勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ロシア経済ニュース時評 > ロシア経済ニュース時評

    a1320_000159_m
       


    ロシアのウクライナ侵攻が9カ月目に入った。これからの時期、再び天候が決定的な要因になると安全保障担当者や軍事専門家は指摘している。

     

    冬の気温が時にマイナス30度まで下がる国のことだ。暖を取る方法だけを考慮すればよいわけではない。それほどの低温下では機材の操作が難しくなり、仕掛けられた地雷は雪の下に隠れる。発電機を動かすにもより多くの燃料が必要だ。敵の視界を遮るものが少ないため、物資は夜間に移動する必要がある。一部のドローンのナビゲーションシステムは氷で覆われる。冷気は暖気より密度が高いため銃弾ですら速度が落ちる。『フィナンシャル・タイムズ』は、ウクライナ戦線の厳しさをこう報じる。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(10月31日付)は、「ウクライナ・ロシア軍攻防、厳冬期が勝負の分け目に」と題する記事を掲載した。

     

    プーチン氏の戦略ポイントは、寒さが軍事作戦の速度を落とすことにある。ロシア軍は防衛線を維持し占領地域を支配し続けられる。アナリストは、これがウクライナでの作戦を統括するロシア軍スロビキン司令官の考えの中心だと指摘する。

     

    (1)「英ワーウィック大学のアンソニー・キング教授(戦争研究)は、「冬は寒く暗いため、兵士へのより手厚い後方支援が必要になる。使う燃料も増える。作戦を阻む様々な抵抗にこれらが加わり、守る側に有利に働く」と話した。だがウクライナには、特に兵士への物資供給や防寒対策においてより決定的になりうる強みがある。カナダが50万着の冬仕様の軍服を供給しており、10月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では冬の間ウクライナをどう支援するかが主要議題となった」

     

    この冬、ウクライナ侵攻で決定的な局面を迎える。戦局の拡大ではなく、前線の兵士の士気がどうなるかだ。ウクライナ軍は、完全な防寒具が用意されている。ロシア軍は、かねてから装備不足が指摘されている。兵站線攻撃で有利なウクライナ軍は、徹底的にロシア軍を叩けば、さらにロシア軍は苦境に立たされるであろう。

     

    (2)「ウクライナ空軍の元中佐でキーウのシンクタンク、ラズムコフ・センターの共同所長を務めるオレクシー・メルニク氏は、「ロシアは少なくともエネルギー戦争では冬が自分たちに味方すると踏んでいる。ウクライナ軍兵士を取り巻く環境の方がはるかに良いだろう」と指摘する。地元住民からの物資の援助があるためだ。同氏は最近キーウ近郊の分隊を訪問した際、「住民が洗濯した衣類を提供したり、(兵士に)食事を出したりして、必要なものは何でも持ってきていた」と語った。前線となっている東部バフムートに派遣されているウクライナ軍特殊部隊のタラス・ベレゾベッツ氏は、「我々はボランティアからたくさんの物資をもらっている。ガソリンの備蓄も自立型電源もある。『備えよ』との司令が出ている」と話した」

     

    ウクライナ軍は、自国領土での戦いである。地の利を得ているのだ。自国民から温かい差し入れを受けて戦えるのである。

     

    (3)「占領地域にいるロシア兵にそのような支援はない。また最近招集されて1100キロメートルに及ぶウクライナの前線に急きょ配備された数万人の兵隊の多くは基本的な装備にも事欠いている。ロシアメディア『アストラ」が公開した動画では、動員兵が十分な物資がないまま南東部ザポロジエに送られたと不満を述べている。新兵の一人は「敵地にいるのに装弾の一つも持っていない」と話し」

     

    ロシア兵は、弾薬も持たされずに最前線へ送り込まれている。冬の装備が、どこまで整っているか疑問である。

     

    (4)「安全保障担当者や軍事専門家は、最大の未知数はこの冬がどれほど厳しいかだと話している。また気温は0度前後で雨が多く地面がぬかるむのか、あるいはマイナス10度まで下がり何もかも凍るのかも重要だという。暖冬の場合、プーチン氏が狙うエネルギー戦争の効果は薄れ、物資を搭載した重量のあるトラックはぬかるんだ道で車輪が泥にはまるのを避けるために舗装道路しか走行できない」

