勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    台湾の行政院(内閣)が、自衛隊の統合幕僚長を務めた岩崎茂氏を政務顧問に任命した。政務顧問は、行政院への政策提言を担う。安全保障分野で日本との関係強化を探る狙いとみられる。岩崎氏は航空自衛隊の出身で、航空幕僚長を経て2012~14年に統合幕僚長を務めた。

    『毎日新聞』(3月22日付)は、「自衛隊の制服組元トップが台湾政府顧問に就任、安保連携狙いか」と題する記事を掲載した。

    自衛隊制服組トップの統合幕僚長を務めた岩崎茂氏が台湾行政院(内閣)の政務顧問に就任したことが21日、行政院関係者への取材で明らかになった。自衛隊最高幹部経験者の任命は極めて異例。日本との安全保障分野での関係を強化する狙いとみられる。

    (1)「岩崎氏は航空自衛隊の戦闘機パイロット出身。航空幕僚長を経て2012~14年に統合幕僚長を務めた。政務顧問は非常勤・無報酬で、行政院に対して政策提言を行う。行政院関係者によると、岩崎氏は今月、台湾側の招待で訪台し、顧問に就任。卓栄泰・行政院長(首相に相当)とも面会した」

    岩崎氏の台湾政府・政務顧問就任は、台湾と日本との安全保障問題で大きな役割を果すとみられる。台湾防衛では、制空権確保が重要問題である。岩崎氏は、航空幕僚長や統合幕僚長を務めた経緯がある。有力なアドバイスを与えるであろう。


    (2)「岩崎氏は公職を退いた後、たびたび台湾を訪問している。24年5月には台湾北部・新北市の淡江大学で講演。中国やロシア、北朝鮮が地域の大きな脅威になっているとした上で、日本は直接台湾を支援できないが、台湾とのさまざまな分野での協力関係をさらに強めていく必要があると述べていた。中国外務省の毛寧報道局長は21日の記者会見で「日本は台湾問題で中国人民に対する歴史的な罪を負っていて、特に言動を慎むべきだ」と批判した」

    中国外務省は、日本に対して「台湾問題で中国人民に対する歴史的な罪を負っている」と発言している。これは、間違いである。日本は、日清戦争勝利で台湾を植民地にした。だが、当時の台湾は中国にとって「化外の地」(野蛮の地)とされ、清国の統治が及んでいなかった。この台湾を近代化させたのは日本である。「歴史的罪」どころか、「歴史的善政」であったのだ。現在の台湾が、「親日」である理由だ。

    台湾が、中国本土への統一を望まないのは与野党一致の意思である。これは、中国の共産党政権を忌避している証拠だ。自らが、民主化しない限り統一はあり得ない状況にある。中国は、これを無視して「侵攻」をちらつかせている。となると、台湾は防衛戦略を立てるほかない。米軍と自衛隊が、台湾防衛にどのようにかかわるかが問われている。


    『毎日新聞』(23年2月28日付)は、「台湾有事で何が起きるのか、米研究機関が日本に突きつけた課題」と題する記事を掲載した。

    米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は(23年)1月、台湾有事の机上演習(ウオーゲーム)の報告書を発表した。計24ケースをシミュレーションし、大半で中国に不利な結果が出た。ところが、日本に深く関係する、ある条件を加えると、違ったシナリオが導き出された。

    (3)「報告書は台湾防衛成功の条件の一つに「在日米軍基地の使用」を挙げた。日米安全保障条約や付随する交換公文によって、米軍が日本から戦闘作戦行動をとる場合には「日本政府との事前協議」が必要だ。日本が認めなければ、作戦成功が危ぶまれ、米軍が軍事介入自体をためらうこともあり得ると言える。「米国が動くなら日本も付き合う」という発想ではなく、「台湾の行方は日本の判断次第だ」という気構えが最低限必要だ――。CSISの報告書はそう迫っていると言える」

