勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:ウクライナ経済ニュース時評 > ウクライナ経済ニュース時評

    a1320_000159_m
       


    ロシアのプーチン大統領は19日、一方的に併合したウクライナ東・南部4州に戒厳令を導入する大統領令に署名した。ロシア軍は、ウクライナ軍の反転攻勢で戦況が不利になっており、戒厳令を出して立直しを図ろうという狙いであろう。

     

    戒厳令が、侵略などの外敵脅威を理由に発令された地域では、市民の移動や政治活動を制限できるようになる。破壊された施設やインフラの復旧に市民を動員することも可能になるという。人的資源の活用が目的であろう。

     

    ロシアは、戒厳令を出すほどウクライナ軍によって追込まれている。ロシア軍司令官セルゲイ・スロヴィキン将軍18日、ロシアが占拠してきた南部ヘルソン市が「困難」な状況にあるとし、住民を避難させると、ロシア国営テレビで述べた。司令官スロヴィキン将軍は、プーチン大統領から、戦線立直しの任務を与えられて着任したばかりだ。

     


    スロヴィキン将軍は、「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つほど、「必要などんな手段も使う」というほど容赦ない攻撃で知られる人物である。そのスロヴィキン将軍が、もはやヘルソン市でウクライナ軍を押し返す手立てがないほどロシア軍は劣勢に立たされているのだ。

     

    英『BBC』(10月19日付)は、「ロシア軍司令官、南部ヘルソンは『緊迫』 異例の厳しい認識」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「スロヴィキン司令官は、「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つ将軍である。最近、ウクライナでの戦争の作戦統括者に任命された。同将軍は、ウクライナ軍が高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使い、市内のインフラや住宅を攻撃していると主張。「ロシア軍は何よりもまず、ヘルソン市民の安全な避難を確保する」と述べた。また、「全体として、特別軍事作戦地帯の状況は緊迫していると言える」とした。スロヴィキン将軍が、大きな問題の存在を認めるのは珍しい」

     

    スロヴィキン将軍は、戦争経験が豊富でシリアで多くの民間人の死者を出したロシアの空爆を指揮した。チェチェンでは、人権侵害で非難された部隊を指揮した経験も持つ。この百戦錬磨の将軍が、ウクライナ軍へ何らの対抗策も取れず、撤退を臭わせているのは、ロシア軍に武器弾薬もなくどうにもならない事態を迎えていることを告げている。

     


    (2)「同将軍の見方には、ロシアに任命された現地の当局者、キリル・ストレムソフ氏も同調した。ストレムソフ氏はメッセージアプリのテレグラムで、ウクライナ軍が「ごく近い将来に」ヘルソン市を攻撃すると警告。「私の言葉を真剣に受け止めてください。できるだけ早い避難が大事です」と呼びかけた。ドニプロ川西岸の人々が最も危険だとした。同じくロシアが任命したヘルソン州のウラジーミル・サルド知事も、ビデオメッセージの中で、同様の状況認識を示した」

     

    ロシア軍は、ウクライナ軍の攻撃でドニプロ川西岸の防衛戦を死守できなくなっていることを示唆している。ここには、約2万5000人のロシア軍が陣を構えている。ウクライナ軍の兵站線攻撃で、ロシア軍は武器・弾薬・食糧の補給がストップしている結果であろう。

     

    (3)「ヘルソン市は、2月に侵攻を開始したロシア軍が最初に制圧した大都市。ウクライナ軍はここ数週間、同市付近の国土を着実に奪還している。ドニプロ川に沿って南に30キロメートル近く進んでおり、ロシア軍を追い込む勢いだ。ヘルソン市は、ロシア軍が占拠した唯一の州都。ロシアは現在、ヘルソンなど4州をロシアの一部だと主張している。国際社会はこれを認めていない」

     

    ヘルソン市は、クリミア半島防衛にも関係を持つ重要拠点である。ロシア軍がここから撤退することになれば、ロシア軍のウクライナ侵攻は大きなヤマ場を迎えたことになる。敗色濃厚という烙印を押されるだろう。

     


