勝又壽良のワールドビュー

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    ロシアのプーチン大統領は12日、国防相を務めたショイグ氏を交代させ、第1副首相のベロウソフ氏を後任に充てる人事を議会へ提案した。経済閣僚が長い同氏を起用して、国防省と軍の組織改革を進める。ロシアは、ウクライナ侵略の長期化で戦費が膨張している。国防相交代は、財政規律の引き締めを図るのが目的だ。ベロウソフ氏は、国防相として軍事予算や軍備の管理を担う。ペスコフ大統領報道官は同日、国防相交代の理由を「軍の予算を国全体の経済運営に合致させる必要がある」と説明した。

     

    『ロイター』(5月13日付)は、「ロシア大統領、ショイグ国防相を交代 後任にベロウソフ氏」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は12日、ショイグ国防相を交代させ、副首相だったアンドレイ・ベロウソフ氏を後任に起用する人事を提案した。経済政策を専門とするベロウソフ氏を国防相に充てることで、ウクライナでの勝利に向けて防衛費の有効活用を図り、経済戦争に備える狙いがあるとみられる。

     

    (1)「今回の人事刷新は22年2月のウクライナ侵攻以降にプーチン氏が軍司令部に対し実施した最も重要な変更となる。人事案は議会の承認が確実視される。大統領府のペスコフ報道官は今回の交代について、軍と法執行当局が国内総生産(GDP)の7.4%を占めていた1980年代半ばのソ連のような状況に近づいているため理にかなっているとし、こうした支出を国家経済全体と整合的にすることが重要だと説明。プーチン大統領が国防相にエコノミスト起用を望むのはこのためだとし、「革新に前向きな者こそが戦場で勝利する」と述べた」

     

    ロシアの2024年の国家予算では、国防費が前年比6割増の10兆ルーブル(約17兆円)超に伸びる見通しだ。歳出全体の3割も占める規模になる。3月にはプーチン政権が戦費確保のために個人所得税の増税を検討しているとも報じられたほどだ。下線部で、国防関係費が、GDPの7.4%も占めた旧ソ連時代(1980年半ば)に接近している事実を認めている。こういう事態が、旧ソ連経済を崩壊させたことから、プーチン氏は「戦費節約策」に出ざるをえなかったのであろう。

     

    ロシア財務省は、2022〜23年の戦争関連の財政出動が、GDPの約10%相当と推計していた。フィンランド銀行新興経済研究所が公表した調査によると、同期間に民需生産が横ばいだったのに対し、戦争関連の工業生産は35%増加した。

     

    フィンランド銀の調査チームは、直近のロシア経済予測リポートで次のように指摘している。「政府が、戦争を他の何よりも優先すると、経済政策の基本原則を無視することになる。ここ20年来、ロシア政府は堅実な経済政策を選択してきたが、(戦争によって)ロシアの堅実な政策が放棄されることは、経済専門家のみならず多くの人を驚かせた」。『フィナンシャルタイムズ(FT)』(2月3日付)が報じた。

     

    前記の報道から推察されるのは、ロシアが2年3ヶ月以上続けてきたウクライナ侵攻によって、経済がガタガタになっていることだ。これまで、ロシア経済は予想外に持ちこたえているとみられてきた。だが、ロシアは「国防関係費が、GDPの7.4%も占めた旧ソ連時代」という暗黒時代を引き合いに出すほどになっている。経済的にみれば、ロシアの継戦能力に限界がみえてきたことを示唆している。前記FTは、次のようにも指摘している。

     

    エコノミストに加え、ロシア政府の要職にあるテクノクラートの一部も、大々的な軍事支出によって、ロシア経済に新たなひび割れが生じ始めていると警戒感を示す。国家歳入の約3分の1を占める石油・ガス輸出への依存を減らすどころか、プーチン氏の戦時体制は新たな依存症を生んだ。武器の生産である。

     

