勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    資金難に悩んできた日本半導体は、政府の支援も受けてこれまでの遅れを一挙に挽回すべく設備投資へ邁進する。自民党前幹事長で半導体戦略推進議員連盟の会長を務める甘利明氏は、国も積極支援すると、明るい展望を明らかにした。今後の10年間で、官民で10兆円規模の投資を行なうと見通しを語った。

     

    『ブルームバーグ』(1月20日付)は、「自民・甘利氏、最先端向けは『もちろんマスト』―対中半導体装置規制」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「昨年8月に設立され、米IBMと技術提携し次世代半導体の生産を目指す半導体新会社「ラピダス」の成功に大きな期待を寄せる。甘利氏は「ラピダスは日本の半導体戦略の中心になる会社。何としても成功するように十分な官民投資が確保されるべき」だと述べた。政府は半導体の安定供給確保を経済安全保障上の重要課題に掲げる。台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設中の先端半導体工場やキオクシアホールディングスの四日市工場などに補助金を出すなど、2021~22年度で2兆円近くの予算を計上した。ラピダスには700億円の補助金を交付する。甘利氏は、政府が安定供給に取り組む半導体の関連投資の規模については、「官民合わせて10年間で10兆円ぐらいは投資していかないとなかなか勝ち切れないんじゃないか」との認識を示した」

     

    ラピダスは、米IBMと技術提携した。次のような目的である。

    半導体2ナノ(ナノとは、10億分の1メートル)世代は半導体技術の移行期にあたる。従来の半導体技術とは次元が異なるものだ。半導体各社は、「ゲートオールアラウンド」(GAA)という新たな素子構造を採用し、技術の壁を解決しようとしている。

     

    米IBMは21年、このGAA構造による2ナノ品を試作した。ただ、量産化技術を確立していないので、昨年12月に日本の「ラピダス」と技術提携して量産化を支援することになった。これによって、27年に「2ナノ」量産化は確実だ。10年以上遅れた日本半導体が、一挙にその空白期を埋めて飛躍できる理由である。

     

    日本が、世界半導体トップの位置をキープするには、官民合わせて10年間で10兆円ぐらいは投資する必要性を強調した。これは、自民党が積極的に半導体へ支援することを示したものである。

     

    (2)「TSMCが、日本に2つ目の工場建設を検討していることについては、「日本が半導体で求心力を持ちつつある」と評価。TSMCが政府の本気度を感じ取り、「本格的に信用している」のではないかと話した」

     

    TSMCは、日本で2番目の半導体工場を建設する意思を固めた。1番目の工場は、熊本県で建設中である。TSMCは、日本がラピダスを設立して最先端半導体進出体制を整えたことで、日本とより協調体制を強める意向でもあろう。TSMCは、筑波ですでに半導体研究所を開設済である。

     

    (3)「甘利氏は20日のインタビューで、半導体の先端技術が武器転用された場合、日本や米国など西側諸国の脅威になる危険性を指摘。最先端向け半導体製造装置の輸出規制は「もちろんマスト」で、それ以外に対象をどう定めるかは、同盟国間で「問題意識を共有しなければいけない」と述べた。米国は昨年10月、先端半導体製造装置の対中輸出規制を開始し、日本とオランダにも協調を求めた。主要サプライヤーを抱える両国は米国と会談を重ね、1月末にも最終決定する見通し。両国が同調すれば、中国の半導体製造技術の進化に打撃を与える可能性がある」

     

    半導体製造装置の主要サプライヤーを抱える日本とオランダは、バイデン米政権が主導する対中半導体輸出規制に近く加わる見通しだ。日本とオランダは1月末にも輸出規制で米国に同調し、最終決定する可能性がある。両国の首脳はバイデン大統領とホワイトハウスで今月それぞれ会談し、計画を協議していた。オランダのルッテ首相は19日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会が開かれているスイスのダボスで、「そこへ到達できると、かなり自信を持っている」とブルームバーグテレビジョンのインタビューに答えた(1月20日)。中国にとっては、相当な痛手になる。

     

     

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    韓国最大の産業は半導体である。台湾も同様に、半導体が経済を支えている国である。こうして韓国は、台湾半導体をにわかに意識するようになっている。