    (4)「
    スロヴィキン将軍はさらに、ウクライナのロケット弾がヘルソン市のアントニフスキー橋とカホフカ水力発電ダムを損壊させ、幹線道路の交通を遮断したと説明した。そして、食料配送、水、電気といった生活に不可欠なサービスの提供に問題が生じているとした。同将軍はまた、ウクライナ軍が広範囲にわたる前線で、絶え間ない攻撃を仕掛けていると述べた。東はクピャンスクとリマン、南はミコライウからクリヴィー・リフにかけての戦線を挙げた」

     

    スロヴィキン将軍は、戦争経験が豊富である。その「鬼将軍」が、手も足も出ないほどの追詰められ方をしている。ウクライナ軍の兵站線攻撃が、見事な成果を上げている証拠だ。ロシア軍は、もはや挽回不可能になった。 

     

    a0960_008564_m
       


    ロシアのウクライナ侵攻は、すでに開戦6ヶ月を経た。ウクライナ軍は、南部戦線でヘルソン市奪回を目指してロシア軍へ攻勢を強めている。ドニプロ川岸には、ウクライナ軍によって兵站線を破壊された結果、数千名のロシア兵が孤立状態とされている。ロシア軍は、物資補給を目指す渡河作戦を封じられているからだ。

     

    ロシア軍にとって不利な戦いになっているが、ロシアの世論はウクライナ侵攻についてどのような見方か注目される。戦争が長期化の気配を強めると共に、「賛否」が拮抗していることが分った。すでに、熱狂的な支持は消えているのだ。

     


    『NHK』(9月2日付)は、「“侵攻継続と和平交渉で意見が二分” ロシア 世論調査」と題する記事を掲載した

     

    ウクライナ侵攻をめぐってロシアの独立系の世論調査機関は、ロシア国内では侵攻の継続と和平交渉への移行で意見が二分しているとする調査結果を発表しました。ロシア軍によるウクライナ侵攻後、ロシアの世論調査機関「レバダセンター」は毎月下旬に全国の1600人余りを対象に対面形式で調査を行っています。

    (1)「9月1日、8月の調査結果を発表し、この中で「軍事行動を続けるべきか和平交渉を開始すべきか」という質問に対して、
    「軍事行動の継続」  48%  「和平交渉の開始」  44%

    意見がほぼ二分しました。このうち40歳未満では過半数が「和平交渉」を選んでいて、若い世代ほど和平交渉への移行を望んでいることがうかがえます。特に18歳から24歳までの若者の30%は「ロシア軍の行動を支持しない」と答え、情報統制が強まる中でも、およそ3人に1人が侵攻への反対姿勢を示した形です。「レバダセンター」はいわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、政権の圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています」

     


    この調査では、戦争継続(48%)と和平交渉(44%)がほぼ拮抗した状態である。ロシア政府が情報統制していても、ロシア軍の死傷者が最大8万名(米国防省推計)という、壊滅的な打撃を受けたニュースは浸透していると見られる。勝ち戦であれば、「戦争継続」派がもっと多かったであろう。

     

    18歳から24歳までの若者では、30%が「ロシア軍の行動を支持しない」としている。この状況では、徴兵強化が大きな反対論を巻き起こすことは確実である。ロシア軍の兵士不足は深刻である。「60歳まで応募可能」という信じられない募集条件を出しているほどだ。

     

    間違いなく、ロシアで「厭戦気分」が強まっている。これが、プーチン戦争の先行きを占う「カギ」になりそうだ。2024年は、ロシアの大統領選挙である。プーチン氏は、これがデッドラインになって、自ら解決策を模索せざるを得ないであろう。

     


    最近、ロシアで気になる動きが増えている。国家主義者による「戦争批判」である。これは、ロシア軍部への批判であって、プーチン氏を対象にした批判でない。戦争を始めた張本人のプーチン氏でなく、軍部の稚拙な戦闘を非難する意味は、何かである。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月24日付)は、「ロシアで異例の政府批判、極右の国家主義者ら」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアで国家主義者の大物や戦争支持派のブロガーらが、ウクライナ戦争でのロシア軍の失敗やミスについて政府に批判を浴びせている。ロシア政府は戦果に関する否定的な報道を抑圧しており、そうした人たちの主張は政府が流布している内容と矛盾している。