    台湾防衛で、日本が在日米軍基地の使用を認めることが不可欠である。「台湾の行方は日本の判断次第だ」である。台湾政府が、岩崎氏を政務顧問へ迎えた理由である。


    (4)「米中の軍事衝突が始まった場合、日本政府は「どこまで米軍を支援するのか」という判断を迫られる。「日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態)」と認定すれば、自衛隊が武力を行使することも可能になる。では、中国は日本を攻撃するのか。机上演習では中国チームが試行錯誤する中で「日本は攻撃しない」と選択したケースもあったが、いずれも中国にさらに不利な結果となった。中国にとって、日本を敵に回すリスクより、先手を打って在日米軍基地を攻撃するメリットの方が大きかった」

    中国は、先手を打って在日米軍基地を攻撃する攻撃するメリットが大きい。

    (5)「中国が日本を攻撃すれば、日本政府は「武力攻撃事態」と認定し、自衛隊は米軍と共同戦線を張ることになる。自衛隊の中でも「航空自衛隊が非常に重要だ」と指摘されている。机上演習では、空自のF35戦闘機が長射程ミサイル「JSM」で中国軍の艦船を攻撃し、米軍の爆撃機の護衛、情報収集でも貢献。海上自衛隊の潜水艦も中国軍に一定の打撃を与えたが、ミサイルの補充にかかる時間を考慮すると、戦闘機の有用性が高かった」

    中国が日本を攻撃すれば、自衛隊は米軍と共同戦線を張る。空自のF35戦闘機が、長射程ミサイル「JSM」で中国軍の艦船を攻撃し、米軍の爆撃機の護衛、情報収集でも貢献する。航空自衛隊の有用性が高いことが証明された。岩崎氏の政務顧問就任の背景だ。



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    米国は、半導体の国内生産を着々と増やす体制を整えている。バイデン政権の半導体補助金政策の効果が出ている上に、トランプ政権による「関税」が奏功して大型半導体投資が進むからだ。2030年には、半導体の生産シェアは20%に回復するという。

    『日本経済新聞 電子版』(3月7日付)は、「米半導体、国内に回帰 AI用など先端品シェア2割に倍増」と題する記事を掲載した。

    台湾や韓国の半導体企業の投資を呼び込み、米国は先端半導体の内製化を強める。人工知能(AI)や通信に使われる先端半導体において、米国の世界生産シェアが2030年に2割強になることがわかった。21年に比べて倍増する。台湾や韓国の企業を呼び込み、AI半導体を設計から生産まで米国内で完結する体制が整う。米国の半導体はアジアからの輸入に頼っていたが、経済安全保障を背景にした生産の国内回帰が鮮明になる。


    (1)「半導体は、新型コロナウイルス禍の半導体不足を契機に、経済安全保障上の戦略物資となった。米国をはじめ、日本や欧州などが巨額の政府支援策を講じて企業の投資を引き出し、半導体の国内生産の増強に動いている。米国半導体工業会(SIA)の統計や企業の公表資料を用いて、20年以降に表明された米半導体の民間投資額を独自集計したところ、日本円で80兆円規模に達した。世界の半導体の生産能力に占める米国のシェアは、90年の37%から22年は10%まで低下していた。1990年代から下落傾向にあった、米国の半導体の世界生産シェアは25年から反転する見通」

    米国半導体生産シェアは、90年の37%から22年に10%まで低下した。これが、25年以降は増加に転じる見込みだ。

    (2)「半導体には主に電子機器の頭脳の役割を果たし、計算や判断を行うロジック半導体と、データを記憶するメモリー半導体がある。米国が経済安保上、注力するのがロジック半導体の内製化だ。特にデータセンターや通信、軍事製品に用いられる先端のロジック半導体の生産体制の確立を急いでいた。台湾調査会社のトレンドフォースによると、台湾積体電路製造(TSMC)の投資をけん引役に、先端ロジック半導体の生産能力に占める米国の割合は30年に21年比で2倍の22%に達する見通しだ。台湾は71%から58%、韓国は12%から7%に下がる」

    先端ロジック半導体の生産能力では、米国シェアが30年に22%に達する見通しだ。21年比で2倍に急増する。米国急増の反動で、生産シェアは台湾が71%から58%、韓国は12%から7%に下がる。


