勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    台湾や韓国は、日本の半導体企業ラピダスが日米政府の支援で順調なスタートを切っていることで「そわそわ」し始めている。日本は、半導体製造措置や半導体素材で世界有数のシェアを持ち、1980年代後半では世界半導体生産のチャンピオンであった。その日本が再び、世界の地政学リスクを背景に最前線へ躍り出てきたのだ。台湾や韓国が、落ち着かずそわそわし出しているのは当然であろう。 

    『日本経済新聞 電子版』(6月25日付)は、「日本の半導体『復活できる』台湾パソコン大手エイサー創業者スタン・シー氏 供給網の日台協力訴え」と題する記事を掲載した。 

    台湾パソコン大手、宏碁(エイサー)の創業者で著名実業家の施振栄(スタン・シー)氏が、6月中旬に台湾で日本経済新聞の取材に応じた。日本の半導体・電子産業について「復活できる」との見方を示し、サプライチェーン(供給網)の日台協力を訴えた。

     

    (1)「近年、台湾の半導体企業が海外へ進出しているが、純粋なコストは台湾が一番安い。工場稼働率や歩留まり(良品率)が高く、人件費も相対的に競争力がある。(台湾以外に)唯一、チャンスがあるのは日本だ。かつて高い生産能力を持った実績がある。先端半導体は研究開発の段階から分野をまたいだ協力が必要だ。日本の材料や製造装置はとても強い。ただ、日本企業は他社への技術移転に消極的で、リスクをとることを避けがちという課題もある」 

    下線部は、日本の半導体製造措置や半導体素材の企業が、技術移転に消極的と指摘している。台湾では、それだけに日本の半導体総合力に「敬意」を表しているのだ。 

    (2)「私は日本の半導体・電子産業が復活できると思う。大切なのは『共存共栄』だ。台湾と日本のそれぞれが強みを持ち寄り、価値を創造する双方向の関係を築くべきだ」 

    台湾は、日本半導体・電子産業が復活可能とみている。日本の貿易収支が赤字である背景には、この問題が深く絡んでいる。それだけに、この難所をクリアできれば、「日本復活」が可能になる。

     

    『中央日報』(6月25日付)は、「半導体復活の日本とどう手を組むか、『これからは韓日の水平協力が必要』」と題する記事を掲載した。 

    最近の日本の半導体復活の動きと関連し、韓国の業界に日本と水平的な協力関係を結ぶべきという主張が出てきた。韓国産業研究院のキム・ヤンペン専門研究員は24日、ソウル大学グローバル工学教育センターで開かれた第2回システム半導体共生フォーラムで、「日本の半導体産業の現況」を主題に発表しながらこのように話した。 

    (3)「キム研究員は、「(日本は)国内供給網構築を加速化し、米国が日本の半導体産業を再び推している。ラピダスが1.5ナノまで作るというなど米国政府の承認がなくてはできないことが起きている。TSMCが日本に工場を誘致することになったのも米国の容認がなかったなら可能だったか疑問」と話した。その上で「(韓国と日本の)ファブレス(半導体設計専門企業)間協力は半導体産業内に最も可能性があるもの。世界のファブレス市場でのシェアは韓国が3%、日本は韓国よりさらに低いため、競争よりは長所を合わせて海外市場進出に協力するのが良い」とした。技術流出などの問題が比較的少ないため協力時には利点があるという話だ」 

    韓国半導体は、日本との協力を要望している。ラピダスは口外していないが、秘かにサムスンを第一標的にしている。AI半導体への進出を目指しており、オープンAIと話合いを始めている。NTT(光半導体)もその意向をみせている。後は、SBGが手がける半導体の製造をラピダスへ委託するかだ。このように、ラピダスはサムスンよりも日本国内に有力ユーザーを抱えている。この点で有利な位置にある。

     

    (4)「キム研究員は、両国産業界の水平的協力を提案した。彼は「韓日間協力はこれまで垂直的だった。韓国は製造し、日本は素材と装備を供給する伝統的協力が続いた。これまでは韓国企業の素材・部品・装備競争力が落ちていたため」と説明した。続けて「最近では韓国の技術力が高まったため従来の垂直協力から水平協力に変化しなければならない」と話した」 