     

    暖冬の場合、物資を搭載した重量のあるトラックは舗装道路しか走行できない。これが、ウクライナ軍の狙い目だという。

     

    (5)「そうなればウクライナ側は、ロシアの補給路や後方支援部隊を狙い撃ちしやすくなる。ウクライナの国立戦略研究所のアナリスト、ミコラ・ビエリエスコフ氏は、ウクライナ軍は「戦場で精密誘導兵器を利用してロシア軍を(疲弊させ)、ロシア兵の前線での生活を一層みじめなものにできる」と話した。一方で、ぬかるみはウクライナ軍の反撃能力を制限する面もある」

     

    舗装道路を走るトラックは、ウクライナ軍に攻撃され易くなる。そうなると、ロシア兵の生活は物資不足に見舞われて、厳しくなるだろう。

     

    (6)「ビエリエスコフ氏は、それとは対照的に「地面が深くまで凍結すれば地上をあちこち移動でき、理論的には新たな攻撃が可能になる」と指摘した。また「冬の間も士気を保つことが双方にとり最重要課題となる。もし維持できなければ、地上に展開するロシア軍が後戻りできない状況に陥る可能性が高い」と話した」

     

    地面が深く凍結すれば、ウクライナ軍の攻撃が行ないやすい状態になる。冬の間、ロシア軍は寒さとひもじさ。さらに、いつ攻撃してくるか分からないウクライナ軍に怯えざるを得ない。ロシア軍兵士は、こういう環境でどう動くのか。集団投降もありうるのだ。ウクライナ戦線は今冬、大きな分岐点になりそうである。

    a0960_008564_m
       

    ロシアは、ウクライナの戦況悪化が注目の的であるが、国内経済も予断を許さない状況になっている。3万人動員令のほかに、徴兵を嫌って大量の青壮年が国外脱出しているからだ。脱出組は、高度の技術者とされており、ロシア経済は年末にかけて「経済危機第2波」が襲いそうな状況になった。

     

    『ロイター』(10月14日付け)は、「ロシア経済、部分動員で回復腰折れか 生産性や需要に打撃」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア経済は、すでに西側諸国による経済制裁のために既に打撃を受けている。今度は、国内的な要因でさらに痛めつけられる展開になってきた。プーチン大統領が9月21日に出した部分動員令が生産性に打撃を与え、需要と景気回復の足を引っ張る恐れが強まっているからだ。

     


    (1)「これまでに何十万人もの男性が、徴兵されるか国外に逃亡した。西側の制裁にもかかわらず当初の想定より底堅く推移してきたロシア経済には、投資活動をまひさせてしまう不確実性という厄介な問題がのしかかりつつある。セントロクレジットバンクのエコノミスト、エフゲニー・スボーロフ氏は「部分動員令や地政学的リスクと制裁リスクの高まりによって、経済危機の第2波が始まろうとしている」と語り、ロシア経済は年末にかけて一段と縮小すると予想した

     

    部分動員令は、ロシア社会へ衝撃を与えた。それまで、ウクライナ侵攻は「よその戦争」という意識で暢気に構えていた。動員令で、それが身近な戦争になったのだ。多くの青壮年が、徴兵という恐怖に怯えて脱出した。これによる労働力不足が、年末にかけてロシア経済を襲うと見られるにいたった。

     


    (2)「ロシア経済発展省が、今年の国内総生産(GDP)成長率について、12%を超えるマイナスになるとの見通しを発表したのが4月。それ以降は、原油高と経常収支の黒字拡大を追い風に、政府の経済見通しは着実に上向いてきた。9月終盤にロイターが実施したアナリスト調査では、今年のロシアのGDP成長率の予想はマイナス3.2%で、経済発展省の予想は同2.9%。来年はアナリストの予想がマイナス2.5%なのに対して、経済発展省は同0.8%とはるかに楽観的だ。だが、ロシアがウクライナでの軍事作戦強化を進めているのに伴って、ある程度姿を見せてきた景気回復は腰折れしかねない

