勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    中国は、ロボットに力を入れているが、ついに戦時用ロボットが登場した。兵士と一緒に作戦行動に参加するという。だが、迎撃側が特殊電波を使えば簡単に無力化も可能であろう。そういうリスクを考えないとしたら、武器には使えない「キワモノ」になる。戦争が,戯画化されてきた。

     

    『中央日報』(11月5日日付)は、「中国、台湾上陸訓練に『オオカミロボット』初めて投入…人間・無人混合戦闘を実験」と題する記事を掲載した。

     

    中国人民解放軍が台湾上陸を仮定した実戦型軍事訓練で四足ロボットの「オオカミロボット」を初めて投入したと、中国国営メディアが4日報じた。

     

     (1)「中国中央TVCCTV)軍事チャンネルによると、東部戦区陸軍第72集団軍傘下の「黄草嶺英雄連」は最近実施した上陸作戦訓練でオオカミロボットを先頭に置いて障害物を突破し、敵陣に突撃する場面を公開した。中国兵器装備グループ(CSGC)が開発したオオカミロボットは重さ約70キロ、積載能力20キロで、5台のカメラで360度スキャンが可能だ。海岸上陸後に部隊員より先を進みながら偵察と攻撃の任務を併行するよう設計されている」

     

    最大の問題は、台湾海峡を渡りきる前に沈没させられる危険性が極めて大きいことだ。台湾は、上陸作戦を敢行できる場所が限られているので、そこを集中的に防御されれば上陸は不可能とされている。台湾侵攻は,地勢的に困難な場所である。太平洋戦争で、米軍が台湾上陸作戦を回避したのは、膨大な被害が予測された結果だ。

     

    (2)「一部のロボットが、訓練中に敵の火力で爆破されたとはいえ、中国軍が四足無人装備を単純な技術検証段階を越えて実戦応用段階に進入させたという評価だ。CCTVは「過去には戦士らが命をかけて先頭で200メートルを突破したが、今は『オオカミロボット軍団』がそれに代わる」と伝えた。香港明報によると、今回の訓練で中国軍はオオカミロボットのほか大型ドローンと高速自爆ドローンの3種類の無人装備を投入した。大型ドローンは海岸の橋頭堡の敵の陣地を爆撃し、自爆ドローンは爆発物を載せて敵の兵力や軽戦闘車両に向かって突進する戦術を試演した。オオカミロボットは突破で確保、掩蔽物提供、障害物除去などの任務を担った」

     

    台湾が、イスラエルと同様に空中防御網を敷けば、攻撃は困難とみられている。さらに、これを補足する防御手段が米国で開発されている。オオカミロボットを使い、喜び勇んで侵攻作戦を開始すれば、中国の命運はそれを機に暗転するであろう。


    (3)「中国軍の関係者は、今回の訓練が人間兵力と無人戦闘体系を統合運用する「混合編成」体制への進入を意味すると説明した。これは中国の両棲(水陸両用)作戦能力が新たな段階に発展していることを見せる信号と解釈される。ただ、軍事専門家はオオカミロボットの主要部品が外部に露出して防御力が脆弱で、偵察と突撃の任務を同時に遂行するのは難しいと指摘した。中国軍事ブロガー「大宜湾」は「ロボットの数が十分に増えて速度が向上すれば戦況が変わる」と予想した」

     

    ロボットには、自らの判断で作戦をかえられない硬直性を抱えている。一種の「特攻兵器」である。

     

    (4)「『黄草嶺英雄連』は、韓国戦争(朝鮮戦争)当時に手柄を立てた部隊で、台湾海峡作戦を担う第72集団軍の核心戦力。今回の訓練場面は中国と台湾の軍事専門家の間で注目された。オオカミロボットは9月の中国軍事パレードでも大型ドローン・無人ヘリコプター・無人艦船などと共に公開されて視線を引いた」

     