     

    同じ半導体と言っても、韓国はメモリー半導体(保存機能)であるのに対して、台湾は非メモリー半導体(情報処理機能)が主体である。簡単に言えば、韓国半導体は汎用品であるが、台湾半導体は特注半導体という違いだ。価格的には、前者が安く後者が高いというわけで、価格の次元が異なる。今後は、非メモリー半導体が主体になると予測されている。

     

    韓国が、台湾の存在を意識しているのは、半導体の付加価値の高い台湾経済への羨望である。韓国は将来、台湾型の高付加価値の非メモリー半導体主体へと移行しなければ、台湾経済の後塵を拝し続けるという危機感が高まっている。

     

    『朝鮮日報』(12月29日付)は、「5年間サムスン・李在鎔をたたいた文在寅政権」と題する記事を掲載した。

     

    国際通貨基金(IMF)は12月、22年の韓国の1人当たりGDPは3万3592ドル、台湾は3万5513ドルになるとの見通しを示しました。韓国は、19年ぶりに台湾を下回ることになります。台湾は22年の経済成長率予想、物価上昇率、通貨価値下落率などほぼ全ての経済指標が韓国より良好です。

     

    (1)「韓国が、9月まで6カ月連続の輸出減少で300億ドルを超える貿易赤字を出したのに対し、台湾は400億ドルを超える黒字です。両国の経済逆転は、半導体業種での勝敗が大きいと言えます。韓国の輸出の20%、台湾では40%を占める半導体は両国経済をリードする看板産業です。両国とも世界最大の半導体市場である中国への輸出に力を入れています。韓国の半導体輸出の60%が中国向けであり、台湾の対中輸出の半分を半導体が占めるという構造です」

     

    韓国と台湾の貿易収支で、大きな差が生まれた理由は、メモリー半導体(韓国)と非メモリー半導体(台湾)の違いが原因だ。後者のほうが、付加価値が高いから当然の結果であろう。メモリー半導体は、スマホやパソコンに多く使われる。非メモリー半導体は、自動車やコンピューターなどに使われている。需要先が異なるのだ。

     

    (2)「注目されるのは、2010年代半ばまでは中小企業の集合体であり、中国の下請け工場に近かった台湾が2016年に就任した蔡英文総統の下で、世界最高の半導体生産基地に換骨奪胎したという事実です。蔡総統は7年間一貫して親企業・技術重視の国政運営を行ってきました。特に「我々を(中国から)守ってくれるのは米国の武器ではなく半導体工場だ」とする「シリコンの盾論」に忠実です」。

     

    TSMCは、台湾政府も出資している点で、半官半民企業である。政府から財政面の支援を受けているのは、韓国と大きな違いである。

     

    (3)「台湾政府は半導体企業と協力し、160兆ウォン(約16兆7000億円)を投じ、北部の新北市から南部の高雄市に至るまで現在半導体工場20カ所を追加で建設しています。台湾経済部は今年9月、サムスン電子も開発に着手した次世代メモリー半導体である磁気抵抗メモリー(MRAM)の開発で台湾積体電路製造(TSMC)を支援すると発表しました。今年から台湾の各大学は半導体専攻の新入生を6カ月ごとに採用し、休み期間を調整して年中無休で半導体人材を養成しています。昨年から今年8月までに台湾の国立大学6校に「半導体研究学部」が新設されました」

     

    台湾は、国立大学に「半導体研究学部」をつくるほど人材養成に力を入れている。TSMCは、米国の他に日本やドイツに工場を建設する。人材は、いくらあっても足りない程である。

     

    (4)「(台湾政府に比べ)17年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権の経済リーダーシップは、繰り返してはならない失敗事例です。まず文政権は世界的IT企業であり、韓国最大の企業であるサムスン電子を友軍や同志どころか、取り除くべき敵または仇かのように扱いました。匿名の財界幹部は、「文政権は表向き、大企業を助けると言いながら、本音と行動は徹底的に大企業たたきで5年間一貫した」と語りました。一例として、サムスンに対し、政権初期から20年末までの4年間、50回余りのほこりをはたくような捜索を行ったほか、役員に430回余りの出頭を求めたことがその証拠です」

