勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

    テイカカズラ
       

    習近平中国国家主席は、中国軍の規律弛緩に頭を悩ませている。いくら取り締まっても汚職を根絶できないからだ。なぜ、こういう事態が起こっているのか。権力が習氏に集中している結果であろう。人民解放軍内部では、習近平氏の権力独占にあやかって、習氏の権力「代行」を装って利権漁りをしているに違いない。習氏の「手形」を利用しているのだ。これでは、偉大な「中華民族再興」が危ぶまれる。

    米国防総省は、12月18日に発表した中国の軍事動向に関する年次報告書で、人民解放軍内部の大規模な汚職問題が、2027年までに軍の近代化を実現するという目標の妨げになる可能性があるとの見解を示した。こうなると、習氏にとっては「一大事」である。

    台湾侵攻には、台湾海峡という地理的・気象的に大きな障壁がある。上陸作戦の時期は、年間で4月と10月しかなく、この限られた期間の作戦行動は困難を極めるのだ。中国軍上層部は、この事実を知っているので、習氏に命令に「気乗りしない」のであろう。

    『ロイター』(12月19日付)は、「中国軍、大規模汚職が27年までの近代化目標妨げもー米国防総省報告」と題する記事を掲載した。

    米国防総省は18日に発表した中国の軍事動向に関する年次報告書で、人民解放軍内部の大規模な汚職問題が、2027年までに軍の近代化を実現するという目標の妨げになる可能性があるとの見解を示した。

    (1)「人民解放軍は昨年以降、大規模な汚職摘発を進めている。今年11月には同軍最高指導機関の中国軍事委員会の苗華委員が「重大な規律違反」の疑いで調査を受けていることが分かった。年次報告書は、昨年7~12月に中国で軍の最高幹部クラスや防衛産業の重役の少なくとも15人程度が職務を解任されたと説明。「人民解放軍は昨年、新たな汚職関連捜査と高官解任の波にさらされており、これは27年の近代化達成目標に向けた道のりに混乱をもたらすかもしれない」と指摘した」

    軍内部では、習近平氏との「懇意さ」を強調すれば、百万力の影響力を持つであろう。「習氏に話を付けてやる」と言ったニセ情報が充満し、汚職の引き金になっているとみるほかない。多くの人は、習氏との関係に繋がれば「金儲け」できると夢を膨らませているであろう。権力の集中が、こういう「悲喜劇」を生んでいるのだ。

    (2)「米政府は、習近平国家主席が軍に対して27年までに台湾に侵攻できる態勢を整えるように命じたとの見方を示している。ラトナー国防次官補(インド太平洋安全保障担当)は報告書発表後にシンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で、これら15人の解任は「氷山の一角」であった公算が大きいと言及。人民解放軍内部で汚職が広がっている状況を示唆するとともに、一連の取り締まりによって軍組織の下部に至るまでリスク回避や機能まひの現象が起きる期間が生まれそうだと語った」

    習氏が、27年までに台湾侵攻態勢を整えるように命令しているが、現場は不可能と判断しているのであろう。軍部は、自軍の戦力を冷静にみているはずだ。台湾海峡を越えて台湾本島へ攻込むことが、地理的・気象的にいかに困難であるかを熟知しているのであろう。兵員と物資の輸送艦が、台湾海峡の「藻屑」になるリスクを高めるからだ。

    (3)「米国防総省高官の1人は、汚職の取り締まりは中国の防衛産業を含めた軍事プロジェクトの進行を遅らせてもおかしくないと指摘した。中国外務省の報道官は会見で、この報告書について、「無責任」であり、米国が軍事的覇権を維持するための口実だと主張。「米国の報告書は、これまでの同様の報告書と同じく、事実を無視しており、偏見に満ちている」とし、米国に対し、こうした報告書の作成をやめ、中米軍事関係の安定維持に向けた実際的な行動を取るよう求めた」

    米国CIAの情報網は、ロシアのウクライナ侵攻直前の情報開示によって、その正確さが証明されている。中国外務省の報道官が、米国に対しこうした報告書の作成をやめ、中米軍事関係の安定維持に向けた実際的な行動を取るよう求めたのは、米国の報告書が「事実」であるからだろう。急所を突かれているのだ。