    (3)「先端ロジック半導体の確保を急ぐのは、AIの競争力を左右するためだ。米国はAI半導体の設計では米エヌビディアが市場をほぼ寡占しているが、生産を台湾に頼っていた。台湾や韓国の半導体メーカーの米国投資を通じて、AI半導体において設計から生産までを米国内で完結できるようになる。TSMCは1000億ドル(約15兆円)を新たに投じ、米国に3つの先端ロジック半導体の工場を追加する。半導体を製品に仕上げる先端パッケージング工程を担う2つの施設と、研究開発(R&D)の拠点も設置する。魏哲家・董事長兼最高経営責任者(CEO)は「AI向け半導体を大量に生産する」と説明する」

    台湾のTSMCは、米国へ1000億ドル(約15兆円)を新たに投じ、3つの先端ロジック半導体の工場を追加する。米国は、先端半導体供給で安心できる。

    (4)「AI半導体に使う高性能メモリー半導体「HBM」を手掛ける韓国のSKハイニックスも40億ドルを投じ、インディアナ州でHBMを生産できる工場や研究開発施設を建設する。AI半導体の生産は先端ロジックだけでは完結しない。データの処理を助ける高性能メモリー半導体を調達し、先端パッケージングの工程で一つの製品に組み立てる必要がある。これまで台湾に集中してきた先端パッケージング拠点の新設で、米国に一貫生産体制が構築できる。米国の先端半導体生産の担い手は、技術を持つ台湾と韓国のメーカーが中心となる。対米半導体投資のうち台韓の企業が占める割合は、24年時点の試算で7割弱あった。TSMCの追加投資によって役割はさらに増す」

    韓国のSKハイニックスも米国へ、40億ドルを投じる。お気づきのように、先端半導体ではサムスンの名前が出てこないのだ。技術的に、先端半導体を生産できない弱点を抱えている。

    (5)「トランプ米大統領は、米投資の呼び水を補助金から関税に切り替える姿勢で、半導体生産のシェアを40%まで高めると公言する。日本政府は、24年11月に閣議決定した経済対策で、AI・半導体産業基盤強化に30年度までの7年間で10兆円以上を公的支援する枠組みを示した。次世代半導体の量産を目指すラピダスなどの支援を念頭に置く」

    トランプ大統領は、先端半導体シェアを40%まで引上げると豪語している。


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    米国務省が公開している米台関係の概要文書「ファクトシート」には長年、「米国は台湾の独立を支持しない」と記載された文言があった。それが、2月16日になって削除されていたことが判明した。中国にとっては、米国へ要求している「レッドライン」の一つが、台湾独立不支持であった。それが消えただけに、具体的抗議姿勢を取らざるを得なくなった。

    『ニューズウィーク 日本版』(2月28日付)は、「トランプから中国への挑発 台湾の『独立不支持』文言削除に中国はこう動く」と題する記事を掲載した。

    トランプ政権は、台湾に関して越えてはならないとする中国のレッドラインを意図的に試しているのか。対中交渉で優位に立つための一時的な変更なのか。それとも、台湾の地位をめぐって、より明確なアプローチを打ち出す第一歩なのか。米国務省はバイデン前政権時代の2022年、問題の文言をいったん削除したが、中国の外交的反発を受けて復活させた経緯がある。ドナルド・トランプ米大統領の下での今回の動きは、台湾政策でリスクを取る意欲の表れだ。今や中国と台湾とアメリカはそれぞれ、戦略を再調整しなければならない。


    (1)「アメリカは、(これまで台湾の独立不支持で)中国の攻撃と台湾の一方的な独立の動きの双方を防ぎ、台湾海峡で現状を維持することができた。微妙な軌道修正を示唆する今回の文言削除は、戦略的曖昧性を強化する可能性も、弱体化させる可能性もある。さらに、(今回は)台湾の国際機関加盟をめぐる立場も見直された。米国務省は従来、台湾が加入可能なのは、加盟資格を国家に限らない機関だけだとしていた。最新版のファクトシートでは、「場合によっては加盟国の地位を含め、国際機関への台湾の意義ある参加」を支持すると明記している。アメリカが台湾の国連加盟などを支持する意向を示しているのであれば、中国にとってあからさまな挑戦だ」

