勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ロシア経済ニュース時評 > ロシア経済ニュース時評

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    中国の習近平氏は、2月4日の中ロ共同声明でロシアと「限りない友情」を誓い合った仲である。そのロシアが、ウクライナ戦争で残虐行為を働いたとして、世界中から非難されている。「友人」である習近平氏には、困った事態であろう。「友人」が評判を落とせば、習近平氏にも累が及ぶのだ。

     

    『時事通信 電子版』(5月8日付)は、「中国の習氏『ロシアのウクライナ侵攻で動揺』 台湾侵攻の決意変わらず 米CIA長官」と題する記事を掲載した。

     

    米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は5月7日、ワシントン市内で開かれた英紙『フィナンシャル・タイムズ』主催の会合に出席し、ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国の習近平国家主席が「動揺している印象を受ける」と語った。

     


    (1)「バーンズ氏は、侵攻で明らかになったロシア軍の残虐性により、ロシアと緊密な関係を維持する中国が「評判を落としかねない」と指摘。習氏は「予測可能性」を重視しており、「戦争に伴う経済の不透明感」も習氏の動揺につながっていると説明した」

     

    習氏は、「友人」プーチン氏とは60回以上も会談を重ねてきた親友である。それだけに、友人の評判が悪いのは、習氏自身にもはね返ってくることだ。「朱に染まれば赤くなる」で、習氏も侵略志向と見られている。中ロの密接化が、こういう警戒観となって現れているのだ。

     

    (2)「中国はロシアの侵攻で欧米諸国の結束が深まったことに失望しており、台湾侵攻に向けて「生かすべき教訓」を慎重に見極めていると語った。「時間をかけて台湾を支配するという習氏の決意は損なわれていない」としつつも、「(中国の)計算には影響を与えている」と話した」

     

    ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米は結束を固めている。中国の外交戦術では、米国と対決する一方で、欧州との関係を強化して共同で米国と対決する構図を描いていた。現在、この構図は大きく崩れている。

     


    もともと、米欧は同じ仲間である。米国は、欧州の移民で成立した国だ。その欧州が、米国と対立して中国と連携するはずがない。こういう経緯を見誤る当たり、習氏の「外交眼力」は相当鈍っていると言うほかない。日本が、中国と手を組んで米国と対決することなど100%あり得ない。それは、価値観=文化の違いでもある。習氏は、この辺の判断が間違っているのだ。

     

    『時事通信 電子版』(4月27日付)は、ウクライナ危機で中国政府は大ショック、庶民はロシア応援」と題する記事を掲載した。筆者は、柯 隆(か・りゅう)氏である。東京財団政策研究所主席研究員である。

     

    中国の一般の庶民は、ウクライナのことをあまり知らない。逆にロシアは身近な存在である。中国の公式メディアやインターネットのSNSでは、ウクライナが米国を中心とする先進国の手先となって、ロシアを追い詰めているから、ロシアは反撃しているといわれている。民衆の間では「ロシア、頑張れ」の声が上がっている。

     


    (3)「これに対して、知識人の間で事情をよく知っている人は少なくない。言論統制されているため、声を上げることができないが、心の中でウクライナを応援する人は多い。中には、プーチンのロシアと手を切るべきだと主張する政府系シンクタンクの研究者も現れている。ウクライナ危機を見た中国政府は、大きなショックを受けているはずである。なぜなら、中国の軍事技術の源泉はロシアだからだ」

     

    ウクライナ戦争で、ロシア軍の戦況が芳しくないことにより、中国は失望している。中国の軍事技術の源泉はロシア軍である。この状態で、仮に米国と戦うことになれば、冷や汗ものである。

     

    (4)「ロシアが短期間にウクライナを攻略できると中国は確信していたが、1カ月たっても、ウクライナを攻略できていない。すなわち、ロシアの軍事力が本当に強いものかどうかが今、疑われている。単なる「張子の虎」ではないか、とさえ思われている可能性は高い。なぜ中国政府がショックを受けるかというと、もし、ロシアから導入した軍事技術をもって台湾に侵攻したとしても、本当に台湾を攻略できるのか、自信を失ってしまう可能性がある。すなわち、中国人民解放軍が台湾に侵攻した場合、短期間に台湾を攻略できなければ、後方から補給が追い付かず、失敗に終わる可能性が高いからである」