    現代戦は、情報戦でもある。ロボットが、刻々変る最前線の情勢変化を読み、作戦を判断できないだろう。それは、ロシア軍が中央集権的作戦命令に依存することと同じである。ウクライナ戦では、この弱点が100%出て、ウクライナ軍の最前線判断方式に敗れている。中国軍は、ロシア軍と同じ中央集権的作戦命令によって動いている。同じ轍を踏むだろう。

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    米国トランプ大統領はドライで、経済的利益を得るためには「何でもする」という噂が強い。その一環として、「台湾問題で中国と取引」するとの懸念が出ていた。これは、日本経済新聞がこの種の報道を何回か行なったことで強まった面もある。台湾放棄は、米国覇権の基盤を売り渡すも同然の危険な政策である。米国が、覇権をめぐって中国と対抗している渦中で、そういう無定見な政策を行なうはずがない。本欄はこういう視点で、この問題を捉えてきた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月26日付)は、「米国務長官『台湾見捨て中国と貿易協定ない』 レアアースで取引否定」と題する記事を掲載した。

     

    ルビオ米国務長官は25日、中国との貿易交渉で同国のレアアース(希土類)輸出規制緩和と米国の台湾政策修正を交換条件にするとの観測を否定した。「台湾を見捨てる代わりに貿易上の優遇措置を得る協定が結ばれることはない」と明言した。

     

    (1)「訪問先のカタールの首都ドーハで記者団に語った。台湾当局者から30日に予定する米中首脳会談の貿易交渉で合意するため、台湾問題が交渉材料になるとの懸念があると問われて答えた。ルビオ氏は、「なぜそうした懸念がなぜ生じるのか理解できない」と述べた。「台湾には多くの懸念事項があり、置かれた状況からすれば当然だが(米中首脳の)対話は両国の規模と重要性ゆえに外交的関与を維持する必要性に加え、主に貿易分野に焦点を当てている」と説明した」

     

    ルビオ氏が、国務長官としてだけではなく暫定的な大統領国家安全保障顧問として、政権中枢でいっそう広範な役割を担っている。今回のロシアへの経済制裁強化は、ルビオ氏がトランプ氏を動かした結果とみられている。ルビオ氏は、「反共」闘志でもある。米国がレアアースを欲しくて、「台湾を売った」となれば、米国と同盟を結ぶことがいかに危険かというたとえ話になるほどだろう。米同盟国は、米国が覇権国であるから同盟を結んでいるもの。その根幹である安保がぐらつけば、同盟の意味は消えるのだ。

     

    (2)「トランプ米大統領は30日、韓国で中国の習近平国家主席と会談する予定だ。台湾問題を取り上げると表明しており、台湾を含む安全保障問題と貿易で「ディール(取引)」するとの見方が浮上していた。24日に記者団から台湾に関する米国の政策変更に前向きかと問われ、トランプ氏は「いまはその件については話したくない。複雑な状況をつくり出したくない」と否定しなかった。中国が台湾への軍事威圧に出る可能性を聞かれ「そうしないことを望む。動けば彼らにとって非常に危険だ」と警告した」

     

    中国の台湾侵攻は事実上、困難になっているとの見方が強まっている。台湾の地勢的な面での難攻不落と並んで、中国経済の衰退傾向の強まりである。こういう状況を逐一把握している米国が、敵に塩を送るようなことをするはずがないからだ。

     

    (3)「米中両政府は25日、5度目となる閣僚級協議をマレーシアで始めた。トランプ氏は中国によるレアアース輸出規制に強く反発する一方、中国側も米国による中国への輸出規制を批判する。安全保障上の懸念がある製品を含み、両国が妥協点を見いだすのは容易ではない。トランプ氏は26日、アジア訪問で最初に立ち寄るマレーシアに到着した。東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席するほか、現地で参加国首脳との2国間会談に臨む。ルビオ氏は、ASEAN関連首脳会議について「このフォーラムは極めて重要だ」と述べた。「インド太平洋地域の関係者から『米国はこの地域に本当に関与するのか』とよく聞かれるが、大統領が現地を訪問することがその証左になる」と主張した」

     