    ウィーン国際比較経済研究所(WIIW)のエコノミストチームは、1月のリポートで「戦争が長引くほど、ロシア経済の軍事支出依存度が高まる」と指摘した。「このため、紛争が終結した後、経済が停滞したり、明らかな危機に陥ったりする恐れが生じている」と警告した。ロシア経済は、ウクライナ侵攻で大きなダメージを受けている。

     

    (2)「ベロウソフ氏は、プーチン氏に非常に近いことで知られる。ロシアのドローン(無人機)プログラムで重要な役割を果たしてきた。一方、退任するショイグ氏はウクライナでの戦況を巡り軍事ブロガーらから強く批判され、昨年には民間軍事会社ワグネルの創設者だったプリゴジン氏が反乱を主導した経緯がある」

     

    プーチン氏は、新たな政権発足時を捉えて人事一新を断行する。開戦中の国防相交代は、難しい事情をはらんでいるであろう。軍部内の反発などだ。ただ、新政権発足で全閣僚の辞任届を預かっているので、形式上は反発を招かないように配慮していることが窺える。

     

     

     

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    西側諸国に属する国民は、ウクライナ軍の反攻作戦に大きな期待をかけて「吉報」を待っている。だが、いくつかの村落を奪回したものの、ロシア軍の固い防衛線に阻まれ進軍は難航を極めている模様だ。西側諸国から提供された「虎の子」戦車は、ロシア軍の反撃で被弾した様子が報じられている。ただ、ロシア製戦車と異なり、ウクライナ軍の戦闘員は無事脱出している光景が見られる。貴重な人命は守られているのだ。これが救いである。 

    今後の戦況を占う傍証は第二次世界大戦で、連合軍が敵前上陸して成功したノルマンディー作戦が参考になるという。連合軍は数週間かけてゆっくりと前進し、極めて大きな犠牲を払ったが、ついにドイツ軍を撃破した作戦が参考になる。 

    『CNN』(6月21日付)は、「ロシアは反転攻勢にどれだけ備えができているのか?」と題する記事を掲載した。 

     十分に予想された中で始まったウクライナ軍のロシア軍に対する反転攻勢だが、これまでのところウクライナ側にとって際立った成功とはなっていない。16日、ロシア軍が共有した数日前の交戦の動画には、新たに米国から供与された歩兵戦闘車「ブラッドレー」16両が無力化されたとみられる様子が映っている。ウクライナ軍第47旅団に所属する車両だ。

     

    (1)「こうした状況は、ウクライナにとって全ての終わりを意味するものではないし、ウクライナが現在負けているということにもならない。反転攻勢は野心的な目標の下、ウクライナの広範囲な解放を目指す。つまり過酷で長期にわたり、膨大な犠牲を伴う苦難の道のりだということは常に織り込み済みだ。それでも今回の敗北が明らかにするのは、昨年不手際だらけだったロシアが依然として深刻な脅威をもたらす存在であるという事実に他ならない。彼らにも過去の失敗から学ぶ能力はそれなりにあったということだ 

    ロシア軍は昨年、目を覆うような敗走を続けたが、今回の作戦では準備期間があったので防衛線を固めている。 

    (2)「ここで思い出すべきなのは、ウクライナ軍による南部ヘルソン州での反転攻勢だ。昨年8月に始まった攻勢を受けてロシア軍が退却したのは、11月に入ってからだった。今回の作戦も大まかに言ってそのくらい続く公算が大きい。まして現状はより困難であり、一段と多くの代償を払ってロシア軍の要塞への侵入を試みることになる。そこでは機甲部隊、歩兵隊、防空、砲兵隊、工兵隊の見事な連携の実践が求められる」 

    昨年、ウクライナ南部の反撃では、8月に作戦を開始して勝利を収めたのは11月である。この程度の時間は掛る。

     

