ウクライナ軍は、旧ソ連時代の兵器体系に慣れ親しんできた。この特性を生かすべく、米国は数十年前に入手した旧ソ連製防空システムをウクライナ軍へ提供する。この意表をつく作戦にロシア軍は驚くであろう。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月22日付)は、「米、旧ソ連製ミサイル防衛システムをウクライナに提供」と題する記事を掲載した。
米国はウクライナ軍を支援するため、何十年も前にひそかに入手した旧ソビエト連邦製兵器をウクライナに提供している。複数の米当局者が明らかにした。
(1)「米国は、情報専門家に点検させ、米軍の訓練に役立てる目的で少数の旧ソ連製ミサイル防衛システムを入手していた。今回ウクライナに提供するのは対空ミサイルシステム「SA-8」など。ウクライナ軍はソ連解体後にこの種の兵器を受け継いでおり、慣れている」
ポーランドが、ソ連製戦闘機「ミグ21」をウクライナへ提供したいと米国へ提案した件は、米国の反対で白紙になった。米国は、ロシアとの直接戦闘を回避するのが基本戦略である。米国の最大の「仮想敵」は中国である。雌雄を決する「世紀の戦い」の前に、中国へ手の内を見せる戦争をしたくないのだ。それだけ、余裕を残したいという戦術である。
(2)「米国防総省は、ほとんど知られていない旧ソ連製兵器を提供するという判断についてコメントを控えた。バイデン政権はウクライナの防空能力の強化に取り組んでいる。米当局者によると、ウクライナに提供する兵器にベラルーシの「S-300」は含まれない。米政府はウクライナの防空能力を高め、同国が設定を要請している飛行禁止区域(NFZ)を実質的につくり出したい考えだ」
米国は、旧ソ連製の対空ミサイルシステム「SA-8」などをウクライナへ提供するという。ウクライナが、米国へ切望しているロシア機の飛行禁止区域(NFZ)設定に代わる機能を構築する意向である。NFZ設定には、NATO(北大西洋条約機構)も否定している。設定によって、ロシア軍との直接戦闘に陥るリスク回避が目的である。戦線拡大が、人命損失を招くという理由である。
『ウォール・ストリート・ジャーナル(3月22日付)は、「ロシア、ミサイル攻撃多用 ウクライナへ圧力強化」と題する記事を掲載した。
ロシアはウクライナの首都キエフやオデッサなど各地への攻撃を続けている。ウクライナに南部と東部の領土を放棄させることを狙い、ロシアは作戦の転換を図っているとの見方がある。
(3)「ロシアの軍事侵攻に停滞が目立つ中、民間人が住む地域への空爆が増えてきた。ウクライナ政府への圧力を強化し、譲歩を引き出したり要求をのませたりすることを目的とした消耗戦の様相も呈している。一方、ジョー・バイデン米大統領は今週、欧州を訪れる。対ロシア制裁や人道支援などについて、北大西洋条約機構(NATO)や先進7カ国(G7)、欧州連合(EU))の首脳らと話し合うとみられる。ロシア外務省は21日、米国との2国間関係は「崩壊寸前」だと警告した。同日に米国のジョン・サリバン駐ロシア大使を召喚し、ウラジーミル・プーチン大統領を「戦争犯罪人」と呼んだバイデン氏に抗議した」
ロシアは、市街戦による被害増大を恐れて、ミサイル攻撃を行っている。これによって、ウクライナ側を恐怖に陥れ、ロシアに有利な停戦に持込もうという狙いだ。ウクライナ側は、停戦にはウクライナ国民の賛成が必要と切り返している。ミサイル攻撃の恐怖に屈しないという意思表示なのだ。
(4)「戦闘が膠着状態に陥っているキエフ周辺では、ロシア軍は砲撃や長距離ミサイル攻撃でウクライナ軍の陣地破壊を狙ったとみられ、21日は集中砲撃の轟音がほぼ絶え間なく鳴り響いた。ロシアは、武器庫として使われているとみなすショッピングモールを破壊した。ロシア国防省は21日、攻撃の様子を映した動画などを公開。ウクライナがキエフ近くの前線にいるロシア軍に向けてミサイルを発射するために駐車場を使っていた証拠なども示されているとした。ウクライナ当局によると、この攻撃で少なくとも8人が死亡した」
ロシア軍が、下線のようなミサイル攻撃の動画を公開している理由は、ウクライナ市民へ厭戦気分を高めて、ロシアに有利な停戦条件を引き出す狙いである。
(5)「ウクライナ側では、ロシア工作員が潜入して自軍のための標的探しを行っているとの懸念が広がっている。キエフの市長は現地時間21日午後8時から35時間の外出禁止令を発表した。南部の港湾都市マリウポリでは、ロシアがウクライナ軍に投降を要求。ウクライナのイリナ・ベレシチューク副首相は投降の選択肢がないと述べ、ロシアに対して民間人を安全に退避させるよう求めた」
ウクライナ人が、ロシアへ抱く敵愾心は価値観の違いに基づく。ロシア人の中世的道徳観に対して、ウクライナ人は親西欧の近代価値観に憧れているのだ。旧ロシア帝国への郷愁は、ウクライナ人にゼロである。こういう状況で、ウクライナがロシアへ「白旗」を掲げる可能性はない。ロシアは、無益な戦争を仕掛けていることに気付くべきなのだ。