    米国は、「台湾の独立不支持」を削除しただけでなく、国連加盟含めて幅広い国際機関への参加を認めるように要請した。べいこくが、これまでない対応をしており、中国への対抗姿勢を明白にしている。

    (2)「中国の対応は早かった。中国外務省の郭嘉昆(クオ・チアクン)報道官は2月17日の記者会見で、アメリカの「台湾関連問題の立場が深刻に後退」し、台湾の独立派に「著しく誤ったシグナル」を発していると米政府を非難。「今すぐ過ちを正すよう求める」と発言した。折しも、中国は「独立勢力」を法的に弾圧する動きを強めている。昨年6月に新たな司法指針を発表し、主権国家に資格が限定される国際機関への台湾加盟の推進は国家分裂行為であり、死刑も含む処罰の対象になると定めた」

    中国は、素早く抗議姿勢を明確にしたが、具体的な対抗手段を明らかにしていない。


    (3)「問題は、中国が米国務省による改訂を、台湾独立への直接的支持と解釈するかだ。
    戦略的曖昧性からの離反と見なした場合、中国はさまざまな反応に出るだろう。大規模軍事演習やグレーゾーン戦略(平時でも戦時でもない状態での作戦)といった台湾周辺での軍事的活動、米企業や台湾企業を標的にした経済的威圧を強化するかもしれない。外交的な報復措置として、米中の協力関係を格下げしたり、国際的な緊張をエスカレートさせることもあり得る。「アメリカの挑発」に対するこれまでの反応を考えれば、最も可能性が高いのは軍事的シグナルだ。中国軍戦闘機による台湾のADIZ(防空識別圏)侵入などが想定できる」

    中国で、最も可能性の高い対抗手段は軍事的シグナルだ。中国軍戦闘機による台湾のADIZ(防空識別圏)侵入などが想定できるという。

    (4)「台湾の与党・民主進歩党(民進党)は、今回の改訂を熱烈に歓迎した。「主権の独立した台湾共和国の建国」を綱領に掲げる同党にとって、アメリカの従来姿勢は長らく政治的障害だった。台湾外交部(外務省)は米政府の「前向きで親台的な表現」に謝意を示し、国家の承認の拡大に向けた一歩と評している」

    台湾与党「民進党」は、今回の米国務省の措置を大歓迎している。台湾が、国家としての承認へ一歩、近づいたという認識である。


    (5)「台湾の最大野党・国民党にとって、事態はより複雑だ。台湾海峡両岸はいずれも中国であり、その正当な政府は台湾政府だとの歴史的立場を、同党は維持している。これまでアメリカの政策を根拠に、台湾の正式な独立は非現実的だとして独立に反対してきた国民党は、アメリカ側が表現を柔軟化した今、ジレンマに直面している。台湾独立を支持するのは、党の立場と矛盾するため不可能だ。だが同時に、台湾の多くの有権者が支持する米台関係の強化に反対している印象を与えることもできない。今後の選挙をにらむなかで、国民党は難しい綱渡りを強いられることになる」

    国民党は、複雑な立場に置かれている。これまで、台湾独立に反対してきただけに、米国務省の措置に困惑している。国民党は極力、米台関係の強化に反対しているイメージを与えることを避けようとしている。







    あじさいのたまご
       

    ホンダと日産の統合案が破談になった。経営が困難になっている日産を巡っては、報道が錯綜している。米テスラが、日産へ投資するとの報道の一方で、台湾の鴻海(ホンハイ)がホンダ・日産・三菱へ協業を申し入れたとの報道もされている。鴻海は、外為法で経営参加が制限されているので「協業」を打ち出したのであろう。