    (3)「最良の比較対象となるのは、第2次世界大戦におけるいくつかの戦闘だ。そこでは周到に準備された守備隊への攻勢が往々にして序盤に混乱を来し、重大な損失を被るものの、最終的には成功を収める事例が見受けられる。例えば血みどろの戦闘でノルマンディー海岸への上陸を果たした後、連合軍は数週間かけてゆっくりと前進し、極めて大きな犠牲を払った。ついには英国軍が大規模な戦車攻撃を仕掛け、ドイツ軍の守備を突破したが、結果的に数百台の戦車を次々と失う羽目になった。それでも1週間後、米軍が圧倒的な戦果を挙げる。ドイツ軍が予備兵力の大半を英国軍制圧のために使い果たしていたからだ 

    今回の反攻作戦では、連合軍による第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦が参考になろう。敵前上陸であり犠牲も多かったが、ドイツ軍を撃破できた。 

    (4)「もし、ウクライナ軍がこの反転攻勢に成功するなら、マリウポリやベルジャンシクといった経済的に重要な沿岸部の港湾都市を解放するチャンスが生まれる。これらの都市は昨年、ロシアが占領した。同時にロシア本土と戦略的に重要なクリミア半島の基地とをつなぐ「陸の回廊」を遮断できる可能性も出てくる。実現すればクリミア半島そのものも、ウクライナ軍が所有する数多くの兵器の射程に入ることになる」 

    軍事専門家の多くが指摘するように、ウクライナ軍はマリウポリやベルジャンシクなどのアゾフ海沿岸まで突破する目標を立てている。これによって、ロシア軍の兵站線分断を図るというものだ。

     

    (5)「第47旅団は悲惨な目に遭ったものの、彼らの経験は西側が供与する武器の重要性を改めて見せつけた。優れた性能の車両は「十分に」役に立つ。なぜなら動画から明らかなように、車両に乗っていた兵士のほとんどは生き延びているからだ。ウクライナ軍が比較的装甲の薄いソ連時代の歩兵戦闘車両を使用していたなら、まずあり得なかった結果だ。動画はウクライナ軍がロシアに対して有する別の利点も浮き彫りにする。それは強固な士気とプロ意識だ。ウクライナ軍の兵士はたとえ最前線で作戦が大失敗に終わっても、順序良く退却している。お互いに助け合いながら援護射撃を行い、発煙弾を使用する。パニックに陥ってはいない」 

    ウクライナ軍は、最前線で作戦が失敗してもパニックに陥らず、整然と退避行動している。この士気の高さが勝利を呼び寄せる。 

    (6)「ロシア軍の兵士が疲弊しているのに対し、ウクライナの新たな旅団は経験こそ浅いものの活力に満ち、ロシアの徴集兵よりも質の高い訓練を受けている。とりわけ戦闘に先駆け、北大西洋条約機構(NATO)によって訓練された12の旅団はそうだ。ウクライナのその他の強みとしては、小型ドローンの製造とより効果的な使用が挙げられる。その数はロシアを大幅に上回っている。また西側が供与した精密攻撃が可能な火砲やミサイルは、前線から奥深くにいるロシア軍の部隊にとっても脅威となり得る」 

    ウクライナ軍の本格的な反攻作戦には、高い訓練を積んだ12の旅団が無傷で控えている。現状は、予備的な作戦行動である。ロシア軍の弱点地帯を探り出す狙いが目的だ。

     

     

     

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    ウクライナ軍による反攻作戦は、慎重な構えを見せている。現在は、「小手調べ」程度だ。ウクライナ軍が、勝利を確信するまで火蓋をきらない背景には、最大支援国である米国の大統領選が来秋あることだ。米国の次期大統領が代わるような事態になると、従来通の支援を受けられなくなるリスクが生まれる。それを、避けなければならないのだ。

     

    現に、次期米大統領選に立候補意思を表明したトランプ氏が今月10日、大統領に当選した場合のウクライナ支援の是非に触れ、「約束はしない」と明言を避けている。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、「米大統領選の来秋までに我々が勝利を収めている」と信念を述べた。いずれにしても、ウクライナ軍の反攻作戦の戦果が、米大統領選へ影響することは避けられないであろう。