    トランプ氏は、ルビオ氏への信頼度を高めている。米国内での孤立派の存在は無視できないが、米国覇権を危うくするような台湾政策を採用するとは考えられない。

     

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    中国は、大量のミサイルや無人機を同時に発射する「飽和攻撃」を得意とする物量作戦だ。これに対して台湾は、イスラエル型アイアンドーム採用(防御力90%)を採用すると同時に、AI(人工知能)によるリアルタイム識別と、無人機・無人艇による自律迎撃を組み合わせて反撃する。こうしたきめ細かい防衛網で、中国の攻撃の波を分散・吸収する能力を高める方針を固める。中国の軍事的威嚇を跳ね返す戦略を発表した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月10日付)は、「新防空システム『台湾の盾』構想 頼政権表明、イスラエル参考に」と題する記事を掲載した

     

    台湾で10日、双十節(建国記念日に相当)の式典が開かれた。頼清徳(ライ・チンドォー)政権は「台湾の盾」と呼ぶ新たな防空システム構想を発表した。中国のミサイル攻撃などの脅威に対応するのが狙い。イスラエルのミサイル防衛システム「アイアンドーム」を参考に人工知能(AI)を活用するという。

     

    (1)「台湾総統の双十節での演説は、今後1年間の施政方針に相当するとみられている。頼氏は中国の軍事的威嚇に懸念を示し「平和は実力によって実現しなくてはならない」と訴えた。「台湾の盾の開発を加速し、多層防御、高度な警戒態勢、効果的な迎撃能力を備えた防空システムを構築する」と表明した。台湾の防空システムは自前で開発した高度70キロメートルを飛ぶ弾道ミサイルを迎撃できる「強弓」や米国製の地上から迎え撃つ地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)などを組み合わせて大きく3層構造になっている」

     

    アイアンドームは、イスラエルが2011年に運用を開始した短距離ミサイル迎撃システムである。90%以上の迎撃成功率を誇るが、100%の迎撃能力ではない。この「取りこぼし部分」は、AIによって補足するという「パーフェクト防衛」を目指している。台湾は、最先端半導体製造国であるから、中国を凌ぐAIによって中国軍の攻撃をかわす戦術であろう。

     

    AIを活用するのは、リアルタイムで脅威を識別し、限られた資源で最大の防衛効果を得る点で有効である。台湾の国防白書でも、AIや無人機を活用した「非対称戦略」が強調されている。

     

    台湾が、アイアンドームの思想とAIを組み合わせた複合防衛体制を構築すれば、中国にとって台湾攻略は次のような点から格段に難しくなるとされている。

     

    1)飽和攻撃への対抗力強化

    中国は大量のミサイルや無人機を同時に発射する「飽和攻撃」を得意とする。台湾は、AIによるリアルタイムの識別と、無人機・無人艇による自律迎撃を組み合わせることで、攻撃の波を分散・吸収する能力を高めている。

     

    2)非対称戦略の深化

    台湾は「小型・機動性・自爆型」の兵器を大量に配備し、コストを抑えつつ高い防衛効果を発揮する非対称戦略を採用している。これは、中国の高価な兵器体系に対して、少数精鋭で対抗する知恵の戦術とされている。

     

    3)攻撃と偵察の一体化

    台湾の無人機は、偵察と攻撃を一体化した作戦を遂行できるよう進化しており、敵の動きをリアルタイムで把握し、即座に反撃する能力が向上している。

     

    (2)「『台湾の盾』は、米国の新しい軍事技術やAIを取り入れながらミサイルや無人機、戦闘機などの複合的な脅威に対処できる体系に組み替えるとみられる。頼氏はトランプ米政権との関係を立て直すと説明した。「米国の対台湾貿易赤字の解消に努める」と強調し、トランプ政権に秋波を送った。「台湾と米国の産業協力を深化させる」と話した。台湾のハイテク工場などの米国進出を後押しする考えを示したとみられる。「関税交渉に積極的に取り組み、合理的な関税率の実現をめざす」とも語った。トランプ政権は台湾に20%の関税を暫定的に課している。日本や韓国よりも高く、台湾の経済界では不満がくすぶっている。

