勝又壽良のワールドビュー

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    テイカカズラ
       


    ウクライナ軍による反攻作戦は、慎重な構えを見せている。現在は、「小手調べ」程度だ。ウクライナ軍が、勝利を確信するまで火蓋をきらない背景には、最大支援国である米国の大統領選が来秋あることだ。米国の次期大統領が代わるような事態になると、従来通の支援を受けられなくなるリスクが生まれる。それを、避けなければならないのだ。

     

    現に、次期米大統領選に立候補意思を表明したトランプ氏が今月10日、大統領に当選した場合のウクライナ支援の是非に触れ、「約束はしない」と明言を避けている。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、「米大統領選の来秋までに我々が勝利を収めている」と信念を述べた。いずれにしても、ウクライナ軍の反攻作戦の戦果が、米大統領選へ影響することは避けられないであろう。

     

    『日本経済新聞』(5月12日付)は、「米共和党、衝突する4派閥 ウクライナ支援の行方左右」と題するコラムを掲載した。筆者は日経本社コメンテーター秋田浩之氏である。

     

    米欧の軍事専門家らによれば、ウクライナの反転攻勢には当面、3つの展開があり得る。

     

    (1)「最も望ましい楽観シナリオはロシアが強制併合した南部・東部の4州を、ウクライナがほぼ解放するというものだ。これにより、ウクライナ軍は14年にロシアに併合されたクリミアを孤立させ、奪還への道筋を敷くこともできる」

     

    ウクライナ軍の勝利ケースは、ロシアが強制併合した南部・東部の4州を奪還することだ。これによって、クリミア半島を孤立させロシアを和平交渉へ引き出す狙いだ。

     

    (2)「逆に悲観シナリオは、ウクライナがさほど多くの領土を奪還できないか、ロシア軍に現状よりも押し返されてしまう筋書きだ。専門家らの間では、いずれの可能性も排除はできないが、「確率は高くない」(元米軍幹部)との見方が多い。いちばんあり得るとみられているのが、中間的なシナリオだ。ウクライナは南部・東部の占領地の一部から、ロシア軍をさらに追い出す。だが、22年2月23日の状態を回復するまでには至らない展開である。楽観シナリオが望ましいのは言うまでもないが、今の分析をみるかぎり、過剰な期待は禁物といえるだろう。では、中間シナリオの場合、その先の展開はどうなるのか」

     

    悲観的シナリオは、反攻作戦が余り戦果を上げられないケースである。これは、現状から見て可能性は極めて低い。中間的なシナリオは、ウクライナ南部・東部の占領地の一部から、ロシア軍をさらに追い出す、というもの。現実には、上記3ケースのどれに落ち着くか。

     

    (3)「最大の変数になるのが、米国のウクライナ支援の勢いがどこまで続くかだ。米欧諸国の中でも、米国の軍事支援は突出して多い。ドイツのシンクタンク、キール世界経済研究所によると、22年1月24日からの約1年間で、米国の軍事支援は466億ドル(約6兆3000億円)にのぼった。この金額は、米国に次ぐ上位9カ国の支援合計額の3倍以上にあたる。大黒柱である米国のウクライナ支援が息切れしたら、反転攻勢がうまくいったとしても、来年以降、ウクライナ軍は窮地に立たされかねない」

     

    戦況次第で、米国のウクライナ支援姿勢に変化が起こる可能性は否定できなくなっている。下院で多数を占める共和党が、どのような方針を示すかだ。ましてや、次期大統領にトランプ氏の復帰となれば、情勢が読みにくくなる。

     

    (4)「そんな米国の行方を左右するのが、下院で過半数をおさえる野党・共和党の出方だ。共和党指導部はウクライナ支援を続ける姿勢を鮮明にしているが、トランプ前大統領に近い一部議員などに消極論がくすぶる。与党・民主党内にも支援増額に難色を示す議員はいるが、今のところ、ウクライナ支援を強めるバイデン政権の路線に従っている。その意味で今後、いちばん気になるのが、共和党の動きだ」

     

    トランプ氏に近い一部下院議員には、ウクライナ支援消極論がある。これが今後、どういう動きをするかである。

     

    (5)「ウクライナの反転攻勢が不発に終わってしまったら、共和党内の保守的ナショナリストや対外関与抑制派から支援を減らし、停戦をウクライナに促すよう求める声が強まりかねない。逆に攻勢が成功すれば、共和党も含めた米議会内で、支援継続のムードが来年にかけても保たれるだろう。米国は今年11月ごろから大統領選の季節に入る。バイデン政権、議会とも世論の動向に一層、配慮せざるを得なくなる」

