勝又壽良のワールドビュー

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    カテゴリ:ウクライナ経済ニュース時評 > ウクライナ経済ニュース時評

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    ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、ザルジニー総司令官を解任した。後任のシルスキー氏は、これまで陸軍司令官を務めてきた。シルスキー氏は、ザルジニー氏よりも年長者であらが、ザルジニー総司令官の補佐を快く務めるなど軍人らしい「度量」の大きさをみせてきた。あくまでも、「国家防衛」という任務に徹する軍人タイプである。

     

    世上では、今回の交代人事についていろいろ取り沙汰されている。ザルジニー氏の国民的な人気が高いことから、ゼレンスキー大統領にとって次期大統領選でライバルになる恐れがあるので交代させたというものである。

     

    こういう「陰謀説」は説得力を持つが、ウクライナ防衛が行き詰まっている現在、総司令官交代は当然である。米国では、作戦に失敗すれば司令官を交代させるのは常識である。旧日本軍の常識では、勝ち戦まで「司令官を変えない」が、これこそ異常である。旧日本軍は、この悪弊のために多くの将兵が命を失う羽目になった。新しい司令官の下で作戦計画を立て直すことだ。

     

    『ロイター』(2月9日付)は、「ウクライナ大統領、国民に人気の軍総司令官更迭 米『決定を尊重』」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ウクライナ軍のザルジニー総司令官の更迭を発表した。後任に陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官を充てる。国民的英雄と見られているザルジニー氏と大統領の間に亀裂があるとの憶測が出ていた中、同氏の解任は前線部隊の士気に影響を与えるほか、大統領の評価にも傷がつく可能性がある。

     

    (1)「ゼレンスキー氏は、声明で「きょうから新しい指導部がウクライナ軍を引き継ぐ」と表明した。ウメロフ国防相も、軍の指導者を交代させる決定が下されたと声明で発表した。ゼレンスキー氏は声明で、ザルジニー氏とウクライナ軍に必要な刷新について協議したとし、誰が軍の新たな指導者に得るかについても話し合ったと表明。ザルジニー氏に自身のチームにとどまるよう要請したとした」

     

    ウクライナにとっては、西側諸国の軍事支援に陰りが出ている中で、効率的な戦い方を迫られている。総司令官を交代させることは、作戦の見直しに結びつく。

     

    (2)「ザルジニー氏は、自身の声明で大統領と「重要かつ真剣な対話」を行い、戦術と戦略を変更することを決定したと表明。「(ロシアによる全面侵攻が始まった)2022年の課題と24年の課題は異なる」とし、「勝利するために、誰もが新しい現実にも適応しなければならない」と述べた。ゼレンスキー氏は、軍を率いたザルジニー氏への謝意を示し、2人が笑顔で握手している写真を投稿した。発表後、「鉄の将軍」として知られたザルジニー氏への感謝のメッセージがソーシャルメディアにあふれた。昨年終盤の世論調査では、国民の90%以上がザルジニー氏を信頼していると回答。ゼレンスキー氏の77%を大きく上回った」

     

    ザルジニー氏を総司令官へ抜擢したのは、ゼレンスキー大統領である。シルスキー氏という年長者を差し置いての起用が、見事に成功したと評されてきた。今度は、逆にシルスキー氏を総司令官へ起用して膠着した戦線を見直すのは、十分にあり得る戦術交代だ。

     

    (3)「ゼレンスキー氏は、ザルジニー氏更迭を決めた背景には昨年の失敗があったと示唆。「この戦争の2年目、われわれは黒海を制した。冬を制した。ウクライナの空を再び支配できることを証明した。しかし、残念なことに地上では国家の目標を達成できなかった」と述べた。「ユキヒョウ」のコールサインで呼ばれる後任のシルスキー氏(58)については、22年のキーウ防衛と同年のハリコフ反攻を指揮した際の功績を挙げた」

     