     

    原油高と経常収支の黒字拡大を追い風に、政府の経済見通しは着実に上向いてきた。ただ、8月から財政赤字に転落している。軍事費が、嵩んでいるためだ。そこへ、今回の動員令と国外脱出による労働力不足が加わる。事態は容易ではなくなってきた。

     


    (3)「ベテランのエコノミスト、ナタリア・ズバレビッチ氏は、「部分動員が主としてもたらす結末は、人的資本の喪失だ」と述べ、いつトンネルの出口の明かりが見えるのか分からない以上、最大限の恐怖と何もかもが不確実という状況が、急激に広がってくると説明した。実際、部分動員の期間や最終的な規模はなお判然としない。こうした中でロシアのメディアは、
    推定で70万人が部分動員令の発表以来、国外に逃げ出したと伝えているロクコ・インベストの投資責任者、ドミトリー・ポレボイ氏の見積もりでは、ロシアの労働力人口の0.4~1.4%が既に逃亡したか、戦場に投入されようとしている招集兵になっているという」

     

    動員令発表後に推定では、実に70万の人が国外に逃げ出したと伝えている。いずれも、高技能者である。外国へ出ても生きていける技能を身に付けている人たちだ。ロシア経済には、大きな痛手になる。

     


    (4)「ポレボイ氏は、折しもロシアが先進的な機器や技術を手に入れにくくなっている局面にあるだけに、部分動員はロシアの人口動態、労働市場、投資環境という観点で痛手になると分析。「人的資本だけが経済をけん引する力として計算できたのに、生産年齢人口の一部は徴兵され、別の一部は逃げ出している」と嘆いた」

     

    部分動員も労働力不足に拍車を掛ける。前線へ借り出されれば、何割かが死傷の身になる。労働力不足になることは間違いない。

     

    (5)「動員令では、中小企業が最大の被害者になろうとしている。ズバレビッチ氏は、「最悪の事態が訪れるのは、中小企業だろう。徴兵猶予を働きかける政治的手段はなく、2人か3人の要となる従業員を失えば、事業が成り立たなくなる」と話す。間の悪いことに物価が再び上昇する気配を見せ、中銀の利下げサイクルは幕切れを迎えそうで、部分動員が経済にショックをもたらせば、政策担当者にとって新たな頭痛の種になってもおかしくない」

     

    動員令で、最大の被害は従業員2~3人の零細企業であろう。この中から従業員を1人でも失えば事業が成り立たなくなる。こういう事態になれば、ロシア経済は目詰まりを起そう。

    a0960_008417_m
       

     

    先進国では、領土拡大を意味する植民地主義が、19世紀の遺物として清算済である。ロシアは、未だにこれにしがみついており、世界の平和にとって大きな障害であることが浮き彫りになった。こういう「時代遅れ」の国に対して、どのように対応するのか。悩みは深い。

     

    ロシアの領土拡大の欲望は、止まるところを知らないようだ。6月初め、プーチン氏はウクライナについて、第一歩にすぎないと述べ、他の多くの領土も潜在的な標的とみていることが分かった。9日には初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会に出向き、ピョートル大帝がスウェーデンから獲得した領土について、「彼は私たちの領土を取り戻し、強化しただけだ」と笑みを浮かべて説明した。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月27日付)は、「プーチン氏『帝国の野望』 どこまで目指すのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会で、プーチン氏は次のように語った。「(土地を)取り戻して強化することがわれわれの運命のようだ」と述べ、ウクライナ戦争がピョートル大帝の戦争のように、20年以上続く可能性を示唆した。大統領補佐官のウラジーミル・メジンスキー氏はさらに露骨で、モスクワが地球の表面の6分の1を支配していたときより領土が大幅に縮小したと嘆き、不運な後退は「いつまでも続かない」と述べた」

     

    領土拡大を歴史の使命とするプーチン氏は、歴史を動かす原動力が「イノベーション」であることの認識がない。領土重視=資源重視=モノカルチャー経済という必然的な衰退コースを歩んでいる。この意味で、20年後のロシアは確実に弱小国へ転落するに違いない。科学革命の経験がない国家の悲劇である。

