勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

    テイカカズラ
       


    中国は、台湾の民意によって就任した頼総統に対して、その演説が中国への「恭順」の意を示さず、対等であると主張したことに怒っている。早速、得意の台湾包囲の演習を始めたところだ。まさに、中国の「帝王感覚」をみせつけている。台湾は、中国の一省にすぎないという認識の表明である。 

    この台湾包囲の軍事演習は、どんな意味を持っているのか。 

    米インド太平洋軍のスティーブン・スクレンカ副司令官(海兵隊中将)は5月23日、中国人民解放軍が2023年に台湾海峡で実施した軍事演習で台湾侵攻を想定した演習が行われたと指摘した。海上・上空の封鎖、上陸作戦、他国軍の介入への対応などを想定した訓練を実施したと述べた。ただ、中国軍の侵攻が差し迫っているわけでなく、不可避でもないとの見解も示した。オーストラリア・キャンベラの記者クラブで述べた。『ロイター』(5月23日付)が報じた。 

    台湾包囲の演習は、台湾侵攻を想定したものだと指摘している。ここまで手の内をみせてしまえば、台湾防衛の手がかりを与えるようなものであろう。台湾威嚇手段ともみえるのだ。

     

    『毎日新聞』(5月23日付)は、「習近平政権はなぜそんなに怒るのか、台湾包囲し軍事演習する訳」と題する記事を掲載した。

    中国の習近平部は、台湾の頼清徳新総統の20日の就任演説について中台を別の国と見なす「二国論」だと断じ、大規模な軍事演習に踏み切った。「懲罰」という言葉を使い、台湾の民意を一顧だにしない強硬姿勢を示した。中台関係の「現状維持」の解釈を巡り、認識のずれが生じることで緊張が高まるリスクもあらわになった。 

    (1)「これまで中国政府は、台湾が中国に属するという「一つの中国」原則の受け入れを対話の条件として台湾側に突きつけ、歴代の台湾総統の就任演説に神経をとがらせてきた。頼氏は今回の演説で「現状維持」を表明しながらも、「中華民国台湾は主権独立国家」「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」「(台湾も)我々の国家の名称」など台湾の独自性も強調していた。習指導部は、同じ民進党の蔡英文前総統より大きく後退する発言だとして武力による威圧を選択した模様だ」 

    頼総統は、本省人(台湾出身)である。それだけに中国本土に対しては、「対等」という意識であろう。これは、台湾に出自を持つ全ての人たちに共通している。国民党支持者の多くは、本土が出自の外省人である。日本撤退後に移ってきた人たちが多いだけに、「望郷の念」は強い。この人たちは統一派である。中国にとっては、「平和的統一」が困難な状況にある。

     

    (2)「中国紙『環球時報』(電子版)は23日の社説で、2016年の蔡氏による初の就任演説は「不完全な答案」だったが、頼氏の演説は「答案用紙を破り捨てるものだ」と厳しく批判した。中国政府は一貫して頼氏を「トラブルメーカー」と批判しており、台湾海峡の緊張を高めた責任は頼氏にあると主張して、演習を正当化するとみられる」 

    中国は、台湾本省人嫌いが徹底している。頼氏をトラブルメーカーと呼んでいる。これも、まことに礼儀を弁えない話だ。 

    (3)「習指導部は中台統一を悲願とし、国民のナショナリズムに訴えてきた。それだけに国内に弱腰の姿勢は見せられないという内向きの論理も働いたとみられる。だが、力を振りかざすほど、国際社会で高まる対中脅威論に説得力を持たせるリスクもある。実際、呉江浩・駐日中国大使が頼氏の就任式当日の20日、日本が中国の分裂に加担すれば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれることになる」と発言して物議を醸した」 

    中国は、清国時代から台湾に対して「化外(けがい)の地」(野蛮な土地)という認識であり、真面目な統治が行われなかった。日本統治へ任せたのは、「渡りに船」であったのが真相である。台湾の近代化は、日本の植民地時代に基盤が成立した。これが、台湾近代史の裏面である。

     