     


    (2)「ソーシャルメディア「テレグラム」のチャンネルでは、概してロシアのウクライナでの作戦を支持する論客が、ロシアの戦争への準備不足や不必要に多い犠牲者数、攻撃ペースの遅さについて、ウラジーミル・プーチン大統領率いる政府を非難している。「クレムリン(大統領府)がのんびりといつものように鼻くそをかみ続けている間、われわれの尊敬するウクライナの相手は、事もなげに手当たり次第破壊している」。極右の国家主義者イゴール・ガーキン氏は、ウクライナ軍が7月に米国から供給された兵器でロシアの標的を攻撃した後、こう書き込んだ。さらに今月、「ウクライナにおけるロシアの軍事戦略の失敗は明らかだ」とも述べた」

     

    情報統制の中で、こうした発言が放置されているのは、プーチン氏へ向けられた非難でないから許されるのだ。プーチン氏は、軍部に責任を取らせて自らは逃れられると見ている証拠だ。

     


    (3)「米シンクタンク、外交政策研究所(FPRI)の上級研究員を務めるロブ・リー氏は、「こうした論客の多くは、ロシア政府が手ぬるいと不満を訴えている」とし、「もしプーチンが戦争をエスカレートさせることを決めれば、彼らはそれを支持し、喜ぶだろう。その点で、彼らは政府にとって有用だ」と述べた。さらに同氏は「プーチンは恐らく、否定しきれない大きな軍事的失敗があることに気づいているだろう」と指摘。「そのはけ口が必要だ。それが政治指導者ではなく、軍事指導者に向けられている限り、問題ないだろう」と述べた」

     

    ロシア内部で、こうした「内輪揉め」が起こっていることは注目に値する。一般大衆へは、厭戦ムードを高める効果として働く筈だ。ロシア内部で「化学変化」が起こっている前兆である。開戦当初、勝利を意味する「Z」マークが街中に氾濫していたが、現在は180度変わったのだ。

     

    118
       

    ウクライナ戦線は、膠着状態となっている。侵攻したロシア軍が攻めあぐねている状況である。そこで、自らに都合のいい「停戦シナリオ」を描いている。欧州が、今冬のガス不足に音を上げて停戦に動くのでないか、という淡い期待である。

     

    だが、西側は戦争に関する決定はすべてウクライナ政府の意思に従うという「一札」を入れているのだ。予想される「ガス不足」で、欧州がウクライナへ停戦を働きかけるであろうというロシアの期待は、自らの軍事的弱体を告白しているようにも見える。米国は、長期の支援体制であり、23年に供給する武器供与まで発表済である。

     


    『ロイター』(8月25日付)は、「ロシアが賭ける停戦シナリオ、冬のガス不足で西側が根負け」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはかつて、「冬将軍」の加勢を得てナポレオンとヒトラーを打ち負かした。プーチン大統領は今、欧州がこの冬にエネルギー不足やとその価格高騰に根負けし、ウクライナに停戦を迫るというシナリオに賭けている。しかもロシアの望む条件で。大統領府の考え方に詳しい2人のロシア筋は、これが同国の想定する唯一の和平への道だと語る。ウクライナは同国全土からロシアが撤退しない限り交渉に応じない姿勢だからだ。

     

    (1)「ロシア筋の1人は、「われわれには時間があり、待つことができる。この冬は欧州にとって厳しい季節になるだろう。抗議活動や社会不安が起こる可能性もある。欧州の一部指導者らは、ウクライナを支援し続けるべきかどうか考え直し、交渉に応じる時が来たと思うかもしれない」と語った。もう1人は、既に欧州の結束にはほころびが見えており、冬の厳しさの中でそれに拍車がかかるというロシア政府の見方を紹介。「戦争が秋冬まで長引けば、本当に厳しくなるだろう。だから(ウクライナ側が)和平を申し出ると期待できる」と述べた。ロイターはロシア政府にコメントを要請したが、回答を得られていない」。

     


    EUは、すでにエネルギーの「脱ロシア」で手を打っている。もはや、ロシア産へは戻れない購入先転換を進めているのだ。今後、苦境に立つのはロシアである。有力な販売先を失うからである。EUは、歯を食いしばっても耐えるほかない。

