米『CNN』(3月19日付)によれば、ロシア国営テレビは17日、ロシア第331親衛空挺連隊の指揮官ら少なくとも5人の軍要員が戦死したと報じた。空挺部隊は、開戦と同時に先陣を切って攻撃体制に移ったが、ウクライナ軍に迎撃されて作戦の失敗を示唆している。死亡したのは、大佐、大尉らである。
第331親衛空挺連隊はロシアのエリート部隊と目されているという。2度のチェチェン戦争で戦ったほか、一部の隊員は2014年から15年にかけてウクライナ東部ドンバスの紛争に直接関与した。18年5月には、モスクワの赤の広場で行われた戦勝記念日のパレードに参加したほど。ロシアの花形部隊であったので、その連隊指揮官の戦死は痛手に違いない。
米国の情報当局は、2月24日のウクライナへの侵攻開始から約3週間のロシア兵の死者数を約7000人と推定している。『ニューヨーク・タイムズ』(3月16日付)が報じた。ロシア軍の死者数について、1万3500人とするウクライナの主張と498人とするロシアの主張の中間水準でもある。7000人は、第2次世界大戦における硫黄島での36日間の戦闘で死亡した米海兵隊員(6821人)数とほぼ同じという。
硫黄島の激戦はその後、日米双方から映画化され戦争の悲劇を伝えている。その激戦による米軍死者数と匹敵する犠牲者が、ウクライナ戦争21日間でロシア軍にもたらされたのだ。プーチン氏に痛手であることは間違いない。
英国『BBC』(3月17日付)は、「プーチン大統領、今後はメンツを保つ方法を探る ウクライナ侵攻」と題する記事を掲載した。
最悪の戦争にも終わりは来る。時にそれは、1945年のように、死闘を戦い抜かなければ終わらないこともある。だが多くの戦争は、誰も完全には満足できない合意で終わる。それでも、少なくとも流血は止まる。
(1)「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、面目を保つ方法を探っている。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、すでに外交官としての並外れた技量を見せており、ロシアの介入を取り除くため自分と国民が受け入れられることなら、進んで言い、進んで行動するのは明らかだ。ゼレンスキー氏には、譲れない点が1つある。ウクライナがこの恐ろしい経験から、結束した独立国家として浮上することだ。ロシアの一地方としてではなく。プーチン大統領は当初、ウクライナをロシアの一部にしてしまえると考えていたようだが」
ウクライナが、絶対に譲れない点は、独立国家としての存在である。これさえ,達成できれば譲歩の余地があると示唆している。
(2)「プーチン大統領にとっていま大事なのはただひとつ、勝利宣言だ。この不必要な侵攻でロシアの面目が傷ついてしまったことを、たとえ政権内の全員が承知していようと、それは構わない。プーチン大統領が、ロシア国民の大多数の支持を得ながら、この悲惨な戦争から抜け出すにはどうしたらいいのか。まず、ウクライナに近い将来、北大西洋条約機構(NATO)加盟の意図はないと、場合によっては同国の憲法に書かせて、確約を得ることだ。ゼレンスキー大統領は、すでにこれに向けて筋道をつけている。そしてウクライナは、思うように行動する自由を手にする」。
プーチン氏の必要なのは、メンツであり勝利宣言である。ウクライナは、それをロシアにくれてやり、代わりに真の自由を手にすることだ。
(3)「ただし、簡単なのはここまでだ。NATO加盟は諦められるとしても、EUにはすぐに加盟したいと願うゼレンスキー大統領とウクライナの切迫した思いに、上手に対応するのはもっと難しい。ロシアは、ウクライナのEU加盟にも、NATO加盟と同じくらい、強く反対しているので。ただし、それすらも迂回(うかい)する方法はある」
ウクライナは、NATO加盟を諦める代わりに将来、EU加盟を迂回して実現する。中立国が、EUに加盟する道を探ることだ。
(4)「ウクライナにとって何より受け入れがたいのは、ロシアによる領土の簒奪(さんだつ)だ。ロシアはかつて友好協力条約に署名し、ウクライナの領土を保全すると厳粛に約束しているのだが、実際にはこれに真っ向から抵触している。そのためウクライナは、2014年にクリミアをロシアに奪われた。このことを、ウクライナはいずれ何らかの形で、正式に容認せざるを得なくなるかもしれない。ロシアは明らかに、すでにロシアの実効支配下にあるウクライナ東部は手放さないつもりだし、それ以上にウクライナの国土を手に入れようとするかもしれない」
ウクライナは、ロシアが占領しているクリミア半島をロシア領土と認め、ウクライナ国土を守ることに全力を挙げるべきである。その際に参考になるのが、フィンランドとロシアの戦争である。
(5)「ヨシフ・スターリンは1939年、かつてロシア帝国の一部だったフィンランドに侵攻した。ロシア軍はあっという間に快進撃を果たすはずだと、スターリンは確信していた。冬戦争は1940年まで長引き、ソヴィエト軍は屈辱にまみれ、フィンランドは超大国に見事に抵抗したことで相応の国民的誇りを手にした。フィンランドは領土の一部を失ったが、それはスターリンやプーチン氏のような専制君主がこうした戦争をやめるには、勝ったかのように見せかけなくてはならないからだ」
フィンランドは、ロシアとの戦争に勝利した。だが、失った一部の領土をロシア領として認め、ロシアに形だけの「勝利者」というメンツを与えたのだ。
(6)「その見せかけのために、フィンランドは領土の一部を失った。しかしフィンランドは、最も重要で、最も不滅なものを維持した。自由で、自己決定できる国としての完全な独立だ。現時点でウクライナは、ロシアの攻撃を実に次々と撃退しており、おかげでプーチン氏の軍は実行力に乏しい弱々しい存在に見えている。それだけに、今のウクライナなら、フィンランドのような勝利が可能なはずだ。ロシア軍が首都キーウ(キエフ)を陥落させ、これまで以上に多くのウクライナ領土を占領しない限り、ウクライナは1940年にフィンランドがそうしたように、国としての実体を維持するだろう」
ウクライナは、フィンランドの対ロシア戦争の教訓を参考にして、自由を確保すべきである。
(7)「ウクライナが、クリミアと東部の一部を失うのは、苦く、違法で、完全に不当な損失だ。しかしプーチン氏が勝者となるには、これまで以上にはるかに破壊力の強い武器を投入しなくてはならない。戦闘開始から3週目に入った今の状況からして、この戦争の真の勝者が誰なのか、本気で疑問視できる人はいないはずだ」
下線部分は、ロシアのウクライナ侵攻が開戦3週間の推移で失敗であったことを証明している。ウクライナは、ロシアに花を持たせ、実質的利益を確保することである。