    シルスキー氏は、ロシア人である。両親や親戚は、ロシア在住でロシア国籍を持つ。父親はロシアの退役軍人であり、また兄弟もロシアに住んでいる。ロシア在住の両親は2019年、ウクライナで禁止されているゲオルギーリボンをつけて行進する等ロシア愛国者である。こういう家庭環境から、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は9日、シルスキー氏を裏切り者だと批判した。

     

    シルスキー氏は、1965年7月に当時ソ連の一部だったロシアのウラジーミル地方で生まれ、同世代の多くのウクライナ軍関係者と同様、モスクワの高等軍事学校で学んだ。ソ連軍に5年間在籍し、1980年代からウクライナに住んでいる。ソ連崩壊後のロシア軍に在籍したことはない。こういうシルスキー氏の経歴をみると、筋金入りの「ウクライナ軍人」と言えよう。

     

     

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    ウクライナ軍が、予想されるロシア軍への反転攻勢を前に、準備段階に当たる「形成」作戦を開始したことが分かった。米軍や欧米当局の高官がCNNに明らかにした。ウクライナ東部の激戦地バフムトで5月10日、ウクライナ軍がロシア精鋭部隊壊滅させたことが「形成」作戦に当たると見られる。

     

    形成作戦の内容には、部隊の進軍に備えて戦場の状況を準備するため、武器集積所や指揮所、装甲車、火砲を攻撃することが含まれる。大規模な連合作戦の前に行われる標準的な戦術となっている。ウクライナが昨年夏に南部と北東部で反攻を仕掛けた際にも、事前に航空攻撃で戦場を形成する作戦が行われた。米軍高官によると、こうした形成作戦は、予定されるウクライナの攻勢の主要部分の前に何日も続く可能性があるという。『CNN』(5月12日付)が報じた。

     

    『朝鮮日報』(5月12日付)は、ウクライナ軍がバフムトで大反撃 ロシア軍最精鋭部隊が壊滅

     

      ウクライナ軍がバフムトでの反撃でロシアに対する反転攻勢の序幕を飾った。ウクライナ東部の都市バフムトは昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、最大の激戦地だった ウクライナ陸軍第3強襲旅団は10日(現地時間)「バフムトでロシア軍第72自動小銃旅団を退却させた」と発表した。第72自動小銃旅団はロシア軍最精鋭部隊の一つだ。ウクライナの民兵隊「アゾフ連隊」のアンドリー・ビレツキー氏は動画メッセージで「ロシア軍2個中隊の兵力を壊滅させ、7.8平方キロの領土を回復した」と明らかにした。

     

    (1)「ウクライナ軍は、敵陣への空襲からロシア軍の逃亡に至る圧勝の様子を動画と写真で公開したことから、機先を制していることがうかがえる。ウクライナ軍筋によると、ウクライナ軍は旧ソ連製戦車T64や米国製装甲車M113などを先頭にロシア軍陣地に進撃した。反転攻勢の始まりだった。ウクライナ製の対戦車ミサイル「スタグナP」も反撃に加わった。 ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップでプーチン大統領の側近とされるプリゴジン氏は「ロシア軍第72自動小銃旅団が退却したため、ワグネルの兵士500人が犠牲になった」と主張し、ウクライナ軍の攻勢で逃亡したロシア正規軍を非難した」

     

    今回のバフムトでのウクライナ軍の反攻作戦は、「諸兵科連合作戦」のテスト版であろう。小手試しに戦術を展開した結果で、まずは成功と言える。

     

    (2)「現時点で確認されていないロシア正規軍の被害を合計すれば、死亡者の数はさらに増えそうだ。ウクライナ・メディアのキーウ・ポストは「ここ数カ月ではロシア軍最大の敗北」と報じた。ウクライナ軍はバフムト攻撃の様子を撮影した動画、さらにウクライナ軍の攻勢に押されロシア軍が逃走する様子を撮影した写真などを公開した。戦果が決して誇張されていないことを強調することで、プーチン大統領とロシア正規軍、そしてワグネルの士気を下げる狙いがあるとみられる」