     

    米国世論が、ウクライナ支援に対してどのような態度を取るかもポイントになる。あくまでも民主主義を守るという固い信念を持ち続けるのか。これは、中国の台湾侵攻阻止への支持を占う試金石にもなろう。

     

    (6)「米メリーランド大による最新の世論調査では、米国のウクライナ支援が「多すぎる」との回答が33%を占め、「適度な水準」(30%)を超えた。米共和党の国際秩序派の一人は「年末になってもウクライナが苦戦していたら、西側陣営にとっては敗北だ」と語る。米国による支援疲れを防ぎ、西側陣営の結束を保つ上で、反転攻勢の成否が極めて重要な重みを持つ」

     

    米国世論では現在、ウクライナ支援が「適度な水準」(30%)を超え、「多すぎる」(33%)になっている。これに従えば、ウクライナ支援は「微減」もありそうだ。

     

     

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    中国にとって、ロシアがウクライナ侵攻で敗れると「中ロ枢軸」に大きなひびが入る。それだけに、敗北しないうちに停戦することがベストの選択だ。習氏が、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談した理由であろう。

     

    ロシア大統領府のぺスコフ報道官は4月27日、ゼレンスキー大統領と習近平国家主席の電話会談について、ウクライナ紛争の終結を早めるものなら歓迎するとの立場を示した。これは、中国の仲介案がロシア寄りであることを証明している。ゼレンスキー氏は、「侵略戦争を始めたのはロシアである」と習氏へ釘を刺したという。今回の電話会談を受けて、中国はウクラナへ代表団を送ることを決めた。

     

    中国は、ウクライナの対応を詳細に調べて、来るべき台湾侵攻で台湾がどのような対応をして来るかを「リサーチ」する目的があるはず。開戦後、台湾にどういう条件を出せば「停戦」に応じるか。こういう瀬踏みが、目的と見るべきだろう。油断禁物だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月27日付)は、「中国、ウクライナ和平に関与演出 米欧の批判緩和狙いか」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は26日、ウクライナのゼレンスキー大統領と1時間にわたって電話協議し、ロシアとの和平仲介に前向きな意向を示した。ロシア寄りの姿勢に対して強まった米欧の批判を和らげる思惑が透ける。世界各地の紛争の終結に貢献する姿勢を示し、国威発揚を図る狙いもあるようだ。

     

    (1)「「対話と交渉が唯一の解決策だ」「戦火を消すためできるだけ早く努力する」。中国国営中央テレビ(CCTV)はロシアのウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降で初めてとなった26日の電話協議後、異例のスピードで習氏の発言を公表した。ウクライナ和平を担当する特別代表を派遣することも発表した。中国外務省の毛寧副報道局長は27日の記者会見で、特別代表は「関連する事情を理解し、対話を促すうえで積極的な役割を果たすことができる人物となるだろう」と語った。具体的な人選や代表団の構成については「適当な時期に発表する」と述べるにとどめた」

     

    中国が、ウクライナへ派遣する代表団は、和平仲介よりも徹底的にウクライナの戦闘能力を調べるなど、ロシア側へ情報を漏らすに違いない。本来ならば、中国代表団を受け入れてはならないのだ。

     

    (2)「中国主導の和平協議は、双方に譲歩を迫るものになるとみられ、「領土の妥協を考慮した平和は一切あり得ない」(ゼレンスキー氏)とするウクライナ側が応じる可能性は低い。それでも習氏が電話協議を開いたのは、自ら和平への取り組みをアピールすることでフランスやドイツなど欧州の対中世論の軟化を狙ったとの見方が多い」

     

    ウクライナは、中国へ手の内を見せてはいけない。「領土の妥協を考慮した平和は一切あり得ない」というウクライナの原則で突っぱねるべきだ。

     

    (3)「中国はウクライナ侵攻で中立を掲げるものの、最近は親ロシア姿勢が目立っていた。2月には停戦に向けた12項目の仲裁案を公表したが、ウクライナが求めるロシア軍の即時撤退に触れなかった。3月には習氏がモスクワを訪問し、協力関係の強化でプーチン大統領と合意。さらに駐仏中国大使が今月21日放映のインタビューでプーチン氏の主張に沿った形でウクライナの主権に疑義を呈する発言をしていた。加速する中国の親ロシアぶりに欧州各国の高官からは「中国は和平の仲介者になり得ない」と批判する声が相次いだ」