    日韓半導体の水平的協力は不可能だ。韓国の製造装置や素材のレベルが、日本に大きく出遅れているからだ。現実は、依然として「垂直的」関係にある。 

    (5)「キム研究員は(韓国が)規模の経済の面でも米国と欧州、中国など世界的覇権競争主導者に個別のプレーヤーとして対抗するのは容易でないとし、日本との協力を強調した。基本技術がある米国などに対応する案としてキム研究員は「ソニーがオランダASMLの極端紫外線(EUV)装備がなくても希望の工程が可能な露光装備を開発した。韓国のサムスン電子、SKハイニックスがこれを採択する場合、地図が変わるかもしれない」とした」 

    ソニーが、ASMLの露光装置に負けない最先端製造装置を完成させたという。キヤノンもASMLへ肉迫する製造装置を完成させた。期せずして、日本の半導体製造装置が世界的な脚光を浴びている。これも、「ラピダス効果」である。日本の半導体業界へ再起の自信を与えたのだ。

     

     

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    中国は、これまで二度も台湾包囲の演習を行った。これは、台湾を軍事侵攻する目的でなく、内部へ恐怖心をまき散らして平和統一論を自然に引き起そうという狙いである。米国シンクタンクは、1年間のシミュレーションを行いこういう分析結果を発表した。戦争をしかけるポーズをみせながら、無血占領するというのだ。この場合、台湾市民は「第二の香港」の運命を甘受する前提である。 

    『朝鮮日報』(6月3日付)は、「1年間ウォーシミュレーションした米専門家ら中国『戦争なしに台湾を支配することは可能』」と題する記事を掲載した。 

    反中基調を前面に押し出す頼清徳・台湾総統が5月20日に就任し、中国と台湾の間で衝突の危険が高まるという懸念が出る中、米国ワシントンの専門家らが「中国は戦争なしでも台湾を『接収』できる」という分析結果を得た。低強度の脅しを繰り返すことで台湾内部の「危険な反中より安全な親中がまし」という世論を拡散させ、米国・台湾関係の弱体化を誘導する戦略を通し、台湾を実効的にコントロールできる-という結論をシミュレーションで導き出した。 

    (1)「米保守陣営を代表するアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)と軍事戦略専門の米国戦争研究所(ISW)は最近、協同で発表した115ページの報告書を通して、明らかにした。AEIとISWは過去1年間、中国当局の立場から「ウォーゲーム(戦争シミュレーション)」形式の仮想シナリオを展開した結果、こうした結果を導き出した。本紙が入手した報告書によると、中国の最終目標は台湾といわゆる「平和協定」を結び、「平和両岸委員会」など政治機構を立ち上げて事実上台湾の支配権を獲得することだ」 

    台湾市民の民主主義への希求を全く無視したシミュレーションである。

    (2)「報告書は、中国が「戦争なき台湾支配」戦略を4段階に分けて進めるとの見通しを示した。頼清徳総統が就任した2024年5月から次期総統選挙がある28年まで、中国が台湾を実質的に支配するため遂行する仮想のシナリオを次のように提示した。第1段階は来年末まで。中国が台湾周辺の航路および航空路を閉鎖し、海底ケーブル切断、電子戦などを通して台湾社会の不安感を造成する。報告書は「(中国の妨害で)きれいな水道を利用できなかったりエネルギーが突然途切れたりして台湾社会は動揺することになり、政権の支持率は下落する可能性がある」とした。頼清徳政権の反中路線が中国をいら立たせ、台湾居住者の危険を大きくしている-という世論を形成することが目社が標だ」 

    過去の台湾大統領選では、直前の中国による威嚇が台湾市民の反発を買って国民党候補が落選した。台湾市民が、中国の脅迫に弱いという前提は間違っている。 

    (3)「2段階は米台関係のかく乱。米国は中国との貿易紛争の過程で、このところ台湾と一層密接になっている。台湾周辺の混乱は、中国ではなく米国のせいだという世論を広めて台湾内部の反米感情を増幅させようというのが目的だ。米国では、米国民1億7000万人が使用している中国企業所有の動画シェアアプリ・ティックトックなど、ソーシャルメディアを動員して「他国の対立への介入を最小限にしよう」という外交基調である孤立主義の雰囲気を拡大する見込みだと報告書は示した。孤立主義は、今年11月の米国大統領選挙に共和党候補として出馬するドナルド・トランプ前大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」の基調とも通じる部分がある」 

