ウクライナの次なる戦闘にとって、戦車こそが最適の兵器となるだろうと予測されている。ウクライナ軍は、ドイツの主力戦車「レオパルト2」の供与を受けられることになった。ウクライナのオメルチェンコ駐仏大使は、ウクライナに供与される戦車が計321両になると明かした。最短距離で4月以降には最前線に配備される見通しである。これを受けて、ロシア軍も戦車で対抗するものと見られる。
ロシア製戦車はこれまでの戦闘で、「ビックリ箱」と揶揄されるように、砲撃に弱いことが知られている。砲塔と弾薬が近くに配置されているから、すぐに誘発をおこして爆発するのだ。西側諸国の戦車は、砲身と弾薬が別々に配置されているので、「ビックリ箱」という事態を免れている。ロシア軍は、こうした弱点を抱える戦車隊がどのように戦うのか、ヤマ場を迎える。
米『CNN』(1月28日付)は、「ウクライナ情勢、今後の戦闘で戦車が決め手となる理由」と題する寄稿を掲載した。筆者のデービッド・A・アンデルマン氏は、CNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞している。
ウクライナで戦争に突入した1年前、一般的な通念では戦車はもはや時代遅れということになっていた。ドローン(無人機)や自動追尾機能のあるミサイルには太刀打ちできないというのがその理由だ。この考えは明らかに間違っている。かなり明確になりつつあることだが、ウクライナのような戦場において、装甲車両による優越性は形勢を逆転させ得る。それも劇的に。
(1)「ロシアの戦車は、(昨年ウクライナで)冬から春にかけて雪解けのために起きる土壌のぬかるみにはまった。中には砲塔まで泥に沈んだ戦車もあった。そうした戦車は戦うこともできず、ウクライナ軍に狙い撃ちにされた。侵攻の過程でロシア軍が失った戦車の数は1400両を超える。あれから1年近くが経過した現在、ロシア軍は教訓を得たと思われる。「彼らにとって、冬の後半や春の初めに攻撃を開始するのは得策ではないだろう」「春の終わりまで待つはずだ。その時期なら土壌の水気は格段に抜けている」と、アンドリー・ザゴロドニュク元ウクライナ国防相は指摘する」
ロシアは、昨年の開戦直後の失敗に懲りている。本格的攻撃開始は、雪解けが終わって大地が乾くまで仕掛けないと見られる。
(2)「西側は現状を好機ととらえ、自国の最新鋭の主力戦車を実際の戦争という状況下でテストしたい考えだ。対するロシア側は、長い間そうしたシナリオへの準備を全く整えていなかった。ソ連の戦車操縦手には大型のハンマーが支給される。頻発するギアの不具合が起きた際には、それでトランスミッションを叩いて対処するのだという。また戦車内には冷暖房がないため、搭乗員は冬の寒さに凍え、夏は暑さに息が詰まる状態を余儀なくされる。とりわけ砲塔を閉じる時にはそうだった」
ロシア側は、西側諸国の戦車と戦う想定がなく、旧式の戦車を稼働させている。戦車内は劣悪な「戦闘空間」である。戦車内には冷暖房設備がないのだ。
(3)「ウクライナでのロシア軍戦車が、(ソ連時代同様に)脆弱であることに変わりはなかった。中でも「ビックリ箱」に例えられる設計上の欠陥は深刻だ。ロシア軍の戦車のほとんどは、大砲の弾薬を操縦手や砲手のすぐ隣に搭載している。その数最大40発。戦車は前部こそ頑丈な装甲で覆われているが、側面や砲塔はそれほどでもない」
ロシア戦車は、「ビックリ箱」と称せられるように、敵の攻撃で簡単に爆発する構造になっている。砲塔が爆発で飛び出すほどである。むろん、塔乗員は犠牲になる。
(4)「米国製の「ジャベリン」や、英国とスウェーデンが合同開発した「NLAW」といった対戦車ミサイルが、ロシア戦車のエンジンを直撃すると、最も装甲の薄い部分に影響が及ぶ。このため、搭載する弾薬全てが爆発し搭乗員は焼け死ぬことになる。これに対し、米国のM1エイブラムスやドイツのレオパルト2など西側の戦車は、搭乗員を弾薬から厳重に隔離。双方の間には爆発にも耐えられる壁が設置されている」
ドイツのレオパルト2など西側の戦車は、搭乗員が弾薬から厳重に隔離されているので「ビックリ箱」にはならない。
(5)「ロシア軍の保有する新型戦車「T14アルマータ」は、あらゆる点でM1エイブラムスとレオパルト2に匹敵するが、わずかな数しか製造していないという問題がある。昨年のメーデーに赤の広場で行われたパレードには、3両しか登場しなかった。最近の情報報告によると、同戦車の開発と配備は、コストの上昇など複雑な問題が絡んで停止しているとみられる」
ロシアにも欧米並みの新鋭戦車はあるが、たったの3両しか登場していない。コスト高が鬼門になっている。
(6)「ウクライナでの戦争が戦車戦に変わるとしても、またそれがエイブラムス、レオパルト対最新のロシア戦車の戦いだとしても、実際には全く勝負にならない可能性がある。西側の戦車の到着が間に合えばなおさらだ。ウクライナの当局者は、最新の戦車300両があれば自軍の装備を補完しつつ、ロシアに対しても数の上で全く同等の立場に持ち込めるとみている。ザゴロドニュク氏が国防省の推計を引用して筆者に説明した」
ウクライナ軍は、西側の最新戦車300両があれば、ロシア軍と対等の戦いができるという。すでに321両の供与が決まったから、この面での不安は消えた。
(7)「車長や砲手、操縦手、技術兵、整備士を訓練するには最低でも3カ月を要する。それだけ複雑な戦車を相手にするのであり、時間が極めて重要になる。今後4カ月もしないうちに春の雪解けは終わり、地面は乾き始める。間違いを犯す、もしくは躊躇するような余裕はほぼないと言っていい」
下線のように、ウクライナにとっては今後の4ヶ月が極めて重要な時間になる。それは、ロシアにとっても同じことだ。