     

    中国は、一貫してロシア側に立って発言している。本来ならば、仲介者の資格はない。

     

    (4)「中国は米欧の対中政策での結束にくさびを打ち込む戦略を描き、4月上旬のマクロン仏大統領の訪中を異例の厚遇で受け入れた。ただ、駐仏大使の発言もあり、「和平への協力要請」を名目に中国との経済協力を進めるマクロン氏らの立場は厳しくなっていた。仏大統領府は26日、「ウクライナの本質的利益と国際法にかなう紛争解決に寄与するすべての対話を奨励する」とのコメントを発表。マクロン氏がゼレンスキー氏との電話協議を習氏に促していたと明かした。このタイミングでウクライナ側が求めていた電話協議に習氏が応じた背景には、顔を潰す形になったマクロン氏への配慮があった可能性もある

     

    中国が、ウクライナへ接近しているのは、マクロン氏の「親中発言」を葬らないことへの配慮も指摘されている。

     

    (5)「ウクライナ問題への関与は、中国が世界各地で加速させる外交攻勢の一環とも位置づけられる。3月にはサウジアラビアとイランの国交正常化交渉を仲介。17日には秦剛外相がイスラエルとパレスチナ自治政府の外相と電話協議し、和平促進に貢献する意向を示していた。仲介が成功しなくても「和平に関与する演出だけでも国威発揚につながる」(ウィーンの西側外交筋)との計算もあるようだ

     

    中国の動機は、「不純」である。一貫してロシア側に立ち、ロシアの敗北を食止めたいだけが本心であろう。欧米は、すでに習氏の本音を知っている。

    テイカカズラ
       


    習近平・中国国家主席は3月20日から22日までロシアを訪問する。プーチン大統領の要請に応じて首脳会談をすることになった。中国は、すでにロシアのウクライナ侵攻を巡って独自の仲裁案を公表しており、習氏がプーチン氏に説明する見通しだ。この首脳会談後、習氏はウクライナのゼレンスキー大統領とオンライン会談に臨む。 

    習氏が、ウクライナ和平提案することには大きな前提があるはずだ。中国は、ロシアへ武器供与をしないこと。また、台湾侵攻を放棄して平和裏の統一を目指すことでなければ、辻褄が合わないのだ。習氏は、そこまで深く考えてウクライナ和平提案をしているのかが問われよう。

     

    『ロイター』(3月17日付)は、「中国はウクライナ和平を橋渡しできるか」と題する記事を掲載した。 

    中国政府は2月24日、ウクライナ危機に関する中国の立場を表明する文書を公表し、ロシアとウクライナがともに歩み寄って全面的な停戦を目指すよう呼びかけた。習近平国家主席は近くロシアを訪れてプーチン大統領と会談する見通しで、ウクライナのゼレンスキー大統領ともバーチャル方式で話し合う機会を設けると報じられている。 

    (1)「中国は伝統的に他国の対立、特に自国から遠く離れた地域の対立には干渉しないという原則を堅持してきた。しかし先週には北京でサウジアラビアとイランの外交関係正常化合意をお膳立てし、習指導部の下で中国は責任ある大国として存在感を示そうとしている、と専門家は分析する。香港城市大学のワン・ジャンギュ教授(法学)は「習氏は、国際社会において少なくとも米大統領と同じぐらい影響力のある政治家とみなされたいのだろう」と述べた」 

    習氏は、世界の大立て者として登場しようと狙っているという見方がある。ゼロコロナに3年間も固守した人物が、にわかに「開明的」人間として世界から注目されたいという欲望を持ち始めたというのだ。

     

    (2)「中国としては、ウクライナ問題で侵略者ロシアの味方をしているとの批判を払しょくすることにも躍起となっている。そこで仲介者を演じるのは、早期の事態打開が見込み薄だとしても、中国にとって「ローリスク・ハイリターン」の試みだともみられている。中国は「ウクライナ危機の政治的解決」と題した文書で、ロシアとウクライナがともに緊張を徐々に和らげて包括的な停戦に至るよう促した。この文書は民間人の保護やあらゆる国家の主権尊重を求めているが、ロシアの侵略行為に対する非難は差し控えた」 

    ウクライナ侵攻を止める和平提案は、平和の使者という好イメージである。和平は実現しなくても「ローリスク・ハイリターン」として得点を稼げるという見立てである。

     