    台湾市民が、中国の謀略に引っかかるほど愚かではないであろう。台湾政府は、謀略へ警戒しており、AIを使ってまで謀略文書の摘発を行っている。

    (4)「3段階は、海上封鎖など軍事的な脅しを徐々に強めていくと同時に、台湾内部に「中国との和親を通しての平和」世論を拡散させるというもの。報告書は「この過程で韓日など周辺国が台湾問題に神経を使えないように、北朝鮮の核実験および局地挑発などを誘導することもあり得る」と予想した。こうした過程を経て台湾と米国などで「台湾は中国と平和に過ごす方がよい」という世論が固まれば、最後の第4段階を通して平和協定を結び、平和委員会を立ち上げて「支配体制」を完成させるというのが報告書の結論だ。 

    海上封鎖は、国際紛争へ発展するリスクをはらんでいる。「中国との和親を通した平和」世論を拡散すると言うが、中国の甘い戦術はすでに見抜かれている。台湾は、「台湾人」意識が半分以上も占めているのだ。中国の市民権弾圧をみれば、統一論に賛成するだろうか。台湾市民を余りにも軽蔑した分析にみえる。 

    (5)「報告書は、「米国およびインド太平洋地域の同盟諸国の支援に後押しされた台湾内部のいわゆる“分離主義者”を挫折させ、『両岸の平和』という名目で中国の要求に100%応じる(親中)政治家に権力を移譲するのが中国の計画」だとした。報告書は「米国政府が、中国の軍事的挑発の可能性にのみ集中して準備する場合、中国が既に隠密裏に進めている『ハイブリッド強圧戦略』にはきちんと対応できないかもしれない」と警告した」 

    台湾は、野党を含めて中国との統一論がゼロである。この状態で、どのようにして統一論者をつくり挙げるのか。現実離れしたシミュレーションである。

    テイカカズラ
       


    中国は、台湾の民意によって就任した頼総統に対して、その演説が中国への「恭順」の意を示さず、対等であると主張したことに怒っている。早速、得意の台湾包囲の演習を始めたところだ。まさに、中国の「帝王感覚」をみせつけている。台湾は、中国の一省にすぎないという認識の表明である。 

    この台湾包囲の軍事演習は、どんな意味を持っているのか。 

    米インド太平洋軍のスティーブン・スクレンカ副司令官(海兵隊中将)は5月23日、中国人民解放軍が2023年に台湾海峡で実施した軍事演習で台湾侵攻を想定した演習が行われたと指摘した。海上・上空の封鎖、上陸作戦、他国軍の介入への対応などを想定した訓練を実施したと述べた。ただ、中国軍の侵攻が差し迫っているわけでなく、不可避でもないとの見解も示した。オーストラリア・キャンベラの記者クラブで述べた。『ロイター』(5月23日付)が報じた。 

    台湾包囲の演習は、台湾侵攻を想定したものだと指摘している。ここまで手の内をみせてしまえば、台湾防衛の手がかりを与えるようなものであろう。台湾威嚇手段ともみえるのだ。

     

    『毎日新聞』(5月23日付)は、「習近平政権はなぜそんなに怒るのか、台湾包囲し軍事演習する訳」と題する記事を掲載した。

    中国の習近平部は、台湾の頼清徳新総統の20日の就任演説について中台を別の国と見なす「二国論」だと断じ、大規模な軍事演習に踏み切った。「懲罰」という言葉を使い、台湾の民意を一顧だにしない強硬姿勢を示した。中台関係の「現状維持」の解釈を巡り、認識のずれが生じることで緊張が高まるリスクもあらわになった。 

    (1)「これまで中国政府は、台湾が中国に属するという「一つの中国」原則の受け入れを対話の条件として台湾側に突きつけ、歴代の台湾総統の就任演説に神経をとがらせてきた。頼氏は今回の演説で「現状維持」を表明しながらも、「中華民国台湾は主権独立国家」「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」「(台湾も)我々の国家の名称」など台湾の独自性も強調していた。習指導部は、同じ民進党の蔡英文前総統より大きく後退する発言だとして武力による威圧を選択した模様だ」 