     

    台湾防衛の最大の後ろ盾は、米国である。それだけに対米経済関係では、最大の注意を払って摩擦防止に努めなければならない。トランプ政権は、台湾に20%の関税を暫定的に課している。日本や韓国よりも高く、台湾の経済界では不満がくすぶっているが、我慢するほかない。

     

    (3)「中国に対しては、「武力や威圧による台湾海峡の現状変更を断念し、ともにインド太平洋地域の平和と安定を守るように期待する」と呼びかけた。1年前は「中国は台湾を代表する権利がない」と対中強硬姿勢を鮮明にしていた。秋に見込まれる米中首脳会談を前に、中国を刺激しないように抑制した可能性がある」

     

    台湾が、台湾海峡という「天然の要塞」を背景にして、きめ細かい防衛網を敷いている。これに対して中国は、空母で立ち向かう戦術が何とも時代遅れにみえるのだ。最後は、AIの技術レベルが勝敗のカギを握る。台湾は、世界最高の先端半導体技術を持っている以上、これに挑む中国の半導体技術水準が問われるであろう。

     

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    中国は、EV(電気自動車)が限界にぶつかるや、すぐにAI(人工知能)へ照準を合わせ、補助金によるテコ入れで発展策をとり始めた。だが、米国の半導体禁輸政策によって、自前での製造を余儀なくされている。見栄を張る中国政府は、ハイテック企業を督励しているが、基礎技術不足で難航している。ファーウェイのプロセッサー「Ascend」には、TSMCやサムスン・SKハイニクスの半導体が大量に使われており、「羊頭狗肉」状態を露呈している。

     

    『ブルームバーグ』(10月3日付)は、「ファーウェイ、自社AI半導体にTSMCやサムスンの部品使用-調査」と題する記事を掲載した。

     

    AI半導体の国産化目指す中国、依然として海外製ハードウエアに依存中国の華為技術(ファーウェイ)が同社の人工知能(AI)プロセッサー「Ascend」シリーズの一部で、アジア大手テクノロジー企業の先端部品を使用していたことが調査会社の解析で明らかになった。AI半導体の国産化を目指す中国だが、依然として海外製ハードウエアに依存している実態が浮き彫りとなった。

     

    (1)「カナダの調査会社テックインサイツは資料で、ファーウェイの第3世代「Ascend910C」チップの複数サンプルを分解調査した結果、台湾積体電路製造(TSMC)および韓国のサムスン電子とSKハイニックスの部品が使われていたと発表した。テックインサイツの調査によると、ファーウェイのアクセラレーター向けに使用されたダイ(die)の製造元はTSMCだった。ダイは半導体ウエハー上に並ぶ電子回路である。サムスン電子とSKハイニックスが、製造した旧世代の高帯域幅メモリー(HBM)「HBM2E」も搭載されていた。両社の部品はそれぞれ異なるサンプルで確認されたという」

     

    ファーウェイの第3世代「Ascend910C」チップには、TSMC、サムスン、SKハイニクスの部品が使われている。

     

    (2)「米国による対中禁輸政策は、中国が最先端AIシステムにアクセスすることを制限する狙いに加え、ファーウェイやその他の中国半導体メーカーが製造能力を高め、米半導体メーカーのエヌビディアに世界市場で挑むことを防ぐ目的もある。中国当局は一方で、国内半導体業界をエヌビディア製品依存から脱却させようと図っており、そうした中でファーウェイの910Cは国内で最も競争力のある製品となっている」

     

    中国当局は、国内半導体業界をエヌビディア製品依存から脱却させようと図っている。ファーウェイの910Cは、国内で最も競争力のある製品とされている。その中国最先端AIチップに西側諸国の部品が使われているのだ。

     