    (3)「米国は、中国は自らを中立的であると示し、和平を求めながら、同時にこの戦争に関するロシアの「作り話」を受け入れて非軍事的支援を行い、軍事支援も検討していると批判した。NATOは、中国はウクライナ問題で仲介者として大きな信頼は置けないと述べた。専門家の見立てでは、サウジ・イランの場合と違って中国がロシアとウクライナを和平交渉の場に引き出すのは難しそうだ。スティムソン・センターの中国プログラムディレクター、ユン・スン氏は、「サウジとイランは実際に対話と関係改善を望んでいるが、ロシアとウクライナは少なくとも今のところそうではない」と指摘する」 

    西側諸国は、中国の動きに疑念を持っている。陰に陽に、ロシアを支持する姿勢を見せているからだ。当事国のロシアとウクライナは、今のところ和平を望む片鱗も見せていない。ウクライナは、占領地の全奪回を目指している。ロシアは、反ナチス追放という「幻」を掲げている状態である。

     

    (4)「中国はロシアにとって最重要の同盟国で、これまでロシア産原油を購入し、西側が門戸を閉ざしたロシア製品に市場を提供してきた。さらに中国はウクライナにも一定の影響力がある。オックスフォード大学のロシア専門家、サミュエル・ラマニ氏は、ウクライナとしても戦後の復興局面で中国から支援を受けられるチャンスを台無しにしたくはないはずだと述べた。ラマニ氏は、2014年のロシアによるクリミア併合以降、中国はウクライナとの貿易を拡大しているし、クリミアをロシア領として承認をしていないとも説明した」 

    ウクライナは、IMF(国際通貨基金)とともに戦後復興計画に取り組んでいる。その際、中国からの資金援助や企業投資があれば、復興への立上がりが楽になる。ここは一応、中国の話だけは聞いておこうという姿勢だ。要するに、「話半分」程度であろう。

     

    (5)「ラマニ氏は、「最も大事なのは、ゼレンスキー氏が中国をことさら挑発してロシアに武器供与をし始める事態を望んでいないということだ」といいう。ロシアと強い結びつきがある中国だけに、仲介者として振る舞っても大いに疑いの目を向けられるだろう。ウクライナ侵攻開始の直前、中国とロシアは「無制限」の友好関係にあると宣言していた。中国は戦争開始以後ずっと和平を提唱しているものの、おおむねロシアの立場を尊重している。つまりNATOが東方拡大路線でロシアに脅威を与え、西側がウクライナに戦車やミサイルを供与することで戦争が激化したという主張だ」 

    ウクライナには、中国を怒らせてロシアへ武器供与させないように、という消極的配慮も指摘されている。また、ウクライナ支援のNATOや米国が、「侵略者を許さない」という姿勢で一貫していることも、中国の話に消極的にさせている。ここで、ロシアへ中途半端な妥協をすれば、いずれ次の獲物を探して軍事行動を起すという危惧の念を深めているのだ。もう一つ、ロシアに「侵略得」という結果を与えれば、台湾侵攻を奨励するようなもの、という警戒感もある。要するに、中ロを同じ仲間と見なしているのである。

     

     

    あじさいのたまご
       


    ウクライナのレズニコフ国防相は2月5日、2月後半にロシアの新たな大攻勢が予想されるとして、ウクライナ側は備えを固めていると記者会見で話した。以下は、英国『BBC』(2月6日付)が伝えた。

     

    「レズニコフ国防相は記者会見で、ロシアの攻勢開始までに、西側諸国が提供を約束した武器のすべてが届くわけではないものの、ロシア軍を抑えられるだけの備蓄はウクライナ側にあると話した。ロシアは、大攻勢開始に必要な軍備をすべて用意できているわけではないものの、開戦1周年となる2月24日を念頭に、象徴的な意味も込めて大攻勢に臨むかもしれないとの見方を、レズニコフ氏は示した」

     
    ウクライナ国防相は、「ロシアは、大攻勢開始に必要な軍備をすべて用意できているわけではない」と足元を見透かした発言をしたが、英国防省はこれを裏づける見解を表明した。
     

    『日本経済新聞 電子版』(2月8日付)は、「『ロシア軍、大規模攻撃へ戦力不足』英国防省など指摘」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが2月中にも大規模な攻撃を始めるとの警戒が広がる中、英国防省は7日「(ロシア軍には)攻撃のための弾薬と機動部隊が不足している」との分析を発表した。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)やロシアの強硬派の間でも作戦を疑問視する声が出ている。

     

