資金難に悩んできた日本半導体は、政府の支援も受けてこれまでの遅れを一挙に挽回すべく設備投資へ邁進する。自民党前幹事長で半導体戦略推進議員連盟の会長を務める甘利明氏は、国も積極支援すると、明るい展望を明らかにした。今後の10年間で、官民で10兆円規模の投資を行なうと見通しを語った。
『ブルームバーグ』(1月20日付)は、「自民・甘利氏、最先端向けは『もちろんマスト』―対中半導体装置規制」と題する記事を掲載した。
(1)「昨年8月に設立され、米IBMと技術提携し次世代半導体の生産を目指す半導体新会社「ラピダス」の成功に大きな期待を寄せる。甘利氏は「ラピダスは日本の半導体戦略の中心になる会社。何としても成功するように十分な官民投資が確保されるべき」だと述べた。政府は半導体の安定供給確保を経済安全保障上の重要課題に掲げる。台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設中の先端半導体工場やキオクシアホールディングスの四日市工場などに補助金を出すなど、2021~22年度で2兆円近くの予算を計上した。ラピダスには700億円の補助金を交付する。甘利氏は、政府が安定供給に取り組む半導体の関連投資の規模については、「官民合わせて10年間で10兆円ぐらいは投資していかないとなかなか勝ち切れないんじゃないか」との認識を示した」
ラピダスは、米IBMと技術提携した。次のような目的である。
半導体2ナノ(ナノとは、10億分の1メートル)世代は半導体技術の移行期にあたる。従来の半導体技術とは次元が異なるものだ。半導体各社は、「ゲートオールアラウンド」(GAA)という新たな素子構造を採用し、技術の壁を解決しようとしている。
米IBMは21年、このGAA構造による2ナノ品を試作した。ただ、量産化技術を確立していないので、昨年12月に日本の「ラピダス」と技術提携して量産化を支援することになった。これによって、27年に「2ナノ」量産化は確実だ。10年以上遅れた日本半導体が、一挙にその空白期を埋めて飛躍できる理由である。
日本が、世界半導体トップの位置をキープするには、官民合わせて10年間で10兆円ぐらいは投資する必要性を強調した。これは、自民党が積極的に半導体へ支援することを示したものである。
(2)「TSMCが、日本に2つ目の工場建設を検討していることについては、「日本が半導体で求心力を持ちつつある」と評価。TSMCが政府の本気度を感じ取り、「本格的に信用している」のではないかと話した」
TSMCは、日本で2番目の半導体工場を建設する意思を固めた。1番目の工場は、熊本県で建設中である。TSMCは、日本がラピダスを設立して最先端半導体進出体制を整えたことで、日本とより協調体制を強める意向でもあろう。TSMCは、筑波ですでに半導体研究所を開設済である。
(3)「甘利氏は20日のインタビューで、半導体の先端技術が武器転用された場合、日本や米国など西側諸国の脅威になる危険性を指摘。最先端向け半導体製造装置の輸出規制は「もちろんマスト」で、それ以外に対象をどう定めるかは、同盟国間で「問題意識を共有しなければいけない」と述べた。米国は昨年10月、先端半導体製造装置の対中輸出規制を開始し、日本とオランダにも協調を求めた。主要サプライヤーを抱える両国は米国と会談を重ね、1月末にも最終決定する見通し。両国が同調すれば、中国の半導体製造技術の進化に打撃を与える可能性がある」
半導体製造装置の主要サプライヤーを抱える日本とオランダは、バイデン米政権が主導する対中半導体輸出規制に近く加わる見通しだ。日本とオランダは1月末にも輸出規制で米国に同調し、最終決定する可能性がある。両国の首脳はバイデン大統領とホワイトハウスで今月それぞれ会談し、計画を協議していた。オランダのルッテ首相は19日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会が開かれているスイスのダボスで、「そこへ到達できると、かなり自信を持っている」とブルームバーグテレビジョンのインタビューに答えた(1月20日)。中国にとっては、相当な痛手になる。