     

    ロシア軍は、ここ数ヶ月では最大の敗北とされる。バフムトは、ロシア軍が占領を目指して多くの犠牲を払ってきた要衝地である。それが、ウクライナ軍の小型「諸兵科連合作戦」によって敗退したとすれば、これから迎える本格的な反攻作戦にも大きな影響が出るはずだ。

     

    (3)「ウクライナ軍によるバフムトでの攻勢は、ロシアに大きな打撃を与えた可能性も考えられる。それは、バフムトが戦略的に非常に重要とされるからだ。バフムトは東部ドネツク州の都市でここ9カ月の間にウクライナ軍とロシア軍・ワグネルが激しい戦闘を続けてきた。 ウクライナの立場からすれば、戦争の勝機をつかむにはロシア軍がすでに大部分を掌握したバフムトを死守しなければならない。またロシアにとってもバフムトはドネツク州やルハンシク州など東部ドンバス地域の占領を維持する重要な拠点となる。そのためウクライナ軍によるバフムト奪還はロシアにとっては手痛い打撃だ」

     

    バフムトは、ウクライナ軍にとって防衛の象徴的な場所になっている。ロシア軍に多大な消耗を強いて、今後の反撃能力を奪うことに主眼が置かれてきた。ウクライナは、この目的を100%達成して、ついに反攻作戦に転じたのだ。

     

    (4)「ウクライナ軍の被害が、ワグネルとの戦闘で相次いだ際には西側諸国から撤退を求める声も相次いだ。そのたびに、ウクライナのゼレンスキー大統領は「絶対に放棄できない」として強い意志を何度も表明してきた。 「クリミア半島周辺でウクライナが反転攻勢に乗り出す」との見方は以前から有力視されていた。ところがウクライナ軍が突然バフムトで攻撃を開始したことで、「ロシアの舌を切り取った」との評価も相次いでいる」

     

    ロシアは、ロシア軍第72自動小銃旅団が退却した衝撃は大きいであろう。これから本格化が予想されるウクライナの反攻作戦により、ロシア軍の士気が低下するであろう。

     

    (5)「ウクライナ軍が、今回の勝利で奪還した地域はまだ一部に過ぎないため、「ウクライナ軍によるバフムトでの勝利は戦争の版図を変えるほどではない」との見方もある。ウクライナ東部軍のセルヒー・チェレバティ広報担当官は「現時点でロシア旅団全体の兵力が破壊されたわけではない」とコメントした」

     

    ウクライナ軍は、今回のバフムトの反撃を過大評価しないという慎重さを見せている。なによりも、「諸兵科連合作戦」が機能したことに手応えを得た点で、大きな「戦果」になったといえよう。

     

     



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    2月24日で、ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年になる。ロシアは、これをきっかけに大攻勢を掛けるとの見方が流されている。ただ、雪解けシーズンであり、ロシアは昨年この時期に大苦戦を強いられた苦い経験がある。同じ過ちを重ねるとも考えられない。

     

    こうした「風評」とは異なり、米CIA長官バーンズ氏は「今後数ヶ月が決定的に重要な時期」を迎えると発言した。米国は、これに備えウクライナへ新鋭戦車の供与や戦闘機、長距離砲という本格的な武器によって、ロシアとの対決を制す構えを見せ始めている。ロシアの手に乗って侵攻を長引かせないという方針へ切り変えたのであろう。

     

    『CNN』(2月3日付)は、「米CIA長官、今後6カ月が『決定的』 ウクライナ侵攻の結果を左右と発言」と題する記事を掲載した。

     

    米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は2日、今後6カ月がウクライナでの戦争の最終結果を左右する「間違いなく決定的な」ものになると発言した。

     

    (1)「バーンズ氏は米ジョージタウン大学での演説で、米側はロシアのプーチン大統領が「交渉に真剣に向き合っているとは評価していない」と述べ、「戦場での今後6カ月が重要になる」との見方を示した。そうした期間に「プーチン氏の思い上がりに風穴を開けること、ウクライナをさらに進攻できないだけでなく、ひと月ごとに不法に掌握した土地を失うリスクが高まることを明確にすること」などが重要だと言及した」