    (1)「ウクライナや欧米諸国の間では、侵攻開始から丸1年となる2月24日の前後に、ロシア軍が大規模な攻撃を仕掛けるとの見方が多い。ウクライナ国防省は、ロシアのプーチン大統領が3月末までにドネツク、ルガンスクの東部2州の全域を占領するよう命令したと分析している。ただ、こうした目標の早期達成は「非現実的」だとの見方が少なくない。英国防省は7日にSNS(交流サイト)のツイッターで発表した戦況分析で、ロシア軍の戦力不足に言及し、「今後数週間以内に戦争の動向に実質的な影響を与える戦力を整えられる可能性は低いままだ」と指摘した」

     

    ロシアは、2月24日の開戦1年を期して大攻勢を掛けるという噂が飛んでいる。動員兵の約20万人が訓練を終わって、前線へ投入されるだろう、というのが根拠になっている。だが、英国防省は下線のように、この大攻勢説に否定的である。ロシア軍の戦力不足が深刻だとしている。

     

    (2)「米国の戦争研究所も7日に公表した戦況分析で、「ロシアの指導部はロシア軍の戦力について誤った想定に基づいて決定的な攻撃を再び計画している可能性がある」と改めて否定的に評価し、同日の英国防省の戦況分析におおむね同意した。ロシアの強硬派で2014年の東部紛争で親ロシア武装勢力を組織したとされるイーゴリ・ストレルコフ氏は5日までに、大規模な攻勢について「成功は疑わしい」とネット上で指摘した。「新たな動員なしにウクライナ軍を粉砕することはできない」として、ロシア軍幹部に作戦の見直しを促した」

     

    米国の戦争研究所も、英国防省と同一の見解である。ロシアの強硬派も同じ立場としている。2~3月は、雪解けで戦車を思うように動かせない特殊事情がある。ロシアが、昨年の開戦時に大敗したのは、雪解けが障害になったのだ。同じ失敗を繰返さないであろう。

     

    (3)「ロシア軍は想定される大規模な攻撃を前に、ドネツク州の交通の要衝バフムトの攻防で多大な兵力損失を被り、なお制圧できていない。ウクライナ軍の東部の本拠地はドネツク州北部のクラマトルスクやスラビャンスクにあり、防御態勢を固めている同国軍を攻略するのは容易ではない。一方、ウクライナ軍はロシア軍の大規模な攻撃を耐え、戦地が泥沼化する春を待つ戦略だ。欧米による戦車供与など強力な軍事支援を受けて反転攻勢に出る方針で、ゼレンスキー大統領は7日夜のビデオメッセージで「敵のすべてのシナリオに対応し、国家を守る」と訴えた」

     

    ウクライナ軍は7日、ロシア軍の死者数が過去24時間で1030人に上ったと発表した。侵攻開始後で最多となり、この2日間の死者数は1900人になったとしている。ウクライナや西側諸国によると、ロシアは侵攻開始から丸1年となる24日までに新たな戦果を上げるため、東部に軍や傭兵を投入しているという。『ロイター』(2月8日付)が伝えた。

     

    ロシア軍の攻撃は、人海戦術になっている。ウクライナ軍の弾薬を使い果たせるために、「人間の盾」としてロシア兵を前線に立たせているというもの。この状況では、大攻勢を掛ける戦術そのものに疑問符がつくのであろう。

     

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    ウクライナのレズニコウ国防相は2月5日、ウクライナ東部の要衝バフムトについて、「依然として象徴だ」と述べた。ウクライナのゼレンスキー大統領は、昨年末の訪米時に米議会で、「バフムトの戦いは、独立と自由のための戦争であり、悲劇的な物語を変えるだろう」と述べた。この言葉通り、今もバフムトの戦いは続いている。

     

    ロシア軍は、正規軍や民間軍事会社ワグネルの傭兵を投入してバフムト攻略を続けている。ロシア軍が、多くの犠牲者を出しながら攻略できない理由は、ウクライナ軍の高い士気による反撃もさることながら、バフムトという地形が「天然の要塞」になっていることも大きく影響している模様だ。

     

    米『CNN』(2月7日付)は、「東部バフムト、天然の防御で『難攻不落の』要塞に ウクライナ軍司令官」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナ陸軍の司令官は6日、同国東部の都市バフムトについて、天然の防御により「難攻不落の要塞(ようさい)」になっているとの見方を示した。

     