     


    (2)「領土の回復を訴えるこうした発言は1991年のソビエト連邦崩壊を巡る積年の憤りによるところが大きい。プーチン氏が20世紀最大の惨劇だとするソ連崩壊で、ロシアは歴代皇帝が積み上げた人口と領土のほぼ半分を失った。これをきっかけに世界の超大国は権威を失って、貧困や汚職、反乱に悩まされる破綻国家となった。ロシア政府はエストニアやリトアニア――両国ともNATOと欧州連合(EU)に加盟している――やモルドバ――ロシア軍高官が標的として最近引き合いに出した――などの隣国に新たに脅しをちらつかせている」

     

    ロシアは、1991年のソ連崩壊で領土も人口も失った。正確に言えば、これまでの支配が異常であり、正常化されたにすぎない。これを歴史の屈辱と捉えているが、大きな間違いだ。

     

    戦後の日本も同じ境遇に陥った。後に総理になる石橋湛山(当時:東洋経済新報社社長)は敗戦の年、『東洋経済新報(週刊東洋経済)』8月25日号社説)で、「更正日本の針路」と題し、日本は領土を失っても悲観することはない、技術でこれを補えると鼓舞した。その後の日本経済は、現実に復興を果たした。ロシアには、石橋湛山のような思想も人物もいないのだろう。ロシアが今後、発展できない理由はこれだ。

     


    (3)「ウクライナでのぶざまな後退こそが、プーチン氏を戦争の拡大に追いやる可能性があると警告するのは、ロシアの野党政治家でかつてはプーチン氏に助言したマラト・ゲルマン氏だ。「国内で大統領の支持率が脅威にさらされている。大統領は自分が拡大し、資金を注いできた偉大な軍隊がなぜウクライナの抵抗に対応できないかを説明できない」と同氏は言う。「従って大統領はウクライナとだけでなく、世界全体と戦う新たな次元に全てを移行させる必要がある。それゆえプーチン氏は別の犠牲者を選ぶ危険がある」。戦争が拡大すれば、民間人の軍への動員と、ロシアにまだ存在する数少ない市民的自由の排除が正当化される可能性がある、と同氏は指摘する」

     

    プーチン氏が、ウクライナ敗北で引き下がる男ではない。戦線を拡大して勝つまで戦うだろう。これは、見過ごしにできない重要な点である。

     


    (4)「ロシアが軍事的な問題を抱えているにもかかわらず、ウクライナ戦争の終結はほど遠い。ロシアは年単位の戦争に備えながら、ドンバス地方で前進を続けており、ウクライナ併合という当初の目標を変えていない。国家安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ前大統領は今月、「ウクライナが2年後に世界地図に残っていると誰が言ったか」と述べた。一部の欧州の指導者にとってこれらの発言が意味するところは、ウクライナの大部分がロシアに支配された状態で停戦が実現し、ロシアが消耗した軍を再編・再建して、新たな攻撃に向けて準備をすることができれば、最終的に他の欧州の国がプーチン氏の標的になる、ということだ

     

    ウクライナ戦争は、簡単に終わらないだろうという見方である。プーチン氏が、敗北を受入れない男であるからだ。

     

    (5)「エストニアを含むバルト3国は、建前上はNATO加盟によって保護されているが、NATOが現在、この地域を含めた東欧に配置している兵力は少なく、ロシアの全面侵攻を軍事的に撃退するには十分ではない。東欧最大の国ポーランドでさえ、軍隊はウクライナ軍ほど強くはなく、戦闘で鍛えられてもいない。一部の西側の軍事専門家によると、ロシア軍はエストニアの首都タリンをわずか1日で占領できるという。ポーランド国防省が2021年に実施した軍事演習では、同国軍は5日間でロシアに完敗するとの結論に達した」

     

    バルト3国は、ロシアの戦闘拡大に最も警戒している。エストニアの首都タリンは、わずか1日で占領されるという。米軍が、バルト3国へ常駐するので、ロシア軍も簡単に手を出せない状況だ。

