ドイツ外相の強い中国警告
ロシアの長期的耐性に疑問
中国の経済進出に拒否感も
戦狼外交で窮地に立つ矛盾
ロシア経済は、ウクライナ侵攻後1年を経て綻びが目立ってきた。頼みの原油と天然ガスの主要市場であった欧州を失い、価格も大幅に低下しているからだ。これが、ロシア経済を直撃している。中国は、こういうロシアに対して精神的支援を送る。西側諸国は、中国が台湾侵攻を目論でいるので、ロシアを支援しているものと解釈する。その結果、「反中防衛網」を作らせる副産物を生んでいる。中国にとっては、全く割の合わない事態に遭遇しているのだ。
中国が、自らを包囲させる事態を生んでまでもロシアを支援する理由は何か。それは、二つの側面が考えられる。一つは、習近平氏とプーチン氏の個人的関係である。この両者は、終身職を狙っている。二人は1歳違い(プーチン氏が上)であり、権威主義国家のリーダーとして君臨したいという個人的欲望に基づくのだ。もう一つは、中国の台湾侵攻の際にロシア軍が北方で日本を軍事牽制して、台湾防衛へ集中させないという思惑である。
こう見ると、中国はロシアを支援する理由がある。中国は、これに伴う反作用を無視することで、自国経済が蝕まれるのは確実である。西側諸国が、中国・ロシアを一体的に捉えで警戒姿勢を強めている結果だ。
ドイツ外相の強い中国警告
最近では4月14日、EU(欧州連合)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は、中国がウクライナ危機を巡り、ロシア軍撤退による政治的解決を模索しない限り、EUが中国と信頼関係を持つことは「極めて困難」との見方を示した。
また、ドイツ外相ベーアボック氏は訪中した14日、中独外相の共同記者会見で「紛争は平和的に解決されなければならない」と述べ、台湾海峡の緊張について重大な懸念を持って注視していると警告した。中国のいかなる台湾支配の試みも容認できず、欧州に深刻な影響を及ぼすと表明したのだ。「一方的で暴力的な現状変更は、われわれ欧州人にとって容認できない」とも語った。フランスのマクロン大統領の中国擁護論とは、一線を画したのだ。欧州の盟主は、ドイツであるという自負心であろう。
前記のように、EU外相にあたる外交安全保障上級代表とドイツ外相が、正面切って中国へ不信感を突きつけたことは、中国にとって痛手だろう。マクロン氏からせっかく「親中国論」を引き出したが早速、EUとドイツからしっぺ返しを受けた格好である。中国のロシア支援は、台湾侵攻問題を控えているだけに危機感を増幅させているのだ。
ロシア経済の弱体化は、今年1~3月期の経常収支黒字の大幅減少と財政赤字に現れている。2023年1~3月期の経常収支は、黒字が前年同期比約73%減少し186億ドルとなった。エネルギー収入の大幅な減少が原因だ。石油・ガス収入が、前年比45%も減少したのである。
1~3月期の財政収支(速報値)は、290億ドルの赤字になった。歳出が急増した一方、エネルギー収入が減少した結果だ。ロシア政府は、2023年の財政赤字がGDPの2%を上回ないとしている。だが、エネルギー収入の減少と軍事費増加で、財政赤字が膨らむのは不可避である。
経常収支の赤字接近が、ロシア経済を揺さぶることは確実である。それは、23年のGDP成長率に表れる。ただ、ロシア政府は基本統計の公表を中止しているので、外部からの推計を困難にさせている。国際機関でも幅のある予測値になっている。
OECD(経済協力開発機構)は、最も悲観的な見方を示した。23年のロシア経済成長率をマイナス2.5%と予想し、昨秋のマイナス5.6%から上方修正した。EUが、ロシアのエネルギー輸出を抑えるために講じた措置による影響が、当初予想よりも限定的と見ていることだ。
IMF(国際通貨基金)は、0.7%のプラス成長を予想する。理由は、非常に強力な財政措置を講じることを上げる。エネルギー輸出による収入も底堅いと見る。西欧諸国による禁輸措置を受けているが、それに代わる輸出先を見つけたことが大きいとしている。
悲観的な見方も、楽観的な見方も、正確な統計データの発表が中止されているので「手探り状態」である。唯一の手がかりは、ロシアのエネルギー輸出状態と財政赤字がどこまで膨らむかにかかっている。楽観は禁物である。
ロシアの長期的耐性に疑問
英国際戦略研究所(IISS)のマリア・シャギナ上級研究員は、ロシア経済が経済制裁に対して短期的に耐性を示しても、長期的な見通しは暗いと指摘する。その結果、ロシアは内向き志向を強め、中国に過度に依存するようになるだろう見る。資金的に見て、24年以降に窮迫すると予測されているのだ。23年の財政赤字が膨らめば、ルーブル相場は下落して実態悪をさらけ出す。現在は、1ドル=81ルーブルだが、ルーブル安傾向を強めている。
ロシア中央銀行は、航空部門でリスクが高まっていると指摘している。新型の機体や部品の不足により、保守面で問題が生じかねないのだ。ロシアの現役航空機の77%が欧米製である。国内旅客輸送量は、97%が欧米製の航空機が担っている。それだけに、部品供給ストプは航空輸送の安全に重大問題を発生させかねないのだ。換言すれば、墜落事故の発生である。(つづく)
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