     

    文大統領(当時)は、サムスン副会長(当時)と会うことを忌避し、初めて会ったのはサムスンのベトナム工場でのセレモニーであったほど。それ以降は、韓国で会うようになった。これは、国内の「反企業主義者」への配慮の結果と見られている。

     

    (5)「韓国は、自国の代表企業を「犯罪集団」のように冷遇した代償はブーメランとなって戻ってきています。18年当時、台湾(2万5825ドル)を7600ドル上回っていた韓国の1人当たりGDP(3万3447ドル)が4年ぶりに逆転される見通しとなったからです。ここで我々は最高指導者の国政哲学とリーダーシップの重要性を痛感します」

     

    文政権の問題と同時に、韓国左派に共通な「反企業主義」の根強いことが、企業成長への支障になっている。半導体は、韓国最大の産業であることを認識すべきである。半導体が戦略物資の位置づけである以上、各国が支援体制を組むほど、力を入れているからだ。

     

     

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    米国は、米中デカップリングの重要な一環として、台湾半導体メーカーTSMCによって最先端半導体「5ナノ」(ナノは、10億分の1)生産で工場建設に着手している。続いて、「3ナノ」の工場も建設するとTSMCが発表した。これで米国は、台湾の地政学的リスクから自由になれるという「特等切符」を手に入れた。だが、台湾防衛という責任を負っていることに変わりない。

     

    2次世界大戦では、鉄鋼の生産能力が各国の戦争遂行能力を左右した。米国が、日独伊枢軸を打ち破れたのは鉄鋼生産力が物を言った。1990年の湾岸戦争あたりから、半導体が戦争遂行能力を規定することになった。

     

    ロシアのウクライナ侵攻をめぐる現状では、半導体が戦局を圧倒的に左右している。ロシアは、経済制裁を受けて半導体輸入がストップした結果、家電製品から半導体を取り出して、戦車の部品に使っているほど。安全保障においては、高度の武器になればなるほど、最先端半導体が必要になるのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月6日付)は、「TSMC、最先端半導体も米国生産 投資3倍の5.5兆円に」と題する記事を掲載した。

     

    半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、米西部アリゾナ州に最先端半導体の工場を新設する。「3ナノ(ナノは10億分の1)メートル品」と呼ぶ製品を生産し、米国での総投資額を従来計画比3倍超の400億ドル(約5兆5000億円)に拡大する。台湾有事などのリスクを念頭に、半導体を安定調達したい米国の要請に応え、生産拠点を分散する。ホワイトハウス当局者が明らかにした。

     

    (1)「先端半導体はスマートフォンやサーバーに搭載され、頭脳の役割を果たす。特に最先端の3ナノ品は現在、世界でもまだ量産レベルになく、TSMCはまず台湾で2022年中の量産を予定している。米国の新工場はそれに続く形で、26年の量産開始を目指す。TSMCは先端半導体の生産で世界シェア9割を占め、これまで全量を台湾で生産してきた。だが仮に台湾有事などで供給が途絶えれば、関連産業に広く打撃が及ぶことになる」

     

    TSMCは現在、アリゾナ州で「5ナノ品」と呼ばれる先端の半導体を生産する新工場を建設している。120億ドル(約1兆7000億円)を投じて建設する海外初の先端工場で、2024年からの量産を予定する。今回、新たに明らかにした3ナノ品の新工場は、5ナノ品を超える技術で、米国の第2段階の大型プロジェクトになる。

     

    3ナノ品は現在、世界でもまだ量産レベルにはない。TSMCが台湾の新工場で年内に量産を予定しており、米国もTSMCに対し、3ナノ品の米国での量産を求めていた。それが、26年に実現の運びとなった。米国が、国内に「5ナノ・3ナノ」の工場を持つことは、戦略上も大きな強みを持つことになる。

     

    先端半導体の量産に不可欠な製造装置市場を牛耳るのは、オランダASML、米アプライドマテリアルズ、東京エレクトロンなど日米欧のビッグファイブ(5社)だ。ハイエンド半導体の設計ソフトは米国がほぼ独占する。TSMCが、米国に工場を持つメリットは、需要先のほかに、半導体製造に関わる一切の技術の起源が米国にあるということの目に見えないメリットを享受できることだ。