    (4)「本来、経済の停滞に直面する習指導部は外交関係の安定を必要としている。そのジレンマがうかがえたのは演習の規模だ。ペロシ米下院議長(当時)の訪台に反発して弾道ミサイルまで発射した22年8月の大規模演習と異なり、今回は事前に航行禁止区域を公表するほど大がかりなものではなかった。米国などを過剰に刺激しないよう規模や内容を考慮した可能性がある。一方、台湾住民は事態を冷静に受け止め、市民生活に混乱は見られなかった。台湾外交部(外務省)の報道官は「台湾は民主主義の理念を守り続ける。脅迫や圧力を受けても変わることはない」と強調した」 

    民主主義という点では、台湾が中国を引離している。それだけに、台湾で民主主義を捨てて、中国本土の「非言論」社会へ移行したという人たちは限られるであろう。中国の焦りはここにある。 

    (5)「習指導部が今後も軍事、外交、経済などあらゆる面で頼政権に圧力を加え続けるのは必至だ。ただ、こうした強硬姿勢が台湾の「中国離れ」を招き、民進党の長期政権につながった。武力の誇示に頼らざるを得ない現状は、中国の統一戦略の手詰まり感を映し出してもいる」 

    中国が、台湾包囲演習を重ねていけば、台湾の中国離れは一段と進むであろう。下線部のように、中国は台湾政策で手詰まり感を強めている。

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    中国が警戒する頼清徳(ライ・チンドォー)総統は、5月20日に台湾総統へ就任した。就任演説で「独立論」を封印し、中国と対等の立場で対話に応じる考えを示した。米国など国際社会との連携で、中国への抑止力を効かせると説明した。演説の冒頭で、「(『一つの中国』を前提とした)中華民国憲法の体制に基づき、重責を担う」と語った。中華民国(台湾)憲法では、一つの中国を前提にしているからだ。

     

    中国は、台湾が独立論を主張すれば即刻、「侵攻」する体制を整えている。それだけに、頼総統は「独立論」を封印するほかない。米国からも強く要請されている。中国へ口実を与えないためだ。頼氏には、慎重な言動が望まれるのだ。

     

    『中央日報』(5月20日付)は、「『中国の台湾』vs『世界の台湾』」と題する記コラム掲載した。筆者は、ユ・サンチョル中国研究所長/チャイナラボ代表である。

     

    頼清徳氏(65)が今日、台湾の新しい総統になる。中国の思いは複雑だ。いくつ理由があるが、まず台湾の民心がますます統一から遠ざかる様相だ。台湾国立政治大学の選挙研究センターが2月に発表した世論調査によると、統一を望む台湾人は7.4%にすぎなかった。半面、独立支持は25.3%にのぼった。61.1%の多数は現状維持を選択した。このような構図の中で総統選挙をしたため独立性向の民進党が勝利しやすい。

     

    (1)「頼清徳氏は、前任総統の蔡英文氏よりも強硬な独立主義者だ。中国がいう「中国の台湾」でなく「世界の台湾」と主張する。中国の祖国統一方針に対する明確な反対意思表示だ。未来はどうなるのか。中国の立場ではさらに絶望的だ。頼氏のランニングメイトで副総統となった蕭美琴氏を見るとそのように推察できる。1971年生まれの蕭美琴氏は、父が台湾人、母が米国人、生まれたところは日本だ」

     

    頼氏が、総統を2期務めたと仮定し、蕭副総統が後継としてさらに2期総統を務めると8年になる。今後、16年の民進党政権が続くことになる。これまでの蔡総統時代で8年過ぎているので、実に24年もの民進党政権になりかねないのだ。習近平中国国家主席にとっては、耐えがたい屈辱になるだろう。そうなると、「中国の台湾」でなく、「世界の台湾」という位置づけになる。

     

    (2)「中国は、台湾にいつも同じ血筋であることを強調する。ところが蕭氏は、どう思っているだろうか。北京よりもワシントンや東京に親近感を感じるかもしれない。中国が懸念するもう一つの原因は、台湾の民主化にある。頼氏は自身の当選を「台湾が民主主義と権威主義の間で民主主義の方に立つことにした」とし、国際的に民主主義同盟国と肩を並べるという。また、2300万人の台湾人の意思で台湾の将来を開くと話している」

     