     

    (6)「元駐NATO米大使でシンクタンク「シカゴ・グローバル評議会(CCGA)」会長のイボ・ダルダー氏によれば、ロシアがNATO加盟国に対して軍事侵攻した場合、現状では米国は間違いなく迅速に対応するという。ウクライナでの経験とは違って、ロシアの空軍は数日で破壊され、地上部隊はNATOの優れた空軍力に太刀打ちできないだろう。しかし、米国でより孤立主義的な政権が成立すれば、状況は変わるかもしれない」

     

    米軍とNATO軍がロシア軍と戦えば、帰趨ははっきりしている。ただ、米国でトランプ氏のような孤立主義者が政権につくと状況は変わる。欧州はその場合、悲劇再現となるリスクが高まる。

     

     

    a1320_000159_m
       

    中国の習近平氏は、2月4日の中ロ共同声明でロシアと「限りない友情」を誓い合った仲である。そのロシアが、ウクライナ戦争で残虐行為を働いたとして、世界中から非難されている。「友人」である習近平氏には、困った事態であろう。「友人」が評判を落とせば、習近平氏にも累が及ぶのだ。

     

    『時事通信 電子版』(5月8日付)は、「中国の習氏『ロシアのウクライナ侵攻で動揺』 台湾侵攻の決意変わらず 米CIA長官」と題する記事を掲載した。

     

    米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は5月7日、ワシントン市内で開かれた英紙『フィナンシャル・タイムズ』主催の会合に出席し、ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国の習近平国家主席が「動揺している印象を受ける」と語った。

     


    (1)「バーンズ氏は、侵攻で明らかになったロシア軍の残虐性により、ロシアと緊密な関係を維持する中国が「評判を落としかねない」と指摘。習氏は「予測可能性」を重視しており、「戦争に伴う経済の不透明感」も習氏の動揺につながっていると説明した」

     

    習氏は、「友人」プーチン氏とは60回以上も会談を重ねてきた親友である。それだけに、友人の評判が悪いのは、習氏自身にもはね返ってくることだ。「朱に染まれば赤くなる」で、習氏も侵略志向と見られている。中ロの密接化が、こういう警戒観となって現れているのだ。

     

    (2)「中国はロシアの侵攻で欧米諸国の結束が深まったことに失望しており、台湾侵攻に向けて「生かすべき教訓」を慎重に見極めていると語った。「時間をかけて台湾を支配するという習氏の決意は損なわれていない」としつつも、「(中国の)計算には影響を与えている」と話した」

     

    ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米は結束を固めている。中国の外交戦術では、米国と対決する一方で、欧州との関係を強化して共同で米国と対決する構図を描いていた。現在、この構図は大きく崩れている。

     


    もともと、米欧は同じ仲間である。米国は、欧州の移民で成立した国だ。その欧州が、米国と対立して中国と連携するはずがない。こういう経緯を見誤る当たり、習氏の「外交眼力」は相当鈍っていると言うほかない。日本が、中国と手を組んで米国と対決することなど100%あり得ない。それは、価値観=文化の違いでもある。習氏は、この辺の判断が間違っているのだ。

     

    『時事通信 電子版』(4月27日付)は、ウクライナ危機で中国政府は大ショック、庶民はロシア応援」と題する記事を掲載した。筆者は、柯 隆(か・りゅう)氏である。東京財団政策研究所主席研究員である。

     

    中国の一般の庶民は、ウクライナのことをあまり知らない。逆にロシアは身近な存在である。中国の公式メディアやインターネットのSNSでは、ウクライナが米国を中心とする先進国の手先となって、ロシアを追い詰めているから、ロシアは反撃しているといわれている。民衆の間では「ロシア、頑張れ」の声が上がっている。

     


    (3)「これに対して、知識人の間で事情をよく知っている人は少なくない。言論統制されているため、声を上げることができないが、心の中でウクライナを応援する人は多い。中には、プーチンのロシアと手を切るべきだと主張する政府系シンクタンクの研究者も現れている。ウクライナ危機を見た中国政府は、大きなショックを受けているはずである。なぜなら、中国の軍事技術の源泉はロシアだからだ」