     

    『日本経済新聞』(5月12日付)は、「米共和党、衝突する4派閥 ウクライナ支援の行方左右」と題するコラムを掲載した。筆者は日経本社コメンテーター秋田浩之氏である。

     

    米欧の軍事専門家らによれば、ウクライナの反転攻勢には当面、3つの展開があり得る。

     

    (1)「最も望ましい楽観シナリオはロシアが強制併合した南部・東部の4州を、ウクライナがほぼ解放するというものだ。これにより、ウクライナ軍は14年にロシアに併合されたクリミアを孤立させ、奪還への道筋を敷くこともできる」

     

    ウクライナ軍の勝利ケースは、ロシアが強制併合した南部・東部の4州を奪還することだ。これによって、クリミア半島を孤立させロシアを和平交渉へ引き出す狙いだ。

     

    (2)「逆に悲観シナリオは、ウクライナがさほど多くの領土を奪還できないか、ロシア軍に現状よりも押し返されてしまう筋書きだ。専門家らの間では、いずれの可能性も排除はできないが、「確率は高くない」(元米軍幹部)との見方が多い。いちばんあり得るとみられているのが、中間的なシナリオだ。ウクライナは南部・東部の占領地の一部から、ロシア軍をさらに追い出す。だが、22年2月23日の状態を回復するまでには至らない展開である。楽観シナリオが望ましいのは言うまでもないが、今の分析をみるかぎり、過剰な期待は禁物といえるだろう。では、中間シナリオの場合、その先の展開はどうなるのか」

     

    悲観的シナリオは、反攻作戦が余り戦果を上げられないケースである。これは、現状から見て可能性は極めて低い。中間的なシナリオは、ウクライナ南部・東部の占領地の一部から、ロシア軍をさらに追い出す、というもの。現実には、上記3ケースのどれに落ち着くか。

     

    (3)「最大の変数になるのが、米国のウクライナ支援の勢いがどこまで続くかだ。米欧諸国の中でも、米国の軍事支援は突出して多い。ドイツのシンクタンク、キール世界経済研究所によると、22年1月24日からの約1年間で、米国の軍事支援は466億ドル(約6兆3000億円)にのぼった。この金額は、米国に次ぐ上位9カ国の支援合計額の3倍以上にあたる。大黒柱である米国のウクライナ支援が息切れしたら、反転攻勢がうまくいったとしても、来年以降、ウクライナ軍は窮地に立たされかねない」

     

    戦況次第で、米国のウクライナ支援姿勢に変化が起こる可能性は否定できなくなっている。下院で多数を占める共和党が、どのような方針を示すかだ。ましてや、次期大統領にトランプ氏の復帰となれば、情勢が読みにくくなる。

     

    (4)「そんな米国の行方を左右するのが、下院で過半数をおさえる野党・共和党の出方だ。共和党指導部はウクライナ支援を続ける姿勢を鮮明にしているが、トランプ前大統領に近い一部議員などに消極論がくすぶる。与党・民主党内にも支援増額に難色を示す議員はいるが、今のところ、ウクライナ支援を強めるバイデン政権の路線に従っている。その意味で今後、いちばん気になるのが、共和党の動きだ」

     

    トランプ氏に近い一部下院議員には、ウクライナ支援消極論がある。これが今後、どういう動きをするかである。

     

    (5)「ウクライナの反転攻勢が不発に終わってしまったら、共和党内の保守的ナショナリストや対外関与抑制派から支援を減らし、停戦をウクライナに促すよう求める声が強まりかねない。逆に攻勢が成功すれば、共和党も含めた米議会内で、支援継続のムードが来年にかけても保たれるだろう。米国は今年11月ごろから大統領選の季節に入る。バイデン政権、議会とも世論の動向に一層、配慮せざるを得なくなる」

     