    台湾の将来は、中国が決めるのか。あるいは、台湾が選択するのかという問題になる。これは、台湾独立論と誤解されるがそうではない。独立するかしないかと関わりなく、「台湾人」のメンタリティは中国本土から離れていくという意味だ。

     

    日本の植民地時代から台湾に住んでいた人々(本省人)は、戦後に本土から渡来した人々(外省人)と別の思いを抱いている。本土への愛着は希薄である。それ故、「中国の台湾」と言われてもピンとこないのだ。それよりも、台湾を統治した日本への親しみと憧れがはるかに強い。これは、日本が撤退後に本土から進出した外省人が、本省人を理由もなく弾圧したことへの反発である。この結果、植民地時代の日本の方が、はるかに愛情を持っていたと評価しているのだ。

     

    (3)「これは14億人の中国人全体でなく、その10%にもならない共産党員の意志に基づいて動く中国に対する批判だ。頼氏は内閣の構成でも成熟した民主国家のパターンを見せる。国防相に有名弁護士の顧立雄氏を任命した。文人に国防を任せたということだが、国防を単純に軍事問題でなく政治問題として認識するためだ。また外相には中国の村民自治を研究した学者出身の林佳龍氏を選択した」

     

    頼政権は、文人を国防相に任命した。外相も学者出身である。台湾のソフト路線を強調するのであろう。

     

    (4)「台湾最高情報機関の国家安全局のトップも、軍出身でなく学者出身の蔡明彦氏を任命し、文民統治の雰囲気を漂わせた。国家安全保障を前に出して取り締まりと統制の手綱を引く中国とは完全に違う姿だ。中国は、2004年に台湾民進党の陳水扁氏が総統に再選した当時、大きな衝撃を受けたという。台湾の民主化ロードマップが将来、共産党の権力独占に大きな脅威になると考えたからだ。頼氏の就任式を見る中国共産党の内心は20年前とそれほど変わらないようだ」

     

    台湾の民主化路線は、ますます固まっていく。香港の「中国化」によって、台湾の人々は、さらに「統一」を望まなくなっている。外省人の代替わりが進めば、一段と中国離れが確固としたものになるであろう。中国自身が、民主化路線へ変わらなければ平和裏の統一は困難であろう。

     

     

    あじさいのたまご
       

    中国は、国家安全省の法律執行に関する新しい規定が7月1日から施行される。電子データに関する取り締まりに重点が置かれており、外国からの入国者を含め、スマートフォンなどの内部に保存された文書や画像に対する検査が強化されるとみられるという。

     

    『時事通信』(5月15日付)は、「スマホ内部検査など強化、中国国家安全省の新規定」と題する記事を掲載した。

     

    国家安全省は4月26日、国家安全機関の行政法律執行手続きに関する規定(以下、規定1)と刑事事案処理手続きに関する規定(規定2)を発表した。規定1は反スパイ法、国家情報法、行政処罰法、行政強制法に基づいて、規定2は刑事訴訟法の実施を保障するため制定された。

     

    (1)「注目されるのは規定1の「電子設備、施設、プログラム、ツール」に対する検査規定。事実上はスマホ、パソコン、タブレットなどを指す。検査は、国家安全機関が市レベル以上の同機関責任者の承認を経て、検査通知書を作成して行うとされる。ただし、緊急の状況下では、法律執行人員が市レベル以上の国家安全機関責任者の承認だけで検査をその場で実施できる」

     

    中国へ入国の際に、スマホ、パソコン、タブレットなどが検査される。

     

    (2)「反スパイ法にも同じような規定があるが、検査は「反スパイ工作の任務を執行している時」に行うと明記。検査担当者も国家安全機関職員だけで、それ以外の法律執行人員の記述はない。新規定は空港税関などによる日常的検査を想定していると思われる。また、反スパイ法に2回しか出てこない「電子」という言葉が規定1に16回、規定2には86回も登場。その多くは「電子データ」である。スマホなどによる反体制的コンテンツの国内持ち込みや拡散、機密の国外持ち出しに対する警戒を強めているようだ」

     

    スマホなどによる反体制的コンテンツが、国内へ持ち込まれ拡散されること。また、機密の国外持ち出しに対する警戒姿勢でもある。中国は、「戦時体制」に入ったようなイメージである。