     

    中国は、ロシアの武器体系にそっている。そのモデルたるロシアの武器が、ウクライナ軍によって破壊されている映像は、身震いするほどの恐怖であろう。

     


    (5)「中国政府はロシアと米国の間で、自分にとって最も得する解を求めようとしている。すなわち、損得の勘定を一生懸命しているところである。米国などからは、中国がロシアに軍事支援した場合、重い代償を払うことになると警告されている。これに対して、駐米中国大使の秦剛氏は、米CBSの番組に出演した時、中国はロシアに軍事支援をしていないとコメントした。このコメントから中国はロシアへの軍事支援による代償を十分に認識していることが分かる。もう少し時間がたって、ロシアの敗戦がはっきり見えれば、中国は自然にロシアと距離を置くようになると思われる」

     

    ロシアが敗北すれば、中国はロシアと自然に距離を置くようになるという。これは,習氏の外交的失敗を意味する。国家主席3選どころの話でなくなるであろう。

     


    (6)「中国経済が先進国に依存しているのは明白な事実である。それを無にしてロシアと同盟を組むことはあり得ない。ただし、米国から経済制裁を受けているのは事実であり、中国政府は米国に対する警戒も強めている。習近平政権の本心は、米国との関係を改善したいということである。しかし、ここ数年の米中対立の溝はあまりにも深い。簡単には埋まらないだろう。これからは、ある種の準冷戦の状態に突入していく可能性が高い」

     

    中国にとって、ロシアが頼れる相手でないことが分れば、中国はどうするのか。今さら、米国との関係復活も言い出せないのだ。苦しい局面にきた。

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    戦争は痛ましいものである。前途有為の青年が、戦場で斃れるからだ。ロシアが侵攻したウクライナ戦争では、ロシア兵士の戦死者が1万~2万人も出ていると報じられている。このため、著しい兵士の士気低下が起こっているという。

     

    この士気低下の理由が分ってきた。戦死者に、モスクワ出身者がいないことだ。最前線へは,モスクワ出身兵士が出動していないことを覗わせている。これは、偶然でなく政府による意図的な兵士の選別であろう。

     


    『中央日報』(5月5日付)は、「死亡者のうちモスクワ出身はいない、ロシア軍戦死者の悲しい真実」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナを侵攻したロシア軍隊を支えているのはモスクワから数千キロメートル離れた極東・シベリア地域から来た所得が低いいわゆる「土の箸とスプーン」出身だった。

     

    (1)「英紙『タイムズ』は、ウクライナで戦っている多くのロシア兵士が首都モスクワから遠く離れた地方に基盤を置いていると3日(現地時間)、伝えた。寒く土地がやせているシベリア・極東地域や少数民族別に区分された一部の共和国など、ロシア内の非主流地域から来た兵士たちが多かった。ウクライナ戦争が70日以上続いていて、この地域出身の兵士はさらに増えている。ウクライナのシンクタンク、国防戦略センターによると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はモスクワを除き、主に極東とシベリア地域から毎週200人ずつ入隊するよう要求している」

     


    ウクライナ最前線で戦っているロシア軍兵士は、シベリア・極東地域や少数民族に区分された一部の共和国などの出身者である。戦死してもモスクワから遠く離れた地域であれば、ロシア国民に広く知られないで済むという計算が働いていると見られる。報道統制しているので、好都合なのだろう。プーチン氏は、主に極東とシベリア地域から、毎週200人ずつ入隊するよう要求しているという。これは、200名の戦死者が出るという想定であろう。

     