     

    ウクライナ戦争で、ロシア軍の戦況が芳しくないことにより、中国は失望している。中国の軍事技術の源泉はロシア軍である。この状態で、仮に米国と戦うことになれば、冷や汗ものである。

     

    (4)「ロシアが短期間にウクライナを攻略できると中国は確信していたが、1カ月たっても、ウクライナを攻略できていない。すなわち、ロシアの軍事力が本当に強いものかどうかが今、疑われている。単なる「張子の虎」ではないか、とさえ思われている可能性は高い。なぜ中国政府がショックを受けるかというと、もし、ロシアから導入した軍事技術をもって台湾に侵攻したとしても、本当に台湾を攻略できるのか、自信を失ってしまう可能性がある。すなわち、中国人民解放軍が台湾に侵攻した場合、短期間に台湾を攻略できなければ、後方から補給が追い付かず、失敗に終わる可能性が高いからである」

     

    中国は、ロシアの武器体系にそっている。そのモデルたるロシアの武器が、ウクライナ軍によって破壊されている映像は、身震いするほどの恐怖であろう。

     


    (5)「中国政府はロシアと米国の間で、自分にとって最も得する解を求めようとしている。すなわち、損得の勘定を一生懸命しているところである。米国などからは、中国がロシアに軍事支援した場合、重い代償を払うことになると警告されている。これに対して、駐米中国大使の秦剛氏は、米CBSの番組に出演した時、中国はロシアに軍事支援をしていないとコメントした。このコメントから中国はロシアへの軍事支援による代償を十分に認識していることが分かる。もう少し時間がたって、ロシアの敗戦がはっきり見えれば、中国は自然にロシアと距離を置くようになると思われる」

     

    ロシアが敗北すれば、中国はロシアと自然に距離を置くようになるという。これは,習氏の外交的失敗を意味する。国家主席3選どころの話でなくなるであろう。

     


    (6)「中国経済が先進国に依存しているのは明白な事実である。それを無にしてロシアと同盟を組むことはあり得ない。ただし、米国から経済制裁を受けているのは事実であり、中国政府は米国に対する警戒も強めている。習近平政権の本心は、米国との関係を改善したいということである。しかし、ここ数年の米中対立の溝はあまりにも深い。簡単には埋まらないだろう。これからは、ある種の準冷戦の状態に突入していく可能性が高い」

     

    中国にとって、ロシアが頼れる相手でないことが分れば、中国はどうするのか。今さら、米国との関係復活も言い出せないのだ。苦しい局面にきた。

    a1320_000159_m
       

    戦争は痛ましいものである。前途有為の青年が、戦場で斃れるからだ。ロシアが侵攻したウクライナ戦争では、ロシア兵士の戦死者が1万~2万人も出ていると報じられている。このため、著しい兵士の士気低下が起こっているという。

     

    この士気低下の理由が分ってきた。戦死者に、モスクワ出身者がいないことだ。最前線へは,モスクワ出身兵士が出動していないことを覗わせている。これは、偶然でなく政府による意図的な兵士の選別であろう。

     


    『中央日報』(5月5日付)は、「死亡者のうちモスクワ出身はいない、ロシア軍戦死者の悲しい真実」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナを侵攻したロシア軍隊を支えているのはモスクワから数千キロメートル離れた極東・シベリア地域から来た所得が低いいわゆる「土の箸とスプーン」出身だった。

     

    (1)「英紙『タイムズ』は、ウクライナで戦っている多くのロシア兵士が首都モスクワから遠く離れた地方に基盤を置いていると3日(現地時間)、伝えた。寒く土地がやせているシベリア・極東地域や少数民族別に区分された一部の共和国など、ロシア内の非主流地域から来た兵士たちが多かった。ウクライナ戦争が70日以上続いていて、この地域出身の兵士はさらに増えている。ウクライナのシンクタンク、国防戦略センターによると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はモスクワを除き、主に極東とシベリア地域から毎週200人ずつ入隊するよう要求している」

     