     

    米国が、「5ナノ」に続き「3ナノ」という世界最先端半導体工場を持つことは、中国に対して圧倒的な優位性を確立することになる。中国は、米国から半導体の製造装置・技術・ノウハウなど一切の入手を禁じられた。中国の早まった「米国打倒宣言」が招いた事態である。

     

    (2)「米国は中国への対抗を念頭に、台湾や日本などの主要国・地域と先端半導体での国際連携を進めている。8月には半導体の国内生産強化に向けて総額527億ドルの補助金を投じる新法を成立させた。TSMCの投資拡大はこの流れを受けたものとなる。バイデン米大統領やTSMC幹部らは現地時間の6日午後(日本時間7日朝)、工場建設予定地の視察を予定する。TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏や、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)も参加する見通しだ。米政府の政策を背景に、米インテルや韓国サムスン電子も、米国内で数兆円規模の投資を進めている」

     

    米国は、TSMCだけでなく米インテルや韓国サムスン電子も、国内に半導体工場を新・増設する。半導体のメーカーが、米国へ集結する格好だ。米国の早手回しな米中デカップリングが、中国を大きく引き離すことは言うまでもない。

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    中国が、台湾へ心理的圧力を加える「ウソ情報」を流している。これは、ロシアのウクライナ侵攻前と同じ手口だ。ロシア軍参謀総長ゲラシモフは、現代の国家間紛争の概念を再定義し、軍事行動を政治経済情報人道などの非軍事活動と同等に位置づけた。中国も、すでに台湾に対して同様の「非軍事的行動」を開始している。 

    ゲラシモフ・ドクトリンは、2013年に出版された。ロシアウクライナに関する行動は、このドクトリンに完全に沿ったものである。物資兵站、軍の強さといった伝統的な軍事的関心よりも、心理的・人間中心的側面を優先し、情報戦心理戦など非軍事的手段による段階的アプローチを強調する内容だ。ただ、これは破綻した。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月26日付)は、「中国軍、台湾へ心理的圧力 偽装発信やサイバー攻撃」と題する記事を掲載した。 

    防衛省防衛研究所は25日、中国の軍事動向を分析した報告書「中国安全保障レポート2023」を公表した。台湾へ非軍事的手段による心理的な圧力を強めていると指摘した。台湾発と偽装した有害情報の流布や年14億回以上のサイバー攻撃などを挙げた。 

    中国は認知戦で相手の意思決定を乱す「影響力工作」と呼ばれる方法を多用する国だと位置づけた。国際世論を誘導する「世論戦」と威嚇などを用いる「心理戦」、都合のよい法的根拠に基づいて支持を得る「法律戦」の「三戦」と軍事力を併用する発想がある。こうした手法は「台湾にとって大きな脅威だ」と明記した。

     

    (1)「報告書によると偽情報を拡散したうえで中国軍艦が台湾周辺で航行したり軍事演習したりして台湾内に心理的パニックを引き起こすことが想定しうる。習近平(シー・ジンピン)国家主席がめざす台湾統一に関しては米軍が介入する前に「戦わずして勝つ」作戦を志向しているとの台湾側の分析を紹介した。影響力工作はその具体的な手段になる。影響力工作にかかわる部隊として「戦略支援部隊」に言及した。習氏が15年の軍改革で新設した部隊でサイバーや電子、宇宙などでの作戦を担うとされる。報告書は「心理・認知領域の戦いにも深く関与する」と警戒感を示した」 

    中国は、ウソ情報を流して台湾への「影響力工作」を始めている。中国は強大な国家であり、対抗しても無駄という「諦観」を植え付ける工作である。台湾の人々が、こういう「ウソ情報」に引っかかるか疑問。「台湾人」というプライドが強く、「中国人」意識が低いのだ。

     

    (2)「サイバー攻撃を巡っては19年9月から20年8月までの1年間に台湾の政治・経済・軍事の重要機関へ14億回以上の攻撃があった。標的とした機関のデータ破壊や情報窃取が目的とみられる。台湾の国際的信用を貶めるなどの目的で台湾発と見せかけて有害情報を発信しているとの見方も提示した」 