    (2)「ブチャで戦争犯罪を起したとされる第64分離車両化小銃旅団も、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に基地を置いている。ハバロフスクは中国と国境を接していて、モスクワとは7時間の時差がある。戦争初期はロシア兵士がウクライナ占領地で略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品などをベラルーシの国境都市マジルの宅配会社からシベリアの人里離れた地方などに送る防犯カメラの映像が公開された。ロシアの家族に送ったものと推定される」

     

    ブチャで大量虐殺を行なった部隊は、モスクワの東6000キロメートル以上離れた極東地域ハバロフスクの小さな村に駐屯している。寒村ゆえに貧しく、略奪したテレビ・洗濯機・貴金属・化粧品を故郷へ送ったことが判明している。

     


    (3)「入隊者が、多いため死亡者も多かった。ロシア独立メディア『メディアゾナ』は4月末、ロシア兵士死亡の内容が出てきた1700本余りの記事を研究した結果、少なくとも1774人が死亡(西側は1万5000余人死亡推定)したと推定した。このうちロシア南部の北カフカースのダゲスタン共和国、東部シベリアのブリヤート共和国などだけで200人余り以上が戦死した。メディアゾナは、「モスクワとサンクトペテルブルク地域の戦死者はいなかった」とした。『ワシントン・ポスト』(WP)は、「ダゲスタン・ブリヤート共和国は貧しい地域」と伝えた。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブルだ。モスクワの平均給与は11万ルーブルだ」

     

    ロシア僻地は給与も低く、モスクワ平均給与の3~4割レベルである。それだけに、高い給与に釣られて入隊してくるのであろう。

     


    (4)「ロシア独立メディア『メドゥーサ』によると、ダゲスタン共和国は3月からウクライナ戦争に参戦する兵士たちを募集している。一般兵士の月給は17万7000ルーブルだった。ロシアの今年の最低生活費は1人あたり月1万3000ルーブル程度だ。ウクライナの1カ月派兵で年間生活費を得られる場合があるため貧しい地域からは若者が軍隊に志願入隊する場合が多かった」

     

    一般兵士の月給は、17万7000ルーブル(約33万2000円)である。ダゲスタン共和国の昨年の平均給与は3万2000ルーブル(約6万円)、ブリヤート共和国の平均給与は4万4000ルーブル(約8万2000円)であるから、4~5倍もの高収入である。喜んで入隊するのだろう。

     


    (5)「『メドゥーサ』は、「ダゲスタン共和国の多くの若者たちが貧しい家を立て直し、出世のために軍隊に行こうとする。過去、各地で徴兵人員を制限すると徴集委員会に賄賂を送りさえした」と伝えた。今回の戦争でも多くの人々が入隊した。ロシア国営メディア「リアノボスティ通信」は3月、「ダゲスタン共和国では1週間で300人以上が兵役契約を締結した」と伝えた。しかし、100人以上が戦死した。20代の若い青年たちが多かった

     

    貧しい地域では、一般兵士の高い給与に目が眩み、応募してくるのであろう。事情を知らないままに、ウクライナ最前線へ送り込まれている。

     

    (6)「高麗(コリョ)大学ロシア語ロシア文学科のチェ・ジョンヒョン教授は、「極東とシベリア地域などは所得が低く生活水準が劣悪だ。他の職業よりも給与がよい軍入隊でお金と名誉を得ようとする者が多い。世論統制もうまくいっていて、ウクライナ戦争の真実について知らずに志願した若い青年たちが多かった」と背景を説明した。続いて「反面、モスクワなど大都市で徴兵しないのはロシア内部で逆風が吹く恐れがあるためだ。モスクワで徴兵するようになれば西側で『ロシアは本当の危機に直面している』と考える可能性もある」と付け加えた」

    ロシア軍は目下、辺鄙な地域で一般兵士を募集しているが、モスクワで徴兵を開始するようになれば、募集兵業務が行き詰まってきたことを示す。

     