    頼総統は、本省人(台湾出身)である。それだけに中国本土に対しては、「対等」という意識であろう。これは、台湾に出自を持つ全ての人たちに共通している。国民党支持者の多くは、本土が出自の外省人である。日本撤退後に移ってきた人たちが多いだけに、「望郷の念」は強い。この人たちは統一派である。中国にとっては、「平和的統一」が困難な状況にある。

     

    (2)「中国紙『環球時報』(電子版)は23日の社説で、2016年の蔡氏による初の就任演説は「不完全な答案」だったが、頼氏の演説は「答案用紙を破り捨てるものだ」と厳しく批判した。中国政府は一貫して頼氏を「トラブルメーカー」と批判しており、台湾海峡の緊張を高めた責任は頼氏にあると主張して、演習を正当化するとみられる」 

    中国は、台湾本省人嫌いが徹底している。頼氏をトラブルメーカーと呼んでいる。これも、まことに礼儀を弁えない話だ。 

    (3)「習指導部は中台統一を悲願とし、国民のナショナリズムに訴えてきた。それだけに国内に弱腰の姿勢は見せられないという内向きの論理も働いたとみられる。だが、力を振りかざすほど、国際社会で高まる対中脅威論に説得力を持たせるリスクもある。実際、呉江浩・駐日中国大使が頼氏の就任式当日の20日、日本が中国の分裂に加担すれば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれることになる」と発言して物議を醸した」 

    中国は、清国時代から台湾に対して「化外(けがい)の地」(野蛮な土地)という認識であり、真面目な統治が行われなかった。日本統治へ任せたのは、「渡りに船」であったのが真相である。台湾の近代化は、日本の植民地時代に基盤が成立した。これが、台湾近代史の裏面である。

     

    (4)「本来、経済の停滞に直面する習指導部は外交関係の安定を必要としている。そのジレンマがうかがえたのは演習の規模だ。ペロシ米下院議長(当時)の訪台に反発して弾道ミサイルまで発射した22年8月の大規模演習と異なり、今回は事前に航行禁止区域を公表するほど大がかりなものではなかった。米国などを過剰に刺激しないよう規模や内容を考慮した可能性がある。一方、台湾住民は事態を冷静に受け止め、市民生活に混乱は見られなかった。台湾外交部(外務省)の報道官は「台湾は民主主義の理念を守り続ける。脅迫や圧力を受けても変わることはない」と強調した」 

    民主主義という点では、台湾が中国を引離している。それだけに、台湾で民主主義を捨てて、中国本土の「非言論」社会へ移行したという人たちは限られるであろう。中国の焦りはここにある。 

    (5)「習指導部が今後も軍事、外交、経済などあらゆる面で頼政権に圧力を加え続けるのは必至だ。ただ、こうした強硬姿勢が台湾の「中国離れ」を招き、民進党の長期政権につながった。武力の誇示に頼らざるを得ない現状は、中国の統一戦略の手詰まり感を映し出してもいる」 

    中国が、台湾包囲演習を重ねていけば、台湾の中国離れは一段と進むであろう。下線部のように、中国は台湾政策で手詰まり感を強めている。

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    中国が警戒する頼清徳(ライ・チンドォー)総統は、5月20日に台湾総統へ就任した。就任演説で「独立論」を封印し、中国と対等の立場で対話に応じる考えを示した。米国など国際社会との連携で、中国への抑止力を効かせると説明した。演説の冒頭で、「(『一つの中国』を前提とした)中華民国憲法の体制に基づき、重責を担う」と語った。中華民国(台湾)憲法では、一つの中国を前提にしているからだ。

     

    中国は、台湾が独立論を主張すれば即刻、「侵攻」する体制を整えている。それだけに、頼総統は「独立論」を封印するほかない。米国からも強く要請されている。中国へ口実を与えないためだ。頼氏には、慎重な言動が望まれるのだ。

     

    『中央日報』(5月20日付)は、「『中国の台湾』vs『世界の台湾』」と題する記コラム掲載した。筆者は、ユ・サンチョル中国研究所長/チャイナラボ代表である。

     