    台湾の国際的信用を貶めるための工作は、西側諸国が台湾を半導体先進国として高く評価していることから、逆に中国の信用を落とす可能性が強い。 

    (3)「一例に挙げたのは世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が新型コロナウイルス禍の20年4月に「ネット上で台湾からの人種差別的な中傷を受けた」と唱えたことだ。当時、台湾は「中国から台湾人を騙(かた)って出されたものだ」と反論していた。報告書は「テドロス氏の思考をコントロールする工作の要素を含んだ攻撃」だったとの解釈を記載した」 

    ウソは一回、見破られると二度は使えない手だ。中国の「戦狼外交」が失敗して、多くの反感を買ったことでそれが分かる筈である。

     

    (4)「報道を利用して圧力をかけた事例も取り上げた。ロシアによるウクライナ侵攻直後、中国共産党系メディアの環球時報が「台湾独立派は米国に頼ることができない」と伝えた。

    報告書は、バイデン米大統領が米軍をウクライナに派遣しなかったことを踏まえ、台湾住民の不安をあおり米国への信頼を失墜させる狙いで流したと分析した。中国の情報機関などが台湾の政党や台湾軍元幹部へ情報工作や資金援助を働きかけるケースにも触れた」 

    下線部は、中国得意の「贈賄工作」である。記者や知識人を買収するが、書かれた記事を見れば直ぐにばれる。現実の中国が、真逆の動きをしているからだ。論より証拠なのだ。

     

    (5)「影響力工作は、相手への効果が分かりにくいため、中国側が過大評価する可能性もあるという。共産党による1党体制で習氏への権力集中を進める中国は判断を誤った場合に是正するメカニズムが弱い。相手の判断への揺さぶりよりも中国への反感をもたらす効果が大きい影響力工作を続けがちだと記述した。ロシアはウクライナ侵攻の初期、情報戦で優位に立てなかった。米欧の政府や企業がロシア側の出す偽情報を打ち消したためだ。報告書は中国に「非軍事的手段の活用の限界をみせる展開だった」と米欧の取り組みを評価した」 

    中国の「影響力工作」は、すべて西側諸国が知り尽くしている。ロシアのプロパガンダ同様に、影響を受ける人々はよほどの「非常識人」以外に考えられないのだ。

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    米議会は、中国の妨害工作をものともせずに台湾を訪問している。8月3日、ペロシ米下院議長が訪問した。14日には、マーキー米上院議員の率いる5人の米議員団が、事前発表なしに台湾を訪問して蔡英文総統と会談した。中国軍は、ペロシ氏の訪台に反発し4日間にわたる大規模軍事演習を実施したが、15日にも再び、台湾周辺で軍事演習を実施したと発表した。

     

    中国軍は、ペロシ訪台に抗議して「力一杯」の実弾軍事演習を4日間も行なった。だが、米議会には何の痛痒も感じないどころか、強い反感を示している。「台湾政策法2022」立法府を目指し、中国へ報復する姿勢を見せている。

     

    米議会が、このように強気の対応を取っている裏には、中国が台湾侵攻作戦を行なえば、中国自身が大きな返り血を浴びる事態になるからだ。こういう、冷静な判断が垣間見える。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月16日付)は、「
    中国の台湾封鎖、半導体など世界経済への影響は」と題する記事を掲載した。

     

    台湾海峡をめぐる緊張と、中国が台湾を封鎖しようとした場合に世界経済に及ぶ可能性のある影響をまとめた。

     

    (1)「中国が台湾を封鎖すれば、世界のサプライチェーン(供給網)が寸断され、アジアで貨物運賃が上昇するだろう。値上がりはその他の地域に及ぶ恐れもある。人口約2300万人の台湾が世界のビジネスで果たす役割が非常に大きいためだ。台湾は世界の半導体供給量の約70%を占め、スマートフォン、コンピューター、自動車などの生産チェーンの重要な一部だ。また、何兆ドルもの規模の貨物を積んで東アジアを往来する船舶が通過する太平洋航路に隣接している。台湾の輸出が停止すれば、自動車や電子機器向けの半導体が不足し、インフレ圧力が高まるだろうと指摘される」