     

    (3)「中国治安当局のこのような動きを受け、台湾行政院(内閣)大陸委員会は5月9日、中国本土では「国家安全保障」の定義が膨張して法律執行権力が拡大していると指摘し、本土に行く場合は「高いリスク」について考えて、本当に必要かどうか慎重に判断するよう呼び掛けた。「なるべく行くな」ということだろう。大陸委は前記の新規定について、旅客の電子機器を検査する権限を明文化しており、個人の権益に対する重大な侵害で、各界の萎縮効果も大きくなると警告。「中華民族の感情を害する」と認定されたものはすべて違法とされる恐れがあるとの見方を示した」

     

    台湾当局は、できるだけ中国本土へ行くな、という警告である。中国が、ここまで対外的に警戒心を強めているのは、経済危機がもたらしているものだろう。

     

    (4)「一方、中国治安当局の事情に詳しい香港の消息筋は、「中国税関はこれまでも、旅客の携帯電話を検査することがあった。新規定で検査がやりやすくなるというだけだ」と解説した。2019年に香港で反政府デモが続いていた頃、中国税関は香港人旅客の携帯電話を検査して、暴動の写真などを削除させていたという。同筋は「あなたの携帯電話が調べられても、中に反中国共産党の文書や中国の重要内部文書がなければ、心配することはない。他国でもやっていることだ」と述べた。しかし、多くの人にとって、スマホやパソコンの中のデータが問題視されるどうか以前に、内部データを勝手にチェックされることが問題なのであり、「心配するな」というのは無理な話である」

     

    言論の自由が保障されている国民からみると、中国当局は何を恐れているのか。中国の弱点を指摘する言説に対して、神経過敏になっている証拠であろう。

     

    (5)「コロナ禍が終わった後も、海外から中国を訪れる旅客数はコロナ禍前よりはるかに少ない状態が続いている。習近平政権が改革・開放の継続を唱えつつも、実際には排外的姿勢を強めているためだ。その上、中国の空港に着いたら、やたらとスマホの中を調べられるということになれば、訪中する外国人はますます減っていく」

     

    中国は、戦時中の日本のように言論の自由を奪っている。当局の意向に反する言動を取り締まっているので、海外かもこうした類いの情報を遮断したいのであろう。

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    半導体市場のけん引役は、スマートフォンから人工知能(AI)へ代わった。世界最大の半導体受託生産会社(ファウンドリー)である台湾積体電路製造(TSMC)が18日、決算発表した。2024年13月期は、売上高・純利益ともAI向けが好調で、同期として過去最高だった。大口顧客である米エヌビディアとの「最強タッグ」が、市場の再成長をけん引する形だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月18日付)は、「TSMC、NVIDIAとAIで『最強タッグ』 半導体回復けん引」と題する記事を掲載した。

     

    世界の投資家に注目されたTSMCの決算は、13月期の純利益が前年同期比9%増の2254億台湾ドル(約1兆円)、売上高は17%増の5926億台湾ドルだった。23年末まで半導体市況の低迷に苦しんだが、4四半期ぶりの増収増益となった。TSMCの魏哲家・最高経営責任者(CEO)は「AI向けの半導体はこの先数年間、成長の最大のけん引役になる」と語った。

     

    (1)「業績の反転攻勢を支えるのは、生成AI向け半導体の設計・開発で躍進するエヌビディアだ。TSMCは1990年代からエヌビディアと密に取引し、現在の主力製品「H100」「H200」などの生産を独占的に手掛ける。TSMCは、半導体の受託生産の最大手で世界シェア6割を占める。特にAIで用いる最先端の半導体の生産はTSMCが市場をほぼ寡占している。エヌビディアはAI向け半導体の世界シェアが約8割ある」

     

    エヌビディアは、AI半導体の世界シェアが約8割である。TSMCが、生産を受託している。折からのAIブームでこの両社は絶好調だ。

     

    (2)「AI向け半導体を設計・開発するエヌビディアと生産を担うTSMCが相互に依存しながら、AI向けの半導体市場を二人三脚で広げている構図だ。成長の主役の交代は、TSMCの業績が裏付ける。用途別の売上高をみると、AI関連のサーバーを含む「HPC」向けが46%と、スマホ向け(38%)を大きく上回った