    頼清徳氏(65)が今日、台湾の新しい総統になる。中国の思いは複雑だ。いくつ理由があるが、まず台湾の民心がますます統一から遠ざかる様相だ。台湾国立政治大学の選挙研究センターが2月に発表した世論調査によると、統一を望む台湾人は7.4%にすぎなかった。半面、独立支持は25.3%にのぼった。61.1%の多数は現状維持を選択した。このような構図の中で総統選挙をしたため独立性向の民進党が勝利しやすい。

     

    (1)「頼清徳氏は、前任総統の蔡英文氏よりも強硬な独立主義者だ。中国がいう「中国の台湾」でなく「世界の台湾」と主張する。中国の祖国統一方針に対する明確な反対意思表示だ。未来はどうなるのか。中国の立場ではさらに絶望的だ。頼氏のランニングメイトで副総統となった蕭美琴氏を見るとそのように推察できる。1971年生まれの蕭美琴氏は、父が台湾人、母が米国人、生まれたところは日本だ」

     

    頼氏が、総統を2期務めたと仮定し、蕭副総統が後継としてさらに2期総統を務めると8年になる。今後、16年の民進党政権が続くことになる。これまでの蔡総統時代で8年過ぎているので、実に24年もの民進党政権になりかねないのだ。習近平中国国家主席にとっては、耐えがたい屈辱になるだろう。そうなると、「中国の台湾」でなく、「世界の台湾」という位置づけになる。

     

    (2)「中国は、台湾にいつも同じ血筋であることを強調する。ところが蕭氏は、どう思っているだろうか。北京よりもワシントンや東京に親近感を感じるかもしれない。中国が懸念するもう一つの原因は、台湾の民主化にある。頼氏は自身の当選を「台湾が民主主義と権威主義の間で民主主義の方に立つことにした」とし、国際的に民主主義同盟国と肩を並べるという。また、2300万人の台湾人の意思で台湾の将来を開くと話している」

     

    台湾の将来は、中国が決めるのか。あるいは、台湾が選択するのかという問題になる。これは、台湾独立論と誤解されるがそうではない。独立するかしないかと関わりなく、「台湾人」のメンタリティは中国本土から離れていくという意味だ。

     

    日本の植民地時代から台湾に住んでいた人々(本省人)は、戦後に本土から渡来した人々(外省人)と別の思いを抱いている。本土への愛着は希薄である。それ故、「中国の台湾」と言われてもピンとこないのだ。それよりも、台湾を統治した日本への親しみと憧れがはるかに強い。これは、日本が撤退後に本土から進出した外省人が、本省人を理由もなく弾圧したことへの反発である。この結果、植民地時代の日本の方が、はるかに愛情を持っていたと評価しているのだ。

     

    (3)「これは14億人の中国人全体でなく、その10%にもならない共産党員の意志に基づいて動く中国に対する批判だ。頼氏は内閣の構成でも成熟した民主国家のパターンを見せる。国防相に有名弁護士の顧立雄氏を任命した。文人に国防を任せたということだが、国防を単純に軍事問題でなく政治問題として認識するためだ。また外相には中国の村民自治を研究した学者出身の林佳龍氏を選択した」

     

    頼政権は、文人を国防相に任命した。外相も学者出身である。台湾のソフト路線を強調するのであろう。

     

    (4)「台湾最高情報機関の国家安全局のトップも、軍出身でなく学者出身の蔡明彦氏を任命し、文民統治の雰囲気を漂わせた。国家安全保障を前に出して取り締まりと統制の手綱を引く中国とは完全に違う姿だ。中国は、2004年に台湾民進党の陳水扁氏が総統に再選した当時、大きな衝撃を受けたという。台湾の民主化ロードマップが将来、共産党の権力独占に大きな脅威になると考えたからだ。頼氏の就任式を見る中国共産党の内心は20年前とそれほど変わらないようだ」

     

    台湾の民主化路線は、ますます固まっていく。香港の「中国化」によって、台湾の人々は、さらに「統一」を望まなくなっている。外省人の代替わりが進めば、一段と中国離れが確固としたものになるであろう。中国自身が、民主化路線へ変わらなければ平和裏の統一は困難であろう。

     

     