    米国世論が、ウクライナ支援に対してどのような態度を取るかもポイントになる。あくまでも民主主義を守るという固い信念を持ち続けるのか。これは、中国の台湾侵攻阻止への支持を占う試金石にもなろう。

     

    (6)「米メリーランド大による最新の世論調査では、米国のウクライナ支援が「多すぎる」との回答が33%を占め、「適度な水準」(30%)を超えた。米共和党の国際秩序派の一人は「年末になってもウクライナが苦戦していたら、西側陣営にとっては敗北だ」と語る。米国による支援疲れを防ぎ、西側陣営の結束を保つ上で、反転攻勢の成否が極めて重要な重みを持つ」

     

    米国世論では現在、ウクライナ支援が「適度な水準」(30%)を超え、「多すぎる」(33%)になっている。これに従えば、ウクライナ支援は「微減」もありそうだ。

     

     

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    中国にとって、ロシアがウクライナ侵攻で敗れると「中ロ枢軸」に大きなひびが入る。それだけに、敗北しないうちに停戦することがベストの選択だ。習氏が、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談した理由であろう。

     

    ロシア大統領府のぺスコフ報道官は4月27日、ゼレンスキー大統領と習近平国家主席の電話会談について、ウクライナ紛争の終結を早めるものなら歓迎するとの立場を示した。これは、中国の仲介案がロシア寄りであることを証明している。ゼレンスキー氏は、「侵略戦争を始めたのはロシアである」と習氏へ釘を刺したという。今回の電話会談を受けて、中国はウクラナへ代表団を送ることを決めた。

     

    中国は、ウクライナの対応を詳細に調べて、来るべき台湾侵攻で台湾がどのような対応をして来るかを「リサーチ」する目的があるはず。開戦後、台湾にどういう条件を出せば「停戦」に応じるか。こういう瀬踏みが、目的と見るべきだろう。油断禁物だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月27日付)は、「中国、ウクライナ和平に関与演出 米欧の批判緩和狙いか」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は26日、ウクライナのゼレンスキー大統領と1時間にわたって電話協議し、ロシアとの和平仲介に前向きな意向を示した。ロシア寄りの姿勢に対して強まった米欧の批判を和らげる思惑が透ける。世界各地の紛争の終結に貢献する姿勢を示し、国威発揚を図る狙いもあるようだ。

     

    (1)「「対話と交渉が唯一の解決策だ」「戦火を消すためできるだけ早く努力する」。中国国営中央テレビ(CCTV)はロシアのウクライナ侵攻が始まった2022年2月以降で初めてとなった26日の電話協議後、異例のスピードで習氏の発言を公表した。ウクライナ和平を担当する特別代表を派遣することも発表した。中国外務省の毛寧副報道局長は27日の記者会見で、特別代表は「関連する事情を理解し、対話を促すうえで積極的な役割を果たすことができる人物となるだろう」と語った。具体的な人選や代表団の構成については「適当な時期に発表する」と述べるにとどめた」

     

    中国が、ウクライナへ派遣する代表団は、和平仲介よりも徹底的にウクライナの戦闘能力を調べるなど、ロシア側へ情報を漏らすに違いない。本来ならば、中国代表団を受け入れてはならないのだ。

     

    (2)「中国主導の和平協議は、双方に譲歩を迫るものになるとみられ、「領土の妥協を考慮した平和は一切あり得ない」(ゼレンスキー氏)とするウクライナ側が応じる可能性は低い。それでも習氏が電話協議を開いたのは、自ら和平への取り組みをアピールすることでフランスやドイツなど欧州の対中世論の軟化を狙ったとの見方が多い」

     

    ウクライナは、中国へ手の内を見せてはいけない。「領土の妥協を考慮した平和は一切あり得ない」というウクライナの原則で突っぱねるべきだ。

     