     

    (2)「ウクライナと、同国を強力に支援する西側諸国は、降参するつもりはないとしている。複数の米高官は匿名を条件に、ウクライナへの支援が揺らぐ兆しは今のところ皆無だと述べた。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長はウクライナ独立記念日の24日、「EUはこの戦いにおいて当初からあなた方の味方だ。必要とされる限り、味方であり続けるだろう」とツイートした。ウクライナは、戦場において状況を変えられる可能性があると考えている。ウクライナのポドリャク大統領顧問はロイターに対し「ロシアとの交渉を可能にするには、前線の現状をウクライナ軍優勢に変える必要がある」と述べた。「ロシア軍が戦術的に大敗を喫することが必要だ」という」

     

    EUがロシアへ「降参」することは、他国でのロシアの侵攻を認めることになる。第二次世界大戦で、ナチスの侵略を打ち破った欧州が、ロシアの侵攻を認める訳にはいくまい。停戦は、現在のリスクと未来のリスクの比較とされる。ここで停戦すれば、ロシアの未来の侵攻を認めることになる。引いては、中国の台湾侵攻を許すことに繋がる。米国が、長期にウクライナ支援で臨むのは、台湾問題を抱えているからだろう。

     


    (3)「欧州諸国はこの冬、ロシアに代わるエネルギーの供給源確保や省エネによって冬を乗り切ろうと模索しているが、需要を全て賄えると予想するエネルギー専門家はほとんどいない。駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏は、「米国は中間選挙、英国は首相交代を控え、ドイツは天然ガス不足を死ぬほど心配し、ライン川の水位が大幅に低下している以上、われわれが(ウクライナの戦争への)関心を失うことをロシアはもちろん期待しているだろう」と話す。
    戦争とは兵站、そして意志のテストだ。試されるのは、われわれ西側がロシアに勝る意志を持っているか否かだろう。厳しい試練になると考えている」と指摘する」

     

    下線のように、ロシアの侵攻を絶対に許さないという意思表示が求められている。3~4ヶ月の冬季にガスが入手できるかどうかという次元の問題ではない。永遠の平和問題である。耐えるほかない。

     


    (4)「戦争が長引くほど燃料、ガス、電気、食料の価格高騰による痛みは激しくなり、西側がウクライナを巡って分裂するリスクは増す。「全ての経済指標が今、マイナスに転じている。ウクライナが勝ちそうな様子が見えない限り、アパートで震えている人々を(苦難を受け入れるよう)動機付けるのは難しくなるだろう」とメルビン氏は予想する。そうなると政治的な和解を求める圧力が高まり、EUと北大西洋条約機構(NATO)双方に亀裂が入りかねないという」

     

    EUとNATOにひび割れするのは、最悪事態だ。それこそ、プーチン氏の狙いどこである。仮に分裂すれば、欧州はロシアの言いなりになろう。



    (5)「もっと楽観的な意見もある。元駐欧州陸軍司令官のホッジス氏は、「ロシアの兵站システムは疲弊しており、すぐに良くなることはないだろう」と指摘。「米英を中心とする西側諸国が約束したものを提供し続ければ(中略)ウクライナが年末までにロシアを2月23日の線まで押し戻すことは可能だと楽観視している」と話す」

     

    下線部は、軍事専門家が等しく指摘する点である。米英が、核になってロシアへ対峙する。その場合、独仏の国際的な発言権は低下する筈だ。経済だけが目標の「腑抜け」という評価が定着するであろう。


    a0960_008527_m
       

    NATO軍(北大西洋条約機構)は四六時中、空からロシア周辺情報を収集している。この情報が即、ウクライナ軍に伝えられている。一方、米軍も独自情報をウクライナ軍へ提供している。ただ、提供された情報の選択については、ウクライナ軍の判断に任されている。そういう面で、米軍とウクライナ軍は画然と分業体制になっているという。

     