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    ロシアへの経済制裁効果が、なかなか現れないと指摘されている。だが、ロシアではすでに原油需要の低下によって、貯蔵スペース不足に直面する事態になっている。この状況が続けば、永久に施設を閉鎖する恐れも出ているという。西側諸国による一致した経済制裁で、先ず原油輸入を禁止ないし抑制している効果が現れてきた。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月14日付)は、「ロシア産原油のだぶつき、成長エンジンを直撃」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアでは行き場を失った原油がエネルギー供給網を逆流し、産油量の落ち込みが鮮明になってきた。ウクライナとの戦闘が激化する中で、ロシア経済の屋台骨に深刻な影響をもたらしつつある。製油所では、国内外の需要の落ち込みを受けて精製量を減らすか、閉鎖に追い込まれたところも出ている。パイプラインやタンク内の貯蔵スペースは減少の一途をたどっており、油井でも生産を縮小している。とはいえ、損失は今のところ限定的で、エネルギー業界は依然としてロシア政府に巨額の収入をもたらしている。ただ、向こう数カ月には、原油を採掘してから供給先に届けるまでに問題が生じる可能性が高い、とトレーダーやアナリストは指摘している。

     


    (1)「国際エネルギー機関(IEA)は13日、ロシアでは5月以降、日量およそ300万バレルの生産が滞るとの予想を示した。これにより産油量は日量900万バレル弱と、アナリストの予想以上に落ち込む見通しだ。ロシアの産油量がどこまで打撃を受けるかは、アジアで新規顧客を確保できるかどうかにかかっている。米国の顧客は完全に避けており、欧州でも代替の調達先を探る動きが広がっている。IEAでは、ロシア産原油の長年の買い手が離れていったことで、中国が急いでその分を輸入している兆候はまだ見られないとしている」

     

    ロシアは、5月以降の原油生産が日量300万バレル減少して、日量900万バレル弱に落込む見通しである。これはIEAの予測であり、アナリストの予想を上回る落込みである。この落込みをアジアでどこまでカバーできるかだ。

     

    (2)「産油量が持続的に落ち込めば、西側の経済制裁で深刻な景気後退に向かっているとみられる厳しい局面で、ロシア経済のけん引役が大きく損なわれることになる。DNBマーケッツの上級石油アナリスト、ヘルジ・アンドレ・マーティンセン氏は「潜在的な生産能力の一部が恒久的に失われる恐れがある」と話す。ロシアの石油・天然ガス業界がこの危機を乗り越えることができるかどうかは、政府の運命を左右することになりそうだ。2021年のロシア予算で、歳入の45%は石油・ガス業界によるものだった(IEA調べ)。国際金融協会(IIF)では、ロシアは3月の原油輸出代金として121億ドル(約1兆5200億円)を受け取ると試算している」

     

    急激な需要減で生産量を落とせば、潜在的な生産能力の一部が恒久的に失われる恐れがあるという。宝の持腐れに直面するのだ。2021年のロシア予算で、歳入の45%は石油・ガス業界による利益である。原油生産量が5月以降、25%以上も減れば、歳入への影響が出て当然である。

     


    (3)「トレーダーによると、ロシアの精製業界はウクライナへの侵攻開始直後から問題に直面した。欧州の買い手が代替の調達先の確保に動き、輸出が急減したためだ。その後の3月初旬には、米国がロシア産石油の輸入禁止に踏み切った。ロシアでは十分な買い手がつかなったことで、ディーゼルやガソリンなど石油製品の貯蔵スペースが枯渇し始めた。そのため、精製業者の稼働率は低下。4月8日までの1週間に製油所の生産量は日量約170万バレル減った。S&Pグローバル・コモディティー・インサイツの石油分析責任者、リチャード・ジョスウィック氏が分析した。これは稼働率が下がる春季メンテナンス期間の通常レベルをさらに7割下回る水準だという」

     

    石油精製業界にも,影響が出ている。4月8日までの1週間に、製油所の生産量は日量約170万バレル減っている。それでも、石油製品の貯蔵スペースが枯渇し始めている。だぶついているのだ。

     