    ウクライナ最前線で戦っているロシア軍兵士は、シベリア・極東地域や少数民族に区分された一部の共和国などの出身者である。戦死してもモスクワから遠く離れた地域であれば、ロシア国民に広く知られないで済むという計算が働いていると見られる。報道統制しているので、好都合なのだろう。プーチン氏は、主に極東とシベリア地域から、毎週200人ずつ入隊するよう要求しているという。これは、200名の戦死者が出るという想定であろう。

     

    (2)「ブチャで戦争犯罪を起したとされる第64分離車両化小銃旅団も、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に基地を置いている。ハバロフスクは中国と国境を接していて、モスクワとは7時間の時差がある。戦争初期はロシア兵士がウクライナ占領地で略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品などをベラルーシの国境都市マジルの宅配会社からシベリアの人里離れた地方などに送る防犯カメラの映像が公開された。ロシアの家族に送ったものと推定される」

     

    ブチャで大量虐殺を行なった部隊は、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に駐屯している。寒村ゆえに貧しく、略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品を故郷へ送ったことが判明している。

     


    (3)「入隊者が、多いため死亡者も多かった。ロシア独立メディア『メディアゾナ』は4月末、ロシア兵士死亡の内容が出てきた1700本余りの記事を研究した結果、少なくとも1774人が死亡(西側は1万5000余人死亡推定)したと推定した。このうちロシア南部の北カフカースのダゲスタン共和国、東部シベリアのブリヤート共和国などだけで200人余り以上が戦死した。メディアゾナは、「モスクワとサンクトペテルブルク地域の戦死者はいなかった」とした。『ワシントン・ポスト』(WP)は、「ダゲスタン・ブリヤート共和国は貧しい地域」と伝えた。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブルだ。モスクワの平均給与は11万ルーブルだ」

     

    ロシア僻地は給与も低く、モスクワ平均給与の3~4割レベルである。それだけに、高い給与に釣られて入隊してくるのであろう。

     


    (4)「ロシア独立メディア『メドゥーサ』によると、ダゲスタン共和国は3月からウクライナ戦争に参戦する兵士たちを募集している。一般兵士の月給は17万7000ルーブルだった。ロシアの今年の最低生活費は1人あたり月1万3000ルーブル程度だ。ウクライナの1カ月派兵で年間生活費を得られる場合があるため貧しい地域からは若者が軍隊に志願入隊する場合が多かった」

     

    一般兵士の月給は、17万7000ルーブル(約33万2000円)である。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブル(約8万2000円)であるから、4~5倍もの高収入である。喜んで入隊するのだろう。

     


    (5)「『メドゥーサ』は、「ダゲスタン共和国の多くの若者たちが貧しい家を立て直し、出世のために軍隊に行こうとする。過去、各地で徴兵人員を制限すると徴集委員会に賄賂を送りさえした」と伝えた。今回の戦争でも多くの人々が入隊した。ロシア国営メディア「リアノボスティ通信」は3月、「ダゲスタン共和国では1週間で300人以上が兵役契約を締結した」と伝えた。しかし、100人以上が戦死した。20代の若い青年たちが多かった

     

    貧しい地域では、一般兵士の高い給与に目が眩み、応募してくるのであろう。事情を知らないままに、ウクライナ最前線へ送り込まれている。

     

    (6)「高麗(コリョ)大学ロシア語ロシア文学科のチェ・ジョンヒョン教授は、「極東とシベリア地域などは所得が低く生活水準が劣悪だ。他の職業よりも給与がよい軍入隊でお金と名誉を得ようとする者が多い。世論統制もうまくいっていて、ウクライナ戦争の真実について知らずに志願した若い青年たちが多かった」と背景を説明した。続いて「反面、モスクワなど大都市で徴兵しないのはロシア内部で逆風が吹く恐れがあるためだ。モスクワで徴兵するようになれば西側で『ロシアは本当の危機に直面している』と考える可能性もある」と付け加えた」

    ロシア軍は目下、辺鄙な地域で一般兵士を募集しているが、モスクワで徴兵を開始するようになれば、募集兵業務が行き詰まってきたことを示す。

     

    このページのトップヘ