    台湾海峡は、次のような気象条件に置かれている。
    1)11月~3月は、北東季節風が吹く。
    2)5月~9月は、台風シーズンにあたる。

    上記の期間は、中国軍の台湾本島への上陸作戦が困難であることを示している。特に、最近の異常気象の襲来を考えれば、いつ気象条件が急変するか分らないのだ。上記の期間を除くと、1年で4月と10月が「平穏季節」になるが、このわずか1ヶ月で上陸作戦という危険極まりない戦闘行為が終る保証はどこにもない。となると、中国軍は仮に上陸できても援軍がないので、「自然消滅」の危険性が強くなる。中国軍幹部は、こういう事態の到来を読み込んでいるであろう。こうなると、大真面目に「作戦遂行」とは言えなくなろう。

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    中国ファーウェイが、AI半導体の受注を始めたものの、受託生産を担当するSMIC(中芯国際集成電路製造)の歩留まり率はなんと20%と異常な低さだ。台湾TSMCは、70%である。サムスンは50%程度で大赤字に陥っている。SMICが、20%とすれば「論外」だ。一応、「作れます」という程度の話である。それでも、サムスンは大々的に「受注開始」を発表した。中国政府のメンツがかかっているのであろう。

     

    『ロイター』(11月21日付)は、「ファーウェイの最新AI半導体、来年初めに量産開始へ=関係筋」と題する記事を掲載した。

     

    関係筋によると、中国の華為技術(ファーウェイ)は最新の人工知能(AI)半導体「アセンド910C」の大量生産を来年第1・四半期に開始する計画。一部のハイテク企業にサンプルを出荷しており、受注を開始した。米半導体大手エヌビディアに対抗する狙いがある。

     

    (1)「生産は中国の半導体受託製造(ファウンドリー)最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)に委託しているが、米政府の制裁の影響で最新の露光装置を利用できないため、歩留まり率は20%前後にとどまっている。先進半導体の商業化には70%以上の歩留まりが必要とされる。関係筋によると、ファーウェイの現在の先端半導体「910B」もSMICに生産を委託しているが、歩留まり率は50%前後。このため、ファーウェイは生産目標を減らし、納品を遅らせている」

     

    先端半導体は、一般に「7ナノ」以下を指している。SMICの歩留まり率は20%前後と言えば、「試作段階」の話だ。それでも、大々的に「AI半導体受注」とアドバルーンを上げている。内情を知れば知るほど、追い詰められている中国半導体の悲哀が伝わってくる。歩留まり率20%前後では、大赤字になっている。作れば作るほど、赤字が増えるのだ。サムスンは、「5ナノ」で50%の歩留まり率で大赤字になっており、事業縮小の方向へ動いているほどだ。SMICは、政府から赤字を全額補填して貰わなければ倒産するであろう。

     

    (2)「中国は、米国の制裁を受け2020年以降、オランダの半導体製造装置大手ASMLの極端紫外線(EUV)露光装置を調達できない状態にある。EUV露光装置は最先端半導体を製造するために使用される。関係筋は「ファーウェイはEUVがないため、短期的な解決策が存在しないことを理解しており、政府・企業からの戦略的な受注を優先している」と述べた」

     

    先端半導体は、EUV露光装置を使わなくても製造可能だ。古い装置で何度も印刷する「マルチパターニング技術」を用いれば、膨大な時間と低い歩留まりであるが生産可能である。ただ、わずかな量しかできないのだ。ファーウェイは、「5ナノ・スマホ」発売と騒がれた。だが、半導体はこの手間暇かかる職人芸の「マルチパターニング技術」である。

     

    (3)「SMIC製の半導体は、半導体受託生産世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)製の半導体より性能が劣っており、アナリストや関係筋によると、ファーウェイはSMIC製の半導体をTSMC製の半導体で補完している。TSMCは先に、自社の半導体がファーウェイの910Bから見つかったと米商務省に通知。米商務省はTSMCに対し、AIに使用される先端半導体の中国顧客向け出荷を停止するよう命じた」

     