     

    米国は、ウクライナに本格的は領土奪回作戦を展開させる決意を固めたように受け取れる。時間がかかりながらも、ウクライナ側の要求する武器を次第に供与していることからも、それが窺える。戦車に続いてF16戦闘機の供与も現実味を帯びてきた。

     

    米国は、ウクライナ侵攻を長引かせると、中国の台湾侵攻と重なり「ダブル侵攻」という最悪事態を迎え兼ねないのだ。下手をすると「第三次世界大戦」へ発展しかねないだけに、ウクライナは早めに解決する必要性が出てきたのであろう。

     

    (2)「バーンズ氏は、プーチン氏が「時間を自分に有利に働かせることができると賭けている」と指摘。政治的な疲れが欧州を覆い、米国の注意もそがれる中で、ウクライナを「摩滅させる」ことができると信じているとの見方を示した。バーンズ氏はまた、ロシアのナルイシキン対外情報局長官と昨年11月に会談した際、ロシアの計算には2月の侵攻当初の決断の時と同じくらい「深刻な欠陥がある」と伝えたとも語った」

     

    プーチン氏は、ウクライナ侵攻と台湾侵攻が重なれば、米国の注意もそがれる、ウクライナを占領できるという戦術を練っているのであろう。そうでなければ、次々と徴兵を拡大させる構えを取らないであろう。ウクライナ侵攻を長引かせることが、プーチン氏の最大の戦略になっていると見られる。

     

    『CNN』(2月3日付)は、「米、射程距離がより長いミサイル供与の見通し 2800億円規模の新支援で」と題する記事を掲載した。

     

    米国が新たに行う22億ドル(約2800億円)規模のウクライナ向け安全保障支援の中に、射程距離がこれまでより長いミサイルが含まれる見通しであることがわかった。米政権高官や複数の米当局者が明らかにした。

     

    (3)「支援パッケージには誘導ミサイル「地上発射型小直径爆弾(GLSDB)」が含まれる予定。ボーイングとこれを共同開発したサーブによると、このミサイルは高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」から発射され、射程は約90マイル(約145キロ)に及ぶ。ウクライナ軍が現在ハイマースに使う弾薬「GMLRS」の射程の約2倍となる。GLSDBは発射後に小さな翼を広げ、ロケットエンジンで目標に向けて飛行する。ただ、ウクライナが要請していた射程200マイル(約320キロ)超のミサイル「ATACMS」は支援に入らない。米国はロシア国内の奥深い標的に同ミサイルが使われる恐れがあるとの懸念を示している」

     

    下線のように、「ハイマース」を使って射程145キロの弾薬「GMLRS」が、ウクライナへ供与される。現在の射程は78キロであるから、ほぼ倍に伸びる。ロシア軍は、すでに78キロ射程を避けて、それ以上に距離を下げて兵站基地をおいている。「GMLRS」が前線に配備されると、ロシアの兵站線はさらに後退する。それだけ、補給に時間がかかる。

     

    (4)「今回のパッケージは、1月に米軍の主力戦車「M1エイブラムス」の供与を発表した支援後初の支援となる。早ければ3日に発表され、5億ドル分は米軍の備蓄から直接供与、残り17億ドル分は軍事企業との購入契約に基づき供給されることとなる。当局者によれば、今回のパッケージには大砲やハイマースの弾薬、補助システム、地対空ミサイル「パトリオット」向けの部品も含まれる」

    米国はロシアを刺激したくない、つまり、核使用という最悪事態を避けながら、ウクライナへ武器を供与するという姿勢を取っている。今回の供与プランでも実戦に配備されるまでには時間がかかる。米国は、まだ本格的な武器増産体制へ移っていない。備蓄している兵器を取り崩している形だ。仮に、中国が2025年へと台湾侵攻を繰り上げた場合、米国の武器弾薬の備蓄はないのが実情だ。対艦ミサイルの備蓄は、戦争1週間分とされている。お寒い限りである。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-02-02