    それにしても、ウクライナ軍はNATOと米軍との二本建による情報収集の機会を持っており、ロシア軍に比べて極めて優位な立場である。今後のウクライナ・ロシア両軍の戦術では、この情報量の差が大きく開いてくるものと見られる。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月9日付)は、「ウクライナと対ロ機密情報を共有、米の綱渡り」と題する記事を掲載した。

     

    米国は大量の機密情報をウクライナと共有する上で際どい綱渡りをしている。ウクライナ軍がロシア軍を撃退できるよう支援しつつ、米国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と直接衝突するのを避ける取り組みだ。米国の現・元当局者らが明らかにした。

     

    (1)「現・元当局者らによれば、米国の情報共有政策の要諦は、米国がロシア軍の部隊・戦車・艦船の動きに関するデータを提供し、ウクライナが自らの情報収集能力も活用して攻撃のタイミングを決める、というものだ。ウクライナ軍が米国から提供された情報を使って、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の位置を特定して攻撃したり、ロシア軍の将軍らを戦場で死亡させる攻撃を行ったりしたことが、過去1週間に明らかになった。これにより、米情報機関からウクライナ政府にデータが迅速に提供されていることが浮き彫りになった。こうした情報共有はほぼ前例がないと当局者らは指摘する。米国が、ウクライナに対し、攻撃すべきロシア側の目標や殺害すべき人物を指示していたのではないかとの見方を強く否定している」

     


    米国の情報収集能力の高さから見て、超一級の情報が集められているのだろう。ウクライナ軍は、それを活用して攻撃目標を決めている。武器の面で劣勢であるが、それを補っているのだ。

     

    (2)「戦争が3カ月目に入り、ウクライナは米国やその同盟諸国から提供された一層高度な兵器を手にしている。その中で米バイデン政権が、当局者らが「微妙なバランス」と認める状態を維持できるかどうかは分からない。元米当局者らは、プーチン氏が米国の情報共有政策の微妙な意味合いを理解する可能性は低いと指摘。地上と海上でロシア兵を殺害している攻撃にバイデン政権が直接関与していると、ロシア政府が判断するリスクがあるとの見方を示している」

     

    米国とウクライナが、情報収集において二人三脚で進んでいることに対して、ロシアがどのように反応するか。これが、今後の課題という。

     


    (3)「ロシアで活動していた元米中央情報局(CIA)の高官、ダン・ホフマン氏は、「われわれの見方からすると、われわれは彼らに戦術的な情報を与えている。ここに司令部があって、ここに艦艇がある、といったことだ。判断は彼ら自身で下している」と話した。しかし、ホフマン氏によれば、ロシアはそうしたやりとりを同じようには捉えていない。「重要なことはロシアがこれをどう見るかであり、彼らはこれを米国との代理戦争と捉えたがっている」

     

    米国は、ウクライナに対して情報提供だけである。ウクライナは、その提供されたデータを活用して具体的な攻撃目標を決めている。

     

    (4)「米国は4月、ウクライナに提供する情報を大幅に拡大し、ドンバス地方やクリミア半島などのロシア支配地域で展開するロシア軍をウクライナが標的にできるようにした。米当局者は安全保障上の懸念から、共有している情報の詳細を明らかにしていない。ただ、それには衛星写真が含まれることが知られているほか、傍受した通信の内容が含まれることもほぼ確実だ。米当局者によると、情報共有の制限はごくわずかしかない。米国は、ロシアの軍指導部や民間指導者を狙うのを手助けするような情報も共有していないという」

     

    米国は、4月から大幅に情報提供の範囲を広げている。衛星写真・傍受した通信などである。ウクライナは、豊富になった情報を組み合わせれば、自ずと攻撃目標が決まるのであろう。

     


    (5)「米国の情報共有に関する姿勢や、ウクライナへの武器供与に何十億ドルもの予算を割いていることは、バイデン政権が二大核保有国の衝突を引き起こすことなく、ロシア軍にウクライナ侵攻の高い代償を払わせる取り組みの一環だ。ロイド・オースティン国防長官は4月下旬にアントニー・ブリンケン国務長官とともにキーウを訪問した後、「ロシアがウクライナ侵攻でこれまでしてきたようなことをできなくなるまで弱体化することを望む」と述べた」

     

    下線部が、米国のロシアに対する本音部分であろう。この一環として情報がウクライナへ提供されているものと見られる。

     