    SMICは、EUV露光装置の導入を米国によって阻止されているので、手造りの「マルチパターニング技術」に依拠するほかない。TSMCの機械製造半導体と、SMICの手造り半導体の違いだ。中国はどうみても、勝負にならないのだ。

    あじさいのたまご
       

    共産党得意芸「ダメコン」

    救いのない減衰経済過程へ

    習氏生残りに硬軟合わせ術

    国民無視で政権永続は不可

     

    中国の7~9月期GDPは、前期よりも減速した。前年同期比4.6%だが、前期比を年率換算すると3.6%である。西側諸国では、前期比の年率換算が普通表示である。中国経済の実態は、すでに4%割れ状態だ。不動産バブル崩壊で直撃された形である。 

    中国の潜在成長率は現在、4%台と見積もられている。中国政府が24年の経済成長目標を「5%前後」としているのは、かなり背伸びしたものと言える。現に、7~9月期のGDP成長率が前期比換算で3%台であるのは、低下した潜在成長率に見合った動きだ。 

    潜在成長率は、労働力の動向が大きく影響する。中国の一人っ子政策が、35年間(1979~2014年)と一世代も続いたので、現在は急速な生産年齢人口比率の低下を招いている。これは、中国経済にとって取り返しのつかない失策であった。この対策として、2025年から15年かけて定年延長(男子63歳、女子58歳)へ踏みきるが、強制的でなく希望者のみとしている。こうした微温的な定年延長策に出たのは、国民の反発を恐れた結果である。

     

    中国経済の弱点は、これから労働力不足が顕著になることだ。西側諸国では、日本を初めとして70歳定年の動きが始まっている。それにもかかわらず、中国の定年延長が15年かけて3歳程度の延長に止まっている。その理由は、国民の反発が強いからだ。共産党独裁政権が、国民の反発を最も恐れているのは奇異にみえる。だが、選挙で選ばれた政権でない弱みが、習近平国家主席を弱気にさせているのであろう。 

    中国共産党は、国民に選挙権を与えない代わりに高い経済成長率で補ってきた。今後は、これが不可能な状況だけに、中国共産党の基盤は強固と言えない事態へ向っている。これが、中国の将来を占う上で極めて重要な要因となる。 

    共産党得意芸「ダメコン」

    中国共産党は問題が深刻化した場合、政権に傷を付けない目的で急遽、判断を変えることがある。「ダメージ・コントロール:ダメコン」(応急処置)である。9月24日、政府が株価対策を発表したのもその表れである。具体的な財政政策がないままに、株式市場へ「口先介入」して株価テコ入れをした。それが、一過性であることから株価の乱高下を招く騒ぎを招いている。これが、政府への信頼を失墜させるのである。

     

    22年12月、突如としてゼロコロナ解除を決めたのもそれだ。これ以上、事態を放置すると国民の不満が政権に向けられという危機感が強まり方向転換した。医療側に事前連絡しないままに行われたゼロコロナ解除なので、高齢者の感染が激増しわずか2ヶ月で200万人以上の犠牲者を出した。死亡者数の発表もされないままに終わっている。 

    習近平氏は、なぜ「ダメコン」を多用するのか。ここに中国の直面する問題点が隠されている。習氏の本音ベースの経済政策は、次のようなものとみられる。 

    1)破綻寸前の地方政府の救済

    2)株式市場の浮揚

    3)国家主導で自国を産業・技術大国にする方針堅持

    4)大規模な需要喚起でなく、金融危機の発生を防ぐ「デリスキング(リスク低減)」

    5)経済全体を安定させて24年の成長目標(5%前後)を達成する

     

    これら5項目をみて気付くのは、中国経済がなぜ現在の危機を招いたのかという根本的な視点がないことだ。突出しているのは、3)国家主導で自国を産業・技術大国にする方針堅持である。従来の供給力重視政策が貫かれている。一方、4)大規模な需要喚起でなく、金融危機の発生を防ぐ「デリスキング(リスク低減)」としていることだ。大規模な需要喚起の策を行う意思がみられないのだ。需要不足をカバーして、産業構造の転換を図る意思がないことを明らかにしている。 