    (4)「
    ロシアの製油業界が衰退すれば、石油市場への影響は大きい。ロシアはウクライナに侵攻するまで、米国、サウジアラビアに次いで世界第3位の石油生産国だった。また世界最大の輸出国でもあり、日量500万バレルの原油とコンデンセート(注:熱水 ナフサの成分に似ている)に加え、ディーゼルなど日量290万バレルの石油精製品を海外に供給していた。ロシア国営パイプライン会社トランスネフチでは、製油所への原油供給が落ち込んでいるため、パイプライン内の原油貯蔵スペースがひっ迫しているもようだ。トレーダーやアナリストが明らかにした」

     

    ロシアは、世界3位の原油生産国である。また、世界最大の輸出国でもあり、日量500万バレルの原油を輸出してきた。それだけ、国内需要が少ないことを意味する。西側諸国が輸入を禁止ないし抑制すると、途端に大きな影響が出る体質である。

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    ソ連「赤軍」は、第二次世界大戦でドイツ軍を打ち破り、かくかくたる戦果を上げた。その歴史を汲むロシア軍が、圧倒的な兵力を持ちながら、ウクライナ軍の猛攻に苦戦している。ロシア将官の戦死が相次ぐ事態だ。

     

    ウクライナ国防省は26日、南部ヘルソン近郊での空爆で、ロシア軍のヤコフ・レザンツェフ中将が死亡したと発表した。レザンツェフ氏はロシア南部軍管区第49軍司令官。西側当局者は、ロシア軍の将軍が死亡するのは7人目だとしている。中将の戦死は2人目で、ウクライナ侵攻開始以降、最高位だという。

     


    ウクライナ戦線には、約20人の将官が派遣されているという。すでに、そのうち7人が戦死するという異常な戦争になっている。3分の1が、犠牲になっている計算だ。将官クラスでも、特殊な通信手段を持たず、ウクライナ軍に傍受されて「狙い撃ち」されている結果とされている。ロシア軍の近代化が、いかに遅れているかを証明している。ハイテク化とは無縁の軍隊のようだ。

     

    英『BBC』(3月23日付)は、「『ロシアは軍事的に何を誤ったのか』ウクライナ侵攻・解説」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアは世界有数の強力な軍隊を保有している。しかし、その強力な軍事力はウクライナ侵攻の開始当初、ただちにあらわにならなかった。西側の軍事アナリストの多くは、ロシア軍のこれまでの戦いぶりに驚いている。「みじめなものだ」と言う専門家もいる。

     

    ロシア軍の軍勢はほとんど前進せず、これまでの損失から立ち直れるのだろうかと疑問視する人もいる。3月半ばになって、北大西洋条約機構(NATO)の軍幹部はBBCに対して、「ロシア軍は明らかに目的を実現していないし、おそらく最終的にも実現しないだろう」と話した。だとすると、いったい何がうまくいかなかったのか? 西側諸国の複数の軍幹部や情報当局幹部に、ロシアが何をどう誤ったのか、尋ねてみた。

     

    (1)「侵攻開始当初、ロシアは明らかに空では有利だった。国境近くまで移動させた戦闘機の数はウクライナ空軍の戦闘機の3倍だった。ほとんどの軍事アナリストは、ロシア軍が侵略開始と共に直ちに制空権を掌握するものと見ていたが、実際にはそうならなかった。ロシア政府は、特殊部隊も、素早い決着をつけるのに重要な役割を担うはずだと考えていたかもしれない。西側政府の情報当局幹部がBBCに話したところでは、特殊部隊スペツナズや空挺部隊VDVなどが少数精鋭の先遣隊となり、「ごく少数の防衛部隊を排除すれば、それでおしまい」だとロシアは考えていたようだ」

     


    太平洋戦争で、旧日本軍は真珠湾奇襲攻撃すれば、それで勝利間違いなしと見ていた。米国の軍事力を低評価していた結果である。だが、米軍は日本軍の情報をすべて解読していた。真珠湾攻撃も事前に情報をキャッチし、空母を疎開させていたのである。米海軍は、空母が無傷であったから半年後に,ミッドウェー海戦を挑み日本海軍に致命的打撃を与えた。ここに、日本軍は敗戦への道を歩まざるを得なかった。