    メルマガ434号 中ロ枢軸、「ウクライナ・台湾」同時侵攻の危険性 第三次世界大戦を防げるか

     

     




     

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    ロシアは過去の戦争で、祖国防衛を守り抜き勝利を収めたと自信を見せている。確かに、その通りだが、それは侵略を受けた祖国防衛戦であった。今回のウクライナ侵攻は立場が逆転して、侵略する側である。過去の祖国防衛戦は、今のウクライナに該当しており、ウクライナ軍が必死の戦いをしているのは、皮肉にも過去のロシアの姿である。 

    ウクライナ侵攻では、ロシアが西側に同盟国を持たない初めての戦いである。しかも、その西側から経済制裁まで受けており、武器弾薬の生産で大きな障害になっている。ロシアにとって、この戦いが極めて不利な状況にあることは紛れもない事実だ。勝利への展望がないままに戦いを続ける悲劇は、ロシアの経済的疲弊と国際的地位の激落をもたらすだけだ。一刻も早く、ウクライナ侵攻を止めなければ、ロシアの傷は永久に癒えないであろう。 

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(1月17日付)は、「ロシア、勝利維持の道なし」と題する記事を掲載した。 

    ウクライナの情報機関はロシアが今年、ウクライナに新たな攻撃をしかけるために、さらに兵を動員し軍の規模を200万人まで拡大する可能性があるとみている。ウクライナのゼレンスキー大統領は最近、ロシアが再び首都キーウ(キエフ)を制圧しようとするかもしれないと警告を発した。 

    (1)「プーチン氏と彼の支持者は相変わらずロシア史を都合よく解釈している。ロシアは1812年のナポレオンによる侵攻と第2次大戦でヒトラー率いるナチスドイツによるソ連侵攻で激戦を強いられ大きな犠牲を払ったが、最終的には勝利を手にした。ただ、いずれも侵攻から自国を守る防衛戦だった。退却先がないと知っていたロシア軍は最後まで戦い抜いた。だが今回、祖国を守ろうとしているのはウクライナの方だ。しかも過去の大戦ではロシアは欧州の大きな軍事同盟の一部だった」 

    ロシアは、歴史を自国に都合のいいように解釈しているが、それは歴史の教訓を正しく学ばない結果である。 

    (2)「ロシア軍情報部の元大佐でロシア政府に近いストラテジスト、ドミトリー・トレーニン氏は最近書いた記事で「ロシアは歴史上、初めて西側に同盟国を持たない状況にある」と指摘した。それどころか反ロシアで結びついた勢力は欧州にとどまらない。同氏も「英語圏諸国や欧州、アジアなど米国を中心とする同盟各国の結束ぶりは過去にないレベルに達している」としぶしぶ認めている」 

    ロシアが歴史上、「初めて西側に同盟国を持たない状況にある」との指摘は、ウクライナ侵攻でロシア最大の弱点になっている。この現実を認識すべきだ。核をちらつかせれば、それにたじろぐ相手ではない。 

    (3)「根本には、ロシアが大国としての地位を既に失っているという事実を受け入れられないことがある。他の欧州諸国はロシアより早くこの現実を受け入れた。プーチン氏がいまだに固執する旧来の欧州の秩序は大国間の対立を軸に構築されていた。EUや北大西洋条約機構(NATO)という大きな傘の下で各国が協力し合うという新しいシステムを理解できない同氏は、ロシアを欧州大陸全体から孤立させてしまった」 