    『ブルームバーグ』『2月21日付』は、「日産にテスラが投資する計画策定、菅氏含む日本のグループ-FT」と題する記事を掲載した。

    (1)「菅義偉元首相を含む日本のハイレベルグループが、米電気自動車(EV)メーカー、テスラが日産自動車に投資する計画を策定したと英紙『フィナンシャル・タイムズ』が報じた。報道を受け、日産の株価は21日午後の東京市場での取引で上げ幅を拡大。一時前日比12%高の471円まで買われ、2024年12月18日以来の日中上昇率を付けた」


    この情報は、日産がITグループと提携を模索しているという流れに沿ったものだ。菅義偉元首相は横浜が選挙区であり、日産本社も横浜という「地縁」から動きが始まったのかも知れない。地元横浜にとっては、万が一でも日産に「異変」が起こり、撤退するということになれば大きな打撃となる。そこで、政界の長老が仲介しているのかとみられる。

    『日本経済新聞 電子版』(2月21日付)は、「鴻海、ホンダに協業を提案 日産・三菱自含む4社で陣営」と題する記事を掲載した。

    台湾電機大手・鴻海(ホンハイ)精密工業がホンダに協業を提案したことが、21日分かった。鴻海は電気自動車(EV)事業の強化に向けて、日産自動車との提携を模索している。日産傘下の三菱自動車を加えた日台による4社での協業を視野に入れている。


    (2)「鴻海の社内関係者が明らかにした。ホンダと日産は13日に経営統合に向けた協議を打ち切ったが、EVやソフトウエア開発など事業面での提携は継続する考えを示している。日産を巡り事実上の競合関係にあったホンダと手を組むことにより、EVで中国勢や米テスラに対抗する新たな陣営作りを目指す。鴻海は2024年秋ごろから水面下で日産への経営参画を探ってきた。信託分を含めて日産株の約36%を持つルノーと話し合っている」

    ルノーの持つ日産株の売却は、日産がその相手を決める権利を持っている。鴻海は、こういう事情を無視して、日産の頭越しにルノーと交渉するなど「僭越行為」を行っている。日本企業の流儀とは甚だ異なっている。

    (3)「鴻海は、日産の買収観測を巡り、買収ではなく提携だとしている。新規参入したEVの設計・製造受託ビジネスを通じて日本の自動車メーカーと協力したいという。鴻海は、EVのプラットフォームやソフトウエアなど次世代技術の開発に力を入れているが、顧客獲得に苦戦している。ホンダや日産など3社と組めれば、アジアで強力なEVの供給網を構築でき、世界展開の足がかりとなる」

    鴻海EVの経営トップは、元日産の「ナンバー3」とされた人物だ。鴻海は、資金量は豊富でも技術は未知数である。こういう相手企業と組むメリットはあるのか。協業を組めば、技術を持ち出されるリスクが高まるであろう。


    (4)「日産は、北米市場の販売不振により業績不振に陥っている。北米ではEV市場に逆風が吹きハイブリッド車(HV)が売れているが、日産はHVを持っていない。鴻海はHVの技術を持つホンダを含めた協業関係を構築することにより、日産の経営再建の後押しにつながると考えているもようだ。今後は、鴻海の提案に対するホンダの回答や日産の出方が焦点となる。鴻海は、日産への経営参画を模索してきたが、日本側の一部に外資による買収に警戒感があるなか、直接交渉は控えてきた」

    鴻海は、電機メーカーのシャープを強引に合併したが、合併成果はゼロどころか、工場用地売却という最悪の結末になった。こういう鴻海が再び、日本の名門企業を狙っていることから、市場は拒絶反応を示している。外為法上の制限から、自動車企業の買収は不可能である。そこで、鴻海は「協業」という形で接近している。ホンダや三菱が、どういう反応するか「見もの」である。三菱は、歴とした三菱グループ「末裔」という流れから拒否反応をするだろう。






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    中国は、米国によって先端半導体への進出を阻まれている。やむを得ず、レガシーチップ(旧世代半導体)増産に向けて全力を挙げている。政府が、補助金を与えて支援している結果だ。レガシーチップでは現在、台湾がトップシェアである。中国が27年に首位にたつものと予想されている。中国全土で、半導体工場の建設に着手しているのだ。