     

    今回のウクライナ戦争でも、米軍が事前に情報を分析してウクライナ軍へ通知していたのであろう。一方のロシア軍は、旧日本軍と同様に事前の情報分析に抜かりがあったに違いない。緒戦で、大きな打撃を被っているのは、それを現している。

     


    (2)「開戦間もなく首都キーウ(ロシア語ではキエフ)近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けたものの、ウクライナ軍に押し返された。このためロシア軍は、兵員や装備、物資の補給に必要な空路を確保しそこねた。わりにロシア軍は、補給物資のほとんどを主に陸路で運ぶ羽目になっている。このため軍用車両の渋滞が発生し、渋滞すると予測できる場所も生まれ、ウクライナ軍からは急襲しやすくなっている。道路から外れて進もうとした重装甲車は、ぬかるみで身動きが取れなくなった。「泥沼にはまった」軍隊のイメージが、ますます強くなった」

     

    ロシア軍は、空挺部隊をキエフ近郊のホストメル空港攻撃目的で送ったが全滅している。この時、将官クラスが戦死している。こうして、制空権を奪えず敗退した。この結果、空路で行なうべき弾薬や食糧の輸送が、陸路になった。ウクライナ南部は、鉄道輸送が可能である。東部は、陸路という極めてリスクの高い方法に依存している。

     

    (3)「この間、人工衛星がウクライナ北部上空で撮影したロシア軍の長大な装甲車の列は、いまだに首都キーウを包囲できていない。ロシア軍は主に、鉄道を使った補給ができている南部で、軍を進めている。イギリスのベン・ウォレス国防相はBBCに、ロシア軍が「勢いを失っている」と話した。「(ロシア軍は)身動きが取れない状態で、じわじわと、しかし確実に、相当な被害をこうむっている」と見られる」

     

    戦争の帰趨を決めるのは、物資輸送の兵站が成功しているか否かに関わるという。その点で、ロシア軍によるキエフ周辺の占領は、極めて困難な事態に陥っている。不可能と言っても良さそうだ。

     


    (4)「ロシアは今回の侵攻作戦のために約19万人の部隊を集めた。そのほとんどはすでに戦場に投入されているが、すでに兵の約10%を失ってしまった。ロシアはすでに失った分の兵士を補充するため、国の東部やアルメニアなど遠方の予備役部隊さえウクライナに移動させている。シリアからの外国人部隊や、謎めいた傭兵組織「ワグナー・グループ」も、近くウクライナでの戦闘に参加する可能性が「きわめて高い」と、西側当局者は見ている。NATOの軍幹部はこれについて、「たるの底にあるものを必死でかき集めている」印だと述べた」

     

    ロシア軍が、シリアからの外国人部隊や、謎めいた傭兵組織「ワグナー・グループ」まで、ウクライナ戦争へ投入するのは、もはや、ロシア正規兵がいなくなってしまった結果である。傭兵は所詮、アルバイト部隊である。ウクライナで戦う動機がない以上、これがどこまで助っ人の役を果たすかは疑問である。ウクライナ戦争の全貌が、見えてきた感じである。

     

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    2月24日の未明に始まったロシアのウクライナ侵略は、早くも1ヶ月になる。ロシアは、制圧地域を広げられず戦死者だけが増える、予想もしなかった事態に陥っている。今後、プーチン氏はどうするのか。化学兵器を使うのでないかと警戒されるている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月23日付)は、「ロシア、侵攻1カ月で戦況膠着 制圧地域拡大せず」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナ侵攻を始めてから24日で1カ月となり、戦況は膠着し始めている。首都キエフを数日で制圧する「短期圧勝シナリオ」は補給体制の不備やウクライナ軍の強い抵抗で崩壊し、制圧地域もほとんど広がっていない。戦闘の継続で、双方とも死傷者が拡大し、戦力の喪失も大きくなっている。人道危機も深刻さを増している。

     