    (3)「中国はウクライナ侵攻で中立を掲げるものの、最近は親ロシア姿勢が目立っていた。2月には停戦に向けた12項目の仲裁案を公表したが、ウクライナが求めるロシア軍の即時撤退に触れなかった。3月には習氏がモスクワを訪問し、協力関係の強化でプーチン大統領と合意。さらに駐仏中国大使が今月21日放映のインタビューでプーチン氏の主張に沿った形でウクライナの主権に疑義を呈する発言をしていた。加速する中国の親ロシアぶりに欧州各国の高官からは「中国は和平の仲介者になり得ない」と批判する声が相次いだ」

     

    中国は、一貫してロシア側に立って発言している。本来ならば、仲介者の資格はない。

     

    (4)「中国は米欧の対中政策での結束にくさびを打ち込む戦略を描き、4月上旬のマクロン仏大統領の訪中を異例の厚遇で受け入れた。ただ、駐仏大使の発言もあり、「和平への協力要請」を名目に中国との経済協力を進めるマクロン氏らの立場は厳しくなっていた。仏大統領府は26日、「ウクライナの本質的利益と国際法にかなう紛争解決に寄与するすべての対話を奨励する」とのコメントを発表。マクロン氏がゼレンスキー氏との電話協議を習氏に促していたと明かした。このタイミングでウクライナ側が求めていた電話協議に習氏が応じた背景には、顔を潰す形になったマクロン氏への配慮があった可能性もある

     

    中国が、ウクライナへ接近しているのは、マクロン氏の「親中発言」を葬らないことへの配慮も指摘されている。

     

    (5)「ウクライナ問題への関与は、中国が世界各地で加速させる外交攻勢の一環とも位置づけられる。3月にはサウジアラビアとイランの国交正常化交渉を仲介。17日には秦剛外相がイスラエルとパレスチナ自治政府の外相と電話協議し、和平促進に貢献する意向を示していた。仲介が成功しなくても「和平に関与する演出だけでも国威発揚につながる」(ウィーンの西側外交筋)との計算もあるようだ

     

    中国の動機は、「不純」である。一貫してロシア側に立ち、ロシアの敗北を食止めたいだけが本心であろう。欧米は、すでに習氏の本音を知っている。

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    習近平・中国国家主席は3月20日から22日までロシアを訪問する。プーチン大統領の要請に応じて首脳会談をすることになった。中国は、すでにロシアのウクライナ侵攻を巡って独自の仲裁案を公表しており、習氏がプーチン氏に説明する見通しだ。この首脳会談後、習氏はウクライナのゼレンスキー大統領とオンライン会談に臨む。 

    習氏が、ウクライナ和平提案することには大きな前提があるはずだ。中国は、ロシアへ武器供与をしないこと。また、台湾侵攻を放棄して平和裏の統一を目指すことでなければ、辻褄が合わないのだ。習氏は、そこまで深く考えてウクライナ和平提案をしているのかが問われよう。

     

    『ロイター』(3月17日付)は、「中国はウクライナ和平を橋渡しできるか」と題する記事を掲載した。 

    中国政府は2月24日、ウクライナ危機に関する中国の立場を表明する文書を公表し、ロシアとウクライナがともに歩み寄って全面的な停戦を目指すよう呼びかけた。習近平国家主席は近くロシアを訪れてプーチン大統領と会談する見通しで、ウクライナのゼレンスキー大統領ともバーチャル方式で話し合う機会を設けると報じられている。 

    (1)「中国は伝統的に他国の対立、特に自国から遠く離れた地域の対立には干渉しないという原則を堅持してきた。しかし先週には北京でサウジアラビアとイランの外交関係正常化合意をお膳立てし、習指導部の下で中国は責任ある大国として存在感を示そうとしている、と専門家は分析する。香港城市大学のワン・ジャンギュ教授(法学)は「習氏は、国際社会において少なくとも米大統領と同じぐらい影響力のある政治家とみなされたいのだろう」と述べた」 

    習氏は、世界の大立て者として登場しようと狙っているという見方がある。ゼロコロナに3年間も固守した人物が、にわかに「開明的」人間として世界から注目されたいという欲望を持ち始めたというのだ。

