セブン&アイ・ホールディングス(HD)買収をめぐって、カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)の創業者アレイン・ブシャード氏(同社会長)とセブンイレブン創業家(伊藤家)が、対抗する構図になっている。一見、買収価格を巡る「競い合い」にみえるがそうではない。日本は、セブンイレブンが地域社会のインフラになっていることから、「共同社会を守れ」という意識になっている。これが、クシュタール側には理解されていない。ACTは、金銭で儲かれば良いという経済感覚で臨んでいる。
『ブルームバーグ』(11月25日付)は、「セブンMBO助言役に創業家がSMBC日興 伊藤忠は大和証-関係者」と題する記事を掲載した。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)の創業家による同社への買収提案を巡り、財務アドバイザー(FA)として創業家側がSMBC日興証券、買収資金の出資を検討している伊藤忠商事が大和証券をそれぞれ選定したことが分かった。セブン&アイのFAは三菱UFJモルガン・スタンレー証券、買収提案の中身を検討するセブン&アイの特別委員会は野村証券をつけているという。
(1)「別の関係者らによると、創業家と伊藤忠、大手3メガバンクは出資と銀行融資合わせて総額9兆円規模に上るMBO(経営者が参加する買収)の具体策に向けた検討に入っている。一方、セブンに買収提案を行っているカナダのアリマンタシォン・クシュタールはFAに米ゴールドマン・サックスを起用しており、ビッグディールを成功に導こうと日米の有力投資銀行がしのぎを削るかたちとなっている」
ACTは、470億ドル(約7兆2400億円)の買収価格を提案している。伊藤家のMBOでは9兆円を提示している。この巨額提案の裏には、日米の名だたる投資銀行が参加している。それだけに、投資銀行間の力の振るいどころでもある。
(2)「創業家による買収提案の課題は、巨額の買収資金が集まるかどうかだ。三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行の3メガバンクが最大6兆円規模の融資を検討している。関係者によると、そのほかに出資金の確保を目指して創業家や伊藤忠のFAを務めるSMBC日興や大和証が、一部投資ファンドに優先株などの資本性資金の拠出を打診している。巨額すぎる融資は、銀行のリスクにもなり得るため、出資を募って資本を厚くすることが重要となるためだ」
日本は、3メガバンクが最大6兆円規模の融資を検討しているという。これに、伊藤忠商事も出資先候補として名が上がっている。伊藤忠は、絶好のビジネスチャンス到来である。日本を代表する総合商社の一角として、メンツにかけても負けられる一戦であろう。日本側は、総力戦になった。
(3)「セブン&アイには現在、法的拘束力のない2つの買収提案が提示されたことになる。創業家からとクシュタールからだ。今後の焦点は、どちらがセブン&アイの魅力的な成長戦略を提示できるかに移る。クシュタールのアレックス・ミラー社長最高経営責任者(CEO)は10月のインタビューで、「当社が掲げるビジョンは、モビリティと利便性の提供という分野で世界のトップランナーになることだ」と述べた。2社の統合が、その実現に向けた大きな一歩となるとしているが、具体的な道筋や手法は未知数だ。一方、創業家の成長戦略もまだ明らかになっていない。
ACTの歴史は、M&Aで事業を拡大してきた。「他人の褌で相撲を取る」タイプだ。今度はセブンを「栄養剤」にする計画である。まさに、乗っ取りを目指している。セブン側が対抗するのは当然であろう。
(4)「2つの買収提案は、セブン&アイの特別委員会が内容を精査している。13日に創業家によるMBO案に関する報道を受けてセブン&アイが開示した発表文で、特別委のスティーブン・デイカス委員長は「価値最大化に向けて各関係者との対話を継続する」とコメントした」
ACTは、敵対的買収を行わないと言明している。これに失敗すれば、セブンとの関係は永遠に厳しくなるからだ。それだけに慎重である。M&Aの目的は、一般に株主利益の最大化にあるとされている。だが、日本ではそういう金銭価値が最上位におかれていない。セブンが、外為法で指定された「コア業種」になっていることで理解できる。インフラになっているからだ。ACTが、この壁を乗り越えることはむずかしいであろう。