシアは、西側の輸出制限品目の輸入額が昨年10月、3300万ドル近くになっていることが判明。これは2014年、クリミア侵攻以後の制裁によって、ロシアの月間輸入額が平均3500万ドルとなっていることと大差ない事実が浮かび上がった。輸出に抜け穴があるのだ。

     

    (5)「米国の競争力強化を目指すシンクタンク、シルベラード・ポリシー・アクセラレーターは今月発表した報告書で、ロシアは軍事的ニーズを満たすために、中国、特に香港を経由する軍民両用品の積み替えにますます依存するようになっていると指摘している。シルベラードのサラ・スチュワート最高経営責任者(CEO)は、同盟国の制裁と輸出規制について「これらの措置はロシアの能力にかなり大きな影響を与えてきたが、まだ致命傷にはなっていない」と語った」

     

    ロシアは、香港経由で軍需品を輸入していることが判明した。やはり、中国はロシア支援姿勢を貫いていることが証明された。中ロ枢軸は機能しているのだ。


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    共同で狙う半導体技術

    科学技術「不毛の地」

    2年早まる台湾侵攻?

     

    米空軍のミニハン大将が、指揮下の部隊に対しメモで「私の直感では、2025年に中国軍と戦うことになると思う」と述べた。この発言がメディアに報じられてから、中国の台湾侵攻は、差し迫ってきた印象を強めている。

     

    ミニハン氏は、次のような理由を台湾侵攻の根拠にしている。台湾と米国はいずれも2024年に米大統領および台湾総統の選挙を控えその準備に忙しく、中国はそれを防衛上において脆弱な時期と捉える可能性がある、としている。ブリンケン国務長官は22年、中国は以前に検討していたよりも「ずっと速い時間軸で台湾統一を目指すと決意」と指摘した。こういう重大なメッセージを無視することは極めて危険であろう。

     

    台湾与党に新リーダーが誕生した。台湾独立を強く主張する頼清徳副総統は、蔡英文総統から民進党党首の座を引き継いだ。中国が2024年の台湾の総統選に介入し、頼氏の当選を阻止しようとするのはほぼ間違いないとされる。もし頼氏が当選すれば、中国はすぐにでも侵攻に踏み切る。そういう可能性を指摘する向きさえ出てきたのだ。

     

    とりわけ、ロシアのウクライナ侵攻の決着が付かない現在、中ロが西側諸国への対抗を強めるべく、中国が台湾侵攻することで西側諸国の軍事力を分断させることは可能だ。米国が、台湾侵攻に関わることでウクライナ支援の手を緩めざるを得ず、中国は間接的にロシア支援を実現できるのだ。習近平氏が生涯、中国国家主席を務めるには、プーチン氏もロシア大統領であり続けることが望ましいことである。その意味で、中ロは人的要因で結束し易い要因を持っている。

     

    こうして、中ロは水面下で提携強化に動く可能性を強めている。近く行なわれる中ロ首脳会談では、台湾侵攻についても話題に上がるであろう。

     

    ロシアは、ウクライナ侵攻であと2~3年ぐらい戦争を継続できる財政的裏づけがあると見られる。プーチン大統領は、自らの政治生命に関わることから、敗北を認めずにズルズルと戦いを引き延ばして、西側諸国にウクライナ支援疲れを起させるのを待っている。こうなると、中ロの思惑が一致して、ウクライナ侵攻と台湾侵攻が並行するという最悪事態に陥る危険性が高まるだろう。

     

    欧州とアジアでの戦乱は、第三次世界大戦だ。この危機を防ぐ手立てはないのか。それには、台湾侵攻を是が非でも防ぐことが不可欠である。

     

    共同で狙う半導体技術

    中ロが、ウクライナ侵攻と台湾侵攻を並行する場合、大きな経済的な利益を狙うことは明白だ。中国が、台湾を占領して台湾の最先端半導体を手中に収め、半導体窮乏に苦しむロシアを助けられるからだ。台湾侵攻で半導体製造設備は荒廃しても、技術者を獲得できれば「半導体砂漠」の中国は、一挙に米国へ対抗して世界覇権を握れる態勢が整う。同時に、ロシアも先端半導体を入手して、ウクライナ侵攻を成功させられるという思惑を強めるであろう。

     

    戦争は、誤算から出発する。合理的に計算すれば、開戦する筈がない戦争が悲惨な結果を生んでいる。身近な戦争で言えば、日本の太平洋戦争開戦がそうであった。北朝鮮の韓国侵攻もそうだ。ロシアのウクライナ侵攻もその例である。国家間の紛争解決手段として、不合理な戦争を手段に使えば自滅する。これが戦争のもたらす歴史的帰結である。これは、戦い終わってから得られる結論だが、戦争の過程では戦争を「正答」として見てしまうもの。人間の性(さが)と言うべきだろう。

     

    日本の太平洋戦争開戦は、ABCD(米国・英国・中国・オランダ)ラインによる経済制裁(石油・鉄くずの輸入禁止)への対抗手段として始まった。石油は、戦略品であるから生命線である。日本は真珠湾攻撃の他に、南方地域(東南アジア)で石油資源獲得目的に侵略戦争を始めた。こういう経緯から、太平洋戦争は「自衛戦争」という主張もあるが、肝心の東南アジアにとっては日本の「侵略行為」である。これが、歴史的審判である。

     

    当時の石油は、現在の半導体である。先端半導体は、最新鋭武器には不可欠である。ロシア軍の武器を分解すると、米国を筆頭とする西側諸国からの部品・半導体が圧倒的という分析結果が出ている。中国は、このロシアから武器を輸入している関係だ。つまり、先端半導体が入手できなければ戦争継続が不可能という時代になっている。

     

    科学技術「不毛の地」

    ロシアの半導体事業は、スタートしたばかりの段階である。中国半導体は、ロシアよりも進んでいるが、先端半導体を生産する能力はない。そこで、必死になって西側からの技術導入を進めてきたが、米国から安全保障上の理由によって大幅に制限されている。最近では、米国が中国ファーウェイへ全ての半導体技術・製品の輸出禁止を命令した。これでは、ファーウェイは、営業不可能でお手上げになる。すでに、これまでの規制で世界トップを狙ったスマホ生産を放棄させられている。米国技術の威力をまざまざと見せつけたのだ。(つづく)

     

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