    (6)「米国の現・元当局者はウクライナ独自の情報収集能力を過小評価すべきではないと指摘する。2014年のロシアによるクリミア半島併合やドンバス地方の不安定化を狙った作戦が行われたあと、米軍とCIAの支援を得て情報収集能力が向上したという。ウィリアム・バーンズCIA長官はこのほど、英フィナンシャル・タイムズ紙主催のイベントで、「ウクライナが持つ独自の強大な情報収集能力を過小評価するのは大きな誤りだ」と語った

     

    ウクライナ軍は2014年以降、NATOや米軍から軍事訓練を受けてきた。これによって、旧来のソ連式軍隊から脱皮している。その成果が、戦術面に現れていると見られる。

     

    (7)「元CIA諜報(ちょうほう)員のダグラス・ロンドン氏によると、標的となり得る対象の追跡情報を米国がウクライナに提供しているのは明らかだが、ドローンからのライブ映像といった、米政府が過去にパートナーと共有していた情報が含まれているかどうかは分からない。ロンドン氏は、米国がウクライナ側にロシア軍の配置に関する情報を提供する際、何らかの行動を示唆することはないと指摘。「われわれは、こうしろとは指示してい

    ない。彼らは主権国家であり、独自の課題がある」と語った」

     

    ウクライナの愛国精神は、極めて高いものがある。過去の歴史で、従属させられてきた屈辱の経験を持つだけに、抵抗精神が強いのであろう。 

     

    a1320_000159_m
       

    ロシアが、2月24日に始めたウクライナ侵攻は、すでに2ヶ月が経った。解決の目途は全く立たず、逆にどこまで拡大するのか。世界は、おびただしい犠牲者の増加におののくだけである。現状では、ロシア軍を具体的に支援する国は現れないが、ウクライナ軍には武器弾薬の支援が強化されている。形の上では、ロシアが不利な状況である。結末は、どのようになるのか。プーチン氏以外には、誰も予測できないが、3つのシナリオ考えられるという。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月25日付)は、「プーチン政権『苦境悪化は不可避』ウクライナ侵攻2カ月」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員、高坂哲郎氏である。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻の開始から2カ月が経過し、ロシア軍はウクライナの東部と南部で攻勢に出つつある。ウクライナのゼレンスキー政権は徹底抗戦の構えで、米欧なども同国支援を続ける構えだ。攻防戦の今後を予測すると、いかなる結果になってもロシアが開戦前より弱体化することが必至であることがみえてくる。

     


    (1)「第一のシナリオ。ロシア軍は、ウクライナ北部での作戦継続を断念した後、生き残った兵士を新たな部隊に再編成するとともに増援部隊も追加し、東部地域で攻勢に出つつある。東部は平原地帯で、ロシア軍はここで戦車や火砲を大量に投入してウクライナ軍を圧倒したい考えとみられる。攻防の最大の焦点は、米欧の軍事支援が十分間に合うかどうかだ。間に合わなければ、ロシア軍は南部でも攻勢を強め、モルドバ東部の親ロシア派が「沿ドニエストル共和国」を自称する地域につながる回廊を形成しそうだ」

     

    ウクライナ東部は平原地帯である。ロシア軍は、戦車や火砲を大量に投入してウクライナ軍を圧倒する戦術である。ウクライナ軍へ武器弾薬の増援が遅れれば、ロシア軍が有利な戦いになろう。

     


    (2)「その場合、プーチン大統領は「国外のロシア系住民の救済という作戦目的を達成した」として勝利を宣言しそうだ。英国のジョンソン首相は、戦争が来年末まで長引けば「ロシアが勝利する可能性はある」と語った。米欧の「支援疲れ」を懸念しているとみられる。その場合でもロシアは、大きくみると「戦闘には勝ったが、戦争には負けた状態」に陥る。ロシア支配地域とそれ以外のウクライナ領の間には新たな「鉄のカーテン」がひかれる形となり、対ロ制裁は固定化される。世界は再び東西に分断され、ロシア経済はソ連崩壊直後の1990年代のような大低迷期に突入しそうだ」

     