     

    台湾は、世界の半導体供給量の約70%を占めている。ここが、戦乱に巻き込まれれば大変な事態になる。世界経済は、止まってしまうのだ。中国は、そういう危機を引き起こそうと狙っている。

     


    (2)「台湾は世界最大の半導体受託製造会社、台湾積体電路製造(TSMC)の本拠地。同社はアップルやクアルコムなどの企業向けに半導体を生産している。調査会社ガートナーによると、TSMCは昨年、1000億ドル(約13兆3000億円)規模の半導体製造市場で半分以上のシェアを占めた。ボストン・コンサルティング・グループと米半導体工業会(SIA)がまとめた2021年の報告書によると、台湾の半導体サプライチェーンが1年にわたって混乱した場合、世界の電子機器メーカーは約4900億ドルの損失を被る可能性がある。さらに、台湾の半導体生産が恒久的に混乱すれば、それを穴埋めする生産能力を他の地域で構築するために少なくとも3年の年月と3500億ドルの経費が必要になるという」

     

    このパラグラフでは、台湾がいかに重要な地位を占めているかを示唆している。下線のように、中国軍によって台湾侵攻が行なわれれば、他の地域で3年の歳月と建設費3500億ドルが必要になるという。

     


    (3)「
    世界的な半導体不足や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴うサプライチェーンの混乱により、半導体産業が台湾に圧倒的に依存していることが浮き彫りになった。このため、西側主要国は既に台湾製半導体への依存によるリスクヘッジを図ろうとしていた。米国および欧州連合(EU)は、国内・域内での将来の半導体生産拡大とアジア諸国に対する競争力強化を図るため、何百億ドルもの資金を投入する方針を表明している。ジョー・バイデン大米統領が先週署名して成立した半導体補助法による補助金支給対象候補であるTSMCは現在、アリゾナ州に120億ドルの工場を建設中である。同社はまた、日本でも70億ドルの工場建設を行っている」

     

    台湾が、半導体「聖地」になっている以上、この台湾へ攻撃リスクがあれば、日米は国内生産を増やして「台湾ショック」に備えるべきだろう。

     


    (4)「国際法上の戦争行為の1つである封鎖は、すべてのヒトとモノの台湾への出入りを妨げる全面的な行動から、特定タイプの行き来や商品を対象とするもっと緩い措置まで、多様な形態を取り得る。アナリストらによれば、中国軍は、空・海軍によるパトロールを実施したり、機雷を設置したり、さらに踏み込んで空港や港湾を破壊したりする可能性もある。封鎖措置を宣言するだけでも、航空会社、海運会社は、警戒措置としての運航ルートの変更を迫られるかもしれない」

     

    台湾海峡が封鎖されれば、航空会社、海運会社は、警戒措置としての運航ルートの変更を迫られる。多大のコスト増になる。

     


    (5)「中国軍が、台湾封鎖を維持できるだけの資源を持ち合わせているかどうかは不透明だ。シンガポールのリー・クアンユー公共政策学院の客員上級研究員であるドリュー・トンプソン氏によれば、台湾封鎖の試みはどのようなものであっても、米国、日本、その他の国々による介入を招く可能性が高いという。アナリストらによれば、軍事的、地政学的コスト以外にも、中国政府に台湾封鎖の試みを躊躇させる大きな要因が1つあるという。それは中国自体が貿易、雇用面で台湾に依存しているということだ。中国政府は、自国経済に打撃を与えずに台湾経済を損なうことはできないということだ」

     

    台湾海峡は、国際法上の公海である。中国軍が公海を封鎖することは違法であり、日米豪などの関係国が実力を以て排除するのは当然の権利である。

     

    中国は、最先端のコンピューターや産業機器に必要な半導体の供給をTSMCに依存している。iPhone(アイフォーン)の組み立てで最大のシェアを持つ鴻海科技集団(フォックスコン・テクノロジー・グループ)などの台湾企業は、中国本土で民間部門の雇用に大きく貢献している。そして台湾は、中国にとって太平洋航路の戦略的出入り口の役割を担っている。そこを封鎖することは、中国にも不利益になるのだ。

     

     

     

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