    供給力を重視するあまり、需要喚起によって経済を安定化させる視点が全くないことに注目すべきだ。前述のように、一人っ子政策を35年も続ける「無神経」さは、その後の経済政策にも共通している。不動産バブル崩壊後の本命政策としては、世界レベルからみて対GDP比で20%ポイントも低い個人消費を引上げる。そういう構造転換の発想は片鱗もないのだ。

     

    その基底には、「国民無視」がある。国民をただの「駒」扱いしているのだ。だが、この羊のような駒が、ひとたび立ち上がって反抗することには極度の神経を使っている。それが、「ダメコン」を行わせている。本心で、過去を改めるのでなく目先を変えて「危機回避」するだけだ。

     

    救いのない減衰経済過程へ

    「国家主導で自国を産業・技術大国にする方針堅持」には、裏の顔がある。これは、台湾侵攻を前提にしている話だ。習氏が、終身国家主席であり続けられる条件は一つしかない。台湾を統一すると言い続けることだ。そして、軍事的手段に訴えるとも付け加えておく。習氏は、これによって「強い国家主席」を演じ続けられる。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    中国軍は、対台湾作戦を担う東部戦区が14日、台湾を取り囲む形での大規模な統合演習の実施を発表した。今年5月以来の演習で「国家の主権と統一を守るための正当で必要な行動」と主張している。台湾の頼清徳総統が、10日の演説で改めて中国による統一に反対したことに反発し、頼政権をけん制する狙いだ。 

    台湾当局はすでに、中国が頼氏の演説を利用して計画に従い、台湾包囲演習をするものと予告していた。その際に、演習の名称(連合利剣2024B)まで予想するなど、台湾側も冷静に対応している。中国軍の「空回り」という印象が強い。米軍は、この中国軍演習を監視して、「作戦データ」を蓄積するはずだ。中国軍は、まんまと「手の内」をみせていることになる。 

    『日本経済新聞 電子版』(10月14日付)は、「中国軍が台湾包囲演習、『独立を抑止』 頼政権を威圧」と題する記事を掲載した。 

    中国人民解放軍で台湾方面などを管轄する東部戦区の報道官は14日、台湾を包囲する形で軍事演習を始めたと発表した。習近平指導部と対立する頼清徳政権を威圧する狙いだ。台湾海峡や台湾本島の周囲6カ所のほか、離島の馬祖列島などを演習区域に設定した。

     

    (1)「報道官は「台湾独立分裂勢力が独立をたくらむ行為への強力な抑止力だ。国家の主権を守り、国家統一を維持するために正当で必要な行動だ」と表明した。陸海空各軍と核・ミサイルを運用するロケット軍を投入した。各軍種が合同での急襲や「要港・要域」の制圧、標的への精密攻撃などを訓練する。報道官は「部隊の統合作戦実戦能力を検証する」と説明した。これに関連して中国海警局は14日、船隊を4つ組み、台湾本島を一周するようにパトロールしたと発表した。台湾が中国の一部という「一つの中国」原則に基づく行動だと説明した。海警局は事実上の「第二の海軍」と呼ばれる」 

    法理論では、中国の国家主権が台湾へ影響することはない。国際法によれば、国土と国民統治が国家主権の条件である。中国の主張する、「台湾独立分裂勢力が独立をたくらむ行為」は、言いがかりにすぎない。隣家のことに口出しするようなものである。 

    (2)「演習を「連合利剣2024B」と名付けた。頼氏が台湾総統に就任した直後の5月に台湾周辺で実施した「連合利剣2024A」に続く位置づけだ。当時は2日間にわたり、台湾本島の周囲5カ所のほか、離島である金門島や馬祖列島の近くで訓練した。中国海警局の船舶も演習に参加した。今回と同様、演習の予告はなかった。台湾国防部(国防省)は14日、演習について「非理性的な挑発行為で強く非難する」との談話を発表した。「中華民国(台湾)の主権を守るため実際の行動をとる」と訴え、厳戒態勢をとると言明した。台湾は10日、建国記念日に相当する「双十節」を迎えた。頼氏は同日の演説で「中国は台湾を代表する権利がない」と述べた。習指導部が掲げる中台両岸の統一を受け入れない考えを改めて示した」 