    ロシア軍が、ウクライナ東部で勝利を収めた場合、ロシア支配地域はウクライナ領と遮断される。この場合、ロシア制裁は固定化されてしまい、ロシア経済の混乱状態が継続する。

     


    (3)「第二のシナリオ。米欧の軍事支援が円滑に進み、ウクライナ軍が北部戦線と同様にロシア軍部隊を精密誘導兵器で効率的に撃破すると同時に、新たに供与される155ミリりゅう弾砲など重火器面でもロシア軍に対抗する展開を想定する。ロシア軍は攻勢に出ようとしているが、北部などでの苦戦を経験した兵士の士気は高いとは言えず、増援部隊にもそうした苦境は伝わっているとみられる。補給に陰りが出れば、ロシア軍首脳がもくろむ大規模攻勢をかけられるかは流動的となる」

     

    第一のシナリオと異なり、ウクライナ軍への支援が順調に進み、ロシア軍を圧倒するケースである。

     

    (4)「米欧のウクライナへの軍事支援の中身は質量ともに強まっている。「今後本格化するウクライナ軍の反撃で、ロシアはいずれ本国にまで押し戻されるかもしれない」と、シナリオAとは正反対の予測を語る元自衛隊情報系幹部もいる。確かに、破格な規模の武器供与をみていると、どうやら米欧は「プーチンが勝手に始めた戦争なのだから、これを奇貨としてこの際徹底的にロシア軍をたたき、当面は欧州方面で脅威にならない水準まで弱体化させてしまいたい」と考え始めたようにもみえる」

     

    NATO加盟国は、結束してウクライナ支援に立ち上がっている。下線部のように劣勢になったロシア軍を追詰める戦術も予想される。

     

    (5)「そうした展開になると、ウクライナが平和を回復する一方、ロシアの国内情勢は不安定化していく。「ウクライナ侵攻」から「ロシア不安定化」に事態が転化するわけだ。この展開に向かう必須要素は、米欧の支援が迅速かつ強力に進むこと、ロシア軍の本国撤退を「その時点でのロシアの指導者」が許容するかどうかの2点となる」

     

    ウクライナ優勢で情勢が逆転すれば、ロシアが国内的に苦境に立たされる。ロシア国内で,停戦の動きが出ないとも限らない状況も考えられる。

     

    (6)「第三のシナリオ。東部や南部での戦闘が膠着状態に陥ったり、ウクライナ軍が明らかに優勢になったりする場合、ロシア軍が化学兵器や核兵器といった大量破壊兵器の使用に踏み切る恐れがある。ロシア軍は伝統的に、戦術核兵器を「通常爆弾のちょっとした延長線上の兵器」程度にしか認識しておらず、プーチン大統領も過去にたびたび核使用の可能性に言及している。東部のどこかにウクライナ軍部隊が集結した場合、そこにロシア軍が戦術核攻撃をしかける危険がある。マリウポリの巨大製鉄所の地下には、なおウクライナ軍部隊や市民が隠れ、抵抗を続けている。世界の目が東部や南部での戦局に移る隙を突く形で、ロシア軍が製鉄所の完全制圧へ化学兵器を使う恐れもある」

     

    このシナリオでは、苦境に立たされるロシア軍が、化学兵器や核兵器を使って退勢挽回を図る事態だ。これは、ロシアにとっても悲劇的結末が待っている。

     


    (7)「ロシア軍による大量破壊兵器使用で起こりうるのは、第一に、ウクライナや米欧が衝撃を受けて混乱し、ロシアが一方的に勝利を宣言する展開だ。もうひとつは米欧の軍事支援が一段と手厚くなり、一部の国が公然と軍事行動に出たり、ウクライナ以外の場所でロシア軍対米欧諸国軍の戦いが始まったりする可能性だ」

     

    ロシア軍による大量破壊兵器使用されれば、そこで、ウクライナ戦争が終わる保証がないことだ。事態は、さらに悪化する危険性が出てくる。これを、どのようにして防ぐかだ。第三のシナリオになったなら、ロシア国民も安閑としていられなくなろう。その深刻さを早く、認識すべきだ。戦争を止めなければ危険である。

     

    このページのトップヘ