     

    TSMCの売上は、AI向けが46%、スマホ向けは36%である。ここからみて、AI向けが急ピッチで増えていることが分る。AI半導体が、スマホ向けを抜いたのは象徴的である。AI時代の到来だ。

     

    (3)「TSMCのCEO魏氏によると、サーバーに搭載されるAI向け半導体は24年にTSMC売上高の10%台前半を占める見通しだ。23年比で2倍以上となる。同比率は28年までに20%以上に達するという。スマホやパソコン向けは回復が遅れるなか、AI向けの高単価の先端品が成長を支えている」

     

    AI向け半導体は高価である。スマホやパソコン向け半導体市況の回復が遅れたので、AI半導体が格差をつけている。

     

    (4)「サーバーを大量に使うデータセンターの投資は拡大している。米オラクルは18日、今後10年間で日本国内のデータセンターに80億米ドル(約1兆2000億円)を投じると発表した。米マイクロソフトや米アマゾン・ドット・コムを合わせたクラウド3社が、24年に入って表明した主にデータセンターを対象とする対日投資額は計4兆円に迫る」

     

    今年に入って、米国クラウド3社が日本での投資計画を相次いで発表した。合計は4兆円にも迫る。日本経済のAI化が急速に進む見通しだ。

     

    (5)「調査会社テクノ・システム・リサーチによると、先端半導体の23年の月間生産能力は「45ナノ品」でTSMCが13万枚に対し、競合の韓国サムスン電子は6万枚だった。最新の「3ナノ品」も7万5000枚と1万枚で差は大きい。さらなる投資も進める。次世代の先端半導体「2ナノ品」は25年の量産開始を目指し、台湾北部と南部の2拠点で同時に工場建設を進めている。8日には先端品の2工場を建設中の米アリゾナ州に、第3工場を設ける計画を公表した。サムスン、韓国メモリー大手のSKハイニックス、米インテルも20年代後半にかけてAI普及による半導体需要拡大を見据えた先端投資を積み増している」。

     

    TSMCは、サムスンに生産で差をつけている。最新の「3ナノ品」は、23年の月間生産能力でTSMCが7万5000枚。サムスンは、同1万枚で大きな差がついている。TSMCの工場増設で、両社の差はさらに拡大する。

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    台湾のTSMCは、今や世界一の業績を誇る半導体企業である。筑波市に半導体研究所を設けており、日本の半導体製造装置や素材企業が参加している。最先端半導体には、日本企業の協力が不可欠であるからだ。その日本が、国策半導体企業ラピダスを設立してTSMCが手がけようとする「2ナノ」(10億分の1メートル)の最先端半導体へ進出する。これに、半ばショックを受けているのがTSMCだという話が持ち上がった。 

    『東洋経済オンライン』(4月11日付)は、「TSMCが日本の補助金よりも欲した“2つの取引先”」と題する記事を掲載した。 

    今、日本は半導体特需で沸きに沸いている。この熱狂の中心にいるのが半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手、TSMCだ。この巨大企業を創業期から取材してきた台湾のハイテクジャーナリスト林宏文氏が、『TSMC世界を動かすヒミツ』を発刊した。以下は林氏とのインタビューである。

     

    (1)「TSMCが、日本で工場を建設する意義や目的は、TSMCのシーシー・ウェイCEOが過去に明確に述べている。すなわち「重要な顧客企業のため」なのだと。日本政府に請われたから、補助金が得られたからではないのだと、そうはっきり語っています。重要な顧客の1つは、トヨタ自動車です。ウェイCEOは熊本工場の開所式にトヨタの豊田章男会長と面談した際、「(熊本工場は)TSMCが日本で半導体製造に乗り出す第一歩。ぜひトヨタの支援をいただきたい」「(自動車向け半導体が)今はTSMCにおいて小さな割合であっても、将来は伸びる。トヨタと一緒に成長したい」と語っている。もう1つの重要な顧客は、アップルだ。iPhoneはカメラ用の撮像素子(CMOSセンサー)を大量に消費するが、それを供給しているのはソニーグループだ」 