    (1)「米国防総省はロシア軍が10日以降、キエフ近郊ではほとんど前進していないと分析する。ウクライナ軍は22日、キエフ西方の地方都市マカリフを奪回したと発表した。米戦争研究所が22日時点でまとめたロシア軍が支配・侵攻する地域はウクライナ全体の4分の1程度で13日と大きな変化はみられない。ウクライナ軍は、ロシアの黒海艦隊から入手した機密文書をもとに、ロシアは2週間程度で侵攻を完了する計画だったと主張。米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は、ロシア軍がキエフを2日以内に陥落させる段取りを描いていたと暴露した」

     

    ロシアのウクライナ侵略は、「2週間程度で完了計画」であったという。とんだ誤算をしている。ロシアの年間国防予算は600億ドル(約7兆2600億円)以上。対するウクライナはわずか40億ドル(約4800億円)余りだ。この差からみても、簡単にひねり潰せると見ていたのだ。西側職国が、ウクライナを支援するという計算をしていなかったのだ。

     


    (2)「米国防総省高官は22日、記者団に対して侵攻停滞の理由について燃料や食料の補給が依然としてスムーズに進んでいないと指摘した。スコット・ベリア米国防情報局長は8日、ロシア軍の死亡者を2000~4000人と推計した。20年間のアフガニスタン戦争で命を落とした米兵は2461人とされる。軍事サイト「Oryx」によると、ロシア軍の戦車や装甲車の損失は22日時点で800台超とウクライナ軍の3.5倍にのぼり、対地・対空ミサイルも約140と同6割多い。

     

    ロシア軍は、開戦間もなく首都キエフ近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けた。だが、ウクライナ軍の猛攻撃に遭遇して、空挺師団の指揮官が戦死する羽目になった。このためロシア軍は、空路を確保できず、兵員や装備、物資の補給で危険な陸路に頼らざるを得なくなった。ロシア軍は、制空権を奪えなかったことが最大の誤算である。

     


    (3)「米政権の推定で、ロシアは侵攻までに15万~19万人の兵力を国境付近に集めた。弾丸や燃料、食料など兵士1人の維持にかかる費用を1日1000ドル(約12万円)と仮定すれば、1日に1.5億~2億ドルの支出が続く。世界銀行によると、ロシアの2020年の軍事支出は約617億ドルで戦費負担も軽くはない。元米軍高官のベン・ホッジス氏は米欧の経済制裁が効力を発揮し、今後戦費調達が苦しくなることなどもあり、ロシア軍は激しい攻勢を長くは続けられないと分析する」

     

    ロシア軍は、兵士1人の維持にかかる費用を1日1000ドル(約12万円)と仮定すれば、1日に1.5億~2億ドルの支出が続くと推計している。だが、英国では桁違いの1日250億ドル以上と見ている。1日に1.5億~2億ドルは、歩兵1人当たりの「生活費」の合計という意味であろう。ロシア兵の装備は不完全で、凍傷にかかる者も出て戦線を離脱しているほど。安価な装備で出撃させたのだ。

     

    ロシア兵の士気は「極めて低い」と言う西側当局者がいる。別の政府関係者は、ロシア兵はそもそもベラルーシとロシアの雪の中で何週間も待機させられた挙句に、侵略を命じられたので、「凍えているし、くたびれて、腹を空かせている」のだと話した。以上は英『BBC』(3月23日付)が報じた。

     

    (4)「地上部隊の苦戦を受け、ロシア軍は都市部への多数の砲撃などでウクライナの抵抗力をそぐ方針に転換している。特に南東部の港湾都市マリウポリでは避難所や商業施設などへの無差別砲撃を繰り返し、深刻な人道危機が発生している。国連によると、これまでにウクライナで少なくとも953人の一般市民が死亡した。実際にはこの人数を大幅に上回るとの見方が多い。1000万人超が国内外で避難生活を強いられている」

     

    戦線の膠着は、ロシア軍の無差別攻撃を招くので、人命の損傷危機が高まる。これを早く止めるには、さらなる経済制裁しかないのだ。ロシア経済は、これから「大きな代償」を払わされる番である。

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