    (1)「陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官は、SNSのテレグラムで「この地域ならではの地理的な特徴がある。当該の都市は圧倒的な高台や丘に囲まれ、街自体が敵にとって罠(わな)になっている」と述べた。シルスキー氏によると、ウクライナ軍は天然の地形に沿って障害物を設置。それが現場の地域を難攻不落の要塞にし、数千人の敵が死亡する状況になっているという。「我々はあらゆる選択肢を用いる。技術的な能力のみならず自然の機能も活用して、敵の最もすぐれた部隊を撃滅する。戦闘は続いている」(シルスキー氏)と指摘」

     

    ロシア軍は、人海戦術による攻撃を繰返している。最も古典的な戦い方と言われている。この人海戦術には、ワグネルが集めた囚人部隊が投入されており、文字通り「屍を超えて」という悲惨な戦い方である。ウクライナ軍は、バフムトの高台に陣地を構えているので、天然の城(要塞)に守られている。

     

    (2)「ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、「バフムトで降伏する者は1人もいない。我々は可能な限り戦うだろう」と述べていた。ロシア民間軍事会社「ワグネル」のトップ、エフゲニー・プリゴジン氏は5日、バフムトでは戦闘が続いており、ウクライナ軍に退却の兆候は見られないとテレグラムで明らかにした」

     

    攻撃側のワグネル創設者プリコジン氏は、このバフムト戦が「困難な戦い」であることを認めたテレグラムを公開した。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(2月7日付)は、「ワグネル創設者プリゴジン、バフムトでの苦戦を認める」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアの民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジンは25日、激戦が続くウクライナ東部の要衝バフムトの戦況について、ウクライナ軍を退却させるに至っていないことを認めた。ウクライナ軍は撤退も近いと言われたが、それは嘘だったのだろうか。

     

    (3)「プリゴジンは、「状況を明確にしたい。ウクライナ軍はどこからも撤退はしていない。ウクライナ軍は最後の最後まで戦い続けている。アルチョモフスク(バフムトのこと)の北部ではすべての街路、すべての住宅、すべての吹き抜け階段で、激しい戦闘が行われている」とテレグラムに投稿した。「もちろん、メディアがウクライナ軍の撤退を期待するのはありがたいが、北部でも南部でも東部でも(撤退は)起きていない」と指摘」

     

    バフムトは、数カ月間にわたってロシア軍の集中攻撃の対象となり、無数の砲撃にさらされてきた。バフムトの制圧を目指すロシア軍は、まだ勝利宣言するには至っていない。

     

    (4)「米シンクタンクの「戦争研究所」が5日に発表したレポートによると、ロシア部隊は「バフムトとブフレダルの周辺では攻勢を続けているが、ドネツク市西郊における攻撃のペースは落ちている」という。またレポートは、「ロシア軍の正規部隊、予備役、ワグネルを合わせ、バフムトの制圧に向けて(合わせて)数万人規模の部隊が投入されているが、すでにかなりの人的被害が出ている」としている」

     

    ロシア側は、バフムト攻略で数万人規模の兵員が投入して、多大の犠牲者を出している。これは、今後の大攻略戦に大きく響くことになろう。昨年10月、ロシア軍は大敗走したが、その再現が起こりかねないほど、バフムトに執着している。これでは、他の戦線で大穴を作りかねないだろう。

     

    (5)「米シンクタンク、ディフェンス・プライオリティ―ズで大規模戦略プログラムのディレクターを務めるラジャン・メノンは5日、本誌にこう語った。「ワグネルとロシア正規軍の合同部隊は何カ月にもわたってバフムトとソレダルを攻略しようとしてきたが、人数と火器、特に砲撃力に勝っているにも関わらず、最近になってようやくソレダルを制圧できたに過ぎない」

     

    ワグネルは特に、大きな人的被害を出している。中でも、プリゴジンが恩赦を約束して戦いに駆り出した不運な元受刑者たちの犠牲が大きい、という

     

    (6)「目下、ロシア軍はバフムトを3方向から包囲しているように見える。ならば、なぜウクライナ軍はここまで踏ん張っているのか。ウクライナ軍の狙いは、この戦いをできるだけロシア軍にとって犠牲の多いものにすることと、(敵の)部隊を足止めしてよそで使えないようにするなり、ドンバスの西側のウクライナ支配地域まで追いやることだ。血みどろの戦いだが、ウクライナ軍の士気を高めるとともに、ロシア軍の軍事的能力の低下につながっている

     

    下線部は、ウクライナ軍がバフムトを死守している理由を明確にしている。天然の要塞を利用して、ロシア側を引きつけ消耗戦を強いることである。ロシア軍は、この戦術に嵌り込んでいる印象だ。

     

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