     

    (2)「中国としては、ウクライナ問題で侵略者ロシアの味方をしているとの批判を払しょくすることにも躍起となっている。そこで仲介者を演じるのは、早期の事態打開が見込み薄だとしても、中国にとって「ローリスク・ハイリターン」の試みだともみられている。中国は「ウクライナ危機の政治的解決」と題した文書で、ロシアとウクライナがともに緊張を徐々に和らげて包括的な停戦に至るよう促した。この文書は民間人の保護やあらゆる国家の主権尊重を求めているが、ロシアの侵略行為に対する非難は差し控えた」 

    ウクライナ侵攻を止める和平提案は、平和の使者という好イメージである。和平は実現しなくても「ローリスク・ハイリターン」として得点を稼げるという見立てである。

     

    (3)「米国は、中国は自らを中立的であると示し、和平を求めながら、同時にこの戦争に関するロシアの「作り話」を受け入れて非軍事的支援を行い、軍事支援も検討していると批判した。NATOは、中国はウクライナ問題で仲介者として大きな信頼は置けないと述べた。専門家の見立てでは、サウジ・イランの場合と違って中国がロシアとウクライナを和平交渉の場に引き出すのは難しそうだ。スティムソン・センターの中国プログラムディレクター、ユン・スン氏は、「サウジとイランは実際に対話と関係改善を望んでいるが、ロシアとウクライナは少なくとも今のところそうではない」と指摘する」 

    西側諸国は、中国の動きに疑念を持っている。陰に陽に、ロシアを支持する姿勢を見せているからだ。当事国のロシアとウクライナは、今のところ和平を望む片鱗も見せていない。ウクライナは、占領地の全奪回を目指している。ロシアは、反ナチス追放という「幻」を掲げている状態である。

     

    (4)「中国はロシアにとって最重要の同盟国で、これまでロシア産原油を購入し、西側が門戸を閉ざしたロシア製品に市場を提供してきた。さらに中国はウクライナにも一定の影響力がある。オックスフォード大学のロシア専門家、サミュエル・ラマニ氏は、ウクライナとしても戦後の復興局面で中国から支援を受けられるチャンスを台無しにしたくはないはずだと述べた。ラマニ氏は、2014年のロシアによるクリミア併合以降、中国はウクライナとの貿易を拡大しているし、クリミアをロシア領として承認をしていないとも説明した」 

    ウクライナは、IMF(国際通貨基金)とともに戦後復興計画に取り組んでいる。その際、中国からの資金援助や企業投資があれば、復興への立上がりが楽になる。ここは一応、中国の話だけは聞いておこうという姿勢だ。要するに、「話半分」程度であろう。

     

    (5)「ラマニ氏は、「最も大事なのは、ゼレンスキー氏が中国をことさら挑発してロシアに武器供与をし始める事態を望んでいないということだ」といいう。ロシアと強い結びつきがある中国だけに、仲介者として振る舞っても大いに疑いの目を向けられるだろう。ウクライナ侵攻開始の直前、中国とロシアは「無制限」の友好関係にあると宣言していた。中国は戦争開始以後ずっと和平を提唱しているものの、おおむねロシアの立場を尊重している。つまりNATOが東方拡大路線でロシアに脅威を与え、西側がウクライナに戦車やミサイルを供与することで戦争が激化したという主張だ」 

    ウクライナには、中国を怒らせてロシアへ武器供与させないように、という消極的配慮も指摘されている。また、ウクライナ支援のNATOや米国が、「侵略者を許さない」という姿勢で一貫していることも、中国の話に消極的にさせている。ここで、ロシアへ中途半端な妥協をすれば、いずれ次の獲物を探して軍事行動を起すという危惧の念を深めているのだ。もう一つ、ロシアに「侵略得」という結果を与えれば、台湾侵攻を奨励するようなもの、という警戒感もある。要するに、中ロを同じ仲間と見なしているのである。

     

     

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