    あじさいのたまご
       

    中国は、国家安全省の法律執行に関する新しい規定が7月1日から施行される。電子データに関する取り締まりに重点が置かれており、外国からの入国者を含め、スマートフォンなどの内部に保存された文書や画像に対する検査が強化されるとみられるという。

     

    『時事通信』(5月15日付)は、「スマホ内部検査など強化、中国国家安全省の新規定」と題する記事を掲載した。

     

    国家安全省は4月26日、国家安全機関の行政法律執行手続きに関する規定(以下、規定1)と刑事事案処理手続きに関する規定(規定2)を発表した。規定1は反スパイ法、国家情報法、行政処罰法、行政強制法に基づいて、規定2は刑事訴訟法の実施を保障するため制定された。

     

    (1)「注目されるのは規定1の「電子設備、施設、プログラム、ツール」に対する検査規定。事実上はスマホ、パソコン、タブレットなどを指す。検査は、国家安全機関が市レベル以上の同機関責任者の承認を経て、検査通知書を作成して行うとされる。ただし、緊急の状況下では、法律執行人員が市レベル以上の国家安全機関責任者の承認だけで検査をその場で実施できる」

     

    中国へ入国の際に、スマホ、パソコン、タブレットなどが検査される。

     

    (2)「反スパイ法にも同じような規定があるが、検査は「反スパイ工作の任務を執行している時」に行うと明記。検査担当者も国家安全機関職員だけで、それ以外の法律執行人員の記述はない。新規定は空港税関などによる日常的検査を想定していると思われる。また、反スパイ法に2回しか出てこない「電子」という言葉が規定1に16回、規定2には86回も登場。その多くは「電子データ」である。スマホなどによる反体制的コンテンツの国内持ち込みや拡散、機密の国外持ち出しに対する警戒を強めているようだ」

     

    スマホなどによる反体制的コンテンツが、国内へ持ち込まれ拡散されること。また、機密の国外持ち出しに対する警戒姿勢でもある。中国は、「戦時体制」に入ったようなイメージである。

     

    (3)「中国治安当局のこのような動きを受け、台湾行政院(内閣)大陸委員会は5月9日、中国本土では「国家安全保障」の定義が膨張して法律執行権力が拡大していると指摘し、本土に行く場合は「高いリスク」について考えて、本当に必要かどうか慎重に判断するよう呼び掛けた。「なるべく行くな」ということだろう。大陸委は前記の新規定について、旅客の電子機器を検査する権限を明文化しており、個人の権益に対する重大な侵害で、各界の萎縮効果も大きくなると警告。「中華民族の感情を害する」と認定されたものはすべて違法とされる恐れがあるとの見方を示した」

     

    台湾当局は、できるだけ中国本土へ行くな、という警告である。中国が、ここまで対外的に警戒心を強めているのは、経済危機がもたらしているものだろう。

     

    (4)「一方、中国治安当局の事情に詳しい香港の消息筋は、「中国税関はこれまでも、旅客の携帯電話を検査することがあった。新規定で検査がやりやすくなるというだけだ」と解説した。2019年に香港で反政府デモが続いていた頃、中国税関は香港人旅客の携帯電話を検査して、暴動の写真などを削除させていたという。同筋は「あなたの携帯電話が調べられても、中に反中国共産党の文書や中国の重要内部文書がなければ、心配することはない。他国でもやっていることだ」と述べた。しかし、多くの人にとって、スマホやパソコンの中のデータが問題視されるどうか以前に、内部データを勝手にチェックされることが問題なのであり、「心配するな」というのは無理な話である」

     

    言論の自由が保障されている国民からみると、中国当局は何を恐れているのか。中国の弱点を指摘する言説に対して、神経過敏になっている証拠であろう。

     

    (5)「コロナ禍が終わった後も、海外から中国を訪れる旅客数はコロナ禍前よりはるかに少ない状態が続いている。習近平政権が改革・開放の継続を唱えつつも、実際には排外的姿勢を強めているためだ。その上、中国の空港に着いたら、やたらとスマホの中を調べられるということになれば、訪中する外国人はますます減っていく」

     

    中国は、戦時中の日本のように言論の自由を奪っている。当局の意向に反する言動を取り締まっているので、海外かもこうした類いの情報を遮断したいのであろう。

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