    習近平氏は、国家主席に止まる限り、「連合利剣20××」とやらを続行する。これによって、国内をまとめ上げるという国内対策目的もあるのだ。「強い国家主席」を演じるのである。

     

    (3)「中国軍による14日の演習は頼氏の演説への対抗措置とみられる。国務院(政府)台湾事務弁公室の陳斌華報道官は10日、頼氏の演説を「両岸(中台)の敵意と対立をあおった」と非難する談話を出した。台湾側には中国軍が双十節当日に演習に踏み切るとの見方が多かった。中国側が14日にずらしたのは、李強(リー・チャン)首相の外国訪問のタイミングを考慮した可能性がある。李氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席するため9〜12日にラオスを訪れた。滞在中に軍事演習をすれば、日本や米国を交えて安全保障を議論する東アジア首脳会議(EAS)などの場で李氏が各国の批判を浴びかねなかった」 

    下線部の記事が示す通り、中国が台湾包囲演習を「忸怩(じくじ)たる」思いであることを示している。中国が、台湾総統の演説に反発して、台湾包囲するとは過剰行為である。もっとハッキリ言えば、「暴力でねじふせる」という中国の思い上がりを見せつけている。国際的な信用を落とす行為だ。西側諸国は、ますます中国を警戒するであろう。

     

    (4)「台湾が、双十節当日の中国軍の演習を警戒していたことから、それをかわす思惑もあったとみられる。中国は頼氏演説後の10日夜、衛星を搭載したロケットを西太平洋に向けて打ち上げたものの、中国国営メディアは軍事的な意図などは伝えていない。習国家主席は中国の国慶節(建国記念日)を翌日に控えた9月30日の演説で「台湾は中国の神聖な領土だ」と強調した。「祖国の完全統一の実現は時代の流れであり、大義がある」と主張した」 

    中台統一は、台湾市民が受入れない限り不可能である。それには、中国自身が強圧姿勢を止めて話合い路線を模索することだ。中国に従わなければ、軍事という「暴力」を使うのは、余りにも知恵がなさ過ぎる。自らが変わらずして、相手を納得させられるはずがない。この争いは、習近平氏の「敗北」となろう。孔子の教えに立ち戻るべきだ。強行的な法家思想では解決不可能である。ロシアのプーチン氏と同じことをやっては能がなさすぎる。

     

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    米国は、半導体「母国」であるが現在、生産を海外へ任せる方式になった。半導体設計部門を残して他部門を海外諸国で生産している。だが、最近の地政学的リスクの増大によって、米国内での半導体生産の必要性に迫られている。バイデン政権による「CHIPS・科学法」が、このテコの役割を果している。 

    すでに、米国へ進出した台湾のTSMCは、試験操業段階で台湾並みの製品歩留まりの好成績を上げているという。TSMCはこれまで、米国の「モノ作り文化」に疑問を呈してきたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。従業員教育をきめ細やかに行えば、台湾並みのパフォーマンスを上げられる見通しがついたようであう。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(10月7日付)は、「米半導体戦略が抱える深刻な問題」と題する記事を掲載した。 

    バイデン政権の政策を振り返ると、CHIPS・科学法を超党派で2022年に成立させたことは、いかなる成果リストでもトップ近くにランキングされるだろう。

     

    (1)「米国だけでなく世界にとって、現在のデジタル経済に欠かせない半導体の生産拠点をもっと分散させる必要があることは以前から明白だった。つい最近まで半導体の大半はアジア地域で生産され、高性能半導体に限れば台湾が生産をほぼ独占していた。その台湾は、ウクライナと中東に次いで世界で3番目に地政学的リスクが高い地域といえる。そして今、CHIPS法のおかげで米国と欧州の双方では半導体の生産能力が新たに築かれつつあり、欧州連合(EU)は米国に対抗すべく独自の支援策を打ち出している」 