    ロシアの現状は、一国でNATOに立ち向かっている形だ。NATOは、戦場に立たぬが武器弾薬を供給している。この戦いの帰趨は、すでに決していると言っていい状況だ。 

    (4)「もしプーチン氏が、ロシアが超大国の1つ下に位置するレベルの国だと受け入れていたら、ロシアは中堅国として各国のパワーバランスを図るべく政治手腕を発揮する機会が何度もあっただろう。しかし、プーチン氏はそんな地位に甘んじることはできずウクライナに無理やり侵攻した。皮肉にもロシアは、その世界的地位をこの戦争でさらに失う可能性が高い」 

    ロシアは、この戦いが終わった時に厖大な賠償金を科される。西側諸国に差し押さえられている外貨準備も賠償金の一部に回されるほか、経済制裁も継続されるだろう。ロシアが、「100年前の姿」に戻るというのは、決して過剰な表現ではない。 

    (5)「ロシアが極めて劣勢に追い込まれたことで、同国の一部エリートらの間には一種のニヒリズム(虚無主義)が広がっており、彼らはテレビで核戦争やアルマゲドン(最終戦争)さえ今や現実になりかねないなどと述べたてている。ロシアの戦略家らが戦争を続けるべきだと主張するのは、勝利する見込みがあるからではなく敗北など考えることすら受け入れ難いからだ。(先の)トレーニン氏は先の陰鬱な記事で「理論上はロシアが降伏する選択肢はある」が、それは「国家の破滅的状況、予想される大混乱、主権の無条件の喪失」を必然的に伴うため受け入れられないと論じている 

    この下線部分は、すでに「内戦説」となって報道され始めている。この危機的状況をどうやって防ぐかが問われている。中国やインドは、傍観していないでロシアを説得すべき役回りになっている。 

    (6)「こんな結末を恐れるあまり彼(トレーニン氏)は、たとえ「長年」にわたり「大きな犠牲」を払う必要があってもロシアには「自国の主権と領土の一体性を守る戦闘国家」として戦い続けるしかもはや道はないと結論づけている。この血みどろの道を突き進むには「エリート階級の無条件の愛国心」が必要だとも指摘した。しかし、これは非常に奇妙な愛国心だ。祖国の貧困と孤立をさらに深め、独裁をさらに助長し、世界からもっと非難される残忍な侵略戦争に、ただ命を奪われるために同胞を送り込み続けたいとする愛国心を持つロシア人などどこにいるのか」 

    ロシアにとって、真の愛国心とは何か。戦いを止めることだ。これが可能な人々は、獄窓にいるか国外へ脱出している。日本の敗戦時には、「天皇」という絶対的権力によって戦いを止めた。ロシアでは、その絶対的権力者が戦争継続の姿勢である。まさに、ロシア存亡の危機だ。

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    ロシアは、ウクライナ軍のドローンによりロシア国内の空軍基地を連続して攻撃される事態を招いている。改めて、ロシア軍の防空体制に抜け穴があるのでないかと指摘されている。一方、ウクライナ国防省情報総局トップのキリロ・ブダノフ氏は、ロシアが高精度のミサイルをほぼ使い果たしたのでないかとの見方を示している。ブダノフ氏は、ウクライナのテレビで、ロシアの高精度ミサイルの在庫は「すでに尽きつつある」と述べたもの。

     

    こうしてウクライナ軍の勢いは、冬季間も持続させることが、ウクライナ軍が最終的に勝利への道をたぐり寄せる機会になる、と米国シンクタンク「戦争研究所」が分析する。

     

    米『ニューズウィーク 日本語版』(12月6日付)は、「『ウクライナ軍の活路は冬にしかない』、米戦争研究所」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナがさらなる領土奪還に向けてロシア軍に反撃するいちばんのタイミングは春だ、という米政府関係者の分析は誤っていると、米ワシントンを拠点とするシンクタンク戦争研究所(ISW)は指摘する。

     