    (3)「ファーウェイは、国内のパートナーによる910Cの生産拡大を進めているが、以前確保していた海外製品の在庫が極めて重要な役割を果たしてきた。代表的な事例として、ファーウェイはTSMCで製造された数百万個のダイを調達することに成功。これは算能Sophgo)という仲介会社を通じたもので、同社は中国企業への転売を事前に開示していなかった。TSMCは算能との取引を停止し、米政府に通報。米政府は算能に制裁を科した。それでもファーウェイはダイの在庫推計290万個をAscendシリーズに活用し、910C向けに今年いっぱいは十分に確保できる見通しだと、セミアナリシスのディラン・パテル氏ら専門家は分析している」

     

    ファーウェイは、違法手段でTSMC製造の数百万個のダイを調達していた。これを使って、今年いっぱいは910C生産が可能という。

     

    (4)「HBMについても課題がある。SKハイニックスは、米マイクロン・テクノロジーやサムスン電子と競合し、この分野のリーダーとなっている。HBMはエヌビディア製品などAIシステムに不可欠な部品で、通常は特定のプロセッサーと組み合わせて製造される。技術的に極めて複雑で、DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)の分野で先行するサムスン電子でさえ、エヌビディア向けHBMの適合認定を得るのに数年を要した」

     

    HBMは、エヌビディア製品などAIシステムに不可欠な部品である。通常は、特定のプロセッサーと組み合わせて製造される。それが、ファーウェイの手に渡っていた。

     

    (5)「米国は24年後半に「HBM2」およびそれ以降の先端モデルの対中販売を規制。さらに長鑫存儲技術(CXMT)など中国メーカーの生産能力を制限する規制を強化した。  セミアナリシスによると、ファーウェイはTSMCのロジックウエハーを備蓄したのと同様に、HBM在庫も積み上げていたという。ファーウェイがサムスン電子やSKハイニックスのHBMをいつ、どのように入手したのかは明らかになっていない」

     

    ファーウェイは、TSMCのロジックウエハーを備蓄したのと同様に、HBM在庫も積み上げていたという。

     

    (6)「セミアナリシスによれば、中国のCXMTはHBMで一定の進展を見せているものの、ファーウェイは依然として海外製品への依存度が高い。在庫が減り、「年末までには中国はHBMでボトルネックに直面すると予想される」という」

     

    中国のCXMTは、HBMの試作に取りかかっているが成果を出していない。年末までは、手元のHBMの在庫があるものの、それ以降は未知数である。

     

     

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    台湾の行政院(内閣)が、自衛隊の統合幕僚長を務めた岩崎茂氏を政務顧問に任命した。政務顧問は、行政院への政策提言を担う。安全保障分野で日本との関係強化を探る狙いとみられる。岩崎氏は航空自衛隊の出身で、航空幕僚長を経て2012~14年に統合幕僚長を務めた。

    『毎日新聞』(3月22日付)は、「自衛隊の制服組元トップが台湾政府顧問に就任、安保連携狙いか」と題する記事を掲載した。

    自衛隊制服組トップの統合幕僚長を務めた岩崎茂氏が台湾行政院(内閣)の政務顧問に就任したことが21日、行政院関係者への取材で明らかになった。自衛隊最高幹部経験者の任命は極めて異例。日本との安全保障分野での関係を強化する狙いとみられる。

    (1)「岩崎氏は航空自衛隊の戦闘機パイロット出身。航空幕僚長を経て2012~14年に統合幕僚長を務めた。政務顧問は非常勤・無報酬で、行政院に対して政策提言を行う。行政院関係者によると、岩崎氏は今月、台湾側の招待で訪台し、顧問に就任。卓栄泰・行政院長(首相に相当)とも面会した」

    岩崎氏の台湾政府・政務顧問就任は、台湾と日本との安全保障問題で大きな役割を果すとみられる。台湾防衛では、制空権確保が重要問題である。岩崎氏は、航空幕僚長や統合幕僚長を務めた経緯がある。有力なアドバイスを与えるであろう。


