中国には、相手を力づくでも屈服させようとする悪弊がある。「一寸の虫にも五分の魂」で、必ず反発を受けることが分らないのだろう。同じ誤りを繰返しているからだ。現在再び、台湾に対して関税引上げをちらつかせ始めている。来年1月の台湾総統選に揺さぶりを掛けて、国民党候補を当選させようという意図は明瞭である。
『日本経済新聞 電子版』(11月29日付)は、「中国、関税見直しで台湾揺さぶり 総統選で国民党支援か」と題する記事を掲載した。
台湾総統選を前に、中国が台湾への経済的圧力を強めている。台湾が中国に貿易障壁を設けているとして投開票日の前日を期限に調査しており、結果次第で台湾への関税優遇の停止を検討する。政権与党・民主進歩党(民進党)を揺さぶり、最大野党・国民党を支援する狙いとみられる。
(1)「台湾の王美花・経済部長(経済相)は、日本経済新聞の取材に応じ「(調査は)政治的な意味合いが大きい」と述べた。「中国は総統選にあらゆる手段で影響を及ぼそうとしている」と述べ、総統選への介入をけん制した。中国商務省は台湾が対中輸入規制を設ける農産品や工業製品など2509品目について、貿易障壁の観点から調査を進めている。同調査が注目されるのは、中台が2010年に結んだ経済協力枠組み協定(ECFA)に定めた、台湾への関税優遇の停止につながる可能性があるためだ」
米中首脳会談で、バイデン米国大統領は習中国国家主席に対して、台湾総統選への介入をしないように釘を刺した。中国は、これを無視して「関税引上げ」の可能性を示唆して揺さぶりを掛けている。
(2)「中国で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室トップの宋濤主任は9月、台湾の輸入規制がECFAの関連規定に違反しているとの見方を示し、調査結果に基づいて「関税優遇の停止や一部停止を検討する」と語った。さらに総統選まで3カ月あまりとなった10月に発表された調査期限の延長が台湾で波紋を呼んだ。中国商務省は「案件の状況が複雑なため」として、当初は10月だった期限を24年1月12日まで延長した。これは総統選の投開票日の「前日」にあたる。台湾では総統選に向けた中国の揺さぶりとの受け止めが広がる。中台関係に詳しい台湾師範大学の范世平教授は「政権与党の民進党を攻撃するもので(同党の総統候補である)頼清徳氏を不利に追い込む狙いがある」との見方を示す」
中国の狙いは、中国との融和路線を掲げる国民党候補への支援が明らかだ。
(3)「総統選はいままでのところ、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の路線を引き継ぐ頼氏が支持率調査でリードを保っている。対中融和路線で中国との経済交流にも積極的な最大野党・国民党の侯友宜・新北市長は劣勢にある。ECFAは2010年、中国との関係強化を推し進めた国民党の馬英九・前総統の政権で締結された。先行措置として中国側では農産品や機械、プラスチック製品など539品目の関税が段階的に撤廃された。将来の協定範囲の拡大も盛り込まれていたが、台湾社会での対中警戒感の高まりや、16年の民進党への政権交代を機に、協議は頓挫した経緯がある」
中国は、農産品や機械、プラスチック製品など539品目の関税を段階的に撤廃している。これを再び、引き上げるジェスチャーをみせて牽制している。
(4)「国民党の総統候補である侯氏は27日、台北市内で開いた経済9団体主催の会合に出席し「ECFAの問題を解決し、ただちに(中台)両岸の対話と交流を再開する」と話した。中国の動きと呼応するように、「ECFAカード」による経済界の支持取り込みに動いている。中国が関税優遇を停止した場合の影響はどれほどか。台湾側の統計によれば、台湾の輸出総額に占める中国(香港含む)向けの割合は4割前後の高水準で推移している。22年の対中輸出総額(約27兆円)のうち、ECFA関連は1割強に相当する。台湾経済のけん引役である半導体などハイテク製品の多くは関税優遇の対象品目でないため、同分野への影響は限られる見通しだ」
中国が牽制している品目は、台湾の対中輸出の1割強とされる。半導体などハイテク製品は対象になっていない。
(5)「台湾の有力経済団体・工商協進会の呉東亮・理事長は「(中台)両岸交流の重要なプラットフォームであり、(産業界などへの)心理的な影響は大きい」として懸念を示す。経済部長の王氏も「石油化学や機械、繊維といった業界への影響が比較的大きくなる」と話す。「我々は最悪の事態を想定して動く」とも述べ、対中輸出の減少などの影響が出れば企業の支援に動くとした。王氏はこうした中国の経済的圧力が「過去の総統選と比べても強まっている」と指摘した。中国の経済的圧力について、台湾師範大学の范氏は「直接的で荒っぽいやり方で、台湾の人々の反感を買う可能性もある」と指摘する。
前回の総統選前は、香港の中国化(本土の国家安全保障法適用)によって、「中国恐怖論」を巻き起こして国民党候補が敗北した。今回の関税引上げの揺さぶりは、台湾世論にどのような影響を与えるかだ。