ロシア軍は、武器・弾薬・兵士の「戦闘三点セット」が底をつくという「軍事大国」らしからぬ異常事態に落込んでいる。ウクライナ側は、こういう苦衷をすべて把握しており、ロシア軍を追詰める展望を明らかにする余裕を見せている。それによると、年内にヘルソン州を奪回し、来年夏までに戦闘を終わらせる計画を立てている。
だが、ロシア軍にもメンツがある。ヘルソン州が簡単に奪回されると、クリミア半島への水源確保などに支障を来たすことから、ドニプロ川西岸に塹壕を掘るなどして抵抗を続ける構えを見せているという。
米『CNN』(10月21日付)は、「ロシア軍、南部反攻の阻止に注力 ウクライナ軍参謀本部」と題する記事を掲載した。
ウクライナ軍参謀本部のオレクシー・フロモウ氏は21日までに、ロシア軍の最優先任務は南部前線を維持することだとの見解を示した。
(1)「フロモウ氏によると、ロシアは南部ヘルソンに向かうウクライナ軍を押しとどめるため、塹壕を掘ったり追加のリソースを投入したりする策を講じている。ロシア軍は部分的動員の第1波の助けを借りつつ、ドニプロ川西岸に展開する兵士を増やすことで南部前線を維持する計画だという。水路の要衝であるドニプロ川では最近、両岸で戦闘が発生している。フロモウ氏はまた、ヘルソン州に40個を超えるロシア軍の大隊戦術群が展開していることも示唆した。1個大隊戦術群は通常、約1000人の人員で構成される」
ドニプロ川西岸に展開するロシア軍は、これまで2万5000人程度とされたが、新たな情報では、40個を超える大隊(約4万人)という大部隊を結集している模様。ロシアが、残存兵力をかき集めて投入している感じだ。ただ、ドニプロ川西岸のロシア軍はウクライナ軍による高機動砲「ハイマース」による攻撃で、兵站線が潰され孤立させられている。すでに、ロシア軍総司令官は撤退を示唆するほど苦戦を強いられているほどだ。
(2)「プーチン政権にとって、ヘルソンやザポリージャ、ミコライウといった南部方面は、クリミア半島につながる陸上回廊や半島への水供給を維持する観点から戦略的価値がある。ミコライウ州やオデーサ州の制圧に向けた橋頭堡(ほ)を将来的に築き、ウクライナの海洋国家としての地位を奪う意味でも南部は戦略的価値が高いという」
ウクライナは、西側諸国の武器支援によってロシア軍を追詰めている。ただ、ロシア軍も簡単に撤退できない事情がある。ヘルソン州の持つ象徴的意味合いだ。ヘルソン州からの撤退は、ウクライナ侵攻が敗北したというイメージになる。ロシア軍も引くに引けない苦しい立場であろう。それでも、ウクライナ側は最終的な勝利を確信している。
『CNN』(10月20日付)は、「来夏までにウクライナ勝利、ロシアの敗北必至 国防省情報総局長」と題する記事を掲載した。
ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノフ総局長(少将)は20日までに、ウクライナは今年末までに「重要な勝利」を収め、戦争は来年の夏までに「終わるであろう」との予測を示した。
(3)「情報総局が公表した発言内容で、ロシアの敗北は不可避であって止められないとし、ロシアの破壊につながるだろうとも主張。ウクライナが握るとする重要な勝利については「まもなくわかるだろう」とした。この勝利に、ロシアが占領するウクライナ南部のヘルソン市が含まれることを期待するとも述べた。ウクライナ軍はここ数週間、同市などで大きな戦果を得ている。総局長は「来年春の終わりには戦争は終わるであろうし、夏までには全てが終わるであろう」とも占った」
下線のように、ロシア軍の敗北を見通す「強気」観測を披露するに及んでいる。これは、戦局に対する絶対的な自信をのぞかせている証拠であろう。西側諸国50ヶ国の軍事支援を受けて、「負けるはずがない」という不敗の自信を見せていると言えよう。ロシア軍の士気の低さと武器弾薬の欠乏が、その最大の拠り所であろう。
(4)「ウクライナが1991年時点での国境線を取り戻す意向も表明。2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ・クリミア半島と親ロシア派勢力が占領した東部のドネツク、ルハンスク両州の奪回を意味するとした。また、ロシアはウクライナで核兵器の投入はしないだろうとの見方も表明。理論的には使うことができるだろうが、そうなればロシア連邦の崩壊への道のりを速めるだけとなると指摘。「彼らはこのことを十分に理解しているし、我々が望むほど愚かではない」とも説いた」
ウクライナ軍が、1991年の国境線を取り戻すとは、クリミア半島まで奪回する意思を示している。こういう最終局面で、ロシア軍は核を使う懸念も残っている。ただ、ロシアが核を使えば、ロシアとプーチン氏の国際的な立場が消える懸念もつきまとっている。核を使って、「最終勝者」になれる保証がないのだ。
(5)「また、「ロシア大統領府の指導者たちは、ウクライナ戦争の主要な目標について一致しており、それは敗北を喫しないことだ」と強調。「ハト派」もいれば「タカ派」もいるが、共に情勢が非常に悪化していることは認識しているとし、現状から抜け出すための方途についての意見が若干異なっているだけだと説明した。その上で、「一部の者は戦争をやめ、ある種の平和的な解決方法を模索すべきと明確に理解している」とし、「(侵攻を)続けなかったり、敗れたりしたら、ロシアは存在しなくなると判断している者もいる」と続けた」
ロシア国内では、「ハト派」と「タカ派」が対立しているという。世上、プーチン氏がすべてを決めているとされるが、核だけは別格な感じである。西側は、軍部自身に対して「核投下への報復」を通告済である。仮に、プーチン氏が投下を命じても、軍部が拒否するという事態も想定の一つに入れている感じだ。
(6)「ロシア大統領府内の現在の判断について、「もはや勝利の問題ではなく、敗北しないことが問題になっている」と分析。ウクライナが勝利すれば、「非常に深刻な政治的なプロセスが、現在のロシア連邦の組織の変化と組み合わせた形で始まるだろう」とも締めくくった」
ウクライナ軍の勝利は、ロシア連邦の解体をもたらす。また、核使用の際もロシア連邦は解体の憂き目に遭おう。いずれに転んでも、ロシアには過酷な運命が待っている感じだ。