    TSMCは、トヨタとソニーの顧客を得たくて日本へ進出したと指摘している。ならば、熊本第一工場だけで済んだはずだ。それが、第二工場進出を既に発表している。第四工場まで九州へ建設するのは、日本の半導体製造の適地性を認識した結果であろう。トヨタとソニーは、「入り口」に過ぎない。 

    (2)「TSMCが、米国をより重視してきたのは当然だ。その姿勢に、変化が生じているのではないかと感じている。TSMCの経営陣は当初、米国のアリゾナ新工場のプロジェクトを「千載一遇の成長機会」と感じたはず。中国との半導体戦争という環境の中で、米国政府はTSMCの新工場建設に巨額の公的支援を約束したからだ。今となっては、米国政府はTSMCの有力ライバルであるインテルに、より大規模な支援を行うことが明らかになっている。TSMCの米国新工場の建設はいろいろの要因で遅れている」 

    TSMCは当初、米国を高く評価していたが、しだいに熱が冷めている。米国政府が、TSMCの有力ライバルであるインテル支援に傾いているからだ。この反動で、TSMCは日本へ軸足を移していることは間違いない。日本の「物づくり文化」を頻りと絶賛しているからだ。

     

    (3)「日本が半導体産業を振興すること自体に成功のチャンスがあると思う。半導体製造装置において、日本は米国、オランダと並ぶ最重要国です。多くの半導体材料でも、日本企業がトップシェアを掌握している。これは日本企業が長期的なR&D(研究開発)を重視してきた成果だ。息の長いR&D重視姿勢は、台湾よりも日本が顕著だ。製造装置や材料の強みがさらに増す政策であれば、日本にとって大きな価値があると思う」 

    日本の半導体製造の潜在的な能力は、台湾や韓国をはるかに凌いでいる。製造装置・素材・生産とワンセット揃っているのは、世界で日本だけだ。 

    (4)「ラピダスについては、日本の皆さんにシビアに伝えたいことがある。日本では先端半導体を作るプロセス技術が途絶えているため、ラピダスはIBMからの技術移転を選んだ。実はIBMからの技術移転は、台湾を代表する半導体メーカーも選んだことがある。しかし失敗に終わった。企業成長を決定的に遅らせるほどの大きなつまずきだ。その企業はUMC(聯華電子)である。UMCはTSMC同様、台湾政府の支援で生まれた。UMCの創業は1980年とTSMCより7年早い。ところがUMCは2000年ごろを境に、TSMCに技術や業績の面で大きく引き離された。UMCが、IBMからの技術移転を選んだ影響が大きいと考えられる」 

    IBMは、「2ナノ」で試験生産に成功している。ただの「特許」ではない。ましてや、日本は「一を聞いて十を知る」潜在的な半導体製造能力を持っている。台湾のUMCと同列に扱われては困るのだ。日本は、大学を始め研究機関参加の「オールジャパン」で取組んでいる。

     

    (5)「IBMは、今の最先端技術を使って半導体を量産したこともないし、ましてや受託製造のサービス業であったことはもちろんありません。量産ラインにおいて、どうすれば歩留まりを低減でき、半導体の品質とコストを下げられるのか。顧客からの突然の追加オーダーや、逆に思ってもみないキャンセルといった不測の事態に耐えるためには、工場の柔軟性や学習曲線をどう上げればよいのか? ラピダスはどうやって学ぶのだろうか」 

    日本は、天才的な物づくりノウハウを持っている。日本を見くびっては困る。半導体で言えば、台湾も韓国も日本の後発国である。 

    (6)「トヨタは、ハイブリッドカーや水素カーを世界に普及させる夢を抱いている。そのために先端半導体が不可欠だ。自動車産業の強みをどう伸ばすかが重要で、そこで必要な半導体を日本が設計さえすれば、TSMCがパートナーとなって製造することができるのです」 

    TSMCは、トヨタやソニーの半導体を全て受注したいのだ。それは、ビジネス動機である。日本の産業政策としては、TSMCに半導体の製造付加価値を全て吸い上げられていたのでは、国家経済が発展しないのだ。日本は、半導体植民地にならない。

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