    (1)「アメリカの情報機関を統括する国家情報長官(DNI)を務めるアブリル・ヘインズは12月3日、カリフォルニア州シミバレーで開催されたレーガン国防フォーラムで、ウクライナでの戦争は冬になって戦闘の「テンポが落ちた」とし、両軍が来春の反抗に向けて準備に入ったと述べた。現に東部ドネツク州では戦闘が下火になっていると、ヘインズは述べた。「問題は、冬が終わったときにどんな反攻が繰り広げられるのか、だ」と、ヘインズは言った。「率直に言って、両軍とも、反攻のためには再装備や補給など再編成が必要な状態だろうと我々は考えている」と指摘する」

     

    ウクライナ軍のこれまでの反攻作戦は、ロシア軍の兵站線を叩いて補給させないことに重点を置き、ロシア軍を疲弊に追込んで勝利を掴んできた。こういうプロセスから見て、ウクライナ軍が手綱を緩めることは、ロシア軍に息を吹き返らせる意味で愚策である。

     

    (2)「ISWはその見方に反論する。12月4日に公表した報告書のなかで、ヘインズの情勢判断はいくつかの兆候を見落としていると指摘した。「冬のあいだは、(凍って硬い)地面が攻勢をかけるうえで有利に働くこと、そして、ウクライナ軍には作戦完了後に比較的すばやく次の攻撃に移る傾向があること」だ。ウクライナ軍は11月半ば、2月の侵攻開始直後からロシア軍に占拠されていた南部の都市ヘルソン(ヘルソン州の州都)を奪還した。同地域では、ほぼ同時に40を超える町をロシアから奪い返している。ロシア政府は、ヘルソン州に駐留していたおよそ3万人の軍隊に撤退を命じた」

     

    ウクライナ軍も、地面が凍ることで機動力が増すとしている。冬季は、攻撃する方が有利とされる。防衛側は、じっと敵の攻撃を待つ以外に方法がないのだ。ロシア軍は、耐寒装備面でも劣っている。ウクライナ軍が、はるかに有利な立場にいるのだ。

     

    (3)「ISWはこう述べている。「ウクライナ軍は、2022年8月に主導権を握って以来これを保持しており、次々と作戦を展開して成果をあげている。9月にはハルキウ州のほぼ全域を、11月にはヘルソンを、ロシア軍から奪還した。ウクライナ軍は現在、この冬にほかの場所でさらなる攻勢をかけるべく態勢を整えているところだ」。ISWは、ウクライナ戦争における冬という季節の重要性を過小評価しているわけではない。ISWは今冬について、以下のように述べている。「冬は、ウクライナ軍が機動戦を展開するさい、いかに休止期間を最小限に抑えて次々と成果を上げ続けられるかを決定づけるだろう。休止期間が長いと、ウクライナが主導権を失うリスクが高まる」としている」

     

    下線のように、ともかくロシア軍に休息期間を与えずに、着実に攻めまくることである。

     

    (4)「ISWは一方で、冬はウクライナに有利に働くと考えている。逆に気温が上がれば、地面がぬかるみ、軍用車両の進行が容易でなくなる。「ウクライナにおいては通常、冬は戦車などを中心にした機甲戦に最適な季節だ。それに対して、春は戦闘にとって悪夢の季節だ」とISWは述べる。ウクライナを支持する国々は、「ウクライナ軍がこの冬、大規模かつ決定的な反攻作戦を繰り広げられる」よう支援すべきだ、とISWは述べている」

     

    ウクライナ軍は現在、東部と南部で攻撃を続けている。ロシア軍は、南部の防衛隊を東部に移動させるなど、南部に防衛の空白地域をつくれば、ここを一気に攻めまくる体制にあると軍事専門家は見ている。

     

    (5)「そうしなければ、ウクライナ軍は勢いを失い、2023年3月の後まで身動きが取れなくなる。「そうなれば、疲弊したロシア軍に対して、貴重な猶予期間を34カ月も与えることになり、彼らは態勢を立て直すだろう」とISWは結論している」

     

    ロシア軍は最近、しばしば停戦を話題にしている。これは、ロシアの計略であって、この間に部隊を再編成して再び戦いを挑む方針と見られている。ロシア軍に誠実な面を期待できないのが現状である。


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