    『ロイター』(2月10日付)は、「台湾レガシー半導体業界、中国にシェア奪われ戦略転換が不可避」と題する記事を掲載した。

    台湾の力晶科技(パワーチップ・テクノロジー)が、中国東部の合肥市と新たなファウンドリー(半導体製造受託)合弁設立契約を結んだ2015年、同社は有望な中国市場へのアクセス向上を期待していた。しかし9年後、その中国ファウンドリー企業である晶合集成(ネクスチップ)は、レガシーチップ(旧世代半導体)分野で最大のライバルの一つとなってしまった。


    (1)「ネクスチップなどの中国ファウンドリー企業は、28ナノメートル以上の技術で製造される563億ドル規模のレガシーチップ市場で急速にシェアを獲得。価格引き下げ、積極的な生産能力拡大計画に乗り出すことで、自動車やディスプレーパネルに使用する半導体市場でパワーチップや聯華電子(UMC)など台湾企業の優位性を脅かしている。パワーチップ再編後の持ち株会社とその傘下上場子会社である力晶積成電子製造(PSMC)で会長を務める黄崇仁(フランク・ファン)氏は、「われわれのような成熟ノード(レガシー)のファウンドリーは変革が必要だ。そうしないと中国の値下げで事態は一段と混乱する」と語った」

    中国が、世界のレガシーチップ市場で主導権を握るであろうことは、昨年から予想されていた。日本は、これに備えて国内でのレガシーチップ増産に力を入れている。台湾のTSMC工場を九州へ誘致した理由もこれだ。

    (2)「台湾半導体企業の幹部によると、先端半導体技術の追求を米国に阻まれた中国ファウンドリー企業は近年、レガシーチップに注力、政府からの強力な資金援助と低利益率を武器に台湾の競合企業に価格面で優位に立っている。トレンドフォースによると、2024年のレガシーチップ生産能力における世界シェアは中国が34%、台湾が43%。27年には中国が台湾を上回ると予測されている。SEMIによると、23~25年生産開始の新しい工場97カ所のうち57カ所は中国にある」

    世界で、23~25年に生産開始した工場97カ所のうち、中国がなんと57カ所を占めている。このことから、レガシーチップ生産能力における世界シェアは、27年に中国が台湾を上回ると予想されている。


    (3)「台湾のファウンドリー企業は、プロセスの安定性や歩留まりの良さといった点でまだ競争力がある。ある台湾の半導体設計会社幹部によると、23年以降は中国ファウンドリー企業の攻勢が強まっている。中国企業にサプライチェーン(供給網)の現地化を求める中国政府の要請も強いようだという。調査会社IDCのシニアリサーチマネジャー、ガレン・ツェン氏は、台湾の半導体設計会社やファウンドリーはプロセスを専門化し、レガシーチップから多角化する可能性が高いと指摘する」

    台湾のファウンドリー企業は、中国企業に対して歩留まりの良さで競争力を維持している。これは、台湾の製造技術が高いことを示すもので、レガシーチップから多角化する可能性を秘めているとされている。

    (4)「パワーチップの黄氏は、中国市場でパフォーマンスを向上させながら消費電力を削減する技術「3Dスタッキング」に重点を移す計画だと述べた。同社はネクスチップの第2位株主として19%の株式を保有しているが、経営面では積極的な役割を担っていない。米国が対中抑止に乗り出し、顧客がサプライチェーンを中国と中国以外のネットワークに分断せざるを得なくなっていることも多少の追い風になるかもしれない。黄氏はロイターに対し、中国に向かうはずだった注文が台湾に回っているとし、それが加速するとの見通しを示した。台湾のある半導体設計会社幹部は「一部顧客は『メイド・イン・チャイナ』はいらないと言っている」と話した」

    台湾半導体は、米中対立の地政学的メリットを受ける素地を持っている。「メイド・イン・チャイナ」は、西側諸国にとって「リスキー」な存在になってきた。中国、自らがつくりだした政治的危険性が、災いの原因である。


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