    半導体が、高度の戦略製品であることから、地政学的リスクと敏感に反応するようになった。 

    (2)経済界や産業界の一部には、こんなやり方で米国が産業の再活性化を図れるのかと懐疑的にみる向きもあるが、経済はインセンティブが後押しする方向に進むものだ。米国内での生産を後押しするために、530億ドル(約7兆8700億円)に上る公的資金と4000億ドル近い民間資金を投じて、2年間でどれほど成果を達成できるのかといえばそれには驚くべきものがある。例えば、台湾積体電路製造(TSMC)が米アリゾナ州に建設した半導体工場(2025年までに量産を開始する予定)ではこの9月上旬、台湾の本社工場と同程度の歩留まり率を実現した。これは大きな成果だ。歩留まり率の上昇は、利益率を高める重要な要因であるばかりか生産性の向上にもつながる」 

    米国政府が、半導体育成でCHIPS法により企業支援していることは理に叶っている。

     

    (3)「台湾の半導体産業の成功から学ぶべき大事な教訓がある。それは、モノ作りが重要だということだ。実際にモノの生産を増やしていけば、イノベーションの階段を上っていくことができる。それは経済学者たちには分かりにくいとしても、エンジニアにとっては常に明白なことだ。米国で半導体生産を復活させる取り組みを巡っては、その遅れを批判する声が多くある(数兆ドル規模にも達する業界をわずか数カ月で再構築できるとでも考えているようだ)。しかし、歩留まり率だけでなく、労働者の育成といった分野でも大きな進歩がみられる」 

    米国では、半導体製造が空洞化しているが、再び復活への動きが始まっている。 

    (4)「半導体生産における熟練労働者の不足は、大きな弱点となってきた。生産が他国へと移転されれば労働者も離れていくし、そうした労働者を支える教育プログラムも消えていく。CHIPS・科学法ではかなりの規模の資金が、ニューヨーク州北部などの地域における学校や職業訓練プログラムの強化に充てられた。ニューヨーク州北部では、米エネルギー省科学局は米半導体大手のマイクロン・テクノロジーと覚書を交わし、同社は今後20年、約1000億ドルを半導体生産に投資する計画だ」 

    CHIPS・科学法によるかなりの資金規模が確保されたことで、復興への芽が着実に育っている。

     

    5)「同半導体プログラムを運営する商務省は、全米教員連盟およびマイクロンと協力し、新しい技術に関するカリキュラムをまとめた。それが今秋、ニューヨークの10の州学区で導入されたのを皮切りに他の州にも広がりつつある。これは教育関係者と雇用創出者が優れた労働力を育成すべく密接に連携した一例だ」 

    半導体教育プログラムは、ニューヨークの10の州学区で導入されたのを皮切りに、他の州にも広がりつつある。人材育成が始まっている。 

    6)「筆者はそれでも半導体生産復活に向けた米国の取り組みの今後について懸念している。我々はモノ作りが重要であることを学んだが、産業政策を体系だって進める方法についてはまだ学習していない。個人の利益よりも公的な利益を優先していく方法も学んでいないからだ。特に人工知能(AI)向け半導体を含め、半導体生産ではこうした問題への取り組みがとりわけ重要だ」 

    半導体が、公的利益に寄与するという理念を植え付けることが重要である。企業の私的利益追求が第一義的になっては拙いのだ。その理由は、次に述べる。 

    7)「大きな課題のひとつは、同盟国や友好国とサプライチェーン(供給網)を構築する「フレンドショアリング」をどの国・地域とどう進めるかだ。米国とアラブ首長国連邦(UAE)は9月下旬、AI分野での能力の増強を目指して半導体やクリーンエネルギーなどの先進技術に関する協力関係を深めることで合意した。しかし、日本製鉄によるUSスチール買収が国家安全保障上の問題をもたらしかねないと懸念するのであれば、人権やプライバシーはほとんど尊重しないうえ、中国と学術およびビジネス分野で深いつながりを築いている独裁国家と、米国が最先端の戦略的技術を共有することについても懐疑的になるべきだ。防衛および情報関係者の多くも筆者と同じ懸念を感じている」 

    米国とアラブ首長国連邦(UAE)が、AI分野で技術提携することは問題含みである。UAEは、中国と学術およびビジネス分野で深いつながりを築いている國である。そういう相手国と戦略製品の半導体技術で提携するのはリスキーである。

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