    (2)「岩崎氏は公職を退いた後、たびたび台湾を訪問している。24年5月には台湾北部・新北市の淡江大学で講演。中国やロシア、北朝鮮が地域の大きな脅威になっているとした上で、日本は直接台湾を支援できないが、台湾とのさまざまな分野での協力関係をさらに強めていく必要があると述べていた。中国外務省の毛寧報道局長は21日の記者会見で「日本は台湾問題で中国人民に対する歴史的な罪を負っていて、特に言動を慎むべきだ」と批判した」

    中国外務省は、日本に対して「台湾問題で中国人民に対する歴史的な罪を負っている」と発言している。これは、間違いである。日本は、日清戦争勝利で台湾を植民地にした。だが、当時の台湾は中国にとって「化外の地」(野蛮の地)とされ、清国の統治が及んでいなかった。この台湾を近代化させたのは日本である。「歴史的罪」どころか、「歴史的善政」であったのだ。現在の台湾が、「親日」である理由だ。

    台湾が、中国本土への統一を望まないのは与野党一致の意思である。これは、中国の共産党政権を忌避している証拠だ。自らが、民主化しない限り統一はあり得ない状況にある。中国は、これを無視して「侵攻」をちらつかせている。となると、台湾は防衛戦略を立てるほかない。米軍と自衛隊が、台湾防衛にどのようにかかわるかが問われている。


    『毎日新聞』(23年2月28日付)は、「台湾有事で何が起きるのか、米研究機関が日本に突きつけた課題」と題する記事を掲載した。

    米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は(23年)1月、台湾有事の机上演習(ウオーゲーム)の報告書を発表した。計24ケースをシミュレーションし、大半で中国に不利な結果が出た。ところが、日本に深く関係する、ある条件を加えると、違ったシナリオが導き出された。

    (3)「報告書は台湾防衛成功の条件の一つに「在日米軍基地の使用」を挙げた。日米安全保障条約や付随する交換公文によって、米軍が日本から戦闘作戦行動をとる場合には「日本政府との事前協議」が必要だ。日本が認めなければ、作戦成功が危ぶまれ、米軍が軍事介入自体をためらうこともあり得ると言える。「米国が動くなら日本も付き合う」という発想ではなく、「台湾の行方は日本の判断次第だ」という気構えが最低限必要だ――。CSISの報告書はそう迫っていると言える」

    台湾防衛で、日本が在日米軍基地の使用を認めることが不可欠である。「台湾の行方は日本の判断次第だ」である。台湾政府が、岩崎氏を政務顧問へ迎えた理由である。


    (4)「米中の軍事衝突が始まった場合、日本政府は「どこまで米軍を支援するのか」という判断を迫られる。「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態)」と認定すれば、自衛隊が武力を行使することも可能になる。では、中国は日本を攻撃するのか。机上演習では中国チームが試行錯誤する中で「日本は攻撃しない」と選択したケースもあったが、いずれも中国にさらに不利な結果となった。中国にとって、日本を敵に回すリスクより、先手を打って在日米軍基地を攻撃するメリットの方が大きかった」

    中国は、先手を打って在日米軍基地を攻撃する攻撃するメリットが大きい。

    (5)「中国が日本を攻撃すれば、日本政府は「武力攻撃事態」と認定し、自衛隊は米軍と共同戦線を張ることになる。自衛隊の中でも「航空自衛隊が非常に重要だ」と指摘されている。机上演習では、空自のF35戦闘機が長射程ミサイル「JSM」で中国軍の艦船を攻撃し、米軍の爆撃機の護衛、情報収集でも貢献。海上自衛隊の潜水艦も中国軍に一定の打撃を与えたが、ミサイルの補充にかかる時間を考慮すると、戦闘機の有用性が高かった」

    中国が日本を攻撃すれば、自衛隊は米軍と共同戦線を張る。空自のF35戦闘機が、長射程ミサイル「JSM」で中国軍の艦船を攻撃し、米軍の爆撃機の護衛、情報収集でも貢献する。航空自衛隊の有用性が高いことが証明された。岩崎氏の政務顧問就任の背景だ。



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